IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社半導体熱研究所の特許一覧

<>
  • 特許-接合部材 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】接合部材
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20220216BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20220216BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
H01L21/52 E
H01L23/36 D
H01L23/36 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021108335
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2021-06-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515230073
【氏名又は名称】株式会社半導体熱研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 彰
(72)【発明者】
【氏名】福井 としゑ
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-096841(JP,A)
【文献】特開2006-110626(JP,A)
【文献】特開2015-025158(JP,A)
【文献】特開平10-006073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
H01L 23/36
H01L 23/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Au、Ag、Cu、Al、Ni、Sn、Zn、Mg、Pb、及びこれらの合金から選ばれる材料から成る箔を複数、積層してなり内部に5vol%以上30vol%以下の空隙を有する積層体を備え、
200℃への加熱と25℃への冷却を300回繰り返すヒートサイクルテストを行った後の熱伝導率が30W/m・K以上である
ことを特徴とする接合部材。
【請求項2】
前記箔の厚さが0.1μm以上100μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の接合部材。
【請求項3】
前記積層体の厚さが3μm以上500μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の接合部材。
【請求項4】
金属部材、セラミック部材、及び樹脂部材から選ばれる2つの被接合部材を請求項1から3のいずれかに記載の接合部材で接合してなることを特徴とする接合体。
【請求項5】
パワー半導体デバイスを搭載した金属電極基板と、セラミック絶縁基板又は樹脂絶縁基板とを請求項1から3のいずれかに記載の接合部材で接合してなることを特徴とする接合体。
【請求項6】
セラミック絶縁基板又は樹脂絶縁基板と、冷却器とを請求項1から3のいずれかに記載の接合部材で接合してなることを特徴とする接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合部材に関する。特に、IGBTモジュール等の半導体モジュールにおける電極基板等として用いられる金属製の部材と、絶縁基板等として用いられるセラミック製の部材の接合に好適に用いることができる接合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会では半導体モジュールが広く用いられており、更に拡大し社会にとって不可欠な存在となっている。特に電気自動車における使用等、更なる広がりを見せつつある。また、使用の広がりとともに、半導体モジュール更なる小型化と高性能化が図られている。電気自動車における開発要素の1つはIGBTモジュールである。IGBTモジュールでは、Si半導体デバイスからSiC半導体デバイスへと移行しつつある。
【0003】
電気自動車における初期のIGBTモジュールは、電車用に開発されたものを電気自動車用に改造したものである。初期のIGBTモジュールは、Si半導体デバイス、DBC(Direct Bonded Cupper)/DBA(Direct Bonded Aluminum)(セラミック板の上面に金属電極層をろう付けして物理的に接合し、下面に該金属電極層とバランスさせる金属層をろう付けにより物理的に接合してなる]基板、及び放熱基板(AlSiC、CuMo)をはんだで物理的に接合し、さらに放熱基板と冷却器(金属フィン)をシリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤(「サーマルグリス」ともいう。)で化学的に接合したものである。これは、Si半導体デバイスから発せられる熱を一方の側から冷却する、片面冷却型と呼ばれるものであった。このモジュールには、Si半導体デバイスから冷却器までの間に6か所の接合部がある。
【0004】
その後、片面冷却直冷型と呼ばれる構造が採られるようになった。片面冷却直冷型のIGBTモジュールでは、Si半導体デバイスとDBA基板をハンダで、DBA基板と冷却器をパンチングAl合金板とAlろう材で、それぞれ物理的に接合するという方法が採られてきた。このモジュールでは、放熱基板とシリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤を省略することができたが、それでも5か所の接合部がある。また、この構造では製造時に接合する手順が複雑であった。
【0005】
また、片面冷却直冷型と呼ばれる別のモジュールでは、Si半導体デバイス、DBC基板、及び冷却器を接合温度が異なるはんだで物理的に接合するという方法が採られてきた。このモジュールでも放熱基板をシリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤を省略することができたが、依然として4か所の接合層がある。また、半導体デバイスの動作を想定して加熱と冷却を繰り返すヒートサイクルテストではDBC基板に負荷がかかる。そのため、小型化と高性能化の両立に限界がある。
【0006】
これらの方式では高価なDBA/DBC基板を使用しなければならず高コストである、また、DBA/DBC基板は、セラミックの板材の両面にそれぞれAl/Cu電極を接合したものであるため、半導体デバイスの動作温度が高くなることを想定したヒートサイクルテストを行うと、Al電極やCu電極とセラミックの接合界面が剥離するという問題があった。
【0007】
その後、両面冷却型と呼ばれる構造が提案された。両面冷却型のIGBTモジュールでは、半導体デバイスとCu電極基板がはんだ付けで物理的に接合され、Cu電極基板と絶縁基板、及び絶縁基板と冷却器が、それぞれシリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤で化学的に接合される。両面冷却型のIGBTモジュールでは、半導体デバイスを上下両側から冷却することにより冷却効率が向上する。また、高価なDBC/DBA基板を使用しないため、コストを抑制することができる。しかし、シリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤の熱伝導率は1W/m・Kと低く、熱抵抗を下げるための対策を行うために両面から冷却する方式であるため部材の点数が多くなる。また、半導体デバイスを挟んで上下に合計で6か所の接合部が存在する。これは初期の片面冷却型のモジュールや片面冷却直冷型のモジュールにおける接合部の数と同じである。
【0008】
最近では、Si半導体デバイスよりも動作温度が高いSiC半導体デバイスへの移行が進められている。SiC半導体デバイスを搭載したIGBTモジュールでは、SiC半導体デバイスとDBC基板に設けられたCu電極をナノAgで接合し、DBC基板と冷却器をシリコーン系サーマルコンタクト接着剤で接合する、片面冷却型や両面冷却型の構造が試行されている。
【0009】
また、特許文献1において、本発明者はSi/SiC半導体デバイスとCu電極基板の接合に好適に用いることができる新たなダイボンド接合部材を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第6803106号明細書
【非特許文献】
【0011】
【文献】塩井直人,"高熱伝導性銀接着剤",HARIMA TECHNOLOGY REPORT, N0. 110, 2012 WINTER,[令和3年6月7日検索],インターネット<URL: https://www.harima.co.jp/images/uploads/20120120183114_a64a1d4b447caccd25e2f219e82c38a2.pdf>
【文献】橋本大輔, 野村幸矢, "電子電機部品用銅合金の熱的特性",神戸製鋼技報, Vol. 65, No. 2, Sep. 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
半導体デバイスを搭載したCu電極基板と絶縁基板、及び絶縁基板と冷却器の接合に用いられるシリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤は柔軟であり、被接合部材の表面の凹凸や傾きに対応して適宜に変形することから広く使用されている。シリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤を用いた場合の接合強度の不足はネジ留め(片面冷却型)したり、モジュールに荷重をかけたりする(両面冷却型)ことにより解決している。しかし、上記の通り、シリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤(シリコン樹脂にアルミナフィラー入り)の熱伝導率は約1W/m・Kと低く、熱抵抗が大きいため熱伝達が悪い。また、ヒートサイクルテストを行うと接合部からポンプアウト現象により接着剤が漏洩したり、材料が劣化したりするという問題もある。
【0013】
IGBTモジュールに限らず、少なくとも接合面が金属である部材と少なくとも接合面がセラミックや樹脂である部材を接合する際には、それらの接合面を構成する材料の線膨張係数に差があるため、これらを接合して放熱経路を構成すると様々な問題が生じている。
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、接合面が金属である部材と接合面がセラミック又は樹脂である部材を接合することにより構成される放熱経路の放熱効率を向上することができる接合部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
IGBTモジュールの一部では通電経路(電路)と放熱経路(熱路)が共通する。半導体デバイスと電極基板を接合するためのダイボンドについては、ナノAgや、本発明者が特許文献1に記載した発明である接合部材を用いることにより接合の方向性が見えつつある。そこで、本発明者は、電極基板から冷却器に至る放熱経路における放熱効率を向上することができる接合部材について検討した。以下、本発明社が検討した、接合面が金属である部材と接合面がセラミック又は樹脂である部材のように、線膨張係数に差がある部材を接合して放熱経路を構成するための接合部材の内容を説明する。
【0016】
半導体モジュールは精密で複雑な構造の装置であり、その構成部品、及びそれらの構成部品を接合する接合部の数を減らすとともに、構成部品と接合部の性能や特性の向上が求められている。従来、小型化と高性能化を両立させる過程で、電極基板から冷却器に至る放熱経路を構成する様々な種類の部材の数が最小限に抑えられてきた。また、それらを接合する方法についても、費用対効果が得られるものが実用化されてきた。
【0017】
半導体デバイスとDBC基板に設けられたCu電極基板は、はんだにより物理的に接合(ダイボンド)されている。さらに、DBC基板の下面のバランスCu板(Cu電極とバランスさせるために設けられた板材)と放熱基板もはんだにより物理的に接合されている。放熱基板と冷却器はシリコーン系樹脂材料を用いたサーマルコンタクトにより化学的接合されている。その他、DBC基板に設けられたCu電極基板と冷却器が直接はんだ付けされているものがある。高価なDBC基板は、Cu電極/セラミック基板/バランスCu板からなる一体の部材であり、電路と熱路を分離する非常に重要な部材であると位置づけされてきた。バランスCu板はDBCの製作のためには必要であるが熱路としては不要である。
【0018】
過去には電動車用(EV用等)のIGBTモジュールにはCu電極による通電とセラミック基板による絶縁の機能を一体化したDBA基板もしくはDBC基板が不可欠であるとされてきた。しかし、DBA/DBC基板では、製造時に電極を取りつける際に起こる反りを低減するため、セラミック基板の下側にバランスCu板を付ける必要はあり高価な部材であった。また、ヒートサイクルテストを行うとCu電極とセラミック基板の界面が剥離したり、セラミックが破損されたりするという問題があり、現在、各社でモジュールをコストダウンするために、小型化及び高性能化並びに高品質化を図るべく開発が行われている。
【0019】
既に、価格競争の激し家電製品では、半導体デバイスが取り付けられたCu電極、絶縁(セラミックや樹脂からなる)基板、及び回路基板の機能を兼ね備えた部材をシリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤で化学的に接合したIGBTが実用化されていた。
【0020】
こうしたなか、Si半導体デバイスを搭載した両面冷却型の構造ではCu電極とセラミック基板を分離し、またセラミック基板の下面のバランスCu板を省略して、Si半導体デバイスの付いたCu電極とセラミック基板、セラミック基板と冷却器をシリコーン樹脂系のサーマルコンタクトで接合する、新しい構造のIGBTが実用化された。しかし、電動車(EV、HEV等)では、家電製品に比べて、求められる性能、寿命、及び品質が大きく異なる。そのため、熱伝導率が低いシリコーン樹脂系のサーマルコンタクトを接合部材として用いる際には、放熱性を高めるために両面冷却型にする必要があった。両面冷却型にすることで放熱路が並列になり放熱効果が向上する一方、構成部材と接合部の数が増える。
【0021】
その後、SiC半導体デバイスを搭載した両面冷却型の構造では、ダイボンドがハンダからナノAgになり、また、DBC基板が復活してDBC基板の下面のバランスCu板と冷却器をシリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤で接合する構造に戻って開発が行われ、その結果が報告されている。この構造でDBC基板復活したのは、SiC半導体デバイスの発熱を想定したヒートサイクルテストを行うと、Cu電極とセラミック基板の接合部の温度の上昇によってシリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤が柔らくなりすぎてポンプ現象によって漏出する他、接合部劣化しやすく、さらに熱伝導率があまりにも低く十分な放熱を行うことができなかったためである。
【0022】
こうしたことを踏まえてIGBTモジュールの電極基板から冷却器に至る放熱経路の熱路を考えると、シリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤の問題点は、高温下でのポンプ現象による接着剤の漏出と劣化、及びあまりに低い熱伝導率にあると考えられ、これらの点を改善することにより上記の問題を解決するという方向性が見えてくる。
【0023】
樹脂のサーマルコンタクト接着剤には種々のものがあるが、化学接合製品と称されIGBTモジュールにおいて部材間の接合に使用されるのは、シリコーン系樹脂に熱伝導率の高いフィラーを分散させたものである。例えば、シリコーン系樹脂に、熱伝導率の高いアルミナのフィラーが接触しネッキングしてZ軸方向(接合部材の接合面に垂直な方向)に連なり熱伝導率が向上したものである。このようなサーマルコンタクト接着剤は柔軟であるため、被接合部材の表面の凹凸に入り込みやすく、接合部材間の線膨張係数(Cuの線膨張係数は17ppm/K、AlNセラミック4~5ppm/K、DBC/DBAは7~9ppm/K)の差によって生じる熱応力を緩和する効果が得られる。その一方、耐熱温度は150℃程度と低く、熱伝導率も1W/m・Kと低い(シリコーン系樹脂そのものは0.1 W/m・K、アルミナは17~24W/m・K、はんだは約23W/m・K)。さらに、高温で動作する半導体デバイスを想定したヒートサイクルテストを行うとポンプアウト現象により接着剤が漏出して接合部が空洞化したり、樹脂材料が劣化したりしてしまうという問題がある。また、Z軸方向にアルミナフィラーを連続して接触させて機械的に接合したものであり、フィラー自体は接合強度にほとんど寄与しない。シリコーン系樹脂により行われている化学接合では強度が不足しており、モジュール内で接合状態を安定化するために、ネジ留めする方法や全体に荷重をかける方法を採っている。シリコーン系樹脂のサーマルコンタクト接着剤は、アルミナフィラーの機械的な接合と樹脂の化学的な接合から成り立つ製品である。
【0024】
樹脂接着剤の問題を解決するために、従来、樹脂やフィラーの種類、フィラーの量を種々に変更したものが提案されてきた。こうしたなか、LED照明用に、エポキシ樹脂にAgフィラーを大量に分散させて使用することで熱伝導率を高めることが検討されてきた(例えば非特許文献1)。
【0025】
非特許文献1では、粒径が約1μmのAgフィラーを70vol%以上の体積分率で樹脂内に分散させることにより熱伝導率を確保し、エポキシ樹脂を硬化させて接合強度を確保する接着剤が提案されている。エポキシ樹脂の硬化温度ではAgフィラーは焼結結合されない。Agフィラーは単に物的的に接触しネッキングしているのみであり接合強度にはほとんど寄与しない。エポキシ樹脂は熱伝導率が0.3W/m・Kである。接合強度はエポキシ樹脂によるもの、熱伝導率はネッキングされたAgフィラーのZ軸の連なりによるものであり、これらの組み合わせにより部材が特性づけられる。
【0026】
こうした樹脂接着剤では、Agフィラーの粒子同士が相互に接触するように体積分率(vol%)を高くすることにより熱伝導率が大きく向上するとされている。これは、フィラーが接触し適宜に連なればある程度の熱伝導率が確保できることを示唆している。しかし、フィラーの形状にもよるが、必ずしもAgフィラー量に比例して熱伝導率が高くはならない(Z軸方向にフィラーが直線的に接触するように配列されることはなく、接触点の状態等によって熱伝導率は変動しうる)。接合部材の形状を維持するには一定量以上の樹脂材料を使用せざるを得ず、こうしたことが、更なる大幅な熱伝導率の向上を図ることを難しくしている。しかも、硬化したエポキシ樹脂は線膨張係数が大きく、また硬くて脆いため、高温のヒートサイクルテストを行うと材料の劣化によって剥離や破壊が起こり、高性能のIGBTモジュールでこのような樹脂接着剤を使用することは難しい。
【0027】
上記の点や、本発明者が特許文献1で提案した新たなダイボンドの発明に関する知見を踏まえ、本発明者は、高性能のIGBTモジュールを想定したヒートサイクルテストを行った後に、必要な大きさの熱伝導率を確保することができる接合部材を発明した。
【0028】
本発明の接合部材では、必ずしも樹脂材料に依存せず、被接合部材の表面精度のバラつきを補正したりや修正したりして被接合部材を接合できるものとし、ヒートサイクルテストに耐えることができるように、材料の劣化が少なく応力緩和構造を持つものであることが望ましいと考えた。接合強度や接合状態については、一定以上の体積分率(vol%)を確保した接合部材に、該接合部材の外部から荷重をかけることにより確保できれば問題がないと考えた。そして、ヒートサイクルテスト後に30W/m・K以上の熱伝導率が得られることを新たな接合部材に求められる要件とした。
【0029】
上記課題を解決するために成された本発明に係る接合部材は、
Au、Ag、Cu、Al、Ni、Sn、Zn、Mg、Pb、及びこれらの合金から選ばれる材料から成る箔を複数、積層してなり内部に5vol%以上30vol%以下の空隙を有する積層体を備え、
200℃への加熱と25℃への冷却を300回繰り返すパワーサイクルテストを行った後の熱伝導率が30W/m・K以上である
ことを特徴とする。
【0030】
本発明に係る接合部材は、典型的には接合面が金属である部材と接合面がセラミックである部材を接合して放熱経路を構成するために用いられる。具体的には、例えばIGBTモジュールでは、Cu電極基板とセラミック基板、及び/又はセラミック基板と冷却器を接合して放熱経路を構成するために用いられる。被接合部材はこれらのみに限定されず、金属部材同士を接合したり、樹脂製の部材(例えば絶縁樹脂シート)を接合したりする際にも本発明に係る接合部材を好適に用いることができる。
【0031】
本発明に係る接合部材は、高熱伝導率を有する金属である、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Sn、Zn、Mg、Pb、及びこれらの合金から選ばれる材料から成る箔を複数、積層することにより構成される。複数の箔は同一材料であってもよく、異なる材料であってもよい。箔状の金属を積層して用いることにより柔軟性を持たせ、被接合部材の表面の凹凸等に接合部材を密着させることができる。また、箔を積層してなる接合部材を閉空間に閉じ込めて加重を加えることでそれぞれの箔がばねのように働く効果(ばね効果)が得られ、それによって箔同士が安定して接触した状態を保ち、Z軸方向に熱が伝えられる。
【0032】
本発明では、上記のような樹脂のサーマルコンタクト接着剤を用いることなく、放熱経路(熱路)の接合状態を積層体で維持することができる。さらに、積層体の内部に5vol%以上30vol%以下の空隙を有する構造にすることで、被接合部材間の線膨張係数の差に起因する熱応力を緩和することができる。なお、空隙が5vol%よりも少ないと熱応力を緩和するに足る柔軟性を得ることが困難であり、空隙が30vol%を超えると十分に高い熱伝導率を得ることが困難になる。さらに、被接合部材間に線膨張係数の差があっても、ヒートサイクルテストの実施中に箔同士の接触点が摺動して線膨張係数の差に起因して生じる応力を緩和し、接合状態を安定化して熱が伝えられる。加えて、200℃への加熱と25℃への冷却を300回繰り返すパワーサイクルテストを行った後の熱伝導率が30W/m・K以上であることから、高温で動作する半導体デバイスを搭載する場合でも、その熱を効率よく放出し信頼性の高いIGBTモジュールを構成することができる。
【0033】
IGBTモジュールに用いられる接合部材の動作信頼性を担保するためには接合部材の特性の評価が重要である。特性を評価するには、実際にIGBTモジュールを製作して実機や車に搭載して試験することが最も確実である。しかし、接合部材の試験を行う毎にIGBTモジュールを実際に作製するには手間とコストがかかりすぎ、当然、実機や車に搭載して試験することも現実的ではない。接合部材の特性を評価する方法として、従来、例えば接合強度は破壊試験の前後に接合部のX線像やSEM像を取得して両者を比較するなどの方法が採られているが、未だ確立されたものはない。
【0034】
当然ではあるが、本発明品の特性や性能に物理的に妥当性があることを示さなければ、電機、電装、あるいは自動車のメーカーが本発明に係る接合部材をIGBTモジュールに組み込んで評価を行うことはない。これまで、ダイボンドではヒートサイクルテスト前後の接合強度、X線像やSEM像が主に評価の対象とされていたが、実際に望まれるのはヒートサイクルテスト前後の熱伝導率である。しかし、従来、熱伝導率を評価する良い方法がなかった。
【0035】
従来、接合部材としてシリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤を用いたIGBTモジュールでは、接合強度を確保するために、放熱基板と冷却器をネジ止めし、IGBTモジュールの上下から荷重をかけている。従って、本発明に係る接合部材についても、シリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤を用いる場合と同じように、ネジ止めや荷重をかける方式を採ることに特段の問題はないと考えられる。
【0036】
本発明においても、接合部材に一定程度の荷重をかけて使用する場合があり得る。その場合には、周部を拘束した空間に、内部に5vol%以上30vol%以下の空隙を有する箔の積層体を配置し、荷重をかけた状態でヒートサイクルテストを行って、ヒートサイクルテスト後の特性や接合状態を確認する。
【0037】
試料の熱伝導率を評価する手法としては、例えばレーザフラッシュ法が知られている。しかし、レーザフラッシュ法による計測値は試料が所定の形状及び寸法に依存する方法である。そのため、荷重をかけるための治具や、箔の体積分率(vol%)を確保するための治具が付いていると熱伝導率を測定することができない。
【0038】
そこで、本発明者は、ウィーデマン-フランツ(Wiedemann-Franz)の法則に着目し、治具が付いた状態での熱伝導率を評価することを試みた。ウィーデマン-フランツの法則は、金属の熱伝導率と電気伝導率が比例することを表したものであり、対象物の組成や内部構造等によらず成り立つとされている。非特許文献2には、この法則を利用して試料の電気伝導率(IACS%)から熱伝導率を算出することが記載されている。電気伝導率(IACS%)は、試料に直径5mm程度のプローブを接触させてシグマテスターにより渦電流で測定すればよく、本発明に係る接合部材の熱伝導率の測定にも用いることができる。この方法で型押し金属粉末の焼結度や金属同士の接合層の欠陥検出が行われている。
【0039】
ただし、電気絶縁性であるセラミックについてはシグマテスターで熱伝導率を測定することはできない。そのため、本発明に係る接合部材を用いて電極部材又は冷却器とセラミック基板を接合した接合体の熱伝導率を、そのままの状態で測定することはできない。そこで、セラミックと同程度の線膨張係数及び熱伝導率を有する金属であるタングステン(W)の板材をセラミック基板の代わりに用いて本発明に係る接合部材の熱伝導率を評価した。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係る接合部材を用いることにより、金属部材とセラミック部材を接合して放熱経路を構成する際の放熱効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明に係る接合部材の一実施形態を含む接合体の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明に係る接合部材は、金属部材、セラミック部材、及び樹脂部材から選ばれる2つの被接合部材を接合するために用いられる。これらの被接合部材の典型的な例はIGBTモジュールで用いられる部材であるが、それのみに限定されず、IGBTモジュール以外の他の半導体モジュールで用いられる部材や、半導体モジュール以外で用いられる部材も含まれうる。特に半導体デバイスを搭載した金属製の電極基板とセラミック製の絶縁基板を接合したり、該絶縁基板と金属製の冷却器を接合したりする際に好適に用いられる。
【0043】
本発明の技術的思想は、特に、シリコーン樹脂内にフィラーを分散させた従来のサーマルコンタクト接着剤の良い部分を踏襲し、上記課題を解決することにある。
【0044】
本発明の接合部材は、従来のサーマルコンタクト接着剤に関する上記課題を解決することができ、かつ、25℃~200℃の温度範囲で冷却と加熱を繰り返すヒートサイクルテスト300回行った後の熱伝導率が30W/m・K以上であることを特徴としている。これを達成するために、本発明に係る接合部材を、高熱伝導率を有する金属である、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Sn、Zn、Mg、Pb、及びそれらの合金からなる箔を複数、積層して構成し、内部に5vol%以上30vol%以下の空隙を有するものとした。
【0045】
本発明者は、本発明に係る接合部材を検討するに当たって金属箔を使用することを考えた。金属は箔状や粉末状であっても、板状のものと同じ電気伝導率、熱伝導率、及び線膨張係数を有する。
【0046】
しかし、粉末の金属はそれのみで形状を維持することはできず、高圧で圧縮成形しなければならず、粒子が小さいほど大きな圧力をかける必要がある。また、圧縮成形したとしても端部から粉末が欠け落ちやすい。さらに、粉末の外部を拘束しても、体積分率(vol%)が100%でなければヒートサイクルテストや振動によって上の部分に空洞が発生し、熱が伝導されなくなる。粉末材料から体積分率(vol%)が100%の接合部材を作製するには極めて高い荷重をかける必要がある。
【0047】
これに対し、箔状の部材はそれのみで一定の形状を有する。また、欠け落ちも生じにくく、水平方向(箔の表面に沿った方向)の熱伝導率は板材と同じである。積層体を構成するために圧力をかける場合でも、粉末の圧縮成形に比べれば低い圧力で十分であり、圧縮時に加熱すれば、その圧力をより低く抑えられる。また、圧縮時に印加する圧力や温度を適宜に調整することによりZ軸の積層方向についても高い熱伝導率を得ることが可能である。また、熱伝導率が不足する場合には、前段取りとして接合前に積層箔に荷重と温度をかけて箔同士の接触部分を焼結したり、溶接によって箔同士の接触部分を作ったりしたものを使用すれば熱伝導率が向上する。また、これらと箔を組み合わせても問題ない。
【0048】
箔状の部材を積層したものは柔軟性を有するため、被接合部材の表面の凹凸等の形状に応じて変形して密着し、それらの凹凸による影響を軽減することができる。そのため、被接合部材毎に箔を1枚配置する必要があり、接合部材全体としては最低でも2枚以上(即ち複数)の箔を備える必要がある。1枚だけでは目的とする上記の効果が得られない。その他、部分的に積層する箔の数を増減させることにより、被接合面間の距離に応じて部分的に厚さを変えた接合部材を構成することができる。また、本願明細書に記載している箔の効果が残る状態であれば、箔を分割しても問題はない。
【0049】
そして、接合部材の内部に空隙が設けられていることにより、被接合部材間の線膨張係数の差に起因する熱応力を緩和することができる。空隙の割合は、被接合部材間に生じうる熱応力の差と熱伝導率の値を勘案として適宜に増減すればよい。一般的には、線膨張係数の差が大きいほど、空隙率を高く(体積分率を小さく)したり、箔を多層化したりすればよい。箔の接触部分はヒートサイクルテストの実施中に摺動し、応力を緩和する効果を奏する。これらの現象の複合的にまたは個別に起こり、所要の熱伝導率の値が確保され、また熱応力を緩和する。
【0050】
上記のとおり、箔にはばね効果があり、外周を拘束した状態で積層体に蓋をして荷重をかけると、さらに積層方向の接触状態が安定し、仮に箔間の接触部に浮きが生じても修復される。また、箔の接触部分はヒートサイクルテストの実施中に摺動しても荷重がかかっている。箔のばね効果の大小も体積分率を適宜に設定することにより調整することができる。
【0051】
本発明の一実施形態では、非酸化雰囲気で加熱及び加圧することにより積層体10を作製する。積層体10からなる接合部材により被接合部材20、30を接合した接合体1の構造を図1に概略図で示す。この接合部材では、金属箔11同士の接触部分がそれぞれ接合され、それ以外の箇所に空隙12が形成される。なお、図1の概略図は金属箔11の厚さ及び空隙12の位置や大きさを模式的に示したものであり、被接合部材20、30との大きさの比率等は実際のものとは異なる。積層体を作製する方法はこれらに限らず、上記ヒートサイクルテスト後の熱伝導率が30W/m・K以上である等の本発明の要件を満たす限りにおいて任意の作製方法を採ることができる。
【0052】
各金属箔11の厚さは、0.1μm以上100μm以下とすることが好ましい。0.1μmよりも薄いと破れやすく、箔状を維持するのが難しくなる。一方、100μmよりも厚いと柔軟性が得られにくくなる。積層する金属箔11の厚さは均一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、積層体10の中心部に厚い金属箔11を用い、表裏面に薄い金属箔11を用いると、熱伝導率を高めつつ、被接合部材の表面の凹凸に応じて積層体の表裏面を変形させやすくなる(例えば後述の実施例2)。また、各金属箔11が被接合部材20、30の接合面全体を覆うような大きさである必要はなく、複数の金属箔11を横方向に(積層方向に垂直な方向に)並べて用いてもよい。さらに、金属箔11には、部分的に孔が設けられていてもよい。そのような孔が設けられた金属箔11(網状のものなどを含む)を用いることにより、ヤング率を下げて積層体10の柔軟性を高めることができる。
【0053】
本発明の一実施形態の接合部材は、金属部材、セラミック部材、及び樹脂部材のうちの任意の2つの組み合わせ(金属部材同士等、同種の部材である組み合わせを含む)である被接合部材20、30を接合するために用いられる。中でも、はんだに対して濡れ性を有さない(従って、はんだを接合部材として用いることができない)セラミック部材の接合に好適に用いることができる。はんだ等の別の接合部材を用いることができる場合であっても、多くの場合、200℃への加熱と25℃への冷却を300回繰り返すパワーサイクルテストを行うと接合部に欠陥(剥がれ、亀裂等)が生じてしまうのに対し、本発明の接合部材では200℃への加熱と25℃への冷却を300回繰り返すパワーサイクルテストを行っても欠陥は生じず、また30W/m・K以上の熱伝導率を有するため、IGBTモジュール等への実装時の動作安定性が担保される。
【0054】
IGBTモジュールでは通常、Cu電極基板やセラミック基板の接合面は一定程度以上の平坦度及び平行度を有している。一方、冷却器(金属フィン)の接合面の精度はそれほど高くなく、例えば平面度は最高でも10μm程度である。また、冷却器に接合されるセラミック基板の接合面に対する平行度も同様に、最高でも100μm程度である。本発明の一実施形態では、接合面の平面度、及び接合部材の接合面同士の平行度に応じて積層する箔の数は適宜に変更することができる。具体的には、接合面の平面度、及び接合部材20、30の接合面同士の平行度が低い場合に、それらを十分に吸収できるように、金属箔11の数を増やせばよい。また、被接合部材20、30間の線膨張係数の差が大きい場合にも、被接合部材20、30間に生じる大きな熱応力を吸収することができるように、金属箔11の数を適宜に増やせばよい。積層体10全体の厚さは3μm以上500μm以下であることが好ましい。積層体10が3μmよりも薄いと熱応力を緩和するだけの柔軟性が得られにくい。一方、積層体10の厚さが500μmを超えると十分な放熱効果が得られにくくなる。
【0055】
本発明に係る接合部材の各実施形態では、疵等により被接合部材の面精度(平面度)や被接合部材の接合面間の平行度が悪い場合でも、被接合部材の表面に存在する凹凸等に箔を密着させることで修復し、性能や特性を確保する。また、これまでに使用されてきたシリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤の30倍の熱伝導率が得られる。半導体モジュールにおける接合部材として求められる性能や特性は満たす限りにおいて、必ずしも金属箔11が被接合部材20、30の表面の全体に完全に接触していなくてもよい。また、被接合部材20、30と金属箔11の接触面積を小さくしたり金属箔11の枚数を少なくしたりすると、半導体デバイスから発せられた熱は熱抵抗の小さいところ(熱伝導率が高いところ)を流れる。さらに、本発明の一実施形態において、被接合部材20、30の接合面の凹凸や、被接合部材20、30の接合面間の平行度を修復するために、該被接合部材20、30との接合部分に熱伝導率の高い(熱抵抗の低い)樹脂やフィラー入りの樹脂を配置してもよい。性能や特性を確保しつつ箔の使用量を減らすことはコストダウンにもなる。
【0056】
本発明の別の一実施形態では、被接合部材20、30の接合面に金属を蒸着したりメッキ処理を施したりすることにより金属膜を形成しておく。例えば、複数のAg箔で構成した積層体10を接合部材として用いる場合には、Ag原子が被接合部材20、30の内部に入り込むのを抑制するための、Ni等からなる保護膜を形成しておくとよい。保護膜として機能させる目的でない場合でも、適宜の被接合部材20、30の接合面に適宜の種類の金属層を形成しておくことで接合状態を安定化させることができる。
【0057】
本発明のさらに別の一実施形態では、被接合部材の接合面に存在する凹部の深さが10μm以上と大きい場合に、その凹部を充填するフィラー、あるいは樹脂とフィラーの混合物を配置して該凹部を塞げばいい。また、被接合部材の反りやうねりが大きい場合にも、フィラー、あるいは樹脂とフィラーの混合体を配置して平坦化すればよい。
【0058】
本発明の一実施形態の接合部材はIGBTモジュールにおいて用いられる。Cu電極基板とセラミック基板、及び/又はセラミック基板と冷却器の間に複数の金属箔11を配置して接合する際の圧力及び温度は、IGBTモジュールの各構成部品が損傷しない範囲内で、接合部材10に要求される柔軟性等の特性を勘案して適宜に決めればよい。なお、接合時の加熱温度は、半導体デバイスの動作時に達し得る温度以上であることが好ましい。一実施形態では、200℃への加熱と25℃への冷却を繰り返すパワーサイクルテストにおいて、接合部材が変性することを防ぐために、200℃以上に加熱することが好ましい。また、接合時には、接合体10の外周を拘束するケースに収容するなどして接合箇所の周囲を囲うとよい。これにより接合部材が接合部の外にはみ出すことを防止できる。また、接合時には蓋をするなどして接合方向に荷重をかけておくとよい。これにより接合強度が向上する。また、融点が高い第1金属の箔と融点が低い第2金属の箔を組み合わせて積層し、第2金属の融点付近の温度に加熱(及び適宜加圧)することにより、第2金属を部分的に溶融させて箔同士を溶融接合してもよい。第1金属としては例えばAgを用いることができ、第2金属としては例えばSnを用いることができる(例えば後述の実施例12)。あるいは、所望の特性を有する積層体を得るために必要な温度や圧力が、IGBTモジュールの各構成部品の損傷を生じさせる可能性がある場合には、複数の金属箔のみに必要な温度及び圧力を加えて積層体を作製したあと、被接合部材間にその積層体を配置して、IGBTモジュールの各構成部品が損傷しない範囲内の温度及び圧力で被接合部材を接合してもよい。最終的な加熱及び加圧の過程で積層体が圧縮されて空隙率が低下する可能性を考慮し、最初に作製する積層体の体積分率を60%以上95%以下の範囲内としておくとよい。一般的には、積層する金属箔の数が多いほど、空隙率は大きく低下するため、最初に積層する積層体の体積分率を小さくしておくとよい。なお、最終的に得られる接合部材の空隙が5vol%よりも少ないと熱応力を緩和するに足る柔軟性を得ることが困難であり、空隙が30vol%を超えると十分に高い熱伝導率を得ることが困難になる。
【0059】
上記のような実施形態の接合部材を用いることにより、高価なDBC/DBA基板を用いることなく、IGBTモジュールを安価に構成することができる。また、使用する箔の数や積層の形態を求められる形状に応じて適宜に変更して、電極基板とセラミック基板の接合や、セラミック基板と冷却器の接合に用いることができる。さらに、はんだやシリコーン樹脂系のサーマルコンタクト接着剤では接合状態を維持することができない、200℃に達するヒートサイクルテストを行っても損傷が生じることはなく、かつ、ハンダと同程度以上の熱伝導率を得ることができる。加えて、上記の各実施形態の接合部材は、片面冷却型と両面冷却型のいずれにおいても使用することができる。両面冷却型の構成を採る場合、放熱経路が2倍になる。こうしたことで、従来、水冷していたものを空冷に変更したり、モータに内蔵するIGBTモジュールを作製したりすることが可能になる。
【0060】
次に、本発明に係る接合部材の特性を評価する方法を説明する。本実施形態では、シグマテスターを用いた測定により接合部材の熱伝導率を算出した。上記の通り、電気絶縁性であるセラミックの熱伝導率を測定することはできないため、AlNセラミック(線膨張係数4~5ppm/K、熱伝導率170W/m・K)と線膨張係数及び熱伝導率が近いタングステン(W)(線膨張係数4.5ppm/k、熱伝導率167W/m・k)の板材をセラミック基板の代わりに用いてCu板材と接合した試料を作成して熱伝導率を測定した。
【0061】
具体的には、まず、40mm四方、厚さ2mmのアルミナ板の角部にねじ止め用の穴を設け、さらに、中央部に直径10mmの穴を形成した第1部材を2個作製した。次に、40mm四方、厚さ2mmのポリイミドの板材の角部にねじ止め用の穴を設け、さらに、中央部に直径20mmの穴を形成した第2部材を作製した。そして、第2部材の中央の穴に試料を配置して該試料の外周を拘束したもの上下を第1部材で挟み込んでねじ止めして試験片を作製した。そして、上下に配置した第1部材の中央の穴のそれぞれからシグマテスターを試料に接触させて取得した電気伝導率(IACS%)の測定値から、ウィーデマン-フランツの法則に基づいて試料全体の熱伝導率を算出し、Cuの熱伝導率(386W/m・K)及びWの熱伝導率(167W/m・K)から接合部材の熱伝導率を算出した。その後、200℃への加熱と25℃への冷却を300回繰り返すパワーサイクルテストを行い、テスト後の接合状態を確認するとともに、再び上記方法により熱伝導率を算出した。
【0062】
まず、従来技術に相当する6つの試料(従来例1~6)について、それぞれ上記の試験片を作製し、特性を評価した結果を説明する。表1に従来例1~6の構成と評価結果を示す。
【表1】
【0063】
従来例はいずれも、Cu板材とW板材(いずれも直径20mm、厚さ1mm)を接合したものであり、それぞれ接合に用いた部材と接合方法が異なる。接合部材の厚さは全て100μmとした。なお、表中のSPS接合は、放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering)法による接合であることを意味する。また、従来例5及び6の体積分率75%とは、接合部材の内部に25vol%の空隙を有することを意味する。
【0064】
従来例1及び2ではCu板材とW板材が接合されなかった。これは、Sn系はんだ及びAgろう材がW板材に対して濡れ性を有しないためである。従来例3ではAgろう材にTiを入れたことでCu板材とW板材が接合され、接合部材の熱伝導率は178W/m・Kとなった。しかし、ヒートサイクルテストを行ったところ、下部のバランスCu電極に相当する部材がなく、バイメタル効果で接合部が剥離した。従来例4についてはシリコーン樹脂に電流が流れないためシグマテスターを用いた測定を行うことはできなかったが、念のためにヒートサイクルテストでは行ったところ接合部が剥離した。従来例6ではテスト前では熱伝導率35~65W/m・Kと樹脂がないために特性が不安定であり、また、テスト後に接合部材の上部が空洞化していた。このように、従来例1~6では、ヒートサイクルテストを行っても損傷せず、かつ、30W/m・K以上の熱伝導率を有するという要件を満たすものは得られなかった。
【0065】
次に、本発明に係る接合部材の実施例、及び比較例について説明する。実施例及び比較例においても、Cu板材とW板材(いずれも直径20mm、厚さ1mm)を接合し、接合部材の厚さは全て100μmとした。体積分率の記載については従来例と同様である。例えば、体積分率70vol%という記載は、接合部材の内部に30vol%の空隙を有することを意味する。
【0066】
表2に従来例1~5の構成と評価結果を示す。
【表2】
【0067】
実施例1ではCu板材とW板材の間にAg箔を70枚重ね合わせたものを配して第2部材の中央の穴に挿入し、その上下を第1部材で挟んだものを作製し、非酸化雰囲気及び常温で10MPaの圧力を加えて試験片を作製した。実施例2~13と比較例1及び2では、非酸化雰囲気で250℃に加熱して10MPaの圧力を加えて試験片を作製した。実施例3及び13では、第2部材(中央部に直径20mmの穴を形成したもの。試料の周部を取り囲むガイド部材)を用いず、第1部材(40mm四方、厚さ2mmのアルミナ板)で試料の上下を挟んだ試験片を作製した。実施例12では、融点が高いAgの箔(厚さ1μm)と融点が低いSnの箔(厚さ1μm)を交互に積層し、Snの箔を部分的に溶融させてAg箔と接合させた。
【0068】
実施例1~13ではいずれもヒートサイクルテストを行っても接合部が損傷することはなかった。また、ヒートサイクルテスト後の熱伝導率はいずれも30W/m・Kよりも高くなった。一方、1枚のAg箔のみを用いた比較例1、及び接合部材の体積分率が60vo%(接合部材の内部の空隙が40vol%)である比較例2では、ヒートサイクルテストを行ったところ接合部が剥離した。これらの結果から、少なくとも2枚以上(即ち複数)の金属箔からなる積層体を用い、接合部材の体積分率を70vol%以上(接合部材の空隙率を30vol%以下)にすることにより、ヒートサイクルテストを行っても接合部が損傷せず、かつ、ヒートサイクルテスト後に30W/m・K以上の熱伝導率が得られることが分かる。また、金属箔としてAg、Cu、Al、及びSnを適宜に組み合わせたものを使用できることが分かる。
【0069】
本発明に係る接合部材を、SiもしくはSiC半導体デバイス/ダイボンド/Cu電極/本発明の接合部材/絶縁セラミック基板/本発明の接合部材/冷却器(各部材の接合順及び接合部材の順番)のように用いることにより、最小限の数の被接合部材及び最小数(3か所)の接合部材のみを用いて片面冷却型IGBTモジュールを構成することが可能になる。このモジュールは、計算値ではあるが、SiC半導体デバイス用に現在開発が進められている両面冷却型のIGBTモジュールと同等以上の放熱性能を有する。このような片面冷却型の構成を採ることにより両面冷却型の構成に比べて被接合部材が少なく、また接合部材も少なくすることができる。もちろん、より高い放熱性能が求められる場合には、本発明に係る接合部材を両面冷却型のモジュールで用いてもよい。また、高価なDBC基板も使用しないため、安価で小型かつ高性能のIGBTモジュールを実現することができる。
【0070】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。上記実施例では金属箔としてAg、Cu、及びSnからなるものを用いたが、これらと同等の熱伝導率及びヤング率を有する他の金属を用いても同等の効果が得られる。そのような金属を含め、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Sn、Zn、Mg、Pb、及びそれらの2以上の合金からなる箔を複数、積層することにより、上記実施例と同様の特性を有する接合部材を得ることができる。いずれの金属からなる箔を用いるかについては、接合部材に求められる柔軟性、線膨張係数、熱伝導率、コスト等を勘案して適宜に決めることができる。
【符号の説明】
【0071】
1…接合体
10…積層体
11…金属箔
12…空隙
20、30…被接合部材
【要約】
【課題】接合面が金属である部材と接合面がセラミックである部材を接合して放熱経路を構成する際の放熱効率を向上することができる接合部材を提供する。
【解決手段】高熱伝導率を有する金属である、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Sn、Zn、Mg、Pb及びこれらの合金から選ばれる材料から成る箔11を複数、積層してなり内部に5vol%以上30vol%以下の空隙12を有する積層体10を備え、200℃への加熱と25℃への冷却を300回繰り返すパワーサイクルテストを行った後の熱伝導率が30W/m・K以上であることを特徴とする接合部材。
【選択図】図1
図1