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特許7024983フィルタリング装置及びフィルタリング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】フィルタリング装置及びフィルタリング方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/22 20060101AFI20220216BHJP
【FI】
H04L27/22 F
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021176709
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2021-11-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521473789
【氏名又は名称】綿貫 竜太
(73)【特許権者】
【識別番号】521145613
【氏名又は名称】三田村 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】綿貫 竜太
(72)【発明者】
【氏名】三田村 裕幸
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/163364(WO,A1)
【文献】特許第6905265(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2016/0299201(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0197758(US,A1)
【文献】特表2005-537747(JP,A)
【文献】特開2013-205093(JP,A)
【文献】特開平08-186608(JP,A)
【文献】特表2004-523941(JP,A)
【文献】特開2009-250775(JP,A)
【文献】H. Mitamura et al.,Improved accuracy in high-frequency AC transport measurements in pulsed high magnetic fields,Review of scientific instruments,2020年12月11日,91,125107(2020)
【文献】E. Bidet(他4名),FDF, a 512-TAP FIR filter using a mixed temporal-frequential approach,Proceedings of the IEEE 1995 Custom Integrated Circuits Conference,1995年05月04日,pp.173-176
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/22
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流信号に対するフィルタリングを行うためのフィルタリング装置であって、
サンプリング部と、検波部と、線形結合部とを備えており、
前記サンプリング部は、抽出すべき周波数ごとに対応するサンプリング周期で、前記交流信号のサンプリングを行う構成となっており、
ここで、前記サンプリング周期は、抽出すべき各周波数の1周期又は半周期がサンプリング周期の整数倍となるように設定されており、
前記検波部は、サンプリングされた前記交流信号に対する数値位相検波を行なうことにより、積算振動回数に応じた複数の検波結果を取得する構成となっており、
前記線形結合部は、フィルタ特性に応じた線形係数を用いて前記複数の検波結果の線形結合を行う構成となっている
フィルタリング装置。
【請求項2】
前記サンプリング部は、前記交流信号のサンプリングを、前記抽出すべき周波数ごとに対応するサンプリング周期で、並列に行う構成となっている
請求項1に記載のフィルタリング装置。
【請求項3】
前記サンプリング部は、前記交流信号の周波数の変動に応じて、この変動に追随するように、前記サンプリング周期を変化させるようになっている
請求項1に記載のフィルタリング装置。
【請求項4】
前記交流信号において抽出すべき周波数成分は、等間隔で配置されている
請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルタリング装置。
【請求項5】
さらに出力部を備えており、
前記出力部は、前記線形結合部での線形結合により得られた結果を出力する構成となっている
請求項1~4のいずれか1項に記載のフィルタリング装置。
【請求項6】
さらに、線形係数決定部を備えており、
前記線形係数決定部は、前記線形係数間の関係と、前記数値位相検波における全体の通過利得と、目的とするフィルタ特性とを用いて、前記線形係数を算出する構成となっている
請求項1~5のいずれか1項に記載のフィルタリング装置。
【請求項7】
なる前記抽出すべき周波数に対応する前記サンプリング周期のうちの少なくとも二つが共通となっている
請求項1~6のいずれか1項に記載のフィルタリング装置。
【請求項8】
交流信号に対するフィルタリングを行うためのフィルタリング方法であって、
抽出すべき周波数ごとに対応するサンプリング周期で、前記交流信号のサンプリングを行うステップと、ここで、前記サンプリング周期は、抽出すべき各周波数の1周期又は半周期がサンプリング周期の整数倍となるように設定されており、
サンプリングされた前記交流信号に対する数値位相検波を行なうことにより、積算振動回数に応じた複数の検波結果を取得するステップと、
フィルタ特性に応じた線形係数を用いて前記複数の検波結果の線形結合を行うステップと
を備えるフィルタリング方法。
【請求項9】
交流信号に対するフィルタリングを行うためのフィルタリング方法であって、
抽出すべき周波数ごとに対応するサンプリング周期で、前記交流信号のサンプリングを行うステップと、ここで、前記サンプリング周期は、抽出すべき各周波数の1周期又は半周期がサンプリング周期の整数倍となるように設定されており、
サンプリングされた前記交流信号に対する数値位相検波を行なうことにより、前記交流信号に対するフィルタリングを行い、抽出すべき周波数成分を取得するステップと
を備えるフィルタリング方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の各ステップをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項11】
交流信号に対するフィルタリングを行うためのフィルタリング装置であって、
サンプリング部と、フィルタ部とを備えており、
前記サンプリング部は、抽出すべき周波数ごとに対応するサンプリング周期で、前記交流信号のサンプリングを行う構成となっており
ここで、前記サンプリング周期は、抽出すべき各周波数の1周期又は半周期がサンプリング周期の整数倍となるように設定されており、
前記フィルタ部は、サンプリングされた前記交流信号に対する数値位相検波を行なうことにより、前記交流信号に対するフィルタリングを行い、抽出すべき周波数成分を取得する構成となっている
フィルタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流信号に対してフィルタリングを行うための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交流信号に対する位相検波(同期検波ともいう)を行う技術として、アナログ位相検波と数値位相検波(デジタル位相検波ともいう)とが知られている。
【0003】
アナログ位相検波では、復調したい信号の各振動数をωとすると、元の信号に2cosωtあるいは2sinωtを乗算し、2倍振動の成分(すなわちcos2ωtとsin2ωt)を除去することで、時間によらない定数成分を抽出する。ここで、アナログ位相検波では、ローパスフィルタにより、2倍振動の成分を除去しているので、長時間の積算が必要になるという問題がある。
【0004】
これに対して、数値位相検波では、基準周期の整数倍あるいは半整数倍の区間積分を用いて2倍振動の成分を除去できるので、短時間で信号成分を取り出すことができるという特長がある。
【0005】
ところで、数値位相検波では、積算振動回数(要するに、区間積分に用いた周期の数)が少ないと、ノイズ除去性能が顕著に劣化するという問題がある。これに対して、積算振動回数を増やすと、信号成分を取り出す処理に時間を要してしまうという問題が生じる。つまり、数値位相検波では、処理時間の短縮とノイズ除去性能とがトレードオフの関係となっている。
【0006】
そこで、本発明者は、数値位相検波を用いながら、短時間での低ノイズの信号抽出処理を行うことができる技術を、下記特許文献1において提案した。すなわち、下記特許文献1の技術では、数値位相検波において積算振動回数の違いによって通過利得の特性が異なることを利用し、複数の積算振動回数による検波結果の線形結合をとることで単独の積算振動回数による検波にはない通過利得の特性を持たせることが出来ることを示した。
【0007】
また、本発明者は、下記特許文献1の技術の発展として、下記特許文献2において、周波数成分の位置を特定の位置とすることにより、多重化された周波数成分の分離に要する時間をより短くできる方法を示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2018/163364公報
【文献】特許第6905265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、これらの技術において、フィルタリングの対象となる交流信号は、一般に、時間に対して連続的な関数である。一方、実際の信号の取得(つまりサンプリング)は離散的に行われる。すると、複数の周波数の分離復調において、それぞれ整数値(あるいは半整数値)の積算振動回数を実現できるように、サンプリングの方法を調整する必要が生じる。前記特許文献1(0090段落)では、周波数の逆数がサンプリングレートの逆数の整数倍となるように周波数を設定するという解決方法を提案している。しかしながらこの場合において、前記特許文献2のような効率的なフィルタリングのための周波数配置の条件と整合させようとすると、取りうる周波数の制約が厳しくなってしまう。
【0010】
本発明は、前記した状況に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、数値位相検波における復調を正確に実現するための技術を提供することである。また、本発明の他の目的は、数値位相検波において抽出する周波数についての設定の自由度を高めることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決する手段は、以下の項目のように記載できる。
【0012】
(項目1)
交流信号に対するフィルタリングを行うためのフィルタリング装置であって、
サンプリング部と、検波部と、線形結合部とを備えており、
前記サンプリング部は、抽出すべき周波数ごとに対応するサンプリング周期で、前記交流信号のサンプリングを行う構成となっており、
ここで、前記サンプリング周期は、抽出すべき各周波数の1周期又は半周期がサンプリング周期の整数倍となるように設定されており、
前記検波部は、サンプリングされた前記交流信号に対する数値位相検波を行なうことにより、積算振動回数に応じた複数の検波結果を取得する構成となっており、
前記線形結合部は、フィルタ特性に応じた線形係数を用いて前記複数の検波結果の線形結合を行う構成となっている
フィルタリング装置。
【0013】
(項目2)
前記サンプリング部は、前記交流信号のサンプリングを、前記抽出すべき周波数ごとに対応するサンプリング周期で、並列に行う構成となっている
項目1に記載のフィルタリング装置。
【0014】
(項目3)
前記サンプリング部は、前記交流信号の周波数の変動に応じて、この変動に追随するように、前記サンプリング周期を変化させるようになっている
項目1に記載のフィルタリング装置。
【0015】
(項目4)
前記交流信号において抽出すべき周波数成分は、等間隔で配置されている
項目1~3のいずれか1項に記載のフィルタリング装置。
【0016】
(項目5)
さらに出力部を備えており、
前記出力部は、前記線形結合部での線形結合により得られた結果を出力する構成となっている
項目1~4のいずれか1項に記載のフィルタリング装置。
【0017】
(項目6)
さらに、線形係数決定部を備えており、
前記線形係数決定部は、前記線形係数間の関係と、前記数値位相検波における全体の通過利得と、目的とするフィルタ特性とを用いて、前記線形係数を算出する構成となっている
項目1~5のいずれか1項に記載のフィルタリング装置。
【0018】
(項目7)
前記異なる周波数に対応する前記サンプリング周期のうちの少なくとも二つが共通となっている
項目1~6のいずれか1項に記載のフィルタリング装置。
【0019】
(項目8)
交流信号に対するフィルタリングを行うためのフィルタリング方法であって、
抽出すべき周波数ごとに対応するサンプリング周期で、前記交流信号のサンプリングを行うステップと、ここで、前記サンプリング周期は、抽出すべき各周波数の1周期又は半周期がサンプリング周期の整数倍となるように設定されており、
サンプリングされた前記交流信号に対する数値位相検波を行なうことにより、積算振動回数に応じた複数の検波結果を取得するステップと、
フィルタ特性に応じた線形係数を用いて前記複数の検波結果の線形結合を行うステップと
を備えるフィルタリング方法。
【0020】
(項目9)
交流信号に対するフィルタリングを行うためのフィルタリング方法であって、
抽出すべき周波数ごとに対応するサンプリング周期で、前記交流信号のサンプリングを行うステップと、ここで、前記サンプリング周期は、抽出すべき各周波数の1周期又は半周期がサンプリング周期の整数倍となるように設定されており、
サンプリングされた前記交流信号に対する数値位相検波を行なうことにより、前記交流信号に対するフィルタリングを行い、抽出すべき周波数成分を取得するステップと
を備えるフィルタリング方法。
【0021】
(項目10)
項目8又は9に記載の各ステップをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【0022】
このコンピュータプログラムは、適宜な記録媒体(例えばCD-ROMやDVDディスクのような光学的な記録媒体、ハードディスクやフレキシブルディスクのような磁気的記録媒体、あるいはMOディスクのような光磁気記録媒体)に格納することができる。このコンピュータプログラムは、インターネットなどの通信回線を介して伝送されることができる。
【0023】
(項目11)
交流信号に対するフィルタリングを行うためのフィルタリング装置であって、
サンプリング部と、フィルタ部とを備えており、
前記サンプリング部は、抽出すべき周波数ごとに対応するサンプリング周期で、前記交流信号のサンプリングを行う構成となっており
ここで、前記サンプリング周期は、抽出すべき各周波数の1周期又は半周期がサンプリング周期の整数倍となるように設定されており、
前記フィルタ部は、サンプリングされた前記交流信号に対する数値位相検波を行なうことにより、前記交流信号に対するフィルタリングを行い、抽出すべき周波数成分を取得する構成となっている
フィルタリング装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、数値位相検波における復調を正確に実現することが可能になる。また、本発明によれば、数値位相検波において抽出する周波数についての設定の自由度を高めることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係るフィルタリング装置の概略を示すブロック図である。
図2図1のフィルタリング装置におけるフィルタ部の概略を示すブロック図である。
図3図1のフィルタリング装置を用いて行われるフィルタリング方法を説明するための流れ図である。
図4】交流信号が混合された混合信号をサンプリングして復調する手順を説明するための説明図である。
図5】周波数が等間隔である複数の交流信号をサンプリングする手順を、OFDM法と対比して説明するための説明図である。これらの図における縦軸の数字は周波数(Hz)を表しており、縦軸は、周波数ごとの振幅を表している。
図6】周波数掃引に本実施形態のフィルタリング方法を適用した例を説明するための説明図である。これらの図における縦軸は正規化された信号強度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係るフィルタリング装置を、図1を参照しながら説明する。
【0027】
(本実施形態のフィルタリング装置の構成)
本実施形態のフィルタリング装置は、サンプリング部1と、フィルタ部3とを主要な構成として備えている(図1参照)。さらに、本実施形態のフィルタリング装置は、サンプリングレート記憶部2と出力部4と線形係数決定部5とを追加的な要素として備えている。
【0028】
(サンプリング部)
サンプリング部1は、抽出すべき周波数ごとに対応するサンプリング周期で、交流信号のサンプリングを行う構成となっている。ここで、サンプリング周期は、抽出すべき各周波数の1周期がサンプリング周期の整数倍となるように設定されている。ここで、異なる周波数に対応する適切なサンプリング周期は、通常は互いに異なると考えられる。ただし、「抽出すべき各周波数の1周期がサンプリング周期の整数倍である」という条件を満たす限り、いずれかのサンプリング周期どうしが共通となっていてもよい。したがって、N個の周波数に対応するサンプリング周期の数Mは、N=M、N>M、M=1のいずれの場合もありうる。詳しいサンプリング動作については後述する。
【0029】
(サンプリングレート記憶部)
サンプリングレート記憶部2は、抽出すべき周波数(これは通常既知である)に対応するサンプリング周期を記憶するものである。サンプリングレート記憶部2は、サンプリング部1に、所定のサンプリング周期を提供するようになっている。
【0030】
(フィルタ部)
本実施形態のフィルタ部3は、検波部31と線形結合部32とから構成されている(図2参照)。
【0031】
検波部31は、サンプリングされた交流信号に対する数値位相検波を行なうことにより、積算振動回数に応じた複数の検波結果を取得するものである。
【0032】
線形結合部32は、フィルタ特性に応じた線形係数を用いて複数の検波結果の線形結合を行うものである。
【0033】
検波部31及び線形結合部32は、前記した特許文献1又は2と基本的に同様に構成することができる。フィルタ部3の詳しい動作についても後述する。
【0034】
(出力部)
出力部4は、線形結合部32での線形結合により得られた結果を出力する構成となっている。出力部4の出力先としては、例えば、ディスプレイやプリンタであるが、それ以外にも、何らかの記憶手段やリモート機器であってもよい。本実施形態では、何らかの機器にデータを送ることも出力の概念に含める。
【0035】
(線形係数決定部)
線形係数決定部5は、線形係数間の関係と、数値位相検波における全体の通過利得と、目的とするフィルタ特性とを用いて、線形結合部32で用いられる線形係数を算出する構成となっている。線形係数の決定手法は前記特許文献1と同様でよい。
【0036】
(本実施形態のフィルタリング方法の手順)
つぎに、前記したフィルタリング装置を用いたフィルタリング方法を、図3をさらに参照しながら説明する。
【0037】
図3のステップSA-1及びSA-2)
検波対象としての交流信号の入力を受け付けると、サンプリング部1は、抽出すべき周波数に対応するサンプリング周期をサンプリングレート記憶部2から受領し、このサンプリング周期で交流信号のサンプリングを行う。ここで、サンプリング周期は、抽出すべき各周波数の1周期がサンプリング周期の整数倍となるように設定されている。
【0038】
図3のステップSA-3)
ついで、サンプリングされた交流信号に対する数値位相検波を行なうことにより、積算振動回数に応じた複数の検波結果を取得する。その後、フィルタ特性に応じた線形係数を用いて複数の検波結果の線形結合を行う。これらの数値位相検波及び線形結合については、前記した特許文献1又は特許文献2に記載の方法を使用できるので、詳しい説明は省略する。用いられる線形係数は、特許文献1と同様にして、線形係数決定部5により決定される。その後、出力部4により、得られたフィルタリング結果を出力する。
【0039】
(フィルタリング装置の原理)
ここで、本実施形態におけるフィルタリング装置の原理について詳しく説明し、その後、具体的な実施例を説明する。以下においては、前記特許文献1における式の引用をA-(**)とし、前記特許文献2における式の引用をB-(**)の形で表記する。
【0040】
で与えられる(注意:n=半整数の場合も同様の議論は可能であるがここでは簡単化のため自然数の場合のみを考える。)。また簡単化のため以後角振動数を無次
【0041】
【0042】
【0043】
一般に検波したい信号成分の通過利得は実部と虚部で有限かつ等しくある必要がある。簡単のため
という条件を課せば自動的にA-(15)が成り立つ。
【0044】
が成り立てばこれらのノイズを全て除去できることになる。
【0045】
が成り立てばB-(1)が言える。従って、A-(14)とA-(21)の連立
求める特性のフィルタが完成する。
【0046】
が成り立つ必要性がある。ここで
が成り立つため
フィルタが出来上がる。
【0047】
数にある。従って除去したい周波数をうまく選べば、より積算時間を短縮することが可能である(前記特許文献2参照)。これは、ブロードバンド通信などのように使用する周波数の組をあらかじめ選べる場合に有効である。以下その方法の概要を示す。
【0048】
A-(8)とA-(12)より、
【0049】
【0050】
従って
となる。これより、
成分も同時に除去されることを意味する(このことは積算周期が半整数の組の場合でも同様に成り立つ。)。
【0051】
と置くと、
となる。従って、
【0052】
ることを意味する。この関係式をうまく利用するには、各々の周波数が一定間隔に並んでいてとりうる周波数帯域の中で高周波側に片寄せされているのが望ましい。そうすることで前記特許文献1の方式よりも全体の積算時間を更に短縮することが出来る。
【0053】
前記の理論的説明では、信号が時間に対して連続的な関数として扱われている。一方、実際の信号の取得は垂直・水平軸共に離散的に行われるため、理想的な状況からのずれの影響を考慮する必要がある。とりわけ、有限のサンプリング周期Δtで時系列データを取得した場合に、式A-(7~10)を計算するためには、積分区間がサンプリング周期Δtのちょうど整数倍でなければ非常に困難が伴う。仮に整数倍でない場合、信号の位相と振幅が既知でノイズが全くなければ種々の補間法が使えるが、これはすでに復調・信号分離が済んでいる場合であり解決策にならない。したがって、前記特許文献1の手法で任意の自然数nに対して
整数倍でなければいけない。なお、n=半整数の系列の場合、「復調すべき信号の半周期がサンプリング周期の整数倍になる」ようにする。本実施形態の説明においては、煩雑を避けるためn=整数を仮定しているが、n=半整数の場合は、前記の通り、1周期を半周期と読み替えればよい。ちなみに、離散的Fourier変換(DFT)を基本とした直交周波数分割多重方式(orthogonal frequency- division multiplexing, OFDM)では、Δtの整数倍の区間の中で、最初と最後の位相が同じになる周波数のみを扱うので、そもそもこういった問題は起きない(後述の図5(b)参照)。
【0054】
複数の周波数の分離復調を考える場合、各々の周波数の周期がΔtの整数倍であるように各周波数を選択できれば良い。これは、周波数の逆数が整数比になることを意味する。しかしながら、前記特許文献2が示唆するところは、周波数が等間隔であることが、データを効率よく送受信する要件となる。この場合は、各周波数の周期が同時にΔtの整数倍となることを満たすことが難しくなるという問題が生じる。この問題を解決する方法として以下の例を示す。
【0055】
(実施例1)
まず、特許文献1の方法において抽出すべき周波数の1周期がΔtの整数倍である必要性はあるが、除去されるべき対象の周波数の1周期は必ずしもΔtの整数倍である必要がないことに着目した。これにより、検波前の同一の入力信号に対し抽出すべき周波数ごとに別々のサンプリング周期でそれぞれ独立にサンプリング及び復調することで、抽出すべき各周波数に対して常に1周期がサンプリング周期の整数倍となるようにすることができる。つまり、抽出されるべき周波数については、積分区間の両端をデータ点として確保することができる。
【0056】
この点を、図4を参照してさらに詳しく説明する。二つの交流信号(図4(a)及び(b)参照)の混合信号(図4(c))から、これら二つの交流信号を検波することを考える。この場合、第1の交流信号(図4(a))に対応するサンプリング周期でのサンプリング(図4(d))を混合信号に対して行う。また、これと前後してあるいは並行して、第2の交流信号(図4(b))に対応するサンプリング周期でのサンプリング(図4(e))を行う。図4において白丸はサンプリング点を示す。ここで、それぞれのサンプリング周期は、抽出すべき周波数の1周期がサンプリング周期の整数倍となるように設定されている。フィルタ部3において、サンプリングされたデータを用いて数値位相検波を行うことにより、図4(f)及び図4(g)に示すように、それぞれの交流信号を抽出することができる。つまり、サンプリングデータを基にして復調を行い、元の波形を再現することができる。
【0057】
(実施例2)
次に、周波数が等間隔で配置されている例を、図5を参照しながら説明する。この例では、11Hz~15Hzの周波数が使用されているとする。従来のOFDM法で必要な振動積算回数を薄い灰色で示す(図5(a))。OFDM法では、同じサンプリング周期を用いていても、考慮しているすべての周波数成分について、検波に必要な積算区間がサンプリング周期の整数倍となるので、そもそも補間の必要がない(図5(b))。つまり、サンプリング周期を調整する必要がない。
【0058】
一方、前記特許文献1又は2で示される信号分離方法において必要な振動積算回数を図5において濃い灰色で示す。この方法によればOFDM法より短い時間のデータで復調を行うことができる(図5(a))。ただし、単一のサンプリングレートでデータ取得を行う場合、考慮している全ての周波数成分について検波に必要な積算区間をサンプリング周期の整数倍とすることは難しい。特に、図5のように周波数成分が等間隔で配置されている場合には難しい(図5(c)参照)。
【0059】
そこで、考慮している各々の周波数成分についてそれぞれ別々のサンプリングレートを用いることで、常に積算区間をサンプリング周期の整数倍とすることができる(図5(d)参照)。以降は、実施例1の場合と同様に、サンプリングされたデータ点を用いて、目的とする周波数の交流信号を抽出することができる。したがって、本実施形態の方法によれば、数値位相検波において抽出する周波数についての設定の自由度を高めることが可能になる。
【0060】
(実施例3)
サンプリング周期を抽出すべき周波数に連動させるという考え方は、周波数を連続/不連続に掃引する場合にも有効である。周波数掃引の場合の例を、図6を参照して説明する。
【0061】
掃引の場合、周波数の変化に応じてサンプリングレートを連動させ、常に周波数の1周期がサンプリング周期Δtのちょうど整数倍になるように、サンプリング部1がデータのサンプリングを行う(図6(a)参照)。図6(a)において横軸は実際の時間である。参考のため、サンプリングの間を等間隔に置き直した図を図6(b)に示す。図6(b)の横軸は変換された時間である。周波数の変化に応じてサンプリングレートを連動させることにより、常に周波数の1周期がサンプリング周期のちょうど整数倍になるようにデータのサンプリングを行うことができる。以降は、実施例1の場合と同様に、サンプリングされたデータ点を用いて、目的とする周波数の交流信号を抽出することができる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態の方法では、周波数ごとに別々のサンプリング周期を与えるので、抽出したい周波数の周期が常にサンプリング周期の整数倍となり、結果として各々の周波数に対し積分区間を正確に振動周期の整数倍にすることができる。ただし、前記したように、複数の周波数に対して共通のサンプリング周期を用いることはありうる。
【0063】
一般に、信号検出の時間分解能を上げるには変調に用いる周波数を上げるのが常道であるが、放送や電気通信のように法的に使用を許可された周波数帯域が限定されているなどの理由から安易に周波数を上げられない場合には、前記特許文献1及び2の信号処理方式はとりわけ効力を発揮する。例えば、これらの文献の技術によれば、放送・通信分野で現在使用されている直交周波数分割多重方式(orthogonal frequency-division multiplexing, OFDM)よりも短い時間幅の情報を用いて、さまざまな周波数成分で構成されるいわゆるブロードバンド信号を復調できる。したがって、ビヨンド5Gを含む放送・通信分野において、信号密度向上による通信の高速化・耐障害性・耐干渉性の改善が期待できる。また、医療分野では超音波診断装置、MRIなどのイメージング装置において高速化・高解像度化が期待できる。センサ分野では電子コンパス、加速度センサ、ミリ波レーダー、超音波ソナーなどの自動運転技術に必要なデバイスにおける感度、時間応答および混線防止性能の向上に資すると考えられる。
【0064】
ブロードバンド信号の復調における数値処理部分がシングルコア主流の時代は、高速Fourier変換(FFT)による離散的Fourier変換(DFT)を基本としたOFDMが圧倒的に効率的な信号復調・分離の方法であった。他方、マルチコア(並列処理)が主流の現在においては、本実施形態のように、抽出したい周波数ごとに別々のサンプリング周期で同一信号を並列してデータ取得・処理する場合は、各コア間の処理が独立に行えるので有利である。例えば、前記した実施例2において、各々のサンプリングレートを各コア(つまりサンプリング部1)に割り当てて並列処理を行うことにより、複数周波数の抽出に要する時間を短縮することができる。
【0065】
また、ミリ波レーダー、超音波ソナーなどでよく用いられる周波数掃引技法では数値位相検波を短時間で効率的に扱う手法がなかった。これらにおいても前記実施例3の方法を適用することにより実用化を図ることができる。
【0066】
なお、本発明の内容は、前記実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、具体的な構成に対して種々の変更を加えうるものである。
【0067】
例えば、前記した実施形態では、フィルタ部3を検波部31と線形結合部32とから構成したが、両者の機能を一つの機能ブロックで実現することができる。本実施形態のフィルタ部3は、前記した検波及び線形結合と数学的に等価な処理を行うものを含んでおり、例えば、検波と線形結合を別々の処理として分離して行う必要はない。要するに、フィルタ部3としては、サンプリングされた交流信号に対する数値位相検波を行なうことにより、交流信号に対するフィルタリングを行い、抽出すべき周波数成分を取得する構成であればよい。
【0068】
また、前記した各構成要素は、機能ブロックとして存在していればよく、独立したハードウエアとして存在しなくても良い。また、実装方法としては、ハードウエアを用いてもコンピュータソフトウエアを用いても良い。さらに、本発明における一つの機能要素が複数の機能要素の集合によって実現されても良く、本発明における複数の機能要素が一つの機能要素により実現されても良い。
【0069】
さらに、機能要素は、物理的に離間した位置に配置されていてもよい。この場合、機能要素どうしがネットワークにより接続されていても良い。グリッドコンピューティング又はクラウドコンピューティングにより機能を実現し、あるいは機能要素を構成することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 サンプリング部
2 サンプリングレート記憶部
3 フィルタ部
31 検波部
32 線形結合部
4 出力部
5 線形係数決定部
【要約】
【課題】数値位相検波における復調を正確に実現する。
【解決手段】サンプリング部1は、抽出すべき周波数ごとに対応するサンプリング周期で、交流信号のサンプリングを行う。ここで、サンプリング周期は、抽出すべき各周波数の1周期又は半周期がサンプリング周期の整数倍となるように設定されている。フィルタ部3は、サンプリングされた交流信号に対する数値位相検波を行なうことにより、交流信号に対するフィルタリングを行い、抽出すべき周波数成分を取得する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6