(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】信号処理装置、プログラムおよび音源
(51)【国際特許分類】
G10H 1/057 20060101AFI20220216BHJP
【FI】
G10H1/057 Z
(21)【出願番号】P 2020518925
(86)(22)【出願日】2018-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2018019294
(87)【国際公開番号】W WO2019220623
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大場 保彦
(72)【発明者】
【氏名】仲田 昌史
(72)【発明者】
【氏名】松尾 紀明
【審査官】渡部 幸和
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-253040(JP,A)
【文献】特開平06-130962(JP,A)
【文献】特開2007-248593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00-1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作子の変位に応じた第1のパラメータにより特定される第1の音信号の一部の帯域のレベルを、前記第1のパラメータとは異なる前記変位に応じた第2のパラメータに基づいて変化させた第2の音信号を生成する生成部と、
前記第2の音信号を出力する出力部と、
を有し、
前記生成部は、第1の操作子と第2の操作子とで、前記レベルの変化の大きさを異ならせる
、信号処理装置。
【請求項2】
前記第1の操作子は第1の鍵であり、前記第2の操作子は前記第1の鍵とは異なる第2の鍵である、請求項
1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
操作子の変位に応じた第1のパラメータにより特定される第1の音信号の一部の帯域のレベルを、前記第1のパラメータとは異なる前記変位に応じた第2のパラメータに基づいて変化させた第2の音信号を生成する生成部と、
前記第2の音信号を出力する出力部と、
を有し、
前記一部の帯域は、150~200Hzを含む範囲である、信号処理装置。
【請求項4】
操作子の変位に応じた第1のパラメータにより特定される第1の音信号の一部の帯域のレベルを、前記第1のパラメータと、前記第1のパラメータとは異なる前記変位に応じた第2のパラメータとに基づいて変化させた第2の音信号を生成する生成部と、
前記第2の音信号を出力する出力部と、
を有する、信号処理装置。
【請求項5】
前記操作子は鍵である、請求項
3又は4に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記第1のパラメータおよび前記第2のパラメータは、前記操作子の変位に基づいて互いに異なる計算方法で計算される、請求項1
乃至5の何れか1項に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記第1のパラメータは、前記操作子の速度である、請求項1
乃至6の何れか1項に記載の信号処理装置。
【請求項8】
前記第2のパラメータは、前記操作子の加速度である、請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項9】
コンピュータに、
操作子の変位に応じた第1のパラメータにより特定される第1の音信号の一部の帯域のレベルを、前記第1のパラメータとは異なる前記変位に応じた第2のパラメータに基づいて変化させた第2の音信号を出力する、
処理を実行させ、
第1の操作子と第2の操作子とで、前記レベルの変化の大きさを異ならせる
、プログラム。
【請求項10】
前記第1の操作子は第1の鍵であり、前記第2の操作子は前記第1の鍵とは異なる第2の鍵である、請求項
9に記載のプログラム。
【請求項11】
コンピュータに、
操作子の変位に応じた第1のパラメータにより特定される第1の音信号の一部の帯域のレベルを、前記第1のパラメータとは異なる前記変位に応じた第2のパラメータに基づいて変化させた第2の音信号を出力する、
処理を実行させ、
前記一部の帯域は、150~200Hzを含む範囲である
、プログラム。
【請求項12】
コンピュータに、
操作子の変位に応じた第1のパラメータにより特定される第1の音信号の一部の帯域のレベルを、前記第1のパラメータと、前記第1のパラメータとは異なる前記変位に応じた第2のパラメータに基づいて変化させた第2の音信号を出力する、
処理を実行させる、プログラム。
【請求項13】
前記操作子は鍵である、請求
項11又は12に記載のプログラム。
【請求項14】
前記第1のパラメータおよび前記第2のパラメータは、前記操作子の変位に基づいて互いに異なる計算方法で計算される、請求項9
乃至13の何れか1項に記載のプログラム。
【請求項15】
前記第1のパラメータは、前記操作子の速度である、請求項9
乃至14の何れか1項に記載のプログラム。
【請求項16】
前記第2のパラメータは、前記操作子の加速度である、請求項9乃至
15のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項17】
前記第2の音信号を出力することは、
前記鍵の加速度が相対的に大きいほど、前記レベルを相対的に大きく変化させること、及び
前記鍵の加速度が相対的に小さいほど、前記レベルを相対的に小さく変化させること、
を含む、請求項
10又は13に記載のプログラム。
【請求項18】
前記第2の音信号を出力することは、前記操作子のノート番号に応じて前記レベルを変化させること、をさらに含む、請求項9
乃至17の何れか1項に記載のプログラム。
【請求項19】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の信号処理装置、
を有する、音源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作に応じて音を変化させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、打弦音に加え、鍵の押下に伴って生じる棚板衝突音を再現した音を発生させる電子ピアノを開示している。特許文献1の技術においては、音源の内部の波形メモリに、ハンマー打弦音を発生させる楽音波形データ、および棚板衝突音を発生させる衝突波形データがそれぞれ複数記憶されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電子ピアノは、サンプリングにより得られたハンマー打弦音および棚板衝突音の各音の波形データを分けて記憶する。この電子ピアノは、記憶したハンマー打弦音の波形データと棚板衝突音の波形データとに基づいて、音信号を生成する。特許文献1の技術では、あらかじめ、ハンマー打弦音と棚板衝突音とを分けてサンプリングしておく必要がある。
【0005】
これに対し、本発明の目的の一つは、複数の音の各音の波形データを用いない場合でも、操作子の操作に応じて発生する音に変化を与えることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、操作子の変位に応じた第1のパラメータにより特定される第1の音信号の一部の帯域のレベルを、前記第1のパラメータとは異なる前記変位に応じた第2のパラメータに基づいて変化させた第2の音信号を生成する生成部と、前記第2の音信号を出力する出力部と、を有する信号処理装置が提供される。
【0007】
前記第1のパラメータおよび前記第2のパラメータは、前記操作子の変位に基づいて互いに異なる計算方法で計算されてもよい。
【0008】
前記第1のパラメータは、前記操作子の速度であってもよい。
【0009】
前記第2のパラメータは、前記操作子の加速度であってもよい。
【0010】
前記生成部は、第1の操作子と第2の操作子とで、前記レベルの変化の大きさを異ならせてもよい。
【0011】
前記生成部は、前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとに基づいて前記レベルを変化させてもよい。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、操作子の変位に応じた第1のパラメータにより特定される第1の音信号の一部の帯域のレベルを、前記第1のパラメータとは異なる前記変位に応じた第2のパラメータに基づいて変化させた第2の音信号を生成する信号処理方法が提供される。
【0013】
前記第1のパラメータおよび前記第2のパラメータは、前記操作子の変位に基づいて互いに異なる計算方法で計算されてもよい。
【0014】
前記第1のパラメータは、前記操作子の速度であってもよい。
【0015】
前記第2のパラメータは、前記操作子の加速度であってもよい。
【0016】
第1の操作子と第2の操作子とで、前記レベルの変化の大きさが異なっていてもよい。
【0017】
前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとに基づいて前記レベルが変化されてもよい。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、コンピュータに、操作子の変位に応じた第1のパラメータにより特定される第1の音信号の一部の帯域のレベルを、前記第1のパラメータとは異なる前記変位に応じた第2のパラメータに基づいて変化させた第2の音信号を生成する処理を実行させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、複数の音の各音の波形データを用いない場合でも、操作子の操作に応じて発生する音に変化を与えるための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態における電子鍵盤楽器の構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態における電子鍵盤楽器の構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態における電子鍵盤楽器の内部(鍵盤アセンブリ)の構成を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態における制御部および音源の機能構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の一実施形態における各ノート番号に対する打弦音および衝突音の音高の関係を説明する図である。
【
図6】本発明の一実施形態におけるゲインテーブル群の構成を例示する図である。
【
図7】本発明の一実施形態における複数の押鍵速度についての押鍵加速度とゲイン値との関係を例示するグラフである。
【
図8】本発明の一実施形態における信号生成部の機能構成を例示する図である。
【
図9】本発明の一実施形態におけるイコライザの処理を例示する図である。
【
図10】本発明の一実施形態における制御部の制御を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の一変形例における音高と重み値との関係を例示するグラフである。
【
図12】本発明の一変形例における電子鍵盤楽器の内部(鍵盤アセンブリ)の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態における電子鍵盤楽器について、図面を参照しながら説明する。以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、B等を付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態における電子鍵盤楽器1の構成を示す図である。電子鍵盤楽器1は、複数の鍵70を有する鍵盤楽器の一例である。鍵70は、発音を指示するためにユーザにより操作される操作子の一例である。ユーザが鍵70を押す操作(つまり、押鍵)をすると、鍵70は変位し、スピーカ60から音が発生する。複数の鍵70の各々は、打弦音の互いに異なる音高に対応している。発生する音の種類(音色)は、操作部21を用いて変更される。電子鍵盤楽器1は、例えば電子ピアノである。電子鍵盤楽器1は、ピアノの音色で発音する場合、アコースティックピアノに近い発音をすることができる。特に、電子鍵盤楽器1は、打弦音に加え、アコースティックピアノにおいて押鍵時にストロークエンドに到達したときの衝撃が棚板に伝わって発生する音、いわゆる棚板衝突音を再現することができる。
【0023】
複数の鍵70は、筐体50に回動可能に支持されている。操作部21、表示部23、およびスピーカ60は、筐体50によって支持されている。制御部10、記憶部30、検出部75、および音源80は、筐体50の内部に配置されている。電子鍵盤楽器1は、さらに、外部装置と信号の入出力をするためのインターフェースを含んでもよい。インターフェースは、例えば、外部装置に音信号を出力する端子、MIDI(登録商標)形式のデータの送受信をするためのケーブル接続端子を含んでもよい。
【0024】
図2は、電子鍵盤楽器1の構成を示すブロック図である。電子鍵盤楽器1は、電子鍵盤楽器1の動作を制御する制御部10を備える。制御部10は、バス(データバスおよびアドレスバス)40を介して、記憶部30と、通信部22と、操作部21と、表示部23と、音源80と、検出部75との各々と電気的に接続する。音源80は、スピーカ60と電気的に接続する。
【0025】
制御部10においてROM12は、CPU11が実行する各種のコンピュータプログラム、CPU11が所定のコンピュータプログラムを実行する際に参照する各種のテーブルデータなどを読み出し可能に記憶する。RAM13は、CPU11が所定のコンピュータプログラムを実行する際に発生する各種データなどを一時的に記憶するワーキングメモリとして使用される。あるいは、RAM13は、実行中のコンピュータプログラムやそれに関連するデータを一時的に記憶するメモリなどとして使用される。
【0026】
操作部21は、例えば、操作ボタン、タッチセンサおよびスライダを含む。表示部23は、例えば液晶表示装置または有機ELを含む。表示部23は、電子鍵盤楽器1の制御状態、操作部31を用いて行われた設定および制御に関する情報などを表示する。スピーカ60は、音源80からの音信号に応じた音を発する。通信部22は、電子鍵盤楽器1と図示せぬ外部機器(例えば、サーバやMIDI機器など)との間で制御プログラムや、それに関連する各種データ、演奏操作に対応したイベント情報などを送受信するためのインターフェースである。通信部22は、例えば、MIDIインターフェース、LAN、インターネット、電話回線などのインターフェースであってもよい。また、通信部22は、有線のインターフェースでもよいし、無線のインターフェースでもよい。
【0027】
記憶部30は、各種のアプリケーションプログラムやそれに関連する各種のデータなどを記憶する。記憶部30は、制御プログラムのほか、例えば、音源80において用いられるテーブル、およびパラメータを記憶する。波形データは、音の波形を示すデータ(デジタルデータ)である。パラメータは、波形データに基づき生成される音信号に変化を与えるためのパラメータである。記憶部30は、例えば、不揮発性のメモリである。音源80は、発音のための信号処理を行う信号処理装置の一例である。スピーカ60は、音源80から出力される音信号に応じて発音する。
【0028】
検出部75は、複数の鍵70の各々の位置(すなわち、押下範囲における位置)を検出する。検出部75は、複数の鍵70の各々の位置に対応して設けられたセンサを含む。検出部75は、押下された鍵70を示す情報と、鍵70の位置を示す情報とを対応付けて出力する。
【0029】
図3は、電子鍵盤楽器1の内部(鍵盤アセンブリ)の構成を示す図である。
図3には、複数の鍵70が配列する方向に交差する平面で電子鍵盤楽器1を切断したときの、電子鍵盤楽器1の断面が示されている。なお、
図3には、複数の鍵70のうちの白鍵に関する構成が示してある。
【0030】
棚板58は、筐体50の一部を構成する部材である。フレーム78は、棚板58の上面に固定されている。鍵支持部材781は、フレーム78の上板部に配置され、フレーム78から上方に突出する。鍵支持部材781は、軸782を中心として鍵70を回動可能に支持する。ハンマー支持部材785は、フレーム78の上板部に配置され、下方に突出する。ハンマー76は、フレーム78の上板部を挟んで鍵70の反対側に配置されている。ハンマー支持部材785は、軸765を中心としてハンマー76を回動可能に支持する。ハンマー76は、軸765における一端に鍵接続部761を有する。
【0031】
ハンマー接続部706は、鍵70の下面に配置され、鍵70の下方に突出する。ハンマー接続部706は、下端部に連結部707を備える。連結部707と鍵接続部761とは、摺動可能に接続されている。ハンマー76は、軸765における他端に錘768を備える。鍵70が操作されていないとき、錘768は、その自重により下限ストッパ791に載置されている。
【0032】
鍵70が押下されると、鍵接続部761が下方に移動する。鍵接続部761の移動に応じてハンマー76が回動し、錘768が上方に移動する。錘768が上限ストッパ792に衝突すると、ハンマー76の回動が制限されるので、鍵70をそれ以上は押下できない。鍵70が強く押下されると、ハンマー76(錘768)が上限ストッパ792に衝突し、そのときに衝突音が発生する。この衝突音はフレーム78を介して棚板58に伝達されもよい。なお、電子鍵盤楽器1の内部は、
図3に示す構成に限らない。電子鍵盤楽器1は、例えば、衝突音を生じない構成または衝突音が生じにくい構成であってもよい。
【0033】
上述した検出部75は、第1センサ75-1、第2センサ75-2および第3センサ75-3を含む。第1センサ75-1、第2センサ75-2および第3センサ75-3は、フレーム78と鍵70との間に配置されている。第1センサ75-1、第2センサ75-2および第3センサ75-3は、例えば感圧スイッチである。第1センサ75-1、第2センサ75-2および第3センサ75-3は、鍵70の押下範囲(レスト位置からエンド位置まで)の異なる位置に配置されている。
【0034】
第1センサ75-1、第2センサ75-2および第3センサ75-3は、鍵70が通過したことを検出すると、検出信号を出力する。具体的には、ユーザにより鍵70が押下されると、まず、第1センサ75-1が第1検出信号KP1を出力する。鍵70がさらに深く押下されると、第2センサ75-2が第2検出信号KP2を出力する。鍵70がさらに深く押下されると、第3センサ75-3が第3検出信号KP3を出力する。一方、押下された鍵70が元の位置(レスト位置)に戻るときには、第3検出信号KP3、第2検出信号KP2、および第1検出信号KP1の順に、検出信号の出力が停止する。
【0035】
図4は、制御部10および音源80の機能構成を示すブロック図である。制御部10は、検出部75から出力される鍵番号KC、第1検出信号KP1、第2検出信号KP2および第3検出信号KP3に基づいて、音源80を制御する。音源80は、波形メモリ810と、出力部820と、信号生成部830とを含む。鍵番号KCは、互いに重複しないように複数の鍵70の各々に割り当てられた番号である。信号生成部830は、波形メモリ810から波形データSWを読み出して音信号Soutを生成する。信号生成部830は、音信号Soutを出力部820に出力する。すなわち、信号生成部830は、出力すべき音信号を生成する生成部の一例である。出力部820は、音信号Soutをスピーカ60に出力する。
【0036】
波形メモリ810は、複数の波形データを記憶している。波形データは、本実施形態では、アコースティックピアノの音をサンプリングした波形データである。複数の波形データは、鍵70が押下されたときに読み出される波形データとして、打弦音と押鍵に伴う棚板衝突音とを含む音の波形データを含む。波形メモリ810は、複数の打弦音の音高ごとに波形データを記憶している。波形データは、例えば、打弦音の音高ごとに割り当てられるノート番号に対応付けられる。打弦音は、ノート番号によって音高が変化する。一方、棚板衝突音は、本実施形態においてはノート番号によって音高は変化しないものとしている。すなわち、棚板衝突音は、ノート番号にかかわらず共通の音を示す。
【0037】
図5は、各ノート番号に対応する打弦音および棚板衝突音の音高の関係を説明する図である。
図5は、ノート番号と音高との関係を示している。
図5においては、打弦音の音高p1と衝突音の音高p2とを対比して示している。ノート番号が変化すると、打弦音の音高p1が変化する。一方、ノート番号が変化しても、衝突音の音高p2は変化しない。言い換えると、打弦音の音高p1は、ノート番号がN1である場合とN2である場合とでは異なる。一方、衝突音の音高p2は、ノート番号がN1である場合とN2である場合とで同じである。なお、
図5に示す打弦音の音高p1と衝突音の音高p2とは、それぞれのノート番号に対する変化の傾向を示したものであって、互いの大小関係を示したものではない。
【0038】
制御部10は、制御信号生成部120と、押鍵速度算出部130と、音量決定部140と、加速度算出部160と、ゲイン決定部170と、を含む。
【0039】
制御信号生成部120は、検出部75から出力される信号(鍵番号KC、KP1,KP2,KP3)に基づいて、発音を制御する制御信号を生成する。制御信号は、本実施形態ではMIDI形式のデータで、ノート番号Note、ノートオンNonおよびノートオフNoffを含む。制御信号生成部120は、鍵70が押下されたときに、ノートオンNonを出力する。具体的には、制御信号生成部120は、検出部75から第3検出信号KP3が出力されると、ノートオンNonを生成して出力する。制御信号生成部120は、対象となるノート番号Noteを、第3検出信号KP3に対応して出力された鍵番号KCに基づいて決定する。
【0040】
制御信号生成部120は、押下された鍵70がレスト位置に戻るときに、ノートオフNoffを出力する。具体的には、制御信号生成部120は、ノートオンNonを生成した後に、対応する鍵番号KCの第1検出信号KP1の出力が停止されると、ノートオフNoffを生成して出力する。
【0041】
押鍵速度算出部130は、検出部75から供給された信号に基づいて、押鍵速度Vを算出する。押鍵速度は、鍵70が押下されたときの速度で、第1のパラメータの一例である。押鍵速度算出部130は、例えば、KP1とKP2との出力の時間差に基づいて押鍵速度Vを算出する。
【0042】
音量決定部140は、音量テーブル150を参照して、押鍵速度Vに基づいて音量VoDを決定する。音量テーブル150は、例えば、記憶部30に記憶されている。音量テーブル150は、押鍵速度と音量との関係を指定するテーブルである。音量テーブル150は、例えば、押鍵速度が大きいほど音量が大きくなる関係を指定する。押鍵速度の増加に対して音量が線形増加してもよいし、曲線的に変化(例えば、下に凸または上に凸となる曲線的な変化)してもよい。音量決定部140は、音量VoDを信号生成部110に出力する。
【0043】
加速度算出部160は、検出部75から出力される信号に基づいて、押鍵加速度αを算出する。押鍵加速度αは、鍵70が押下されたときの加速度で、第2のパラメータの一例である。押鍵加速度が正の値の場合、鍵70が押下されている間に徐々に加速していることを示す。押鍵加速度が負の値の場合、鍵70が押下されている間に徐々に減速していることを示す。加速度算出部160は、例えば、KP1とKP2との出力の時間差およびKP2とKP3との出力の時間差に基づいて押鍵加速度αを算出する。なお、押鍵速度Vおよび押鍵加速度αは、どちらも鍵70の変位に応じたパラメータであるが、互いに計算方法により計算されたパラメータである。
【0044】
ゲイン決定部170は、ゲインテーブル群180のうちから選択した一のゲインテーブルを参照して、押鍵加速度αに応じたゲイン値VoGを決定する。ゲインテーブル群180は、例えば、記憶部30に記憶されている。
図6は、ゲインテーブル群180の構成を例示する図である。ゲインテーブル群180は、ゲインテーブル180-1,180-2,180-3,180-4,・・・,180-m(ただし、mは自然数)を含む。ゲインテーブル180-1,180-2,180-3,180-4,・・・,180-mは、それぞれ押鍵加速度とゲイン値との関係を指定するテーブルである。ゲインテーブル180-1,180-2,180-3,180-4,・・・,180-mは、互いに異なる押鍵速度に対応する。すなわち、ゲイン決定部170は、ゲインテーブル群180のうちから押鍵速度Vに応じたゲインテーブルを選択する。ゲイン決定部170は、ゲイン値VoGを信号生成部830に出力する。信号生成部830は、制御信号生成部120、音量決定部140、およびゲイン決定部170の各々から供給されるパラメータに基づいて、音信号Soutを生成する。
【0045】
押鍵加速度とゲイン値との関係の一例を説明する。
図6に示すゲインテーブル180-1の場合、押鍵加速度が負の値またはゼロ付近である範囲を含む範囲Aでは、ゲイン値は負の方向に比較的大きな値をとる。また、範囲Aでは、押鍵加速度の変化に対するゲイン値の変化は比較的小さい。範囲Aよりも押鍵加速度が正の方向に大きい範囲Bにおいては、範囲Aよりも、押鍵加速度の正の方向への変化に対するゲイン値の正の方向への変化が大きい。
図6の例では、範囲Bにおいて押鍵加速度の増加に対してゲイン値が概ね線形増加しているが、この関係に限られない。範囲Bよりもさらに押鍵加速度が正の方向に大きい範囲Cにおいては、ゲイン値は正の値である。範囲Cにおいては、範囲Bよりも、押鍵加速度の変化に対するゲイン値の変化が小さい。
【0046】
ゲインテーブル180-2,180-3,180-4,・・・,180-mは、ゲインテーブル180-1と同様の傾向の押鍵加速度とゲイン値との関係を指定するが、具体的な値の関係は異なる。
【0047】
図7は、押鍵速度V1,V2,V3,V4についての押鍵加速度とゲイン値との関係を例示するグラフである。ここでは、押鍵速度V4,V3,V1,V1の順で、押鍵速度が大きい。
図7に示すように、典型的には、押鍵加速度に対するゲイン値は押鍵速度が大きい場合ほど大きい。例えば、押鍵加速度が
図7に示すα2である場合、押鍵速度V1,V2,V3,V4の場合におけるゲイン値は、それぞれG1,G2,G3,G4(ただし、G4>G3>G2>G1)である。
【0048】
図8は、信号生成部830の機能構成を例示するブロック図である。信号生成部830は、音信号生成部1100と、合成部1112と、を含む。音信号生成部1100は、検出部75から出力される信号に基づいて、音信号を生成する。合成部1112は、音信号生成部1100において生成される音信号を合成して、音信号Soutとして出力する。
【0049】
音信号生成部1100は、波形読出部111(波形読出部111-k;k=1~n)と、EV(エンベロープ)波形生成部112(EV波形生成部112-k;k=1~n)と、乗算器113(乗算器113-k;k=1~n)と、イコライザ(EQ)115(イコライザ115-k;k=1~n)と、増幅器116(116-k;k=1~n)と、を有する。上記の「n」は、同時に発音できる数(すなわち、同時に生成できる音信号の数)に対応し、この例では「32」である。すなわち、この音信号生成部1100によれば、32回の押鍵まで発音した状態が維持され、全てが発音している状態で33回目の押鍵があった場合には、最初の発音に対応する音信号が強制的に停止される。
【0050】
波形読出部111-1は、制御信号生成部120から得られた制御信号(例えばノートオンNon)、ノート番号Note、および押鍵速度Vに基づいて、波形メモリ161から読み出すべき波形データSW-1を特定して、これを読み出す。波形読出部111-1は、波形データSW-1で示される音信号Sa-1を乗算器113-1に出力する。音信号Sa-1は、第1の音信号の一例である。
【0051】
EV波形生成部112-1は、制御信号生成部120から得られた制御信号およびあらかじめ設定されたパラメータに基づいて、エンベロープ波形を生成する。例えば、エンベロープ波形は、アタックレベル、アタックタイム、ディケイタイム、サスティンレベルおよびリリースタイムのパラメータによって特定される。
【0052】
乗算器113-1は、波形読出部111-1からの音信号Sa-1に対して、EV波形生成部112-1において生成されたエンベロープ波形を乗算し、イコライザ115-1に出力する。
【0053】
イコライザ115-1は、ゲイン決定部170により設定されたゲイン値VoGに基づいてゲイン調整を行い、音信号Sb-1を生成する。ゲイン調整は、本実施形態では、音信号の一部の帯域(周波数帯域)のレベルを変化させる処理である。イコライザ115-1は、音信号Sb-1を増幅器116-1に出力する。
【0054】
図9は、イコライザ115-1の処理を例示する図である。
図9は、音信号の周波数[Hz]と、ゲイン調整に用いられるゲイン値[dB](デシベル)との関係を示すグラフである。
図9には、
図8に示す押鍵速度V2のときの加速度がα1,α2,α3,α4のそれぞれの場合のゲイン値が示されている。ゲイン値がゼロである場合、音信号のゲインが変化しない、つまり、その周波数のレベル(音圧)は変化しないことを意味する。ゲイン値が正の値の場合、レベルを高くすることを意味し、その値が大きいほどよりレベルが高くなる。ゲイン値が負の値の場合、レベルを低くすることを意味し、その値が大きいほどレベルはより低くなる。
【0055】
図9に示すように、イコライザ115-1は、周波数f0を中心とした幅Wの帯域(つまり、f0-W/2~f0+W/2)においてレベルを変化させる。ゲイン値VoGは、周波数f0におけるゲイン値を示す。
図9の例では、周波数f0において、押鍵加速度がα1の場合はゲイン値G1、押鍵加速度がα2の場合はゲイン値G2、押鍵加速度がα3の場合はゲイン値G3、押鍵加速度がα4の場合はゲイン値G4が用いられる。該帯域においてゲイン値は滑らかに変化し、周波数f0-W/2およびf0+W/2においてゼロとなる。
【0056】
周波数f0は、例えば、150~200Hzの範囲内に属する周波数である。周波数f0は、棚板衝撃音の周波数の成分と一致する。このため、ゲイン値VoGが大きいほど、棚板衝撃音を相対的に強調させるゲイン調整が行われ、反対に、ゲイン値VoGが小さいほど、棚板衝撃音を相対的に弱めるゲイン調整が行われる。
図9に示したように、ゲイン値VoGが、押鍵加速度の広い範囲で負の値をとっている理由は、波形データSW-1(音信号Sa-1)に含まれていた棚板衝突音の成分に基づいて、棚板衝突音の強弱を再現するためである。
【0057】
増幅器116-1は、設定された増幅率に応じて音信号Sb-1を増幅させて、合成部1112に出力する。増幅率は、音量決定部140において決定された音量VoDに基づいて設定される。音量決定部140は、音量VoDに基づいて音信号の出力レベルを調整する。
【0058】
なお、k=1の場合(k=1~n)について例示したが、波形読出部111-1から打弦音波形データSW-1が読み出されているときに次の鍵70を押す操作が行われるたびに、k=2,3,4,・・・という順に、制御信号生成部120から得られた制御信号が適用されていく。例えば、次の押鍵であれば、k=2の構成に制御信号が適用されて、波形読出部111-2が波形データSW-2を読み出して、音信号Sa-2(第1の音信号)を乗算器113-2に出力する。イコライザ115-2は、乗算器113-2からの音信号のゲイン調整を行い、音信号Sb-2を生成する。次の押鍵であれば、k=3の構成に制御信号が適用される。すなわち、k=i(ただし、1≦i≦32)の構成に制御信号が適用された場合は、波形読出部111-iが波形データSW-iを読み出して、音信号Sa-i(第1の音信号)を乗算器113-iに出力する。イコライザ115-iは、乗算器113-iからの音信号のゲイン調整を行い、音信号Sb-iを生成する。すなわち、信号生成部110は、複数の鍵70が押下された場合には、各鍵70に対応する指定されたノート番号ごとに、音信号を出力する。
【0059】
合成部1112は、音信号生成部1100から出力される音信号を合成して、音信号Soutとして出力部820に出力する。音信号Soutは、第2の音信号の一例である。以上が、音源80の構成についての説明である。
【0060】
図10は、制御部10の制御を示すフローチャートである。
図10の処理は、制御部10において鍵番号KC(ノート番号Note)ごとに実行される。例えば、制御部10は、第1検出信号KP1が出力されると、その出力に対応した鍵番号KCに対応して開始される。まず、制御部10は、第3検出信号KP3の出力が開始されるか、第1検出信号KP1の出力が停止するまで待機する(ステップS1:NO、ステップS2:NO)。ステップS1、S2では、制御部10は、いずれかの鍵70が発音開始位置まで押下されたかどうかを判断する。第1検出信号KP1の出力が停止した場合(ステップS2;YES)、
図10の処理は終了する。
【0061】
ステップS1で「YES」と判断した場合、制御部10は、第3検出信号KP3の出力タイミングと第2検出信号KP2の出力タイミングとの時間差から押鍵速度Vを算出し、第1検出信号KP1、第2検出信号KP2および第3検出信号KP3の出力タイミングの時間差から押鍵加速度αを算出する(ステップS3)。次に、制御部10は、音量テーブル150を参照して、押鍵速度Vに対応付けられた音量を、音量VoDに決定する(ステップS4)。
【0062】
次に、制御部10は、ゲインテーブル群180のうちから、押鍵速度Vに応じた一のゲインテーブルを選択する(ステップS5)。次に、制御部10は、選択したゲインテーブルにおいて押鍵加速度αに対応付けられたゲイン値を、ゲイン値VoGに決定する(ステップS6)。次に、制御部10は、音源80に音信号の生成および出力(すなわち、発音)を開始させる(ステップS7)。ステップS7において、制御部10は、例えば、RAM13または記憶部30に記憶した発音状態フラグSTを「1」にセットし、ノートオンNonを生成して音源80に出力する。ノートオンNonに応じて、音源80は、第3検出信号KP3の出力が開始された鍵70に対応するノート番号Note、および押鍵速度Vにより特定される波形データSWを、波形メモリ810から読み出す。また、音源80は、ゲイン値VoGに基づいて、波形データSWに基づき生成した音信号のゲイン調整を行う。音源80は、ゲイン調整により生成した音信号を音量VoDに応じた増幅率で増幅し、音信号Soutをスピーカ60に出力する。
【0063】
次に、制御部10は、第1検出信号KP1の出力が停止したかどうかを判断する(ステップS8)。ステップS8は、発音状態フラグSTが「1」であり、かつ第1検出信号KP1の出力中の状態が継続しているかどうかを判断する処理であってもよい。ステップS8で「NO」と判断される場合、いずれかの鍵70が発音開始位置まで押下された後、その押下された状態が継続していることを意味する。よって、ステップS8で「NO」と判断される期間は、音源80は、該鍵70の鍵番号KCによって特定される音信号をスピーカ60に出力して発音を継続する。ここにおいて、棚板衝突音は発せられないので、音源80は、棚板衝突音の成分を含まない音を発する。音源80は、例えば、棚板衝突音の成分を含まない音の波形データの一部をループ出力してもよいし、あるいは棚板衝突音の成分を含まない音の波形データを波形メモリ810に記憶しておき、この波形データに基づいて生成した音信号をスピーカ60に出力してもよい。
【0064】
ステップS8で「YES」と判断した場合、制御部10は音源80に音信号の生成および出力を停止させる(ステップS9)。ステップS9において、制御部10は、例えば、発音状態フラグSTを「0」にリセットし、ノートオフNoffを生成して音源80に出力する。ステップS9で「NO」と判断される場合、鍵70の操作が止音開始位置に到達したことを意味する。ノートオフNoffに応じて、音源80は、波形データに乗算するエンベロープをリリース波形に変更する。そして、音源80は、読み出した波形データにエンベロープ波形を乗算するエンベロープ処理を行って、音信号を出力する。ここにおいても、棚板衝突音は発せられないので、ステップS8で「YES」と判断される期間と同様の処理が行われる。なお、エンベロープ処理には、公知のADSR(Attack、Decay、Sustain、Release)制御が施される。制御部10は、ステップS9の処理により音源80の発音を停止させると、
図10の処理を終了する。
【0065】
以上説明したように、電子鍵盤楽器1によれば、波形メモリ810に打弦音と棚板衝突音とを含む音の波形データを記憶し、鍵70が押下されたときは、ゲイン調整を行って、棚板衝突音に相当する成分のレベルを調整する。例えば、強く鍵70が押下された場合は、棚板衝突音に相当する成分を相対的に強調するゲイン調整が行われ、弱く鍵70が押下された場合は、棚板衝突音に相当する成分を相対的に弱め、または発音しないゲイン調整が行われる。これにより、電子鍵盤楽器1は、あらかじめ、打弦音および棚板衝突音の各音分けてサンプリングした波形データを記憶しておかなくとも、操作に応じて変化する打弦音および棚板衝突音を再現した音を発することができる。
【0066】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の一実施形態は、以下のように様々な形態に変形することもできる。また、上述した実施形態および以下に説明する変形例は、それぞれ互いに組み合わせて適用することもできる。
【0067】
制御部10は、操作された鍵70(換言すると、ノート番号)に応じたゲイン値VoGを決定してもよい。すなわち、音源80は、ある鍵70(第1の操作子)とそれとは別の鍵70(第2の操作子)とで、ゲイン調整におけるレベルの変化の大きさを異ならせる。
【0068】
例えば、およそ100Hz付近の帯域において音信号のレベルを下げた場合、低音域の音が細くなってしまうことがある。このため、音源80は、所定の音高以下の音域ではゲイン調整を行わない、または該所定の音よりも高い音域よりもゲイン値を正の方向の値とする。具体的には、ゲイン決定部170は、ゲインテーブルに基づいて特定したゲイン値に、操作された鍵70に応じた重み値を乗じて得た値を、ゲイン値VoGに決定してもよい。
【0069】
図11は、ノート番号と重み値Pとの関係を例示するグラフである。
図11に示すように、所定のノート番号(ここでは、A3)以下の音域においては、重み値Pはゼロである。すなわち、重み値Pがゼロである場合、ゲイン値VoGはゼロとなる。よって、イコライザ115によるゲイン調整でレベルは変化せず、実質的にゲイン調整が行われていないことになる。
【0070】
一方、所定のノート番号(ここでは、A3)よりも高い音域においては、重み値Pは正の値である。また、ここでは、重み値Pは、音高が高いほど大きな値である。なお、
図11では、重み値Pは上に凸の曲線的に増大しているが、例えば下に凸の曲線的に増大してもよいし、線形増加してもよい。これにより、比較的高い音域では、打弦音と棚板衝撃音とが発音され、低い音域では打弦音の質が低下することが抑制される。
【0071】
音源80(イコライザ115)は、或る押鍵加速度に対応するゲイン値を時間的に変化させてもよい。音源80は、例えば、ゲイン調整を行う幅Wを、中心周波数f0を中心としたまま時間の経過とともに拡大し、または縮小してもよい。
【0072】
上述した実施形態の構成および動作の一部が省略または変更されてもよい。例えば、音源80は、押鍵速度によってはゲイン値を変更せずに、押鍵加速度のみによってゲイン決定をしてもよい。上述した実施形態では、音源80は、音量テーブル150に基づいて音量を決定し、ゲインテーブルに基づいてゲイン決定していた。テーブルを参照する方法に限られず、例えば、音源80は、所定の計算式による計算によって音量またはゲイン値を決定してもよい。また、合成部1112が省略されてもよい。すなわち、音信号Soutは、少なくともゲイン調整が行われた音信号であればよい。
【0073】
第1センサ75-1、第2センサ75-2、および第3センサ75-3は、感圧スイッチに代えて磁気センサ、静電容量センサまたはその他のセンサであってもよい。また、押鍵速度および押鍵加速度は、第1センサ75-1、第2センサ75-2、および第3センサ75-3を用いて検出される方法に限られない。
【0074】
電子鍵盤楽器1は、鍵70の位置を連続的に検出するセンサを用いてもよい。
図12は、一変形例における電子鍵盤楽器の内部(鍵盤アセンブリ)の構成を示す図である。この例では、電子鍵盤楽器は、ストロークセンサ75Aによってハンマーの動作を検出する。ストロークセンサは、第1実施形態における検出部75に対応し、センサ部752と、反射部754と、壁756とにより構成されている。フレーム78の上板部の上面には、発光および受光を行うセンサ部752が設けられている。鍵70の下面であってセンサ部752と対向する部位には、センサ部752から発光された光を反射する反射部754が設けられている。また、鍵70の下面と上板部の上面との間には、センサ部752および反射部754の周囲を囲むように壁756が設けられている。壁756は、外来光がセンサ部752に侵入しないようにするための部材であり、軟質ゴムなどの可撓性材料により形成されている。
【0075】
センサ部752から発光された光は反射部754において反射し、その反射光はセンサ部752により受光される。押鍵操作により鍵70が下降すると、センサ部752と反射部754との距離が小さくなり、センサ部752の受光量が増加する。つまり、鍵70の下降量に応じてセンサ部752の受光量が連続して変化する。センサ部752は受光量に応じた電気信号をA/D変換部(図示略)に出力し、そのA/D変換部によってデジタルデータに変換された信号が押鍵速度算出部130および加速度算出部160へ出力される。
【0076】
また、鍵70に連動するハンマー76(連動部材)にセンサを設け、音源80は、各センサから出力される信号に基づいて押鍵速度Vおよび押鍵加速度αを計算してもよい。すなわち、押鍵速度は、鍵70の速度、および鍵70の移動に伴い移動する部位の速度のどちらであってもよい。押鍵加速度は、鍵70の加速度、および鍵70の移動に伴い移動する部位の加速度のどちらであってもよい。
【0077】
上述した実施形態では、音のサンプリング対象のアコースティック楽器は、アコースティックピアノであったが、チェレスタ、チェンバロ(ハープシコード)、グロッケンシュピールなどのアコースティック楽器、管楽器であってもよい。また、電子鍵盤楽器以外の電子楽器にも本発明を適用できる。電子楽器にあっては、発音を指示する操作子は、操作に応じて変位する操作子である。
【0078】
第1のパラメータ、および第2のパラメータは、それぞれ速度、加速度以外のパラメータでもよい。第1のパラメータ、および第2のパラメータは、鍵70の変位に基づいて互いに異なる計算方法で計算されたパラメータであればよい。第2のパラメータは、加速度ではなく、鍵70の速度の変化、例えば鍵70の前半の移動と後半の移動の速度比であってもよい。
【0079】
上述した実施形態では、電子鍵盤楽器1において鍵70と音源80とは筐体50において一体の楽器として構成されていたが、別々の構成であってもよい。この場合には、例えば、音源80は、外部装置と接続するインターフェースを介して、検出部75における複数のセンサからの検出信号を取得してもよいし、このような検出信号を時系列に記録したデータから、当該検出信号を取得してもよい。
【0080】
また、電子鍵盤楽器1が発する棚板衝突音は、ノート番号にかかわらず共通の音としたが、音高に応じてあるいは所定の音域に応じて、ある周波数帯域内(例えば、周波数f0-W/2およびf0+W/2の間の範囲内)で異なっていてもよい。この場合、イコライザ115は、音高に応じてあるいは所定の音域に応じて、該周波数帯域内におけるゲイン調整を変化させる。
【0081】
上述した実施形態では、音源80は、波形メモリから読み出した波形データに基づいて音信号を生成していたが、別の方法で加工する波形データ(音信号)を取得してもよい。例えば、特許5664185号公報に開示されるような物理モデル演算によって、波形データ(音信号)を取得してもよい。
【0082】
図10に示す処理の実行の順番は一例に過ぎない。例えば、制御部10は、ゲインテーブルを選択してゲイン値VoGを決定した後、音量VoDを決定してもよい。
【0083】
上述した実施形態で説明した制御部10の機能のうちの一部の機能を音源80が有してもよい。例えば、音源80が、押鍵速度算出部、音量決定部、加速度算出部またはゲイン決定部を有してもよい。上述した実施形態で説明した音源80の機能のうちの一部の機能を制御部10が有してもよい。例えば、制御部10のROM12が波形メモリとして機能してもよい。
【0084】
以上説明した制御部10または音源80の機能がプログラムを用いて実現される場合、このプログラムは、磁気記録媒体(磁気テープ、磁気ディスク等)、光記録媒体、光磁気記録媒体、半導体メモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶した状態で提供されてもよいし、ネットワークを介して配信されてもよい。また、本発明は、コンピュータで実現可能な信号処理方法の発明として把握することも可能である。
【0085】
また、本発明は上記の実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0086】
1:電子鍵盤楽器、10:制御部、11:CPU、12:ROM、13:RAM、21:操作部、22:通信部、23:表示部、30:記憶部、50:筐体、58:棚板、60:スピーカ、70:鍵、75:検出部、75-1:第1センサ、75-2:第2センサ、75-3:第3センサ、75A:ストロークセンサ、76:ハンマー、78:フレーム、80:音源、110:信号生成部、111:波形読出部、112:波形生成部、113:乗算器、115:イコライザ、116:増幅器、120:制御信号生成部、130:押鍵速度算出部、140:音量決定部、150:音量テーブル、160:加速度算出部、161:波形メモリ、170:ゲイン決定部、180:ゲインテーブル群、180-1,180-2,180-3,180-4,・・・,180-m:ゲインテーブル、706:ハンマー接続部、707:連結部、752:センサ部、754:反射部、756:壁、761:鍵接続部、765:軸、768:錘、781:鍵支持部材、782:軸、785:ハンマー支持部材、791:下限ストッパ、792:上限ストッパ、810:波形メモリ、820:出力部、830:信号生成部、1100:音信号生成部、1112:合成部