(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】鉛蓄電池及び集電体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/73 20060101AFI20220216BHJP
H01M 4/68 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
H01M4/73 A
H01M4/68 A
(21)【出願番号】P 2016195857
(22)【出願日】2016-10-03
【審査請求日】2019-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 朋子
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-206839(JP,A)
【文献】特開2012-089511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/73
H01M 4/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛又は鉛合金からなる正極集電体を備え、
前記正極集電体は、第1及び第2の横枠骨並びに第1及び第2の縦枠骨を有する外枠部と、前記外枠部の内側に交差して設けられた複数の内骨と、前記第1横枠骨における前記第1縦枠骨寄りの位置に、前記外枠部の外側に一体に設けられた集電用耳部とを備え、
前記縦枠骨について、その延びる方向に垂直な断面における断面積をS(mm
2)、厚さをt(mm)とするとき、S>t
2/2の関係を満たし、
前記複数の内骨は、その延びる方向に垂直な断面における断面積がt
2/4を越える内太骨を含み、
前記縦枠骨及び前記内太骨により、他の前記内太骨に横切られることなく構成される升目、又は、前記縦枠骨、前記横枠骨及び前記内太骨により、他の前記内太骨に横切られることなく構成される升目の少なくとも一つについて、当該升目の体積をV(cm
3)、当該升目を構成する部分の前記縦枠骨の長さをL(mm)、前記縦枠骨の幅をd(mm)とするとき、下記の式(1)、
(S×d)/(V×L
2) ≧ 0.002 …… (式1)
により表される関係を満た
し、
前記複数の内骨は、断面積がt
2
/4以下の内細骨を更に含み、
前記升目の内側に、前記内細骨が設けられていることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
請求項1の鉛蓄電池において、
前記第1横枠骨と、前記第2縦枠骨と、前記内太骨とで形成される前記升目は、前記式(1)を満たすことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項3】
請求項2の鉛蓄電池において、
前記第1横枠骨と、前記第1縦枠骨と、前記内太骨とで形成される前記升目は、前記式(1)を満たすことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つの鉛蓄電池において、
前記第2縦枠骨を含む前記升目は、前記式(1)を満たすことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つの鉛蓄電池において、
前記内骨は、前記縦枠骨に平行な縦骨及び前記横枠骨に平行な横骨の少なくとも一方を含むことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1つの鉛蓄電池において、
下記の式(2)、
(S×d)/(V×L
2) ≧ 0.0032 …… (式2)
により表される関係を満たすことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項7】
第1及び第2の横枠骨並びに第1及び第2の縦枠骨を有する外枠部と、前記外枠部の内側に交差して設けられた複数の内骨と、前記第1横枠骨における前記第1縦枠骨寄りの位置に、前記外枠部の外側に一体に設けられた集電用耳部とを備え、
前記縦枠骨について、その延びる方向に垂直な断面における断面積をS(mm
2)、厚さをt(mm)とするとき、S>t
2/2の関係を満たし、
前記複数の内骨は、その延びる方向に垂直な断面における断面積がt
2/4を越える内太骨を含み、
前記縦枠骨及び前記内太骨により他の前記内太骨に横切られることなく構成される升目、又は、前記縦枠骨、前記横枠骨及び前記内太骨により他の前記内太骨に横切られることなく構成される升目の少なくとも一つについて、当該升目の体積をV(cm
3)、当該升目を構成する部分の前記縦枠骨の長さをL(mm)、前記縦枠骨の幅をd(mm)とするとき、下記の式(1)、
(S×d)/(V×L
2) ≧ 0.002 …… (式1)
により表される関係を満た
し、
前記複数の内骨は、断面積がt
2
/4以下の内細骨を更に含み、
前記升目の内側に、前記内細骨が設けられていることを特徴とする集電体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉛蓄電池及び集電体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO2削減のために太陽光、風力等の自然エネルギーによる発電施設が盛んに設置されている。これらの発電施設では発電のタイミングをコントロールできないので、発電側及び/又は消費側において蓄電池設備を併用し、電力の平準化を図る。このための蓄電池には、鉛蓄電池が用いられることが多い。
【0003】
例えば、特許文献1には鉛蓄電池、特にその正極格子について開示されており、正極格子枠の縦骨の断面積を横骨の断面積の2倍もしくは2倍以上とし、セパレータの圧縮比を1.1以上とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉛蓄電池を上記のような自然エネルギーによる発電の電力平準化に用いる場合、これは充放電を繰り返すサイクル用途に該当する。この場合、従来のサイクル用鉛蓄電池では、集電体の破断により寿命が大幅に短くなってしまう場合があることを本願発明者は見出した。そこで、本開示の技術の目的は、特に上記の用途に用いた場合にも寿命を維持することが可能な鉛蓄電池及びそれに使用する集電体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための検討において、本願発明者は、特に、放電深度の深い範囲で使用した場合に従来のサイクル用鉛蓄電池は短寿命となることを見出した。例えば、25℃でDoD(Depth of Discharge、放電深度)が70%のサイクル寿命試験において、サイクル用の制御弁式鉛蓄電池(VRLA)は非常に短寿命であった。更に、この原因として、充電放電サイクルにともなう正極活物質の膨張が著しくなっており、これによって正極格子の縦枠骨に応力が掛かり、縦枠骨を粒界破断させていることを発見した。
【0007】
以上に鑑みて、本発明の一様態に係る鉛又は鉛合金からなる正極集電体を備える鉛蓄電池において、正極集電体は、第1及び第2の横枠骨並びに第1及び第2の縦枠骨を有する外枠部と、外枠部の内側に交差して設けられた複数の内骨と、第1横枠骨における第1縦枠骨寄りの位置に、外枠部の外側に一体に設けられた集電用耳部とを備える。縦枠骨について、その延びる方向に垂直な断面における断面積をS(mm2)、厚さをt(mm)とするとき、S>t2/2の関係を満たし、複数の内骨は、その延びる方向に垂直な断面における断面積がt2/4を越える内太骨を含む。また、縦枠骨及び内太骨により他の前記内太骨に横切られることなく構成される升目、又は、縦枠骨、横枠骨及び内太骨により他の前記内太骨に横切られることなく構成される升目の少なくとも一つについて、当該升目の体積をV(mm3)、当該升目を構成する部分の縦枠骨の長さをL(mm)、縦枠骨の幅をd(mm)とするとき、下記の式(1)、
(S×d)/(V×L2) ≧ 0.002 …… (式1)
により表される関係を満たす。
【発明の効果】
【0008】
本開示の鉛蓄電池及び集電体によると、集電体の破断を抑制し、鉛蓄電池の短寿命化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る鉛蓄電池の正極集電体を例示する模式図である。
【
図2】
図2は、
図1の正極集電体について、更に説明する図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態における試験電池について、本開示のパラメータと、鉛蓄電池の寿命サイクル数及び枠骨破断箇所数との関係を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態における試験電池について、本開示のパラメータと、正極板の横方向最大伸び率との関係を示す図である。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態における他の試験電池について、本開示のパラメータと、鉛蓄電池の寿命サイクル数及び枠骨破断箇所数との関係を示す図である。
【
図6】
図6は、本開示の一実施形態における他の試験電池について、本開示のパラメータと、正極板の横方向最大伸び率との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、鉛蓄電池の正極集電体について、縦枠骨の破断の発生箇所を説明する図である。
【
図8】
図8は、鉛蓄電池の正極集電体について、縦枠骨の破断の発生箇所の割合を示す図である。
【
図9】
図9は、本開示に係る鉛蓄電池の正極集電体の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、本開示に係る鉛蓄電池の正極集電体の他の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、本開示に係る鉛蓄電池の正極集電体の更に他の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、本開示に係る鉛蓄電池の正極集電体の更に他の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、本開示に係る鉛蓄電池の正極集電体の更に他の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、本開示の実施形態の変形例に係る鉛蓄電池の正極集電体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態にかかる制御弁式鉛蓄電池(VRLA)について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
本実施形態の制御弁式鉛蓄電池は、ペースト式の正極板及び負極板と、正極板及び負極板の間に配置されて電解液を保持するセパレータと、正極板、負極板及びセパレータを収容する電槽とを備える。
【0012】
正極板及び負極板は、鉛又は鉛合金(Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金等)からなる格子状の正極集電体及び負極集電体に、活物質ペーストを充填した後、熟成及び乾燥を施すことにより形成される。ここで、本明細書において、活物質とは極板から集電体を除いたものを指し、添加剤等を含む。また、活物質は電極材料とも称される。セパレータには、例えば極細ガラス繊維とシリカ粉末等から構成されるAGMパレータ等が用いられ、該セパレータに電解液である希硫酸が含浸される。電槽は、例えば一面が開口した直方体形状を成す電槽本体とその開口を塞ぐ蓋とからなり、例えば熱可塑性プラスチックを主としてインジェクション成形したものである。これら正極板、負極板、セパレータ及び電槽については、目的、用途に応じて適宜構成を選択することができる。
【0013】
(正極集電体の構造)
次に、本実施形態の制御弁式鉛蓄電池が備える正極板について更に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態における正極板を構成する正極集電体10を模式的に示す図である。正極集電体10は、長方形状に構成された外枠部15と、その内側に交差して設けられて外枠部15と共に格子を形成する複数の内骨24とを有する。
【0015】
外枠部15は、第1横枠骨11及び第2横枠骨12と、第1縦枠骨13及び第2縦枠骨14とによって構成されている。第1横枠骨11における第1縦枠骨13側の端に、外枠部15の外側に一体になるように、集電用耳部25が設けられている。また、第2横枠骨12の外側に、足部26が設けられている。尚、本明細書中において、
図1の集電用耳部25の設けられている側を「上」、足部26の設けられている側を「下」と呼ぶことがある。この点と、横枠骨11、縦枠骨13等の「縦」、「横」との記載について、いずれも便宜上の表現であり、正極集電体10を使用する際の向き等を限定するものではない。
【0016】
また、内骨24は、縦枠骨13及び14に平行な縦内骨21と、横枠骨11及び12に平行な横内骨22及び23を含む。横内骨は、太さの違いにより、横太骨22と、それよりも細い横細骨23とに区別されている。より具体的に、縦枠骨13及び14の厚さ(
図1の紙面に垂直な方向の寸法)をtとするとき、断面積がt
2/4を越える横内骨22と、断面積がt
2/4以下である横細骨23とが存在する。
図1の例では、縦内骨21及び横太骨22はいずれも外枠部15の内側に等間隔に配置されている。また、横細骨23は、横太骨22同士の間、及び、横太骨22と第1横枠骨11又は第2横枠骨12との間に概ね等間隔に配置されているが、第1横枠骨11及び第2横枠骨12に最も近い横細骨23については他の箇所よりも狭い間隔になっている。
【0017】
尚、このような本実施形態の正極集電体10は、鋳造法により製造される。つまり、上記に説明したそれぞれの骨の太さ及び配置に対応する鋳型を用い、鉛又は鉛合金を材料として形成すれば良い。
【0018】
次に、
図2は、正極集電体10の構成をより詳しく説明する図である。ここで、
図2のIは、
図1における右上付近を拡大した図に該当する。但し、
図2では横細骨23はより少数のみ示している。また、図示されている範囲の正極集電体10を(図面において)右から見た図であるII(但し、縦枠骨14に加えて、第1横枠骨11、横太骨22及び横細骨23の形状を透視するように実線で示している)と、下から見て縦枠骨14及び縦内骨21の断面を示す図であるIIIも合わせて示している。尚、横枠骨11の断面は六角形、他の骨の断面は菱形となっているが、これに限定するものではない。
【0019】
本開示の正極集電体10において、縦枠骨13又は14を含む骨により構成される升目の体積と、当該升目を構成する部分の縦枠骨13又は14の長さ及び断面積とが所定の関係を有するようにすることにより、放電深度の深い範囲で使用した場合にも短寿命となるのを避けることができる。
【0020】
具体的に、第2縦枠骨14と、それに最も近い縦内骨21と、第1横枠骨11と、それに最も近い横太骨22とにより構成される升目(
図1及び
図2において、横細骨23を無視した升目を考える場合の右上の升目)を考える。当該升目の体積をV(cm
3)、第2縦枠骨14の幅及び断面積をd(mm)及びS(mm
2)、当該升目を構成する部分の第2縦枠骨14の長さ(ここでは、第1横枠骨11と横内骨22との距離)をL(mm)とするとき、下記の式(1)
(S×d)/(V×L
2) ≧ 0.002 …… (式1)
を満たすように正極集電体10を構成することにより、放電深度の深い範囲で使用した場合にも正極集電体10、ひいては鉛蓄電池が短寿命となるのを避けることができる。
【0021】
尚、第1横枠骨11と横太骨22とに挟まれた(
図1、2において正極集電体10の「右上」にあたる)升目について説明したが、横太骨22同士、又は、横太骨22と第2横枠骨12とに挟まれた升目に関しても同様であり、また、第1縦枠骨13の側についても同様である。例えば、
図2において、第1横枠骨11に最も近い横太骨22及びその次の横太骨22(この間隔をL’とする)と、第2縦枠骨14及びそれに最も近い縦内骨21とによって構成される升目について考えると、次の式を満たすようにすれば良い。
【0022】
(S×d)/(V×L’
2) ≧ 0.002
また、升目の体積Vとは、例えば、平面図である
図2のIにおいて、升目を構成する各骨より囲まれる面積と、縦枠骨13の厚さtの積として定義することができる。ここで、升目の面積としては、升目を構成する各骨の中心線により囲まれる面積とすることができる。また、
図2のIIに示す横枠骨11のように断面が六角形の骨を用いている場合、骨の断面において、正極集電体10の厚さ方向について両端に位置し且つ升目の内側寄りの頂点から内側を升目の体積として計算することができる。尚、同様の定義を断面が菱形の骨(縦枠骨14、縦内骨21、横太骨22)に適用すると、正極集電体10の厚さ方向について両端に位置する頂点は一組であるから、前記の骨の中心線を意味することになる。
【0023】
また、縦枠骨13及び14、縦内骨21について、断面積とは、それぞれが延びる方向に対して垂直な断面による断面積を指す。また、縦枠骨13及び14の幅は、横枠骨11及び11の延びる方向の寸法を指す。
【0024】
尚、一つの升目に含まれる部分において、それぞれの骨の幅又は断面積が均一でない場合には、該当する部分の縦枠骨の長さ方向中央部における断面積及び幅を用いる。骨に加わる応力は当該中央部において最も大きくなるので、この部分の強度が重要になるからである。
【0025】
次に、式(1)を満たすことで破断を抑制できる理由については、以下のように考えられる。
【0026】
まず、本願発明者は、放電深度の深い範囲で使用した場合、充電放電サイクルに伴う正極活物質の膨張が著しくなっており、これによって正極集電体10の骨に応力が掛かり、骨を粒界破断させているとの知見を得ている。この知見によると、正極集電体10において、骨からなる升目の体積が大きいほど正極活物質の膨張による寸法変化が相対的に大きくなるので、骨に掛かる応力が大きくなって破断を生じさせやすいことになる。
【0027】
ここで、内骨24の場合、個々の骨の両側に正極活物質が充填されて存在するので、その膨張に伴う応力は内骨24の両側から掛かり、相殺されて低減される。これに対し、外枠部15を構成する骨については、正極集電体10の内側のみに正極活物質が有るので、内骨24とは違って応力が相殺されず、破断を生じやすい。
【0028】
枠骨にかかる応力に対抗する力(対抗力)は、升目を構成する縦枠骨13又は14の幅、断面積、長さにより変化する。升目を構成する縦枠骨13及び14の幅及び断面積が小さくなるか、又は、長さが長くなると、対抗力が低下して破断が生じやすくなる。そこで、縦枠骨13及び14にかかる応力が小さくなる、又は、縦枠骨13及び14の対抗力が大きくなるように、升目の体積及び升目を構成する縦枠骨13及び14の幅、断面積、長さを設計することにより、破断を抑制することができる。
【0029】
また、集電体耳部25から足部26側まで電流が流れやすくするために、縦内骨21は全て太骨によって構成し、且つ、縦内骨21の間隔を横太骨22の間隔よりも狭く配置しているので、太骨により囲まれた升目は縦長の長方形となっている。尚、太骨とは、断面積がt2/4を越える骨、具体的には、横太骨22と、横枠骨11及び12と、縦枠骨13及び14とを指す。尚、横枠骨11及び12と、縦枠骨13及び14とについては、断面積は更に大きく、t2/2を越えるものとしている。
【0030】
以上の結果、縦枠骨13又は14の方が、横枠骨11又は12よりも応力の影響を受けて破断しやすいので、縦枠骨13又は14の寸法が重要となる。また、断面積が異なる横太骨22と横細骨23とを設けている場合、断面積がt
2/4以下である横細骨23については正極集電体10の破断のしやすさ(強度)には影響しないことを本願発明者は発見している(これについては後述する)。従って、式(1)等において、横細骨23とは無関係に、横太骨22を含むように升目を考えている。また、他の太骨に横切られていない升目を考えるものとする。例えば、第2の縦枠骨14と、
図1において縦内骨21のうち右から2番目の骨と、第1横枠骨11と、横太骨22のうち一番上の骨とによっても「升目」が構成されていると考えることはできるとしても、当該升目は、縦内骨21のうち一番右の骨に横切られている。従って、このような升目は考えないものとする。
【0031】
次に、以上のような集電体10を用いて、制御弁式鉛蓄電池を製造した。
【0032】
まず、鉛粉及び合成樹脂繊維を、水及び硫酸により混練し、正極電極材料のペーストとした。当該正極電極材料のペーストを、Pb-Ca-Sn系合金からなる鋳造格子である正極集電体10に充填し、熟成及び乾燥を施して未化成の正極板とした。
【0033】
また、鉛粉、合成樹脂繊維、防縮剤、カーボンブラック及びBsSO4を、水及び硫酸により混練し、負極電極材料のペーストとした。当該負極電極材料のペーストを、Pb-Ca-Sn系合金からなる鋳造格子に充填し、熟成及び乾燥を施して未化成の正極板とした。
【0034】
次に、正極板8枚及び負極板9枚を、極細ガラスマットセパレータを介して積層させて極板群とした。当該極板群を、その長さが電槽内寸法になるまで圧迫を加えて電槽内に収納した。足し鉛に純鉛を用いて、同極板間を接続する正極ストラップ及び負極ストラップをそれぞれ形成した。ここで、ストラップには、純鉛に代えて、Pb-Sn系合金を用いることもできる。
【0035】
電槽に蓋を接着した後、蓋の注液部から電解液として硫酸を加え、電槽化成を施して、公称容量500Ah(10hR(時間率))、2Vの制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0036】
次に、表1には、上記のように作製した試験電池Aに関するサイクル試験の結果を示す。サイクル試験は、次の条件で行った。
・DoD70%放電:25℃、0.2CA×3.5h
・通常充電:25℃、2.42定電圧(Imax=0.2CA)、充電電気量/放電容量=1.02
・均等充電:25℃、6サイクル毎、通常充電+2.42V定電圧(Imax=0.2CA)×8h
・寿命判定条件:DoD70%放電時の放電終期電圧が1.7Vを下回った時点。
【0037】
【0038】
試験電池Aの正極集電体において、横太骨22同士の距離、及び、横枠骨11又は12と横太骨22との距離は、いずれも等しくLであるものとする。縦枠骨の厚さtを6.0mmとし、幅d、断面積S及び升目を構成する部分の縦枠骨の長さLを変えた正極集電体を備えるA-1からA-15までの鉛蓄電池について、式(1)の左辺である(S×d)/(V×L2)の値と、寿命サイクル数、縦枠骨破断数及び正極板横方向最大伸び率との関係を示している。
【0039】
表1に示す通り、(S×d)/(V×L
2)が0.002よりも小さいA-1からA-4については、少なくとも1箇所について縦枠骨が破断し、(S×d)/(V×L
2)が小さいほど破断数は大きい。これに対し、(S×d)/(V×L
2)が0.002以上であるA-5からA-15については、縦枠骨の破断は無い。この点及び他の結果について、
図3及び
図4のグラフに示す。
図3に示す通り、枠骨破断箇所数及び寿命サイクル数について、(S×d)/(V×L
2)が0.002を越えると極めて顕著に改善している。また、
図4に示すように、正極板横方向最大伸び率について、(S×d)/(V×L
2)が0.002の付近で顕著に小さくなっている。
【0040】
また、表2には、他の試験電池Bに関するサイクル試験の結果を示す。試験電池Bも、
図1及び
図2に示すように長方形状の升目を構成する正極集電体10を用いたVRLAであり、200Ah/10hR(+8/-9枚(正極板8枚及び負極板9枚)構成)としている。
【0041】
【0042】
試験電池Bの正極集電体において、横太骨22同士の距離、及び、横枠骨11又は12と横太骨22との距離は、いずれも等しくLであるものとする。tを3.8mmとし、d、S及びLを変えた正極集電体を備えるB-1からB-15までの鉛蓄電池について、式(1)の左辺である(S×d)/(V×L2)の値と、寿命サイクル数、縦枠骨破断数及び正極板横方向最大伸び率との関係を示している。
【0043】
表2に示す通り、ここでも(S×d)/(V×L
2)が0.002以上の場合には縦枠骨の破断は無い。更に、
図5及び
図6のグラフにも示すとおり、(S×d)/(V×L
2)が0.002である点を境界として縦枠骨破断数及び寿命サイクル数は極めて顕著に改善し、また、正極板横方向最大伸び率についても顕著な改善が見られる。
【0044】
以上の通り、式(1)を満たすことにより、正極集電体10における破断は顕著に抑制され、鉛蓄電池の寿命の向上が果たされる。
【0045】
また、表1及び表2と、
図4及び
図6に示すように、下記の式(2)
(S×d)/(V×L
2) ≧ 0.0032 …… (式2)
を満たすようにすると、正極板の横方向の伸びを抑制できる。同様に、下記の式(3)
(S×d)/(V×L
2) ≧ 0.0046 …… (式3)
を満たすようにすると、正極板の横方向の伸びをより確実に抑制できる。
【0046】
(内細骨について)
次に、内骨24のうち、横細骨23は、正極集電体10の破断しやすさには影響が無いことについて説明する。
【0047】
これについて、表3に示す。表3は、500Ah/10hR(+8/-9枚構成)である試験電池C及びDについて、表1及び表2と同様の内容を示すと共に、正極集電体10における横細骨23の数を示している。
【0048】
【0049】
試験電池Cは、t、d、L、S及びVの値については、表1のA-1と同じである。C1からC-3において、(S×d)/(V×L2)は0.0011(0.002よりも小さい)であるから縦枠骨の破断が発生している。横細骨の本数16、24、34と増やしても、破断数、寿命サイクル数、正極板横方向最大伸び率はほぼ同じであり、横細骨の多い場合の方が、破断数についてはむしろ多くなっている。
【0050】
また、試験電池Dは、t、d、L、S及びVの値については、表1のA-12と同じである。D-1からD-3において、(S×d)/(V×L2)は0.0077(0.002以上)であるから、縦枠骨の破断は生じていない。また、横細骨23の数を12、18、28と変えても破断数、寿命サイクル数、正極板横方向最大伸び率にはほぼ影響が無い。特に、破断を生じるC-1の場合よりも横細骨23の数が少ないD-1の場合も、破断は生じていない。
【0051】
これに関して、まず、鉛蓄電池を使用する(又は寿命のテストを行う)と、次第に正極集電体10は腐食される。横細骨23は、主として、正極集電体10に活物質のペーストを充填しやすくするために設けられた細い骨であって、鉛蓄電池の使用開始後には比較的短期間の内に腐食され、正極集電体10の強度には影響しなくなると考えられる。
【0052】
尚、縦枠骨の厚さtに対し、横骨の断面積がt2/4以下であると、明らかに正極集電体10の破断には影響しなくなる。従って、断面積がt2/4を越える横太骨22について、式(1)において考える升目を構成する要素としている。
【0053】
以上のように、横細骨23は正極集電体10の破断しやすさには影響が無いので、破断を抑制するための正極集電体10の設計としては、横太骨22のみを考慮すれば良い。横細骨23は、活物質のペーストの充填性のためには式(1)において考える升目内にも設けられていることが望ましく、その配置等は破断しやすさとは別に設計することができる。これにより、正極集電体10の設計を単純化することができる。
【0054】
(正極集電体における破断の発生箇所)
次に、
図7及び
図8を参照して、正極集電体10における破断の生じやすい箇所について説明する。
図7は、
図1の正極集電体10を用いて作製した極板50を示す。ここで、極板50を縦方向に四等分し、集電用耳部25の側(第1横枠骨11の側)について、上部から下部にA、B、C及びDの領域を考える。同様に、集電用耳部25と反対の側(第2縦枠骨14側)について、上部から下部にE、F、G及びHの領域を考える。尚、
図1に示す正極集電体10は三本の横太骨22を等間隔に備えているので、横太骨22の位置が各領域同士の境界と一致する。しかし、横太骨22の位置を領域同士の境界として定めているわけではない。従って、格子形状、例えば横太骨22の本数、配置等が異なる場合には(例えば後述する
図10~12等)、領域同士の境界と、横太骨22の位置とは異なるものとなる。
【0055】
ここで、表1に示すA-1の電池(正極集電体10を8枚備える)における第1及び第2の縦枠骨13及び14について、破断の箇所を
図7のA~Hにより表すと、
図8のグラフのような分布となる。
図8から明らかに、破断は領域E、つまり、最も上(第1横枠骨11の側)で且つ集電用耳部25から遠い(第2縦枠骨14の)側の升目において、最も多く発生している。また、下側(足部26の側)ほど破断は少なくなり、同じ高さであれば(AとE、BとF等)、集電用耳部25から遠い側において破断が多い。
【0056】
そこで、特に破断の多い箇所について確実に式(1)を満たすように設定することにより、他の箇所については式(1)を満たしていなくても、縦枠骨の破断を十分に抑えることができる。更に、破断を生じにくい箇所については式(1)を満たさなくても良いのであれば、正極集電体10に対する相対的な活物質ペーストの充填量を増やすことができる。
【0057】
このような考えによる正極集電体10について、
図9~
図13に模式図として例示している。これらの図では、単に線として第1及び第2横枠骨11及び12、縦内骨21、横太骨22を示しており、横細骨23の図示は省略している。
【0058】
図9の場合、
図1の場合と比較すると、第2縦枠骨14及びその隣の縦内骨21のみを繋ぐように、第1横枠骨11とその隣の横太骨22(第1縦枠骨13から第2縦枠骨14まで延びる横太骨)との間に追加横太骨22aを設けている。これにより、最も破断の生じやすい
図7におけるEの領域について、半分の大きさの升目2つに分けてVの値を小さくし、式1を満たすようにすることができる。
【0059】
次に、
図10の場合、
図1の場合に対して、第1横枠骨11の付近に追加横太骨22b(第1縦枠骨13から第2縦枠骨14まで延びる横太骨であり、構造は横太骨22と同様)を設けている。これにより、
図7におけるA及びEの領域について、半分の大きさの升目2つに分けてVの値を小さくし、式1を満たすようにすることができる。
【0060】
次に、
図11の場合、
図1の場合に対して横太骨22を増やすと共に、第1横枠骨11及び横太骨22の間の間隔が、第1横枠骨11の側から第2横枠骨12の側に向かって順に広くなるようになっている。これにより、第1横枠骨11の側の升目ほどより確実に式1を満たすようにすることができる。
【0061】
図12の場合、上側(第1横枠骨11の側)の半分について、下側(第2横枠骨12の側)の半分に比べて、横太骨22を数を多くして、升目が小さくなるようにしている。これにより、上側の升目について、式1を満たすようにすることができる。尚、上側「半分」には限らず、上側から何列かの小さい升目を作るように横太骨22を配置しても良い。
【0062】
図13の場合、2つの縦枠骨13及び14とそれぞれに最も近い縦内骨21との間隔について、縦内骨21同士の間隔よりも狭くしている。これにより、縦枠骨13及び14を構成の一部とする升目については式(1)を満たすことで縦枠骨13及び14の破断を抑制しつつ、縦枠骨13及び14を含まずに(例えば、2本の横太骨22と2本の縦内骨21とによって)構成されている升目について活物質のペーストの充填量を増やすことができる。
【0063】
以上の他にも、特に
図7及び
図8にて示した破断の生じやすい箇所について、升目の大きさを調整して式(1)を満たすようにすることにより、破断を抑制することができる。尚、
図9~
図13はいずれも模式的な構造を示しており、絶対的な寸法の関係等について示すものではない。また、式(1)を満たすと記した升目(縦枠骨13又は14を構成要素として含むもの)以外について、やはり式(1)を満たしていたとしても問題は無い。また、
図9~
図13の構成について、様々に組み合わせて用いることもできる。
【0064】
(変形例)
以上では、縦内骨21は縦枠骨13及び14に平行であり、横内骨22及び23は横枠骨11及び12に平行な正極集電体10を説明した。しかし、これには限られない。
図14には、変形例の正極集電体10aを示す。正極集電体10aにおいて、第1横枠骨11及び第2横枠骨12と、第1縦枠骨13及び第2縦枠骨14とによって外枠部が構成されること、横太骨22及び横細骨23、集電用耳部25、足部26が備えられていることについては、
図1に示す正極集電体10と同じである。
【0065】
これに対して、
図14の正極集電体10aでは、縦内骨31は、縦枠骨13及び14に対して平行ではなく、上側から下側に向かうにつれて集電用耳部25の側から遠ざかるように斜めに設けられている。
【0066】
この場合にも、縦枠骨13又は14の一部を含んでなる升目について、式(1)を満たすようにすると、縦枠骨13又は14の破断を抑制できる。
【0067】
この場合の「升目」については、
図14に例示している。例えば
図14における升目41は、第2縦枠骨14の一部と、第1横枠骨11と、隣接する2つの縦内骨31と、横太骨22とによって構成された部分であり、
図14では細長い五角形状に示されている。升目42及び43については、第2縦枠骨14の一部又は第1縦枠骨13の一部と、隣接する2つの縦内骨31と、横太骨22とによって構成された部分である。
【0068】
図1の正極集電体10と同様に、第1又は第2縦枠骨13又は14の幅及び断面積をd(mm)及びS(mm
2)とし、升目41の体積をVa(cm
3)、升目41を構成する部分の第2縦枠骨14の長さをLaとすれば、式(1)は
(S×d)/(Va×La
2) ≧ 0.002
となり、これを満たすように設計することで縦枠骨の破断を抑制することができる。
【0069】
升目42及び43についても、それぞれの体積Vb及びVcと、該当する部分の縦枠骨の長さLb及びLcについて、式(1)を満たすようにすることで、縦枠骨の破断を抑制することができる。
【0070】
尚、正極集電体10aにおいても、縦内骨31同士は平行であるが、このことも必須ではなく、例えば放射状に配置されていても良い。また、横太骨22について、第1横枠骨11及び第2横枠骨12に対して、又は、横太骨22同士が平行であることも必須ではない。更に、縦内骨、横内骨について、いずれも直線状であることも必須ではなく、曲線を描いていても良い。いずれの場合も、第1又は第2の縦枠骨13又は14を含む升目について、式(1)を満たすようにすると、当該升目における縦枠骨の破断を抑制することができる。
【0071】
また、以上では、鋳造により形成された正極集電体を例として説明したが、これには限定されず、打ち抜き格子等の他の方法により形成されたものであっても良い。また、VRLA電池を例として説明したが、これには限定されず、液式電池等に用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本開示の鉛蓄電池及び集電体によると、短寿命化を抑制できるので、特に、放電深度の深い範囲で使用した場合にも長期に亘って使用可能な鉛蓄電池として有用である。
【符号の説明】
【0073】
10 正極集電体
10a 正極集電体
11 第1横枠骨
12 第2横枠骨
13 第1縦枠骨
14 第2縦枠骨
15 外枠部
21 縦内骨
22 横太骨
22a 追加横太骨
22b 追加横太骨
23 横細骨
24 内骨
25 集電用耳部
26 足部
31 縦内骨
41 升目
42 升目
43 升目
50 極板