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特許70250853次元造形装置用の造形材料のホットエンド、及びホットエンドを搭載した3次元造形装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】3次元造形装置用の造形材料のホットエンド、及びホットエンドを搭載した3次元造形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/209 20170101AFI20220216BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20220216BHJP
【FI】
B29C64/209
B33Y30/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021541841
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2019033541
(87)【国際公開番号】W WO2021038721
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-01-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502072374
【氏名又は名称】谷口 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 秀夫
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5340433(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0075210(KR,A)
【文献】特表2013-511432(JP,A)
【文献】特開2019-69592(JP,A)
【文献】特開2020-44781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメント状の造形材料を供給する供給口、融解された前記造形材料を吐出する吐出口、及び前記供給口と前記吐出口とを直線的に連通する通路を有する吐出ヘッドと、
前記通路内の前記造形材料を融解するための加熱手段と、
を備える3次元造形装置用のホットエンドであって、
前記加熱手段と前記供給口との間の前記通路内に、前記加熱手段により融解された前記造形材料が前記供給口側に前記通路を逆流するのを防止する、前記造形材料が接して挿通されるリング状の逆流防止部材が配置され
前記通路の前記逆流防止部材が配置されている領域を囲むように取り付けられる金属部材を備え、
前記金属部材に固定され、前記加熱手段を覆うケース部材を備えること特徴とするホットエンド。
【請求項2】
前記逆流防止部材は、前記通路内の段部に当接して配置されていることを特徴とする請求項1記載のホットエンド。
【請求項3】
前記吐出ヘッドは筒状を有し、前記通路の前記逆流防止部材が配置されている領域の周壁の厚さが、前記加熱手段が配置されている領域の周壁の厚さよりも薄くされていることを特徴とする請求項1又は2に記載のホットエンド。
【請求項4】
前記逆流防止部材よりも前記供給口側の前記通路内に、前記逆流防止部材が前記供給口側に移動するのを防止するための、前記逆流防止部材よりも内径の大きい環状の抜け止め部材を配置したことを特徴とする請求項又はに記載のホットエンド。
【請求項5】
前記逆流防止部材は、耐熱性を有する弾性体、超弾性合金、又は超弾塑性型合金からなる請求項1~のいずれか1項に記載のホットエンド。
【請求項6】
前記リング状とは、螺旋状、コイル状又はコイルばね状である請求項1~のいずれか1項に記載のホットエンド。
【請求項7】
前記逆流防止部材の内周にC面又はR面が形成されている請求項1~のいずれか1項に記載のホットエンド。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のホットエンドを搭載したことを特徴とする3次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FFF(FDM)方式の3次元造形装置(3次元プリンタ)用の造形材料のホットエンド、及びホットエンドを搭載した3次元造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータを利用して3次元プリンタにより立体造形物を製造することが盛んに行われている。このような立体造形物を製造するホットエンドとして、例えば図8に示されるような構造のものが知られている(例えば非特許文献1参照)。このホットエンドは、ヒータブロック103の一端側に吐出部101aを突出するようにノズル101がねじ込まれ、ヒータブロック103の他端側に造形材料の供給部を有するバレル102がねじ込まれた構造を備えている。このバレル102にワイヤ状の造形材料(フィラメント)が挿入され、送り込まれることによって、ヒータブロック103により造形材料が加熱融解されて吐出部101aに流動し、吐出部101aから吐出されるようになっている。このとき、フィラメントは、制御信号によって、バレル102に必要に応じた量が送り込まれることで、吐出部101aから必要な量が吐出され、この吐出部101aの位置が、造形物を形成する造形テーブル(図示せず)とxyz方向に相対的に移動することにより、吐出された造形材料を積層していき所望の3次元造形物が形成される。
【0003】
また、このようなホットエンドにおいて、バレル102内においてフィラメントが溶けないように、バレル102の上部に放熱フィン(図示せず)を設けたり、ファンや水冷によってバレル102を強制的に冷却することが行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】門田和雄著、「3Dプリンタではじめるデジタルモノづくり」、日刊工業新聞社、103頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来のホットエンドでは、よくバレル102の通路内にフィラメントによる詰りが生じ造形に支障を来たすという問題がある。本発明者は、この問題の原因が、連続造形時にバレル102側でのフィラメントの融解を予防するために放熱フィンなどによって冷却することで、バレル102のフィラメントの通路(流路)内においてフィラメントを固体の状態に維持できたとしても、送り込まれるフィラメントの径に比べ融解されたフィラメントを吐出する吐出口の径が小さいために、フィラメントが押圧されて送り込まれる際にノズル101側で融解したフィラメントが、通路の内径とフィラメントの線径との差異による通路内壁とフィラメントとの間の隙間(クリアランス)、すなわち固体の状態のフィラメントと通路の内壁との隙間からバレル102側に侵入(逆流)することであることを見出した。つまり、ノズル101側で融解させられたフィラメントが、クリアランスからバレル102側に侵入し、バレル102側の通路内で固着してしまい、バレル102内の通路でフィラメントの詰まりが生じ、フィラメントの送り込みを阻害することから、造形材料の吐出ができず、造形に支障が生じることになる。そこで、通路の内径をフィラメントの線径に近づけて前記クリアランスを極力小さくすることで融解したフィラメントの逆流を防止することを試みようとしても、元来フィラメントの線径は一定ではなく公差を含んでいることから、効果的な逆流防止とはならない。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、融解した造形材料が通路を必要以上にフィラメント供給側へ逆流することを防ぐことで、通路内でのフィラメントの詰まりを防止し得る、良好に連続造形可能な信頼性の高いホットエンド及びホットエンドを搭載した3元造形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、3次元造形装置用のホットエンドにおいて、融解された造形材料の逆流を防止する逆流防止部材を、フィラメントが融解される融解部とフィラメントが供給される供給口との間に設けることで、造形材料の逆流は抑制され、ホットエンドの通路の詰まりが生じにくくなることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、フィラメント状の造形材料を供給する供給口、融解された前記造形材料を吐出する吐出口、及び前記供給口と前記吐出口とを直線的に連通する通路を有する吐出ヘッドと、前記通路内の前記造形材料を融解するための加熱手段と、を備える3次元造形装置用のホットエンドであって、前記加熱手段と前記供給口との間の前記通路内に、前記加熱手段により融解された前記造形材料が前記供給口側に前記通路を逆流するのを防止する、前記造形材料が接して挿通されるリング状の逆流防止部材が配置されることを特徴とするホットエンドに係る。
【0009】
本発明のホットエンドによれば、通路内にフィラメント状の造形材料(フィラメント)を接して挿通するリング状の逆流防止部材を配置するようにしているので、フィラメントと逆流防止部材のリング内壁との間の隙間を実質的に無視できる程度小さくしてフィラメントを押し込む(供給する)ことができるので、加熱手段の熱により融解した造形材料が逆流防止部を超えて供給口側(上流側)へ通路内を逆流することが防止される。このように、逆流防止部材よりも上流側の通路内に、下流側の通路内で融解した造形材料が侵入(逆流)するのを効果的に防止できるので、造形材料を供給する通路の詰まりを防止して良好に連続造形可能な、信頼性の高いホットエンドを実現することができる。なお、本発明において吐出ヘッドは、一体形成されたものであっても、例えば、フィラメントを融解する加熱手段が設けられる融解部とフィラメントを融解部へと供給する供給部との2分体、更には、3分体からなるものであってもよい。
【0010】
前記通路の前記逆流防止部材が配置されている領域を囲むように取り付けられる金属部材を備えてもよい。また、前記金属部材に固定され前記加熱手段を覆うケース部材を備え得る。
【0011】
金属部材が逆流防止部材の配置される領域を取り囲むことで、通路内における温度分布を適切にすることで、通路上流側でのフィラメントの融解を予防することができる。つまり、金属部材により逆流防止部材の周囲の領域の熱容量及び表面積を増大させることができ、加熱手段による熱が逆流防止部材よりも上流側に伝わるのを防止できる。つまり、金属部材は、冷却部材として機能する。従って、フィラメントの固体の部分と融解して流体化している部分との境界をより明確にでき、逆流防止部材よりも上流側の通路内でフィラメントが軟化することを抑制することができるので、より効果的に通路内でのフィラメントの詰まりが防止され得る。また、ケース部材(カバー部材)が設けられることで、加熱手段による熱をケース部材の外表面から適切に放熱できるとともに、当該熱が通路上流側に伝わるのを防止でき、ケース部材内に熱を閉じ込めることができ、加熱手段による熱をより有効にフィラメントの融解に利用することができる。その結果、通路内における温度分布を適切にすることで、通路上流側でのフィラメントの融解を予防することができて、通路内でのフィラメントの詰まりをより一層防止することができる。
【0012】
前記逆流防止部材は、前記通路内の段部に当接して配置されていることが好ましい。段部に逆流防止部材を当接して配置することで、逆流防止部材が通路下流側に押し込まれるのを防止でき、適切な位置に保持し得る。
【0013】
また、前記吐出ヘッドは筒状を有し、前記通路の前記逆流防止部材が配置されている領域の周壁の厚さが、前記加熱手段が配置されている領域の周壁の厚さよりも薄くされ得る。吐出ヘッドの逆流防止部材が配置されている領域の周壁の厚さを薄くすることで、加熱手段による熱が周壁を伝って逆流防止部材より上流側に伝わるのを抑制することができる。
【0014】
前記逆流防止部材よりも前記供給口側の前記通路内に、前記逆流防止部材が前記供給口側に移動するのを防止するための、前記逆流防止部材よりも内径の大きい環状の抜け止め部材が配置され得る。このことによって、逆流防止部材を流路内の所望の位置に保持することができる。
【0015】
前記逆流防止部材は、耐熱性を有する弾性体、超弾性合金又は超弾塑性型合金からなり得る。このことによって、フィラメント径に公差があったとしても、逆流防止部材のリング内径をフィラメントの線径の変化に追従するように変化可能とでき、フィラメントとの間に実質的に隙間なく密着させてフィラメントを送り込むことができ、逆流を防止することができる。
【0016】
また前記リング状とは、螺旋状、コイル状又はコイルばね状であってよい。前記逆流防止部材の内周にはC面又はR面が形成され得る。これらのことによって、逆流防止部材とフィラメントとの接触面積によって摩擦抵抗(滑り抵抗)が変化するところ、逆流防止部材を螺旋状、コイル状又はコイルばね状としたり、逆流防止部材の内周にC面又はR面を形成したりすることで、上記摩擦抵抗を調整可能として、フィラメント送り(融解部へのフィラメントの供給)を好適に行えるようにできるとともに、逆流防止部材とフィラメントとの間に隙間が生じることをより効果的に防止することができる。
【0017】
本発明の3次元造形装置は、上述の3次元造形装置用のホットエンドを搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、通路内に配置された逆流防止部材の通路上流側に、通路下流側で融解させた造形材料(フィラメント)が逆流するのを防止できるので、造形動作に支障を来たす通路の詰りの発生を予防しつつホットエンドを使用することが可能となり、良好で連続的な造形動作を実現できる、信頼性の高いホットエンド、及びこれを搭載した3次元造形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態のホットエンドの一例の断面図である。
図2】本発明の一実施形態のホットエンドに用いられる吐出ヘッドの(A)正面図、及び(B)底面図である。
図3】本発明の一実施形態のホットエンドに用いられる金属部材の(A)正面図、及び(B)底面図、である。
図4】本発明の一実施形態のホットエンドに用いられるケース部材の(A)正面図、及び(B)底面図、である。
図5】本発明の一実施形態のホットエンドの、加熱手段を説明する図である。
図6】加熱手段による加熱量の制御の一例を説明するブロック図である。
図7】本発明の一実施形態のホットエンドの他の例の断面図である。
図8】従来のホットエンドの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照しながら本発明の一実施形態の3次元造形装置用の造形材料のホットエンドを説明する。図1は、本発明のホットエンド1の断面説明図である。ホットエンド1は、フィラメント状の造形材料(フィラメント3a)が供給される供給口11を備える供給部10、供給された造形材料を融解する融解部30、融解された造形材料を吐出する吐出口41を備える吐出部40、供給部10と融解部30との間を構成する断熱部20、及び、供給口11から吐出口41までを連通する造形材料の通路12、を有する吐出ヘッド100を用いて形成されている。なお、供給部10には、ホットエンド1を3次元造形装置に装着するための取付治具Aが装着されている。
【0021】
ホットエンド1は、融解部30に取り付けられた加熱手段(加熱ヘッド)60を備えており、この加熱手段60から吐出ヘッド100の融解部30に与えられる熱によって、通路12内の造形材料は融解される。図1に示される例では、加熱手段60が2つ、吐出ヘッド100を挟むように設けられている。加熱手段60と供給口11との間の通路12内には、加熱手段60により融解された造形材料が供給口11側に逆流するのを防止する、リング状の逆流防止部材50が配置されている。
【0022】
図1に示される例において、逆流防止部材50は、吐出ヘッド100の通路12の内部の融解部30の造形材料が供給される入口(断熱部20と融解部30の境界部)に設けられた段部21の上面に接して設けられる。逆流防止部材50よりも大きい内径を有する環状の固定部材(抜け止め部材)51と段部21とによって挟まれるようにして固定されている。通路12の径は、融解部30の入口において、断熱部20側よりも融解部30側で小さくなるように形成されている。この通路12の径が変化する段差の部分(段部21)に当接して逆流防止部材50は配置され、融解部30の通路12内に入り込まないようにされる。
【0023】
フィラメント3aは固体の状態で供給口11から通路12に挿入され、通路12内に設置されたリング状の逆流防止部材50を挿通して融解部30に送り込まれ、加熱手段60から与えられる熱によって融解され、吐出部40に設けられた吐出口41から吐出される。固体の状態のフィラメントは3a、融解した状態のフィラメントは3b、固体と液体の混合した状態のフィラメントは3cとして示されている。
【0024】
図1に示される例では、抜け止め部材51の融解部30側の先端部(下端部)は逆流防止部材50に当接している。逆流防止部材50は、抜け止め部材51と通路12の段部21とで挟まれるようにして固定されているが、抜け止め部材51は設けられずに、逆流防止部材50が通路12内に圧入されることで固定されてもよいし、吐出ヘッド100の上流部側の供給部10と断熱部20とをバレル様とし、下流部側の融解部30と吐出部40とをノズル様とする2分体として、この間に逆流防止部材50を挟持するように通路12内に配置するようにしてもよい。
【0025】
図1に示される例では、逆流防止部材50は、フィラメントの長さ方向における一部の周縁を取り囲んで接して保持し得るリング状に形成されている。特に、逆流防止部材50は、その内径がフィラメントの線径の公差内の変動に追従し密着して保持した状態が維持され得る弾性を有する材料で形成されるのが好ましく、この場合、例えば直径が1.75mmのフィラメントで線径の公差が±0.05mmのものが用いられる場合であれば、逆流防止部材50の内径は1.70mmに形成され、1.70mm~1.80mmの範囲の径の変動に追従し得るように形成される。
【0026】
図1に示されるホットエンド1は、吐出ヘッド100の外周に取り付けられる金属部材(金属ブロック)71とケース部材(カバー部材)72とを備えている。金属部材71は、上部に鍔状に拡がる部分を有する、略円筒形の部材であり、その中央には吐出ヘッド100の外形に適合した貫通孔が設けられている。この貫通孔に吐出ヘッド100が挿通され、金属部材71は、吐出ヘッド100の逆流防止部材50が配置されている領域の外周に接して取り付けられる。金属部材71の側面には取付用孔71aが形成されている。金属部材71はこの取付用孔71aに挿通される押しネジなどの固定手段によって、吐出ヘッド100に固定される。また、金属部材71を固定するに際して、吐出ヘッド100の融解部30の上方の断熱部20との境界の外周(通路12内の段部21と対向する位置)の一部に下側が僅かに張り出す段部22が設けられ、金属部材71は、吐出ヘッド100の上端の供給口11側から嵌入され、その下端部が段部22の上面に当接するようにして位置決めされる。なお、金属部材71の吐出ヘッド100に対する取り付け位置は、吐出ヘッド100の長さ方向に沿って移動可能とされている。
【0027】
金属部材71が吐出ヘッド100の逆流防止部材50が設けられている領域付近に取り付けられることにより、吐出ヘッド100の融解部30と断熱部20との境界付近の熱容量が増大し、当該領域における温度は上昇しがたくなる。また、金属部材71の特に鍔状の部分など表面積が大きくなることで放熱効果が得られる。従って、フィラメントを溶解するために加熱手段60から吐出ヘッド100の融解部30に加えられる下流側の熱を、上流側の断熱部20に伝わるのを抑制でき、断熱部20から供給部10にかけて適切な温度にすることができる。すなわち、フィラメントの固体の部分と溶融状態の部分との境目が逆流防止部材50の配置されている領域にまでシフトして、逆流防止部材50が保持している部分のフィラメントが融解し、逆流防止部材50によるフィラメントの逆流防止の機能が損なわれるおそれが抑制される。換言すれば、逆流防止部材50を挿通するフィラメントの固体状態をより確実に維持できる。
【0028】
ケース部材72は略円筒形の形状を有しており、その上部が金属部材71の外周と嵌合するように取り付けられ、固定される。ケース部材72の上部には、切込み(溝部)72aが形成されており、上述の金属部材71の側面に形成されている取付用孔71aと当該溝部72aの位置を一致させ、押しネジなどの固定手段を溝部72a及び取付用孔71aに挿通することによって、ケース部材72と金属部材71とが一体的に吐出ヘッド100に固定される。
【0029】
ケース部材72は、吐出ヘッド100の加熱手段60が取り付けられた融解部30の周囲全体をカバーしている。金属部材71と嵌合されている側と反対側(吐出部40側)には、吐出口41を突出させる孔72bが設けられている。ケース部材72は、吐出ヘッド100から金属部材71に伝達した熱を、融解部30側に還流させて再利用する機能を有する。金属部材71に加えてカバー部材72が設けられていることにより、融解部30の入口付近から吐出部40にかけての所定幅の領域の温度分布(温度勾配)を、フィラメントの種類に応じて、通路12の詰まりが生じ難く安定した温度分布とすることができる。また、ケース部材72の表面による放熱効果も期待でき、フィラメントを溶解するために加熱手段60から吐出ヘッド100の融解部30に加えられる下流側の熱を、上流側の断熱部20に伝わるのを更に抑制でき、断熱部20から供給部10にかけてより適切な温度にすることができる。ケース部材72と、ケース部材72がカバーする吐出ヘッド100との間の空間には、ガラス繊維などの耐熱性の絶縁材料が充填されてもよい。なお、ケース部材72の上部に形成されている溝部72aは縦方向に所定の長さを有しているため、ケース部材72の金属部材71に対する取り付け位置を縦方向に移動させることが可能である。すなわち、ケース部材72が被覆する範囲は、金属部材71及びケース部材72の吐出ヘッド100に対する取り付け位置によって、任意に調整され得る。
【0030】
図1に示されるホットエンド1に使用される吐出ヘッド100の、加熱手段60が取り付けられる面の側から見た正面図が図2(A)に示され、吐出口41側から見た底面図が図2(B)に示される。吐出ヘッド100は、供給部10、断熱部20、融解部30及び吐出部40が、例えば、ステンレス、ニッケル合金、チタン、チタン合金、セラミックスのいずれかを用いて一体的に形成されているものであってよい。吐出ヘッド100は独立した部材を組み合わせて形成されたものでもよく、各部材の間のいずれか或いはすべてに他の部材が介在してもよい。独立した部材を組み合わせて吐出ヘッド100を形成する場合には、融解部30及び吐出部40に使用される部材の材料の熱伝導率が断熱部20に使用される部材の材料の熱伝導率より高いことが、供給部10側への伝熱を抑制しつつ加熱手段60の熱を効果的に造形材料の融解に利用する観点から好ましい。
【0031】
図2に示される吐出ヘッド100は、例えば円柱状の金属棒を切削加工してなるものである。吐出ヘッド100の図2(A)に図示される部分の全長は例えば33mmである。吐出ヘッド100は、例えば64チタン(チタンにアルミニウム6質量%、バナジウム4質量%を混ぜた合金)を用いて形成される。
【0032】
図示の例では、供給部10及び断熱部20は直径が例えば3mmの円柱形状(円筒形状)とされ、その長さは例えば17.5mmとされる。供給部10及び断熱部20の中心部には、直径が例えば2.3mmの通路12が形成されている。断熱部20は、融解部30よりも熱抵抗が大きくなるように形成されている。断熱部20の周壁には断熱部20の断面積を小さくしてその熱抵抗を高くし得る、例えば長さ6mm、幅1.8mmの開口20aが、通路12に対向して一対で形成されている。開口20aは、吐出ヘッド100の長さ方向及び/又は幅方向に1つ又は複数設けてもよく、そのサイズは適宜決定され得る。
【0033】
図示の例では、融解部30は、角部がC面に形成された、例えば一辺3.2mmの矩形の断面形状を有する四角柱状に形成され、その長さは例えば12.5mmである。四角柱状の融解部30の4つの側面(平面部)のそれぞれには、加熱手段60が取り付けられ得る。融解部30に取り付けられる加熱手段60のサイズ、数、位置などに応じて、融解部30は四角柱以外の角柱状(例えば三角柱状、又は五角柱状)に形成されてもよい。融解部30の中心には、直径が例えば1.8mmの通路12が、断熱部20の通路12と連通して形成されている。上述したように、融解部30における通路12の径は、断熱部20における通路12の径よりも小さく形成されており、通路径が変化する融解部30と断熱部20との境目には逆流防止部材50を固定し得る段部21が形成されている。すなわち、融解部30における通路12の周壁の厚さより、断熱部20における通路12の周壁の厚さが、薄く形成されている。なお、融解部30の4つの側面には、その内部の造形材料をより効率的に加熱して融解させるために、通路12を露出させる開口が形成されてもよい。加熱手段60が開口を塞ぐように取り付けられることで、造形材料が加熱手段60により直接加熱されることとなり、より効率的に造形材料の融解がなされ得る。
【0034】
吐出部40は、例えば長さ3mmの略円錐状とされ、融解部30から吐出部40の先端部(吐出口41)側に向けて先細る形状を有している。吐出部40は融解部30との境界においては例えば直径3mmに形成され、吐出口41が形成されている先端部では、例えば直径1.5mmに形成され、吐出口41は例えば直径0.4mmに形成される。
【0035】
取付治具Aは、供給部10に嵌合して接続される。取付治具Aは例えば、長さ5mm、直径4mmの円柱形状(円筒形状)である。取付治具Aは、ホットエンド1を3次元造形装置の本体に取り付けるための取付部としての役割を有する。なお、上述した吐出ヘッド100の各部及び通路12のサイズは、フィラメントのサイズなどに応じて適宜変更され得る。
【0036】
本発明のホットエンド1における逆流防止部材50は、上述したように、融解した造形材料が供給部10側へ逆流することを防止するために設けられる。リング状の逆流防止部材50にはフィラメントが挿通され、フィラメントの一部における外周に逆流防止部材50が実質的に隙間なく密着する。フィラメントは、造形動作に伴うフィラメントの送り込みを阻害しない程度の力で、逆流防止部材50によって保持される。3次元造形に使用されるフィラメントはその長さ方向で径が変動し得る。直径1.75mmのフィラメントであれば、例えば±0.05mmの公差を有し得るので、逆流防止部材50はこの径の変動に追従してフィラメントに密着し得る弾性を有する材料で形成される。
【0037】
逆流防止部材50に使用される材料は、フィラメントが融解する温度に対する耐熱性を有することが好ましく、一例として超弾性合金であるNi-Ti系合金が使用され得る。超弾性合金であるNi-Ti系合金はその超弾性により8%程度の回復ひずみを有しており、フィラメントの径の変動に対して充分に追従し得る。また、耐熱性の弾性を有する樹脂が用いられてもよく、例えば300℃近くの高温でもゴムとしての物性を保ち得るパーフルオロエラストマー(FFKM)が使用され得る。更に、超弾性的性質と超塑性的性質を併せ持った超弾塑性型合金も用いられ得る。超弾塑性合金は、室温で99.9%以上の冷間加工が可能である超塑性的性質から成形がきわめて容易であり、加工性も優れていることから好ましい。超弾塑性型合金の一例としては、β型チタン合金に属する、豊通マテリアル(株)製「ゴムメタル」(登録商標)が挙げられる。
【0038】
逆流防止部材50の形状は、その内側が固体の状態のフィラメントに密着して保持し得るリング状に形成されている。ここでリング状とは、フィラメントの外周を取り囲んで保持し得る、例えば、螺旋状、コイル状、コイルばね状、管状、筒状、ワッシャ状(平ワッシャ状、皿ワッシャ状、丸ワッシャ状)、オーリング状、テーパ付管状等を含む広義の意味である。螺旋状、コイル状又はコイルばね状の逆流防止部材50が用いられる場合にはコイルの巻き数は例えば2~3周にされるのが好ましい。フィラメントの線径の変化に対する追従において、コイル内径の変化のみならず、特にコイルばね状の場合はばねの変形も寄与することになり、より良好に追従し得ることになり好ましい。逆流防止部材50の内周にはC面又はR面が形成されてよく、フィラメントと逆流防止部材50との接触面積が調整され、フィラメントを保持する力が適切に調整され得る。
【0039】
また、逆流防止部材50は、両端が繋がった或いは繋がっていないリング状のもの、連続したオーリング状のものであってもよく、超弾塑性体や伸縮の大きいゴム状物を含む構造のものであってもよい。特に、弾性を有する材料からなる断面円形状又は楕円形状の線材からなる螺旋状、コイル状又はコイルばね状のものがより好ましい。
【0040】
図1に示される例では、通路12内にはひとつの逆流防止部材50が設けられているが、複数個の逆流防止部材50が設けられてもよい。すなわち、複数個のリング状の部材が重ねられて通路12内に配置され得る。例えば、リング状の逆流防止部材50が互いに密着して積み重なるように通路12内の融解部30の入口付近に配置され得る。これにより、逆流防止部材50によるフィラメントの保持がより確実にされる。複数個のリング状の逆流防止部材50は互いに離間して配置されてもよい。
【0041】
図1に示されるように環状の抜け止め部材51が逆流防止部材50の供給口11側に設けられ、逆流防止部材50は、抜け止め部材51と通路12の段部との間に挟まれるようにして固定される。抜け止め部材51には、通路12内で逆流防止部材50を安定して固定する観点から、例えばステンレス、ニッケル合金、チタン、又はチタン合金等の金属が用いられることが好ましく、形状記憶合金であるNi-Ti系合金がより好ましく使用される。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のエンジニアリングプラスチックが使用されてもよい。また、逆流防止部材50は、例えば金属ペーストや無機接着剤といった耐熱性の接着剤を使用した通路12内への接合によって固定されてもよい。
【0042】
逆流防止部材50は、融解したフィラメントの逆流を防止する観点から、保持する部分のフィラメントが固体である必要がある。すなわち、逆流防止部材50が設けられている部分(融解部30と断熱部20の境界近傍)においては、フィラメントが融解しない温度に温度制御されている必要がある。加熱手段60から与えられて融解部30のフィラメント上流側へ伝わる熱による、逆流防止部材50が設けられる領域の温度上昇を抑制するために、例えばアルミニウム又はステンレス等からなる金属部材71が、融解部30と断熱部20の境界付近の外周に設けられ得る。
【0043】
金属部材71の一例の正面図が図3(A)に、底面図が図3(B)に示される。金属部材71は、例えば、アルミニウム、ステンレス等の公知の金属を用いて形成され得る。吐出ヘッド100の金属部材71が取り付けられる部位の熱容量を増大させる観点から、金属部材71には比熱の大きい材料が用いられることが好ましい。また、放熱の観点から、金属部材71には放熱性を向上させる処理が施されていることが好ましい。例えば、表面にアルマイト処理が施されたアルミニウムが好ましく用いられる。金属部材71は、その中心に略同径の内腔を有する円筒形状を有する部材であり、その一端側には外径が大きく形成された鍔状の部分を有している。図示の例では、鍔状の部分の外径は、例えば直径14mmに形成される。鍔状の部分以外の円筒形状を有する部分の外径は、例えば直径7.9mmに形成される。金属部材71の内腔は、吐出ヘッド100の断熱部20の形状及びサイズに適合して形成されており、例えば直径3.1mmに形成される。
【0044】
金属部材71が取り付けられることによって、融解部30と断熱部20の境界近傍の領域の熱容量は増大する。この領域の熱容量が増大することで、造形材料の吐出が停止された場合などに融解部30と断熱部20の境界部近傍の通路12内に留まっている造形材料に多くの熱が集中したとしても温度が上昇しにくくなる。従って、造形材料の固体の部分と融解して流体化している部分との境界が断熱部20側にシフトすることが抑制され得る。すなわち、逆流防止部材50が保持する部分のフィラメントの融解が抑止され、通路12内での造形材料の詰まりが抑制され得る。また、金属部材71は、融解部30と断熱部20の境界又は境界部近傍の熱を放熱する効果も有し、その形状によって放熱効果を高めることによって詰まりの予防効果を更に高めることも出来る。
【0045】
金属部材71の側面には、吐出ヘッド100への固定手段が挿通され得る貫通孔(取付用孔)71aが4つ形成されている。金属部材71は、吐出ヘッド100の断熱部20の長さ方向における任意の位置に取り付けられ得る。すなわち、使用されるフィラメントの融解温度や、フィラメントの送り速度等に応じて、融解部30と断熱部20との境界付近の領域の温度が適切に維持されるように、位置を調整して取り付けられ得る。なお、図1においては、金属部材71の内腔は吐出ヘッド100の断熱部20の外周の形状に適合され、断熱部20に取り付けられる例が示されているが、金属部材71の内腔を融解部30の外周の形状に適合させ、融解部30の外周に取り付けることも可能である。
【0046】
ケース部材72の一例の正面図が図4(A)に、底面図が図4(B)に示されている。ケース部材72は、金属部材71と同様に、例えば、アルミニウム、ステンレス等の公知の金属を用いて形成される。アルミニウムが用いられる場合には、表面にアルマイト処理が施されていることが好ましい。ケース部材72は略円筒形状の部材であり、その一端側は金属部材72と嵌合される。金属部材72と嵌合される部分と反対側には、中央部に吐出ヘッド100の吐出口41を吐出させるための孔72bが形成されている底面を有している。図示の例では、金属部材71が嵌合されるケース部材71の内腔の径は、例えば直径8mmに形成される。ケース部材71の長さは、例えば18.0mmである。
【0047】
ケース部材72は、吐出ヘッド100から金属部材71伝達した熱を、融解部30側での加熱に有効利用するために設けられる。ケース部材72が融解部30から吐出部40にかけての所定の領域をカバーすることによって、この領域における安定した温度分布(温度勾配)を形成することが可能となる。すなわち、ケース部材72は加熱手段60から吐出ヘッド100に与えられた熱を有効利用する省エネ効果をもたらすとともに、融解部30から吐出部40にかけての所定の領域の温度分布を安定化させ、安定的な造形動作に寄与し得る。
【0048】
ケース部材72の金属部材71と接続される側には、溝部72aが形成されている。吐出ヘッド100に金属部材71とケース部材72とが取り付けられる場合には、金属部材71の取付用孔71aとケース部材72の溝部72aとの位置が一致するように配置され、溝部72aと取付用孔71aに挿通された押しネジなどの固定手段によって、金属部材71とケース部材72とが吐出ヘッド100に固定される。この吐出ヘッド100に金属部材71とケース部材72とが取り付けられる際には、金属部材71の吐出ヘッド100に対する取り付け位置は、吐出ヘッド100の長さ方向に移動させることができ、ケース部材72の金属部材71に対する取り付け位置は、ケース部材72の長さ方向に移動可能とされている。すなわち、ケース部材72がカバーする領域は、金属部材71の吐出ヘッド100に対する取り付け位置、及び、ケース部材72の金属部材71に対する取り付け位置に応じて、変化させることが可能な構造とされている。
【0049】
ケース部材72がカバーする領域を変化させることで、吐出部40から断熱部20にかけての所定幅の領域の温度分布(温度勾配)を調整することができる。造形材料の種類や特性(物性)に応じた適切な温度勾配に近づけることができ、ホットエンド1の供給部10側の通路内で造形材料の詰まりが発生することを抑制するとともに、適切な溶融状態にある造形材料を良好に吐出口41から吐出させることができる。
【0050】
ホットエンド1における加熱手段60としては、例えば、絶縁基板上に厚膜抵抗体層を形成した加熱ヘッド、ヒートブロック等公知のものを広く使用することができるが、応答性やサイズの点において加熱ヘッドを用いるのが好ましい。加熱手段(加熱ヘッド)60の構造の一例を図5に示す。吐出ヘッド100の融解部30に取付けられる加熱ヘッド60は、例えば厚さ0.3mm、長さ12mm、幅5mmの矩形板状のアルミナ又はジルコニアなどのセラミック基板(絶縁基板)61と、絶縁基板61の表面に形成された帯状の発熱抵抗体62と、絶縁基板61の表面において発熱抵抗体62の両端部のそれぞれに接続するように形成された電極63を有する。なお、発熱抵抗体62の表面を、例えばフィラーを含むガラス等の保護層(誘電体層)でコートしてもよく、発熱抵抗体62の表面を別の絶縁基板で覆ってもよい。
【0051】
加熱手段60は、絶縁基板61に、例えばAg、Pd、Pt等の合金粉末や酸化ルテニウムを含む厚膜用ペースト等を所定のパターンに印刷、乾燥後、所定温度で焼成することで発熱抵抗体62、電極63を形成することができる。
【0052】
また、絶縁基板61の電極63の形成部に、電極63とリード(図示せず)との接続強度を向上させるために切欠部が形成される。図3に示される例では切欠部は1つの電極63に対して2つずつ設けるようにしたが、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。更に、切欠部に代えて貫通孔(スルーホール)を1つ若しくは複数設けてもよいし、切欠部と貫通孔とを組み合わせて用いるようにしてもよい。つまり、切欠部や貫通孔を設けるのは、電極63とリードとの接続強度を向上させるために、接続面積を増やしたり、アンカー効果等の機械的係合が得られる対策をとることで、高温に加熱したり、2次元的又は3次元的に移動操作させた場合であっても接続不良が生じないようにしている。
【0053】
図1に示されているように、吐出ヘッド100に加熱手段60が取付けられた状態では、加熱手段60は、その裏面(絶縁基板61の発熱抵抗体62が形成されていない面)側を吐出ヘッド100の融解部30の平面部(四角柱の側面)に、例えば銀系の厚膜ペースト(Agに例えばガラス、Cuが含有されたもの)を接合材料として塗布、焼成して、接合されている。なお、図1の例では、発熱抵抗体62の絶縁基板61と反対側には別の絶縁基板66が設けられている。ホットエンド1においては、吐出ヘッド100における融解部30に2つの加熱手段60が対向して取り付けられているが、加熱手段60は、四角柱状の融解部30の4つ平面部のそれぞれに取り付けられ得る。例えば、4つの平面部の全てに加熱手段60が設けられて、ホットエンド1が4つの加熱手段60を備える構成としてもよく、隣り合う2つの平面部にのみ加熱手段60を設ける構成としてもよい。
【0054】
加熱手段60が小型のものである場合には、1つの平面部における長さ方向に、複数の加熱手段60を設けることも可能である。融解部30が四角柱状に形成され4つの平面部を有していることで、加熱手段60の取り付け位置の自由度が格段に向上し、融解部30における通路12内の温度分布を、使用されるフィラメントの種類(物性)等に応じて、より適切に調整することが可能となる。例えば、融解部30のフィラメントの上流側には2つの対向する平面部に加熱手段60を配置し、フィラメントの下流側には4つの平面部の全てに加熱手段60を配置して、下流側でより高温の温度分布となるように加熱手段60の配置を構成することもできる。
【0055】
図6は、ホットエンド1で加熱手段60の発熱抵抗体62によって基板の温度測定をもおこない、測定された温度に応じて発熱抵抗体62による加熱量を調整することで融解部30の温度制御をする場合の制御回路の一例を示すブロック図である。すなわち、この駆動回路は直流又は交流の電源64で駆動する例で、電源64としては、電池、商用電源又は商用電源をトランスなどにより電圧や印加時間を調整して、印加電力を調整する調整部を介して発熱抵抗体62に接続されている。
【0056】
商用の交流電源64により供給される電圧は、電力の調整部により調整され、所望の温度になるように調整される。その結果、直流電源が不要で、電源冷却ファンも不要になる。しかし、電池による直流電源が用いられてもよい。また、図示されていないが、パルスを印加するパルス駆動により加熱がされてもよい。その場合、電圧を変える以外にもデューティサイクルを変えたり、位相制御などで発熱に関する実行印加電力が調整され得る。
【0057】
温度は、発熱抵抗体62を利用して、その抵抗値の変化によって検出することができる。発熱抵抗体62の抵抗値の変化は、図6に示されるように、発熱抵抗体62と直列にシャント抵抗65が接続され、その両端の電圧を測定することによって、電流の変化を検出できる。発熱抵抗体62に印加する電圧が一定のとき、電流の変化が分かれば、抵抗値の変化を知ることができる。すなわち、発熱抵抗体62の抵抗値は温度によって変る温度特性を有している。そのため、その温度特性(温度係数)を予め検出しておくことによって、抵抗値が分かれば、発熱抵抗体62、すなわち絶縁基板61の温度を知ることができる。この温度検出は、制御手段によってなされる。また、シャント抵抗65は、発熱の影響を避けるため温度検知が可能な限り抵抗値の低い方がよい。また、できるだけ温度係数の小さい抵抗が好ましく、電流による発熱を避けるため、電流が小さくなるように設定される。
【0058】
この温度測定によって測定された温度に応じて、発熱抵抗体62に印加される電圧が調整部で調整されるように制御手段から制御信号が出され、発熱抵抗体62、すなわち絶縁基板61の温度が所望の温度に調整される。加熱手段60によって造形材料を軟化させて造形物を形成する造形動作の最中には、通路12内における温度分布が安定するように、発熱抵抗体62の温度が制御される。
【0059】
上述した、吐出ヘッド100における逆流防止部材50が取り付けられている領域が過剰に加熱されることを抑止し、通路12の詰まりを防止するために、例えばサーミスタ又は熱電対などの温度監視手段(温度センサ)によって、逆流防止部材50が設けられる部位の温度が測定されてもよい。また、発熱抵抗体62による温度測定とは別に、融解部30の温度を測定する温度センサを、融解部30の平面部に取り付けてもよい。融解部30が四角柱状に形成されているので、温度センサの取り付け位置の自由度が高く、より精密に融解部30の温度を監視することができる。この場合には、温度センサによる測定温度に基づいた制御信号によって加熱手段60の発熱抵抗体62に印加される電圧が制御され、逆流防止部材50が設けられる部位の温度が制御され得る。融解部30を加熱手段60の構成によって温度勾配を持たせて加熱するようにしてもよい。つまり、融解部30の下部側(吐出部40側)の加熱温度を、融解部30の上部側(断熱部20側)の加熱温度よりも高くし、逆流防止部材50へ伝導する熱量を軽減して、逆流防止部材50が設けられる部位の温度を所望の温度に保つこともできる。
【0060】
次に、本発明のホットエンドの他の例が、図7を参照して説明される。図7に示されるホットエンド1aは、図1に示されているホットエンド1の供給部10及び断熱部20の一部が除去された構成を有している。すなわち、ホットエンド1aを構成する吐出ヘッド100aは、吐出部40、融解部30、及びホットエンド1における断熱部20の一部である金属部材71が取り付けられる部分から構成されている。ホットエンド1aにおいても、ホットエンド1と同様に逆流防止部材50が通路12の段部に設けられ、抜け止め部材51によって固定されている。そして、逆流防止部材50で保持されるフィラメントが融解しないように、ホットエンド100aの、逆流防止部材50が設けられている領域の外周に金属部材71が設けられ、更に、金属部材71に接続されるケース部材72が設けられている。
【0061】
本発明のホットエンド1、1aが3次元造形装置に取付けられる際には、3次元造形装置本体側に取付けられるアダプターに設けられた開口に、ホットエンドの造形材料が供給される側を挿し込み、横から、例えば押しネジを用いて固定することができる。
【0062】
上述の本発明のホットエンド1、1aは、耐熱温度が高いスーパーエンジニアリングプラスチックとして知られるPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)をフィラメントに用いて良好に造形できることが確認されている。このとき、逆流防止部材50によって融解した造形材料の逆流が抑止され、通路12内での造形材料の詰まりによる造形動作の不良が発生することもなく、良好に動作することが確認されている。また、ホットエンド1、1aは500℃の高温に迅速昇温可能であることから、低融点金属類のフィラメントも使用され得る。
【0063】
また、上述の吐出ヘッド100は、全体として長さ33mm程度とされ、ホットエンド1は現存するホットエンドに比べて格段に小型となっている。また、吐出ヘッド100を64チタン合金で形成する場合には、小型と相俟って極めて軽量化されている。よって、ホットエンド1を2次元又は3次元に移動させて造形を行うようにした場合であっても、駆動エネルギーの省力化ができる。上述のホットエンド1aは、供給部10及び断熱部20の一部が不要であることから、ホットエンド1よりも更に小型化されている。更に、ホットエンド1、1aは、金属部材71及びケース部材72により、吐出ヘッド100、100aに加えられた熱を効率的にフィラメントの融解に再利用していることから、融解エネルギーの省力化がなされている。
【0064】
また、吐出ヘッド100、100aの材料としてチタン合金(例えば、64チタン)を用い、加熱手段60の絶縁基板61としてセラミック基板(例えば、アルミナジルコニア基板)を用いた場合には、チタン合金とセラミックとの熱膨張率が近いこともあって、造形動作による加熱、冷却のサイクルによる接合不良を効果的に防止することができる。また、アルミナジルコニア基板は、アルミナ基板に比して機械的強度が高いことから薄くでき、加熱ヘッドの小型軽量化をより一層図ることができる。
【0065】
また、吐出ヘッド100、100aの四角柱形状の融解部30は4面の平面部を有していることから、融解部30に取り付けられる加熱手段60の数、及び、加熱手段60の取り付け位置を自由度が高く選択し得る。更に、必要に応じて温度監視手段(温度センサ)を平面部に取り付ける場合には、その平面部に容易に取り付けることが可能である。
【0066】
また、逆流防止部材50は、逆流が生じないように、フィラメントに密着しつつフィラメントの送り込みを阻害しない程度の適切な力でフィラメントを保持する観点から、その材料の弾性等を加味して形状を適宜決定することができる。
【符号の説明】
【0067】
1、1a ホットエンド
3a 個体の状態のフィラメント
3b 融解した状態のフィラメント
3c 固体と液体の混合した状態のフィラメント
A 取付治具
10 供給部
11 供給口
12 通路
20 断熱部
20a 開口
21、22 段部
30 融解部
40 吐出部
41 吐出口
50 逆流防止部材
60 加熱手段(加熱ヘッド)
61、66 絶縁基板
62 発熱抵抗体
63 電極
64 電源
65 シャント抵抗
51 抜け止め部材
71 金属部材
71a 取付用孔
72 ケース部材
72a 溝部
72b 孔
100、100a 吐出ヘッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8