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特許7024463管理装置、蓄電装置、蓄電素子の管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】管理装置、蓄電装置、蓄電素子の管理方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20220216BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20220216BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20220216BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20220216BHJP
   B60R 16/04 20060101ALI20220216BHJP
   F02N 11/08 20060101ALI20220216BHJP
   F02N 11/10 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
H02J7/00 P
H02J7/00 S
G01R31/367
G01R31/00
B60R16/02 650R
B60R16/02 650J
B60R16/04 W
F02N11/08 L
F02N11/10 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018016481
(22)【出願日】2018-02-01
(65)【公開番号】P2019134628
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今中 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】白石 剛之
(72)【発明者】
【氏名】福島 敦史
【審査官】大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-046546(JP,A)
【文献】特開2012-077695(JP,A)
【文献】特開2013-209900(JP,A)
【文献】特開2007-218145(JP,A)
【文献】特開2008-069644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
G01R 31/00
G01R 31/367
B60R 16/02
B60R 16/04
F02N 11/08
F02N 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン始動用の蓄電素子の管理装置であって、
前記蓄電素子を管理する処理部を少なくとも含み、
前記蓄電素子の電圧低下により前記蓄電素子の管理装置が電源喪失に至った場合、
前記処理部は、電源喪失に至った原因が、前記蓄電素子の外部端子間が短絡する外部短絡又はエンジン始動のいずれであるかを判別し、外部短絡である場合、前記外部短絡の発生に応じた応答動作を実行し、エンジン始動である場合、前記応答動作を実行しない、管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の管理装置であって、
前記処理部は、電源復旧後、車両に搭載された電子制御ユニットとの通信の再開の可否に基づいて、電源喪失に至った原因が外部短絡又はエンジン始動のいずれであるかを判別する、管理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の管理装置であって、
前記処理部は、電源喪失に至った場合、補助電源から電力の供給を受けて、電源喪失時を含む前後の一定期間に車両に搭載された電子制御ユニットとの間で行われた通信記録又は前記一定期間の前記蓄電素子の計測データを不揮発性のメモリに記憶し、
電源復旧後、前記メモリに記憶した前記電子制御ユニットとの通信記録又は前記蓄電素子の計測データに基づいて、電源喪失の原因が外部短絡又はエンジン始動のいずれであるかを判別する、管理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の管理装置であって、
前記処理部は、前記管理装置が電源を喪失している電源喪失時間に基づいて、電源喪失に至った原因が外部短絡又はエンジン始動のいずれであるかを判別する、管理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の管理装置であって、
前記処理部は、電源復旧後の前記蓄電素子の計測データに基づいて、電源喪失に至った原因が外部短絡又はエンジン始動のいずれであるかを判別する、管理装置。
【請求項6】
請求項1に記載の管理装置であって、
エンジン始動により電源喪失の発生が予想される第1領域は、前記蓄電素子のSOC又は温度のうち、少なくともいずれか一方により規定され、
前記処理部は、前記第1領域に前記蓄電素子が含まれている場合、前記蓄電素子の電流を遮断する、管理装置。
【請求項7】
請求項1~請求項6のうちいずれか一項に記載の管理装置であって、
前記応答動作は、前記蓄電素子の保護動作又は異常を報知する報知動作を含む、管理装装置。
【請求項8】
エンジン始動用の蓄電装置であって、
蓄電素子と、
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の管理装置と、
前記蓄電素子をエンジン始動装置に接続するための外部端子を有し、前記蓄電素子と前記管理装置を収容するケースを有する、蓄電装置。
【請求項9】
エンジン始動用の蓄電素子の管理方法であって、
前記蓄電素子の電圧低下により前記蓄電素子を管理する管理装置が電源喪失に至った場合、
電源喪失に至った原因が、外部端子間が短絡する外部短絡又はエンジン始動のいずれであるかを判別し、外部短絡である場合、外部短絡の発生に応じた応答動作を実行し、エンジン始動である場合、前記応答動作を実行しない、蓄電素子の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子を管理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるバッテリは、蓄電素子の状態を管理するため、管理装置を備えている。下記特許文献1において、管理装置は蓄電素子を電源としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-200272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジン始動用のバッテリは、交換頻度が高く、車両への取付作業時や交換作業時などに、作業者の不注意で外部端子間を短絡する場合がある。外部短絡が発生すると、大電流が流れて蓄電素子の電圧が低下することから、管理装置は電源を喪失する場合がある。電源を喪失すると、管理装置は蓄電素子の状態を監視することが出来ないので、外部短絡が解消して、電源が復旧した時に、外部短絡の発生に応じた応答動作を行うことが望ましい。応答動作には、例えば、蓄電素子の保護動作や、異常を報知する報知動作などが含まれる。ところが、クランキング電流は大電流であることから、エンジン始動用のバッテリは、外部短絡時だけでなく、エンジン始動時にも、蓄電素子の電圧が低下し、管理装置が電源を喪失する状態になる場合がある。エンジン始動による電源喪失時に、応答動作を行うと、使用性が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、電源喪失に至った原因を判別して、外部短絡時は、外部短絡の発生に応じた応答動作を実行し、エンジン始動時は応答動作を実行しないようにすることにより、蓄電素子の安全性を高めつつ、使用性を維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
エンジン始動用の蓄電素子の管理装置であって、前記蓄電素子を管理する処理部を少なくとも含み、前記蓄電素子の電圧低下により前記蓄電素子の管理装置が電源喪失に至った場合、前記処理部は、電源喪失に至った原因が、前記蓄電素子の外部端子間が短絡する外部短絡又はエンジン始動のいずれであるかを判別し、外部短絡である場合、外部短絡の発生に応じた応答動作を実行し、エンジン始動である場合、前記応答動作を実行しない。
【発明の効果】
【0007】
本構成では、電源喪失に至った原因を判別して、外部短絡時は応答動作を実行し、エンジン始動時は応答動作を実行しないことにより、蓄電素子の安全性を高めつつ、使用性を維持することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1に適用された自動車の側面図
図2】バッテリの斜視図
図3】バッテリの分解斜視図
図4】バッテリの電気的構成を示すブロック図
図5】電源喪失から応答動作が実行されるまでの流れを示すフローチャート
図6】エンジン始動時と外部短絡時における組電池の総電圧の変化を示すグラフ
図7】実施形態2に適用されたバッテリの電気的構成を示すブロック図
図8】車両と管理装置との間で行われる通信内容を示す図
図9】実施形態3に適用されたバッテリの電気的構成を示すブロック図
図10】電源喪失後における、タイマ回路の出力電圧の変化を示すグラフ
図11】電源喪失後の原因を判別する処理の流れを示すフローチャート
図12】電源喪失時間を示す図
図13】実施形態6において、エンジン始動可能領域、エンジン始動不可領域、外部短絡による電源喪失の発生範囲を示す図、エンジン始動による電源喪失の発生領域を示す図
図14】電源喪失時間を示す図
図15】バッテリの他の電気的構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0009】
エンジン始動用の蓄電素子の管理装置であって、前記蓄電素子を管理する処理部を少なくとも含み、前記蓄電素子の電圧低下により前記蓄電素子の管理装置が電源喪失に至った場合、前記処理部は、電源喪失に至った原因が、前記蓄電素子の外部端子間が短絡する外部短絡又はエンジン始動のいずれであるかを判別し、外部短絡である場合、前記外部短絡の発生に応じた応答動作を実行し、エンジン始動である場合、前記応答動作を実行しない。
【0010】
本構成では、電源喪失に至った原因が、外部短絡の場合、外部短絡の発生に応じた応答動作を実行し、エンジン始動の場合、前記応答動作を実行しない。このようにすることで、蓄電素子の安全性を高めつつ、使用性を維持することが出来る。
【0011】
前記処理部は、電源復旧後、車両に搭載された電子制御ユニットとの通信の再開の可否に基づいて、電源喪失に至った原因が外部短絡又はエンジン始動のいずれであるかを判別する、ことが好ましい。
【0012】
前記処理部は、電源喪失に至った場合、補助電源から電力の供給を受けて、電源喪失時を含む前後の一定期間に車両に搭載された電子制御ユニットとの間で行われた通信記録又は前記一定期間の前記蓄電素子の計測データを不揮発性のメモリに記憶し、電源復旧後、前記メモリに記憶した前記電子制御ユニットとの通信記録又は前記蓄電素子の計測データに基づいて、電源喪失の原因が外部短絡又はエンジン始動のいずれであるかを判別する、ことが好ましい。計測データは、蓄電素子の電流又は電圧のうち、少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。
【0013】
外部短絡は、車両に対する蓄電装置の取付作業時や交換作業時に起きる。蓄電装置の取付作業や交換作業は、通信線を外した状態で行われる。そのため、外部短絡は、車両との通信が不能な状態で起きる。一方、エンジン始動時、蓄電装置は車両に搭載されており、通信線は接続されていることから、電源が維持されていれば、管理装置は、車両との通信が可能である。そのため、電源復旧時や電源喪失時における、管理装置と電子制御ユニットの通信に基づいて、電源喪失に至った原因が「外部短絡」又は「エンジン始動」のいずれであるかを判別することが出来る。また、電源喪失に至った原因の相違により、電源喪失時の蓄電素子の電圧や電流などの計測データに違いが生じるので、計測データに基づいて判別することも可能である。
【0014】
前記処理部は、前記管理装置が電源を喪失している電源喪失時間に基づいて、電源喪失に至った原因が外部短絡又はエンジン始動のいずれであるかを判別する、ことが好ましい。電源喪失に至った原因が「エンジン始動」の場合、電源喪失時間は、約数百msec程度の短時間である。一方、「外部短絡」の場合、電源喪失時間は数sec以上であり、「エンジン始動」の場合よりも十分に長い時間である。以上のことから、電源喪失時間に基づいて、電源喪失の原因が「外部短絡」又は「エンジン始動」のいずれであるかを判別することが出来る。
【0015】
前記処理部は、電源復旧後の前記蓄電素子の計測データに基づいて、電源喪失に至った原因が、外部短絡又はエンジン始動のいずれであるかを判別する、ことが好ましい。計測データは、蓄電素子の電流又は電圧のうち、少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。エンジン始動時、蓄電素子からセルモータに突入電流がまず流れ、その後、クランクシャフトが1回転するごとに乗り越し電流が流れる。乗り越し電流はクランクシャフトが回転する度に小さくなる。そのため、蓄電素子の電圧波形は、突入電流により、電圧が瞬時に大きく低下した後、電圧降下量が段階的に小さく減衰してゆく波形となる。一方、外部短絡の場合、発生から解消までの間、一定の短絡電流が流れることから、蓄電素子の電圧波形は矩形状である。このように、「エンジン始動時」と「外部短絡時」では、電圧波形が異なり、同様の理由から電流波形も異なる。そのため、電源復旧後における、蓄電素子の電圧や電流などの計測データに基づいて、電源喪失に至った原因が「外部短絡」又は「エンジン始動」のいずれであるかを判別することが出来る。
【0016】
前記処理部は、エンジン始動により電源喪失の発生が予想される第1領域は、前記蓄電素子のSOC又は温度のうち、少なくともいずれか一方により規定され、前記処理部は、前記第1領域に前記蓄電素子が含まれている場合、前記蓄電素子の電流を遮断する、ことが好ましい。第1領域で電流を遮断することで、エンジン始動による電源喪失の可能性はほぼなくなる。そのため、第1領域以外で管理装置の電源喪失が起きた場合、その原因はエンジン始動以外、すなわち「外部短絡」であると判別できる。
【0017】
前記応答動作は、前記蓄電素子の保護動作又は異常を報知する報知動作を含む、とよい。保護動作により蓄電素子の保護を図ることが出来、報知動作により、異常を外部に報知することが出来る。
【0018】
<実施形態1>
1.バッテリの説明
図1は自動車の側面図、図2はバッテリの斜視図、図3はバッテリの分解斜視図、図4はバッテリの電気的構成を示すブロック図である。尚、図1では、自動車1とバッテリ20Aのみ図示し、自動車を構成する他の部品は省略している。バッテリ20A~20Dは、本発明の「蓄電装置」の一例である。
【0019】
自動車(車両の一例)1は、図1に示すように、蓄電装置であるバッテリ20Aを備えている。バッテリ20Aは、図2に示すように、ブロック状の電池ケース21を有しており、電池ケース21内には、複数の二次電池31からなる組電池30や、回路基板28が収容されている。以下の説明において、図2および図3を参照する場合、電池ケース21が設置面に対して傾きなく水平に置かれた時の電池ケース21の上下方向とし、電池ケース21の長辺方向に沿う方向を幅方向(X方向)とする。
【0020】
電池ケース21は、図3に示すように、上方に開口する箱型のケース本体23と、複数の二次電池31を位置決めする位置決め部材24と、ケース本体23の上部に装着される中蓋25と、中蓋25の上部に装着される上蓋26とを備えて構成されている。ケース本体23内には、各二次電池31が個別に収容される複数のセル室23AがX方向に並んで設けられている。
【0021】
位置決め部材24は、図3に示すように、複数のバスバー27が上面に配置されており、位置決め部材24がケース本体23内に配置された複数の二次電池31の上部に配置されることで、複数の二次電池31が、位置決めされると共に複数のバスバー27によって直列に接続されるようになっている。
【0022】
中蓋25は、図3に示すように平面視略矩形状であり、X方向両端部には、一対の外部端子22P、22Nが設けられている。一対の外部端子22P、22Nは、例えば鉛合金等の金属からなり、22Pが正極側、22Nが負極側ある。
【0023】
図3に示すように、中蓋25の上面には回路基板28が配置されており、その上方を上蓋26によって閉じている。
【0024】
図4を参照して、バッテリ20Aの電気的構成を説明する。バッテリ20Aは、組電池30と、電流遮断装置41と、ヒューズ43と、温度センサ44と、シャント抵抗45と、管理装置50とを含む。
【0025】
組電池30は、直列接続された複数の二次電池31から構成されている。電流遮断装置41、ヒューズ43、組電池30及びシャント抵抗45は、通電路35P、35Nを介して、直列に接続されている。電流遮断装置41、ヒューズ43を正極側、シャント抵抗45を負極側に配置しており、電流遮断装置41は通電路35Pを介して正極側端子部22Pに接続され、シャント抵抗45は通電路35Nを介して負極側端子部22Nに接続されている。
【0026】
電流遮断装置41及びヒューズ43は回路基板28上に配置されている。電流遮断装置41は、リレーやFETなどの半導体スイッチであり、二次電池31の通電路35を開放することで、電流を遮断できる。ヒューズ43は、制限値を超える電流が規定時間流れると溶断し、電流を遮断する。温度センサ44は組電池30の温度を検出する。温度センサ44は信号線を介して処理部51に接続されており、組電池30の温度データは処理部に入力されるようになっている。
【0027】
管理装置50は、回路基板28上に配置されている。管理装置50は、処理部51と、電圧計測部55と、電流計測部57と、通信部59と、リセット回路61、表示部63を含む。管理装置50の+側の電源ラインL1は組電池30の正極側の接続点J1に接続され、-側の電源ラインL2は負極側の接続点J2に接続されている。管理装置50は、組電池30を電源としている。
【0028】
処理部51は、CPU(中央処理装置)52と不揮発性のメモリ53と、を含む。処理部51は、組電池30を管理する。組電池30の管理には、組電池30の状態の監視と、外部短絡の発生に応じた応答動作の実行が含まれる。
【0029】
組電池30の状態の監視には、組電池30の計測データ、すなわち、電圧計測部55により計測される組電池30の総電圧Vsのデータ、各二次電池31の電圧V1~V4のデータ、電流計測部57により計測される電流Iのデータ、温度センサ44により検出される温度のデータに基づいて、組電池30の総電圧Vs、各二次電池31の電池電圧V1~V4が使用範囲内であるか否かを監視する処理、電流が制限値内であるか否かを監視する処理、温度が正常か監視する処理などが含まれる。
【0030】
また、組電池30の状態の監視には、SOC(state of charge:充電状態)の推定が含まれる。CPU52は、下記の(1)、(2)式で示すように、電流計測部57により計測される電流Iの時間に対する積分値に基づいて、バッテリ20のSOCを推定する処理を行う。尚、電流の符号を、充電時はプラス、放電はマイナスとする。組電池30の状態の監視として、組電池30の総電圧Vs、各二次電池の電圧V1~V4、電流I、温度、SOCのうち、少なくともいずれか1つのみ監視するようにしてもよい。
【0031】
SOC=Cr/Co×100・・・・・・・・・・(1)
Coは二次電池の満充電容量、Crは二次電池の残存容量である。
【0032】
SOC=SOCo+100×∫Idt/Co・・・(2)
SOCoは、SOCの初期値、Iは電流である。
【0033】
電圧計測部55は、計測ICであり、各二次電池31の電圧V1~V4、及び組電池30の総電圧Vsを検出する。電圧計測部55は、検出した電圧のデータをアナログ値からディジタル値に変換して処理部51に出力する。
【0034】
Vs=V1+V2+V3+V4・・・・・・(3)式
【0035】
電流計測部57は、計測ICであり、PGA(プログラマブルゲインアンプ)、ADC(ADコンバータ)等から構成されている。電流計測部57は、シャント抵抗45の両端電圧を検出する。電流計測部57は検出した電圧のデータをアナログ値からディジタル値に変換して処理部51に出力する。シャント抵抗45の両端電圧は、電流Iの大きさに比例するため、電流Iを計測することが出来る。
【0036】
図4に示すように、バッテリ20Aの外部端子22P、22Nには、イグニッションスイッチ115を介して、セルモータ110が接続されている。セルモータ110は、車両1に搭載されたエンジン100の始動装置である。イグニッションスイッチ115がオンすると、バッテリ20Aからセルモータ110に電流が流れて、セルモータ110が回転する。これにより、クランクシャフトが回転し、エンジン100が始動する。車両ECU(Electronic Control Unit)120は、車両1に搭載されており、エンジン100の動作状態、イグニッションスイッチ115の状態などを監視する。
【0037】
また、図4に示すように、電池ケース21には、通信コネクタ接続部47Aが設けられている。通信コネクタ接続部47Aに対して、通信用コネクタ47Bを接続することで、管理装置50は、通信線(Linバス)L3を介して、車両ECU120との間で通信可能に接続される。管理装置50は、通信線L3による通信により、車両ECU120からエンジン100の動作状態やイグニッションスイッチ115の動作状態の情報を受け取ることが出来る。
【0038】
2.管理装置50の電源喪失と、外部短絡の発生に応じた応答動作
エンジン始動用のバッテリ20Aは、交換頻度が高い。そのため、車両1への取付作業時や交換作業時に、外部端子22P、22N間を、工具などで、外部短絡する場合がある。
【0039】
一方、組電池30は、放電電流が流れると、内部抵抗による電圧降下により、総電圧Vsが低下する。外部短絡が発生すると、大電流が放電されるから、組電池30の総電圧Vsは大きく低下し、管理装置50は電源を喪失する場合がある。具体的には、組電池30の総電圧Vsが、管理装置50の動作可能電圧Vmin1を下回ると(Vs<Vmin1)、電源喪失となる。
【0040】
動作可能電圧Vmin1は、管理装置50を動作させるのに必要となる最低動作電圧であり、一例として、5Vである。
【0041】
電源喪失に至ると、管理装置50は、組電池30の状態を監視することが出来ないので、外部短絡が解消して、電源が復旧した時に、外部短絡の発生に応じた応答動作を行うことが望ましい。応答動作には、例えば、組電池30の保護動作や、異常を外部に報知する報知動作などが含まれる。応答動作として、保護動作又は報知動作のいずれか一方を実行してもよく、また、双方を実行してもよい。
【0042】
ところが、エンジン始動用のバッテリ20Aは、エンジン始動時に、瞬間的に大きなクランキング電流が流れる。そのため、組電池30のSOCが低い場合など、特定の条件が揃うと、外部短絡だけでなく、エンジン始動時にも、組電池30の総電圧Vsが低下し、管理装置50が電源喪失に至る場合がある。エンジン始動時は、バッテリ20Aに、どの程度の電流が、どの程度の時間、流れたかを、大凡予想することが出来るので、エンジン始動による電源喪失時に、上記した応答動作を行うと、使用性が低下するという問題がある。
【0043】
そこで、管理装置50は、電源喪失に至った場合、電源喪失に至った原因が、「外部短絡」又は「エンジン始動」のいずれであるかを判別し、「外部短絡」の場合、外部短絡の発生に応じた応答動作を実行し、「エンジン始動」の場合、応答動作を実行しない。
【0044】
図5は、電源喪失から応答動作を実行するまでの動作手順を示したフローチャートである。外部短絡やエンジン始動により、大電流が流れて、組電池30の総電圧Vsが、管理装置50の動作可能電圧Vmin1を下回ると、管理装置50は電源喪失する(S10)。
【0045】
外部短絡が解消する又はエンジン100の始動が完了すると、バッテリ20は、大電流が流れる前の状態に戻り、組電池30の総電圧Vsが上昇する。組電池30の総電圧Vsが、管理装置50の動作可能電圧Vmin1より高くなる(Vs>Vmin1)と、管理装置50は電源復旧する(S20)。
【0046】
図6は、組電池30の総電圧Vsを示すグラフである。実線A1はエンジン始動時の総電圧Vsの変化を示し、破線A2は外部短絡時の総電圧Vsの変化を示している。
【0047】
時刻t1は、イグニッションスイッチ115のオンタイミングである。イグニッションスイッチ115がオンすると、時刻t2以降、バッテリ20からセルモータ110に対してクランキング電流が流れる。電流の流れ初めは、セルモータ110に対して突入電流が流れることから、瞬間的に大電流が流れる。そのため、時刻t3で、総電圧Vsが動作可能電圧Vmin1を下回り、電源喪失となる。その後、時刻t4で総電圧Vsが動作可能電圧Vmin1を上回り、電源復旧する。
【0048】
外部短絡の場合、短絡発生と同時に一定の大電流が続ける。そのため、外部短絡の発生とほぼ同時刻t1で、総電圧Vsが動作可能電圧Vmin1を下回り、電源喪失となる。その後、外部短絡中は、電圧が下がった状態が続き、外部短絡が解消すると、解消とほぼ同時刻t5で、総電圧Vsが動作可能電圧Vmin1を上回り、電源復旧する。
【0049】
時刻t4又は時刻t5で、電源復旧すると、リセット回路61からリセット信号Srが出力され、処理部51は起動する。その後、CPU52は、電源喪失に至った原因を判別する処理を実行する(S30)。
【0050】
外部短絡は、車両1に対するバッテリ20Aの取付作業時や交換作業時に起きる。バッテリ20Aの取付作業や交換作業は、通信線L3を外した状態で行われる。そのため、外部短絡は、車両ECU100との通信が不能な状態で起きる。一方、エンジン始動時、バッテリ20Aは車両1に搭載されており、通信線L3は接続されていることから、電源が維持されていれば、管理装置50は、車両ECU100との通信が可能である。
【0051】
そのため、電源喪失後、所定期間内に、車両ECU120との間で通信が再開できない場合、電源喪失に至った原因は、「外部短絡」であると判別できる。また、車両ECU120との間で通信が再開できた場合、電源喪失に至った原因は、「エンジン始動」と判別できる。
【0052】
電源喪失に至った原因が「外部短絡」の場合、CPU52は、外部短絡の発生に応じた応答動作を実行する(S40)。具体的には、CPU52は、応答動作として、組電池30の保護動作(電流遮断装置41による電流遮断)や、異常を報知する報知動作(表示部63に対する警告表示)などを行う。
【0053】
一方、電源喪失に至った原因が「エンジン始動」の場合、CPU52は、応答動作を実行しない。以上により、電源復旧後の処理は終了する。
【0054】
3.効果説明
本構成では、電源喪失に至った原因が、外部短絡の場合、外部短絡の発生に応じた応答動作を実行し、エンジン始動の場合、応答動作を実行しない。このようにすることで、バッテリ20Aの安全性を高めつつ、使用性を維持することが出来る。
【0055】
<実施形態2>
図7はバッテリ20Bの電気的構成を示すブロック図である。図7に示すバッテリ20Bは、図4に示すバッテリ20Aに対して、管理装置50の電源ラインL1に、コンデンサC1とダイオードD1が追加されている。コンデンサC1は、電源喪失時の補助電源であり、電源喪失後の所定期間、管理装置50に電力を供給する。ダイオードD1は、組電池30からコンデンサC1への放電が順方向となっており、コンデンサC1から組電池30へ逆流を防止する。
【0056】
実施形態2のバッテリ20Bにおいて、処理部51は、電圧計測部55の出力に基づいて、組電池30の総電圧Vsを監視する処理を行う。ユーザがイグニッションスイッチ115をオンすると(図8の時刻t1)、バッテリ20Bからセルモータ110にクランキング電流が流れる。これにより、セルモータ110が駆動して、エンジン100が始動する。
【0057】
イグニッションスイッチ115の操作後、車両ECU120から通信線(Linバス)L3を介した通信によりバッテリ20Bの管理装置50に対して、イグニッションスイッチ115の操作情報と、エンジン100の始動情報が送信される。
【0058】
一方、エンジン始動に伴うクランキング電流により、組電池30の総電圧Vsが管理装置50の動作可能電圧Vmin1を下回ると、管理装置50は、電圧計測部55の計測データ(動作可能電圧Vminより低い電圧が計測される)から電源喪失を検出する(図8の時刻t3)。管理装置50は電源喪失後、コンデンサC1を補助電源として、所定期間は、動作することが出来る。
【0059】
管理装置50は、電源喪失を検出した場合、電源喪失時を含む前後の一定期間Tに、車両ECU120から受信した通信記録を不揮発性のメモリ53に記録する。従って、この場合、イグニッションスイッチ115の操作情報とエンジン100の始動情報に関する通信記録がメモリ53に記録される。前後一定期間Tは少なくとも、イグニッションオンから電源喪失までの時間(図6、8のt1~t3)が含まれるように決めておくことが好ましい。
【0060】
コンデンサC1が動作可能電圧Vmin1を維持できなくなると、管理装置50は、完全に電源を喪失した状態になり、停止する。
【0061】
エンジンの始動が完了すると、クランキング電流が流れる前の状態に戻るから、組電池30の総電圧Vsは上昇する。組電池30の総電圧Vsが動作可能電圧Vmin1を上回ると、管理装置50は、電源が復旧する(図8の時刻t4)。
【0062】
電源が復旧すると、リセット回路61からリセット信号Srが出力され、処理部51は起動する。その後、処理部51は、メモリ53にアクセスして、電源喪失時の一定期間Tに受信した通信記録を読み出す。
【0063】
処理部51は、電源喪失時の一定期間Tに受信した通信記録があった場合、電源喪失に至った原因は、「エンジン始動」と判別する。一方、電源喪失時の一定期間Tに受信した通信記録が無かった場合、車両1からバッテリ20が取り外された状態で電源喪失に至ったと考えられることから、電源喪失に至った原因は、「外部短絡」と判別する。
【0064】
このように、バッテリ20Bは、実施形態1のバッテリ20Aに対して、電源喪失に至った原因の判別方法が相違しており、電源喪失に至った原因が、「外部短絡」か「エンジン始動」であるかを、電源喪失時の通信記録の有無により、判別する。
【0065】
処理部51は、電源喪失した原因が「エンジン始動」である場合、外部短絡の発生に応じた応答動作は実行せず、電源喪失した原因が「外部短絡」である場合にのみ、応答動作を実行する。このようにすることで、バッテリ20Bの安全性を高めつつ、使用性を維持することが出来る。
【0066】
<実施形態3>
図9は、バッテリ20Cの電気的構成を示すブロック図である。バッテリ20Cは、実施形態2のバッテリ20Bに対して、タイマ回路70、ダイオードD2が追加されている。タイマ回路70は、ダイオードD2を介して、組電池30の正極に接続されている。ダイオードD2は、組電池30からタイマ回路70への放電が順方向となっており、タイマ回路70から組電池30へ逆流を防止する。図9では温度センサ44、表示部63を省略している。
【0067】
タイマ回路70は、信号線を介して処理部51に接続されており、タイマ回路70の出力電圧Voが処理部51に入力される構成となっている。
【0068】
タイマ回路70は、抵抗71とコンデンサ73からなるCR放電回路であり、組電池30からコンデンサ73に充電した電荷を、電源喪失後、抵抗71により放電する。
【0069】
図10に示すように、電源喪失時taのタイマ回路70の出力電圧Voaと電源復旧時tbのタイマ回路70の出力電圧Vobの電圧差ΔVは、電源喪失時taから電源復旧時tbまでの時間(以下、電源喪失時間Tab)に依存する。すなわち、電圧差ΔVは、電源喪失時間Tabが長いほど大きく、電源喪失時間TabとCRタイマの時定数により一意に定まる。
【0070】
電圧差ΔV=Voa-Vob・・・・(1)式
Voaは電源喪失時taにおけるタイマ回路70の出力電圧、Vobは電源喪失時tbにおけるタイマ回路70の出力電圧である。
【0071】
図11は、電源喪失に至った要因を判別する処理のフローチャート図である。
処理部51は、電源喪失時taと電源復旧時tbの両時点において、タイマ回路70の出力電圧Voを計測する処理を行う(S100、S110)。
【0072】
電源喪失時taは、組電池30の総電圧Vsが動作可能電圧Vmin1を下回る時点であり、図6にて実線A1で示すエンジン始動の場合、時刻t3であり、破線A2で示す外部短絡の場合、時刻t2である。電源復旧時tbは、組電池30の総電圧Vsが動作可能電圧Vmin1を上回る時点であり、図6に示す実線A1で示すエンジン始動の場合、時刻t4であり、破線A2で示す外部短絡の場合、時刻t5である。
【0073】
次に処理部51は、電源喪失時taと電源復旧時tbにおける、タイマ回路70の電圧差ΔVを算出し、更に、電圧差ΔVから電源喪失時間Tabを算出する(S120)。図6にて、実線A1で示すエンジン始動の場合、時刻t3~t4であり、図6にて破線A2で示す外部短絡の場合、時刻t2~t5である。
【0074】
電源喪失に至った原因が「エンジン始動」の場合、電源喪失時間Tabは約数百msec程度の短時間である。一方、「外部短絡」の場合、電源喪失時間Tabは数sec以上であり、「エンジン始動」の場合に比べて、十分に長い時間である。
【0075】
従って、処理部51にて、電源喪失時間Tabを、閾値と比較することにより、電源喪失に至った原因が「エンジン始動」か「外部短絡」のどちらであるか判別することが出来る。電源喪失時間Tabが閾値よりも短い場合、電源喪失に至った原因は「エンジン始動」であると判別できる。一方、電源喪失時間Tabが閾値よりも長い場合、電源喪失に至った原因は「外部短絡」であると判別できる(S130~S150)。
【0076】
処理部51は、電源喪失に至った原因が「エンジン始動」である場合、外部短絡に応じた応答動作は実行せず、電源喪失に至った原因が「外部短絡」である場合にのみ、応答動作を実行する。このようにすることで、バッテリ20Cの安全性を高めつつ、使用性を維持することが出来る。
【0077】
<実施形態4>
図4に示すように、管理装置51は、処理部51、電圧計測部55、電流計測部57、表示部63、通信部59など構成されている。
【0078】
電圧計測部55、電流計測部57など、アナログ値を扱う計測ICは、計測精度を維持する観点から、動作可能電圧を下げることが難しく、5Vが一般的である。一方、処理部51はディジタル値だけを扱うことから、計測IC55、57より、動作可能電圧が低く、例えば、3.3V、3.0V、1.5Vなどがある。また、通信部59も、計測IC55、57より、動作可能電圧が低く、例えば、3.3Vである。
【0079】
管理装置50の管理機能を維持するには、少なくとも、処理部51、電流計測部55、電圧計測部57、通信部59は、正常動作を維持しなければならないため、管理装置50の動作可能電圧Vmin1は、処理部51、電流計測部55、電圧計測部57、通信部59のうち、最大の動作電圧に拘束されることになり、この例では、計測IC55、57の動作電圧である5Vが、管理装置50の動作可能電圧Vmin1である。
【0080】
図6に示すように、処理部51の動作可能電圧Vmin2が、管理装置51の動作可能電圧Vmin1より低い場合、組電池30の総電圧Vsが管理装置50の動作可能電圧Vmin1を下回って、電圧や電流の計測機能が失われたとしても、動作可能電圧Vmin2を維持している期間、処理部51は、機能を停止せず、時間の計測が可能である。
【0081】
つまり、エンジン始動又は外部短絡により大電流が流れた時点での組電池30の総電圧Vsより、動作可能電圧Vmin2の低い処理部51を使用することで、電源喪失期間中、処理部51は動作を続けることが出来る。
【0082】
そのため、処理部51にて、電源喪失時taから電源復旧時tbまでの電源喪失時間Tabを計測して、閾値と比較することにより、電源喪失に至った原因が「エンジン始動」か「外部短絡」のどちらであるか判別することが出来る。
【0083】
尚、電圧計測部55は、図12に示すように、電源喪失中は、処理部51に対する電圧値の計測データの送信を停止し、電源復旧後は、処理部51に対して一定周期で電圧値の計測データを送信する。そのため、処理部51は、電圧値の計測データの受信状態から、電源喪失と電源復旧を判別できる。すなわち、電圧計測部55からの計測データの受信停止により、電源喪失を検出することが出来、計測データの受信再開により、電源復旧を検出することが出来る。
【0084】
<実施形態5>
実施形態1では、電源喪失に至った原因が「エンジン始動」、「外部短絡」のいずれであるかを、電源復旧後に、車両ECU120との間で通信が再開できるか、否かに基づいて、判別した。
【0085】
図6に示すように、エンジン始動の場合、組電池30からセルモータ110への突入電流が流れた後、クランクシャフト(図略)が1回転するごとに、乗り越しトルクを発生させるため、セルモータ110に乗り越し電流が流れる。乗り越し電流は、クランクシャフトが回転する度に、小さくなる。そのため、エンジン始動時の電圧波形は、図6に示すように、電圧が瞬時に大きく低下した後、電圧降下量が階段状に減衰してゆく波形となる。
【0086】
一方、外部短絡の場合、発生から解消までの間、一定の短絡電流が流れることから、図6に示すように、電圧波形は矩形状である。このように、「エンジン始動時」と「外部短絡」では、電圧波形が大きくことなる。
【0087】
以上のことから、処理部51は、電源復旧後、電圧計測部55により計測される組電池30の総電圧Vsの電圧波形に基づいて、電源喪失に至った原因を判別することが出来る。総電圧Vsの電圧波形が、図6にて実線A1で示すように、階段状に減衰してゆく波形の場合、電源喪失に至った原因は「エンジン始動」と判別できる。一方、総電圧Vsの電圧波形が、図6にて破線A2で示すように、急峻に立ち上がる波形の場合、電源喪失に至った原因は「外部短絡」と判別できる。
【0088】
処理部51は、電源喪失に至った原因が「エンジン始動」である場合、外部短絡の発生に応じた応答動作は実行せず、電源喪失した原因が「外部短絡」である場合にのみ、応答動作を実行する。このようにすることで、バッテリ20Aの安全性を高めつつ、使用性を維持することが出来る。
【0089】
<実施形態6>
実施形態1では、電源が喪失した原因が「エンジン始動」、「外部短絡」のいずれであるのかを、電源復旧後に、車両ECU120との間で通信が再開できるか、否かに基づいて、判別した。
【0090】
図13は、組電池30について、横軸を温度、縦軸をSOCとして、エンジン始動による電源喪失の発生領域B1、外部短絡による電源喪失の発生領域B2、エンジン始動不可領域B3、エンジン始動可能領域B4を示している。
【0091】
低SOCで、電源喪失に至る理由は、満充電時に比べて、組電池30の総電圧Vsが低いためである。低温で電源喪失に至る理由は、温度低下により、二次電池31の内部抵抗が高くなるためである。特に、リチウムイオン二次電池31は、低温時における、内部抵抗の増加が、他の二次電池に比べて大きいことが知られている。また、外部短絡による電源喪失の発生領域B2に比べて、エンジン始動による電源喪失の発生領域B1が狭く、発生領域B2に含まれている理由は、クランキング電流は、短絡電流に比べて小さく、電圧降下量が小さいためである。
【0092】
実施形態6において、処理部51は、組電池30のSOCと温度を監視し、組電池30が発生領域B1に含まれる場合、すなわち、組電池30のSOCがSOC1以下であり、かつ組電池30の温度がT1以下の場合、電流遮断装置41を用いて、組電池30の電流を遮断する。SOC1(SOCの閾値)とT1(温度の閾値)は、SOCや温度の条件を変えて、バッテリ20Aでセルモータ110を回してエンジン始動する実験を行い、管理装置50が電源喪失するかを検証することにより、得ることが出来る。また、SOC、温度の条件、エンジン始動時のクランキング電流値から、エンジン始動に伴う組電池30の電圧変化を推定して、管理装置50が電源喪失するかを検証することにより、得ることが出来る。
【0093】
組電池30が発生領域B1に含まれる場合、電流を遮断することで、クランキングできなくなることから、エンジン始動に起因する電源喪失は起きない。そのため、図13にて×印で示すように発生領域B1の外部領域、(具体的には発生領域B2のうち発生領域B1を除く領域)で、管理装置50の電源喪失が起きた場合、その原因はエンジン始動以外、すなわち「外部短絡」であると判別できる。
【0094】
発生領域B1は、エンジン始動不可領域B3に含まれているので、組電池30が発生領域B1内に含まれている場合に電流を遮断しても、車両の実使用上の問題は生じない。
【0095】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施形態1では、蓄電素子の一例として、二次電池31を例示した。蓄電素子は、二次電池31に限らず、キャパシタでもよい。二次電池31は、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池や、鉛蓄電池などを使用することが出来る。また、蓄電素子は複数を直列に接続する場合に限らず、単セルの構成でもよい。また、車両は自動車に限らず、セルモータを備えていれば、自動二輪でもよい。
【0096】
(2)実施形態1では、管理装置50の正極側の電源ラインL1を組電池30の正極側の接続点J1から引き出し、負極側の電源ラインL2を組電池30の負極側の接続点J2から引き出した例を示した。負極側の電源ラインL3はシャント抵抗45の負極側の接続点J3から引き出すようにしてもよい。また、実施形態1では、バッテリ20Aに電流遮断装置41とヒューズ53を設けた例を示したが、電流遮断装置41、ヒューズ43は無くてもよい。
【0097】
(3)実施形態1では、管理装置50を、処理部51、電圧計測部55、電流計測部57、通信部59、リセット回路61、表示部63から構成した。管理装置50は、二次電池31の管理と応答動作を行う処理部51を少なくとも備えた構成であればよい。電圧計測部55、電流計測部57、通信部59、リセット回路61、表示部63は、処理部51と通信可能であれば、管理装置外に設けられていてもよい。
【0098】
(4)実施形態2では、電源喪失時を含む前後の一定期間Tの受信記録の有無に基づいて、電源喪失の原因が「エンジン始動」か「外部短絡」のいずれであるかを判別した。
バッテリ20Bがセルモータ15だけでなく、オーディオやカーナビゲーションなどの車両負荷に対する電源となっている場合、イグニッションスイッチ115がオンになると、組電池30から車両負荷へ電流が流れる。そのため、図6に示すように、イグニッションスイッチ115がオンになると、その後、組電池30の総電圧Vsは電圧が下がる(時刻t1~t2)。一方、外部短絡は、車両1から取り外された状態で発生するため、電源喪失時に、そのような電圧変化が生じない。従って、電源喪失を検出した場合、電源喪失時を含む前後の一定期間Tの組電池30の総電圧Vsの波形を不揮発性のメモリ53に記憶しておき、そのデータを、電源復旧時に読み出すことで、電源喪失の原因が「エンジン始動」か「外部短絡」のいずれであるかを判別することが出来る。また、組電池30の総電圧Vsに限らず、電流Iのデータから電源喪失に至った原因を判別してもよい。更に、組電池30の総電圧Vsと電流Iの双方のデータに基づいて電源喪失に至った原因を判別してもよい。
【0099】
(5)実施形態4では、電源喪失時taから電源復旧時tbまでの電源喪失時間Tabを処理部51にて計測し、その結果を閾値と比較することで、電源喪失に至った原因が「エンジン始動」か「外部短絡」のいずれであるかを判別した。この他にも、図14に示すように、電源喪失時間Ta(電源喪失時taからの経過時間)を処理部51に計測し、電源喪失時間Taが閾値を超えても、電源復旧しなければ、電源喪失に至った原因は「外部短絡」であると判断することも出来る。この場合、電源喪失時間Taが閾値を超えた時点で、電流遮断装置45により電流を遮断することで、組電池30の安全性を確保することが出来る。
【0100】
(6)実施形態5では、電源喪失に至った原因が「エンジン始動」か「外部短絡」のいずれであるかを、電源復旧後、電圧計測部55により計測される組電池30の総電圧Vsのデータに基づいて判別した。「エンジン始動」と「外部短絡」で波形が異なる点は、電流も同じである。従って、電源復旧後、電流計測部57により計測される組電池30の電流Iのデータに基づいて、電源喪失に至った原因が「エンジン始動」か「外部短絡」のいずれであるかを判別するようにしてもよい。更に、組電池30の総電圧Vsと電流Iの双方のデータに基づいて電源喪失に至った原因を判別してもよい。
【0101】
(7)実施形態1では、処理部51を、CPU52とメモリ53とから構成し、CPU52にて、組電池30の「状態の監視」と「外部短絡の発生に応じた応答動作」を行った。処理部51は、組電池30の「状態の監視」と「外部短絡の発生に応じた応答動作」を行う構成であればよく、図15に示すように、処理部51に対して、組電池30の状態の監視を行うCPU52とは別に、監視部54を別に設けてもよい。そして、監視部54にて、CPU52の電源喪失を監視する。監視部54は、CPU52が電源喪失に至った場合(管理装置50が電源喪失に至った場合)、その原因が「エンジン始動」か「外部短絡」のいずれであるかを、通信再開の可否などに基づいて判別する。監視部54は、「外部短絡」の場合、外部短絡の発生に応じた応答動作を行い、「エンジン始動」の場合には、応答動作を行わない。
【0102】
(8)実施形態6では、エンジン始動による電源喪失の発生領域B1を、SOCと温度により規定した。エンジン始動による電源喪失の発生領域B1は、SOC又は温度のいずれか一方により、規定するようにしてもよい。この場合、SOC又は温度のうち、二次電池31の電圧低下への影響が大きい因子を用いて規定するとよい。
【符号の説明】
【0103】
20A~20D...バッテリ(本発明の「蓄電装置」の一例)
22P、22N...外部端子
30...組電池
31...二次電池(本発明の「蓄電素子」の一例)
41...電流遮断装置
45...シャント抵抗
50...管理装置
51...処理部
55...電圧計測部
57...電流計測部
100...エンジン
110...セルモータ(本発明の「エンジン始動装置」の一例)
120...車両ECU
L1、L2...電源ライン
L3...通信線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15