(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】コンクリート杭及びその設計方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/30 20060101AFI20220216BHJP
【FI】
E02D5/30 A ESW
(21)【出願番号】P 2017215979
(22)【出願日】2017-11-08
【審査請求日】2020-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2017088080
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515277300
【氏名又は名称】ジャパンパイル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597058664
【氏名又は名称】株式会社トーヨーアサノ
(74)【代理人】
【識別番号】100193286
【氏名又は名称】圷 正夫
(72)【発明者】
【氏名】本間 裕介
(72)【発明者】
【氏名】菅 一雅
(72)【発明者】
【氏名】西村 裕
(72)【発明者】
【氏名】浅井 陽一
(72)【発明者】
【氏名】山路 麻未
【審査官】皆藤 彰吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-223207(JP,A)
【文献】特開平09-177072(JP,A)
【文献】岸田 英明、高野 昭信,鋼管ぐいの座屈と端部補強,日本建築学会論文報告集,日本,日本建築学会,1973年07月25日,第213号,第29頁-第38頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空で円筒形状の内殻鋼管と、
前記内殻鋼管の周りに配置され、コンクリートを少なくとも一部に含む円筒形状の杭体と、
中空で円筒形状の外殻鋼管と、を備え、
前記内殻鋼管の外径をDsiとし、
前記内殻鋼管の厚さをtsiとしたとき、次式:
tsi≧0.02×Dsi
で示される関係を満たし
、
前記杭体は、前記外殻鋼管と前記内殻鋼管との間に配置され、前記外殻鋼管の内側に付着しており、
前記外殻鋼管の厚さをtsoとしたときに、次式:
tsi≧tso
で示される関係を満たしている
ことを特徴とするコンクリート杭。
【請求項2】
前記杭体は、
前記外殻鋼管の内周面に付着し、コンクリートによって構成された円筒形状のコンクリート部と、
前記内殻鋼管の外周面及び前記コンクリート部の内周面に付着している円筒形状の充填部と、を含む
ことを特徴とする請求項
1に記載のコンクリート杭。
【請求項3】
中空で円筒形状の内殻鋼管と、
前記内殻鋼管の周りに配置され、コンクリートを少なくとも一部に含む円筒形状の杭体と、
前記杭体の内部を前記杭体の軸線方向に延び、前記杭体に含まれるコンクリートに圧縮力を作用させる緊張材と、
前記杭体の内部を前記杭体の周方向に延び、前記杭体の径方向にて前記緊張材よりも外側に配置された第1補強材と、
を備え、
前記内殻鋼管の外径をDsiとし、
前記内殻鋼管の厚さをtsiとしたとき、次式:
tsi≧0.02×Dsi
で示される関係を満たし、
前記杭体は、
コンクリートによって構成された円筒形状のコンクリート部と、
前記内殻鋼管の外周面及び前記コンクリート部の内周面に付着している円筒形状の充填部と、を含み、
前記第1補強材は前記コンクリート部の内部に配置され、
前記コンクリート部における前記第1補強材の体積比と降伏点の積は2.45N/mm
2
より大きい値である
ことを特徴とす
るコンクリート杭。
【請求項4】
前記杭体の内部を前記杭体の軸線方向に延びる第2補強材を更に備える、
ことを特徴とする請求項
3に記載のコンクリート杭。
【請求項5】
請求項1乃至
4の何れか1項に記載のコンクリート杭の設計方法であって、
前記コンクリート杭に作用する軸力と終局曲げモーメントとの関係を表すNM曲線を用意する工程を備え、
前記NM曲線を用意する工程において、
前記コンクリート杭に所定の曲率の終局曲げが発生しているときに前記内殻鋼管の圧縮領域が負担する軸力をPsiとし、
前記内殻鋼管の代わりに前記杭体の内側に所定強度の中詰部が充填されていると仮定した場合に、前記コンクリート杭に前記所定の曲率の終局曲げが発生しているときに前記中詰部の圧縮領域が負担する軸力をPciとしたときに、
前記軸力Pciに対する前記軸力Psiの比Psi/Pciに基づいて、前記NM曲線によって規定される前記コンクリート杭の使用可能範囲のうち軸力に関する上限値を設定する
ことを特徴とするコンクリート杭の設計方法。
【請求項6】
中空で円筒形状の内殻鋼管と、前記内殻鋼管の周りに配置され、コンクリートを少なくとも一部に含む円筒形状の杭体と、を備え、前記内殻鋼管の外径をDsiとし、前記内殻鋼管の厚さをtsiとしたとき、次式:
tsi≧0.02×Dsi
で示される関係を満たすコンクリート杭の設計方法であって、
前記コンクリート杭に作用する軸力と終局曲げモーメントとの関係を表すNM曲線を用意する工程を備え、
前記NM曲線を用意する工程において、
前記コンクリート杭に所定の曲率の終局曲げが発生しているときに前記内殻鋼管の圧縮領域が負担する軸力をPsiとし、
前記内殻鋼管の代わりに前記杭体の内側に所定強度の中詰部が充填されていると仮定した場合に、前記コンクリート杭に前記所定の曲率の終局曲げが発生しているときに前記中詰部の圧縮領域が負担する軸力をPciとしたときに、
前記軸力Pciに対する前記軸力Psiの比Psi/Pciに基づいて、前記NM曲線によって規定される前記コンクリート杭の使用可能範囲のうち軸力に関する上限値を設定する
ことを特徴とするコンクリート杭の設計方法。
【請求項7】
前記コンクリート杭は、
前記杭体の内部を前記杭体の軸線方向に延び、前記杭体に含まれるコンクリートに圧縮力を作用させる緊張材と、
前記杭体の内部を前記杭体の周方向に延び、前記杭体の径方向にて前記緊張材よりも外側に配置された第1補強材と、を更に備える、
ことを特徴とする
請求項6に記載のコンクリート杭
の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は中空のコンクリート杭及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既製杭の一種である外殻鋼管付きコンクリート杭(SC杭)は、一般的に、外殻鋼管と、外殻鋼管によって覆われた中空で円筒形状のコンクリートとによって構成されている(例えば特許文献1参照)。
非特許文献1及び2は、SC杭に軸力が作用している場合のSC杭の曲げ変形性能を報告している。非特許文献2の
図1によれば、SC杭に軸力が作用している場合(No.2~No.7)、軸力が作用していない場合(No.1)に比べ、部材角の増大に伴って杭頭曲げモーメントが急激に小さくなっており、SC杭の変形性能(靭性)が低下する。これに対し、SC杭の中空部にセメントミルクやコンクリートを充填材として充填した場合(No.8、No.9)、充填していない場合(No.2~No.7)に比べ、SC杭の靱性が向上する。具体的には、セメントミルクやコンクリートが充填されたSC杭(No.8、No.9)は、塑性率(降伏時の曲率(部材角)に対する曲率(部材角)の比率)5倍まで最大曲げ耐力の約8割を保持する。
【0003】
一方、特許文献2は、SC杭の中空部に、中空の内殻鋼管を配置したSC杭を開示している。当該SC杭によれば、外殻鋼管の座屈によりコンクリートの外殻鋼管からの剥離、圧壊が発生したとしても、コンクリート片の中空部への移動が防止され、SC杭の急激な耐力低下が抑制される。
【0004】
またこの一方で、非特許文献3によれば、鋼管杭においては、局部座屈応力は鋼管の肉厚と半径の比t/rに比例するが、比t/rが0.04以上であれば局部座屈は発生しないとされている(非特許文献3の137頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5265447号公報
【文献】特開2016-223207号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】長澤和彦、木谷好伸、後庵満丸、「既製コンクリート杭の曲げ変形性能に関する研究(その1 SC杭の曲げせん断実験概要)」、日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)2016年8月
【文献】石川一真、浅井陽一、「既製コンクリート杭の曲げ変形性能に関する研究(その2 SC杭の曲げせん断実験結果)」、日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)2016年8月
【文献】「建築耐震設計における保有耐力と変形性能」、日本建築学会、1990年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既製杭としてのSC杭を埋込み工法で施工する場合、SC杭に生じる浮力を低減するために、SC杭には中空部が必要となる。そのため、非特許文献1及び2が開示するような中空部に充填材が充填された中実のSC杭を埋め込み工法に用いることは難しい。
この点、特許文献2が開示するSC杭によれば、内殻鋼管を設けたことによって中空部を確保することができ、SC杭を埋め込み工法に容易に適用可能である。
【0008】
一方、本発明者らが種々検討したところ、特許文献2が開示するSC杭においても、軸力が作用する場合、内殻鋼管が座屈し、コンクリート片の移動を十分に抑制できない場合があることが判明した。
また、SC杭のみならず、外殻鋼管を備えていないPRC杭(プレストレスト鉄筋高強度コンクリート杭)やPHC杭(プレストレスト高強度コンクリート杭)等のコンクリート杭においても、中実にせずに、靭性を向上させる手段の開発が望まれる。
上述の事情に鑑みて、本発明の目的は、軸力が作用している場合であっても、内殻鋼管の座屈が抑制され、靭性が従来よりも改善される外殻鋼管付きコンクリート杭等の既製のコンクリート杭を提供することにある。
また、本発明の目的は、軸力が作用している場合であっても、内殻鋼管の座屈が抑制され、靭性が従来よりも改善される外殻鋼管付きコンクリート杭等の既製のコンクリート杭の設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るコンクリート杭は、
中空で円筒形状の内殻鋼管と、
前記内殻鋼管の周りに配置され、コンクリートを少なくとも一部に含む円筒形状の杭体と、
中空で円筒形状の外殻鋼管と、を備え、
前記内殻鋼管の外径をDsiとし、
前記内殻鋼管の厚さをtsiとしたとき、次式:
tsi≧0.02×Dsi
で示される関係を満たし、
前記杭体は、前記外殻鋼管と前記内殻鋼管との間に配置され、前記外殻鋼管の内側に付着しており、
前記外殻鋼管の厚さをtsoとしたときに、次式:
tsi≧tso
で示される関係を満たしている。
【0010】
従来のSC杭では、外殻鋼管の内側のコンクリートが圧縮力を負担するものとして、外殻鋼管の座屈は考慮されてこなかった。このため、外殻鋼管の厚さについては、コンクリートを拘束可能でありさえすればよく、特に問題とはされてこなかった。
この点、特許文献2のSC杭においても、従来と同様、内殻鋼管の座屈については特に考慮されておらず、コンクリート片の移動さえ防止できればよいと考えられていたと思われる。
しかしながら、本発明者らが種々検討を重ねた結果、内殻鋼管が座屈した場合、コンクリート片の移動を十分に抑制できなくなり、当初期待した通りの靱性を得られない場合があることがわかった。
この点、上記構成(1)によれば、内殻鋼管の厚さを外径の0.02倍以上とすることで、内殻鋼管の局部座屈を抑制することができる。これにより、杭体に含まれるコンクリート片が剥離、圧壊したとしても、コンクリート杭の中空部内へのコンクリート片の移動を抑制することができる。この結果として、上記構成(1)によれば、靭性が従来よりも改善される中空のコンクリート杭を提供することができる。
【0012】
外殻鋼管を備えている場合、外殻鋼管も厚くすることができれば、外殻鋼管の座屈を抑制することも可能であり、靱性の向上には有効であると考えられる。しかしながら、外殻鋼管の外径は大きいため、局部座屈の抑制に必要な厚さが内殻鋼管に比べ大きく、外殻鋼管を厚くした場合、外殻鋼管の価格が大幅に上昇し、ひいては外殻鋼管付きコンクリート杭の価格が大幅に上昇してしまう。
この点、上記構成(1)によれば、内殻鋼管の厚さを外殻鋼管の厚さ以上とすることで、外殻鋼管付コンクリート杭の靭性を低コストにて向上させることができる。
【0013】
(2)幾つかの実施形態では、上記構成(1)において、
前記杭体は、
前記外殻鋼管の内周面に付着し、コンクリートによって構成された円筒形状のコンクリート部と、
前記内殻鋼管の外周面及び前記コンクリート部の内周面に付着している円筒形状の充填部と、を含む。
【0014】
上記構成(2)によれば、コンクリート部の内周面に付着している円筒形状の充填部を設けたことにより、内殻鋼管の外径を小さくすることができる。これにより、内殻鋼管の厚さが比較的薄くても、厚さを外径の0.02倍以上にすることができ、内殻鋼管の局部座屈を抑制することができる。
【0015】
(3)本発明の少なくとも一実施形態に係るコンクリート杭は、
中空で円筒形状の内殻鋼管と、
前記内殻鋼管の周りに配置され、コンクリートを少なくとも一部に含む円筒形状の杭体と、
前記杭体の内部を前記杭体の軸線方向に延び、前記杭体に含まれるコンクリートに圧縮力を作用させる緊張材と、
前記杭体の内部を前記杭体の周方向に延び、前記杭体の径方向にて前記緊張材よりも外側に配置された第1補強材と、を備え、
前記内殻鋼管の外径をDsiとし、
前記内殻鋼管の厚さをtsiとしたとき、次式:
tsi≧0.02×Dsi
で示される関係を満たし、
前記杭体は、
コンクリートによって構成された円筒形状のコンクリート部と、
前記内殻鋼管の外周面及び前記コンクリート部の内周面に付着している円筒形状の充填部と、を含み、
前記第1補強材は前記コンクリート部の内部に配置され、
前記コンクリート部における前記第1補強材の体積比と降伏点の積は2.45N/mm
2
より大きい値である。
【0016】
上記構成(3)によれば、杭体の周方向に延びる第1補強材によって、杭体の外側が補強される。この結果として、軸力が作用している状態でも優れた靱性を有する、外殻鋼管を有さないPHC杭等のコンクリート杭が提供される。
そして、上記構成(3)によれば、杭体のコンクリート部における第1補強材の体積比と降伏点の積が2.45N/mm
2
より大きい値であるので、杭体の外側を確実に補強することができる。この結果として、軸力が作用している状態でも優れた靱性を有する、外殻鋼管を有さないPRC杭やPHC杭等のコンクリート杭が提供される。
【0017】
(4)幾つかの実施形態では、上記構成(3)において、
前記コンクリート杭は、
前記杭体の内部を前記杭体の軸線方向に延びる第2補強材を更に備える。
【0018】
上記構成(4)によれば、杭体の軸線方向に延びる第2補強材によって、曲げ耐力を高めることができ、より高い靱性を有するPRC杭等のコンクリート杭が提供される。
【0021】
(5)本発明の少なくとも一実施形態に係るコンクリート杭の設計方法は、
上記構成(1)乃至(4)の何れか1つに記載のコンクリート杭の設計方法であって、
前記コンクリート杭に作用する軸力と終局曲げモーメントとの関係を表すNM曲線を用意する工程を備え、
前記NM曲線を用意する工程において、
前記コンクリート杭に所定の曲率の終局曲げが発生しているときに前記内殻鋼管の圧縮領域が負担する軸力をPsiとし、
前記内殻鋼管の代わりに前記杭体の内側に所定強度の中詰部が充填されていると仮定した場合に、前記コンクリート杭に前記所定の曲率の終局曲げが発生しているときに前記中詰部の圧縮領域が負担する軸力をPciとしたときに、
前記軸力Pciに対する前記軸力Psiの比Psi/Pciに基づいて、前記NM曲線によって規定される前記コンクリート杭の使用可能範囲のうち軸力に関する上限値を設定する。
【0022】
本発明者らが種々検討したところ、内殻鋼管を有する同一の仕様の外殻鋼管付きコンクリート杭であっても、外殻鋼管付きコンクリート杭に作用する軸力によっては、靱性の低下が抑制されることがわかった。そこで本発明者らは、NM曲線によって規定される外殻鋼管付きコンクリート杭の使用可能範囲において、軸力に関する上限を設定することに想到した。そして更に、本発明者らが検討を重ねたところ、終局曲げが発生している状態において、内殻鋼管の圧縮領域が負担している軸力Psiと、杭体の内側に充填されていると仮定された中詰部の圧縮領域が負担している軸力Pciとの比に基づいて、NM曲線によって規定される外殻鋼管付きコンクリート杭の使用可能範囲における軸力に関する上限値を設定すればよいことを見出し、本発明に想到した。
かくして上記構成(5)によれば、NM曲線によって規定されるコンクリート杭の使用可能範囲の軸力に関する上限値が、軸力Pciに対する軸力Psiの比Psi/Pciに基づいて設定されているので、コンクリート杭が高い靱性を示す範囲でコンクリート杭を使用可能である。
(6)本発明の少なくとも一実施形態に係るコンクリート杭の設計方法は、
中空で円筒形状の内殻鋼管と、前記内殻鋼管の周りに配置され、コンクリートを少なくとも一部に含む円筒形状の杭体と、を備え、前記内殻鋼管の外径をDsiとし、前記内殻鋼管の厚さをtsiとしたとき、次式:
tsi≧0.02×Dsi
で示される関係を満たすコンクリート杭の設計方法であって、
前記コンクリート杭に作用する軸力と終局曲げモーメントとの関係を表すNM曲線を用意する工程を備え、
前記NM曲線を用意する工程において、
前記コンクリート杭に所定の曲率の終局曲げが発生しているときに前記内殻鋼管の圧縮領域が負担する軸力をPsiとし、
前記内殻鋼管の代わりに前記杭体の内側に所定強度の中詰部が充填されていると仮定した場合に、前記コンクリート杭に前記所定の曲率の終局曲げが発生しているときに前記中詰部の圧縮領域が負担する軸力をPciとしたときに、
前記軸力Pciに対する前記軸力Psiの比Psi/Pciに基づいて、前記NM曲線によって規定される前記コンクリート杭の使用可能範囲のうち軸力に関する上限値を設定する。
(7)幾つかの実施形態では、上記構成(6)において、
前記コンクリート杭は、
前記杭体の内部を前記杭体の軸線方向に延び、前記杭体に含まれるコンクリートに圧縮力を作用させる緊張材と、
前記杭体の内部を前記杭体の周方向に延び、前記杭体の径方向にて前記緊張材よりも外側に配置された第1補強材と、を更に備える。
【発明の効果】
【0023】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、軸力が作用していても、内殻鋼管の座屈が抑制され、靭性が従来よりも改善される外殻鋼管付きコンクリート杭等の既製のコンクリート杭が提供される。
本発明の少なくとも一実施形態によれば、軸力が作用していても、内殻鋼管の座屈が抑制され、靭性が従来よりも改善される外殻鋼管付きコンクリート杭等の既製のコンクリート杭の設計方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る外殻鋼管付きコンクリート杭の構成を概略的示す縦断面図である。
【
図2】
図1中のII-II線に沿う概略的な断面図である。
【
図3】地震時にSC杭の横断面に作用する応力分布を説明するための図である。
【
図4】(a)は、外殻鋼管の歪みと応力度との関係の一例を示すグラフであり、(b)は、杭体を構成するコンクリート部の歪みと応力度との関係の一例を示すグラフである。
【
図5】SC杭に所定の曲率の終局曲げが発生しているときに内殻鋼管の圧縮領域が負担している軸力をPsiとしたときに、負担軸力Psiを求める方法を説明するための図である。
【
図6】内殻鋼管の代わりに杭体の内側に中詰部が充填されている仮定状態を示す
図2に相当する断面図である。
【
図7】外殻鋼管付きコンクリート杭に所定の曲率の終局曲げが発生しているときに中詰部の圧縮領域が負担している軸力をPciとしたときに、負担軸力Pciを求めるための方法を説明するための図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る外殻鋼管付きコンクリート杭の設計方法を説明するためのNM曲線図である。
【
図9】実施例1及び比較例1~5のSC杭の仕様を示す表である。
【
図10】実施例1及び比較例1~5のSC杭の仕様を示す表である。
【
図11】実施例1及び比較例1~5のSC杭の仕様から求められるNM曲線、及び、正負交番載荷試験の際に加えられる軸力を示すグラフである。
【
図12】正負交番載荷試験装置により実施例1及び比較例1~5のSC杭に加えられる水平力及び軸力を説明するための図である。
【
図13】実施例1のSC杭における、正負交番載荷試験装置により得られた部材角と杭頭発生曲げモーメントMoとの関係を示すグラフである。
【
図14】比較例1のSC杭における、正負交番載荷試験装置により得られた部材角と杭頭発生曲げモーメントMoとの関係を示すグラフである。
【
図15】比較例2のSC杭における、正負交番載荷試験装置により得られた部材角と杭頭発生曲げモーメントMoとの関係を示すグラフである。
【
図16】比較例3のSC杭における、正負交番載荷試験装置により得られた部材角と杭頭発生曲げモーメントMoとの関係を示すグラフである。
【
図17】比較例4のSC杭における、正負交番載荷試験装置により得られた部材角と杭頭発生曲げモーメントMoとの関係を示すグラフである。
【
図18】比較例5のSC杭における、正負交番載荷試験装置により得られた部材角と杭頭発生曲げモーメントMoとの関係を示すグラフである。
【
図19】本発明の一実施形態に係る外殻鋼管付きコンクリート杭の製造方法の概略的な手順を説明するためのフローチャートである。
【
図20】本発明の他の一実施形態に係るプレストレスト鉄筋高強度コンクリート杭(PRC杭)の概略的な縦断面図である。
【
図21】
図20のXXI-XXI線に沿う概略的な断面図である。
【
図22】
図20に示したPRC杭に用いられる異形鉄筋、PC鋼材及びコンクリートにおける歪みと応力度との関係を概略的に示すグラフである。
【
図23】PRC杭に所定の曲率の終局曲げが発生しているときに内殻鋼管の圧縮領域が負担している軸力をPsiとしたときに、負担軸力Psiを求める方法を説明するための図である。
【
図24】PRC杭に所定の曲率の終局曲げが発生しているときに中詰部の圧縮領域が負担している軸力をPciとしたときに、負担軸力Pciを求めるための方法を説明するための図である。
【
図25】PRC杭の製造方法の手順を概略的に示すフローチャートである。
【
図26】本発明の他の一実施形態に係る既製のコンクリート杭の一種である節杭の概略的な縦断面である。
【
図27】本発明の他の一実施形態に係る既製のコンクリート杭の一種である拡径杭(ST杭)の概略的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る外殻鋼管付きコンクリート杭(以下、SC杭とも称する)1の構成を概略的示す縦断面図である。
図2は、
図1中のII-II線に沿う概略的な断面図である。
図1及び
図2に示したように、SC杭1は、外殻鋼管3と、内殻鋼管4と、杭体5とを備える。
外殻鋼管3は、中空で円筒形状を有しており、例えば、SKK材によって構成されている。外殻鋼管3は、例えば、300mm以上1500mm以下の外径Dsoを有し、外殻鋼管3の外径Dsoは、SC杭1の外径Dpに相当する。また、外殻鋼管3は、例えば、4.5mm以上25mm以下の厚さ(板厚)tsoを有する。外殻鋼管3は、例えば、325N/mm
2の降伏強度σsoyを有し、205000N/mm
2の弾性係数Esoを有する。
【0027】
内殻鋼管4は、中空で円筒形状を有しており、例えば、STK材によって構成されている。内殻鋼管4は、外殻鋼管3の内径よりも小さい外径Dsiを有し、外殻鋼管3の内側に同心上に配置されている。内殻鋼管4は、例えば、100mm以上1200mm以下の外径Dsiを有する。内殻鋼管4は、例えば、325N/mm2の降伏強度σsiyを有し、205000N/mm2の弾性係数Esiを有する。
【0028】
杭体5は、外殻鋼管3と内殻鋼管4との間に配置され、円筒形状を有する。杭体5は、外殻鋼管3の内周面及び内殻鋼管4の外周面に付着しており、コンクリートを少なくとも一部に含む。杭体5は、例えば硬化性の材料を硬化させて形成される。
【0029】
例えば、外殻鋼管3の両端には円環形状の端板7が溶接によって取り付けられ、内殻鋼管4及び杭体5は、外殻鋼管3の軸線方向にて2つの端板7間に渡って延びている。本実施形態では、2つの端板7のうち一方の端板7bの内径は他方の端板7aの内径よりも大きく、内殻鋼管4の一端が、端板7aの内周部に溶接等で接続されている。端板7bの内周部と内殻鋼管4の他端との間には、後述するように充填部9bの材料を充填するための開口がある。
なお、充填部9bの材料を充填するための開口を端板7や内殻鋼管4に設ける等により、充填部9bの材料を充填可能であれば、端板7a,7bの内径は同一であってもよく、内殻鋼管4の両端が端板7に溶接されていてもよい。
また、外殻鋼管3及び内殻鋼管4の両方に端板7が溶接されていてもよいが、一方のみに溶接され、他方には溶接されていなくてもよい。例えば、外殻鋼管3にのみ端板7が溶接され、内殻鋼管4には端板7が溶接されていなくてもよい。なお、端板7が取り付けられている場合、SC杭1の長さLは、端板7の外面間の長さである。SC杭1は、例えば、2m以上の長さLを有する。
【0030】
そして、本実施形態では、内殻鋼管4の厚さ(板厚)をtsiとしたとき、次式:
tsi≧0.02×Dsi ・・・(1)
で示される関係が満たされている。つまり内殻鋼管4の厚さtsiは外径Dsiの0.02倍以上である。
【0031】
上記構成によれば、内殻鋼管4の厚さtsiを外径Dsiの0.02倍以上とすることで、内殻鋼管4の局部座屈を抑制することができる。これにより、杭体5に含まれるコンクリート片が剥離、圧壊したとしても、SC杭1の中空部内へのコンクリート片の移動を抑制することができる。この結果として、上記構成によれば、靭性が従来よりも改善される中空のSC杭1を提供することができる。
【0032】
幾つかの実施形態では、外殻鋼管3の厚さtso及び内殻鋼管4の厚さtsiは、次式:
tsi≧tso ・・・(2)
で示される関係を満たしている。つまり、内殻鋼管4の厚さtsiは外殻鋼管3の厚さtso以上である。
外殻鋼管3も厚くすることができれば、外殻鋼管3の座屈を抑制することも可能であり、靱性の向上には有効であると考えられる。しかしながら、外殻鋼管3の外径Dsoは大きいため、局部座屈の抑制に必要な厚さが内殻鋼管4に比べ大きく、外殻鋼管3を厚くした場合、外殻鋼管3の価格が大幅に上昇し、ひいては外殻鋼管付きコンクリート杭の価格が大幅に上昇してしまう。
この点、上記構成によれば、内殻鋼管4の厚さtsiを外殻鋼管3の厚さtso以上とすることで、SC杭1の靭性を低コストにて向上させることができる。
【0033】
幾つかの実施形態では、内殻鋼管4の厚さtsiは、次式:
tsi≧Dsi・σsiy/(0.057・Esi) ・・・(3)
で示される関係を満たす。
なお、式中、σsiyは内殻鋼管4の降伏強度であり、Esiは内殻鋼管4の弾性係数である。
【0034】
ここで、日本建築学会が発行する鋼構造設計指針の63頁には、円形鋼管の座屈実験によれば、最大耐力時の歪み度εmaxと径厚比D/tの関係を与える式として、次式:
εmax=0.44t/D ・・・(4)
が示されている。
この式に、H形断面の場合と同様の考えで、εmax≧8・εsiy(ただし、εsiyは内殻鋼管4の降伏歪み)を代入すれば、強度的にも変形能力的にも安全である径厚比を与える上式(3)が得られる。
かくして、内殻鋼管4の厚さtsiが式(3)によって示される関係を満足することで、より靱性の高いSC杭1を得ることができる。具体的には、塑性率μu=εmax/εsiyとすると、式(3)を満たしていれば、塑性率μuが8.0以上であるSC杭1が得られる。
【0035】
なお、SC杭1において、内殻鋼管4の厚さtsiが外径Dsiの0.02倍以上であれば、SC杭1に曲げモーメントが発生しているときに内殻鋼管4の圧縮側の歪みをεsiとしたときに、塑性率μ=εmax/εsiとすれば、塑性率μは3以上となる(μ≧3)。
【0036】
幾つかの実施形態では、杭体5は、外殻鋼管3の内周面に付着している円筒形状のコンクリート部9aと、内殻鋼管4の外周面及びコンクリート部9aの内周面に付着している円筒形状の充填部9bと、を含む。
【0037】
コンクリート部9aを構成するコンクリートは、遠心圧縮成形により形成され、例えば、80N/mm2、85N/mm2、105N/mm2、123N/mm2又は140N/mm2の設計基準強度Fcを有する。設計基準強度Fcが大きくなるにつれてコンクリートの弾性係数Ecも大きくなり、当該弾性係数Ecは、例えば40000N/mm2~43000N/mm2の範囲となる。
【0038】
充填部9bは、例えば、コンクリート、又は、モルタル等のグラウトによって構成されている。充填部9bの強度は、10N/mm2以上であるのが望ましい。充填部9bを構成するモルタルは、例えば、30N/mm2の設計基準強度Fcと、10000N/mm2~20000N/mm2の弾性係数とを有する。
【0039】
上記構成によれば、コンクリート部9aの内周面に付着している円筒形状の充填部9bを設けたことにより、内殻鋼管4の外径Dsiを小さくすることができる。これにより、内殻鋼管4の厚さtsiが比較的薄くても、厚さtsiを外径Dsiの0.02倍以上にすることができ、内殻鋼管4の局部座屈を抑制することができる。
【0040】
幾つかの実施形態では、コンクリート部9aの厚さtcは、40mm以上300mm以下であり、充填部9bの厚さtgは、10mm以上200mm以下である。
【0041】
以下、本発明の一実施形態に係る外殻鋼管付きコンクリート杭の設計方法について説明する(以下、単に設計方法とも称する)。
設計方法は、上述したSC杭1の設計方法であり、内殻鋼管4の厚さtsiが外径Dsiの0.02倍以上になるようにSC杭1を設計する。
【0042】
図3~
図8は、幾つかの実施形態に係る設計方法を説明するための図である。設計方法は、SC杭1に作用する軸力Nと終局曲げモーメントMとの関係を表す、
図8に示したようなNM曲線を用意する工程を備えている。NM曲線は、例えば平面保持仮定の下、公知の方法によって求めることができる。
図8中のNmax1は、SC杭1の最大の軸力を表している。
【0043】
ここで、
図3は、地震時にSC杭1の横断面に作用する応力分布を説明するための図である。
図3の左上に示したように、SC杭1には、上部構造から作用する軸力が作用しており、地震時には
図3の左下に示したように水平力がさらに作用する。これら軸力及び水平力が作用すると、地震時には、
図3の右側に示すような応力がSC杭1の横断面に作用する。
図3から、特に圧縮側で応力が大きくなることがわかる。
このような応力分布に起因して、従来のSC杭に軸力が作用している場合、SC杭の地震時の破壊モードは、非特許文献2の写真2に示されているように、外殻鋼管が圧縮力により座屈し、外殻鋼管の内周面付近のコンクリートが圧壊し、そして、コンクリートの最内周面が圧壊して崩落するという順序をたどる。このようにコンクリートの最内周面が崩落し、コンクリート片が移動することで、コンクリートの体積が減少し、曲げ変形が繰り返されると靱性が低下してしまう。
【0044】
図4(a)は、外殻鋼管3の歪みと応力度との関係の一例を示しており、
図4(b)は、杭体5を構成するコンクリート部9aの歪みと応力度との関係の一例を示している。
図4の例では、外殻鋼管3は降伏歪みεsoyで降伏し、コンクリート部9aは降伏歪みεcyで降伏する。外殻鋼管3の降伏歪みεsoyは、コンクリート部9aの降伏歪みεcyよりも小さい。このため、平面保持仮定の下では、外殻鋼管3がコンクリート部9aよりも先に降伏することがわかる。
【0045】
そして、図示しないけれども、外殻鋼管3やコンクリート部9aにおける歪みと応力度との関係は、内殻鋼管4及び充填部9bにおいても略同様に成立する。ただし、内殻鋼管4の降伏歪みεsiy及び弾性係数Esiは、材質によって、外殻鋼管3と同じであっても異なっていてもよく、充填部9bにおける降伏歪みεgy及び弾性係数Egは、材質によって、コンクリート部9aと同じであっても異なっていてもよい。
【0046】
図5~
図7は、NM曲線を用意する工程において、NM曲線によって規定されるSC杭1の使用可能範囲のうち軸力Nに関する上限値Nmax2(
図8参照)を設定する方法を説明するための図である。
より詳しくは、
図5は、SC杭1に所定の曲率φの終局曲げが発生しているときに内殻鋼管4の圧縮領域が負担している軸力をPsiとしたときに、負担軸力Psiを求める方法を説明するための図である。
【0047】
まず
図5に示したように、平面保持仮定の下、SC杭1の直径方向にて、外殻鋼管3の圧縮側の内面の歪みが終局歪みに到達する歪みの分布(終局曲げ)を設定する。終局歪みは、例えば0.005である。歪みの分布は、圧縮側の外殻鋼管3の内面の歪みを終局歪みに固定した状態で、曲率φに応じて変化する。ある歪みの分布において、SC杭1に作用する軸力N及び負担軸力Psiは、以下のようにして求めることができる。
【0048】
まず、水平力が作用する方向をy軸にとり、SC杭1の横断面をy軸に沿って微小長さdy毎に区画する。そして、各区画に含まれる外殻鋼管3の面積dSso、コンクリート部9aの面積dSc、充填部9bの面積dSg、及び、内殻鋼管4の面積dSsiを計算により求める。
そして、各面積dSso、dSc、dSg、dSsiに作用する軸力dNso、dNc、dNg、dNsiを、以下の式(5)~(8)に示すように、面積dSs、dSc、dSm、dSsoに、各区画での歪みε及び弾性係数Eso、Ec、Eg、Esiを乗じて求める。なお、各区画での歪みεは、平面保持仮定の下、y軸における位置に依存する関数である。
【0049】
dNso=dSso×Eso×ε ・・・(5)
dNc=dSc×Ec×ε ・・・(6)
dNg=dSg×Eg×ε ・・・(7)
dNsi=dSsi×Esi×ε ・・・(8)
【0050】
そして、以下の式(9)に示すように、すべての区画の軸力dNso、dNc、dNm、dNsiを足し合わせることにより、SC杭1に作用する軸力Nを求めることができる。
N=Σ(dNso+dNc+dNg+dNsi) ・・・(9)
【0051】
ただし、式(5)、(8)において歪みεの上限は降伏歪みεsoy、εsiyとする。また、式(6)、(7)において、コンクリートやグラウトの引張力は零として考慮せず、歪みεの上限は降伏歪みεcy、εgyとする。なお、内殻鋼管4については、外殻鋼管3と同様に引張力を考慮してもよいが、引張力を零として考慮しなくてもよい。引張力を考慮するか否かは、内殻鋼管4に引張力が作用するようにSC杭1が設計されているか否かによる。
かくして、圧縮側の外殻鋼管3の内面の歪みを終局歪みに固定した状態で、曲率φに応じて軸力Nを求めることができる。
【0052】
また、負担軸力Psiは、次式(10)により求めることができる。
Psi=ΣdNsi ・・・(10)
ただし式(10)において、dNsiは、内殻鋼管4の圧縮領域の区画(
図5中にハッチングで示した圧縮歪みが対応している区画)に対応するものについてのみ積算する。
【0053】
図6及び
図7は、内殻鋼管4の代わりに杭体5の内側に所定強度の中詰部11、例えば設計基準強度が24N/mm
2のコンクリートが充填されていると仮定した場合に、外殻鋼管付きコンクリート杭に所定の曲率φの終局曲げが発生しているときに中詰部11の圧縮領域が負担している軸力をPciとしたときに、負担軸力Pciを求めるための方法を説明するための図である。
【0054】
負担軸力Pciは、
図6に示すように、杭体5の内側全体に中詰部11としてのコンクリートが充填されていると仮定した上で、以下の式(11)、(12)により、負担軸力Psiと同様に求めることができる。なお、負担軸力Pciを求めるときの曲率φは、負担軸力Psiを求めるときの曲率φと同じ大きさである。
dNci=dSci×Eci×ε ・・・(11)
Pci==ΣdNci ・・・(12)
なお、式(11)中、dSciは、各区間における中詰部11の断面積であり、Eciは、中詰部11の弾性係数である。式(12)においても、dNciは、中詰部11の圧縮領域の区画(
図7中にハッチングで示した圧縮歪みが対応している区画)に対応するものについてのみ積算する。
【0055】
そして、
図8に示したように、NM曲線を求める工程では、負担軸力Pciに対する負担軸力Psiの比Psi/Pciに基づいて、NM曲線によって規定されるSC杭1の使用可能範囲のうち軸力Nに関する上限値(Nmax2)を設定する。本実施形態では、中詰部11が、設計基準強度が24N/mm
2のコンクリートによって構成されていると仮定され、比Psi/Pci(以下、圧縮耐力比PNとも称する)が1.15以上になるように、軸力比Nmax2/Nmax1を設定する。
【0056】
なお、SC杭1における軸力Nに対応する終局曲げモーメントMを求めるには、まず以下の式(13)~(16)に示すように、各面積dSso、dSc、dSg、dSsiに作用する曲げモーメントdMca、dMcb、dMp、dMrを、軸力dNso、dNc、dNg、dNsiに図心からの距離yを乗じて求める。
dMso=dNso×y ・・・(13)
dMc=dNc×y ・・・(14)
dMg=dNg×y ・・・(15)
dMsi=dNsi×y ・・・(16)
【0057】
そして、以下の式(17)に示すように、すべての区画の曲げモーメントdMso、dMc、dMg、dMsiを足し合わせることにより、各軸力Nに対応する終局曲げモーメントMを求めることができる。
M=Σ(dMso+dMc+dMg+dMsi) ・・・(17)
【0058】
上記構成によれば、NM曲線によって規定されるSC杭1の使用可能範囲の軸力に関する上限値Nmax2が、軸力Pciに対する軸力Psiの比Psi/Pciに基づいて設定されているので、SC杭1が高い靱性を示す範囲でSC杭1を使用可能である。
【0059】
また上記構成によれば、中詰部11が、設計基準強度が24N/mm2のコンクリートによって構成されていると仮定された上で、NM曲線によって規定されるSC杭1の使用可能範囲の軸力Nに関する上限値Nmax2が、負担軸力Psiが負担軸力Pciの1.15倍以上になるよう設定されているので、SC杭1が高い靱性を示す範囲でSC杭1を使用可能である。
【0060】
なお、負担軸力Psiが負担軸力Pciの1.15倍以上になるよう設定するためには、内殻鋼管4の仕様を含め、SC杭1の仕様を適宜選択すればよい。内殻鋼管4の仕様としては、外径Dsi、厚さtsi及び材質(降伏歪み、弾性係数)等をあげることができる。一方、軸力Nの上限値Nmax2や軸力比Nmax2/Nmax1は、SC杭1の仕様によって変化する。SC杭1の仕様としては、内殻鋼管4の仕様の他に、外殻鋼管3や杭体5の仕様をあげることができる。
【0061】
また、圧縮耐力比PNは、杭体5の内側に仮想的に充填される中詰部11の強度によっても変化する。例えば、設計基準強度Fcが27N/mm2のコンクリートによって構成された中詰部11が充填されている場合、圧縮耐力比PNが1.00以上になるように軸力の上限値Nmax2を設定してもよい。
【0062】
幾つかの実施形態では、SC杭1を使用可能な軸力比Nmax2/Nmax1が0.30以上になるように、SC杭1が設計又は使用される。好ましくは、SC杭1を使用可能な軸力比Nmax2/Nmax1が0.35以上になるように、SC杭1が設計又は使用される。
図8に示したように、SC杭1は、発生曲げモーメントMoがNM曲線によって規定される範囲内に収まるように設計・使用されるが、SC杭1を使用可能な軸力比Nmax2/Nmax1が0.30以上、好ましくは0.35以上であることで、より大きな軸力Nが作用している状態でも、SC杭1を使用することができる。
【0063】
また、上述した実施形態では、外殻鋼管3や内殻鋼管4の座屈による影響を考慮していなかったが、外殻鋼管3の降伏強度σsoyや内殻鋼管4の降伏強度σsiyに代えて、以下の式(18)~(20)に示される、終局限界圧縮耐力Nu及び終局限界引張耐力Nulを用いてもよい。
上述したように、SC杭の破壊モードは外殻鋼管の座屈から始まるため、終局限界圧縮耐力Nu及び終局限界引張耐力Nulを用いれば、SC杭1の変形性能をより正確に求めることができる。
【0064】
【0065】
なお、式(18)~(20)中の記号は以下のものを表す。
F:鋼材の基準強度(=σsoy又はσsiy)(N/mm2)
t:鋼管の厚さ(腐食しろを考慮)(mm)
r:鋼管の半径(mm)
A:鋼管の断面積(腐食しろを考慮)(mm2)
【0066】
[実施例1及び比較例1~5の正負交番載荷試験]
図9及び
図10は、実施例1及び比較例1~5のSC杭の仕様を示す表である。
図11は、実施例1及び比較例1~5のSC杭の仕様から求められるNM曲線、及び、正負交番載荷試験の際に加えられる軸力を示している。
図12は、正負交番載荷試験装置により実施例1及び比較例1~5のSC杭に加えられる水平力及び軸力を説明するための図である。SC杭には、下端部(杭頭部)がスタブ13に埋設されて固定された状態で、水平力及び軸力が加えられる。
【0067】
図13~
図18は、実施例1及び比較例1~5のSC杭における、正負交番載荷試験装置により得られた部材角と杭頭発生曲げモーメントMoとの関係を示すグラフである。
図13に示すように、内殻鋼管4の厚さtsiが外径Dsiの0.02倍以上である実施例1のSC杭は、優れた靱性を示す。
これに対し、
図14~
図18に示すように、内殻鋼管4の厚さtsiが外径Dsiの0.02倍未満である比較例1~5のSC杭は、実施例1よりも低い靱性を示す。すなわち、部材角が大きくなると、曲げ耐力(杭頭発生曲げモーメントMo)が大きく減少する。
【0068】
一方、実施例1のSCは、負担軸力の比Psi/Pci(圧縮耐力比PN)が1.15以上であり、優れた靱性を示している。
これに対し、SC杭の仕様自体は相互に同じである比較例1~4を比較すると、
図14~
図17に示すように、加えられる軸力が小さくなるほどPNが1.15に近づき、高い靱性を示すことがわかる。
【0069】
本発明は上述した幾つかの実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、上述した実施形態では、杭体5が2つの円筒形状の部分によって構成されていたが、杭体5が1つの円筒部によって構成されていてもよい。杭体5が1つの円筒部によって構成されている場合、杭体5はコンクリートによって構成されている。あるいは、杭体が、3つ以上の円筒部によって構成されていてもよい。
また、杭体5がコンクリート部9a及び充填部9bによって構成されている場合、コンクリート部9aの強度は、充填部9bの強度と同じであっても、大きくても、あるいは小さくてもよい。
【0070】
また、上述した実施形態では、杭体5の内周面全域が内殻鋼管4によって覆われていたが、SC杭1の軸線方向にて、相対的に大きな曲げモーメントが発生する領域にのみ内殻鋼管4を設けてもよい。つまり、SC杭1の軸線方向にて、杭体5の内周面を内殻鋼管4によって部分的に覆ってもよい。ただし、内殻鋼管4は、SC杭1の軸線方向にて、杭体5の1/4以上の長さの領域を覆っているのが好ましい。
【0071】
また更に、杭体5を構成するコンクリートは、無筋コンクリートであるが、鉄筋コンクリートであってもよい。
また、外殻鋼管3としては、SKK材のみならず、STK材、SM材、SS材、国土交通大臣認定の材料を用いてもよい。同様に、内殻鋼管4としては、STK材のみならず、SKK材、SM材、SS材、国土交通大臣認定の材料を用いてもよい。
【0072】
なお、上述したSC杭1は、例えば以下の製造方法により製造可能である。
図19は、SC杭1の製造方法の一例の概略的な手順を示すフローチャートである。
図19に示したように、SC杭1の杭製造方法は、外殻鋼管準備工程S10と、打設工程S11と、遠心成形工程S12と、内殻鋼管挿入工程S13と、充填工程と14とを備えている。
【0073】
外殻鋼管準備工程S10では端板7が両端に溶接された外殻鋼管3を用意する。
打設工程S11では、外殻鋼管3内に生コンクリートを充填する。この充填は外殻鋼管3内に挿入可能な径のスクリューフィーダー等によって行う。スクリューフィーダーは、ある程度生コンクリートが充填されてきた段階で、徐々に引き抜きながら生コンクリートを充填する。
【0074】
遠心成形工程S12では、生コンクリートが充填された外殻鋼管3を遠心成形装置の型枠内に入れ、型枠の回転により生コンクリートの遠心成形を行う。
この後、生コンクリートがある程度強度を発現した段階で、外殻鋼管3を遠心成形装置の型枠から外し、蒸気養生を行うことにより円筒形状の杭体5のコンクリート部9aが形成される。
【0075】
内殻鋼管挿入工程S13では、コンクリート部9aの中空部に内殻鋼管4を挿入する。例えば、SC杭1の両端に位置する2つの環状の端板7,7のうち一方の端板7bの内径は他方の端板7aの内径よりも大きく、内径が大きい端板7bを通じて、内殻鋼管4を挿入する。内殻鋼管4を挿入後、内径が小さい端板7aの内周部と内殻鋼管4の端部とを溶接する。これにより、内殻鋼管4とコンクリート部9aとの間に円筒状の空間を存して、内殻鋼管4が固定される。なお、内殻鋼管4とコンクリート部9aとの間の円筒状の空間は、内径が大きい端板7bの開口を通じて外部と連通している。
【0076】
充填工程S14では、内殻鋼管4とコンクリート部9aとの間の円筒状の空間に、内径が大きい端板7bの開口を通じて充填材を充填する。充填材は、例えば、コンクリートやモルタル等の硬化性を有するセメント系充填材であり、硬化することにより充填部9bを構成する。
【0077】
更に本発明は、SC杭に限定されることはなく、以下に述べるように、外殻鋼管を有さない既製のコンクリート杭及びその設計方法にも適用可能である。なお、以下の説明において、上述した実施形態と同一又は類似の構成については、同一の符号を付して説明を省略又は簡略化する。
【0078】
図20は、本発明の他の一実施形態に係るPRC杭(プレストレスト鉄筋高強度コンクリート杭)20の概略的な縦断面である。
図21は、
図20のXXI-XXI線に沿う概略的な断面図である、なお、
図20は、
図14のXX-XX線に沿う概略的な断面図である。
【0079】
図20及び
図21に示したように、PRC杭20は、外殻鋼管を有さない点においてSC杭1と異なっている。このため、PRC杭20の外径Dpは、杭体5の外径Dcと等しい。一方、PRC杭20は、緊張材としての複数のPC鋼材(PC鋼棒)22と、第1補強材としてのせん断補強筋24と、第2補強材としての複数の異形鉄筋26とを備えている。
【0080】
複数のPC鋼材22は、それぞれ棒状であり、杭体5の内部を杭体5の軸線方向に延び、両端に配置された端板7,7間に架け渡されている。複数のPC鋼材22は、杭体5の軸線方向でみて、同心上に配置されている。複数のPC鋼材22の両端は、端板7,7に係合され、複数のPC鋼材22は、端板7,7とともに、杭体5に含まれるコンクリートに圧縮力を作用させる。PC鋼材22は、例えば、6本以上30本以下配置され、杭体5の周方向にて等間隔で配置される。PC鋼材22は、例えば10mm以上13mm以下の直径を有する。
【0081】
第1補強材としてのせん断補強筋24は、棒状であり、杭体5の内部を杭体5の周方向に延び、杭体5の径方向にてPC鋼材22よりも外側に配置されている。本実施形態では、せん断補強筋24は、杭体5の内部を螺旋状に延びており、杭体5の軸線方向にも延びている。せん断補強筋24は、例えば、5.0mm以上16mm以下の直径を有し、490N/mm2以上の強度を有し、40mm以上100mm以下のピッチの螺旋状に延びている。なお、せん断補強筋24は、螺旋状ではなく、杭体5の周方向に延びるリング状のものを杭体5の軸線方向に間隔を置いて複数設けることとしてもよい。また、せん断補強筋24は、丸鋼や異形鉄筋によって構成されていてもよい。
【0082】
第2補強材としての複数の異形鉄筋26は、それぞれ棒状であり、杭体5の内部を杭体5の軸線方向に延び、両端に配置された端板7,7間を延びている。複数の異形鉄筋26は、杭体5の軸線方向でみて、同心上に配置され、杭体5の周方向にてPC鋼材22の中間に配置されている。例えば、異形鉄筋26が配置される円の直径は、PC鋼材22が配置される円の直径と等しいか、わずかに小さい。
【0083】
PRC杭20においても、内殻鋼管4の外径をDsiとし、内殻鋼管4の厚さをtsiとしたとき、再掲する次式(1):
tsi≧0.02×Dsi ・・・(1)
で示される関係が満たされている。つまり内殻鋼管4の厚さtsiは外径Dsiの0.02倍以上である。
【0084】
このようにPRC杭20においても、内殻鋼管4の厚さtsiを外径Dsiの0.02倍以上とすることで、内殻鋼管4の局部座屈を抑制することができる。これにより、杭体5に含まれるコンクリート片が剥離、圧壊したとしても、PRC杭20の中空部内へのコンクリート片の移動を抑制することができる。この結果として、上記構成によれば、靭性が従来よりも改善される中空のPRC杭20を提供することができる。
【0085】
また上記構成によれば、杭体5の周方向に延びる第1補強材によって、杭体5の外側が補強される。この結果として、軸力が作用している状態でも優れた靱性を有する、外殻鋼管を有さないPRC杭20が提供される。
【0086】
更に上記構成によれば、杭体5の軸線方向に延びる第2補強材によって、曲げ耐力を高めることができ、より高い靱性を有するPRC杭20が提供される。
【0087】
なお、PRC杭20は、杭体5の両端部の外周面を保護するための筒状材18を更に備えていてもよい。各筒状材18は、例えば端板7に溶接により固定され、杭体5の外周面の一端部を覆う。つまり、PRC杭20の杭体5は、外殻鋼管のような金属材によって覆われていない外周面を、軸線方向にて両端部を除く中間部に部分的にでも有していればよく、PRC杭20の一部が外殻鋼管によって覆われていてもよい。
【0088】
幾つかの実施形態では、第1補強材としてのせん断補強筋24は杭体5のコンクリート部9aの内部に配置され、コンクリート部9aにおける第1補強材の体積比と降伏点(降伏強度)の積は2.45N/mm2より大きい値である。
上記構成によれば、杭体5のコンクリート部9aにおける第1補強材としてのせん断補強筋24の体積比と降伏点の積が2.45N/mm2より大きい値であるので、杭体5の外側を確実に補強することができる。この結果として、軸力が作用している状態でも優れた靱性を有する、外殻鋼管を有さないPRC杭20が提供される。
【0089】
図22(a)~(c)は、
図20に示したPRC杭20に用いられる異形鉄筋26、PC鋼材22及びコンクリートにおける歪みと応力度との関係をそれぞれ概略的に示すグラフである。
【0090】
図23及び
図24は、PRC杭20のNM曲線を用意する工程において、NM曲線によって規定されるPRC杭20の使用可能範囲のうち軸力Nに関する上限値Nmax2(
図8参照)を設定する方法を説明するための図である。
より詳しくは、
図23は、PRC杭20における
図5に相当する図であり、PRC杭20に所定の曲率φの終局曲げが発生しているときに内殻鋼管4の圧縮領域が負担している軸力をPsiとしたときに、負担軸力Psiを求める方法を説明するための図である。
【0091】
まず
図23に示したように、平面保持仮定の下、PRC杭20の直径方向にて、杭体5の圧縮側の外面の歪みが終局歪みに到達する歪みを設定する。終局歪みは、例えば0.0035である。適当な仕様を見つけるために、歪みの分布は、圧縮側の杭体5の外面の歪みを終局歪みに固定した状態で、曲率φを変化させることで示される。ある歪みの分布において、PRC杭20の横断面に作用する軸力Nは、以下のようにして求めることができる。
【0092】
まず、水平力が作用する方向をy軸にとり、PRC杭20の横断面をy軸に沿って微小長さdy毎に区画する。そして、各区画に含まれる杭体5のコンクリート部9aの面積dSc、充填部9bの面積dSg、内殻鋼管4の面積dSsi、PC鋼材22の面積dSp、及び、異形鉄筋26の面積dSrを計算により求める。
そして、各面積dSc、dSg、dSsi、dSp、dSrに作用する軸力dNc、dNg、dNsi、dNp、dNrを、以下の式(21)~(25)に示すように、面積dSc、dSg、dSsi、dSp、dSrに、各区画での歪みε及び弾性係数Ec、Eg、Esi、Ept、Ertを乗じて求める。
なお、
図23では、軸力や曲げモーメントの算出にあたり、計算を簡単にするために、異形鉄筋26を等価な断面積を有する薄肉鋼管26’にて代替し、PC鋼材22を等価な断面積を有する薄肉鋼管22’にて代替し、コンクリート部9aの面積dScをdScoとdSciに分けているが、必ずしもこれらの代替は必要ではない。
【0093】
dNc=dSc×Ec×ε ・・・(21)
dNg=dSg×Eg×ε ・・・(22)
dNsi=dSsi×Esi×ε ・・・(23)
dNp=dSp×Ept×ε ・・・(24)
dNr=dSr×Ert×ε ・・・(25)
【0094】
そして、以下の式(26)に示すように、すべての区画の軸力dNc、dNg、dSsi、dNp、dNrを足し合わせることにより、PRC杭20に作用する軸力Nを求めることができる。なお、軸力Nの算出にあたり、せん断補強筋24に作用する軸力を考慮する必要は無い。
【0095】
N=Σ(dNc+dNg+dNsi+dNp+dNr) ・・・(26)
ただし、式(23)において歪みεの上限は降伏歪みεsiyとする。なお、内殻鋼管4については、引張力を考慮してもよいが、引張力を零として考慮しなくてもよい。引張力を考慮するか否かは、内殻鋼管4に引張力が作用するようにPRC杭20が設計されているか否かによる。また、式(21)、(22)において、コンクリートやグラウトの引張力は零として考慮せず、εの上限は降伏歪みεcy、εgyとする。そして、式(25)においてεの上限は降伏歪みεrtとする。
なお、PC鋼材22には、例えば、PRC杭20の初期の状態で約0.005の引張歪みεpiが導入されている。PRC杭20の引張側の歪みの上限は、PC鋼材22の引張歪みεpによって規定され、引張歪みεpが0.05となるときの歪みが、PRC杭20の引張側の歪みの上限に設定される。
かくして、圧縮側の杭体5の外面の歪みを終局歪みに固定した状態で、曲率φに応じて軸力Nを求めることができる。
【0096】
また、負担軸力Psiは、次式(27)により求めることができる。
Psi=ΣdNsi ・・・(27)
ただし式(27)において、dNsiは、内殻鋼管4の圧縮領域の区画(
図23中にハッチングで示した圧縮歪みが対応している区画)に対応するものについてのみ積算する。
【0097】
図24は、内殻鋼管4の代わりに杭体5の内側に所定強度の中詰部11、例えば設計基準強度が24N/mm
2のコンクリートが充填されていると仮定した場合に、PRC杭に所定の曲率φの終局曲げが発生しているときに中詰部11の圧縮領域が負担している軸力をPciとしたときに、負担軸力Pciを求めるための方法を説明するための図である。
【0098】
負担軸力Pciは、
図24に示すように、杭体5の内側全体に中詰部11としてのコンクリートが充填されていると仮定した上で、以下の式(28)、(29)により、負担軸力Psiと同様に求めることができる。なお、負担軸力Pciを求めるときの曲率φは、負担軸力Psiを求めるときの曲率φと同じ大きさである。
dNci=dSci×Eci×ε ・・・(28)
Pci==ΣdNci ・・・(29)
なお、式(28)中、dSciは、各区間における中詰部11の断面積であり、Eciは、中詰部11の弾性係数である。式(29)においても、dNciは、中詰部11の圧縮領域の区画(
図24中にハッチングで示した圧縮歪みが対応している区画)に対応するものについてのみ積算する。
【0099】
そして、
図8に示した場合と同様に、PRC杭20のNM曲線を求める工程では、負担軸力Pciに対する負担軸力Psiの比Psi/Pciに基づいて、NM曲線によって規定されるPRC杭20の使用可能範囲のうち軸力Nに関する上限値(Nmax2)を設定する。本実施形態では、中詰部11が、設計基準強度が24N/mm
2のコンクリートによって構成されていると仮定され、比Psi/Pciが1.15以上になるように、軸力比Nmax2/Nmax1を設定する。
【0100】
なお、PRC杭20における軸力Nに対応する終局曲げモーメントMを求めるには、まず以下の式(30)~(34)に示すように、各面積dSc、dSg、dSsi、dSp、dSrに作用する曲げモーメントdMc、dMg、dMsi、dMp、dMrを、軸力dNc、dNg、dNsi、dNp、dNrに図心からの距離yを乗じて求める。
dMc=dNc×y ・・・(30)
dMg=dNg×y ・・・(31)
dMsi=dNsi×y ・・・(32)
dMp=dNp×y ・・・(33)
dMr=dNr×y ・・・(34)
【0101】
そして、以下の式(35)に示すように、すべての区画の曲げモーメントdMca、dMcb、dMp、dMrを足し合わせることにより、各軸力Nに対応する終局曲げモーメントMを求めることができる。
M=Σ(dMc+dMg+dMsi+dMp+dMr) ・・・(35)
【0102】
かくして、圧縮側の杭体5の外面の歪みを終局歪みに固定した状態で、曲率φに応じて軸力N及び終局曲げモーメントMを求めることができる。
なお、上記説明では、軸力N及び終局曲げモーメントMの算定、つまりNM曲線の算定にあたり、充填部9b及び内殻鋼管4に作用する軸力dNg、dNsi及び曲げモーメントdMg、dMsiを考慮したが、これら軸力dNg、dNsi及び曲げモーメントdMg、dMsiを無視してNM曲線を算定してもよい。換言すれば、外殻鋼管3及びコンクリート部9aに作用する軸力dSo、dNc及び曲げモーメントdMso、dMcのみを考慮してNM曲線を算定してもよい。
【0103】
図25は、PRC杭20の製造方法の手順を概略的に示すフローチャートである。
PRC杭20の製造方法は、
図19に示したSC杭1の製造方法と比べたときに、外殻鋼管準備工程S10に代えて、鉄筋かご準備工程S15を備えている。鉄筋かご準備工程S15では、PC鋼材22、せん断補強筋24及び異形鉄筋26からなる鉄筋かごを用意する。
また、PRC杭20の製造方法は、杭体5にプレストレスを導入するために、緊張工程S16及びプレストレス導入工程S17を更に備えている。
【0104】
緊張工程S16は、打設工程S11の後に行われる。緊張工程S16では、ジャッキによってPC鋼材22を軸線方向に引っ張り、そのまま引っ張られた状態に保持する。具体的には、端板7にアダプタを取り付け、アダプタをジャッキで引っ張る。アダプタは、端板7の外面にボルトで固定される円盤形状の緊張板と、緊張板と一体に設けられ、型枠の端面を貫通して延びる緊張ロッドと、緊張ロッドに螺合可能な緊張ナットとからなる。ジャッキによって緊張ロッドを引っ張りながら、緊張ナットを型枠の端面に当接するまでねじ込むことで、PC鋼材22を引っ張られた状態に保持することができる。
【0105】
PC鋼材22は、遠心成形工程S12の間、引っ張られた状態に保持される。
遠心成形工程S12の終了後に、所定の養生プログラムに沿って蒸気養生を行う。
蒸気養生を所定時間行った後、プレストレス導入工程S17において、PC鋼材22の引っ張り状態が解除される。つまり、緊張ナットが緩められる。これにより、引っ張られていたPC鋼材22が収縮しようとし、端板7,7及びPC鋼材22によって、杭体5にプレストレスが導入される。つまり、PRC杭20が実際に使用される前から、杭体5には予め圧縮力が作用させられる。
【0106】
図26は、本発明の他の一実施形態に係る既製のコンクリート杭の一種である節杭30の概略的な縦断面図である。節杭30は、杭体5の外周面から突出する1つ以上の節部32を有する点においてPRC杭20と異なっている。節部32は、コンクリートによってコンクリート部9aと一体に形成されている。なお、節杭30において、軸力Nや終局曲げモーメントMを算出するときに用いられる横断面の位置は、杭体5の軸線方向にて、節部32が設けられていない位置とする。
【0107】
図27は、本発明の他の一実施形態に係る既製のコンクリート杭の一種である拡径杭(ST杭)40の概略的な縦断面図である。ST杭40は、杭体5の一端部(拡径部42)の外径が、杭体5の中間部よりも大きくなっている点において、PRC杭20と異なっている。拡径部42は、節部32と同様に、コンクリートによってコンクリート部9aと一体に形成されている。なお、ST杭40において、軸力Nや終局曲げモーメントMを算出するときに用いられる横断面の位置は、杭体5の軸線方向にて、拡径部42が設けられていない位置とする。
【0108】
なお、
図27のST杭40は、一端部のみが拡径されているが、本発明は、杭体5の両端部が拡径された拡径杭や、杭体5の軸線方向中間部が拡径された中間拡径杭にも適用可能である。また、
図27のST杭40は、節部32を有していないが、ST杭40は、節部32を有していてもよい。
【0109】
最後に、本発明は上述した幾つかの実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、上述した実施形態において、PRC杭20は第2補強材として複数の異形鉄筋26を備えていたが、異形鉄筋26を備えていなくてもよい。つまり、本発明は、PRC杭20のみならず、既製のコンクリート杭の一種であるプレストレスト高強度コンクリート杭(PHC杭)にも適用可能である。
また、PRC杭20において、各異形鉄筋26は、杭体5の全長に渡って延びているが、各異形鉄筋26の長さは、杭体5の全長よりも短くてもよい。
【符号の説明】
【0110】
1 外殻鋼管付きコンクリート杭(SC杭)
3 外殻鋼管
4 内殻鋼管
5 杭体
7、7a、7b 端板
9a コンクリート部
9b 充填部
11 中詰部
13 スタブ
20 プレストレスト鉄筋高強度コンクリート杭(PRC杭)
22 PC鋼材(緊張材)
24 せん断補強筋(第1補強材)
26 異形鉄筋(第2補強材)
28 筒状材
30 節杭
32 節部
40 拡径杭(ST杭)
42 拡径部