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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】歯車加工装置及び歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 5/18 20060101AFI20220216BHJP
   B23F 5/22 20060101ALI20220216BHJP
   B23Q 15/12 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
B23F5/18
B23F5/22
B23Q15/12 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017197096
(22)【出願日】2017-10-10
(65)【公開番号】P2018062056
(43)【公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2016201909
(32)【優先日】2016-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】神田 大地
(72)【発明者】
【氏名】橋本 高明
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄二
(72)【発明者】
【氏名】山田 良彦
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚
(72)【発明者】
【氏名】大崎 嘉太郎
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-062967(JP,A)
【文献】特開2009-190096(JP,A)
【文献】特開2014-164307(JP,A)
【文献】特開2005-144580(JP,A)
【文献】特開2010-158748(JP,A)
【文献】特開平01-205915(JP,A)
【文献】特開平01-159126(JP,A)
【文献】特開2014-039971(JP,A)
【文献】特開2014-155990(JP,A)
【文献】特開昭49-105277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 5/00 - 5/28
B23F 11/00
B23Q 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯切り工具と工作物とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記工作物の回転速度を制御する工作物回転速度制御部と、
前記歯切り工具の回転速度を制御する工具回転速度制御部と、
を備え、
前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度の速度上側値及び速度下側値は、前記工作物の加工の基準となる前記工作物及び前記歯切り工具の一方の基準回転速度に対して予め設定された速度増減率を乗じた値を、前記基準回転速度に加算した値とし、
前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度を反復的に増減させる変動周波数は、前記工作物及び前記歯切り工具の一方の基準回転速度に基づいて決定され、
前記工作物回転速度制御部及び前記工具回転速度制御部一方は、
前記速度上側値以下の回転速度と前記速度下側値以上の回転速度との間で、前記工作物及び前記歯切り工具一方の回転速度を反復的に増減させ
前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度を前記変動周波数以上の周波数で変動させ、
前記工作物回転速度制御部及び前記工具回転速度制御部他方は、前記工作物及び前記歯切り工具他方の回転速度を、前記工作物及び前記歯切り工具一方の回転速度に同期させる、歯車加工装置。
【請求項2】
前記工作物回転速度制御部及び前記工具回転速度制御部一方は、前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度を一定の周波数で増減させる、請求項に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記工作物回転速度制御部は、前記工作物の回転速度を反復的に増減させ、
前記工具回転速度制御部は、前記歯切り工具の回転速度を、前記工作物の回転速度に同期させながら反復的に増減させる、請求項1又は2に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
歯切り工具と工作物とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記工作物の回転速度を制御する工作物回転速度制御部と、
前記歯切り工具の回転速度を制御する工具回転速度制御部と、
を備え、
前記工作物回転速度制御部は、少なくとも一時的に、前記工作物の材質及び前記歯切り工具の諸元に基づいて設定される基準回転速度を基準として、前記工作物の回転速度を一定の加速度又は減速度で変動させ、
前記工具回転速度制御部は、前記歯切り工具の回転速度を、前記工作物の回転速度に同期させながら一定の加速度又は減速度で変動させる、歯車加工装置。
【請求項5】
前記工作物回転速度制御部及び前記工具回転速度制御部一方は、歯車加工を開始してから終了するまでの間、前記工作物の回転速度及び前記歯切り工具の回転速度の一方を一定の加速度又は減速度で変動させる、請求項に記載の歯車加工装置。
【請求項6】
前記工作物回転速度制御部及び前記工具回転速度制御部一方は、前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度が予め設定された限界速度に到達した場合に、前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度を一定にする、請求項に記載の歯車加工装置。
【請求項7】
前記歯車加工装置は、前記工作物に対する前記歯切り工具の回転軸線方向への送り速度を、変動する前記工作物の回転速度に同期させながら変動させる送り速度制御部を備える、請求項1~6の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項8】
歯切り工具と工作物とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記工作物の回転速度を制御する工作物回転速度制御部と、
前記歯切り工具の回転速度を制御する工具回転速度制御部と、
を備え、
前記工作物回転速度制御部及び前記工具回転速度制御部一方は、前記工作物及び前記歯切り工具一方の回転速度を変動させ、
前記工作物回転速度制御部及び前記工具回転速度制御部他方は、前記工作物及び前記歯切り工具他方の回転速度を、前記工作物及び前記歯切り工具一方の回転速度に同期させ
さらに、前記工作物に対する前記歯切り工具の回転軸線方向への送り速度を、変動する前記工作物の回転速度に同期させながら変動させる送り速度制御部を備える、歯車加工装置。
【請求項9】
前記歯切り工具は、スカイビングカッタであり、
前記歯車加工装置は、前記工作物の回転軸線を前記歯切り工具の回転軸線に対して傾斜させた状態で、前記歯切り工具を前記工作物に対して前記工作物の回転軸線方向に沿って相対移動させることにより、前記工作物に歯車のスカイビング加工を行う、請求項1~8の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項10】
前記歯切り工具は、ホブカッタであり、
前記歯車加工装置は、前記工作物の回転軸線を前記歯切り工具の回転軸線に対して傾斜させた状態で、前記歯切り工具を前記工作物に対して前記工作物の回転軸線方向に沿って相対移動させることにより、前記工作物に歯車のホブ加工を行う、請求項1~8の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項11】
歯切り工具を工作物と同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工方法であって、
前記工作物の回転速度を変動させる工作物回転速度設定工程と、
前記歯切り工具の回転速度を、前記工作物回転速度設定工程により設定された前記工作物の回転速度の変動に同期させながら変動させる工具回転速度設定工程と、
を備え
前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度の速度上側値及び速度下側値は、前記工作物の加工の基準となる前記工作物及び前記歯切り工具の一方の基準回転速度に対して予め設定された速度増減率を乗じた値を、前記基準回転速度に加算した値とし、
前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度を反復的に増減させる変動周波数は、前記工作物及び前記歯切り工具の一方の基準回転速度に基づいて決定され、
前記工作物回転速度設定工程及び前記工具回転速度設定工程の一方は、
前記速度上側値以下の回転速度と前記速度下側値以上の回転速度との間で、前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度を反復的に増減させ、
前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度を前記変動周波数以上の周波数で変動させる、歯車加工方法。
【請求項12】
歯切り工具を工作物と同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工方法であって、
少なくとも一時的に、前記工作物の材質及び前記歯切り工具の諸元に基づいて設定される基準回転速度を基準として、前記工作物の回転速度を一定の加速度又は減速度で変動させる工作物回転速度設定工程と、
前記歯切り工具の回転速度を、前記工作物回転速度設定工程により設定された前記工作物の回転速度の変動に同期させながら一定の加速度又は減速度で変動させる工具回転速度設定工程と、
を備える、歯車加工方法。
【請求項13】
歯切り工具を工作物と同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工方法であって、
前記工作物の回転速度を変動させる工作物回転速度設定工程と、
前記歯切り工具の回転速度を、前記工作物回転速度設定工程により設定された前記工作物の回転速度の変動に同期させながら変動させる工具回転速度設定工程と、
前記工作物に対する前記歯切り工具の回転軸線方向への送り速度を、変動する前記工作物の回転速度の周波数に同期させながら変動させる送り速度設定工程と、
を備える、歯車加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置及び歯車加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工作物と歯切り工具(カッタ)とを同期回転させながら工作物に歯車を創成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-171020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯切り工具によって工作物に歯車を創成する際、歯切り工具の回転速度を上昇させたり、切込量を大きくすると、工作物にびびり振動が発生しやすくなる。そして、そのびびり振動は、工作物に対して歯切り工具の刃先が周期的に接触することにより増幅する。一方、歯切り工具による工作物への切込量を小さくすることによりびびり振動を低減させることができるものの、この場合には、歯車加工に要する時間が長くなり、加工能率が低下する。
【0005】
本発明は、工作物に形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる歯車加工装置及び歯車加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、歯切り工具と工作物とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記工作物の回転速度を制御する工作物回転速度制御部と、
前記歯切り工具の回転速度を制御する工具回転速度制御部と、
を備え、
前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度の速度上側値及び速度下側値は、前記工作物の加工の基準となる前記工作物及び前記歯切り工具の一方の基準回転速度に対して予め設定された速度増減率を乗じた値を、前記基準回転速度に加算した値とし、
前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度を反復的に増減させる変動周波数は、前記工作物及び前記歯切り工具の一方の基準回転速度に基づいて決定され、
前記工作物回転速度制御部及び前記工具回転速度制御部の一方は、
前記速度上側値以下の回転速度と前記速度下側値以上の回転速度との間で、前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度を反復的に増減させ、
前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度を前記変動周波数以上の周波数で変動させ、
前記工作物回転速度制御部及び前記工具回転速度制御部の他方は、前記工作物及び前記歯切り工具の他方の回転速度を、前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度に同期させる、歯車加工装置にある。
本発明の他の態様は、歯切り工具と工作物とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記工作物の回転速度を制御する工作物回転速度制御部と、
前記歯切り工具の回転速度を制御する工具回転速度制御部と、
を備え、
前記工作物回転速度制御部は、少なくとも一時的に、前記工作物の材質及び前記歯切り工具の諸元に基づいて設定される基準回転速度を基準として、前記工作物の回転速度を一定の加速度又は減速度で変動させ、
前記工具回転速度制御部は、前記歯切り工具の回転速度を、前記工作物の回転速度に同期させながら一定の加速度又は減速度で変動させる、歯車加工装置にある。
本発明の他の態様は、
歯切り工具と工作物とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記工作物の回転速度を制御する工作物回転速度制御部と、
前記歯切り工具の回転速度を制御する工具回転速度制御部と、
を備え、
前記工作物回転速度制御部及び前記工具回転速度制御部の一方は、前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度を変動させ、
前記工作物回転速度制御部及び前記工具回転速度制御部の他方は、前記工作物及び前記歯切り工具の他方の回転速度を、前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度に同期させ、
さらに、前記工作物に対する前記歯切り工具の回転軸線方向への送り速度を、変動する前記工作物の回転速度に同期させながら変動させる送り速度制御部を備える、歯車加工装置にある。
【0007】
本発明の他の態様は、
歯切り工具を工作物と同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工方法であって、
前記工作物の回転速度を変動させる工作物回転速度設定工程と、
前記歯切り工具の回転速度を、前記工作物回転速度設定工程により設定された前記工作物の回転速度の変動に同期させながら変動させる工具回転速度設定工程と、
を備え、
前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度の速度上側値及び速度下側値は、前記工作物の加工の基準となる前記工作物及び前記歯切り工具の一方の基準回転速度に対して予め設定された速度増減率を乗じた値を、前記基準回転速度に加算した値とし、
前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度を反復的に増減させる変動周波数は、前記工作物及び前記歯切り工具の一方の基準回転速度に基づいて決定され、
前記工作物回転速度設定工程及び前記工具回転速度設定工程の一方は、
前記速度上側値以下の回転速度と前記速度下側値以上の回転速度との間で、前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度を反復的に増減させ、
前記工作物及び前記歯切り工具の一方の回転速度を前記変動周波数以上の周波数で変動させる、歯車加工方法にある。
また、本発明の他の態様は、歯切り工具を工作物と同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工方法であって、
少なくとも一時的に、前記工作物の材質及び前記歯切り工具の諸元に基づいて設定される基準回転速度を基準として、前記工作物の回転速度を一定の加速度又は減速度で変動させる工作物回転速度設定工程と、
前記歯切り工具の回転速度を、前記工作物回転速度設定工程により設定された前記工作物の回転速度の変動に同期させながら一定の加速度又は減速度で変動させる工具回転速度設定工程と、
を備える、歯車加工方法にある。
また、本発明の他の態様は、歯切り工具を工作物と同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に沿って前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工方法であって、
前記工作物の回転速度を変動させる工作物回転速度設定工程と、
前記歯切り工具の回転速度を、前記工作物回転速度設定工程により設定された前記工作物の回転速度の変動に同期させながら変動させる工具回転速度設定工程と、
前記工作物に対する前記歯切り工具の回転軸線方向への送り速度を、変動する前記工作物の回転速度の周波数に同期させながら変動させる送り速度設定工程と、
を備える、歯車加工方法にある。
【0008】
本発明の歯車加工装置及び歯車加工方法によれば、歯切り工具により工作物に歯車を形成(創成)する際に、歯切り工具が工作物に接触する周期が不規則となる。これにより、歯切り工具及び工作物の回転速度が変動せずに一定である場合と比べて、工作物に発生するびびり振動の増幅が抑制される。その結果、歯車加工装置及び歯車加工方法では、工作物Wに発生するびびり振動の発生を抑制しつつ、工作物に対する歯切り工具の切込量を大きく設定することができる。よって、歯車加工装置及び歯車加工方法では、工作物に形成された加工面の面性状(surface texture,surface integrity)の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第一実施形態における歯車加工装置の斜視図である。
図2】回転主軸に固定された歯切り工具を拡大した図である。
図3】スカイビング加工を行う際の歯切り工具と工作物との動作を示す図である。
図4】制御装置のブロック図である。
図5】制御装置により実行される歯車加工処理のフローチャートである。
図6】歯切り工具及び工作物の回転速度の変動を示すグラフである。
図7A】工作物の回転速度と安定限界増加率との関係を示すグラフであり、回転速度の変動率又は変動周波数率を異なる値に設定した5パターンの安定限界線図を示す。
図7B】工作物の回転速度と安定限界増加率との関係を示すグラフであり、回転速度の変動率を一定としつつ、変動周波数率を異なる値に設定した3パターンの安定限界線図を示す。
図8】工作物の回転速度と安定限界との関係を示すグラフであり、歯切り工具及び工作物の回転速度を変動させた場合と変動させていない場合との比較を示す。
図9A】第一変形例における歯切り工具及び工作物の回転速度の変動を示すグラフである。
図9B】第二変形例における歯切り工具及び工作物の回転速度の変動を示すグラフである。
図9C】第三変形例における歯切り工具及び工作物の回転速度の変動を示すグラフである。
図9D】第四変形例における歯切り工具及び工作物の回転速度の変動を示すグラフである。
図9E】第五変形例における歯切り工具及び工作物の回転速度の変動を示すグラフである。
図10】第二実施形態においてホブ加工を行う際の歯切り工具と工作物との動作を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第一実施形態>
以下、本発明に係る歯車加工装置及び歯車加工方法を適用した各実施形態について、図面を参照しながら説明する。まず、図1及び2を参照して、本発明の第一実施形態である歯車加工装置1の概略を説明する。
【0011】
(1-1.歯車加工装置1の概略)
図1に示すように、歯車加工装置1は、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸及びZ軸)と2つの回転軸(A軸及びC軸)を駆動軸として有するマシニングセンタである。歯車加工装置1は、ベッド10と、コラム20と、サドル30と、回転主軸40と、テーブル50と、チルトテーブル60と、回転テーブル70と、保持部80と、制御装置100と、を主に備える。
【0012】
ベッド10は、床上に配置される。このベッド10の上面には、コラム20及びX軸モータ(図示せず)が設けられ、コラム20は、X軸モータに駆動されることにより、X軸方向(水平方向)へ移動可能に設けられる。さらに、コラム20の側面には、サドル30及びY軸モータ11(図3参照)が設けられ、サドル30は、Y軸モータ11によりY軸方向(鉛直方向)に移動可能に設けられる。回転主軸40は、サドル30内に収容された主軸モータ41(図3参照)により回転可能に設けられる。回転主軸40の先端には、歯切り工具42が固定され、歯切り工具42は、回転主軸40の回転に伴って回転する。
【0013】
ここで、図2を参照しながら、歯切り工具42について説明する。図2に示すように、歯切り工具42は、外周面に複数の刃42aを備えたスカイビングカッタであり、各々の刃42aの端面は、すくい角γを有するすくい面を構成する。各々の刃42aのすくい面は、歯切り工具42の中心軸線を中心としたテーパ状としてもよく、刃42aごとに異なる方向を向く面状に形成してもよい。
【0014】
図1に戻り、説明を続ける。ベッド10の上面には、テーブル50及びZ軸モータ12(図4参照)が設けられる。テーブル50は、Z軸モータ12によりZ軸方向(水平方向)に移動可能に設けられる。テーブル50の上面には、チルトテーブル60を支持するチルトテーブル支持部61が設けられる。そして、チルトテーブル支持部61には、チルトテーブル60がA軸(水平方向)回りに揺動可能に設けられる。チルトテーブル60の底面には、テーブル用モータ62(図3参照)が設けられ、回転テーブル70は、テーブル用モータ62によりA軸に直交するC軸回りに回転可能に設けられる。回転テーブル70には、工作物Wを保持する保持部80が装着される。
【0015】
制御装置100は、工作物Wの回転速度V1及び歯切り工具42の回転速度V2、及び、工作物Wに対する歯切り工具42の回転軸線方向(Z軸方向)への送り速度V4を制御する。なお、本実施形態では、テーブル50がZ軸方向へ移動可能に構成される場合を例に挙げて説明するが、テーブル50の代わりにコラム20がZ軸方向へ移動可能に構成されていてもよい。
【0016】
ここで、図3に示すように、歯車加工装置1は、スカイビング加工により工作物Wに歯車を創成する。具体的に、歯車加工装置1は、チルトテーブル60をA軸まわりに揺動させることにより、工作物Wの回転軸線であるC軸を、歯切り工具42の回転軸線Oに対して傾斜させる。なお、工作物Wの回転軸線に対する歯切り工具42の回転軸線Oの傾斜角度を交差角δと称す。そして、歯車加工装置1は、工作物Wと歯切り工具42とを同期回転させながら、歯切り工具42を工作物Wの中心軸線方向へ送る(相対移動させる)ことにより、工作物Wに歯車を創成する。
【0017】
また、スカイビング加工において、歯切り工具42の回転速度V2及び工作物Wの回転速度V1は、交差角δと切削速度V3に基づいて決定される。そして、切削速度V3及び送り速度V4は、歯車加工に要する加工時間(サイクルタイム)、歯切り工具42の諸元、工作物Wの材質、及び、工作物Wに形成する歯車のねじれ角等に基づいて設定される。即ち、切削速度V3及び送り速度V4は、歯車加工を行う際の加工能率及び歯切り工具42の工具寿命等を勘案し、最適な速度に設定される。また、スカイビング加工において、切削速度V3及び送り速度V4を速くするほど、加工能率が向上する一方、面性状等の品質が低下する傾向がある。
【0018】
この点に関し、歯車加工装置1は、最適な切削速度V3及び交差角δに基づいて決定される工作物Wの回転速度V1を基準回転速度Nwとする。そして、歯車加工装置1は、基準回転速度Nwを基準として工作物Wの回転速度V1を変動させながら歯車加工を行う。これに伴い、歯車加工装置1は、歯車加工時において、歯切り工具42の回転速度V2を変動させ、工作物Wの回転速度V1と同期させる。
【0019】
さらに、歯車加工装置1は、最適な切削速度V3及び交差角δに基づいて決定される工作物Wの送り速度V4を基準送り速度Fwとする。そして、歯車加工装置1は、基準送り速度Fwを基準として、工作物Wの回転速度V1と同期するように送り速度V4を変動させる。
【0020】
(1-2.制御装置100について)
次に、図4を参照して、制御装置100について詳細に説明する。制御装置100は、基準回転速度設定部110と、基準送り速度設定部120と、工作物回転速度制御部130と、工具回転速度制御部140と、送り速度制御部150と、増減率設定部160と、を備える。
【0021】
基準回転速度設定部110は、切削速度V3及び交差角δに基づいて決定される基準回転速度Nwを設定する。基準送り速度設定部120は、切削速度V3及び交差角δに基づいて決定される基準送り速度Fwを設定する。
【0022】
工作物回転速度制御部130は、テーブル用モータ62を駆動制御し、工作物Wの回転速度V1を変動させる。工具回転速度制御部140は、主軸モータ41を駆動制御し、歯切り工具42の回転速度V2を変動させると共に、歯切り工具42の回転速度V2を工作物Wの回転速度V1に同期させる。送り速度制御部150は、Y軸モータ11及びZ軸モータ12を駆動制御し、送り速度V4と工作物Wの回転速度とが同期するように送り速度V4を変動させつつ、歯切り工具42と工作物Wとの相対距離を調整する。
【0023】
増減率設定部160は、工作物Wの回転速度V1の速度増減率及び周波数増減率を設定する。工作物Wの回転速度V1の速度増減率は、工作物Wのびびり振動等の発生を抑制可能な増減率に設定される。そして、工作物Wの回転速度V1の周波数増減率は、歯切り工具42の回転速度V2や、工作物Wの回転速度V1、工作物Wの切削力等に基づいたシミュレーションやハンマリング等による計測により求められる工作物Wの固有振動数に基づいて設定される。
【0024】
(1-3.歯車加工処理)
次に、図5及び図6を参照して、制御装置100により実行される歯車加工処理について説明する。なお、歯車加工処理を実行するにあたり、基準回転速度設定部110には基準回転速度Nwが、基準送り速度設定部120には基準送り速度Fwが、それぞれ設定される。また、増減率設定部160には、工作物Wの回転速度V1の速度増減率及び周波数増減率が設定される。
【0025】
図5に示すように、歯車加工処理は、最初に、工作物回転速度制御部130による制御に基づき、工作物Wの回転速度V1を設定する(S1:工作物回転速度設定工程)。具体的に、工作物回転速度制御部130は、図6に太線で示されるように、基準回転速度Nwと速度増減率及び周波数増減率の値とに基づき、工作物Wの回転速度V1を一定の周期で反復的に増減する。
【0026】
なお、工作物Wの回転速度V1の速度上側値及び速度下側値は、基準回転速度Nwに速度増減率を乗じた値となる。例えば、基準回転速度Nwを1000min-1、速度増減率を±15%に設定した場合に、速度上側値は、1150min-1となり、速度下側値は、850min-1となる。そして、工作物Wの回転速度V1は、各変動周期において、速度上側値以下の回転速度と速度下側値以上の回転速度との間で周期的に変動する。つまり、工作物Wの回転速度V1は、少なくとも300min-1の速度変動幅を有し、少なくとも850min-1~1150min-1の範囲で周期的に増減する。なお、図6に示すグラフの変動振幅は、工作物Wの回転速度V1の速度変動幅に相当する。
【0027】
さらに、工作物Wの回転速度V1の変動周波数は、工作物Wの基準回転速度Nwの値に工作物Wの回転速度V1の周波数増減率の値を乗じた値となる。例えば、基準回転速度Nwが1200min-1(20Hz)、工作物Wの回転速度V1の周波数増減率が5%であれば、変動周波数(Hz)は、20Hz×5%=1Hzとなる。
【0028】
S1の処理後、歯車加工処理は、工具回転速度制御部140による制御に基づき、歯切り工具42の回転速度V2を設定する(S2:工具回転速度設定工程)。具体的に、工具回転速度制御部140は、工作物Wに形成する歯車と歯切り工具42との歯数比と、工作物回転速度制御部130により設定された工作物Wの回転速度V1等とに基づき、歯切り工具42の回転速度V2と工作物Wの回転速度V1とが同期するように、歯切り工具42の回転速度V2を設定する。
【0029】
例えば、基準回転速度Nwが1000min-1、速度増減率が±15%であり、工作物Wに形成される歯車と歯切り工具42との歯数比の比が3:1であるとする。この場合、工具回転速度制御部140は、2550min-1~3450min-1の範囲で歯切り工具42の回転速度V2を周期的に変動させる。この場合、工具回転速度制御部140は、歯切り工具42の回転速度V2の変動周波数が1Hzとなるように(工作物Wの回転速度V1の変動周波数と同一となるように)、歯切り工具42の回転速度V2を反復的に増減させる。
【0030】
これにより、歯切り工具42の回転速度V2は、工作物Wの回転速度V1と同期しながら周期的に増減する。そして、歯切り工具42は、工作物Wに噛合しながら、工作物Wに連続的な歯車加工を行い、工作物Wに歯面形状を創成する。
【0031】
S2の処理後、歯車加工処理は、送り速度制御部150による制御に基づき、送り速度を設定する(S3:送り速度設定工程)。S3の処理において、送り速度制御部150は、基準送り速度Fwと工作物Wの回転速度V1の変動周波数とに基づき、送り速度V4が工作物Wの回転速度V1の変動周波数と同期するように、送り速度V4を変動させる。これにより、送り速度V4は、一定の周期で反復的に増減する。
【0032】
ここで、図7A及び図7Bを参照しながら、工作物Wの回転速度V1の変動と、歯車加工時において工作物Wに発生するびびり振動との関係について説明する。図7A及び図7Bは、所定の速度増減率及び所定の変動周波数率で歯車加工を行う場合における工作物Wの回転速度V1(基準回転速度Nw)と歯切り工具42による切込量の増加率(安定限界増加率)との関係を示すグラフである。図7A及び図7Bにおいて、横軸は、工作物Wの回転速度V1(基準回転速度Nw)を、縦軸は、基準回転速度Nwを維持したまま回転速度V1を変動させずに歯車加工を行った場合と比較したときの安定限界増加率を、それぞれ示している。また、このグラフに示す安定限界増加率は、工作物Wの回転数、歯切り工具42の回転数、工作物Wの切削力(抵抗)等に基づくシミュレーションやハンマリング等により算出した工作物Wの固有振動数に基づいて求められる。
【0033】
図7A及び図7Bに示すグラフは、所定の基準回転速度Nwで回転する工作物Wに対する切込量(安定限界)が、線図A~Hで示す切込量の値よりも小さく設定されていれば、工作物Wにびびり振動を発生させることなく、安定した歯車加工を行うことができることを示す。また、図7A及び図7Bに示すグラフでは、安定限界増加率が高くなるほど加工能率が向上することを示す。
【0034】
図7Aに示す線図Aは、基準回転速度Nwに対する工作物Wの回転速度V1の速度増減率を±5%、回転速度の変動周波数率を20%としたときの安定限界増加率を示す。線図Bは、基準回転速度Nwに対する工作物Wの回転速度V1の速度増減率を±10%、回転速度V1の変動周波数率を10%としたときの安定限界増加率を示す。線図Cは、基準回転速度Nwに対する工作物Wの回転速度V1の速度増減率を±10%、回転速度V1の変動周波数率を20%としたときの安定限界増加率を示す。線図B及び線図Cは、線図Aと比べて、安定限界増加率が高いことから、工作物Wの回転速度V1の速度増減率が±10%の場合には、工作物Wの回転速度V1の速度増減率が±5%である場合と比べて、安定限界増加率が高くなると考えられる。
【0035】
図Dは、基準回転速度Nwに対する工作物Wの回転速度V1の速度増減率を±15%、回転速度V1の変動周波数率を10%としたときの安定限界増加率を示す。線図Eは、基準回転速度Nwに対する工作物Wの回転速度V1の速度増減率を±15%、回転速度V1の変動周波数率を30%としたときの安定限界増加率を示す。線図D及び線図Eは、線図B及び線図Cと比べて、安定限界増加率が高いことから、工作物Wの回転速度V1の速度増減率が±15%の場合には、工作物Wの回転速度V1の速度増減率が±10%である場合と比べて、安定限界増加率が高くなると考えられる。
【0036】
図7Bに示す線図Fは、基準回転速度Nwに対する工作物Wの回転速度V1の速度増減率を±20%、回転速度V1の変動周波数率を1%としたときの安定限界増加率を示す。線図Gは、基準回転速度Nwに対する工作物Wの回転速度V1の速度増減率を±20%、回転速度V1の変動周波数率を5%としたときの安定限界増加率を示す。線図Hは、基準回転速度Nwに対する工作物Wの回転速度V1の速度増減率を±20%、回転速度V1の変動周波数率を20%としたときの安定限界増加率を示す。
【0037】
図G及び線図Hは、線図Fと比べて、安定限界増加率がマイナスとなる工作物Wの回転速度V1の範囲が小さい。これにより、工作物Wの回転速度V1の変動周波数率が5%以上である場合には、工作物Wの回転速度V1の変動周波数率が1%である場合と比べて、びびり振動の発生が抑制されると考えられる。
【0038】
図8は、回転速度V1を変動させずに歯車加工を行う場合の安定限界と、回転速度V1の速度増減率を±15%、且つ、回転速度V1の変動周波数率を5%に設定した場合の安定限界とを比較したグラフである。図8に示すように、例えば、基準回転速度が1200min-1であるとき、工作物Wの回転速度V1を変動させた場合には、回転速度V1を変動させない場合と比べて、安定限界増加率を約2倍上昇させることができる。
【0039】
なお、歯車加工装置1による歯車加工では、工作物Wの回転速度V1と安定限界との関係に基づき、工作物Wに応じた基準回転速度Nwを基準回転速度設定部110に設定する。そして、工作物回転速度制御部130は、工作物Wの回転速度V1を反復的に増減させ、工具回転速度制御部140は、歯切り工具42の回転速度V2を工作物Wの回転速度V1に同期させながら増減させる。この場合、歯車加工装置1は、歯切り工具42の基準回転速度Nwを設定する場合と比べて、歯切り工具42と工作物Wとの歯数比を考慮することが不要である分、基準回転速度Nwの設定を容易に行うことができる。
【0040】
このように、工作物回転速度制御部130は、工作物Wの回転速度V1を高速で反復的に増減させると共に、工具回転速度制御部140は、歯切り工具42の回転速度V2を、工作物Wの回転速度V1に同期させる。この場合、歯切り工具42の各々の刃42a(図2参照)が工作物Wを切削する切削力(切削断面積)が不均一となる。その結果、歯車加工時において、工作物Wの回転速度V1及び歯切り工具42の回転速度V2を変動させずに一定とする場合と比べて、歯車加工装置1は、工作物Wに発生する再生びびり振動の増幅を抑制できる。よって、歯車加工装置1は、工作物Wに対する歯車加工において、工作物Wに発生するびびり振動を抑制しつつ、工作物Wに対する歯切り工具42の切込量(安定限界)を大きく設定することができる。従って、歯車加工装置1は、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【0041】
また、工作物回転速度制御部130は、各変動周期において、工作物Wの回転速度V1の速度上側値が10%以上、好ましくは15%以上に到達し、且つ、工作物Wの回転速度V1の速度下側値が-10%以下、好ましくは-15%以下に到達するように、工作物Wの回転速度V1の速度増減率を設定する。これに加え、工作物回転速度制御部130は、工作物Wの回転速度V1の変動周波数率を5%以上に設定し、各変動周期において、速度上側値以下の回転速度V1と速度下側値以上の回転速度V1との間で、工作物Wの回転速度V1を増減させる。これにより、歯車加工装置1は、工作物Wに対する歯車加工において、安定限界を効果的に増加させることができる。
【0042】
ここで、歯切り工具42の送り速度を一定にした状態で、工作物Wの回転速度V1及び歯切り工具42の回転速度V2を変動させると、工作物Wに形成された加工面にうねり等が発生しやすく、加工面の面性状が低下する。これに対し、送り速度制御部150は、1つの工作物Wを加工するサイクルタイムにより設定される基準送り速度Fwに対し、送り速度V4を増減させる。そして、送り速度制御部150は、送り速度V4の増減周期を工作物Wの回転速度V1の変動周波数に同期させる。
【0043】
これにより、歯切り工具42により工作物Wに形成される歯面は、送り速度V4を変動させずに工作物Wの回転速度V1及び歯切り工具42の回転速度V2を増減させる場合と比べて、歯面の面性状を向上させることができる。また、歯車加工装置1は、スカイビング加工による歯車加工を行う場合において、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【0044】
なお、工作物Wを保持する保持部80や回転テーブル70、チルトテーブル60は、歯切り工具42と比べて保持剛性が低く、びびり振動が発生しやすい。この点に関し、歯車加工装置1では、工作物回転速度制御部130が工作物Wの回転速度V1を反復的に増減させ、工具回転速度制御部140が、歯切り工具42の回転速度V2を、工作物Wの回転速度V1に同期させながら増減させる。これにより、歯車加工装置1は、歯切り工具42を高速回転させつつ、工作物Wに発生するびびり振動の発生を効果的に抑制できる。
【0045】
また、工作物Wがはすば歯車である場合、工作物Wの回転速度V1及び歯切り工具42の回転速度V2は、工作物Wの歯すじ方向に合わせてずらすことにより歯車を形成(創成)することができる。このとき、工作物Wの回転速度V1の変動範囲(変動周波数や速度変動幅)は、工作物Wであるはすば歯車の歯すじ方向に合わせて調整される。
【0046】
(1-4:第一実施形態の変形例)
ここで、第一実施形態の変形例を説明する。上記実施形態において、工作物回転速度制御部130が、工作物Wの回転速度V1を反復的に増減させる場合について説明した。これに対し、工作物回転速度制御部130は、工作物Wの回転速度V1を直線的に加速又は減速させてもよい。
【0047】
例えば、工作物回転速度制御部130は、図9Aに示す第一変形例のように、工作物Wの回転速度V1を一定の加速度で加速させてもよい。同様に、工作物回転速度制御部130は、図9Bに示す第二変形例のように、工作物の回転速度V1を一定の減速度で減速させてもよい。
【0048】
これらの場合において、基準回転速度設定部110は、歯車加工に要する加工時間(サイクルタイム)、歯切り工具42の諸元、工作物Wの材質、及び、工作物Wに形成する歯車のねじれ角等に基づき、最適な切削速度を算出する。そして、基準回転速度設定部110は、算出した切削速度から導出される工作物Wの回転速度V1を基準回転速度Nwに設定する。
【0049】
さらに、工作物回転速度制御部130は、工具寿命の観点から許容される切削速度の範囲を算出し、許容される工作物Wの回転速度V1である上限値及び下限値である限界速度上限値及び限界速度下限値を算出する。そして、工作物回転速度制御部130は、回転速度V1の限界速度上限値及び限界速度下限値と加工時間とに基づき、歯車加工時の回転速度V1が限界速度上限値及び限界速度下限値を超えないように、回転速度V1の加速度又は減速度、及び、歯車加工の開始時及び終了時における回転速度V1を設定する。
【0050】
この場合においても、歯車加工装置1は、歯車加工時において、工作物Wに発生する再生びびり振動の増幅を抑制できる。よって、歯車加工装置1は、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【0051】
また、歯車加工装置1は、一定の加速度又は減速度で工作物Wの回転速度V1を変動させる。この場合、歯車加工装置1は、加速度又は減速度を変えながら工作物Wの回転速度V1を変動させる場合と比べて、工作物Wの回転速度V1と歯切り工具42の回転速度V2との同期誤差を抑制することができる。さらに、第一変形例及び第二変形例における歯車加工装置1は、歯車加工を開始してから終了するまでの間、工作物Wの回転速度V1を変動させるので、再生びびり振動の増幅を効果的に抑制できる。
【0052】
またこの場合に、歯車加工装置1は、工作物Wの回転速度V1を反復的に増減させる場合と比べて、回転速度V1を緩やかに変動させることができる。よって、歯車加工装置1は、工作物Wの回転速度V1と、歯切り工具42の回転速度V2及び送り速度V4との同期誤差を抑制できる。その結果、歯車加工装置1は、工具回転速度制御部140による歯切り工具42の回転速度V2の同期制御、及び、送り速度制御部150による送り速度V4の同期制御を簡素化できる。
【0053】
さらに、工作物回転速度制御部130は、図9Cに示す第三変形例のように、工作物Wの回転速度V1を一定の加速度で加速させた後、回転速度V1が限界速度上限値に到達した場合に、回転速度V1を一定にしてもよい。同様に、工作物回転速度制御部130は、図9Dに示す第四変形例のように、工作物Wの回転速度V1を一定の減速度で減速させた後、回転速度V1が限界速度下限値に到達した場合に、回転速度V1を一定にしてもよい。
【0054】
これらの場合、歯車加工装置1は、第一変形例及び第二変形例と同様に、一定の加速度又は減速度で工作物Wの回転速度V1を変動させる。よって、歯車加工装置1は、工作物Wの回転速度V1と歯切り工具42の回転速度V2の回転速度V2との同期誤差を抑制できる。また、歯車加工装置1は、工作物Wの回転速度V1を反復的に増減させる場合と比べて、回転速度V1を緩やかに変動させることができるので、工作物Wの回転速度V1と、歯切り工具42の回転速度V2及び送り速度V4との同期誤差を抑制できる。よって、歯車加工装置1は、工具回転速度制御部140による歯切り工具42の回転速度V2の同期制御、及び、送り速度制御部150による送り速度V4の同期制御を簡素化できる。
【0055】
これに加え、第三変形例及び第四変形例の歯車加工装置1は、回転速度V1が限界速度(限界速度上限値又は限界速度下限値)に到達した場合に、回転速度V1を一定にすることにより、歯切り工具42の工具寿命の低下を抑制できる。またその結果、第三変形例及び第四変形例の歯車加工装置1は、加工時間が長い場合であっても、回転速度V1を最適な加速度又は減速度で変動させることができる。従って、歯車加工装置1は、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【0056】
また、第三変形例の場合、歯車加工装置1は、回転速度V1が限界速度上限値に到達した場合に、回転速度V1を限界速度上限値に設定した状態で歯車加工を行うので、歯車加工に要する時間の短縮を図ることができる。
【0057】
なお、第三変形例及び第四変形例では、工作物回転速度制御部130が、歯車加工の開始時から回転速度V1を変動させ、回転速度V1が限界速度に到達した場合に、回転速度V1を一定の速度とする場合について説明したが、これに限られるものではない。即ち、工作物回転速度制御部130は、歯車加工の開始時の回転速度V1を一定としつつ、所定時間経過後に回転速度V1の変動を開始してもよい。これにより、例えば、歯車加工を開始してから所定時間経過後に回転速度V1を一定の減速度で減速させる場合に、歯車加工装置1は、回転速度V1が低速となる時間が長くなることを回避できるので、歯車加工に要する時間が長くなることを抑制できる。
【0058】
また、図9Eに示す第五変形例のように、工作物回転速度制御部130は、回転速度V1が限界速度上限値に到達した場合に、回転速度V1を一定の減速度で減速させ、回転速度V1が限界速度下限値に到達した場合に、回転速度V1を一定の加速度で加速させてもよい。この場合、歯車加工装置1は、回転速度V1を反復して増減させる場合であっても、加速度又は減速度を変化させながら工作物Wの回転速度V1を変動させる場合と比べて、工作物Wの回転速度V1と歯切り工具42の回転速度V2との同期誤差を抑制することができる。さらにこの場合、歯車加工装置1は、加工を開始してから終了するまでの間、工作物Wの回転速度V1を変動させるので、再生びびり振動の増幅を効果的に抑制できる。
【0059】
なお、第五変形例における歯車加工装置1は、第一実施形態で説明した歯車加工処理(図6参照)と比べて、回転速度V1の変動周期をはるかに長くすることにより、回転速度V1を緩やかに変動させることができる。さらにこの場合、歯車加工装置1は、回転速度V1の加速から減速、又は、減速から加速への切り替え回数を少なくすることができる。よって、歯車加工装置1は、工作物Wの回転速度V1と歯切り工具42の回転速度V2との同期誤差を抑制することができる。
【0060】
以上のように、第一変形例から第五変形例の歯車加工装置1において、工作物回転速度制御部130は、少なくとも一時的に、工作物Wの回転速度V1を一定の加速度又は減速度で変動させる。これに伴い、工具回転速度制御部140は、歯切り工具42の回転速度V2を、工作物Wの回転速度V1に同期させながら一定の加速度又は減速度で変動させる。よって、歯車加工装置1は、歯車加工時において、歯切り工具42を高速回転させつつ、工作物Wに発生する再生びびり振動の増幅を抑制できるので、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【0061】
また、第一変形例から第五変形例の歯車加工装置1は、工作物Wの回転速度V1を一定の加速度又は減速度で変動させることにより、工具回転速度制御部140による歯切り工具42の回転速度V2の同期制御、及び、送り速度制御部150による送り速度V4の同期制御を簡素化できる。その結果、歯車加工装置1は、工作物Wの回転速度V1と、歯切り工具42の回転速度V2及び送り速度V4との同期誤差を抑制することができる。
【0062】
さらに、基準回転速度設定部110は、工作物Wの材質及び歯切り工具42の諸元に基づいて基準回転速度Nwを設定し、工作物回転速度制御部130は、その基準回転速度Nwを基準として、前記工作物の回転速度を一定の加速度又は減速度で変動させる。これにより、歯車加工装置1は、歯切り工具42の工具寿命の低下を抑制できる。
【0063】
また、工作物回転速度制御部130は、工作物Wの回転速度V1を反復的に増減させ、工具回転速度制御部140は、歯切り工具42の回転速度V2を、工作物Wの回転速度V1に同期させながら一定の加速度又は減速度で変動させる。この場合、歯車加工装置1は、歯切り工具42の基準回転速度Nwを設定する場合と比べて、歯切り工具42と工作物Wとの歯数比を考慮することが不要である分、基準回転速度Nwの設定を容易に行うことができる。
【0064】
<第二実施形態>
次に、図10を参照して、第二実施形態について説明する。第一実施形態において、歯切り工具42がスカイビングカッタであり、歯車加工装置1は、スカイビング加工による歯車加工を行う場合について説明した。これに対し、第二実施形態では、歯切り工具242がホブカッタであり、歯車加工装置1が、ホブ加工による歯車加工を行う場合を説明する。なお、上記した第一実施形態と同一の部品には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0065】
(2-1.工作物W及び歯切り工具242の動作)
図10に示すように、歯切り工具242は、ホブカッタである。歯車加工装置1は、歯切り工具242の回転軸線Oと工作物Wの回転軸線であるC軸とが交差するように、歯切り工具242及び工作物Wを配置する。なお、図10には、歯切り工具242の回転軸線Oと工作物Wの回転軸線であるC軸とが直交するように、歯切り工具242及び工作物Wが配置されている。
【0066】
そして、歯車加工装置1は、歯車加工時において、工作物W及び歯切り工具42をそれぞれ回転させながら、歯切り工具42を工作物Wの中心軸線であるZ軸方向へ送る(相対移動させる)ことにより、工作物Wに歯車を創成する。このとき、歯車加工装置1は、歯車加工時において、工作物回転速度制御部130による制御に基づいて工作物Wの回転速度V1を変動させ、工具回転速度制御部140による制御に基づいて、歯切り工具242の回転速度V2を工作物Wの回転速度V1に同期させる。これにより、歯車加工装置1は、歯切り工具42を高速回転させつつ、工作物Wに発生する再生びびり振動の増幅を抑制できるので、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【0067】
<3.その他>
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。
【0068】
例えば、上記各実施形態において、工作物回転速度制御部130は、工作物Wの回転速度V1を一定の周波数で増減させる場合を例に挙げて説明したが、少なくとも工作物Wの回転速度V1を反復的に増減させればよく、必ずしも一定の周波数で増減させなくてもよい。また、工作物回転速度制御部130は、工作物Wの回転速度V1の変動周波数を不規則に変えてもよい。さらに、上記各実施形態では、各変動周期における工作物Wの回転速度V1の周波数が、変動周波数と一致する場合について説明したが、これに限られるものではなく、各変動周期における工作物Wの回転速度V1が、変動周波数以上の周波数で増減するように設定されていればよい。
【0069】
上記各実施形態では、工作物回転速度制御部130が工作物Wの回転速度V1を反復的に増減させ、工具回転速度制御部140が、歯切り工具42の回転速度V2を、工作物Wの回転速度V1に同期させながら増減させる場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、工具回転速度制御部140が歯切り工具42の回転速度V2を反復的に増減させ、工作物回転速度制御部130が、工作物Wの回転速度V1を、歯切り工具42の回転速度V2に同期させながら増減させてもよい。また、工具回転速度制御部140は、歯切り工具42の回転速度V2の変動周波数を不規則に変えてもよい。
【0070】
上記各実施形態では、送り速度制御部150が、送り速度V4が工作物Wの回転速度V1と同期するように送り速度V4を変動させる場合について説明した。しかしながら、送り速度制御部150は、必ずしも送り速度V4を変動させる必要はない。即ち、歯車加工装置1は、少なくとも工作物Wの回転速度V1と歯切り工具42の回転速度V2とが同期するように工作物Wの回転速度V1及び歯切り工具42の回転速度V2を変動させることにより、工作物Wに発生するびびり振動(再生型など)の増幅を抑制できる。また、送り速度制御部150は、送り速度V4を不規則に変動させてもよい。
【0071】
なお、歯車加工装置1は、横形マシニングセンタやマシニングセンタであってもよい。そして、歯車加工装置1は、工作物Wの回転軸線又は歯切り工具42の回転軸線の何れかに直交する駆動軸を追加して設けることにより、工作物Wの回転軸線と歯切り工具42の回転軸線との相対角度を調整可能な構成としてもよい。さらに、歯車加工装置1は、加工工程(粗加工工程、仕上げ加工工程等)に合わせて歯切り工具42を交換するための工具交換装置を備えていてもよい。
【0072】
<4.効果>
以上説明したように、本発明における歯車加工装置1は、歯切り工具42,242と工作物Wとを同期回転させながら、工作物Wの回転軸線方向に沿って歯切り工具42,242を工作物にW対して相対移動させることにより、工作物Wに歯車を創成する歯車加工装置である。歯車加工装置1は、工作物Wの回転速度V1を制御する工作物回転速度制御部130と、歯切り工具42,242の回転速度V2を制御する工具回転速度制御部140と、を備える。
【0073】
工作物回転速度制御部130又は工具回転速度制御部140の何れか一方は、工作物Wの回転速度V1又は歯切り工具42,242の回転速度V2の何れか一方の回転速度を変動させ、工作物回転速度制御部130又は工具回転速度制御部140の何れか他方は、工作物Wの回転速度V1又は歯切り工具42,242の回転速度V2の何れか他方の回転速度を、工作物Wの回転速度V1又は歯切り工具42,242の回転速度V2の何れか一方の回転速度に同期させる。
【0074】
この歯車加工装置1によれば、歯切り工具42,242により工作物Wに歯車を形成する際に、歯切り工具42,242が工作物Wを切削する切削力(切削断面積)が不均一となる。これにより、歯切り工具42,242及び工作物Wの回転速度V1が変動せずに一定である場合と比べて、工作物Wに発生するびびり振動の増幅が抑制される。その結果、歯車加工装置1は、工作物Wに発生するびびり振動の発生を抑制しつつ、工作物Wに対する歯切り工具42の切込量を大きく設定することができる。よって、歯車加工装置1は、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【0075】
上記した歯車加工装置1において、工作物回転速度制御部130及び工具回転速度制御部140の何れか一方は、工作物Wの回転速度V1又は歯切り工具42,242の回転速度V2の何れか一方の回転速度を反復的に増減させる。この歯車加工装置1は、工作物Wに発生するびびり振動の発生を抑制できるので、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【0076】
上記した歯車加工装置1において、工作物Wの回転速度V1及び歯切り工具42,242の回転速度V2の速度上側値及び速度下側値は、工作物Wの加工の基準となる基準回転速度Nwに予め設定された速度増減率を乗じた値とし、工作物回転速度制御部130及び工具回転速度制御部140の何れか一方は、速度上側値以下の回転速度と速度下側値以上の回転速度との間で、工作物Wの回転速度V1又は歯切り工具42,242の回転速度V2を増減させる。この歯車加工装置1は、工作物Wに発生するびびり振動が効果的に抑制されるので、工作物Wに形成された加工面の面性状を向上させることができる。
【0077】
上記した歯車加工装置1において、工作物Wの回転速度V1及び歯切り工具42,242の回転速度V2を反復的に増減させる変動周波数は、工作物W又は歯切り工具42,242の何れか一方の基準回転速度Nwに基づいて決定され、工作物回転速度制御部130及び工具回転速度制御部140の何れか一方は、工作物Wの回転速度V1又は歯切り工具42,242の回転速度V2を変動周波数以上の周波数で変動させる。この歯車加工装置1は、工作物Wに発生するびびり振動が効果的に抑制されるので、工作物Wに形成された加工面の面性状を向上させることができる。
【0078】
上記した歯車加工装置1において、工作物回転速度制御部130及び工具回転速度制御部140の何れか一方は、工作物Wの回転速度V1又は歯切り工具42,242の回転速度V2を一定の周波数で増減させる。この歯車加工装置1では、工作物回転速度制御部130による工作物Wの回転速度V1の制御又は工具回転速度制御部140による歯切り工具42,242の回転速度V2の制御を簡素化できる。
【0079】
上記した歯車加工装置1において、工作物回転速度制御部130は、工作物Wの回転速度V1を反復的に増減させ、工具回転速度制御部140は、歯切り工具42,242の回転速度V2を、工作物Wの回転速度V1に同期させながら増減させる。この歯車加工装置1は、基準回転速度Nwの設定を容易に行うことができる。
【0080】
上記した歯車加工装置1において、工作物回転速度制御部130及び工具回転速度制御部140の何れか一方は、少なくとも一時的に、工作物Wの回転速度V1又は歯切り工具42,242の回転速度V2の何れか一方の回転速度を一定の加速度又は減速度で変動させる。
【0081】
この歯車加工装置1は、工作物Wに発生するびびり振動の発生を抑制できるので、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。さらに、この歯車加工装置1は、工作物Wの回転速度V1を一定の加速度又は減速度で変動させることにより、工具回転速度制御部140による歯切り工具42の回転速度V2の同期制御を簡素化できる。よって、歯車加工装置1は、工作物Wの回転速度V1と、歯切り工具42の回転速度V2との同期誤差を抑制することができる。
【0082】
上記した歯車加工装置1において、工作物回転速度制御部130及び工具回転速度制御部140の何れか一方は、歯車加工を開始してから終了するまでの間、工作物Wの回転速度V1又は歯切り工具42,242の回転速度V2を一定の加速度又は減速度で変動させる。この歯車加工装置1は、加工を開始してから終了するまでの間、工作物Wの回転速度V1又は歯切り工具42,242の回転速度V2を変動させるので、再生びびり振動の増幅を効果的に抑制できる。
【0083】
上記した歯車加工装置1において、工作物回転速度制御部130及び工具回転速度制御部140の何れか一方は、工作物Wの回転速度V1又は歯切り工具42,242の回転速度V2が予め設定された限界速度(限界速度上限値又は限界速度下限値)に到達した場合に、工作物Wの回転速度V1又は歯切り工具42,242の回転速度V2を一定にする。
【0084】
この歯車加工装置1は、加工時間が長い場合であっても、工作物Wの回転速度V1又は歯切り工具42,242の回転速度V2を最適な加速度又は減速度で変動させつつ、工具寿命の低下を抑制できる。従って、歯車加工装置1は、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【0085】
上記した歯車加工装置1において、工作物回転速度制御部130及び工具回転速度制御部140の何れか一方は、工作物Wの材質及び歯切り工具42,242の諸元に基づいて設定される基準回転速度Nwを基準として、工作物Wの回転速度V1を一定の加速度又は減速度で変動させ、工具回転速度制御部140は、歯切り工具42,242の回転速度V2を、工作物Wの回転速度V1に同期させながら一定の加速度又は減速度で変動させる。この歯車加工装置1は、基準回転速度Nwの設定を容易に行うことができる。
【0086】
また、上記した歯車加工装置1は、工作物Wに対する歯切り工具42の回転軸線方向への送り速度V4を、変動する工作物Wの回転速度V1の周波数に同期させながら変動させる送り速度制御部150を備える。この歯車加工装置1は、工作物Wの回転速度V1及び歯切り工具42の回転速度V2を変動させる一方で送り速度V4を変動させずに一定とする場合と比べて、工作物Wに形成された加工面の面性状を更に向上させることができる。
【0087】
また、上記した歯車加工装置1において、歯切り工具42は、スカイビングカッタであり、歯車加工装置1は、工作物Wの回転軸線を歯切り工具42の回転軸線に対して傾斜させた状態で、歯切り工具42を工作物Wに対して工作物Wの回転軸線方向に沿って相対移動させることにより、工作物Wに歯車のスカイビング加工を行う。この歯車加工装置1は、工作物Wに歯車のスカイビング加工を行う場合において、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【0088】
また、上記した歯車加工装置1において、歯切り工具242は、ホブカッタであり、歯車加工装置1は、工作物Wの回転軸線を歯切り工具242の回転軸線に対して傾斜させた状態で、歯切り工具242を工作物Wに対して工作物Wの回転軸線方向に沿って相対移動させることにより、工作物Wに歯車のホブ加工を行う。この歯車加工装置1は、工作物Wに歯車のホブ加工を行う場合において、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【0089】
さらに、本発明の歯車加工方法は、歯切り工具42,242を工作物Wと同期回転させながら、工作物Wの回転軸線方向に沿って歯切り工具42,242を工作物Wに対して相対移動させることにより、工作物Wに歯車を創成する歯車加工方法である。歯車加工方法は、工作物Wの回転速度V1を変動させる工作物回転速度設定工程S1と、歯切り工具42,242の回転速度V2を、工作物回転速度設定工程により設定された工作物Wの回転速度V1の変動に同期させながら変動させる工具回転速度設定工程S2と、を備える。
【0090】
この歯車加工方法によれば、歯切り工具42,242により工作物Wに歯車を形成する際に、歯切り工具42,242が工作物Wに接触する周期が不規則となる。これにより、歯切り工具42,242及び工作物Wの回転速度が変動せずに一定である場合と比べて、工作物Wに発生する再生びびり振動の増幅が抑制される。その結果、歯車加工方法は、工作物Wに発生するびびり振動の発生を抑制しつつ、工作物Wに対する歯切り工具42,242の切込量を大きく設定することができる。よって、歯車加工方法は、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図ることができる。
【0091】
また、上記した歯車加工方法は、工作物Wに対する歯切り工具42,242の回転軸線方向への送り速度V4を、変動する工作物Wの回転速度V1の周波数に同期させながら変動させる送り速度設定工程S3を備える。この歯車加工方法は、工作物Wの回転速度V1及び歯切り工具42,242の回転速度V2を変動させる一方で送り速度V4を変動させずに一定とする場合と比べて、工作物Wに形成された加工面の面性状を向上させることができる。
【符号の説明】
【0092】
1:歯車加工装置、 歯切り工具42:工具、 130:工作物回転速度制御部、 140:工具回転速度制御部、 150 送り速度制御部、 Nw:基準回転速度、 W:工作物、 S1:工作物回転速度設定工程、 S2:工具回転速度設定工程、 S3:送り速度設定工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10