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特許7025034膵臓炎、腎損傷および腎臓癌を治療および予防するための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】膵臓炎、腎損傷および腎臓癌を治療および予防するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/44 20060101AFI20220216BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20220216BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20220216BHJP
   A61P 35/02 20060101ALN20220216BHJP
   A61P 13/12 20060101ALN20220216BHJP
   A61P 37/04 20060101ALN20220216BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20220216BHJP
   A61P 9/12 20060101ALN20220216BHJP
【FI】
A61K38/44
A61P1/18
C12N15/53 ZNA
A61P35/02
A61P13/12
A61P37/04
A61P35/00
A61P9/12
【請求項の数】 8
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019127489
(22)【出願日】2019-07-09
(62)【分割の表示】P 2016568038の分割
【原出願日】2015-05-15
(65)【公開番号】P2019182873
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2019-07-18
(31)【優先権主張番号】61/994,279
(32)【優先日】2014-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593152720
【氏名又は名称】イェール ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】Yale University
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー デジール
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/014899(WO,A1)
【文献】REED, Anamika et al.,Renalase Deficiency Worsens Acute Pancreatitis in Mice,Gastroenterology,Vol. 146, No. 5, SUPPL. 1,2014年05月,pp. S-496, Abstract Number: Su1900,Meeting Info: Digestive Disease Week 2014, DDW 2014. Chicago, IL, UnitedStates. 03 May 2014-06 May 2014
【文献】J Clin Invest,2005年,Vol.115, No.5,p.1275-1280
【文献】Exp Ther Med,2012年06月,Vol.4, No.3,p.493-496
【文献】PLoS One,2011年,Vol.6, No.1,e14633
【文献】Pediatr Nephrol,2012年03月,Vol.27,p.719-725
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 38/44
A61K 33/24
A61P 1/18
A61P 9/12
A61P 13/12
A61P 35/00
A61P 35/02
A61P 37/04
C12N 15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PMCA4bを活性化するための少なくとも1種の薬剤を含む、低下したPMCA4b活性に関連した膵臓病または膵臓障害の治療または予防を必要とする対象において当該疾患を治療または予防するための医薬組成物であって、当該組成物の治療有効量が当該対象に投与され、前記PMCA4bを活性化するための少なくとも1種の薬剤が、レナラーゼポリペプチドおよびレナラーゼポリペプチド断片からなる群から選択される少なくとも1つであ前記レナラーゼポリペプチド断片が配列番号3、4または5のアミノ酸配列を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記レナラーゼポリペプチドが、組み換えレナラーゼポリペプチドである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記レナラーゼポリペプチドが配列番号8のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記レナラーゼポリペプチドが配列番号9のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種の薬剤が1回で投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1種の薬剤が繰り返し投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1種の薬剤が局所、領域、または全身に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記膵臓病または膵臓障害が、急性膵臓炎および慢性膵臓炎からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願
本願は、2014年5月16日に提出された米国特許仮出願第61/994,279号の優先権を主張するものであり、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府による出資の研究または開発に関する陳述
本発明は、国立衛生研究所からの助成金RC1DK086465、RC1DK086402、およびR01DK081037として政府の支持を得てなされた。政府は本発明に対して特定の権利を有する。
【0003】
発明の背景
レナラーゼ(RNLSおよび遺伝子C10orf59ともいう)は、新規な分泌性フラボタンパク質オキシダーゼである(Farzaneh-Far et al., 2010, PLoS One 5:e13496; Desir et al., 2012, J. Am. Heart Assoc. 1:e002634; Desir et al., 2012, 6:417-426; J. Am.Soc.Hypertension; Xu et al., 2005, J. Clin.Invest. 115:1275-1280; Li et al., 2008, Circulation 117:1277-1282)。この遺伝子に存在する一塩基多型は高血圧症、心臓病、および糖尿病と関連づけられている(Farzaneh-Far et al., 2010, PLoS One 5:e13496; Barrett et al., 2009, Nat.Genet. 41:703-707; Buraczynska et al., 2011, Neuromolecular Med. 13:321-327; Malyszko et al., 2012, Ren. Fail. 34:727-731; Zhao et al., 2007, J. Mol. Med. (Berl). 85:877-885)。レナラーゼの結晶構造は解明されており(Milani et al., 2011, J. Mol.Biol. 411:463-473)、そのタンパク質はエピネフリンと結合して(Xu et al., 2005, J. Clin. Invest. 115:1275-1280)、オキシダーゼ/アノメラーゼとして機能し、酸素分子を用いてα-NAD(P)Hとβ-NAD+に変換し、反応副生物として過酸化水素を生成する(Beaupre et al., 2013, J. Am.Chem.Soc. 135:13980-13987)。
【0004】
野生型(WT)マウスにレナラーゼを投与すると、血漿カテコールアミン濃度および全身の血圧が低下する。レナラーゼが欠失した(レナラーゼノックアウト(KO))マウスでは、カテコールアミン濃度および血圧が上昇する(Wu et al., 2011, Kidney Int. 79:853-860)。遺伝子欠失はまた、虚血性急性腎損傷(AKI)(Lee et al., 2013, J. Am. Soc. Nephrol. 24:45-455)や心外傷(Wu et al., 2011, Kidney Int. 79:853-860)を悪化させる。組換えレナラーゼは野生型マウスの虚血性損傷を防ぐ(Lee et al., 2013, J. Am. Soc. Nephrol. 24:445-455)。レナラーゼ遺伝子の2つの一塩基多型(SNP)(rs2576178 GG遺伝型およびrs2296545 CC)は、本態性高血圧症と関連づけられている(Zhao et al., 2007, J. Mol. Med. (Berl.) 85:877-885)。また、rs2296545 CCは、(アミノ酸37におけるグルタミン酸からアスパラギン酸への)保存的アミノ酸変化を生じ、安定した冠動脈瘤病を有する人の心臓肥大、心室機能障害、低運動能力、および誘発性虚血と関連づけられている(Farzaneh-Far et al., 2010, PLoS One 5:e13496)。慢性腎臓病のラットのモデル(5/6 Nx)では心臓のレナラーゼ濃度が大きく低下することが観察された(Li et al., 2008, Circulation 117:1277-1282)。組み換えレナラーゼを投与すると齧歯類の血圧が低下し(Xu et al., 2005, J. Clin. Invest 115:1275-1280; Milani et al., 2011, J. Mol. Biol. 411:463-473)、マウスを虚血性AKIから保護する(Lee et al., 2013, J. Am. Soc. Nephrol. 24:445-455)。レナラーゼはまた、オキシダーゼ/アノメラーゼとして作用してα-NAD(P)Hをβ-NAD+に変換し、反応副生物として過酸化水素を生成する。その本来の酵素活性とは独立して、細胞外レナラーゼはMAPK信号伝達を活性化して、野生型(WT)マウスでの急性腎損傷(AKI)を防ぐ(Wang et al., 2014, J. Am. Soc. Nephrol. DOI:10.1681/asn.2013060665)。
【0005】
レナラーゼは細胞保護効果を有するが、この細胞保護効果はあるパターンのMAPK信号伝達により腎損傷で始まる。この信号伝達は、レナラーゼと細胞膜Ca-ATP分解酵素との相互作用によって媒介される。腎損傷は慢性腎臓病(CKD)を引き起こす可能性がある。慢性腎臓病は、主に心臓血管合併症による病的状態およびの死亡率の増加と関連づけられている。慢性腎臓病(CKD)を患う長期患者の約30%は、主に心臓血管合併症による病的状態およびの死亡率の増加と関連づけられている。急性腎損傷(AKI)は、一般に敗血症、手術、および特定の薬物と関連づけられた臨床状態であり、入院している長期患者の20%以下に影響を及ぼす。疫学データによると、AKIの重症度は院内死亡率および長期死亡率と関連づけられることが示されている。CKDおよびAKIでは交感神経系の緊張の高まりが生じることが示されている。
【0006】
レナラーゼの結晶構造は解明されているが、その作用機序は未だ明らかではない。最近では、レナラーゼは、その本来の酵素活性とは独立した受容体媒介過程により細胞および器官の生存を助けることが報告されている(Wang L, Velazquez H, Moeckel G et al.Renalase Prevents AKI Independent of Amine Oxidase Activity(レナラーゼはアミンオキシダーゼ活性とは独立してAKIを防ぐ). J Am Soc Nephrol 2014)。レナラーゼはまた、B-細胞リンパ腫2(Bcl-2)を活性化して、c-Jun N-末端キナーゼ(JNK)を防ぐことが分かっている。
【0007】
急性膵臓炎は生命を脅かす可能性がある病気で、米国では毎年250,000人を超える人々がこの病気にかかっており、胃腸疾患による入院の原因となっている(Wu and Banks, 2013, Gastroenterology 144, 1272-1281; Whitcomb, 2006, N Engl J Med 354, 2142-2150)。急性膵臓炎の発症機序は完全には理解されていないため、主な治療法は未だに支持療法のままである。その結果、重度の急性膵臓炎患者の死亡率は10~30%である(Petrov et al., 2010, Gastroenterology 139, 813-820; McKay and Imrie, 2004, The British journal of surgery 91, 1243-1244)。
【0008】
この膵臓の急性炎症性疾患は、膵臓腺房細胞の損傷として始まることが最も多いと考えられている。この病気では当初、タンパク質キナーゼCイソ型、AMPK、およびNFκBで媒介される腺房細胞の信号伝達異常が発見されたが、ほとんどの研究は、この病気の開始については細胞質のCa2+の信号伝達の異常が最も重要であることを示唆している。透過率の上昇、炎症、および血流の低下を伴う血管損傷を含む一連の連続事象が続き、その結果、膵臓細胞死となる。重度の病気を有する個体では、通常、肺および腎臓を含む多臓器損傷が見られる。膵臓炎が一連の個別の経時事象を表すということは、病気の予防またはその重症度の低減を目的とした介入を有効とするためにはその介入が適切な病気の段階に特異的な機構でなければならないことを意味する。
【0009】
急性膵臓炎は非常に多様な臨床経過を有し、その起こりうる転帰は全快から死亡までに及ぶ。したがって、どの患者が重症の病気を発症するかを予測することが、患者の重症度を適切に見極めるのに重要となる(Mounzer et al., 2012, Gastroenterology 142, 1476-1482)。初期の患者の状態では、血中尿素窒素(BUN)およびクレアチニンを含む腎臓機能の測定が、重症の病気の経過と死亡率についての最も信頼性が高い予測因子のひとつである(Wu et al., 2011, Archives of internal medicine 171, 669-676; Muddana et al., 2009, The American journal of gastroenterology 104, 164-170)。よって、急性膵臓炎という設定でのAKIは、死亡率の10倍の増加と関連づけられている(Kes et al., 1996, Ren Fail 18, 621-628; Tran et al., 1993, Nephrol Dial Transplant 8, 1079-1084)。
【0010】
既往のCKDと末期腎疾患(ESRD)がある場合もまた、急性膵臓炎にかかりやすく、重症度が増す。CKDおよびESRDを有する患者は、対応する対照の50倍も急性膵臓炎を発症する可能性が高い(Lankisch et al., 2008, Nephrol Dial Transplant 23, 1401-1405; Rutsky et al., 1986, Archives of internal medicine 146, 1741-1745; Quraishi et al., 2005, The American journal of gastroenterology 100, 2288-2293)。また、急性膵臓炎を有するCKD患者は、深刻な合併症および死亡の可能性が高い(Pitchumoni et al., 1996, The American journal of gastroenterology 91, 2477-2482; Golay and Roychowdhary, 2012, Ren Fail 34, 1338-1340)。CKD患者の急性膵臓炎の病因は、多くの場合分かっていないが、CKDが急性膵臓炎の発症に対して敏感になっていることが示唆される(Pitchumoni et al., 1996, The American journal of gastroenterology 91, 2477-2482)。ある研究では、ラットの急性腎不全は個別のパターンの膵臓損傷を引き起こす(Lerch et al., 1994, Gut 35, 401-407)が、それが実験での膵臓炎の発症または重症度に感受性があるかどうかは分かっていない。急性膵臓炎に及ぼすAKIおよびCKDの感作効果に関わる機構を理解すれば、標的化治療法に繋がる可能性がある。
【0011】
よって、腎損傷(例えば、AKI、CKD等)および膵臓炎を治療および予防するための組成物、およびその方法が当該分野で求められている。本発明は、当該分野で満たされていないこの必要性に対処するものである。
【発明の概要】
【0012】
発明の概要
一態様では、本発明は、必要とする対象に少なくとも1種のPMCA4b活性剤を含む組成物の治療有効量を投与することにより、前記対象の腎臓病または腎臓障害を治療または予防する方法である。様々な態様では、前記PMCA4b活性剤は、化合物、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、抗体、小分子化合物、またはこれらの組み合わせである。一態様では、前記PMCA4b活性剤は、レナラーゼポリペプチド、またはその断片、結合体、類似体、または相同体である。一態様では、前記レナラーゼポリペプチドは、配列番号8のアミノ酸配列、またはその断片、結合体、類似体、または相同体を含む。他の態様では、前記レナラーゼポリペプチドは、配列番号9のアミノ酸配列、またはその断片、結合体、類似体、または相同体を含む。他の態様では、前記PMCA4b活性剤は、レナラーゼポリペプチド断片である。一態様では、前記レナラーゼポリペプチド断片は配列番号3のアミノ酸配列、またはその断片、結合体、類似体、または相同体を含む。他の態様では、前記レナラーゼポリペプチド断片は、配列番号4のアミノ酸配列、またはその断片、結合体、類似体、または相同体を含む。一態様では、前記レナラーゼポリペプチド断片は、配列番号5のアミノ酸配列、またはその断片、結合体、類似体、または相同体を含む。いくつかの態様では、前記少なくとも1種のPMCA4b活性剤は、1回で投与される。いくつかの態様では、前記少なくとも1種のPMCA4b活性剤は繰り返し投与される。いくつかの態様では、前記少なくとも1種のPMCA4b活性剤は、局所、領域、または全身に投与される。様々な態様では、前記PMCA4b活性剤は、PMCA4b発現の活性剤、PMCA4b活性の活性剤、またはその組み合わせである。様々な態様では、治療または予防される腎臓病または腎臓障害は、急性腎損傷(AKI)、慢性腎臓病(CKD)、腎臓虚血性損傷、腎臓再かん流損傷、腎臓虚血性再かん流損傷、毒性腎損傷、尿細管壊死、尿細管炎症、尿細管アポトーシス、高血圧症、およびこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される。一態様では、前記対象はヒトである。
【0013】
他の態様では、本発明は、必要とする対象に少なくとも1種のPMCA4b阻害剤を含む組成物の治療有効量を投与することにより、前記対象の癌を治療または予防する方法である。様々な態様では、前記PMCA4b阻害剤は、化合物、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、抗体、リボザイム、小分子化合物、アンチセンス核酸分子、またはこれらのいずれかの組み合わせである。一態様では、前記PMCA4b阻害剤は、カロキシン1b、あるいはその類似体、または相同体である。他の態様では、前記PMCA4b阻害剤は、シスプラチン、あるいはその類似体、または相同体である。様々な態様では、前記治療または予防される癌は、脳癌、膀胱癌、乳癌、頸部癌、結腸直腸癌、肝臓癌、腎臓癌、リンパ腫、白血病、肺癌、黒色腫、転移性黒色腫、中皮腫、神経芽細胞腫、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、皮膚癌、胸腺腫、肉腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、子宮癌、またはこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される。一態様では、前記対象はヒトである。
【0014】
一態様では、本発明は、必要とする対象において、前記対象に少なくとも1種の薬剤を含む組成物の治療有効量を投与することにより膵臓病または膵臓障害を治療または予防する方法であり、前記少なくとも1種の薬剤は、レナラーゼポリペプチド、レナラーゼポリペプチド断片、およびレナラーゼの活性剤、またはその断片、結合体、類似体、または相同体からなる群から選択される少なくとも1種である。一態様では、前記レナラーゼポリペプチドは、組み換えレナラーゼポリペプチド、またはその断片、結合体、類似体、または相同体である。他の態様では、前記レナラーゼポリペプチドは、配列番号8のアミノ酸配列、その断片、結合体、類似体、または相同体を含む。一態様では、前記レナラーゼポリペプチドは、配列番号9のアミノ酸配列、またはその断片、結合体、類似体、または相同体を含む。他の態様では、前記レナラーゼポリペプチド断片は、配列番号3のアミノ酸配列、またはその断片、結合体、類似体、または相同体を含む。一態様では、前記レナラーゼポリペプチド断片は、配列番号4のアミノ酸配列、またはその断片、結合体、類似体、または相同体を含む。他の態様では、前記レナラーゼポリペプチド断片は、配列番号5のアミノ酸配列、またはその断片、結合体、類似体、または相同体を含む。いくつかの態様では、前記少なくとも1種の薬剤は、1回で投与される。いくつかの態様では、前記少なくとも1種の薬剤は繰り返し投与される。様々な態様では、前記少なくとも1種の薬剤は、局所、領域、または全身に投与される。一態様では、前記レナラーゼの活性剤は、レナラーゼ発現の活性剤、レナラーゼ活性の活性剤、またはこれらの組み合わせである。様々な態様では、前記レナラーゼの活性剤は、化合物、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、小分子化合物、またはこれらの組み合わせである。様々な態様では、前記膵臓病または膵臓障害は、急性膵臓炎および慢性膵臓炎からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0015】
一態様では、本発明は、必要とする対象の膵臓病または膵臓障害を診断する方法であって、前記対象の生体試料中のレナラーゼ濃度を求める工程、前記対象の生体試料中のレナラーゼ濃度を比較対照と比較する工程、および前記対象の生体試料中のレナラーゼ濃度が比較対照のレナラーゼ濃度よりも低い場合は前記対象が膵臓病または膵臓障害を有すると診断する工程を含む。一態様では、前記方法はまた、膵臓病または膵臓障害を有すると診断された対象に治療を施す工程を含む。いくつかの態様では、前記生体試料のレナラーゼ濃度は、前記生体試料中のレナラーゼmRNAの濃度を測定して決定される。いくつかの態様では、前記生体試料のレナラーゼ濃度は、前記生体試料中のレナラーゼポリペプチドの濃度を測定して決定される。いくつかの態様では、前記生体試料のレナラーゼ濃度は、前記生体試料中のレナラーゼポリペプチドの酵素活性を測定して決定される。様々な態様では、前記比較対照は、陽性対照、陰性対照、歴史的対照、歴史的基準、または生体試料中の基準分子濃度からなる群から選択される少なくとも1つである。様々な態様では、前記膵臓病または膵臓障害は、急性膵臓炎または慢性膵臓炎である。一態様では、前記対象はヒトである。
【0016】
他の態様では、本発明は、レナラーゼ受容体活性の調節剤として試験化合物を同定する方法であって、前記方法は、試験化合物の存在下でレナラーゼ受容体の活性度を求める工程、試験化合物の非存在下でレナラーゼ受容体の活性度を求める工程、前記試験化合物の存在下でのレナラーゼ受容体の活性度を前記試験化合物の非存在下でのレナラーゼ受容体の活性度と比較する工程、および前記試験化合物の存在下でのレナラーゼ受容体の活性度が前記試験化合物の非存在下でのレナラーゼ受容体の活性度と異なる場合に前記試験化合物をレナラーゼ受容体活性の調節剤として同定する工程を含む。いくつかの態様では、前記レナラーゼ受容体の活性度が試験化合物の存在下で増加する場合は、前記試験化合物は活性剤として同定される。いくつかの態様では、前記レナラーゼ受容体の活性度が試験化合物の存在下で低下する場合は、前記試験化合物は阻害剤として同定される。一態様では、前記レナラーゼ受容体の活性度は、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)の信号伝達の量を測定して決定される。一態様では、前記レナラーゼ受容体の活性度はATP分解酵素活性を測定することで求められる。一態様では、前記レナラーゼ受容体はPMCA4bである。様々な態様では、前記試験化合物は、化合物、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、抗体、核酸、アンチセンス核酸、siRNA、miRNA、shRNA、リボザイム、アロステリック調節剤、小分子化合物、またはこれらの組み合わせである。
【0017】
以下に示す本発明の好ましい態様の詳細な記述は、添付の図面と合わせて読むことで理解が深まる。本発明の例示のため、現在好ましい態様が図面に示されている。当然のことだが、本発明は、図面に示された態様の正確な配置および手段に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1図1A~1Cを含み、レナラーゼペプチドがどのように保護効果を発揮するかが示されている。図1Aは、レナラーゼペプチド(配列番号1~7):RP-Scr220(配列番号7):組換えRP-220のアミノ酸配列を示す図である。図1Bは、20μMのシスプラチンに24時間暴露したHK-2細胞の生存率に及ぼすレナラーゼペプチドの効果を示すグラフである。細胞の生存率は、レナラーゼペプチドを用いずにシスプラチンで処理したHK-2細胞と比較した生存率の変化(%)で示されている。細胞の生存率はWST-1法で測定された。RP-A220:変異RP-220、RP-19、およびRP-128:対照ペプチド。上の線にペプチド濃度(μg/ml)が示されている。n=4、*=p<0.05。図1Cは、20μMのシスプラチンに24時間暴露したHK-2細胞の生存率に及ぼす組み換えレナラーゼRP-224、RP-220、およびRP-H220の保護効果を示すグラフである。細胞の生存率は、レナラーゼペプチドを用いずにシスプラチンで処理したHK-2細胞と比較した生存率の変化(%)で示されている。n=4、*=p<0.05。図1Dは、RP-220およびRP-H220の用量反応曲線を示すグラフである。HK-2細胞は20μMのシスプラチンに24時間暴露された。細胞の生存率は、レナラーゼペプチドを用いずにシスプラチンで処理したHK-2細胞と比較した生存率の変化(%)で示されている。n=4、*=p<0.05。
図2図2図2A~2Cを含み、シスプラチンで処理された細胞でRP-220がMAPK活性化パターンをどのように変えるかを示す。図2Aは、シスプラチン(CP)のみ、およびCPとRP-220を用いたMAPKリン酸化反応を示す、代表的な研究例:p-p38、ホスホリル化p38MAPK、およびp-ERK:ホスホリル化ERKゲルの画像である。図2Bは、ERK活性化を定量化したグラフである。信号は、対照を充填したグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に対して正規化された。n=3、*=p<0.05。図2Cは、p38活性化を定量化したグラフであり、信号は、対照を充填したGAPDHに対して正規化された。n=3、*=p<0.05。
図3図3図3A~3Bを含み、p38の阻害がRP-220の保護効果をどの程度抑止するかを示す。図3Aは、p38(SB203580)またはERK(U0126)の阻害が、WST-1法を用いて測定されたHK-2細胞の生存率にどの程度悪影響を及ぼさないかを示している。細胞の生存は、未処理のHK-2細胞と比較した生存率の変化(%)で示されている。n=4、*=p<0.05。図3Bは、p38(10μMのSB203580)の阻害が、24時間20μMのシスプラチン(Cis)に暴露されたHK-2細胞に対するRP-220の保護作用をどの程度抑止するかを示すグラフである。n=4、*=p<0.05。
図4A図4図4A~4Dを含み、レナラーゼ結合タンパク質として細胞膜カルシウムATP分解酵素イソ型PMCA4bの同定を示す。図4Aは、標識されたRP-Scr220または標識されたRP-220のいずれかと共に培養し、ビオチン標識タンパク質をストレプトアビジンカラムを用いて精製し、SDS-PAGEで分離して、ストレプトアビジンHRPを用いたウェスタンブロット法で視覚化されたHK-2細胞を示すゲルの画像である。*はRP-Scr220またはRP-220のいずれかで標識された試料の質量分析により評価された領域であり、#は、細胞膜カルシウムATP分解酵素イソ型PMCA4bを含むRP-220のバンドである。
図4B-D】図4図4A~4Dを含み、レナラーゼ結合タンパク質として細胞膜カルシウムATP分解酵素イソ型PMCA4bの同定を示す。図4Bは、イソ型の特異的モノクローナルを用いたウェスタン免疫ブロットにおけるHK-2細胞でのPMCA4bの内因性発現を示すゲルの画像である。CCL-119はヒトの白血病細胞株であり、甲状腺腫瘍はヒトの甲状腺腫瘍細胞株(ATCC,CRL-1803)であり、10μgのタンパク質が各レーンに充填された。図4Cは、HK-2細胞におけるPMCA4bとレナラーゼの共免疫学的局在決定の画像である。画像はツァイスレーザー走査共焦点顕微鏡を用いて得られた。スケールバー=9μm;矢印=細胞膜。図4Dは、HK-2細胞溶菌液からのPMCA4bとレナラーゼの共免疫沈殿を示すゲルの画像である。レナラーゼ-Ab-ビーズはビーズで被覆されたレナラーゼ抗体であり、PMCA4b-Ab-ビーズはビーズで被覆されたPMCA4b抗体である。
図5A-B】図5図5A~5Eを含み、PMCA4b阻害がレナラーゼペプチドが媒介するMAPK信号伝達と細胞保護作用をどの程度抑止するかを示している。図5Aは、PMCA4b阻害が、HK-2細胞でRP-220が媒介するERKおよびp38信号伝達をどの程度抑止するかを示す一連のパネルである。カロキシン1b=PMCA4のペプチド阻害剤。左パネル:RP-220が媒介するERKおよびp38活性化(phospho=ホスホリル化された各ブロット)。真ん中のパネル:カロキシン1b(100μM)によるRP-220が媒介するERKおよびp38活性化の阻害。右パネル:ホスホリル化p38(P-p38)およびホスホリル化ERK(p-ERK)の定量。信号は対照に充填したグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に対して正規化された。n=3、*=p<0.05。図5Bは、PMCA4b発現のsiRNA媒介阻害がRP-220が媒介するMAPK信号伝達をどの程度下方制御するかを示す一連のパネルである。左パネル:非対象siRNAを導入したHK-2細胞でのRP-220が媒介するERKおよびp38活性化(p=ホスホリル化された各免疫ブロット)。真ん中のパネル:PMCA4bのsiRNAを導入したHK-2細胞でのRP-220が媒介するERKおよびp38活性化の阻害(各ブロット)。右パネル:ホスホリル化ERK(p-ERK)の定量。信号は対照に充填したグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に対して正規化された。n=3、*=p<0.05。
図5C-E】図5図5A~5Eを含み、PMCA4b阻害がレナラーゼペプチドが媒介するMAPK信号伝達と細胞保護作用をどの程度抑止するかを示している。図5Cは、上皮成長因子(EGF)媒介MAPK信号伝達に及ぼすPMCA4b発現のsiRNA媒介阻害の効果がないことを示す一連のパネルである。左パネル:非対象siRNAを導入したHK-2細胞でのEGF(100ng/ml)媒介ERK、p38活性化、およびc-Jun N-末端キナーゼ(JNK)(p=ホスホリル化された各ブロット)。右パネル:PMCA4bのsiRNAの導入で影響を受けなかったHK-2細胞でのEGF媒介ERK、p38およびJNK活性化と、PMCA4b発現の下方制御(各ブロット(n=3))。図5Dは、PMCA4b発現の阻害が、シスプラチンに暴露されたHK-2細胞に対するレナラーゼペプチドの保護効果をどの程度抑止するかを示すグラフである。20μMのシスプラチンに24時間暴露されたHK-2細胞。細胞の生存率は、レナラーゼペプチドを用いずにシスプラチンで処理したHK-2細胞と比較した生存率の変化(%)として示されている。細胞の生存率はWST-1法(ペプチド濃度:15μg/ml)で測定されて、上の線に示されている。n=4、*=p<0.05。図5Eは、WTマウスおよびレナラーゼKOマウスにおけるPMCA4bの内因性発現を示すゲルの画像である。抗レナラーゼモノクローナル抗体を用いたウェスタン免疫ブロット。各レーンに10μgのタンパク質が充填された。
図6図6は、図6A~6Dを含み、細胞膜カルシウムATP分解酵素が分泌性タンパク質レナラーゼの受容体であり、レナラーゼの細胞保護効果を媒介していると思われることを示す実験結果を示す。(図6A)標識化RP-Scr220またはRP-220のいずれかと共に培養し、ビオチン標識化タンパク質をストレプトアビジンカラムを用いて精製し、SDS-PAGEで分離して、ストレプトアビジンHRPを用いたウェスタンブロットにより視覚化されたHK-2細胞。*はRP-Scr220またはRP-220のいずれかで標識化された試料の質量分析により評価された領域であり、#は、細胞膜カルシウムATP分解酵素イソ型PMCA4bを含むRP-220のバンドである。(図6B)HK-2細胞におけるPMCA4bとレナラーゼの共免疫学的局在決定。画像はツァイスレーザー走査共焦点顕微鏡を用いて得られた。矢印は細胞膜を示す。(図6C)HK-2細胞溶菌液からのPMCA4bとレナラーゼの共免疫沈殿。レナラーゼ-Ab-ビーズはビーズで被覆されたレナラーゼ抗体であり、PMCA4b-Ab-ビーズはビーズで被覆されたPMCA4b抗体である。(図6D)PMCA4b発現の阻害が、シスプラチンに暴露されたHK-2細胞に対するレナラーゼペプチドの保護効果を抑止する。20μMのシスプラチンに24時間暴露されたHK-2細胞。細胞の生存率は、レナラーゼペプチドを用いずにシスプラチンで処理したHK-2細胞と比較した生存率の変化(%)として示されている。細胞の生存率はWST-1法(ペプチド濃度:15μg/ml(上の線に示されている))で測定された。n=4、*=p<0.05。
図7図7図7A~7Cを含み、レナラーゼがマウスの腺房細胞に存在し、その濃度が実験の急性膵臓炎を誘発させた後に血清中で低下することを示す実験結果を示す。図7Aおよび7Bは、レナラーゼが膵臓腺房細胞で発現しているが、その濃度は腎臓よりも低いことを示す。レナラーゼは血清に存在している(図7C)ので、レナラーゼが自己分泌経路/傍分泌経路を介して、またホルモンとして腺房細胞に影響を及ぼした可能性がある。血清レナラーゼの濃度は、セルレイン誘発膵臓炎を発症させた後のマウスで時間に依存して低下し、セルレイン誘発膵臓炎の7時間後に約70%まで低下している(図7C)。この発見は、いくつかの重要なこと、すなわちi)血清レナラーゼの保護効果は急性膵臓炎の発症時には失われる可能性があること、およびii)レナラーゼが病気の生体指標として有益であることを含む。
図8図8図8A~8Cを含み、レナラーゼ欠失により生体内でセルレイン誘発膵臓炎が悪化することを示す実験結果を示す。野生型(WT)マウスまたはレナラーゼ欠失ノックアウト(KO)マウスをセルレイン(CER、40mcg/kg)の6時間腹腔内注射により処理した。(図8A)蛍光発生基質を用いて測定され、総タンパク質量に対して正規化された膵臓トリプシンの活性化。(図8B)測定された浮腫(湿重量%)。膵臓のヘマトキシリン・エオシン染色(HE)切片(図8C)は、WTと比較してより多くの浮腫と空胞変性を示している。*p<0.05(対WT-CER)、+/-SEM、n=5。
図9図9は、図9A~9Eを含み、組み換え外来性レナラーゼが、マウスの酵素前駆体の活性化と生体外損傷を下げることを示す実験結果を示す。(図9A)WTマウスから単離した腺房を組み換えレナラーゼ(25μg/mL;0.1μM)で30分間予備処理して、次いで生理的(0.1nM)および超生理的(100nM)セルレイン(図9A、9D、9E)または生理的(1μM)または超生理的 (1000μM)カルバコール(図9B)のいずれかで30分間処理した。トリプシン活性(図9A~9C)、メチルチアゾールテトラゾリウム(MTT)の蓄積(図9D)、およびLDHの放出(図9E)について、蛍光発生基質を用いてアッセイが行われた。図9Cでは、レナラーゼマウスから単離した腺房が組み換えレナラーゼ(25μg/mL)で予備処理されて、セルレイン(0.1nMまたは100nM)で30分間処理された。*p<0.05(対超生理的セルレインまたはカルバコール、#p<0.05(対WT)、n=3、+/-SEM。
図10図10は、図10A~10Gを含み、レナラーゼペプチド(RP-220)による予備処理が生体内でセルレイン誘発膵臓炎を改善することを示す実験結果を示す。WTマウスをセルレイン(CER、40mcg/kg)の6時間腹腔内注射で処理した。第1のセルレイン注射の1時間前に腹腔内レナラーゼペプチドRP-220(レナラーゼ、1.3mg/kg)が与えられた。(図10A)蛍光発生基質を用いて測定されて、総タンパク質に対して正規化された膵臓トリプシン活性化量。(図10B)測定された浮腫(湿重量%)。(図10C)タネル陽性細胞により評価されたアポトーシス。(図10D)好中球(Ly-6B)、および(図10E)マクロファージ(F4/80)が定量化された。膵臓のHE染色切片(図10G)を浮腫、濃縮核、および空砲について評価して、形態に関する成績を得た(図10F)。*p<0.05(対WT-CER)、+/-SEM、n=5。
図11図11は、セルレイン膵臓炎の発症の2時間後にレナラーゼで治療すると損傷が大きく減少することを示す実験結果を示す。セルレイン膵臓炎を誘発させた2時間後にレナラーゼ単回投与量(100μgのペプチド/25gの体重)を腹腔内に投与した。50μg/kgの腹腔内注射を6時間行って、動物を7時間目に犠牲にした。膵臓炎の組織学的重症度が2人の盲検評価者により評価された。この治療法により、各範疇での膵臓炎が減少した。また、レナラーゼで処理したセルレイン(CER)では、CERのみの場合に比べて、総組織値(下のグラフ)が大きく低下した。*p<0.05、ウイルコクソンの順位。各群のマウスはN=4であった。
図12図12は、図12A~12Gを含み、レナラーゼがPCMAを介してCa2+排泄を増やすことを示す実験結果を示す。細胞全体の細胞質Ca2+の変化が、Ca2+染色Fluo-4(HK2細胞)またはFluo-5(腺房細胞)を用いてタイムラプス共焦点顕微鏡により記録された。図12A、12B、12D、および12Eは、それぞれ、HK2細胞(図12Aおよび12B)またはマウス腺房細胞(図12Dおよび12E)における経時蛍光プロットである。細胞は、30μMのシクロピアゾン酸で予備処理して、Ca2+を含まない培地を用いてかん流した。10nMのアンジオテンシンIV(HK2細胞のAng)、または1.3mMのCa2+の存在下で100nMのセルレインを用いて(腺房細胞のCer)細胞を短い間刺激した。次いで、組み換えレナラーゼの存在下または非存在下でCa2+を含まない培地を用いて細胞を再度かん流し、Ca2+排泄が観察された(ボックス)。HK2細胞のどの緩衝液もNaを含んでいなかった。図12Cおよび12Fでは、30細胞/治療群からCa2+排泄率が定量化された。*p<0.05(対レナラーゼなし)。中央値+/-SEM。
図13図13図13A~13Cを含み、カロキシンがレナラーゼの保護効果を阻害することを示す実験結果を示す。単離されたWTマウスの腺房をカロキシン1b(100μM)および/または組み換えレナラーゼ(25μg/mL)で30分間予備処理して、超生理的(100nM)セルレイン(CER)で処理し、トリプシン活性(図13A)またはMTT変換(図13B)についてアッセイを行った。*p<0.05(対CER)、#p<0.05(対CER+レナラーゼ)。WT、n=3、+/-SEM。HE染色切片(図13C)は、カロキシンが、浮腫に及ぼすレナラーゼの保護効果と空砲の形成(矢印)を反転させることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
本発明は、レナラーゼ受容体の調節剤PMCA4bが様々な病気や障害の治療または予防に有用であるという発見に関する。一態様では、前記PMCA4bはPMCA4b活性剤である。よって、本発明は、PMCA4b活性剤を含む組成物と、腎臓病または腎臓障害および膵臓病または膵臓障害を治療および予防する方法に関する。いくつかの態様では、前記組成物および本発明の方法を用いて治療または予防される腎臓病または腎臓障害は急性腎損傷(AKI)または慢性腎臓病(CKD)である。いくつかの態様では、前記組成物および本発明の方法を用いて治療または予防される膵臓病または膵臓障害は、急性膵臓炎または慢性膵臓炎である。他の態様では、前記PMCA4bはPMCA4b阻害剤である。したがって、本発明はまた、PMCA4b阻害剤を含む組成物と、癌を治療および予防する方法に関する。
【0020】
本発明はまた、レナラーゼ、およびその断片が膵臓炎等の病気または障害の治療または予防に有用であるという発見に関する。よって、本発明は、レナラーゼまたはその断片を含む組成物と、膵臓病または膵臓障害を含む病気および障害を治療および予防する方法に関する。
【0021】
前記組成物および本発明の方法は組み換えレナラーゼまたはその断片を含む。一態様では、本発明のレナラーゼは、配列番号8のアミノ酸配列を含むポリペプチドである。他の態様では、本発明のレナラーゼは、配列番号9のアミノ酸配列を含むポリペプチドである。いくつかの態様では、本発明のレナラーゼは、配列番号8のアミノ酸配列または配列番号9の少なくとも一部を含むレナラーゼ断片である。いくつかの態様では、前記レナラーゼ断片は、AKI保護活性を保持するが検出可能なニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)オキシダーゼ活性を示さないペプチドである。いくつかの態様では、前記レナラーゼ断片は、保護活性を保持するが検出可能なアミンオキシダーゼ活性を示さないペプチドである。特定の一態様では、前記レナラーゼ断片は、配列番号3のアミノ酸配列を含むペプチドである。他の特定の態様では、前記レナラーゼ断片は配列番号4のアミノ酸配列を含むペプチドである。他の特定の態様では、前記レナラーゼ断片は配列番号5のアミノ酸配列を含むペプチドである。
【0022】
一態様では、本発明は、対象の生体試料中のレナラーゼ濃度をアッセイして前記対象の膵臓炎等の膵臓病または膵臓障害を診断する方法である。一態様では、対照と比較したレナラーゼ濃度の変化(すなわち増減)は、膵臓炎等の膵臓病または膵臓障害を診断し、膵臓病または膵臓障害の治療の有効性を監視するマーカーである。
定義
【0023】
特に断りがない限り、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が関連する当該分野の一般の当業者が共通して理解するのと同じ意味を有する。本明細書に記載する方法および材料に類似のまたは等価なもののいずれも本発明の試験に用いることができる。好ましい材料および方法は本明細書に記載される。本発明の記述および権利の請求において、以下の用語が用いられる。
【0024】
当然ではあるが、本明細書で用いられる用語は特定の態様を記述するためだけに用いられるもので、限定を意図するものではない。
【0025】
本明細書では冠詞「a」および「an」は、冠詞の文法上の目的語の1つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すのに用いられる。例えば、「an element」は1つ以上の元素を意味する。
【0026】
測定値(例えば、量、継続時間等)を指すのに本明細書で用いられる「約」は、特定の値から±40%、±20%、±10%、±5%、±1%、または±0.1%の非限定的な変動値を包含することを意味する。というのは、このような変動値は適切であるからである。
【0027】
用語「異常」は、有機体、組織、細胞、またはそれらの成分の文脈で用いられる場合、「正常な」(期待される)特性を示す有機体、組織、細胞、またはそれらの成分とは異なる、少なくとも1つの観察可能または検出可能な対応する特性(例えば、年齢、治療法、1日の時間等)を有する有機体、組織、細胞、またはそれらの成分を指す。ある種の細胞または組織で正常な、すなわち期待される特性は、別の種類の細胞または組織では異常であるかも知れない。
【0028】
本明細書を通して、病気を「軽減する」または「治療する」は、病気または障害の少なくとも1つの兆候または症状の頻度あるいは重症度を下げることを意味する。
【0029】
本明細書を通して、用語「変化」、「欠陥」、「多様性」、または「変異」は、ある細胞中のある遺伝子がコードするポリペプチドの機能、活性、発現(転写または翻訳)、あるいは形態に影響を及ぼす遺伝子の変異を指す。本発明が包含する変異は、コードされたポリペプチドの機能、活性、発現、または形態の増加または破壊(コードされたタンパク質の発現が全くないことを含む)につながる細胞中の遺伝子の任意の変異であってもよい。その例としては、ミスセンス変異およびノンセンス変異、挿入、欠失、読み枠シフト、および中途終止が挙げられる。限定するものではないが、本発明が包含する変異は、mRNAスプライシングを変化させる(スプライス部位変異)、あるいは読み枠をずらす(読み枠シフト)ものであってもよい。
【0030】
本明細書で用いる用語「投与器」は、対象に本発明の組成物を投与するための任意の装置を意味し、皮下注射器、ピペット、イオン導入器、パッチ等を含むが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書を通して、用語「マーカー」または「生体指標」は、本発明により病気または障害(例えば、AKI、膵臓炎等)の存在および/または重症度を決定するのに有益なパラメータを含むことを意味する。
【0032】
患者由来の試料中のマーカーが、マーカーの評価に用いられるアッセイの標準誤差を超えた量で基準対象に由来する試料中の量と異なる場合、マーカーまたは生体指標の量は、基準試料中のマーカーまたは生体指標の量と「大きく」異なる。この量は、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは25%、50%、75%、または100%である。
【0033】
本明細書で用いる「癌」は、細胞の異常成長または異常分裂を指す。一般に、癌細胞の成長および/または寿命は、周囲の正常細胞および正常組織の成長および/または寿命より長く、これら正常細胞および正常組織の成長および/または寿命と協調するものではない。癌は、良性、前悪性、または悪性であってもよい。癌は異なる細胞および組織に発生する。その例としては口腔(例えば、口、舌、咽頭等)、消化系(例えば、食道、胃、小腸、大腸、直腸、肝臓、胆管、胆嚢、膵臓等)、呼吸系(例えば、喉頭、肺、気管支等)、骨、関節、皮膚(例えば、基底細胞、扁平上皮細胞、髄膜腫等)、胸部、生殖系,(例えば、子宮、卵巣、前立腺、睾丸等)、泌尿系(例えば、膀胱、腎臓、尿管等)、目、神経系(例えば、脳等)、内分泌腺系(例えば、甲状腺等)、および造血系(例えば、リンパ腫、骨髄腫、白血病、急性リンパ球白血病、慢性リンパ球白血病、急性骨髄白血病、慢性骨髄白血病等)等が挙げられる。
【0034】
本明細書で用いられる用語「コード配列」は、転写および/または翻訳されてmRNAおよび/またはそのポリペプチドまたはその断片を産生することができる核酸、その補体、またはその一部の配列を意味する。コード配列は、ゲノムDNAまたは未成熟な一次RNA転写物中のエクソンを含む。未成熟な一次RNA転写物は、細胞の生化学的機構により互いに結合して成熟したmRNAとなる。アンチセンス鎖は、このような核酸の補体であり、コード配列はこの補体から推定することができる。これに対して、本明細書で用いられる用語「非コード配列」は、生体内でアミノ酸に翻訳されない、あるいはtRNAがアミノ酸を並べる、あるいは生成を並べようと相互作用しない核酸、その補体、またはその一部の配列を意味する。非コード配列は、ゲノムDNAまたは未成熟な一次RNA転写物中のイントロン配列と、遺伝子に関連づけられた配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー等)の両方を含む。
【0035】
本明細書を通して、用語「相補的」または「相補性」は、塩基対形成規則に関するポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチド配列)に言及するのに用いられる。例えば、配列「A-G-T」は「T-C-A」に対して相補的な配列である。相補性は、「部分的」であってもよい。この場合は核酸の塩基のいくつかのみが塩基対形成規則に一致している。あるいは、核酸間に「完全な」すなわち「総」相補性があってもよい。核酸鎖間の相補性の度合いは、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率および強度に大きな効果を及ぼす。これは、増幅反応、および核酸間の結合に依存する検出方法において特に重要である。
【0036】
「病気」は、ある動物がホメオスタシスを維持できず、病気が改善されなければ、その動物の健康が悪化し続ける健康状態のことである。これに対して、ある動物の「障害」は、ホメオスタシスを維持することは可能だが、その動物の健康状態が障害の非存在下で想定される健康状態と比べて好ましくない健康状態である。治療せずに放置しても、障害は必ずしも動物の健康状態をさらに悪化させるとは限らない。
【0037】
本明細書で用いられる「有効量」は、治療的恩恵あるいは予防的恩恵が得られる量を意味する。
【0038】
「コード(する)」は、生物学的過程において規定されたヌクレオチド配列(すなわち、rRNA、tRNA、およびmRNA)または規定されたアミノ酸配列のいずれかとそこから得られる生物学的特性を有する他の重合体および巨大分子の合成のための鋳型として働くポリヌクレオチド(例えば、遺伝子、cDNA、またはmRNA等)中のヌクレオチドの特定の配列の固有な特性を指す。よって、ある遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が細胞または他の生物系でタンパク質を産生する場合、遺伝子はそのタンパク質をコードする。コード鎖、すなわちmRNA配列と同一で通常配列リストで提供されるヌクレオチド配列と、非コード鎖は、いずれも遺伝子またはcDNAの転写の鋳型として用いられるが、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の生成物をコードするものとして言及される場合がある。
【0039】
本明細書を通して、核酸に用いられる用語「断片」は、より大きい核酸の部分配列を指す。核酸の「断片」は長さが少なくとも約15個のヌクレオチドであってもよい。核酸の「断片」は長さが、例えば、少なくとも約50~約100個のヌクレオチド、少なくとも約100~約500個のヌクレオチド、少なくとも約500~約1000個のヌクレオチド、少なくとも約1000~約1500個のヌクレオチド、約1500個~ 約2500個のヌクレオチド、または約2500個のヌクレオチド(およびこれらの間の任意の整数値)である。本明細書を通して、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに用いられる用語「断片」は、より大きいタンパク質またはペプチドの部分配列を指す。タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドの「断片」は、長さが少なくとも約5個のアミノ酸であってもよい。これらの「断片」は、長さが例えば、少なくとも約10個のアミノ酸、少なくとも約20個のアミノ酸、少なくとも約50個のアミノ酸、少なくとも約100個のアミノ酸、少なくとも約200個のアミノ酸、または少なくとも約300個のアミノ酸(およびこれらの間の任意の整数値)である。
【0040】
用語「遺伝子」は、ポリペプチド、前駆体、またはRNA(例えば、mRNA)の生成に必要なコード配列を含む核酸(例えば、DNA)配列を指す。ポリペプチドは、完全な長さのコード配列またはそのコード配列の任意の部分の所望の活性または機能的特徴(例えば、酵素活性、配位子結合、信号伝達、免疫原性等)が保持される限り、完全な長さのコード配列またはその断片でコードされてもよい。この用語はまた、遺伝子が完全な長さのmRNAと、遺伝子の転写特性に影響を及ぼす5’末端制御配列に対応するように、構造的な遺伝子のコード領域と、5’末端および3’末端の両方にあるこのコード領域に隣接する、それぞれ約2kb以上の長さの配列を包含する。コード領域の5’末端に位置する配列およびmRNAに存在する配列は、5’末端非翻訳配列と言う。5’末端非翻訳配列は、通常制御配列を含む。コード領域の3’末端またはその下流に位置する配列およびmRNAに存在する配列は、3’末端非翻訳配列と言う。用語「遺伝子」は、cDNAと遺伝子のゲノム形態の両方を包含する。遺伝子のゲノム形態すなわちクローンは、「イントロン」、「介在領域」あるいは、「介在配列」を言う非コード配列で分断されたコード領域を含む。イントロンは、核内RNA(hnRNA)に転写される遺伝子の分節である。イントロンは、エンハンサー等の調節要素を含んでいてもよい。イントロンは、核転写物または一次転写物から除去、すなわち「スプライシング」される。したがって、イントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)転写物には存在しない。翻訳時にmRNAは、新生ポリペプチドのアミノ酸の配列すなわち順序を規定する機能を有する。
【0041】
「相同」は、2個のポリペプチド、あるいは2個の核酸分子の配列の類似性または同一性を指す。2つの比較される配列の両方にある位置が同じ塩基またはアミノ酸単量体部分単位によって占められている場合、例えば、2個のDNA分子のそれぞれにある位置がアデニンによって占められている場合、これらの分子はその位置について相同である。2つの配列の相同性のパーセントは、2つの配列が共有する、一致している位置すなわち相同である位置の数を比較対象の位置の数で除して100を乗ずる関数である。例えば、2つの配列の10個の位置のうち、6個が一致すなわち相同である場合、この2つの配列は60%相同である。例えば、DNA配列ATTGCCおよびTATGGCは50%の相同性を共有している。一般に、2つの配列を並べて相同性が最大になるようにして比較する。
【0042】
本明細書で用いる用語「指示資料」は、本明細書で引用される様々な病気または障害を同定、軽減、または治療するキットの核酸、ペプチド、ポリペプチド、および/または本発明の化合物の有用性を伝達するのに用いることができる出版物、記録物、図、または任意のその他の表現媒体を含む。今述べたものに加えて、あるいはそれに代えて、この指示資料は、対象の細胞または組織の疾患または障害を同定あるいは軽減する1つ以上の方法を記載してもよい。例えば、前記キットの指示資料は、核酸、ポリペプチド、および/または本発明の化合物を含む容器に貼り付けられていてもよく、あるいは核酸、ポリペプチド、および/または化合物を含む容器と一緒に出荷されてもよい。あるいは、この指示資料は、受領者が指示資料と化合物を協調して用いる意図で容器と別に出荷されてもよい。
【0043】
「単離された」は、天然の状態から変化させた、あるいは取り出したことを意味する。例えば、生きている動物に天然に存在する核酸またはポリペプチドは「単離」されていないが、その天然の状態の共存する材料から部分的あるいは全体を分離した同じ核酸またはポリペプチドは「単離されている」。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形で存在してもよく、あるいは本来存在しない環境(例えば、宿主細胞等)に存在していてもよい。
【0044】
「単離された核酸」は、天然の状態で隣接する配列から分離された核酸分節または断片を指す。例えば、通常では隣接している配列(例えば、天然のゲノム中の断片に隣接する配列)から取り出されたDNA断片である。この用語はまた、核酸に天然に伴う他の成分(例えば、細胞中の核酸に天然に伴うRNA、DNA、またはタンパク質等)から実質的に精製された核酸にも用いられる。したがって、この用語は、ベクターに組み込まれた組み換えDNA、自己複製プラスミドまたはウイルスに組み込まれた組み換えDNA、原核生物または真核生物のゲノムDNAに組み込まれた組み換えDNA、または他の配列とは独立した分離分子(例えば、cDNA、ゲノム、あるいはPCRまたは制限酵素消化によって作成したcDNA断片)として存在する組み換えDNAを含む。また、付加のポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組み換えDNAをも含む。
【0045】
本明細書で用いられる用語「標識」は、プローブに直接または間接に結合されて、「標識された」プローブを生成する、検出可能な化合物または組成物を指す。標識はそれ自体が検出可能であってもよく(例えば、放射性同位体標識または蛍光標識等)、あるいは酵素標識の場合では、検出可能な基質化合物または組成物の化学変化に触媒として機能するものであってもよい(例えば、アビジン-ビオチン等)。いくつかの例では、プライマーを標識してPCR生成物を検出してもよい。
【0046】
本明細書で用いられる用語「調節」は、治療または化合物の非存在下での対象中のmRNA、ポリペプチド、または応答の活性および/または濃度、および/または治療されていないことを除いて同一の対象中のmRNA、ポリペプチド、または応答と比較して、対象中のmRNA、ポリペプチド、または応答の活性および/または濃度について検出可能な増減を媒介することを意味する。この用語は、元の信号または応答を活性化する、阻害する、かつ/またはそうでなければこれらに影響を及ぼして、対象、好ましくはヒトの有効な治療応答を媒介することを包含する。
【0047】
本明細書で用いられる「変異」は、基準配列(好ましくは天然の正常な配列または「野生型」配列)に対する核酸配列またはポリペプチド配列の変化を指し、転座、欠失、挿入、および置換/点変異等が挙げられる。本明細書で用いられる「変異体」は、変異を含む核酸またはタンパク質のいずれかを指す。
【0048】
「核酸」は、ポリヌクレオチドを指し、ポリリボヌクレオチドおよびポリデオキシリボヌクレオチドを含む。本発明による核酸は、それぞれ、ピリミジン塩基およびプリン塩基、好ましくはシトシン、チミン、ウラシル、アデニン、およびグアニンの任意の重合体またはオリゴマーを含んでいてもよい(Albert L. Lehninger, Principles of Biochemistry, at 793-800 (Worth Pub. 1982)を参照のこと。その全内容はすべての目的のため、参照により本明細書に組み込まれる)。実際、本発明は、任意のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、またはペプチド核酸成分、およびそれらの任意の化学変異体(例えば、これら塩基のメチル化形態、ヒドロキシメチル化形態、またはグルコシル化形態等)を企図する。上記重合体またはオリゴマーは、組成が不均質または均質であってもよく、天然源から単離されてもよく、あるいは人工的すなわち合成により調製されてもよい。また、上記核酸は、DNA、RNA、またはこれらの混合物であってもよく、一本鎖形態または二本鎖形態(ホモ二本鎖、ヘテロ二本鎖、および複合状態を含む)で持続的あるいは遷移的に存在してもよい。
【0049】
「オリゴヌクレオチド」または「ポリヌクレオチド」は、長さが少なくとも2個、好ましくは少なくとも8個、15個、または25個ヌクレオチドの範囲の核酸であるが、ポリヌクレオチドに特異的にハイブダイズされる50個、100個、1000個、または5000個以下のヌクレオチドまたは化合物であってもよい。ポリヌクレオチドは、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、またはこれらの模倣物の配列を含む。デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、またはこれらの模倣物は天然源から単離されたものでもよく、あるいは組み換えまたは人工的に合成されたものであってもよい。本発明のポリヌクレオチドの例はさらにペプチド核酸(PNA)であてもよい(米国特許第6,156,501号を参照のこと。その全内容が参照により本明細書に組み込まれる)。本発明はまた、非伝統的な塩基対、例えば特定のtRNA分子で同定され、三重らせんで存在すると考えられているフーグスティーン塩基対等が存在する状況を包含する。用語「ポリヌクレオチド」と「オリゴヌクレオチド」は本開示ではお互いに言い換え可能である。当然ではあるが、本明細書ではヌクレオチド配列がDNA配列(例えば、A、T、G、およびC)で示される場合、対応するRNA配列(例えば、A、U、G、C)を含む。RNA配列では「U」が「T」に置き換わっている。
【0050】
用語「患者」、「対象」、「個体」は、本明細書では互いに言い換えて用いてもよく、本明細書に記載した方法に従う生体外すなわちその場にある任意の動物あるいは細胞を指す。特定の非限定的態様では、患者、対象、または個体はヒトである。
【0051】
本明細書を通して、用語「ポリメラーゼ連鎖反応」(「PCR」)は、クローニングまたは精製することなく、ゲノムDNAの混合物中の対象配列の分節濃度を上げるK. B. Mullisの方法を指す(米国特許第4,683,195号、4,683,202号、および4,965,188号、参照により本明細書に組み込まれる)。対象配列を増幅するこの方法は、所望の対象配列を含むDNA混合物に過剰濃度の2本のオリゴヌクレオチドプライマーを導入して、DNAポリメラーゼの存在下での加熱サイクリングで精密な配列決定を行うことからなる。2本のプライマーは、二重鎖の対象配列の対応する鎖と相補である。増幅効果を高めるため、DNA混合物を変性して、プライマーをそれぞれ、対象分子内の相補配列にアニールする。アニールした後、新しい対の相補鎖が形成されるようにプライマーをポリメラーゼで伸長する。これら変性、プライマーのアニール、およびポリメラーゼ伸長の工程を多数回繰り返して(すなわち、変性、アニール、および伸長が1「サイクル」を構成しており、多数の「サイクル」である可能性がある)所望の対象配列の増幅された分節を高濃度で得ることができる。所望の対象配列の増幅された分節の長さは、プライマーの互いの相対位置により決定される。したがって、この長さは制御可能なパラメータである。この過程の繰り返しという側面から、この方法は「ポリメラーゼ連鎖反応」(以後、「PCR」と言う)。対象配列の所望の増幅された分節が混合物中で(濃度において)優勢な配列になるので、「PCR増幅された」と言う。本明細書を通して、用語「PCR生成物」、「PCR断片」、「増幅物」、または「増幅産物」は、変性、アニール、および伸長のPCR工程を2サイクル以上が終了した後に得られた化合物の混合物を指す。これらの用語は、1つ以上の対象配列の1つ以上の分節の増幅が行われた場合を包含する。
【0052】
本明細書を通して、用語「プローブ」は、精製制限消化物に天然に発生する、あるいは合成、組み換え、またはPCR増幅により作成された他の目的オリゴヌクレオチドにハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチド配列)を指す。プローブは一本鎖または二本鎖であってもよい。プローブは、特定の遺伝子配列の検出、同定、および単離に有用である。
【0053】
本明細書においては、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」は相互に言い換えて用いられ、ペプチド結合により共有結合したアミノ酸残基からなる化合物を指す。タンパク質すなわちペプチドは少なくとも2個のアミノ酸を含んでいなければならないが、タンパク質配列すなわちペプチド配列を構成することができるアミノ酸の最大数は限定されない。ポリペプチドはペプチド結合により互いに結合した2個以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を含む。本明細書においては、この用語は、例えば当該分野でペプチド、オリゴペプチド、およびオリゴマーと言われる短鎖と、例えば多くの種類があり一般に当該分野でタンパク質と言われる長鎖の両方を指す。「ポリペプチド」としては例えば、生物学的活性断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二濃度体、ヘテロ二濃度体、ポリペプチドの変異体、変性ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質等が挙げられる。ポリペプチドは、天然ペプチド、組み換えペプチド、合成ペプチド、またはこれらの組み合わせを含む。
【0054】
本明細書を通して、「ポリヌクレオチド」は、cDNA、RNA、DNA/RNAハイブリッド、アンチセンスRNA、リボザイム、ゲノムDNA、合成形態、混合重合体、センス鎖およびアンチセンス鎖を含み、化学的または生化学的に変性されて、非天然すなわち誘導体化ヌクレオチド塩基、合成ヌクレオチド塩基、または半合成ヌクレオチド塩基を含んでいてもよい。また、野生型の変化や合成遺伝子が企図される。その例としては、1つ以上のヌクレオチドの欠失、挿入、置換、あるいは他のポリヌクレオチド配列との融合が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書で用いられる用語として、病気または障害を「予防」するとは、対象が経験する病気または障害の少なくとも1つの兆候あるいは症状の重症度または頻度を下げることを意味する。
【0056】
本明細書で用いられる「試料」または「生体試料」は、対象から単離された生体材料を意味する。生体試料は、対象のmRNA、ポリペプチド、または生理的または病理学的過程における他のマーカーを検出するのに好適な任意の生体材料を含んでいてもよい。生体試料は、個体から得た流体、組織、細胞材料および/または非細胞材料を含んでいてもよい。
【0057】
本明細書を通して、「実質的に精製」は、本質的に他の成分を含まないことを指す。例えば、実質的に精製されたポリペプチドは、通常、天然の状態で関連づけられている他の成分から分離されたポリペプチドである。
【0058】
本明細書を通して、用語「治療法」または「治療計画」は、障害または病気の状態を防ぐ、軽減する、または変化させるために取られる行為を指し、例えば、薬理、手術、食事による技術および/または他の技術を用いてある病気または障害の少なくとも1つの兆候または症状を低減あるいは除去することを意図した治療過程が挙げられる。治療計画は、1種以上の化合物の規定された投与量または手術を含んでいてもよい。治療は有益で、障害または病気の状態の少なくとも1つの兆候または症状を低減あるいは除去するものであることが多いが、いくつかの例では、治療効果は望ましくない副作用を有する。治療効果はまた、対象の生理状態(例えば、年齢、性別、遺伝的特徴、体重、他の病気の状態等)によって影響される。
【0059】
用語「治療有効量」は、研究者、獣医、医者、またはその他の臨床医が調べている組織、系、または対象の生物学的応答または医学的応答を引き出す対象化合物の量を指す。用語「治療有効量」は、投与した場合、治療中の障害または病気の1つ以上の兆候または症状の発達を防ぐ、あるいはある程度まで軽減するのに十分な化合物の量を含む。この治療有効量は、化合物、病気およびその重症度、および治療される対象の年齢、体重等によって変化する。
【0060】
本明細書で用いられる用語「(病気または障害の)治療」は、対象が経験している病気または障害の少なくとも1つの兆候または症状の頻度または重症度を低減することを意味する。
【0061】
本明細書を通して、用語「野生型」は、天然源から単離された遺伝子または遺伝子産物を指す。野生型遺伝子は、ある集団で最も高い頻度で観察されるもので、よって、その遺伝子の「正常」あるいは「野生型」形態として任意に設計される。これに対して、用語「変性」または「変異体」は、野生型遺伝子または遺伝子産物と比較して、配列の変更および/または機能特性の変更(すなわち、変化した特性)を示す遺伝子または遺伝子産物を指す。なお、天然の変異体を単離して、野生型遺伝子または遺伝子産物と比較して変化した特性(変化した核酸配列を含む)を有しているという事実により同定することができる。
【0062】
本開示、本発明の様々な側面を通じて、(数値)範囲は範囲の形式で示すことができる。当然ではあるが、範囲の形式は単に簡便かつ簡潔に記述するためだけのものであり、本発明の範囲をかたくなに限定するものと解釈されるべきではない。したがって、範囲の記述は、具体的には、その範囲内のすべての起こりうる下位範囲とその範囲内の個別の数値とを開示するものと解釈されるべきである。例えば、1~6という範囲の記述は、具体的には、下位範囲(例えば、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等)とその範囲内の個別の数値(例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6等)開示するものと解釈されるべきである。これは、範囲の幅にかかわらず適用される。
【0063】
本発明は、レナラーゼ受容体PMCA4bの細胞膜カルシウムATP分解酵素としての予期されない同定を含む。本明細書に示されるように、PMCA4bは、HK-2細胞でレナラーゼと共局所化するとともに、これら細胞でPMCA4bの酵素活性の阻害がレナラーゼ媒介マイトジェンによって活性化されるタンパク質キナーゼ(MAPK)信号伝達を防ぐことが分かった。したがって、PMCA4bと組み換えレナラーゼまたはレナラーゼペプチド断片の相互作用は、あるパターンのMAPK信号伝達を開始するために重要であると思われる。この相互作用により、レナラーゼおよびレナラーゼペプチドの観察された細胞保護効果が得られる。よって、本発明は、病気または障害に対するレナラーゼの保護効果は、レナラーゼまたは短いレナラーゼペプチドとレナラーゼ受容体との相互作用によって媒介されるという発見に関する。好ましいレナラーゼ受容体はPMCA4bであるが、本発明は当然、レナラーゼ、レナラーゼ断片、またはこれらの組み合わせに結合する任意の他の受容体を包含すると解釈される。
【0064】
本発明の一側面では、本発明の組成物および方法は、PMCA4b活性剤を含む。本発明の組成物および方法は、PMCA4bの活性度または濃度が高いことが望まれる障害および病気を治療または予防する組成物および方法を含む。様々な態様では、本発明の組成物および方法で治療または予防することができる、PMCA4bの活性度または濃度が高いことが望まれる病気および障害としては、例えば、急性腎損傷(AKI)、慢性腎臓病(CKD)、腎臓虚血性損傷、腎臓再かん流損傷、腎臓虚血性再かん流損傷、毒性腎損傷、尿細管壊死、尿細管炎症、尿細管アポトーシス、高血圧症、膵臓炎、およびこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0065】
本発明の他の側面では、本発明の組成物および方法はPMCA4b阻害剤を含む。本発明の組成物および方法は、PMCA4bの活性または濃度が低いことが望まれる障害および病気を治療または予防する組成物および方法を含む。様々な態様では、本発明の組成物および方法で治療または予防することができる、PMCA4bの活性または濃度が低いことが望まれる病気および障害としては、例えば癌が挙げられる。一態様では、前記癌は、脳癌、膀胱癌、乳癌、頸部癌、結腸直腸癌、肝臓癌、腎臓癌、リンパ腫、白血病、肺癌、黒色腫、転移性黒色腫、中皮腫、神経芽細胞腫、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、皮膚癌、胸腺腫、肉腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、子宮癌、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0066】
他の態様では、本発明は、レナラーゼ受容体の調節剤、例えばPMCA4b等を同定する方法である。
【0067】
いくつかの態様では、膵臓炎等の膵臓病または膵臓障害の治療または予防に用いる本発明の組成物および方法はレナラーゼまたはその断片を含む。いくつかの態様では、本発明のレナラーゼは、配列番号8または配列番号9のアミノ酸配列を含むポリペプチドである。いくつかの態様では、本発明のレナラーゼは、配列番号8または配列番号9のアミノ酸配列の少なくとも一部を含むレナラーゼ断片である。いくつかの態様では、前記レナラーゼ断片は、保護活性を保持するが検出可能なNADHオキシダーゼ活性を示さないペプチドである。いくつかの態様では、前記レナラーゼ断片は保護活性を保持するが検出可能なアミンオキシダーゼ活性を示さないペプチドである。特定の一態様では、前記レナラーゼ断片は配列番号3のアミノ酸配列を含むペプチドである。他の特定の態様では、前記レナラーゼ断片は配列番号4のアミノ酸配列を含むペプチドである。他の特定の態様では、前記レナラーゼ断片は配列番号5のアミノ酸配列を含むペプチドである。他の特定の態様では、前記レナラーゼ断片は配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドである。他の特定の態様では、前記レナラーゼ断片は配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドである。他の特定の態様では、前記レナラーゼ断片は配列番号5のアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0068】
本発明の組成物および方法は、組み換えレナラーゼまたはその断片を含む。本発明の組成物および方法は、レナラーゼの活性度あるいは濃度が高いことが望まれる障害および病気を治療または予防する組成物および方法を含む。様々な態様では、本発明の組成物および方法で治療または予防される、レナラーゼの活性度あるいは濃度が高いことが望まれる障害および病気としては、例えば急性膵臓炎、慢性膵臓炎等が挙げられる。
【0069】
他の態様では、本発明は、対象の生体試料中のレナラーゼ濃度を評価して前記対象の膵臓病または膵臓障害を診断する方法である。一態様では、対照と比較したレナラーゼ濃度の変化(すなわち、増減)は、膵臓病または膵臓障害(例えば、膵臓炎等)の診断および膵臓病または膵臓障害(例えば、膵臓炎等)の治療の有効性を監視するマーカーである。
PMCA4b活性剤組成物並びに治療および予防方法
【0070】
様々な態様では、本発明は、PMCA4b活性剤組成物と、それを必要とする対象、前記対象の組織、または臓器でPMCA4bの濃度または活性度を上げる方法を含む。様々な態様では、前記PMCA4b活性剤組成物および本発明の治療方法は、PMCA4bポリペプチド量、PMCA4bのmRNAの量、PMCA4b酵素活性量、PMCA4b基質結合活性量、またはこれらの組み合わせを増やす。一態様では、前記PMCA4b活性剤組成物は、PMCA4b活性剤を含む。様々な態様では、PMCA4bの活性化が治療結果を向上させる可能性がある病気および障害としては、AKI、慢性腎臓病(CKD)、心筋壊死、心不全、鬱血性心不全、心臓虚血性損傷、心臓再かん流損傷、心臓虚血性再かん流損傷、毒性心損傷、腎臓虚血性損傷、腎臓再かん流損傷、腎臓虚血性再かん流損傷、毒性腎損傷、尿細管壊死、尿細管炎症、尿細管アポトーシス、虚血性脳損傷、再かん流脳損傷、虚血性再かん流脳損傷、毒性脳損傷、虚血性肝臓損傷、再かん流肝臓損傷、虚血性再かん流肝臓損傷、毒性肝臓損傷、膵臓炎、急性膵臓炎、慢性膵臓炎、移植用に摘出された臓器の保存、褐色細胞腫、および高血圧症が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様では、本発明の組成物および方法は、血圧の調整または維持に有用である。いくつかの態様では、本発明の組成物および方法は、交感神経系疾患および障害(例えば、これらに限定されないが、不安、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、および多動性障害(ADHD)等)を治療または予防するのに有用である。
【0071】
一側面では、本発明の方法は、必要とする対象の病気または障害を治療または予防するする方法を含む。一態様では、前記方法は、少なくとも1種のPMCA4b活性剤を含む組成物の治療有効量を前記対象に投与することを含む。一態様では、前記病気または障害は、急性腎損傷(AKI)、慢性腎臓病(CKD)、腎臓虚血性損傷、腎臓再かん流損傷、腎臓虚血性再かん流損傷、毒性腎損傷、尿細管壊死、尿細管炎症、尿細管アポトーシス、高血圧症、膵臓炎、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0072】
当業者には当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、PMCA4b濃度の増加は、PMCA4b発現(転写、翻訳、または両方を含む)の増加を包含する。また本発明の教示を理解した当業者には当然のことであるが、PMCA4b濃度の増加は、PMCA4b活性(例えば、酵素活性、基質結合活性等)の増加を含む。よって、PMCA4bの濃度または活性度を増やすことは、PMCA4bポリペプチドの濃度を上げること、PMCA4bをコードする核酸の転写、翻訳、または両方を増やすこと、およびPMCA4bポリペプチドの任意の活性度を上げることを含むが、これらに限定されない。本発明のPMCA4b活性剤組成物および方法は、選択的にPMCA4bを活性化させることができる、あるいはPMCA4bと他の分子の両方を活性化させることができる。
【0073】
よって、本発明は、病気または障害あるいはそれに関連づけられた兆候、症状、または病状の治療または予防のために、必要とする対象にPMCA4b活性剤組成物の治療有効量を投与して病気または障害を予防および治療することに関する。
【0074】
当業者にとっては当然のことであるが、PMCA4b濃度の増加には、PMCA4bの量の増加が含まれる。また、当業者にとっては当然のことであるが、PMCA4b濃度の増加にはPMCA4b活性の増加が含まれる。よって、PMCA4bの濃度または活性度を上げることには、レナラーゼ活性剤の投与、PMCA4bをコードする核酸の転写、翻訳、または両方の増加、およびPMCA4bの任意の活性の増加も含まれる。
【0075】
PMCA4bの濃度または活性度の増加は、本明細書で開示される方法、当該分野で知られている、あるいは将来発達する方法を含む広範囲にわたる各種方法を用いて評価することができる。すなわち、当業者には当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、PMCA4bの濃度または活性度は、対象から得た生体試料中のPMCA4bをコードする核酸(例えば、mRNA)濃度、PMCA4bポリペプチド濃度、および/またはPMCA4b活性度を評価する方法を用いて容易に評価することができる。
【0076】
当業者には当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、本発明は、PMCA4bの低下した濃度または活性度と関連づけられた病気または障害について全身(例えば、全身性)または部分的に(例えば、局所、組織、臓器等)治療中、あるいは治療が予定されている対象者に有用である。当業者には当然のことであるが、本明細書の教示に基づいて、本明細書に記載する組成物および方法で治療可能な病気および障害は、PMCA4bの増加が陽性の治療結果を促進する任意の病気または障害を包含する。
【0077】
当業者には当然のことであるが、直接PMCA4bの活性化に加えて、それ自体がPMCA4bの量または活性度を低減させる分子の量または活性度を下げることで、PMCA4bの量または活性度を上げることができる。よって、PMCA4b活性剤としては、化合物、タンパク質、ペプチド模倣物、抗体、リボザイム、アロステリック調節剤、およびアンチセンス核酸分子が挙げられるが、これらに限定されると解釈すべきではない。当業者には当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、PMCA4b活性剤は、PMCA4bの濃度、酵素活性、または基質結合活性を高める化合物を包含する。また、PMCA4b活性剤は、化学分野の当業者には周知の化学的変性化合物、融合、結合体、および/または誘導体を包含する。
【0078】
当業者には当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、PMCA4bの濃度は、転写、翻訳、または両方を含むPMCA4b発現の増加を包含する。また本発明の教示を理解した当業者には自明であるが、PMCA4b濃度の増加にはPMCA4b活性(例えば、酵素活性、基質結合活性等)の増加が含まれる。よって、PMCA4bの濃度または活性度を上げることには、PMCA4bポリペプチドの量の増加、PMCA4bをコードする核酸の転写、翻訳、または両方の増加、およびPMCA4bポリペプチドの任意の活性の増加も含まれる。本発明のPMCA4b活性剤組成物および方法は、選択的にPMCA4bを活性化させることができる、あるいはPMCA4bと他の分子の両方を活性化させることができる。よって、本発明は、PMCA4b活性剤を含む組成物の投与に関する。
【0079】
PMCA4bの濃度または活性(例えば、酵素活性、基質結合活性等)度を上げる本発明のPMCA4b活性剤組成物および方法は、化合物、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、抗体、リボザイム、小分子化合物、アロステリック調節剤、アンチセンス核酸分子(例えば、siRNA、miRNA等)、またはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されると解釈するべきではない。当業者には自明であるが、本明細書の開示に基づいて、PMCA4b活性剤組成物は、PMCA4bの濃度または活性度を上げる化合物を包含する。また、PMCA4b活性剤組成物は、化学分野の当業者には周知の化学的修飾化合物、融合、結合体、および/または誘導体を包含する。
【0080】
PMCA4bの濃度または活性(例えば、酵素活性、基質結合活性等)度を上げる本発明のPMCA4b活性剤組成物および方法は、抗体を含む。本発明の抗体は、抗体の各種形態を含み、例えば、ポリクロナール抗体、モノクローナル抗体、細胞内の抗体(「細胞内抗体」)、Fv、Fab、F(ab)2、単鎖抗体(scFv)、重鎖抗体(例えば、ラクダ抗体等)、合成抗体、キメラ抗体、およびヒト化抗体等が挙げられる。一態様では、本発明の抗体は、PMCA4bに特異的に結合する抗体である。いくつかの態様では、前記活性剤は活性レナラーゼ抗体である。
【0081】
いくつかの態様では、前記活性剤はレナラーゼポリペプチド、その類似体、または相同体である。一態様では、前記活性剤は、配列番号8または配列番号9のアミノ酸配列を含むレナラーゼポリペプチドである。他の態様では、前記活性剤は、レナラーゼのアミノ酸配列の少なくとも一部を含むレナラーゼポリペプチドである。いくつかの態様では、前記活性剤は、配列番号3、配列番号4、または配列番号5のアミノ酸配列を含むレナラーゼポリペプチドである。いくつかの態様では、前記活性剤は、配列番号3、配列番号4、または配列番号5のアミノ酸配列の少なくとも一部を含むレナラーゼポリペプチドである。特定の一態様では、前記活性剤は配列番号4のアミノ酸を含むレナラーゼポリペプチドである。いくつかの態様では、前記レナラーゼポリペプチドまたはその断片は、他の分子に結合されている。
【0082】
さらに、本開示と本明細書に例示された方法を理解した当業者には自明であるが、PMCA4b活性剤は、将来発見される活性剤、薬理学の分野で周知の基準(例えば、本明細書で詳細に記載される、および/または当該分野で周知のPMCA4bの活性化の生理学的結果等)で同定することができる活性剤を含む。したがって、本発明は、本明細書で例示または開示される任意の特定のPMCA4b活性剤に限定されるものではなく、むしろ、本発明は、当業者であれば有用であることが分かっている活性剤(当該分野で周知の活性剤、および将来発見される活性剤等)を包含する。
【0083】
さらに、PMCA4b活性剤を同定かつ製造する方法は、一般の当業者には周知であり、例えば天然源(例えば、ストレプトマイセス属、シュードモナス属、スチロテラ・アウランチウム等)から活性剤を得ることを含むが、これに限定されない。あるいは、PMCA4b活性剤は化学的に合成することができる。さらに、当業者であれば当然のことであるが、本明細書の教示に基づいて、PMCA4b活性剤を組み換え生命体から得ることができる。組成物、並びに化学的にPMCA4b活性剤を合成する方法および天然源からPMCA4b活性剤を得る方法は当該分野で周知であり、かつ記述されている。
【0084】
当業者には自明であるが、活性剤は、小分子化学物質、タンパク質、抗体、タンパク質をコードする核酸構築物、またはこれらの組み合わせとして投与されてもよい。いくつかの態様では、前記活性剤はアロステリック活性剤である。タンパク質またはタンパク質をコードする核酸構築物を細胞または組織に投与する多くのベクターおよび他の組成物、並びにその方法が周知である。したがって、本発明は、PMCA4bの活性剤であるタンパク質、またはそのタンパク質をコードする核酸を投与する方法を含む(Sambrook et al., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual(分子クローニング:実験マニュアル), Cold Spring Harbor Laboratory, New York; Ausubel et al., 1997, Current Protocols in Molecular Biology(最新分子生物学プロトコル), John Wiley & Sons, New York)。
【0085】
当業者には自明であるが、それ自体がPMCA4bの量または活性度を下げる分子の量または活性度を下げると、PMCA4bの量または活性度を上げることができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、mRNA分子のある部分に相補的なDNAまたはRNA分子である。細胞に存在する場合、アンチセンスオリゴヌクレオチドは既存のmRNA分子にハイブリダイズして、遺伝子産物への翻訳を阻害する。細胞内のアンチセンスオリゴヌクレオチドを発現させる方法(Inoue、米国特許第5,190,931号)と同様に、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた遺伝子発現の阻害も当該分野で周知である(Marcus-Sekura, 1988, Anal. Biochem. 172:289)。本発明の方法は、PMCA4bの量または活性度を下げる分子の量を下げてPMCA4bの量または活性度を上げるためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用を含む。本発明では、一般の当業者に周知の方法で合成されて、細胞に供給されるアンチセンスオリゴヌクレオチドが企図される。一例として、長さが約10~約100個、より好ましくは約15~約50個のヌクレオチドのアンチセンスオリゴヌクレオチドを合成することができる。核酸分子の合成は当該分野で周知である。例えば、未修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドと比較して生体活性が向上した修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドの合成(Tullis, 1991、米国特許第5,023,243号)等である。
【0086】
同様に、アンチセンス分子のプロモーターまたは他の遺伝子制限要素へのハイブリダイゼーションにより遺伝子の発現を阻害して、遺伝子の転写に影響を及ぼしてもよい。目的遺伝子と相互作用するプロモーターまたは他の遺伝子制限要素を同定する方法は当該分野で周知であり、例えば、酵母菌ツーハイブリッド系(Bartel and Fields編集, In: The Yeast Two Hybrid System(酵母菌ツーハイブリッド系), Oxford University Press, ノースカロライナ州ケーリー)等の方法が挙げられる。
【0087】
あるいは、リボザイムを用いて、PMCA4bの濃度または活性度を下げるタンパク質を遺伝子が発現するのを阻害してもよい。遺伝子発現を阻害するリボザイムの使用は、当業者に周知である(例えば、Cech et al., 1992, J. Biol. Chem. 267:17479; Hampel et al., 1989, Biochemistry 28: 4929; Altman et al., 米国特許第5,168,053号を参照のこと)。リボザイムは、他の一本鎖RNA分子を開裂することができる触媒RNA分子である。リボザイムは、特定の配列であることが分かっており、特定のヌクレオチド配列を認識するように修飾することができ(Cech, 1988, J. Amer. Med. Assn. 260:3030)、特定のmRNA分子を選択可能に開裂することができる。分子のヌクレオチド配列を仮定して、一般の当業者であれば、本開示および本明細書に組み込まれた参照文献があれば過度の実験をしなくてもアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムを合成することができよう。
【0088】
当業者には自明であるが、PMCA4b活性剤は、単独あるいは任意の組み合わせで投与してもよい。また、当業者には自明であるが、投与は急性的(例えば、1日、1週間、または1ヶ月等の短期間)であってもよく、あるいは慢性的(例えば、数ヶ月または1年以上の長期間)であってもよい。さらに、これらPMCA4b活性剤は、時間的に単独あるいは任意の組み合わせで投与してもよい。すなわち、あるPMCA4b活性剤を別のPMCA4b活性剤と同時、あるいはその前後に投与してもよい。当業者には自明であるが、本明細書の開示に基づいて、PMCA4b活性剤を用いてもよい。また、ある活性剤を単独あるいは治療効果を高めるために他のPMCA4b活性剤との任意の組み合わせで用いてもよい。
【0089】
本明細書に詳述された方法を含む本開示を得た当業者には自明であるが、本発明は、一旦確立された病気または障害の治療に限定されない。特に、病気または障害の症状は、対象に障害の特徴に対して明らかである必要はなく、実際、病気または障害は治療が施される前の対象で検出される必要がない。すなわち、本発明が恩恵をもたらす前に病気または障害の明らかな病状が起こっている必要はない。したがって、本明細書でさらに詳しく述べるように、本発明は、対象の病気および障害を予防する方法を含み、本明細書の他の箇所で述べるように、PMCA4b活性剤は、病気または障害の発症前に対象に投与して、病気または障害の進行を予防することができる。
【0090】
本明細書の開示を得た当業者には自明であるが、対象の病気または障害の予防は、病気または障害の予防的措置として対象にPMCA4b活性剤を投与することを包含する。
【0091】
本明細書の他の箇所でさらに詳しく述べるように、PMCA4bの濃度または活性度を上げる方法は、PMCA4b活性度だけでなく、PMCA4bをコードする核酸の発現を高める広範囲にわたる多くの技術を含む。また、本明細書の他の箇所で開示されるように、本発明の教示を理解した当業者には当然のことであるが、本発明は、増加したPMCA4bの発現および/または活性が病気または障害を介在、治療、または予防する、広範囲にわたる様々な病気または障害の予防方法を包含する。さらに、本発明は、将来発見される病気または障害の治療または予防を包含する。
【0092】
発明は、PMCA4b活性剤を投与して、本発明の方法を実行することを包含し、当業者には当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、適切なPMCA4b活性剤を処方して、対象に投与する方法を包含する。しかしながら、本発明は、投薬計画または治療計画の特定の方法のいずれかに限定されるものではない。本明細書の開示を得た当業者には自明であるが、このことは、特に虚血再かん流損傷の当該技術分野において承認されているモデルを用いて具体化する低下を含み、PMCA4b活性剤を投与する方法は、薬理分野の当業者によって決定されることができる。
【0093】
本明細書を通して、用語「薬学的に容認可能な担体」は、適切なPMCA4b調節剤と組み合わせてもよく、その適切なPMCA4b調節剤を対象に投与するために組み合わせた後に用いることができる化学組成物を意味する。
PMCA4b阻害剤組成物、並びに治療および予防方法
【0094】
様々な態様では、本発明は、PMCA4b阻害剤組成物、およびPMCA4bの活性度または濃度の低いことが望まれる病気または障害を治療または予防する方法を含む。本発明の組成物および方法で治療または予防することができる、PMCA4bの活性度または濃度の低いことが望まれる病気または障害としては、癌が挙げられるが、これに限定されない。様々な態様では、前記PMCA4b阻害剤組成物および本発明の治療または予防方法は、PMCA4bポリペプチドの量、PMCA4bのmRNAの量、PMCA4b酵素活性量、PMCA4b基質結合活性の量、またはこれらの組み合わせを減らす。一態様では、前記PMCA4b阻害剤は、カロキシン1b、その類似体、または誘導体である。他の態様では、前記PMCA4b阻害剤は、シスプラチン、その類似体、または誘導体である。
【0095】
一側面では、本発明の方法は、必要とする対象の癌を治療する方法を含む。一態様では、前記方法は、少なくとも1種のPMCA4b阻害剤を含む組成物の治療有効量を前記対象に投与することを含む。一態様では、前記癌は、脳癌、膀胱癌、乳癌、頸部癌、結腸直腸癌、肝臓癌、腎臓癌、リンパ腫、白血病、肺癌、黒色腫、転移性黒色腫、中皮腫、神経芽細胞腫、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、皮膚癌、胸腺腫、肉腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、子宮癌、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0096】
当業者には当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、PMCA4b濃度の低下は、転写、翻訳、または両方を含むPMCA4bの発現の低下を包含する。また本発明の教示を理解した当業者には自明であるが、PMCA4b濃度の低下は、PMCA4b活性(例えば、酵素活性、基質結合活性等)の低下を含む。よって、PMCA4bの濃度または活性度を下げることは、PMCA4bをコードする核酸の転写、翻訳、または両方を減らすこと、およびPMCA4bポリペプチドの任意の活性度を下げることを含むが、これらに限定されない。本発明のPMCA4b阻害剤組成物および方法は、選択的にPMCA4bを阻害することができる、あるいはPMCA4bと他の分子の両方を阻害することができる。
【0097】
PMCA4bの阻害は、広範囲にわたる様々な方法(本明細書で開示された方法、当該分野で周知である、あるいは将来発見される方法を含む)を用いて評価することができる。すなわち、当業者には自明であるが、本明細書の開示に基づいて、PMCA4bの濃度または活性度の低下は、PMCA4bをコードする核酸(例えば、mRNA)濃度、生体試料に存在するPMCA4bポリペプチドの濃度、PMCA4b活性(例えば、酵素活性、基質結合活性等)度、またはこれらの組み合わせを評価する方法を用いて容易に評価することができる。
【0098】
当業者であれば当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、本発明は、必要とする対象が他の薬物または治療法で治療を受けているかどうかに関わらず、前記対象の治療または予防に有益である。さらに、当業者には自明であるが、本明細書の教示に基づいて、本明細書に記載される組成物および方法で治療可能な病気または障害はPMCA4bが役割を果たし、かつ濃度または活性度が低いPMCA4bが陽性の治療結果を促進する任意の病気または障害を包含する。
【0099】
PMCA4bの濃度または活性(例えば、酵素活性、基質結合活性等)度を下げる本発明のPMCA4b阻害剤組成物および方法は、化合物、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、抗体、リボザイム、小分子化合物、アンチセンス核酸分子(例えば、siRNA、miRNA等)、またはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されると解釈すべきではない。いくつかの態様では、前記阻害剤はアロステリック阻害剤である。当業者には自明であるが、本明細書の開示に基づいて、PMCA4b阻害剤組成物は、PMCA4bの濃度または活性度を下げる化合物を包含する。また、化学分野の当業者には周知のことであるが、PMCA4b阻害剤組成物は、化学的修飾化合物および誘導体を包含する。
【0100】
PMCA4bの濃度または活性度(例えば、酵素活性、基質結合活性等)を下げる本発明のPMCA4b阻害剤組成物および方法は抗体を含む。本発明の抗体は、抗体の各種形態を含み、例えば、ポリクロナール抗体、モノクローナル抗体、細胞内の抗体(「細胞内抗体」)、Fv、Fab、F(ab)2、単鎖抗体(scFv)、重鎖抗体(例えば、ラクダ抗体等)、合成抗体、キメラ抗体、およびヒト化抗体等が挙げられる。一態様では、本発明の抗体はPMCA4bに特異的に結合する抗体である。
【0101】
さらに、本開示と本明細書に例示された方法を理解した当業者には自明であるが、PMCA4b阻害剤組成物は、将来発見される阻害剤、薬理学の分野で周知の基準(例えば、本明細書で詳細に記載される、および/または当該分野で周知のPMCA4bの阻害の生理学的結果等)で同定することができる阻害剤を含む。したがって、本発明は、本明細書で例示または開示される任意の特定のPMCA4b阻害剤組成物に限定されるものではなく、むしろ、本発明は、当業者であれば有用であることが分かる阻害剤組成物(当該分野で周知の阻害剤組成物、および将来発見される阻害剤組成物等)を包含する。
【0102】
さらに、PMCA4b阻害剤組成物を同定および製造する方法は、一般の当業者には周知であり、例えば、天然源(例えば、ストレプトマイセス属、シュードモナス属、スチロテラ・アウランチウム等)から阻害剤を得ることを含むが、これに限定されない。あるいは、PMCA4b阻害剤は化学的に合成することができる。さらに、当業者には自明であるが、本明細書の教示に基づいて、PMCA4b阻害剤組成物は組み換え生命体から得ることができる。組成物、並びにPMCA4b阻害剤を化学的に合成する方法および天然源からPMCA4b阻害剤を得る方法は当該分野で周知であり、かつ記述されている。
【0103】
当業者には自明であるが、阻害剤は、小分子化学物質、タンパク質、抗体、タンパク質をコードする核酸構築物、アンチセンス核酸、アンチセンス核酸をコード化する核酸構築物、またはこれらの組み合わせとして投与されてもよい。タンパク質またはタンパク質をコードする核酸構築物を細胞または組織に投与する多くのベクターおよび他の組成物、並びにその方法が周知である。したがって、本発明は、PMCA4bの阻害剤であるタンパク質、またはタンパク質をコードする核酸を投与する方法を含む(Sambrook et al., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual(分子クローニング:実験マニュアル), Cold Spring Harbor Laboratory, New York; Ausubel et al., 1997, Current Protocols in Molecular Biology(最新分子生物学プロトコル), John Wiley & Sons, New York)。
【0104】
当業者には自明であるが、本発明の組成物および方法において、それ自体がPMCA4bの量または活性度を上げる分子の量または活性度を下げると、PMCA4bの量または活性度を下げることができる。
【0105】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、RNA分子のある部分に相補的なDNAまたはRNA分子である。細胞に存在する場合、アンチセンスオリゴヌクレオチドは既存のRNA分子にハイブリダイズして、遺伝子産物への翻訳を阻害する。細胞内のアンチセンスオリゴヌクレオチドを発現させる方法(Inoue、米国特許第5,190,931号)と同様に、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた遺伝子発現の阻害も当該分野で周知である(Marcus-Sekura, 1988, Anal. Biochem. 172:289)。本発明の方法は、PMCA4bの量を減らすためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用、またはPMCA4bの量または活性度を上げる分子の量を減らしてPMCA4bの量または活性度を下げるためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用を含む。
【0106】
本発明では、一般の当業者に周知の方法で合成されて、細胞に供給されるアンチセンスオリゴヌクレオチドが企図される。一例として、長さが約10~約100個、より好ましくは約15~約50個のヌクレオチドのアンチセンスオリゴヌクレオチドを合成することができる。核酸分子の合成は当該分野で周知である。例えば、未修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドと比較して生体活性が向上した修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドの合成(Tullis, 1991、米国特許第5,023,243号)等である。
【0107】
同様に、アンチセンス分子のプロモーターまたは他の遺伝子制限要素へのハイブリダイゼーションにより遺伝子の発現を阻害して、遺伝子の転写に影響を及ぼしてもよい。目的遺伝子と相互作用するプロモーターまたは他の遺伝子制限要素を同定する方法は、当該分野で周知されており、例えば、酵母菌ツーハイブリッド系(Bartel and Fields編集, In: The Yeast Two Hybrid System(酵母菌ツーハイブリッド系), Oxford University Press, ノースカロライナ州ケーリー)等の方法が挙げられる。
【0108】
あるいは、リボザイムを用いて、PMCA4bを発現する遺伝子またはPMCA4bの濃度または活性度を上げるタンパク質を発現する遺伝子を阻害してもよい。遺伝子発現を阻害するリボザイムの使用は、当業者に周知である(例えば、Cech et al., 1992, J. Biol. Chem. 267:17479; Hampel et al., 1989, Biochemistry 28: 4929; Altman et al., 米国特許第5,168,053号を参照のこと)。リボザイムは、他の一本鎖RNA分子を開裂することができる触媒RNA分子である。リボザイムは、特定の配列であることが分かっており、特定のヌクレオチド配列を認識するように修飾することができ(Cech, 1988, J. Amer. Med. Assn. 260:3030)、特定のmRNA分子を選択可能に開裂することができる。当業者であれば、分子のヌクレオチド配列を前提として、本開示および本明細書に組み込まれた参照文献があれば過度の実験をしなくてもアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムを合成することができるであろう。
【0109】
当業者には自明であるが、PMCA4bの阻害剤の投与は急性的(例えば、1日、1週間、または1ヶ月等の短期間)であってもよく、あるいは慢性的(例えば、数ヶ月または1年以上の長期間)であってもよい。当業者には自明であるが、これらPMCA4bの阻害剤は、単独あるいは他の阻害剤との任意の組み合わせで投与してもよい。さらに、これらPMCA4b阻害剤は、時間的に単独あるいは任意の組み合わせで投与してもよい。すなわち、ある阻害剤を別の阻害剤と同時あるいはその前後に投与してもよい。当業者には自明であるが、本明細書の開示に基づいて、必要とする対象の病気または障害を治療または予防するためにPMCA4b阻害剤組成物を用いてもよい。また、阻害剤組成物を単独あるいは治療効果を高めるために他の阻害剤との任意の組み合わせで用いてもよい。
【0110】
様々な態様では、本明細書に記載される本発明のPMCA4bの阻害剤のいずれかを単独、または癌と関連づけられた他の分子の他の阻害剤と組み合わせて投与してもよい。
【0111】
本明細書に詳述された方法を含む本開示を得た当業者には自明であるが、本発明は、既に確立された病気または障害の治療に限定されない。特に、病気または障害は、対象に障害の特徴に対して明らかである必要はなく、実際、病気または障害は治療が施される前の対象で検出される必要がない。すなわち、本発明が恩恵をもたらす前に明らかな病気または障害が起こっている必要はない。したがって、本発明は、対象の病気および障害を予防する方法を含み、本明細書の前出の他の箇所で述べたように、PMCA4b阻害剤組成物は、病気または障害の発症前に対象に投与して、病気または障害の発達を予防することができる。本明細書に記載される予防方法はまた、病気または障害の再発を予防するための寛解期の対象の治療を含む。
【0112】
本明細書の開示を得た当業者には自明であるが、前記病気または障害の予防は、前記病気または障害に対する予防的措置として対象にPMCA4b阻害剤組成物を投与することを包含する。本明細書でさらに詳しく述べるように、PMCA4bの濃度または活性度を下げる方法は、PMCA4b活性度だけでなく、PMCA4bをコードする核酸の発現を減らす広範囲にわたる多くの技術(転写、翻訳、またはその両方の低下を含む)を含む。
【0113】
また、本明細書の他の箇所で開示するように、本発明の教示を理解した当業者には当然のことであるが、本発明は、低下したPMCA4bの発現および/または活性が病気、障害、または症状を介在、治療、または予防する、広範囲にわたる様々な病気、障害、および症状の予防方法を包含する。ある病気がPMCA4bの濃度または活性度に関連するかどうかを評価する方法は、当該分野で周知である。さらに、本発明は、将来発見される病気の治療または予防を包含する。
【0114】
発明は、PMCA4bの阻害剤を投与して、本発明の方法を実行することを包含し、当業者には当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、適切なPMCA4b阻害剤を処方して、対象に投与する方法を包含する。しかしながら、本発明は、投薬計画または治療計画の特定の方法のいずれかに限定されるものではない。
レナラーゼ受容体の調節剤を同定する方法
【0115】
本発明は、レナラーゼ受容体(例えば、PMCA4b等)の活性度を調節する化合物を同定する方法に関する。いくつかの態様では、本発明の同定方法は、レナラーゼ受容体(例えば、PMCA4b等)の活性度を下げる阻害剤化合物を同定する。他の態様では、本発明の同定方法は、レナラーゼ受容体(例えば、PMCA4b等)の活性度を上げる活性剤化合物を同定する。
【0116】
他の方法、および本明細書で開示された方法の変形は、本発明の記述から自明である。様々な態様では、スクリーニング試験での試験化合物の濃度は、一定でもよく、変化させてもよい。1回に単一の試験化合物または複数の試験化合物を試験してもよい。いくつかの態様では、前記同定方法は、高処理スクリーニングである。用いてもよい好適な試験化合物としては、タンパク質、核酸、アンチセンス核酸、shRNA、小分子、抗体、およびペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
本発明は、試験化合物の存在下および非存在下でのレナラーゼ受容体(例えば、PMCA4b等)の活性度を調節(すなわち、増減)する能力により試験化合物をスクリーニングして調節剤化合物を同定する方法に関する。レナラーゼ受容体の評価された活性度は、レナラーゼ受容体の測定可能な任意の活性度であってもよい。一態様では、レナラーゼ受容体の評価された活性度は、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)信号伝達の濃度である。他の態様では、レナラーゼ受容体の評価された活性度は、ATP分解酵素活性度である。
【0118】
本発明の方法で評価することができる試験化合物としては、化合物、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、抗体、核酸、アンチセンス核酸、siRNA、miRNA、shRNA、リボザイム、アロステリック調節剤、および小分子化合物が挙げられる。
【0119】
試験化合物は、当該分野で周知の組み合わせライブラリー法(生体ライブラリー;空間的に処理可能な並行固相または液相ライブラリー;逆重畳積分を必要とする合成ライブラリー;「1ビーズ1化合物」ライブラリー法;および親和性クロマトグラフィー選択を用いた合成ライブラリー法を含む)の多数の手法のいずれかを用いて得ることができる。生体ライブラリーはペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つの方法は、ペプチドライブラリー、非ペプチドオリゴマーのライブラリー、または化合物の小分子のライブラリーに利用できる(Lam et al., 1997, Anticancer Drug Des. 12:45)。
【0120】
分子ライブラリーの合成方法の例は、例えば以下に見られる。DeWitt et al., 1993, Proc. Natl. Acad. USA 90:6909; Erb et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422; Zuckermann et al., 1994, J. Med. Chem. 37:2678; Cho et al., 1993, Science 261:1303; Carrell et al., 1994, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059; Carell et al., 1994, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061; およびGallop et al., 1994, J. Med. Chem. 37:1233.
【0121】
化合物のライブラリーは、溶液中(例えば、Houghten, 1992, Biotechniques 13:412-421)、またはビーズ(Lam, 1991, Nature 354:82-84)、チップ(Fodor, 1993, Nature 364:555-556)、バクテリア(Ladner、米国特許第5,223,409号)、胞子(Ladner、第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1865-1869)、ファージ(Scott and Smith, 1990, Science 249:386-390; Devlin, 1990, Science 249:404-406; Cwirla et al., 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6378-6382; Felici, 1991, J. Mol. Biol. 222:301-310; and Ladner supra)に担持して提示されてもよい。
【0122】
「高処理」様式が好ましい状況では、通常、ある望ましい特性または活性を持つ化合物(「リード化合物」と言う)を同定し、リード化合物の変種を作成し、これら化合物の変種の特性および活性を評価して有益な特性を持つ新規な化学物質が生成される。
【0123】
一態様では、高処理スクリーニング法は、所望の活性を有する可能性がある多数の試験化合物を含むライブラリーを提供することを含む。このような「組み合わせ化学ライブラリー」は、本明細書で記載される1つ以上のアッセイで選別されて、所望の特徴的な活性を示すライブラリー構成要素(特定の化学種または下位分類)を同定する。このように同定された化合物は、確立された「リード化合物」の役目を果たしてもよく、あるいはそれ自身が可能な治療法または実際の治療法に用いられてもよい。
組成物、並びに治療および予防方法
【0124】
様々な態様では、本発明は、必要とする対象、組織、または臓器でレナラーゼまたはその断片の濃度または活性度を上げるレナラーゼ活性剤組成物および方法を含む。様々な態様では、前記レナラーゼ活性剤組成物および本発明の治療方法は、レナラーゼポリペプチドの量、レナラーゼmRNAの量、レナラーゼ酵素活性の量、レナラーゼ基質結合活性の量、またはこれらの組み合わせを増やす。様々な態様では、レナラーゼの増加が治療結果を向上させる可能性がある病気および障害としては、膵臓炎等の膵臓病または膵臓障害が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
当業者には当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、レナラーゼ濃度の増加は、レナラーゼ発現(転写、翻訳、または両方を含む)の増加を含む。また本発明の教示を理解した当業者には自明であるが、レナラーゼ濃度の増加には、レナラーゼ活性(例えば、酵素活性、基質結合活性等)の増加が含まれる。よって、レナラーゼの濃度または活性度を上げることには、レナラーゼポリペプチドの量の増加、レナラーゼをコードする核酸の転写、翻訳、または両方の増加、レナラーゼポリペプチドの任意の活性の増加が含まれるが、これらに限定されない。本発明のレナラーゼ活性剤組成物および方法は選択的にレナラーゼを活性化する、あるいはレナラーゼと他の分子の両方を活性化することができる。
【0126】
従って、本発明は、病気または障害あるいはそれに関連づけられた兆候、症状、または病状の治療または予防のために必要とする対象にレナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、活性レナラーゼポリペプチド断片(すなわち、レナラーゼペプチド)、またはレナラーゼの発現または活性の活性剤の治療有効量を投与して病気または障害を予防および治療することに関する。いくつかの態様では、前記レナラーゼポリペプチドは配列番号8または配列番号9のアミノ酸、その類似体または相同体を含む。いくつかの態様では、本発明のレナラーゼは、配列番号8または配列番号9のアミノ酸配列、その類似体または相同体の少なくとも一部を含むレナラーゼポリペプチド断片である。いくつかの態様では、前記レナラーゼポリペプチド断片は、その保護活性を保持するが検出可能なNADHオキシダーゼ活性を示さないペプチドである。いくつかの態様では、前記レナラーゼポリペプチド断片は、その保護活性を保持するが検出可能なアミンオキシダーゼ活性を示さないペプチドである。特定の一態様では、前記レナラーゼポリペプチド断片は、配列番号3のアミノ酸配列、その類似体または相同体を含むペプチドである。他の特定の態様では、前記レナラーゼポリペプチド断片は、配列番号4のアミノ酸配列、その類似体または相同体を含むペプチドである。他の特定の態様では、前記レナラーゼポリペプチド断片は、配列番号5のアミノ酸配列、その類似体または相同体を含むペプチドである。他の特定の態様では、前記レナラーゼポリペプチド断片は、配列番号3のアミノ酸配列、その類似体または相同体からなるペプチドである。他の特定の態様では、前記レナラーゼポリペプチド断片は、配列番号4のアミノ酸配列、その類似体または相同体からなるペプチドである。他の特定の態様では、前記レナラーゼポリペプチド断片は、配列番号5のアミノ酸配列、その類似体または相同体からなるペプチドである。いくつかの態様では、前記レナラーゼポリペプチドまたはその断片は、他の分子に結合している。
【0127】
当業者にとっては当然のことであるが、レナラーゼ濃度の増加は、(例えば、レナラーゼまたはその断片の投与や、レナラーゼタンパク質の発現の増加等により)レナラーゼまたはその断片の量の増加を包含する。また、当業者には自明であるが、レナラーゼ濃度の増加にはレナラーゼ活性度の増加が含まれる。よって、レナラーゼの濃度または活性度を上げることには、レナラーゼまたはその断片の投与、レナラーゼをコードする核酸の転写、翻訳、または両方の増加、およびレナラーゼの任意の活性の増加が含まれるが、これらに限定されない。
【0128】
レナラーゼの濃度または活性度の増加は、広範囲にわたる様々な方法(本明細書で開示された方法、当該分野で周知である、あるいは将来発見される方法を含む)を用いて評価することができる。すなわち、当業者には自明であるが、本明細書の開示に基づいて、レナラーゼの濃度または活性度の増加は、対象から得た生体試料中のレナラーゼをコードする核酸(例えば、mRNA)の濃度、レナラーゼポリペプチドの濃度、および/またはレナラーゼ活性度を評価する方法を用いて容易に評価することができる。
【0129】
当業者であれば当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、 本発明は、レナラーゼの低下した濃度または活性度と関連づけられた病気または障害について全身(例えば、全身性)または部分的に(例えば、局所、組織、臓器等)治療中、あるいは治療が予定されている対象者に有用である。当業者には自明であるが、本明細書の教示に基づいて、本明細書に記載される組成物および方法で治療可能な病気および障害は、レナラーゼの増加が陽性の治療結果を促進する任意の病気または障害を包含する。
【0130】
当業者には自明であるが、レナラーゼを直接活性化することに加えて、それ自体がレナラーゼの量または活性度を下げる分子の量または活性度を下げると、レナラーゼの量または活性度を上げることができる。よって、レナラーゼ活性剤は、化合物、タンパク質、ペプチド模倣物、抗体、リボザイム、およびアンチセンス核酸分子を含むが、これらに限定されない。いくつかの態様では、前記レナラーゼ活性剤はアロステリック活性剤である。当業者には自明であるが、本明細書の開示に基づいて、レナラーゼ活性剤は、レナラーゼの濃度、酵素活性、または基質結合活性を上げる化合物を包含する。また、化学分野の当業者には周知のことであるが、レナラーゼ活性剤は化学的修飾化合物および誘導体を包含する。
【0131】
当業者には当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、レナラーゼ濃度の増加は、転写、翻訳、または両方を含むレナラーゼの発現の増加を包含する。また本発明の教示を理解した当業者には自明であるが、レナラーゼ濃度の増加にはレナラーゼ活性(例えば、酵素活性、基質結合活性等)の増加が含まれる。よって、レナラーゼの濃度または活性度を上げることには、レナラーゼポリペプチドの量の増加、レナラーゼをコードする核酸の転写、翻訳、または両方の増加、およびレナラーゼポリペプチドの任意の活性の増加が含まれるが、これらに限定されない。本発明のレナラーゼ活性剤組成物および方法は、選択的にレナラーゼを活性化することができる、あるいはレナラーゼと他の分子の両方を活性化することができる。よって、本発明は、レナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、活性レナラーゼポリペプチド断片、またはナラーゼの発現または活性の活性剤の投与に関する。
【0132】
さらに、本開示と本明細書に例示された方法を理解した当業者には自明であるが、レナラーゼ活性剤は、将来発見される活性剤、薬理学の分野で周知の基準(本明細書で詳細に記載される、および/または当該分野で周知のレナラーゼの活性化の生理学的結果等)で同定可能な活性剤を含む。したがって、本発明は、本明細書で例示または開示される任意の特定のレナラーゼ活性剤に限定されるものではなく、むしろ、本発明は、当業者であれば有用であることが分かっている活性剤(当該分野で周知の活性剤、および将来発見される活性剤等)を包含する。
【0133】
さらに、レナラーゼ活性剤を同定かつ製造する方法は、一般の当業者には周知であり、例えば天然源(例えば、ストレプトマイセス属、シュードモナス属、スチロテラ・アウランチウム等)から活性剤を得ることを含むが、これに限定されない。あるいは、レナラーゼ活性剤は化学的に合成することができる。さらに、当業者には自明であるが、本明細書の教示に基づいて、レナラーゼ活性剤を組み換え生命体から得ることができる。組成物、並びにレナラーゼ活性剤を化学的に合成する方法および天然源からレナラーゼ活性剤を合成する方法は当該分野で周知であり、かつ記述されている。
【0134】
当業者には自明であるが、活性剤は、小分子化学物質、タンパク質、タンパク質をコードする核酸構築物、またはこれらの組み合わせとして投与することができる。細胞または組織にタンパク質またはタンパク質をコードする核酸構築物を投与する多くのベクターおよび他の組成物、並びにその方法が周知である。したがって、本発明は、レナラーゼの活性剤であるタンパク質、またはそのタンパク質をコードする核酸を投与する方法を含む(Sambrook et al., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual(分子クローニング:実験マニュアル), Cold Spring Harbor Laboratory, New York; Ausubel et al., 1997, Current Protocols in Molecular Biology(最新分子生物学プロトコル), John Wiley & Sons, New York)。
【0135】
当業者には自明であるが、それ自体がレナラーゼの量または活性度を下げる分子の量または活性度を下げると、レナラーゼの量または活性度を上げることができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、mRNA分子のある部分に相補的なDNAまたはRNA分子である。細胞に存在する場合、アンチセンスオリゴヌクレオチドは既存のmRNA分子にハイブリダイズして、遺伝子産物への翻訳を阻害する。細胞内のアンチセンスオリゴヌクレオチドを発現させる方法(Inoue、米国特許第5,190,931号)と同様に、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた遺伝子発現の阻害も当該分野で周知である(Marcus-Sekura, 1988, Anal. Biochem. 172:289)。本発明の方法は、レナラーゼの量または活性度を下げる分子の量を減らしてレナラーゼの量または活性度を上げるためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用を含む。本発明では、一般の当業者に周知の方法で合成されて、細胞に供給されるアンチセンスオリゴヌクレオチドが企図される。一例として、長さが約10~約100個、より好ましくは約15~約50個のヌクレオチドのアンチセンスオリゴヌクレオチドを合成することができる。核酸分子の合成は当該分野で周知である。例えば、未修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドと比較して生体活性が向上した修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドの合成(Tullis, 1991、米国特許第5,023,243号)等である。
【0136】
同様に、アンチセンス分子のプロモーターまたは他の遺伝子制限要素へのハイブリダイゼーションにより遺伝子の発現を阻害して、遺伝子の転写に影響を及ぼしてもよい。目的遺伝子を相互作用するプロモーターまたは他の遺伝子制限要素を同定する方法は、当該分野で周知されており、例えば、酵母菌ツーハイブリッド系(Bartel and Fields, 編集, In: The Yeast Two Hybrid System(酵母菌ツーハイブリッド系), Oxford University Press, ノースカロライナ州ケーリー)等の方法が挙げられる。
【0137】
あるいは、リボザイムを用いて、レナラーゼの濃度または活性度を下げるタンパク質を遺伝子が発現するのを阻害してもよい。遺伝子発現を阻害するリボザイムの使用は、当業者に周知である(例えば、Cech et al., 1992, J. Biol. Chem. 267:17479; Hampel et al., 1989, Biochemistry 28: 4929; Altman et al., 米国特許第5,168,053号を参照のこと)。リボザイムは、他の一本鎖RNA分子を開裂することができる触媒RNA分子である。リボザイムは、特定の配列であることが分かっており、特定のヌクレオチド配列を認識するように修飾することができ(Cech, 1988, J. Amer. Med. Assn. 260:3030)、特定のmRNA分子を選択可能に開裂することができる。当業者であれば、分子のヌクレオチド配列を前提として、本開示および本明細書に組み込まれた参照文献があれば過度の実験をしなくてもアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムを合成することができるであろう。
【0138】
当業者には自明であるが、レナラーゼ活性剤、レナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、または活性レナラーゼポリペプチド断片は、単独あるいは任意の組み合わせで投与してもよい。また、当業者には自明であるが、投与は急性的(例えば、1日、1週間、または1ヶ月等の短期間)であってもよく、あるいは慢性的(例えば、数ヶ月または1年以上の長期間)であってもよい。さらに、レナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、または活性レナラーゼポリペプチド断片は、時間的に単独あるいは任意の組み合わせで投与してもよい。すなわち、これらを別のレナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、または活性レナラーゼポリペプチド断片と同時あるいはその前後に投与してもよい。当業者には自明であるが、本明細書の開示に基づいて、レナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、または活性レナラーゼポリペプチド断片を用いてもよい。また、これらペプチドを単独で、あるいは治療結果を高めるために他のレナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、活性レナラーゼポリペプチド断片、またはレナラーゼ活性剤との任意の組み合わせで用いてもよい。また、当業者には自明であるが、本明細書の開示に基づいて、レナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、または活性レナラーゼポリペプチド断片を単独あるいは膵臓病または膵臓障害(例えば、膵臓炎等)の治療に有用な他の組成物、薬物、または治療法と任意の組み合わせで用いてもよい。いくつかの態様では、投与されるレナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、活性レナラーゼポリペプチド断片、またはこれらの組み合わせは、この投与されるレナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、活性レナラーゼポリペプチド断片、またはこれらの組み合わせの代謝または分解を低下、阻害、または阻止する他の組成物、薬物、または治療法と組み合わせて投与される。
【0139】
本明細書に詳述された方法を含む本開示を得た当業者には自明であるが、本発明は、一旦確立された病気または障害の治療に限定されない。特に、病気または障害の症状は、対象に障害の特徴に対して明らかである必要はなく、実際、病気または障害は治療が施される前の対象で検出される必要がない。すなわち、本発明が恩恵をもたらす前に病気または障害の明らかな病状が起こっている必要はない。したがって、本明細書でさらに詳しく述べるように、本発明は対象の病気および障害を予防する方法を含み、本明細書の他の箇所で述べるように、レナラーゼ分子(例えば、ポリペプチド、ペプチド等)またはレナラーゼ活性剤は、病気または障害の発症前に対象に投与して、病気または障害の進行を予防することができる。
【0140】
本明細書の開示を得た当業者には自明であるが、対象の病気または障害の予防には、病気または障害の予防的措置としてレナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、活性レナラーゼポリペプチド断片、またはレナラーゼ活性剤を対象に投与することが含まれる。
【0141】
本明細書でさらに詳しく述べるように、レナラーゼの濃度または活性を上げる方法は、レナラーゼ活性だけでなく、レナラーゼをコードする核酸の発現を高める広範囲にわたる多くの技術を包含する。また、本明細書の他の箇所で開示するように、本発明の教示を理解した当業者には当然のことであるが、本発明は、増加したレナラーゼの発現および/または活性が病気または障害を介在、治療、または予防する、広範囲にわたる様々な病気または障害の予防方法を包含する。さらに、本発明は、将来発見される病気または障害の治療または予防を包含する。
【0142】
本発明は、レナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、活性レナラーゼポリペプチド断片、またはレナラーゼ活性剤を投与して本発明の方法を実行することを包含し、当業者には当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、適切なレナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、活性レナラーゼポリペプチド断片、またはレナラーゼ活性剤を処方して、対象に投与する方法を包含する。しかしながら、本発明は、投薬計画または治療計画の特定の方法のいずれかに限定されるものではない。本明細書の開示を得た当業者には自明であるが、このことは、特に虚血再かん流損傷の当該技術分野において承認されているモデルを用いて具体化する低下を含み、レナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、活性レナラーゼポリペプチド断片、またはレナラーゼ活性剤を投与する方法は、薬理分野の当業者によって決定されることができる。
【0143】
本明細書を通して、用語「薬学的に容認可能な担体」は、適切なレナラーゼ調節剤と組み合わせてもよく、その適切なレナラーゼ調節剤を対象に投与するために組み合わせた後に用いることができる化学組成物を意味する。
診断方法
【0144】
いくつかの態様では、対照と比較したレナラーゼ濃度の変化(すなわち、増減)は、膵臓病または膵臓障害を診断し、膵臓病または膵臓障害の治療の有効性を監視するマーカーとして本発明の方法で用いられる。
【0145】
一態様では、本発明は、対象の生体試料中のレナラーゼ濃度を評価して前記対象の膵臓病または膵臓障害を診断する方法である。一態様では、前記対象の生体試料は体液である。レナラーゼ濃度を評価することができる体液の例としては、血液、血清、血漿、および尿が挙げられるが、これらに限定されない。様々な態様では、前記対象の生体試料中のレナラーゼ濃度は、比較対照のレナラーゼ濃度と比較される。比較対照としては、陰性対照、陽性対照、対象の期待正常背景値、対象の歴史的正常背景値、対象が属する集団の期待正常背景値、対象が属する集団の歴史的正常背景値が挙げられるが、これらに限定されない。
【0146】
他の態様では、本発明は、対象の生体試料中のレナラーゼ濃度を評価して前記対象の膵臓病または膵臓障害の進行を監視する方法である。一態様では、前記対象の生体試料は体液である。レナラーゼ濃度を評価することができる体液としては、血液、血清、血漿、および尿が挙げられるが、これらに限定されない。様々な態様では、前記対象の生体試料中のレナラーゼ濃度は、比較対照のレナラーゼ濃度と比較される。比較対照としては、陰性対照、陽性対照、対象の期待正常背景値、対象の歴史的正常背景値、対象が属する集団の期待正常背景値、対象が属する集団の歴史的正常背景値が挙げられるが、これらに限定されない。
【0147】
さらなる態様では、本発明は、対象の生体試料中のレナラーゼ濃度を評価して前記対象の膵臓病または膵臓障害の重症度を評価する方法である。一態様では、前記対象の生体試料は体液である。レナラーゼ濃度を評価することができる体液の例としては、血液、血清、血漿、および尿が挙げられるが、これらに限定されない。様々な態様では、前記対象の生体試料中のレナラーゼ濃度は、比較対照のレナラーゼ濃度と比較される。比較対照の例として、陰性対照、陽性対照、対象の期待正常背景値、対象の歴史的正常背景値、対象が属する集団の期待正常背景値、対象が属する集団の歴史的正常背景値が挙げられるが、これらに限定されない。
【0148】
他の態様では、本発明は、対象の生体試料中のレナラーゼ濃度を評価して、前記対象の膵臓病または膵臓障害を治療するための治療計画を選択する方法である。一態様では、前記対象の生体試料は体液である。レナラーゼ濃度を評価することができる体液の例としては、血液、血清、血漿、および尿が挙げられるが、これらに限定されない。様々な態様では、前記対象の生体試料中のレナラーゼ濃度は、比較対照のレナラーゼ濃度と比較される。比較対照の例として、陰性対照、陽性対照、対象の期待正常背景値、対象の歴史的正常背景値、対象が属する集団の期待正常背景値、対象が属する集団の歴史的正常背景値が挙げられるが、これらに限定されない。
【0149】
他の態様では、本発明は、対象の生体試料中のレナラーゼ濃度を評価して前記対象の膵臓病または膵臓障害の治療効果を監視する方法である。一態様では、前記対象の生体試料は体液である。レナラーゼ濃度を評価することができる体液の例としては、血液、血清、血漿、および尿が挙げられるが、これらに限定されない。様々な態様では、前記対象の生体試料中のレナラーゼ濃度は、比較対照のレナラーゼ濃度と比較される。比較対照の例として、陰性対照、陽性対照、対象の期待正常背景値、対象の歴史的正常背景値、対象が属する集団の期待正常背景値、対象が属する集団の歴史的正常背景値が挙げられるが、これらに限定されない。
【0150】
様々な態様では、前記対象はヒトであり、人種、性別、および年齢は問わない。前記対象の代表的な例としては、膵臓病または膵臓障害(例えば、膵臓炎等)にかかったと疑われる対象、膵臓病または膵臓障害(例えば、膵臓炎等)にかかったと診断された対象、膵臓病または膵臓障害に関連づけられた病気または障害を有すると診断された対象、および膵臓病または膵臓障害(例えば、膵臓炎等)を発症する危険性がある対象等が挙げられる。
【0151】
本明細書に記載される本発明の方法から得た情報を単独あるいは前記対象または前記対象に由来する生体試料から得た他の情報(例えば、疾病状態、病歴、生命兆候、血液化学等)と組み合わせて用いてもよい。
【0152】
本発明の診断方法では、対象から得た生体試料は、それに含まれるレナラーゼの濃度について評価される。一態様では、前記生体試料は、本明細書に記載される方法に有用なレナラーゼポリペプチドの少なくとも断片を含む試料である。
【0153】
本発明の方法の他の様々な態様では、比較対照と比較して、レナラーゼ濃度が少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも100%低下した場合に、前記レナラーゼ濃度は低下していると判定される。様々な態様では、低下したレナラーゼ濃度は病気または障害を示す。
【0154】
本発明の方法の他の様々な態様では、比較対照と比較して、レナラーゼ濃度が少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも100%増加した場合、前記レナラーゼ濃度は増加していると判定される。様々な態様では、増加したレナラーゼ濃度は病気または障害を示す。
【0155】
本発明の方法では、対象に由来する生体試料は、患者から得た生体試料のレナラーゼ濃度について評価される。前記生体試料のレナラーゼポリペプチドの量、前記生体試料のレナラーゼmRNAの量、前記生体試料のレナラーゼ酵素活性の量、またはこれらの組み合わせを評価して、生体試料中のレナラーゼ濃度を求めることができる。
【0156】
本発明の方法の様々な態様では、患者から得た生体試料中のレナラーゼ濃度を測定する方法としては、例えば、免疫クロマトグラフィーアッセイ、イムノドットアッセイ、Luminexアッセイ、ELISAアッセイ、ELISPOTアッセイ、タンパク質マイクロアレイアッセイ、ウェスタンブロットアッセイ、質量分光測光法アッセイ、放射免疫測定法(RIA)、放射免疫拡散法、液体クロマトグラフィー並列質量分析アッセイ、オクタロニー免疫拡散法、逆相タンパク質マイクロアレイ、ロケット免疫電気泳動アッセイ、免疫組織染色アッセイ、免疫沈殿アッセイ、補体結合試験、FACS、酵素-基質結合アッセイ、酵素アッセイ、検出可能な分子(例えば、発色団、蛍光色素分子、放射性基質等)を用いた酵素アッセイ、基質等を用いた基質結合アッセイ、基質等を用いた基質置換アッセイ、およびタンパク質チップアッセイ(また2007, Van Emon, Immunoassay and Other Bioanalytical Techniques(免疫測定法およびその他のバイオ分析技術), CRC Press; 2005, Wild, Immunoassay Handbook(免疫測定法ハンドブック), Gulf Professional Publishing; 1996, Diamandis and Christopoulos, Immunoassay(免疫測定法), Academic Press; 2005, Joos, Microarrays in Clinical Diagnosis(臨床診断におけるマイクロアレイ), Humana Press; 2005, Hamdan and Righetti, Proteomics Today(プロテオミクスの今), John Wiley and Sons; 2007を参照のこと)が挙げられるが、これらに限定されない。
治療阻害剤組成物および方法
【0157】
様々な態様では、本発明は、レナラーゼの活性または濃度が低いことが望まれる病気または障害を治療または予防するレナラーゼ阻害剤組成物および方法を含む。本発明の組成物および方法で治療または予防することができる、レナラーゼの活性または濃度が低いことが望まれる病気または障害の例としては、癌が挙げられるが、これに限定されない。様々な態様では、本発明のレナラーゼ阻害剤組成物および治療または予防方法は、レナラーゼポリペプチドの量、レナラーゼmRNAの量、レナラーゼ酵素活性の量、レナラーゼ基質結合活性の量、またはこれらの組み合わせを減らす。
【0158】
当業者には当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、レナラーゼ濃度の低下は、転写、翻訳、または両方を含むレナラーゼの発現の低下を包含する。また本発明の教示を理解した当業者には自明であるが、レナラーゼ濃度の低下には、レナラーゼ活性(例えば、酵素活性、基質結合活性等)の低下が含まれる。よってレナラーゼの濃度または活性度を下げることには、レナラーゼをコードする核酸の転写、翻訳、または両方の低下、およびレナラーゼポリペプチドの任意の活性の低下が含まれる。本発明のレナラーゼ阻害剤組成物および方法は、選択的にレナラーゼを阻害することができる、あるいはレナラーゼと他の分子の両方を阻害することができる。
【0159】
レナラーゼの阻害は、広範囲にわたる様々な方法(本明細書で開示された方法、当該分野で周知である、あるいは将来発見される方法を含む)を用いて評価することができる。すなわち、当業者には自明であるが、本明細書の開示に基づいて、レナラーゼの濃度または活性度の低下は、レナラーゼをコードする核酸(例えば、mRNA)の濃度、生体試料中に存在するレナラーゼポリペプチドの濃度、レナラーゼ濃度活性(例えば、酵素活性、基質結合活性等)、またはこれらの組み合わせを評価する方法を用いて容易に評価することができる。
【0160】
当業者当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、本発明は、必要とする対象が他の薬物または治療法で治療を受けているかどうかにかかわらず、前記対象の治療または予防に有益である。さらに、当業者には自明であるが、本明細書の教示に基づいて、本明細書に記載される組成物および方法で治療可能な病気または障害は、レナラーゼが役割を果たし、かつ濃度または活性が低いレナラーゼが陽性の治療結果を促進する任意の病気または障害を包含する。
【0161】
レナラーゼの濃度または活性(例えば、酵素活性、基質結合活性等)を低下させる本発明のレナラーゼ阻害剤組成物および方法は、化合物、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、抗体、リボザイム、小分子化合物、アンチセンス核酸分子(例えば、siRNA、miRNA等)、またはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。いくつかの態様では、前記阻害剤はアロステリック阻害剤である。当業者には自明であるが、本明細書の開示に基づいて、レナラーゼ阻害剤組成物は、レナラーゼの濃度または活性度を下げる化合物を包含する。また、化学分野の当業者には周知のことであるが、レナラーゼ阻害剤組成物は、化学的修飾化合物および誘導体を包含する。
【0162】
レナラーゼの濃度または活性(例えば、酵素活性、基質結合活性等)度を低下させる本発明のレナラーゼ阻害剤組成物および方法は、抗体を含む。本発明の抗体は、抗体の各種形態を含み、例えば、ポリクロナール抗体、モノクローナル抗体、細胞内の抗体(「細胞内抗体」)、Fv、Fab、F(ab)2、単鎖抗体(scFv)、重鎖抗体(例えば、ラクダ抗体等)、合成抗体、キメラ抗体、およびヒト化抗体等が挙げられる。一態様では、本発明の抗体は、レナラーゼに特異的結合する抗体である。
【0163】
さらに、本開示と本明細書に例示された方法を理解した当業者には自明であるが、レナラーゼ阻害剤組成物は、将来発見される阻害剤、薬理学の分野で周知の基準(例えば、本明細書で詳細に記載される、および/または当該分野で周知のレナラーゼの阻害の生理学的結果等)で同定可能な阻害剤を含む。したがって、本発明は、本明細書で例示または開示される任意の特定のレナラーゼ阻害剤組成物に限定されるものではなく、むしろ、本発明は、当業者であれば有用であることが分かっている阻害剤組成物(当該分野で周知の阻害剤組成物、および将来発見される阻害剤組成物等)を包含する。
【0164】
さらに、レナラーゼ阻害剤組成物を同定かつ製造する方法は一般の当業者には周知であり、例えば、天然源(例えば、ストレプトマイセス属、シュードモナス属、スチロテラ・アウランチウム等)から阻害剤を得ることを含むが、これに限定されない。あるいは、レナラーゼ阻害剤は化学的に合成することができる。さらに、当業者には自明であるが、本明細書の教示に基づいて、レナラーゼ阻害剤組成物を組み換え生命体から得ることができる。組成物、並びにレナラーゼ阻害剤を化学的に合成する方法およびレナラーゼ阻害剤を天然源から得ることは当該分野で周知であり、かつ記述されている。
【0165】
当業者には自明であるが、小分子化学物質、タンパク質、抗体、タンパク質をコードする核酸構築物、アンチセンス核酸、アンチセンス核酸をコードする核酸構築物、またはこれらの組み合わせとして阻害剤を投与することができる。細胞または組織にタンパク質またはタンパク質をコードする核酸構築物を投与する多くのベクターおよび他の組成物、並びにその方法が周知である。したがって、本発明は、レナラーゼの阻害剤であるタンパク質、またはそのタンパク質をコードする核酸を投与する方法を含む(Sambrook et al., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual(分子クローニング:実験マニュアル), Cold Spring Harbor Laboratory, New York; Ausubel et al., 1997, Current Protocols in Molecular Biology(最新分子生物学プロトコル), John Wiley & Sons, New York)。
【0166】
当業者には自明であるが、本発明の組成物および方法において、それ自身がレナラーゼの量または活性度を上げる分子の量または活性度を下げると、レナラーゼの量または活性度を下げることができる。
【0167】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、RNA分子のある部分に相補的なDNAまたはRNA分子である。細胞に存在する場合、アンチセンスオリゴヌクレオチドは既存のRNA分子にハイブリダイズして、遺伝子産物への翻訳を阻害する。細胞内のアンチセンスオリゴヌクレオチドを発現させる方法(Inoue、米国特許第5,190,931号)と同様に、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた遺伝子発現の阻害も当該分野で周知である(Marcus-Sekura, 1988, Anal. Biochem. 172:289)。本発明の方法は、レナラーゼの量を減らすためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用、あるいはレナラーゼの量または活性度を上げる分子の量を減らしてレナラーゼの量または活性度を下げるためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用を含む。
【0168】
本発明では、一般の当業者に周知の方法で合成されて、細胞に供給されるアンチセンスオリゴヌクレオチドが企図される。一例として、長さが約10~約100個、より好ましくは約15~約50個のヌクレオチドのアンチセンスオリゴヌクレオチドを合成することができる。核酸分子の合成は当該分野で周知である。例えば、未修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドと比較して生体活性が向上した修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドの合成(Tullis, 1991、米国特許第5,023,243号)等である。
【0169】
同様に、アンチセンス分子のプロモーターまたは他の遺伝子制限要素へのハイブリダイゼーションにより遺伝子の発現を阻害して、遺伝子の転写に影響を及ぼしてもよい。目的遺伝子を相互作用するプロモーターまたは他の遺伝子制限要素を同定する方法は、当該分野で周知されており、例えば、酵母菌ツーハイブリッド(二交雑)系(Bartel and Fields編集, In: The Yeast Two Hybrid System(酵母菌ツーハイブリッド系), Oxford University Press, ノースカロライナ州ケーリー)等の方法が挙げられる。
【0170】
あるいは、リボザイムを用いて、レナラーゼ、あるいはレナラーゼの濃度または活性度を上げるタンパク質を遺伝子が発現するのを阻害してもよい。遺伝子発現を阻害するリボザイムの使用は、当業者に周知である(例えば、Cech et al., 1992, J. Biol. Chem. 267:17479; Hampel et al., 1989, Biochemistry 28: 4929; Altman et al., 米国特許第5,168,053号)。リボザイムは、他の一本鎖RNA分子を開裂することができる触媒RNA分子である。リボザイムは、特定の配列であることが分かっており、特定のヌクレオチド配列を認識するように修飾することができ(Cech, 1988, J. Amer. Med. Assn. 260:3030)、特定のmRNA分子を選択可能に開裂することができる。当業者であれば、分子のヌクレオチド配列を前提として、本開示および本明細書に組み込まれた参照文献があれば過度の実験をしなくてもアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムを合成することができるであろう。
【0171】
当業者には自明であるが、レナラーゼの阻害剤の投与は急性的(例えば、1日、1週間、または1ヶ月等の短期間)であってもよく、あるいは慢性的(例えば、数ヶ月または1年以上の長期間)であってもよい。当業者には自明であるが、レナラーゼの阻害剤は、単独あるいは他の阻害剤との任意の組み合わせで投与してもよい。さらに、これらレナラーゼ阻害剤は時間的に単独あるいは任意の組み合わせで投与してもよい。すなわち、ある阻害剤を別の阻害剤と同時あるいはその前後に投与してもよい。当業者には自明であるが、本明細書の開示に基づいて、必要とする対象の病気または障害を治療または予防するためにレナラーゼ阻害剤組成物を用いてもよい。また、阻害剤組成物を単独あるいは治療効果を高めるために他の阻害剤との任意の組み合わせで用いてもよい。
【0172】
様々な態様では、本明細書に記載される本発明のレナラーゼの阻害剤のいずれかを単独で、または癌と関連づけられた他の分子の他の阻害剤と組み合わせて投与してもよい。
【0173】
本明細書に詳述された方法を含む本開示を得た当業者には自明であるが、本発明は、既に確立された病気または障害の治療に限定されない。特に、病気または障害は対象に障害の特徴に対して明らかである必要はなく、実際、病気または障害は治療が施される前の対象で検出される必要がない。すなわち、本発明が恩恵をもたらす前に明らかな病気または障害が起こっている必要はない。したがって、本発明は、対象の病気および障害を予防する方法を含み、本明細書の前出の他の箇所で述べたように、レナラーゼ阻害剤組成物を病気または障害の発症前に対象に投与して、病気または障害の発達を予防することができる。本明細書に記載される予防方法はまた、病気または障害の再発を予防するための寛解期の対象の治療を含む。
【0174】
本明細書の開示を得た当業者には自明であるが、病気または障害の予防は、病気または障害に対する予防的措置として対象にレナラーゼ阻害剤組成物を投与することを包含する。本明細書でさらに詳しく述べるように、レナラーゼの濃度または活性度を下げる方法は、レナラーゼ活性だけでなく、レナラーゼをコードする核酸の発現を減らす広範囲にわたる多くの技術(転写、翻訳の一方または両方の低下を含む)を包含する。
【0175】
また、本明細書の他の箇所で開示するように、本発明の教示を理解した当業者には当然のことであるが、本発明は、レナラーゼの発現および/または活性が病気、障害、または症状を介在、治療、または予防する、広範囲にわたる様々な病気、障害、および症状を予防する方法を包含する。病気がレナラーゼの濃度または活性に関するかどうかを評価する方法は当該分野で周知である。さらに、本発明は、将来発見される病気の治療または予防を包含する。
【0176】
本発明は、レナラーゼの阻害剤の投与は、本発明の方法を実行することを包含し、当業者には当然のことであるが、本明細書の開示に基づいて、適切なレナラーゼ阻害剤を処方して、対象に投与することを包含する。しかしながら、本発明は、投薬計画または治療計画の特定の方法のいずれかに限定されるものではない。
キット
【0177】
本発明はまた、本発明の方法に有用なキットに関する。このようなキットは、本明細書の他の箇所で記載される方法のいずれかに有用な成分の様々な組み合わせを含み、例えば、PMCA4b調節剤、レナラーゼ活性剤、レナラーゼ阻害剤、レナラーゼポリペプチドまたはレナラーゼ核酸を定量分析するための材料、レナラーゼポリペプチドまたはレナラーゼ核酸の活性を評価するための材料、および指示資料を含む。例えば、一態様では、前記キットは、生体試料中のレナラーゼ核酸の定量に有用な成分を含む。他の態様では、前記キットは、生体試料中のレナラーゼポリペプチドの定量に有用な成分を含む。さらなる態様では、前記キットは、生体試料中のレナラーゼポリペプチドの活性(例えば、酵素活性、基質結合活性等)度の評価に有用な成分を含む。
【0178】
さらなる態様では、前記キットは、指示資料を含む、病気または障害を診断する方法または必要とする対象に施される治療法の有効性を監視する方法に関する成分と、前記対象から得た生体試料中のレナラーゼ濃度が治療中または治療後に調節されたかどうかを判定するための成分を含む。様々な態様では、前記対象から得た生体試料中のレナラーゼ濃度が調節されたかどうかを判定するために、このレナラーゼ濃度を前記キットに含まれる少なくとも1つの比較対照(例えば、陽性対照、陰性対照、歴史的対照、歴史的基準等)の濃度または前記生体試料中の他の基準分子の濃度と比較する。特定の態様では、レナラーゼと基準分子の比率が求められて治療の監視を助ける。
医薬品組成物および投与
【0179】
以下で記載するように、PMCA4b調節剤を含む組成物を処方して、対象に投与することができる。一態様では、前記PMCA4b調節剤はPMCA4b活性剤である。他の態様では、前記PMCA4b調節剤はPMCA4b阻害剤である。以下で記載するように、例えば、病気または障害の治療および/または予防に有用なPMCA4b調節剤と同定された組成物を処方して対象に投与することができる。
【0180】
以下で記載するように、レナラーゼポリペプチド、レナラーゼポリペプチド断片、レナラーゼの濃度または活性の活性剤、またはレナラーゼの濃度または活性の阻害剤を含む組成物を処方して対象に投与することができる。以下で記載するように、病気または障害の治療および/または予防のために、有用なレナラーゼ活性剤と同定された組成物を処方して対象に投与することができる。有用なレナラーゼ活性剤としては、レナラーゼポリペプチド、組み換えレナラーゼポリペプチド、および活性レナラーゼポリペプチド断片が挙げられるが、これらに限定されない。以下で記載するように、病気または障害の治療および/または予防のために、有用なレナラーゼ阻害剤と同定された組成物を処方して対象に投与することができる。有用なレナラーゼ阻害剤と同定された組成物の例としては、化合物、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、抗体、リボザイム、小分子化合物、アンチセンス核酸分子(例えば、siRNA、miRNA等)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0181】
本発明は、本明細書では薬効成分として開示された病気または障害の治療および/または予防に有用な組成物を含む医薬品組成物の調製および使用を包含する。このような医薬品組成物は、対象に投与するのに好適な形態とした前記薬効成分のみからなっていてもよく、あるいは、前記薬効成分と、1種以上の薬学的に容認可能な担体、1種以上の追加成分、あるいはこれらの組み合わせを含んでいてもよい。当該分野で周知のように、前記薬効成分は、生理学的に容認可能なエステルまたは塩(例えば、生理学的に容認可能な陽イオンまたは陰イオンとの組み合わせ)の形態で前記医薬品組成物に存在してもよい。様々な態様では、本明細書の他の箇所で記載されるように、前記薬効成分はPMCA4b調節剤である。
【0182】
本明細書を通して、用語「薬学的に容認可能な担体」は、適切なPMCA4b調節剤と組み合わせてもよく、対象にその適切なPMCA4b調節剤を投与するために組み合わせた後に用いることができる化学組成物を意味する。
【0183】
本発明を実行するのに有用な医薬品組成物を投与して、約0.1ng/kg/日から100mg/kg/日またはそれ以上の投与量を供給してもよい。
【0184】
様々な態様では、本発明の方法に有用な医薬品組成物は、例えば、経口投与製剤や吸入型製剤等(固体またはエアゾルを含む)、局所投与製剤や他の類似の製剤として全身に、非経口から、または局所に投与してもよい。この適切な治療組成物に加えて、このような医薬品組成物は、薬学的に容認可能な担体と、薬物の投与を高めて容易にすることが知られている他の成分を含んでいてもよい。他の可能な製剤、例えば、ナノ粒子、リポソーム、再封入赤血球、および免疫系等を用いて、本発明の方法による適切な調節剤を投与してもよい。
【0185】
本明細書を通して、用語「生理学的に容認可能な」エステルまたは塩は、前記組成物が投与される対象にとって有害ではない医薬品組成物の任意の他の成分と相溶性である薬効成分のエステルまたは塩の形態を意味する。
【0186】
本明細書に記載される医薬品組成物の製剤は、周知の方法、あるいは薬理学の当該分野で開発されたいずれかの方法で調製されてもよい。一般に、そのような調製方法は、前記薬効成分を担体または1種以上の他の補助成分と関連づける工程と、必要に応じて、この生成物を所望の単回投与単位または複数回投与単位の形態にする、あるいは包装する工程を含む。
【0187】
原則として、本明細書の医薬品組成物の記述はヒトへの医療用投与に好適な医薬品組成物に向けられたものであるが、当業者には自明であるように、そのような組成物は一般にすべての種類の動物への投与に好適である。自明ではあるが、ヒトに投与するのに好適な医薬品組成物を修正して様々な動物に投与するのに好適な組成物が提供される。また、獣医薬理学者であれば、任意で一般的な実験のみでそのような修正を設計および実行することができる。
【0188】
本発明の方法に有用な医薬品組成物は、経口投与、直腸投与、膣投与、非経口投与、局所投与、肺投与、経鼻投与、口腔投与、静脈内投与、経皮投与、皮下投与、筋肉内投与、経眼投与、髄腔内投与、および他の周知の投与経路に好適な製剤として調製、包装、または販売されてもよい。その他の企図された製剤としては、薬効成分を含むナノ粒子、リポソーム調製物、再封入赤血球、および免疫製剤が挙げられる。
【0189】
本発明の医薬品組成物は、単回投与量または複数の単回投与量としてまとめて調製、包装、または販売されてもよい。本明細書を通して、「単回投与量」は、所定量の薬効成分を含む医薬品組成物の個別の量である。一般に、薬効成分の量は、対象に投与される薬効成分の投与量、またはその投与量の簡便な分率(例えば、投与量の半分または3分の1等)に等しい。
【0190】
本発明の医薬品組成物中の薬効成分、薬学的に容認可能な担体、および任意の追加成分の相対量は、治療される対象の固有性、体格、および状態や組成物の投与経路により変化する。例えば、前記組成物は0.1%~100%(w/w)の薬効成分を含んでいてもよい。
【0191】
本発明の医薬品組成物は、前記薬効成分に加えて、さらに1種以上の追加の薬学的活性剤を含んでいてもよい。
【0192】
従来技術を用いて本発明の医薬品組成物の制御放出性すなわち徐放性製剤を作成してもよい。
【0193】
経口投与に好適な本発明の医薬品組成物の製剤は、個別の固体の投与量単位の形態で調製、包装、または販売されてもよい。例えば、所定量の薬効成分を含む錠剤、ハードカプセル、ソフトカプセル、カシェー剤、トローチ、または薬用キャンディーが挙げられるが、これらに限定されない。経口投与に好適なその他の製剤としては、粉末または顆粒製剤、水性または油性懸濁液、水性または油性溶液、乳液等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0194】
医薬品組成物の製造に用いられる医薬品として容認可能な賦形剤としては、不活性希釈剤、造粒剤、崩壊剤、結合剤、および潤滑剤等が挙げられるが、これらに限定されない。既知の分散剤としては、かたくり粉およびデンプングリコール酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。既知の界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムが挙げられるが、これに限定されない。既知の希釈剤としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、微結晶性セルロース、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、およびリン酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。既知の造粒剤および崩壊剤としては、トウモロコシ澱粉およびアルギン酸が挙げられるが、これらに限定されない。既知の結合剤としては、ゼラチン、アカシア樹脂、ゼラチン化前トウモロコシ澱粉、ポリビニルピロリドン、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられるが、これらに限定されない。既知の潤滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、シリカ、およびタルクが挙げられるが、これらに限定されない。
【0195】
本発明の医薬品組成物の液体製剤は、液体形態、または使用前に水または他の好適な媒体で再構築することを意図された乾燥品の形態で調製、包装、または販売されてもよい。
【0196】
従来の方法を用いて懸濁液を調製して、水性または油性媒体に薬効成分を懸濁させた懸濁液を得てもよい。水性媒体としては、水および等張生理食塩水が挙げられる。油性媒体としては、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、植物油(例えば、落花生油、オリーブ油、ごま油、ココナッツ油、分画植物油等)、および鉱油(例えば、流動パラフィン等)が挙げられる。懸濁液はさらに1種以上の追加成分を含んでいてもよく、例えば、懸濁剤、分散剤、湿潤剤、乳化剤、粘滑剤、保存料、緩衝剤、塩、風味料、着色剤、および甘味剤等が挙げられるが、これらに限定されない。油性懸濁液はさらに増粘剤を含んでいてもよい。
【0197】
既知の懸濁剤としては、ソルビトールシロップ、水添食用脂、アルギン酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、トラガカントガム、アカシアガム、およびセルロース誘導体(例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース等)が挙げられるが、これらに限定されない。既知の分散剤または湿潤剤としては、天然のリン酸脂質(例えば、レシチン等)、アルキレンオキシドの脂肪酸、長鎖脂肪族アルコール、脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステル、または脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来する部分エステルとの縮合生成物(例えば、それぞれ、ステアリン酸ポリオキシエチレン、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、一オレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール、および一オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等)が挙げられるが、これらに限定されない。既知の乳化剤としは、レシチンおよびアカシアが挙げられるが、これらに限定されない。既知の保存料としては、パラヒドロキシ安息香酸メチル、パラヒドロキシ安息香酸エチル、パラヒドロキシ安息香酸n-プロピル、アスコルビン酸、およびソルビン酸が挙げられるが、これらに限定されない。既知の甘味剤としては、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、スクロース、およびサッカリンが挙げられる。油性懸濁液用の既知の増粘剤としては、蜜蝋、固形パラフィン、およびセチルアルコールが挙げられる。
【0198】
水性または油性溶媒の薬効成分の溶液は、懸濁液と実質的に同じように調製してもよく、主要な違いは薬効成分が溶媒中に懸濁されるのではなく、溶解されていることである。本発明の医薬品組成物の溶液は、懸濁液について記載した成分のそれぞれを含んでいてもよく、自明であるが、懸濁剤は必ずしも薬効成分が溶媒に溶解するのを助けるものではない。水性溶媒としては、水および等張生理食塩水が挙げられる。油性溶媒としては、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、植物油(例えば、落花生油、オリーブ油、ごま油、ココナッツ油、分画植物油等)、および鉱油(例えば、流動パラフィン等)が挙げられる。
【0199】
本発明の医薬品調製物の粉末および顆粒製剤は周知の方法を用いて調製してもよい。そのような製剤は、例えば、錠剤を形成する、カプセルに入れる、水性または油性懸濁液や水性または油性媒体を加えた溶液を調製する等して、対象に直接投与してもよい。これら製剤のそれぞれは、さらに、1種以上の分散剤、湿潤剤、懸濁剤、および保存料を含んでいてもよい。また、これら製剤には追加の賦形剤(例えば、充填剤、甘味剤、風味料、着色剤等)が含まれていてもよい。
【0200】
本発明の医薬品組成物はまた、水中油乳液または油中水乳液の形態で調製、包装、または販売されてもよい。油相は、植物油(例えば、オリーブ油、落花生油等)、鉱油(例えば、流動パラフィン等)、あるいはこれら組み合わせであってもよい。このような組成物はさらに1種以上の乳化剤を含んでいてもよく、乳化剤としては自然に存在するガム(例えば、アカシアガム、トラガカントガム等)、天然のリン酸脂質(例えば、大豆、レシチンリン酸脂質等)、脂肪酸およびヘキシトール無水物(例えば、一オレイン酸ソルビタン等)の組み合わせに由来するエステルまたは部分エステル、およびそのような部分エステルのエチレンオキシドとの縮合生成物(例えば、一オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等)が挙げられる。これらの乳液はまた、甘味剤または風味料等の追加成分を含んでいてもよい。
【0201】
化学組成物で材料を含浸または被覆する方法が当該分野で周知であり、例えば、化学組成物を表面に蒸着または結合させる方法、材料(すなわち、生理学的に分解可能な材料等)の合成時に化学組成物をその材料の構造に組み込む方法、および水性または油性溶液または懸濁液を吸収剤に吸収させ、その後任意で乾燥させる方法等が含まれるが、これらに限定されない。
【0202】
本明細書を通して、医薬品組成物の「非経口投与」は、対象の組織の物理的割れ目によって特徴づけられる経路およびその組織の割れ目を介して医薬品組成物を投与する経路のいずれかの経路を含む。したがって、非経口投与としては、組成物の注射、外科的切開による組成物の塗布、組織を貫通する非外科的外傷への組成物の塗布による医薬品組成物の投与が挙げられるが、これらに限定されない。特に、非経口投与は、皮膚投与、皮下投与、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、嚢内注射、および腎臓透析点滴技術を含むことが企図されるが、これらに限定されない。
【0203】
非経口投与に好適な医薬品組成物の製剤は、薬学的に容認可能な担体(例えば、殺菌水、殺菌等張生理食塩水等)と混合した薬効成分を含む。そのような製剤は、急速静注投与または連続投与に好適な形態で調製、包装、または販売されてもよい。注射可能な製剤は、(例えば、アンプルで、あるいは保存料を含む複数投与分入りの容器等)単位投与形態で調製、包装、または販売されてもよい。非経口投与の製剤としては、懸濁液、溶液、油性または水性媒体の乳液、ペースト、および埋め込み可能な徐放性製剤または生分解性製剤が挙げられるが、これらに限定されない。このような製剤はさらに、懸濁剤、安定剤、または分散剤を含む1種以上の追加の成分を含んでいてもよいが、これらに限定されない。非経口投与の製剤の一態様では、薬効成分は、乾燥(すなわち、粉末または顆粒)形態で提供され、再構成組成物を非経口投与する前に好適な媒体(例えば、発熱物質を含まない殺菌水等)で再構成される。
【0204】
前記医薬品組成物は、殺菌された注射可能な水性または油性懸濁液あるいは溶液の形態で調製、包装、または販売されてもよい。この濁液または溶液は、周知の技術により処方されてもよく、前記薬効成分に加えて、本明細書に記載される追加の成分(例えば、分散剤、湿潤剤、または懸濁剤等)を含んでいてもよい。このような殺菌された注射可能な製剤は、非毒性非経口投与に容認可能な希釈剤または溶媒(例えば、水、1,3-ブタンジオール等)を用いて調製されてもよい。その他の容認可能な希釈剤および溶媒としては、リンガー液、等張塩化ナトリウム溶液、および固定油(例えば、合成モノまたはジグリセリド等)が挙げられるが、これらに限定されない。他の有用な非経口投与可能な製剤としては、微結晶形態に薬効成分を含むもの、リポソーム調製物に薬効成分を含むもの、あるいは生分解性重合体系中の成分として薬効成分を含むもの等が挙げられる。徐放または埋め込み用の組成物は、薬学的に容認可能な重合体材料または疎水性材料(例えば、乳液、イオン交換樹脂、難溶性重合体、または難溶性塩等)を含んでいてもよい。
【0205】
局所投与に好適な製剤としては、液状または半液状調製物(例えば、塗布薬、水薬等)、水中油または油中水乳液(例えば、クリーム、軟膏、ペースト等)、および溶液または懸濁液が挙げられるが、これらに限定されない。局所投与可能な製剤は、例えば、約1%~約10%(w/w)の薬効成分を含んでいてもよいが、薬効成分の濃度は溶媒中の薬効成分の溶解度限界と同じであってもよい。局所投与用の製剤はさらに、本明細書に記載される追加成分を1種以上含んでいてもよい。
【0206】
本発明の医薬品組成物は、口腔を経由した経肺投与に好適な製剤として調製、包装、または販売されてもよい。そのような製剤は、薬効成分を含み、直径が約0.5~約7ナノメートル、好ましくは約1~約6ナノメートルの範囲の乾燥粒子を含んでいてもよい。そのような組成物は、推進剤の流れを向けて粉末を分散させてもよい乾燥粉末容器を含む装置、または自力推進型の溶媒/粉末分散容器(例えば、密閉容器内で低沸点推進剤に溶解または懸濁させた薬効成分を含む装置等)を用いて投与するのに簡便な乾燥粉末の形態である。そのような粉末は、粒子の少なくとも98重量%が直径0.5ナノメートル超であり、粒子の少なくとも95個数%が直径7ナノメートル未満である粒子を含むことが好ましい。粒子の少なくとも95重量%が直径1ナノメートル超であり、粒子の少なくとも90個数%が直径6ナノメートル未満であることがより好ましい。乾燥粉末組成物は、好ましくは糖等の固体微粉体希釈剤を含み、単位投与形態で簡便に提供される。
【0207】
一般に、低沸点推進剤としては、沸点が大気圧で65°F未満の液体推進剤が挙げられる。一般に、前記推進剤は前記組成物の50~99.9%(w/w)を占めていてもよく、前記薬効成分は前記組成物の0.1~20%(w/w)を占めていてもよい。前記推進剤はさらに、追加の成分、例えば、液体非イオン性または固体陰イオン性界面活性剤あるいは固体希釈剤(好ましくは薬効成分を含む粒子と同程度の粒径を有する)を含んでいてもよい。
【0208】
肺に供給するように処方された本発明の医薬品組成物はまた、溶液または懸濁液の液滴の形態で薬効成分を提供してもよい。そのような製剤は、前記薬効成分を含み、任意で殺菌された水性溶液または懸濁液あるいは希釈アルコール溶液または懸濁液として調製、包装、または販売されてもよい。また、前記製剤は任意の噴霧装置を用いて簡便に投与してもよい。そのような製剤はさらに、1種以上の追加の成分を含んでいてもよく、例えば風味料(例えば、サッカリンナトリウム等)、揮発性油、緩衝剤、表面活性剤、または保存料(例えば、ヒドロキシ安息香酸メチル等)等が挙げられるが、これらに限定されない。この投与経路で提供される液滴は、平均直径が約0.1~約200ナノメートルの範囲であることが好ましい。本明細書に記載される肺への供給に有用な製剤はまた、本発明の医薬品組成物の経鼻供給にも有用である。経鼻投与に好適な他の製剤は、前記薬効成分を含む、平均粒径が約0.2~500ミクロンの粗い粉末である。
【0209】
そのような製剤は、嗅ぎタバコを飲むようなやり方、すなわち粉末容器を鼻孔に近づけて鼻腔から素早く吸い込むようにして投与される。経鼻投与に好適な製剤は、例えば、薬効成分の約0.1%(w/w)~100%(w/w)を含んでいてもよく、さらに、本明細書に記載される追加の成分を1種以上含んでいてもよい。
【0210】
本発明の医薬品組成物は、口腔投与に好適な製剤として調製、包装、または販売されてもよい。そのような製剤は、例えば、従来の方法を用いて作成された錠剤またはトローチ剤の形態であってもよく、例えば、0.1~20%(w/w)の薬効成分を含んでいてもよい。前記製剤は経口投与で可溶性または分解性組成物と、任意で本明細書に記載される追加の成分を1種以上含んでいてもよい。また、口腔投与に好適な製剤は、前記薬効成分を含む粉末、またはエアゾル化または噴霧化された溶液あるいは懸濁液を含んでいてもよい。このような粉末化、エアゾル化、または噴霧化された製剤を分散した状態で、平均粒径または平均液滴径が約0.1~約200ナノメートルの範囲であることが好ましく、さらに本明細書に記載される追加の成分を1種以上含んでいてもよい。
【0211】
本発明の医薬品組成物は、経眼投与に好適な製剤として調製、包装、または販売されてもよい。そのような製剤は、例えば、水性または油性液状担体中の薬効成分の0.1~1.0%(w/w)溶液または懸濁液を含む点眼剤の形態であってもよい。このような点眼剤はさらに、緩衝剤、塩、または1種以上の本明細書に記載される他の追加の成分を含んでいてもよい。その他の有用な経眼投与可能な製剤としては、微結晶形態またはリポソーム調製物に薬効成分を含むものが挙げられる。
【0212】
本明細書を通して、「追加の成分」としては、以下のうちの1種以上が挙げられるが、これらに限定されない:賦形剤、界面活性剤、分散剤、不活性希釈剤、造粒剤および崩壊剤、結合剤、潤滑剤、甘味剤、風味料、着色剤、保存料、生理学的に分解可能な組成物(例えば、ゼラチン等)、水性媒体および溶媒、油性媒体および溶媒、懸濁剤、分散剤または湿潤剤、乳化剤、粘滑剤、緩衝剤、塩、増粘剤、充填剤、乳化剤、酸化防止剤、抗生物質、抗真菌剤、安定剤、および薬学的に容認可能な重合体材料または疎水性材料。本発明の医薬品組成物に含まれてもよい他の「追加の成分」としては、当該分野で周知であり、例えばGenaro編集, 1985, Remington's Pharmaceutical Sciences(レミントンの医薬品科学), Mack Publishing Co., ペンシルベニア州イーストン(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0213】
動物、好ましくはヒトに投与してもよい本発明の化合物の投与量は、通常、前記動物の体重1キログラム当たり約0.01mg~約1000mgの範囲の量である。正確な投与量は任意数の因子により変化する。この因子は動物の種類、治療される病気または障害の種類、動物の年齢、および投与経路が含まれるが、これらに限定されない。化合物の投与量は、前記動物の体重1キログラム当たり約1mg~約100mgであることが好ましい。前記化合物は、1日数回の頻度で動物に投与してもよく、あるいはもっと少ない頻度(例えば1日1回、1週間に1回、2週間に1回、1ヶ月に1回)、あるいはさらに少ない頻度(例えば数ヶ月に1回、最大1年に1回)で投与してもよい。投与量の頻度は、当業者には自明であり、任意数の因子に依存する。その因子としては、治療される病気または障害の種類および重症度、動物の種類および年齢等が挙げられるが、これらに限定されない。
実験例
【0214】
以下の実験例を参照して本発明をさらに詳細に記載する。これらの実施例は、例示の目的のためのみに提供されており、特に断りがなければ限定を意図するものではない。よって、本発明は以下の実施例に限定されるものと解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書で提供される教示の結果明らかとなるいかなる変形およびすべての変形をも包含すると解釈するべきである。
【0215】
さらなる記述がなくとも、当業者であれば、前出の記載および以下の例示としての実施例を用いて本発明を実施・利用し、特許請求された方法を実行することができると考えられる。したがって、以下の実施例は、具体的には、本発明の好ましい態様を指摘するものであり、本開示の残りの部分を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例
【0216】
実施例1:細胞外レナラーゼの受容体の同定
本明細書に記載される結果から、レナラーゼ受容体およびレナラーゼ依存MAPK信号伝達の主要媒介体としてPMCA4bが同定される。ヒト近位尿細管細胞株HK-2のRP-220を用いたビオチントランスファー研究および質量分析によるタンパク質同定を用いて、PMCA4bをレナラーゼ結合タンパク質と同定した。この事前に特徴づけられた細胞膜ATP分解酵素は、細胞の信号伝達および心臓肥大に関わる。共免疫沈殿および共免疫学的局在決定から、内因性レナラーゼとPMCA4bのタンパク質-タンパク質相互作用が確認された。siRNA形質移入による内因性PMCA4b発現の下方制御、あるいは特定のペプチド阻害剤カロキシン1bによるその酵素活性の阻害により、RP-220に依存するMAPK信号伝達および細胞保護作用が抑止された。対照研究では、これらの操作は上皮成長因子が媒介する信号伝達に何の効果も及ぼす、PMCA4bとレナラーゼの相互作用の特異性が確認された。
これらの実験で用いた材料および方法を以下に記載する。
【0217】
材料および方法
レナラーゼおよびレナラーゼペプチドの合成および分析
レナラーゼペプチド(配列番号1~7;図1A)をアミノ末端でアセチル化し、98%均質になるまで精製した(United Peptide、ヴァージニア州ハーンドン)。前述の通り、組換えレナラーゼを合成した(Desir et al., 2012, J. Am. Heart Assoc. 1:e002634)。レナラーゼペプチドRP-220(hRenalase1のアミノ酸220~239;配列番号4)に対して生成された抗レナラーゼモノクローナル抗体を用いてレナラーゼの発現を検出した。
【0218】
レナラーゼ受容体の架橋および同定
レナラーゼペプチド220(RP-220;配列番号4)および組み換えレナラーゼペプチド(RP-Scr220、対照ペプチド;配列番号7)(図1A)に存在する単一のアミノ末端システインによって形成される可能性があるジスルフィド結合を、固定化還元カラム(#77701, Pierce Biotechnology, イリノイ州ロックフォード)を用いて切断した。この還元ペプチドを溶出により回収して、浮遊スルフヒドリル基の濃度をエルマン試薬(#22582, Pierce Biotechnology, イリノイ州ロックフォード)を用いて推定した。
【0219】
製造者の指示に従って、還元RP-220(配列番号4)およびRP-Scr220 (配列番号7)を結合させて三官能の架橋剤Mts-Atf-ビオチン(#33093, Pierce Biotechnology, イリノイ州ロックフォード)を得た。結合を、スルフヒドリル反応性のメタンチオスルホン酸(Mts)部位と、Mtsとの間のスペーサーアームを介して形成した。光活性性のアジ化四フルオロフェニル(Atf)部位は11Åであった。ストレプトアビジンHRPを用いたドットブロットにより架橋効率を推定して、ビオチン組み込み率を測定した(#21130, Pierce Biotechnology, イリノイ州ロックフォード)。標識プローブを使用するまで光から保護し、50μlの分割量、-80℃で保管した。
【0220】
アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC、ヴァージニア州マナサス)から入手したHK-2細胞(ヒト近位尿細管細胞株)を、グルタミン、10%のFBS、抗生物質、および5%のCOを補充したDMEM/F12培地を入れた150mmの皿の中で、37℃で集密度が80%になるまで成長させた。細胞を4℃まで冷却して、プローブの内部移行を防止した。次いで、50μgのMts-Atf-ビオチンRP220またはRP-Scr220と共に16時間培養した。Stratalinker 2500(Stratagene, アジレント・テクノロジーズ社、カリフォルニア州サンタバーバラ)を用いて細胞を紫外線に5分間暴露してプローブの架橋を開始した。
【0221】
細胞をプロテアーゼ阻害剤(Complete Ultra # 05892953001, ロシュ・ダイアグノスティックス社、インディアナ州インディアナポリス)と共にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁し、冷凍-解凍を3サイクル行った。膜の画分を遠心分離法(180,000gで1時間)により回収して、RIPA緩衝剤(20mMのTris-HCl(pH:7.5)、150mMのNaCl、1mMのNaEDTA、1mMのEGTA、1%のNP-40、1%のデオキシコール酸ナトリウム、2.5mMのピロリン酸ナトリウム、1mMのグリセロリン酸塩、1mMのNaVO、1μg/mlのロイペプチン)(Cell Signaling Technologies、マサチューセッツ州ダンバース)に4℃で4時間溶解した。
【0222】
製造者の指示に従って、このビオチン標識タンパク質をストレプトアビジンアガロース樹脂(Pierce Biotechnology, イリノイ州ロックフォード)を用いて精製した。このタンパク質を4~20%の勾配ゲル(Bio-Rad, カリフォルニア州ハーキュリーズ)を用いたSDS PAGEおよびストレプトアビジンHRPを用いたサザンブロッティングにより分離して、タンパク質のバンドを同定したところ、主にレナラーゼベイト(餌)RP-220に架橋されていることがわかった。これらのバンドおよび対照ベイトRP-Scr220に架橋された試料に由来する対応するバンドをクーマシーブルー染色したゲルから切り出して、個々のタンパク質を質量分析 (Yale Keck Biotechnology Resource Laboratory)により同定した。RP-220に架橋された試料に一貫して存在する細胞膜タンパク質および対照ベイトRP-Scr220に架橋された試料に存在しない細胞膜タンパク質をさらに評価した。
siRNAを用いたPMCA4b発現の下方制御
【0223】
ATP2B4(PMCA4b)に特異的なsiRNAおよび非対象の対照(SMARTpool ON-TARGETplus ATP2B4 siRNA, L-006118-00-0005)をサーモフィッシャー・サイエンティフィック社(マサチューセッツ州ウォルサム)から購入して、Lipofectamine 2000(Invitrogen, Life Technologies、ニューヨーク州グランドアイランド)を用いてHK-2細胞に導入した。HK-2細胞を10%のFBSを含むDMEM/F12培地に入れて、70%の集密度まで成長させた。抗PMCA4マウスモノクローナル抗体(#H00000493-M07, Novus Biologicals, コロラド州リトルトン)を用いたウェスタン免疫ブロットによりPMCA4bタンパク質の発現を評価した。
PMCA4bおよびレナラーゼの内因性共発現の検出
【0224】
HK-2細胞は内因的にレナラーゼおよびPMCA4bを多く発現するが、このHK-2細胞を固定し、透過処理し、ヤギポリクロナール抗レナラーゼ抗体(# AF5350, R&D Systems, ミネソタ州ミネアポリス)および抗PMCA4マウスモノクローナル抗体(#H00000493-M07, Novus Biologicals, コロラド州リトルトン)と共に室温で2時間培養した。2種の標識二次抗体(レナラーゼを検出するためのAlexa488-ウサギ抗ヤギ抗体およびPMCA4を検出するためのAlexa555-ヤギ抗マウス抗体, Molecular Probe, Life Technologies、ニューヨーク州グランドアイランド)を加えた後、ツァイスLSM510共焦点画像処理システムを用いて細胞を調べた。
内因性PMCA4bおよびレナラーゼの共免疫沈殿
【0225】
氷冷したRIPA緩衝剤(Cell Signaling Technologies, マサチューセッツ州ダンバース)を用いてHK-2細胞を溶解し、溶菌液を14,000gで15分間遠心分離した。上澄みを回収して、タンパク質A/Gアガロースビーズ(Santa Cruz Biotechnology, カリフォルニア州サンタクルズ)と共に培養して非特異的結合を還元した。A/Gアガロースビーズと、ヤギポリクロナール抗レナラーゼ抗体または抗PMCA4マウスモノクローナル抗体のいずれかを用いて免疫沈殿を行い、ウェスタンブロッティングでタンパク質を可視化した。
遺伝子発現の分析
【0226】
組織試料に由来する全RNAをRNeasy Plusキット(Qiagen, カリフォルニア州ヴァレンシア)を用いて抽出し、Omniscript RTキット(Qiagen, カリフォルニア州ヴァレンシア)を用いてcDNAを合成した。腎臓中のPMCA4b mRNAをリアルタイムPCRによりレナラーゼKOマウスで評価し、WT試料中の対応する濃度(1.0とする)に対して正規化した。標的cDNAをQiagen Dr_atp2b4_1_SG QuantiTectプライマーアッセイおよびPlatinum SYBR Green qPCR superMix-UDGを用いて増幅した。標準サイクリング条件をStep-One-PlusリアルタイムPCRシステム(アプライド・バイオシステムズ社)で実行して、得られたCt値を2ΔΔCT法で分析した。
シスプラチン毒性の体外モデル
【0227】
ATTC(米国ヴァージニア州マナサス)から入手したHK-2細胞(ヒト近位尿細管細胞株)をグルタミン、10%のFBS、および抗生物質を補充したDMEM/F12で培養して、5%のCO中で37℃に維持した。組み換えレナラーゼまたはレナラーゼペプチドの存在下または非存在下で細胞をシスプラチン(20μM)に24時間暴露して、細胞生存率をWST1方法(Roche Applied Science, ドイツ)により評価した。
【0228】
レナラーゼ依存MAPK信号伝達を調べるため、陽性対照としてRP-220(15ug/ml)またはEGF(100ng/ml)で処理した細胞を、RIPA緩衝剤(20mMのTris-HCl(pH:7.5)、150mMのNaCl、1mMのNaEDTA、1mMのEGTA、1%のNP-40、1%のデオキシコール酸ナトリウム、2.5mMのピロリン酸ナトリウム、1mMのα-グリセロリン酸塩、1mMのNaVO、1μg/mlのロイペプチン)にプロテアーゼとホスファターゼ阻害剤の混合物(Roche Applied Science, ドイツ)を補充したもの中に収集した。タンパク質をSDS-PAGEで分離して、免疫ブロッティングを以下の抗体を用いて行った:抗レナラーゼモノクローナル抗体 (Desir et al., 2012, J. Am. Heart Assoc. 1:e002634; Lee et al., 2013, J. Am. Soc. Nephrol. 24:445-455)、およびトータルERKおよびホスホリル化ERK、p38、およびJNKに特異的な抗体(Cell Signaling Technology, 米国マサチューセッツ州)。以下の阻害剤をシグマアルドリッチ社(ミズーリ州セントルイス)から入手した:ERK1/2に対してU0126(1,4-ジアミノ-2,3-ジシアノ-1,4-ビス[2-アミノフェニルチオ])、およびp38α-βに対してSB203580(4-[4’-フルオロフェニル]-2-[4’-メチルスルフィニルフェニル]-5-[4’-ピリジル]-イミダゾール)。
統計分析
【0229】
必要に応じて、ランク付けによるクラスカル-ウォリス一元配置分散分析を用いて統計的有意性を評価した。クラスカル-ウォリス検定により統計的有意性が現れた場合は、マン・ホイットニー検定を用いて対を比較した。すべてのデータは中央値±標準誤差であり、P<0.05の値を統計的に有意な差として容認した。統計分析はGraphPad Prism(GraphPad Software, Inc.)を用いて行った。
実験結果を以下に記載する。
【0230】
p38MAPK活性化に結びつけられるシスプラチン毒性に対するRP-220による保護
これまで示されているように、レナラーゼKOマウスでは、レナラーゼの欠乏が虚血性AKIを悪化させるが、組み換えレナラーゼを投与するとAKIが大きく衰退する(Lee et al., 2013, J. Am. Soc. Nephrol. 24:445-455)。追加の研究では、虚血性AKIおよびシスプラチンAKIに対するレナラーゼの保護効果はレナラーゼの酵素活性に依存するものではなく、むしろ、レナラーゼまたは短いレナラーゼペプチド(RP-224、RP-220、およびRP-H220、図1a)と受容体との相互作用によって媒介される。組み換えレナラーゼペプチドRP-Scr220は、MAPK信号伝達を活性化せず、よって細胞を保護しなかった(Wang et al., 2014, J. Am. Soc. Nephrol. DOI:10.1681/asn.2013060665)。レナラーゼペプチドの保護効果は、細胞の生存率を促進する細胞内信号伝達の活性化に対応していた(Wang et al., 2014, J. Am. Soc. Nephrol. DOI:10.1681/asn.2013060665)。
【0231】
細胞外レナラーゼの受容体を同定するプローブとしてRP-220を用いることができるかどうかを決定するために、変異したRP-220(RP-A220;配列番号6)、レナラーゼペプチドRP-19(配列番号1およびRP-128(配列番号2)、図1A)のシスプラチン毒性に対する保護効果とRP-220のシスプラチン毒性に対する保護効果を比較してその特異性を調べた。レナラーゼペプチドRP-19およびRP-128を選択したのは、これらが推定ERKドッキング(D)領域(Motif Scan)を含むからである(Roux and Blenis, 2004, Microbiol. Mol. Biol. Rev. 68:320-344)。RP-220は、投与量に応じて、24時間シスプラチンに暴露したHK-2細胞を有意に保護した(図1B)。対照ペプチドRP-19、RP-128、およびRP-A220では細胞の生存率は向上しなかった。実際、最も高い濃度(80μg/ml)でRP-A220はシスプラチン毒性を増悪させた。組み換えレナラーゼ(80μg/ml)、RP-224(100μg/ml)、RP-220(15μg/ml)、およびRP-H220(15μg/ml)ではHK-2細胞が同程度保護された(図1C)。RP-220およびRP-H220の濃度依存性の効果は、どちらのペプチドもHK-2細胞のシスプラチン細胞毒性に対する保護という点では等しい効力を持つことを示しており、RP-220(15μg/ml)を後続のすべての研究で用いた(図1D)。
【0232】
これまで示されたようにRenalase1およびRP-220による治療ではいずれも、HK-2細胞におけるERKおよびp38リン酸化が急速に促進された(Wang et al., 2014, J. Am. Soc. Nephrol. DOI:10.1681/asn.2013060665)。RP-220によるHK-2細胞のシスプラチン細胞毒性に対する保護がMAPK活性化に結びつけられるかどうかを調べるため、シスプラチンに暴露したHK-2細胞のMAPK信号伝達のパターンを初期の時点(1~60分)でRP-220を用いた場合と用いない場合について調べた。シスプラチンのみの場合は、ERKおよびp38リン酸化は穏やかに促進された(図2A~2C)。このp38リン酸化に及ぼす効果は、RP-220の添加により大きく向上した(5倍)(図2C)。しかしながら、ERK活性化に関しては、シスプラチンのみで誘発されたものに対してRP-220を用いてもわずかに向上(0.5倍)しただけであった(図2B)。任意の特定の理論に束縛されるものではないが、これらの結果は、RP-220の細胞保護作用は、ERKではなくp38の活性化によるものである可能性を示唆している。
【0233】
RP-220の保護効果の媒介としてERKおよびp38の相対的な重要性を求めるために、これらの活性を化学的に阻害した。対照条件のHK-2細胞でERK1/2(U0126)またはp38α-β(SB203580)の活性の低下について調べた。対照研究では、ERKおよびp38を阻害しても何ら有害な効果が見られず、HK-2細胞の生存率の低下も見られなかった(図3A)。シスプラチンおよびRP-220の両方で処理したHK-2細胞では、ERKを阻害してもRP-H220によってもたらされていた保護作用は低下しなかった(図3B)。これに対して、p38を阻害すると、RP-220の保護作用は完全に抑止された(図3B)。この結果から、p38がシスプラチン毒性に対するRP-220の保護作用の主要な媒介であるという仮説が強く支持される。
【0234】
細胞外レナラーゼは細胞膜Ca++ATP分解酵素イソ型PMCA4bに結合する
細胞外レナラーゼと相互作用する細胞膜タンパク質を同定するプローブとしてRP-220を用いた。RP-220のN終端に位置する単一のシステインに結合した標識トランスファー試薬Mts-Atf-ビオチンによるビオチン標識トランスファー法を用いた。標識化RP-220を4℃で24時間HK-2細胞と共に培養して内部移行を最少にし、UV光に暴露させて相互作用するタンパク質に結合させた。このビオチン標識化タンパク質をストレプトアビジンカラムを用いて精製し、質量分析により同定した。この細胞膜カルシウムATP分解酵素イソ型PMCA4bを再生可能な方法でRP-220に結合させた(図4A)。PMCA4bをHK-2細胞で大量に発現させて(図4B)、HK-2細胞の細胞膜(矢印)および細胞質内にレナラーゼと共局所化した(図4C)。
【0235】
内因的に発現させたPMCA4bとRP-220との体外相互作用を共免疫沈殿により評価した。PMCA4bまたはレナラーゼ抗体のいずれかで被覆したアガロースビーズはレナラーゼの全細胞溶菌液を枯渇させた(図4Dの上のブロットのレーン1に対してレーン2および3)。また、レナラーゼはこの2つのビーズのセットから溶出された(図4Dの上のブロットのレーン4~5)。このブロットを抗PMCA4b抗体等で再探索した。PMCA4bはこの2つのビーズのセットから溶出された(図4Dの下のブロットのレーン4~5)。なお、PMCA4bの内因性発現はレナラーゼの内因性発よりも有意に高く(図4Dの上下ブロットのレーン1)、その結果、PMCA4b抗体で被覆したビーズに比べて、レナラーゼ抗体で被覆したビーズからはより少ないPMCA4bタンパク質が溶出する(図4Dの上下ブロットのレーン4対レーン5)。また、PMCA4bで被覆したビーズは、上澄みからレナラーゼを完全に枯渇させた。任意の特定の理論に束縛されるものではないが、この結果は細胞外レナラーゼが多くPMCA4bに結合していることを示唆するものである。
PMCA4bは、細胞信号伝達および細胞保護作用に及ぼすレナラーゼの作用を媒介する
【0236】
次いで、PMCA4b活性の阻害がレナラーゼ媒介MAPK信号伝達を調節するかどうかを判定した。PMCA4bのペプチド阻害剤であるカロキシン1b(Pande et al., 2008, J. Cell. Mol. Med. 12:1049-1060)はHK-2細胞でレナラーゼ媒介ERKおよびp38MAPKリン酸化反応を抑止した(図5A)。また、カロキシン1bはPMCA1を阻害することが報告されているので、siRNAを用いたPMCA4b発現の特異的下方制御によってレナラーゼ媒介信号伝達でのPMCA4bの役割に関するさらなる証拠が得られた。対照研究では、非対象siRNAはPMCA4b発現にもRP-220媒介p38にも影響を及ぼさなかった(図5Bの左パネル)。これに対して、PMCA4b対象siRNAはタンパク質の発現を90%超も低下させて、RP-220媒介p38リン酸化を防止した(図5Bの中央のパネルおよび右パネル)。PMCA4bの下方制御が上皮成長因子(EGF)媒介MAPK活性化にも影響を及ぼすかどうかを調べることにより、RP-220とPMCA4bの相互作用の特異性を試験した。図5Cに示すように、PMCA4b発現の阻害は、EGF依存ERK、p38、およびJNKリン酸化に何ら影響を及ぼさなかった。
【0237】
PMCA4b発現を下方制御するとシスプラチン細胞毒性に対するRP-220およびRP-H220の保護効果が低下した(図5d)。これまで示したように、WTマウスで観察されたことに対して、MAPK信号伝達の活性化および中度または重度の虚血性AKIに対するレナラーゼKOマウスの保護においてレナラーゼもRP-220も有効ではない(Wang et al., 2014, J. Am. Soc. Nephrol. DOI:10.1681/asn.2013060665)。これらの結果に基づいて、おそらく、レナラーゼ遺伝子の欠失によってもたらされた受容体遺伝子またはタンパク質発現の低下により、RP-220とその同族受容体との相互作用がレナラーゼKOにおいて阻害されると仮定された。レナラーゼKOマウスのPMCA4b遺伝子発現を定量PCRで測定したところ、WT対照(n=6、p<0.03)の11.4倍少なかった。WTおよびレナラーゼKO腎臓でのPMCA4bタンパク質の発現をウェスタン免疫ブロッティングにより評価した。図5E(各ブロット)に示すように、レナラーゼKOでのPMCA4b発現はWT(n=6、p<0.03)の63.5±7.5%低かった。これらのデータから、PMCA4bがレナラーゼ受容体として機能しており、信号伝達の媒介およびレナラーゼの細胞保護効果に重要であるという仮説に対する強い指示が得られた。
レナラーゼポリペプチド配列およびペプチド配列
【0238】
RP 19:LLRRQTSGPLYLAVWDKAED(配列番号1)
RP 128:FRHRVTQINLRDDKWEVSKQ(配列番号2)
RP 224:CVSIDNKKRNI(配列番号3)
RP 220:CIRFVSIDNKKRNIESSEIG(配列番号4)
RP H220:HHHHHHCIRFVSIDNKKRNIESSEIG(配列番号5)
RP A220:IRFVSIDNAAANIESSEIG(配列番号6)
RP 220組み換え:CSKRIFKVISSIEDNNERG(配列番号7)
【0239】
レナラーゼ(NP_001026879.2):
MAQVLIVGAGMTGSLCAALLRRQTSGPLYLAVWDKAEDSGGRMTTACSPHNPQCTADLGAQYITCTPHYAKKHQRFYDELLAYGVLRPLSSPIEGMVMKEGDCNFVAPQGISSIIKHYLKESGAEVYFRHRVTQINLRDDKWEVSKQTGSPEQFDLIVLTMPVPEILQLQGDITTLISECQRQQLEAVSYSSRYALGLFYEAGTKIDVPWAGQYITSNPCIRFVSIDNKKRNIESSEIGPSLVIHTTVPFGVTYLEHSIEDVQELVFQQLENILPGLPQPIATKCQKWRHSQVTNAAANCPGQMTLHHKPFLACGGDGFTQSNFDGCITSALCVLEALKNYI(配列番号8)
【0240】
レナラーゼ(NP_060833.1):
MAQVLIVGAGMTGSLCAALLRRQTSGPLYLAVWDKAEDSGGRMTTACSPHNPQCTADLGAQYITCTPHYAKKHQRFYDELLAYGVLRPLSSPIEGMVMKEGDCNFVAPQGISSIIKHYLKESGAEVYFRHRVTQINLRDDKWEVSKQTGSPEQFDLIVLTMPVPEILQLQGDITTLISECQRQQLEAVSYSSRYALGLFYEAGTKIDVPWAGQYITSNPCIRFVSIDNKKRNIESSEIGPSLVIHTTVPFGVTYLEHSIEDVQELVFQQLENILPGLPQPIATKCQKWRHSQVPSAGVILGCAKSPWMMAIGFPI(配列番号9)
実施例2:PMCA4bの活性の調節がレナラーゼの細胞保護作用を媒介する
【0241】
Vmax、Km、および構成的活性化に及ぼす効果を含むPMCA4bのATP分解酵素活性に及ぼすレナラーゼの効果を調べる。また、レナラーゼのPMCA4bとの相互作用のカルシウム動態に及ぼす局所および/または全体効果を調べる。さらに、RASSF-1によるPMCA4bマクロ分子錯体の阻害がレナラーゼの作用(MAPK信号伝達および細胞保護作用)を調節するかどうかを調べる。PMCA4bノックアウトマウスが、腎臓虚血またはシスプラチンへの暴露に対して野生型マウスと異なった反応をするかどうか、およびレナラーゼが腎損傷の程度を調節するかどうかを調べる。
【0242】
実施例3:膵臓炎でのレナラーゼの評価
本明細書の他の箇所で記載されるように、膵臓炎および細胞信号伝達応答に影響を及ぼすレナラーゼの領域は、酵素活性を欠く分子の領域において単離されている。この活性を含むペプチドRP-220は、すべてのレナラーゼイソ型に保存されているが、組み換えレナラーゼのアミンオキシダーゼ活性を欠いており、代わりに信号伝達分子としてのみ作用する。本明細書に記載される研究では、レナラーゼは完全な長さの組み換えヒトレナラーゼまたは20アミノ酸ペプチド(RP-220)として投与される。RP-220は、その酵素活性とは独立してWTマウスの炎症性虚血性急性腎損傷を大きく低減する。
【0243】
細胞質Ca2+信号伝達は膵臓炎を媒介する
膵臓炎に繋がる腺房細胞事象はCa2+に依存し、病的な細胞質カルシウム信号伝達と関連づけられている。また、細胞膜Ca2+ATP分解酵素(PMCA)で修正することができる。生理的条件下で、腺房細胞の先端部から出る協調振動Ca2+信号は、不活性酵素前駆体の腺房細胞から膵管への分泌と結びつけられている(Williams, 2001, Annu Rev Physiol 63, 77-97)。膵臓炎では、異なる腺房細胞Ca2+信号伝達パターンが観察される。振動が生理的に増加し、細胞質Ca2+が何倍も増加する代わりに、膵臓炎は、Ca2+がより大きく増加した後、低濃度で維持されるという全体のピーク-水平パターンと関連づけられている(Matozaki et al., 1990, JMV-180.J Biol Chem 265, 6247-6254)。病的Ca2+信号伝達およびCa2+過負荷は、急性膵臓炎の発症の初期事象(酵素前駆体の活性化、分泌の阻害、炎症、および壊死を含む)のほとんどと結びつけられている(Raraty et al., 2000, Proc Natl Acad Sci U S A 97, 13126-13131; Muallem et al., 1995, J Cell Biol 128, 589-598; Criddle et al., 2006, Gastroenterology 130, 781-793; Gerasimenko et al., 2002, J Cell Sci 115, 485-497; Huang et al., 2013, Gut; Awla et al., 2012, Gastroenterology 143, 1352-1360 e1357)。
【0244】
細胞質腺房細胞Ca2+の生理的濃度は、細胞膜Ca2+ATP分解酵素(PMCA)を含むいくつかのCa2+ポンプおよびチャネルの作用により維持される。PMCAは細胞からCa2+を動的にくみ出すが、これが、Na/Ca2+交換器の機能を欠く腺房細胞の主要なCa2+排泄路である(Tepikin et al., 1992, J Biol Chem 267, 3569-3572; Petersen, 2003, Cell Calcium 33, 337-344)。PMCAがベースラインCa2+濃度を主に調節しており、細胞内Ca2+が病的に増加することを防いでいる。PMCAには4種のイソ型がある。PMCA1およびPMCA4は普遍的に発現するが、PMCA2およびPMCA3は組織に特異的で主に神経細胞で発現する(Lopreiato et al., 2014, J Biol Chem 289, 10261-10268)。PMCAはカルモジュリンによって活性化され(Falchetto et al., 1992, Protein Sci 1, 1613-1621)、数種のタンパク質キナーゼによりリン酸化反応で調節される(Wang et al., 1991, J Biol Chem 266, 9078-9085; Smallwood et al., 1988, J Biol Chem 263, 2195-2202; James et al., 1989, Biochemistry 28, 4253-4258)。腺房細胞でPMCAを阻害すると、過最大のアセチルコリンによって誘発されたCa2+排泄が阻害され、生体外の腺房細胞では抗酸化剤が誘発する壊死が酷くなる(Ferdek et al., 2012, Curr Biol 22, 1241-1246)。また、膵臓炎応答に及ぼすインスリンの保護効果は、PMCA活性を保ち、Ca2+の病的な増加を防止するその能力によって媒介される(Samad et al., 2014, J Biol Chem 289, 23582-23595; Mankad et al., 2012, J Biol Chem 287, 1823-1836)。
【0245】
これらの観察は、PMCAが腺房細胞からのCa2+排出の主要な媒介であり、細胞質Ca2+濃度を下げて細胞損傷を低減させるという説明と一貫している。
【0246】
細胞膜Ca2+ATP分解酵素(PMCA)はレナラーゼの受容体である(Wang et al., 2015, Identification of a Receptor for Extracellular Renalase(細胞外レナラーゼの受容体の同定). PLoS ONE 10, e0122932)。本明細書の他の箇所で記載するように、レナラーゼの保護効果は、飽和動態を示し、細胞膜受容体を介して作用するという説明と一貫している。ヒト近位尿細管細胞株(HK-2)の膜タンパク質へのビオチン標識レナラーゼペプチド(RP-220)の親和性架橋、および質量分析によるタンパク質同定から、PMCA4bが主要なレナラーゼ結合タンパク質として同定された(図6A)。共局在決定(図6B)および共免疫沈殿(図6C)により、内因性レナラーゼとPMCA4bとのタンパク質-タンパク質相互作用が確認された。PMCA4bは、極性細胞の側底膜に局所化される、広く発現する血漿-膜Ca2+-排出体である(Antalffy et al., 2012, Cell Calcium 51, 171-178; Lopreiato et al., 2014, J Biol Chem 289, 10261-10268)。本明細書に記載されるデータは、レナラーゼがPMCAを活性化して細胞質Ca2+濃度を下げるという説明と一貫している(図12および図13)。また、図6Dは、siRNAの形質移入による内因性PMCA4b発現の下方制御がHK-2細胞でのRP-220の保護効果を阻害することを示している。
レナラーゼはマウス腺房細胞に存在し、その濃度は実験の急性膵臓炎の誘発後に低下する
【0247】
図7Aおよび図7Bは、膵臓腺房細胞ではレナラーゼが腎臓よりも低い濃度で発現していることを示している。レナラーゼは血清中に存在する(図6C)ので、レナラーゼが自己分泌経路/傍分泌経路を介して、またホルモンとして腺房細胞に影響を及ぼした可能性がある。血清レナラーゼの濃度は、セルレイン誘発膵臓炎を発症させた後のマウスで時間に依存して低下し、セルレイン誘発膵臓炎の7時間後に約70%まで低下している(図7C)。この発見には、いくつかの重要なこと、すなわち、i)血清レナラーゼの保護効果は急性膵臓炎の発症時には失われること、およびii)レナラーゼが病気の生体指標として有益であることが含まれる。
レナラーゼの遺伝子欠失は急性膵臓炎の悪化に繋がる
【0248】
レナラーゼは保護効果を有するので、内因性レナラーゼの遺伝子欠失はより大きな損傷と関連づけられている。この問題について、レナラーゼの遺伝子欠失を有するマウスで調べた。図7Bは、ノックアウトマウスにレナラーゼタンパク質がないことを示している。ノックアウト(レナラーゼ-/-)種は安静時の血圧がゆっくりとわずかに上昇するが、その他には明らかな表現型を有しない。図8は、酵素前駆体活性化、浮腫、および組織学的重症度で測定したところ、レナラーゼノックアウト(-/-)マウスは野生型(WT)よりも重いセルレイン誘発膵臓炎を有していることを示している。この発見は、内因性レナラーゼが急性膵臓炎の保護効果を有するという説明と一貫している。したがって、急性膵臓炎の発症時にレナラーゼ濃度を下げると病気の重症度が上がる可能性がある。
レナラーゼは膵臓腺房の損傷を低減する
【0249】
次いで、組み換えヒトレナラーゼによる予備処理が膵臓炎での損傷を低減するかどうかを評価した。まず、単離されたWTマウス腺房およびレナラーゼ欠失マウスから単離された生体外腺房において、(初期の腺房細胞膵臓炎応答を誘発する)超生理的濃度のセルレインおよびカルバコールに暴露したマウス腺房細胞(腺房)の単離群についてこの組み換えヒトレナラーゼを評価した。(図9)。この組み換えレナラーゼは、セルレイン(図9A)またはカルバコール(図9B)によって誘発されるトリプシノーゲン活性化を下げた。また、レナラーゼノックアウト(KO)マウスに由来する腺房でもレナラーゼの追加後にトリプシノーゲン活性化が低下した(図9C)。レナラーゼは、未処理の腺房または生理的刺激で処理した腺房には何の効果も及ぼさなかった。完全な長さの組み換えレナラーゼおよびレナラーゼペプチド断片(RP-220)は、腺房を損傷から保護するという点で同様の有効性を示した。
外来性組み換えレナラーゼによる予備処理が生体外(腺房)および生体内で膵臓炎損傷の症状を低減した
【0250】
単離された腺房で観察されたレナラーゼの保護効果が生体内で適切であるかどうかを決定するために、(50μg/kgの腹腔内注射を6時間行って)セルレイン膵臓炎を誘発する前に腹腔内にレナラーゼペプチド(RP-220)を単回投与量(100μgのペプチド/体重25g)投与してWTマウスを予備処理した(1時間)。この予防的な予備処理により、病気を誘発させた7時間後に膵臓炎の重症度(酵素前駆体の活性化、浮腫、アポトーシス、濾液中の炎症性細胞、および組織学的重症度を含む)のすべての測定値が低下した(図10)。次いで、発症後にレナラーゼを投与すると病気の重症度が低下する可能性があるかどうかを調べた。
生体内で膵臓炎が発症した後に外来性組み換えレナラーゼで治療すると、損傷の症状が低減した
【0251】
図10の実験と同じ試験規約を用いてWTマウスでセルレイン膵臓炎を誘発させたが、レナラーゼは病気の発症から2時間後に投与した(図11)。個々の組織値および集合組織値から、レナラーゼは損傷を大きく低減したことが示された。図10および図11に示したデータは、予防という文脈および治療という文脈の両方で外来性レナラーゼは膵臓炎の重症度を下げることができるということを示している。
外因性レナラーゼは細胞質Ca2+-信号伝達に影響を及ぼし、細胞膜Ca2+ATP分解酵素(PMCA)を活性化すると思われる
【0252】
PMCAはレナラーゼに選択的に結合する(図6)。レナラーゼが、多種の細胞でCa2+排出の重要な媒介であるPMCA4bの活性に影響を及ぼすかどうか(図6)を決定するため、レナラーゼのCa2+排出に及ぼす効果を調べた。まず、レナラーゼの保護効果がHK-2細胞(ヒト腎臓細胞株)において特徴づけられた(Lee et al., 2013, J Am Soc Nephrol 24, 445-455; Wang et al., 2014, Journal of the American Society of Nephrology: JASN)ので、Ca2+信号に及ぼすその効果をこれらの細胞、次いでマウス腺房細胞(図12)で評価した。レナラーゼはどの細胞種でもベースラインのCa2+濃度を変化させなかった。PMCAによるCa2+排泄に及ぼす効果を分離するため、細胞質Ca2+の変化がPMCAによるもののみになるように他のCa2+チャネル/ポンプを阻害した。これは、小胞体への再取り込みの阻害、およびHK2細胞の場合はPMCAと同様にCa2+を排出するが腺房細胞には存在しない血漿-膜Na-Ca2+交換体の阻害を含んでいた。刺激後にCa2+の流入を防止するため、細胞を1mMのEDTAを含むCa2+を含まない培地でかん流した。また、細胞をシクロピアゾン酸で前処理して小胞体に蓄えられていた分を枯渇させた。腺房細胞には存在しないがHK2細胞に存在するNa/Ca2+交換体を阻害するために、(Muallem et al., 1988, J Membr Biol 102, 153-162)、HK2細胞ではNaを含まない培地を用いた(腺房細胞では用いなかった)。HK2細胞および単離されたマウス腺房をCa2+を含まない培地でかん流して、1.3mMCa2+の存在下で10nMのアンジオテンシンIV(HK2細胞)または100nMのセルレイン(腺房細胞)で短い間刺激し、細胞内Ca2+を増加させた。次いで、レナラーゼの存在下または非存在下でかん流緩衝剤をCa2+を含まない培地に切り替えて、細胞質Ca2+濃度を経時で監視し、Ca2+排泄率を算出した(図12)。HK2細胞および腺房細胞の両方でレナラーゼはCa2+排泄率を高めた。
【0253】
PMCAはレナラーゼ受容体として同定され、レナラーゼはCa2+排泄を高めるので、PMCAの阻害がレナラーゼの保護効果を阻害するかどうかを調べた。図13は、 PMCA4bの選択的ペプチド阻害剤(PMCA4b>PMCA1>PMCA2>PMCA3の阻害)であるカロキシン1b1で腺房を予備処理すると、腺房の細胞外ループに結合し(Strehler et al., 2013, Journal of pharmacy & pharmaceutical sciences : a publication of the Canadian Society for Pharmaceutical Sciences, Societe canadienne des sciences pharmaceutiques 16, 190-206; Pande et al., 2008, Journal of cellular and molecular medicine 12, 1049-1060)、酵素前駆体の活性化、メチルチアゾールテトラゾリウム(MTT)および組織学による細胞損傷に及ぼすレナラーゼの保護効果が取り除かれたこと示している。合わせて(図6図12図13)、本明細書に記載される結果が、レナラーゼがPMCAを刺激して、カルシウム排泄率を高め、かつこの効果がレナラーゼの腺房細胞損傷に及ぼす保護効果と関係しているという説明と一貫している。
【0254】
それぞれの特許の開示、特許出願、および本明細書で引用された文献は、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる。本発明は特定の態様を参照して開示されたが、自明のこととして、他の態様および本発明の変形は、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、当該分野の他の当業者により考案され得るものである。添付の請求項はそのようなすべての態様および均等な変形を含むと解釈されることを意図するものである。
図1
図2
図3
図4A
図4B-4D】
図5A-B】
図5C-E】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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