(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】等速ジョイント
(51)【国際特許分類】
F16D 3/227 20060101AFI20220216BHJP
【FI】
F16D3/227 E
(21)【出願番号】P 2016211817
(22)【出願日】2016-10-28
【審査請求日】2019-09-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏木 勇史
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 隆史
(72)【発明者】
【氏名】皆美 友隆
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-236927(JP,A)
【文献】特開2008-087517(JP,A)
【文献】特開平7-71468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/22-3/229
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジョイント中心が移動可能なクロスグルーブ等速ジョイントであって、
筒状の外側ジョイント部材と、
前記外側ジョイント部材の内側に配置される内側ジョイント部材と、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材との間でトルクの伝達を行う複数のボールと、
前記外側ジョイント部材の内周面と前記内側ジョイント部材の外周面との間に配置され、前記複数のボールを1つずつ収容可能な窓部を有する保持器と、
を備え、
前記外側ジョイント部材は、溝全長に亘って前記外側ジョイント部材の中心軸線に対して一定のねじれ角を有する外側ボール溝を備え、
前記内側ジョイント部材は、溝全長に亘って前記内側ジョイント部材の中心軸線に対して前記外側ボール溝とは逆向きの一定のねじれ角を有する内側ボール溝を備え、
前記ボールが、前記外側ジョイント部材の中心軸線及び前記内側ジョイント部材の中心軸線に対するねじれ方向が互いに逆向きとなるように対向配置された前記外側ボール溝及び前記内側ボール溝に対し、転動可能に支持された等速ジョイントであって、
前記内側ジョイント部材及び前記外側ジョイント部材は、前記内側ジョイント部材の中心軸線方向における端面に対する角度が鋭角となる前記内側ボール溝の第一転動案内側面と、前記内側ジョイント部材の中心軸線方向における端面との間、又は、前記外側ジョイント部材の中心軸線方向における端面に対する角度が鋭角となる前記外側ボール溝の第一転動案内側面と、前記外側ジョイント部材の中心軸線方向における端面との間に少なくとも形成され、前記ボールを前記内側ボール溝から逃がす逃がし部を備え、
前記逃がし部は、前記内側ジョイント部材に形成される場合には、前記内側ジョイント部材の中心軸線方向における前記端面に対する角度が鈍角となる前記内側ボール溝の第二転動案内側面から離れる方向へ前記ボールを案内可能に形成され、前記外側ジョイント部材に形成される場合には、前記外側ジョイント部材の中心軸線方向における前記端面に対する角度が鈍角となる前記外側ボール溝の第二転動案内側面から離れる方向へ前記ボールを案内可能に形成され、
前記逃がし部は、前記内側ジョイント部材に形成される場合には前記内側ジョイント部材の中心軸線を基準として前記内側ボール溝のねじれ角とは逆のねじれ方向へ前記ボールを案内可能に形成され、前記外側ジョイント部材に形成される場合には前記外側ジョイント部材の中心軸線を基準として前記外側ボール溝のねじれ角とは逆のねじれ方向へ前記ボールを案内可能に形成される、等速ジョイント。
【請求項2】
前記逃がし部が形成される前記内側ジョイント部材又は前記外側ジョイント部材の中心軸線に対する前記逃がし部のねじれ角は、前記内側ジョイント部材の中心軸線と前記外側ジョイント部材の中心軸線とがなす最大ジョイント角以上の角度に設定される、請求項1に記載の等速ジョイント。
【請求項3】
前記内側ジョイント部材には、前記内側ジョイント部材の中心軸線方向一方側へ延びるスタブシャフトが、前記内側ジョイント部材の中心軸線と同軸に設けられ、
前記外側ジョイント部材には、前記内側ジョイント部材の最大外径よりも大きな最小内径を有すると共に前記外側ジョイント部材の中心軸線方向他方側へ延びる円筒部材が設けられ、
前記逃がし部は、前記内側ジョイント部材の中心軸線方向一方側の端面に対する角度が鋭角となる前記内側ボール溝の
第一転動案内側面と、前記内側ジョイント部材の中心軸線方向一方側の端面との間、又は、前記外側ジョイント部材の中心軸線方向他方側の端面に対する角度が鋭角となる前記外側ボール溝の
第一転動案内側面と、前記外側ジョイント部材の中心軸線方向他方側の端面との間に形成される、請求項1又は2に記載の等速ジョイント。
【請求項4】
前記逃がし部は、前記内側ジョイント部材の中心軸線方向一方側の端面に対する角度が鋭角となる前記内側ボール溝の
第一転動案内側面と、前記内側ジョイント部材の中心軸線方向一方側の端面との間にのみ形成される、請求項3に記載の等速ジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、過大な荷重が加わった場合に、車体に加わる衝撃を低減させる自動車用プロペラシャフトが開示されている。この自動車用プロペラシャフトには、クロスグルーブジョイントが用いられており、クロスグルーブジョイントに過大な荷重が加わると、ボールが外側ジョイント部材から脱落し、内側ジョイント部材及びスタブシャフトがコンパニオンフランジの中空部に埋没する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クロスグルーブジョイントでは、複数のボールが保持器(ケージ)により保持される。そして、ボールは、保持器に開口形成された窓部に収容され、ボールの可動域が保持器により制限される。従って、保持器から内側ジョイント部材を離脱させるためには、窓部を大きく形成してボールの可動域を広げる必要がある。この場合、保持器の隣接する窓部の間に形成される柱部が細くなり、保持器の強度が低下する。
【0005】
本発明は、保持器の強度低下を抑制しつつ、過大な荷重が加わった際に内側ジョイント部材を保持器から離脱させることができる等速ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の等速ジョイントは、ジョイント中心が移動可能なクロスグルーブ等速ジョイントであって、筒状の外側ジョイント部材と、外側ジョイント部材の内側に配置される内側ジョイント部材と、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材との間でトルクの伝達を行う複数のボールと、外側ジョイント部材の内周面と内側ジョイント部材の外周面との間に配置され、複数のボールを1つずつ収容可能な窓部を有する保持器と、を備える。外側ジョイント部材は、溝全長に亘って外側ジョイント部材の中心軸線に対して一定のねじれ角を有する外側ボール溝を備える。内側ジョイント部材は、溝全長に亘って内側ジョイント部材の中心軸線に対して外側ボール溝とは逆向きの一定のねじれ角を有する内側ボール溝を備える。ボールが、外側ジョイント部材の中心軸線及び内側ジョイント部材の中心軸線に対するねじれ方向が互いに逆向きとなるように対向配置された外側ボール溝及び内側ボール溝に対し、転動可能に支持される。
【0007】
これに加え、内側ジョイント部材及び外側ジョイント部材は、内側ジョイント部材の中心軸線方向における端面に対する角度が鋭角となる内側ボール溝の第一転動案内側面と、内側ジョイント部材の中心軸線方向における端面との間、又は、外側ジョイント部材の中心軸線方向における端面に対する角度が鋭角となる外側ボール溝の第一転動案内側面と、外側ジョイント部材の中心軸線方向における端面との間に少なくとも形成され、ボールを内側ボール溝から逃がす逃がし部を備える。
逃がし部は、内側ジョイント部材に形成される場合には、内側ジョイント部材の中心軸線方向における端面に対する角度が鈍角となる内側ボール溝の第二転動案内側面から離れる方向へボールを案内可能に形成され、外側ジョイント部材に形成される場合には、外側ジョイント部材の中心軸線方向における端面に対する角度が鈍角となる外側ボール溝の第二転動案内側面から離れる方向へボールを案内可能に形成される。
逃がし部は、内側ジョイント部材に形成される場合には内側ジョイント部材の中心軸線を基準として内側ボール溝のねじれ角とは逆のねじれ方向へボールを案内可能に形成され、外側ジョイント部材に形成される場合には外側ジョイント部材の中心軸線を基準として外側ボール溝のねじれ角とは逆のねじれ方向へボールを案内可能に形成される。
【0008】
本発明の等速ジョイントによれば、等速ジョイントに過大な荷重が加えられた場合に、ボールが内側ボール溝又は外側ボール溝から逃がし部の領域に進入すると、ボールは、外側ボール溝又は内側ボール溝によって内側ジョイント部材の中心軸線方向一方側又は他方側へ案内され、内側ジョイント部材から脱落する。ボールが内側ジョイント部材から脱落することによって、内側ジョイント部材は、外側ジョイント部材、保持器及びボールから離脱可能となる。従って、内側ジョイント部材が、外側ジョイント部材、保持器及びボールに対して相対移動可能となる。
【0009】
この場合、等速ジョイントは、逃がし部が形成されない場合と比べて、窓部の周方向における寸法の拡大を抑制できる。従って、等速ジョイントは、保持器の強度低下を抑制しつつ、過大な荷重が加わった際に内側ジョイント部材を保持器から離脱させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態における等速ジョイントを用いたプロペラシャフトの断面図であり、ジョイント角が0度である状態を示す。
【
図2】等速ジョイントを模式的に表した模式図であり、ジョイント角が最大ジョイント角である状態を示す。
【
図3】等速ジョイントの断面図であり、ジョイント角が0度である状態を示す。
【
図4A】等速ジョイントを模式的に表した模式図であり、内側ボール溝をボールが転動している状態を示す。
【
図4B】等速ジョイントを模式的に表した模式図であり、内側ボール溝から逃がし領域にボールが進入した状態を示す。
【
図4C】等速ジョイントを模式的に表した模式図であり、内側ジョイント部材からボールが脱落し状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.等速ジョイント100の概略)
以下、本発明に係る等速ジョイントを適用した実施形態について、図面を参照しながら説明する。まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態である等速ジョイント100の概略を説明する。なお、本実施形態では、等速ジョイント100をプロペラシャフト1に用いる場合を例に挙げて説明する。等速ジョイント100は、クロスグルーブジョイントである。つまり、等速ジョイント100において、ジョイント中心が、軸線方向に移動可能である。
図1に示すように、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10と、内側ジョイント部材20と、複数のボール30と、保持器40と、を主に備える。
【0012】
外側ジョイント部材10は、筒状に形成される。そして、外側ジョイント部材10の内周面には、複数の外側ボール溝11が形成される。外側ボール溝11は、外側ジョイント部材10の中心軸線O1に対してねじれた方向へ延びる。複数の外側ボール溝11は、一の外側ボール溝11の中心軸線O1に対するねじれ方向(以下「外側ボール溝11のねじれ方向」と称す)が、外側ジョイント部材10の周方向において隣接する他の外側ボール溝11のねじれ方向とは逆向きとなるように形成される。
【0013】
内側ジョイント部材20は、筒状に形成される。そして、内側ジョイント部材20の外周面には、内側ジョイント部材20の中心軸線O2に対してねじれた方向へ延びる複数の内側ボール溝21が形成される。複数の内側ボール溝21は、一の内側ボール溝21の中心軸線O2に対するねじれ方向(以下「内側ボール溝21のねじれ方向」と称す)が、内側ジョイント部材20の周方向において隣接する他の内側ボール溝21のねじれ方向とは逆向きとなるように形成される。
【0014】
ボール30は、ねじれ方向が互いに逆向きとなるように対向配置された外側ボール溝11及び内側ボール溝21に対して転動可能に支持され、外側ジョイント部材10と内側ジョイント部材20との間でトルクの伝達を行う。保持器40は、外側ジョイント部材10の内周面と内側ジョイント部材20の外周面との間に配置される。保持器40は、ボール30を1つずつ収容可能な窓部41を備える。
【0015】
なお、
図1には、外側ジョイント部材10の中心軸線O1と内側ジョイント部材20の中心軸線O2とのなす角度であるジョイント角が0度である状態が図示されている。また
図1では、外側ジョイント部材10の中心軸線O1及び内側ジョイント部材20の中心軸線O2の上側には、外側ボール溝11、内側ボール溝21、ボール30及び保持器40の窓部41を含む断面が図示され、外側ジョイント部材10の中心軸線O1と内側ジョイント部材20の中心軸線O2の下側には、外側ボール溝11、内側ボール溝21、ボール30及び保持器40の窓部41を含まない断面が図示されている。
【0016】
(2.プロペラシャフト1の構成)
プロペラシャフト1は、等速ジョイント100と、スタブシャフト2と、チューブ3と、ブーツユニット4と、区画部材5とを主に備える。スタブシャフト2は、内側ジョイント部材20に対して同軸に連結され、内側ジョイント部材20から軸方向一方側(
図1右側)へ延びる。チューブ3は、円筒状に形成される。チューブ3は、外側ジョイント部材10に対して同軸に固定され、外側ジョイント部材10から軸方向他方側(
図1左側)へ延びる。
【0017】
ブーツユニット4は、ブーツ保持金具6と、ブーツ本体7とを備える。ブーツ保持金具6は、軸方向一端側(
図1右側)がスタブシャフト2の外周面に係止され、ブーツ保持金具6の軸方向他端側(
図1左側)が外側ジョイント部材10の外周面に対し、図示しないボルトにより固定される。
【0018】
区画部材5は、外側ジョイント部材10とチューブ3との接続部位に締め代を有する状態(圧入された状態)で固定された円板状の部材である。区画部材5は、外側ジョイント部材10の内部空間とチューブ3の内部空間とを区画する。外側ジョイント部材10の内部空間には、潤滑剤としてのグリースが充填されるのに対し、区画部材5は、グリースがチューブ3の内部に漏出することを防止する。なお、区画部材5は、外側ジョイント部材10の中心軸線O1方向一方側から他方側への大きな荷重が加わると、チューブ3の内部に移動する。
【0019】
(3.内側ボール溝21及び逃がし部22について)
内側ボール溝21の詳細及び逃がし部22について、
図2を参照して説明する。
図2には、外側ジョイント部材10の中心軸線O1と内側ジョイント部材20の中心軸線O2を通る平面に対して直交する方向から見た断面図である。なお、
図2では、図面を簡素化するため、当該方向から見た場合(以下「所定側方視」と称する)に最も手前側に位置する1つの内側ボール溝21のみを図示し、他の内側ボール溝21の図示を省略している。また、
図2の右側が、
図1の右側(小径クランプ部材7側)に対応し、
図2の左側が、
図1の左側(チューブ3側)に対応する。
【0020】
また、
図2において、ジョイント角は、最大ジョイント角βであり、内側ジョイント部材20の中心軸線O2に対する内側ボール溝21のねじれ角は、αである。なお、図示しないが、外側ボール溝11のねじれ角は、内側ボール溝21のねじれ角αと同様である。さらに、
図2に示す内側ボール溝21は、所定側方視において、内側ジョイント部材20の中心軸線O2を基準とした場合に、外側ジョイント部材10の中心軸線O1とは反対側に傾いている。つまり、所定側方視において、内側ボール溝21は、外側ジョイント部材10の中心軸線O1に対して角度(α+β)だけ傾いている。
【0021】
さらに、
図2には、等速ジョイント100のジョイント中心が通常の移動範囲における中央に位置する状態が示されている。そして
図2には、二点鎖線で窓部41の位置が示されている。つまり、窓部41の周方向における中央に、ボール30が位置する。
【0022】
内側ボール溝21は、転動案内底面21aと、第一転動案内側面21bと、第二転動案内側面21cとを備える。内側ボール溝21において、溝方向に直交する断面形状は、円弧凹状に形成され、転動案内底面21aは、円弧凹状断面の底を形成する部位である。また、第一転動案内側面21bは、円弧凹状断面の一方の側面を形成する部位であり、第二転動案内側面21cは、円弧凹状断面の他方の側面を形成する部位である。
【0023】
第一転動案内側面21bは、
図2に示す内側ボール溝21の上側の稜線(内側ボール溝21の開口縁)を形成する。この第一転動案内側面21bは、所定側方視において、内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一方側(小径クランプ部材7側)の端面20aに対する角度が鋭角となる側面である。一方、第一転動案内側面21bは、所定側方視において、内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向他方側(チューブ3側)の端面20bに対する角度が鈍角となる側面である。
【0024】
第二転動案内側面21cは、
図2に示す内側ボール溝21の下側の稜線(内側ボール溝21の開口縁)を形成する。この第二転動案内側面21cは、所定側方視において、内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一方側(小径クランプ部材7側)の端面20aに対する角度が鈍角となる側面である。一方、第二転動案内側面21cは、所定側方視において、内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向他方側(チューブ3側)の端面20bに対する角度が鋭角となる側面である。
【0025】
内側ジョイント部材20は、内側ボール溝21に加えて、逃がし部22を備える。逃がし部22は、内側ボール溝21から内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一方側へボール30を逃がすための部位である。逃がし部22は、第一転動案内側面21bと、内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一方側(小径クランプ部材7側)の端面20aとの間に形成される。逃がし部22は、第一転動案内側面21bが端面20aに至る位置まで存在していたと仮定した場合に、仮の第一転動案内側面21bのうち端面20aに接続される部位を切欠くことにより形成される。ここで、逃がし部22が形成される領域を、逃がし領域23と定義する。
【0026】
詳細には、逃がし部22は、内側ジョイント部材20の中心軸線O2に対して、内側ボール溝21とは逆のねじれ方向へボール30を案内可能な転動案内側面である。つまり、
図2において、内側ボール溝21は、内側ジョイント部材20の中心軸線O2に対して時計回り方向にねじれているが、逃がし部22は、内側ジョイント部材20の中心軸線O2に対して反時計回り方向にねじれている。内側ジョイント部材20の中心軸線O2に対する逃がし部22のねじれ角γは、最大ジョイント角βと同等以上の角度に設定される。
【0027】
なお、逃がし部22は、第一転動案内側面21bと端面20aとの間のみに形成されている。つまり、逃がし部22は、第一転動案内側面21bと端面20bとの間、第二転動案内側面21cと端面20a及び端面20bとの間には、形成されていない。
【0028】
(4.内側ジョイント部材20、保持器40及びチューブ3の寸法)
次に、
図3を参照して、内側ジョイント部材20、保持器40及びチューブ3の寸法について説明する。保持器40の最大外径は、D1であり、保持器40の最小内径は、D3である。一方、チューブ3における外側ジョイント部材10との接続部位の最小内径は、D2であり、内側ジョイント部材20の最大外径は、D4である。なお、チューブ3の最小内径D2は、外側ジョイント部材10におけるチューブ3側の開口内径に相当する。また、
【0029】
図3に示すように、保持器40の最大外径D1は、チューブ3の最小内径D2よりも大きい。従って、保持器40が外側ジョイント部材10からチューブ3側に移動する際に、ジョイント角に関わらず、外側ジョイント部材10の底面側の内周面に干渉する。そのため、保持器40は、外側ジョイント部材10から離脱することができず、チューブ3の内部に移動することができない。
【0030】
一方、内側ジョイント部材20の最大外径D4は、保持器40の最小内径D3よりも小さい。従って、内側ジョイント部材20が保持器40に対して中心軸線O2方向に移動する際に、ジョイント角に関わらず、内側ジョイント部材20の外周面が保持器40に係止されることはない。つまり、ボール30が内側ジョイント部材20から脱落しさえすれば、内側ジョイント部材20は、保持器40から離脱することが可能となる。そして、内側ジョイント部材20は、保持器40から離脱することによって、区画部材5と共にチューブ3の内部へ移動可能な状態となる。
【0031】
(5.保持器40からの内側ジョイント部材20の離脱態様)
次に、
図2及び
図4Aから
図4cを参照して、内側ジョイント部材20に過大な荷重が加わった際に、保持器40から離脱する内側ジョイント部材20の離脱態様を説明する。
図2に示すように、等速ジョイント100の通常使用時において、ボール30は、内側ボール溝21を転動し、逃がし領域23には進入しない。
【0032】
図4Aに示すように、内側ジョイント部材20に過大な荷重が加わると、内側ジョイント部材20は、外側ジョイント部材10における通常使用範囲を超えてチューブ3側へ移動する。このとき、保持器40が内側ジョイント部材20に対して外側ジョイント部材10の開口側(スタブシャフト2(
図1参照)が連結される側)へ相対移動し、内側ボール溝21を転動するボール30は、逃がし領域23へ進入する。そして、
図2の状態から
図4Aの状態へ移行する際に、ボール30は、窓部41の周方向(
図2及び
図4Aにおける上下方向)における中央から片寄った位置へ移動する。
【0033】
このとき、仮に、逃がし部22が存在しなければ、ボール30は、内側ボール溝21の第一転動案内側面21bと保持器40の柱部とに挟まれた状態となるため、内側ボール溝21からの脱落が規制される。これに対し、等速ジョイント100において、内側ジョイント部材20には、第一転動案内側面21bと端面20aとの間に逃がし部22が形成されている。そのため、逃がし領域23に進入したボール30は、内側ボール溝21に配置されたときに受けるような規制力を受けない。つまり、窓部41に収容されているボール30は、保持器40(
図1参照)の柱部(周方向において隣接する窓部41の間に形成される部位)によって周方向への移動を規制されたとしても、逃がし部22は、ボール30の移動を許容する。
【0034】
より詳細には、逃がし部22は、内側ボール溝21とは逆のねじれ方向へボール30を案内可能に形成される。そして、内側ボール溝21との間でボール30を転動支持する外側ボール溝11(
図1参照)もまた、内側ボール溝21とは逆のねじれ方向へボール30を案内する。
【0035】
従って、内側ジョイント部材20及び保持器40(
図1参照)は、
図4Aに示す状態から
図4Bへ移行し、やがて、
図4Cに示す状態へ移行する。即ち、逃がし領域23に進入したボール30は、逃がし部22及び外側ボール溝11に案内されながら内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一方側(
図1に示す外側ジョイント部材10の開口側であって、内側ジョイント部材20に対してスタブシャフト2が連結される側)へ転動し、内側ジョイント部材20から脱落する。そして、全てのボール30が内側ジョイント部材20から脱落することにより、内側ジョイント部材20は、保持器40から外側ジョイント部材10の中心軸線O1方向他方側(
図4C左側、チューブ3(
図3参照)側)へ向けて離脱し、内側ジョイント部材20及び内側ジョイント部材20に連結されたスタブシャフト2(
図1参照)がチューブ3の内部へ移動する。
【0036】
このように、等速ジョイント100をプロペラシャフト1に用いた場合において、等速ジョイント100は、スタブシャフト2に過大な荷重が加わった際に、スタブシャフト2が連結された内側ジョイント部材20を保持器40から離脱させることができる。そしてこのとき、プロペラシャフト1は、内側ジョイント部材20及び内側ジョイント部材20に連結されたスタブシャフト2(
図1参照)をチューブ3の内部へ移動させることができる。よって、等速ジョイント100は、スタブシャフト2に加わる荷重に伴って発生する衝撃を吸収できる。
【0037】
ここで、
図2に示す内側ボール溝21(所定側方視において最も手前側に位置する内側ボール溝21)は、所定側方視において、外側ジョイント部材10の中心軸線O1に対して角度(α+β)だけ傾いている。そして、
図2に示した状態において、外側ジョイント部材10の中心軸線O1に対する内側ボール溝21の傾斜角度は、最大となる。従って、
図2に示す内側ボール溝21を転動するボール30は、内側ジョイント部材20がチューブ3側(
図2左側)へ移動する際に、他の内側ボール溝21を転動するボール30と比べて、ボール30の移動方向を大きく変える必要がある。つまり、
図2に示す内側ボール溝21を転動するボール30は、他のボール30よりも、内側ボール溝21から逃がし領域23へ案内しづらいボール30となる。
【0038】
これに対し、内側ジョイント部材20の中心軸線O2に対する逃がし部22のねじれ角γは、最大ジョイント角βと同等以上の角度に設定されている。よって、
図2に示す内側ボール溝21を転動するボール30は、逃がし部22に係止されることなく内側ジョイント部材20から脱落することができるので、等速ジョイント100は、内側ジョイント部材20を保持器40から円滑に離脱させることができる。
【0039】
以上説明したように、等速ジョイント100において、内側ジョイント部材20には、等速ジョイント100に過大な荷重が加えられた場合に、内側ボール溝21からボール30を逃がす逃がし部22が形成されている。よって、複数のボール30が内側ボール溝21から逃がし部22の領域(逃がし領域23)に進入すると、ボール30は、外側ボール溝11によって内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一方側、即ち、外側ジョイント部材10の開口側へ案内され、内側ジョイント部材20から脱落する。そして、等速ジョイント100は、内側ジョイント部材20を保持器40から外側ジョイント部材10の中心軸線O1方向一方側、即ち、チューブ3が設けられる側へ離脱させることができる。これにより、等速ジョイント100は、保持器40から離脱した内側ジョイント部材20及びスタブシャフト2を、チューブ3の内部に移動させることができるので、スタブシャフト2に加わる荷重に伴って発生する衝撃を吸収できる。
【0040】
このように、等速ジョイント100は、保持器40に対するボール30の周方向における可動域を大きく広げなくても、ボール30を内側ジョイント部材20から脱落させることができ、内側ジョイント部材20を保持器40から離脱させることができる。従って、等速ジョイント100は、過大な荷重が加わった際に内側ジョイント部材20を保持器40から離脱させることを可能とするクロスグルーブジョイントにおいて、窓部41の周方向における寸法の拡大の抑制を図ることができる。換言すれば、周方向において隣接する窓部41の間に形成される柱部の幅方向における寸法を大きな寸法に設定することができるので、保持器40の強度低下を抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態では、内側ボール溝21の第一転動案内側面21bと、内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一方側の端面20aとの間にのみ逃がし部22が形成されるので、内側ジョイント部材20の形状を簡素化できる。
【0042】
さらに、内側ジョイント部材20の最大外径D4は、保持器40の最小内径D3よりも小さいので、ボール30が逃がし部22に進入したときに、保持器40と干渉することなく、内側ジョイント部材20を保持器40から円滑に離脱させることができる。
【0043】
(6.その他)
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。
【0044】
上記実施形態では、内側ジョイント部材20の中心軸線O2に対する逃がし部22のねじれ角γが、最大ジョイント角βと同等の角度以上に設定される場合を例に挙げて説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。即ち、逃がし部22のねじれ方向Rと内側ボール溝21のねじれ方向Gとがなす角度が、内側ジョイント部材20の中心軸線O2に対する内側ボール溝21のねじれ角α(内側ボール溝21の第一転動案内側面21bと、内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一方側の端面20aとがなす角度)よりも大きくなるように、逃がし部22が形成されていればよい。
【0045】
例えば、
図5に示すように、逃がし部22のねじれ方向R1と内側ボール溝21のねじれ方向Gとがなす角度の値として、内側ボール溝21のねじれ角αの値以上となる値であって、内側ボール溝21のねじれ角αの値と最大ジョイント角βの値との合計値よりも小さい値θ1が、設定されていてもよい。この場合、少なくとも、外側ジョイント部材10の中心軸線O1に対するねじれ角が最小となる内側ボール溝21(ジョイント角が0度となる所定側方視から見たときに、最も手前側に位置する内側ボール溝21)を転動するボール30については、逃がし部22に係止されることなく、内側ジョイント部材20から脱落させることができる。
【0046】
さらに、逃がし部22のねじれ方向R2と内側ボール溝21のねじれ方向Gとがなす角度の値として、内側ボール溝21のねじれ角αよりも小さな値θ2が設定されていてもよい。この場合、保持器40に形成する窓部41(
図1参照)の周方向における寸法を大きな寸法に設定することにより、ボール30を内側ジョイント部材20から脱落させることができる。なお、この場合においても、内側ジョイント部材20に逃がし部22が形成されていない場合と比べて、窓部41の周方向における寸法を小さくすることができるので、保持器40の強度低下を抑制することができる。
【0047】
また、上記実施形態では、内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一端側にのみ、逃がし部22を形成する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。即ち、内側ボール溝21の第一転動案内側面21bと内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一方側の端面20aとの間に逃がし部22を形成する代わりに、又は、内側ボール溝21の第一転動案内側面21bと端面20aとの間に形成する逃がし部22に加えて、他の位置に逃がし部22を形成してもよい。具体的には、第一転動案内側面21bと端面20bとの間や、第二転動案内側面21cと端面20aとの間、第二転動案内側面21cと端面20bとの間に、逃がし部22が形成されていてもよい。この場合においても、内側ジョイント部材20に過大な荷重が加わった際に、ボール30を内側ジョイント部材20から脱落させることができる。
【0048】
上記実施形態では、内側ジョイント部材20の最大外径D4が、保持器40の最小内径D3よりも小さい場合について説明したが、これに限られるものではない。即ち、内側ジョイント部材20に過大な荷重が加わった際に内側ジョイント部材20が保持器40から離脱可能であればよく、その限りにおいて、内側ジョイント部材20の最大外径D4は、保持器40の最小内径D3と同等、或いは、保持器40の最小内径D3よりも僅かに大きな寸法に設定されていてもよい。
【0049】
(7.効果)
以上説明したように、本発明における等速ジョイント100は、筒状の外側ジョイント部材10と、外側ジョイント部材10の内側に配置される内側ジョイント部材20と、外側ジョイント部材10と内側ジョイント部材20との間でトルクの伝達を行う複数のボール30と、外側ジョイント部材10の内周面と内側ジョイント部材20の外周面との間に配置され、複数のボール30を1つずつ収容可能な窓部41を有する保持器40と、を備える。外側ジョイント部材10は、外側ジョイント部材10の中心軸線O1に対してねじれた方向へ延びる外側ボール溝11を備える。内側ジョイント部材20は、内側ジョイント部材20の中心軸線O2に対してねじれた方向へ延びる内側ボール溝21を備える。ボール30が、外側ジョイント部材10の中心軸線O1及び内側ジョイント部材20の中心軸線O2に対するねじれ方向が互いに逆向きとなるように対向配置された外側ボール溝11及び内側ボール溝21に対し、転動可能に支持される。
【0050】
これに加え、内側ジョイント部材20及び外側ジョイント部材10は、内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向における端面20a,20bに対する角度が鋭角となる内側ボール溝21の転動案内側面としての第一転動案内側面21b又は第二転動案内側面21cと、内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向における端面20a,20bとの間、又は、外側ジョイント部材10の中心軸線O1方向における端面に対する角度が鋭角となる外側ボール溝11の転動案内側面と、外側ジョイント部材10の中心軸線O1方向における端面との間に少なくとも形成され、ボール30を内側ボール溝21から逃がす逃がし部22を備える。
【0051】
この等速ジョイント100によれば、等速ジョイント100に過大な荷重が加えられた場合に、ボール30が内側ボール溝21又は外側ボール溝11から逃がし部22の領域(逃がし領域23)に進入すると、ボール30は、外側ボール溝11又は内側ボール溝21によって内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一方側又は他方側へ案内され、内側ジョイント部材20から脱落する。ボール30が内側ジョイント部材20から脱落することによって、内側ジョイント部材20は、外側ジョイント部材10、保持器40及びボール30から離脱可能となる。従って、内側ジョイント部材20が、外側ジョイント部材10、保持器40及びボール30に対して相対移動可能となる。
【0052】
この場合、等速ジョイント100は、逃がし部22が形成されない場合と比べて、窓部41の周方向における寸法の拡大を抑制できる。従って、等速ジョイント100は、保持器40の強度低下を抑制しつつ、過大な荷重が加わった際に内側ジョイント部材を保持器40から離脱させることができる。
【0053】
上記した等速ジョイント100において、逃がし部22が形成される内側ジョイント部材20又は外側ジョイント部材10の中心軸線O2,O1に対する逃がし部22のねじれ角γは、内側ジョイント部材20の中心軸線O2と外側ジョイント部材10の中心軸線O1とがなす最大ジョイント角βと同等以上の角度に設定される。この等速ジョイント100では、全てのボール30を、保持器40から円滑に脱落させることができる。従って、等速ジョイント100は、内側ジョイント部材20を保持器40から円滑に離脱させることができる。
【0054】
上記した等速ジョイント100において、内側ジョイント部材20には、内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一方側へ延びるスタブシャフト2が、内側ジョイント部材20の中心軸線O2と同軸に設けられる。外側ジョイント部材10には、内側ジョイント部材20の最大外径D4よりも大きな最小内径D3を有すると共に外側ジョイント部材10の中心軸線O1方向他方側へ延びる円筒部材としてのチューブ3が設けられる。逃がし部22は、内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一方側の端面20aに対する角度が鋭角となる内側ボール溝21の転動案内側面としての第一転動案内側面21bと、内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一方側の端面20aとの間、又は、外側ジョイント部材10の中心軸線O1方向他方側の端面に対する角度が鋭角となる外側ボール溝11の転動案内側面と、外側ジョイント部材10の中心軸線O1方向他方側の端面との間に形成される。
【0055】
この等速ジョイント100は、スタブシャフト2に過大な荷重が加わった際に、スタブシャフト2が連結された内側ジョイント部材20を、保持器40から外側ジョイント部材10の中心軸線方向他方側へ離脱させることができる。そして、離脱した内側ジョイント部材20及び内側ジョイント部材20に設けられたスタブシャフト2を、円筒部材としてのチューブ3の内部へ移動させることができる。これにより、等速ジョイント100は、スタブシャフト2に加わる荷重に伴って発生する衝撃を吸収できる。
上記した等速ジョイント100において、逃がし部22は、内側ジョイント部材20の中心軸線O1方向一方側の端面20aに対する角度が鋭角となる内側ボール溝21の転動案内側面としての第一転動案内側面21bと、内側ジョイント部材20の中心軸線O2方向一方側の端面20aとの間にのみ形成される。この等速ジョイント100によれば、内側ジョイント部材20の形状を簡素化できる。
【符号の説明】
【0056】
2:スタブシャフト、 3:チューブ(円筒部材)、 10:外側ジョイント部材、 11:外側ボール溝、 20:内側ジョイント部材、 20a:内側ジョイント部材の中心軸線方向一方側の端面(内側ジョイント部材の中心軸線方向における端面)、 20b:内側ジョイント部材の中心軸線方向他方側の端面(内側ジョイント部材の中心軸線方向における端面)、 21:内側ボール溝、 21b:第一転動案内側面(転動案内側面)、 21c:第二転動案内側面(転動案内側面)、 22:逃がし部、 30:ボール、 40:保持器、 41:窓部、 100:等速ジョイント、 D2:チューブ(円筒部材)の内径、 D3:保持器の最小内径、 D4:内側ジョイント部材の最大外径、 O1:外側ジョイント部材の中心軸線、 O2:内側ジョイント部材の中心軸線、 α:内側ボール溝のねじれ角、 β:最大ジョイント角、 γ:逃がし部のねじれ角