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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】車両用動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/60 20060101AFI20220216BHJP
【FI】
F16D13/60 T
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018132069
(22)【出願日】2018-07-12
(65)【公開番号】P2020008146
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-01-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 将倫
(72)【発明者】
【氏名】山田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】榎 洋行
(72)【発明者】
【氏名】片山 さやか
(72)【発明者】
【氏名】奥村 信弥
(72)【発明者】
【氏名】三浦 康雄
(72)【発明者】
【氏名】河野 弘和
(72)【発明者】
【氏名】森弘 真司
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄幸
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0073790(US,A1)
【文献】特表2006-525475(JP,A)
【文献】特開平04-272516(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02246584(EP,A1)
【文献】米国特許第01707843(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転方向の動力を伝達する円筒状のドラムを備えた車両用動力伝達装置であって、
上記ドラムは、該ドラムの軸方向の互いに離れた2箇所にそれぞれ位置する第1環状部及び第2環状部と、該第1環状部と該第2環状部との間で、該第1環状部又は該第2環状部に入力された上記動力を伝達する動力伝達部とを有し、
上記動力伝達部は、上記ドラムの中心軸の周囲に配置されかつ上記第1環状部と上記第2環状部とを連結する複数の棒状連結部材で構成され、
上記複数の棒状連結部材は、
全ての棒状連結部材が、上記軸方向の第1環状部側から第2環状部側に向かって上記ドラムの周方向の同じ側に傾斜して延びる第1の形態で設けられており、
上記動力伝達部における上記軸方向の中間に、上記ドラムの回転時に、上記複数の棒状連結部材の、該ドラムの径方向外側への変位を抑制する環状の中間部材が、該ドラムの周方向全体に延びるように設けられており、
上記動力伝達部による上記動力の伝達時には常に、上記第1環状部に上記周方向の一側の向きにトルクが作用しかつ上記第2環状部に上記周方向の他側の向きにトルクが作用するようになっており、
上記複数の棒状連結部材の全てが、上記軸方向の第1環状部側から第2環状部側に向かって上記周方向の、上記第1環状部に作用するトルクの向きと同じ側に傾斜して延びていることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用動力伝達装置において、
上記中間部材は、上記複数の棒状連結部材と一体形成されたものであることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両用動力伝達装置において、
上記各棒状連結部材は、上記第1環状部及び上記第2環状部の互いの上記軸方向に対向する対向面に連結されており、
上記各棒状連結部材の上記周方向の一側及び他側の面のうち上記第1環状部の対向面となす角度が鋭角となる側の面と該第1環状部の対向面との間の隅部、及び/又は、該各棒状連結部材の上記周方向の一側及び他側の面のうち上記第2環状部の対向面となす角度が鋭角となる側の面と該第2環状部の対向面との間の隅部に、補強部が設けられていることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転方向の動力を伝達する円筒状のドラムを備えた車両用動力伝達装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両に搭載される自動変速機においては、摩擦締結要素(ブレーキ又はクラッチ)を備えている。この摩擦締結要素は、回転方向の動力を伝達する円筒状のドラム(ブレーキドラム又はクラッチドラム)を有している。このドラムには、複数の摩擦板が取り付けられ、これらの摩擦板が、例えばクラッチハブに取り付けられた複数の摩擦板と係合することで、摩擦締結要素が締結される。
【0003】
上記のようなドラムの周側壁には、複数の孔が形成される場合がある。例えば特許文献1では、変速機を含む動力伝達装置において、変速機からの動力が伝達されるカウンタドライブギヤを回転自在に支持する支持部材が、変速機の回転要素を変速機ケースに接続して回転不能にする摩擦締結要素のブレーキドラムとして機能する円筒状のドラム部を有し、このドラム部に複数の孔を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-70330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような摩擦締結要素のドラムは、径が比較的大きくて重量物であるため、イナーシャが大きく、この結果、変速時間が長くなるという問題がある。また、自動変速機には、通常、複数の摩擦締結要素が設けられるので、自動変速機全体の重量が増加して車両の燃費が悪化するという問題がある。特にFR車の場合、摩擦締結要素のドラムが軸方向に長くなる傾向にあり、ドラムの軽量化及び低イナーシャ化が強く要求される。
【0006】
そこで、上記特許文献1のようにドラムの周側壁に孔を形成することで、ドラムの軽量化及び低イナーシャ化を図ることが考えられる。
【0007】
しかし、ドラムの周側壁に孔を形成するだけでは、ドラムの軽量化及び低イナーシャ化には限界があり、抜本的な改善が望まれる。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、自動変速機のように、回転方向の動力を伝達する円筒状のドラムを備えた車両用動力伝達装置において、該ドラムを大幅に軽量化しかつ低イナーシャ化しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明では、回転方向の動力を伝達する円筒状のドラムを備えた車両用動力伝達装置を対象として、上記ドラムは、該ドラムの軸方向の互いに離れた2箇所にそれぞれ位置する第1環状部及び第2環状部と、該第1環状部と該第2環状部との間で、該第1環状部又は該第2環状部に入力された上記動力を伝達する動力伝達部とを有し、上記動力伝達部は、上記ドラムの中心軸の周囲に配置されかつ上記第1環状部と上記第2環状部とを連結する複数の棒状連結部材で構成され、 上記複数の棒状連結部材は、全ての棒状連結部材が、上記軸方向の第1環状部側から第2環状部側に向かって上記ドラムの周方向の同じ側に傾斜して延びる第1の形態で設けられており、上記動力伝達部における上記軸方向の中間に、上記ドラムの回転時に、上記複数の棒状連結部材の、該ドラムの径方向外側への変位を抑制する環状の中間部材が、該ドラムの周方向全体に延びるように設けられており、上記動力伝達部による上記動力の伝達時には常に、上記第1環状部に上記周方向の一側の向きにトルクが作用しかつ上記第2環状部に上記周方向の他側の向きにトルクが作用するようになっており、上記複数の棒状連結部材の全てが、上記軸方向の第1環状部側から第2環状部側に向かって上記周方向の、上記第1環状部に作用するトルクの向きと同じ側に傾斜して延びている、という構成とした。
【0010】
上記の構成により、ドラムにおける第1環状部と第2環状部との間の動力伝達部が、複数の棒状連結部材で構成されているので、棒状連結部材の数を出来る限り少なくすることで、ドラムを大幅に軽量化しかつ低イナーシャ化することが可能になる。
【0011】
ここで、ドラムの回転時には、遠心力によって棒状連結部材がドラムの径方向外側に変位し、この変位によって、棒状連結部材が、その第1環状部側の端部又は第2環状部側の端部で破損する可能性がある。しかし、環状の中間部材によって上記変位が抑制されるので、遠心力による棒状連結部材の破損を防止することができる。
【0012】
また、動力伝達部による動力の伝達時に第1環状部及び第2環状部にそれぞれ作用するトルクの向きに応じて、複数の棒状連結部材の傾斜の向きを適切に設定することで、該トルクによる棒状連結部材の破損を効果的に防止することができる。
【0013】
よって、動力伝達部により動力を確実に伝達しつつ、ドラムを大幅に軽量化しかつ低イナーシャ化することができる。
【0014】
また、第1環状部及び第2環状部に作用するトルクによる棒状連結部材の破損を効果的に防止しながら、棒状連結部材の数をより一層低減することができる。
【0015】
上記車両用動力伝達装置において、上記中間部材は、上記複数の棒状連結部材と一体形成されたものである、ことが好ましい。
【0016】
このことにより、部品点数を削減することができるとともに、中間部材を容易に設けることができる
【0017】
記一実施形態又は上記別の実施形態において、上記各棒状連結部材は、上記第1環状部及び上記第2環状部の互いの上記軸方向に対向する対向面に連結されており、上記各棒状連結部材の上記周方向の一側及び他側の面のうち上記第1環状部の対向面となす角度が鋭角となる側の面と該第1環状部の対向面との間の隅部、及び/又は、該各棒状連結部材の上記周方向の一側及び他側の面のうち上記第2環状部の対向面となす角度が鋭角となる側の面と該第2環状部の対向面との間の隅部に、補強部が設けられている、ことが好ましい。
【0018】
このことにより、第1環状部及び第2環状部に作用するトルクにより棒状連結部材の破損が生じ易い箇所(応力集中が生じ易い箇所)を補強して、該トルクによる棒状連結部材の破損をより一層効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の車両用動力伝達装置によると、動力伝達部により動力を確実に伝達しつつ、ドラムを大幅に軽量化しかつ低イナーシャ化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る車両用動力伝達装置としての自動変速機の一例を示す骨子図である。
図2】上記自動変速機の各変速段時における摩擦締結要素の締結状態を示す締結表である。
図3】上記自動変速機に搭載された状態における第2クラッチ及び第3クラッチのクラッチドラムを示す断面図である。
図4】実施形態1に係るドラムを示す斜視図である。
図5図4のドラムを、その径方向外側から見た図である。
図6】実施形態2に係るドラムを示す図4相当図である。
図7図6のドラムの図5相当図である。
図8】実施形態3に係るドラムを示す図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用動力伝達装置としての自動変速機1の一例を示す。この自動変速機1は、FR式の車両に搭載される縦置き式の自動変速機である。
【0023】
自動変速機1は、変速機ケース11と、該変速機ケース11内に挿入されかつ上記車両の駆動源(エンジン、モータ等)からの動力が入力される入力軸12と、変速機ケース11内に収容されかつ入力軸12を介して上記駆動源からの動力が伝達される変速機構14と、変速機ケース11内に挿入されかつ変速機構14からの動力をプロペラシャフトに出力する出力軸13とを有している。
【0024】
入力軸12と出力軸13とは、車両前後方向に沿って同軸上に配置されており、自動変速機1が上記車両に搭載された状態で、入力軸12が車両前側に位置しかつ出力軸13が車両後側に位置している。以下の説明では、入力軸12の軸方向(出力軸13の軸方向)における上記駆動源側(図1の左側であって上記車両の前側である)を前側といい、入力軸12の軸方向における上記駆動源とは反対側(図1の右側であって上記車両の後側である)を後側という。
【0025】
変速機構14は、入力軸12の軸方向に並ぶ、第1プラネタリギヤセットPG1(以下、第1ギヤセットPG1という)、第2プラネタリギヤセットPG2(以下、第2ギヤセットPG2という)、第3プラネタリギヤセットPG3(以下、第3ギヤセットPG3という)、及び、第4プラネタリギヤセットPG4(以下、第4ギヤセットPG4という)を有している。これら第1ギヤセットPG1、第2ギヤセットPG2、第3ギヤセットPG3及び第4ギヤセットPG4は、前側からこの順に並んでいて、入力軸12から出力ギヤ13への複数の動力伝達経路を形成する。第1~第4ギヤセットPG1~PG4は、入力軸12及び出力軸13と同一軸線上に配置されている。
【0026】
第1ギヤセットPG1は、回転要素として、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1及び第1キャリヤC1を有する。第1ギヤセットPG1は、シングルピニオン型であって、第1キャリヤC1に支持されかつ第1ギヤセットPG1の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP1が第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1の両方に噛み合わされている。
【0027】
第2ギヤセットPG2は、回転要素として、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2及び第2キャリヤC2を有する。第2ギヤセットPG2も、シングルピニオン型であって、第2キャリヤC2に支持されかつ第2ギヤセットPG2の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP2が第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2の両方に噛み合わされている。
【0028】
第3ギヤセットPG3は、回転要素として、第3サンギヤS3、第3リングギヤR3及び第3キャリヤC3を有する。第3ギヤセットPG3も、シングルピニオン型であって、第3キャリヤC3に支持されかつ第3ギヤセットPG3の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP3が第3サンギヤS3及び第3リングギヤR3の両方に噛み合わされている。
【0029】
第4ギヤセットPG4は、回転要素として、第4サンギヤS4、第4リングギヤR4及び第4キャリヤC4を有する。第4ギヤセットPG4も、シングルピニオン型であって、第4キャリヤC4に支持されかつ第4ギヤセットPG4の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP4が第4サンギヤS4及び第4リングギヤR4の両方に噛み合わされている。
【0030】
第1ギヤセットPG1の第1サンギヤS1は、入力軸12の軸方向に2分割されており、相対的に前側に配置された前側第1サンギヤS1aと相対的に後側に配置された後側第1サンギヤS1bとを有している。つまり、第1ギヤセットPG1は、ダブルサンギヤ型のギヤセットである。前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、同じ歯数の歯を有して、第1キャリヤC1に支持されたピニオンP1に噛合しているため、これら前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの回転数は常に等しくなる。すなわち、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、常に同じ回転速度で回転し、一方のギヤの回転が停止しているときには他方のギヤの回転も停止する。
【0031】
第1サンギヤS1(厳密には、後側第1サンギヤS1b)と第4サンギヤS4とが常時連結され、第1リングギヤR1と第2サンギヤS2とが常時連結され、第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とが常時転結され、第3キャリヤC3と第4リングギヤR4とが常時連結されている。また、入力軸12は第1キャリヤC1に常時連結され、出力軸13は第4キャリヤC4に常時連結されている。具体的には、入力軸12は、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの間を通る動力伝達部材18を介して第1キャリヤC1と連結されている。後側第1サンギヤS1bと第4サンギヤS4とは、動力伝達軸15を介して連結されている。第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とは、動力伝達部材16を介して連結されている。
【0032】
変速機構14はまた、第1~第4ギヤセットPG1~PG4により形成される上記複数の動力伝達経路の中から1つを選択して動力伝達経路を切り換えるための5つの摩擦締結要素(第1クラッチ20、第2クラッチ21、第3クラッチ22、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24)を有している。
【0033】
第1クラッチ20は、入力軸12及び第1キャリヤC1と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第1クラッチ20は、第1ギヤセットPG1の前側に配設されている。
【0034】
第2クラッチ21は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第2クラッチ21は、第1クラッチ20の前側に配設されている。
【0035】
第3クラッチ22は、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第3クラッチ22は、第2クラッチ21の前側に配設されている。
【0036】
第3サンギヤS3と、第1クラッチ20、第2クラッチ21及び第3クラッチ22の全てとが、連結部材5及び連結部材8を介して連結され、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と第2クラッチ21とが、第2クラッチ21のクラッチドラム6を介して連結され、第2リングギヤR2と第3クラッチ22とが、第3クラッチ22のクラッチドラム7を介して連結されている。
【0037】
第1ブレーキ23は、第1サンギヤS1(厳密には前側第1サンギヤS1a)と変速機ケース11との間を断接するように構成されている。第1ブレーキ23は、第3クラッチ22の前側における変速機ケース11の近傍に配置されている。第1ブレーキ23の締結時には、第1サンギヤS1が変速機ケース11に固定される。
【0038】
第2ブレーキ24は、第3リングギヤR3と変速機ケース11との間を断接するように構成されている。第2ブレーキ24は、第3ギヤセットPG3の前側における変速機ケース11の近傍に配置されている。第2ブレーキ24の締結時には、第3リングギヤR3が変速機ケース11に固定される。
【0039】
上記各摩擦締結要素は、該各摩擦締結要素の締結油圧室への作動油の供給により締結される。図2の締結表に示すように、5つの摩擦締結要素から3つの摩擦締結要素を選択的に締結することにより、前進の1速~8速及び後退速が形成される。尚、図2の締結表では、○印が、摩擦締結要素が締結していることを示し、空欄が、摩擦締結要素が締結を解除(解放)していることを示す。
【0040】
具体的には、第1クラッチ20、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24の締結により、1速が形成される。第2クラッチ21、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24の締結により、2速が形成される。第1クラッチ20、第2クラッチ21及び第2ブレーキ24の締結により、3速が形成される。第2クラッチ21、第3クラッチ22及び第2ブレーキ24の締結により、4速が形成される。第1クラッチ20、第3クラッチ22及び第2ブレーキ24の締結により、5速が形成される。第1クラッチ20、第2クラッチ21及び第3クラッチ22の締結により、6速が形成される。第1クラッチ20、第3クラッチ22及び第1ブレーキ23の締結により、7速が形成される。第2クラッチ21、第3クラッチ22及び第1ブレーキ23の締結により、8速が形成される。第3クラッチ22、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24の締結により、後退速が形成される。6速では、入力軸12の回転速度と出力軸13の回転速度が同じになる。
【0041】
図3に、自動変速機1に搭載された状態のクラッチドラム6,7を具体的に示す。尚、図3中、Cは、入力軸12の中心軸(出力軸13の中心軸)であって、クラッチドラム6,7の中心軸(後述のドラム30では、中心軸L)と一致する。クラッチドラム6,7の軸方向は、入力軸12の軸方向(出力軸13の軸方向)と一致する。
【0042】
クラッチドラム6は、第2クラッチ21のクラッチドラムであって、連結部材5の径方向内側に位置する。このクラッチドラム6は、前側に開口しかつ後側端部が底部とされた有底の円筒状に形成されている。クラッチドラム6は、その後側端部(底部)で第1ギヤセットPG1の第1リングギヤR1に連結される。クラッチドラム6の周側壁における前側端部の内周面に、複数の摩擦板51が取り付けられている。これらの摩擦板51は、第2クラッチ21の締結時に、連結部材8において摩擦板51と交互に並ぶように取り付けられた複数の摩擦板52と係合する。クラッチドラム6は、第2クラッチ21が締結状態にあるとき、第1リングギヤR1から第3サンギヤS3に回転方向の動力を伝達する。
【0043】
クラッチドラム7は、第3クラッチ22のクラッチドラムであって、連結部材5の径方向内側でかつクラッチドラム6の径方向外側に位置する。このクラッチドラム7も、クラッチドラム6と同様に、前側に開口しかつ後側端部が底部とされた有底の円筒状に形成されている。クラッチドラム7は、その後側端部(底部)で第2ギヤセットPG2の第2リングギヤR2に連結される。クラッチドラム7の周側壁における前側端部の内周面に、複数の摩擦板53が取り付けられている。これらの摩擦板53は、第3クラッチ22の締結時に、連結部材8において摩擦板53と交互に並ぶように取り付けられた複数の摩擦板54と係合する。クラッチドラム7は、第3クラッチ22が締結状態にあるとき、第2リングギヤR2から第3サンギヤS3に回転方向の動力を伝達する。
【0044】
以下、クラッチドラム6及びクラッチドラム7の詳細な構成について、図4及び図5に示す、実施形態1に係るドラム30(クラッチドラム6と同様の形状を有する)で説明する。このドラム30の構成が、クラッチドラム6及びクラッチドラム7に適用される。以下のドラム30の説明において、「前」及び「後」は、ドラム30がクラッチドラム6及びクラッチドラム7として自動変速機1に搭載された状態での「前」及び「後」とそれぞれ同じである。
【0045】
(実施形態1)
図4及び図5は、実施形態1に係るドラム30を示す。本実施形態では、ドラム30は、該ドラム30の軸方向(以下、ドラム軸方向という)の互いに離れた2箇所にそれぞれ位置する第1環状部31及び第2環状部32を有する。本実施形態では、第1環状部31は、ドラム30の周側壁における前側端部及びその近傍部分であり、第2環状部32は、ドラム30の周側壁における後側端部(底部)の近傍部分である。
【0046】
第1環状部31の前側部分は、スプライン部31aとされている。本実施形態では、第1環状部31が厚みの薄い板状であるため、第1環状部31の内周面及び外周面の両方において、ドラム軸方向に延びる突条部及び凹条部がドラム30の周方向(以下、ドラム周方向という)に交互に並んでいる。但し、第1環状部31の外周面では、内周面の突条部に対応する部分に凹条部が位置し、内周面の凹条部に対応する部分に突条部が位置する。第1環状部31のスプライン部31aの内周面側に、複数の摩擦板51がスプライン嵌合される。
【0047】
第2環状部32の前側端部の外径は、第1環状部31の後側端部の外径と略同じにされている。第2環状部32の前側端部を除く部分の外径は、該前側端部の外径よりも小さくされている。
【0048】
ドラム30は、第1環状部31と第2環状部32との間で、該第1環状部31又は該第2環状部32に入力された回転方向の動力を伝達する動力伝達部35を更に有する。本実施形態では、動力伝達部35は、第2環状部32に伝達された動力を第2環状部32から第1環状部31に伝達する。
【0049】
動力伝達部35は、ドラム30の中心軸Lの周囲に配置されかつ第1環状部31と第2環状部32とを連結する複数(本実施形態では、8つ)の棒状連結部材36で構成されている。本実施形態では、複数の棒状連結部材36は、第1環状部31の後側端部の外径と略同じ外径(つまり、第2環状部32の前側端部の外径と略同じ外径)を有する仮想の円筒面上において、ドラム周方向に間隔をあけて配置されている。各棒状連結部材36は、その両端部で、第1環状部31及び第2環状部32の、互いのドラム軸方向に対向する対向面(つまり、第1環状部31の後側端面及び第2環状部32の前側端面)に連結されている。このように動力伝達部35が、複数の棒状連結部材36で構成されていることで、動力伝達部35が第2環状部32のような環状部である場合に比べて、ドラム30を大幅に軽量化しかつ低イナーシャ化することが可能になる。
【0050】
本実施形態では、各棒状連結部材36は、断面矩形状をなし、各棒状連結部材36の厚み方向がドラム30の径方向とされている。各棒状連結部材36の厚みは、第1環状部31の後側端部及び第2環状部32の前側端部の厚み(ドラム30の周側壁の厚み)と同じである。各棒状連結部材36は、第1環状部31及び第2環状部32と一体形成されたものである。
【0051】
各棒状連結部材36は、ドラム30の中心軸Lに対してねじれの位置にある。すなわち、各棒状連結部材36は、ドラム軸方向の第1環状部31側から第2環状部32側に向かってドラム周方向の一側又は他側に傾斜して延びる。本実施形態では、全ての棒状連結部材36が、ドラム軸方向の第1環状部31側から第2環状部32側に向かってドラム周方向の同じ側に傾斜して延びている。すなわち、複数の棒状連結部材36は、第1の形態で設けられている。本実施形態では、動力伝達部35による動力の伝達時には常に、図4に示すように、第1環状部31にドラム周方向の一側の向きにトルクT1が作用しかつ第2環状部32に該ドラム周方向の他側の向きにトルクT2(大きさはT1と同じ)が作用するようになっている。これに対応して、全ての棒状連結部材36が、ドラム軸方向の第1環状部31側から第2環状部32側に向かってドラム周方向の、第1環状部31に作用するトルクT1の向きと同じ側(ドラム30の後側から見て、反時計回りの向き)に傾斜して延びている。
【0052】
トルクT1,T2により、各棒状連結部材36には回転モーメントが生じて、傾斜して延びる棒状連結部材36は、ドラム30の中心軸Lに対して平行になる向きに捩られる(回動させられる)。棒状連結部材36の長さは、傾斜している分だけ、第1環状部31と第2環状部32との間のドラム軸方向の間隔よりも大きいので、棒状連結部材36は、トルクT1,T2により、第1環状部31と第2環状部32との間で突っ張って圧縮されることになる。この結果、棒状連結部材36の傾斜の向きが本実施形態とは反対である場合(トルクT1,T2により棒状連結部材36が引っ張られる場合)に比べて、棒状連結部材36はトルクT1,T2に対して強くて破損し難い。
【0053】
尚、棒状連結部材36の数は、トルクT1,T2の大きさ、及び、棒状連結部材36の強度を考慮して、出来る限り少なくすることが好ましい。
【0054】
本実施形態では、各棒状連結部材36のドラム周方向の一側及び他側の面のうち第1環状部31の対向面(後側端面)となす角度が鋭角となる側(トルクT1の向きと同じ側)の面と該第1環状部31の対向面との間の隅部には、該隅部を補強する補強部としての隅R部41が設けられている。この隅R部41の曲率半径が所定値以上に設定されることによって、上記隅部が補強される。また、同様に、各棒状連結部材36のドラム周方向の一側及び他側の面のうち第2環状部32の対向面となす角度が鋭角となる側(トルクT2の向きと同じ側)の面と該第2環状部32の対向面(前側端面)との間の隅部にも、補強部としての隅R部42が設けられている。隅R部42の曲率半径も所定値(隅R部41の曲率半径に関する所定値と同じであっても異なっていてもよい)以上に設定される。すなわち、隅R部41,42によって、第1環状部31及び第2環状部32に作用するトルクT1,T2による棒状連結部材36の特に破損が生じ易い箇所(応力集中が生じ易い箇所)が補強される。
【0055】
尚、隅R部41,42は、必ずしも必要なものではなく、なくてもよい。或いは、両隅R部41,42のうちのいずれか一方のみが設けられていてもよい。
【0056】
また、上記補強部としては、隅R部41(42)で構成する代わりに、例えば補強部材で構成することも可能である。この補強部材は、上記の隅R部41(42)とされる前の部分を、ドラム30の径方向外側又は内側から覆うように、第1環状部31(第2環状部32)と棒状連結部材36とを連結することになる。
【0057】
動力伝達部35におけるドラム軸方向の中間(つまり、第1環状部31と第2環状部32との間)には、ドラム30の回転時に、複数の棒状連結部材36がドラム30の径方向外側へ変位するのを抑制する環状の中間部材37が、ドラム周方向全体に延びるように設けられている。本実施形態では、動力伝達部35におけるドラム軸方向の中央(第1環状部31と第2環状部32との間の中央)に、中間部材37が設けられている。この中間部材37も、断面矩形状をなし、中間部材37の厚み方向がドラム30の径方向とされている。中間部材37の厚みは、各棒状連結部材36の厚みと同じである。中間部材37は、複数の棒状連結部材36と一体形成されたものである。本実施形態では、各棒状連結部材36と中間部材37とは平面交差している。
【0058】
本実施形態では、各棒状連結部材36のドラム周方向の一側及び他側の面のうち中間部材37の前側の面(第1環状部31側の面)となす角度が鋭角となる側の面と該中間部材37の前側の面との間の隅部にも、隅R部43が設けられて、該隅部が補強されている。また、各棒状連結部材36のドラム周方向の一側及び他側の面のうち中間部材37の後側の面(第2環状部32側の面)となす角度が鋭角となる側の面と該中間部材37の後側の面との間の隅部にも、隅R部44が設けられて、該隅部が補強されている。これら隅R部43,44はなくてもよい。
【0059】
ここで、中間部材37がない場合、ドラム30の回転時に、遠心力によって棒状連結部材36がドラム径方向外側に変位し、この変位によって、棒状連結部材36が、その第1環状部31側の端部又は第2環状部32側の端部で破損する可能性がある。或いは、本実施形態では、第1環状部31が厚みが薄い板状であるため、上記変位によって、第1環状部31のスプライン部31aがドラム周方向に伸びながら(突条部の高さ及び凹条部の深さが小さくなりながら)ドラム径方向に拡がる可能性がある。
【0060】
しかし、本実施形態では、環状の中間部材37によって上記変位が抑制されるので、遠心力による棒状連結部材36の破損を防止することができる。また、第1環状部31のスプライン部31aがドラム周方向に伸びながらドラム径方向に拡がるのを防止することができる。
【0061】
また、複数の棒状連結部材36が、傾斜して延びており、トルクT1,T2により、第1環状部31と第2環状部32との間で突っ張るように構成されているので、トルクT1,T2による棒状連結部材36の破損を効果的に防止することができる。
【0062】
よって、本実施形態では、動力伝達部35により動力を確実に伝達しつつ、ドラム30を大幅に軽量化しかつ低イナーシャ化することができる。
【0063】
尚、本実施形態では、動力伝達部35は、第2環状部32に伝達された動力を第2環状部32から第1環状部31に伝達するが、第1環状部31から第2環状部32に動力が伝達される場合があってもよい。この場合の動力の伝達時において、第1環状部31及び第2環状部32に作用するトルクの向きが、第2環状部32から第1環状部31に動力が伝達される場合と同じであれば、本実施形態のドラム30の構成を採用することができる。また、第1環状部31から第2環状部32にのみ動力が伝達されてもよく、この場合も、本実施形態のドラム30の構成を採用することができ、第1環状部31及び第2環状部32に作用するトルクの向きに応じて、棒状連結部材36の傾斜の向きを設定すればよい。後述の実施形態2,3では、第2環状部32から第1環状部31への動力の伝達時であっても、第1環状部31から第2環状部32への動力の伝達時であっても、第1環状部31及び第2環状部32に作用するトルクの向きに制約はない。
【0064】
(実施形態2)
図6及び図7は、実施形態2に係るドラム30を示し(図4及び図5と同じ部分については同じ符号を付して、その詳細な説明は省略する)、動力伝達部35の構成を、上記実施形態1とは異ならせて、第1環状部31及び第2環状部32に作用するトルクの向きに関係なく、該トルクによる棒状連結部材36の破損を防止するようにしたものである。
【0065】
本実施形態に係るドラム30の構成は、クラッチドラム6及びクラッチドラム7に適用することも可能であるが、第1環状部31及び第2環状部32へのトルクの作用状態が、後述の第1の状態となる場合と後述の第2の状態となる場合とがあるドラムを有する車両用動力伝達装置の該ドラムに適用することが好ましいので、ここでは、該ドラムに適用するものとする(後述の実施形態3に係るドラム30も同様)。本実施形態に係るドラム30の「前」及び「後」は、上記実施形態1に係るドラム30の「前」及び「後」とそれぞれ同じにしている(後述の実施形態3に係るドラム30も同様)。
【0066】
すなわち、本実施形態では、上記実施形態1とは異なり、動力伝達部35による動力の伝達時において、第1環状部31にドラム周方向の一側の向きにトルクT1が作用しかつ第2環状部32にドラム周方向の他側の向きにトルクT2(=T1)が作用する第1の状態と、該第1環状部31及び該第2環状部32にそれぞれ上記第1の状態とは反対の向きにトルクT1′,T2′(T1′=T2′)が作用する第2の状態とがある。
【0067】
これら第1の状態及び第2の状態のいずれにも対応可能なように、複数(ここでは、16個)の棒状連結部材36のうちの一部の棒状連結部材36が、ドラム軸方向の第1環状部31側から第2環状部32側に向かってドラム周方向の一側(上記実施形態1の棒状連結部材と同じ側)に傾斜して延びる第1の棒状連結部材36Aとされ、残りの棒状連結部材36が、ドラム軸方向の第1環状部31側から第2環状部32側に向かってドラム周方向の他側(上記実施形態1の棒状連結部材とは反対側)に傾斜して延びる第2の棒状連結部材36Bとされている。すなわち、複数の棒状連結部材36は、第2の形態で設けられている。本実施形態では、第1の棒状連結部材36A及び第2の棒状連結部材36Bのいずれも複数設けられているとともに、同じ数(8つずつ)にされている。
【0068】
尚、第2の状態におけるトルクT1′,T2′の大きさが、第1の状態におけるトルクT1,T2の大きさに対して異なる場合には、第1の棒状連結部材36Aの数と第2の棒状連結部材36Bの数とを互いに異ならせてもよい。第1の棒状連結部材36A及び第2の棒状連結部材36Bのうちの一方が1つであってもよい。
【0069】
本実施形態では、複数の第1の棒状連結部材36Aが、上記実施形態1の棒状連結部材36と同様に、上記実施形態1と同様の仮想の円筒面上において、ドラム周方向に間隔をあけて配置され、複数の第2の棒状連結部材36Bも、上記仮想の円筒面上において、ドラム周方向に間隔をあけて配置されている。各第2の棒状連結部材36Bは、動力伝達部35におけるドラム軸方向の中間(本実施形態では、動力伝達部35におけるドラム軸方向の中央)において、1つの第1の棒状連結部材36Aと平面交差する。また、第1環状部31において、各第2の棒状連結部材36Bが連結する部分に、当該第2の棒状連結部材36Bと平面交差する第1の棒状連結部材36Aに対してトルクT1の向きと同じ側に隣接する第1の棒状連結部材36Aが連結される。さらに、第2環状部32において、各第2の棒状連結部材36Bが連結する部分に、当該第2の棒状連結部材36Bと平面交差する第1の棒状連結部材36Aに対してトルクT2の向きと同じ側に隣接する第1の棒状連結部材36Aが連結される。
【0070】
本実施形態においても、上記実施形態1と同様に、動力伝達部35におけるドラム軸方向の中間(中央)に、ドラム30の回転時に、複数の棒状連結部材36(第1の棒状連結部材36A及び第2の棒状連結部材36B)がドラム30の径方向外側へ変位するのを抑制する環状の中間部材37が設けられている。中間部材37は、複数の棒状連結部材36と一体形成されたものであって、第1の棒状連結部材36Aと第2の棒状連結部材36Bとが平面交差する部分で、第1の棒状連結部材36A及び第2の棒状連結部材36Bと平面交差している。この結果、第1の棒状連結部材36A、第2の棒状連結部材36B及び中間部材37が、トラス構造を構成することになる。
【0071】
各棒状連結部材36(各第1の棒状連結部材36A及び各第2の棒状連結部材36B)のドラム周方向の一側及び他側の面のうち第1環状部31の対向面となす角度が鋭角となる側の面と該第1環状部31の対向面との間の隅部、及び、各棒状連結部材36のドラム周方向の一側及び他側の面のうち第2環状部32の対向面となす角度が鋭角となる側の面と該第2環状部32の対向面との間の隅部にも、上記実施形態1と同様に、隅R部41,42がそれぞれ設けられている。
【0072】
また、各棒状連結部材36のドラム周方向の一側及び他側の面のうち中間部材37の前側の面となす角度が鋭角となる側の面と該中間部材37の前側の面との間の隅部、及び、各棒状連結部材のドラム周方向の一側及び他側の面のうち中間部材37の後側の面となす角度が鋭角となる側の面と該中間部材37の後側の面との間の隅部にも、隅R部43,44がそれぞれ設けられている。
【0073】
本実施形態では、第1環状部31及び第2環状部32へのトルクの作用状態が第1の状態であっても第2の状態であっても、第1環状部31及び第2環状部32に作用するトルクによる棒状連結部材36(第1の棒状連結部材36A及び第2の棒状連結部材36B)の破損を効果的に防止することができる。また、上記実施形態1と同様に、中間部材37により、遠心力による棒状連結部材36の破損を防止することができる。
【0074】
さらに、本実施形態では、第1の棒状連結部材36A、第2の棒状連結部材36B及び中間部材37が、トラス構造を構成しているので、第1環状部31及び第2環状部32に作用するトルクによる棒状連結部材36の破損、及び、遠心力による棒状連結部材36の破損がより一層生じ難くなり、その分だけ第1の棒状連結部材36A及び第2の棒状連結部材36Bの数を低減することができるようになる。
【0075】
(実施形態3)
図8は、実施形態3に係るドラム30を示し(図6と同じ部分については同じ符号を付して、その詳細な説明は省略する)、第1の棒状連結部材36A及び第2の棒状連結部材36Bのドラム周方向の配置を、上記実施形態2とは異ならせたものである。
【0076】
すなわち、本実施形態では、上記実施形態2と同様に、第1の棒状連結部材36Aと第2の棒状連結部材36Bとが設けられているが、第1の棒状連結部材36A及び第2の棒状連結部材36Bの数は、上記実施形態2よりも少なく、4つずつとされている。また、第1の棒状連結部材36Aと第2の棒状連結部材36Bとは、第1環状部31と第2環状部32との間で平面交差していない。すなわち、第1の棒状連結部材36Aと第2の棒状連結部材36Bとがドラム周方向に交互に設けられている。その他の構成は、上記実施形態2と同様である。
【0077】
本実施形態では、上記実施形態2のようなトラス構造にはなっていないものの、上記実施形態2と同様に、第1環状部31及び第2環状部32へのトルクの作用状態が第1の状態であっても第2の状態であっても、第1環状部31及び第2環状部32に作用するトルクによる棒状連結部材36(第1の棒状連結部材36A及び第2の棒状連結部材36B)の破損を効果的に防止することができる。また、中間部材37により、遠心力による棒状連結部材36の破損を防止することができる。
【0078】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0079】
例えば、上記実施形態では、ドラム30(特に実施形態1に係るドラム30)の構成を、自動変速機1における第2クラッチ21のクラッチドラム6及び第3クラッチ22のクラッチドラム7に適用する例を示したが、ドラム30の構成は、摩擦締結要素のドラム(ブレーキドラム又はクラッチドラム)を初め、回転方向の動力を伝達する円筒状のドラムであれば、どのようなドラムにも適用することができる。例えば自動変速機1の連結部材5も、ドラムで構成され、該ドラムの軸方向の長さがクラッチドラム6,7よりも長いので、該ドラム(連結部材5)の軽量化及び低イナーシャ化のために、該ドラムにドラム30の構成を適用してもよい。また、ドラム30の構成は、自動変速機1以外の車両用動力伝達装置のドラムにも適用することができる。
【0080】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、回転方向の動力を伝達する円筒状のドラムを備えた車両用動力伝達装置に有用であり、特に径及び重量が大きいクラッチドラム及び/又はブレーキドラムを備えた自動変速機に有用である。
【符号の説明】
【0082】
1 自動変速機(車両用動力伝達装置)
6 第2クラッチのクラッチドラム
7 第3クラッチのクラッチドラム
30 ドラム
31 第1環状部
32 第2環状部
35 動力伝達部
36 棒状連結部材
37 中間部材
41 隅R部(補強部)
42 隅R部(補強部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8