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特許7024416歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置
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  • 特許-歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置 図1A
  • 特許-歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置 図1B
  • 特許-歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置 図2
  • 特許-歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置 図3
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  • 特許-歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置 図8
  • 特許-歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置 図9
  • 特許-歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置 図10
  • 特許-歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置 図11
  • 特許-歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置 図12
  • 特許-歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置 図13A
  • 特許-歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置 図13B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 3/34 20060101AFI20220216BHJP
   B24B 53/00 20060101ALI20220216BHJP
   B24B 53/075 20060101ALI20220216BHJP
   B23F 21/04 20060101ALN20220216BHJP
【FI】
B24B3/34
B24B53/00 A
B24B53/075
B23F21/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018002467
(22)【出願日】2018-01-11
(65)【公開番号】P2019119030
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】張 琳
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚
(72)【発明者】
【氏名】竹下 吉次
(72)【発明者】
【氏名】中野 浩之
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-184324(JP,A)
【文献】特表平09-510404(JP,A)
【文献】特開2010-142883(JP,A)
【文献】特開昭63-251154(JP,A)
【文献】特開2014-046391(JP,A)
【文献】国際公開第2010/073944(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0213156(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B3/02;3/12;3/34;3/60
B24B53/00;53/075;53/08;53/085
B23F5/16-5/27
B23F19/06
B23F21/03-21/10;21/28
B23F23/00-23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車を切削加工する歯車加工用工具の外周に形成される複数の工具刃の刃側面を、円盤状に形成される砥石車で研磨する研磨加工の制御を行う制御装置を備える歯車加工用工具研磨装置であって、
前記制御装置は、
前記歯車加工用工具の工具刃の刃数及び前記歯車の歯の歯数に基づいて、一つの前記歯を切削加工する複数の前記工具刃を一つのグループとして決定する処理を、全ての前記歯に対して行うグループ決定部と、
決定した前記複数のグループのうち、重複していない前記グループ毎に当該グループに属する前記工具刃の刃側面を前記砥石車で研磨する研磨加工部と、
を備える、歯車加工用工具研磨装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記歯車加工用工具の工具素材に対して前記研磨加工の制御を行う、請求項1に記載の歯車加工用工具研磨装置。
【請求項3】
前記制御装置は、再研磨が必要な前記歯車加工用工具に対して前記研磨加工の制御を行う、請求項1に記載の歯車加工用工具研磨装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記歯車加工用工具の加工状態を解析する加工状態解析部、を備え、
前記研磨加工部は、前記歯車加工用工具の加工状態に基づいて、前記工具刃の刃側面を前記砥石車で研磨する、請求項3に記載の歯車加工用工具研磨装置。
【請求項5】
前記加工状態解析部は、前記歯車加工用工具で切削した前記歯車の数もしくは全切削加工時間を指標として前記歯車加工用工具の加工状態を解析する、請求項4に記載の歯車加工用工具研磨装置。
【請求項6】
前記加工状態解析部は、前記歯車加工用工具で切削した前記歯車の加工精度を指標として前記歯車加工用工具の加工状態を解析する、請求項4に記載の歯車加工用工具研磨装置。
【請求項7】
歯車を切削加工する歯車加工用工具の外周に形成される複数の工具刃の刃側面を、円盤状に形成される砥石車で研磨する歯車加工用工具研磨方法であって、
前記歯車加工用工具の工具刃の刃数及び前記歯車の歯の歯数に基づいて、一つの前記歯を切削加工する複数の前記工具刃を一つのグループとして決定する処理を、全ての前記歯に対して行うグループ決定工程と、
決定した前記複数のグループのうち、重複していない前記グループ毎に当該グループに属する前記工具刃の刃側面を前記砥石車で研磨する研磨加工工程と、
を備える、歯車加工用工具研磨方法。
【請求項8】
前記歯車を前記歯車加工用工具で切削する歯車加工装置であって、
請求項1-6の何れか一項に記載の歯車加工用工具研磨装置を備える、歯車加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コストの面から高速切削可能な歯車加工が望まれており、特許文献1に記載のようなスカイビング加工が知られている。スカイビング加工用の歯車加工用工具は、外周に複数の工具刃を有している。そして、スカイビング加工は、歯車素材の中心軸線(回転軸線)と歯車加工用工具の中心軸線(回転軸線)とを傾斜させた状態(歯車加工における交差角を有する状態)とし、歯車素材及び歯車加工用工具をそれぞれの中心軸線回りに同期回転させながら、歯車加工用工具を歯車素材の中心軸線方向に相対移動して歯車素材に歯車を創成する加工である。
【0003】
スカイビング加工により歯車加工用工具で創成される歯車の歯の一方側の歯側面は、歯の歯数と工具刃の刃数の比により、同一の工具刃で加工される場合と異なる工具刃で加工される場合がある。すなわち、一つの歯の一方側の歯側面は、複数の工具刃で加工される場合がある。これは、歯の他方側の歯側面においても同様である。なお、隣接する2つの歯の対向する歯側面(一方の歯の一方側の歯側面及び他方の歯の他方側の歯側面)が、複数の工具刃で加工される場合もある。
【0004】
一方、歯車加工用工具は、工具素材を砥石車で研磨することにより製作される。この研磨中においては、砥石車の磨耗により複数の工具刃の研磨精度が不均一になる場合がある。よって、一つの歯の一方側の歯側面及び他方側の歯側面においてうねりが発生し、歯車の加工精度が低下する傾向にある。特許文献2には、一つの歯の歯側面において発生するうねりを低減する加工方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4763611号公報
【文献】特開2013-220530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の加工方法は、スカイビング加工に適用することは困難である。よって、スカイビング加工においては、歯車加工用工具における複数の工具刃の研磨精度の均一性を向上できる歯車加工用工具研磨装置が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、歯車加工用工具における複数の工具刃の研磨精度の均一性を向上できる歯車加工用工具研磨装置、歯車加工用工具研磨方法及び歯車加工用工具研磨装置を備える歯車加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(歯車加工用工具研磨装置)
本発明に係る歯車加工用工具研磨装置は、歯車を切削加工する歯車加工用工具の外周に形成される複数の工具刃の刃側面を、円盤状に形成される砥石車で研磨する研磨加工の制御を行う制御装置を備える歯車加工用工具研磨装置であって、前記制御装置は、前記歯車加工用工具の工具刃の刃数及び前記歯車の歯の歯数に基づいて、一つの前記歯を切削加工する複数の前記工具刃を一つのグループとして決定する処理を、全ての前記歯に対して行うグループ決定部と、決定した前記複数のグループのうち、重複していない前記グループ毎に当該グループに属する前記工具刃の刃側面を前記砥石車で研磨する研磨加工部と、を備える。
【0009】
(歯車加工用工具研磨方法)
本発明に係る歯車加工用工具研磨方法は、歯車を切削加工する歯車加工用工具の外周に形成される複数の工具刃の刃側面を、円盤状に形成される砥石車で研磨する歯車加工用工具研磨方法であって、前記歯車加工用工具の工具刃の刃数及び前記歯車の歯の歯数に基づいて、一つの前記歯を切削加工する複数の前記工具刃を一つのグループとして決定する処理を、全ての前記歯に対して行うグループ決定工程と、決定した前記複数のグループのうち、重複していない前記グループ毎に当該グループに属する前記工具刃の刃側面を前記砥石車で研磨する研磨加工工程と、を備える。
【0010】
本発明に係る歯車加工用工具研磨装置及び歯車加工用工具研磨方法によれば、一つの歯の切削加工に関与する複数の工具刃をグループ化しているので、当該グループに属する複数の工具刃を連続して研磨すれば、当該複数の工具刃の研磨精度の均一性を向上できる。よって、歯車の歯の切削精度の低下を抑制できる。
【0011】
(歯車加工装置)
本発明に係る歯車加工装置は、上述の歯車加工用工具研磨装置を備えるので、歯車加工装置の機上において歯車加工用工具の研磨加工を制御できる。よって、歯車加工用工具を取り外さないで歯車の切削加工を続行できるので、切削加工効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】歯車加工用工具を研磨対象とし、砥石車を備える歯車加工用工具研磨装置の図である。
図1B図1AのIB方向から見た図である。
図2】歯車を切削するための歯車加工用工具であり、研磨対象としての歯車加工用工具の図である。
図3】歯車加工用工具を研磨するための砥石車の図である。
図4】切削対象としての歯車の側面図である。
図5】歯車を切削対象とし、歯車加工用工具を備える歯車加工装置の図である。
図6】歯車加工用工具研磨装置の制御装置を示す図である。
図7】歯車加工用工具研磨装置の制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図8】歯車の歯を歯車加工用工具の工具刃で切削するときの切削順を説明するための図である。
図9】歯車加工用工具の工具刃を砥石車で研磨するときの研磨順を説明するための図である。
図10図9の研磨順で研磨したときの歯車加工用工具の各工具刃の誤差を示す図である。
図11図10の歯車加工用工具の工具刃で切削したときの歯車の歯の状態を示す図である。
図12】歯車の歯の歯すじ方向の位置における歯車加工用工具の工具刃の切削関与の関係を示すテーブルである。
図13A図12のテーブルで決定した第一グループの工具刃の研磨状態を示す図である。
図13B図12のテーブルで決定した第二グループの工具刃の研磨状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.歯車加工用工具研磨装置)
本実施形態の歯車加工用工具研磨装置について図1A及び図1Bを参照して説明する。この歯車加工用工具研磨装置20は、後述する制御装置30(図6参照)を備え、歯車1(図4参照)を切削するための歯車加工用工具2の刃側面の研磨を砥石車3で行う装置である。本例では、歯車加工用工具研磨装置20は、後述する歯車加工装置10(図5参照)に配設され、歯車加工装置10の機上で歯車加工用工具2を研磨する。よって、歯車加工用工具2を取り外さないで歯車1の切削加工を続行できるので、切削加工効率を向上できる。ただし、歯車加工装置10とは別装置で構成することもできる。
【0014】
歯車加工用工具研磨装置20は、図示しないベッド上において、研磨対象である歯車加工用工具2を、歯車加工用工具2の中心軸線X2回り(θ22)に回転可能に支持する主軸ユニット21を備える。さらに、歯車加工用工具研磨装置20は、砥石車3を、砥石車3の中心軸線X3回り(θ3)に回転可能に支持する砥石台22を備える。
【0015】
ここで、図2図4を参照して、歯車加工用工具2、砥石車3及び歯車1の形状の概要について説明する。歯車加工用工具2の形状は、図2に示すように、中心軸線X2回りの外周に複数の工具刃2aを備える。歯車加工用工具2は、軸方向の端面にすくい面2sを備える。すくい面2sは、歯車加工用工具2の中心軸線X2を中心としたテーパ状としてもよいし、1つの工具刃2a毎に異なる方向を向く面状に形成してもよい。
【0016】
また、歯車加工用工具2の複数の工具刃2aの外接円は、円錐台形状に形成されている。つまり、複数の工具刃2aの先端面は、すくい面2sに対して、前逃げ角αを有する前逃げ面となる。従って、工具刃2aの一方端面から刃すじ方向(刃溝方向に等しい)に行くに従って、刃先面における歯車加工用工具2の中心軸線X2からの距離が徐々に小さくなっている。
【0017】
また、複数の工具刃2aの刃側面は、すくい面2sに対して、側逃げ角γを有する側逃げ面となる。さらに、複数の工具刃2aは、中心軸線X2に対してねじれ角βを有している。ただし、歯車1の歯1aのねじれ角と、歯車加工装置10での歯車1と歯車加工用工具2との交差角η(図1B参照)に応じて、工具刃2aのねじれ角βは適宜異なる。そこで、工具刃2aは、ねじれ角βを有しない場合も存在する。本例では、ねじれ角βと交差角ηは同一である。
【0018】
砥石車3は、図3に示すように、歯車加工用工具2を研磨対象として、歯車加工用工具2の工具刃2aの刃側面2b,2c(図2参照)及び必要に応じてすくい面2sを研磨する。砥石車3は、中心軸線X3回りの円盤状に形成される。ただし、砥石車3の外周面は、歯車加工用工具2の刃溝の形状に応じた形状に形成される。
【0019】
切削対象である歯車1の形状は、図4に示すように、中心軸線X1回りの周面に複数の歯1aを備える。そして、歯車1の歯1aの歯側面1b,1cが、歯車加工用工具2の工具刃2aで切削される。本実施形態では、歯車1は、外歯車を例に挙げるが、内歯車を適用することもできる。また、図4においては、歯車1は、平歯車を例に挙げるが、はすば歯車など種々の歯車を適用することができる。
【0020】
図1A及び図1Bに示すように、砥石台22は、主軸ユニット21に対して歯車加工用工具2の中心軸線X2と砥石車3の中心軸線X3とを直交させた状態から交差角ηだけ傾斜させる調整が可能であると共に、主軸ユニット21に対して直交3軸方向に相対移動可能である。砥石台22と主軸ユニット21との交差角ηは、歯車加工用工具2のねじれ角βに合わせて調整される。
【0021】
なお、主軸ユニット21と砥石台22とは、相対移動すればよく、主軸ユニット21が移動可能な構成としてもよい。そして、主軸ユニット21及び砥石台22が位置決めされることにより、歯車加工用工具2の中心軸線X2と砥石車3の中心軸線X3とが交差角ηを有する状態に位置決めされる。この状態で、歯車加工用工具2が中心軸線X2回り(θ22)に回転される。
【0022】
また、砥石車3は、中心軸線X3回り(θ3)に回転される。さらに、砥石車3は、歯車加工用工具2の回転に同期して、歯車加工用工具2の中心軸線X2方向(M31)、歯車加工用工具2の径方向(M32)、及び、歯車加工用工具2の回転接線方向(並進方向)(M33)に移動する。このようにして、歯車加工用工具2の工具刃2aの刃側面2b,2cが研磨される。
【0023】
砥石車3は、歯車加工用工具2の工具刃2aの刃すじに沿って回転しながら往復移動してもよいし、一方向のみに移動してもよい。また、本実施形態では、砥石車3は、歯車加工用工具2の工具刃2aの片側の刃側面2b又は2cをそれぞれ研磨するが、隣り合う工具刃2aの対向する刃側面2b,2cを同時に研磨してもよいし、歯車加工用工具2の回転方向が変わっても歯車加工用工具2の回転方向に合わせて上記研磨ができるように追従してもよい。
【0024】
(2.歯車加工装置)
次に、歯車1の歯側面1b,1cの切削を行う歯車加工装置10について、図5を参照して説明する。本実施形態においては、歯車加工装置10は、歯車加工用工具2でスカイビング加工により歯車1の歯1aを創成し、また、砥石車3で歯車加工用工具2の工具刃2aを創成もしくは再研磨する装置である。歯車加工装置10としては、例えば、マシニングセンタ、特に、回転工具を支持する主軸の他に、直交3軸及び回転2軸を有する5軸マシニングセンタが適用される。
【0025】
歯車加工装置10は、図示しないベッド上において直交3軸方向へ移動可能な主軸ユニット11と、主軸ユニット11の先端に取り付けられる歯車加工用工具2とを備える。従って、歯車加工用工具2は、歯車加工用工具2の中心軸線X2の回り(θ21)に回転可能となり、ベッドに対して直交3軸方向へ移動可能である。
【0026】
さらに、歯車加工装置10は、切削対象としての歯車1を支持する回転テーブル12を備える。回転テーブル12は、歯車1の中心軸線X1の回り(θ1)に歯車1を回転可能に支持する。回転テーブル12は、ベッドに対して、回転テーブル12の回転軸とは異なる1軸周りに揺動可能(チルト(傾斜)可能)に設けられる。つまり、回転テーブル12は、チルト(傾斜)可能なように歯車1を支持する。
【0027】
そして、主軸ユニット11及び回転テーブル12が位置決めされることにより、歯車1の中心軸線X1と歯車加工用工具2の中心軸線X2とが交差角を有する状態に位置決めされる。この状態で、歯車1が中心軸線X1回り(θ1)に回転される。歯車1の回転に同期して、歯車加工用工具2が、中心軸線X2回り(θ21)に回転されると共に、歯車1の中心軸線X1方向(M2)に相対的に移動させる。このようにして、歯車1が創成される。
【0028】
(3.歯車加工用工具研磨装置の制御装置)
次に、歯車加工用工具研磨装置20の制御装置30について説明する。この制御装置30は、歯車加工用工具2の複数の工具刃2aの精度の均一性を向上して歯車1の加工精度の低下を抑制する研磨加工を制御する装置である。
【0029】
すなわち、背景技術で述べたように、スカイビング加工により歯車加工用工具2で創成される歯車1の歯1aの一方側の歯側面1bは、歯1aの歯数と工具刃2aの刃数の比により、同一の工具刃2aで加工される場合と異なる工具刃2aで加工される場合がある。すなわち、一つの歯1aの一方側の歯側面1bは、複数の工具刃2aで加工される場合がある。これは、歯1aの他方側の歯側面1cにおいても同様である。
【0030】
具体的には、歯1aの一方側の歯側面1bに着目して説明する。例えば、図8に示すように、6つの歯1a(符号を時計回りに1a1,1a2,1a3,1a4,1a5,1a6と付す)を有する歯車1を反時計回りに回転させ、4つの工具刃2a(符号を反時計回りに2a1,2a2,2a3,2a4と付す)を有する歯車加工用工具2を時計回りに回転させて切削する場合を想定する。
【0031】
この場合、先ず、工具刃2a1は、歯1a1の歯側面1b1を切削する。次に、工具刃2a2は、歯1a2の歯側面1b2を切削する。次に、工具刃2a3は、歯1a3の歯側面1b3を切削する。次に、工具刃2a4は、歯1a4の歯側面1b4を切削する。以上の切削加工で歯車加工用工具2は一周するので、工具刃2a1は、歯1a5の歯側面1b5を切削する。次に、工具刃2a2は、歯1a6の歯側面1b6を切削する。
【0032】
以上の切削加工で歯車1は一周するので、次の一周では、歯1a1の歯側面1b1は、工具刃2a3で切削され、歯1a2の歯側面1b2は、工具刃2a4で切削される。以上のことから、歯1a1の歯側面1b1、歯1a3の歯側面1b3及び歯1a5の歯側面1b5は、工具刃2a1及び工具刃2a3で繰り返し切削され、歯1a2の歯側面1b2、歯1a4の歯側面1b4及び歯1a6の歯側面1b6は、工具刃2a2及び工具刃2a4で繰り返し切削される。
【0033】
一方、歯車加工用工具2は、工具素材を砥石車3で研磨することにより製作される。この研磨加工中においては、砥石車3の磨耗により複数の工具刃2aの研磨精度が不均一になる場合がある。よって、一つの歯1aの歯側面1bにおいてうねりが発生し、歯車1の加工精度が低下する傾向にある。
【0034】
具体的には、図9に示すように、4つの工具刃2a1,2a2,2a3,2a4を有する歯車加工用工具2を時計回りに回転させて砥石車3で研磨する場合を想定する。この場合、先ず、砥石車3は、工具刃2a1の刃側面2b1を研磨する。次に、砥石車3は、工具刃2a2の刃側面2b2を研磨する。次に、砥石車3は、工具刃2a3の刃側面2b3を研磨する。最後に、砥石車3は、工具刃2a4の刃側面2b4を研磨する。
【0035】
これにより、図10に示すように、工具刃2a1の刃側面2b1は、理想の形状に近い形状に研磨されるが、工具刃2a2の刃側面2b2、工具刃2a3の刃側面2b3、工具刃2a4の刃側面2b4は、研磨が進むに従って理想の形状(図示一点鎖線で示す)からの誤差e2,e3,e4が大きくなる(e2<e3<e4)形状(図示実線で示す)に研磨される。
【0036】
従って、歯1aの歯側面1bには、歯すじ方向にうねりが発生する。よって、歯車1の加工精度が低下する。
具体的には、図11に示すように、例えば、歯1a1の歯側面1b1は、工具刃2a1、工具刃2a3、工具刃2a1の順で切削されるとする。すると、歯1a1の歯側面1b1には、工具刃2a1で切削される領域A、工具刃2a3で切削される領域B、工具刃2a1で切削される領域Cが歯すじ方向に形成される。工具刃2a3の刃側面2b3は、工具刃2a1の刃側面2b1に対し誤差e3があるので、歯1a1の歯側面1b1にうねりが発生する。他の歯1a2-1a6の歯側面1b2-1b6も同様にうねりが発生する。
【0037】
上述のうねりを低減するには、一つの歯1aの歯側面1bの切削に関与する複数の工具刃2aを一つのグループに分類する。同様に、他の歯1aの歯側面1bの切削に関与する複数の工具刃2aもグループに分類する。そして、分類した複数のグループのうち任意の一つのグループを選択し、選択したグループに属する複数の工具刃2aを順に研磨する。以降、この研磨加工を残りのグループに対しても行う。これにより、一つのグループに属する複数の工具刃2aは、理想の形状に対する誤差が小さくなるので、一つの歯1aの歯側面1bに発生するうねりを抑制できる。
【0038】
具体的には、各歯1a1-1a6の歯側面1b1-1b6の切削に関与する工具刃2a1-2a4は、図12に示すテーブルで表すことができる。このテーブルから重複しないグループを選択すると、工具刃2a1及び工具刃2a3は、第一グループに分類でき、工具刃2a2及び工具刃2a4は、第二グループに分類できる。そして、先ず、図13Aに示すように、第一グループに属する工具刃2a1の刃側面2b1を砥石車3で研磨し、続いて工具刃2a3の刃側面2b3を砥石車3で研磨する。次に、図13Bに示すように、第二グループに属する工具刃2a2の刃側面2b2を砥石車3で研磨し、続いて工具刃2a4の刃側面2b4を砥石車3で研磨する。
【0039】
これにより、第一グループに属する工具刃2a1及び工具刃2a3は、理想の形状に対する誤差が小さくなるので、各歯1a1,1a3,1a5の歯側面1b1,1b3,1b5に発生するうねりをそれぞれ抑制できる。また、第二グループに属する工具刃2a2及び工具刃2a4は、理想の形状に対する誤差が小さくなるので、各歯1a2,1a4,1a6の歯側面1b2,1b4,1b6に発生するうねりをそれぞれ抑制できる。
【0040】
歯車加工用工具研磨装置20の制御装置30は、図6に示すように、グループ決定部31と、加工状態解析部32と、研磨加工部33とを備える。制御装置30は、歯車加工用工具2の工具素材に対して工具刃2aを形成するための研磨加工の制御を行う。また、制御装置30は、切削加工により磨耗した再研磨が必要な歯車加工用工具2の工具刃2aに対して研磨加工の制御を行う。
【0041】
グループ決定部31は、歯車加工用工具2の工具刃2aの刃数及び歯車1の歯1aの歯数に基づいて、一つの歯1aを切削加工する複数の工具刃2aを一つのグループとして決定する処理を、全ての歯1aに対して行う。具体的には、図8に示す歯車加工用工具2の工具刃2a1-2a4の刃数4及び歯1a1-1a6の歯数6から、図12に示すようなテーブルを作成する。そして、作成したテーブルを参照して、各歯1a1-1a6の歯側面1b1-1b6の切削に関与する複数の工具刃2aからなるグループ、すなわち工具刃2a1及び工具刃2a3からなる第一グループと、工具刃2a2及び工具刃2a4からなる第二グループを決定する。
【0042】
加工状態解析部32は、歯車加工用工具2の加工状態を解析する。具体的には、加工状態解析部32は、歯車加工用工具2で切削した歯車1の数もしくは全切削加工時間を指標として歯車加工用工具2の加工状態を解析する。すなわち、歯車加工用工具2の工具刃2aは、切削した歯車1の数もしくは全切削加工時間によって磨耗が進み、切削した歯車1の加工精度が低下するので、切削した歯車1の数もしくは全切削加工時間を指標とすることで、再研磨が必要な歯車加工用工具2であるか否かを判断できる。また、歯車加工用工具2の工具刃2aは、切削した歯車1の加工精度が低下するのは工具刃2aの磨耗が進んでいることが一因であるので、歯車1の加工精度を指標とすることで、再研磨が必要な歯車加工用工具2であるか否かを判断できる。
【0043】
研磨加工部33は、歯車加工用工具2の加工状態に基づいて、決定した複数のグループのうち、重複していないグループ毎に当該グループに属する工具刃2aの刃側面2bを砥石車3で研磨する。具体的には、例えば、第一グループを第一順、第二グループを第二順と決定したら、先ず第一グループに属する例えば工具刃2a1を研磨し、次に工具刃2a3を研磨する。次に第二グループに属する例えば工具刃2a2を研磨し、次に工具刃2a4を研磨する。なお、グループ順は任意であり、また、グループ内における研磨順も任意である。
【0044】
なお、研磨加工部33は、工具刃2aの刃側面2bを砥石車3で研磨するとき、主軸ユニット21に備えられる歯車加工用工具2を中心軸線X2周り(θ22)に回転させる図略の回転駆動モータ及び砥石台22に備えられる砥石車3を中心軸線X3周り(θ3)に回転させる図略の回転駆動モータを駆動制御する。また、砥石台22を歯車加工用工具2の中心軸線X2方向(M31)、歯車加工用工具2の径方向(M32)、及び、歯車加工用工具2の回転接線方向(並進方向)(M33)にそれぞれ移動させる図略のボールねじ機構及び駆動モータを駆動制御する。さらに、回転テーブル12を揺動させる図略の駆動モータを駆動制御する。
【0045】
(4.歯車加工用工具研磨装置の制御装置の動作)
次に、歯車加工用工具研磨装置20の制御装置30の動作(歯車加工用工具研磨方法)について図を参照しながら説明する。本例では、切削加工により磨耗した再研磨が必要な歯車加工用工具2の工具刃2aに対して研磨加工の制御を行う場合を説明する。なお、歯車加工用工具2の工具刃2aは、硬度を高めるために被膜されているので、再研磨する前に別装置で脱膜し、再研磨後に別装置で被膜する必要がある。
【0046】
制御装置30は、主軸ユニット21に支持されている歯車加工用工具2の工具刃2aの刃数及び当該歯車加工用工具2で切削する歯車1の歯1aの歯数に基づいて、一つの歯1aを切削加工する複数の工具刃2aを一つのグループとして決定する(図7のステップS1、グループ決定工程)。そして、制御装置30は、グループ決定処理を全ての歯1aに対して行ったか否か判断し(図7のステップS2)、グループ決定処理を全ての歯1aに対して行っていないときは、ステップS1に戻って上述の処理を繰り返す。
【0047】
一方、制御装置30は、グループ決定処理を全ての歯1aに対して行ったときは、決定した複数のグループのうち、重複していないグループ毎に当該グループに属する工具刃2aの刃側面2bを砥石車3で研磨する。すなわち、制御装置30は、砥石台22を移動制御して砥石車3を歯車加工用工具2のすくい面2s側に移動し、歯車加工用工具2の中心軸線X2と砥石車3の中心軸線X3とが交差角を有する状態となるように位置決めする(図7のステップS3、研磨加工工程)。この状態で、歯車加工用工具2を中心軸線X2回り(θ22)に回転するとともに、砥石車3を中心軸線X3回り(θ3)に回転し、上記グループに属する工具刃2aの刃側面2bを砥石車3で研磨する(図7のステップS4、研磨加工工程)。
【0048】
そして、制御装置30は、全グループに属する工具刃2aの研磨加工が完了したか否かを判断し(図7のステップS5)、全グループに属する工具刃2aの研磨加工が完了していないときはステップS3に戻って上述の処理を繰り返す。一方、ステップS5において、全グループに属する工具刃2aの研磨加工が完了したときは、砥石車3を退避位置へ移動して停止し(図7のステップS6)、砥石車3及び歯車加工用工具2の回転を停止して(図7のステップS7)、全ての処理を終了する。
【0049】
(5.その他)
上述した実施形態では、グループ化した歯車加工用工具2の工具刃2aは、2以上のグループに跨るものが存在しないように設計しているが、2以上のグループに跨る場合は、当該工具刃2aをどれか一つのグループに属するようにして、研磨加工を行うようにする。
【0050】
また、特に、歯車加工用工具2の回転軸線と歯車1(工作物)の回転軸線とが垂直でなく、歯車加工用工具2と歯車1(工作物)との回転を同期させながら、高速に回転して加工する方法(ギヤスカイビング加工)は、高効率に加工可能となるが、加工の切削量や送り量などを多くするほど、切削負荷が大きくなり、歯車加工用工具2の摩耗量が多くなる。
【0051】
そして、歯車1(工作物)の歯すじ方向に対し、歯車加工用工具2の複数の工具刃2aが加工することになり、歯車1(工作物)の歯すじ精度(歯形精度)を高精度に保つためには、上記の歯車加工用工具研磨装置20(歯車加工用工具研磨方法、歯車加工装置)では、歯車1(工作物)の一つの歯の歯すじ方向を加工する複数の工具刃2aの刃形状(刃側面、刃先面など)を整える(同じような形状などに研磨)ことが可能で、歯車1(工作物)の歯すじ精度(歯形精度)を高精度に保つ、理想に近い刃形状(歯車加工用工具2)にすることができる。
【符号の説明】
【0052】
1:歯車、 1a:歯、 2:歯車加工用工具、 2a:工具刃、 3:砥石車、 20:歯車加工用工具研磨装置、 21:主軸ユニット、 22:砥石台、 30:制御装置、 31:グループ決定部、 32:加工状態解析部、 33:研磨加工部
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B