(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】亀裂補修個所のモニタリングシステムおよびモニタリング方法
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20220216BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20220216BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20220216BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
G01B7/16 R
E01D22/00 A
E04G23/02 A
E01D1/00 F
(21)【出願番号】P 2017140464
(22)【出願日】2017-07-20
【審査請求日】2020-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100106921
【氏名又は名称】高尾 裕之
(72)【発明者】
【氏名】村上 岳央
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋一
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特許第5883528(JP,B1)
【文献】特開2014-189962(JP,A)
【文献】特開平08-043354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
E01D 22/00
E04G 23/02
E01D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製物体の亀裂が生じた個所に、前記亀裂と交差する方向に延びる開口形状を有するように設けた挿入部材取付孔と、前記挿入部材取付孔に挿入して固定された挿入部材とを備え、前記挿入部材取付孔の開口形状は曲面形状、または、曲面とそれに連続する平面による形状とし、且つ前記開口形状は、前記亀裂を挟んだ両側に、前記挿入部材に係止される係止部を備える構成とした亀裂進展抑制構造が適用された亀裂補修個所について、
前記亀裂の先端側からの順序が1番目の挿入部材取付孔の周縁における前記開口形状の長手方向の両端部となる個所から、前記亀裂の先端寄りの方向に向けて前記開口形状の開口幅が最大となる個所までの領域より、前記挿入部材取付孔の外側に向かう位置に設置されたひずみゲージと、
前記ひずみゲージを接続して前記ひずみゲージの計測結果を出力する機能を有する計測器と、を備え
、
前記ひずみゲージは、前記亀裂の先端側からの順序が1番目の前記挿入部材取付孔の周縁における前記領域より、前記挿入部材取付孔の外側に向けて1mmから30mmの距離となる範囲に設置された亀裂補修個所のモニタリングシステム。
【請求項2】
前記ひずみゲージは、前記亀裂に沿い該亀裂の先端側とは逆向きの方向を基準として、45度から75度の角度姿勢で設けられた、
請求項1
に記載の亀裂補修個所のモニタリングシステム。
【請求項3】
前記亀裂の先端に対応する位置に更にストップホールを備える前記亀裂補修個所について、
前記ストップホールに対し、前記亀裂とは逆側に別のひずみゲージを備えて、
前記計測器は、前記別のひずみゲージの計測結果を出力する機能を有する構成とした
請求項1
又は2に記載の亀裂補修個所のモニタリングシステム。
【請求項4】
監視用のコンピュータを備え、
前記計測器は、通信網を介して前記コンピュータに前記計測結果を送る機能を備えた
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の亀裂補修個所のモニタリングシステム。
【請求項5】
金属製物体の亀裂が生じた個所に、前記亀裂と交差する方向に延びる開口形状を有するように設けた挿入部材取付孔と、前記挿入部材取付孔に挿入して固定された挿入部材とを備え、前記挿入部材取付孔の開口形状は曲面形状、または、曲面とそれに連続する平面による形状とし、且つ前記開口形状は、前記亀裂を挟んだ両側に、前記挿入部材に係止される係止部を備える構成とした亀裂進展抑制構造が適用された亀裂補修個所について、
前記亀裂の先端側からの順序が1番目の挿入部材取付孔の周縁における前記開口形状の長手方向の両端部となる個所から、前記亀裂の先端寄りの方向に向けて前記開口形状の開口幅が最大となる個所までの領域より、前記挿入部材取付孔の外側に向かう位置の歪みの変化量をひずみゲージにより計測
し、
前記ひずみゲージは、前記亀裂の先端側からの順序が1番目の前記挿入部材取付孔の周縁における前記領域より、前記挿入部材取付孔の外側に向けて1mmから30mmの距離となる範囲に設置されたこと
を特徴とする亀裂補修個所のモニタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製物体における亀裂の補修が行われた亀裂補修個所を対象として、健全性の低下の有無を監視する亀裂補修個所のモニタリングシステムおよびモニタリング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁や、クレーン等の港湾構造物、その他、各種鋼構造物のような金属製物体には、繰り返し荷重等による疲労によって亀裂が生じることがある。
【0003】
このような金属製物体に生じた亀裂は、その補修を行って進展(伝播)を抑えることが求められる。
【0004】
この種の金属製物体に生じた亀裂の進展を抑制する補修方法としては、金属製物体における亀裂が生じた個所に、以下のような亀裂進展抑制構造を形成する亀裂進展抑制工法が、従来開発されてきている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
前記亀裂進展抑制構造は、金属製物体の亀裂が生じた個所に、前記亀裂と交差する方向に延びる開口形状を有する挿入部材取付孔が設けられ、この挿入部材取付孔の内側に、挿入部材が挿入して固定された構成を備えている。更に、前記挿入部材取付孔は、開口の内面形状が、曲面形状、または、曲面とそれに連続する平面による形状とされ、前記開口形状は、前記亀裂を挟んだ両側に、前記挿入部材に係止される係止部を備えている。
【0006】
更に、前記挿入部材取付孔の係止部は、前記開口形状の長手方向の両端側から中央部側に向けて開口幅が狭くなる形状として形成し、前記挿入部材は、断面形状が、両端側から中央部側に向けて細くなる形状とすることも、従来提案されている。
【0007】
これにより、前記亀裂進展抑制構造によれば、前記金属製物体に前記亀裂を開く方向の荷重が作用すると、その荷重は、両端寄り部分が前記係止部材取付孔の各係止部に係止される挿入部材によって受けられる。これにより、前記亀裂進展抑制構造が亀裂に適用された金属製物体では、亀裂の先端部に作用する応力拡大係数幅が低減されることで、亀裂の進展が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1に示された亀裂進展抑制工法によって形成される亀裂進展抑制構造は、金属製物体に生じた亀裂の進展を抑制する効果を得る補修として有効である。
【0010】
ところで、本発明者等は、前記亀裂進展抑制構造について、試験体を用いて亀裂を開く方向に過大な荷重を作用させる試験を行い、その結果、金属製物体の亀裂に複数の挿入部材取付孔および挿入部材が設けられている亀裂進展抑制構造では、特定の挿入部材取付孔の周縁における特定の領域に応力集中が生じるという知見を得た。更に、本発明者等は、前記試験体に対して作用させる亀裂を開く方向の荷重をより大きくする試験の結果、前記応力集中が生じる特定の挿入部材取付孔における特定の領域からの新たな亀裂の発生が、進展抑制の対象とされた元の亀裂が進展する現象よりも生じやすいという知見を得た。
【0011】
そこで、本発明者等は、金属製物体に亀裂が発生した個所であって、前記亀裂進展抑制構造が適用された亀裂補修個所について、特定の挿入部材取付孔の周縁における特定の領域の歪みの変化を基に、該特定の領域からの新たな亀裂の発生による亀裂補修個所の健全性の低下の有無を検知できることを見出して本発明をなした。
【0012】
したがって、本発明の目的とするところは、金属製物体に生じた亀裂に前記亀裂進展抑制構造が適用された亀裂補修個所について、健全性の低下の有無を検知することができる亀裂補修個所のモニタリングシステムおよびモニタリング方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記課題を解決するために、金属製物体の亀裂が生じた個所に、前記亀裂と交差する方向に延びる開口形状を有するように設けた挿入部材取付孔と、前記挿入部材取付孔に挿入して固定された挿入部材とを備え、前記挿入部材取付孔の開口形状は曲面形状、または、曲面とそれに連続する平面による形状とし、且つ前記開口形状は、前記亀裂を挟んだ両側に、前記挿入部材に係止される係止部を備える構成とした亀裂進展抑制構造が適用された亀裂補修個所について、前記亀裂の先端側からの順序が1番目の挿入部材取付孔の周縁における前記開口形状の長手方向の両端部となる個所から、前記亀裂の先端寄りの方向に向けて前記開口形状の開口幅が最大となる個所までの領域より、前記挿入部材取付孔の外側に向かう位置に設置されたひずみゲージと、前記ひずみゲージを接続して前記ひずみゲージの計測結果を出力する機能を有する計測器とを備え、前記ひずみゲージは、前記亀裂の先端側からの順序が1番目の前記挿入部材取付孔の周縁における前記領域より、前記挿入部材取付孔の外側に向けて1mmから30mmの距離となる範囲に設置された亀裂補修個所のモニタリングシステムとする。
【0015】
前記ひずみゲージは、前記亀裂に沿い該亀裂の先端側とは逆向きの方向を基準として、45度から75度の角度姿勢で設けられた構成としてある。
【0016】
前記亀裂の先端に対応する位置に更にストップホールを備える前記亀裂補修個所について、前記ストップホールに対し、前記亀裂とは逆側に別のひずみゲージを備えて、前記計測器は、前記別のひずみゲージの計測結果を出力する機能を有する構成としてある。
【0017】
監視用のコンピュータを備え、前記計測器は、通信網を介して前記コンピュータに前記計測結果を送る機能を備えた構成としてある。
【0018】
また、金属製物体の亀裂が生じた個所に、前記亀裂と交差する方向に延びる開口形状を有するように設けた挿入部材取付孔と、前記挿入部材取付孔に挿入して固定された挿入部材とを備え、前記挿入部材取付孔の開口形状は曲面形状、または、曲面とそれに連続する平面による形状とし、且つ前記開口形状は、前記亀裂を挟んだ両側に、前記挿入部材に係止される係止部を備える構成とした亀裂進展抑制構造が適用された亀裂補修個所について、前記亀裂の先端側からの順序が1番目の挿入部材取付孔の周縁における前記開口形状の長手方向の両端部となる個所から、前記亀裂の先端寄りの方向に向けて前記開口形状の開口幅が最大となる個所までの領域より、前記挿入部材取付孔の外側に向かう位置の歪みの変化量をひずみゲージにより計測し、前記ひずみゲージは、前記亀裂の先端側からの順序が1番目の前記挿入部材取付孔の周縁における前記領域より、前記挿入部材取付孔の外側に向けて1mmから30mmの距離となる範囲に設置される亀裂補修個所のモニタリング方法とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の亀裂補修個所のモニタリングシステムおよびモニタリング方法によれば、金属製物体に発生した亀裂に亀裂進展抑制構造が適用された補修個所について、健全性の低下の有無を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】亀裂補修個所のモニタリングシステムの第1実施形態を示す概要図である。
【
図3】亀裂補修個所における亀裂進展抑制構造を説明するための図である。
【
図4】亀裂進展抑制構造における挿入部材を示す図である。
【
図5】ひずみゲージの設置条件を説明するための図である。
【
図6】亀裂モニタリングシステムの第2実施形態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0022】
[第1実施形態]
図1は亀裂補修個所のモニタリングシステムの第1実施形態を示す概要図である。
図2は、
図1における要部を拡大して示す図である。
【0023】
図3は、亀裂補修個所における亀裂進展抑制構造を説明するための図で、
図3(a)は板材に亀裂が生じた状態を、
図3(b)は板材の亀裂が生じた個所に挿入部材取付孔が設けられた状態を、
図3(c)は挿入部材取付孔に挿入部材が取り付けられた状態を、それぞれ示す概略斜視図である。
図4は、亀裂進展抑制構造で用いられる挿入部材を示すもので、
図4(a)は挿入方向の一方から見た図、
図4(b)は
図4(a)のA-A方向矢視図である。
【0024】
図5は、亀裂補修個所のモニタリングシステムにおけるひずみゲージの設置条件を説明するための図で、
図5(a)は、亀裂補修個所における応力集中が生じる領域と、新たな亀裂が生じやすい方向とを示す概要図、
図5(b)は、ひずみゲージの設置範囲と設置角度の条件を示す図である。
【0025】
本実施形態の亀裂補修個所のモニタリングシステムは、
図1、
図2に符号1で示すもので、金属製物体として、たとえば、鋼構造物を構成している板材100における亀裂101が生じた個所であって、その亀裂101が亀裂進展抑制構造102によって補修された亀裂補修個所103に適用するものである。
【0026】
本実施形態の亀裂補修個所のモニタリングシステム1は、亀裂補修個所103に後述する条件に従い設定される設置範囲4に取り付けられたひずみゲージ2a,2bを備え、更に、ひずみゲージ2a,2bを接続した計測器3を備えた構成とされている。
【0027】
なお、本実施形態の亀裂補修個所のモニタリングシステム1は、説明の便宜上、以下、単に、本実施形態のモニタリングシステム1という。
【0028】
ここで、先ず、本実施形態のモニタリングシステム1の適用対象となる亀裂進展抑制構造102による亀裂補修個所103について説明する。
【0029】
亀裂進展抑制構造102は、
図3(a)に示すように、板材100の亀裂101が生じた個所に、
図3(b)に示すように、亀裂101と交差する方向に延びる開口形状を有する挿入部材取付孔104が設けられ、
図3(c)に示すように、この挿入部材取付孔104の内側に、挿入部材105が挿入して取り付けられた構成を備えている。
【0030】
挿入部材105は、
図4(a)(b)に示すような板状の部材である。挿入部材105は、
図4(b)に矢印で示す一方向が、挿入部材取付孔104への挿入方向xとして設定されている。
【0031】
更に、挿入部材105は、挿入方向xに垂直な断面の形状が、
図4(a)に示すように、両端寄り部分106a,106bの板厚が中央部分107の板厚に比して大となる形状とされている。挿入部材105における挿入方向xに垂直な断面の形状は、以下、挿入部材105の断面形状という
【0032】
挿入部材105の両端寄り部分106a,106bの外面108a,108bは、連続する曲面とされている。更に、この外面108a,108bにおいて外向きに凸となる曲面は、一定の曲率となっていることが好ましい。これは、後述するように
図4(a)に二点鎖線で示す如き形状とされる挿入部材取付孔104の開口形状の長手方向両端側に備える曲面形状に合わせるためである。
【0033】
また、挿入部材105は、両端寄り部分106a,106b同士の間でくびれる中央部分107の両側の外面109a,109bが、連続する湾曲面とされている。これは、挿入部材105の中央部分107にて、板厚の変化が連続するようにして、中央部分107の外面109a,109bに、応力集中が生じ易くなる屈曲した個所が形成されないようにするためである。
【0034】
補修対象となる亀裂101が板材100の亀裂101であることに鑑みて、挿入部材105は、
図4(b)に示すように、挿入方向xの両端面が、挿入方向xに垂直な平面とされている。また、挿入部材105の挿入方向xの寸法Lは、亀裂101が生じている板材100の板厚t(
図3(a)参照)と同等か、または、板厚tよりも大となるように設定されていることが好ましい。これは、板材100の挿入部材取付孔104に挿入する挿入部材105を、板材100の板厚tの全域に亘って配置できるようにするためである。
【0035】
挿入部材取付孔104は、
図3(b)に示すように、板材100の亀裂101が生じている個所に亀裂101と交差する方向に開口形状が延びるように設けられた孔である。
【0036】
挿入部材取付孔104の開口形状は、
図4(a)に二点鎖線で示すように、長手方向の中央部分110の開口幅が、両端寄り部分111a,111bの側の開口幅よりも狭くなっている。この中央部分110の開口幅は、挿入部材105の中央部分107を収容でき、且つ挿入部材105の両端寄り部分106a,106bの板厚よりも小さい寸法に設定されている。
【0037】
挿入部材取付孔104の開口形状の長手方向の両端寄り部分111a,111bは、挿入部材105の両端寄り部分106a,106bを収容可能な形状とされている。
【0038】
挿入部材取付孔104の開口形状における両端寄り部分111a,111bから中央部分110に向けて開口幅が狭くなる部分は、対をなす係止部sとされ、各係止部sは、亀裂101を挟んだ両側に形成されている。
【0039】
これにより、挿入部材取付孔104に挿入部材105を挿入した状態では、挿入部材取付孔104の各係止部sに、挿入部材105の両端寄り部分106a,106bが係止される。このため、板材100に亀裂101を開く方向の荷重が作用するときには、その荷重を、亀裂101の両側に設けられている挿入部材取付孔104の各係止部sから、挿入部材105へ伝えることができる。このため、板材100では、亀裂101の開く方向への変形が、挿入部材取付孔104に取り付けられた挿入部材105によって拘束される。
【0040】
挿入部材取付孔104は、開口形状が、連続する曲面、すなわち、屈曲した部分のない滑らかな曲面、または、曲面とそれに連続する平面による形状としてある。これにより、挿入部材取付孔104は、開口形状の周縁部の一部に応力集中が生じにくくしてある。更に、挿入部材取付孔104の開口形状の長手方向の両端寄り部分111a,111bにおける外向きに凸となる曲面は、一定の曲率の曲面とされることが好ましい。これは、開口形状の長手方向の両端寄り部分111a,111bに、より応力集中が生じにくくするためである。
【0041】
なお、挿入部材取付孔104の開口形状は、挿入部材105の断面形状に比してわずかに大きい相似形状として、挿入部材取付孔104の内面と挿入部材105の外面との隙間ができるだけ小さくなるように設定することが好適とされる。これは、挿入部材取付孔104と挿入部材105の対向する面同士の間に介在させて両者を接着する接着剤112の層の厚みをできるだけ小さくして、挿入部材取付孔104と挿入部材105との間での荷重の伝達を良好に行わせるためである。なお、
図3(c)、
図4(a)および
図2では、図示する便宜上、挿入部材取付孔104と挿入部材105との間を拡大して示してある(後述する
図5も同様)。
【0042】
板材100に生じた亀裂101を対象とする亀裂進展抑制構造102による補修は、先ず、
図1、
図2、
図3(a)(b)(c)に示すように、板材100における亀裂101が生じた個所に、亀裂101と交差する方向、好ましくは、亀裂101と直角に交差する方向に開口形状(
図4(a)参照)が延びる配置で挿入部材取付孔104が設けられる。
【0043】
この際、挿入部材取付孔104に挿入される挿入部材105を亀裂101の両側に偏りなく配置するためには、挿入部材取付孔104は、開口形状の長手方向の中央付近で亀裂101と交差するように設けられる。
【0044】
次に、挿入部材取付孔104には、挿入部材105が、挿入部材105における挿入部材取付孔104の内面に接する面に接着剤(構造用接着剤)112が塗布された状態で挿入される。なお、接着剤112は、挿入部材取付孔104の内面に塗布されていてもよく、挿入部材105の外面と挿入部材取付孔104の内面の双方に塗布されていてもよい。その後は、接着剤112を硬化させる。
【0045】
これにより、板材100における亀裂101が生じた個所には、挿入部材取付孔104の内側に挿入部材105が接着により固定した状態で取り付けられた亀裂進展抑制構造102によって亀裂101の補修が行われた亀裂補修個所103が形成される。
【0046】
なお、亀裂101に対して設ける挿入部材取付孔104および挿入部材105の数は、亀裂101の延びる寸法や、板材100における亀裂101が存在している個所に作用する荷重に応じて適宜設定すればよい。
図1は、1つの亀裂101に対し、複数の挿入部材取付孔104および挿入部材105を設けた構成の一例であるが、亀裂101に対して設けられる挿入部材取付孔104および挿入部材105の数や配列間隔は図示するための便宜上のもので、実際の数や配列間隔を反映したものではない。
【0047】
1つの亀裂101に対して、挿入部材取付孔104および挿入部材105を複数設ける場合、配列する数と配列間隔は、特許文献1に示されている手法と同様の解析を用いた手法で設定すればよい。
【0048】
本実施形態では、亀裂補修個所103は、更に、
図1、
図2に示すように、板材100における亀裂101の両方の先端に対応する位置に、ストップホール113を備えた構成とされている。
【0049】
次に、本発明者等が行った試験について説明する。
【0050】
本発明者等は、前記した構成の亀裂進展抑制構造102が亀裂101に適用された構成を備えた図示しない試験体を用いて、亀裂101を開く方向に過大な荷重を作用させる試験を行った。その結果、亀裂101の長手方向に挿入部材取付孔104および挿入部材105が複数設けられている場合、
図5(a)に示すように、亀裂101の先端側からの順序が1番目の挿入部材取付孔104では、両端寄り部分111a,111bの周縁における斜線のハッチングを付した領域5に、応力集中が生じることが判明した。この領域5の応力集中は、同じ挿入部材取付孔104の開口部の周縁における他の部分や、亀裂101の先端側からの順序が2番目以降となる他の挿入部材取付孔104の開口部の周縁に比して大きな応力集中である。
【0051】
また、この特定の挿入部材取付孔104における応力集中が生じる領域5は、両端寄り部分111a,111bの周縁にて、開口形状の長手方向の両端部となる個所6から、亀裂101の先端寄りの方向に向けて、開口形状の開口幅が最大となる個所7までの領域であることが判明した。
【0052】
更に、本発明者等は、前記試験体に作用させる亀裂101を開く方向の荷重をより大きくする試験を行った。その結果、前記特定の挿入部材取付孔104における応力集中が生じる領域5からは、
図5(a)に一点鎖線で示す如き新たな亀裂8が発生することが判明した。この応力集中が生じる領域5を起点とする新たな亀裂8の発生は、亀裂進展抑制構造102の適用による補修対象とされた元の亀裂101の進展よりも生じやすい、ということも判明した。
【0053】
また、この新たな亀裂8は、元の亀裂101に沿い該亀裂101の先端側に向く方向に対して、30度ずれた方向に主として発生すること、この主方向からの角度のずれが生じるとしても、±10度程度の角度範囲に収まることが判明した。
【0054】
以上の試験結果に鑑みて、本実施形態のモニタリングシステム1では、
図5(b)に示すように、ひずみゲージ2aの設置範囲4を設定する。この設置範囲4は、亀裂101の先端側からの順序が1番目の挿入部材取付孔104の両端寄り部分111a,111bの周縁における応力集中が生じる領域5、すなわち、開口形状の長手方向の両端部となる個所6から、亀裂101の先端寄りの方向に向けて、開口形状の開口幅が最大となる個所7までの領域より、挿入部材取付孔104の外側に向けて1mmから30mmの距離となる範囲に設定してある。
【0055】
なお、ひずみゲージ2aの設置範囲4を挿入部材取付孔104の周縁における応力集中が生じる領域5から1mmから30mmの距離となる範囲に設定したのは、以下の理由による。
【0056】
すなわち、一般に、金属製物体では、亀裂の発生に起因して歪みの変化が生じるが、その歪みの変化の影響は、亀裂の発生個所からの距離が離れるにしたがって小さくなる。よって、ひずみゲージを用いて、金属製物体に生じる亀裂の発生に起因する歪みの変化を検出する場合には、ひずみゲージの位置が亀裂の発生個所から30mmを超えて離れると、検出の精度が低下する点であまり好ましくないためである。一方、ひずみゲージは、金属製物体に取り付けを行うときには、接着剤などを用いて貼りつける必要があるため、金属製物体の縁から1mm未満となる位置に設置するのは実質的に困難である。
【0057】
また、一般に、ひずみゲージで亀裂の発生の有無を検出する場合は、ひずみゲージの角度姿勢を、発生すると想定される亀裂に対して直交する方向に設定することが好ましい。しかし、ひずみゲージを金属製物体に実際に取り付けるときには、ひずみゲージの角度姿勢を厳密に目標値に合わせることは困難であり、5度程度の角度ずれを生じることはある。
【0058】
そこで、本実施形態のモニタリングシステム1では、設置範囲4に設置するひずみゲージ2a,2bの角度姿勢については、亀裂101に沿い該亀裂101の先端側に向く方向から30度±10度ずれた方向に対して直交する方向、すなわち、亀裂101に沿い該亀裂101の先端に向く方向から120度±10度ずれた方向を目標として、実際には、120度±15度ずれた方向に設定される。なお、このひずみゲージ2aの角度姿勢は、亀裂101に沿い該亀裂101の先端側とは逆向きの方向を基準とした場合は、45度から75度の角度姿勢となる。この場合、前記した新たな亀裂8が発生する主方向の点から考えると、設置範囲4に設置するひずみゲージ2a,2bの角度姿勢として好ましいのは、亀裂101に沿い該亀裂101の先端側に向く方向から120度ずれた方向、すなわち、亀裂101に沿い該亀裂101の先端側とは逆向きの方向からは60度ずれた方向となる。
【0059】
したがって、本実施形態のモニタリングシステム1は、
図1、
図2に示すように、亀裂101の先端側からの順序が1番目の挿入部材取付孔104の開口形状の長手方向の両端側で、亀裂101の先端側寄りとなる設置範囲4に、ひずみゲージ2aが、設定された角度姿勢で設置された構成を備えている。
【0060】
なお、ひずみゲージ2aは、抵抗線や抵抗箔のような実際に歪みの検出を行う部分が設置範囲4に入っていれば、歪みの検出に関与しない外周部が、設置範囲4からはみ出していてもよいことは勿論である。
【0061】
更に、本実施形態のモニタリングシステム1は、元の亀裂101がストップホール113から再び進展した場合に、その検知を行うための手段として、
図1、
図2に示すように、亀裂101の先端に設けられたストップホール113に対し、亀裂101とは逆側に1mmから30mmの距離となる範囲に、ひずみゲージ2bを設けた構成とすることが好ましい。
【0062】
このひずみゲージ2bの角度姿勢は、亀裂101に沿い該亀裂101の先端側に向く方向に対して90度±5度ずれた方向に設定される。
【0063】
なお、ひずみゲージ2aとひずみゲージ2bは、いずれも、板材100の線膨張係数と等しいか対応した線膨張係数を有するひずみゲージを選定して用いることで、熱出力(温度変化による見かけの歪み)を抑制するようにしてある。
【0064】
計測器3は、接続されたひずみゲージ2aおよびひずみゲージ2bにおける抵抗変化を、歪みの変化量の計測結果として出力する機能を備えている。
【0065】
この計測器3による計測結果の出力は、たとえば、
図1に二点鎖線で示すように、作業者(図示せず)が持ち運ぶパソコンやタブレットのような携帯端末9に対して、有線接続、または、無線通信で行うようにすればよい。
【0066】
以上の構成としてある本実施形態のモニタリングシステム1を用いて板材100における亀裂進展抑制構造102による亀裂補修個所103の監視を行う場合は、作業者が、携帯端末9を用いて、設定された時間間隔で計測器3から出力されるひずみゲージ2aとひずみゲージ2bの計測結果を受け取る。
【0067】
そして、ひずみゲージ2aによる計測結果の時系列を基に、ひずみゲージ2aによる歪みの変化量の計測結果に、大幅な変化が生じていない場合、あるいは、亀裂発生時のパターンに当てはまる変化が生じていない場合は、亀裂補修個所103にて、挿入部材取付孔104からの新たな亀裂8(
図5(a)参照)の発生はないと判断あるいは推定することができる。
【0068】
また、ひずみゲージ2bによる計測結果の時系列を基に、ひずみゲージ2bによる歪みの変化量の計測結果に、大幅な変化が生じていない場合、あるいは、亀裂発生時のパターンに当てはまる変化が生じていない場合は、亀裂補修個所103にて、元の亀裂101がストップホール113から進展していないと判断あるいは推定することができる。
【0069】
したがって、本実施形態のモニタリングシステム1では、ひずみゲージ2aとひずみゲージ2bの計測結果に、大幅な変化が生じていない場合、あるいは、亀裂発生時のパターンに当てはまる変化が生じていない場合は、亀裂補修個所103の健全性に低下は生じていないと判断することができる。
【0070】
一方、ひずみゲージ2aによる計測結果の時系列を基に、ひずみゲージ2aによる歪みの変化量の計測結果に、たとえば、大幅な変化が生じた場合、または、亀裂発生時のパターンに合致する変化が生じた場合は、亀裂補修個所103にて、挿入部材取付孔104から新たな亀裂8(
図5(a)参照)が生じたと判断あるいは推定することができる。
【0071】
したがって、この場合は、本実施形態のモニタリングシステム1では、挿入部材取付孔104からの新たな亀裂8の発生に起因して、亀裂補修個所103の健全性に低下が生じたと判断することができる。
【0072】
また、ひずみゲージ2bによる計測結果の時系列を基に、ひずみゲージ2bによる歪みの変化量の計測結果に、たとえば、大幅な変化が生じた場合、または、亀裂発生時のパターンに合致する変化が生じた場合は、亀裂補修個所103にて、元の亀裂101がストップホール113から再進展したと判断あるいは推定することができる。
【0073】
したがって、この場合は、本実施形態のモニタリングシステム1では、元の亀裂101のストップホール113からの再進展に起因して、亀裂補修個所103の健全性に低下が生じたと判断することができる。
【0074】
このように、本実施形態のモニタリングシステム1によれば、亀裂進展抑制構造102が適用された亀裂補修個所103について、健全性の低下の有無を監視することができる。
【0075】
また、本実施形態のモニタリングシステム1では、試験により得た亀裂補修個所103における応力集中が生じる領域5の情報と、この領域5から新たな亀裂8が発生すると想定される位置と角度の情報とを基に、ひずみゲージ2aの配置を決めている。そのため、たとえ、3つ以上の挿入部材取付孔104および挿入部材105を備えた亀裂補修個所103を監視の対象とする場合であっても、本発明のモニタリングシステム1は、
図1に示すように、ひずみゲージ2aは、亀裂101の両方の先端側からの順序が1番目となる挿入部材取付孔104の開口形状の長手方向両端側にのみ設ければよい。よって、本実施形態のモニタリングシステム1は、亀裂補修個所103におけるすべての挿入部材取付孔104に対応してひずみゲージを設ける必要がないため、ひずみゲージ2aの使用数を抑えることができて、装置を構成する機器の点数を削減して、装置構成を単純化することができる。
【0076】
[第2実施形態]
図6は、亀裂補修個所のモニタリングシステムの第2実施形態を示す概要図である。
【0077】
なお、
図6において、第1実施形態と同一のものには同一符号を付して、その説明を省略する。
【0078】
本実施形態の亀裂補修個所のモニタリングシステム1Aは、
図6に示すように、第1実施形態と同様の構成において、計測器3が、ひずみゲージ2a,2bの計測結果を作業者が持ち運ぶ携帯端末9に対して出力する構成に代えて、計測器3が、インターネットのような通信網10に常時あるいは設定された時間間隔で接続する機能と、この通信網10を介して遠隔地の監視センタなどに備えた監視用のコンピュータ11に、ひずみゲージ2a,2bの計測結果を送る機能を備えた構成としたものである。
【0079】
監視用のコンピュータ11は、ひずみゲージ2aによる計測結果の時系列、および、ひずみゲージ2bによる計測結果の時系列をそれぞれ監視する機能と、歪みの変化量の計測結果に、大幅な変化が生じた場合や、亀裂発生時のパターンに合致する変化が生じた場合に、亀裂補修個所103の健全性に低下が生じたというシグナル(アラーム)を発生させる機能を備えるようにすればよい。
【0080】
以上の構成としてある本実施形態の亀裂補修個所のモニタリングシステム1Aによっても、第1実施形態と同様に、亀裂進展抑制構造102が適用された亀裂補修個所103について、健全性の低下の有無を監視することができて、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0081】
なお、前記各実施形態では、本発明の亀裂補修個所のモニタリングシステムの適用対象として、鋼構造物を構成している板材100に生じた亀裂101の補修個所を例示したが、鋼構造物にて同一平面内に配置された板材同士を突き合わせ溶接した溶接部に生じた亀裂101や、この溶接部から一方または双方の板材に延びる亀裂101の補修個所に適用してもよいことは勿論である。
【0082】
更に、本発明の亀裂補修個所のモニタリングシステムは、たとえば、橋梁の隅角部となるデッキプレートの下面と、その下側に配置されたUリブの上端縁との接合部(溶接部)のような金属製物体における屈曲部に生じた亀裂101の亀裂進展抑制構造102による亀裂補修個所103に適用してもよい。
【0083】
この場合、ひずみゲージ2aは、挿入部材取付孔104が設けられている金属製物体の面に対して垂直な方向から見て、
図5(b)に示したと同様の設置範囲4と角度姿勢を定めるようにすればよい。
【0084】
なお、亀裂101の先端部が溶接部に存在している場合や、金属製物体における屈曲部に存在している場合は、亀裂補修個所103では、亀裂101の先端側にストップホール113を設けることができない。よって、このような場合には、本発明の亀裂補修個所のモニタリングシステムは、ひずみゲージ2bを省略した構成とすればよい。
【0085】
また、本発明は、前記各実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の亀裂補修個所のモニタリングシステムは、板材100や、橋梁のデッキプレートとUリブ以外の任意の金属製物体にて、亀裂進展抑制構造102による亀裂101の補修が行われた亀裂補修個所103に適用してもよいことは勿論である。
【0086】
亀裂補修個所103にて、挿入部材取付孔104に挿入して取り付けられている挿入部材105の挿入方向xの形状は、特に限定されない。
【0087】
挿入部材取付孔104は、金属製物体における貫通孔となっていなくてもよい。
【0088】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0089】
2a,2b ひずみゲージ、3 計測器、4 設置範囲、5 領域、6 個所、7 個所、10 通信網、11 監視用のコンピュータ、100 板材(金属製物体)、101 亀裂、102 亀裂進展抑制構造、103 亀裂補修個所、104 挿入部材取付孔、105 挿入部材、111a,111b 両端寄り部分、113 ストップホール、s 係止部