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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】多能性幹細胞のアッセイ
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20220224BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220224BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20220224BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20220224BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220224BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20220224BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220224BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20220224BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220224BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20220224BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20220224BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220224BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220224BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20220224BHJP
【FI】
C12Q1/04 ZNA
A61K35/28
A61K35/545
A61L27/36 100
A61L27/36 110
A61L27/36 120
A61L27/36 300
A61L27/36 311
A61L27/36 312
A61L27/38 100
A61L27/38 111
A61L27/38 112
A61L27/38 300
A61L27/40
C12Q1/06
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C07K14/78
C12N5/0775
C12N5/10
C12N15/12
C12Q1/6876 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019546949
(86)(22)【出願日】2017-11-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-28
(86)【国際出願番号】 AU2017051254
(87)【国際公開番号】W WO2018090084
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-11-11
(31)【優先権主張番号】2016904679
(32)【優先日】2016-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】518327992
【氏名又は名称】サイナータ セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】スルクヴィン、イゴール
(72)【発明者】
【氏名】ヘイ、デレク
(72)【発明者】
【氏名】ドリエル、ダイアナ
【審査官】田村 直寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/131959(WO,A1)
【文献】特表2004-535199(JP,A)
【文献】PLOS ONE, 2015, Vol.10,No.8, e0135170 (pp.1-19)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/04
C12Q 1/6851
C12Q 1/06
C12Q 1/686
A61K 35/28
A61K 35/545
A61L 27/36
A61L 27/38
A61L 27/40
A61P 19/08
A61P 19/10
A61P 19/02
A61P 7/06
A61P 37/06
A61P 3/10
A61P 1/16
A61P 9/04
A61P 9/00
A61P 9/10
A61P 1/04
A61P 17/02
A61P 17/00
A61P 29/00
A61P 25/00
A61P 11/00
A61P 35/00
A61P 43/00
A61P 25/28
A61P 25/16
A61P 27/02
A61P 13/12
A61P 15/08
C12N 9/99
C12Q 1/6876
C12N 5/0775
C12N 15/12
C07K 14/78
C12N 5/10
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞(PSC)から分化した細胞の培養物中に残存する未分化なPSCを定量するための方法であって、前記方法が、以下:
ラミニン-521及びE-カドヘリンでコートした基材上で、Rho関連コイルドコイル含有タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤を含む培地中で、分化した細胞(未分化なPSCが存在する場合、それを含む)を培養し、未分化なPSCが存在する場合、それは選択的に増幅されること;
残存する未分化なPSCのマーカーの、培養された、分化した細胞(未分化なPSCが存在する場合、それを含む)中における発現を定量すること;及び
培養された、分化した細胞(未分化なPSCが存在する場合、それを含む)中におけるマーカーの発現を、割合が既知の未分化なPSCが混入された、基準の細胞培養物におけるマーカーの発現と比較すること、
を含み、
分化した細胞(未分化なPSCが存在する場合、それを含む)の培養物における、割合が既知の未分化なPSCが混入された、基準の細胞培養物におけるマーカーの発現よりも低いマーカーの発現が、残存する未分化なPSCが、培養された、分化した細胞中に存在しないか、又は残存する未分化なPSCが、基準の細胞培養物中の、混入された、割合が既知の未分化なPSCよりも低い割合で、培養された、分化した細胞中に存在することを示す、方法。
【請求項2】
前記マーカーの発現が、LIN28、OCT4、SOX2、FOXD3、NANOG、PODXL、REX1、SSEA1、SSEA4、DPPA2又はDPPA3の発現である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ROCK阻害剤がY27632である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が約10μMのY27632中で培養される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞を、ROCK阻害剤を含む培地中で、約3日間培養することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞を、ROCK阻害剤を含む培地中で培養後に、ROCK阻害剤を含まない培地中で、約2日間培養することを更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記マーカー発現が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって定量される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記PCRが、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記qRT-PCRが、5’→3’配列CGCATGGGGTTCGGCTTCCTGTCC(配列番号15)からなるプローブ、5’→3’配列CACGGTGCGGGCATCTG(配列番号16)からなるプライマー及び5’→3’配列CCTTCCATGTGCAGCTTACTC(配列番号17)からなるプライマーを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記マーカー発現が標準化される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記マーカー発現がGAPDHの発現に対して標準化される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記既知の割合が0.001%である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記PSCがiPSCである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記分化した細胞がMSCである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記MSCがE8完全培地中で培養される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
残存する未分化なPSCが、存在しないか、又は混入された、既知の割合よりも低い割合である、分化した細胞の培養物を、治療用組成物に製剤化することを更に含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
PSCから分化した細胞の培養物中に残存する未分化なPSCを検出するためのキットであって、前記キットが、以下:
ラミニン-521;及び
E-カドヘリン;及び
ROCK阻害剤
を含む、キット。
【請求項18】
残存する未分化なPSCのマーカーの培養細胞中における発現を定量するための、PCRプライマー、及び必要に応じてPCRプローブを更に含む、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
必要に応じてROCK阻害剤を含む培地を更に含む、請求項17又は請求項18に記載のキット。
【請求項20】
必要に応じてラミニン-521及びE-カドヘリンでコートした基材を更に含む、請求項1719のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明は、PSCから分化した細胞の培養物中に残存する未分化な多能性幹細胞(PSC)を検出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
胚性幹細胞(ESC)及び人工多能性幹細胞 (iPSC)を含む、多能性幹細胞(PSC)、特に、ヒトPSCは、新規な細胞ベースの治療薬を開発する機会を提供する。
iPSCの分化した派生物は、様々な疾患(例、肝硬変、パーキンソン病、加齢黄斑変性症、心虚血、糖尿病、移植片対宿主病)への応用における治療効果を有する。
【0003】
しかしながら、PSC由来細胞を含む治療用組成物の臨床試験における使用には、幾つかの課題、特に、腫瘍形成についての既知の潜在性を有する、最終製品中に残存する未分化なPSCの存在がある。そのような課題は、特に、高用量の分化したPSC由来細胞を必要とする治療に関連している。
【0004】
従って、PSC由来細胞を含む治療用組成物を製造する場合、品質管理において使用される、PSC由来細胞の培養物中に残存する未分化なPSCを検出するための方法又は改良された方法についてのニーズが存在する。
【0005】
本明細書中で言及されるいずれの刊行物も、参照により、本明細書に取り込まれる。しかしながら、いずれの刊行物が本明細書で言及される場合でも、そのような参照によって、該刊行物が、オーストラリア又は任意の他の国の当該技術分野における一般的な知見の一部を形成していることの承認を構成するものではない。
【発明の概要】
【0006】
概要
本発明者は、PSC由来細胞の培養物中に残存する未分化なPSCを検出するための方法を開発することによって、PSC由来細胞を含む治療用組成物の製造における品質管理のための本ニーズに対処した。本方法は、残存する未分化なPSCについての感度(真の陽性)及び特異度(真の陰性)を増大させるために、単細胞化した未分化なPSCの増幅のための細胞培養プロトコールを利用する。
【0007】
従って、第一の態様は、多能性幹細胞(PSC)から分化した細胞の培養物中に残存する未分化なPSCを検出するための方法であって、前記方法が以下:
ラミニン-521及びE-カドヘリンでコートした基材上で、Rho関連コイルドコイル含有タンパク質キナーゼ (ROCK)阻害剤を含む培地中で細胞を培養すること;
残存する未分化なPSCのマーカーの培養細胞中における発現を定量すること;及び
培養細胞中におけるマーカーの発現を、割合が既知のPSCを含む基準の細胞培養物におけるマーカーの発現と比較すること、
を含み、
細胞培養物における、基準の細胞培養物におけるマーカーの発現よりも低いマーカーの発現が、残存する未分化なPSCが培養細胞中に存在しないか、又は残存する未分化なPSCが、基準の細胞培養物中の割合が既知のPSCよりも低い割合で培養細胞中に存在することを示す、方法を提供する。
【0008】
本発明者は、本方法が、品質管理のための改善された手段を提供し、安全性、それゆえPSC由来細胞に依存する治療法の進展、に重要な貢献をすることを提示する。
【0009】
従って、一実施形態においては、該方法は、残存する未分化なPSCが存在しないか又は既知の割合よりも低い割合である細胞培養物を、治療用組成物に製剤化することを更に含む。該方法は、治療用組成物を被検体に投与することにより、被検体における状態を治療又は予防することを更に含み得る。
【0010】
第二の態様は、治療用組成物を製造するための方法であって、前記方法が、残存する未分化なPSCが、第一の態様の方法によって検出した場合、存在しないか又は既知の割合よりも低い割合である細胞培養物を、被検体に治療的に投与するための組成物に製剤化することを含む、方法を提供する。
【0011】
第三の態様は、被検体における状態を治療又は予防するための方法であって、前記方法が、以下:
残存する未分化なPSCが、第一の態様の方法によって検出した場合、存在しないか又は既知の割合よりも低い割合である細胞培養物;又は
第二の態様の方法によって製造された治療用組成物
を被検体に投与することを含む、方法を提供する。
【0012】
第三の態様の代替的な形態は、被検体における状態を治療又は予防するための医薬、例えば治療用組成物等の製造における、残存する未分化なPSCが存在しないか又は既知の割合よりも低い割合である細胞培養物の使用であって、PSCから分化した細胞の培養物中に残存する未分化なPSCが、第一の態様の方法によって検出される、使用を提供する。
【0013】
第三の態様の別の代替的な形態は、被検体における状態の治療又は予防における使用のための以下:
残存する未分化なPSCが、第一の態様の方法によって検出した場合に、存在しないか又は既知の割合よりも低い割合である細胞培養物;又は
第二の態様の方法によって製造された治療用組成物、
を提供する。
【0014】
予防又は治療される状態は、骨嚢腫、骨の新生物、骨折、軟骨欠損、変形性関節症、靱帯損傷、骨形成不全症、骨壊死、骨粗鬆症、再生不良性貧血、移植片対宿主病 (GvHD)、骨髄異形成症候群、1型糖尿病、2型糖尿病、自己免疫性肝炎、肝硬変、肝不全、拡張型心筋症、心不全、心筋梗塞、心筋虚血、クローン病、潰瘍性大腸炎、火傷、表皮水疱症、エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン病、全身性硬化症、気管支肺異形成症、慢性閉塞性気道疾患、気腫、肺線維症、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)、アルツハイマー病、脳損傷、運動失調、変性円板疾患、多系統萎縮症、多発性硬化症、パーキンソン病、網膜色素変性症、ロムベルグ病、脊髄損傷、脳卒中、筋ジストロフィー、四肢虚血、腎損傷、ループス腎炎、子宮内膜症、及び骨髄又は固形臓器の移植の合併症であり得る。
【0015】
第四の態様は、PSCから分化した細胞の培養物中に残存する未分化なPSCを検出するためのキットであって、前記キットが以下:
ラミニン-521;及び
E-カドヘリン;及び
ROCK阻害剤
を含む、キットを提供する。
一実施形態においては、該キットは、第一の態様の方法に従って使用される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、ヒトラミニン-521α鎖の一例のアミノ酸配列(配列番号1)である。
図2図2は、ヒトラミニン-521β鎖の一例のアミノ酸配列(配列番号2)である。
図3図3は、ヒトラミニン-521γ鎖の一例のアミノ酸配列(配列番号3)である。
図4図4は、ヒトE-カドヘリンの一例のアミノ酸配列(配列番号4)である。
図5図5は、ヒトLIN28 (LIN28A)の一例のコードヌクレオチド配列 (配列番号5)である。
図6図6は、ヒトOCT4 (POU5F1)の一例のコードヌクレオチド配列 (配列番号6)である。
図7図7は、ヒトSOX2の一例のコードヌクレオチド配列 (配列番号7)である。
図8図8は、ヒトFOXD3の一例のコードヌクレオチド配列 (配列番号8)である。
図9-1】図9は、ヒトNANOGの一例のコードヌクレオチド配列 (配列番号9)である。
図9-2】図9は、ヒトNANOGの一例のコードヌクレオチド配列 (配列番号9)である。
図10-1】図10は、ヒトPODXLの一例のコードヌクレオチド配列 (配列番号10)である。
図10-2】図10は、ヒトPODXLの一例のコードヌクレオチド配列 (配列番号10)である。
図11図11は、ヒトREX1 (ZFP42)の一例のコードヌクレオチド配列 (配列番号11)である。
図12-1】図12は、ヒトSSEA1 (FUT4)の一例のコードヌクレオチド配列 (配列番号12)である。
図12-2】図12は、ヒトSSEA1 (FUT4)の一例のコードヌクレオチド配列 (配列番号12)である。
図12-3】図12は、ヒトSSEA1 (FUT4)の一例のコードヌクレオチド配列 (配列番号12)である。
図13図13は、ヒトDPPA2の一例のコードヌクレオチド配列 (配列番号13)である。
図14図14は、ヒトDPPA3の一例のコードヌクレオチド配列 (配列番号14)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
PSC由来細胞の培養物中に残存する未分化なPSCを検出するための方法であって、前記PSC由来細胞が被検体に治療的に投与される予定である、方法が本明細書において開示される。従って、本発明は、品質管理の、及びリスク、例えば、そのような残存する未分化なPSCから腫瘍が形成されるリスクを最小化する、改善された方法を提供する。
【0018】
本発明の方法は、PSCのクローン性増殖を支持する条件下で、未分化なPSCを増幅するための特定の培養条件、次いで、PSC中で高度に発現しているが、分化を経たPSC由来細胞中では発現していないか、又は僅かにしか発現していない、遺伝子の発現の定量を利用する。該培養条件は、単細胞レベルのPSCの増幅を選択的に支持し得る。一実施形態においては、PSCは、単細胞の懸濁液からのPSCの増殖を支持する条件下で、培養し得る。そのような培養条件は当該技術分野において公知であり、本明細書に記載されたラミニン-521及びE-カドヘリン、並びにCellartis iPSC Single-Cell Cloning DEF-CS培養培地キット、GibcoTM StemFlexTM培地、及びビトロネクチン上での単細胞の増殖と関連するPluriQTMG9TMクローニング培地を含む、市販されているシステムが挙げられる。
【0019】
割合が既知の未分化なPSCを含む基準の培養物中のマーカー発現以下の、テストする培養物中のマーカーの発現は、該テストする培養物が、基準の培養物よりも低い割合の未分化なPSCを含むことを示す。
【0020】
重要なことには、該方法は、総細胞数のうち低い割合で、例えば、0.001%又は10 ppmで、PSC由来細胞の培養物中に残存する未分化なPSCを検出し得る。
【0021】
本明細書中で別段定義されない限り、本明細書において用いられる技術的及び科学的な用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって、及び出版された文書を参照することによって通常理解されるのと同じ意味を有する。
【0022】
用語「a」又は「an」は、1以上を指し、例えば、「一分子(a molecule)」は、1以上の分子を表すと理解されることに留意するべきである。そうであるから、用語「a」又は「an」、「1以上」及び「少なくとも1つ」は、本明細書において交換可能に使用される場合がある。
【0023】
明示的な表現又は必要な意味合いのために文脈上別に必要な場合を除き、続く特許請求の範囲及び発明の説明においては、語「含む(comprise)」又は例えば「含む(comprises)」若しくは「含む(comprising)」等の変形は、包括的な意味、即ち、本発明の様々な実施形態において、記載された特徴の存在を特定するが、更に特徴が存在する又は追加されることを妨げないように使用される。
【0024】
本明細書において用いられる場合、用語「約」は、その数の大きさの±25%の所定数の値の範囲を企図する。他の実施形態においては、用語「約」は、その数の大きさの±20%、±15%、±10%、又は±5%の所定数の値の範囲を企図する。例えば、一実施形態においては、「約3グラム」は、2.7~3.3グラム(即ち、3グラム±10%)の値を示す、等である。
【0025】
同様に、他の実施形態においては、期間は、その期間の±25%、±20%、±15%、±10%、又は±5%だけ変動し得る。例えば、「1日」は、約18~約30時間の期間を含み得る。複数の日の期間である、表示された期間は「1日」の倍数であり得、例えば、例、2日は約36~約60時間等の期間に亘り得る等である。他の実施形態においては、時間のばらつきはより小さくても良く、例えば:1日目は0日目から24±3時間であり;2日目は0日目から48±3時間であり;3日目は0日目から72±3時間であり;4日目は0日目から96±3時間であり;5日目は0日目から120時間±3時間である、等である。幾つかの実施形態においては、約3日は3日±1日であり、約5日は5日±1日である。
【0026】
本明細書において用いられる場合、「多能性幹細胞」又は「PSC」は、無期限に自身を複製し、他の任意の細胞の種類に分化する能力を有する細胞を指す。2つの主要な種類の多能性幹細胞:胚性幹細胞(ESC)及び人工多能性幹細胞(iPSC)が存在する。
【0027】
本明細書において用いられる場合、「胚性幹細胞」又は「ESC」は、体外受精療法が完了し、余剰な胚を有する患者の同意を得て提供を受けた5~7日胚から単離された細胞を指す。ESCの使用は、ヒト胚からの細胞の採取についての倫理的懸念によって、ある程度妨げられてきた。
治療用組成物を製造するために好適なヒトPSCとしては、ヒトH1及びH9 ESCが挙げられる。
【0028】
本明細書において用いられる場合、「人工多能性幹細胞」又は「iPSC」は、成人の細胞に由来するESC様の細胞を指す。iPSCは、ESCに非常に類似した特徴を有するが、iPSCは胚に由来しないので、ESCに関連する倫理的懸念が回避される。その代わりに、典型的には、iPSCは、完全に分化した成人の細胞に由来し、多能性状態へと「初期化」されている。
【0029】
治療用組成物を製造するために好適なヒトiPSCとしては、線維芽細胞に由来するiPSC 19-9-7T、MIRJT6i-mND1-4及びMIRJT7i-mND2-0、並びに骨髄単核細胞に由来するiPSC BM119-9が挙げられるが、それらに限定されない。他の好適なiPSCは、Cellular Dynamics International (CDI;Nasdaq:ICEL)(米国、ウィスコンシン州、Madison)から取得し得る。
【0030】
本明細書において用いられる場合、「分化する(differentiating)」は、ある細胞種から別の細胞種に変化する、特に、より特殊化していない細胞種がより特殊化した細胞になる、細胞の過程を指す。
本明細書において用いられる場合、用語「由来する(derived from)」は、PSCが別の細胞種に「分化すること」を包含し得る。
従って、「未分化なPSC」は、別の細胞種に分化していないPSCである。本開示に関して、未分化なPSCは、それ以外の分化したPSCの集団内に存在する。
【0031】
本明細書において用いられる場合、「培地(medium)」又はその複数形の「培地(media)」は、細胞の増殖(増幅及び分化を含む)を支持するために設計された液体又はゲルを指す。in vitroでの細胞のそのような増殖(増幅及び分化を含む)は、細胞を「培養する(culturing)」又は細胞「培養(culture)」として言及される。
しかしながら、細胞は、毒性代謝物の濃度の上昇、栄養素の濃度の低下、及び分裂細胞による細胞の数の増加のために、無制限に培養中で維持することができない。本明細書において用いられる場合、「継代すること(passaging)」は、栄養素の濃度を回復させ、毒性代謝物を含まず、及び必要に応じて、元の培養よりも低い細胞密度である、新しい細胞の培養をもたらす過程を指す。
【0032】
本発明の方法によってテストする細胞培養物、例、PSC由来細胞の培養物の継代数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25であり得る。好ましくは、継代数は10以下である。より好ましくは、継代数は5又は6である。一実施形態においては、PSC由来細胞は、本発明の方法に供される前に、5継代経ている。
【0033】
一実施形態においては、PSC由来細胞は間葉幹(又は間質)細胞(MSC)である。
一実施形態においては、ESC由来細胞はMSCである。
好ましい実施形態においては、iPSC由来細胞はMSCであり、それはまたiPSC-MSCとして言及される場合がある。
【0034】
本明細書において用いられる場合、「間葉幹細胞」又は「MSC」は、骨髄、脂肪組織 (脂肪)、胎盤及び臍帯血を含む広範囲の組織から単離され得る、特定の種類の幹細胞を指す。MSCは、骨細胞 (骨細胞(osteocytes))、軟骨細胞 (軟骨細胞(chondrocytes))、脂肪細胞 (脂肪細胞(adipocytes))、及び例えば腱内の細胞等の他の種類の結合組織の細胞に分化し得る。
【0035】
本開示によれば、MSCは、間葉血管芽細胞(MCA)の潜在性を有するEMHlinKDRAPLNRPDGFRアルファの原始中胚葉細胞を介して、PSCから形成され得る。「間葉血管芽細胞 (MCA)の潜在性を有するEMHlinKDRAPLNRPDGFRアルファの原始中胚葉細胞」は、典型的な原始線条及び側板/胚体外中胚葉遺伝子を発現している細胞を指す。これらの細胞は、FGF2に応答して、血清フリー培地中で、間葉血管芽細胞 (MCA)及び血管芽細胞のコロニーを形成する潜在性を有する。用語EMHlinは、CD31、VE-カドヘリン内皮マーカー、CD73及びCd105間葉/内皮マーカー、並びにCD43及びCD45造血系統マーカーの発現を欠くことを示す。
【0036】
本明細書において用いられる場合、「間葉(mesenchyme)」又は「間葉(mesenchymal)」は、中胚葉に由来し、造血組織(リンパ系及び循環系)、並びに例えば骨及び軟骨等の結合組織に分化する胚性の結合組織を指す(refers to to)。しかしながら、MSCは造血細胞に分化しない。
【0037】
MSCは、例えばサイトカイン、ケモカイン及び増殖因子等の生理活性分子を分泌し、免疫系を調節する能力を有する。MSCは、再生を促進することが示されており、生着に依存せず免疫系に影響を及ぼす。換言すれば、MSCは、それ自身は、宿主に取り込まれる必要はない場合があり、むしろ、それらは効果をもたらし得、次いで短い期間内に排除される。しかしながら、MSCは、投与及び移動(migration)に続いて、損傷した組織に生着する場合がある。
【0038】
現在、MSCは、移植片対宿主病を含む無数の状態、疾患及び障害を治療するための臨床試験が行われている。
【0039】
特に、制御性T細胞による免疫調節性/免疫抑制性の効果を発揮するMSCの能力は、移植片対宿主病、自己免疫傷害を含む免疫傷害、心血管障害、整形外科疾患及び移植された固形臓器の拒絶を含む広い範囲の状態、疾患及び障害において、MSCの治療効果の要となると考えられている。幾つかの特定の例としては、骨嚢腫、骨新生物、骨折、軟骨欠損、変形性関節症、靱帯損傷、骨形成不全症、骨壊死、骨粗鬆症、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、1型糖尿病、2型糖尿病、自己免疫性肝炎、肝硬変、肝不全、拡張型心筋症、心不全、心筋梗塞、心筋虚血、クローン病、潰瘍性大腸炎、火傷、表皮水疱症、エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン病、全身性硬化症、気管支肺異形成症、慢性閉塞性気道疾患、気腫、肺線維症、ALS、アルツハイマー病、脳損傷、運動失調、変性円板疾患、多系統萎縮症、多発性硬化症、パーキンソン病、網膜色素変性症、ロムベルグ病、脊髄損傷、脳卒中、筋ジストロフィー、四肢虚血、腎損傷、ループス腎炎、子宮内膜症、及び骨髄又は固形臓器の移植の合併症が挙げられる。
【0040】
MSCは傷害の治癒に重要な役割を果たすと考えられており、消化器系における、例えば、肝硬変及び肝不全における、筋骨格系における、歯周組織における、糖尿病重症下肢虚血における、骨壊死における、火傷関連の障害における、心筋梗塞における、角膜損傷における、脳における、脊髄における、肺における、組織の傷害及び変性疾患を治療することにおいて、並びに放射線被ばくを治療することにおいて、効果的であることが示されている。
【0041】
MSCは、移植片対宿主病を含む免疫障害、全身性エリテマトーデス (SLE)、クローン病、多系統萎縮症、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、及び脳卒中において、治療的な結果を示した。
【0042】
MSCは、T細胞、B細胞、樹状細胞、マクロファージ及びナチュラルキラー細胞に対する免疫抑制性の作用を発揮することが示されている。理論に拘束されることを希望するものではないが、基礎となっているメカニズムは免疫抑制性のメディエーター、例えば、一酸化窒素、インドールアミン2,3、ジオキシゲナーゼ、プロスタグランジンE2、腫瘍壊死因子誘導遺伝子6タンパク質、CCL-2及びプログラム死リガンド1を含み得る。これらのメディエーターは、例えば、炎症性サイトカイン、例えばIFNγ、TNFα及びIL-17等によって刺激されるまで、低いレベルで発現する。
【0043】
iPSCのin vitroでの増幅によって、MSCの事実上無制限の供給が提供され得るので、iPSC由来MSC (iPSC-MSC)は、直接調達された、即ち、例えば骨髄、臍帯血、脂肪組織等の組織に由来する、MSCに対して固有の優位性を有する。
iPSC-MSCは、実施例1に従って製造し得る。
【0044】
PSCは、内胚葉、外胚葉及び中胚葉のいずれかの任意の細胞種に分化することができる。PSCは、機能的な細胞に更に分化する複能性前駆細胞への分化を経る。それゆえ、MSCの上記の記載は例示的であり、限定的に解釈されるべきでなく、PSC由来細胞の他の例としては、以下:赤血球、Bリンパ球、Tリンパ球、ナチュラルキラー細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球、マクロファージ及び血小板を含むあらゆる種類の血液細胞を生じさせる造血幹細胞;神経細胞 (ニューロン)並びに2つのカテゴリーの非神経細胞、星状細胞及び乏突起膠細胞、の3つの主要な細胞種を生じさせる、脳内の神経幹細胞;吸収性細胞、ゴブレット細胞、パネート(Paneth)細胞及び腸内分泌細胞を生じさせる、消化管の内層にある上皮幹細胞;並びに表皮の基底層に発生し角化細胞を生じさせる、及び毛嚢の基底に発生し毛包と表皮の両方を生じさせる、表皮幹細胞が挙げられ得る。
【0045】
本明細書において用いられる場合、「基材」は、PSC及び/又はPSCに由来する細胞を培養するために好適な任意の材料である。例としては、例えばディッシュ、マルチウェルプレート及びフラスコ等のプラスチック製培養容器が挙げられる。
【0046】
本明細書に記載された全てのタンパク質は、当業者に公知であり、市販されている。
ラミニン-521は、ヒトPSCによって分泌されるヘテロ三量体のタンパク質である。ラミニン-521は、5本のα鎖、2本のβ鎖及び1本のγ鎖(即ち、α5β2γ1)を含む。一実施形態においては、α鎖、β鎖及びγ鎖は、それぞれ配列番号1、2及び3によって表されるアミノ酸配列を有する(図1、2及び3)。
E-カドヘリンは、上皮細胞の機能と関連する、カルシウム依存性細胞接着タンパク質である。一実施形態においては、ヒトE-カドヘリンは、配列番号4によって表されるアミノ酸配列を有する(図4)。
【0047】
本発明の方法を実行する際に、基材は、ラミニン-521で、約0.1μg/mL、0.2μg/mL、0.3μg/mL、0.4μg/mL、0.5μg/mL、0.6μg/mL、0.7μg/mL、0.8μg/mL、0.9μg/mL、1μg/mL、2μg/mL、3μg/mL、4μg/mL、5μg/mL、6μg/mL、7μg/mL、8μg/mL、9μg/mL若しくは10μg/mL、及び/又は約0.1μg/cm2、0.2μg/cm2、0.3μg/cm2、0.4μg/cm2、0.5μg/cm2、0.6μg/cm2、0.7μg/cm2、0.8μg/cm2、0.9μg/cm2、1μg/cm2、2μg/cm2、3μg/cm2、4μg/cm2、5μg/cm2、6μg/cm2、7μg/cm2、8μg/cm2、9μg/cm2若しくは10μg/cm2を使用してコートしても良い。
【0048】
基材は、E-カドヘリンで、約0.1μg/mL、0.2μg/mL、0.3μg/mL、0.4μg/mL、0.5μg/mL、0.6μg/mL、0.7μg/mL、0.8μg/mL、0.9μg/mL、1μg/mL、2μg/mL、3μg/mL、4μg/mL、5μg/mL、6μg/mL、7μg/mL、8μg/mL、9μg/mL若しくは10μg/mL、及び/又は 約0.01μg/cm2、0.05μg/cm2、0.1μg/cm2、0.2μg/cm2、0.25μg/cm2、0.3μg/cm2、0.4μg/cm2、0.5μg/cm2、0.6μg/cm2、0.7μg/cm2、0.8μg/cm2、0.9μg/cm2、1μg/cm2、2μg/cm2、3μg/cm2、4μg/cm2、5μg/cm2、6μg/cm2、7μg/cm2、8μg/cm2、9μg/cm2若しくは10μg/cm2を使用してコートしても良い。
【0049】
好ましい実施形態においては、基材はラミニン-521で、10μg/mL及び2μg/cm2を使用して、並びにE-カドヘリンで、1.1μg/mL及び0.22μg/cm2を使用してコートされる。
【0050】
Rho関連コイルドコイル含有タンパク質キナーゼ(Rho-associated, coiled-coil containing protein kinase、ROCK)は、細胞骨格に作用することによって、主に、細胞の形状及び移動を制御することに関与する。従って、「ROCK阻害剤」は、この機能を阻害し、本目的に関して、「ROCK阻害剤」はiPSCの生存を高める。
【0051】
一実施形態においては、ROCK阻害剤は、Y27632 (CAS番号:129830-38-2)である。本発明の方法において使用し得るROCK阻害剤の他の例は、AS 1892802 (CAS番号:928320-12-1)、ファスジル塩酸塩(CAS番号:105628-07-7)、GSK 269962 (CAS番号:850664-21-0)、GSK 429286 (CAS番号:864082-47-3)、H 1152二塩酸塩 (CAS番号:871543-07-6)、グリシル-H 1152二塩酸塩 (CAS番号:913844-45-8)、HA 1100塩酸塩 (CAS番号:155558-32-0)、OXA 06二塩酸塩、RKI 1447二塩酸塩、SB 772077B二塩酸塩(CAS番号:607373-46-6)、SR 3677二塩酸塩(CAS番号:1072959-67-1)及びTC-S 7001 (CAS番号:867017-68-3)である。
【0052】
細胞が培養されるROCK阻害剤の濃度は、例えば、約0.1μM、0.5μM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、11μM、12μM、13μM、14μM、15μM、16μM、17μM、18μM、19μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μM、60μM、70μM、80μM、90μM又は100μMであっても良い。
好ましくは、ROCK阻害剤はY27632であり、細胞が培養されるY27632の濃度は約10μMである。
【0053】
本発明の方法によれば、Rho関連コイルドコイル含有タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤を含む培地中で、ラミニン-521及びE-カドヘリンでコートした基材上で細胞を培養するためには、細胞を基材上に播種しなければならない。基材上での細胞の播種密度は、約1×102細胞/cm2、2×102細胞/cm2、3×102細胞/cm2、4×102細胞/cm2、5×102細胞/cm2、6×102細胞/cm2、7×102細胞/cm2、8×102細胞/cm2、9×102細胞/cm2、1×103細胞/cm2、2×103細胞/cm2、3×103細胞/cm2、4×103細胞/cm2、5×103細胞/cm2、6×103細胞/cm2、7×103細胞/cm2、8×103細胞/cm2、9×103細胞/cm2、1×104細胞/cm2、2×104細胞/cm2、3×104細胞/cm2、4×104細胞/cm2、5×104細胞/cm2、6×104細胞/cm2、7×104細胞/cm2、8×104細胞/cm2、9×104細胞/cm2、1×105細胞/cm2、2×105細胞/cm2、3×105細胞/cm2、4×105細胞/cm2、5×105細胞/cm2、6×105細胞/cm2、7×105細胞/cm2、8×105細胞/cm2、9×105細胞/cm2、1×106細胞/cm2、2×106細胞/cm2、3×106細胞/cm2、4×106細胞/cm2、5×106細胞/cm2、6×106細胞/cm2、7×106細胞/cm2、8×106細胞/cm2、9×106細胞/cm2であっても良い。幾つかの実施形態においては、播種密度は、約1.1×104細胞/cm2、1.2×104細胞/cm2、1.3×104細胞/cm2、1.4×104細胞/cm2、1.5×104細胞/cm2、1.6×104細胞/cm2、1.7×104細胞/cm2、1.8×104細胞/cm2又は1.9×104細胞/cm2であっても良い。好ましい実施形態においては、播種密度は約1.3×104細胞/cm2である。
【0054】
本発明の方法の一部として、培養細胞中におけるマーカーの発現を定量する前に、細胞を、約1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日間以上、培養しても良い。好ましくは、細胞は、培養細胞中におけるマーカーの発現を定量する前に、約5日間、培養される。
【0055】
本発明の方法の一部として、培養細胞中におけるマーカーの発現を定量する前に、細胞を、約1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日以上、ROCK阻害剤の存在下で培養しても良い。
【0056】
ROCK阻害剤の存在下で細胞を培養した後、培養細胞中におけるマーカーの発現を定量する前に、細胞を、ROCK阻害剤の非存在下で更に培養しても良い。一実施形態においては、培養細胞中におけるマーカーの発現を定量する前に、約1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日以上、細胞を、ROCK阻害剤の非存在下で更に培養する。
【0057】
好ましい実施形態においては、細胞を、約3日間、ROCK阻害剤の存在下で培養し、次いで、培養細胞中におけるマーカーの発現を定量する前に、約2日間、ROCK阻害剤の非存在下で更に培養する。
【0058】
要約すれば、ラミニン-521及びE-カドヘリンでコートした、例えばプラスチック製培養容器等の基材上で、例えばMSC等のPSC由来細胞を増幅することによって、PSC由来細胞の集団内に存在する、単細胞化した未分化なPSCの増幅が支持されることが実証されている一方で、同時に、ROCK阻害剤は、PSCの生存を高める。
【0059】
本明細書において用いられる場合、「マーカー発現」は、残存する未分化なPSC中では発現されるが、PSC由来細胞中では発現されないか、又は低いレベルでしか発現されない遺伝子を指す。そのような遺伝子は、コード又は非コード、例えば、mRNA、マイクロRNA又は非コードRNAであっても良い。
【0060】
本発明の方法に従って、その発現が定量され得るマーカーとしては、LIN28 (LIN28A)、OCT4 (POU5F1)、SOX2、FOXD3、NANOG、PODXL (抗体TRA-1-60及びTRA-1-81によって検出されるタンパク質アイソフォーム)、REX1 (ZFP42)、SSEA1 (FUT4)、SSEA4、DPPA2及びDPPA3が挙げられる。好ましくは、マーカーの発現はLIN28の発現である。LIN28遺伝子は、多能性を高め、PSC中では高度に発現されるが、分化に応答して下方制御されるRNA結合タンパク質である、LIN28タンパク質をコードする。
【0061】
「マーカーの発現」は、タンパク質又はmRNAの発現として定量しても良い。好ましくは、マーカーの発現は、mRNAの発現として定量される。
【0062】
マーカータンパク質は、ゲル電気泳動 (例、ウェスタンブロット又は二次元ゲル電気泳動)、デンシトメトリー、蛍光、発光、放射能、アレイ及び/又は質量分析を含むプロセスによって定量しても良い。
【0063】
マーカーmRNAは、ゲル電気泳動 (例、ノザンブロット)、デンシトメトリー、蛍光、発光、放射能、アレイ及び/又はポリメラーゼ連鎖反応 (PCR)を含むプロセスによって定量しても良い。一般的に、PCRは、マーカーのmRNAに由来するマーカーのcDNAを生成するための逆転写を利用する。
【0064】
好ましくは、マーカーの発現はPCRを使用して定量される。好ましくは、マーカーの発現は、定量的逆転写PCR (qRT-PCR)を使用して定量される。好ましくは、qRT-PCRは、mRNAがcDNAの鋳型に逆転写され、cDNAの鋳型が指数関数的に増幅され、リアルタイムで蛍光によって定量される、リアルタイムqRT-PCRである。
マーカーの発現の定量は、相対的であるか又は絶対的であっても良い。
【0065】
一実施形態においては、マーカーの発現の定量は、相対的であり、蛍光シグナルがqRT-PCRアッセイのための閾値に交差するサイクルである、定量サイクル(Cq)を測定することを利用する。CqはmRNAの発現に反比例する。
【0066】
マーカーの発現の相対的な定量は、1以上の基準の培養物(即ち、対照)中におけるマーカーの発現に対する、テストする細胞培養物中におけるマーカーの発現の比較を利用する。
【0067】
「基準の培養物」は、陽性対照であっても又は陰性対照であっても良い。基準の培養物が陽性対照である場合、基準の細胞培養物はPSCを含む。好ましくは、そのような基準の培養物は、割合が既知のPSCを含む。即ち、基準の培養物は、割合が既知の未分化なPSCが「混入(spiked)」しており、それにより、テストする培養物と基準の培養物との間での比較が可能となる。本実施形態においては、定量は、相対的(例、定量の単位としてCqを使用する)及び絶対的(例、既知の量へのCqの適用)の両方であっても良い。これはまた、半定量的と言及されても良い。従って、テストする細胞培養物における、基準の細胞培養物におけるマーカーの発現よりも低いマーカーの発現は、残存する未分化なPSCが培養細胞中に存在しないことを示す。代替的には、テストする細胞培養物における、基準の細胞培養物におけるマーカーの発現よりも低いマーカーの発現は、残存する未分化なPSCが培養細胞中に存在するが、基準の細胞培養物中の割合が既知のPSCよりも低い割合で存在することを示す。
【0068】
基準の培養物中における割合が既知のPSCは、細胞の合計数の0.000001%、0.000005%、0.00001%、0.00005%、0.0001%、0.0005%、0.0006%、0.0007%、0.0008%、0.0009%、0.001%、0.002%、0.003%、0.004%、0.005%、0.006%、0.007%、0.008%、0.009%、又は0.01%であっても良い。好ましい実施形態においては、基準の培養物中における割合が既知のPSCは、細胞の合計数の0.001%である。
【0069】
幾つかの実施形態においては、マーカーの発現は「標準化」され、内部及び相互のキネティックのばらつき(intra- and inter-kinetic variations)(サンプル間、及びランの間のばらつき)が相殺される。qRT-PCRを使用して遺伝子の発現を定量する場合に、標準化されたデータが特に有用である。1以上の制御されていないか又は構成的である「ハウスキーピング」遺伝子、例、GAPDH、ACTB、LDHA、NONO、PGK1又はPPIHに対する標準化、及び全RNAに対する標準化を含む、標準化の様々な方法は、当業者に公知であろう。一実施形態においては、マーカーの発現は、GAPDHの発現に対して標準化される。
【0070】
PCRは、ヌクレオチドプライマーを必要とする。当業者は、PCR及びqRT-PCR用のプライマー、並びに、qRT-PCR用のプライマー/プローブの組合せの設計方法を理解するであろう。幾つかの遺伝子用のプライマーは市販されている。幾つかの遺伝子用のプライマー/プローブの組合せもまた市販されている。例えば、以下のTaqMan(登録商標)Gene Expressionアッセイ:ヒトLIN28 (LIN28A)アッセイ Hs00702808_s1;ヒトOCT4 (POU5F1)アッセイ Hs04260367_gH;ヒトSOX2 Hs01053049_s1;ヒトFOXD3アッセイ Hs00255287_s1;ヒトNANOGアッセイ Hs04399610_g1;ヒトPODXL (これらのタンパク質のアイソフォームが抗体TRA-1-60及びTRA-1-81によって検出される)アッセイHs01574644;ヒトREX1 (ZFP42)アッセイ Hs01938187_s1;ヒトSSEA1 (FUT4)アッセイ Hs01106466_s1;ヒトDPPA2アッセイ Hs00414515_m1及びヒトDPPA3アッセイ Hs01931905_g1は、いずれもカタログ番号4331182で市販されている。
【0071】
プライマー、又はプライマー/プローブの組合せは、オンラインツールを使用して、当業者によって容易に設計されても良く、例えば、プライマー/プローブの組合せは、例えば、Custom TaqMan(登録商標)Assay Designツール又はGenScript リアルタイムPCR (TaqMan(登録商標)) Primer Designツール等のツールを使用して、特注で設計されても良い。プライマーは、例えばPrimer3Plus又はPrimerQuestツール等のツールを使用して、設計しても良い。これらのツールは、例に過ぎず、より多くの物が当業者に容易に利用可能である。
【0072】
代替的に又は追加的に、プライマー、又はプライマー/プローブの組合せは、以下の考察を含む、第一原理(first principle)から容易に設計され得る。
【0073】
PCRは、以下:二本鎖の標的DNAを変性させる;一本鎖のDNAの相補的な領域にプライマーをアニーリングさせる;DNAポリメラーゼの作用によりDNAを伸長させる;及び、大抵は約50サイクルを繰り返す、のサイクルを含んでいる。これらの工程は、温度感受性であり、通常、それぞれ94℃、60℃及び70℃で実行される。良好なプライマーの設計は、反応を成功させるために必須である。設計における重要な検討事項としては、以下:
1. プライマー長、大抵は18~22 bp;
2. プライマー融解温度 (Tm)、大抵は52~58℃の範囲;
3. プライマーアニーリング温度 (Ta);
4. GC含有量、大抵は40~60%;
5. GCクランプ、即ち、プライマーの3'末端から最後の5塩基以内に位置するG又はC塩基;
6. プライマー及びテンプレートの二次構造、即ち、分子間又は分子内の相互作用、例、ヘアピン、自己ダイマー又はクロスダイマー;
7. ジヌクレオチドリピート;
8. 単一塩基のロングラン(long runs of a single base);
9. 3'末端の安定性;
10. 交差相同性/特異性;
11.複製単位の長さ、大抵はqRT-PCRには約100 bp、及び標準的なPCRには約500 bp;
12. 産物のTm;
13. プライマー対のTm、大抵は<5℃
が挙げられる。
【0074】
プライマーのTmは以下:
Tm(K)={ΔH/ΔS+R ln(C)}、又は(℃)={ΔH/ΔS+R ln(C)}-273.15であって、前記式中、
ΔH (kcal/モル):Hはエンタルピーであり、ΔHはエンタルピー変化である
ΔS (kcal/モル):Sはエントロピーであり、ΔSはエントロピー変化である
の通り、計算され得る。
ΔS (塩補正)=ΔS (1M NaCl)+0.368×N×ln([Na+])であって、前記式中、
Nは、プライマー中のヌクレオチド対の数であり(プライマー長-1)
[Na+]は、mMでの塩当量であり
[Na+]の計算:
[Na+]=一価イオン濃度+4×遊離Mg2+
である。
プライマーTaは、以下:
Ta=0.3×Tm (プライマー)+0.7 Tm (産物)-14.9
の通り、計算され得る。
【0075】
ヒトLIN28 (LIN28A)、ヒトOCT4 (POU5F1)、ヒトSOX2、ヒトFOXD3、ヒトNANOG、ヒトPODXL、ヒトREX1 (ZFP42)、ヒトSSEA1 (FUT4)、ヒトDPPA2及びヒトDPPA3のコードヌクレオチド配列の例は、それぞれ、図5~14及び配列番号5~14中において提供される。これらの配列は、プライマー、及びプライマー/プローブの組合せを設計するために、当業者によって使用され得る。
【0076】
qRT-PCRは、遺伝子の発現、例、マーカーの発現、を定量するために蛍光を利用する。そのような蛍光は、(1) 任意の二本鎖DNA、即ち、増幅されたPCR産物に架橋する非特異的な蛍光色素、又は(2) プローブの、その相補的な配列とのハイブリダイゼーションの後にのみ蛍光を発する、蛍光レポーターを用いて標識した配列特異的なオリゴヌクレオチドプローブ、を含んでも良い。蛍光の第一のタイプの一例は、SYBR(登録商標)Green (CAS番号163795-75-3)である。通常、第二のタイプは、クエンチャー(quencher)が増幅の間にプローブから放出されるまで、蛍光レポーターを消光する、プローブの3'末端に共有結合したクエンチャーを含む。
【0077】
一実施形態においては、本明細書において開示されるPSCから分化した細胞の培養物中に残存する未分化なPSCを検出するための方法は、PSC由来細胞の培養物中で検出された残存する未分化なPSCの割合を記録するレポートを作成することを更に含み得る。
【0078】
一実施形態においては、本明細書において開示されるPSCから分化した細胞の培養物中に残存する未分化なPSCを検出するための方法は、残存する未分化なPSCが存在しないか又は既知の割合よりも低い割合である、PSC由来細胞の培養物を、被検体に投与するための治療用組成物に製剤化することを更に含み得る。該方法は、残存する未分化なPSCが存在しないか若しくは既知の割合よりも低い割合である、PSC由来細胞の培養物、又はそのようなPSC由来細胞を含む治療用組成物を、被検体に投与することによって、被検体における状態を治療又は予防することを更に含み得る。該状態は、骨嚢腫、骨新生物、骨折、軟骨欠損、変形性関節症、靱帯損傷、骨形成不全症、骨壊死、骨粗鬆症、再生不良性貧血、移植片対宿主病 (GvHD)、骨髄異形成症候群、1型糖尿病、2型糖尿病、自己免疫性肝炎、肝硬変、肝不全、拡張型心筋症、心不全、心筋梗塞、心筋虚血、クローン病、潰瘍性大腸炎、火傷、表皮水疱症、エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン病、全身性硬化症、気管支肺異形成症、慢性閉塞性気道疾患、気腫、肺線維症、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)、アルツハイマー病、脳損傷、運動失調、変性円板疾患、多系統萎縮症、多発性硬化症、パーキンソン病、網膜色素変性症、ロムベルグ病、脊髄損傷、脳卒中、筋ジストロフィー、四肢虚血、腎損傷、ループス腎炎、子宮内膜症、及び骨髄又は固形臓器の移植の合併症であり得る。
【0079】
本明細書において用いられる場合、用語「状態(condition)」としては、状態、疾患又は障害、及びそれらの症状が挙げられる。
【0080】
本明細書において用いられる場合、用語「治療用組成物」は、被検体に投与するために製剤化されている本明細書に記載されたPSC由来細胞を指す。好ましくは、該治療用組成物は無菌である。このことは、滅菌濾過膜を通して濾過することによって容易に達成される。好ましくは、治療用組成物はパイロジェンフリーである。
【0081】
本明細書において用いられる場合、「製剤化する(formulating)」は、残存する未分化なPSCが存在しないか又は既知の割合よりも低い割合である細胞培養物と、必要に応じた医薬的に許容される担体、賦形剤又は安定化剤とを混合すること、及び細胞生存率を維持することを指す。許容される担体、賦形剤又は安定化剤は、投与量及び使用される濃度でレシピエントの被検体に対して無毒であり、以下:例えばリン酸、クエン酸及び他の有機酸等の緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;例えば血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン等のタンパク質;例えばポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン等のアミノ酸;グルコース、マンノース又はデキストリンを含む、モノサッカライド、ジサッカライド及び他の炭水化物;例えばEDTA等のキレーティング剤;例えばスクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖;例えばナトリウム等の塩を形成する対イオン;金属複合体(例、Zn-タンパク質複合体);及び/又は例えばTWEENTM、PLURONICSTM若しくはポリエチレングリコール (PEG)等の非イオン性界面活性剤が挙げられ得る。
【0082】
製剤化された医薬組成物はまた、治療される特定の兆候に必要である他の活性化合物、好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない補完的な作用を有する化合物を含み得る。該組成物は、細胞毒性薬、サイトカイン及び/又は増殖阻害剤を含み得る。そのような分子は、意図される目的のために効果的である量で、組合せで、好適に存在する。
【0083】
残存する未分化なPSCが存在しないか若しくは既知の割合よりも低い割合である、PSC由来細胞、又はそのようなPSC由来細胞を含む治療用組成物は、状態が見つかる前、最中又は後に投与しても良い。一実施形態においては、PSC由来細胞又は治療用組成物は、炎症の最中に投与される。PSC由来細胞は、(a)予防的な手段として、(b)状態が診断されると直ぐに、(c)他の治療が失敗した場合に、及び/又は(d)状態が所定の程度の重篤度に進行した場合に投与しても良い。
【0084】
一実施形態においては、残存する未分化なPSCが存在しないか若しくは既知の割合よりも低い割合である、PSC由来細胞、又はそのようなPSC由来細胞を含む治療用組成物は、投与に先立って、前処理される。前処理は、増殖因子を用いるか、又は遺伝子を編集することによっても良く、例えば、増殖因子がPSC由来細胞をプライミングしても良く、遺伝子の編集によってPSC由来細胞に新たな治療特性が付与されても良い。
【0085】
治療有効量の、残存する未分化なPSCが存在しないか若しくは既知の割合よりも低い割合である、PSC由来細胞、又はそのようなPSC由来細胞を含む治療用組成物を、被検体に投与する正確な様式は、治療又は予防される状態に関連して、医師の裁量によるということは、当業者によって理解されるであろう。投与量、他の薬剤との組合せ、投与のタイミング及び頻度等を含む投与の様式は、PSC由来細胞又は治療用組成物を用いた治療に対する被検体の、生じ得る応答性の診断、並びに被検体の状態及び病歴によって影響を受ける場合がある。
【0086】
残存する未分化なPSCが存在しないか若しくは既知の割合よりも低い割合である、PSC由来細胞は、適正な医療行為と合致する様式で製剤化され、服用量にされ、投与されるであろう。この文脈において考慮される要因としては、治療又は予防される特定の状態、治療される特定の被検体、被検体の臨床状態、投与の部位、投与方法、投与のスケジュール、可能性がある副作用、及び医師に公知な他の要因が挙げられる。投与される、治療有効量の残存する未分化なPSCが存在しないか若しくは既知の割合よりも低い割合である、PSC由来細胞、又はそのようなPSC由来細胞を含む治療用組成物は、そのような検討事項の影響を受ける。
【0087】
残存する未分化なPSCが存在しないか若しくは既知の割合よりも低い割合である、PSC由来細胞、又はそのようなPSC由来細胞を含む治療用組成物は、全身又は抹消に、例えば、静脈内(IV)、動脈内、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下(SC)、関節内、滑液内、髄腔内、冠動脈内、経心内膜、外科的な移植、局所及び吸入(例、肺内)を含む経路によって投与されても良い。最も好ましくは、PSC由来細胞又は治療用組成物は、IV投与される。PSC由来細胞又は治療用組成物は、生体適合性の材料の足場と組み合わせて、投与されても良い。
【0088】
用語「治療有効量」は、被検体における状態を治療するために有効である、残存する未分化なPSCが存在しないか若しくは既知の割合よりも低い割合である、PSC由来細胞、又はそのようなPSC由来細胞を含む治療用組成物の量を指す。
【0089】
用語「治療する(treat)」、「治療する(treating)」又は「治療」は、治療的な処置及び予防的(prophylactic)又は予防的(preventative)な方法の両方であって、
目的が、被検体における状態、疾患若しくは障害を予防若しくは改善すること、又は被検体における状態、疾患若しくは障害の進行を遅らせる(slow down)(低下させる(lessen))ことである、処置及び方法を指す。治療を必要とする被検体としては、既に状態、疾患若しくは障害を有している被検体、及び状態、疾患若しくは障害が予防されるべき被検体が挙げられる。
【0090】
用語「予防する」、「予防」、「予防的(preventative)」又は「予防的(prophylactic)」は、異常や症状を含む、状態、疾患若しくは障害が発生しないようにするか、又は発生を阻害する(hinder)、それから防御する(defend from)若しくは保護する(protect from)ことを指す。予防を必要とする被検体は、状態、疾患又は障害を発症しやすくても良い。
【0091】
用語「改善する(ameliorate)」又は「改善(amelioration)」は、異常や症状を含む、状態、疾患又は障害の軽減(decrease)、低減(reduction)又は除去(elimination)を指す。治療を必要とする被検体は、既に状態、疾患若しくは障害を有していても良く、又は状態、疾患若しくは障害を有しやすくても良く、又は状態、疾患若しくは障害が予防されるべき被検体であっても良い。
【0092】
本明細書において用いられる場合、用語「被検体」は哺乳動物を指す。哺乳動物は、霊長類、特にヒトであっても良く、又は家畜、動物園の動物若しくはコンパニオンアニマルであっても良い。特に、本明細書において開示される、方法及びその結果得られるMSC又はMSCの集団は、ヒトの医療に好適であることが企図されるが、それらはまた、例えばウマ、ウシ及びヒツジ等の家畜、例えばイヌ及びネコ等のコンパニオンアニマル、又は例えばネコ科(felid)、イヌ科(canid)、ウシ科(bovids)、有蹄類(ungulates)等の動物園の動物の治療を含む、獣医的な治療に適用できる。
【0093】
第一の態様の方法によって検出した場合に、残存する未分化なPSCが存在しないか又は既知の割合よりも低い割合である細胞培養物がまた、本明細書において開示される。
第二の態様の方法によって製造された治療用組成物がまた、本明細書において開示される。
【0094】
PSCから分化した細胞の培養物中に残存する未分化な多能性幹細胞(PSC)を検出するためのキットであって、前記キットが、以下:
ラミニン-521;及び
E-カドヘリン;及び
ROCK阻害剤
を含む、キットがまた、本明細書において開示される。
【0095】
一実施形態においては、ROCK阻害剤は、本明細書において開示されるROCK阻害剤である。
一実施形態においては、該キットは、残存する未分化なPSCのマーカーの培養細胞中における発現を定量するためのPCRプライマー、及び必要に応じてPCRプローブを更に含む。該PCRプライマー及びプローブは、残存する未分化なPSCのマーカーに特異的である。一実施形態においては、PCRプライマー及び/又はプローブは、本明細書において開示されるPCRプライマー及び/又はプローブである。
【0096】
一実施形態においては、該キットは、DNAテンプレート及びプライマーを除くPCRのための成分、並びに必要に応じてプローブを含む、「マスターミックス」として言及される、PCR、必要に応じてqRT-PCR、に直ぐに使える組成物を含む。該成分は、バッファー、デオキシヌクレオチド三リン酸 (dNTP)、Mg2+、及びポリメラーゼを含んでも良い。マスターミックス、例えば、2×TaqMan(登録商標)GE Master Mixは市販されている。
【0097】
別の実施形態においては、キットは更に培地を含む。一実施形態においては、培地は、本明細書において開示される培地である。一実施形態においては、培地はROCK阻害剤を含む。
【0098】
別の実施形態においては、キットは更に基材を含む。そのような基材は、残存する未分化なPSCが検出される、PSCから分化した細胞を培養するために好適である。好ましくは、基材は、例えばディッシュ、マルチウェルプレート又はフラスコ等のプラスチック製培養容器である。一実施形態においては、基材はラミニン-521及びE-カドヘリンでコートされる。
【0099】
一実施形態においては、キットは、方法において該キットを使用するための説明書であって、以下:
ラミニン-521及びE-カドヘリンでコートした基材上で、ROCK阻害剤を含む培地中で細胞を培養すること;
マーカーの培養細胞中における発現を定量すること;及び
培養細胞中におけるマーカーの発現を、割合が既知のPSCを含む基準の細胞培養物中におけるマーカーの発現と比較すること
を含み、
細胞培養物における、基準の細胞培養物におけるマーカーの発現よりも低いマーカーの発現が、残存する未分化なPSCが培養細胞中に存在しないか、又は残存する未分化なPSCが、基準の細胞培養物中の割合が既知のPSCよりも低い割合で培養細胞中に存在する、ことを示す、説明書を含む。
【0100】
一実施形態においては、キットは、第一の態様の方法に従って、該キットを使用するための説明書を含む。
別の実施形態においては、キットは、第一の態様の方法に従って使用される。このことは、用語「使用される場合(when used)」によって示される場合がある。
【0101】
好ましい実施形態においては、iPSC-MSCは、10μMの、ROCK阻害剤であるY27632を含むE8培地中で3日間培養され、次いでROCK阻害剤の非存在下で2日間培養され、LIN28の発現がqRT-PCRによって定量され、GAPDHの発現に対して標準化され、そのことにより、0.001%の残存する未分化なiPSCの検出が可能となる。
【0102】
本開示を理解することにおける補助となり得る他の定義としては、特に、例えば、以下が挙げられる。
a) TaqMan(登録商標)Gene Expression (GE) Assay (20×):独占所有権のあるApplied Biosystems(登録商標)ソフトウェア及び試薬を使用して設計されている、Life Technologiesから入手可能なリアルタイムqRT-PCRアッセイの1タイプ。これらのアッセイは、サンプル中の特定のmRNAを定量するために使用され、予め設計されたか又は特注のアッセイとして入手可能である。TaqMan(登録商標)GE Assaysは、遺伝子特異的なプライマー及びプローブの20×ミックスとして提供される。
i) FAMTM/MGB-NFQ Probe:TaqMan(登録商標)プローブの5’末端に共有結合した、蛍光レポーター分子 (FAM:6-カルボキシフルオレセイン)。MGB-NFQは、TaqMan(登録商標)プローブの3’末端に共有結合した副溝結合非蛍光クエンチャー分子である。増幅の間に、プローブは切断され、クエンチャーからレポーターが放出される。結果として生じる蛍光シグナルは、サンプル中のmRNA濃度に比例する。FAMTMの代わりに、他の蛍光色素が利用可能である。通常、VIC(登録商標)は、例えばGAPDH等の標準化のために使用される内部コントロール遺伝子に使用される。
【0103】
b) 2× TaqMan(登録商標)GE Master Mix:ホットスタート活性化用AmpliTaq Gold(登録商標)DNAポリメラーゼ、UP(Ultra Pure)、持ち越されるPCRのコンタミネーションを最小化するためのdTTP/dUTP及びウラシル-DNAグリコシラーゼ (UDG)を含むdNTPのブレンド、並びに独占所有権のあるROXTM色素をベースとした不活性(passive)の内部標準を含む。
【0104】
c) cDNA:逆転写酵素(RT)を使用して、mRNAから逆転写される相補的DNA。
d) mRNA:メッセンジャーRNA。
e) gDNA:ゲノムDNA。
f) テンプレート:PCRによって増幅することが意図される、核酸の標的 (例、cDNA)。
g) 全RNA:mRNA (約1~5%)、リボソーマルRNA (rRNA) (約80%)、トランスファーRNA (tRNA)及びマイクロRNA (miRNA)を含む、RNA分子種の複雑な混合物。正確な組成は、細胞種に依存して変動する。
h) RNase:RNAを分解する、不活性化することが非常に困難である酵素の1種である、リボヌクレアーゼ。
i) 内在性コントロール遺伝子:全ての種類のサンプルで発現している陽性対照遺伝子。GAPDH:グリセロアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼは、標準化に使用される一般的な内在性コントロール遺伝子である。
j) 標的遺伝子:幹細胞と、分化した細胞との比較(例、iPSCとiPSC-MSC)において差次的に発現している、目的の遺伝子、例えばLIN28等。
【0105】
k) +RT及び-RTのマスターミックス:全RNAサンプルの逆転写のために必要な試薬を含む。-RTは、全RNAを含んでいるが、逆転写酵素を欠いている陰性対照である。全RNAサンプルのgDNAのコンタミネーションについてテストするための、-RTサンプル。
l) +/-RT反応ミックス:+/-RTマスターミックスと、逆転写用の各全RNAサンプル又は対照との組合せ。
m) cDNA増幅ミックス:2× TaqMan(登録商標)GE Master Mixと、各+/-RT反応ミックスとの組合せ。
n) GE Assay Mix (例、LIN28又はGAPDH Assay Mix):20× TaqMan(登録商標)GE Assayと、リアルタイムqRT-PCR用の各cDNA増幅ミックスとの組合せ。
o) テンプレートなしの対照(NTC):+/-RT cDNA反応において、全RNAが水に置き換えられている、陰性対照 (NEG)の一種。核酸テンプレートによる試薬のコンタミネーションを検出するために使用される。
p) SNP:一塩基多型。
q) Cq:定量サイクル (例、Cq(X))は、蛍光シグナルがリアルタイムqPCR及びqRT-PCRアッセイ用の閾値を超えるサイクルである。Cqは、mRNA濃度に反比例する。Cqが増大するにつれ、mRNA濃度が減少し、またその逆も同様である。「Cq(50)」は、50サイクルが実行されたことを示す。「Cq(50)なし」は、Cq値が50サイクル中に生成されなかったことを示す。
【実施例
【0106】
実施例1-iPSC-MSCの製造
材料
【0107】
【表1】
【0108】
表1中に列記されている試薬は、当業者に公知であり、受け入れられている組成物、例えば、IMDM及びHam's F12を有している。GLUTAMAXは、通常、0.85%のNaCl中において200 mMで供給されているL-アラニル-L-グルタミンジペプチドを含む。GLUTAMAXは、培養される細胞によってジペプチド結合が切断される際にL-グルタミンを遊離する。既知組成脂質濃縮物は、アラキドン酸2 mg/L、コレステロール220 mg/L、酢酸DL-α-トコフェロール70 mg/L、リノール酸10 mg/L、リノレン酸10 mg/L、ミリスチン酸10 mg/L、オレイン酸10 mg/L、パルミチン酸10 mg/L、パルミトレイン酸10 mg/L、プルロニックF-68 90 g/L、ステアリン酸10 mg/L、TWEEN 80(登録商標)2.2 g/L及びエチルアルコールを含む。H-1152及びY27632は、非常に強力で、細胞透過性で、選択的なROCK (Rho関連コイルドコイル形成タンパク質セリン/スレオニンキナーゼ)阻害剤である。
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
方法
1. ビトロネクチンでコートした (0.5μg/cm2)プラスチック容器上で、E8完全培地 (DMEM/F12基本培地+E8サプリメント)+1μM H1152中、iPSCを解凍した。37℃、5%CO2、20%O2 (正常酸素状態)で、播種したiPSCをインキュベートした。
2. ビトロネクチンでコートした (0.5μg/cm2)プラスチック容器上で、E8完全培地 (ROCK阻害剤なし)中、iPSCを3継代して増幅し、分化プロセスを開始するのに先立って、37℃、5%CO2、20%O2 (正常酸素状態)で、インキュベートした。
3. iPSCを回収し、コラーゲンIVでコートした(0.5μg/cm2)プラスチック容器上で、E8完全培地+10μM Y27632中、1個の単細胞/小コロニーとして、5×103細胞/cm2で播種し、37℃、5%CO2、20%O2 (正常酸素状態)で、24時間インキュベートした。
4. E8完全培地+10μM Y27632を、分化培地で置換し、37℃、5%CO2、5%O2 (低酸素状態)で、48時間インキュベートした。
5. 分化培地の接着培養から、単細胞の懸濁液として、コロニー形成細胞を回収し、M-CFM懸濁培養に移し、37℃、5%CO2、20%O2 (正常酸素状態)で、12日間インキュベートした。
6. 回収し、コロニー(継代0)をフィブロネクチン/コラーゲンIでコートした (0.67μg/cm2フィブロネクチン、1.2μg/cm2コラーゲンI)プラスチック容器上に、M-SFEM中、播種し、37℃、5%CO2、20%O2 (正常酸素状態)で、3日間インキュベートした。
7. コロニーを回収し、フィブロネクチン/コラーゲン1でコートしたプラスチック容器上に、1.3×104細胞/cm2で、M-SFEM中に単細胞として播種し(継代1)、37℃、5%CO2、20%O2 (正常酸素状態)で、3日間インキュベートした。
8. 回収し、フィブロネクチン/コラーゲン1でコートしたプラスチック容器上に、1.3×104細胞/cm2で、M-SFEM中に単細胞として播種し(継代2)、37℃、5%CO2、20%O2 (正常酸素状態)で、3日間インキュベートした。
9. 回収し、フィブロネクチン/コラーゲン1でコートしたプラスチック容器上に、1.3×104細胞/cm2で、M-SFEM中に単細胞として播種し(継代3)、37℃、5%CO2、20%O2 (正常酸素状態)で、3日間インキュベートした。
10. 回収し、フィブロネクチン/コラーゲン1でコートしたプラスチック容器上に、1.3×104細胞/cm2で、M-SFEM中に単細胞として播種し(継代4)、37℃、5%CO2、20%O2 (正常酸素状態)で、3日間インキュベートした。
11. 回収し、フィブロネクチン/コラーゲン1でコートしたプラスチック容器上に、1.3×104細胞/cm2で、M-SFEM中に単細胞として播種し(継代5)、37℃、5%CO2、20%O2 (正常酸素状態)で、3日間インキュベートした。
12. 単一の細胞として継代5(P5)のiPSC-MSCを回収し、最終産物を凍結した。
【0115】
実施例2-qRT-PCRによる残存する未分化な幹細胞の定量
1) 目的
本実施例のプロトコールは、TaqMan(登録商標)Gene Expression Assays (qRT-PCR)による、残存する未分化なiPSCの定量について記載する。LIN28の発現を使用した、iPSC-MSC中における未分化なiPSCの検出が例示されるが、該プロトコールは、差次的に、PSC中で発現するが、PSC由来細胞中で発現しない、任意のPSCマーカーを使用することにより、PSC由来細胞の培養物に対して一般的に適用できる。該プロトコールは、治療用組成物に製剤化する予定のPSC由来細胞の品質管理用であることが意図される。
【0116】
2) 材料
a) iPSC-MSCのラミニン-521/E-カドヘリン増幅培養プロトコールの材料:
i) LN521TMヒトrラミニン-521、Biolamina、カタログ番号LN521-03
ii) E-カドヘリン、ヒト組換え、Advanced BioMatrix、カタログ番号5085-0.1MG
iii) Dulbecco'sリン酸緩衝生理食塩水 (1×)、Mg2+及びCa2+含有(DPBS++) (6×500 mL)、Corning/Mediatech、カタログ番号21-030-CV又は同等品
iv) HyCloneTM Dulbecco'sリン酸緩衝生理食塩水溶液、Mg2+及びCa2+不含(DPBS--)、GE Healthcare Life Science、カタログ番号SH30028又は同等品
v) ROCK阻害剤Y27632、Sigma-Aldrich、カタログ番号Y0503-1MG又はY0503-5MG
vi) Essential 8TM培地 (キット)、Thermo Fisher Scientific、カタログ番号A1517001
(1) Essential 8TM基本培地 (500 mL)
(2) Essential 8TMサプリメント (ビトロネクチン) (10 mL)
vii) TrypLETM Select Enzyme (1×)、フェノールレッド不含 (100 mL)、Thermo Fisher Scientific、カタログ番号12563011
viii) ジメチルスルホキシド (DMSO)、Sigma-Aldrich、カタログ番号D2650
ix) Falcon(登録商標)75cm2のベントキャップ付き長方形型カントネック細胞培養フラスコ、Corning Life Science、カタログ番号353136又は同等品
x) 25cmのハンドルと1.8cmのブレードを有するFalcon(登録商標)セルスクレーパー、滅菌済、Corning Life Science、カタログ番号353086又は同等品
xi) HyCloneTM 0.4%トリパンブルー、Thermo Fisher Scientific、カタログ番号SV30084又は同等品
xii) カバーガラス付き血球計、Reichert Right Line又は同等品
【0117】
b) RNeasy(登録商標)Protect Cell Miniキット(50):QIAGEN(登録商標)カタログ番号74624。以下の2個のQIAGEN(登録商標)製品からなる:
i) RNAprotect(登録商標)Cell Reagent (2個のうちのボックス1):培養又は選別した細胞用に設計されている。培養培地中の細胞に直接添加することができる。遺伝子の発現のパターンを止め、それにより、全RNAの即時の安定化が提供される。サンプルは、4℃、-20℃で保存でき、-80℃でアーカイブ化(archived)できる。
ii) RNeasy(登録商標)Plus Miniキット (2個のうちのボックス2):様々な種類のサンプルから全RNAを単離するために設計されている。「Plus」は、該キットがゲノムDNA (gDNA)除去カラム及び関連試薬を含んでいることを示す。
【0118】
c) QIAshredder (50):QIAGEN(登録商標)カタログ番号79654。RNA単離用の細胞溶解物をホモジナイズするために必要。
d) RNaseフリーのDNaseセット (50プレップ)、QIAGEN(登録商標)、カタログ番号79254。QIAGEN(登録商標)RNA精製キットを使用した、膜上DNase処理用。
e)エタノール (96~100%):Fisher BioReagent、分子生物学グレード、無水(200プルーフ)、100 mL、Fisher Scientific カタログ番号BP2818100又は同等品。QIAGEN(登録商標)RNeasy(登録商標)Plus Miniキットのために必要。
f) UltraPureTM DNase/RNaseフリーの蒸留水、Life Technologie、カタログ番号10977-015又は同等品。
g) β-メルカプトエタノール (β-ME)、14.3 M、Thermo Fisher Scientific、カタログ番号BP176-100又は同等品。RNaseを不活性化するためのQIAGEN(登録商標)RNeasy(登録商標)Plus Miniキットのために必要。
【0119】
h) Safetec Green-ZTM Biohazard Fluid Control Powder、Thermo Fisher Scientific、カタログ番号19-023-901。環境に有害であるRNAprotect(登録商標)Cell Reagentの処分用。
i) RNase AWAYTM Decontamination Reagent (250 mL)、Life Technologies、カタログ番号10328-011又は同等品。例えば実験台、ピペット、ガラス製品又はプラスチック容器等の表面に、直ぐに使用できる溶液を塗布する。Milli-Q水で洗い流し、RNase及びDNAのコンタミネーションを除去する。
j) High-Capacity RNA-to-cDNATMキット (50):Thermo Fisher Scientific、カタログ番号4387406
k) SUPERase InTM RNase阻害剤:Thermo Fisher Scientific、カタログ番号AM2694
l) TaqMan(登録商標)Gene Expression Master Mix (2X):Thermo Fisher Scientific、カタログ番号4369016 (1包、5 mL:200×50μL反応)
m) Ambion(登録商標)RT-PCRグレード水:Thermo Fisher Scientificカタログ番号AM9935 (10×1.5 ml)(推奨)又は同等品。注意:AM9935はオートクレーブされ、膜で濾過されており、DEPC処理されていない。AM9935は、リアルタイムPCRにより、原核 (16S rRNA)及び真核 (18S rRNA)のゲノムDNAのコンタミネーションについてテストされている。それはRNaseフリー、DNaseフリー及びゲノムDNAフリーであることが認証されている。
【0120】
n) TaqMan(登録商標)Gene Expression Assay(複数可)、直ぐに使用できるプライマー及びFAM/MGB-NFQプローブの混合物(TE中、20倍)を含む。FAMは最も一般的な蛍光レポーターである。(1×=250 nM TaqMan Probe+900 nMの各PCRプライマー (フォワード及びリバース))。以下のカタログ番号は、特注のアッセイのサイズを指す。感光性。1.5 mlのAmbion(登録商標)Non-Stickチューブ中、-20℃で、1回使用分のアリコート(one-time use aliquots)で保存することが推奨される。
i) Custom TaqMan(登録商標)Gene Expression Assays (20×、1本のチューブ)、Thermo Fisher Scientific、受注生産。(特注のアッセイは、FAM-MGBプローブと共にのみ注文できることに注意する。)
(1) カタログ番号4331348 (Small=360反応@20μL qRT-PCR)
(2) カタログ番号4332078 (Medium=750反応@20μL qRT-PCR)
ii) LIN28 Custom TaqMan(登録商標)Gene Expression Assay、Thermo Fisher Scientific;カタログ番号:4331348;アッセイID:AIVI48S;アッセイ名:LIN28。QRT-PCR;スケール:S:360反応;受注生産。これは、Kurodaら(PLoS ONE 7、1-9 (2012) Highly Sensitive In Vitro Methods for Detection of Residual Undifferentiated Cells in Retinal Pigment Epithelial Cells Derived from Human iPS Cells)に開示されている、公知のプライマー及びプローブの配列を用いて、特注で設計したアッセイである。LIN28プローブの配列 (5′→3′) CGCATGGGGTTCGGCTTCCTGTCC (配列番号15);LIN28フォワードプライマー配列 (5′→3′) CACGGTGCGGGCATCTG (配列番号16);LIN28リバースプライマー配列 (5′→3′) CCTTCCATGTGCAGCTTACTC (配列番号17)。
iii) TaqMan(登録商標)内在性コントールアッセイ:これらのアッセイは、事前に設計されており、在庫が調べられてもよい。FAM-MGB又はVIC-MGBプローブを含む内在性コントールが利用可能である。VIC-MGBプローブを選択し、識別アッセイからコントールアッセイを識別することが推奨される。
(1) GAPDH TaqMan(登録商標)Gene Expression Assay (遺伝子記号:GAPDH、hCG2005673)、Life Technologies;カタログ番号:4448489;アッセイID:Hs02758991_g1 (VIC-MGBプローブ);受注生産。「Best Coverage」アッセイは、事前に設計された複数のGAPDHアッセイから選択された。このアッセイは、イントロンに及んでおり、それゆえ、ゲノムDNAを検出すべきでない。
【0121】
o) Ambion(登録商標)Non-Stick RNaseフリー、マイクロフュージチューブ(Microfuge Tube)(1.5 ml):Life Technologies、カタログ番号AM12450。注意:AM12450、1.5 mlチューブは、低結合の表面を有しており、RNaseフリー及びDNaseフリーであると認証されている。Custom TaqMan(登録商標)GE Assay (20×)のアリコートを保存するため、及びcDNAを調製するために使用することが推奨される。
p) 1.5mLのスクリューキャップ付きマイクロチューブ(Sarstedt 72.692.005):Fisher Scientific、カタログ番号50809238又は同等品;円錐底、滅菌済、Oリングが組み込まれたキャップ。cDNAの増幅混合物を調製するために使用することが推奨される。外ネジのスクリューキャップによって、エアロゾルの発生が抑制される(他の方法では、それはPCRコンタミネーションの原因となり得る)。
q) 白色ハードシェル、薄型、スカート付きPCRプレート(96ウェル):Bio-Rad、カタログ番号HSP-9655。白色のプレートは、透明な96ウェルプレート及びチューブよりも、バックグランドのノイズを低減し、蛍光シグナルを増加させる。ストリップチューブは、この手順のために使用すべきでない。
r) マイクロシール「B」接着シール(100):Bio-Rad、カタログ番号MSB-1001。これは、ハードシェルの96ウェルプレート用に推奨される、光学的に透明なプレートシーラーである。
s) シーリングローラー:Bio-Rad、カタログ番号MSR-0001。マイクロシール「B」接着シールでハードシェルの96ウェルプレートを密封するために使用される。
t) Bio-Rad CFXソフトウェアを備えたBio-Rad CFX96リアルタイムPCR検出システム (ID 0394)又は同等品。
u) Eppendorf MiniSpin Plus 微小遠心機 (ID 0569)又は同等品。
v) Nanodrop 2000紫外可視分光光度計 (ID 0504)又は同等品。
【0122】
3) 手順
a) 残存する未分化なiPSCの選択的な増幅を使用したqRT-PCR分析用のP5 iPSC-MSC最終産物 (1バイアル)の調製。
i) 本手順は、残存する未分化なiPSCに対する、qRT-PCRの感度を向上させるために、iPSC-MSCのバックグランド中において、未分化なiPSCを選択的に増幅する。
【0123】
ii) 細胞培養培地の調製:
(1) E8完全培地 (E8CM)の調製:
(a) 2~8℃で、終夜、E8サプリメントを解凍する。
(b) 500 mlのボトルから、10 mlのE8基本培地を取り出す。
(c) 10 mlのE8サプリメントを、490 mlのE8基本培地に添加する。十分に混合し、2~8℃で保存する。調製後2週間で使用期限が切れる。
(2) E8CM+10μM Y27632培地の調製:
(a) 312μlのDPBS--(Ca2+及びMg2+不含)を、1 mgのY27632に添加することによって、10 mMのY27632を調製する。等分し、-20℃で凍結する。
(b) 終濃度10μMのY27632のために、E8CM 1 mlにつき1μlの10 mM Y27632を添加する(例、75μlの10 mM Y27632を、75 mlのE8CMに)。4℃で保存する。調製後2週間で使用期限が切れる。
【0124】
iii) 凍結培地(E8CM+20% DMSO)の調製:
(1) 以下の通り、10 mlの凍結培地を調製する:8 mlのE8CMを、2 mlのDMSOと組み合わせる。使用に先立って、4℃に移し冷却する。
(2) 終濃度10μM Y27632のために、E8CM 1 mlにつき1μlの10 mM Y27632を添加する(例、75μlの10 mM Y27632を、75 mlのE8CMに)。4℃で保存する。調製後2週間で使用期限が切れる。
【0125】
iv) ラミニン-521/E-カドヘリンコーティング (DPBS++中)の調製:
(1) ラミニン-521及びE-カドヘリンを、終夜、2~8℃で解凍する。
(2) コーティング材料を調製する (2×T75フラスコにつき、30 mlが必要):
【0126】
【表7】
【0127】
(3)使用に先立って、少なくとも終夜、2~8℃で、培養容器 (2×T75フラスコ)をコートして保存する(1カ月で使用期限が切れる)。コーティング溶液が培養面積全体を覆っていることを確実にする。
【0128】
v) 増幅培養の調製
(1) 播種の最低1時間前に、フラスコからコーティング材料を除去し、1個のT75当たり15 mlのE8CM+10μM Y27632を添加する。37℃で平衡化させる。
(2) 37℃のウォーターバス中で、P5 iPSC-MSCを解凍する。
(3) バイアルの内容物を、9 mlのE8CM+10μM Y27632を含む、15 mlチューブに移す。
(4) 200×gで5分間、遠心分離する。
(5) 上清を吸引し、5 mlのE8CM+10μM Y27632中でペレットを再懸濁する。
(6) 血球計を使用して細胞を計数する。推定濃度は、5×106細胞/5 ml=1×106細胞/ml。トリパンブルー中での推奨される希釈は、1:2である。生存率を計算する。
(7) 各T75フラスコに、1.3×104細胞/cm2、又は1個のT75当たり1×106細胞で播種するために必要な細胞数を計算する。
(8) 計算した細胞数を、ラミニン-521/E-カドヘリンでコートしたフラスコに播種する。
(9) 以下のスケジュールで細胞に栄養供給する:
(a) 1日目 - 栄養供給なし。
(b) 2日目 - 各T75フラスコに、15 mlのE8CM+10μM Y27632を栄養供給する。
(c) 3日目 - 栄養供給なし。
(d) 4及び5日目 - 各T75フラスコに、15 mlのE8CM (Y27632不含)を栄養供給する。
(10) 微生物のコンタミネーションの兆候 (例、濁度)について、毎日、培養を確認する。コンタミネーションが起こった培養は全て破棄し、工程3)a)からやり直す。
【0129】
vi) 回収 (播種後6日目)
(1) 注意:ラミニン-521/E-カドヘリンでコートした培養容器から、細胞を剥離させることは困難である。全ての細胞を剥離させるために、セルスクレーパーの使用が推奨される。平均の回収密度は、4×104細胞/cm2、又は1個のT75フラスコ当たり3×106細胞である。1個のT75フラスコから回収される細胞数が不十分である場合 (<2×10e6細胞)、2個目のT75からの回収が必要である場合がある。
(2) 増殖培地を吸引し、10 mlのDPBS--でフラスコをすすぐ。
(3) 8 mlのTrypLEを、T75 フラスコに添加する。37℃で15分間、インキュベートする。
(4) 細胞を剥がすために、フラスコを強くたたき、50 mlのコニカルチューブに移す(約8 ml)。
(5) 8 mlのE8CM+10μM Y27632をフラスコに添加し、50 mlのチューブ中で、ピペットで吸い上げたり、吐き出したりし、細胞懸濁液と混ぜ合わせる (合計16 ml)。
(6) 8 mlのE8CM+10μM Y27632をフラスコに添加し、滅菌の使い捨てセルスクレーパーを使用し、細胞を静かに掻き取る。掻き取った表面を培地でリンスすることによって、細胞を回収し、細胞懸濁液と混ぜ合わせる (合計24 ml)。
(7) 追加で8 mlのE8CM+10μM Y27632を、フラスコに添加した後、スクレ―ピングを繰り返す。上記の通り細胞懸濁液を回収する (合計32 ml)。
(8) 200×gで10分間、細胞を遠心分離する。上清を吸引する。
(9) E8CM+10μM Y27632中で細胞ペレットを再懸濁し、細胞を計数する。推奨される再懸濁の体積は、2 mlで、推定濃度が3×106細胞/2 ml=1.5×106細胞/mlである。トリパンブルー中での推奨される希釈は、1:2である。正確に計数するために、1 mlのピペットチップを使用して、細胞を、単細胞に解離する必要がある場合がある。
(a) 血球計を使用して細胞を計数する。
(b) 必要な生存率は、70%である。必要な収量は、2×106細胞である。
(10) 200×gで10分間、細胞をスピンする。上清を吸引する。
(11) 細胞ペレットを、E8CM中、2×106細胞/mlで再懸濁する。
【0130】
vii) 分析に先立って細胞を凍結する。
(1) 1×106細胞/mlの終濃度となるように、等量の冷却凍結培地 (20%DMSOを含むE8CM)を添加する。
(2) 1 mlの細胞懸濁液を、各クライオバイアルに添加する。
(3) 直ぐに、クライオバイアルを-80℃のフリーザに移す。
(4) その翌日、液体窒素のタンクに移す。
【0131】
b) RNeasy(登録商標)Plus Miniキット用の試薬の調製:
i) QIAGEN(登録商標)バッファーRPE洗浄溶液の調製:
(1) ボトルに示されている通り、100%エタノールを、バッファーRPE濃縮物に添加する (即ち、50プレップのRNeasy(登録商標)Protect Cell Miniキットについて44 mL)。
ii) 70%エタノールの調製:
(1) 7 mLの100%エタノールを、3 mLのヌクレアーゼフリー水と混ぜ合わせる。消費期限は、調製後1カ月である。
iii) 全RNAの単離用の溶解バッファーの調製:
(1) 化学物質のドラフトを使用して、使用前に1 mLのバッファー RLT Plus当たり10μLのβ-メルカプトエタノール (β-ME)を添加する。
iv) QIAGEN(登録商標)RNaseフリーのDNaseセット用のRNaseフリーDNaseの調製:
(1) 滅菌されたニードル及びシリンジを使用して、示された量のRNaseフリー水 (即ち、550μL)を、凍結乾燥したDNaseに添加する。転倒によって、DNaseを静かに再懸濁する。ボルテックスしない。再構成したDNaseは、20μLのアリコート中、-20℃で、好ましくはAmbion(登録商標)Non-Stick RNaseフリーのマイクロフュージチューブ中で保存する。再構成したRNaseは、調製後、9カ月で使用期限が切れる。キットの残りの構成要素は、2~8℃で保存する。
【0132】
c) RNAprotect(登録商標)Cell Reagentを使用する、全RNAの単離用の培養細胞の調製。
i) RNAprotect(登録商標)Cell Reagentは、処理した細胞中の全RNAを即時、安定化し、遺伝子の発現プロファイルを保存する。該試薬を、培地の存在あり又はなしの細胞に直接添加する。DMSO中の凍結細胞はまた、改変プロトコールを使用して調製し得る。
(1) 全RNAミニプレップ当たり、推奨される細胞数は1~2×106細胞である。これは、試薬の体積を変更することなく、ミニプレップ当たり最大5×106細胞にまで増加し得る。より多くの細胞数については、複数回のミニプレップを処理するか、又は製造業者のプロトコールに従って、RNAミディプレップ手順を使用する。
(2) RNAprotect(登録商標)Cell Reagent 5 mLに対して、サンプル1 mLの比を使用する。
ii) 5 mLのRNAprotect(登録商標)Cell Reagentを含む、適切な数の15 mLのチューブを準備する。
iii) 凍結した細胞:解凍するのを防ぐため、凍結した細胞のバイアルを、ドライアイス上に置く。試薬を添加するのに先立って、細胞を解凍しない。RNAの保護が最大となる時間で、バイアル1本を処理する。
(1) 1本の15 mLのチューブから、約750μLのRNAprotect(登録商標)Cell Reagentを、約1 mLの凍結用培地を含む凍結した細胞のクライオバイアルに移す。他の状況で必要に応じ、体積を調整する。入れ過ぎない。
(a) ピペッティングによるロスを防ぐために、高品質で、低保持力のピペットチップを使用する。
(2) 直ぐに該混合物を、約10秒間、ボルテックスする。直ぐに、部分的に解凍した混合物を、RNAprotect(登録商標)Cell Reagentを含む、同じ15 mLのチューブに戻す。
(3) 該混合物が完全に解凍されるまで、工程3)c)iii)(1)及び3)c)iii)(2)を繰り返す。これは、3~4回繰り返される。
(4) サンプルが均一になるまで、ボルテックスによって十分に混合する。
iv) 直ぐに全RNAの単離に進むか、又は調製したサンプルをRNAprotect(登録商標)Cell Reagent中で保存する。サンプルは、2~8℃で最長4週間保存するか、又は-20℃若しくは-80℃でアーカイブ化する。
【0133】
d) 全RNAの単離用の細胞溶解物の調製。
i) 凍結している場合、RNAprotect(登録商標)と細胞の混合物を、室温で、混合せずに解凍する。
ii) RNAprotect(登録商標)と細胞の混合物を、4000 rpmで、5分間、遠心分離し(Sorvall ID 0018又は同等品)、細胞と、形成された可能性のある全ての沈殿とを回収する。目に見える白色のペレットが形成されるはずである。
iii) 可能な限り多くの上清を、廃棄容器に除去する。チューブを弾くか、又はボルテックスして、ペレットをほぐす。これは、次の工程における完全な可溶化のために非常に重要である。
(1) 350μLの新たに調製したバッファー RLT Plus+β-MEを、ペレットに添加する。ペレットが完全に溶解するまで、1~2分間、激しくボルテックスする。必要な場合、溶解物は、-80℃で保存することができる。室温で解凍し、使用前にボルテックスする。
【0134】
e) QIAGEN(登録商標)RNeasy(登録商標)Plus Miniキットを使用する、全RNAの単離。全工程を室温で行う。以下の凍結保存サンプルから全RNAを単離する。30μLのヌクレアーゼフリー水で溶出させる。
#1:iPSC-MSC(増幅していない)(基準の培養)
#2:iPSC-MSC(増幅した)(基準の培養)
#3:iPSC-MSC及び0.001%のiPSCの混入(増幅していない)(基準の培養)
#4:iPSC-MSC及び0.001%のiPSCの混入(増幅した)(基準の培養)
#5:iPSC-MSC P5最終産物(増幅していない)
#6:iPSC-MSC P5最終産物(増幅した)
i) 溶解物をQIAshredderに移す。溶解物をせん断し、ホモジェネートするために、最高速度で2分間、遠心分離する。薄くて丸いペレットが、回収チューブの底に形成される場合がある。
ii) ホモジェネートした溶解物を、全てのペレット化した物質を避けて、組み立てたgDNA除去スピンカラムに移す。最高速度で、30秒間、遠心分離する。必要に応じて、全ての溶解物がスピンカラムを通過するまで繰り返す。
iii) 350μLの70%エタノールをフロースルーに添加し、ピペッティングによって、十分に混合する。遠心分離しない。直ぐに該混合物を、組み立てたRNeasy(登録商標)スピンカラムに、生成した可能性のある沈殿と共に移す。
iv)静かにキャップを閉め、最高速度で15秒間、遠心分離する。回収チューブからフロースルーを廃棄する。今やRNAは、RNeasy(登録商標)スピンカラムに結合している。
v) 膜上でのDNase処理:
(1) ゲノムDNAを最大限除去するために、結合したRNAを、RNaseフリーのDNaseで処理する。
(a) 350μLのバッファーRW1を、スピンカラムに添加する。静かにキャップを閉め、最高速度で15秒間、遠心分離する。回収チューブからフロースルーを廃棄する。
(b) 各サンプルについて、20μLの再構成したDNase、140μLのバッファーRDD及び2μLのSUPERase InTMを混ぜ合わせる。ピペッティングによって静かに混合し、1本のチューブに全てをまとめる。ボルテックスしない。
(c) 80μLのDNaseの混合物を、RNeasy(登録商標)膜の中心に直接ピペットで移す。室温で20分間、インキュベートする。
(d) 350μLのバッファーRW1を、スピンカラムに添加する。静かにキャップを閉め、最高速度で15秒間、遠心分離する。回収チューブからフロースルーを廃棄する。
vi) 500μLのバッファーRPEをスピンカラムに添加する。静かにキャップを閉め、最高速度で15秒間、遠心分離する。回収チューブからフロースルーを廃棄する。
vii) 500μLのバッファーRPEをスピンカラムに添加することによって、洗浄を繰り返す。静かにキャップを閉め、最高速度で2分間、遠心分離する。
viii) スピンカラムを、新しい2 mLの回収チューブに移す。残存する洗浄溶液を全て除去するために、最高速度で1分間、遠心分離する。
ix) スピンカラムを、1.5 mLの回収チューブに移す。30μLのRNaseフリー水を、膜に直接添加する。静かにキャップを閉め、最高速度で1分間、遠心分離し、RNAを溶出させる。
x) スピンカラムを廃棄し、チューブにキャップをする。日付及びサンプルIDで、チューブを標識する。
xi) 各全RNAサンプルの体積を30μLに標準化する。
(1) 10~100μLのピペットを30μLに設定し、溶出体積を測定する。
(2) 体積が30μL未満である場合、RNeasy(登録商標)キットからのヌクレアーゼフリー水を、30μLの最終体積まで添加する。
(3) これより、サンプルは、開始の細胞数に標準化される。
xii) Nanodrop 2000を使用して、各サンプルの全RNA濃度を決定する。
(1) ソフトウェアを立ち上げる前に、サンプルの台座をMilli-Q水で掃除し、以前の使用からのコンタミネーションのあらゆる可能性を排除する。
(2) ソフトウェアを初期化した時点で、340 nmのベースライン補正ボックスのチェックを外す。
(3) Milli-Q水で装置のブランクを取る。
(4) Milli-Q水サンプルをテストし、バックグランドがゼロであることを確認する。必要に応じて、サンプルの台座をMilli-Q水で再度掃除する。
(5) 1回の測定を使用して、各サンプルの全RNA濃度を決定する。
(6) 全RNA収量、及び細胞当たりの収量を計算する。
(7) 各サンプルについて、1.0~2.0μgの全RNAの体積を計算する。(1cDNA反応当たり、最大2.0μgの全RNAが逆転写され得る。)
(8) 10μL (最大体積)当たり1μgの全RNAの要件を満たすために、逆転写用の全RNA濃度は、100 ng/μLでなければならない。必要に応じて、新しいバイアルの細胞から全RNAを再度単離する。
1×106の凍結保存したiPSC-MSC当たり期待される全RNA収量は、約5~10μgである。これは細胞当たり約5~10 pgの全RNAに相当する。
xiii) cDNAの合成に進むか、又は最長1年間、-20℃で全RNAを保存する。
【0135】
f) High Capacity RNA-to-cDNATMキットを使用するcDNAの調製。
i) 各全RNAサンプルについて、22μLのRT当たり1μgの全RNAを使用して、cDNA +/-RTを調製する。H2O (NTC) +/-RT対照を含める (N=14)。
ii) キットの構成要素を氷上で解凍する。
iii) 分析する全RNAサンプルの数に応じて、氷上で、1個の+RT及び1個の-RTのマスターミックスを調製する。-RTサンプルは陰性対照として機能し、逆転写酵素を欠いている。全RNAをRT-PCRグレード水で置き換えることにより、H2O (NTC) +/- RT対照を含める。
iv) 各全RNAサンプルについて、氷上で、個々の+/-RTの反応混合物を調製する。
(1) 全RNAの最大体積は、22μLの+/-RT当たり10μLである。全RNAの体積は、全RNA濃度に応じて変動する。
(2) 10μLから全RNAの体積を差し引くことによって、各チューブについてのRT-PCRグレード水の体積を計算する。
(3) 適切な体積のRT-PCRグレード水を、各チューブにピペットで入れる。+/-RT H2O対照については、10μLを使用する。
(4) 適切な体積の全RNAを各チューブに添加する。
(5) 12μLの+RT又は-RTマスターミックスを各チューブに添加し、ピペッティングによって、静かに混合する。
v) 37℃で60分間、インキュベートする。
vi) 95℃で5分間、熱で不活性化する。
vii) チューブを短時間遠心分離して、cDNAを回収する。
viii) 較正した10~100μLのピペットを使用して、cDNAの体積を測定する。
(1) ピペットをcDNAの反応体積 (20~22μL)に設定し、cDNAの体積を測定する。
(2) ヌクレアーゼフリー水で、cDNAの体積を100μLに調整する。これによって、阻害剤が希釈され、複数回のqRT-PCRアッセイに十分なcDNAが提供される。
ix) ボルテックスによって混合し、サンプルを短時間スピンダウンする。
x) qRT-PCRに進むか、又は-20℃で保存する。
【0136】
g) qRT-PCR (TaqMan(登録商標)Gene Expression Assays)
i) 各cDNA (N=14)について、LIN28及びGAPDH (各々、N=3)用に、20μLのqRT-PCR当たり50 ngのcDNA (全RNA当量)を増幅する。50サイクルを使用してqRT-PCRを行う。(プロトコールファイル:TaqMan qRT-PCR Assays Cq(50).prcl)。
ii) レプリケート数及び行われるTaqMan(登録商標)GE Assay数に応じて、+RT及び-RTのcDNAの各々について、cDNA増幅混合物を調製する。
(1) 反応当たり推奨されるcDNAの最大量は、100 ngである (全RNA当量)。
iii) TaqMan(登録商標)GE Assay数及びレプリケート数に応じて、各cDNA用のGE Assay Mixを調製する。各cDNA及び行われる各TaqMan(登録商標)GE Assayにつき、1個のGE Assay Mixが調製される。
iv) 20μLの各GE Assay Mixを、白色CFX96プレートに移し、光学プレートシーラーを用いて、密封する。
v) プレートアダプターを備えた遠心分離器(ID #0018)中で、プレートを、400 rpmで1分間、遠心分離し、内容物をウェルの底に集める。
vi) ウェルの内容物が撹乱しないように注意して、サーマルサイクラーにプレートを注意深く置く。
vii) 接続されたコンピュータ上で、Bio-Rad CFX ManagerTMソフトウェアを使用して、Bio-Rad CFX96 リアルタイムPCR検出システムをプログラムする。以下のサーマルサイクリングのパラメーターを用いる:
(1) 2分@50.0℃(UNGインキュベーション;最適なウラシル-N-グリコシラーゼ活性に必要;先立って増幅したdUTPを取り込んだPCR産物を分解し、PCRのコンタミネーションを低減する)。
(2) 10分@95℃ (ホットスタート:AmpliTaq Gold(登録商標)、UP ポリメラーゼ活性化)。
(3) [15秒@95℃ (変性)+1分@60℃ (アニーリング/伸長)+プレート読み込み] - 50サイクルに向けて49回繰り返す (増幅及びリアルタイム検出)。
viii) サンプル体積を20μLに設定する。
ix) 予測されるランタイムは、01:59:00時間でなければならない。
x) ランの間、全てのウェル及び全てのチャンネルを読み込み、ランの間、全てのデータが収集されることを確実にする。
(1) プレートのレイアウト上のプレビュー設定は、以下でなくてはならない:
(a) フルオロフォア:FAM、HEX、Texas Red、Cy5、Quasar 705 (VICを、後で加えることができる)
(b) プレートタイプ:BR白色
(c) 走査モード:全チャンネル
xi) 全てのウェルは「Unk」とラベルされ、このことは、ランの間、ソフトウェアは、全てのウェルが未知であるとみなしていることを示す。ランの完了後に、実際のプレートレイアウトが設定される。
xii) Nextをクリックし、Start Runのタブに移動する。Notesのセクションにおいて、ランについて特定するための情報を入力する。
xiii) Start Runのボタンをクリックし、qRT-PCRを開始する。
【0137】
h) データ分析
i) ランの終わりに、データ分析ウィンドウが開く。
(1) qRT-PCRデータは、Cq値 (即ち、Cq(50))で記録される。
ii) ウィンドウの右側の上部の、Plate Setupボタンをクリックする。
(1) View/Edit Plateを選択する。Plate Loading Guideに従って、サンプルの情報と共にプレートを設定する。
(a) 全ての空ウェルをクリアする。
(b) 「Exclude Wells in Analysis」にチェックしない。全データを分析しなければならない。
(2) OKをクリックし、ファイルを保存する。
iii) ウィンドウ上部付近のQuantificationのタブをクリックする。
iv) 以下の設定にチェックを入れる:
(1) Cq測定モード:Single Threshold
(2) ベースライン設定:Baseline Subtracted Curve Fit
(3) 分析モード:Fluorophores
v) 以下のセクション及び関連するサブセクションを含む、ツールメニューからレポートを作成する:Header、Run Setup、Quantification及びQC Parameter。
(1) Gene Expressionオプション、Allelic Discrimination及びEnd Pointを、これらのセクションは無関係なので、選択から外す。
vi) Export >「Export All Data Sheets to Excel」を選択することによって、分析データをエクスポートする。これによって、スプレッドシート形式でデータが提供される。
vii) スプレッドシートを使用して、データを分析する。
(1) 「N/A」を「Cq(50)なし」として記録する。
(2) 各々、LIN28及びGAPDHの+/-RTデータセットについて、平均Cq(50)及び%相対標準偏差(RSD、又は変動係数 (CV))を計算する。
(3) LIN28のCq(50)の平均値(N=3)から、GAPDHのCq(50)の平均値(N=3)を減算することによって、Cq(50)値の平均値を標準化する。
(4) 全てのサンプルについて、GAPDHのCq(50)の平均値及び%RSDを計算する。
(5) サンプル番号2(iPSC-MSC(増幅した))及び番号4(iPSC-MSC、及び0.001%のiPSCの混入(増幅した))の標準化したCq(50)の平均値を比較する。サンプル番号4(iPSC-MSC、及び0.001%のiPSCの混入(増幅した))及び番号6(iPSC-MSC P5最終産物(増幅した))の標準化したCq(50)の平均値を比較する。
4) 合否基準
a) サンプル番号2(iPSC-MSC(増幅した))の標準化したCq(50)の平均値は、サンプル番号4(iPSC-MSC、及び0.001%のiPSCの混入(増幅した))の標準化したCq(50)の平均値よりも大きくなければならない。このことによって、0.001%のiPSCの混入(増幅した)は、バックグラウンドより上で検出され得ることが実証される。
【0138】
【表8】
【0139】
b) 全てのサンプルについてのGAPDHのCq(50)の%RSDは、5%でなければならない。全てのCq(50)の平均値及び標準化したCq(50)値の%RSDは、5%でなければならない。
c) H2O (NTC)対照(+/-RT)は、全てのレプリケートについて、50増幅サイクル以内に検出可能な増幅シグナルを生成してはならない。
i) H2O (NTC) 対照(+/-RT)のいずれかにCq(50)値が与えられる場合、工程3)g)からTaqMan(登録商標)qRT-PCRアッセイを繰り返すこと。これは、テンプレートDNAによる試薬のコンタミネーションを示している。
【0140】
実施例3-実施例2に従って実施したプロトコールの結果
【0141】
【表9】
【0142】
実施例4-qRT-PCRによる、残存する未分化な幹細胞の定量
本実施例は、実質的に実施例2のプロトコールによって、残存する未分化なiPSCの定量について記載するが、LIN28がOCT4(POU5F1)によって置き換えられている。予想された結果は実施例2、表7、及び実施例3、表8と合致している。
【0143】
実施例5-qRT-PCRによる、残存する未分化な幹細胞の定量
本実施例は、実質的に実施例2のプロトコールによって、残存する未分化なiPSCの定量について記載するが、LIN28がSOX2によって置き換えられている。予想された結果は実施例2、表7、及び実施例3、表8と合致している。
【0144】
実施例6-qRT-PCRによる、残存する未分化な幹細胞の定量
本実施例は、実質的に実施例2のプロトコールによって、残存する未分化なiPSCの定量について記載するが、LIN28がFOXD3によって置き換えられている。予想された結果は実施例2、表7、及び実施例3、表8と合致している。
【0145】
実施例7-qRT-PCRによる、残存する未分化な幹細胞の定量
本実施例は、実質的に実施例2のプロトコールによって、残存する未分化なiPSCの定量について記載するが、LIN28がNANOGによって置き換えられている。予想された結果は実施例2、表7、及び実施例3、表8と合致している。
【0146】
実施例8-qRT-PCRによる、残存する未分化な幹細胞の定量
本実施例は、実質的に実施例2のプロトコールによって、残存する未分化なiPSCの定量について記載するが、LIN28がPODXLによって置き換えられている。予想された結果は実施例2、表7、及び実施例3、表8と合致している。
【0147】
実施例9-qRT-PCRによる、残存する未分化な幹細胞の定量
本実施例は、実質的に実施例2のプロトコールによって、残存する未分化なiPSCの定量について記載するが、LIN28がREX1 (ZFP42)によって置き換えられている。予想された結果は実施例2、表7、及び実施例3、表8と合致している。
【0148】
実施例10-qRT-PCRによる、残存する未分化な幹細胞の定量
本実施例は、実質的に実施例2のプロトコールによって、残存する未分化なiPSCの定量について記載するが、LIN28がSSEA1 (FUT4)によって置き換えられている。予想された結果は実施例2、表7、及び実施例3、表8と合致している。
【0149】
実施例11-qRT-PCRによる、残存する未分化な幹細胞の定量
本実施例は、実質的に実施例2のプロトコールによって、残存する未分化なiPSCの定量について記載するが、LIN28がSSEA4によって置き換えられている。予想された結果は実施例2、表7、及び実施例3、表8と合致している。
【0150】
実施例12-qRT-PCRによる、残存する未分化な幹細胞の定量
本実施例は、実質的に実施例2のプロトコールによって、残存する未分化なiPSCの定量について記載するが、LIN28がDPPA2によって置き換えられている。予想された結果は実施例2、表7、及び実施例3、表8と合致している。
【0151】
実施例13-qRT-PCRによる、残存する未分化な幹細胞の定量
本実施例は、実質的に実施例2のプロトコールによって、残存する未分化なiPSCの定量について記載するが、LIN28がDPPA3によって置き換えられている。予想された結果は実施例2、表7、及び実施例3、表8と合致している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11
図12-1】
図12-2】
図12-3】
図13
図14
【配列表】
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