(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】糖及び/又は脂質の代謝改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/716 20060101AFI20220216BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220216BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20220216BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20220216BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20220216BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
A61K31/716
A61P3/10
A61P3/06
A61P3/04
A23L33/125
A61P1/16
(21)【出願番号】P 2018515680
(86)(22)【出願日】2018-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2018007625
(87)【国際公開番号】W WO2018159714
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2020-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2017039436
(32)【優先日】2017-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017184512
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(73)【特許権者】
【識別番号】508042869
【氏名又は名称】学校法人 大妻学院
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤司 昭
(72)【発明者】
【氏名】竹▲崎▼ 潤
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 圭
(72)【発明者】
【氏名】大木 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】大中 信輝
(72)【発明者】
【氏名】青江 誠一郎
【審査官】古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-199650(JP,A)
【文献】特開2014-118374(JP,A)
【文献】特開2017-019866(JP,A)
【文献】国際公開第2015/156339(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 35/00-35/768
A23L 31/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維化パラミロンを含有する、糖及び/又は脂質の代謝改善剤。
【請求項2】
乾燥形態である、請求項1に記載の代謝改善剤。
【請求項3】
前記繊維化パラミロンがパラミロン粒子の解繊物である、請求項1又は2に記載の代謝改善剤。
【請求項4】
前記繊維化パラミロンが、繊維が絡まり合った網目状構造体である、請求項1~3のいずれかに記載の代謝改善剤。
【請求項5】
食品添加剤である、請求項1~4のいずれかに記載の代謝改善剤。
【請求項6】
食品組成物である、請求項1~4のいずれかに記載の代謝改善剤。
【請求項7】
医薬である、請求項1~4のいずれかに記載の代謝改善剤。
【請求項8】
(1)メタボリックシンドローム、又は
(2)肥満、糖尿病、脂質異常症及び脂肪肝からなる群より選択される少なくとも1種の予防又は改善に用いられる、請求項1~7のいずれかに記載の代謝改善剤。
【請求項9】
繊維化パラミロンを配合することを含む、糖及び/又は脂質の代謝改善剤の製造方法。
【請求項10】
前記繊維化パラミロンが乾燥形態である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
さらに水を配合することを含む、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
糖及び/又は脂質の代謝改善剤を製造するための、繊維化パラミロンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖及び/又は脂質の代謝改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣病が増加している。これは、食習慣の変化や運動不足によるものであると考えられている。生活習慣病は、例えば脂質代謝異常、糖代謝異常と関連していることが知られている。このため、生活習慣病によって、動脈硬化、高血圧等の各種疾患に至る可能性がある。そこで、このような生活習慣病を予防すべく脂質代謝や糖代謝を改善するための有効な手段が求められている。
【0003】
一方、現在、糖尿病治療薬や肥満改善薬等として、脂質代謝や糖代謝を改善する医薬が知られている。しかし、これらの多くは合成低分子化合物であるところ、恒常的に摂取可能であるという観点からは、天然成分が望ましい。また、生活習慣病をより効果的に予防できるという観点からは、脂質代謝と糖代謝を両方とも改善できることが望ましい。
【0004】
パラミロンは、ミドリムシに含まれるβ-1,3-グルカンの1種である。近年、パラミロンが、創傷治療やアレルギー抑制などに有用であることが報告されている(特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2011-184371号公報
【文献】日本国特開2014-231479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、糖及び/又は脂質の代謝改善剤を提供することを課題とする。好ましくは、本発明は、天然成分を有効成分とする糖及び/又は脂質の代謝改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、天然成分であるパラミロンを繊維化することで糖及び/又は脂質の代謝改善作用を著しく増強することを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する:
項1. 繊維化パラミロンを含有する、糖及び/又は脂質の代謝改善剤。
【0009】
項2. 乾燥形態である、項1に記載の代謝改善剤。
【0010】
項3. 前記繊維化パラミロンがパラミロン粒子の解繊物である、項1又は2に記載の代謝改善剤。
【0011】
項4. 前記繊維化パラミロンが、繊維が絡まり合った網目状構造体である、項1~3のいずれかに記載の代謝改善剤。
【0012】
項5. 食品添加剤である、項1~4のいずれかに記載の代謝改善剤。
【0013】
項6. 食品組成物である、項1~4のいずれかに記載の代謝改善剤。
【0014】
項7. 医薬である、項1~4のいずれかに記載の代謝改善剤。
【0015】
項8. (1)メタボリックシンドローム、又は
(2)肥満、糖尿病、脂質異常症、及び脂肪肝からなる群より選択される少なくとも1種の予防又は改善に用いられる、項1~7のいずれかに記載の代謝改善剤。
【0016】
項9. 繊維化パラミロンを配合することを含む、糖及び/又は脂質の代謝改善剤の製造方法。
【0017】
項10. 前記繊維化パラミロンが乾燥形態である、項9に記載の製造方法。
【0018】
項11. さらに水を配合することを含む、項9又は10に記載の製造方法。
【0019】
項12. 糖及び/又は脂質の代謝改善剤として使用するための、繊維化パラミロン。
【0020】
項13. 繊維化パラミロンを対象に適用することを含む、糖及び/又は脂質の代謝改善方法。
【0021】
項14. 糖及び/又は脂質の代謝改善剤を製造するための、繊維化パラミロンの使用。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、天然成分を有効成分として含有する糖及び/又は脂質の代謝改善剤を提供することができる。本発明の糖及び/又は脂質の代謝改善剤によれば、メタボリックシンドロームや、高コレステロール血症、高脂血症などの脂質異常症、脂肪肝、糖尿病、及び肥満からなる群より選択される少なくとも1種の疾患又は状態などの予防又は改善を図ることが可能である。また、本発明の糖及び/又は脂質の代謝改善剤は、天然由来の多糖類を有効成分としているので、副作用のリスクが低いと考えられる。このため、長期摂取に適している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】パラミロン粒子懸濁液(PM顆粒)と繊維化パラミロン液(繊維化PM)との、顕微鏡写真(上段)及びバイアル外観写真(下段)を示す。
【
図2】繊維化パラミロン(製造例1)の電子顕微鏡写真を示す。図の右下のスケールの1目盛の長さは1μmを示す。
【
図3】
図2の写真の四角枠内の拡大図を示す。図の右下に示される目盛の1目盛の長さが100 nmを示す。
【
図4】試験中の体重変化を示すグラフである。横軸は試験開始からの経過日数を示し、縦軸は体重の平均値を示す。
【
図5】試験における体重増加量を示すグラフである。コントロール群、バイオマス群、パラミロン群、繊維化パラミロン群において異なるアルファベットの付く群間で有意差がある(p<0.05)。グラフにおける異なるアルファベットによる有意差の表示については、
図7~19においても同様である。
【
図6】耐糖能測定結果を示すグラフである。横軸は、グルコース溶液の投与からの経過時間を示し、縦軸は血糖値を示す。*はコントロール群と比べて有意差がある(p<0.05)ことを示す。(*)はpが0.058である。
【
図7】試験後の後腹壁脂肪組織重量の測定結果を示すグラフである。
【
図8】試験後の副睾丸周辺脂肪組織重量の測定結果を示すグラフである。
【
図9】試験後の腸間膜脂肪組織重量の測定結果を示すグラフである。
【
図10】試験後の肝臓重量の測定結果を示すグラフである。
【
図11】試験後の盲腸重量の測定結果を示すグラフである。
【
図12】試験後の血清総コレステロール濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図13】試験後の血清LDLコレステロール濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図14】試験後の血清LDLコレステロール/HDLコレステロール比を示すグラフである。
【
図15】試験後の血清遊離脂肪酸(NEFA)濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図16】試験後の血清ALT(GPT)濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図17】試験後の血清CRP濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図18】試験後の血清レプチン濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図19】試験後の血清インスリン濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図20】試験後の血中グルコース濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図21】グルコースの拡散率の測定結果を示すグラフである。グラフ中に示す各項目は、試験溶液中の被検物質の有無及びその種類を示す。
【
図22】βグルカナーゼによる分解性の評価結果を示すグラフである。横軸は、試験溶液中の被検物質の種類を示す。
【
図23】アルカリ溶液への溶解性の評価結果を示すグラフである。0Hは振盪直後に測定した結果を示し、1Hは振盪から1時間静置後に測定した結果を示す。
【
図24】X線回折(XRD)分析により得られたXRDチャートを示す。
【
図25】繊維化パラミロン(製造例2)の電子顕微鏡写真を示す。図の右下のスケールの1目盛の長さは1μmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0025】
本発明は、その一態様において、繊維化パラミロンを含有する、糖及び/又は脂質の代謝改善剤(本明細書において、「本発明の代謝改善剤」又は「本発明の剤」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0026】
1.繊維化パラミロン
繊維化パラミロンは、ミドリムシ属(=ユーグレナ属)に属する微細藻類(本明細書において、「ユーグレナ」と示すこともある。)由来のβ-1,3-グルカンであり、繊維状の形態のものである限りにおいて特に制限されず、繊維状の形態のパラミロンを本願において繊維化パラミロンともいう。これまで、パラミロン粒子を化学処理(アルカリ処理等)して得られたアモルファスパラミロンが報告されているが、これは、電子顕微鏡で観察すると繊維化であるとは認められず、形や大きさが不定形の塊であるため、繊維化パラミロンには包含されない。
【0027】
繊維化パラミロンが由来するユーグレナは、特に制限されないが、例えば、Euglena gracilis(ユーグレナ・グラシリス)、Euglena longa、Euglena caudata、Euglena oxyuris、Euglena tripteris、Euglena proxima、Euglena viridis、Euglena sociabilis、Euglena ehrenbergii、Euglena deses、Euglena pisciformis、Euglena spirogyra、Euglena acus、Euglena geniculata、Euglena intermedia、Euglena mutabilis、Euglena sanguinea、Euglena stellata、Euglena terricola、Euglena klebsi、Euglena rubra、Euglena cyclopicolaなどが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果をより確実に発揮できるという観点から、好ましくはユーグレナ・グラシリスが挙げられ、より好ましくはユーグレナ・グラシリスEOD-1株[2013年6月28日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター{NITE-IPOD(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)}にブダペスト条約の規定下で、受託番号FERM BP-11530として国際寄託済み]が挙げられる。
【0028】
繊維化パラミロンの重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1×104~2×107、好ましくは1×105~5×105である。
【0029】
なお、重量平均分子量は、SEC-MALS分析により、以下の方法で測定することができる:SEC装置:LC-10ADvp system(Shimadzu Co.、日本)、使用カラム:KD-806M(shodex.、日本)、
MALS検出器:DAWN HELEOSII(wyatt Technologies.、U.S.A.)、溶離液:1%LiCl/DMI、
流速:0.5 mL/分。
【0030】
繊維化パラミロンの繊維の直径は、特に制限されないが、例えば10~500 nm、好ましくは20~300 nm、より好ましくは50~200 nmである。繊維化パラミロンの繊維の直径は、通常、繊維化パラミロンの電子顕微鏡像に基づいて測定することができる。
【0031】
繊維化パラミロンの水中沈定体積は、特に制限されないが、例えば30~300 mL/g、好ましくは50~250 mL/g、より好ましくは70~200 mL/gである。水中沈定体積は試験例2に従って又は準じて測定することができる。
【0032】
繊維化パラミロンは、酵素による分解に対して、比較的高い耐性を有する。例えば、βグルカナーゼの分解により生成されるモノマー(グルコース)の量は、繊維化パラミロン1 g当たり、例えば0.1~50 mg、好ましくは1~10 mgである。この量は試験例5に従って又は準じて測定することができる。
【0033】
繊維化パラミロンは、アルカリ溶液への溶解性が、比較的低い。例えば、繊維化パラミロンは、0.1~0.3Mの水酸化ナトリウム水溶液に対して溶解しない。ここで、「溶解しない」とは、例えば、当該水溶液に繊維化パラミロンを懸濁した後(例えば、直後~1時間経過後)の溶液の吸光度(660 nm)が、例えば0.1以上、好ましくは1.0以上であることを意味する。溶解性は試験例6に従って又は準じて測定することができる。
【0034】
繊維化パラミロンの結晶化度の粒状パラミロンに対する相対値(繊維化パラミロンの結晶化度/粒状パラミロンの結晶化度)は、例えば0.60~0.90、好ましくは0.65~0.80である。結晶化度は試験例7に従って又は準じて測定することができる。
【0035】
繊維化パラミロンは、水などの溶媒に分散した形態であってもよいし、乾燥形態であってもよい。繊維化パラミロンは、乾燥形態であっても、水に再分散することが可能である。
【0036】
なお、本明細書において、「乾燥形態」とは、水分含量が15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であることを示す。
【0037】
なお、パラミロンは、ユーグレナの細胞内において、通常、β-1,3-グルカン鎖が形成する3重螺旋構造体が一定の規則性の基に高度に集積してなるパラミロン粒子として存在している。繊維化パラミロンとしては、好ましくはこのパラミロン粒子を物理的に解繊処理して得られる、パラミロン粒子の解繊物を用いることができる。また、この解繊処理をユーグレナに適用することによって得られる、ユーグレナの解繊処理物を、繊維化パラミロンとして用いることもできる。
【0038】
パラミロン粒子の形状は、特に制限されないが、通常は、偏平な回転楕円体状である。
【0039】
パラミロン粒子の粒子径分布は、特に制限されないが、例えば0.5~15μm、好ましくは1~6μmである。また、パラミロン粒子の平均粒子径も特に制限されないが、例えば1~10、好ましくは2~4μmである。
【0040】
パラミロン粒子は、公知の方法(例えば日本国特許第5883532号公報に記載の方法)に従って又は準じて、ミドリムシから分離、単離、又は精製することによって製造することができる。パラミロン粒子は、例えばミドリムシの細胞膜を破壊することによって得られる細胞内容成分を回収することによって、容易に得ることができる。また、必要に応じて、パラミロン粒子を精製してもよい。パラミロン粒子の精製については各種知られており(例えば、日本国特許第5883532号公報)、それらの方法に従って行うことができる。精製工程としては、例えば、界面活性剤処理工程、洗浄工程などが挙げられる。
【0041】
解繊処理は、パラミロン粒子中に存在するβ-1,3グルカンの水素結合をほとんど切断せずに(例えば、β-1,3グルカンの水素結合の10%以下、5%以下、2%以下、1%以下しか切断せずに)解繊することができる処理、又はパラミロン粒子中に存在するβ-1,3-グルカン鎖又はこれが形成する3重螺旋構造体の一部又は全部を解くことができる処理である限り特に制限されない。好ましくはパラミロン粒子中に存在するβ-1,3グルカンの水素結合をほとんど切断せずに解繊処理し、繊維状とすることが好ましい。パラミロン粒子の様な微粒子を摩砕(せん断)又は粉砕(好ましくは摩砕(せん断))することができる公知の処理を、解繊処理として採用することができる。
【0042】
解繊処理は、公知の摩砕機(せん断機)、粉砕機などの装置を用いて行うことができる。解繊処理に用いる装置としては、例えば石臼式摩砕機、ジェットミル、二軸混練機、高圧ホモジナイザー、高圧乳化機、二軸押し出し機、ビーズミルなどが挙げられる。これらの中でも、好ましくは石臼式摩砕機やビーズミルが挙げられる。
【0043】
解繊処理は、湿式で行うことも、乾式で行うこともできる。湿式で解繊処理を行う方が、繊維化パラミロンをより効率的に溶液中に分散させることが可能となり、好ましい。湿式で行う場合の溶媒としては、繊維化パラミロンを分散可能な溶媒である限り特に制限されず、水を好適に用いることができる。
【0044】
解繊処理は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。また、一部が解繊処理されたパラミロンであってもよく、解繊処理されたパラミロンを含む限り本発明の意図するものである。
【0045】
解繊処理の諸条件は、解繊原理、解繊処理に用いる装置の種類、湿式であるか乾式であるかなどに応じて適宜調整することができる。一例として、増幸産業製の石臼式摩砕機(スーパーマスコロイダー)を用いて湿式解繊処理を行う場合の各条件(解繊処理対象液、クリアランス、砥石回転数、解繊処理の回数)は以下のとおりである。
【0046】
解繊処理対象液:パラミロン粒子の水懸濁液。パラミロン粒子の濃度は、特に制限されないが、例えば0.1~40質量%、好ましくは0.5~30質量%、より好ましくは1~20質量%、さらに好ましくは2~15質量%である。
【0047】
クリアランス(砥石の隙間):特に制限されないが、例えば-10~-800μm、好ましくは-30~-400μm、より好ましくは-50~-300μm、さらに好ましくは-80~-150μmである。
【0048】
砥石回転数:特に制限されないが、例えば500~3000 rpm、好ましくは700~2000 rpm、より好ましくは800~1600 rpmである。
【0049】
解繊処理の回数:特に制限されないが、例えば1~30回、好ましくは3~25回、より好ましくは5~20回程度である。
【0050】
なお、砥石の種類やメーカーによって条件は適宜変更され、例えばグローエンジニアリングの石臼式摩砕機(グローミル)を利用する場合、クリアランスを例えば10~100μmとすることが好ましい。
【0051】
繊維化パラミロンは、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0052】
2.用途
繊維化パラミロンは、糖及び/又は脂質の代謝改善作用を有することから、糖及び/又は脂質の代謝改善剤の有効成分として、利用することができる。なお、本明細書において、糖代謝とは、糖の摂取から排泄までの一連の現象のそれぞれを包含する。また、本明細書において、脂質代謝とは、脂質又は脂質へと変換可能な物質の摂取から、脂質又は脂質から変換された物質の排出までの一連の現象のそれぞれを包含する。
【0053】
また、糖及び/又は脂質の代謝改善作用に基づく他の用途、例えば、以下に列挙する用途:
(A)メタボリックシンドローム、又は高コレステロール血症、高脂血症などの脂質異常症、糖尿病、肥満、及び脂肪肝からなる群より選択される少なくとも1種の疾患又は状態などの予防又は改善剤、
(B)体重抑制剤、
(C)体重増加の抑制剤、
(D)体脂肪及び/又は内臓脂肪抑制剤、
(E)体脂肪及び/又は内臓脂肪増加の抑制剤、
(F)糖及び/又は脂質吸収抑制剤、
(G)脂肪消費促進剤、
(H)血中脂質(例えばコレステロール、中性脂肪等)及び/又は血糖値の抑制剤、
(I)血中脂質(例えばコレステロール、中性脂肪等)及び/又は血糖値上昇の抑制剤、(J)血中LDLコレステロール抑制剤、
(K)血中LDLコレステロール上昇の抑制剤、
(L)血中LH比(LDLコレステロール/HDLコレステロール)抑制剤、
(M)血中LH比(LDLコレステロール/HDLコレステロール)上昇の抑制剤、
(N)腸内細菌叢改善剤
(O)便通改善剤
(P)肝機能改善剤
(R)動脈硬化予防剤
(S)インスリン抵抗性改善剤
(T)糖吸収遅延化剤
(U)血糖値上昇遅延化剤
等の有効成分として、利用することができる。
【0054】
さらには、以下に列挙する用途、目的、対象:
(a) 内臓脂肪を減らす
(b) 体脂肪の増加を抑える、体脂肪を減らす、脂肪の吸収を抑える
(c) 中性脂肪を減らす
(d) エネルギーとして脂肪を消費しやすくする
(e) 血中中性脂肪や血糖値の上昇をおだやかにする
(f) 糖分の吸収を抑える、糖質の吸収を抑える
(g) 血中コレステロールを低下させる、LDLコレステロール値を下げる
(h) おなかの調子を整える、便通を改善する、腸内環境を改善する(i) 血中HDL(善玉)コレステロールを増やす
(j) 内臓脂肪が気になる方へ
(k) BMIが高めの方へ
(l) 中性脂肪が高めの方へ
(m) コレステロールが気になる方へ
(n) 食後の血糖値が高めの(気になる)方へ
(o) 肝臓の健康が気になる方へ
に利用することもできる。
【0055】
なお、メタボリックシンドロームは内臓脂肪型肥満に加えて、(1)高血圧である、(2)血糖値が高い、(3)HDLコレステロールが低いか中性脂肪が高い、の3つのうち、いずれか2つ以上あてはまる状態といわれている。
【0056】
本発明の剤は、各種分野において、例えば食品添加剤、食品組成物(健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)を包含する)、医薬などとして用いることができる。
【0057】
本発明の剤の形態は、特に限定されず、用途に応じて、各用途において通常使用される形態をとることができる。
【0058】
形態としては、用途が食品添加剤、医薬、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などである場合は、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などが挙げられる。
【0059】
形態としては、用途が食品組成物の場合は、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳などの飲料、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキーなどが挙げられる。
【0060】
本発明の剤は、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、食品添加剤、食品組成物、医薬、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などに配合され得る成分である限り特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、着色料、香料、キレート剤などが挙げられる。
【0061】
本発明の剤は、繊維化パラミロンが水などの溶媒に分散した形態であってもよいし、乾燥形態であってもよい。繊維化パラミロンは、乾燥形態であっても、より容易に水に分散することが可能である。
【0062】
本発明の剤は、繊維化パラミロンを配合する工程を含む方法によって、製造することができる。本発明の剤が例えば飲料である場合は、さらに水を配合する工程が含まれる。なお、この場合、既に水を含む対象物に繊維化パラミロンを配合してもよいし、繊維化パラミロンを配合した後に、水を配合してもよい。配合する際、繊維化パラミロンは、乾燥状態であっても、水に分散することが可能である。
【0063】
本発明の剤が繊維化パラミロン以外の成分を含む場合、有効成分の含有量は、用途、使用態様、適用対象の状態などに左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~95質量%、好ましくは0.001~50質量%とすることができる。
【0064】
本発明の剤の対象生物に対する適用(例えば、投与、摂取、接種など)量は、薬効を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分である繊維化パラミロンの乾燥重量として、一般に一日あたり0.1~10000 mg/kg体重である。上記適用量は1日1回以上(例えば1~3回)に分けて適用するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0066】
参考製造例1:パラミロン粒子の製造
パラミロン粒子を以下のようにして精製した。
【0067】
[培養工程]
ユーグレナ・グラシリスEOD-1株(独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)にブダペスト条約の規定下で、受託番号FERM BP-11530として国際寄託済み)を以下の条件下で培養した。
【0068】
「培養容器」:500 mL坂口フラスコ
「振とう培養条件」:125 rpm
「培養温度」:28℃
「培養開始時の液体のpH」:4.7(塩酸によって調整)
「培養のための液体量」:約200 mL/1フラスコ
「培養のための液体の組成」:表1の通り
「光照射条件」:24時間暗所
「微細藻類の初期重量」:0.78 g/L(乾燥重量)
「培養期間」:2日間
【0069】
【0070】
培養終了後に、5フラスコ分の液体を集め、集めた液体を遠心管内で遠心分離(500×g、4分間、室温)した。遠心管内の上澄み液をいったん取り除いて回収した。回収した上澄み液を遠心管に入れて遠心管内の沈殿物を分散させ、100 mL容積のメスシリンダーに全て移した。さらに、メスシリンダーに、回収した上澄み液を加えて、90 mLにメスアップした。
【0071】
[酵素処理工程]
90 mLにメスアップした液体を200 mLビーカーに移し、撹拌しながら塩酸水溶液を添加することによって液体のpHを3に調整した。タンパク質分解酵素(酸性プロテアーゼ 製品名「プロテアーゼYP-SS」ヤクルト薬品工業社製 至適pH2.5~3.0)を5 g/L濃度となるように液体に添加した。液体を撹拌しつつ50℃にて2時間、酵素処理を施した。
【0072】
[界面活性剤処理工程]
ドデシル硫酸ナトリウムの濃度が3.0質量/容量(w/v)%となるように、酵素処理工程を経た液体に、ドデシル硫酸ナトリウムの水溶液を加えた。ドデシル硫酸ナトリウムを含む液体を撹拌しつつ、塩酸水溶液の添加によって液体のpHを3に調整した。さらに、液体をプロペラ撹拌機(回転速度200 rpm)で60℃にて30分間撹拌した。
【0073】
[分離工程]
遠心分離(1000×g、2分間、室温)によってパラミロンを沈殿させ、界面活性剤処理工程を経た液体から、パラミロンを分離した。ドデシル硫酸ナトリウムの濃度が1.0質量/容量%となるように変更した点、pHを調整しなかった点以外は、同様にしてさらに界面活性剤処理工程を行った。その後、上記と同様にして分離工程を行った。このようにして、界面活性剤処理工程及び分離工程をそれぞれ3回ずつ行った。
【0074】
[洗浄工程]
分離工程において遠心分離によって沈殿したパラミロンを、純水によって懸濁させ、40℃にて10分間静置した。次に、遠心分離(1000×g、2分間、室温)によってパラミロンを沈殿させた。このような操作を合計3回行った。
【0075】
[乾燥工程]
洗浄工程において遠心分離によって沈殿したパラミロンを、50℃にて乾燥させて、パラミロン粒子を得た。
【0076】
製造例1:繊維化パラミロンの製造1
参考製造例1を繰り返すことで製造したパラミロン粒子を精製水と混合してパラミロン粒子懸濁液を調製した。パラミロン粒子懸濁液中のパラミロン粒子の濃度は5質量%とした。パラミロン粒子懸濁液を、石臼式磨砕機(スーパーマスコロイダー、増幸産業社製)を用いて下記表2中の条件で湿式解繊処理して、磨砕機から排出されたスラリーを得た。この湿式解繊処理を計20回繰り返した。最終的に得られたスラリーを、繊維化パラミロン液として試験に用いた。パラミロン粒子懸濁液と、繊維化パラミロン液の顕微鏡写真、及びこれらの液を含有するバイアルの外観写真を
図1に示す。
なお、以降図表において繊維化パラミロンを繊維状パラミロンということもある。
【0077】
【0078】
図1の顕微鏡写真に示されるように、湿式解繊処理により、パラミロン粒子が解れ、繊維化していることが確認できた。また、繊維化パラミロンは枝分れした構造(分岐した構造)を有し網目状の構造となっていることが確認出来た。また、
図1の外観写真のとおり、繊維化パラミロン液においては、繊維化パラミロンが液中に均一に分散していることが示された。
【0079】
比較製造例1:化学処理パラミロンの製造
参考製造例1のパラミロン粒子を日本国特開2011-184592号公報に記載の方法を用いて化学的に処理した。具体的には、パラミロン粒子を1M NaOH水溶液に溶解させ、溶解後に、塩酸水溶液を加えることにより、中和処理を行った。中和処理によってゲル状物が生じた。遠心分離による分離処理によって得られた上澄み液を除去し、固形分を得た。固形分は、中和処理による塩(NaCl)を含んでいるため、得られた固形分に対して、多量の水を加えて、固形分を分散させてゲル状物を生じさせ、同様に遠心分離で分離処理を行うことにより、ゲル状物に含まれる塩類の除去処理を行った。塩類の除去処理を、ゲル状物に含まれるNaCl乾燥質量が、1M NaOH水溶液に溶解させたパラミロン粒子の乾燥重量あたり0.1質量%以下となるまで繰り返し行い、化学処理パラミロンを得た。ゲル状物に含まれるNaClの乾燥重量は、遠心分離後の上澄み液のNaCl濃度を、上澄み液の電気伝導度より算出することで求めた。なお、既報の文献(平成26年度戦略的基板技術高度化支援事業 多糖類パラミロンの高度培養生産技術及び利用に関する研究開発(研究開発成果等報告書 平成27年3月))によると、この化学処理パラミロンは、電子顕微鏡によって観察した結果、繊維状ではなく、形や大きさが不定形の塊であった。
【0080】
試験例1:繊維化パラミロンの構造の解析
製造例1の繊維化パラミロンの構造を電子顕微鏡で観察した。具体的には次のようにして行った。まず、繊維化パラミロンと水との混合物に対して、該混合物の1.5倍容量のt-ブタノールを加えて、ボルテックスミキサーによって、繊維化パラミロンを分散させた。得られた分散液の一部を平板上に滴下し、滴下された試験液を凍結させた。凍結物を減圧処理して、溶媒を揮発させた。得られたサンプルに、オスミウムプラズマイオンコート(厚さ20 nm)を施し、走査型電子顕微鏡で観察した。観察像を
図2及び3に示す。
【0081】
図2及び3に示されるように、本試験により観察された繊維化パラミロンは、各繊維が互いに絡み合った網目状構造であった。
【0082】
試験例2:水中沈定体積の測定
「日本食物繊維学会監修、日本食物繊維学会編集委員会編(2008)食物繊維 ‐基礎と応用‐ 第3版, p.111 第一出版, 東京」に記載されている方法に準じて測定を行った。具体的には、次のようにして行った。サンプル(パラミロン粒子(参考製造例1)、繊維化パラミロン(製造例1)、又は化学処理パラミロン(比較製造例1))のスラリー状の各試験試料を、25 mL容積のプラスチックチューブに、乾燥質量換算で250 mg(繊維化パラミロンのみ、125 mg)計り取り、プラスチックチューブを手で激しく振って、内容物を撹拌した。その後、25 mL容積のメスシリンダーに内容物を移し、25 mLになるまで純水を加えた。メスシリンダー内の液体を撹拌した後、37℃で24時間静置した。これによりサンプルが沈殿し、界面を介して分けられる2つの層(沈殿したサンプルを主に含む層(下層)、及び水を主に含む層(上層))が生じた。下層の体積をメスシリンダーの目盛から求め、得られた体積をサンプル質量(乾燥質量)で除して、水中沈定体積(mL/g)を算出した。試験は3回又は4回行い、平均値及び標準偏差を算出した。結果を表3に示す。
【0083】
【0084】
表3に示されるように、繊維化パラミロンの水中沈定体積は比較的高いものであった。このことから、繊維化パラミロンは水への分散性及び保水力に優れることが示唆された。
【0085】
試験例3:糖及び脂質代謝への影響の解析
マウスを、繊維化パラミロン(製造例1)を含む飼料を餌として飼育し、体重、耐糖能、内臓脂肪量、各臓器重量、血清生化学値等を測定した。具体的には以下のようにして行った。
【0086】
<3-1.試験方法>
<3-1-1.実験動物及び飼育条件>
本実験は、大妻女子大学家政学部動物実験委員会において定められた「動物実験設備の整備および管理の方法並びに具体的な実験方法を定めた規則」に則り、倫理審査委員の承認を得て行った。
【0087】
5週齢の雄C57BL/6Jマウス(日本チャールズ・リバー社製)を用いた。固形飼料(NMF、オリエンタル酵母工業社製)で1週間の予備飼育後、体重が均一になるように1群10匹ずつに群分けした(ただし、標準飼料飼育群は5匹)。
【0088】
試験に用いた飼料については次のとおりである。コントロール群及び試験群の飼料には、脂肪エネルギー比が50%になるようにラードを20%添加した。コントロール群の飼料には、食物繊維として5%セルロースを添加した。試験群の飼料には、ユーグレナグラシリスEOD-1株乾燥粉末(以下、バイオマス群)、パラミロン粒子(参考製造例1)(以下、パラミロン群)、又は繊維化パラミロン(製造例1)を2倍量のデキストリンと混合して凍結乾燥して得られた繊維化パラミロン乾燥物(以下、繊維化パラミロン群)を添加した。各飼料は、乾燥重量として5%となるように含水率を考慮して添加した。また、バイオマスには80.2%のパラミロンが含まれていたので、飼料中の食物繊維量が5%になるように不足分9.9 gのセルロースで調製した。なお、パラミロン粒子と繊維化パラミロンはそれぞれ食物繊維として扱い、このためパラミロン群及び繊維化パラミロン群の飼料にはセルロースを添加しなかった。また、繊維化パラミロンにデキストリンを加えているため同量のデキストリンを各群に添加した。各群の飼料組成を表4に示す。
【0089】
【0090】
また、上記したコントロール群及び試験群とは別に、ラード等を添加していない標準飼料を摂取させる群(以下、標準群)も準備した。
【0091】
試験において、マウスには上記飼料と水を12週間自由摂取させ、体重と飼料摂取量を2~3日おきに測定した。なお、飼育環境は、温度22±1℃、湿度50±5%、12時間の明暗サイクル(明期:8時→20時、暗期:20時→8時)とした。試験最終日に、飼料摂取量及び体重を測定後に一晩絶食させ、イソフルラン/炭酸ガスにて安楽死させ、心臓より血液を採取した。肝臓、盲腸、後腹壁脂肪、腸間膜脂肪、副睾丸周辺脂肪組織を摘出し、重量を測定した。その後、肝臓は凍結乾燥及び粉砕し、分析用の試料とした。
【0092】
<3-1-2.耐糖能測定>
飼育最終週に朝8時より8時間の絶食後、20%グルコース溶液を1 g/kg体重となるように胃ゾンデを用いてマウスの胃内に投与した。投与前に尾部より採血し(0分)、投与後15分、30分、60分、及び120分後に同様に採血した。血糖値の定量には、「小型血糖測定器 グルテストエースR」(三和科学研究所社製)を使用した。
【0093】
<3-1-3.血清の生化学的検査>
AST、ALT、ALP、総コレステロール、LDL-コレステロール、HDL-コレステロール、トリグリセリド(中性脂肪)、遊離脂肪酸(NEFA)、CRP、レプチン、インスリン、及びグルコースの血清中若しくは血中濃度を測定した。
【0094】
<3-1-4.統計解析>
全ての統計処理は統計ソフト(JMP Pro.12)を用いて、一元配置の分散分析を行い、平均値の差の検定はTurkey-Kramerの多重比較法を用いた。測定結果は平均値±標準偏差で示し、有意水準は5%とした。
【0095】
<3-2.結果>
<3-2-1.体重>
試験中の体重変化のグラフを
図4及び5に示す。
【0096】
なお、試験前の体重において各群の間で有意差はなく、また、高脂肪食を摂取させるマウスの飼料はカロリーが揃うように調整し、試験期間中の各群の摂取量に有意差が無いことを確認した。
【0097】
図4及び5に示されるように、バイオマス群及びパラミロン群はコントロール群より若干の抑制傾向が見られたことに対して、繊維化パラミロン群はコントロール群に比べて顕著に体重増加が抑制されていた。繊維化パラミロン群は、ラードが添加された飼料を摂取し続けているにも関わらず、その体重増加の程度は、ラードを添加していない標準飼料を摂取させた群(標準群)と同程度であった。
【0098】
<3-2-2.耐糖能>
耐糖能測定結果を
図6に示す。
【0099】
図6に示されるように、バイオマス群及びパラミロン群はグルコース投与後の血糖値がコントロール群に比べて低い傾向にあるものの、有意差が認められるのは投与後120分後であった。これに対して、繊維化パラミロン群は、グルコース投与後の血糖値がバイオマス群及びパラミロン群よりもさらに低く、コントロール群に対して血糖値の上昇を有意に抑えていることが分かる。またコントロール群に対する有意差もより早い段階(投与後15分後)で認められ、投与後60分以降も有意に血糖値が低いことが確認された。さらに、繊維化パラミロン群は、ラードが添加された飼料を摂取し続けているにも関わらず、耐糖能(グルコース投与後の血糖値)は、ラードを添加していない標準飼料を摂取させた群(標準群)と同程度であった。
【0100】
<3-2-3.内臓脂肪量>
試験後の内臓脂肪量を測定した結果を、
図7~9に示す。
【0101】
図7~9に示されるように、バイオマス群及びパラミロン群はコントロール群と内臓脂肪量が同程度であるのに対して、繊維化パラミロン群はコントロール群に比べて顕著に内臓脂肪量が少なかった。また、繊維化パラミロン群の内臓脂肪量は、バイオマス群及びコントロール群と比べても有意に少ない、又は少ない傾向であった。
【0102】
具体的には、腸間膜脂肪についてはパラミロン群はコントロール群に比べて少ない傾向となり、繊維化パラミロン群はコントロール群に比べて有意に少なかった。
【0103】
後腹壁脂肪及び副睾丸周辺脂肪については繊維化パラミロンはコントロール群、バイオマス群、パラミロン群に比べて有意に少なかった。
【0104】
<3-2-4.肝臓への脂肪の蓄積>
試験後の肝臓重量を測定した結果を、
図10に示す。
【0105】
図10に示されるように、繊維化パラミロン群の肝臓重量はコントロール群に比べて有意に少なかった。これは、肝臓への脂肪蓄積量が少なかったことに起因すると推測される。
【0106】
<3-2-5.盲腸重量>
試験後の盲腸重量(内容物含む)を測定した結果を、コントロール群及び試験群については
図11に示す。
【0107】
図11に示されるように、繊維化パラミロン群の盲腸重量はコントロール群に比べて有意に高く、バイオマス群、パラミロン群もコントロール群に比べて高い傾向を示した。盲腸重量の増加は、繊維化パラミロンが大腸の腸内細菌で分解され短鎖脂肪酸を生成していることを示唆している。この短鎖脂肪酸は抗肥満作用等を有することが知られている(例えば、日本国特開平06-256402号公報)。
【0108】
<3-2-6.血清生化学値>
試験後の各血清生化学値を測定した結果を
図12~20に示す。
【0109】
図12に示されるように、総コレステロールは繊維化パラミロンがコントロール群、バイオマス群、パラミロン群に比べて有意に少なく、パラミロン群はコントロール群に対して有意に少なく、バイオマス群はコントロール群に比べて低い傾向となった。さらに
図13に示されるようにLDLコレステロールも繊維化パラミロン群ではコントロール群に比べて有意に少なかった。
【0110】
LDLコレステロール/HDLコレステロール比が高値のものは、低値のものより動脈硬化の危険因子が高度である可能性があることを指摘されている。
(非特許文献 人間ドック 25(1) 65-70,2010)
図14に示すように、高脂肪食に繊維化パラミロンを投与した群では、コントロール群(高脂肪食群)に比べてLDLコレステロール/HDLコレステロール比が有意に低下しており、繊維化パラミロンが血中コレステロールのバランスを適切に調整する可能性が示唆された。また、高脂肪食にバイオマスを投与した群では有意差はないものの、高脂肪食群に比べLDLコレステロール/HDLコレステロール比が低下する傾向を示した。
【0111】
繊維化パラミロンは、LDLコレステロールとHDLコレステロールの比を小さくすることから血管の健康(動脈硬化防止など)に寄与することが示唆された。また、バイオマスにおいても血管の健康(動脈硬化防止など)に寄与する可能性がある。
【0112】
図15に示されるように、繊維化パラミロン群のNEFA値はコントロール群(高脂肪食群)に比べて有意に低下していた。
【0113】
NEFA値はNon-esterified fatty acidの略であり、脂肪組織の中性脂肪がホルモン感受性リパーゼによって分解されると血中に放出される非エステル型脂肪酸である。ホルモン感受性リパーゼの作用の抑制因子の一つとしてインスリンが知られており、インスリン分泌量低下やインスリン作用抑制といった糖代謝障害が生じると、ホルモン感受性リパーゼによる脂肪組織分解が亢進してNEFAが上昇すると考えられている。また、NEFAは界面活性作用を持つため、血中濃度が高くなると細胞膜を溶解して細胞を破壊することから、臓器の機能不全を引き起こす要因の一つと考えられている。
【0114】
図15に示すように、繊維化パラミロン群のNEFAはコントロール群(高脂肪食群)に比べ有意に低下していたことから、糖代謝障害が抑制される可能性が示唆された。また、NEFA上昇を抑制することで臓器機能不全の発症リスクが低減される可能性が示唆された。
【0115】
また、
図16に示されるように、繊維化パラミロン群の血清ALT濃度はコントロール群に比べて有意に少なかった。繊維化パラミロン群の血清ALT濃度は、バイオマス群及びコントロール群と比べても少ない傾向であった。ALTは肝臓細胞が壊れる際に血中に放出される成分と考えられ、肝臓に脂肪が蓄積すると肝臓細胞が壊れALTが放出されると考えられることから、繊維化パラミロンの摂取により脂肪による肝臓のダメージを抑制できることが示唆された。
【0116】
なお、AST及びTG(トリグリセリド)については図示していないが、ASTについては標準飼料を含む全群で有意差が無く、TGについてもコントロール群に対して他の群は有意差はでなかったもののいずれも値が小さくなる傾向を示した。
【0117】
図17に示されるように、繊維化パラミロン群のCRP値はコントロール群に比べて有意に少なく、バイオマス群、パラミロン群と比較しても低い傾向を示した。
【0118】
CRP値はC-reactive proteinの略であり、炎症や組織細胞の破壊が起こると血清中に増加するタンパク質であり、炎症の指標となる。慢性炎症が起こり、CRPの値が高くなると、インスリン抵抗性が悪化し、血糖値が上がってしまうことが知られている。また、動脈硬化性疾患やそのリスク状態とされる糖尿病、肥満、高脂血症などでCRPが軽度高値を示すといわれており、CRPが高い人にメタボリックシンドロームや高コレステロール血症が重なると、心臓病や脳卒中になりやすいことが明らかになっている。
図17に示されるように、高脂肪食に繊維化パラミロンを投与した群では、コントロール群(高脂肪食群)に比べてCRP濃度が有意に低下しており、インスリン抵抗性や血糖値上昇等のリスクを低減する可能性が示唆された。
【0119】
また、
図18に示されるように、レプチンの値は繊維化パラミロン群では他と比較して有意に少ない値となった。
【0120】
レプチンは白色脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカイン(生理活性物質)の一つであり、強力な飽食シグナルを伝達し、交感神経活動亢進によるエネルギー消費増大をもたらし、肥満の抑制や体重増加の制御の役割を果たす。
【0121】
肥満者の大半は脂肪組織の増加にともないレプチン産生が亢進するため血中レプチン値はむしろ高値を呈する。従って肥満者ではレプチン高値にかかわらず摂食障害がみられない、いわゆる“レプチン抵抗性”の状態となり、ますます肥満を促進させる。
このレプチン抵抗性がインスリン抵抗性の引き金になっている可能性も考えられている。ヒトにおいて高血圧疾患では正常者と比較して血中レプチン濃度が高く、血中レプチン濃度と血圧が相関することも報告されている。
【0122】
図18に示すように高脂肪食に繊維化パラミロンを投与した群では、コントロール群(高脂肪食群)に比べてレプチン濃度が有意に低下しており、上記リスクが低減する可能性が示唆された。
【0123】
図19及び
図20に示されるように血中グルコース濃度は各群の間でそれほど差が無いにもかかわらず、インスリン濃度は繊維化パラミロン群はコントロール群に比べて有意に少ない値であった。これは繊維化パラミロン摂取群ではインスリンに対する感受性が高まっており、言い換えればインスリン抵抗性が改善されていることが示唆される。また、バイオマス群やパラミロン群もコントロール群と比較するとインスリン濃度が低い傾向を示しており、これらについても同様にインスリン抵抗性が改善されている傾向がある。
【0124】
図19、
図20、及び
図6の結果から繊維化パラミロン群にはインスリン抵抗性を改善し血糖値の上昇を抑制することから糖尿病予防又は治療剤として利用出来る可能性が示唆される。
【0125】
試験例4:糖拡散抑制試験1
溶液中の糖が拡散して半透膜を透過する量を、繊維化パラミロンの有無で比較した。本試験は、既報の文献(J. Agric. Food Chem. 2001, 49, 1026-1029)を参考にして行った。具体的には以下のようにして行った。
【0126】
<4-1.試験方法>
グルコース濃度が100 mMであり、且つ被検物質(繊維化パラミロン(製造例1)、ペクチン(シトラス由来ペクチン、東京化成工業社製、製品コード:P0024-25G)、レジスタントスターチ(パインスターチRT、松谷化学工業社製)、又は難消化性デキストリン(ファイバーソル2、松谷化学工業社製))の濃度が2質量%である、或いは被検物質を含まない水溶液3 mLを、試験溶液として調製した。具体的には各成分を混合後、ローテーターで37℃で30分間撹拌することにより調製した。得られた各試験溶液2.5 mLを透析チューブ(MWCO12000~14000、Thermofisher DIALYSIS TUBING standard grade cat# 2115215)に入れ、純水20 mLを外液として、37℃でゆっくり(55 rpm)振とうしながら透析した。透析開始から10、20、30、60、90、180、及び300分経過後に、外液の一部(100μL)をサンプル液として採取した。サンプル液中のグルコース濃度を、グルコースCII-テストワコー(Wako社製)を用いて測定した。透析が進んでグルコースが平衡状態になった場合の外液のグルコース濃度の理論値は11.1 mMである。そこで、この理論値に対するサンプル液のグルコース濃度の割合[=(サンプル液のグルコース濃度(mM)/11.1(mM))×100]を拡散率として算出した。
【0127】
<4-2.結果>
上記試験を3回繰り返し行い、3回の平均値を算出した。この結果を
図21に示す。
図21に示されるように、繊維化パラミロンは糖の拡散を抑制することが分かった。また、この糖拡散抑制作用は多糖類全般が有する作用では無いこと、及び繊維化パラミロンの糖拡散抑制作用はペクチンよりも高いことが分かった。
【0128】
試験例5:酵素による分解耐性の評価試験
βグルカナーゼによる分解耐性を、生成されるモノマーの量を測定することにより評価した。具体的には以下の様にして行った。
【0129】
<5-1.試験方法>
反応液[被検物質(パラミロン粒子(参考製造例1)、繊維化パラミロン(製造例1)、化学処理パラミロン(比較製造例1:1.0M NaOH水溶液に溶解))30 mg(乾燥重量)、緩衝液(東京化成工業社製 B0156、フタル酸水素カリウム-水酸化ナトリウムバッファー (pH4.0))5 mL、酵素液(日本バイオコン社製 endo-1,3-β-Glucanase (Lot 91102c) (酵素含有量:50 units/mL))0.1 mL、純水、反応液量 10 mL]を調製(n=2)し、40℃で24時間、45 rpmで水平振盪した。振盪後、直ちに凍結保存し、濃縮のために凍結乾燥した。凍結乾燥後、各試料に純水を0.5 mLずつ加え、攪拌した(20倍濃縮)。なお、被検物質として比較製造例1の化学処理パラミロンを用いた場合のみ、0.5 mLでは溶解及び懸濁が不十分であったため、純水を0.8 mL加えて、12.5倍濃縮とした。遠心分離(10000G、5分間、4℃)し、上澄を回収する作業を2回繰り返した。回収した上澄中のグルコース濃度を、測定キット(和光純薬工業社製、グルコースCII-テストワコー)を用いて測定した。測定値に基づいて、被検物質1 g当たりのグルコース生成量(mg)を算出した。
【0130】
<5-2.結果>
結果を
図22に示す。
図22に示されるように、繊維化パラミロンは、化学処理パラミロンに比べて、βグルカナーゼによる分解耐性が顕著に高いことが分かった。
なお、被験物質を一度凍結乾燥させたものについて同様の試験を実施したところ、同様の結果となり、被験物質の事前乾燥の有無によって傾向が変わらないことが確認された。
【0131】
試験例6:アルカリ溶液への溶解性の評価試験
アルカリ溶液への溶解性を評価した。具体的には以下の様にして行った。
【0132】
<6-1.試験方法>
被検物質(パラミロン粒子(参考製造例1)を粉砕して粉末状としたもの、繊維化パラミロン(製造例1)、化学処理パラミロン(比較製造例:1.0M NaOH水溶液に溶解))250 mg(乾燥重量)をバイアル中の試験液(純水、0.1M NaOH水溶液、0.3M NaOH水溶液、1M NaOH水溶液)10 mLに懸濁した。バイアルを20秒間、手で激しく振った後、およびシェーカーで80 rpmで1時間振盪した後に、それぞれバイアル中の液の660 nmにおける吸光度を測定した。なお、吸光度の測定は、日本分光株式会社製分光光度計 V-730を用いて行った。
【0133】
<6-2.結果>
結果を
図23に示す。
図23に示されるように、繊維化パラミロンは、化学処理パラミロンに比べて、アルカリ溶液への溶解性が顕著に低いことが分かった。
なお、グラフに掲載していないがパラミロン粒子、繊維化パラミロン共に0.1M NaOH水溶液には溶解せず、純水中に懸濁させた時と同様に懸濁していることが確認された。
また、0.5MのHCl水溶液に対しては何れの被験物質も溶解せず懸濁状態を維持した。
【0134】
試験例7:X線回折(XRD)分析
被検物質(パラミロン粒子(参考製造例1)、繊維化パラミロン(製造例1)、化学処理パラミロン(比較製造例1:1.0M NaOH水溶液に溶解))それぞれについて、XRDを測定した。条件は次のとおりである。機器:PANalytical X’Pert3 Powder、管電圧:45kV、管電流:40mA、測定範囲:5.005~50.018°、測定間隔:0.013°、解析ソフト:HighScore。得られたXRDチャートを
図24に示す。
図24より、被検物質は、互いに結晶性に差異があることが判明した。
【0135】
結晶化度は2θ=5~80°における非晶質部の強度と結晶部の強度の比により解析した。解析は各測定テ一夕から装置によるバックグラウンドを除去(バックグラウンド設定Auto、ベンティングファクター0、粒状度100)した後に実施し、非晶質部は2θ=14、29°を通る接線で決定した。それぞれの非晶質部を決定するペンディングファクターと粒状度の条件は、パラミロン粒子は0/30とし、化学処理パラミロンは0/25とし、繊維化パラミロンは0/20とした。その結果、結晶化度は、パラミロン粒子は66.2%、化学処理パラミロンは37.6%、繊維化パラミロンは51.0%であった。
【0136】
製造例2:繊維化パラミロンの製造2
ビーズミルを用いてパラミロン粒子(参考製造例1)にせん断力を加えてパラミロン粒子を繊維化し、繊維化パラミロンを含む液状の添加剤(分散液)を製造した。ビーズミルによる解繊処理は、サブミクロン粉砕に使用される一般的な運転条件で行った。パラミロン粒子を10質量%含む原材料液に対してビーズミルによる解繊処理を行った。得られた繊維化パラミロンについて、電子顕微鏡で観察した。観察像を
図25に示す。
【0137】
図25に示されるように、ビーズミルにより得られた繊維化パラミロンは、各繊維が互いに絡み合った網目状構造であった。