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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】透明導電体、調光体及び透明発熱体
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20220216BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20220216BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20220216BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
H01B5/14 A
B32B7/025
B32B9/00 A
G02F1/13 505
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020503500
(86)(22)【出願日】2019-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2019007125
(87)【国際公開番号】W WO2019167900
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2018035095
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】三島 康児
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 吉徳
(72)【発明者】
【氏名】原田 ▲祥▼平
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/109369(WO,A1)
【文献】特開2016-079052(JP,A)
【文献】特開2016-081318(JP,A)
【文献】特開2017-092033(JP,A)
【文献】特開2016-012555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/14
B32B 7/025
B32B 9/00
G02F 1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、第1誘電層と、主成分として銀又は銀合金を含む金属層と、第2誘電層と、をこの順に備え、
前記第1誘電層と前記金属層との間、及び、前記金属層と前記第2誘電層との間、の一方又は双方に光吸収層を備え
前記第1誘電層が、主成分として、酸化亜鉛、酸化インジウム及び酸化チタンを含み、
前記第2誘電層が、主成分として、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化チタン及び酸化スズを含み、
前記光吸収層の厚さが12~22nmである透明導電体。
【請求項2】
前記第1誘電層と前記金属層との間にのみ前記光吸収層を備える、請求項1に記載の透明導電体。
【請求項3】
前記光吸収層が、構成元素として、Ni、Cr、Cu及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一つを有する合金を含む、請求項1又は2に記載の透明導電体。
【請求項4】
前記透明基材と前記第1誘電層との間に高屈折率層、及び、前記第2誘電層の前記金属層側とは反対側に導電層、の一方又は双方を更に備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の透明導電体。
【請求項5】
調光体用又は透明発熱体用である、請求項1~のいずれか一項に記載の透明導電体。
【請求項6】
一対の透明導電体と、その間に調光層と、を備え、
前記一対の透明導電体の少なくとも一方は、請求項1~のいずれか一項に記載の透明導電体である、調光体。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の透明導電体を備える透明発熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、透明導電体、調光体及び透明発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電体は、その特性を利用して種々の用途に用いられている。例えば、透明導電体を備える調光体は、液晶分子の配向を制御することによって、光の透過率を調節することができる。このような透明導電体は、調光用として建築物及び自動車の窓ガラス等に応用することが検討されている。透明導電体を調光用に応用することによって、断熱による省エネルギー効果を発揮することが期待されている。特許文献1では、赤外線遮断効果を向上する技術として、ニッケル系薄膜層を含む電極基材板を用いることが提案されている。
【0003】
透明導電体は、発熱体に用いることも検討されている。特許文献2では、ITOを主材料とする透明導電膜を、透明発熱体として用いることが提案されている。透明発熱体は、冬場において道路表示灯、屋外表示装置、屋外照明装置、車両窓等の融雪、結露防止及び曇り止め等に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/141614号
【文献】特開2014-7100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
透明導電体は、その用途に応じて、反射率及び透過率を適切な範囲に調節可能であることが求められる。例えば、車両等の乗り物及び建築物に用いられる場合、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の透過率と反射率を低くすることが求められる。ここで、銀又は銀を含む金属層を備える透明導電体は、金属層の厚みを大きくすると可視光の透過率を低減できる一方で、反射率が高くなり、ハーフミラーになってしまうという事情があった。また、透過率を調節する方法として、可視光を吸収する材料を含む樹脂層を別途設けることが考えられるものの、この場合、材料の添加量を変えて可視光の透過率を所望の範囲に調節することが容易ではない。
【0006】
そこで、本開示は、一つの側面において、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の透過率と反射率を低減することが可能な透明導電体を提供することを目的とする。本開示では、別の側面において、可視光の透過率と反射率が低減された透明導電体を備える調光体を提供することを目的とする。本開示は、さらに別の側面において、可視光の透過率と反射率が低減された透明導電体を備える透明発熱体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一つの側面において、透明基材と、第1誘電層と、主成分として銀又は銀合金を含む金属層と、第2誘電層と、をこの順に備え、第1誘電層と金属層との間、及び、金属層と第2誘電層との間、の一方又は双方に光吸収層を備える透明導電体を提供する。このような積層体は、所定の位置に赤吸収層を備えるため、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の透過率と反射率の両方を低減することができる。
【0008】
上記透明導電体における光吸収層は、構成元素として、Ni、Cr、Cu及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一つを有する合金を含んでもよい。これによって、高温度及び高湿度の環境下における保存安定性を向上することができる。
【0009】
上記透明導電体は、透明基材と第1誘電層との間に高屈折率層、及び、第2誘電層の金属層側とは反対側に導電層、の一方又は双方を更に備えてもよい。高屈折率層を備えることによって、透明基材との密着性の向上と可視光の反射率を一層低減することができる。導電層を備えることによって、電極を接続したときの接触抵抗を十分に低減することができる。
【0010】
上述の透明導電体は、調光体用又は透明発熱体用であってもよい。上述の透明導電体は、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の透過率と反射率を低減することが可能であるため、例えば、車両等の乗り物及び建築物の窓等に貼り付けられる調光体又は透明発熱体の用途に好適に用いることができる。
【0011】
本開示は、別の側面において、一対の透明導電体と、その間に調光層と、を備え、一対の透明導電体の少なくとも一方は、上述のいずれかの透明導電体である調光体を提供する。この調光体は、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の透過率と反射率の両方を低減でき、また可視光の透過率と反射率の調節が容易である透明導電体を備える。このため、種々の用途に適用することができる。
【0012】
本開示は、さらに別の側面において、上述の透明導電体を備える透明発熱体を提供する。この透明発熱体は、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の透過率と反射率の両方を低減でき、また可視光の透過率と反射率の調節が容易である透明導電体を備えるため、種々の用途に適用することができる。
【発明の効果】
【0013】
一つの側面において、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の透過率と反射率を低減することが可能な透明導電体を提供することができる。別の側面において、可視光の透過率と反射率が低減された透明導電体を備える調光体を提供することができる。さらに別の側面において、可視光の透過率と反射率が低減された透明導電体を備える透明発熱体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、一実施形態に係る透明導電体の模式断面図である。
図2図2は、別の実施形態に係る透明導電体の模式断面図である。
図3図3は、さらに別の実施形態に係る透明導電体の模式断面図である。
図4図4は、さらに別の実施形態に係る透明導電体の模式断面図である。
図5図5は、一実施形態に係る調光体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、場合により図面を参照して、本発明の実施形態を以下に説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一構造又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0016】
図1は、本実施形態に係る透明導電体の模式断面図である。図1の透明導電体100は、透明基材10、第1誘電層21、主成分として銀又は銀合金を含む金属層22、光吸収層23、及び第2誘電層24をこの順で備える。
【0017】
透明基材10としては、可撓性を有する有機樹脂フィルムであってもよい。有機樹脂フィルムは有機樹脂シートであってもよい。有機樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリルフィルム、ノルボルネンフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリエーテルスルフォンフィルム、ジアセチルセルロースフィルム、並びにトリアセチルセルロースフィルム等が挙げられる。これらのうち、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルムが好ましい。上述の1種を単独で、又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0018】
透明基材10は、剛性の観点からは厚い方が好ましい。一方、透明基材10は、透明導電体100を薄膜化する観点からは薄い方が好ましい。このような観点から、透明基材10の厚みは、例えば10~200μmである。
【0019】
透明基材10は、有機樹脂製のものに限定されず、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、及び、石英ガラス等の無機化合物の成形物であってもよい。
【0020】
本開示における「透明」とは、可視光が透過することを意味しており、光をある程度散乱してもよい。一般に半透明といわれるような光の散乱があるものも、本開示における「透明」の概念に含まれる。450~650nmの波長範囲における透明基材10の可視光の透過率は、例えば80%以上であり、好ましくは90%以上である。
【0021】
第1誘電層21及び第2誘電層24の一方又は双方は、例えば、金属酸化物を含む層であってもよく、金属酸化物層であってもよい。
【0022】
第1誘電層21は、例えば、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム及び酸化チタンの4成分、又は、酸化亜鉛、酸化インジウム及び酸化チタンの3成分を、主成分として含有することが好ましい。第1誘電層21は上記4成分を含むことによって、十分に高い導電性と透明性を兼ね備えた第1誘電層21とすることができる。酸化亜鉛は例えばZnOであり、酸化インジウムは例えばInである。酸化チタンは例えばTiOであり、酸化スズは、例えばSnOである。上記各金属酸化物における金属原子と酸素原子の比は、化学量論比からずれていてもよい。
【0023】
本開示における「主成分」とは、全体に対する比率が80質量%以上であることを意味する。第1誘電層21は、第2誘電層24よりも抵抗が高くてもよい。したがって、第1誘電層21の酸化スズの含有量は第2誘電層24よりも少なくてもよく、酸化スズを含んでいなくてもよい。
【0024】
第1誘電層21が酸化亜鉛、酸化インジウム及び酸化チタンの3成分を含む場合、上記3成分をそれぞれZnO、In及びTiOに換算したときに、上記3成分の合計に対するZnOの含有量は、上記3成分の中で最も多いことが好ましい。上記3成分の合計に対するZnOの含有量は、第1誘電層21の光吸収率を抑制する観点から、例えば45mol%以上である。第1誘電層21において、上記3成分の合計に対するZnOの含有量は、高温高湿度の環境下における保存安定性を十分に高くする観点から、例えば85mol%以下である。
【0025】
第1誘電層21において、上記3成分の合計に対するInの含有量は、第1誘電層21の光吸収率を抑制する観点から、例えば35mol%以下である。第1誘電層21において、上記3成分の合計に対するInの含有量は、高温高湿度の環境下における保存安定性を十分に高くする観点から、例えば10mol%以上である。
【0026】
第1誘電層21において、上記3成分の合計に対するTiOの含有量は、第1誘電層21の光吸収率を抑制する観点から、例えば20mol%以下である。第1誘電層21において、上記3成分の合計に対するTiOの含有量は、高温高湿度の環境下における保存安定性を十分に高くする観点から、例えば5mol%以上である。なお、上記3成分のそれぞれの含有量は、酸化亜鉛、酸化インジウム及び酸化チタンを、それぞれ、ZnO、In及びTiOに換算して求められる値である。
【0027】
第2誘電層24は、例えば、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化チタン及び酸化スズの4成分を、主成分として含有する。第2誘電層24は、主成分として上記4成分を含むことによって、導電性と高い透明性を兼ね備えることができる。酸化亜鉛は例えばZnOであり、酸化インジウムは例えばInである。酸化チタンは例えばTiOであり、酸化スズは、例えばSnOである。上記各金属酸化物における金属原子と酸素原子の比は、化学量論比からずれていてもよい。
【0028】
第2誘電層24において、上記4成分の合計に対する酸化亜鉛の含有量は、高い透明性を維持しつつ導電性を十分に高くする観点から、例えば20mol%以上である。第2誘電層24において、上記4成分の合計に対する酸化亜鉛の含有量は、高温高湿度の環境下における保存安定性を十分に高くする観点から、例えば68mol%以下である。
【0029】
第2誘電層24において、上記4成分の合計に対する酸化インジウムの含有量は、表面抵抗を十分に低くしつつ透過率を適切な範囲とする観点から、例えば35mol%以下である。第2誘電層24において、上記4成分の合計に対する酸化インジウムの含有量は、高温高湿度の環境下における保存安定性を十分に高くする観点から、例えば15mol%以上である。
【0030】
第2誘電層24において、上記4成分の合計に対する酸化チタンの含有量は、可視光の透過率を確保する観点から、例えば20mol%以下である。第2誘電層24において、上記4成分の合計に対する酸化チタンの含有量は、アルカリ耐性を十分に高くする観点から、例えば5mol%以上である。
【0031】
第2誘電層24において、上記4成分の合計に対する酸化スズの含有量は、高い透明性を確保する観点から、例えば40mol%以下である。第2誘電層24において、上記4成分の合計に対する酸化スズの含有量は、高温高湿度の環境下における保存安定性を十分に高くする観点から、例えば5mol%以上である。なお、上記4成分のそれぞれの含有量は、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化チタン及び酸化スズを、それぞれ、ZnO、In、TiO及びSnOに換算して求められる値である。
【0032】
第1誘電層21及び第2誘電層24は、光学特性の調整、金属層22の保護、及び導電性の確保といった機能を兼ね備える。第1誘電層21及び第2誘電層24は、その機能を大きく損なわない範囲で、上述の成分の他に、微量成分又は不可避的成分を含んでいてもよい。ただし、十分に高い特性を有する透明導電体100とする観点から、第1誘電層21における上記3成分の割合、及び第2誘電層24における上記4成分の合計の割合は高い方が好ましい。その割合は、双方ともに、例えば95質量%以上であり、好ましくは97質量%以上である。第1誘電層21は上記3成分からなるものであってもよい。第2誘電層24は上記4成分からなるものであってもよい。
【0033】
第1誘電層21の組成は、第2誘電層24の組成と同じでもよく、異なってもよい。第1誘電層21と第2誘電層24が同一の組成であれば、製造プロセスを簡素化することができる。第1誘電層21は、第2誘電層24と同様に酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化チタン及び酸化スズの4成分を、主成分として含有する層であってもよい。この場合、第1誘電層21における4成分の合計に対する各金属酸化物の具体的な割合は、第2誘電層24と同じであってよい。
【0034】
第2誘電層24が上記4成分を主成分として含有する層であるのに対し、第1誘電層21は、酸化亜鉛、酸化インジウム、及び酸化チタンの3成分を主成分として含有する層であってもよい。これによって、透明性を高く維持しつつ製造コストを低減することができる。この場合、第1誘電層21は、第2誘電層24よりも導電性が低くなるものの、第2誘電層24によって導電性を確保することが可能なため特に支障はない。
【0035】
第1誘電層21及び第2誘電層24の厚みは、高い透明性と導電性を高水準で両立させる観点から、例えば3~70nmであり、好ましくは5~50nmである。第1誘電層21と第2誘電層24の厚みは同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。例えば、第1誘電層21と第2誘電層24の厚みを個別に調整することによって、透過色の色調変化を抑制したり、金属層22で生じる反射光を透過光に変換するための光干渉効果を有効に活用したりすることができる。
【0036】
第1誘電層21及び第2誘電層24は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、又はCVD法などの真空成膜法によって作製することができる。これらのうち、成膜室を小型化できる点、及び、成膜速度が速い点で、スパッタリング法が好ましい。スパッタリング法としては、DCマグネトロンスパッタリングが挙げられる。ターゲットとしては、酸化物ターゲット、金属又は半金属ターゲットを用いることができる。
【0037】
金属層22は、主成分として銀又は銀合金を含む。金属層22における銀及び銀合金の合計含有量は、銀元素換算で例えば90質量%以上であってよく、95質量%以上であってもよい。金属層22は、銀及び銀合金以外の金属(合金)を含んでいてもよい。例えば、金属又は合金として、Cu、Nd、Pt、Pd、Bi、Sn及びSbからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を銀合金の構成元素又は金属単体として含有することによって、金属層22の耐環境性を向上することができる。銀合金の例としては、Ag-Pd、Ag-Cu、Ag-Pd-Cu、Ag-Nd-Cu、Ag-In-Sn、及びAg-Sn-Sbが挙げられる。
【0038】
金属層22の厚みは、赤外線の透過率を十分に低くしつつ可視光の透過率を適度な範囲にする観点から、例えば1~15nmであり、好ましくは5~12.5nmであり、より好ましくは7.5~12.5nmである。
【0039】
金属層22は、例えばDCマグネトロンスパッタを用いて形成することができる。金属層22の成膜方法は特に限定されず、プラズマ又はイオンビーム等を用いたその他の真空成膜法、或いは構成成分を適当なバインダーに分散した液体を用いたコーティング法等を適宜選択することができる。
【0040】
光吸収層23は、金属層22と第2誘電層24との間に配置されることによって、可視光を吸収して、可視光の反射率と透過率を低減する機能を有する層であり、例えば、金属又は合金を含有する。光吸収層23は、高温高湿度下における保存安定性向上の観点から、好ましくは、構成元素としてNi,Cr,Cu及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一つを有する合金を含有する。具体的には、Ni-Cr、Cu-Ti及びNi-Cu等が挙げられる。Ni-Crの場合、NiとCrの質量比率は、例えばNi:Cr=40~90:60~10であってもよい。Cu-Tiの場合、CuとTiの質量比率は、例えばCu:Ti=40~90:60~10であってもよい。Ni-Cuの場合、NiとCuの質量比率は、例えばNi:Cu=40~90:60~10であってもよい。
【0041】
光吸収層23の厚みは、可視光の反射率と透過率の両方をバランスよく低減する観点から、例えば1~25nmであり、好ましくは2~22nmである。光吸収層23の可視光(450~650nm)の吸収率は、例えば20%以上であってもよく、30~50%であってもよい。これによって、可視光の反射率と透過率を十分に低減することができる。
【0042】
光吸収層23は、例えばDCマグネトロンスパッタを用いて形成することができる。光吸収層23の成膜方法は特に限定されず、プラズマ又はイオンビーム等を用いたその他の真空成膜法、或いは構成成分を適当なバインダーに分散した液体を用いたコーティング法等を適宜選択することができる。
【0043】
図1の透明導電体100は、透明基材10と、第1誘電層21と、主成分として銀又は銀合金を含む金属層22と、光吸収層23と、第2誘電層24と、をこの順に備える。透明導電体100は、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の透過率と反射率の両方を低減することができる。また、光吸収層23を第1誘電層21と金属層22の間に設ける場合に比べて、可視光の反射率をさらに低減することができる。
【0044】
図2は、別の実施形態に係る透明導電体110の模式断面図である。透明導電体110は、透明基材10と、第1誘電層21と、光吸収層23と、主成分として銀又は銀合金を含む金属層22と、第2誘電層24と、をこの順に備える。すなわち、透明導電体110は、光吸収層23を、第1誘電層21と金属層22との間に備える点で、図1の透明導電体100と異なっている。透明導電体110の各層のうち、透明導電体100と共通する層については、透明導電体100と同じであってよい。したがって、透明導電体110の各層について、図1の透明導電体100の各層の説明内容を適用できる。
【0045】
透明導電体110は、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の透過率と反射率の両方を低減することができる。また、光吸収層23を金属層22と第2誘電層24との間に設ける場合に比べて、赤外光の反射率を高く維持することができる。
【0046】
図3は、さらに別の実施形態に係る透明導電体120の模式断面図である。透明導電体120は、透明基材10と、第1誘電層21と、光吸収層23と、主成分として銀又は銀合金を含む金属層22と、光吸収層23と、第2誘電層24と、をこの順に備える。すなわち、透明導電体120は、光吸収層23を、第1誘電層21と金属層22との間にさらに備える点で、図1の透明導電体100と異なっている。透明導電体120の各層の組成、厚み及び機能等は、透明導電体100と同じであってよい。したがって、透明導電体120の各層のうち、透明導電体100と共通する層については、透明導電体100の説明内容を適用できる。
【0047】
金属層22を挟むようにして設けられる一対の光吸収層23の組成及び厚みは、同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0048】
透明導電体120は、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の透過率と反射率の両方を低減することができる。また、光吸収層23を第1誘電層21と金属層22との間、又は、金属層22と第2誘電層24との間のどちらか一方のみに設ける場合に比べて、可視光の反射率を一層低減することができる。
【0049】
図4は、さらに別の実施形態に係る透明導電体130の模式断面図である。透明導電体130は、透明基材10と、高屈折率層32と、第1誘電層21と、主成分として銀又は銀合金を含む金属層22と、光吸収層23と、第2誘電層24と、導電層34とをこの順に備える。すなわち、透明導電体130は、透明基材10と第1誘電層21との間に高屈折率層32と、第2誘電層24の光吸収層23側とは反対側に導電層34とをさらに備える点で、図1の透明導電体100と異なっている。透明導電体130における透明基材10、第1誘電層21、主成分として銀又は銀合金を含む金属層22、光吸収層23、及び第2誘電層24の組成、厚み及び機能等は、透明導電体100と同じであってよい。したがって、透明導電体130の透明基材及び上述の各層について、図1の透明導電体100の各層の説明内容を適用できる。
【0050】
高屈折率層32は、第1誘電層21とは異なる組成を有する層(第3誘電層)であってもよい。高屈折率層32を設けることによって、可視光の反射率を低減しつつ、第1誘電層21の材料選択の自由度を向上することができる。高屈折率層32は、例えば、酸化物又は窒化物を含んでもよく、屈折率は1.8~2.5であってもよい。このような高屈折率層32を設けることによって、可視光の反射率を十分に低減することができる。可視光の反射率を十分に低減しつつ、透明基材10との密着性を向上する観点から、高屈折率層32は、窒化ケイ素、酸化ニオブ及び酸化チタンから選ばれる少なくとも一つを含有することが好ましい。
【0051】
高屈折率層32の厚みは、可視光の反射率と透過率の両方をバランスよく低減する観点から、例えば5~40nmであり、好ましくは10~30nmである。
【0052】
高屈折率層32は、例えばDCマグネトロンスパッタを用いて形成することができる。高屈折率層32の成膜方法は特に限定されず、プラズマ又はイオンビーム等を用いたその他の真空成膜法、或いは構成成分を適当なバインダーに分散した液体を用いたコーティング法等を適宜選択することができる。
【0053】
導電層34は、第2誘電層24よりも電気伝導性が高い層であり、第4誘電層であってもよい。導電層34を設けることによって、第2誘電層24の材料選択の自由度を向上することができる。導電層34は、例えば、金属酸化物を含んでもよい。導電層34を設けることによって、第2誘電層24側に電極を接続する場合に、接触抵抗を十分に低減することができる。接触抵抗を十分に低減しつつ可視光の反射率も十分に低減する観点から、導電層34は、主成分として酸化インジウムを含有することが好ましい。導電層34における酸化インジウムの含有量は90質量%以上であってもよい。
【0054】
導電層34の厚みは、可視光の反射率と透過率の両方をバランスよく低減する観点から、例えば5~40nmであり、好ましくは10~30nmである。
【0055】
導電層34は、例えばDCマグネトロンスパッタを用いて形成することができる。導電層34の成膜方法は特に限定されず、プラズマ又はイオンビーム等を用いたその他の真空成膜法、或いは構成成分を適当なバインダーに分散した液体を用いたコーティング法等を適宜選択することができる。
【0056】
本開示における透明導電体は、図1図4のものに限定されない。例えば、透明導電体100,110,120,130は、それぞれ他の任意の層を備えていてもよい。例えば、透明基材10と第1誘電層21(高屈折率層32)との間、及び/又は、透明基材10の第1誘電層21側とは反対側に、樹脂硬化物を含むハードコート層を有していてもよい。これによって、透明導電体の硬度及び強度を向上することができる。任意の層はこれに限定されない。
【0057】
透明導電体130は、透明導電体110又は透明導電体120と同様に、第1誘電層21と金属層22との間に光吸収層23を備えていてもよい。透明導電体130は、高屈折率層32及び導電層34の少なくとも一方を備えていなくてもよい。透明導電体110,120は、高屈折率層32及び導電層34の少なくとも一方を備えていてもよい。
【0058】
透明導電体100,110,120,130の可視光の透過率は、例えば75%以下である。このように透過率が低減された透明導電体は、車両用に好適に用いられる。可視光の透過率は、透過率を低くするとともに製造を容易にする観点から、例えば20~70%であってもよい。透明導電体100,110,120,130の可視光の反射率は、例えば20%以下である。可視光の反射率の平均値は、透過率を低くするとともに製造を容易にする観点から、例えば5~20%であってもよい。
【0059】
透明導電体100,110,120,130の赤外線の反射率は、例えば40%以上である。これによって、遮熱性を向上しつつ、熱割れの発生を十分に抑制することができる。上記赤外線の反射率は、製造の容易性の観点から、例えば60%以下であってよい。透明導電体100,110,120,130の赤外線の透過率は、例えば35%以下である。上記赤外線の透過率は、製造の容易性の観点から、例えば5%以上である。
【0060】
本開示における可視光の透過率及び反射率は、450~650nmの波長範囲における測定値の平均値である。また、赤外光の透過率及び反射率は700~1200nmの波長範囲における測定値の平均値である。可視光の透過率及び反射率、並びに、赤外線の透過率及び反射率は、市販の測定装置を用いて10nmピッチで測定を行った結果の平均値として求められる。また、可視光及び赤外線の吸収率は、上述の手順で求めた透過率及び反射率から、以下の式で計算できる。
吸収率(%)=100-透過率(%)-反射率(%)
【0061】
透明導電体100,110,120,130は、450~650nmの波長範囲における可視光の反射率に対する、700~1200nmの波長範囲における赤外線の反射率の平均値の比は好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.4以下である。これによって、これによって可視光の反射率を低減しつつ、優れた遮熱性を有する透明導電体とすることができる。当該平均値の比の下限は、製造の容易性の観点から、例えば0.01あってもよく、0.05あってもよい。
【0062】
図5は、一実施形態に係る調光体の模式断面図である。図5の調光体200は、一対の透明導電体100と、その間に調光層40とを備える。一対の透明導電体100は、それぞれの第2誘電層24が調光層40側となるように積層されている。本実施形態において、透明導電体100は、調光体の用途に用いられている。透明導電体100は、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の透過率と反射率を低減することが可能であることから、例えば車両等の乗り物及び建築物に用いられる調光体用として好適に使用することができる。
【0063】
調光層40としては、エレクトロクロミック方式、SPD(Suspended Particle Device)方式、PDLC(Polymer Dispersed liquid Crystal、高分子分散型結晶、又はポリマー分散液晶ともいう)方式等のものが挙げられる。PDLCは、電圧が印加されていない場合には、大気よりも屈折率が高いため白濁する。つまり、その表面で光が散乱して不透明な白色として視認される。他方、PDLCは、電圧が印加されている場合には、大気と屈折率がほぼ等しくなるため、その表面で光が散乱されずに透明となる。このようにして可視光の透過率を調節することができる。調光層40は、例えば高分子で形成されるマトリックスと、該マトリックス中に分散された液晶とを含む。
【0064】
調光層40に含まれる液晶に特に制限はなく、例えば、ネマティック、スメクティック及びコレステリック液晶等が挙げられる。一方、調光層40に含まれる高分子にも特に制限はなく、例えば、アクリル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、及びエン・チオール系樹脂等が挙げられる。調光層40における液晶の含有量は、例えば、20~70質量%である。調光層40は、液晶を含有する樹脂組成物を硬化して形成することができる。樹脂組成物は、例えば、オリゴマー(プレポリマー)、多官能性又は単官能性のアクリル系モノマー、ビニルエーテル系モノマー、及び液晶化合物を含有する。樹脂組成物は、光硬化開始剤及び染料を含んでいてもよい。
【0065】
プレポリマーとしては、チオール基を有するチオール系プリポリマーが挙げられる。アクリル系モノマーとしては、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)、及びトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)などが挙げられる。ビニルエーテル系モノマーとしては、ブタンジオールモノビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、及びトリエチレングリコールジビニルエーテル等が挙げられる。
【0066】
光硬化開始剤としては、フリーラジカル系のものが挙げられる。例えば、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)ビス[2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)フェニル]チタニウム、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、及びα,α-ジメトキシ-α’-ヒドロキシアセトフェノン等が挙げられる。調光層40の厚みは、例えば1~100μmである。
【0067】
一対の透明導電体100は、それぞれ、調光層40側から第2誘電層24、光吸収層23、金属層22、第1誘電層21及び透明基材10を備える。調光体200は、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の透過率と反射率の両方を低減でき、また透過率と反射率の調節が容易である透明導電体100を備える。このため、種々の用途に適用することができる。
【0068】
調光体200を製造する場合、透明基材10の一方面上に、第1誘電層21、金属層22、光吸収層23、及び第2誘電層24を順次形成して、一組の透明導電体100を得る。一組の透明導電体100を、液晶を含有する樹脂組成物を介して第2誘電層24同士が向かい合うようにして重ね合わせる。そして、光照射又は加熱して樹脂組成物を硬化することによって、一対の透明導電体100が調光層40によって接合される。
【0069】
粘着層50は、ガラス層60と透明基材10とを接着する機能を有するものであれば特に制限されない。例えば、粘着性を有する通常の樹脂であってもよい。樹脂としては、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアミド系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、エチレン酢酸ビニルコポリマー樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、及びシリコーン系樹脂が挙げられる。これらの樹脂の塗料は、一方の透明導電体100の透明基材10の上に塗布した後、塗布した塗料上にガラス層60を載せた状態で塗料を硬化させて粘着層50を形成してもよい。粘着層50は上述のものに限定されず、例えば市販の粘着テープであってもよい。この場合、粘着テープを介してガラス層60と透明基材10とを貼り合わせることによって、調光体200を作製することができる。ガラス層60は、通常のガラス板を用いることができる。
【0070】
調光体200及びこれを構成する透明導電体の透明基材及び各層の厚みは、以下の手順で測定することができる。集束イオンビーム装置(FIB,Focused Ion Beam)によって調光体200又は透明導電体を切断して断面を得る。透過電子顕微鏡(TEM)を用いて当該断面を観察し、各層の厚みを測定する。測定は、任意に選択された10箇所以上の位置で測定を行い、その平均値を求めることが好ましい。断面を得る方法として、集束イオンビーム装置以外の装置としてミクロトームを用いてもよい。厚みを測定する方法としては、走査電子顕微鏡(SEM)を用いてもよい。また蛍光X線装置を用いて膜厚を測定することも可能である。
【0071】
本実施形態では、一対の透明導電体100を備える調光体200を説明したが、本開示の調光体は、これに限定されない。例えば、調光体200は、粘着層50及びガラス層60を一方面側のみに有しているが、他方面側にも粘着層50及びガラス層60を有していてもよい。また、一対の透明導電体100の少なくとも一方が透明導電体110、透明導電体120、透明導電体130又はこれらとは異なる透明導電体であってもよい。
【0072】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、透明導電体100,110,120,130は、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の透過率と反射率を低減することが可能であることから、例えば車両の窓に貼り付けられる透明発熱体用として好適に使用することができる。また、透明導電体100,110,120,130は、調光体及び透明発熱体以外の用途にも用いられる。また、その製造方法は、一般的な枚葉式、及びロールツーロール方式等であってよい。どのような製造方法であっても、同等の効果が得られる。
【実施例
【0073】
実施例、及び比較例を用いて、本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0074】
[透明導電体の作製]
参考例1)
透明基材として厚さ125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを準備した。DCマグネトロンスパッタリングによって、透明基材の一方面上に、第1誘電層、主成分として銀合金を含む金属層、光吸収層、及び第2誘電層をこの順に形成した。これによって、透明基材、第1誘電層(厚さ:30nm)、金属層(厚さ:9nm)、光吸収層(厚さ:2nm)、及び第2誘電層(厚さ:30nm)をこの順で有する透明導電体を得た。
【0075】
第1誘電層はZnO-In-TiOターゲットを、第2誘電層はZnO-In-TiO-SnOターゲットを用いて、それぞれ形成した。それぞれのターゲットの組成(モル比率)は、表1に示すとおりとした。第1誘電層及び第2誘電層は、それぞれターゲットと同じ組成を有していた。
【0076】
【表1】
【0077】
金属層は、Ag-Pd-Cuターゲットを用いて形成した。ターゲットの組成は、Ag:Pd:Cu=99.0:0.5:0.5(質量%)であった。金属層は、ターゲットと同じ組成を有していた。光吸収層は、Ni-Crターゲットを用いて形成した。Ni-Crターゲットの組成は、Ni:Cr=80:20(質量%)であった。光吸収層は、Ni-Crターゲットと同じ組成を有していた。
【0078】
(実施例2)
光吸収層の厚さを12nmにしたこと以外は、参考例1と同様にして透明導電体を作製した。
【0079】
参考例3)
光吸収層を、第1誘電層と金属層の間に設けたこと以外は、実施例1と同様にして透明導電体を作製した。すなわち、DCマグネトロンスパッタリングによって、透明基材の一方面上に、第1誘電層、光吸収層、主成分として銀合金を含む金属層、及び第2誘電層をこの順に形成した。これによって、透明基材、第1誘電層(厚さ:30nm)、光吸収層(厚さ:2nm)、金属層(厚さ:9nm)及び第2誘電層(厚さ:30nm)をこの順で有する透明導電体を得た。
【0080】
(実施例4)
光吸収層の厚さを12nmにしたこと以外は、参考例3と同様にして透明導電体を作製した。
【0081】
(実施例5)
光吸収層の厚さを22nmにしたこと以外は、参考例3と同様にして透明導電体を作製した。
【0082】
(実施例6)
光吸収層を、Cu-Tiターゲットを用いて形成したこと以外は、実施例4と同様にして透明導電体を作製した。Cu-Tiターゲットの組成は、Cu:Ti=80:20(質量%)であった。光吸収層は、ターゲットと同じ組成を有していた。
【0083】
参考例7)
透明基材と第1誘電層の間に高屈折率層を設けたこと、第2誘電層の金属層側とは反対側に導電層を設けたこと、及び第1誘電層と第2誘電層の厚みを10nmにしたこと以外は、参考例3と同様にして透明導電体を作製した。すなわち、DCマグネトロンスパッタリングによって、透明基材の一方面上に、SiNで構成される高屈折率層、第1誘電層、光吸収層、主成分として銀合金を含む金属層、第2誘電層、及び、ITOで構成される導電層をこの順に形成した。これによって、透明基材、高屈折率層(厚み:20nm)、第1誘電層(厚さ:10nm)、光吸収層(厚さ:2nm)、金属層(厚さ:9nm)、第2誘電層(厚さ:10nm)、及び導電層(厚さ:20nm)をこの順で有する透明導電体を得た。
【0084】
高屈折率層は、アルゴンガス80体積%と窒素ガス20体積%を含む混合雰囲気下、ホウ素をドープしたSiターゲットを用いて形成したものであり、SiNで構成されていた。導電層は、アルゴンガスと酸素ガスの混合雰囲気下(Ar:O=98体積%:2体積%)In-SnOターゲットを用いて形成したものであり、ITOで構成されていた。In-SnOターゲットの組成は、In-SnO=92:8(質量%)であった。導電層は、In-SnOターゲットとほぼ同じ組成を有していた。
【0085】
(実施例8)
光吸収層の厚さを12nmにしたこと以外は、参考例7と同様にして透明導電体を作製した。
【0086】
(比較例1)
光吸収層を設けなかったこと以外は、参考例7と同様にして透明導電体を作製した。
【0087】
(比較例2)
金属層の代わりに光吸収層を第1誘電層と第2誘電層の間に設けたこと以外は、比較例1と同様にして透明導電体を作製した。すなわち、DCマグネトロンスパッタリングによって、透明基材の一方面上に、第1誘電層、光吸収層、及び第2誘電層をこの順に形成した。これによって、透明基材、第1誘電層(厚さ:30nm)、光吸収層(厚さ:20nm)、及び第2誘電層(厚さ:30nm)をこの順で有する透明導電体を得た。光吸収層の形成に用いたNi-Crターゲットの組成は、Ni:Cr=80:20(質量%)であった。光吸収層は、Ni-Crターゲットと同じ組成を有していた。
【0088】
(比較例3)
光吸収層を、第2誘電層の金属層側とは反対側に設けたこと以外は、実施例2と同様にして透明導電体を作製した。すなわち、DCマグネトロンスパッタリングによって、透明基材の一方面上に、第1誘電層、主成分として銀合金を含む金属層、第2誘電層、及び光吸収層、をこの順に形成した。これによって、透明基材、第1誘電層(厚さ:30nm)、金属層(厚さ:9nm)、第2誘電層(厚さ:30nm)、及び光吸収層(厚さ:12nm)をこの順で有する透明導電体を得た。
【0089】
[透明導電体の評価]
上述の手順で作製した、各透明導電体における光吸収層を構成する合金の構成元素、位置、及び厚みを表2に纏めて示す。表2中、位置の欄における番号(1)は、第1誘電層と金属層の間に光吸収層を備えることを示している。番号(2)は、金属層と第2誘電層の間に光吸収層を備えることを示している。番号(3)は、第1誘電層と第2誘電層の間に光吸収層を備えることを示している。番号(4)は、第2誘電層の金属層側とは反対側に光吸収層を備えることを示している。
【0090】
【表2】
【0091】
それぞれの透明導電体の可視光の透過率、及び可視光の反射率を測定した。測定は、日本分光株式会社製のV-570(装置名)を用いた。測定は、10nmピッチで行い、450~650nmの波長範囲と、750~2000nmの波長範囲における透過率及び反射率の平均値を求めた。450~650nmの波長範囲における平均値を、可視光の透過率及び反射率として表3に示す。750~2000nmの波長範囲における平均値を、赤外光の透過率及び反射率として表3に示す。なお、表3中の透過率及び反射率の単位は「%」である。
【0092】
それぞれの透明導電体の高温高湿度の環境下における保存安定性試験を行った。具体的には、温度:60℃、相対湿度:95%の環境下に透明導電体を保管し、240時間経過後の欠陥の有無を目視で評価した。欠陥が発生しなかったものを「A」、欠陥が発生したものを「B」と評価した。結果を表3に示す。
【0093】
【表3】

【0094】
各実施例の透明導電体は、可視光の反射率を20%以下、且つ透過率を75%以下にすることができた。また、各実施例の透明導電体は、赤外光の反射率を40%以上、且つ透過率を35%以下に維持することができた。また、実施例の透明導電体は、いずれも高温高湿度下における保存安定性にも優れることが確認された。
【0095】
一方、光吸収層を設けなかった比較例1の透明導電体では、可視光の透過率が80%を超えていた。金属層に代えて光吸収層を設けた比較例2の透明導電体では、赤外光の反射率が30%以下であった。光吸収層を第2誘電層の金属層側とは反対側に設けた比較例3の透明導電体は、可視光の反射率が25%であった。
【0096】
表3には、可視光の反射率に対する赤外光の反射率の比も併せて示した。その結果、各実施例の透明導電体における上記反射率の比は0.29以下であった。各実施例の透明導電体は、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の反射率を低減できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
一つの側面において、赤外光の反射率を維持しつつ、可視光の透過率と反射率を低減することが可能な透明導電体を提供することができる。別の側面において、可視光の透過率と反射率が低減された透明導電体を備える調光体を提供することができる。さらに別の側面において、可視光の透過率と反射率が低減された透明導電体を備える透明発熱体を提供することができる。
【符号の説明】
【0098】
10…透明基材、21…第1誘電層、22…金属層、23…光吸収層、24…第2誘電層、32…高屈折率層、34…導電層、40…調光層、50…粘着層、60…ガラス層、100,110,120,130…透明導電体、200…調光体。
図1
図2
図3
図4
図5