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特許7024386負極活物質、負極、非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】負極活物質、負極、非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20220216BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220216BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220216BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20220216BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20220216BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20220216BHJP
   C01G 39/00 20060101ALI20220216BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20220216BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220216BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/505
H01M4/525
H01G11/46
H01G11/06
H01G11/50
C01G39/00 Z
C01G45/00
C01G53/00 A
C01G49/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017246703
(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公開番号】P2018107130
(43)【公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2016251016
(32)【優先日】2016-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】市川 慎之介
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-016005(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0004563(US,A1)
【文献】特開2015-166291(JP,A)
【文献】特開2002-075367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
H01M 10/05-0587
H01G 11/46
H01G 11/06
H01G 11/50
C01G 39/00
C01G 45/00
C01G 53/00
C01G 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム及びモリブデンを含み、上記モリブデンに対する上記リチウムのモル比が4以上10以下である複合酸化物を含有し、
上記複合酸化物における任意元素であるチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又はこれらの組み合わせである金属元素(α)の含有量が、上記モリブデンと上記金属元素(α)との合計含有量に対して30モル%以下であり、
上記複合酸化物における上記リチウム、上記モリブデン、酸素及び上記金属元素(α)以外の他の任意元素の含有量が、上記モリブデンに対して10モル%以下である非水電解質蓄電素子用の負極活物質。
【請求項2】
上記複合酸化物が、空間群P-1に帰属可能な結晶構造を有する請求項1の負極活物質。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の負極活物質を含有する非水電解質蓄電素子用の負極。
【請求項4】
請求項の負極を備える非水電解質蓄電素子。
【請求項5】
請求項1又は請求項2の負極活物質を含有する負極を用いる非水電解質蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、負極、非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質蓄電素子は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器の他、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)等の自動車用電源としても用いられている。自動車用電源においては、車内空間の限られた収納スペースの中で、より大きな充放電容量を備えた蓄電装置を搭載することが求められている。そのため、蓄電素子の構造や、蓄電素子の集合体と保護回路等を含む蓄電装置の構造の改良がなされているが、構造の改良のみでエネルギー密度の向上を図ることには限界がある。そこで、体積エネルギー密度の高い活物質の開発が求められる。
【0003】
特許文献1には、体積あたりの容量密度が高い負極活物質として、Li2-xMoO(-0.5≦x≦0.5)や、Li4-yMo17(-1≦y≦1)を非水電解質二次電池に用いることが検討されている。また、非特許文献1には、高容量を有する負極活物質としてMoOが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-232029号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Anne Dillon,A.,et al、「High Capacity MoO3 Nanoparticle Li-Ion Battery Anode」、[online]、2008年2月27日、Vehicle Technologies Program AMR、[平成28年11月16日検索]、インターネット〈URL:http://energy.gov/sites/prod/files/2014/03/f11/merit08_dillon.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記Li2-xMoO、Li4-yMo17及びMoOで表わされる各酸化物は、負極活物質として十分な容量やエネルギー密度を有する。しかし、これらの負極活物質を非水電解質蓄電素子に用いた場合、充放電ヒステリシス、すなわち平均充電電位と平均放電電位との差が大きくなり、エネルギー効率がよくない。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、十分な体積エネルギー密度を有し、かつ非水電解質蓄電素子に用いた際にその充放電ヒステリシスが小さい負極活物質、このような負極活物質を含有する負極、この負極を備える非水電解質蓄電素子、及びこの非水電解質蓄電素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る負極活物質(A)は、リチウム及びモリブデンを含み、上記モリブデンに対する上記リチウムのモル比が4以上である複合酸化物を含有する非水電解質蓄電素子用の負極活物質である。
【0009】
本発明の他の一態様に係る負極活物質(B)は、リチウム及びモリブデンを含み、ICDD(登録商標)が提供するPDFカード番号01-088-0757に帰属可能な複合酸化物を含有する非水電解質蓄電素子用の負極活物質である。
【0010】
本発明の他の一態様に係る負極は、上記負極活物質(A)又は負極活物質(B)を含有する非水電解質蓄電素子用の負極である。
【0011】
本発明の他の一態様に係る非水電解質蓄電素子は、上記負極を備える非水電解質蓄電素子である。
【0012】
本発明の他の一態様に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、上記負極活物質(A)又は負極活物質(B)を含有する負極を用いる非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、十分な体積エネルギー密度を有し、かつ非水電解質蓄電素子に用いた際にその充放電ヒステリシスが小さい負極活物質、このような負極活物質を含有する負極、この負極を備える非水電解質蓄電素子、及びこの非水電解質蓄電素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を示す外観斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
図3図3は、実施例1及び比較例1~3の各複合酸化物(充放電試験前)のX線回折図である。
図4図4は、負極活物質体積あたりのエネルギー密度の算出方法を示すグラフである。
図5図5は、充放電試験における実施例1及び比較例3の2サイクル目の充放電カーブである。
図6図6は、2サイクルの充放電試験後の実施例1の複合酸化物のX線回折図である。
図7図7は、実施例2~6の各複合酸化物のX線回折図である。
図8図8は、実施例4の二次電池の電位範囲0.2-3.0V(vs.Li/Li)での放電曲線である。
図9図9は、実施例4の二次電池の電位範囲0.4-3.0V(vs.Li/Li)での放電曲線である。
図10図10は、実施例4の二次電池の電位範囲0.6-3.0V(vs.Li/Li)での放電曲線である。
図11図11は、実施例4の二次電池の電位範囲0.85-3.0V(vs.Li/Li)での放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一態様に係る負極活物質(A)は、リチウム及びモリブデンを含み、上記モリブデンに対する上記リチウムのモル比が4以上である複合酸化物(a)を含有する非水電解質蓄電素子用の負極活物質である。
【0016】
当該負極活物質(A)は、モリブデン(Mo)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Mo)が4以上である複合酸化物(a)を含有することにより、十分な体積エネルギー密度を有する。また、当該負極活物質(A)を用いた非水電解質蓄電素子は、充放電ヒステリシスが小さい。なお、周知のように、黒鉛を負極活物質とした蓄電素子の場合、充電終止電圧における負極電位(充電下限電位)を0.1V(vs.Li/Li)以下として充放電しなければ、十分な体積エネルギー密度が得られない。これに対して、当該負極活物質(A)を用いた非水電解質蓄電素子によれば、充電下限電位を0.1V(vs.Li/Li)以上とした場合でも、十分な体積エネルギー密度が得られる。この充電下限電位は、金属リチウムの析出電位に対して十分に離反している。このため、当該負極活物質(A)によれば、高率充電性能に優れ、自動車、電車等に用いられる蓄電素子に求められる回生電力受け入れ性能に優れる非水電解質蓄電素子を提供することができる。
【0017】
なお、本明細書において、複合酸化物は負極活物質として作用するものであり、負極活物質に対してリチウムイオン等が吸蔵される還元反応を「充電」、リチウムイオン等が放出される酸化反応を「放電」という。また、上記モル比は、充放電を行っていない複合酸化物、あるいは放電末状態の非水電解質蓄電素子から取り出した複合酸化物における測定値をいう。具体的には、電極(負極)作製前の複合酸化物であれば、そのまま測定に供する。非水電解質蓄電素子を解体して取り出した負極から試料を採取する場合には、まず非水電解質蓄電素子を放電状態としてから当該非水電解質蓄電素子を解体して負極を取り出し、金属リチウム電極を対極とし、同じ組成の非水電解質を用いた非水電解質蓄電素子を組立ててもよい。次に、負極が含有する複合酸化物の質量に対して電流密度50mA/gで3.0Vvs.Li/Liまで放電する。放電が終了して10分以上経過した後に負極を取り出し、ジメチルカーボネートを用いて負極に付着した非水電解質を十分に洗浄し室温にて一昼夜の乾燥後、負極合材(負極活物質)を採取する。非水電解質蓄電素子の解体から測定までの作業は露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。採取した負極合材(負極活物質)をICP発光分光分析装置を用いて測定することにより、複合酸化物中のモル比(Li/Mo)を算出する。
【0018】
上記複合酸化物(a)が、空間群P-1に帰属可能な結晶構造を有することが好ましい。上記複合酸化物(a)がこのように空間群P-1に帰属可能な結晶構造を有することにより、より体積エネルギー密度を高め、充放電ヒステリシスを小さくすることができる。
【0019】
なお、空間群P-1に帰属可能とは、X線回折図において、空間群P-1に帰属可能なピークを有することをいう。上記複合酸化物(a)は、空間群P-1に帰属する結晶構造を有するものであってよい。なお、空間群「P-1」におけるバー「-」は本来「1」の上に付して記載される(以下、他の空間群の表記についても同様である)。複合酸化物のX線回折測定は、X線回折装置(Rigaku社の「MiniFlex II」)を用いた粉末X線回折測定によって、線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとして行う。このとき、回折X線は、厚み30μmのKβフィルターを通り、高速一次元検出器(D/teX Ultra 2)にて検出される。また、サンプリング幅は0.01°、スキャンスピードは5°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとする。得られるX線回折データに基づいて、「RIETAN2000」プログラム(F.Izumi and T.Ikeda,Mater.Sci.Forum,198(2000).)を用いたリートベルト解析により、結晶構造を解析することができる。空間群及び格子定数は、総合粉末X線解析ソフトウェア「PDXL」(Rigaku社製)を用いても同じ結果が得られる。
【0020】
上記複合酸化物(a)の結晶格子定数がそれぞれ、
4.8Å≦a≦5.4Å、
7.3Å≦b≦8.1Å、
4.8Å≦c≦5.3Å、
97°≦α≦107°、
96°≦β≦107°、及び
103°≦γ≦114°
を満たすことが好ましい。上記複合酸化物(a)がこのような結晶格子定数を有することにより、さらに体積エネルギー密度を高め、充放電ヒステリシスを小さくすることができる。
【0021】
本発明の一態様に係る負極活物質(B)は、リチウム及びモリブデンを含み、ICDD(登録商標)(International Center for Diffraction Data;国際回折データセンター)が提供するPDF(Powder Diffraction File;粉末回折ファイル)カード番号01-088-0757に帰属可能な複合酸化物(b)を含有する非水電解質蓄電素子用の負極活物質である。
【0022】
当該負極活物質(B)は、このような結晶構造等を有する複合酸化物(b)を含有することにより、十分な体積エネルギー密度を有する。また、当該負極活物質(B)を用いた非水電解質蓄電素子は、充放電ヒステリシスが小さい。当該負極活物質(B)も、負極活物質(A)と同様、充電下限電位を0.1V(vs.Li/Li)以上とした場合でも、十分な体積エネルギー密度が得られる。従って、当該負極活物質(B)によれば、高率充電性能に優れ、回生電力受け入れ性能に優れる非水電解質蓄電素子を提供することができる。
【0023】
なお、「ICDD(登録商標)が提供するPDFカード番号01-088-0757に帰属可能」とは、PDFカード番号01-088-0757の回折パターンと実質的に回折パターンが同じであることをいう。「PDFカード番号01-088-0757の回折パターンと実質的に回折パターンが同じ」とは、例えば、回折パターンが空間群P-1に帰属可能であり、各結晶格子定数が、上記PDFカード番号01-088-0757に記載の各格子定数の±5%の範囲内であることをいう。より具体的には、結晶格子定数がそれぞれ、4.8Å≦a≦5.4Å、7.3Å≦b≦8.1Å、4.8Å≦c≦5.3Å、97°≦α≦107°、96°≦β≦107°、及び103°≦γ≦114°を満たすものであることが好ましい。
【0024】
上記複合酸化物(A)又は複合酸化物(B)が、さらに金属元素(α)を含み、上記金属元素(α)が、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又はこれらの組み合わせであることが好ましい。上記複合酸化物(A)又は複合酸化物(B)がこのような金属元素(α)をさらに含むことにより、充放電サイクル後の容量維持率を高めることができる。この理由は定かでは無いが、以下が推測される。複合酸化物中のモリブデンに関し、Mo5+及びMo4+は導電性を有するが、Mo+6まで酸化されると導電性を失う。一方、上記金属元素(α)は、モリブデンと比べて酸化されにくい元素、あるいは酸化されても導電性を有する元素である。そこで、金属元素(α)を共存させることで、負極においての放電末期である酸化された状態においても、十分な導電性を維持することができ、その結果、容量維持率が改善されているものと推測される。
【0025】
上記複合酸化物(A)又は複合酸化物(B)における上記モリブデンと上記金属元素(α)との合計含有量に対する上記金属元素(α)の含有量が、5モル%以上30モル%以下であることが好ましい。金属元素(α)の含有量を上記範囲とすることにより、体積エネルギー密度や容量維持率等をバランスよく高めることができる。
【0026】
本発明の一態様に係る負極は、上記負極活物質(A)又は負極活物質(B)を含有する非水電解質蓄電素子用の負極である。当該負極は、上記負極活物質(A)又は負極活物質(B)を含有するため、この負極を備える非水電解質蓄電素子は、負極活物質体積あたりのエネルギー密度が十分に高く、かつ充放電ヒステリシスが小さい。
【0027】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子は、上記負極を備える非水電解質蓄電素子である。当該非水電解質蓄電素子は、上記負極活物質(A)又は負極活物質(B)を含有する負極を備えるため、負極活物質体積あたりのエネルギー密度が十分に高く、かつ充放電ヒステリシスが小さい。従って、当該非水電解質蓄電素子によれば、充放電容量を維持しつつ、蓄電素子の小型化を図ることなどを可能とする。
【0028】
当該非水電解質蓄電素子は、通常使用時の充電終止電圧における負極電位が、0.05V(vs.Li/Li)以上であることが好ましい。これにより、充放電ヒステリシスをより小さくすることができる。また、これにより、負極へのリチウムの析出を抑制することもできる。
【0029】
ここで、通常使用時とは、当該非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充電条件を採用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合であり、当該非水電解質蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。
【0030】
当該非水電解質蓄電素子は、通常使用時の充電終止電圧における負極電位が、0.1V(vs.Li/Li)以上であることがより好ましい。これにより、充放電ヒステリシスをさらに小さくすることができ、負極へのリチウムの析出をより抑制することができる。
【0031】
当該非水電解質蓄電素子は、通常使用時の充電終止電圧における負極電位が、0.3V(vs.Li/Li)以上0.8V(vs.Li/Li)以下であることがより好ましい。これにより、十分な放電容量を備えつつ、充放電の繰り返しに伴う平均放電電位の上昇を抑制し、安定的な充放電を繰り返して行うことができる。
【0032】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、上記負極活物質(A)又は負極活物質(B)を含有する負極を用いる非水電解質蓄電素子の製造方法である。当該製造方法によれば、負極活物質体積あたりのエネルギー密度が十分に高く、かつ充放電ヒステリシスが小さい非水電解質蓄電素子を得ることができる。
【0033】
以下、本発明の一実施形態に係る負極活物質、負極、非水電解質蓄電素子、及びその製造方法について、順に詳説する。
【0034】
<負極活物質(A)>
本発明の一実施形態に係る負極活物質(A)は、複合酸化物(a)を含有する非水電解質蓄電素子用の負極活物質である。複合酸化物(a)は、リチウム及びモリブデンを含み、上記モリブデンに対する上記リチウムのモル比(Li/Mo)が4以上である。
【0035】
なお、非水電解質蓄電素子中の負極活物質においては、充放電の際にリチウムが吸蔵又は放出される。従って、非水電解質蓄電素子中の負極活物質のリチウムの組成比率は、充放電の繰り返しに伴って変動し、通常増加していく傾向にある。従って、上記モル比(Li/Mo)は、4以上である限り、特に限定されるものではなく、また、負極活物質としての性能等に大きな影響を与えるものでは無い。上記複合酸化物(a)におけるモル比(Li/Mo)の上限としては、例えば10であり、6、5又は4.5であってよい。また、充放電を行う前の状態の複合酸化物(a)などにおいては、このモル比(Li/Mo)は、実質的に4であってもよい。
【0036】
上記複合酸化物(a)に含まれるモリブデンの価数は、通常、+6である。但し、その他の価数(例えば、+3等)が含まれていてもよいし、他の価数であってもよい。
【0037】
上記複合酸化物(a)における酸素(O)の含有量としては、特に限定されず、通常、金属元素の組成比や金属元素の価数などから決定される。但し、酸素不足又は酸素過多の酸化物となる場合もあるため、金属元素の組成及び価数のみで定まるものでもない。上記複合酸化物(a)におけるモリブデンに対する酸素のモル比(O/Mo)の下限としては、2が好ましく、4がより好ましく、5がさらに好ましい。一方、このモル比(O/Mo)の上限としては、8が好ましく、6がより好ましく、5.5がさらに好ましい。このモル比(O/Mo)は、実質的に5であってよい。
【0038】
上記複合酸化物(a)は、本発明の作用効果に影響を与えない範囲で、Li、Mo及びO以外の他の任意元素を含有していてもよい。このような任意元素としては、コバルト、マンガン、ニッケル、鉄等の遷移金属元素、ナトリウム、カルシウム等の典型金属元素、ハロゲン、窒素等の非金属元素が挙げられる。これらの任意元素の含有量の上限としては、例えばモリブデン(100モル%)に対して、10モル%が好ましいこともあり、1モル%がより好ましいこともあり、0.1モル%が特に好ましいこともある。この任意元素は、実質的に含有されていなくてもよい。任意元素の含有割合が低いことで、体積エネルギー密度がより高まる傾向にある。
【0039】
上記複合酸化物(a)は、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又はこれらの組み合わせである金属元素(α)をさらに含むことが好ましい。金属元素(α)を含むことで、充放電サイクル後の容量維持率や充放電ヒステリシスが改善される。金属元素(α)の中でも、チタン、マンガン、鉄及びニッケルが好ましく、マンガン、鉄及びニッケルがより好ましく、鉄がさらに好ましい。
【0040】
上記複合酸化物(a)におけるモリブデンと金属元素(α)との合計含有量に対する金属元素(α)の含有量の下限としては、5モル%が好ましく、8モル%がさらに好ましい。金属元素(α)の含有量を上記下限以上とすることで、容量維持率をより高めることができる。一方、この金属元素(α)の含有量の上限としては、30モル%が好ましく、20モル%がより好ましく、15モル%がさらに好ましい。金属元素(α)の含有量を上記上限以下とすることで、十分な体積エネルギー密度や充放電ヒステリシスの小ささを備えることができる。
【0041】
上記複合酸化物(a)におけるLi、Mo、O及び金属元素(α)以外の元素の含有量の上限としては、例えばモリブデン(100モル%)に対して、10モル%が好ましく、1モル%がより好ましく、0.1モル%が特に好ましい。
【0042】
上記複合酸化物(a)は、下記式(1)で表されるものが好ましい。
LiMoO ・・・(1)
(式(1)中、x≧4、y>0である。)
【0043】
上記xの上限は、例えば10であり、6、5又は4.5であってよい。また、xは4であってもよい。
【0044】
上記yの下限は、2が好ましく、4がより好ましく、5がさらに好ましい。上記yの上限は8が好ましく、6がより好ましく、5.5がさらに好ましい。また、yは5であってよい。
【0045】
上記複合酸化物(a)は、下記式(2)で表されるものも好ましい。
Lix’Mo(1-z)y’ ・・・(2)
(式(2)中、x’≧4(1-z)、y’>0、0≦z<1である。)
【0046】
上記x’の上限は、例えば10であり、6であってよく、5、4.5又は4であってもよい。上記x’の下限はzに依存するが、例えば3であってよく、3.5であってもよい。
【0047】
上記y’の下限は、2が好ましく、4がより好ましく、4.5がさらに好ましい。上記y’の上限は8が好ましく、6がより好ましく、5がさらに好ましい。
【0048】
上記zは、容量維持率などの点からは、0より大きいことが好ましい。このとき、上記zの下限は、0.05が好ましく、0.08がより好ましい。上記zの上限は、0.3が好ましく、0.2がより好ましく、0.15がさらに好ましい。一方、上記zが0のとき、上記式(2)は、上記式(1)と同義である。
【0049】
上記複合酸化物(a)の結晶構造は特に限定されず、例えば空間群P-1、Pbnm、R-3、Fm-3m等に帰属可能な結晶構造であってよく、また、明確な結晶構造が確認できなくてもよい。上記複合酸化物(a)は、空間群P-1に帰属可能な結晶構造を有することが好ましい。なお、このとき、上記複合酸化物(a)は、他の相(結晶構造)をさらに含んでいてもよい。
【0050】
上記複合酸化物(a)における結晶格子定数は特に限定されないが、例えばa、b、c、α、β及びγは、それぞれ以下の範囲であることが好ましい。
【0051】
aの下限としては、4.8Åが好ましく、5.0Åがより好ましく、5.1Åがさらに好ましい。aの上限としては、5.4Åが好ましく、5.3Åがより好ましく、5.2Åがさらに好ましい。
【0052】
bの下限としては、7.3Åが好ましく、7.5Åがより好ましく、7.7Åがさらに好ましい。bの上限としては、8.1Åが好ましく、8.0Åがより好ましく、7.9Åがさらに好ましい。
【0053】
cの下限としては、4.8Åが好ましく、4.9Åがより好ましく、5.0Åがさらに好ましい。cの上限としては、5.3Åが好ましく、5.2Åがより好ましい。
【0054】
αの下限としては、97°が好ましく、99°がより好ましく、101°がさらに好ましい。αの上限としては、107°が好ましく、105°がより好ましく、103°がさらに好ましい。
【0055】
βの下限としては、96°が好ましく、99°がより好ましく、101°がさらに好ましい。βの上限としては、107°が好ましく、105°がより好ましく、104°がさらに好ましい。
【0056】
γの下限としては、103°が好ましく、105°がより好ましく、107°がさらに好ましい。γの上限としては、114°が好ましく、112°がより好ましく、110°がさらに好ましい。
【0057】
各結晶格子定数が上記範囲であることで、さらに体積エネルギー密度を高め、非水電解質蓄電素子の充放電ヒステリシスを小さくすることができる。
【0058】
上記複合酸化物(a)の合成方法は特に限定されず、固相法等の公知の方法により合成することができる。例えば、炭酸リチウム等のリチウム含有化合物と、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等のモリブデンを含む酸化物とを、所望するモル比で混合し焼成することなどにより複合酸化物(a)を得ることができる。なお、焼成後に得られる焼成物、すなわち複合酸化物(a)は、通常粉砕して用いられるが、この複合酸化物(a)は比較的小さいエネルギーで粉砕することができる。すなわち、比較的小さいエネルギーで粉砕しても、高いエネルギー密度を有する負極活物質(A)を得ることができる。また、モリブデンを含む酸化物として、三酸化モリブデンと比べて二酸化モリブデンを使用した方が、焼成時に昇華が生じ難いことなどにより、純度の高い目的物を得ることができる。従って、二酸化モリブデンを原料として得られた複合酸化物(a)を用いた非水電解質蓄電素子は、容量維持率や充放電ヒステリシスがより改善される。一方、理由は定かでは無いが、三酸化モリブデンを原料として得られた複合酸化物(a)を用いた場合、初期の放電容量の大きい非水電解質蓄電素子が得られる。
【0059】
複合酸化物(a)が金属元素(α)をさらに含有する場合、例えばリチウム含有化合物とモリブデンを含む酸化物とから得られた複合酸化物を、さらに金属元素(α)を含む酸化物等と混合して焼成することなどにより得ることができる。また、リチウム含有化合物と、モリブデンを含む酸化物と、金属元素(α)を含む酸化物等とを混合して焼成することによっても得ることができる。
【0060】
なお、合成のための焼成の際、リチウムの揮発が生じる場合がある。従って、このような焼成に伴うリチウムの揮発を見込んで、目標組成に対して、リチウム含有化合物を数モル%程度(例えば1モル%以上20モル%以下)過剰に仕込むことが好ましい。
【0061】
当該負極活物質(A)は、上記複合酸化物(a)のみから構成されていてもよいが、上記複合酸化物(a)以外の他の負極活物質が含まれていてもよい。他の負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料などが挙げられる。また、当該負極活物質(A)は、他の負極活物質として、モリブデンに対するリチウムのモル比(Li/Mo)が4未満である複合酸化物や、その他の複合酸化物を含有していてもよい。
【0062】
当該負極活物質(A)における上記複合酸化物(a)の含有率の下限としては、50質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましく、99質量%がよりさらに好ましい。上記複合酸化物(a)の含有率を高めることで、体積エネルギー密度をより高め、また、非水電解質蓄電素子のヒステリシスをより小さくすることができる。
【0063】
<負極活物質(B)>
本発明の一実施形態に係る負極活物質(B)は、リチウム及びモリブデンを含み、ICDD(登録商標)が提供するPDFカード番号01-088-0757に帰属可能な複合酸化物(b)を含有する非水電解質蓄電素子用の負極活物質である。
【0064】
当該負極活物質(B)に含有される複合酸化物(b)は、ICDD(登録商標)が提供するPDFカード番号01-088-0757に帰属可能な結晶構造を有すること、及びモリブデンに対するリチウムのモル比(Li/Mo)が4以上でなくてもよいこと以外は、上述した複合酸化物(a)と同様である。上記複合酸化物(b)は、他の相(結晶構造)をさらに含んでいてもよい。上記複合酸化物(b)におけるモル比(Li/Mo)の下限としては、4が好ましい。上記複合酸化物(b)におけるモル比(Li/Mo)の上限としては、例えば10であり、6であってよい。また、充放電を行う前の状態の複合酸化物(b)などにおいては、このモル比(Li/Mo)は、実質的に4であってもよい。
【0065】
その他、複合酸化物(b)における好ましい成分組成(化学式)、好ましい結晶格子定数、合成方法等は、上述した複合酸化物(a)と同様である。
【0066】
当該負極活物質(B)は、上記複合酸化物(b)のみから構成されていてもよいが、上記複合酸化物(b)以外の他の負極活物質が含まれていてもよい。他の負極活物質としては、負極活物質(A)に含まれていてもよい他の負極活物質として例示したものと同様のものなどを挙げることができる。
【0067】
当該負極活物質(B)における上記複合酸化物(b)の含有率の下限としては、50質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましく、99質量%がよりさらに好ましい。上記複合酸化物(b)の含有率を高めることで、体積エネルギー密度をより高め、また、非水電解質蓄電素子のヒステリシスをより小さくすることができる。
【0068】
<負極>
本発明の一実施形態に係る負極は、上記負極活物質(負極活物質(A)又は負極活物質(B))を含有する。なお、1種の負極活物質が、負極活物質(A)及び負極活物質(B)の双方に該当する場合がある。例えば、リチウム及びモリブデンを含み、上記モリブデンに対する上記リチウムのモル比が4以上であり、ICDD(登録商標)が提供するPDFカード番号01-088-0757に帰属可能な複合酸化物を含有する非水電解質蓄電素子用の負極活物質は、上記負極活物質(A)及び負極活物質(B)の双方に該当する。
【0069】
上記負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層を有する。
【0070】
上記負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。また、負極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0071】
中間層は、負極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで負極基材と負極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10Ω・cm超であることを意味する。
【0072】
負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。また、負極活物質層を形成する負極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0073】
上記負極活物質として、上述した負極活物質(A)又は負極活物質(B)が用いられる。上記負極活物質層における負極活物質の含有量としては、例えば50質量%以上98質量%以下とすることができる。
【0074】
上記導電剤としては、電池性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックスなどが挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0075】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子などが挙げられる。
【0076】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0077】
上記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラスなどが挙げられる。
【0078】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)は、上記負極を備える。以下、蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0079】
当該二次電池は、正極、負極及び非水電解質を備える。当該二次電池における正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体(「発電要素」等とも称される。)を構成する。この電極体はケース(電槽)に収納され、このケース内に非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、蓄電素子(二次電池)のケースとして通常用いられる公知の金属ケース、樹脂ケース等を用いることができる。
【0080】
上記正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。上記中間層は、上述した負極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0081】
上記正極基材は、導電性を有する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐酸化性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0082】
上記正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上述した負極活物質層と同様のものを用いることができる。
【0083】
正極活物質としては、非水電解蓄電素子(二次電池)の正極活物質として従来公知のものが用いられる。具体的な正極活物質としては、例えばLiMO(Mは、Mo以外の少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα―NaFeO型結晶構造を有するLiCoO,LiNiO,LiMnO,LiNiαCo(1-α),LiNiαMnβCo(1-α-β)等、スピネル型結晶構造を有するLiMn,LiNiαMn(2-α)等)、LiM’(XO(M’は、Mo以外の少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO,LiMnPO,LiNiPO,LiCoPO,Li(PO,LiMnSiO,LiCoPOF等)が挙げられる。
【0084】
上記負極は、上述したように、本発明の一実施形態に係る上記負極が用いられる。負極の詳細は上述した通りである。
【0085】
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも多孔質樹脂フィルムが好ましい。多孔質樹脂フィルムの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。また、これらの樹脂とアラミドやポリイミド等の樹脂とを複合した多孔質樹脂フィルムを用いてもよい。
【0086】
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機層が配設されていても良い。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダーとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。
【0087】
上記非水電解質としては、非水電解質蓄電素子(二次電池)に通常用いられる公知の非水電解質が使用できる。上記非水電解質としては、非水溶媒に電解質塩が溶解されたものを用いることができる。
【0088】
上記非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネートなどを挙げることができる。
【0089】
上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。上記リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。
【0090】
上記非水電解質として、常温溶融塩、イオン液体、ポリマー固体電解質などを用いることもできる。
【0091】
当該二次電池における充電終止電圧における負極電位は特に制限されず、求められる電池特性等に応じて適宜設定することができる。当該二次電池の通常使用時の充電終止電圧における負極電位の下限は0V(vs.Li/Li)であってよいが、0.05V(vs.Li/Li)が好ましく、0.1V(vs.Li/Li)がより好ましく、0.3V(vs.Li/Li)がさらに好ましい。通常使用時の充電終止電圧における負極電位を上記下限以上とすることで、充放電ヒステリシスをより小さくすることができ、また、負極へのリチウムの析出を抑制することができる。加えて、通常使用時の充電終止電圧における負極電位を上記下限以上、特に0.3V(vs.Li/Li)以上とすることで、充放電の繰り返しに伴う平均放電電位の上昇を抑制することができる。このような場合、充放電の繰り返しによっても充放電サイクル曲線の形状変化が小さく、安定的な充放電を繰り返して行うことができる。なお、当該二次電池の通常使用時の充電終止電圧における負極電位の上限としては、例えば0.8V(vs.Li/Li)であってよく、0.5V(vs.Li/Li)であってよく、0.3V(vs.Li/Li)であってもよい。通常使用時の充電終止電圧における負極電位を上記上限以下とすることで、負極活物質体積当たりのエネルギー密度や放電容量が高まり、十分な放電容量を備えることができる。
【0092】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
当該非水電解質蓄電素子は、上記負極活物質を含有する負極を用いることによって製造することができる。すなわち、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、上記負極活物質(負極活物質(A)又は負極活物質(B))を含有する負極を用いる非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【0093】
当該製造方法は、例えば、正極を作製する工程、負極を作製する工程、非水電解質を調製する工程、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、正極及び負極(電極体)を電池容器に収容する工程、並びに上記電池容器に上記非水電解質を注入する工程を備える。注入後、注入口を封止することにより非水電解質二次電池(非水電解質蓄電素子)を得ることができる。当該製造方法によって得られる非水電解質蓄電素子(二次電池)を構成する各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0094】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0095】
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1(非水電解質二次電池)の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示す非水電解質蓄電素子1は、電極体2が容器3(電池容器)に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質(上記負極活物質(A)又は負極活物質(B))を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。また、容器3には、非水電解質が注入されている。
【0096】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質蓄電素子1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例
【0097】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
[実施例1](三酸化モリブデンを用いたLiMoOの合成)
炭酸リチウム(LiCO)(ナカライテスク社製)及び三酸化モリブデン(MoO)(高純度化学社製)をLi:Moのモル比が4:1となるように秤取した。これらを直径5mmのジルコニア製ボールが90g(約250個)入った内容積80mLのジルコニア製ポットに投入し、蓋をした。これを遊星型ボールミル(FRITSCH社の「pulverisette 5」)にセットし、公転回転数120rpmで9分混合した後に1分間の休止を入れる操作を計6回繰り返した。次いで、蓋をあけて、ポット内の混合物を薬さじでかき混ぜ、再度、公転回転数120rpmで9分混合した後に1分間の休止を入れる操作を計2回繰り返した。次いで、この混合粉体をアルミナ製るつぼに載置し、このるつぼを卓上真空・ガス置換炉(デンケン・ハイデンタル社の「KDF75」)に設置した。次いで、空気流中、常圧下、10時間で常温から950℃まで昇温し、この温度で4時間保持した後、室温まで自然放冷した。その後、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、組成式LiMoOで表されるリチウムモリブデン複合酸化物(負極活物質)を作製した。
【0099】
[比較例1]
三酸化モリブデン(MoO)(高純度化学社製)を準備した。
【0100】
[比較例2](LiMo17の合成)
MoO及びLiCOをLi:Moのモル比が4:5になるように秤量したこと、並びに常温から500℃まで10hかけて昇温し、500℃で52h保持したことを除いては、実施例1と同様の手順で、組成式LiMo17で表されるリチウムモリブデン複合酸化物を作製した。
【0101】
[比較例3](LiMoOの合成)
MoO及びLiCOをLi:Moのモル比が2:1になるように秤量したこと、並びに常温から600℃まで10hかけて昇温し、600℃で4h保持したことを除いては、実施例1と同様の手順で、組成式LiMoOで表されるリチウムモリブデン複合酸化物を作製した。
【0102】
[複合酸化物の解析]
実施例1、及び比較例1~3の複合酸化物又は酸化物について、以下の方法にて解析を行った。X線回折装置(Rigaku社の「MiniFlex II」)を用いて粉末X線回折測定を行った。線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとし、回折X線は厚み30μmのKβフィルターを通し高速一次元検出器(型番:D/teX Ultra 2)にて検出した。サンプリング幅は0.01°、スキャンスピードは5°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとした。得られたX線回折データについて、上記総合粉末X線解析ソフトウェア「PDXL」(Rigaku社製)を用いて解析を実施した。
【0103】
上記解析によって得られた各複合酸化物又は酸化物の結晶構造が帰属する空間群、及び格子定数を表1に示す。また、実施例1及び比較例1~3に係る各複合酸化物又は酸化物のX線回折図を図3に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
実施例1の複合酸化物(LiMoO)は、PDFカード番号01-088-0757に帰属可能な結晶構造を有することが確認できる。また、比較例1(MoO)、比較例2(LiMo17)、及び比較例3(LiMoO)の結晶構造は、それぞれ、PDFカード番号00-000-1672、01-088-1122、及び00-012-0763に帰属可能である。
【0106】
[二次電池(試験電池)の作製]
実施例1又は比較例1~3の複合酸化物又は酸化物を負極活物質として用い、以下の要領で非水電解質蓄電素子である二次電池を作製した。合成した複合酸化物の粉末2.275gとアセチレンブラック(AB)0.700gとをそれぞれ秤取した。これらを直径5mmのジルコニア製ボールが90g(約250個)入った内容積80mLのジルコニア製ポットに投入した。このポットにさらにアセトン10mLを投入し、アルゴン雰囲気を維持したグローブボックス中で蓋をした。これを遊星型ボールミル(FRITSCH社の「pulverisette 5」)にセットし、公転回転数100rpmで9分混合した後に1分間の休止を入れる操作を計6回繰り返した。この混合物を乾燥機で75℃で3時間以上乾燥し、混合粉体を調製した。この混合粉体2.55g、PVDFの12質量%N-メチルピロリドン(NMP)溶液及びNMPを所定のプラスチック容器に入れ、アルゴン雰囲気を維持したグローブボックス中で蓋をした。これを撹拌脱泡装置(シンキー社の「あわとり練太郎」)にセットし、2000rpmで十分に混練することで、N-メチルピロリドン(NMP)を分散媒とするスラリーを調整した。スラリー中の負極活物質、AB及びPVDFの質量比は65:20:15である。このスラリーを厚さ20μmの銅箔基材の片面に塗布した。これを80℃のホットプレート上で60分乾燥して分散媒を蒸発させた後、ロールプレスを行うことで負極を得た。
【0107】
上記負極を作用極として試験電池(ハーフセル)を組立て、負極としての挙動を評価した。単独挙動を正確に観察する目的のため、対極には金属リチウムをニッケル箔基材に密着させたものを用いた。ここで、作用極(負極)の容量が対極によって制限されないように、十分な量の金属リチウムを配置した。電解質として、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジメチルカーボネート(DMC)が体積比6:7:7である混合溶媒に濃度が1mol/LとなるようにLiPFを溶解させた溶液を用いた。セパレータとして、ポリアクリレートで表面改質したポリプロピレン製の微孔膜を用いた。外装体には、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用い、作用極(負極)端子及び対極端子の開放端部が外部露出するように作用極(負極)及び対極を収納した。次いで、上記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を注液孔となる部分を除いて気密封止し、上記電解液を注液後、注液孔を封止した。
【0108】
[充放電試験]
以下の試験は作用極と対極との間で電圧制御を行ったが、対極における金属リチウムの溶解・析出反応抵抗が極めて低いことから、充放電中の端子間電圧は、金属リチウムを用いた参照極に対する作用極(負極)の電位と等しいとみなすことができる。また、以下の試験では、複合酸化物を負極活物質として評価することを目的としているため、上記複合酸化物等に対して電気化学的にリチウムイオンが吸蔵される反応である還元方向に通電する操作から開始した。
【0109】
得られた二次電池を25℃に設定した恒温槽内で充放電した。充電は定電流定電圧(CCCV)充電とし、充電下限電位は0.0V(vs.Li/Li)、0.05V(vs.Li/Li)、0.1V(vs.Li/Li)又は0.2V(vs.Li/Li)とした。充電終止条件は、充電電流が2mA/gに減衰した時点又は充電下限電位に到達してから15時間を経過した時点とした。放電は定電流(CC)放電とし、放電終止電位は3.0V(vs.Li/Li)とした。充電及び放電の定電流値は、負極が含有する負極活物質の質量に対して50mA/gとした。各サイクルにおいて、充電後及び放電後に10分間の休止時間を設定した。このサイクルを2サイクル実施した。
【0110】
実施例1の充放電サイクル試験における2サイクル目における平均放電電位、放電容量及び負極活物質体積あたりのエネルギー密度を表2に示す。表2には、参考値として、一般的な負極活物質である黒鉛の実績値(電位範囲0.01-1.2V(vs.Li/Li))を併記している。なお、エネルギー密度は充放電の際の電位範囲によって大きく変わるが、本実施例においては、1,000mWh/cm以上であれば、負極活物質は十分なエネルギー密度を有すると判断した。
【0111】
なお、放電容量、及び負極活物質体積あたりのエネルギー密度は、含有するアセチレンブラック(AB)の寄与分を除いて算出した値である(以下、同様)。具体的な算出方法を図4に基づいて説明する。図4は、作用極(負極)の平均放電電位、放電容量密度、及びエネルギー密度の算出方法を説明するための図であって、実施例に係る二次電池で観測された放電曲線に、「AB電池」の放電曲線を重ねてプロットしたものである。ここで、「AB電池」とは、複合酸化物に代えて電気化学的に不活性なAlを用いたこと以外は上記と同様の手順で作製した試験電池である。図4において実線で表される曲線は、一例として実施例1に係る電池で観測された放電曲線であり、破線で表される曲線は、AB電池の放電曲線である。ここで、AB電池の放電容量(mAh/g)は、観測された放電容量(mAh)をAlの質量(g)で除した値としている。
作用極(負極)の平均放電電位は、図の(1)に相当する領域、すなわち観測された放電曲線、直線V=0、直線Q=(観測された放電容量)に囲まれた領域の面積(単位:mWh/g)を観測された放電容量(単位:mAh/g)で除した値として求めた。
作用極(負極)の放電容量密度は、負極合材が含有しているアセチレンブラック(AB)の寄与分を差し引いて評価することとした。実施例に係る二次電池で観測された放電容量から、ABの寄与分に相当する放電容量を差し引いた値を、ABを除く負極活物質の質量で除することにより、負極活物質質量あたりの放電容量密度(mAh/g)として求めた。
作用極(負極)のエネルギー密度は、放電電位が放電中常に3.5V(vs.Li/Li)で一定である正極と組み合わせた二次電池を仮定し、その電池の放電エネルギー密度として算出した。但し、負極合材が含有しているアセチレンブラック(AB)の寄与分を差し引いた。つまり、図4の(2)+(3)に相当する領域、すなわち観測された放電曲線、直線Q=0、直線V=3.5、及び直線Q=(観測された放電容量)で囲まれた面積(mWh/g)から、図の(3)に相当する領域、すなわちABの寄与分に相当する放電曲線、直線Q=0、直線V=3.5、及び直線Q=(ABの寄与分に相当する放電容量)で囲まれた面積を引いた値を、作用極(負極)の質量あたりのエネルギー密度(mWh/g)として求めた。これと活物質の真密度との積を、作用極(負極)の体積エネルギー密度(mWh/cm)とした。
【0112】
【表2】
【0113】
表2に示されるように、実施例1の複合酸化物(負極活物質)は、十分な体積エネルギー密度を有し、さらに、この体積エネルギー密度は黒鉛の値よりも高いことが分かる。
【0114】
また、実施例1及び比較例1~3の充放電サイクル試験における2サイクル目における平均放電電位、及び充放電ヒステリシス(平均充電電位と平均放電電位との差)を表3に示す。また、実施例1及び比較例3において、充電下限電位を0.1V(vs.Li/Li)としたときの2サイクル目の充放電カーブを図5に示す。なお、図5において、横軸は、充電状態を表わすSOC、又は放電深度を表わすDODとしており、2サイクル目の放電容量を100%として計算している。
【0115】
【表3】
【0116】
表3及び図5に示されるように、実施例1は、比較例1~3と比較して平均放電電位が低く、充放電ヒステリシスが小さいことが分かる。また、充電下限電位を高くすることで、平均放電電位がより低くなり、充放電ヒステリシスがより小さくなることが分かる。
【0117】
[充放電試験後XRDの測定]
また、実施例1の複合酸化物について、2サイクルの充放電試験後のX線回折測定を行った。なお、充放電試験後については、上記充放電試験(0.1-3.0V)の方法に準じて充放電を行った。充放電試験後、負極を取出してジメチルカーボネートで洗浄し、乾燥した後、負極のまま、アルゴン雰囲気を維持するための専用の装置(汎用雰囲気セパレータ)(Rigaku社製)に設置し、スキャンスピードを2°/minとすること以外は上記と同じ条件でXRDを測定した。また、上記方法と同様にして、得られたX線回折データについて、総合粉末X線解析ソフトウェア「PDXL」(Rigaku社製)による解析を実施した。2サイクル後の実施例1の複合酸化物のX線回折図を図6に示す。また、上記表1のサイクル前の実施例1の複合酸化物の値と共に、サイクル後の実施例1の複合酸化物の結晶格子定数を表4に示す。
【0118】
【表4】
【0119】
表4に示されるように、2サイクルの充放電試験後においても、空間群P-1に帰属可能な、かつPDFカード番号01-088-0757に帰属可能な結晶構造が維持されていることが確認できた。
【0120】
[参考例1](LiWOの合成)
炭酸リチウム(LiCO)(ナカライテスク社製)及び三酸化タングステン(WO)(高純度化学社製)をLi:Wのモル比が約4:1となるように秤量した。これらを直径5mmのジルコニア製ボールが90g(約250個)入った内容積80mLのジルコニア製ポットに投入した。このポットにさらにエタノール10mLを投入し、蓋をして、遊星型ボールミル(FRITSCH社の「pulverisette 5」)にセットし、公転回転数300rpmで9分混合した後に1分間の休止を入れる操作を計6回繰り返した。この混合物を75℃の乾燥機で3時間以上乾燥し、混合粉体を調製した。この混合粉体を、容量30mLのアルミナ製るつぼ(型番:1-7745-07)に載置し、卓上真空・ガス置換炉(型番:KDF75)に設置し、空気気流中、常圧下、常温から950℃まで10hかけて昇温し、950℃で4h保持した。焼成後の粉末を取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、組成式LiWOで表される参考例1に係るリチウムタングステン複合酸化物を作製した。
【0121】
上記リチウムタングステン酸化物の粉末2.275gとアセチレンブラック(AB)0.700gとをそれぞれ秤取した。これらを直径5mmのジルコニア製ボールが90g(約250個)入った内容積80mLのジルコニア製ポットに投入した。このポットにさらにエタノール10mLを投入し、蓋をした。これを遊星型ボールミル(FRITSCH社の「pulverisette 5」)にセットし、表5に記載の公転回転数で9分混合した後に1分間の休止を入れる操作を計6回繰り返した。この混合物を乾燥機で75℃で3時間以上乾燥し、混合粉体を調製した。以後の工程については、実施例1と同様にして二次電池(試験電池)を作製した。得られた各二次電池について、上記と同様の方法にて、充放電試験を行い、放電容量及び負極活物質体積あたりのエネルギー密度を求めた。上記した実施例1の結果及び黒鉛の値とあわせて、測定結果を表5に示す。
【0122】
【表5】
【0123】
表5に示されるように、実施例1の複合酸化物(LiMoO)は、参考例1の複合酸化物(LiWO)と比べて放電容量及び負極活物質体積あたりのエネルギー密度が高い。特に、参考例1の複合酸化物(LiWO)においては、黒鉛よりも高容量化及び高エネルギー密度化させるためには、大きなエネルギーで粉砕させる必要があるが、実施例1の複合酸化物(LiMoO)においては、小さなエネルギーでの粉砕でも、高容量化及び高エネルギー密度化が達成できることが分かる。
【0124】
[実施例2](二酸化モリブデンを用いたLiMoOの合成)
炭酸リチウム(LiCO)(ナカライテスク社製)及び二酸化モリブデン(MoO)(高純度化学社製)をLi:Moのモル比が4.4:1となるように秤取した。これらを直径5mmのジルコニア製ボールが90g(約250個)入った内容積80mLのジルコニア製ポットに投入した。このポットにさらにアセトン10mLを投入し、アルゴン雰囲気を維持したグローブボックス中で蓋をした。これを遊星型ボールミル(FRITSCH社の「pulverisette 5」)にセットし、公転回転数300rpmで9分混合した後に1分間の休止を入れる操作を計6回繰り返した。この混合物を乾燥機で75℃で3時間以上乾燥し、混合粉体を調製した。次いで、この混合粉体をアルミナ製るつぼに載置し、このるつぼを卓上真空・ガス置換炉(デンケン・ハイデンタル社の「KDF75」)に設置した。次いで、窒素気流中、常圧下、10時間で常温から950℃まで昇温し、この温度で4時間保持した後、室温まで自然放冷した。その後、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、組成式LiMoOで表されるリチウムモリブデン複合酸化物(負極活物質)を作製した。
【0125】
[実施例3](リチウムモリブデンマンガン複合酸化物の合成)
炭酸リチウム(LiCO)(ナカライテスク社製)、二酸化モリブデン(MoO)(高純度化学社製)、及び四三酸化マンガン(Mn)(高純度化学社製)をLi:Mo:Mnのモル比が4.16:0.9:0.1となるように秤取したこと以外は実施例2と同様にして、組成式0.9LiMoO-0.1LiMnO(Li3.8Mo0.9Mn0.14.8)で表されるリチウムモリブデンマンガン複合酸化物(負極活物質)を作製した。
【0126】
[実施例4](リチウムモリブデン鉄複合酸化物の合成)
炭酸リチウム(LiCO)(ナカライテスク社製)、二酸化モリブデン(MoO)(高純度化学社製)、及び四三酸化鉄(Fe)(高純度化学社製)をLi:Mo:Feのモル比が4.06:0.9:0.1となるように秤取したこと以外は実施例2と同様にして、組成式0.9LiMoO-0.1LiFeO(Li3.7Mo0.9Fe0.14.7)で表されるリチウムモリブデン鉄複合酸化物(負極活物質)を作製した。
【0127】
[実施例5](リチウムモリブデンニッケル複合酸化物の合成)
炭酸リチウム(LiCO)(ナカライテスク社製)、二酸化モリブデン(MoO)(高純度化学社製)、及び一酸化ニッケル(NiO)(高純度化学社製)をLi:Mo:Niのモル比が3.96:0.9:0.1となるように秤取したこと以外は実施例2と同様にして、組成式0.9LiMoO-0.1NiO(Li3.6Mo0.9Ni0.14.6)で表されるリチウムモリブデンニッケル複合酸化物(負極活物質)を作製した。
【0128】
[実施例6](リチウムモリブデンチタン複合酸化物の合成)
炭酸リチウム(LiCO)(ナカライテスク社製)、二酸化モリブデン(MoO)(高純度化学社製)、及び一酸化チタン(TiO)(高純度化学社製)をLi:Mo:Tiのモル比が3.96:0.9:0.1となるように秤取したこと以外は実施例2と同様にして、組成式0.9LiMoO-0.1TiO(Li3.6Mo0.9Ti0.14.6)で表されるリチウムモリブデンチタン複合酸化物(負極活物質)を作製した。
【0129】
[複合酸化物の解析]
実施例2~6の各複合酸化物について、実施例1等と同様に、結晶構造の解析を実施した。実施例2~6の各複合酸化物のX線回折図を図7に示す。実施例2~6のいずれの複合酸化物も空間群P-1に帰属可能な結晶構造を有することが確認できる。実施例2~6の各複合酸化物の格子定数を表6に示す。実施例2~6のいずれの複合酸化物も、PDFカード番号01-088-0757に帰属可能な結晶構造(LiMoO相)を有することが確認できる。なお、実施例3は、LiMoO相に加え、少量のLi-Mo-Mn相(LiReO型構造)が確認できる。実施例4は、LiMoO相に加え、少量のLiMoFeO相(LiReO型構造)が確認できる。実施例5は、LiMoO相に加え、少量のLiMoO相及びNiO相が確認できる。実施例6は、LiMoO相に加え、少量のLiMoO相及びTiO相が確認できる。
【0130】
【表6】
【0131】
[二次電池(試験電池)の作製]
実施例2~6の複合酸化物を負極活物質として用い、上述した実施例1等と同様の要領で非水電解質蓄電素子である二次電池を作製した。
【0132】
実施例1~6の複合酸化物を用いて得られた二次電池を25℃に設定した恒温槽内で充放電した。充電は定電流定電圧(CCCV)充電とし、充電下限電位は0.0V(vs.Li/Li)、0.2V(vs.Li/Li)、0.4V(vs.Li/Li)、0.6V(vs.Li/Li)又は0.85V(vs.Li/Li)とした。充電終止条件は、充電電流が2mA/gに減衰した時点又は充電下限電位に到達してから15時間を経過した時点とした。放電は定電流(CC)放電とし、放電終止電位は3.0V(vs.Li/Li)とした。充電及び放電の定電流値は、負極が含有する負極活物質の質量に対して50mA/gとした。各サイクルにおいて、充電後及び放電後に10分間の休止時間を設定した。このサイクルを10サイクル実施した。実施例4(0.9LiMoO-0.1LiFeO)の放電曲線を図8~11に示す。図8は、電位範囲0.2-3.0V(vs.Li/Li)での放電曲線であり、図9は、電位範囲0.4-3.0V(vs.Li/Li)での放電曲線であり、図10は、電位範囲0.6-3.0V(vs.Li/Li)での放電曲線であり、図11は、電位範囲0.85-3.0V(vs.Li/Li)での放電曲線である。
【0133】
2サイクル目における放電容量、容量維持率、2サイクル目から10サイクル目における平均放電電位の上昇量、2サイクル目における平均放電電位、2サイクル目における充放電ヒステリシス、2サイクル目における負極活物質体積あたりのエネルギー密度、及び2サイクル目における負極活物質体積当たりの放電容量を表7に示す。なお、容量維持率は、2サイクル目の放電容量に対する10サイクル目の放電容量として算出した。
【0134】
【表7】
【0135】
表7に示されるように、同じ電位範囲での充放電サイクル(0.4-3.0V)で比較した場合、金属元素(α)であるMn、Fe、Ni又はTiを含む複合酸化物を用いた実施例3~6は、91%を超える高い容量維持率を有することがわかる。また、充電下限電位を0.3V(vs.Li/Li)以上とすることで、平均放電電位の上昇量が小さくなることがわかる。このことは、図8~11の放電曲線からも確認でき、充電下限電位が0.3V(vs.Li/Li)以上である図9~11においては、充放電サイクルの進行に伴う放電曲線形状の変化が小さい。一方、充電下限電位を0.8V(vs.Li/Li)以下とすることで、十分な放電容量を有することができることがわかる。
【0136】
なお、実施例1~6のいずれも、エネルギー密度が1,000mWh/cm以上であり、十分な体積エネルギー密度を有することがわかる。また、充電下限電位を0.8V(vs.Li/Li)以下とした場合、負極活物質体積当たりの放電容量は、いずれの実施例においても、黒鉛の値よりも高くなることがわかる。
【0137】
さらに、実施例1と実施例2とを比較すると、二酸化モリブデンを原料に用いた実施例2が、同じ電位範囲での充放電サイクルにおける容量維持率や充放電ヒステリシス等の点から良好な結果となった。一方、三酸化モリブデンを原料に用いた実施例1は、初期の放電容量に優れる結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質二次電池、及びこれに備わる電極、負極活物質などに適用できる。
【符号の説明】
【0139】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11