(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】孔内面切削加工ヘッド
(51)【国際特許分類】
B23B 41/02 20060101AFI20220216BHJP
B23B 47/00 20060101ALI20220216BHJP
B23B 29/034 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
B23B41/02
B23B47/00 B
B23B29/034 B
(21)【出願番号】P 2017195640
(22)【出願日】2017-10-06
【審査請求日】2020-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】西谷 明之
(72)【発明者】
【氏名】品川 幹
(72)【発明者】
【氏名】中村 公昭
【審査官】中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-196905(JP,A)
【文献】特開平07-009312(JP,A)
【文献】特開2003-019607(JP,A)
【文献】特開2001-179514(JP,A)
【文献】国際公開第2009/128544(WO,A1)
【文献】米国特許第04941782(US,A)
【文献】特開平09-314408(JP,A)
【文献】実開昭63-035509(JP,U)
【文献】特表2015-522432(JP,A)
【文献】特開平11-141643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00 - 29/34
B23B 35/00 - 49/06
B23D 77/00 - 77/14
B24B 5/00 - 7/30
F16H 19/00 - 37/16
F16H 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに形成された貫通孔の内面を切削する孔内面切削加工ヘッドであって、
前記貫通孔に挿入されて、前記ワークに対して相対的に、当該貫通孔の中心軸回りに回転される円柱状のヘッド本体と、
前記中心軸に対して径外方へとスライド可能に前記ヘッド本体に保持された、前記内面を切削する一対の第1バイト及び第2バイトと、
前記中心軸に沿った少なくとも1カ所において、前記ヘッド本体の周面上に設けられた複数の液静圧パッドと、を備えており、
前記第1バイト及び前記第2バイトが、前記中心軸に対して、前記ヘッド本体の周方向にほぼ180°離間して配置されて
おり、
前記第1バイトの前記ヘッド本体から径外方への突出量が前記第2バイトの突出量と異なっており、
前記切削加工ヘッドが、前記第1バイトの前記突出量に対する前記第2バイトの前記突出量の比率を一定に維持しつつ、前記第1バイト及び前記第2バイトをスライドするバイトスライド機構をさらに備えており、
前記バイトスライド機構が、前記ヘッド本体の中心に形成された挿通孔内に収納された、前記ヘッド本体に対して相対的にストローク可能なラックバーと、前記ラックバーの一部が板状に形成されて、その一面に形成された傾斜する複数の第1ラック溝、及び、その他面に形成された傾斜する複数の第2ラック溝と、前記第1バイトに形成された、前記第1ラック溝と係合する複数の第3ラック溝と、前記第2バイトに形成された、前記第2ラック溝と係合する複数の第4ラック溝と、を備えており、
前記ラックバーのストローク方向に対する前記第1ラック溝の傾斜方向と前記ストローク方向に対する前記第2ラック溝の傾斜方向とが互いに逆であり、
前記ストローク方向に対する前記第1ラック溝の傾斜の大きさが前記ストローク方向に対する前記第2ラック溝の傾斜の大きさと異なる、ことを特徴とする孔内面切削加工ヘッド。
【請求項2】
前記第1バイト及び前記第2バイトがそれぞれ切削インサートを備えており、
前記突出量が少ない前記第1バイトの前記切削インサートが、前記突出量が多い前記第2バイトの前記切削インサートよりも、前記中心軸に沿って切削先行側に位置されている、ことを特徴とする請求項
1に記載の孔内面切削加工ヘッド。
【請求項3】
前記液静圧パッドの作動液が、前記第1バイト及び前記第2バイトによる前記内面の切削箇所に供給される切削クーラントである、ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の孔内面切削加工ヘッド。
【請求項4】
前記中心軸に沿った2カ所において、それぞれ、複数の前記液静圧パッドが前記ヘッド本体の前記周面上に配置されている、請求項1~
3の何れか一項に記載の孔内面切削加工ヘッド。
【請求項5】
前記2カ所のうち一対の前記第1バイト及び前記第2バイトに近い一方における複数の前記液静圧パッドによる前記切削加工ヘッドの保持力が、前記2カ所のうち一対の前記第1バイト及び前記第2バイトから遠い他方における複数の前記液静圧パッドによる前記切削加工ヘッドの保持力よりも高く設定されている、請求項
4に記載の孔内面切削加工ヘッド。
【請求項6】
前記液静圧パッドが、静圧クーラント軸受でもある、請求項1~
3の何れか一項に記載の孔内面切削加工ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに形成された貫通孔の内面を切削する加工ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、長尺中空シャフト(ワーク)に形成された貫通孔の内面を切削する装置を開示している。特許文献1の従来技術を説明する項では、ジェットエンジンのタービンとファン(又は、コンプレッサ)とを連結する長尺中空シャフト(例えば、全長3m、主要部の外径10~20cm)の貫通孔の内面を切削する工程が説明されている。
【0003】
当該工程では、シャフトの貫通孔にコアバーが挿入され、コアバーと貫通孔内面との間に硫黄が鋳込まれる。硫黄の凝固後にコアバーが引き抜かれると、コアバーの存在した部分に切削加工ヘッド(ボーリングバー)の通過する貫通孔が形成される。この硫黄層の内側の貫通孔に沿って切削加工ヘッドが移動され、硫黄層と共にシャフトの内面が切削される。
【0004】
コアバーは高精度に形成されているため、硫黄層の内側に形成される貫通孔の内面も高精度に形成される。そして、この貫通孔の内面が切削加工ヘッドの加工基準になると共に切削加工ヘッドを正確に保持するため、加工精度を確保することができる。また、硫黄層は、切削刃の摩擦低減(潤滑)や切削時の振動吸収にも寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、硫黄は扱いが難しく、切削後は回収が必要であるし、再利用するには後処理も必要になる。また、上述した工法で形成された硫黄層は、割れたり、ひびが入ったりすることがあり、切削加工上の問題となることもあった。また、切削量が大きな、いわゆる重切削の場合には、硫黄層では十分に切削加工ヘッドを保持しきれないという問題もあった。さらに、硫黄の化合物には毒性を有する物質もあるため、その管理にも留意する必要がある。従って、上述した硫黄を用いない工法が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、硫黄を用いずに、ワークに形成された貫通孔の内面を精度よく切削する(重切削を含む)ことのできる、孔内面切削加工ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の孔内面切削加工ヘッドは、ワークに形成された貫通孔の内面を切削するものであり、前記貫通孔に挿入されて、前記ワークに対して相対的に、当該貫通孔の中心軸回りに回転される円柱状のヘッド本体と、前記中心軸に対して径外方へとスライド可能に前記ヘッド本体に保持された、前記内面を切削する一対の第1バイト及び第2バイトと、前記中心軸に沿った少なくとも1カ所において、前記ヘッド本体の周面上に設けられた複数の液静圧パッドと、を備えており、前記第1バイト及び前記第2バイトが、前記中心軸に対して、前記ヘッド本体の周方向にほぼ180°離間して配置されている。前記第1バイトの前記ヘッド本体から径外方への突出量が前記第2バイトの突出量と異なっており、前記切削加工ヘッドが、前記第1バイトの前記突出量に対する前記第2バイトの前記突出量の比率を一定に維持しつつ、前記第1バイト及び前記第2バイトをスライドするバイトスライド機構をさらに備えておいる。前記バイトスライド機構が、前記ヘッド本体の中心に形成された挿通孔内に収納された、前記ヘッド本体に対して相対的にストローク可能なラックバーと、前記ラックバーの一部が板状に形成されて、その一面に形成された傾斜する複数の第1ラック溝、及び、その他面に形成された傾斜する複数の第2ラック溝と、前記第1バイトに形成された、前記第1ラック溝と係合する複数の第3ラック溝と、前記第2バイトに形成された、前記第2ラック溝と係合する複数の第4ラック溝と、を備えている。前記ラックバーのストローク方向に対する前記第1ラック溝の傾斜方向と前記ストローク方向に対する前記第2ラック溝の傾斜方向とが互いに逆であり、前記ストローク方向に対する前記第1ラック溝の傾斜の大きさが前記ストローク方向に対する前記第2ラック溝の傾斜の大きさと異なる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液静圧パッドとほぼ180°離間して配置された一対のバイトとを備えているので、硫黄を用いることなく、ワークに形成された貫通孔の内面を精度よく切削する(重切削を含む)ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】孔内面切削加工ヘッドの実施形態の断面図である。
【
図4】上記切削加工ヘッドを含む切削装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
孔内面切削加工ヘッド1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示されるように、本実施形態におけるワークWは、長尺中空シャフトであり、その貫通孔Hに切削加工ヘッド1が挿入され、貫通孔Hの内面が切削加工ヘッド1によって切削される。切削されるシャフトWは、切削装置の保持機構(図示せず)によって固定される。この際、貫通孔Hの中心軸が、切削加工ヘッド1の中心軸と一致するように保持される。切削装置の一部である切削加工ヘッド1は、一対の第1バイト3a及び第2バイト3bを保持する円柱状のヘッド本体2を備えている。第1バイト3a及び第2バイト3bについては追って詳しく説明する。ヘッド本体2の基端にはジョイントロッド4が固定されている。
【0012】
ヘッド本体2は、ジョイントロッド4を介して、ヘッド回転装置104に接続されている。貫通孔Hに挿入されたヘッド本体2(切削加工ヘッド1)は、ヘッド回転装置104によって、ジョイントロッド4を介して、その中心軸回りに回転される。なお、本実施形態では、ワークWが固定されてヘッド本体2が回転されるが、ヘッド本体2がワークWに対して相対的に回転されればよい。即ち、ヘッド本体2が回転されずに固定されてワークWが中心軸周りに回転されてもよい。この場合、ヘッド本体2が切削装置に固定され、ヘッド回転装置104がワーク回転装置として機能する。
【0013】
ヘッド本体2は、ジョイントロッド4を介して、ヘッドストローク装置102にも接続されている。切削加工ヘッド1(ヘッド本体2)は、ヘッドストローク装置102によって、ジョイントロッド4を介して、その中心軸方向に貫通孔H内でストロークされる。ジョイントロッド4は、シャフトWの全長にわたって切削加工ヘッド1をストロークさせるのに十分な長さを有している。
【0014】
ヘッド本体2及びジョイントロッド4の内部には、それらの中心軸に沿って挿通孔5が形成されている。挿通孔5内には、第1バイト3a及び第2バイト3bの径方向への突出量を制御するラックバー6が収納されている。径方向は、ヘッド本体2の中心軸に対して直角である。ラックバー6の基端は、ラックストローク装置103に接続されている。ラックバー6は、ラックストローク装置103によって、上述した中心軸に沿って、ヘッド本体2に対して相対的にストロークされる。
【0015】
ここで、一対の第1バイト3a及び第2バイト3b、並びに、ラックバー6について、
図1及び
図2を参照しつつ詳しく説明する。ラックバー6の断面形状は、基本的には円形だが、先端近傍の一部は板状の断面を有しており、その一面には傾斜する複数の第1ラック溝6aが形成され、他面には傾斜する複数の第2ラック溝6bが形成されている。ラックバー6は、第1ラック溝6a及び第2ラック溝6bが形成されている部分のみが切削されている。
【0016】
一方、第1バイト3aの内側面には傾斜する複数の第3ラック溝30aが形成されると共に、第2バイト3bの内側面には傾斜する複数の第4ラック溝30bが形成されている。ラックバー6のストローク方向(貫通孔Hの中心軸)に対する第3ラック溝30a及び第4ラック溝30bの傾斜方向は互いに逆である。そして、複数の第1ラック溝6aは複数の第3ラック溝30aと係合しており、複数の第2ラック溝6bは複数の第4ラック溝30bと係合している。
【0017】
第1バイト3a及び第2バイト3bは、
図1及び
図2に示されるように、径方向にスライド可能にヘッド本体2に保持されている。第1バイト3a及び第2バイト3bは中心軸に沿って見ると周方向にほぼ180°離間されており、互いに正反対に向けて配置されている。言い換えると、第1バイト3a及び第2バイト3bは、中心軸に沿って見ると、中心軸に対して互いに反対側に配置されている。ラックバー6のストローク方向に対する第3ラック溝30a及び第4ラック溝30bの傾斜方向が互いに逆であるので、第3ラック溝30aと係合する第1ラック溝6a及び第4ラック溝30bと係合する第2ラック溝6bのラックバー6のストローク方向に対する傾斜方向も互いに逆である(
図1参照)。
【0018】
従って、例えば、ラックバー6が、ヘッド本体2に対して、
図1中左方にストロークされると、第1バイト3a及び第2バイト3bはヘッド本体2に格納されるようにスライドされる。即ち、第1バイト3a及び第2バイト3bのヘッド本体2からの突出量が減る。一方、ラックバー6が、ヘッド本体2に対して、
図1中右方にストロークされると、第1バイト3a及び第2バイト3bはヘッド本体2から突出されるようにスライドされる。
【0019】
ここで、第1ラック溝6a及び第3ラック溝30aの傾斜角αと、第2ラック溝6b及び第4ラック溝30bの傾斜角βとは異なる(角度方向は考慮せず、角度の大きさを考える)。このように傾斜角α及びβを設定することで、第2バイト3bのヘッド本体2からの突出量が、常に、第1バイト3aのヘッド本体2からの突出量の2倍となっている。言い換えれば、第1バイト3aの切削半径は、常に、第2バイト3bの切削半径よりも小さい(
図2参照)。このように常に異なる突出量(切削半径)を持つ一対の第1バイト3a及び第2バイト3bが、単一のラックバー6によって制御される。本実施形態では、上述した第1ラック溝6a及び第2ラック溝6bが形成されたラックバー6、第1バイト3aに形成された第3ラック溝30a、第2バイト3bに形成された第4ラック溝30b、並びに、ラックストローク装置103によって、バイトスライド機構が構築されている。バイトスライド機構は、第1バイト3aの突出量に対する第2バイト3bの突出量の比率を一定に維持しつつ(本実施形態では、1:2)、第1バイト3a及び第2バイト3bをスライドする。
【0020】
さらに、ここでは、突出量の少ない第1バイト3aの切削インサート31aの切削面は、突出量の多い第2バイト3bの切削インサート31bの切削面よりも、わずかに切削加工ヘッド1(ヘッド本体2)の基端側に寄せられている(なお、
図1では視認できない)。即ち、第1バイト3aの切削インサート31aの方が、第2バイト3bの切削インサート31bよりも中心軸に沿って切削先行側に位置されている。従って、
図1に示されるように、切削加工ヘッド1が回転されつつ右方にストロークされることでシャフトWの内面が切削されるが、その際に、突出量の少ない第1バイト3aの切削インサート31aの方が先行して貫通孔Hの内面を切削する。そして、第1バイト3aによって部分的に切削された内面の切削されていない部分が、続いて第2バイト3bによって切削される。
【0021】
このため、切削によって第1バイト3aの切削インサート31a及び第2バイト3bの切削インサート31bに作用する反力が均一化される(分散される)。この結果、一回の切削量が多い(深い)重切削も行いやすくなる。また、第1バイト3a及び第2バイト3bが互いに周方向にほぼ180°離間されているので、切削時の背分力が互いに打ち消し合い、シャフトWの貫通孔H内で切削加工ヘッド1を偏心させる力を小さくでき、切削精度が向上する。さらに、切削時の主分力や送り分力が中心軸に対してほぼ対称となるので、貫通孔Hに対して切削加工ヘッド1を偏心させる力を小さくでき、切削精度が向上する。
【0022】
本実施形態のように第1バイト3a及び第2バイト3bを互いに周方向にほぼ180°離間させて配置することで切削加工ヘッド1に作用する力(主分力・背分力・送り分力など)が均衡されるので、一つのバイトしか有しない従来の切削加工ヘッドに比較すると、切削加工ヘッド1を径方向にたわませる力が重切削の場合は約1/5にまで低減できる。
【0023】
切削加工ヘッド1の構成の説明に戻る。ヘッド本体2は、複数の液静圧パッド8を備えている。なお、複数の液静圧パッド8は、ヘッド本体2の位置を保持するパッドとして機能するだけでなく、静圧クーラント軸受としても機能する。即ち、液静圧パッド8は、軸受として、ワークWに対して相対的に回転するヘッド本体2を支持する。本実施形態では、複数の液静圧パッド8は切削加工ヘッド1の中心軸に沿って2カ所に配置されており、1カ所あたり4つの液静圧パッド8が設けられている。
図3に示されるように、4つの液静圧パッド8は、周方向に均等に配置されている。液静圧パッド8は、回転する切削加工ヘッド1とシャフトWの内面との間に液膜を形成させて両者の間の摩擦を低減すると共に、シャフトW(貫通孔H)に対して切削加工ヘッド1を安定して位置決めする。液静圧パッド8が中心軸に沿って2カ所に設けられることで、切削加工ヘッド1の軸振れが抑止される。また、2カ所のうちの1カ所はできるだけ一対の第1バイト3a及び第2バイト3bに近づけて設けられており、切削インサート31a及び31b(切削箇所)の位置を高精度に位置決めするようになっている。
【0024】
液静圧パッド8は、シャフトWとの接触を考慮して、シャフトWの金属よりも軟らかい金属、例えば、銅によって形成されている。また、各液静圧パッド8は、ヘッド本体2に4本のボルトで固定されており、交換可能である。液静圧パッド8の底面は、ヘッド本体2に安定して取り付けることができるように平面とされている。一方、液静圧パッド8の上面8aは、
図3に示されるように、ヘッド本体2の外周面に沿った曲面とされている。液静圧パッド8の上面8aはヘッド本体2の外周面よりわずかに突出されており、ヘッド本体2とシャフトWの内面との接触を防止している。
【0025】
液静圧パッド8の上面8aは方形の二次曲面となるが、その中央には方形の液溜まり8bが形成されている。液溜まり8bは、上面8aがわずかに掘り下げられて形成されている。液溜まり8aの深さは一定であるが、内部には上述したボルトの取付孔が4カ所設けられている(
図3参照)。液溜まり8aの中心には、液溜まり8aに作動液を供給する供給孔8cが形成されている。圧力をかけて作動液を液溜まり8aに供給することで、液静圧パッド8とシャフトWの内面との間に液膜が形成され、両者の間の摩擦が低減される。本実施形態における作動液には、一対の第1バイト3a及び第2バイト3bによる切削箇所に供給される切削クーラント(切削フルード)が利用されている。
【0026】
各液静圧パッド8への切削クーラントの供給経路について説明する。
図1に示されるように、ラックバー6の中心には、第1クーラント供給路9aが形成されている。第1クーラント供給路9aは、ラックバー6の基端まで延設されており、切削クーラントを圧送するクーラントユニット105に接続されている。第1クーラント供給路9aの末端は、径方向に屈曲されており、ラックバー6の周面上に開口されている。
【0027】
第1クーラント供給路9aの開口された部分には、クーラントチャンバ9bが形成されている。クーラントチャンバ9bは、ラックバー6とヘッド本体2の挿通孔5の内面との間の隙間、及び、ヘッド本体2の基端面とジョイントロッド4の先端面との間の隙間によって構成されている。クーラントチャンバ9bを構成するラックバー6とヘッド本体2の挿通孔5の内面との間の隙間には、各液静圧パッド8の供給孔8cに接続される二本の第2クーラント供給路9cが開口されている(
図3参照)。
【0028】
各第2クーラント供給路9cは、クーラントチャンバ9bの開口から径方向に延在された後、ヘッド本体2の内部でその中心軸に平行に延在されている。各第2クーラント供給路9cは、その途中で2つの液静圧パッド8の供給孔8cに向けて分岐されていると共に、その末端も径方向に屈曲されてもう2つの液静圧パッド8の供給孔8cに接続されている(
図3参照)。即ち、1つの第2クーラント供給路9cによって、4つの液静圧パッド8の液溜まり8bに切削クーラントが供給される。
【0029】
なお、クーラントチャンバ9bには、一対の第1バイト3a及び第2バイト3bに切削クーラントを供給する2本の第3クーラント供給路9dも開口されている(図示せず)。第3クーラント供給路9dも、ヘッド本体2の内部でその中心軸に平行に延在されている(
図3参照)。第3クーラント供給路9dの末端は、一対の第1バイト3a及び第2バイト3bに向けて開口されている(
図1参照)。一対の第1バイト3a及び第2バイト3bに供給された切削クーラントは、通常通り、切削時の摩擦を低減するとともに、切削により生じる熱を冷却する。
【0030】
即ち、本実施形態では、全ての液静圧パッド8及び一対の第1バイト3a及び第2バイト3bへの切削クーラントの供給は、供給源(クーラントユニット105のクーラントタンク105a及びクーラントポンプ105b)によって行われている。なお、液静圧パッド8の液溜まり8bから排出された切削クーラントや一対の第1バイト3a及び第2バイト3bに供給された切削クーラントは、シャフトWの貫通孔Hから流出した後にクーラントユニット105に回収される。
【0031】
このようにして、合計8カ所の液静圧パッド8の液溜まり8bに供給された切削クーラントは、シャフトWの内面との間に液膜を形成し、切削クーラントの圧力によって切削加工ヘッド1を貫通孔Hの内部で浮かした状態とする。この結果、切削加工ヘッド1の貫通孔H内での回転が潤滑されると共に、切削加工ヘッド1が貫通孔H内で正確に位置決めされる。
【0032】
なお、中心軸に沿って2カ所に設けられた複数の液静圧パッド8は、基本的に同じ構成を有しており、どちらも
図1中のIII-III線断面図である
図3として示した。しかし、本実施形態では、一対の第1バイト3a及び第2バイト3b(切削箇所)に近い方の(
図1中左側の)各液静圧パッド8の液溜まり8bの面積は、遠い方の(
図1中右側の)各液静圧パッド8の液溜まり8bの面積よりも広くされている。従って、液静圧パッド8による保持力は、一対の第1バイト3a及び第2バイト3bに近い複数の液静圧パッド8の方が高い。
【0033】
即ち、2カ所のうち一対の第1バイト3a及び第2バイト3bに近い一方(
図1中左側)における4つの液静圧パッド8による切削加工ヘッド1の保持力は、2カ所のうち一対の第1バイト3a及び第2バイト3bから遠い他方(
図1中右側)における4つの液静圧パッド8による切削加工ヘッド1の保持力よりも高く設定されている。この結果、切削時の反力に対抗しつつ一対の第1バイト3a及び第2バイト3bの切削位置をより正確に維持できると共に、切削時の振動をより抑えることができる。また、このような構成にすることで、2カ所のうち一対の第1バイト3a及び第2バイト3bから遠い他方(
図1中右側)における4つの液静圧パッド8で使用される切削クーラントの量を減らすことができ、切削クーラントの全体使用量が減る。さらに、このような構成にすることで、切削クーラントが単一の供給源から供給される場合、即ち、切削クーラントが単一の供給圧しか有していない場合でも、液静圧パッド8の保持力を位置によって変えることができる。
【0034】
上述した切削加工ヘッド1を備えた切削装置100について、
図4を参照しつつ説明する。なお、上述したヘッドストローク装置102、ラックストローク装置103、ヘッド回転装置104、クーラントユニット105等は、公知の装置と同様の構成を有しているため、その詳しい構成の説明は省略する。以下には、切削装置100の全体構成について説明する。
【0035】
ヘッドストローク装置102は、ジョイントロッド4を介して、切削加工ヘッド1をストロークさせるストローク駆動源102aを備えている。ストローク機構が送りねじで構成されている場合、ストローク駆動源102aは送りねじを回転させる送りモータである。ストローク駆動源102aは、後述する制御部101に接続されており、制御部101によって制御される。なお、ストローク機構は、高精度に切削加工ヘッド1をストロークさせることができれば、上述した機構に限定されない。例えば、ボールねじ機構、ラックアンドピニオン機構、ベルト/チェーン駆動機構、リニアアクチュエータ、なども利用可能である。これらの場合、ストローク駆動源102aは切削加工ヘッド1をストロークさせるアクチュエータである。
【0036】
ラックストローク装置103は、ヘッド本体2に対してラックバー6をストロークさせるアクチュエータ103aを備えている。ストローク機構が送りねじで構成されている場合、アクチュエータ103aは送りねじを回転させる送りモータである。アクチュエータ103aも、後述する制御部101に接続されており、制御部101によって制御される。なお、ストローク機構は、高精度にラックバー6をストロークさせることができれば、上述した機構に限定されない。例えば、ボールねじ機構、ラックアンドピニオン機構、ベルト/チェーン駆動機構、リニアアクチュエータ、なども利用可能である。
【0037】
ヘッド回転装置104は、ジョイントロッド4を介して、切削加工ヘッド1を回転させる回転駆動源104aを備えている。回転駆動源104aは、ジョイントロッド4を回転可能に保持するとともに、その回転モータでジョイントロッド4を回転させる。回転駆動源104aも、後述する制御部101に接続されており、制御部101によって制御される。なお、ジョイントロッド4がギア機構を介して回転モータによって回転されてもよい。
【0038】
上述したクーラントユニット105も制御部101と接続されており、制御部101によって制御されている。上述したように、クーラントユニット105は、クーラントタンク105a及びクーラントポンプ105bを備えている。なお、回収された切削クーラントは、再処理装置105cで切削屑などが除去された後に再度クーラントタンク105aに戻される。
【0039】
上述したように、制御部101は、ヘッドストローク装置102のストローク駆動源102aに接続されており、切削加工ヘッド1のストローク位置(切削位置)を制御している。この際、切削加工ヘッド1のストローク位置は、ストローク駆動源102aとしての送りモータの回転数(ストローク駆動源102aの制御情報)に基づいて、制御部101によって把握されている。なお、送りモータの回転数ではなく、送りねじの回転数や、ギア機構が介在する場合はギアの回転数によって、切削加工ヘッド1のストローク位置が把握されてもよい。なお、シャフトWを保持装置で保持した後、切削を始める前に切削加工ヘッド1のストローク位置が初期設定される。
【0040】
制御部101は、ヘッド回転装置104の回転駆動源104aにも接続されてもよい。この場合、切削加工ヘッド1の回転位置、即ち、一対の第1バイト3a及び第2バイト3bの回転位置も制御することができる。このようにすれば、一対の第1バイト3a及び第2バイト3bの回転位置は、回転駆動源104aの状態に基づいて、制御部101によって把握される。なお、回転駆動源104a自体の状態ではなく、ギア機構が介在する場合はギアの回転数によって、一対の第1バイト3a及び第2バイト3bの回転位置が把握されてもよい。このような制御を行う場合は、シャフトWを保持装置で保持した後、切削を始める前に切削加工ヘッド1の回転位置が初期設定される。
【0041】
また、制御部101は、ラックストローク装置103のアクチュエータ103aにも接続されており、一対の第1バイト3a及び第2バイト3bの切削半径も制御している。この際、一対の第1バイト3a及び第2バイト3bの切削半径(径方向位置)は、アクチュエータ103aの制御状態に基づいて、制御部101によって把握されている。制御部101は、アクチュエータ103aを制御することで、切削中に第1バイト3a及び第2バイト3bの突出量(切削半径)を可変制御することもできる。なお、アクチュエータ103aの状態ではなく、ヘッド本体2に対するラックバー6のストローク位置を検出する検出器を設けて一対の第1バイト3a及び第2バイト3bの切削半径を把握してもよい。なお、シャフトWを保持装置に保持した後、切削を始める前に一対の第1バイト3a及び第2バイト3bの切削半径が初期設定される(切削インサート31a及び31bの先端位置が初期設定される)。
【0042】
上述したように構成された切削装置100によって、シャフトWに対する切削加工ヘッド1のストローク位置、シャフトWに対する切削加工ヘッド1の回転位置及び回転速度、一対の第1バイト3a及び第2バイト3bの突出量(切削半径:ラックバー6のストローク量)、並びに、切削クーラントの供給量及び供給圧力(液静圧パッド8の圧力)等が制御部101によって制御されつつ、切削が行われる。
【0043】
本実施形態では、中心軸に沿った少なくとも1カ所において、ヘッド本体2の周面上に複数の液静圧パッド8が設けられると共に、径方向にスライド可能にヘッド本体2に保持された、周方向にほぼ180°離間して配置された一対の第1バイト3a及び第2バイト3bが設けられている。従って、液静圧パッド8によって、切削加工ヘッド1を貫通孔H内で回転可能に正確に位置決めでき、かつ、切削加工ヘッド1の回転を潤滑することができる。また、一対の第1バイト3a及び第2バイト3bが周方向にほぼ180°離間されているので、切削時の反力が相殺され、反力の大きさを小さくできる。この結果、一回の切削量が多い(深い)重切削も確実に行うことができる。さらに、切削時の反力が中心軸に対してほぼ対称となるので、貫通孔H内での切削加工ヘッド1の偏心が抑制され、かつ、切削加工ヘッド1を貫通孔H内で傾かせる力も小さくでき、切削精度が向上する。
【0044】
また、本実施形態では、一対の第1バイト3a及び第2バイト3bの径方向に沿ったヘッド本体2からの各突出量が異なっている。従って、突出量の少ない第1バイト3aによる切込量と突出量の多い第2バイト3bによる切込量とを同じにすることで反力を同じにしている。この結果、反力が均一化(分散)されるので、確実に切削が行われる。同時に、突出量の少ない第1バイト3aと共に突出量の多い第2バイト3bを併用することで、切削量(切込量)が大きな重切削も確実に行うことができる。
【0045】
ここで、本実施形態では、ヘッド本体2からの突出量が少ない第1バイト3aの切削インサート31aが、突出量が多い第2バイト3bの切削インサート31bよりも、中心軸に沿って切削先行側に位置されている。即ち、突出量が少ない第1バイト3aの切削インサート31aが確実に先にシャフトWの内面を切削する。そして、突出量が多い第2バイト3bの切削インサート31bは、突出量が少ない第1バイト3aの切削インサート31aによって部分的に切削された内面の切削されていない部分を切削する。従って、二つの切削インサート31a及び31bに作用する反力が均一化され(分散され)、重切削もさらに確実に行うことができる。また、二つの切削インサート31a及び31bで切削を分担することになるので、切削時の反力や振動を低減でき、切削精度もより向上する。
【0046】
また、本実施形態では、挿通孔5内のラックバー6に第1ラック溝6a及び第2ラック溝6bが形成され、第1ラック溝6aと係合する第3ラック溝30aが第1バイト3aに形成され、第2ラック溝6bと係合する第4ラック溝30bが第2バイト3bに形成されている。ここで、第1ラック溝6aの傾斜方向と第2ラック溝6bの傾斜方向とが互いに逆であり、かつ、第1ラック溝6aの傾斜の大きさが第2ラック溝6bの傾斜の大きさと異なる。従って、単一のラックバー6をストロークさせることで、突出量の異なる2つのバイト(第1バイト3a及び第2バイト3b)を同時に径方向にスライドさせることができる。また、これらの構成要素は回転する切削加工ヘッド1内に構築されるが、その機構は簡素であり、動作信頼性も向上する。
【0047】
また、本実施形態では、液静圧パッド8の作動液が切削クーラントである。液静圧パッド8の作動液として切削クーラントを流用するため、液静圧パッド8の作動液のために新たな供給系統を回転する切削加工ヘッド1の内部に構築する必要がない。切削クーラントは、バイト(第1バイト3a及び第2バイト3b)による切削箇所に供給されるものであるため、そのための供給系統を活用することができる。従って、切削加工ヘッド1の構成を簡略化でき、切削クーラントの流用は軽量化や部品数削減に寄与する。さらに、液静圧パッド8の作動液及びバイト(第1バイト3a及び第2バイト3b)による切削箇所に供給される切削クーラントとは混ざり合ってワークWの貫通孔Hから排出される。本実施形態では、液静圧パッド8の作動液が切削クーラントであるため、排出された作動液とクーラントを分離させる分離機器などの付帯設備も不要となる。
【0048】
また、本実施形態では、中心軸に沿った2カ所において、それぞれ、複数の液静圧パッド8がヘッド本体2の周面上に配置されている。従って、貫通孔H内での切削加工ヘッド1の軸振れ(貫通孔Hの中心軸に対する切削加工ヘッド1の中心軸の傾き)をより効果的に抑止することができる。また、同時に、切削加工ヘッド1の回転の潤滑をより確実に行うことができる。
【0049】
また、本実施形態では、ラックバー及び第1~4ラック溝を備えたバイトスライド機構によって、切削中に第1バイト3a及び第2バイト3bの突出量(切削半径)を可変制御することができる。このため、切削中に切削内径を可変させつつ貫通孔Hの内面を切削することで、貫通孔Hの内面を自由な形状に切削することができる。例えば、貫通孔Hを徐々に拡径又は縮径するテーパー孔に切削することもできるし、貫通孔Hの内面を中心軸方向に曲面として切削することもできる(周方向には当然曲面)し、局部的に拡径又は縮径する形状にも切削できる。
【0050】
さらに、本実施形態の複数の液静圧パッド8は、ワークWに対して相対的に回転するヘッド本体2を支持する静圧クーラント軸受でもある。即ち、液静圧パッド8は、ワークWの貫通孔Hをガイド孔(下孔)として、貫通孔Hの内面を切削する際に軸受けとして機能する。上述したように、貫通孔Hの内面を自由な形状に切削するには、大きな切削力が切削加工ヘッド1(第1バイト3a及び第2バイト3b)に負荷される状況、例えば、切削量が多い状況であっても、安定的に切削できなければならない。液静圧パッド8が静圧クーラント軸受であれば、安定的な切削をより確実に保証することができる。即ち、液静圧パッド8が静圧クーラント軸受として機能すれば、貫通孔Hの内面を上述した複雑な形状に切削するのに都合がよい。なお、液静圧パッド8が静圧クーラント軸受であれば、貫通孔Hの内面を一定半径に切削する上でも、安定的に切削できるので、より高精度な切削を実現できる。
【0051】
ここで、本実施形態では、2カ所のうちバイト(第1バイト3a及び第2バイト3b)に近い一方における4つの液静圧パッド8による切削加工ヘッド1の保持力が、バイトから遠い他方における4つの液静圧パッド8による切削加工ヘッド1の保持力よりも高く設定されている。従って、バイトに近い位置で切削加工ヘッド1をしっかりと保持して、切削時の反力に対抗しつつバイトの切削位置をより正確に維持できると共に切削時の振動をより抑えることができる。一方、バイトから遠い液静圧パッド8は、回転する切削加工ヘッド1を保持し、かつ、その回転を潤滑するのに必要十分な保持力に維持されるが、切削クーラントの消費を抑制することに寄与する。
【0052】
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、本実施形態のワークWは中空シャフトであるが、切削すべき孔が予め形成されていれば、中空シャフトに限定されない。
【0053】
また、上記実施形態では、1カ所に4つの液静圧パッド8が設けられたが、1カ所に複数設けられればよい。1カ所に3つ以上の液静圧パッド8が設けられるのが、回転する切削加工ヘッド1を均等に保持する上で好ましい。1カ所に2つの液静圧パッド8を設けてもよい。この場合は、2つの液静圧パッド8を中心軸に対して180°離間させる。さらに、もう1カ所にも2つの液静圧パッド8を設け、これらの二つの液静圧パッド8も中心軸に対して180°離間させる。そして、2カ所の液静圧パッド8の位置を90°ずらすのが好ましい。
【0054】
また、上記実施形態では、1カ所に設けられた4つの液静圧パッド8は周方向に均等に設けられた。しかし、ヘッド本体2内の配管の配置などの都合で、正確に均等に設けにくい場合もあるので、周方向に均等に設けられなくてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、液静圧パッド8への切削クーラントの供給と、一対の第1バイト3a及び第2バイト3b(切削箇所)への切削クーラントの供給とが統合された。しかし、液静圧パッド8への切削クーラントの供給と、一対の第1バイト3a及び第2バイト3b(切削箇所)への切削クーラントの供給とが別系統とされ、かつ、供給圧が異なっていてよい。
【0056】
また、上記実施形態では、ヘッド本体2からの突出量が少ないバイト(第1バイト3a)の切削インサート31aが、突出量が多いバイト(第2バイト3b)の切削インサート31bよりも、中心軸に沿って切削先行側に位置されている。このようにすれば、二つの切削インサート31a及び31bで確実に切削を分担することができ好ましいが、二つの切削インサート31a及び31bは中心軸に沿って同じ位置に配置されてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、第1バイト3a及び第2バイト3bは、貫通孔Hの中心軸に対して直角な径方向にスライド可能に設けられた。しかし、第1バイト3a及び第2バイト3bは、中心軸に対して径外方へとスライド可能に設けられればよい。即ち、第1バイト3a及び第2バイト3bのスライド方向は、中心軸に対して直角でなく、中心軸に対して斜めであってもよい。なお、第1バイト3a及び第2バイト3bは、径外方へとスライド可能な場合、径内方に戻るようにもスライド可能である。
【0058】
また、本実施形態では、突出量の比率を一定に維持しつつ第1バイト3a及び第2バイト3bをスライドするバイトスライド機構が、ラックバー6(第1ラック溝6a、第2ラック溝6b)、第3ラック溝30a、第4ラック溝30b、及び、ラックストローク装置103を備えたラック機構によって構築された。しかし、バイトスライド機構は、送りねじ機構などによって構築されてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 切削加工ヘッド
2 ヘッド本体
3a 第1バイト
3b 第2バイト
4 ジョイントロッド
5 挿通孔
6 ラックバー(バイトスライド機構)
6a 第1ラック溝(バイトスライド機構)
6b 第2ラック溝(バイトスライド機構)
8 液静圧パッド
9a 第1クーラント供給路
9b クーラントチャンバ
9c 第2クーラント供給路
9d 第3クーラント供給路
30a 第3ラック溝(バイトスライド機構)
30b 第4ラック溝(バイトスライド機構)
31a 切削インサート
31b 切削インサート
130 ラックストローク装置(バイトスライド機構)
W ワーク(シャフト)
H 貫通孔