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特許7024302ベルト張力測定装置および電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】ベルト張力測定装置および電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/10 20200101AFI20220216BHJP
【FI】
G01L5/10 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017196197
(22)【出願日】2017-10-06
(65)【公開番号】P2019070559
(43)【公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西尾 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆之
(72)【発明者】
【氏名】布施 賢
(72)【発明者】
【氏名】狹間 範佳
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-14035(JP,U)
【文献】特開平5-99770(JP,A)
【文献】特開平10-274294(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0068281(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00- 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに覆われる複数のプーリ間に掛け渡されるベルトの表面に対して、前記ハウジングに設けられる張力測定用の貫通孔を介して測定子を押し付けたときの荷重に基づき前記ベルトの張力を測定するベルト張力測定装置であって、
前記測定子を支持する筒状のボディと、
前記測定子を前記ボディに対してその軸方向に沿って所定量だけ進退させる送り機構と、
前記測定子が前記ボディの先端部から繰り出されて前記ベルトに押し付けられたときの荷重を検出する軸力測定器と、を備え、
前記ボディの先端部は、前記貫通孔に対して着脱可能に嵌合されるものであって、
前記送り機構は、外部からの動力が伝達されることによって回転しながら進退するシャフトを有し、前記シャフトに連動させて前記測定子を進退させるものであって、
前記送り機構は、前記ボディの内部において軸方向に沿った方向への移動および軸回りの回転が許容された状態で設けられる有底筒状のベアリングホルダと、前記シャフトを前記ベアリングホルダの内周面に対して回転可能に支持するベアリングと、を有し、
前記ベアリングホルダの底部は、前記軸力測定器を介して前記測定子の基端部に連結されているベルト張力測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のベルト張力測定装置において、
前記送り機構は、前記ボディに対する前記測定子の移動長さを表示する表示部、または前記ボディに対する前記測定子の移動長さを計測する計測部を備えているベルト張力測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のベルト張力測定装置において、
前記ボディの先端部には、前記貫通孔に螺合されるねじ部が設けられているベルト張力測定装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載のベルト張力測定装置において、
前記ボディは、前記先端部を含む部分である第1の分割体と、前記第1の分割体に対してその軸方向において連結される第2の分割体とを有することを前提として、
前記第1の分割体の前記先端部側から通された状態で前記第2の分割体の外周面に締め付けられることにより前記第1の分割体と前記第2の分割体とを連結するナットを有しているベルト張力測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載のベルト張力測定装置において、
前記第1の分割体の前記先端部と反対側の端部である基端部の外周面にはフランジ部が設けられていて、
前記ナットが前記第2の分割体の外周面に締め付けられた状態において、前記第1の分割体の前記フランジ部が前記第2の分割体における前記第1の分割体側の端部に押し付けられることにより、前記第1の分割体と前記第2の分割体とが連結されているベルト張力測定装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載のベルト張力測定装置において、
前記ベアリングホルダの外周面には、前記ボディの一部分に対してその周方向において係合する係合突部が設けられているベルト張力測定装置。
【請求項7】
請求項1~請求項6のうちいずれか一項に記載のベルト張力測定装置において、
前記送り機構は、マイクロメータヘッドを有し、
前記マイクロメータヘッドは、回転操作される部分であるシンブル、および前記シンブルの回転操作を通じて回転しながら進退するスピンドルを有し、
前記スピンドルは、カップリングを介して前記シャフトと連結されているベルト張力測定装置。
【請求項8】
請求項1~請求項のうちいずれか一項に記載のベルト張力測定装置において、
前記測定子は、前記ボディの内部に収容される退避位置と、前記ボディの先端部から突出する測定位置との間を移動するベルト張力測定装置。
【請求項9】
請求項3に記載のベルト張力測定装置によって張力の測定および調整が行われる前記ベルトを有するベルト伝動機構と、
前記ベルト伝動機構を収容する前記ハウジングと、を備え、
張力測定用の前記貫通孔の内周面は、前記ベルトの張力が測定される際に、前記ボディの先端部に設けられた前記ねじ部が螺合される雌ねじ部を有している電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト張力測定装置および電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば特許文献1に記載されるように、モータの回転をベルト伝動機構により減速し、当該減速した回転をラック軸に設けられるボールねじ機構によりラック軸の軸方向移動に変換する電動パワーステアリング装置が知られている。ベルト伝動機構は、モータの回転軸に設けられる駆動プーリと、ラック軸のボールねじ部に多数のボールを介して嵌合するボールナットに設けられる従動プーリと、これらプーリの間に掛け渡されるベルトとを有している。モータの駆動を通じたボールナットの回転に伴いラック軸がその軸方向に移動することにより操舵が補助される。
【0003】
ベルト伝動機構を有する電動パワーステアリング装置では、モータトルクの伝達効率を確保するなどの観点から、駆動プーリと従動プーリとの間に掛け渡されるベルトの張力を適切に設定することが大切である。そして、当該張力を適正値に設定するためには、ベルトの張力を正確に測定することが必要である。ベルトの張力は、特許文献1に記載されるように、たとえば接触式の測定装置を使用して測定される。当該測定装置は、その測定子(プローブ)の先端をベルトの表面に押し付けてベルトに一定のたわみ量を与えたときの荷重(押圧反力)に基づきベルトの張力を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-33951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載される測定装置には、つぎのようなことが懸念される。すなわち、ベルトの張力を測定する際、測定子は電動パワーステアリング装置のハウジングに設けられる貫通孔を介してベルトに押し付けられる。このとき、ベルトの表面に押し付けられる測定子がぐらつくなどして不安定な状態となるおそれがある。このため、ベルトに対して適切なたわみ量が与えられないことが懸念される。
【0006】
本発明の目的は、測定子を安定させた状態でベルトの張力を測定することができるベルト張力測定装置および電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得るベルト張力測定装置は、ハウジングに覆われる複数のプーリ間に掛け渡されるベルトの表面に対して、前記ハウジングに設けられる張力測定用の貫通孔を介して測定子を押し付けたときの荷重に基づき前記ベルトの張力を測定するものである。ベルト張力測定装置は、前記測定子を支持する筒状のボディと、前記測定子を前記ボディに対してその軸方向に沿って所定量だけ進退させる送り機構と、前記測定子が前記ボディの先端部から繰り出されて前記ベルトに押し付けられたときの荷重を検出する軸力測定器と、を備えている。前記ボディの先端部は、前記貫通孔に対して着脱可能に嵌合される。
【0008】
この構成によれば、ベルトの張力を測定する場合、ボディの先端部がプーリなどを覆うハウジングの貫通孔に対して着脱可能に嵌合されることによって固定される。このため、ボディに支持される測定子のぐらつきなどが抑制される。したがって、測定子を安定させた状態でベルトの張力を測定することができる。
【0009】
上記のベルト張力測定装置において、前記送り機構は、前記ボディに対する前記測定子の移動長さを表示する表示部、または前記ボディに対する前記測定子の移動長さを計測する計測部を備えていることが好ましい。
【0010】
送り機構に表示部を設ける構成を採用した場合、表示部に表示される測定子の移動長さを確認しながら測定子の位置を調節することができる。また、送り機構に計測部を設ける構成を採用した場合、測定子の移動長さを測定しながら測定子の位置を調節することができる。
【0011】
上記のベルト張力測定装置において、前記ボディの先端部には、前記貫通孔に螺合されるねじ部が設けられていることが好ましい。
この構成によれば、ベルトの張力を測定する場合、ボディの先端部に設けられたねじ部がハウジングの貫通孔に螺合されることによって、ボディの先端部は貫通孔に嵌合される。このため、測定子をより安定させた状態でベルトの張力を測定することができる。
【0012】
上記のベルト張力測定装置において、前記ボディは、前記先端部を含む部分である第1の分割体と、前記第1の分割体に対してその軸方向において分割された第2の分割体とを有することを前提として、前記第1の分割体の前記先端部側から通された状態で前記第2の分割体の外周面に締め付けられることにより前記第1の分割体と前記第2の分割体とを連結するナットを有していることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、ナットを緩めることにより第1の分割体と第2の分割体との連結された状態が解除される。このため、先端部を含む第1の分割体を、第2の分割体に対して相対的に回転させることが可能となる。したがって、ボディ(第1の分割体)の先端部に設けられたねじ部をハウジングの貫通孔に螺合させる場合、ナットを緩めたうえで、先端部を含む第1の分割体だけを回転させればよい。ボディ全体を回転させることなく、ねじ部をハウジングの貫通孔に螺合することができる。ねじ部をハウジングの貫通孔に螺合した後、緩めたナットを締め付けることにより、第1の分割体と第2の分割体とは再び連結された状態となる。
【0014】
上記のベルト張力測定装置において、前記第1の分割体の前記先端部と反対側の端部である基端部の外周面にはフランジ部が設けられていて、前記ナットが前記第2の分割体の外周面に締め付けられた状態において、前記第1の分割体の前記フランジ部が前記第2の分割体における前記第1の分割体側の端部に押し付けられることにより、前記第1の分割体と前記第2の分割体とが連結されていてもよい。
【0015】
上記のベルト張力測定装置において、前記送り機構は、外部からの動力が伝達されることによって回転しながら進退するシャフトを有し、前記シャフトに連動させて前記測定子を進退させるものであってもよい。この場合、前記送り機構は、前記ボディの内部において軸方向に沿った方向への移動および軸回りの回転が許容された状態で設けられる有底筒状のベアリングホルダと、前記シャフトを前記ベアリングホルダの内周面に対して回転可能に支持するベアリングと、を有することが好ましい。前記ベアリングホルダの底部は、前記軸力測定器を介して前記測定子の基端部に連結されていてもよい。
【0016】
この構成によれば、シャフト、ベアリングホルダ、軸力測定器および測定子は、軸方向に沿って一体的に進退する。また、シャフトはベアリングを介してベアリングホルダの内周面に対して相対的に回転する。このため、シャフトの回転がベアリングホルダ、ひいてはベアリングホルダに連結される軸力測定器に伝わることが抑制される。
【0017】
上記のベルト張力測定装置において、前記ベアリングホルダの外周面には、前記ボディの一部分に対してその周方向において係合する係合突部が設けられていてもよい。
この構成によれば、ベアリングホルダが回転しようとしたとき、その回転方向において係合突部がボディの一部分に対して係合する。このため、ベアリングホルダの回転がより確実に抑えられる。
【0018】
上記のベルト張力測定装置において、前記送り機構は、マイクロメータヘッドを有し、前記マイクロメータヘッドは、回転操作される部分であるシンブル、および前記シンブルの回転操作を通じて回転しながら進退するスピンドルを有し、前記スピンドルは、カップリングを介して前記シャフトと連結されていてもよい。
【0019】
この構成によれば、マイクロメータヘッドを送り機構として利用することにより、測定子の送り量(繰り出し量)をより正確に調節することができる。
上記のベルト張力測定装置において、前記測定子は、前記ボディの内部に収容される退避位置と、前記ボディの先端部から突出する測定位置との間を移動することが好ましい。
【0020】
この構成によれば、たとえば張力を測定しないとき、測定子を測定位置から退避位置に移動させることができる。測定子がボディの内部に収容されることにより、何らかの外力が測定子を介して軸力測定器に伝達されることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、測定子を安定させた状態でベルトの張力を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ベルト張力測定装置の一実施の形態の計測対象である電動パワーステアリング装置の正面図。
図2】電動パワーステアリング装置の要部を拡大した断面図。
図3図2の3-3線断面図。
図4】ベルト張力測定装置をその軸線に沿って切断した断面図。
図5】ベルト張力測定装置の上部をその軸線に沿って切断した断面図。
図6】ベルト張力測定装置の下部をその軸線に沿って切断した断面図。
図7図5の7-7線断面図。
図8】カップリングの斜視図。
図9図4のA矢視図。
図10】ナットを緩めた状態のベルト張力測定装置の下部を示す断面図。
図11図2の4-4線断面図。
図12】張力と荷重との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、ステアリング装置を電動パワーステアリング装置に具体化した一実施の形態を説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置10は、図示しない車体に固定されるハウジング11を有している。ハウジング11はその筒状の本体12が車体の左右方向(図1中の左右方向)へ延びるように設けられる。本体12にはラック軸13が挿通されている。ラック軸13の両端にはそれぞれ図示しないボールジョイントを介して車輪(転舵輪)Wが連結される。ラック軸13が自身の軸方向へ移動することによって車輪Wの向きが変えられる。
【0024】
<第1の収容部>
本体12の右端寄りの部位には第1の収容部14が設けられている。第1の収容部14は、本体12の軸線方向(図1中の左右方向)に対して斜めに交わる方向へ延びている。第1の収容部14には、ピニオンシャフト15が挿入された状態で回転可能に支持されている。ピニオンシャフト15の内端部に設けられるピニオン歯は、ラック軸13の右端寄りの一定範囲に形成されるラック歯に噛み合う。また、ピニオンシャフト15のピニオン歯と反対側の外端部は、図示しない複数のシャフトを介してステアリングホイールHに連結される。したがって、ステアリング操作に伴いラック軸13は自身の軸線方向に沿って直線運動を行う。ステアリング操作を通じてピニオンシャフト15に作用するトルクは、第1の収容部14に設けられたトルクセンサ16により検出される。
【0025】
<第2の収容部>
本体12の左端寄りの部位には第2の収容部17が設けられている。第2の収容部17は、本体12よりも大径の円筒部分の下部が下方へ延びてなる。第2の収容部17の下部右側壁には、モータ18が固定されている。モータ18の出力軸18aは、ラック軸13の軸線に沿って延び、かつ第2の収容部17の側壁を貫通して内部に挿入されている。第2の収容部17の内部には、動力変換機構20が設けられている。動力変換機構20にはモータ18の出力軸18aが連結されている。動力変換機構20は、モータ18の回転運動をラック軸13の直線運動に変換する。すなわち、モータ18の回転力の利用を通じてラック軸13の動作が補助されることにより、ステアリング操作が補助される。モータ18は、図示しない制御装置によりトルクセンサ16の検出結果などに応じて制御される。
【0026】
ここで、第2の収容部17の構成について詳述する。
図2に示すように、第2の収容部17は、円筒状の支持部21、および段付き円筒状の蓋部材22を有している。支持部21は、本体12の左端に一体形成されている。支持部21の下部は下方へ延設されていて、当該延設された部分における図中右側の側壁21aには孔21bが形成されている。孔21bには、その右方からモータ18の出力軸18aが挿入されている。支持部21の左開口部は蓋部材22により塞がれている。これら支持部21と蓋部材22との間に形成される空間に動力変換機構20が設けられている。
【0027】
図2に二点鎖線で示されるように、第2の収容部17の支持部21には、張力測定用の貫通孔17aが設けられている。貫通孔17aは、支持部21の周壁におけるベルト33の表面に対向する部分に設けられている。貫通孔17aの内周面には雌ねじ部(図示略)が設けられている。通常時、貫通孔17aには図示しないキャップが螺合されている。ベルト33の張力を測定するときには、キャップが取り外される。
【0028】
<動力変換機構>
図2に示すように、動力変換機構20は、ベルト伝動機構30およびボールねじ機構40を有している。ベルト伝動機構30は、モータ18の回転運動をボールねじ機構40に伝達する。ボールねじ機構40は、ベルト伝動機構30を通じて伝達されるモータ18の回転運動をラック軸13の直線運動に変換する。
【0029】
<ボールねじ機構>
ボールねじ機構40は、ラック軸13に設けられたボールねじ部41、円筒状のボールナット42および多数のボール43を有している。
【0030】
ボールねじ部41は、ラック軸13の外周面におけるボールねじ溝13aが形成された部分である。ボールねじ部41は、ラック軸13の左端を基準として右端へ向けた一定範囲に設けられている。
【0031】
ボールナット42は、ボールねじ部41に多数のボール43を介して進退可能に螺合されている。ボールナット42の第1の端部(図2中の左端)の外周面には雄ねじ部42aが、第2の端部(図2中の右端)の外周面には円環状の鍔部42bがそれぞれ設けられている。雄ねじ部42aはボールナット42の左端を基準としてその軸線方向に沿った一定範囲にわたって設けられている。ボールナット42の回転に伴い、各ボール43はボールナット42とボールねじ部41との間を転動する。
【0032】
なお、ボールナット42の外周面には、玉軸受44が固定されている。ボールナット42は、玉軸受44を介してハウジング11、正確には蓋部材22の内周面に対して回転可能に支持されている。玉軸受44は内輪44a、外輪44bおよび複数のボール44cを有している。内輪44aはボールナット42の外周面に嵌合されている。外輪44bは、蓋部材22の内周面に嵌合されている。ボール44cはボールナット42の回転に伴い内輪44aと外輪44bとの間において転動する。
【0033】
<ベルト伝達機構>
ベルト伝動機構30は、円筒状の駆動プーリ31、円筒状の従動プーリ32および無端状のベルト33を備えている。
【0034】
駆動プーリ31はモータ18の出力軸18aに固定されている。従動プーリ32はボールナット42の外周面に固定されている。従動プーリ32および玉軸受44はボールナット42の軸線方向において互いに隣接している。玉軸受44は雄ねじ部42a側に、従動プーリ32は鍔部42b側に設けられている。ベルト33は、駆動プーリ31と従動プーリ32との間に掛け渡されている。したがって、モータ18の回転は、駆動プーリ31、ベルト33および従動プーリ32を介してボールナット42に伝達される。
【0035】
なお、駆動プーリ31および従動プーリ32はこれらの外周面に歯が設けられた歯付きプーリ(タイミングプーリ)である。また、ベルト33はその内周面に歯が設けられた歯付きベルト(タイミングベルト)である。ベルト33の歯数は駆動プーリ31の歯数および従動プーリ32の歯数のそれぞれに対して非整数倍となるように設定されている。
【0036】
<玉軸受および従動プーリの固定構造>
つぎに、玉軸受44および従動プーリ32の固定構造を説明する。
図2に示すように、ボールナット42の外周面に従動プーリ32および玉軸受44が嵌められた状態で、雄ねじ部42aにロックナット45を締め付けることにより従動プーリ32および玉軸受44はそれぞれボールナット42に固定される。
【0037】
正確には、ロックナット45が雄ねじ部42aに締め付けられることにより、玉軸受44(正確にはその内輪44a)は従動プーリ32に、当該従動プーリ32は鍔部42bに押し付けられる。すなわち、鍔部42b、従動プーリ32および玉軸受44およびロックナット45は、ボールナット42の軸線方向において互いに面接触した状態に保持される。このように、玉軸受44、および従動プーリ32がボールナット42の軸線方向においてその鍔部42bとロックナット45とによって挟み込まれた状態に保持されることにより、玉軸受44および従動プーリ32のボールナット42に対する軸線方向における位置が拘束される。
【0038】
また、外輪44bと支持部21の開口端面との間には円環状のサポート部材51が、外輪44bと蓋部材22の内底面に形成された環状の段差部22aとの間には円環状のサポート部材52がそれぞれ介在されている。外輪44bがサポート部材51,52を介して支持部21と蓋部材22とによって挟み込まれることにより、玉軸受44(外輪44b)の蓋部材22に対する軸方向位置が拘束される。
【0039】
<モータの固定構造>
つぎに、モータ18の固定構造を説明する。本例では、第2の収容部17(正確には、支持部21)に対するモータ18の取付け位置を調節することが可能である。
【0040】
図2に示すように、支持部21の下部における周面には板状の固定部61が設けられている。固定部61の右側面は、支持部21の側壁21aの右側面に対して段差のない平らな状態である。固定部61にはラック軸13の軸線方向に貫通する調節孔61aが形成されている。調節孔61aは駆動プーリ31の軸線L1および従動プーリ32の軸線L2の両方に直交する直線L3に沿う方向に延びる長孔である。なお、軸線L1はモータ18、ひいては出力軸18aの軸線に一致する。また、軸線L2はラック軸13の軸線およびボールナット42の軸線にそれぞれ一致する。
【0041】
また、モータ18の周面には、その取付け対象(ここでは、支持部21)に固定される部分である取付け部62が設けられている。取付け部62にはモータ18の軸線方向に貫通する雌ねじ部62aが設けられている。モータ18は、取付け部62が図2中の下部に位置する姿勢で第2の収容部17、正確には支持部21の側壁21aに取り付けられる。
【0042】
モータ18はつぎのようにして側壁21aに固定される。すなわち、モータ18の出力軸18aを右方から孔21bに挿入して、モータ18の左側面(出力軸18aが突出する側の側面)を支持部21の側壁21aに接触させる。また、固定部61の調節孔61aと取付け部62の雌ねじ部62aとを互いに一致させる。そしてこの状態で、ボルト63の雄ねじ部63aを取付け部62と反対側から調節孔61aに挿入して雌ねじ部62aに締め付ける。これにより、モータ18は支持部21の側壁21aに固定される。
【0043】
図3に示すように、雄ねじ部63aは調節孔61aの範囲内において移動させることができる。雄ねじ部63aを調節孔61aの延びる方向(以下、「調節方向D」という。)における適宜の位置で締め付けることにより、調節方向Dにおけるモータ18の側壁21aに対する取付け位置を変更することができる。これは、側壁21aの孔21bの内径は、雄ねじ部63aの移動に伴う出力軸18aの移動が許容される程度に設定されているからである。なお、調節方向Dは先の直線L3(図2参照)に沿う方向でもある。
【0044】
図2に示すように、駆動プーリ31はモータ18の出力軸18aに固定されている。このため、調節方向Dにおけるモータ18の取付け位置を変更したとき、駆動プーリ31の調節方向Dにおける位置、ひいては駆動プーリ31と従動プーリ32の芯間距離ΔLも変わる。芯間距離ΔLは、駆動プーリ31の軸線L1と従動プーリ32の軸線L2との間の距離である。駆動プーリ31が従動プーリ32に近接するほど芯間距離ΔLは短くなる。駆動プーリ31が従動プーリ32から離れるほど芯間距離ΔLは長くなる。すなわち、モータ18の取付け位置の調節を通じて芯間距離ΔLを調節することが可能である。
【0045】
<張力の測定装置>
電動パワーステアリング装置10では、モータ18のトルクの伝達効率を確保するなどの観点から、ベルト33の張力が芯間距離ΔLの調節を通じて適切に設定される。電動パワーステアリング装置10の抜き取り検査においては、ベルト33の張力が適切に設定されているかどうかについての検査が行われる。本例では、接触式の測定装置を使用してベルトの張力を測定する。測定装置の一例としてはつぎの通りである。
【0046】
図4に示すように、測定装置70は、ボディ71、送り機構72、軸力センサ(ロードセル)73および測定子74を有している。
<ボディ>
ボディ71は、ケース81、クランプ82、カバー83、スペーサ84,ホルダ85およびナット86を有し、全体として円筒状をなしている。
【0047】
ケース81は、両端が開口した円筒状をなしている。
クランプ82は、ケース81の上端部に連結されている。図7に示すように、クランプ82は、中央に取り付け孔82aを有する円環の一部分がスリット82bにより円周方向に分断されてなる締め具である。クランプ82のスリット82bを介して互いに対向する2つの端部をボルト82cで締め付けることにより、取り付け孔82aに挿入された棒状部材が締め付けられて固定される。
【0048】
図4に示すように、カバー83は、その上端部が開口した有底円筒状をなしている。カバー83の上端部は、ケース81の下端部に連結されている。カバー83の下端部の外周面には、雄ねじ部83aが設けられている。カバー83の下端部における底壁中央には、貫通孔83bが設けられている。カバー83の側壁にはスリット83cが設けられている。スリット83cは、カバー83の軸方向に沿って延び、カバー83の上端面に開放されている。
【0049】
スペーサ84は、カバー83の下端部(底壁)に連結されている。スペーサ84は、両端が開口したつば付き円筒状をなしている。スペーサ84は、円筒状の挿通部84aおよび環状のフランジ部84bを有している。フランジ部84bは、挿通部84aの上端部における外周面に設けられている。スペーサ84は、フランジ部84bを貫通するボルト84cがカバー83の底壁に締め付けられることによって、カバー83の底壁に固定されている。ボルト84cの頭部は、フランジ部84bのカバー83と反対側の側面に設けられた座繰り部分に収容されている。
【0050】
ホルダ85は、スペーサ84を介してカバー83の下部に位置している。ホルダ85は、両端が開口したつば付き円筒状をなしている。ホルダ85は、円筒状のホルダ本体85aおよび環状のフランジ部85bを有している。フランジ部85bは、ホルダ本体85aの基端部(図4中の上端部)における外周面に設けられている。ホルダ本体85aの先端部(図4中の下端部)には、雄ねじ部85cが設けられている。雄ねじ部85cの外径は、ホルダ本体85aの雄ねじ部85cを除く部分の外径よりも小さく設定されている。ホルダ85の内部には、大径部85dおよび小径部85eが設けられている。大径部85dはホルダ85の基端部側に、小径部85eはホルダの先端部側に位置している。大径部85dの内径は、スペーサ84における挿通部84aの外径よりも若干大きく設定されている。ホルダ85の基端部は、スペーサ84における挿通部84aの外周面に嵌められている。ホルダ85は、スペーサ84の挿通部84aの外周面に対して、摺動回転可能かつ挿通部84aの軸線方向(図4中の上下方向)に沿って摺動可能である。
【0051】
ナット86は、両端が開口した円筒状をなしている。ナット86の上端部における内周面には、雌ねじ部86aが設けられている。また、ナット86の下端部における内周面には、環状の押圧部86bが設けられている。押圧部86bの内径は、ホルダ85におけるフランジ部85bの外径よりも小さく設定されている。ナット86の雌ねじ部86aは、ナット86にホルダ本体85aが挿通された状態で、カバー83の雄ねじ部83aに締め付けられている。ナット86の締め付けに伴い、ホルダ85のフランジ部85bは、ナット86の押圧部86bによってスペーサ84のフランジ部84bに対して、軸線方向において押し付けられる。これにより、ホルダ85がスペーサ84における挿通部84aの外周面に対して摺動回転すること、および挿通部84aの軸線方向に沿って摺動することが規制される。
【0052】
<送り機構>
図5に示すように、送り機構72は、マイクロメータヘッド91、カップリング92、シャフト93、および回転吸収機構部94を有している。
【0053】
マイクロメータヘッド91は、マイクロメータヘッド本体101、シンブル102、ステム(取付部)103およびスピンドル104を有している。シンブル102は、回転操作される部分であって、マイクロメータヘッド本体101の上部に設けられている。ステム103は、マイクロメータヘッド本体101の下部に設けられている。スピンドル104は、マイクロメータヘッド本体101およびステム103に対して、その軸方向に沿って進退移動可能に設けられている。スピンドル104の先端は球面状をなしている。シンブル102の回転操作に伴い、スピンドル104は回転しながらマイクロメータヘッド本体101に対してその軸方向に沿って進退移動する。
【0054】
マイクロメータヘッド91は、スピンドル104の先端側からクランプ82の取り付け孔82aを介してボディ71(より正確には、ケース81)の内部に挿入されている。マイクロメータヘッド91は、ステム103がクランプ82により締め付けられることによってクランプ82に固定されている。ボディ71の内部において、スピンドル104の先端は、カップリング92を介して、シャフト93に連結されている。
【0055】
図8に示すように、カップリング92は、円筒状をなしている。カップリング92は、その中央に取り付け孔92aを有する円筒の一部分がスリット92bによって円周方向に分断されてなる。また、カップリング92におけるスリット92bが設けられた側の部分(図8中の右下側の部分)は、スリット92cによって軸線に沿った方向に分断されている。スリット92cは、カップリング92の円周方向に沿った半周程度にわたって延びている。
【0056】
カップリング92において、スリット92cにより軸方向に分断された上側の部分にはスピンドル104の先端部が、同じく下側の部分にはシャフト93の上端部が挿入されている。この状態で、カップリング92のスリット92bを介して円周方向に分断されている上下2か所をボルト92d,92dで締め付けることにより、スピンドル104とシャフト93とがカップリング92を介して連結されている。
【0057】
図5に示すように、シャフト93の下端部には、雄ねじ部93aが設けられている。また、シャフト93の中間部分には環状のフランジ部93bが設けられている。ボディ71の内部において、シャフト93の下端部は、回転吸収機構部94に連結されている。
【0058】
回転吸収機構部94は、ベアリングホルダ111、2つのベアリング112,113、2つの座金114,115、ナット116、および蓋117を有している。
ベアリングホルダ111は、その上端部が開口した有底円筒状をなしている。ベアリングホルダ111の外径は、ボディ71(より正確には、ケース81およびカバー83)の内径よりも若干小さく設定されている。ベアリングホルダ111の内部には、シャフト93の下端部が挿入されている。シャフト93の下端部とベアリングホルダ111の内底面との間には若干の隙間が形成されている。
【0059】
ベアリングホルダ111の底面には、雄ねじ部111aが突設されている。また、ベアリングホルダ111の下端部における外周面には、部分的に平面状の取付面111bが設けられている。取付面111bには、直方体状の回り止め部材111cが設けられている。回り止め部材111cの先端部(図5中のベアリングホルダ111と反対側の左端部)は、カバー83のスリット83cの内部に位置している。
【0060】
図9に示すように、回り止め部材111cは2つのボルト111d,111dによりベアリングホルダ111の取付面111bに固定されている。回り止め部材111cの幅(図9中の左右方向における長さ)は、スリット83cの幅とほぼ同じ、あるいは若干短く設定されている。回り止め部材111cは、スリット83cに沿って摺動する。また、回り止め部材111cが、スリット83cの互いに対向する2つの内側面に係合することにより、ベアリングホルダ111の回転が規制される。
【0061】
図5に示すように、ベアリング112,113は、シャフト93における雄ねじ部93aとフランジ部93bとの間の部分に取り付けられている。ベアリング112はフランジ部93b側に、ベアリング113は雄ねじ部93a側に位置している。シャフト93は、ベアリング112,113を介してベアリングホルダ111の内周面に対して回転可能に支持されている。このため、たとえスピンドル104の回転が伝達されることによりシャフト93が回転したとしても、当該シャフト93の回転がベアリングホルダ111に伝達されることが抑制される。
【0062】
フランジ部93b側のベアリング112の内輪は、その軸方向においてフランジ部93bに当接している。2つのベアリング112,113の間には座金114が介在されている。シャフト93の雄ねじ部93aには座金115を介してナット116が締め付けられている。すなわち、2つのベアリング112,113(より正確には、それらの内輪)および2つの座金114,115は、シャフト93のフランジ部93bとナット116とで挟み込まれることによって一体をなしている。また、雄ねじ部93a側のベアリング113の外輪は、ベアリングホルダ111の内周面に設けられた段差部111eに対して軸方向において当接している。
【0063】
蓋117は、ベアリングホルダ111の上端部に取り付けられている。蓋117は、両端が開口したつば付き円筒状をなしている。蓋117は、円筒状の押さえ部117aおよび環状のフランジ部117bを有している。フランジ部117bは、押さえ部117aの上端部における外周面に設けられている。蓋117は、押さえ部117aをベアリングホルダ111の開口部分に挿入した状態で、フランジ部117bを介してボルト117cが締め付けられることによってベアリングホルダ111の開口端面に固定されている。押さえ部117aの先端は、フランジ部93b側のベアリング112の外輪に対して軸方向において当接している。
【0064】
ベアリング113の外輪がベアリングホルダ111の段差部111eに、ベアリング112の外輪が蓋117の押さえ部117aの先端に当接することによって、一体をなす2つのベアリング112,113、2つの座金114,115およびナット116が、ベアリングホルダ111に対してその軸方向に沿って相対的に移動することが規制される。すなわち、シャフト93は、ベアリングホルダ111の内周面に対する回転が許容されつつ、その軸方向に沿ってベアリングホルダ111と一体的に移動する。ベアリングホルダ111に設けられた回り止め部材111cは、カバー83のスリット83cに沿って昇降する。
【0065】
<軸力センサ>
図6に示すように、軸力センサ73は、ベアリングホルダ111の下端部に取り付けられている。軸力センサ73は、その軸方向に作用する荷重である軸力を検出する。軸力センサ73は、センサ本体121、2つの取付部122,123、およびケーブル124を有している。センサ本体121は円筒状をなしていて、その内部には印加される軸力に応じた電気信号を生成する歪ゲージあるいは圧電素子などのセンサ素子が設けられている。ケーブル124は、センサ素子により生成される電気信号を図示しないコントローラなどの外部機器に伝達する。ケーブル124は、センサ本体121からカバー83のスリット83cを介してボディ71の外部に引き出されている。
【0066】
取付部122はセンサ本体121の上部に、取付部123はセンサ本体121の下部に設けられている。取付部122には雌ねじ部122aが、取付部123には雌ねじ部123aが設けられている。取付部122の雌ねじ部122aには、ベアリングホルダ111の雄ねじ部111aが螺合されている。これにより、軸力センサ73はベアリングホルダ111の底壁に固定されている。したがって、軸力センサ73は、ボディ71(より正確には、カバー83)の内部において、その軸方向に沿ってベアリングホルダ111と一体的に移動する。ケーブル124は、カバー83のスリット83cに沿って昇降する。
【0067】
<測定子>
測定子74は、棒状をなしている。測定子74の後端部(図6中の上端部)には、雄ねじ部131が設けられている。雄ねじ部131は、軸力センサ73における取付部123の雌ねじ部123aに螺合されている。これにより、測定子74は、軸力センサ73に固定されている。したがって、測定子74は、その軸方向に沿って軸力センサ73と一体的に移動する。すなわち、測定子74は、マイクロメータヘッド91のスピンドル104に連動して、軸線方向に沿って移動する。
【0068】
測定子74の先端部(図6中の下端部)には、丸みが持たせられている。測定子74の先端部は、カバー83の底壁に設けられた貫通孔83b、およびスペーサ84の挿通部84aを貫通して、ホルダ85の内部(より正確には、小径部85e)に挿入されている。
【0069】
測定子74は、マイクロメータヘッド91のスピンドル104に連動して、図6に実線で示される退避位置と、図6に二点鎖線で示される測定位置との間を移動する。退避位置は、ベルト33の張力を測定しないときの位置であって、測定子74の先端部がホルダ85の内部に収容される位置である。測定位置は、ベルト33の張力を測定するときの位置であって、測定子74の先端部がホルダ85の先端部から突出する位置である。
【0070】
<測定装置の取り付け方法>
ベルト33の張力を測定する場合、電動パワーステアリング装置10のハウジング11は、張力測定用の貫通孔17aが上を向く姿勢に保たれる。この状態で、測定装置70をハウジング11に取り付ける。具体的には、つぎの通りである。
【0071】
図10に示すように、まずはナット86を緩める。これにより、ホルダ85のフランジ部85bがスペーサ84のフランジ部84bに押し付けられた状態が解除されるとともに、フランジ部85bとフランジ部84bとの間に隙間が形成される。このため、ホルダ85はスペーサ84の挿通部84aおよびナット86に対して相対的に回転可能となる。この状態で、ケース81(図10では図示略)あるいはカバー83を支えながら、ホルダ85を回転させることによりホルダ85の雄ねじ部85cをハウジング11の貫通孔17aに締め付けて嵌合させる。その後、ナット86を再び締め付けることにより、ホルダ85の回転が再び規制されるとともに、ホルダ85のがたつきが抑えられる。以上で、測定装置70の取り付け作業が完了となる。
【0072】
<張力の測定方法>
図11に示すように、測定装置70をハウジング11に取り付けた後、シンブル102の回転操作を通じて測定子74を図11に実線で示される退避位置から、まずベルト33の背面に接触する位置へ移動させ、さらに図11に二点鎖線で示される測定位置まで移動させる。これにより、測定子74の先端がベルト33に押し付けられて、所定のたわみ量δがベルト33に与えられる。このベルト33にたわみ量δを与えたときの荷重F(押圧反力)が軸力センサ73により検出される。軸力センサ73を通じて検出される荷重Fあるいは荷重Fに応じた張力の値は、軸力センサ73とケーブル124を介して接続されるコントローラなどの外部機器の表示部に表示される。
【0073】
図12のグラフに示されるように、ベルト33に一定のたわみ量(変位)δを与えたときの荷重Fと張力Tとは相関関係にある。たとえば、ベルト33のたわみ量δが一定であるとき、荷重Fの値が大きくなるほど張力Tの値も大きくなる。このため、荷重Fから張力Tを求めることが可能である。
【0074】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ボディ71(より正確には、ホルダ85)の先端部には、ハウジング11に設けられた張力測定用の貫通孔17aに螺合される雄ねじ部85cが設けられている。そして、ベルト33の張力を測定する場合、ボディ71の雄ねじ部85cがハウジング11の貫通孔17aに螺合されることによって、ボディ71の先端部は貫通孔17aに嵌合した状態で固定される。このため、ボディ71に支持される測定子74のぐらつきなどが抑制される。したがって、測定子74を安定させた状態でベルト33の張力を測定することができる。
【0075】
(2)ナット86が、ホルダ85の先端部側から通された状態でカバー83の外周面に締め付けられることにより、ホルダ85とカバー83とが連結されている。具体的には、ナット86がカバー83の外周面に締め付けられた状態において、ホルダ85のフランジ部85bは、スペーサ84のフランジ部84bを介してカバー83におけるホルダ85側の端部に押し付けられる。これにより、ホルダ85は、カバー83に対する相対的な回転が規制された状態に保たれる。
【0076】
この構成によれば、ナット86を緩めることによりホルダ85とカバー83との連結された状態が解除される。このため、ホルダ85をカバー83(スペーサ84)に対して相対的に回転させることが可能となる。したがって、ボディ71(ホルダ85)の先端部に設けられた雄ねじ部85cをハウジング11の貫通孔17aに螺合させる場合、ナット86を緩めたうえで、ホルダ85だけを回転させればよい。ボディ71の全体を回転させる必要がないため、軸力センサ73のケーブル124がボディ71に巻き付くこともない。ハウジング11に対する測定装置70の取り付け作業性を向上させることができる。
【0077】
(3)また、ホルダ85は、ナット86を緩めることにより取り外すことができる。このため、ホルダ85を簡単に交換することができる。たとえば、電動パワーステアリング装置10の製品仕様によって張力測定用の貫通孔17aの内径が異なることが考えられる。この場合、貫通孔17aの内径に応じたホルダ85を用意し、この用意したホルダ85を貫通孔17aに合わないホルダ85と交換すればよい。貫通孔17aの内径に応じて複数種の測定装置70を用意する必要がなく、ホルダ85のみにバリエーションをもたせればよい。
【0078】
(4)送り機構72は、ボディ71の内部において軸方向に沿った方向への移動および軸回りの回転が許容された状態で設けられる有底筒状のベアリングホルダ111と、シャフト93をベアリングホルダ111の内周面に対して回転可能に支持するベアリング112,113と、を有している。ベアリングホルダ111の底部は、軸力センサ73を介して測定子74の基端部に連結されている。
【0079】
この構成によれば、シャフト93、ベアリングホルダ111、軸力センサ73および測定子74は、軸方向に沿って一体的に進退する。また、シャフト93はベアリング112,113を介してベアリングホルダ111の内周面に対して相対的に回転する。このため、シャフト93の回転がベアリングホルダ111、ひいてはベアリングホルダ111に連結される軸力センサ73に伝わることが抑制される。
【0080】
(5)ベアリングホルダ111の外周面には、ボディ71(カバー83)の一部分であるスリット83cに対してその周方向において係合する回り止め部材111cが設けられている。このため、ベアリングホルダ111が回転しようとしたとき、その回転方向において回り止め部材111cがボディ71のスリット83cに対して係合する。したがって、ベアリングホルダ111の回転がより確実に抑えられる。
【0081】
(6)送り機構72は、マイクロメータヘッド91を有している。マイクロメータヘッド91は、回転操作される部分であるシンブル102、およびシンブル102の回転操作を通じて回転しながら進退するスピンドル104を有している。スピンドル104は、カップリング92を介してシャフト93と連結されている。このように、マイクロメータヘッド91を送り機構として利用することにより、測定子74の送り量(繰り出し量)をより正確に調節することができる。また、マイクロメータヘッド91のスピンドル104のストローク量(マイクロメータヘッド本体101からの突出し量)には限界がある。このため、スピンドル104にシャフト93を連結することにより、測定装置70として必要とされるストローク量を確保することができる。
【0082】
(7)測定子74は、ボディ71の内部に収容される退避位置と、ボディ71の先端部から突出する測定位置との間を移動する。このため、たとえば張力を測定しないとき、測定子74を測定位置から退避位置に移動させることができる。測定子74がボディ71の内部に収容されることにより、何らかの外力が測定子74を介して軸力センサ73に伝達されることが抑えられる。
【0083】
<他の実施の形態>
なお、前記実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・本例では、シャフト93はカップリング92を介してスピンドル104に連結したが、他の連結手段を採用してもよい。
【0084】
・本例では、ベアリングホルダ111に回り止め部材111cを設けたが、ベアリングホルダ111として回り止め部材111cを割愛した構成を採用してもよい。
・本例では、測定子74が退避位置に位置しているとき、測定子74の先端部はホルダ85の内部に収容されていた。しかし、測定装置70を保管する観点などから特に問題にならないのであれば、退避位置において測定子74の先端部がホルダ85の先端部から突出していてもよい。
【0085】
図5に示すように、マイクロメータヘッド91として、スピンドル104のストローク量が表示される表示器141を有するものを採用してもよい。表示器141は、たとえばマイクロメータヘッド本体101に対して一体的に設けられる。表示器141は、表示部としての機能だけでなく、ボディ71に対する測定子74のストローク量(移動長さ)を計測する計測部(計測器)としての機能も有している。この計測されるストローク量が表示器141に表示される。表示器141に表示されるスピンドル104のストローク量を確認しながら測定子74の位置を調節することができる。
【0086】
・本例では、スピンドル104が回転しながら進退するタイプのマイクロメータヘッド91を採用したが、スピンドル104が回転することなく進退するタイプのマイクロメータヘッド91を採用してもよい。この場合、測定装置70として、回転吸収機構部94を割愛した構成を採用することができる。この構成を採用する際には、シャフト93の下端部を軸力センサ73の取付部122の雌ねじ部122aに螺合するなどして、シャフト93と軸力センサとを連結する。
【0087】
・本例では、マイクロメータヘッド91を利用して送り機構72を構築したが、送り機構72としてマイクロメータヘッド91を利用しない構成を採用してもよい。
・本例において、ケース81、カバー83、スペーサ84、およびホルダ85を一体形成してもよい。この場合、測定装置70としてナット86を割愛した構成を採用することができる。またこの場合、測定装置70をハウジング11に取り付ける際には、ボディ71の全体をその軸線周りに回転させる。
【0088】
・本例では、ホルダ85の先端部に設けられた雄ねじ部85cを、ハウジング11の貫通孔17aにねじ込むことにより嵌合するようにしたが、つぎのようにしてもよい。すなわち、ホルダ85として雄ねじ部85cを割愛した構成を採用し、ホルダ85の先端部を貫通孔17aに対して着脱可能に嵌合させる。このようにしても、ボディ71に支持される測定子のぐらつきなどが抑制されることにより、測定子74を安定させた状態でベルト33の張力を測定することができる。
【0089】
・測定装置70は、ベルト伝動機構に対して全般的に使用することができる。たとえば内燃機関のタイミングベルトの張力を測定することもできる。また、3つあるいはそれ以上のプーリ間に掛け渡されたベルトの張力を測定することもできる。ただし、ベルト伝動機構を収容するハウジングなどには、張力測定用の貫通孔(ねじ孔)を設ける。
【符号の説明】
【0090】
11…ハウジング、17a…貫通孔、31…駆動プーリ、32…従動プーリ、33…ベルト、70…測定装置(ベルト張力測定装置)、71…ボディ、72…送り機構、73…軸力センサ(軸力測定器)、74…測定子、81…ケース、82…クランプ、83…カバー(第2の分割体)、84…スペーサ、84b…フランジ部、85…ホルダ(第1の分割体)、85b…フランジ部、85c…雄ねじ部(ねじ部)、86…ナット、91…マイクロメータヘッド、92…カップリング、93…シャフト、102…シンブル、104…スピンドル、111…ベアリングホルダ、111c…回り止め部材(係合突部)、112,113…ベアリング、141…表示器(表示部、計測部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12