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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】2剤式医療機器用コーティング剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/08 20060101AFI20220216BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20220216BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
A61L29/08 100
A61L27/34
A61L31/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018540285
(86)(22)【出願日】2017-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2017034031
(87)【国際公開番号】W WO2018056344
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2016184921
(32)【優先日】2016-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】松田 将
(72)【発明者】
【氏名】野田 朋澄
(72)【発明者】
【氏名】坂元 伸行
【審査官】古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-075943(JP,A)
【文献】特開2010-059346(JP,A)
【文献】特開2002-356519(JP,A)
【文献】特開2010-207115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 29/00-29/18
A61L 27/00-27/60
A61L 31/00-31/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分を含有する第1剤と、下記(B)成分を含有する第2剤とを含有する、2剤式医療機器用コーティング剤。
(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が40/60~10/90である
(B)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が99/1~50/50である
【請求項2】
請求項1に記載の2剤式医療機器用コーティング剤の第1剤と該コーティング剤の第2剤の混合溶液を、基材表面に塗布する、医療機器のコーティング方法であって、該混合溶液中の(A)の含有量は0.01~5質量%であり、(B)の含有量は0.01~5質量%である、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の2剤式医療機器用コーティング剤の第1剤を基材表面に塗布した後に、該コーティング剤の第2剤をさらに該基材表面に塗布する、医療機器のコーティング方法であって、第1剤における(A)の含有量は0.01~5質量%であり、第2剤における(B)の含有量は0.01~1質量%である、方法。
【請求項4】
下記(A)成分を含有する第1剤と、下記(B)成分を含有する第2剤とを基材表面に塗布する、医療機器のコーティング方法。
(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が40/60~10/90である
(B)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が99/1~50/50である
【請求項5】
下記(A)成分を含有する第1剤と、下記(B)成分を含有する第2剤の混合溶液を、基材表面に塗布する、医療機器のコーティング方法。
(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が40/60~10/90である
(B)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が99/1~50/50である
【請求項6】
下記(A)成分を含有する第1剤を基材表面に塗布した後に、下記(B)成分を含有する第2剤をさらに該基材表面に塗布する、医療機器のコーティング方法。
(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が40/60~10/90である
(B)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が99/1~50/50である
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期水濡れ性の高い生体適合性被膜を形成する2剤式医療機器用コーティング剤に関する。より詳しくは、非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体を含有する第1剤と、非イオン性界面活性剤、ポリエチレングリコール、または、水溶性のホスホリルコリン基含有重合体を含有する第2剤とを含有する、2剤式医療機器用コーティング剤に関する。
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2016-184921号優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
細胞膜を構成するリン脂質と同じ極性基を有する2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、MPCと略す場合がある)からなる重合体は、血液適合性に代表される優れた生体親和性を有するために、医療器具の表面処理剤として広く用いられている。具体的には、人工心臓、人工肺、人工血管、コンタクトレンズ等の各種医療機器への表面処理剤に応用されている(非特許文献1)。このような表面処理剤として用いられているホスホリルコリン基含有重合体の多くは、重合体を基材表面に対して物理吸着させることで基材表面を生体親和性表面に改質しており、被膜層の溶出を防ぐために、生体適合性を示す範囲において、共重合組成や分子量が設計されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平3-39309号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】石原一彦,MMJ the Mainichi Medical Journal誌,「医療の森:明日への展望(2):医療用新素材『MPCポリマー』」,2010年,第6巻,第2号,p.68-70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1記載の非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体は、高い生体適合性を有しているものの、水媒体への溶出性を下げるために疎水性モノマーの含有量が多く、さらに分子量も高く設計されている。そのために、前記重合体で形成された被膜は初期水濡れ性が低く、初期水濡れ性が必要とされる分野においては使用されていなかった。
そこで、本発明の課題は、非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体で形成された生体適合性被膜の初期水濡れ性を改善させる2剤式医療機器用コーティング剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体を含有する第1剤と、非イオン性界面活性剤、ポリエチレングリコール、または、水溶性のホスホリルコリン基含有重合体を含有する第2剤とを含有する、2剤式医療機器用コーティング剤が上記の課題を解決することの知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
【0007】
〔1〕下記(A)成分を含有する第1剤と、下記(b1)、(b2)および/または(b3)からなる(B)成分を含有する第2剤とを含有する、2剤式医療機器用コーティング剤。
(A)非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体
(B)(b1)非イオン性界面活性剤、
(b2)ポリエチレングリコール、または
(b3)水溶性のホスホリルコリン基含有重合体
〔2〕(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、(B)成分がモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンである、前項1に記載の2剤式医療機器用コーティング剤。
〔3〕(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、(B)成分がポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である、前項1に記載の2剤式医療機器用コーティング剤。
〔4〕(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、(B)成分がポリエチレングリコールである、前項1に記載の2剤式医療機器用コーティング剤。
〔5〕(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が40/60~10/90であり、(B)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が99/1~50/50である、前項1に記載の2剤式医療機器用コーティング剤。
〔6〕前項1~5のいずれか1に記載の2剤式医療機器用コーティング剤の第1剤と該コーティング剤の第2剤の混合溶液を、基材表面に塗布する、医療機器のコーティング方法であって、該混合溶液中の(A)の含有量は0.01~5質量%であり、(b1)の含有量は0.05~5質量%であり、(b2)の含有量は0.5~5質量%であり、(b3)の含有量は0.01~5質量%である、方法。
〔7〕前項1~5のいずれか1に記載の2剤式医療機器用コーティング剤の第1剤を基材表面に塗布した後に、該コーティング剤の第2剤をさらに該基材表面に塗布する、医療機器のコーティング方法であって、第1剤における(A)の含有量は0.01~5質量%であり、第2剤における(b1)の含有量は0.05~5質量%であり、第2剤における(b2)の含有量は0.5~5質量%であり、第2剤における(b3)の含有量は0.01~1質量%である、方法。
〔8〕前項1~5のいずれか1に記載の2剤式医療機器用コーティング剤または請求項6若しくは7に記載の医療機器のコーティング方法により形成された被膜を含む医療機器。
〔9〕下記(A)成分を含有する第1剤と、下記(b1)、(b2)および/または(b3)からなる(B)成分を含有する第2剤とを基材表面に塗布する、医療機器のコーティング方法。
(A)非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体
(B)(b1)非イオン性界面活性剤、
(b2)ポリエチレングリコール、または
(b3)水溶性のホスホリルコリン基含有重合体
〔10〕(A)成分および(B)成分が、下記(1)~(4)の組み合わせから選択される、前項9に記載の医療機器のコーティング方法。
(1)(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体
(B)成分がモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン
(2)(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体
(B)成分がポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(3)(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体
(B)成分がポリエチレングリコール
(4)(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が40/60~10/90である
(B)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が99/1~50/50である
〔11〕下記(A)成分を含有する第1剤と、下記(b1)、(b2)および/または(b3)からなる(B)成分を含有する第2剤の混合溶液を、基材表面に塗布する、医療機器のコーティング方法。
(A)非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体
(B)(b1)非イオン性界面活性剤、
(b2)ポリエチレングリコール、または
(b3)水溶性のホスホリルコリン基含有重合体
〔12〕(A)成分および(B)成分が、下記(1)~(4)の組み合わせから選択される、前項11に記載の医療機器のコーティング方法。
(1)(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体
(B)成分がモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン
(2)(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体
(B)成分がポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(3)(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体
(B)成分がポリエチレングリコール
(4)(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が40/60~10/90である
(B)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が99/1~50/50である
〔13〕下記(A)成分を含有する第1剤を基材表面に塗布した後に、下記(b1)、(b2)および/または(b3)からなる(B)成分を含有する第2剤をさらに該基材表面に塗布する、医療機器のコーティング方法。
(A)非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体
(B)(b1)非イオン性界面活性剤、
(b2)ポリエチレングリコール、または
(b3)水溶性のホスホリルコリン基含有重合体
〔14〕(A)成分および(B)成分が、下記(1)~(4)の組み合わせから選択される、前項13に記載の医療機器のコーティング方法。
(1)(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体
(B)成分がモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン
(2)(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体
(B)成分がポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(3)(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体
(B)成分がポリエチレングリコール
(4)(A)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が40/60~10/90である
(B)成分がホスホリルコリン構成単位及びメタクリル酸ブチルに基づく構成単位を有する共重合体であり、ここで、ホスホリルコリン構成単位とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有比率が99/1~50/50である
【発明の効果】
【0008】
本発明の2剤式医療機器用コーティング剤および医療機器のコーティング方法は、ホスホリルコリン基含有重合体で形成された初期水濡れ性の高い被膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の2剤式医療機器用コーティング剤は、下記(A)成分を含有する第1剤と、下記(b1)、(b2)および/または(b3)からなる(B)成分を含有する第2剤とを含有する。
〔第1剤〕
((A)成分)
(A)成分は、非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体である。該非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体は、ホスホリルコリン構成単位(1)と、疎水性の(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)とを有する共重合体である。
【0010】
<ホスホリルコリン構成単位(1)>
第1剤における(A)成分の共重合体は、ホスホリルコリン構成単位(1)を共重合体構造中に含む。ホスホリルコリン構成単位(1)は、(A)成分の共重合体の構成中、基材表面に抗血栓性や生体成分の吸着抑制能、親水性などの生体適合性を付与することができる。ホスホリルコリン構成単位(1)は、より具体的には下記の式(1)で表され、式(1')で表される単量体の重合によって得られる。式(1')で表される単量体としては、特に限定されないが、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)が好ましい。
【0011】
【化1】
【0012】
【化2】
上記式(1)および式(1')中、Rは水素原子またはメチル基を示す。
【0013】
<(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)>
第1剤における(A)成分の共重合体は、(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)を共重合体構造中に含む。(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)は、(A)成分の共重合体の構成中、該共重合体の基材表面への密着性を高めることができる。
なお、(A)成分の共重合体中の(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)の含有量、該構成単位(2)の側鎖の炭素数、及び共重合体全体の分子量の3つの観点により、非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体とすることができる。
(A)成分の共重合体中の(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)の含有量(比率)は、60~90モル%であり、好ましくは60~70モル%である。含有量が低すぎると非水溶性ではなくなるが、含有量が高いと生体適合性を十分に付与することができなくなる恐れがある。
(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)及びその側鎖の炭素数は、より具体的には下記の式(2)で表され、式(2')で表される単量体の重合によって得られる。式(2')で表される単量体としては、特に限定されないが、メタクリル酸ブチル(BMA)、メタクリル酸ラウリル(LMA)、メタクリル酸ステアリル(SMA)が好ましく、メタクリル酸ブチルがより好ましい。
【0014】
【化3】
【0015】
【化4】
上記式(2)および式(2')中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数4~18の直鎖状または分岐状のアルキル基のいずれでもよい。
【0016】
炭素数4~18の直鎖状アルキル基としては、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基が挙げられる。
炭素数4~18の分岐状アルキル基としては、t-ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基などが挙げられる。
また、第1剤における(A)成分の共重合体は、(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)のエステル基の構造や各構成単位の組成比に応じて分子量を変化させることができるが、得られる(A)成分の共重合体の非水溶性を考慮すると、40万~200万であり、好ましくは50万~200万である。
【0017】
本発明の非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体は、以下のいずれか(A)、(B)、及び/又は(C)の要件を満たす。
A:(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)の含有量(比率)は、60~90(好ましくは60~70)モル%である。
B:(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)のRは炭素数4~18の直鎖状または分岐状のアルキル基である。
C:共重合体の分子量が、40万~200万(好ましくは50万~200万)である。
例えば、本発明の非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体は、以下を例示することができる。
含有比率(モル比)がMPC/BMA=40/60~10/90、分子量が50万~200万である共重合体。含有比率の別の記載方法として、MPC:BMA=100:150~900である。
含有比率がMPC/LMA=40/60~10/90、分子量が40万~200万である共重合体。含有比率の別の記載方法として、MPC:LMA=100:150~900である。
含有比率がMPC/SMA=40/60~10/90、分子量が40万~200万である共重合体。含有比率の別の記載方法として、MPC:SMA=100:150~900である。
なお、BMAはメタクリル酸ブチル、LMAはメタクリル酸ラウリル、SMAはメタクリル酸ステアリルを表す。
【0018】
第1剤における(A)成分の共重合体は、特開平3-39309号公報の方法に準じて重合を行って得たポリマーを用いることができる。
第1剤を塗布した後に第2剤を塗布する場合、第1剤における(A)成分の共重合体の含有量は、0.01~5質量%、0.01~0.5質量%、0.5~1質量%、1~5質量%であってもよく、好ましくは0.05~1質量%である。(A)成分の共重合体の濃度が低すぎると生体適合性能が十分に発揮されず、高すぎると溶液の粘性が高くなりすぎ取り扱いが困難となる。
【0019】
〔第2剤〕
〔(B)成分〕
(B)成分は、(b1)非イオン性界面活性剤、(b2)ポリエチレングリコール、および/または(b3)水溶性のホスホリルコリン基含有重合体である。これらは単独で使用してもよいし、(b1)、(b2)、(b3)を混合して使用してもよい。
本発明の2剤式医療機器用コーティング剤および本発明の医療機器のコーティング方法は、第2剤が(B)成分を含有することにより、医療機器の表面(基材表面)に初期水濡れ性を付与することができる。
「初期水濡れ性」は、基材表面と水との接触開始から30秒後における接触角の大きさで判断する。該接触角が75°以下であれば、初期水濡れ性を有し、該接触角が75°より大きければ、初期水濡れ性を有しない。医療機器の表面の初期水濡れ性としては、該接触角が75°以下であれば問題ないが、70°以下が好ましく、65°以下がより好ましく、60°以下が特に好ましい。
初期水濡れ性の持続性の観点で、(B)成分としては(b3)が好ましい。
【0020】
〔(b1)成分〕
(b1)成分は、非イオン性界面活性剤である。該非イオン性界面活性剤としては、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート60)、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート(ポリソルベート65)、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン、ポリソルベート80)などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100などのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類等が挙げられる。これらのなかでも好ましくはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が挙げられ、さらに好ましくはモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート80)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が挙げられる。また、これらの非イオン性界面活性剤としては市販のものを用いることができ、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
第1剤を塗布した後に第2剤を塗布する場合、第2剤における非イオン性界面活性剤(b1)の含有量は、0.05~5質量%、0.05~0.5質量%、0.5~1質量%、1~5質量%であってもよく、好ましくは0.1~1質量%である。濃度が低すぎると初期水濡れ性が十分ではなく、高すぎると塗布面の感触が悪くなる。
【0021】
〔(b2)成分〕
(b2)成分は、ポリエチレングリコールである。該ポリエチレングリコールは、置換基や分子量に制限はないが、重量平均分子量が400~20,000、好ましくは2,000~10,000程度のものを使用することができる。分子量が低すぎると常温で液状であるために塗布面の感触が悪く、高すぎると水への溶解性が低くなるために初期水濡れ性が悪くなる。また、これらのポリエチレングリコールは市販のものを用いることができ、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
第1剤を塗布した後に第2剤を塗布する場合、第2剤におけるポリエチレングリコール(b2)の含有量は、0.05~5質量%、0.05~0.5質量%、1~5質量%であってもよく、好ましくは0.5~1質量%である。濃度が低すぎると初期水濡れ性が十分ではなく、高すぎると塗布面の感触が悪くなる。
【0022】
〔(b3)成分〕
(b3)成分は、水溶性のホスホリルコリン基含有重合体である。該水溶性のホスホリルコリン基含有重合体は、前述のホスホリルコリン構成単位(1)を含み、かつ、水溶性の重合体であればよい。
なお、(b3)成分の共重合体中の(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)の含有量、該構成単位(2)の側鎖の炭素数、及び共重合体全体の分子量の3つの観点により、水溶性のホスホリルコリン基含有重合体とすることができる。
(b3)成分の共重合体中の(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)の含有量(比率)は、1~50モル%であり、好ましくは1~20モル%である。含有量を高くすると水溶性の性質の傾向が高くなる。
(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)及びその側鎖の炭素数は、より具体的には下記の式(2)で表され、式(2')で表される単量体の重合によって得られる。
【0023】
【化5】
【0024】
【化6】
上記式(2)および式(2')中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数4~18の直鎖状または分岐状のアルキル基のいずれでもよい。
【0025】
本発明の水溶性のホスホリルコリン基含有重合体は、以下のいずれか(A)、(B)、及び/又は(C)の要件を満たす。
A:(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)の含有量(比率)は1~50(好ましくは1~20)モル%である。
B:(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)のRは炭素数4~18の直鎖状または分岐状のアルキル基である。
C:共重合体の分子量が、5,000~100万(好ましくは5,000~80万)である。
例えば、市販品の2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体液(日油(株)製)が挙げられる。
また、本発明の水溶性のホスホリルコリン基含有重合体は、以下を例示することができる。
含有比率(モル比)がMPC/BMA=99/1~50/50、分子量が5,000~80万である共重合体。含有比率の別の記載方法として、MPC:BMA=100:1~100である。
含有比率がMPC/LMA=99/1~80/20、分子量が5,000~20万である共重合体。含有比率の別の記載方法として、MPC:LMA=100:1~25である。
含有比率がMPC/SMA=99/1~80/20、分子量が5,000~20万である共重合体。含有比率の別の記載方法として、MPC:SMA=100:1~25である。
【0026】
(b3)成分の共重合体は、(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位(2)のエステル基の構造や各構成単位の組成比に応じて分子量を変化させることができるが、得られる(b3)成分の共重合体の水溶性を考慮すると、5,000~100万であり、好ましくは5,000~80万である。
【0027】
第1剤を塗布した後に第2剤を塗布する場合、第2剤における水溶性のホスホリルコリン基含有重合体(b3)の含有量は、0.01~1質量%、0.01~0.5質量%であってもよく、好ましくは0.5~1質量%である。重合体(b3)の濃度が低すぎると初期水濡れ性が十分に付与されず、高すぎると溶液の粘性が高くなりすぎ取り扱いが困難となる。
【0028】
本発明のコーティング剤の第1剤の(A)成分及び第2剤の(B)成分の好ましい組合せは、以下の通りであるが、特に限定されない(MPC-BMAは、MPCおよびBMAによる共重合体を示し、MPC-LMAは、MPCおよびLMAによる共重合体を示し、MPC-SMAは、MPCおよびSMAによる共重合体を示す)。
(A)成分:MPC-BMA(MPC/BMA=40/60~10/90、分子量が50万~200万)、(B)成分:モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン
(A)成分:MPC-BMA(MPC/BMA=40/60~10/90、分子量が50万~200万)、(B)成分:ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(A)成分:MPC-BMA(MPC/BMA=40/60~10/90、分子量が50万~200万)、(B)成分:ポリエチレングリコール
(A)成分:MPC-BMA(MPC/BMA=40/60~10/90、分子量が50万~200万)、(B)成分:MPC-BMA(MPC/BMA=99/1~50/50、分子量が5,000~80万)
(A)成分:MPC-LMA(MPC/LMA=40/60~10/90、分子量が40万~200万)、(B)成分:モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン
(A)成分:MPC-LMA(MPC/LMA=40/60~10/90、分子量が40万~200万)、(B)成分:ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(A)成分:MPC-LMA(MPC/LMA=40/60~10/90、分子量が40万~200万)、(B)成分:ポリエチレングリコール
(A)成分:MPC-LMA(MPC/LMA=40/60~10/90、分子量が40万~200万)、(B)成分:MPC-BMA(MPC/BMA=99/1~50/50、分子量が5,000~80万)
(A)成分:MPC-SMA(MPC/SMA=40/60~10/90、分子量が40万~200万)、(B)成分:モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン
(A)成分:MPC-SMA(MPC/SMA=40/60~10/90、分子量が40万~200万)、(B)成分:ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(A)成分:MPC-SMA(MPC/SMA=40/60~10/90、分子量が40万~200万)、(B)成分:ポリエチレングリコール
(A)成分:MPC-SMA(MPC/SMA=40/60~10/90、分子量が40万~200万)、(B)成分:MPC-BMA(MPC/BMA=99/1~50/50、分子量が5,000~80万)
【0029】
〔溶媒〕
第1剤および第2剤に含まれる溶媒は、各成分が溶解可能であればよく、例えば、水、生理食塩水、各種緩衝液(リン酸緩衝液や炭酸緩衝液など)、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、もしくはこれらを混合したものが挙げられる。ただし、第1剤を塗布後、形成した被膜上に第2剤を塗布する場合、第2剤の溶媒には第1剤が溶出しない溶媒を選択することが好ましい。
【0030】
〔2剤式医療機器用コーティング剤における第1剤と第2剤〕
本発明の2剤式医療機器用コーティング剤は、第1剤と第2剤とを混合して塗布する場合、混合後に(混合溶液作成後に)前記の第1剤(A)成分を0.01~5質量%、0.01~0.5質量%、0.5~1質量%、1~5質量%含有してもよく、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.01~1質量%含有する。
また、本発明の2剤式医療機器用コーティング剤の第1剤と第2剤とを混合して塗布する場合、混合溶液中の非イオン性界面活性剤(b1)の含有量は、0.05~5質量%、0.05~0.5質量%、0.5~1質量%、1~5質量%であってもよく、好ましくは1~5質量%である。また、混合溶液中のポリエチレングリコール(b2)の含有量は、0.05~5質量%、0.05~0.5質量%、1~5質量%であってもよく、好ましくは0.5~1質量%である。また、混合溶液中の水溶性のホスホリルコリン基含有重合体(b3)の含有量は、0.01~5質量%、0.01~1質量%、0.01~0.5質量%、0.5~1質量%、1~5質量%であってもよく、好ましくは0.5~5質量%である。
また、第1剤と第2剤とを混合して塗布する場合、第1剤および第2剤の(A)成分及び(B)成分を、それぞれ前述の好ましい濃度範囲よりも高濃度で調製し、第1剤および第2剤の混合時にさらに溶媒を加えて、前述の濃度の好ましい濃度範囲内となるように調製してもよい。例えば、第1剤(A)成分を5~50質量%、5~20質量%で調製してもよく、(B)成分として(b1)の含有量を5~50質量%、10~30質量%で調製してもよく、(B)成分として(b2)の含有量を5~50質量%、5~20質量%で調製してもよく、(B)成分として(b3)の含有量を、5~50質量%、5~20質量%で調製してもよい。
さらに、本発明の2剤式医療機器用コーティング剤は、第1剤と第2剤とを混合して塗布する場合も、第1剤を塗布した後に、第2剤を塗布する場合も、第1剤(A)成分と第2剤(B)成分の量比は、質量基準で、(A):(B)=1:0.002~1:500、1:0.02~1、1:1~10、1:10~500でもよく、好ましくは(A):(B)=1:0.02~1:500である。別の記載方法として、(A):(B)=100:0.2~50000、100:2~100、100:100~1000、100:1000~50000でもよく、好ましくは(A):(B)=100:2~50000である。
【0031】
〔本発明のコーティング方法〕
本発明は、下記(A)成分を含有する第1剤と、下記(b1)、(b2)および/または(b3)からなる(B)成分を含有する第2剤とを基材表面に塗布する、医療機器のコーティング方法も対象とする。
(A)非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体
(B)(b1)非イオン性界面活性剤、
(b2)ポリエチレングリコール、または
(b3)水溶性のホスホリルコリン基含有重合体
本明細書中、「塗布」とは、本発明の2剤式医療機器用コーティング剤が、医療機器表面にコーティングされる処理全てを含むものであり、例えば、「浸漬」や「噴霧」による表面処理も含まれる。
【0032】
本発明は、下記(A)成分を含有する第1剤と、下記(b1)、(b2)および/または(b3)からなる(B)成分を含有する第2剤の混合溶液を、基材表面に塗布する、医療機器のコーティング方法も対象とする。
(A)非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体
(B)(b1)非イオン性界面活性剤、
(b2)ポリエチレングリコール、または
(b3)水溶性のホスホリルコリン基含有重合体
以下、本方法をより詳しく説明する。
【0033】
〔第1剤と第2剤とを混合して塗布するコーティング方法〕
(1)第1剤及び第2剤を溶媒と混合し、混合溶液(本発明のコーティング剤、処理溶液と称する場合がある)を調製する。溶媒としては、第1剤および第2剤の各成分が溶解可能なものであればよく、例えば、水、生理食塩水、各種緩衝液(リン酸緩衝液や炭酸緩衝液など)、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、もしくはこれらを混合したものが挙げられる。
(2)(1)で調製した混合溶液を、被膜を形成する対象である医療機器に塗布する。塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、浸漬する場合、医療機器を1秒~2時間、好ましくは5秒~30分、より好ましくは10秒~2分、さらに好ましくは20秒~1分浸漬する。
(3)医療機器表面の余分な溶媒を除去する。溶媒を除去する方法は、特に限定されず、医療機器の用途に応じて許容される方法により行うことができる。例えば、医療機器を軽く振ってもよく、室温で静置してもよく、乾燥機を用いてもよい。乾燥機を用いる場合は、例えば20℃~70℃で1分~24時間乾燥してもよい。
【0034】
本発明は、下記(A)成分を含有する第1剤を基材表面に塗布した後に、下記(b1)、(b2)および/または(b3)からなる(B)成分を含有する第2剤をさらに該基材表面に塗布する、医療機器のコーティング方法も対象とする。
(A)非水溶性のホスホリルコリン基含有重合体
(B)(b1)非イオン性界面活性剤、
(b2)ポリエチレングリコール、または
(b3)水溶性のホスホリルコリン基含有重合体
以下、本方法をより詳しく説明する。
【0035】
〔第1剤塗布後に第2剤を塗布するコーティング方法〕
(1)第1剤を、被膜を形成する対象である医療機器に塗布する。塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、浸漬する場合、医療機器を1秒~2時間、好ましくは5秒~30分、より好ましくは10秒~2分、さらに好ましくは20秒~1分浸漬する。
(2)医療機器表面の余分な溶媒を除去する。溶媒を除去する方法は、特に限定されず、医療機器の用途に応じて許容される方法により行うことができる。例えば、医療機器を軽く振ってもよく、室温で静置してもよく、乾燥機を用いてもよい。乾燥機を用いる場合は、例えば20℃~70℃で1分~24時間乾燥してもよい。
(3)第2剤を、被膜を形成する対象である医療機器に塗布する。塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、浸漬する場合、医療機器を1秒~2時間、好ましくは5秒~30分、より好ましくは10秒~2分、さらに好ましくは20秒~1分浸漬する。
(4)(2)と同様に、医療機器表面の余分な溶媒を除去する。
【0036】
ここで用いられる基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ナイロン、シリコーン、セルロース、酢酸セルロース、ポリスルホン、フッ素樹脂などの各種プラスチック素材がよい。
プラスチック素材の他には、金属材料としては、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS420J2、SUS630などの各種ステンレス、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、綴、アルミニウム、スズ、あるいはニッケル-チタン合金、ニッケル-コバルト合金、コバルト-クロム合金、亜鉛-タングステン合金等の各種合金などが挙げられる。
さらに、これら基材の形状は、その使用目的に応じた形状を有する。例えば、板状、シャーレ状、チューブ状、多数の穴を持つ形状、精密な流路が形成された形状といった形状を持つ。
本発明の2剤式医療機器用コーティング剤を用いることができる医療機器としては、特に限定されないが、体液や血液が接触する医療機器が含まれ、例えば、人工心臓、人工肺、人工血管、コンタクトレンズ、眼内レンズ、ガイドワイヤー、カテーテル等が挙げられる。
本発明のコーティング剤を表面にコーティングする方法については、スピンコート法、スプレーコート法、キャストコート法、ディップコート法、ロールコート法、フローコート法などを用いることが可能である。本発明においては、ディップコート法やキャストコート法が好ましい。
【実施例
【0037】
以下、実施例に基づき本発明をより詳細に説明する。なお、合成例における重量平均分子量の測定は、以下に示す方法に従って実施した。
<重量平均分子量の測定>
得られた共重合体1mgを、0.5質量%臭化リチウムを含むクロロホルム/メタノール(6/4(体積比))混合溶媒1gに溶解し、GPCにより重量平均分子量を測定した。測定条件は以下の通りである。
【0038】
カラム:PLgel 5μm MIXED-C(アジレント・テクノロジー製)×2直列、移動相:0.5質量%臭化リチウムを含むクロロホルム/メタノール(6/4(体積比))混合溶媒、標準物質:ポリメチルメタクリレート(PMMA)(アジレント・テクノロジー製)、検出:示差屈折計、重量平均分子量(M)の算出:分子量計プログラム(SC-8020用GPCプログラム)、流速:1.0mL/分、カラム温度:40℃、試料溶液注入量:100μL、測定時間:30分間
【0039】
〔合成例1〕
<(A)成分の共重合体の合成>
MPC 23.5g(0.080mol)、メタクリル酸ブチル(BMA)26.5g(0.186mol)(MPC/BMA=3/7(モル比))をエタノール75gに溶解し、温度計、攪拌機および還流冷却管を付けた200mLの4ツ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、55℃でアゾビスイソブチロニトリル0.41gを加えて24時間反応させた。H-NMRにおける各単量体の二重結合のピークの消失から、各単量体の定量的な反応を確認した。反応後、ジエチルエーテルを用いて沈殿精製し、(A)成分の共重合体の白色粉末を得た。得られた(A)成分の共重合体の重量平均分子量は、500,000であった。
【0040】
〔実施例1〕
<第1剤と第2剤とを混合して塗布した初期水濡れ性の評価>
(基板プレート)
縦10mm、横150mm、厚さ2mmからなるPET基板を準備し、エタノールに浸漬して30分間超音波洗浄し、乾燥したものを基板プレートとした。
(第1剤の調製)
合成例1で得られた共重合体をエタノールに10.0質量%となるように溶解した。これを、第1剤とした。
(第2剤の調製)
第2剤-ア(b1)
モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(日油(株)製「ポリソルベート80」、)を水に20.0質量%となるように溶解した。これを、第2剤-アとした。
第2剤-イ(b1)
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(日油(株)製「ユニオックスHC-60」、重量平均分子量3,570)を水に20.0質量%となるように溶解した。これを、第2剤-イとした。
第2剤-ウ(b2)
ポリエチレングリコール(日油(株)製「マクロゴール4000」、重量平均分子量3,200)を水に10.0質量%となるように溶解した。これを、第2剤-ウとした。
第2剤-エ(b3)
市販品の2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体液(日油(株)製「Lipidure-PMB」、共重合体濃度5.0質量%、MPC/BMA=8/2(モル比)、重量平均分子量600,000)を、第2剤-エとした。
その他-オ
グリセリンを水に20.0質量%となるように溶解した。これを、その他-オとした。
【0041】
<実施例1-1-1>
第1剤の5.000g、第2剤-アの2.500g、水2.500gを混合し、処理溶液(本発明のコーティング剤)を調製した。調製した溶液に基板プレートを30秒浸漬し、軽く振って余剰の重合物溶液(処理溶液)を除去後、50℃の乾燥機で10時間乾燥させた。乾燥後、液滴法により30秒後の接触角(大きいほど初期水濡れ性が高い)を、動的接触角測定器(協和界面科学社、製品名:DropMaster500)を用いて測定した。
<実施例1-1-2>
第1剤の1.000g、第2剤-アの2.500g、エタノール4.000g、水2.500gを混合した溶液を用いた以外、実施例1-1-1と同様の方法で実験を行った。
<実施例1-1-3>
第1剤の0.500g、第2剤-アの2.500g、エタノール4.500g、水2.500gを混合した溶液を用いた以外、実施例1-1-1と同様の方法で実験を行った。
<実施例1-1-4>
第1剤の0.050g、第2剤-アの2.500g、エタノール4.950g、水2.500gを混合した溶液を用いた以外、実施例1-1-1と同様の方法で実験を行った。
<実施例1-1-5>
第1剤の0.010、第2剤-アの2.500g、エタノール4.990g、水2.500gを混合した溶液を用いた以外、実施例1-1-1と同様の方法で実験を行った。
<実施例1-1-6>
第1剤の0.500g、第2剤-アの0.500g、エタノール4.500g、水4.500gを混合した溶液を用いた以外、実施例1-1-1と同様の方法で実験を行った。
【0042】
<実施例1-2-1~1-4-2>
第1剤と第2剤-イ~エを用い、処理溶液の添加物濃度が、それぞれ、(A)/(B)(質量%/質量%)が、表1に記載の比率となるように調製した溶液を用いて、実施例1-1-1と同様の方法で実験を行った。
<比較例1-1>
第1剤の0.50g、エタノールの9.50gを混合して、処理溶液を調製し、実施例1-1-1と同様の実験を行った。
<比較例1-2>
第1剤の0.50g、エタノールの4.50g、水5.00gを混合して、処理溶液を調製し、実施例1-1-1と同様の実験を行った。
<比較例1-3>
第1剤 0.50g、その他-オの0.50g、エタノール4.50g、水4.50gを混合して、処理溶液を調製し、実施例1-1-1と同様の実験を行った。
【0043】
【表1】
【0044】
表1から明らかなように、実施例1-1~1-4では、本発明に用いる医療機器用コーティング剤でPET基板を処理することにより、比較例1-1(エタノールで希釈した第1剤のみを用いてコーティングした基材)、1-2(エタノールおよび水で希釈した第1剤のみを用いてコーティングした基材)、1-3(第2剤の代わりにグリセリン溶液を用いてコーティングした基材)と比較して、接触角は小さくなったことから、本発明のコーティング剤に係る第1剤と第2剤とを混合してコーティングしたことにより、生体親和性被膜の初期水濡れ性が改善(向上)されたことが確認された。
【0045】
〔実施例2〕
<第1剤塗布後に第2剤を塗布した初期水濡れ性の評価>
(第1剤の調製)
合成例1で得られた共重合体をエタノールに0.5質量%となるように溶解した。これを、第1剤とした。
(第2剤の調製)
第2剤-ア(b1)
ポリソルベート80(日油(株)製)を水に5.00質量%、1.00質量%、0.50質量%、0.05質量%となるように溶解した。これを、第2剤-アとした。
第2剤-イ(b1)
ユニオックスHC-60(日油(株)製)を水に5.00質量%、1.00質量%、0.50質量%、0.05質量%となるように溶解した。これを、第2剤-イとした。
第2剤-エ(b3)
市販品の2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体液(日油(株)製「Lipidure-PMB」、共重合体濃度5.0質量%、MPC/BMA=8/2(モル比)、重量平均分子量600,000)を1.00質量%、0.50質量%、0.10質量%、0.01質量%となるように水で希釈し、第2剤-エとした。
その他-オ
グリセリンを水に1.00質量%となるように溶解した。これを、その他-オとした。
【0046】
<実施例2-1-1>
第1剤に基板プレートを30秒浸漬し、軽く振って余剰の重合物溶液を除去後、50℃の乾燥機で10時間乾燥させ、基板表面に1層目の被膜を形成させた。さらに、第2剤-ア 5.00質量%水溶液に30秒浸漬し、軽く振って余剰の重合物溶液を除去後、50℃乾燥機で10時間乾燥させ、第1層上に第2層目の被膜を形成させた。液滴法により30秒後の接触角を測定した。
<実施例2-1-2>
第2剤に第2剤-アの1.00質量%水溶液を用いた以外、実施例2-1-1と同様の方法で実験を行った。
<実施例2-1-3>
第2剤に第2剤-アの0.50質量%水溶液を用いた以外、実施例2-1-1と同様の方法で実験を行った。
<実施例2-1-4>
第2剤に第2剤-アの0.05質量%水溶液を用いた以外、実施例2-1-1と同様の方法で実験を行った。
<実施例2-2-1~2-3-4>
第2剤に第2剤-イ~エの表2に記載の濃度の水溶液を用いた以外、実施例2-1-1と同様の方法で実験を行った。
【0047】
<比較例2-1>
第1剤に基板プレートを30秒浸漬し、軽く振って余剰の重合物溶液を除去後、50℃の乾燥機で10時間乾燥させ、液滴法により30秒後の接触角を測定した。
<比較例2-2>
第1剤に基板プレートを30秒浸漬し、軽く振って余剰の重合物溶液を除去後、50℃の乾燥機で10時間乾燥させ、基板表面に1層目の被膜を形成させた。さらに、水に30秒浸漬し、軽く振って余剰の重合物溶液を除去後、50℃乾燥機で10時間乾燥させ、液滴法により30秒後の接触角を測定した。
<比較例2-3>
第1剤に基板プレートを30秒浸漬し、軽く振って余剰の重合物溶液を除去後、50℃の乾燥機で10時間乾燥させ、基板表面に1層目の被膜を形成させた。さらに、その他-オ 1.00質量%水溶液に30秒浸漬し、軽く振って余剰の重合物溶液を除去後、50℃乾燥機で10時間乾燥させ、液滴法により30秒後の接触角を測定した。
【0048】
【表2】
【0049】
表2から明らかなように、実施例2-1~2-3では、本発明に用いる医療機器用コーティング剤でPET基板を処理することにより、比較例2-1(第1剤のみを用いてコーティングした基材)、2-2(第1剤でコーティング後、第2剤の代わりに水に浸漬した基材)、2-3(第1剤でコーティング後、第2剤の代わりにグリセリン溶液を用いてコーティングした基材)と比較して、接触角は小さくなったことから、本発明のコーティング剤に係る第1剤を基材表面に塗布し、形成した被膜上に、第2剤を塗布してコーティングしたことにより、生体親和性被膜の初期水濡れ性が改善されたことが確認された。
【0050】
〔実施例3〕
<初期水濡れ性の持続性評価>
<実施例3-1-1>
実施例2-2-1と同様の方法にて第1層上に第2層目の被膜を形成させたPET基板を純水中に10秒間浸漬した。軽く振って、余分な溶媒を除去した後に、50℃で10時間乾燥させた。その後、液適法により30秒後の接触角を測定した。
<実施例3-2-1>
実施例1-4-2と同様の方法にて第1剤及び第2剤を混合した処理溶液で処理したPET基板を純水中に10秒間浸漬した。軽く振って、余分な溶媒を除去した後に、50℃で10時間乾燥させた。その後、液適法により30秒後の接触角を測定した。
<実施例3-2-2>
実施例2-3-1と同様の方法にて第1層上に第2層目の被膜を形成させたPET基板を純水中に10秒間浸漬した。軽く振って、余分な溶媒を除去した後に、50℃で10時間乾燥させた。その後、液適法により30秒後の接触角を測定した。
<実施例3-2-3>
実施例2-3-4と同様の方法にて第1層上に第2層目の被膜を形成させたPET基板を純水中に10秒間浸漬した。軽く振って、余分な溶媒を除去した後に、50℃で10時間乾燥させた。その後、液適法により30秒後の接触角を測定した。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
表3及び表4から明らかなように、実施例3-1-1から実施例3-2-3では、本発明に用いる医療機器用コーティング剤でPET基板を処理することにより、比較例2-1(第1剤のみを用いてコーティングした基材)及び比較例2-2(第1剤のみを用いてコーティングした後に水で洗浄した基材)と比較して、接触角は小さくなった。従って、純水での洗浄後もその性能を維持していた。
よって、本発明のコーティング剤に係る第1剤と第2剤とを混合して塗布した後に洗浄を行っても、第1剤を基材表面に塗布し、形成した被膜上に、第2剤を塗布してコーティングした後に洗浄を行っても、生体親和性被膜の初期水濡れ性が維持されたことが確認された。
【0054】
これらの結果より、本発明の2剤式医療機器用コーティング剤は、初期水濡れ性が改善された生体適合性被膜を形成できることが確認され、初期水濡れ性が必要とされる医療機器へのコーティング剤として使用可能であることが確認された。また、本発明の医療機器のコーティング方法は、医療機器に初期水濡れ性の高い生体親和性被膜を付与できることが確認された。さらに、本発明の2剤式医療機器用コーティング剤及び医療機器のコーティング方法により付与される生体親和性被膜は、初期水濡れ性の持続性が高いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
初期水濡れ性の高い生体適合性被膜を形成する2剤式医療機器用コーティング剤を提供する。