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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】回転電機用ロータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20220216BHJP
【FI】
H02K1/276
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020507844
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2019011512
(87)【国際公開番号】W WO2019181958
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018055845
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】横山 剛
(72)【発明者】
【氏名】松原 哲也
(72)【発明者】
【氏名】牛田 英晴
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-163395(JP,A)
【文献】国際公開第2010/058609(WO,A1)
【文献】特開2015-089149(JP,A)
【文献】特開2013-066345(JP,A)
【文献】特開2013-162617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
H02K 1/30
H02K 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板が軸方向に積層されて構成されていると共に複数の磁石挿入孔を有する円筒状のロータコアと、前記磁石挿入孔に挿入される複数の永久磁石とを備え、径方向内側からロータ支持部材によって支持される回転電機用ロータであって、
前記磁石挿入孔のそれぞれが前記軸方向に延在するように形成され、周方向に沿って複数の前記磁石挿入孔が配列されており、
前記永久磁石のそれぞれが、前記軸方向に沿う面である側面部と、前記軸方向の端面である端面部と、を有すると共に、前記側面部と前記端面部とが交差する部分に形成された複数の角部を有し、
前記ロータコアの内周面における前記軸方向の端部に溶融接合部が形成され、前記溶融接合部において前記ロータコアが前記ロータ支持部材と接合されており、
前記溶融接合部が形成された前記軸方向の領域を軸方向接合領域として、
前記永久磁石の複数の前記角部の内、径方向視で前記軸方向接合領域と重複し、且つ前記ロータコアの外周面に対向する前記角部の少なくとも1つを特定角部とし、
前記磁石挿入孔の内壁面における前記角部に対向する部分を対向面部とし、複数の前記対向面部の内、前記特定角部と対向する前記対向面部を特定対向面部とし、
前記特定角部と前記特定対向面部との間に形成された隙間が、他の前記角部と前記対向面部との間に形成された隙間よりも大きく、且つ、
それぞれの前記特定角部と前記特定対向面部との間に形成された隙間は、前記軸方向の全域に亘って形成されることなく、前記軸方向の端部にのみ形成されている、回転電機用ロータ。
【請求項2】
前記隙間は、前記角部と前記対向面部との間に形成された空間であり、前記角部と前記対向面部との間に他の配置部材が存在する場合には、前記角部と前記対向面部との間における前記配置部材を除く部分に形成された空間である、請求項1に記載の回転電機用ロータ。
【請求項3】
前記配置部材は、前記永久磁石を前記磁石挿入孔の内部に固定するために、前記磁石挿入孔の内壁面と前記永久磁石との間に配置された固定材である、請求項2に記載の回転電機用ロータ。
【請求項4】
前記永久磁石は、前記特定角部に、他の前記角部に比べて大きい面取りが形成されている、請求項1から3の何れか一項に記載の回転電機用ロータ。
【請求項5】
前記磁石挿入孔の前記特定対向面部が、他の前記対向面部に比べて前記永久磁石から離間する方向に後退した形状となるように形成されている、請求項1から4の何れか一項に記載の回転電機用ロータ。
【請求項6】
前記特定角部と前記特定対向面部との隙間が他の前記角部と前記対向面部との隙間よりも大きく形成されている領域の前記軸方向の長さは、前記軸方向接合領域の前記軸方向の長さ以上である請求項1から5の何れか一項に記載の回転電機用ロータ。
【請求項7】
前記永久磁石の前記軸方向に直交する断面形状が矩形状であり、4つの前記側面部の内、前記ロータコアの外周面に対向する1つの面である外周側面部が前記周方向に沿うように、前記永久磁石が前記ロータコアに配置され、
前記外周側面部と、当該外周側面部に隣接する他の前記側面部と、前記端面部とが交差する部分に形成された複数の前記角部の内、径方向視で前記軸方向接合領域と重複する前記角部の全てを前記特定角部とする、請求項1から6の何れか一項に記載の回転電機用ロータ。
【請求項8】
前記永久磁石の前記軸方向に直交する断面形状が矩形状であり、軸方向視で一対の前記永久磁石が前記径方向内側に向かうに従って互いの距離が近づくV字状に配置されるように、前記永久磁石が前記ロータコアに配置され、
前記磁石挿入孔に形成されて前記永久磁石の位置決めを行う位置決め部に対向する前記角部であって、径方向視で前記軸方向接合領域と重複し、且つ前記ロータコアの外周面に対向する前記角部の全てを前記特定角部とする、請求項1から7の何れか一項に記載の回転電機用ロータ。
【請求項9】
少なくとも1つの前記永久磁石により1つの磁極が構成され、複数の磁極が前記周方向に沿って配列され、
前記溶融接合部は、前記ロータコアの内周面における前記周方向の一部の領域に形成されていると共に、前記周方向に隣接する2つの磁極の間に配置されている、請求項1から8の何れか一項に記載の回転電機用ロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁鋼板が軸方向に積層されて構成されていると共に複数の磁石挿入孔を有する円筒状のロータコアと、磁石挿入孔に挿入される複数の永久磁石とを備え、径方向内側からロータ支持部材によって支持されている回転電機用ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2015-119557号公報には、複数の電磁鋼板(23)が軸方向に積層されて構成されているロータコア(20)が径方向内側からロータ支持部材としての軸体(10)に支持された回転電機用ロータ(1)が開示されている(背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。ロータコア(20)には、軸方向に延在する磁石挿入孔(24)が周方向に沿って複数形成されており、磁石挿入孔(24)にはそれぞれ永久磁石(26)が挿入されている。ロータコア(20)と軸体(10)とは、コア内周面(21)と軸体(10)の外周面(11)との当接部における軸方向外側の端部において溶接によって接合されている。
【0003】
このようにロータコア(20)と軸体(10)とを溶接によって接合した場合、溶融金属の収縮によって、ロータコア(20)には、径方向外側から径方向内側の溶接箇所に向かって収縮しようとする力が発生する傾向がある。ロータコア(20)において磁石挿入孔(24)よりも径方向外側に位置して径方向幅が薄くなっている部分、いわゆるブリッジ部も径方向内側へと引っ張られることになる。しかし、磁石挿入孔(24)には永久磁石(26)が挿入されているため、ブリッジ部の径方向内側への移動は永久磁石(26)によって妨げられる。従って、ブリッジ部が永久磁石(26)と当接する部分では、径方向内側に向かって収縮しようとする力の反作用による力を永久磁石(26)の側から受けることになる。そのため、ブリッジ部における周方向の端部に位置する根元部分に、大きな引っ張り応力が作用する場合がある。軸方向に積層された電磁鋼板(23)では、ロータコア(20)の軸方向の端部付近における電磁鋼板(23)同士の軸方向の密着力が小さいため、ロータコア(20)内に生じる応力によって、当該軸方向の端部付近のブリッジ部周辺において、電磁鋼板(23)の浮き上がり等といった部分的な変形が生じ易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-119557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景に鑑みて、ロータコアとロータ支持部材とが溶融接合部により接合される場合に、ロータコアの部分的な変形の要因となる引っ張り応力を低減することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様として、上記に鑑みた回転電機用ロータは、電磁鋼板が軸方向に積層されて構成されていると共に複数の磁石挿入孔を有する円筒状のロータコアと、前記磁石挿入孔に挿入される複数の永久磁石とを備え、径方向内側からロータ支持部材によって支持される回転電機用ロータであって、前記磁石挿入孔のそれぞれが前記軸方向に延在するように形成され、周方向に沿って複数の前記磁石挿入孔が配列されており、前記永久磁石のそれぞれが、前記軸方向に沿う面である側面部と、前記軸方向の端面である端面部と、を有すると共に、前記側面部と前記端面部とが交差する部分に形成された複数の角部を有し、前記ロータコアの内周面における前記軸方向の端部に溶融接合部が形成され、前記溶融接合部において前記ロータコアが前記ロータ支持部材と接合されており、前記溶融接合部が形成された前記軸方向の領域を軸方向接合領域として、前記永久磁石の複数の前記角部の内、径方向視で前記軸方向接合領域と重複し、且つ前記ロータコアの外周面に対向する前記角部の少なくとも1つを特定角部とし、前記磁石挿入孔の内壁面における前記角部に対向する部分を対向面部とし、複数の前記対向面部の内、前記特定角部と対向する前記対向面部を特定対向面部とし、前記特定角部と前記特定対向面部との間に形成された隙間が、他の前記角部と前記対向面部との間に形成された隙間よりも大きい。
【0007】
この構成によれば、特定角部と特定対向面部との間に、他の前記角部と対向面部との間に形成された隙間よりも大きい隙間が形成されるため、永久磁石の特定角部の付近において、磁石挿入孔の内壁面と永久磁石とを当接し難くすることができる。これにより、ロータコアにおいて、径方向外側から径方向内側の溶融接合部へ向かう収縮力が生じても、この収縮力による永久磁石側からの反作用の力が低減される。即ち、収縮力と反作用の力とに起因する、ロータコア内の引っ張り応力も低減される。従って、本構成によれば、ロータコアとロータ支持部材とが溶融接合部により接合される場合に、ロータコアの部分的な変形の要因となる引っ張り応力を低減することができる。
【0008】
回転電機用ロータのさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ロータの回転軸方向断面図
図2】ロータコアの回転軸方向断面図
図3】ロータの軸方向視の平面図
図4】ロータコアの軸方向視の拡大平面図
図5】ロータコアの永久磁石の近傍の軸方向視の拡大平面図
図6】永久磁石の斜視図
図7】他の例のロータコアの永久磁石の近傍の軸方向視の拡大平面図
図8】比較例のロータコアの磁石挿入孔の近傍の軸方向視の拡大平面図
図9】比較例のロータコアの永久磁石の近傍の軸方向視の拡大平面図
図10】永久磁石がV字配置されるロータコアの一例を示す軸方向視の拡大平面図
図11図10に対して緩衝隙間を設けた一例を示す拡大平面図
図12図10に対して緩衝隙間を設けた他の例を示す拡大平面図
図13】永久磁石の他の例を示す斜視図
図14】永久磁石の他の例を示す斜視図
図15】第2の実施形態に係るロータコアの永久磁石の近傍の軸方向視の拡大平面図
図16】第2の実施形態に係るロータコアの緩衝隙間Gの形成工程の説明図
図17】他の形態のロータの軸方向視の平面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔第1の実施形態〕
以下、回転電機用ロータの第1の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、ロータ1(回転電機用ロータ)の軸方向Lにおける断面図である。ロータ1は、ロータコア2、永久磁石4、回転軸Xとしての不図示のシャフトに対して径方向内側R1からロータコア2を支持して連結するハブ9(ロータ支持部材)を備えて構成されている。図2は、ロータコア2にハブ9が取り付けられていない状態のロータコア2の軸方向Lにおける断面図である。詳細は後述するが、ロータコア2は、複数の円環状の電磁鋼板3を積層して形成されており、ロータコア2に対してハブ9を取り付ける前に、溶接によって電磁鋼板3が互いに接合される。図2における符号「W1」は、溶接によって溶融し凝固した接合部(第1接合部)を模式的に示している。図3は、ロータコア2を軸方向Lに沿った方向から見た平面図である。
【0011】
本実施形態では、ロータコア2を形成する電磁鋼板3を溶接によって互いに接合した後、ハブ9をロータコア2に取り付け、ハブ9とロータコア2とを溶接によって接合する。
図1における符号「W2」も、溶接によって溶融し凝固した接合部(第2接合部(溶融接合部))を模式的に示している。上述したように、まず、ロータコア2の電磁鋼板3同士を溶接し、次にロータコア2とハブ9とを溶接する。図2は、ロータコア2にハブ9を取り付ける前の第1接合部W1を通る断面を示したものである。図1は、ロータコア2にハブ9を取り付けた後の図3におけるI-I断面(第2接合部W2、及び後述する緩衝隙間Gを通る断面)を示したものである。
【0012】
以下、本実施形態に係るロータ1について詳細に説明する。以下の説明では、特に断らない限り、「軸方向L」、「径方向R」、「周方向C」は、ロータコア2の軸心(すなわち回転軸X)を基準とする。また、ロータコア2の径方向Rの一方側を径方向内側R1、径方向Rの他方側を径方向外側R2とする。尚、各部材についての寸法、配置方向、配置位置等に関しては、誤差(製造上許容され得る程度の誤差)による差異を有する状態も含む。また、永久磁石4の単体について示す場合は、永久磁石4がロータコア2に取り付けられた状態での方向を示す。
【0013】
図1及び図3に示すように、ロータ1は、複数の磁石挿入孔5を有する円筒状のロータコア2と、磁石挿入孔5に挿入される複数の永久磁石4とを備え、径方向内側R1からハブ9によって支持されている。多くの場合、回転電機のロータを構成するロータコア2は、鉄損を軽減するために、複数の薄い鋼板を回転軸に沿った方向に積層した積層コアの形態で形成されている。本実施形態においても、図1及び図2に示すように、ロータコア2は、複数枚の電磁鋼板3を軸方向Lに積層して構成されている。ロータコア2は、ハブ9を介して、回転軸Xとしての不図示のシャフトに固定される。図1に示すように、ハブ9は、ロータコア2の径方向内側R1側の周面である内周面CP1に当接して、ロータコア2を径方向内側R1から支持する。ハブ9とロータコア2とは、溶接によって接合され、ロータコア2は、ハブ9と相対移動しないように支持される。ハブ9と不図示のシャフトとは、焼き嵌め、キー結合、スプライン結合等によって連結される。
【0014】
永久磁石4は、図3に示すように、ロータコア2の周方向Cに分散して複数個配置されている。ロータコア2には、周方向に沿って複数の磁石挿入孔5が配列されている。永久磁石4は、これら複数の磁石挿入孔5のそれぞれに配置されている。ここでは、ロータコア2には、軸方向Lに貫通する磁石挿入孔5が形成されており、磁石挿入孔5にロータコア2とほぼ同じ軸方向Lの長さを有する永久磁石4が挿入されてロータコア2に固定されている。
【0015】
上述したように、ロータコア2は、複数枚の円環状の電磁鋼板3を軸方向Lに積層して構成されている。複数枚の電磁鋼板3を固定するために、軸方向Lにおいて隣接する電磁鋼板3同士が溶接によって接合される。このため、ロータコア2の内周面CP1には、複数枚の電磁鋼板3を互いに溶接するための溶接部10が形成されている。
【0016】
この溶接部10に電子ビームやレーザービーム等のエネルギービームBを照射して電磁鋼板3を溶融させ、その後凝固させることで、軸方向Lにおいて隣接する電磁鋼板3が溶接される。図2に示すように、軸方向Lに沿って溶接部10にエネルギービームBを照射することで、複数枚の電磁鋼板3が1つのロータコア2として接合される。第1接合部W1は、軸方向Lに沿って照射されるエネルギービームBによって、複数の電磁鋼板3が溶融し凝固した部分を示している。
【0017】
溶接部10の全ての部位は、ロータコア2の内周面CP1における溶接部10以外の一般部20の周面である基準周面CRに対して径方向外側R2側に形成されている。基準周面CRは、換言すれば、回転軸Xを中心とする断面が真円の仮想的な円柱の内壁に相当する。溶接部10の全ての部位が、基準周面CRに対して径方向外側R2に形成されていることにより、第1接合部W1も、基準周面CRに対して径方向外側R2に形成され、第1接合部W1は、ハブ9とロータコア2との当接を妨げることはない。
【0018】
図4に示すように、溶接部10は、第1凹溝部10aと、第2凹溝部10cと、これらの間の突状部10bとを有して構成されている。突状部10bは、径方向内側R1の端部である頂部が、基準周面CRよりも径方向外側R2に位置するように形成されている。エネルギービームBは、突状部10bの頂部を標的として照射される。突状部10bの周方向Cの両側には、第1凹溝部10a及び第2凹溝部10cが形成されて径方向外側R2へ窪んでいる。従って、溶融した電磁鋼板3が径方向内側R1へ隆起してくる可能性は低い。従って、第1接合部W1は、基準周面CRよりも径方向内側R1へ突出することなく、ロータコア2とハブ9との接合を妨げないように形成される。
【0019】
ハブ9は、一般部20に当接して、ロータコア2に固定される。具体的には、ハブ9の外周面9Aが、ロータコア2の内周面CP1における一般部20に当接した状態で、ハブ9がロータコア2に固定される。図1及び図3に示すように、軸方向Lの両端部において、ハブ9と一般部20とが当接する部分に、エネルギービームBが照射され、ハブ9とロータコア2とが溶接され、第2接合部W2が形成される。図3に示すように、ここでは、1つの永久磁石4により1つの磁極Mが構成され、周方向Cに沿って複数の磁極Mが配列されている。第2接合部W2は、ロータコア2の内周面CP1における周方向Cの一部の領域に形成されていると共に、周方向Cに隣接する2つの磁極Mの間に配置されている。また、第2接合部W2は、複数枚の電磁鋼板3に亘って形成される。図1に示すように、軸方向Lにおいて第2接合部W2(溶融接合部)が形成された領域を軸方向接合領域JRと称する。
【0020】
図5は、ロータコア2の永久磁石4の近傍の拡大平面図であり、図6は、永久磁石4の斜視図である。図6に示すように、それぞれの永久磁石4は、軸方向Lに沿う面である側面部4aと、軸方向Lの端面である端面部4bとを有すると共に、側面部4aと端面部4bとが交差する部分に形成された複数の角部4cを有する。これら複数の角部4cの内、径方向視で軸方向接合領域JRと重複し、且つロータコア2の外周面CP2に対向する(ロータコア2の外周面CP2側を向く)角部4cの少なくとも1つを特定角部4sと称する。
【0021】
磁石挿入孔5は、その内壁面に永久磁石4の角部4cに対向する部分である対向面部5pを有する。複数の角部4cに対向する複数の対向面部5pの内、特定角部4sと対向する対向面部5pを特定対向面部5sと称する。本実施形態では、特定角部4sと特定対向面部5sとの間に形成された隙間(G)が、他の角部4cと対向面部5pとの間に形成された隙間よりも大きい緩衝隙間Gとなっている。ここで、隙間(G)は、角部4cと対向面部5pとの間に形成された空間である。本実施形態では、角部4cと対向面部5pとの間に他の部材が配置されてない状態で角部4cと対向面部5pとが対向している。従って、角部4cと対向面部5pとに挟まれた領域の全体が隙間(G)に相当する。また本実施形態では、緩衝隙間Gが形成されている領域の軸方向Lの長さLGは、軸方向接合領域JRの軸方向Lの長さLJ以上となっている。このような構成は、後述する引っ張り応力を低減する上で好ましい。
【0022】
図5に例示する形態では、図6に示すように、永久磁石4の特定角部4sに、他の角部4cに比べて大きい面取り4gが形成されることによって、緩衝隙間Gが形成される。つまり、面取り4gが形成されることによって、特定角部4s以外の角部4cと対向面部5pとの間に形成される隙間よりも、特定角部4sと特定対向面部5sとの間に形成される隙間を大きくして、緩衝隙間Gを設けることができる。
【0023】
本実施形態では、永久磁石4は、軸方向Lに直交する断面形状が矩形状である。尚、「矩形状」は、正確な長方形状に限るものではなく、概略形状が矩形であるものを指す。例えば、図3から図6に示すように、断面形状がD字形のものなど、少なくとも概略形状を矩形と見たときに、その矩形の一辺が曲線状である形状や、矩形の角に対応する箇所に直線状又は曲線状の面取りが形成された形状等も「矩形状」に含む。断面形状が矩形状の永久磁石4は、概略の立体形状が直方体状となるため、4つの側面部4aと2つの端面部4bとを有する。
【0024】
尚、図6に示すように、断面形状がD字状(あるいは断面の矩形の角に対応する箇所に面取りがある形状)の場合には、6つの側面部4aを有することになるが、符号43で示す側面部4aは、符号41で示す周方向Cに沿った側面部4a(後述する外周側面部41(第1主側面部))と、符号42で示す径方向Rに沿った側面部4a(側方側面部42(第2主側面部))と、を接続する側面部4a(接続側面部43)である。このため、接続側面部43は、外周側面部41(第1主側面部)又は側方側面部42(第2主側面部)に含めることができる。このように見れば、図6に示すように、断面形状がD字状(あるいは断面の矩形の角に対応する箇所に面取りがある形状)の永久磁石4も、4つの側面部と2つの端面部4bとを有する概略の立体形状が直方体状であるということができる。
【0025】
本実施形態では、永久磁石4の軸方向Lに直交する断面形状が矩形状の永久磁石4が、4つの側面部4aの内、ロータコア2の外周面CP2に対向する(外周面CP2側を向く)1つの面である外周側面部41が周方向Cに沿うように、ロータコア2に配置される。ここでは、外周側面部41(接続側面部43を含む)と外周側面部41に隣接する他の側面部4a(ここでは側方側面部42)と、端面部4bとが交差する部分に形成される角部4c(三面角部)の全てが径方向視で軸方向接合領域JRと重複する。従って、これらの角部4cの全てを特定角部4sとすると好適である。
【0026】
尚、上記においては、図5を参照して、永久磁石4の特定角部4sに面取り4gが形成されることによって緩衝隙間Gが設けられる形態を例示した。しかし、図7に例示するように、磁石挿入孔5の特定対向面部5sが、他の対向面部5pに比べて永久磁石4から離間する方向に後退した形状となるように形成されることによって、緩衝隙間Gが形成されてもよい。磁石挿入孔5を拡げて緩衝隙間Gを形成する場合には、軸方向Lにおいて端部に位置する電磁鋼板3の磁石挿入孔5を拡げるとよい。対象となる電磁鋼板3は、軸方向端部側において軸方向接合領域JRの軸方向Lの長さLJ以上の範囲に位置する電磁鋼板3であると好適である。また、磁石挿入孔5が拡げられる大きさは、軸方向端部に行くほど大きくなると好適である。
【0027】
上記においては、永久磁石4の特定角部4sに面取り4gが形成されることによって緩衝隙間Gが設けられる形態、磁石挿入孔5を拡げることによって緩衝隙間Gが設けられる形態をそれぞれ例示した。しかし、何れか一方に限らず、永久磁石4の特定角部4sに面取り4gが形成され、且つ、磁石挿入孔5を拡げることによって緩衝隙間Gが設けられてもよい。
【0028】
ここで、図8及び図9を参照して緩衝隙間Gの効果について説明する。図8は、複数枚の電磁鋼板3が積層され、第1接合部W1によって電磁鋼板3同士が接合されてロータコア2が形成された状態を例示している。図8は、永久磁石4が磁石挿入孔5に挿入されていない状態である。図9は、図8のロータコア2に永久磁石4が挿入された状態である。
【0029】
上述したように、ロータコア2とハブ9とを溶接によって接合した場合、図8及び図9に示すように、ロータコア2には、径方向外側R2から径方向内側R1の第2接合部W2に向かって収縮しようとする力が発生する傾向がある。図8に示すように、ロータコア2において磁石挿入孔5よりも径方向外側R2に位置する部分、いわゆるブリッジ部BRも径方向内側R1へと引っ張られることになる。磁石挿入孔5に永久磁石4が挿入されていない場合には、この力によって磁石挿入孔5が変形する可能性がある。その場合、例えば図8に破線で示すように、磁石挿入孔5の径方向外側R2の対向面部5pが、径方向内側R1に移動する場合もある。
【0030】
一方、磁石挿入孔5に永久磁石4が挿入されている場合には、磁石挿入孔5の径方向外側R2の内壁が永久磁石4に当接するため、ブリッジ部BRの径方向内側R1への移動は永久磁石4によって妨げられる。このため、永久磁石4と当接する径方向外側R2の磁石挿入孔5の内壁は、径方向内側R1に向かって収縮しようとする力の反作用による力を永久磁石4から受けることになる。収縮しようとする力と反作用による力とは互いに逆方向であり、ブリッジ部BRにおける周方向Cの端部に位置する根元部分には、大きな引っ張り応力が作用する場合がある。積層された電磁鋼板3は、軸方向Lに沿って互いに圧縮されており、特に軸方向の中央部分では両端部分に比べて電磁鋼板3同士の密着力が高いため、それぞれの電磁鋼板3が変形することは抑制される。しかし、軸方向端部に位置する電磁鋼板3では、そのような密着力が小さい。このため、ブリッジ部BRの根元部分に生じた引っ張り応力によって、電磁鋼板3が軸方向外側に変形し、他の電磁鋼板3から浮き上がる等といった変形が生じる可能性がある。
【0031】
ここで、図5図7に例示したように、緩衝隙間Gが形成されていると、軸方向端部において、ブリッジ部BRの周方向Cの根元部分が永久磁石4に当接しなくなり、或いは、当接するとしても永久磁石4との間に作用する力は小さくなる。このため、ロータコア2に収縮力が生じても、軸方向端部では、ブリッジ部BRの根元部分が永久磁石4からの反作用を受けにくくなる。その結果、収縮力とその反作用の力とによる引っ張り応力も小さくなる。
【0032】
ところで、上記においては、軸方向Lに直交する断面形状が矩形状の永久磁石4の4つの側面部4aの内、ロータコア2の外周面CP2に対向する1つの面(外周側面部41)が周方向Cに沿うように、永久磁石4がロータコア2に配置される形態を例示した。しかし、ロータコア2における永久磁石4の配置は、この形態に限らず、他の配置であっても、上述したように緩衝隙間Gを設けると好適である。
【0033】
図10は、軸方向Lに直交する断面形状が矩形状の一対の永久磁石4が、軸方向視で径方向内側R1に向かうに従って互いの距離が近づくV字状となるように、ロータコア2に配置されている形態を例示している。また、この形態では、磁石挿入孔5は、フラックスバリアとなる空隙を有して永久磁石4を収容するように形成されている。このため、磁石挿入孔5における規定位置に永久磁石4を配置するための位置決め部55が、磁石挿入孔5に形成されている。ここでは、矩形状の永久磁石4の4つの側面部4aの2面が隣接する4つの角(二面角部)に当接するように、4つの位置決め部55が設けられている。
【0034】
図8及び図9を参照して上述したように、位置決め部55と永久磁石4とが当接していると、径方向外側R2から径方向内側R1の第2接合部W2に向かって収縮しようとする収縮力が発生した場合に、位置決め部55に永久磁石4からの反作用の力が加わる。これにより、位置決め部55には、収縮力とその反作用の力とによる引っ張り応力が掛かることになる。このため、位置決め部55の内、後述する特定位置決め部55sの対向面部5p(特定対向面部5s)と、永久磁石4の特定角部4sとの間に緩衝隙間Gが形成される。
【0035】
図11及び図12に示すように、磁石挿入孔5に形成されて永久磁石4の位置決めを行う位置決め部55に対向する角部4cであって、径方向視で軸方向接合領域JRと重複し、且つロータコア2の外周面CP2に対向する角部4cの全てを特定角部4sとする。また、この特定角部4sが対向する位置決め部55を特定位置決め部55sとする。図示は省略しているが、特定位置決め部55sにも、特定対向面部5sが存在する。上述したように、特定角部4s以外の角部4cと対向面部5pとの間に形成された隙間よりも、特定角部4sと特定対向面部5sとの間に形成された隙間を大きくすることで、緩衝隙間Gが形成される。
【0036】
尚、図11は、図5及び図6を参照して上述した形態と同様に、永久磁石4の特定角部4sに面取り4gが形成されることによって緩衝隙間Gが設けられる形態を例示している。また、図12は、図7を参照して上述した形態と同様に、磁石挿入孔5を拡げることによって緩衝隙間Gが設けられる形態を例示している。この場合、例えば、軸方向接合領域JRにおいて特定位置決め部55sを設けないようにすることで、磁石挿入孔5を拡げて緩衝隙間Gを設けることができる。図示は省略するが、これら何れか一方に限らず、永久磁石4の特定角部4sに面取り4gが形成され、且つ、磁石挿入孔5を拡げることによって緩衝隙間Gが設けられてもよい。
【0037】
以上、2種類の永久磁石4の配置形態を例示して緩衝隙間Gを設ける形態を説明したが、永久磁石4がその他の形態で配置される場合においても、同様に緩衝隙間Gを設けることで、ロータコア2の径方向Rに生じる引っ張り応力を低減させることができる。即ち、永久磁石4の複数の角部4cの内、径方向視で軸方向接合領域JRと重複し、且つロータコア2の外周面CP2に対向する角部4cの少なくとも1つを特定角部4sとし、特定角部4sと対向する対向面部5pを特定対向面部5sとして、特定角部4sと特定対向面部5sとの間に緩衝隙間Gを設けることで、当該引っ張り応力を低減させることができる。
【0038】
また、上記においては、図6を参照して軸方向Lに直交する方向での断面形状がD字状の永久磁石4に面取り4gを形成する形態を例示した。永久磁石4の断面形状がその他の形状の場合も、上記と同様に、特定角部4sに、他の角部4cに比べて大きい面取り4gを形成することで、緩衝隙間Gを形成することができる。例えば、図13及び図14に示すように、面取り4gを形成することができる。図13は、断面形状が長方形の場合、図14は、断面形状が六角形の場合を例示している。何れの場合においても、永久磁石4の複数の角部4cの内、径方向視で軸方向接合領域JRと重複し、且つロータコア2の外周面CP2に対向する角部4c(特定角部4s)に、他の角部4cに比べて大きい面取り4gを形成することで、緩衝隙間Gが形成される。
【0039】
〔第2の実施形態〕
次に、ロータ1の第2の実施形態について図15及び図16を用いて説明する。上述した第1の実施形態では、角部4cと対向面部5pとの間に他の部材が配置されてない状態で角部4cと対向面部5pとが対向している構成であったが、本実施形態では、図15に示すように、角部4cと対向面部5pとの間に他の配置部材Eが存在する。以下では、本実施形態に係るロータ1について、上記第1の実施形態との相違点を中心として説明する。尚、特に説明しない点については、上記第1の実施形態と同様とする。
【0040】
角部4cと対向面部5pとの間に他の配置部材Eが存在する場合、角部4cと対向面部5pとの間に形成された隙間(G)は、角部4cと対向面部5pとの間における当該配置部材Eを除く部分に形成された空間である。すなわち、角部4cと対向面部5pとの間に形成された隙間(G)は、他の配置部材Eが存在せず、ロータコア2のブリッジ部BRが変形して移動することが許容される空間である。そして、この場合にも、特定角部4sと特定対向面部5sとの間に形成された隙間(G)が、他の角部4cと対向面部5pとの間に形成された隙間よりも大きい緩衝隙間Gとされる。
【0041】
本実施形態では、配置部材Eは、永久磁石4を磁石挿入孔5の内部に固定するために、磁石挿入孔5の内壁面と永久磁石4との間に配置された固定材Fである。ここで、固定材Fとしては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、発泡性樹脂等の各種樹脂や接着剤等、公知の各種の材料が用いられる。本例では、固定材Fは、磁石挿入孔5の内壁面と永久磁石4との間に溶融状態で充填された後に硬化する樹脂である。そして、固定材Fが充填される際に、特定角部4sと特定対向面部5sとの間における固定材Fが存在しない隙間(空間)が、他の角部4cと対向面部5pとの間における固定材Fが存在しない隙間(空間)よりも大きくされることで、緩衝隙間Gが形成される。図15及び図16に示す例では、磁石挿入孔5の内壁面と永久磁石4との間における、特定角部4sと特定対向面部5sとの間の部分を除く部分に固定材Fが充填されるようにすることで、緩衝隙間Gが形成されている。
【0042】
本実施形態では、図6に示したものと同様、永久磁石4の特定角部4sに、他の角部4cに比べて大きい面取り4gが形成されている。これにより、特定角部4s以外の角部4cと対向面部5pとの間の距離に比べて、特定角部4sと特定対向面部5sとの間の距離を大きくし、緩衝隙間Gを大きく確保し易くしている。また本実施形態では、図15に示すように、永久磁石4に対して周方向Cの両側に、磁石挿入孔5の内壁面と永久磁石4とが離間した空隙が形成されている。この空隙は、固定材Fが充填される固定材充填部56となる。この固定材充填部56は磁石挿入孔5の軸方向Lの全域にわたって連続的に形成されている。
【0043】
次に、緩衝隙間Gの形成方法の具体例について図16を用いて説明する。図16は、図15におけるXVI-XVI断面に相当する部分に着目して、緩衝隙間Gの形成工程を順に示したものである。この図に示すように、本例では、加圧部材8を用いてロータコア2を軸方向Lに加圧した状態で、固定材Fの充填を行う。加圧部材8は、当接面81と、固定材供給路82と、制限突部83と、を備えている。尚、図示は省略するが、ロータコア2の軸方向Lの他方側の端面は支持部材によって支持される。
【0044】
当接面81は、加圧部材8における、ロータコア2の軸方向Lの端面に当接する面である。本例では、加圧部材8は、ロータコア2の軸方向Lの端面の全体を覆うように、径方向R及び周方向Cに延在する形状とされている。従って、図16の中段に示すように、当接面81は、磁石挿入孔5の軸方向Lの端部の開口部も覆うように形成されている。固定材供給路82は、磁石挿入孔5に固定材Fを供給するための流路である。本例では、固定材供給路82は、加圧部材8を軸方向Lに貫通するように形成されている。また、固定材供給路82の当接面81側の開口部は、固定材充填部56に対応する位置に設けられている。制限突部83は、緩衝隙間Gを形成するために固定材Fが浸入することを制限するための突出部である。従って、制限突部83は、特定角部4sと特定対向面部5sとの間の空間の少なくとも一部を埋めるように突出する形状とされている。本実施形態では、制限突部83は、特定角部4sと特定対向面部5sとの間の空間の全体に対応する形状とされている。
【0045】
そして、固定材Fの充填を行う場合、まず、図16の上段に示すように、ロータコア2の磁石挿入孔5の内部に永久磁石4を配置した後、加圧部材8をロータコア2に接近させて、当接面81をロータコア2の軸方向Lの端面に当接させ、ロータコア2を軸方向Lに加圧する。次に、図16の中段に示すように、流動性を有する状態の固定材Fを固定材供給路82に供給する。上記のとおり、固定材供給路82は、磁石挿入孔5の固定材充填部56に対応する位置に開口している。従って、固定材Fは、まず固定材充填部56に供給され、そこから磁石挿入孔5の中の各部に供給される。このようにして、磁石挿入孔5の内壁面と永久磁石4との間に固定材Fが充填される。この際、特定角部4sと特定対向面部5sとの間の空間を埋めるように制限突部83が配置されているため、特定角部4sと特定対向面部5sとの間の領域に固定材Fが浸入することが規制される。そして、固定材Fが硬化した後、図16の下段に示すように、加圧部材8をロータコア2から離脱させる。これにより、制限突部83に対応する空間に、固定材Fが存在しない緩衝隙間Gが形成される。尚、当接面81をロータコア2の軸方向Lの端面に当接させ、加圧部材8によりロータコア2を軸方向Lに加圧しながら固定材Fを充填することで、ロータコア2を形成する複数枚の電磁鋼板3の隙間に固定材Fが浸入することを抑制できると共に、磁石挿入孔5に供給された固定材Fが逆流して磁石挿入孔5の外部にはみ出すことを抑制できる。
【0046】
以上のように、特定角部4sと特定対向面部5sとの間に緩衝隙間Gが形成されていることにより、磁石挿入孔5の内壁面と永久磁石4との間に固定材Fが充填される場合であっても、当該固定材Fによってブリッジ部BRの径方向内側R1への移動が妨げられることを抑制できる。従って、上記第1の実施形態の場合と同様、ロータコア2とハブ9とが第2接合部W2(溶融接合部)により接合される場合に、ロータコア2の部分的な変形の要因となる引っ張り応力を低減することができる。
【0047】
尚、本実施形態では、特定角部4sと特定対向面部5sとの間の空間の全体に固定材Fが浸入しないようにする例について説明したが、これには限らず、特定角部4sと特定対向面部5sとの間の空間の一部に固定材Fが配置されても良い。但し、この場合においても、特定角部4sと特定対向面部5sとの間に形成された緩衝隙間Gが、他の角部4cと対向面部5pとの間に形成された隙間よりも大きくされる。
【0048】
また、本実施形態では、永久磁石4の特定角部4sに、他の角部4cに比べて大きい面取り4gが形成されている構成を例として説明したが、これには限定されない。例えば図7に示すように、磁石挿入孔5の特定対向面部5sが、他の対向面部5pに比べて永久磁石4から離間する方向に後退した形状となるように形成されていても良いし、永久磁石4の特定角部4sに面取り4gが形成され、且つ、磁石挿入孔5の特定対向面部5sが後退するように拡げられていても良い。また例えば、特定角部4sと特定対向面部5sとの対向する間隔と、他の角部4cと対向面部5pとの対向する間隔とが同等に構成され、固定材F等の配置部材Eの配置状態によって緩衝隙間Gが形成されていても良い。この場合、特定角部4sと特定対向面部5sとの間における配置部材Eを除く部分に形成された空間(緩衝隙間G)が、他の角部4cと対向面部5pとの間における配置部材Eを除く部分に形成された空間よりも大きくなるようにされる。例えば、特定角部4sと特定対向面部5sとの間に配置部材Eとして固定材Fが充填されず、他の角部4cと対向面部5pとの間に固定材Fが充填されることにより、このような構成を実現できる。
【0049】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0050】
(1)上記においては、図3等に示すように、第2接合部W2が、ロータコア2の内周面CP1における周方向Cの一部の領域に配置される形態、具体的には、周方向Cに沿って隣接する2つの磁極Mの間に配置される形態を例示して説明した。しかし、図17に示すように、ハブ9と一般部20とが当接する円周状の部分に全体的に第2接合部W2が形成されてもよい。
【0051】
(2)上記においては、図3等に示すように、周方向Cに沿って隣接する2つの磁極Mの間の全てに第2接合部W2が配置される形態を例示して説明した。しかし、図示は省略するが、第2接合部W2は、例えば、周方向Cに沿って隣接する2つの磁極Mの間に1つ置きに配置されるなど、周方向Cに沿って隣接する2つの磁極Mの間の一部に配置されてもよい。
【0052】
(3)上記においては、軸方向Lにおけるロータコア2の両端部に、いわゆるエンドプレートと称されるような固定部材が設けられていない形態を例示した。しかし、第2接合部W2による固定に加えて、エンドプレートなどのような固定部材も用いたカシメやボルトによってロータコア2が固定される形態であってもよい。緩衝隙間Gを設けることで、引っ張り応力による電磁鋼板3の変形によってエンドプレートが変形することも抑制することができる。
【0053】
(4)上記においては、緩衝隙間Gが形成されている領域の軸方向Lの長さLGが、軸方向接合領域JRの軸方向Lの長さLJ以上である構成を例として説明した。しかしこれには限定されず、緩衝隙間Gが形成されている領域の軸方向Lの長さLGが、軸方向接合領域JRの軸方向Lの長さLJ未満とされていても良い。
【0054】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した回転電機用ロータ(1)の概要について簡単に説明する。
【0055】
1つの態様として、電磁鋼板(3)が軸方向(L)に積層されて構成されていると共に複数の磁石挿入孔(5)を有する円筒状のロータコア(2)と、前記磁石挿入孔(5)に挿入される複数の永久磁石(4)とを備え、径方向内側(R1)からロータ支持部材(9)によって支持される回転電機用ロータ(1)は、
前記磁石挿入孔(5)のそれぞれが前記軸方向(L)に延在するように形成され、周方向(C)に沿って複数の前記磁石挿入孔(5)が配列されており、
前記永久磁石(4)のそれぞれが、前記軸方向(L)に沿う面である側面部(4a)と、前記軸方向(L)の端面である端面部(4b)と、を有すると共に、前記側面部(4a)と前記端面部(4b)とが交差する部分に形成された複数の角部(4c)を有し、
前記ロータコア(2)の内周面(CP1)における前記軸方向(L)の端部に溶融接合部(W2)が形成され、前記溶融接合部(W2)において前記ロータコア(2)が前記ロータ支持部材(9)と接合されており、
前記溶融接合部(W2)が形成された前記軸方向(L)の領域を軸方向接合領域(JR)として、
前記永久磁石(4)の複数の前記角部(4c)の内、径方向視で前記軸方向接合領域(JR)と重複し、且つ前記ロータコア(2)の外周面(CP2)に対向する前記角部(4c)の少なくとも1つを特定角部(4s)とし、
前記磁石挿入孔(5)の内壁面における前記角部(4c)に対向する部分を対向面部(5p)とし、複数の前記対向面部(5p)の内、前記特定角部(4s)と対向する前記対向面部(5p)を特定対向面部(5s)とし、
前記特定角部(4s)と前記特定対向面部(5s)との間に形成された隙間(G)が、他の前記角部(4c)と前記対向面部(5p)との間に形成された隙間よりも大きい。
【0056】
この構成によれば、特定角部(4s)と特定対向面部(5s)との間に、他の角部(4c)と対向面部(5p)との間に形成された隙間よりも大きい隙間(G)が形成されるため、永久磁石(4)の特定角部(4s)の付近において、磁石挿入孔(5)の内壁面と永久磁石(4)とを当接し難くすることができる。これにより、ロータコア(2)において、径方向外側(R2)から径方向内側(R1)の溶融接合部(W2)へ向かう収縮力が生じても、この収縮力による永久磁石(4)側からの反作用の力が低減される。即ち、収縮力と反作用の力とに起因する、ロータコア内の引っ張り応力も低減される。従って、本構成によれば、ロータコア(2)とロータ支持部材(9)とが溶融接合部により接合される場合に、ロータコア(2)の部分的な変形の要因となる引っ張り応力を低減することができる。
【0057】
ここで、前記隙間(G)は、前記角部(4c)と前記対向面部(5p)との間に形成された空間であり、前記角部(4c)と前記対向面部(5p)との間に他の配置部材(E)が存在する場合には、前記角部(4c)と前記対向面部(5p)との間における前記配置部材(E)を除く部分に形成された空間であると好適である。
【0058】
この構成によれば、角部(4c)と対向面部(5p)との間に他の配置部材(E)が存在しているか否かに関わらず、特定角部(4s)と特定対向面部(5s)との間に、他の角部(4c)と対向面部(5p)との間に形成された隙間よりも大きい隙間(G)が形成されることになる。従って、他の配置部材(E)の有無に関わらず、永久磁石(4)の特定角部(4s)の付近において、磁石挿入孔(5)の内壁面と永久磁石(4)とを当接し難くすることができる。
【0059】
また、前記配置部材(E)は、前記永久磁石(4)を前記磁石挿入孔(5)の内部に固定するために、前記磁石挿入孔(5)の内壁面と前記永久磁石(4)との間に配置された固定材(F)であると好適である。
【0060】
この構成によれば、固定材(F)により永久磁石(4)を磁石挿入孔(5)の内部に固定することができると共に、当該固定材(F)が角部(4c)と対向面部(5p)との間に配置されているか否かに関わらず、永久磁石(4)の特定角部(4s)の付近において、磁石挿入孔(5)の内壁面と永久磁石(4)とを当接し難くすることができる。
【0061】
ここで、前記永久磁石(4)は、前記特定角部(4s)に、他の前記角部(4c)に比べて大きい面取り(4g)が形成されていると好適である。
【0062】
この構成によれば、永久磁石(4)の一部を削ることで、特定角部(4s)以外の角部(4c)と対向面部(5p)との隙間よりも、特定角部(4s)と特定対向面部(5s)との隙間(G)を大きくすることができる。
【0063】
また、前記磁石挿入孔(5)の前記特定対向面部(5s)が、他の前記対向面部(5p)に比べて前記永久磁石(4)から離間する方向に後退した形状となるように形成されていると好適である。
【0064】
この構成によれば、磁石挿入孔(5)の一部を拡げることで、特定角部(4s)以外の角部(4c)と対向面部(5p)との隙間よりも、特定角部(4s)と特定対向面部(5s)との隙間(G)を大きくすることができる。
【0065】
ここで、前記特定角部(4s)と前記特定対向面部(5s)との隙間(G)が他の前記角部(4c)と前記対向面部(4p)との隙間よりも大きく形成されている領域の前記軸方向(L)の長さ(LG)は、前記軸方向接合領域(JR)の前記軸方向(L)の長さ(LJ)以上であると好適である。
【0066】
ロータコア(2)において、径方向外側(R2)から径方向内側(R1)へ向かう収縮力は、径方向外側(R2)から溶融接合部(W2)へ向かって生じるため、溶融接合部(W2)が形成されている軸方向(L)の範囲において特に収縮力が大きくなり易い。従って、溶融接合部(W2)が形成される軸方向(L)の範囲を含むように、特定角部(4s)と特定対向面部(5s)との隙間(G)が拡大されると好適である。
【0067】
また、前記永久磁石(4)の前記軸方向(L)に直交する断面形状が矩形状であり、4つの前記側面部(4a)の内、前記ロータコア(2)の外周面(CP2)に対向する1つの面である外周側面部(41)が前記周方向(C)に沿うように、前記永久磁石(4)が前記ロータコア(2)に配置され、前記外周側面部(41)と、当該外周側面部(41)に隣接する他の前記側面部(4a)と、前記端面部(4b)とが交差する部分に形成された複数の前記角部(4c)の内、径方向視で前記軸方向接合領域(JR)と重複する前記角部(4c)の全てを前記特定角部(4s)とすると好適である。
【0068】
この構成によれば、ロータコア(2)において、径方向外側(R2)から径方向内側(R1)の溶融接合部(W2)へ向かう収縮力が生じた場合にも、磁石挿入孔(5)の内壁面と永久磁石(4)とを当接し難くすることができる。その結果、この収縮力と永久磁石(4)からの反作用の力とに起因する、ロータコア内の引っ張り応力も低減される。
【0069】
また、前記永久磁石(4)の前記軸方向(L)に直交する断面形状が矩形状であり、軸方向視で一対の前記永久磁石(4)が前記径方向内側(R1)に向かうに従って互いの距離が近づくV字状に配置されるように、前記永久磁石(4)が前記ロータコア(2)に配置され、前記磁石挿入孔(5)に形成されて前記永久磁石(4)の位置決めを行う位置決め部(55)に対向する前記角部(4c)であって、径方向視で前記軸方向接合領域(JR)と重複し、且つ前記ロータコア(2)の外周面(CP2)に対向する前記角部(4c)の全てを前記特定角部(4s)とすると好適である。
【0070】
この構成によれば、ロータコア(2)において、径方向外側(R2)から径方向内側(R1)の溶融接合部(W2)へ向かう収縮力が生じた場合にも、磁石挿入孔(5)に形成された位置決め部(55)と永久磁石(4)とが当接する箇所を減じることができる。特に、強い収縮力が作用する位置決め部(55)と永久磁石(4)との間に隙間(G)が設けられるため、当該位置決め部(55)と永久磁石(4)とを当接し難くすることができる。その結果、この収縮力と永久磁石(4)からの反作用の力とに起因する、ロータコア内の引っ張り応力も低減される。
【0071】
また、少なくとも1つの前記永久磁石(4)により1つの磁極(M)が構成され、複数の磁極(M)が前記周方向(C)に沿って配列され、前記溶融接合部(W2)は、前記ロータコア(2)の内周面(CP1)における前記周方向(C)の一部の領域に形成されていると共に、前記周方向(C)に隣接する2つの磁極(M)の間に配置されていると好適である。
【0072】
磁束の通り道である磁路の抵抗とならないように、溶融接合部(W2)は隣接する磁極(M)の間に設けられることが好ましい。一方、磁極(M)の間に溶融接合部(W2)が配置される場合、ロータコア(2)において磁石挿入孔(5)よりも径方向外側(R2)に位置して径方向幅が薄くなっている部分、いわゆるブリッジ部(BR)の周方向(C)の端部である根元部分が、径方向視で溶融接合部(W2)の近傍に位置する場合が多くなる。溶融接合部(W2)に向かって径方向外側(R2)から径方向内側(R1)に収縮力が生じると、強度が低いブリッジ部(BR)の根元部分に大きな引っ張り応力が作用し、当該ブリッジ部(BR)の周辺においてロータコア(2)の部分的な変形が生じ易くなる。しかし、特定角部(4s)と特定対向面部(5s)との間に上述したような隙間(G)を形成することで、このような引っ張り応力を低減させることができる。従って、この構成によれば、磁路を確保しつつ、引っ張り応力も低減して適切な回転電機用ロータを得ることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 :ロータ(回転電機用ロータ)
2 :ロータコア
3 :電磁鋼板
4 :永久磁石
4a :側面部
4b :端面部
4c :角部
4s :特定角部
4g :面取り部(面取り)
5 :磁石挿入孔
5p :対向面部
5s :特定対向面部
55 :位置決め部
9 :ハブ(ロータ支持部材)
C :周方向
CP1 :内周面
CP2 :外周面
E :配置部材
F :固定材
G :緩衝隙間(特定角部と特定対向面部との間の隙間)
JR :接合領域
L :軸方向
LG :隙間(緩衝隙間)が形成されている領域の軸方向の長さ
LJ :接合領域の軸方向の長さ
M :磁極
R :径方向
R1 :径方向内側
R2 :径方向外側
W2 :第2接合部(溶融接合部)
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