(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】補強帯用溶接台車
(51)【国際特許分類】
B23K 37/02 20060101AFI20220216BHJP
B23K 9/127 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
B23K37/02 E
B23K9/127 503C
(21)【出願番号】P 2018044794
(22)【出願日】2018-03-12
【審査請求日】2020-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】特許業務法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【氏名又は名称】藤田 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100150223
【氏名又は名称】須藤 修三
(72)【発明者】
【氏名】池田 直生
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-175709(JP,A)
【文献】特開平11-130190(JP,A)
【文献】特公昭51-020463(JP,B1)
【文献】実開昭58-009281(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2010/0176106(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 37/02
B23K 9/127
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強対象の外周又は内周に巻回される、外方又は内方に突出した補強帯を溶接するための補強帯用溶接台車であって、
溶接機本体が搭載される荷台と、
前記補強帯
上で前記荷台を走行自在に支持するための荷台用車輪と、
前記荷台の前方に湾曲可能に配設される、支持車輪を備えた先台車と、
該先台車に湾曲可能に支持された、走行用動力を与えるための前輪と、
前記荷台の後方に湾曲可能に配設される、支持車輪を備えた従台車と、
該従台車に湾曲可能に支持された、溶接トーチを誘導するための後輪と、
を備えたことを特徴とする補強帯用溶接台車。
【請求項2】
前記荷台に、溶接トーチ、溶接
スプール、制御盤、バッテリが搭載されていることを特徴とする請求項1に記載の補強帯用溶接台車。
【請求項3】
前記先台車の上下に一対の支持車輪が回転自在に設けられており、該支持車輪は、上下一対の先台車支持リンクの両端の支点に配設されたばねにより、前記補強帯を上下から挟んで走行するように付勢されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の補強帯用溶接台車。
【請求項4】
前記前輪を支持する前輪支持は、前記先台車の先端に設けられた支点に配設されたばねにより、前記補強帯の外周端と当接する方向に付勢されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の補強帯用溶接台車。
【請求項5】
前記従台車の上下に一対の支持車輪が回転自在に配設されており、該支持車輪は、上下一対の従台車支持リンクの両端の支点に配設されたばねにより、前記補強帯を上下から挟んで走行するように付勢されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の補強帯用溶接台車。
【請求項6】
前記後輪を支持する後輪支持は、前記従台車の後端に設けられた支点に配設されたばねにより、前記補強帯の外周端と当接する方向に付勢されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の補強帯用溶接台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強帯用溶接台車に係り、特に、鋼製配水池の外周又は内周に巻回される、外方又は内方に突出した補強帯を溶接する際に用いるのに好適な補強帯用溶接台車に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼製の屋根板、底板、側板を有し、これらが溶接で接合された水道用の鋼製配水池が知られている(特許文献1~3参照)。
【0003】
その一つに、
図1(正面図)及び
図2(
図1のII-IIに沿う水平断面図)に例示する如く、底板11の上に、例えば3段の側板12、13、14を積み重ね、その間を補強帯15、16で溶接して補強した配水池10がある。図において、18は柵である。
【0004】
このような鋼製配水池10において、従来、補強帯15、16は手作業で溶接していた。
【0005】
なお、配水池の溶接に関するものではないが、特許文献4には、圧力容器などの側面に突起したT字形フレーム材に沿って、目的箇所を連続的にすみ肉溶接する自走式無軌条溶接台車が記載されている。
【0006】
又、特許文献5には、立板と細幅の下板のすみ肉溶接用無軌条自走台車が記載されている。
【0007】
又、特許文献6には、倣い面としてのすみ肉継手の縦板の垂直面に転接する案内ローラを、倣い面に押圧させて移動台車を案内させるようにした溶接線倣い装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-27517号公報
【文献】特許第5919754号公報
【文献】特許第6144104号公報
【文献】特許第3758731号公報
【文献】特開昭63-84793号公報
【文献】特開平8-25042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献4に記載された技術では、対象構造物にT字形フレーム材のような部材があるか、又は設置しなければならない。又、溶接トーチのみを動かしており、溶接機などを台車に積載させて走行することを考慮していない。
【0010】
又、特許文献5に記載の技術は、無軌条で指定の線長を自走する機構として、立板に当接させた車輪をガイドとしているが、配水池補強部のように湾曲部の外側を走ることは考慮していない。又、立板の形状によっては台車の軌条に活用することができない。
【0011】
又、いずれの特許文献に記載の技術も、溶接機などを台車に積載させて走行することは考慮しておらず、特に、本発明の適用対象の一つである配水池のように、補強帯にある溶接線位置の溶接には適用することが困難である、などの問題点を有していた。
【0012】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、補強帯にある溶接線位置を連続的に溶接することが可能な補強帯用溶接台車を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、補強対象の外周又は内周に巻回される、外方又は内方に突出した補強帯を溶接するための補強帯用溶接台車であって、溶接機本体が搭載される荷台と、前記補強帯上で前記荷台を走行自在に支持するための荷台用車輪と、前記荷台の前方に湾曲可能に配設される、支持車輪を備えた先台車と、該先台車に湾曲可能に支持された、走行用動力を与えるための前輪と、前記荷台の後方に湾曲可能に配設される、支持車輪を備えた従台車と、該従台車に湾曲可能に支持された、溶接トーチを誘導するための後輪と、を備えることにより前記課題を解決するものである。
【0014】
ここで、前記荷台に、溶接トーチ、溶接スプール、制御盤、バッテリを搭載することができる。
【0015】
又、前記先台車の上下に一対の支持車輪が回転自在に設けられており、該支持車輪は、上下一対の先台車支持リンクの両端の支点に配設されたばねにより、前記補強帯を上下から挟んで走行するように付勢することができる。
【0016】
又、前記前輪を支持する前輪支持は、前記先台車の先端に設けられた支点に配設されたばねにより、前記補強帯の外周端と当接する方向に付勢することができる。
【0017】
又、前記従台車の上下に一対の支持車輪が回転自在に配設されており、該支持車輪は、上下一対の従台車支持リンクの両端の支点に配設されたばねにより、前記補強帯を上下から挟んで走行するように付勢することができる。
【0018】
又、前記後輪を支持する後輪支持は、前記従台車の後端に設けられた支点に配設されたばねにより、前記補強帯の外周端と当接する方向に付勢することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、補強帯にある溶接線位置を連続的に溶接することが可能な補強帯用溶接台車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の適用対象である配水池に本発明に係る溶接台車の実施形態を配置した状態を示す正面図
【
図3】
図2の溶接台車部分を拡大して示す水平断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。又、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0022】
本発明の第1実施形態は、
図3(
図2の溶接台車部分を拡大して示す水平断面図)、
図4(
図3をIV方向から見た縦断面図)、
図5(
図4のV-V線に沿う横断面図)、
図6(
図4のVI-VI線に沿う横断面図)、
図7(
図4のVII-VII線に沿う横断面図)、
図8(
図2の溶接台車を後方から見た図)、及び、
図9(
図8のIX-IX線に沿う水平断面図)に示す如く、補強対象である配水池10の外周に巻回される、外方に突出した補強帯15を溶接するための補強帯用溶接台車20であって、溶接機本体22が搭載される荷台40と、前記補強帯15を挟んで該荷台40を走行自在に支持するための荷台用車輪42と、前記荷台40の前方(
図4の右方)に、フリーな支点44により湾曲自在に配設される、支持車輪52を備えた先台車50と、該先台車50に、ばね55が配設された支点54により配水池10の方向(
図3の上方)に付勢されて湾曲可能に支持された、走行用の主動力を与えるための前輪60と、前記荷台40の後方(
図4の左方)に、フリーな支点46により湾曲自在に配設される、支持車輪72を備えた従台車70と、該従台車70に、ばね75が配設された支点74により配水池10の方向(
図3の上方)に付勢されて湾曲可能に支持された、溶接トーチ24を誘導するための後輪80と、を備えている。
【0023】
前記荷台40には、例えば中央に溶接機本体22、後方(
図4の左側)に溶接トーチ24、溶接
スプール28が搭載される溶接
スプール用掛台26、前方(
図4の右側)に制御盤30、バッテリ32を搭載することができる。
図4において、22Aは、溶接用のシールドガスを溶接トーチ24に供給するためのガス接続栓、22Bはガスゲージ、22Cはガス調整用ツマミ、23はシールドガス用管である。
【0024】
このように溶接に関わる主要な機材を荷台40自体に設けているので、電源コード等による制限の影響を受けることがない。従って、補強帯15にある溶接線を連続的に溶接することが可能となる。更に、立板に相当する側板でなく、補強帯15をガイドとしているので、立板に相当する側板の形状による制限を受けない。
【0025】
前記先台車50は、その上下に一対の支持車輪52が回転自在に設けられており、この支持車輪52は、上下一対の先台車支持リンク56両端の支点に配設されたコイルばね57、58(
図4参照)により補強帯15を上下から挟んで走行するように付勢されている。このように、先台車支持リンク56の両端で回動自在とすることにより、補強帯15の板厚の変化にも対応できる。なお、補強帯15の板厚の変化が問題とならない場合には、先台車支持リンク56の支持車輪52側を固定してコイルばね58を省略することもできる。
【0026】
前記前輪60を支持する前輪支持62は、先台車50の先端に設けられた支点54に配設されたコイルばね55により補強帯15の外周端と当接する方向(
図3の上方向)に付勢されている。
【0027】
前記前輪60は、例えば前輪支持62に内蔵されたモータ(図示省略)によって回転駆動され、溶接台車20全体を前方に引っ張るようにされている。補強帯15の外周端に沿って、このように溶接台車20の前方から引っ張るようにしたいわゆるフロントドライブ方式とすることによって、安定した走行が可能となる。従って、T字形フレーム材のような部材が無くても、前輪60が主要動力として補強帯15の端部を当接して前進することで曲線部、湾曲部の軌道修正を行うことができる。このように前輪60が前進動力と軌道修正の機構を併せ持つことで、装置が軌道修正を無視して前進し落下するのを防ぐことができる。これに対して、荷台40や従台車70に走行用の主動力を与えた場合には、走行が不安定となって、溶接台車20が補強帯15から落ちてしまうことがある。なお、補助動力を前輪60以外の車輪に追加することもできる。
【0028】
前記従台車70は、先台車50と同様に、その上下に一対の支持車輪72が回転自在に配設されており、この支持車輪72は、上下一対の従台車支持リンク76両端の支点に配設されたコイルばね77、78により補強帯15を上下から挟んで走行するように付勢されている。このように、従台車支持リンク76の両端で回動自在とすることにより、補強帯15の板厚の変化にも対応できる。なお、補強帯15の板厚の変化が問題とならない場合には、従台車支持リンク76の支持車輪72側を固定してコイルばね78を省略することもできる。
【0029】
前記後輪80を支持する後輪支持82も、前輪支持62と同様に、従台車70の後端に設けられた支点74に配設されたコイルばね75により、補強帯15の外周端と当接する方向(
図3の上方向)に付勢されている。
【0030】
前記後輪80の後輪支持82には、
図8に詳細に示す如く、溶接トーチ用支持84が設けられ、溶接トーチ24の先端にはトーチガイドローラ85が設けられている。このトーチガイドローラ85は、図示しない弱いスプリングにより、
図9に示す如く、補強帯15に向けて押し付けられ、これにより溶接トーチ24を補強帯15の板端部に沿って誘導するようにしている。なお、比較的小さい直径のトーチガイドローラ85と後輪80の中間で溶接トーチ24を制御することで、ある程度の湾曲(R1000程度)では溶接トーチ24を特別に調整することなく、連続的な溶接が可能となる。
【0031】
前記溶接トーチ用支持84には調整機構84Aが設けられ、溶接トーチ24の先端位置を、補強帯15端部の段差及び板厚差に応じて上下左右に位置調整可能とされると共に、その上端には前記シールドガス用管23が接続されている。
【0032】
ここで、溶接トーチ24の先端位置を補強帯15と後輪80の接点よりも後方(
図9の下方)にずらしているのは、安定的なガイドを可能とするためである。
【0033】
【0034】
まずステップ100で、対象となる溶接長(全周又は部分)を手溶接で仮付け(仮溶接と称する)する。
【0035】
次いでステップ110で、先台車50と従台車70を補強帯15の所定の位置に設置する。
【0036】
次いでステップ120で、図示しないクレーンを用いて、本装置の荷台40を先台車50と従台車70の間に据付接続する。なお、設置後も、クレーン吊具は安全のために本設置が完了するまで取り外さない。
【0037】
次いでステップ130で、図示しないガスボンベ等により、ガス供給ラインを荷台40のガス接続栓22Aに接続する。
【0038】
次いでステップ140で、従台車70の溶接トーチ24の位置を調整する。
【0039】
次いでステップ150で、クレーンと荷台40の接続を切り離し、本体を所定の位置に自立させる。
【0040】
次いでステップ160で、制御盤30により溶接棒送り出し速度、シールドガス量、台車速度を調整する。
【0041】
次いでステップ170で、溶接台車20を走行させながら溶接を実施する。
【0042】
この際、
図3の左側に示す如く、直線部を走行した溶接台車20は、曲線部にかかると、
図3の右側に示したように、補強帯15の板端(外周端)に追従して安定走行する。
【0043】
溶接終了後、ステップ180で、溶接台車20を前記と逆の手順で溶接対象の補強帯15から取り外す。
【0044】
ここで、溶接台車20を荷台40、先台車50及び従台車70に分割しているのは、補強帯15の曲線部(R=1000mm程度)に対応させるためである。同じ理由により先台車50および従台車70の回転領域を確保するために、荷台40の平面形状は
図3のような補強帯15側の両端が切り欠かれた凸形状としている。
【0045】
シールドガスは、本実施形態のようにシールドガス用管により外部から供給したり、ガスボンベを運ぶための追加の台車を設けて、溶接台車20と共に補強帯15の外周に沿って走行させたり、溶接台車20に搭載したりすることが可能である。ガスボンベを溶接台車20に搭載した場合は、外部からガスを補給することなく溶接を続けることができる。
【0046】
前記説明においては、溶接台車20が一段目側板12と二段目側板13間の補強帯15に配設されていたが、二段目側板13と三段目側板14間の補強帯16の溶接にも同様に適用できる。
【0047】
又、補強帯が配水池の内側に突出している場合には、溶接台車を配水池の内側に配設して、該補強帯を内側から溶接することも可能である。
【0048】
前記実施形態においては本発明が、配水池の補強帯の溶接に適用されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、配水池以外の構造物の補強帯の溶接にも同様に適用できる。
【符号の説明】
【0049】
10…配水池
12、13、14…側板
15、16…補強帯
20…溶接台車
22…溶接機本体
24…溶接トーチ
26…溶接スプール用掛台
28…溶接スプール
30…制御盤
32…バッテリ
40…荷台
42…荷台用車輪
50…先台車
52…支持車輪
56…先台車支持リンク
57、58…コイルばね
60…前輪
62…前輪支持
70…従台車
72…支持車輪
76…従台車支持リンク
77、78…コイルばね
80…後輪
82…後輪支持
84…溶接トーチ用支持
85…トーチガイドローラ