(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/02 20060101AFI20220216BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20220216BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20220216BHJP
B60W 30/02 20120101ALI20220216BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20220216BHJP
【FI】
B60W10/00 102
B62D6/00
B60W10/04
B60W10/02
B60W30/02
B62D117:00
(21)【出願番号】P 2018121691
(22)【出願日】2018-06-27
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】秋谷 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小川 大策
【審査官】岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-123605(JP,A)
【文献】特開2018-044595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/02
B62D 6/00
B60W 10/04
B60W 30/02
B62D 101/00
B62D 103/00
B62D 117/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制御装置であって、
前記車両の後輪を駆動する原動機と、
前記原動機のトルクを前記後輪に伝達するための動力伝達機構と、
前記動力伝達機構に設けられた係合要素と、
前記車両を操舵するための操舵装置と、
前記操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、
前記車両の運転状態を検出する運転状態センサと、
前記原動機及び前記係合要素を制御する制御器と、を有し、
前記制御器は、
前記運転状態センサによって検出された運転状態に基づき、前記原動機の基本トルクを設定し、
前記操舵角センサによって検出された操舵角の増加に基づき、前記原動機の増加トルクを設定し、
前記増加トルクを前記基本トルクに適用した目標トルクが発生するように前記原動機を制御し、
前記係合要素の係合度合に基づき前記原動機の増加トルクを変更するか、若しくは、前記増加トルクに基づく前記原動機の制御と前記係合要素の係合度合の変更とが同時に行われることを抑制するよう構成され、
前記制御器は、前記操舵角センサによって検出された操舵角が増加したときの操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、設定する前記増加トルクを大きくする、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御器は、
前記増加トルクに基づく前記原動機の制御と前記係合要素の係合度合の変更とが同時に行われることを抑制する場合、前記増加トルクに基づく前記原動機の制御中において、前記係合要素の係合度合の変更を抑制するよう構成されている、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御器は、
前記増加トルクに基づく前記原動機の制御と前記係合要素の係合度合の変更とが同時に行われることを抑制する場合、前記係合要素の係合度合の変更中において、前記増加トルクに基づく前記原動機の制御を抑制する、請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御器は、前記増加トルクに基づく前記原動機の制御中に前記係合要素の係合度合の変更を許容し、当該係合度合の変更に基づき前記増加トルクを変更するよう構成されている、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御器は、
前記操舵角の減少に基づき、前記原動機の低減トルクを設定し、
前記低減トルクを前記基本トルクに適用した目標トルクが発生するように前記原動機を制御し、
前記係合要素の係合度合に基づき前記原動機の低減トルクを変更するか、若しくは、前記低減トルクに基づく前記原動機の制御と前記係合要素の係合度合の変更とが同時に行われることを抑制するよう構成されている、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記動力伝達機構は、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータを含み、
前記係合要素は、前記ロックアップクラッチである、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを前記後輪に伝達するための動力伝達機構と、前記動力伝達機構に設けられた係合要素と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が増加したときに、前記原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記係合要素の係合度合に基づいて、前記車両姿勢制御によりトルクを増加させる量を変更するトルク変更手段と、
を有
し、
前記車両姿勢制御手段は、前記操舵角が増加したときの操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、前記原動機のトルクを増加させる量を大きくする、ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項8】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを前記後輪に伝達するための動力伝達機構と、前記動力伝達機構に設けられた係合要素と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が増加したときに、前記原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記車両姿勢制御と前記係合要素の係合度合の変更とが同時に行われることを抑制する抑制手段と、
を有
し、
前記車両姿勢制御手段は、前記操舵角が増加したときの操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、前記原動機のトルクを増加させる量を大きくする、ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項9】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを前記後輪に伝達するための動力伝達機構と、前記動力伝達機構に設けられた係合要素と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が増加したときに、前記原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記車両姿勢制御中において、前記係合要素の係合度合の変更を抑制する抑制手段と、
を有
し、
前記車両姿勢制御手段は、前記操舵角が増加したときの操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、前記原動機のトルクを増加させる量を大きくする、ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項10】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを前記後輪に伝達するための動力伝達機構と、前記動力伝達機構に設けられた係合要素と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が増加したときに、前記原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記係合要素の係合度合の変更中において、前記車両姿勢制御を抑制する抑制手段と、
を有
し、
前記車両姿勢制御手段は、前記操舵角が増加したときの操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、前記原動機のトルクを増加させる量を大きくする、ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項11】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを前記後輪に伝達するための動力伝達機構と、前記動力伝達機構に設けられた係合要素と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が減少したときに、前記原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記係合要素の係合度合に基づいて、前記車両姿勢制御によりトルクを減少させる量を変更するトルク変更手段と、
を有
し、
前記車両姿勢制御手段は、前記操舵角が減少したときの絶対値としての操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、前記原動機のトルクを減少させる量を大きくする、ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項12】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを前記後輪に伝達するための動力伝達機構と、前記動力伝達機構に設けられた係合要素と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が減少したときに、前記原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記車両姿勢制御と前記係合要素の係合度合の変更とが同時に行われることを抑制する抑制手段と、
を有
し、
前記車両姿勢制御手段は、前記操舵角が減少したときの絶対値としての操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、前記原動機のトルクを減少させる量を大きくする、ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項13】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを前記後輪に伝達するための動力伝達機構と、前記動力伝達機構に設けられた係合要素と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が減少したときに、前記原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記車両姿勢制御中において、前記係合要素の係合度合の変更を抑制する抑制手段と、
を有
し、
前記車両姿勢制御手段は、前記操舵角が減少したときの絶対値としての操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、前記原動機のトルクを減少させる量を大きくする、ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項14】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを前記後輪に伝達するための動力伝達機構と、前記動力伝達機構に設けられた係合要素と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が減少したときに、前記原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記係合要素の係合度合の変更中において、前記車両姿勢制御を抑制する抑制手段と、
を有
し、
前記車両姿勢制御手段は、前記操舵角が減少したときの絶対値としての操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、前記原動機のトルクを減少させる量を大きくする、ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に係わり、特に、車両の操舵に基づき、後輪を駆動する原動機のトルクを制御する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スリップ等により車両の挙動が不安定になった場合に安全方向に車両の挙動を制御するもの(横滑り防止装置等)が知られている。具体的には、車両のコーナリング時等に、車両にアンダーステアやオーバーステアの挙動が生じたことを検出し、それらを抑制するように車輪に適切な減速度を付与するようにした技術が知られている。
【0003】
他方で、車両の挙動が不安定になるような走行状態における安全性向上のための制御とは別に、ステアリングの切り込み操作時に原動機(モータやエンジン)のトルクを低減させて車両減速度を生じさせることで、コーナリング時におけるドライバの操作が自然で安定したものとなるように車両姿勢を制御する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。以下では、このようなドライバによるステアリング操作に応じて原動機のトルクを変化させて車両の姿勢を制御することを適宜「車両姿勢制御」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本件発明者が、特許文献1等に記載されているような、ドライバによるステアリング操舵に伴って車両に減速度を与える制御(車両姿勢制御)の、後輪駆動車への適用を試みたところ、特許文献1記載の発明において得られている操縦安定性の向上や、車両挙動の応答性、リニア感の向上という効果を得ることはできなかった。
【0006】
即ち、本件発明者は、車両姿勢制御として、特許文献1等に記載されているように、ステアリング操作に伴って車両に減速度を与える制御を適用した。しかしながら、このような従来から知られている車両姿勢制御を後輪駆動車に適用した場合には、前輪駆動車において得られていたような車両の応答性やリニア感の向上といった効果を得ることはできなかった。この新たに見出された課題を解決するために本件発明者が鋭意研究を進めた結果、後輪駆動車においては、驚くべきことに、ドライバによる操舵に応じて車両の駆動トルクを増加させることにより、車両応答性やリニア感が向上することが明らかとなった。
【0007】
一般に、車両に減速度を付与すると、車両の重心に作用する慣性力により、車両にはフロント側が沈むピッチング運動が発生するため、操舵輪である前輪荷重が増加して、ステアリング操作に対する応答性が向上するものと考えられていた。しかしながら、後輪駆動車においては、後輪の駆動トルクを減じて車両に減速度を付与した際、上記の慣性力の他に、後輪からサスペンションを介して車体を後傾させる(リア側を沈ませる)力が瞬間的に発生する。この瞬間的な力は、前輪荷重を低下させるように作用するため、後輪駆動車においては、ドライバによる操舵に応じて車両に減速度を付与しても、期待通りに車両応答性やリニア感を向上させることができなかったものと考えられる。
【0008】
これとは反対に、後輪駆動車においては、後輪の駆動トルクを増加させることにより、後輪からサスペンションを介して車体を前傾させる(フロント側を沈ませる)力が瞬間的に作用して前輪荷重が増加するため、車両応答性やリニア感が向上するものと考えられる。即ち、後輪駆動車において、後輪の駆動トルクを増加させて加速度を付与すると、車体を後傾させる慣性力と、車体を前傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感に対しては瞬間的な車体を前傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
【0009】
本件発明者は、車両に搭載された操舵装置の操舵角の増加に基づいて、車両の運転状態に応じた基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定することにより、上記の瞬間的な力により前輪荷重が増加し、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感を向上できることを見出した。
【0010】
ところで、従来から、車両の駆動力を車輪に伝達するための動力伝達機構には種々の係合要素が設けられており、運転状態に応じて係合要素の係合度合を変更する制御(係合度合変更制御)が実行されている。このような係合度合変更制御と上述の後輪の駆動トルク増加による車両姿勢制御とが同時に実行されると、問題が生じ得る。すなわち、車両姿勢制御によりにトルクが増加されているときに、係合度合変更制御により係合要素の係合度合が変更されると、車両姿勢を制御するための十分なトルク増加を行えずに所望の車両姿勢を実現できない場合がある。他方で、係合度合変更制御により係合要素の係合度合が変更されているときに、車両姿勢制御によりトルクが増加されると、係合度合の変更を迅速に行えなかったり、係合度合の変更を安定して行えなかったりする場合がある。
【0011】
ここで、一例として、動力伝達機構がロックアップクラッチ付きトルクコンバータを備えており、上記の係合要素がロックアップクラッチである場合を挙げる。このロックアップクラッチの係合度合(換言すると締結度合)には、燃費面では完全締結状態を適用することが好ましいが、加速性や振動低減等が要求される状況や運転領域では、スリップ状態又は完全解放状態を適用することが好ましい。そのため、一般的には、アクセル開度や車速などの運転状態に応じて、ロックアップクラッチの係合度合を変更する制御が行われている。この場合、上記した車両姿勢制御が実行されているときに、アクセル開度や車速などが変化することでロックアップクラッチの係合度合が変更されると、車両姿勢を制御するための十分なトルク増加を行えずに所望の車両姿勢を実現することができなくなる。他方で、アクセル開度や車速などに応じてロックアップクラッチの係合度合が変更されているときに、車両姿勢制御によりトルクが増加されると、ロックアップクラッチの係合度合の変更による燃費改善や加速性能向上や振動低減などを適切に実現することができなくなる。
【0012】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、原動機により後輪が駆動される車両に対して車両姿勢制御を行う車両の制御装置において、車両姿勢制御と、動力伝達機構に設けられた係合要素の係合度合の変更とが両方実行されることによる問題の発生を適切に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は、車両の制御装置であって、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを後輪に伝達するための動力伝達機構と、動力伝達機構に設けられた係合要素と、車両を操舵するための操舵装置と、操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、車両の運転状態を検出する運転状態センサと、原動機及び係合要素を制御する制御器と、を有し、制御器は、運転状態センサによって検出された運転状態に基づき、原動機の基本トルクを設定し、操舵角センサによって検出された操舵角の増加に基づき、原動機の増加トルクを設定し、増加トルクを基本トルクに適用した目標トルクが発生するように原動機を制御し、係合要素の係合度合に基づき原動機の増加トルクを変更するか、若しくは、増加トルクに基づく原動機の制御と係合要素の係合度合の変更とが同時に行われることを抑制するよう構成され、制御器は、操舵角センサによって検出された操舵角が増加したときの操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、設定する増加トルクを大きくする、ことを特徴とする。
【0014】
このように構成された本発明では、原動機により後輪が駆動される車両に関して、制御器は、操舵角の増加(ステアリングの切り込み操作に相当する)に基づき増加トルクを付加する車両姿勢制御を行うと共に、動力伝達機構に設けられた係合要素の係合度合を変更する制御(係合度合変更制御)を行う。本発明では、制御器は、係合要素の係合度合に基づき車両姿勢制御の増加トルクを変更するか、若しくは、車両姿勢制御と係合度合変更制御とが同時に行われることを抑制する。
車両姿勢制御と係合度合変更制御とが同時に行われることを抑制した場合には、車両姿勢制御と係合度合変更制御とが両方実行されることによる問題の発生を確実に抑制することができる。具体的には、車両姿勢制御中の係合度合変更制御の介入により、車両姿勢を制御するための適切なトルク増加が行えなくなることを抑制できると共に、係合度合変更制御中の車両姿勢制御の介入により、係合要素の係合度合の変更が遅延したり、係合度合の変更が不安定になったりすることを抑制できる。
他方で、車両姿勢制御と係合度合変更制御とが同時に行われることを許容しつつ、係合要素の係合度合に基づき車両姿勢制御による増加トルクを変更した場合にも、車両姿勢制御と係合度合変更制御とが両方実行されることによる上記問題の発生を抑制することができる。具体的には、車両姿勢制御時に係合要素の係合度合が変化したとしても、車両姿勢制御により車両姿勢を制御するのに適したトルク増加(ここでいうトルクは車輪に付与されるトルクを意味する)を確保することができる。したがって、係合度合変更制御による係合度合の変更を確保しつつ、車両姿勢制御により車両応答性を適切に改善することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、制御器は、増加トルクに基づく原動機の制御と係合要素の係合度合の変更とが同時に行われることを抑制する場合、増加トルクに基づく原動機の制御中において、係合要素の係合度合の変更を抑制するよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、車両姿勢制御中において係合度合変更制御を抑制することで、車両姿勢制御中の係合度合変更制御の介入により車両姿勢を制御するための適切なトルク増加が行えなくなることを確実に抑制できる。したがって、車両姿勢制御によって、ドライバによるステアリングの切り込み操作に対する車両応答性を適切に改善することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、制御器は、増加トルクに基づく原動機の制御と係合要素の係合度合の変更とが同時に行われることを抑制する場合、係合要素の係合度合の変更中において、増加トルクに基づく原動機の制御を抑制する。
このように構成された本発明によれば、係合度合変更制御中において車両姿勢制御を抑制するので、係合度合変更制御中の車両姿勢制御の介入により、係合要素の係合度合の変更が遅延したり、係合度合の変更が不安定になったりすることを確実に抑制できる。
【0017】
本発明において、好ましくは、制御器は、増加トルクに基づく原動機の制御中に係合要素の係合度合の変更を許容し、当該係合度合の変更に基づき増加トルクを変更するよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、係合要素の係合度合の大きさに基づき増加トルクを変更するので、係合要素の係合度合が小さい場合にも、車両姿勢制御により車輪に付与されるトルク増加を確実に確保することができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、制御器は、操舵角の減少に基づき、原動機の低減トルクを設定し、低減トルクを基本トルクに適用した目標トルクが発生するように原動機を制御し、係合要素の係合度合に基づき原動機の低減トルクを変更するか、若しくは、低減トルクに基づく原動機の制御と係合要素の係合度合の変更とが同時に行われることを抑制するよう構成されている。
【0019】
このように構成された本発明によれば、制御器は、操舵角の減少(ステアリングの切り戻し操作に相当する)に基づき低減トルクを付加する車両姿勢制御を行う。そして、制御器は、そのような車両姿勢制御の低減トルクを係合要素の係合度合に基づき変更するか、若しくは、当該車両姿勢制御と係合度合変更制御とが同時に行われることを抑制する。
車両姿勢制御と係合度合変更制御とが同時に行われることを抑制した場合には、車両姿勢制御と係合度合変更制御とが両方実行されることによる問題の発生を確実に抑制することができる。具体的には、車両姿勢制御中の係合度合変更制御の介入により、車両姿勢を制御するための適切なトルク低減が行えなくなることを抑制できると共に、係合度合変更制御中の車両姿勢制御の介入により、係合要素の係合度合の変更が遅延したり、係合度合の変更が不安定になったりすることを抑制できる。
他方で、車両姿勢制御と係合度合変更制御とが同時に行われることを許容しつつ、係合要素の係合度合に基づき車両姿勢制御による低減トルクを変更した場合にも、車両姿勢制御と係合度合変更制御とが両方実行されることによる上記問題の発生を抑制することができる。具体的には、車両姿勢制御時に係合要素の係合度合が変化したとしても、車両姿勢制御により車両姿勢を制御するのに適したトルク低減(ここでいうトルクは車輪に付与されるトルクを意味する)を確保できるので、係合度合変更制御による係合度合の変更を確保しつつ、車両姿勢制御により車両応答性を適切に改善することができる。
【0020】
本発明において、好ましくは、動力伝達機構は、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータを含み、係合要素は、ロックアップクラッチである。
【0021】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを後輪に伝達するための動力伝達機構と、動力伝達機構に設けられた係合要素と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が増加したときに、原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、係合要素の係合度合に基づいて、車両姿勢制御によりトルクを増加させる量を変更するトルク変更手段と、を有し、車両姿勢制御手段は、操舵角が増加したときの操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、原動機のトルクを増加させる量を大きくする、ことを特徴とする。
【0022】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを後輪に伝達するための動力伝達機構と、動力伝達機構に設けられた係合要素と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が増加したときに、原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、車両姿勢制御と係合要素の係合度合の変更とが同時に行われることを抑制する抑制手段と、を有し、車両姿勢制御手段は、操舵角が増加したときの操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、原動機のトルクを増加させる量を大きくする、ことを特徴とする。
【0023】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを後輪に伝達するための動力伝達機構と、動力伝達機構に設けられた係合要素と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が増加したときに、原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、車両姿勢制御中において、係合要素の係合度合の変更を抑制する抑制手段と、を有し、車両姿勢制御手段は、操舵角が増加したときの操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、原動機のトルクを増加させる量を大きくする、ことを特徴とする。
【0024】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを後輪に伝達するための動力伝達機構と、動力伝達機構に設けられた係合要素と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が増加したときに、原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、係合要素の係合度合の変更中において、車両姿勢制御を抑制する抑制手段と、を有し、車両姿勢制御手段は、操舵角が増加したときの操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、原動機のトルクを増加させる量を大きくする、ことを特徴とする。
【0025】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを後輪に伝達するための動力伝達機構と、動力伝達機構に設けられた係合要素と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が減少したときに、原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、係合要素の係合度合に基づいて、車両姿勢制御によりトルクを減少させる量を変更するトルク変更手段と、を有し、車両姿勢制御手段は、操舵角が減少したときの絶対値としての操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、原動機のトルクを減少させる量を大きくする、ことを特徴とする。
【0026】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを後輪に伝達するための動力伝達機構と、動力伝達機構に設けられた係合要素と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が減少したときに、原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、車両姿勢制御と係合要素の係合度合の変更とが同時に行われることを抑制する抑制手段と、を有し、車両姿勢制御手段は、操舵角が減少したときの絶対値としての操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、原動機のトルクを減少させる量を大きくする、ことを特徴とする。
【0027】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを後輪に伝達するための動力伝達機構と、動力伝達機構に設けられた係合要素と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が減少したときに、原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、車両姿勢制御中において、係合要素の係合度合の変更を抑制する抑制手段と、を有し、車両姿勢制御手段は、操舵角が減少したときの絶対値としての操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、原動機のトルクを減少させる量を大きくする、ことを特徴とする。
【0028】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを後輪に伝達するための動力伝達機構と、動力伝達機構に設けられた係合要素と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が減少したときに、原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、係合要素の係合度合の変更中において、車両姿勢制御を抑制する抑制手段と、を有し、車両姿勢制御手段は、操舵角が減少したときの絶対値としての操舵速度を求め、この操舵速度が大きくなるほど、原動機のトルクを減少させる量を大きくする、ことを特徴とする。
【0029】
このような他の観点に係る本発明によっても、原動機により後輪が駆動される車両に関して、車両姿勢制御と係合要素の係合度合の変更とが両方実行されることによる問題の発生を適切に抑制することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、原動機により後輪が駆動される車両に対して車両姿勢制御を行う車両の制御装置において、車両姿勢制御と、動力伝達機構に設けられた係合要素の係合度合の変更とが両方実行されることによる問題の発生を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態による車両の制御装置が適用された車両の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態による車両の制御装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。
【
図3】本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態による自動変速機の概略構成図である。
【
図5】本発明の実施形態において摩擦締結要素の締結/解放の組合せと自動変速機のレンジ(または変速段)との対応関係を示す締結表である。
【
図6】本発明の実施形態によるロックアップ制御マップである。
【
図7】本発明の第1実施形態による全体制御を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の第1実施形態による増加トルク設定処理のフローチャートである。
【
図9】本発明の第1実施形態による付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【
図10】本発明の第1実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートである。
【
図11】本発明の第1実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【
図12】本発明の第1実施形態において車両姿勢制御中にロックアップ制御を行う場合に用いられるロックアップ制御マップである。
【
図13】本発明の第2実施形態による全体制御を示すフローチャートである。
【
図14】本発明の第2実施形態による増加トルク設定処理のフローチャートである。
【
図15】本発明の第2実施形態による増加トルク又は低減トルクを補正するための補正マップである。
【
図16】本発明の第2実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の制御装置について説明する。
【0033】
<車両の構成>
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態による車両の制御装置が適用された車両について説明する。
図1は、本発明の実施形態による車両の制御装置が適用された車両の全体構成を示すブロック図である。
【0034】
図1において、符号200は、本実施形態による車両の制御装置を搭載した車両を示す。車両200の車体前部には操舵輪である左右の前輪202aが設けられ、車体後部には駆動輪である左右の後輪202bが設けられている。これら車両200の前輪202a、後輪202bは、車体に対してサスペンション203により夫々支持されている。また、車両200の車体前部には、後輪202bを駆動する原動機であるエンジン10が搭載されている。本実施形態においては、エンジン10は、ガソリンエンジンであるが、原動機としてディーゼルエンジンなどの内燃エンジンや、電力により駆動されるモータを使用することもできる。また、本実施形態において、車両200は、車体前部に搭載されたエンジン10により、自動変速機300、プロペラシャフト204b、ディファレンシャルギア204cなどの動力伝達経路を介して、後輪202bが駆動される所謂FR車である。しかしながら、本発明の適用はFR車に限定はされず、車体後部に搭載されたエンジン10により後輪202bを駆動する所謂RR車等、エンジン10により後輪が駆動される任意の車両に本発明を適用することができる。
【0035】
また、車両200には、ステアリングホイール206(以下では単に「ステアリング」とも表記する。)などを含む操舵装置207が搭載されており、車両200の前輪202aは、このステアリングホイール206の回転操作に基づいて操舵(転舵)されるようになっている。さらに、車両200は、操舵装置207の操舵角を検出する操舵角センサ40、アクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ30、及び、車速を検出する車速センサ39を有する。操舵角センサ40は、典型的にはステアリングホイール206の回転角度を検出するが、当該回転角度に加えて又は当該回転角度の代わりに、前輪202aの転舵角(タイヤ角)を検出してもよい。これらの各センサは、それぞれの検出信号をコントローラ50に出力する。
【0036】
次に、
図2及び
図3を参照して、本発明の実施形態による車両の制御装置が適用されたエンジンシステムについて説明する。
図2は、本発明の実施形態による車両の制御装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。
図3は、本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0037】
図2に示すように、エンジンシステム100は、主に、外部から導入された吸気(空気)が通過する吸気通路1と、この吸気通路1から供給された吸気と、後述する燃料噴射弁13から供給された燃料との混合気を燃焼させて車両の動力を発生するエンジン10(具体的にはガソリンエンジン)と、このエンジン10内の燃焼により発生した排気ガスを排出する排気通路25と、を有する。
【0038】
吸気通路1には、上流側から順に、外部から導入された吸気を浄化するエアクリーナ3と、通過する吸気の量(吸入空気量)を調整するスロットルバルブ5と、エンジン10に供給する吸気を一時的に蓄えるサージタンク7と、が設けられている。他方で、排気通路25には、例えばNOx触媒や三元触媒や酸化触媒などの、排気ガスの浄化機能を有する排気浄化触媒26a、26bが設けられている。
【0039】
エンジン10は、主に、吸気通路1から供給された吸気を燃焼室11内に導入する吸気バルブ12と、燃焼室11に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁13と、燃焼室11内に供給された吸気と燃料との混合気に点火する点火プラグ14と、燃焼室11内での混合気の燃焼により往復運動するピストン15と、ピストン15の往復運動により回転されるクランクシャフト16と、燃焼室11内での混合気の燃焼により発生した排気ガスを排気通路25へ排出する排気バルブ17と、を有する。
【0040】
また、エンジン10は、吸気バルブ12及び排気バルブ17のそれぞれの動作タイミング(バルブの位相に相当する)を、可変バルブタイミング機構(Variable Valve Timing Mechanism)としての可変吸気バルブ機構18及び可変排気バルブ機構19によって可変に構成されている。可変吸気バルブ機構18及び可変排気バルブ機構19としては、公知の種々の形式を適用可能であるが、例えば電磁式又は油圧式に構成された機構を用いて、吸気バルブ12及び排気バルブ17の動作タイミングを変化させることができる。
【0041】
更に、エンジンシステム100には、当該エンジンシステム100に関する各種の状態を検出するセンサ30~40が設けられている(
図2及び
図3)。アクセル開度センサ30、車速センサ39及び操舵角センサ40は、上述した通りである。エアフローセンサ31は、吸気通路1を通過する吸気の流量に相当する吸入空気量を検出する。スロットル開度センサ32は、スロットルバルブ5の開度であるスロットル開度を検出する。圧力センサ33は、エンジン10に供給される吸気の圧力に相当するインマニ圧(インテークマニホールドの圧力)を検出する。クランク角センサ34は、クランクシャフト16におけるクランク角(エンジン回転数に相当する)を検出する。水温センサ35は、エンジン10を冷却する冷却水の温度である水温を検出する。温度センサ36は、エンジン10の気筒2内の温度である筒内温度を検出する。カム角センサ37、38は、それぞれ、吸気バルブ12及び排気バルブ17の閉弁時期を含む動作タイミングを検出する。これらの各種センサ30~40は、それぞれ、検出したパラメータに対応する検出信号S30~S40をコントローラ50に出力する。
【0042】
コントローラ50は、図示しないPCM(Power-train Control Module)やTCM(Transmission Control Module)などを備えている。このコントローラ50は、上述した各種センサ30~40から入力された検出信号S30~S40に基づいて、エンジンシステム100内の構成要素に対する制御を行う。具体的には、
図3に示すように、コントローラ50は、スロットルバルブ5に制御信号S105を供給して、スロットルバルブ5の開閉時期やスロットル開度を制御し、燃料噴射弁13に制御信号S113を供給して、燃料噴射量や燃料噴射タイミングを制御し、点火プラグ14に制御信号S114を供給して、点火時期を制御し、可変吸気バルブ機構18及び可変排気バルブ機構19のそれぞれに制御信号S118、S119を供給して、吸気バルブ12及び排気バルブ17の動作タイミングを制御する。
【0043】
このようなコントローラ50は、1つ以上のプロセッサ、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
【0044】
また、コントローラ50は、上述した自動変速機300(
図1)を制御する。ここで、
図4乃至6を参照して、本発明の実施形態による自動変速機に関して説明する。
図4は、本発明の実施形態による自動変速機の概略構成図であり、
図5は、本発明の実施形態において摩擦締結要素の締結/解放の組合せと自動変速機のレンジ(または変速段)との対応関係を示す締結表であり、
図6は、本発明の実施形態による自動変速機のロックアップクラッチの制御マップである。
【0045】
図4に示すように、自動変速機300は、主たる構成要素として、エンジン10の出力軸OUTに取り付けられたトルクコンバータ302と、トルクコンバータ302を介して出力軸OUTにより駆動されるオイルポンプ303と、トルクコンバータ302の出力回転が入力軸312を介して入力される変速機構314とを有し、オイルポンプ303や変速機構314が入力軸312の軸心上に配置された状態で変速機ケース311内に収納されている。このような自動変速機300は、エンジン10のトルクを後輪200bに伝達するための動力伝達機構の一部を構成する。なお、自動変速機300は、入力軸312が車両前側に位置し且つ出力軸313が車両後側に位置する縦置きの姿勢で配設されている。そのため、以下では、駆動源側(図の左側)のことを前側ということがあり、反駆動源側(図の右側)のことを後側ということがある。
【0046】
トルクコンバータ302は、出力軸OUTに連結されたケース302aと、ケース302a内に固設されたポンプ302bと、ポンプ302bに対向配置されてポンプ302bにより作動油を介して駆動されるタービン302cと、ポンプ302bとタービン302cとの間に介設され、かつ、変速機ケース311にワンウェイクラッチ302dを介して支持されてトルク増大作用を行うステータ302eと、ケース302aとタービン302cとの間に設けられ、ケース302aを介して出力軸OUTとタービン302cとを直結するよう構成されたロックアップクラッチ302fと、を備えている。そして、タービン302cの回転が入力軸312を介して変速機構314に入力されるようになっている。ここで、ロックアップクラッチ302fは、L/U油圧ソレノイド弁350を介してコントローラ50によって制御されることで(
図3参照)、その係合度合(換言すると締結度合)を変更可能に構成されている。なお、ロックアップクラッチ302fは、本発明における「係合要素」の一例に相当する。
【0047】
一方、変速機構314は、第1、第2、第3、第4プラネタリギヤセット(以下、単に「ギヤセット」という)PG1、PG2、PG3、PG4を有している。これらギヤセットPG1、PG2、PG3、PG4は、入力軸312および出力軸313の軸心に沿って前側(エンジン10側)からこの順に並ぶように配設されている。
【0048】
また、変速機構314は、上述した各ギヤセットPG1~PG4による動力伝達経路を切り替えるための摩擦締結要素として、第1、第2、第3クラッチCL1、CL2、CL3と、第1、第2ブレーキBR1、BR2とを有している。
【0049】
上記摩擦締結要素(CL1~CL3、BR1、BR2)は、入力軸312および出力軸313の軸心に沿って、前側(エンジン10側)から、第1ブレーキBR1、第3クラッチCL3、第2クラッチCL2、第1クラッチCL1、第2ブレーキBR2の順に並ぶように配設されている。具体的には、変速機ケース311内における第1ギヤセットPG1の前側に第1クラッチCL1が配設され、第1クラッチCL1の前側に第2クラッチCL2が配設され、第2クラッチCL2の前側に第3クラッチCL3が配設されている。また、第3クラッチCL3の前側に第1ブレーキBR1が配設され、第3ギヤセットPG3の径方向の外側に第2ブレーキBR2が配設されている。
【0050】
第1~第4ギヤセットPG1~PG4は、いずれも、キャリヤに支持されたピニオンがサンギヤとリングギヤとに直接噛合するシングルピニオン型のプラネタリギヤセットである。具体的に、第1ギヤセットPG1は、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1、および第1キャリヤC1を有し、第2ギヤセットPG2は、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2、および第2キャリヤC2を有し、第3ギヤセットPG3は、第3サンギヤS3、第3リングギヤR3、および第3キャリヤC3を有し、第4ギヤセットPG4は、第4サンギヤS4、第4リングギヤR4、および第4キャリヤC4を有する。
【0051】
さらに、第1ギヤセットPG1は、第1サンギヤS1が軸方向に2分割されたダブルサンギヤ型のプラネタリギヤセットである。すなわち、第1サンギヤS1は、軸方向の前側に配置された前側第1サンギヤS1aと、後側に配置された後側第1サンギヤS1bとを有している。これら一対の第1サンギヤS1a、S1bは、同じ歯数を有し、第1キャリヤC1に支持された同じピニオンに噛合しているため、これら第1サンギヤS1a、S1bの回転数は常に等しい。すなわち、前後一対の第1サンギヤS1a、S1bは、常に同じ速度で回転し、一方の回転が停止しているときは他方の回転も停止する。なお、第1ギヤセットPG1以外のギヤセット(第2~第4ギヤセットPG2~PG4)はダブルサンギヤ型ではなく、それぞれ単一のサンギヤを有している。
【0052】
第1サンギヤS1(より詳しくは後側第1サンギヤS1b)と第4サンギヤS4とが常時連結され、第1リングギヤR1と第2サンギヤS2とが常時連結され、第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とが常時連結され、第3キャリヤC3と第4リングギヤR4とが常時連結されている。また、入力軸312が第1キャリヤC1に常時連結され、出力軸313が第4キャリヤC4に常時連結されている。
【0053】
具体的に、後側第1サンギヤS1bと第4サンギヤS4とは、動力伝達部材325を介して互いに連結されており、第4キャリヤC4と第2キャリヤC2とは、動力伝達部材326を介して互いに連結されている。入力軸312は、前後一対の第1サンギヤS1a、S1bの間を通る動力伝達部材28を介して第1キャリヤC1に連結されている。
【0054】
第1クラッチCL1は、入力軸312および第1キャリヤC1と、第3サンギヤS3とを断接可能に連結している。第2クラッチCL2は、第1リングギヤR1および第2サンギヤS2と、第3サンギヤS3とを断接可能に連結している。第3クラッチCL3は、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とを断接可能に連結している。
【0055】
詳細な図示は省略するが、第1クラッチCL1は、従来周知の湿式多板クラッチと同様の構造とされ、第1キャリヤC1に結合された回転可能なハブ部材と、ハブ部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、第3サンギヤS3に動力伝達部材315、316を介して結合された回転可能なドラム部材と、ドラム部材の内周面に係合されたドラム側摩擦板と、ハブ側摩擦板とドラム側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP1とを有している。ピストンP1の隣接位置には、図示しない油圧回路から供給される作動油が導入される油圧室F1が画成されており、この油圧室F1に対する作動油の給排に応じて上記ハブ側摩擦板およびドラム側摩擦板が圧接または圧接解除される。そして、当該圧接または圧接解除により、上記ハブ部材およびドラム部材が互いに連結または分離され、これに伴って入力軸312および第1キャリヤC1と、第3サンギヤS3とが断接される。
【0056】
同様に、第2クラッチCL2は、第3サンギヤS3に動力伝達部材315、316を介して結合された回転可能なハブ部材と、ハブ部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、第1リングギヤR1および第2サンギヤS2に動力伝達部材318を介して結合された回転可能なドラム部材と、ドラム部材の内周面に係合されたドラム側摩擦板と、ハブ側摩擦板とドラム側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP2とを有している。ピストンP2の隣接位置には、上記作動油が導入される油圧室F2が画成されており、この油圧室F2に対する作動油の給排に応じて上記ハブ側摩擦板およびドラム側摩擦板が圧接または圧接解除されることにより、第1リングギヤR1および第2サンギヤS2と、第3サンギヤS3とが断接される。
【0057】
第3クラッチCL3は、第3サンギヤS3に動力伝達部材315、316を介して結合された回転可能なハブ部材と、ハブ部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、第2リングギヤR2に動力伝達部材317を介して結合された回転可能なドラム部材と、ドラム部材の内周面に係合されたドラム側摩擦板と、ハブ側摩擦板とドラム側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP3とを有している。ピストンP3の隣接位置には、上記作動油が導入される油圧室F3が画成されており、この油圧室F3に対する作動油の給排に応じて上記ハブ側摩擦板およびドラム側摩擦板が圧接または圧接解除されることにより、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが断接される。
【0058】
第1ブレーキBR1は、変速機ケース311と第1サンギヤS1(より詳しくは前側第1サンギヤS1a)とを断接可能に連結している。第2ブレーキBR2は、変速機ケース311と第3リングギヤR3とを断接可能に連結している。
【0059】
詳細な図示は省略するが、第1ブレーキBR1は、従来周知の湿式多板ブレーキと同様の構造とされ、前側第1サンギヤS1aに動力伝達部材327を介して結合された回転可能なハブ部材と、ハブ部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、変速機ケース311の内周面に係合されたケース側摩擦板と、ハブ側摩擦板とケース側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP4とを有している。ピストンP4の隣接位置には、上記作動油が導入される油圧室F4が画成されており、この油圧室F4に対する作動油の給排に応じて上記ハブ側摩擦板およびケース側摩擦板が圧接または圧接解除されることにより、変速機ケース311と第1サンギヤS1とが断接される。
【0060】
同様に、第2ブレーキBR2は、第3リングギヤR3に結合された回転可能なハブ部材と、ハブ部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、変速機ケース311の内周面に係合されたケース側摩擦板と、ハブ側摩擦板とケース側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP5とを有している。ピストンP5の隣接位置には、上記作動油が導入される油圧室F5が画成されており、この油圧室F5に対する作動油の給排に応じて上記ハブ側摩擦板およびケース側摩擦板が圧接または圧接解除されることにより、変速機ケース311と第3リングギヤR3とが断接される。
【0061】
変速機ケース311の内部には、出力軸313の回転を規制するためのパーキングロック機構330が設けられている。パーキングロック機構330は、出力軸313と一体に回転するように出力軸313に外嵌されたパーキングギヤ331と、パーキングギヤ331の径方向外側に離接可能に設けられたロックレバー332と、ロックレバー332を駆動する油圧式のアクチュエータ(図示省略)とを有している。
【0062】
このような構成の自動変速機300では、
図5の締結表に示すように、上述した5つの摩擦締結要素(クラッチCL1、CL2、CL3およびブレーキBR1、BR2)の中から特定の摩擦締結要素が選択的に締結され、あるいはパーキングロック機構330の作動/非作動が切り替えられることにより、Pレンジ(パーキングレンジ)、Nレンジ(ニュートラルレンジ)、Dレンジ(前進レンジ)、Rレンジ(後退レンジ)のいずれかのレンジが達成される。さらに、Dレンジの場合は、1~8速のいずれかの変速段が選択可能とされる。なお、
図5の表に記載された「〇」の記号は、クラッチまたはブレーキが締結状態にあること、もしくはパーキングロック機構330が作動状態にあることを示している。逆に、当該「〇」の記号がない場合、それはクラッチまたはブレーキが解放状態にあること、もしくはパーキングロック機構330が非作動状態にあることを示している。
【0063】
Pレンジでは、第1ブレーキBR1および第2ブレーキBR2が締結されるとともに、パーキングロック機構330が駆動される。この状態では、入力軸312の回転が出力軸313に伝達されず、かつ出力軸313がロックされる(つまり車両の走行が禁止される)。
【0064】
Nレンジでは、第1ブレーキBR1および第2ブレーキBR2が締結される。この状態では、Pレンジのときと同様、入力軸312の回転は出力軸313に伝達されない。ただし、Pレンジのときとは異なり、パーキングロック機構330は非作動とされ、出力軸313はロックされない。
【0065】
Dレンジでは、クラッチCL1、CL2、CL3およびブレーキBR1、BR2の中らか選ばれた特定の3つの要素が締結されることにより、前進1速~8速のいずれかの変速段が達成される。具体的に、1速では、第1クラッチCL1、第1ブレーキBR1、および第2ブレーキBR2が締結され、2速では、第2クラッチCL2、第1ブレーキBR1、および第2ブレーキBR2が締結され、3速では、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、および第2ブレーキBR2が締結され、4速では、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、および第2ブレーキBR2が締結され、5速では、第1クラッチCL1、第3クラッチCL3、および第2ブレーキBR2が締結され、6速では、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、および第3クラッチCL3が締結され、7速では、第1クラッチCL1、第3クラッチCL3、および第1ブレーキBR1が締結され、8速では、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、および第1ブレーキBR1が締結される。入力軸312の回転は、1~8速に対応した変速比で変速(減速または増速)された後に出力軸313に伝達され、出力軸313は、車両を前進させる方向に回転駆動される。
【0066】
Rレンジでは、第3クラッチCL3、第1ブレーキBR1、および第2ブレーキBR2が締結される。この場合、入力軸312の回転は、Dレンジのときと逆向きに出力軸313に伝達され、出力軸313は、車両を後退させる方向に回転駆動される。
【0067】
次に、
図6は、本発明の実施形態によるロックアップクラッチ302fの係合度合(締結度合)を変更するためのロックアップ制御マップを示している。
図6は、横軸に車速を示し、縦軸にアクセル開度を示している。
図6に示すように、この制御マップにおいては、車速とアクセル開度とによって規定された運転領域が、実線で示すグラフG1によって2つの領域に分割され、一方の領域がロックアップクラッチ302fを解放状態に設定するための解放領域として規定され、他方の領域がロックアップクラッチ302fを締結状態(係合状態)に設定するための締結領域として規定されている。ここで、「解放状態」は、ロックアップクラッチ302fの完全解放状態を意味するものとし、一方で、「締結状態」は、ロックアップクラッチ302fの完全締結状態に加えて、ロックアップクラッチ302fのスリップ状態も含むものとする。このロックアップクラッチ302fのスリップ状態は、エンジン10の出力軸OUT(エンジン回転数に対応する)とタービン302cとの間に差が生じている状態に相当する。ロックアップクラッチ302fの係合度合は、上記したような解放状態及び締結状態のいずれに相当するものであり、典型的には締結率又はスリップ率で表されるものである。
【0068】
上記したコントローラ50は、
図6に示すようなロックアップ制御マップを参照して、車速及びアクセル開度の変化に基づき、L/U油圧ソレノイド弁350を介して(
図3参照)、ロックアップクラッチ302fの係合度合を変更するための制御(上述した係合度合変更制御に相当し、以下では適宜「ロックアップ制御」と呼ぶ。)を実行する。具体的には、コントローラ50は、このロックアップ制御として、ロックアップ制御マップに従って、解放状態にあるロックアップクラッチ302fを締結状態(完全締結状態又はスリップ状態)に変更する制御を行ったり、締結状態(完全締結状態又はスリップ状態)にあるロックアップクラッチ302fを解放状態に変更する制御を行ったりする。この場合、コントローラ50は、L/U油圧ソレノイド弁350に印可する通電電圧又は通電電流(
図3の制御信号S350に相当する)を制御して、ロックアップクラッチ302fの係合度合を変更する。
【0069】
なお、1つの例では、本発明における車両の制御装置は、主に、原動機としてのエンジン10、動力伝達機構としてのトルクコンバータ302、係合要素としてのロックアップクラッチ302f、操舵装置207、操舵角センサ40、運転状態センサとしてのアクセル開度センサ30及び車速センサ39、及び、制御器としてのコントローラ50により構成される。他の例では、本発明における車両の制御装置は、コントローラ50により構成され、この例では、コントローラ50は、本発明における車両姿勢制御手段、トルク変更手段及び抑制手段として機能する。
【0070】
<制御内容>
次に、本実施形態においてコントローラ50が実行する制御内容について説明する。
【0071】
(第1実施形態)
まず、
図7を参照して、第1実施形態においてコントローラ50が実行する全体的な制御内容の概要について説明する。
図7は、本発明の第1実施形態による全体制御を示すフローチャートである。
【0072】
図7の制御処理は、車両200のイグニッションがオンにされ、コントローラ50に電源が投入された場合に起動され、所定周期(例えば50ms)で繰り返し実行される。この制御処理が開始されると、
図7に示すように、ステップS101において、コントローラ50は、車両200の運転状態に関する各種センサ情報を取得する。具体的には、コントローラ50は、操舵角センサ40が検出した操舵角、アクセル開度センサ30が検出したアクセル開度、車速センサ39が検出した車速、クランク角センサ34が検出したクランク角に対応するエンジン回転数、車両200の自動変速機300に現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
【0073】
次に、ステップS102において、コントローラ50は、ステップS101において取得された車両200の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、コントローラ50は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を設定する。
【0074】
次に、ステップS103において、コントローラ50は、ステップS102において設定した目標加速度を実現するためにエンジン10が発生すべき基本トルクを決定する。この場合、コントローラ50は、現在の車速、ギヤ段、ロックアップクラッチ302fの締結度合、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン10が出力可能なトルクの範囲内で、基本トルクを決定する。
【0075】
また、ステップS102及びS103の処理と並行して、ステップS104において、コントローラ50は、ステアリング操作に基づき車両200に加速度を付加するためのトルク(増加トルク)を設定する増加トルク設定処理を実行する。このステップS104においては、コントローラ50は、操舵装置207の操舵角の増加に応じて、つまりステアリングの切り込み操作に応じて、基本トルクを増大させるための増加トルクを設定する。本実施形態では、コントローラ50は、ステアリングが切り込み操作されたときに、トルクを一時的に増加させて車両200に加速度を付加することにより、車両姿勢を制御するようにする。以下では、このようなステアリングの切り込み時において増加トルクを用いて実施される車両姿勢制御を適宜「第1車両姿勢制御」と呼ぶ。
【0076】
ここで、
図8及び
図9を参照して、本発明の第1実施形態における増加トルク設定処理について説明する。
図8は、本発明の第1実施形態による増加トルク設定処理のフローチャートであり、
図9は、本発明の第1実施形態による付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【0077】
増加トルク設定処理が開始されると、ステップS11において、コントローラ50は、操舵装置207の操舵角(絶対値)が増加しているか否か、つまりステアリングが切り込み操作されているか否かを判定する。その結果、操舵角が増加していると判定された場合(ステップS11:Yes)、コントローラ50は、ステップS12に進み、操舵速度が所定の閾値S
1以上であるか否かを判定する。この場合、コントローラ50は、
図7のステップS101において操舵角センサ40から取得した操舵角に基づき操舵速度を算出し、その値が閾値S
1以上であるか否かを判定する。
【0078】
ステップS12の結果、操舵速度が閾値S1以上であると判定された場合(ステップS12:Yes)、ステップS13に進み、コントローラ50は、操舵速度に基づき付加加速度を設定する。この付加加速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両200に付加すべき加速度である。
【0079】
具体的には、コントローラ50は、
図9のマップに示す付加加速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS12において算出した操舵速度に対応する付加加速度を設定する。
図9における横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加加速度を示す。
図9に示すように、操舵速度が閾値S
1以下である場合、対応する付加加速度は0である。即ち、操舵速度が閾値S
1以下である場合、コントローラ50は、ステアリング操作に基づき車両200に加速度を付加するための制御を実行しない。
【0080】
一方、操舵速度が閾値S1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加加速度は、所定の上限値Amaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加加速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Amaxは、ステアリング操作に応じて車両200に加速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の加速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値S1よりも大きい閾値S2以上の場合には、付加加速度は上限値Amaxに維持される。
【0081】
次に、ステップS14において、コントローラ50は、ステップS13で設定した付加加速度に基づき、増加トルクを設定する。具体的には、コントローラ50は、基本トルクの増加により付加加速度を実現するために必要となる増加トルクを、
図7のステップS101において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。ステップS14の後、コントローラ50は増加トルク設定処理を終了し、
図7のメインルーチンに戻る。
【0082】
他方で、ステップS11において操舵角が増加していないと判定された場合(ステップS11:No)、又は、ステップS12において操舵速度が閾値S
1未満であると判定された場合(ステップS12:No)、コントローラ50は、増加トルクの設定を行うことなく増加トルク設定処理を終了し、
図7のメインルーチンに戻る。この場合、増加トルクは0となる。
【0083】
なお、上述したような増加トルクにより基本トルクを増加したトルクが発生すると(つまり第1車両姿勢制御が実行されると)、増加されたトルクは駆動輪である後輪202bに伝達され、後輪202bを車両前方へ推進させる力となる。この力が前輪202aからサスペンション203を介して車両200の車体に伝達されるときに、車体後部を上向きに持ち上げる力が瞬間的に作用し、車体を前傾させる方向のモーメントが働くことにより、車体前部を下向きに沈み込ませる力が作用し、車体前部が沈み込んで前輪荷重が増大する。これにより、ステアリングの切り込み操作に対する車両200の応答性又はリニア感を向上させることができる。即ち、後輪駆動車において、後輪202bの駆動トルクを増加させて加速度を付与すると、車体を後傾させる慣性力と、車体を前傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感に対しては増加トルクによる瞬間的な車体を前傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
【0084】
図7に戻ると、コントローラ50は、上記の増加トルク設定処理(ステップS104)の後、ステップS105に進み、ステアリング操作に基づき車両200に減速度を付加するためのトルク(低減トルク)を設定する低減トルク設定処理を実行する。このステップS105においては、コントローラ50は、操舵装置207の操舵角の減少に応じて、つまりステアリングの切り戻しに応じて、基本トルクを減少させるための低減トルクを設定する。本実施形態では、コントローラ50は、ステアリングが切り戻し操作されたときに、トルクを一時的に低減させて車両200に減速度を付加することにより、車両姿勢を制御するようにする。以下では、このようなステアリングの切り戻し時において低減トルクを用いて実施される車両姿勢制御を適宜「第2車両姿勢制御」と呼ぶ。典型的には、この第2車両姿勢制御は、上述した第1車両姿勢制御の後に実施される傾向にある。
【0085】
ここで、
図10及び
図11を参照して、本発明の第1実施形態における低減トルク設定処理について説明する。
図10は、本発明の第1実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートであり、
図11は、本発明の第1実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【0086】
低減トルク設定処理が開始されると、ステップS21において、コントローラ50は、操舵装置207の操舵角(絶対値)が減少しているか否か、つまりステアリングが切り戻し操作されているか否かを判定する。その結果、操舵角が減少していると判定された場合(ステップS21:Yes)、コントローラ50は、ステップS22に進み、操舵速度(絶対値)が所定の閾値S
1以上であるか否かを判定する。この場合、コントローラ50は、
図7のステップS101において操舵角センサ40から取得した操舵角に基づき操舵速度を算出し、その値が閾値S
1以上であるか否かを判定する。
【0087】
ステップS22の結果、操舵速度が閾値S1以上であると判定された場合(ステップS22:Yes)、ステップS23に進み、コントローラ50は、操舵速度に基づき付加減速度を設定する。この付加減速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両200に付加すべき減速度である。
【0088】
具体的には、コントローラ50は、
図11のマップに示す付加減速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS22において算出した操舵速度に対応する付加減速度を設定する。
図11における横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加減速度を示す。
図11に示すように、操舵速度が閾値S
1以下である場合、対応する付加減速度は0である。即ち、操舵速度が閾値S
1以下である場合、コントローラ50は、ステアリング操作に基づき車両200に減速度を付加するための制御を実行しない。
【0089】
一方、操舵速度が閾値S1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加減速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両200に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値S1よりも大きい閾値S2以上の場合には、付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
【0090】
次に、ステップS24において、コントローラ50は、ステップS23で設定した付加減速度に基づき、低減トルクを設定する。具体的には、コントローラ50は、基本トルクの低減により付加減速度を実現するために必要となる増加トルクを、
図7のステップS101において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。ステップS24の後、コントローラ50は低減トルク設定処理を終了し、
図7のメインルーチンに戻る。
【0091】
他方で、ステップS21において操舵角が減少していないと判定された場合(ステップS21:No)、又は、ステップS22において操舵速度が閾値S
1未満であると判定された場合(ステップS22:No)、コントローラ50は、低減トルクの設定を行うことなく低減トルク設定処理を終了し、
図7のメインルーチンに戻る。この場合、低減トルクは0となる。
【0092】
なお、上述したような低減トルクにより基本トルクを低減したトルクが発生すると(つまり第2車両姿勢制御が実行されると)、低減されたトルクは駆動輪である後輪202bに伝達され、後輪202bを車両後方へ引っ張る力となる。この力が後輪202bからサスペンション203を介して車両200の車体に伝達されるときに、車体後部を下向きに沈み込ませる力が瞬間的に作用し、車体を後傾させる方向のモーメントが働くことにより、車体前部を上向きに持ち上げる力が作用し、車体前部が浮き上がって前輪荷重が減少する。これにより、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。即ち、後輪駆動車において、後輪202bの駆動トルクを減少させて減速度を付与すると、車体を前傾させる慣性力と、車体を後傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感に対しては低減トルクによる瞬間的な車体を後傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
【0093】
図7に戻ると、ステップS102及びS103の処理並びにステップS104の増加トルク設定処理及びS105の低減トルク設定処理を実行した後、コントローラ50は、ステップS106に進む。ステップS106において、コントローラ50は、車両姿勢制御を実行中であるか否かを判定する。具体的には、コントローラ50は、第1又は第2車両姿勢制御が現在実行されているか否かを判定する。その結果、車両姿勢制御中であると判定された場合(ステップS106:Yes)、ステップS107に進む。
【0094】
ステップS107において、コントローラ50は、車両姿勢制御の実行期間に対してロックアップ制御の実行期間が重複することによる問題の発生を抑えるべく、ロックアップ制御を抑制する。ステップS107の第1の例では、コントローラ50は、車両姿勢制御が実行されているときには、ロックアップ制御の実行を禁止する。この場合、コントローラ50は、例えば、ロックアップクラッチ302fの係合度合を調整するL/U油圧ソレノイド弁350の通電状態を現状の状態に維持するようにする、つまりL/U油圧ソレノイド弁350に印可する通電電圧又は通電電流を変更する制御を行わないようにする。
【0095】
ステップS107の第2の例では、コントローラ50は、ロックアップクラッチ302fの係合度合を変更するためのロックアップ制御マップ(
図6参照)に規定された解放領域及び締結領域を変更することで、車両姿勢制御中におけるロックアップ制御を抑制する。この第2の例について、
図12を参照して具体的に説明する。
図12は、本発明の第1実施形態において車両姿勢制御中にロックアップ制御を行う場合に用いられるロックアップ制御マップである。
図12は、横軸に車速を示し、縦軸にアクセル開度を示している。
図12において、実線で示すグラフG1は、車両姿勢制御が実行されていないときに適用する通常の制御マップ(
図6に示したものと同様である)に対応する。他方で、破線で示すグラフG2は、締結領域を拡大(換言すると解放領域を縮小)した制御マップに対応し、一点鎖線で示すグラフG3は、解放領域を拡大(換言すると締結領域を縮小)した制御マップに対応する。
【0096】
具体的には、コントローラ50は、ステップS107の第2の例では、車両姿勢制御中にロックアップ制御の実行要求が発せられたときに、ロックアップ制御マップにおいて現在属する領域を拡大することで、ロックアップクラッチ302fの状態が変更されにくくなるようにする。具体的には、コントローラ50は、ロックアップ制御の実行要求が発せられたときに、ロックアップクラッチ302fの現在の状態が締結状態にある場合、つまり現在の運転領域が締結領域に属する場合には、この締結領域を拡大するようロックアップ制御マップを変更する(グラフG2参照)。一方で、コントローラ50は、ロックアップ制御の実行要求が発せられたときに、ロックアップクラッチ302fの現在の状態が解放状態にある場合、つまり現在の運転領域が解放領域に属する場合には、この解放領域を拡大するようロックアップ制御マップを変更する(グラフG3参照)。
【0097】
図7に戻ると、コントローラ50は、上述したようなステップS107の後、ステップS110に進み、最終目標トルクを設定する。具体的には、コントローラ50は、ステップS104の増加トルク又はステップS105の低減トルクを、ステップS103の基本トルクに適用することで、最終目標トルクを設定する。基本的には、増加トルクと低減トルクの一方のみが設定され、増加トルクと低減トルクの両方が設定されることはないので、コントローラ50は、増加トルクを基本トルクに加算するか(この場合には第1車両姿勢制御が実行される)、或いは低減トルクを基本トルクから減算することで(この場合には第2車両姿勢制御が実行される)、最終目標トルクを設定する。
【0098】
一方、ステップS106において、車両姿勢制御中でないと判定された場合(ステップS106:No)、コントローラ50は、ステップS108に進む。ステップS108において、コントローラ50は、ロックアップ制御を実行中であるか否かを判定する。つまり、車速及び/又はアクセル開度の変化に応じて、ロックアップクラッチ302fの係合度合を変更するためのロックアップ制御が現在実行されているか否かを判定する。その結果、ロックアップ制御中であると判定された場合(ステップS108:Yes)、ステップS109に進む。これに対して、ロックアップ制御中でないと判定された場合(ステップS108:No)、コントローラ50は、ステップS110に進む。この場合には、コントローラ50は、車両姿勢制御もロックアップ制御も抑制しない。
【0099】
ステップS109において、コントローラ50は、ロックアップ制御の実行期間に対して車両姿勢制御の実行期間が重複することによる問題の発生を抑えるべく、車両姿勢制御を抑制する。ステップS109の第1の例では、コントローラ50は、ロックアップ制御が実行されているときには、第1及び第2車両姿勢制御の両方の実行を禁止する。ステップS109の第2の例では、コントローラ50は、ロックアップ制御が実行されているときには、ロックアップ制御が実行されていないときよりも、第1及び第2車両姿勢制御の実行条件(開始条件)を規定する、操舵速度を判定するための閾値S
1(
図8乃至
図11参照)を大きくして、第1及び第2車両姿勢制御が実行されにくくなるようにする。
【0100】
このようなステップS109の後、コントローラ50は、ステップS110に進み、最終目標トルクを設定する。具体的には、コントローラ50は、車両姿勢制御が実行されない場合、例えばステップS109の第1の例により車両姿勢制御が禁止された場合には、ステップS104の増加トルク及びステップS105の低減トルクを用いずに、ステップS103の基本トルクに基づき最終目標トルクを設定する(最終目標トルク=基本トルク)。他方で、コントローラ50は、車両姿勢制御が実行される場合、例えば操舵速度がステップS109の第2の例により大きくした閾値S1以上となって第1及び第2車両姿勢制御が実行される場合には、ステップS104の増加トルク又はステップS105の低減トルクを、ステップS103の基本トルクに適用することで、最終目標トルクを設定する。基本的には、増加トルクと低減トルクの一方のみが設定され、増加トルクと低減トルクの両方が設定されることはないので、コントローラ50は、増加トルクを基本トルクに加算するか(この場合には第1車両姿勢制御が実行される)、或いは低減トルクを基本トルクから減算することで(この場合には第2車両姿勢制御が実行される)、最終目標トルクを設定する。
【0101】
以上述べたようなステップS110の後、コントローラ50は、ステップS111に進み、ステップS110において設定した最終目標トルクを実現するためのアクチュエータ制御量を設定する。具体的には、コントローラ50は、ステップS110において設定した最終目標トルクに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン10の各構成要素を駆動する各アクチュエータの制御量を設定する。この場合、コントローラ50は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定する。続いて、ステップS112において、コントローラ50は、ステップS111において設定した制御量に基づき各アクチュエータへ制御指令を出力する。
【0102】
具体的には、コントローラ50は、ステップS110において基本トルクに増加トルクを加算することで最終目標トルクを設定した場合には、点火プラグ14の点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角させる。また、点火時期の進角に代えて、あるいはそれと共に、コントローラ50は、スロットルバルブ5のスロットル開度を大きくしたり、下死点後に設定されている吸気バルブ12の閉時期を進角させたりすることによって、吸入空気量を増加させる。この場合、コントローラ50は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、燃料噴射弁13による燃料噴射量を増加させる。
【0103】
他方で、コントローラ50は、ステップS110において基本トルクから低減トルクを減算することで最終目標トルクを設定した場合には、点火プラグ14の点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角させる(リタードする)。また、点火時期の遅角に代えて、あるいはそれと共に、コントローラ50は、スロットルバルブ5のスロットル開度を小さくしたり、下死点後に設定されている吸気バルブ12の閉時期を遅角させたりすることによって、吸入空気量を減少させる。この場合、コントローラ50は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、燃料噴射弁13による燃料噴射量を減少させる。
【0104】
なお、エンジン10がディーゼルエンジンである場合、コントローラ50は、ステップS110において基本トルクに増加トルクを加算することで最終目標トルクを設定したときには、燃料噴射弁13による燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも増加させる。他方で、コントローラ50は、ステップS110において基本トルクから低減トルクを減算することで最終目標トルクを設定したときには、燃料噴射弁13による燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも減少させる。
【0105】
このようなステップS112の後、コントローラ50は、本制御処理を終了する。
【0106】
(第1実施形態の作用及び効果)
次に、本発明の第1実施形態による車両の制御装置による作用及び効果について説明する。
【0107】
第1本実施形態によれば、コントローラ50は、増加トルクを用いた第1車両姿勢制御とロックアップクラッチ302fのロックアップ制御とが同時に行われることを抑制する。これにより、第1車両姿勢制御とロックアップ制御とが両方実行されることによる問題の発生を適切に抑制することができる。具体的には、コントローラ50は、第1車両姿勢制御中においてロックアップ制御を抑制することで、第1車両姿勢制御中のロックアップ制御の介入により車両姿勢を制御するための適切なトルク増加が行えなくなることを確実に抑制できる。よって、第1車両姿勢制御によって、ドライバによるステアリングの切り込み操作に対する車両応答性を適切に改善することができる。他方で、コントローラ50は、ロックアップ制御中において第1車両姿勢制御を抑制するので、ロックアップ制御中の第1車両姿勢制御の介入により、ロックアップクラッチ302fの係合度合の変更が遅延したり、係合度合の変更が不安定になったりすることを確実に抑制できる。よって、ロックアップクラッチ302fの係合度合の変更による燃費改善や加速性能向上や振動低減などを適切に確保することができる。
【0108】
また、第1本実施形態によれば、コントローラ50は、低減トルクを用いた第2車両姿勢制御とロックアップクラッチ302fのロックアップ制御とが同時に行われることを抑制する。これにより、第2車両姿勢制御とロックアップ制御とが両方実行されることによる問題の発生を適切に抑制することができる。具体的には、コントローラ50は、第2車両姿勢制御中においてロックアップ制御を抑制することで、第2車両姿勢制御中のロックアップ制御の介入により車両姿勢を制御するための適切なトルク低減が行えなくなることを確実に抑制できる。よって、第2車両姿勢制御によって、ドライバによるステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性を適切に改善することができる。他方で、コントローラ50は、ロックアップ制御中において第2車両姿勢制御を抑制するので、ロックアップ制御中の第2車両姿勢制御の介入により、ロックアップクラッチ302fの係合度合の変更が遅延したり、係合度合の変更が不安定になったりすることを確実に抑制できる。よって、ロックアップクラッチ302fの係合度合の変更による燃費改善や加速性能向上や振動低減などを適切に確保することができる。
【0109】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。上述した第1実施形態では、車両姿勢制御中のロックアップ制御を抑制すると共にロックアップ制御中の車両姿勢制御を抑制していたが、第2実施形態では、車両姿勢制御とロックアップ制御とが同時に行われることを許容するが、ロックアップクラッチ302fの係合度合に基づき第1車両姿勢制御による増加トルク又は第2車両姿勢制御による低減トルクを変更する。こうすることによっても、車両姿勢制御とロックアップ制御とが両方実行されることによる問題の発生を抑制することができる。
【0110】
なお、以下では、第1実施形態と異なる構成のみを説明し、第1実施形態と同様の構成についてはその説明を適宜省略する。よって、ここで特に説明しない構成は、第1実施形態と同様であるものとする。
【0111】
図13は、本発明の第2実施形態による全体制御を示すフローチャートである。
図13に示すように、第2実施形態では、
図7のステップS106~S109の処理を行わない点で、第1実施形態と異なる。これは、上述したように、第2実施形態では、第1実施形態のように車両姿勢制御中のロックアップ制御の抑制及びロックアップ制御中の車両姿勢制御の抑制を行わないことに相当する。また、第2実施形態では、増加トルク設定処理(ステップS104)と低減トルク設定処理(ステップS105)の内容が第1実施形態と異なる。それ以外の点は基本的には第1実施形態と同様である。
【0112】
図14は、本発明の第2実施形態による増加トルク設定処理のフローチャートであり、
図16は、本発明の第2実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートである。
図14に示すように、第2実施形態では、
図8のステップS11~S14に加えて、ステップS15の処理を行う点で第1実施形態と異なる。また、
図16に示すように、第2実施形態では、
図10のステップS21~S24に加えて、ステップS25の処理を行う点で第1実施形態と異なる。
【0113】
第2実施形態では、コントローラ50は、
図14のステップS15において、ロックアップクラッチ302fの係合度合に応じて、ステップS14で設定された増加トルクを変更すると共に、
図16のステップS25において、ロックアップクラッチ302fの係合度合に応じて、ステップS24で設定された低減トルクを変更する。ステップS15及びS25において、まず、コントローラ50は、ロックアップクラッチ302fの係合度合(ロックアップクラッチ302fの締結率/スリップ率に相当し、以下では適宜「ロックアップ係合度合」と呼ぶ。)を判定する。1つの例では、コントローラ50は、エンジン回転数とタービン302cの回転数との差(差回転)に基づき、ロックアップ係合度合を判定する。他の例では、コントローラ50は、ロックアップクラッチ302fを駆動するL/U油圧ソレノイド弁350への油圧指令値に基づき、ロックアップ係合度合を判定する。更に他の例では、コントローラ50は、ロックアップクラッチ302fの制御油圧室の油圧に基づき、ロックアップ係合度合を判定する。この例では、当該制御油圧室に連通する油路に油圧センサを設け、この油圧センサが検出した油圧を用いればよい。そして、コントローラ50は、このようにして判定したロックアップ係合度合に基づき、第1車両姿勢制御による増加トルク又は第2車両姿勢制御による低減トルクを変更する。具体的には、コントローラ50は、
図15に示すようなマップを参照して、増加トルク又は低減トルクを補正する。なお、基本的には、増加トルクと低減トルクの一方のみが設定され、増加トルクと低減トルクの両方が設定されることはないので、コントローラ50は、増加トルクと低減トルクの一方を補正することとなる。
【0114】
図15は、本発明の第2実施形態による増加トルク又は低減トルクを補正するための補正マップである。
図15において、横軸はロックアップ係合度合を示し、縦軸に増加トルク又は低減トルクを補正するためのトルク補正値を示している。トルク補正値が大きくなると、増加トルク又は低減トルクがより大きく補正され、つまり増加トルク又は低減トルク(絶対値)が大きくなる側に補正され、一方で、トルク補正値が小さくなると、増加トルク又は低減トルクはほとんど補正されないものとする。
図15に示すように、ロックアップ係合度合が小さくなるほど、トルク補正値が大きくなるように補正マップが規定されている。これにより、ロックアップ係合度合が小さくなるほど、増加トルク又は低減トルク(絶対値)が大きな量へと補正されることとなる。
【0115】
このように増加トルク又は低減トルクを補正する理由は、以下の通りである。車両姿勢制御によりトルクを変化させている最中にロックアップ制御が行われると(つまりロックアップ係合度合が変更されると)、ロックアップクラッチ302fなどを含む自動変速機300を介して車輪に付与されるトルクが、車両姿勢制御により増加又は低減されたトルクに応じて適切に変化しなくなる。特に、車両姿勢制御中にロックアップ制御によりロックアップ係合度合が小さくなると、車輪に付与されるトルクが、車両姿勢制御により変化されたエンジントルクよりも緩やかに変化することとなる。そのため、車両に生じる加減速度が低減することとなり(具体的には比較的緩やかな加減速度が車両に生じることとなる)、車両姿勢制御により所望の車両姿勢を適切に実現することができなくなる。
【0116】
したがって、コントローラ50は、車両姿勢制御中にロックアップ制御が行われた場合に、ロックアップ係合度合に応じて増加トルク又は低減トルクを補正する。特に、コントローラ50は、
図15に示したような補正マップから得られるトルク補正値を用いることで、ロックアップ係合度合が小さくなるほど、増加トルク又は低減トルク(絶対値)を大きくする。こうすることで、車両姿勢制御においてトルクがより大きく変化されるので(具体的にはエンジントルクが急な傾き(変化率/低減率)にて変化される)、ロックアップ係合度合が小さくても、車輪に付与されるトルクの変化が適切に確保されることとなる。そのため、車両に適切な加減速度が生じ、車両姿勢制御により所望の車両姿勢を実現できるようになる。
【0117】
コントローラ50は、
図14のステップS15において、
図15の補正マップによりロックアップ係合度合に応じて増加トルクを補正するか、若しくは、
図16のステップS25において、
図15の補正マップによりロックアップ係合度合に応じて低減トルクを補正する。そして、
図13のステップS110において、コントローラ50は、このように補正した増加トルク又は低減トルクをステップS103の基本トルクに適用することで、最終目標トルクを設定する。
【0118】
なお、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせて実施してもよい。具体的には、車両姿勢制御とロックアップ制御とが両方実行されることをある程度抑制しつつ、車両姿勢制御とロックアップ制御とが両方実行される場合に、ロックアップ係合度合に応じて第1車両姿勢制御による増加トルク又は第2車両姿勢制御による低減トルクを変更してもよい。
【0119】
(第2実施形態の作用及び効果)
次に、本発明の第2実施形態による車両の制御装置による作用及び効果について説明する。
【0120】
第2本実施形態によれば、コントローラ50は、ロックアップクラッチ302fの係合度合に基づき第1車両姿勢制御による増加トルクを変更するので、これによっても、第1車両姿勢制御とロックアップ制御とが両方実行されることによる問題の発生を適切に抑制することができる。具体的には、第1車両姿勢制御時にロックアップクラッチ302fの係合度合が変化したとしても、第1車両姿勢制御により車両姿勢を制御するのに適したトルク増加(ここでいうトルクは車輪に付与されるトルクを意味する)を確保することができる。したがって、ロックアップ制御による係合度合の変更を確保しつつ、第1車両姿勢制御により車両応答性を適切に改善することができる。
【0121】
また、第2本実施形態によれば、コントローラ50は、ロックアップクラッチ302fの係合度合に基づき第2車両姿勢制御による低減トルクを変更するので、これによっても、第2車両姿勢制御とロックアップ制御とが両方実行されることによる問題の発生を適切に抑制することができる。具体的には、第2車両姿勢制御時にロックアップクラッチ302fの係合度合が変化したとしても、第2車両姿勢制御により車両姿勢を制御するのに適したトルク低減(ここでいうトルクは車輪に付与されるトルクを意味する)を確保することができる。したがって、ロックアップ制御による係合度合の変更を確保しつつ、第2車両姿勢制御により車両応答性を適切に改善することができる。
【0122】
特に、本実施形態によれば、係合度合の大きさに基づき増加トルク又は低減トルクを変更するので、ロックアップクラッチ302fの係合度合が小さい場合にも、車両姿勢制御により車輪に付与されるトルク増加又はトルク低減を確実に確保することができる。
【0123】
<変形例>
上記した実施形態では、エンジン10を原動機として用いる車両に本発明を適用する例を示したが、本発明は、エンジン10以外を原動機として用いる車両にも適用可能である。例えば、本発明は、モータ(電動機)を原動機として用いる車両にも適用可能である。
【0124】
上記した実施形態では、本発明を、トルクコンバータ302のロックアップクラッチ302fの係合度合を変更する場合に適用していたが、本発明は、ロックアップクラッチ302f以外にも、上記したような原動機からのトルクを車輪に伝達するための動力伝達機構に設けられた種々の係合要素(典型的にはクラッチ)について、その係合度合を変更する場合に適用可能である。
【0125】
また、上記した実施形態では、操舵角及び操舵速度に基づき車両姿勢制御を実行していたが、他の例では、操舵角及び操舵速度の代わりに、ヨーレートや横加速度やヨー加速度や横ジャークに基づき車両姿勢制御を実行してもよい。
【符号の説明】
【0126】
2 気筒
5 スロットルバルブ
10 エンジン
13 燃料噴射弁
14 点火プラグ
18 可変吸気バルブ機構
30 アクセル開度センサ
39 車速センサ
49 操舵角センサ
50 コントローラ
100 エンジンシステム
200 車両
202a 前輪(操舵輪)
202b 後輪(駆動輪)
207 操舵装置
300 自動変速機
302 トルクコンバータ
302f ロックアップクラッチ
350 L/U油圧ソレノイド弁