(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】変位計測装置および変位計測方法
(51)【国際特許分類】
G01B 15/00 20060101AFI20220216BHJP
【FI】
G01B15/00 C
(21)【出願番号】P 2018048089
(22)【出願日】2018-03-15
【審査請求日】2020-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】境 禎明
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-180641(JP,A)
【文献】特開2013-152220(JP,A)
【文献】特開2016-035394(JP,A)
【文献】特開2016-075618(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105333841(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 15/00-15/08
11/00-11/30
G01N 21/00-21/01
21/17-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基体の上層に非金属層が設けられた対象物の表面の所定位置に、前記非金属層を透過し、かつ前記金属基体で反射されるテラヘルツ波を、前記テラヘルツ波のビームを拡散させつつ0°より大きい入射角をなして照射可能に構成された電磁波発信手段と、
前記対象物の前記金属基体で反射された前記テラヘルツ波を検出可能に構成された電磁波検出素子が平面状に複数設け
られて構成される電磁波検出手段と、
前記電磁波発信手段が前記金属基体における基準となる部分に前記テラヘルツ波を照射して、前記電磁波検出手段が検出した前記テラヘルツ波のビームの大きさと、前記電磁波発信手段が前記金属基体における任意の位置に前記テラヘルツ波を照射して、前記電磁波検出手段が検出した前記テラヘルツ波のビームの大きさと、前記非金属層の厚さおよび屈折率とに基づいて、前記任意の位置における前記非金属層の下層の前記金属基体における減肉部の深さおよび増肉部の高さに基づく表面の変位を導出する解析手段と、を備える
ことを特徴とする変位計測装置。
【請求項2】
前記解析手段は、前記電磁波発信手段によって前記金属基体における前記基準となる部分に前記テラヘルツ波を照射して、前記電磁波検出手段によって検出された前記テラヘルツ波のビームの外縁の位置と、前記電磁波発信手段によって前記金属基体における前記任意の位置に前記テラヘルツ波を照射して、前記電磁波検出手段によって検出された前記テラヘルツ波のビームの外縁の位置とに基づいて、前記任意の位置における前記金属基体の表面の変位を導出する
ことを特徴とする請求項1に記載の変位計測装置。
【請求項3】
前記電磁波検出素子は、アレイ
状に設けられる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の変位計測装置。
【請求項4】
前記金属基体が鋼材であるとともに、前記非金属層が樹脂層である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の変位計測装置。
【請求項5】
金属基体の上層に非金属層が設けられた対象物の表面の所定位置に、前記非金属層を透過し、かつ前記金属基体で反射されるテラヘルツ波を、前記テラヘルツ波のビームを拡散させつつ0°より大きい入射角をなして照射する照射ステップと、
前記所定位置において前記金属基体で反射された前記テラヘルツ波を、電磁波検出素子が平面状に複数設け
られて構成される電磁波検出手段によって検出する検出ステップと、
前記金属基体における基準となる位置に前記テラヘルツ波を照射した場合に、前記電磁波検出手段によって検出された前記テラヘルツ波のビームを測定する基準測定ステップと、
前記金属基体における任意の位置に前記テラヘルツ波を照射した場合に、前記電磁波検出手段によって検出された前記テラヘルツ波のビームを測定する変位測定ステップと、
前記変位測定ステップにおいて得られたビームの大きさと、前記基準測定ステップにおいて得られたビームの大きさと、前記非金属層の厚さおよび屈折率とに基づいて、前記任意の位置における前記非金属層の下層の前記金属基体における減肉部の深さおよび増肉部の高さに基づく表面の変位を導出する解析ステップと、を含む
ことを特徴とする変位計測方法。
【請求項6】
前記解析ステップにおいて、前記基準測定ステップによって得られた前記テラヘルツ波のビームの外縁の位置と、前記変位測定ステップによって得られた前記テラヘルツ波のビームの外縁の位置とに基づいて、前記任意の位置における前記金属基体の表面の変位を導出する
ことを特徴とする請求項5に記載の変位計測方法。
【請求項7】
前記電磁波検出素子は、アレイ
状に設けられている
ことを特徴とする請求項5または6に記載の変位計測方法。
【請求項8】
前記金属基体が鋼材であるとともに、前記非金属層が樹脂層である
ことを特徴とする請求項5~7のいずれか1項に記載の変位計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を利用して対象物における所定部分の変位を計測する変位計測装置および変位計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テラヘルツ波イメージングやレーダの研究開発が行われており、非破壊検査やセンシングなどへの応用が期待されている。テラヘルツ波は、樹脂などの非金属材料に照射するとほとんどが透過する一方、金属材料に照射するとほとんどが反射する性質を有する。従来、このようなテラヘルツ波の性質を利用することによって、樹脂などからなる非金属層の下層に存在する金属基体の表面の凹凸性状を測定して、画像化する技術が提案されている(非特許文献1)。
【0003】
このようなテラヘルツ波の性質を利用して、非金属層の下層の金属基体の表面の凹凸、すなわち金属基体と上層の非金属層との界面部分の凹凸を評価する方法としては、テラヘルツ波によって金属基体の表面までの距離を計測する方法がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】山口淳、「テラヘルツイメージングシステムの開発」、PIONEER R&D(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術における、テラヘルツ波などの非金属層を透過して金属基体で反射する電磁波を用いた金属基体の表面までの距離を計測する方法では、非金属層の表面での反射波と金属基体の表面での反射波とを互いに分離および識別可能な程度の、時間幅の小さなパルス波を利用する必要がある。ところが、非金属層を透過して金属基体で反射する電磁波において、必要な分解能を得るために時間幅の小さなパルス波を発生させるには、煩雑な機構が必要になる。一方、このような電磁波を連続的に発信させた連続波を用いる場合、送受信装置の構成は、上述したパルス波を用いる場合に比して単純になる。しかしながら、連続波を用いると、TOF(Time of Flight)方式によって、金属基体の表面までの距離を計測することが困難になるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、金属基体の上層に非金属層が設けられた対象物において、非金属層を除去することなく金属基体の表面の変位を計測できる変位計測装置および変位計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る変位計測装置は、金属基体の上層に非金属層が設けられた対象物の表面の所定位置に、前記非金属層を透過し、かつ前記金属基体で反射される電磁波を、前記電磁波のビームを拡散させつつ0°より大きい入射角をなして照射可能に構成された電磁波発信手段と、前記対象物の前記金属基体で反射された前記電磁波を検出可能に構成された電磁波検出素子が平面状に複数設けられた電磁波検出手段と、前記電磁波発信手段が前記金属基体における基準となる部分に前記電磁波を照射して、前記電磁波検出手段が検出した前記電磁波のビームの大きさと、前記電磁波発信手段が前記金属基体における任意の位置に前記電磁波を照射して、前記電磁波検出手段が検出した前記電磁波のビームの大きさと、に基づいて、前記任意の位置における前記金属基体の表面の変位を導出する解析手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
(2)本発明の一態様に係る変位計測装置は、上記の(1)の発明において、前記解析手段は、前記電磁波発信手段によって前記金属基体における前記基準となる部分に前記電磁波を照射して、前記電磁波検出手段によって検出された前記電磁波のビームの外縁の位置と、前記電磁波発信手段によって前記金属基体における前記任意の位置に前記電磁波を照射して、前記電磁波検出手段によって検出された前記電磁波のビームの外縁の位置とに基づいて、前記任意の位置における前記金属基体の表面の変位を導出することを特徴とする。
【0009】
(3)本発明の一態様に係る変位計測装置は、上記の(1)または(2)の発明において、前記電磁波はテラヘルツ波であることを特徴とする。
【0010】
(4)本発明の一態様に係る変位計測装置は、上記の(1)~(3)のいずれか1つの発明において、前記金属基体が鋼材であるとともに、前記非金属層が樹脂層であることを特徴とする。
【0011】
(5)本発明の一態様に係る変位計測方法は、金属基体の上層に非金属層が設けられた対象物の表面の所定位置に、前記非金属層を透過し、かつ前記金属基体で反射される電磁波を、前記電磁波のビームを拡散させつつ0°より大きい入射角をなして照射する照射ステップと、前記所定位置において前記金属基体で反射された前記電磁波を、電磁波検出素子が平面状に複数設けられた電磁波検出手段によって検出する検出ステップと、前記金属基体における基準となる位置に前記電磁波を照射した場合に、前記電磁波検出手段によって検出された前記電磁波のビームを測定する基準測定ステップと、前記金属基体における任意の位置に前記電磁波を照射した場合に、前記電磁波検出手段によって検出された前記電磁波のビームを測定する変位測定ステップと、前記変位測定ステップにおいて得られたビームの大きさと、前記基準測定ステップにおいて得られたビームの大きさとに基づいて、前記任意の位置における前記金属基体の表面の変位を導出する解析ステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
(6)本発明の一態様に係る変位計測方法は、上記の(5)の発明において、前記解析ステップにおいて、前記基準測定ステップによって得られた前記電磁波のビームの外縁の位置と、前記変位測定ステップによって得られた前記電磁波のビームの外縁の位置とに基づいて、前記任意の位置における前記金属基体の表面の変位を導出することを特徴とする。
【0013】
(7)本発明の一態様に係る変位計測方法は、上記の(5)または(6)の発明において、前記電磁波はテラヘルツ波であることを特徴とする。
【0014】
(8)本発明の一態様に係る変位計測方法は、上記の(5)~(7)のいずれか1つの発明において、前記金属基体が鋼材であるとともに、前記非金属層が樹脂層であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る変位計測装置および変位計測方法によれば、金属基体の上層に非金属層が設けられた対象物において、非金属層を除去することなく金属基体の表面の変位を計測することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による変位計測装置を模式的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による変位計測装置によって対象物の正常部分にテラヘルツ波を照射する場合の計測状態を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態による変位計測装置によって鋼材の減肉部が空洞である対象物の異常部分を計測する場合の計測状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の一実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する一実施形態によって限定されるものではない。
【0018】
まず、本発明の一実施形態による変位計測装置について説明する。
図1は、この一実施形態による変位計測装置1の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、この一実施形態による変位計測装置1は、テラヘルツ波発信器10、テラヘルツ波検出器20、および解析制御部30を備えて構成される。なお、この一実施形態において検査の対象となる対象物80は、金属基体としての鋼材81の上層に、非金属層である防食層としての各種の樹脂からなる樹脂層82が設けられて構成される。なお、対象物80としては、例えば塗覆装を有する鋼構造物などの、金属材料からなる基体の所定の面の上層に、非金属層が形成された種々の物体とすることができる。
【0019】
この一実施形態による変位計測装置1は、テラヘルツ波L1を対象物80の表面に照射可能に構成されているとともに、対象物80を反射したテラヘルツ波L2を検出可能に構成された反射型のテラヘルツ波計測装置から構成される。すなわち、変位計測装置1は、電磁波発信手段と電磁波検出手段とを兼ね備える。ここで、テラヘルツ波は、1テラヘルツ(1THz=1012Hz)前後、具体的には、100GHz~10THz(1011~1013Hz)の周波数領域である、いわゆるテラヘルツ領域に属する電磁波である。テラヘルツ領域は、光の直進性と電磁波の透過性を兼ね備えた周波数領域である。なお、この一実施形態においては、テラヘルツ波の周波数は、樹脂層82の厚さおよび材質に応じて選定することが可能であり、好適には0.3THz以上0.6THz以下であるが、必ずしもこの範囲に限定されるものではない。
【0020】
電磁波発信手段としてのテラヘルツ波発信器10は、例えば共鳴トンネルダイオード(RTD:Resonant Tunneling Diode)などを備えて構成されるテラヘルツ波発生素子11と、半球レンズ12と、コリメートレンズ13と、光拡散レンズ14とを有して構成される。なお、共鳴トンネルダイオードの代わりに、光伝導アンテナ(PCA:Photo Conductive Antenna)を用いてもよい。
【0021】
テラヘルツ波検出器20は、それぞれが集光レンズおよび半球レンズ(いずれも図示せず)を備えた、テラヘルツ波検出素子21-1,21-2,…,21-i,…,21-j,…,21-n(i,j,nは自然数)を平面状でアレイ状または列状に複数設けて構成される。電磁波検出手段としてのテラヘルツ波検出器20は、電磁波検出素子としてのテラヘルツ波検出素子21-1~21-nによってテラヘルツ波の反射波(テラヘルツ波L
2)を検出可能な状態で変位計測装置1に設けられている。すなわち、変位計測装置1において、テラヘルツ波検出器20の受信面側は、検査される対象物80に対向するように設けられる。なお、
図1においては、受信面と検査される対象物80の面とは平行であるが、対象物80の面に対して受信面が所定の角度で傾斜を有していてもよい。
【0022】
解析手段および制御手段としての解析制御部30は、信号増幅部31、バイアス生成部32、ロックイン検出部33、および解析処理部34を備える。解析制御部30は、テラヘルツ波発信器10に対する各種制御を行う。また、解析制御部30は、テラヘルツ波検出器20によって検出されたテラヘルツ波の信号に対して、各種処理を行う。信号増幅部31は、テラヘルツ波検出器20によって検出された信号を増幅し、テラヘルツ波受信データとしてロックイン検出部33に出力する。バイアス生成部32は、バイアス電圧を生成してテラヘルツ波発生素子11およびテラヘルツ波検出素子21-1~21-nをバイアスすることによって、バイアス電圧に応じて発信するテラヘルツ波または検出されたテラヘルツ波を変化させる。テラヘルツ波発生素子11およびテラヘルツ波検出素子21-1~21-nによって発信または検出されたテラヘルツ波は、微弱な場合もある。この場合、テラヘルツ波の検出には、ロックイン検出が用いられる。ロックイン検出の際、テラヘルツ波発信器10においては、テラヘルツ波発生素子11のバイアス電圧として変調された参照信号が用いられることにより、テラヘルツ波の検出信号のノイズ成分が除去される。解析処理部34は、検出されたテラヘルツ波受信データを格納する所定の記録部(図示せず)を備えるとともに、テラヘルツ波受信データに対して解析処理を行う。
【0023】
上述のように構成された変位計測装置1の動作時においては、まず、テラヘルツ波発信器10からテラヘルツ波L1が発信される。具体的には、テラヘルツ波発生素子11において発生したテラヘルツ波が、半球レンズ12、コリメートレンズ13、および光拡散レンズ14を介して、テラヘルツ波L1として出力される。テラヘルツ波L1は、光拡散レンズ14によって所定の拡がり角で拡散される。具体的に、テラヘルツ波L1のビームは外縁L11,L12の範囲で拡がる。ここで、発信されるテラヘルツ波L1は、典型的には、連続的に発信されるテラヘルツ連続波であるが、断続的に発信されるテラヘルツパルス波やトーンバースト波であってもよい。
【0024】
テラヘルツ波発信器10から発信されたテラヘルツ波L1は、対象物80の表面の所定位置に照射される。対象物80に対して樹脂層82の側から照射されるテラヘルツ波L1のほとんどは、樹脂層82を透過して鋼材81の鋼面81aで反射される。反射されたテラヘルツ波L2のビームはさらに拡がって、外縁L21,L22の範囲でテラヘルツ波検出器20に入射される。反射されたテラヘルツ波L2は、テラヘルツ波検出素子21-1~21-nのうちのビームの外縁L21,L22の範囲に対応したテラヘルツ波検出素子21-i~21-jによって検出される。テラヘルツ波検出素子21-i~21-jにおいては、反射された外縁L21,L22のテラヘルツ波L2のビームが集光レンズによって集光され、半球レンズ(いずれも図示せず)によって集められて検出される。反射したテラヘルツ波L2を検出したテラヘルツ波検出素子21-i~21-jにおいては、外縁L21,L22の範囲内における強度に応じた信号が検出される。
【0025】
また、テラヘルツ波検出器20においては、鋼材81の鋼面81aの形状に対応して、反射したテラヘルツ波L2を検出するテラヘルツ波検出素子21-i~21-jが異なる。すなわち、テラヘルツ波L1は、テラヘルツ波発信器10から連続的に発信されて、対象物80の表面に0°より大きい所定の入射角で斜めに入射される。この際、テラヘルツ波L1のビームの一方の外縁L11は、対象物80に対して入射角θ1で入射する。テラヘルツ波L1のビームの他方の外縁L12は、対象物80に対して入射角θ2で入射する。対象物80の表面に入射されたテラヘルツ波L1の外縁L11,L12はそれぞれ、入射角θ1,θ2に等しい反射角で反射する。この際、入射したテラヘルツ波L1および外縁L11,L12、ならびに反射したテラヘルツ波L2および外縁L21,L22の光路長は、鋼面81aの深さが変化してテラヘルツ波発信器10から鋼面81aまでの距離が変化すると増減する。そのため、反射した外縁L21,L22が到達するテラヘルツ波検出素子21-i~21-jの範囲は、反射した鋼面81aの深さによって相違する。外縁L21,L22が到達するテラヘルツ波検出素子21-i~21-jの範囲によって、テラヘルツ波L2のビームの大きさを計測することによって、鋼材81においてテラヘルツ波L1を反射した鋼面81aの深さ、すなわち減肉深さを導出できる。上述したように、テラヘルツ波L1のほとんどは樹脂層82を透過するため、樹脂層82の上方から下層に存在する鋼材81の減肉深さを計測可能になる。
【0026】
以上の原理に基づいて、樹脂層82の下層の鋼材81における減肉深さを導出する具体例について説明する。
図2は、この一実施形態による変位計測装置1によって対象物80の正常部分にテラヘルツ波を照射する場合の計測状態を示す図である。
図3は、この一実施形態による変位計測装置1によって鋼材81の減肉部83が空洞である対象物80の異常部分を計測する場合の計測状態を示す図である。
【0027】
図2に示すように、対象物80において鋼材81に減肉が生じていない、基準となる部分である正常部分にテラヘルツ波L
1を照射して、基準測定を行う。すなわち、テラヘルツ波L
1は、テラヘルツ波発信器10から0°より大きい入射角で対象物80に照射される。テラヘルツ波L
1は、ビームの外縁L
11,L
12の範囲が拡がりつつ、樹脂層82の表面82aに照射される。外縁L
11,L
12はそれぞれ、入射角θ
1,θ
2で樹脂層82の表面82aに入射され、樹脂層82を透過して鋼面81aに到達する。ここで、
図2に示す例においては、外縁L
12の入射角θ
2は、外縁L
11の入射角θ
1よりも大きい角度になる。
【0028】
鋼面81aにおいては、外縁L11,L12が入射した角度と同じ角度で反射される。反射されたテラヘルツ波L2は、樹脂層82を透過した後、ビームの外縁L21,L22の範囲が拡がりつつ、テラヘルツ波検出器20に入射される。この場合、反射されたテラヘルツ波L2のビームの一方の外縁L21は、表面82aの法線に対して外縁L11の入射角θ1と同じ角度θ1(以下、反射角θ1ともいう)で発信される。同様に、反射されたテラヘルツ波L2のビームの他方の外縁L22は、表面82aから反射角θ2で発信される。反射されたテラヘルツ波L2のビームの外縁L21,L22はそれぞれ、テラヘルツ波検出器20の検出面における観測位置P1,P2に入射される。これにより、反射されたテラヘルツ波L2は、観測位置P1,P2の範囲内におけるテラヘルツ波検出素子21-i~21-jによって検出される。観測位置P1,P2の間隔W0は、反射されたテラヘルツ波L2のビームの大きさ(ビーム径)に対応する。なお、ビーム径の定義としては、半値全幅や1/e2幅などの種々の定義を採用可能である。観測位置P1,P2、および間隔W0は、対象物80の正常部分におけるテラヘルツ波受信データにおける基準データとして、解析処理部34に供給されて所定の記録部に格納される。
【0029】
次に、
図3に示すように、鋼材81の鋼面81aの減肉部83が生じている異常部分を計測する場合について説明する。すなわち、対象物80の任意の位置にテラヘルツ波発信器10から0°より大きい入射角でテラヘルツ波L
1を照射する。この任意の位置において、減肉部83といった異常部分が存在している場合を想定する。この場合、テラヘルツ波L
1は、ビームの外縁L
11,L
12の範囲が拡がりつつ、入射角θ
1,θ
2の範囲で樹脂層82の表面82aに入射され、樹脂層82内を透過する。ここで、
図3に示す例においては、上述した基準測定の場合と同様に、外縁L
12の入射角θ
2は、外縁L
11の入射角θ
1よりも大きい角度になる。
【0030】
樹脂層82を透過したテラヘルツ波L1は、減肉部83の空洞84の底面の鋼面81aに到達する。減肉部83の鋼面81aにおいては、外縁L11,L12が入射した角度と同じ角度で反射される。反射されたテラヘルツ波L2の外縁L21,L22は、樹脂層82を透過した後、ビームの外縁L21,L22の範囲が拡がりつつテラヘルツ波検出器20に入射される。テラヘルツ波L2において、反射角θ1で樹脂層82を透過した外縁L21、および反射角θ2で樹脂層82を透過した外縁L22はそれぞれ、テラヘルツ波検出器20の検出面における観測位置P3,P4に入射される。これにより、反射されたテラヘルツ波L2は、観測位置P3,P4の範囲内におけるテラヘルツ波検出素子21-k~21-m(k,mは自然数)によって検出される。観測位置P3,P4の間隔W1は、計測された対象物80の位置において反射されたテラヘルツ波L2のビームの大きさ(ビーム径)に対応する。観測位置P3,P4および間隔W1は、テラヘルツ波受信データとして解析処理部34に供給されて所定の記録部に格納される。
【0031】
解析処理部34は、供給されたテラヘルツ波受信データにおける観測位置P
3,P
4および間隔W
1と、基準測定によって計測された観測位置P
1,P
2および間隔W
0とを比較する。ここで、
図3に示す例においては、減肉部83が生じているため、テラヘルツ波発信器10から減肉部83の鋼面81aまでのテラヘルツ波L
1の光路長は、
図2に示すテラヘルツ波発信器10から鋼面81aまでのテラヘルツ波L
1の光路長より長い。これにより、
図3に示す鋼面81aにおける外縁L
11,L
12の拡がりは、
図2に示す鋼面81aにおける外縁L
11,L
12の拡がりに比して大きくなる。その上で、
図3に示す減肉部83の鋼面81aからテラヘルツ波検出器20までのテラヘルツ波L
2の光路長は、
図2に示す鋼面81aからテラヘルツ波検出器20までのテラヘルツ波L
2の光路長より長い。これにより、
図3に示すテラヘルツ波検出器20の検出面において、外縁L
21,L
22の入射位置はそれぞれ、観測位置P
1,P
2から観測位置P
3,P
4にシフトする。さらに、
図3に示すテラヘルツ波検出器20の検出面における観測位置P
3,P
4の間隔W
1は、基準測定における観測位置P
1,P
2の間隔W
0より大きくなる(W
1>W
0)。
【0032】
減肉部83の深さd1は、樹脂層82の厚さおよび屈折率、観測位置P1,P2から観測位置P3,P4へのそれぞれのシフト量、ならびに間隔W0,W1および間隔W0から間隔W1への増加量の各種パラメータに基づいて、幾何学的に導出できる。解析処理部34は、これらのパラメータに基づいて減肉部83の深さd1を導出する。なお、各種パラメータと減肉部83の深さd1との関係、特に観測位置P3,P4または間隔W1と減肉部83の深さd1との関係を、解析処理部34の所定の記録部に、あらかじめ検量線や標準曲線などのテーブルとして格納しておくことも可能である。この場合、解析処理部34は、外縁L21,L22のそれぞれの観測位置P3,P4に基づいて、格納されたテーブルから減肉部83の深さd1を導出できる。また、減肉部83ではなく増肉部が存在した場合は、上述した観測位置P1,P2から観測位置P3,P4へのそれぞれのシフト量、および間隔W0から間隔W1への増加量が負になって、上述した方法と同様に各種パラメータに基づいて増肉部の高さを負の深さとして導出できる。
【0033】
以上説明したこの一実施形態による変位計測装置および変位計測方法によれば、樹脂層82を透過して鋼材81で反射するテラヘルツ波L1を、所定の拡がり範囲で拡散させて対象物80に対して斜めに照射し、反射したテラヘルツ波L2の拡がり状態に基づいて、対象物80の鋼材81における減肉部83の深さや増肉部の高さを計測することができる。これにより、鋼材81などの金属基体の上層に樹脂層82などの非金属層が設けられた対象物80に対して、樹脂層82を剥離させたり除去したりすることなく、鋼材81の異常部分における変位を計測することが可能になる。
【0034】
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げたテラヘルツ波発信器10やテラヘルツ波検出器20の装置構成はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる装置構成を用いてもよく、本発明は、上述した一実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により限定されることはない。
【0035】
上述した一実施形態においては、電磁波としてテラヘルツ波を用いているが、樹脂層82を透過して鋼材81の鋼面81aで反射する電磁波であれば、必ずしもテラヘルツ波に限定されるものではない。
【0036】
また、上述した一実施形態においては、減肉部83の部分における樹脂層82の下層が空洞84である場合について説明したが、減肉部83の部分が樹脂層82によって充填されて空洞84がない場合であっても、同様にして減肉深さd1を計測できる。
【符号の説明】
【0037】
1 変位計測装置
10 テラヘルツ波発信器
11 テラヘルツ波発生素子
20 テラヘルツ波検出器
21-1,21-2,…,21-i,…,21-j,…,21-k,…,21-m,…,21-n テラヘルツ波検出素子
30 解析制御部
34 解析処理部
80 対象物
81 鋼材
81a 鋼面
82 樹脂層
82a 表面
83 減肉部
84 空洞
L1,L2 テラヘルツ波
L11,L12,L21,L22 外縁