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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 75/18 20060101AFI20220216BHJP
   F01B 1/10 20060101ALI20220216BHJP
   F02B 77/00 20060101ALI20220216BHJP
   F16F 15/26 20060101ALI20220216BHJP
   F16F 15/32 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
F02B75/18 J
F01B1/10
F02B77/00 J
F02B77/00 L
F16F15/26 F
F16F15/32 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018032167
(22)【出願日】2018-02-26
(65)【公開番号】P2019148186
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2020-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】521429672
【氏名又は名称】石川新能源研究院(安徽)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100154014
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 裕士
(72)【発明者】
【氏名】石川 満
(72)【発明者】
【氏名】中野 靖彦
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-538061(JP,A)
【文献】特開昭57-163749(JP,A)
【文献】特開昭62-070627(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0107426(US,A1)
【文献】国際公開第2012/163902(WO,A1)
【文献】特開2004-239182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/00 - 77/00
F01B 1/10
F16F 15/32
F16F 15/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ピストンと、第1クランクシャフトと、前記第1ピストンと前記第1クランクシャフトとを回転可能に連結する第1コンロッドと、前記第1クランクシャフトの前記第1コンロッドの接続箇所に対向する位置に設置された第1バランスマスと、を有し、前記第1ピストンおよび前記第1クランクシャフトが第1軸線に沿って配設される第1エンジン部と、
第2ピストンと、第2クランクシャフトと、前記第2ピストンと前記第2クランクシャフトとを回転可能に連結する第2コンロッドと、前記第2クランクシャフトの前記第2コンロッドの接続箇所に対向する位置に設置された第2バランスマスと、を有し、前記第2ピストンおよび前記第2クランクシャフトが第2軸線に沿って配設される第2エンジン部と、を具備し、
前記第1エンジン部の前記第1軸線と、前記第2エンジン部の前記第2軸線とは、実質的に平行であり、
前記第1エンジン部は、前記第1クランクシャフトの2倍の回転速度で回転する第1バランサシャフトを有し、
前記第2エンジン部は、前記第2クランクシャフトの2倍の回転速度で回転する第2バランサシャフトを有し、
前記第1バランサシャフトおよび前記第2バランサシャフトは、前記第1クランクシャフトと前記第2クランクシャフトとの間に配置され、
前記第1ピストンが往復する方向において、前記第1バランサシャフトおよび前記第2バランサシャフトの回転中心は、前記第1クランクシャフトおよび前記第2クランクシャフトの回転中心よりも前記第1ピストンに接近する側に配置されることを特徴とするエンジン。
【請求項2】
第1ピストンと、第1クランクシャフトと、前記第1ピストンと前記第1クランクシャフトとを回転可能に連結する第1コンロッドと、前記第1クランクシャフトの前記第1コンロッドの接続箇所に対向する位置に設置された第1バランスマスと、を有し、前記第1ピストンおよび前記第1クランクシャフトが第1軸線に沿って配設される第1エンジン部と、
第2ピストンと、第2クランクシャフトと、前記第2ピストンと前記第2クランクシャフトとを回転可能に連結する第2コンロッドと、前記第2クランクシャフトの前記第2コンロッドの接続箇所に対向する位置に設置された第2バランスマスと、を有し、前記第2ピストンおよび前記第2クランクシャフトが第2軸線に沿って配設される第2エンジン部と、を具備し、
前記第1エンジン部の前記第1軸線と、前記第2エンジン部の前記第2軸線とは、実質的に平行であり、
前記第1エンジン部は、前記第1クランクシャフトの2倍の回転速度で回転する第1バランサシャフトを有し、
前記第2エンジン部は、前記第2クランクシャフトの2倍の回転速度で回転する第2バランサシャフトを有し、
前記第1バランサシャフトおよび前記第2バランサシャフトは、前記第1クランクシャフトと前記第2クランクシャフトとの間に配置され、
前記第1ピストンが往復する方向において、前記第1バランサシャフト、前記第2バランサシャフト、前記第1クランクシャフトおよび前記第2クランクシャフトの中心軸は、略一致することを特徴とするエンジン。
【請求項3】
前記第1バランスマスは、前記第1ピストン、前記第1クランクシャフトおよび前記第1コンロッドが動作することで生じる前記第1軸線に沿う1次慣性力を打ち消すことができる質量を有し、
前記第2バランスマスは、前記第2ピストン、前記第2クランクシャフトおよび前記第2コンロッドが動作することで生じる前記第2軸線に沿う1次慣性力を打ち消すことができる質量を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記第1バランスマスおよび前記第2バランスマスは、前記第1エンジン部と前記第2エンジン部との間に規定された対称面に対して対称的に配置されることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のエンジン。
【請求項5】
前記第1クランクシャフトの回転方向と、前記第2クランクシャフトの回転方向とは、逆であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載のエンジン。
【請求項6】
前記第1バランサシャフトと前記第2バランサシャフトとは、前記第1エンジン部と前記第2エンジン部との間に規定された対称面に関して対称的に配置されることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンに関し、特に、並設された2つのエンジン部を有する低振動型のエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なエンジンでは、ガソリン等の燃料を爆発させることでピストンを往復運動させ、この往復運動をクランクシャフトで回転運動に変換し、クランクシャフトに接続する駆動軸から回転トルクを外部に取り出している。このようなエンジンは、レシプロエンジンとも称されている。
【0003】
上記した構成のエンジンを運転すると、ピストンの往復運動およびクランクシャフトの回転運動等に起因して振動が発生するため、この振動を抑制するためにエンジンの内部にバランサシャフトが内蔵されている。所謂偏心シャフトであるバランサシャフトが、クランクシャフトと共に回転することで、クランクシャフトから発生する振動を低減することが出来る。
【0004】
特許文献1には、連続するシリンダの内部でピストンが対向して往復運動する対向ピストン型エンジンが記載されている。この対向ピストン型エンジンでは、エンジン稼働時に発生する振動が、シリンダを挟んだ一方部分と他方部分で互いにキャンセルされる。よって、この対向ピストン型エンジンでは、エンジン稼働時に発生する振動を極めて小さくすることができる。
【0005】
一方、複数の駆動ユニットを有し、各ユニットのピストンの移動方向が互いに平行であるエンジンも開発されている(特許文献2)。このような構成により、エンジンが運転される際の振動を軽減し、更に、動作効率を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5508604号公報
【文献】特許第6052748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した特許文献1に記載された対向ピストン型エンジンでは、シリンダを挟んで両側にエンジン部が配設されていたことから、エンジンの幅方向の寸法が大きくなる課題があった。また、一つのシリンダを2つのピストンで共有することから、より大きな回転トルクを出力させるには改善の余地があった。更には、製造コストの観点からも改善の余地があった。
【0008】
更に、上記した特許文献2に記載されたエンジンでは、各エンジン部が平行に並列されている為、エンジン全体をコンパクトに構成することができるが、各エンジン部が運転される際に発生する振動を効率的に低減することは簡単ではなかった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、並設されたエンジン部から発生する慣性力を相殺することで低振動化を実現するエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のエンジンは、第1ピストンと、第1クランクシャフトと、前記第1ピストンと前記第1クランクシャフトとを回転可能に連結する第1コンロッドと、前記第1クランクシャフトの前記第1コンロッドの接続箇所に対向する位置に設置された第1バランスマスと、を有し、前記第1ピストンおよび前記第1クランクシャフトが第1軸線に沿って配設される第1エンジン部と、第2ピストンと、第2クランクシャフトと、前記第2ピストンと前記第2クランクシャフトとを回転可能に連結する第2コンロッドと、前記第2クランクシャフトの前記第2コンロッドの接続箇所に対向する位置に設置された第2バランスマスと、を有し、前記第2ピストンおよび前記第2クランクシャフトが第2軸線に沿って配設される第2エンジン部と、を具備し、前記第1エンジン部の前記第1軸線と、前記第2エンジン部の前記第2軸線とは、実質的に平行であり、前記第1エンジン部は、前記第1クランクシャフトの2倍の回転速度で回転する第1バランサシャフトを有し、前記第2エンジン部は、前記第2クランクシャフトの2倍の回転速度で回転する第2バランサシャフトを有し、前記第1バランサシャフトおよび前記第2バランサシャフトは、前記第1クランクシャフトと前記第2クランクシャフトとの間に配置され、前記第1ピストンが往復する方向において、前記第1バランサシャフトおよび前記第2バランサシャフトの回転中心は、前記第1クランクシャフトおよび前記第2クランクシャフトの回転中心よりも前記第1ピストンに接近する側に配置されることを特徴とする。
【0011】
本発明のエンジンは、第1ピストンと、第1クランクシャフトと、前記第1ピストンと前記第1クランクシャフトとを回転可能に連結する第1コンロッドと、前記第1クランクシャフトの前記第1コンロッドの接続箇所に対向する位置に設置された第1バランスマスと、を有し、前記第1ピストンおよび前記第1クランクシャフトが第1軸線に沿って配設される第1エンジン部と、第2ピストンと、第2クランクシャフトと、前記第2ピストンと前記第2クランクシャフトとを回転可能に連結する第2コンロッドと、前記第2クランクシャフトの前記第2コンロッドの接続箇所に対向する位置に設置された第2バランスマスと、を有し、前記第2ピストンおよび前記第2クランクシャフトが第2軸線に沿って配設される第2エンジン部と、を具備し、前記第1エンジン部の前記第1軸線と、前記第2エンジン部の前記第2軸線とは、実質的に平行であり、前記第1エンジン部は、前記第1クランクシャフトの2倍の回転速度で回転する第1バランサシャフトを有し、前記第2エンジン部は、前記第2クランクシャフトの2倍の回転速度で回転する第2バランサシャフトを有し、前記第1バランサシャフトおよび前記第2バランサシャフトは、前記第1クランクシャフトと前記第2クランクシャフトとの間に配置され、前記第1ピストンが往復する方向において、前記第1バランサシャフト、前記第2バランサシャフト、前記第1クランクシャフトおよび前記第2クランクシャフトの中心軸は、略一致することを特徴とする。
【0012】
更に本発明のエンジンでは、前記第1バランスマスおよび前記第2バランスマスは、前記第1エンジン部と前記第2エンジン部との間に規定された対称面に対して対称的に配置されることを特徴とする。
【0013】
更に本発明のエンジンでは、前記第1クランクシャフトの回転方向と、前記第2クランクシャフトの回転方向とは、逆であることを特徴とする。
【0015】
更に本発明のエンジンでは、前記第1バランサシャフトと前記第2バランサシャフトとは、前記第1エンジン部と前記第2エンジン部との間に規定された対称面に関して対称的に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のエンジンは、第1ピストンと、第1クランクシャフトと、前記第1ピストンと前記第1クランクシャフトとを回転可能に連結する第1コンロッドと、前記第1クランクシャフトの前記第1コンロッドの接続箇所に対向する位置に設置された第1バランスマスと、を有し、前記第1ピストンおよび前記第1クランクシャフトが第1軸線に沿って配設される第1エンジン部と、第2ピストンと、第2クランクシャフトと、前記第2ピストンと前記第2クランクシャフトとを回転可能に連結する第2コンロッドと、前記第2クランクシャフトの前記第2コンロッドの接続箇所に対向する位置に設置された第2バランスマスと、を有し、前記第2ピストンおよび前記第2クランクシャフトが第2軸線に沿って配設される第2エンジン部と、を具備し、前記第1エンジン部の前記第1軸線と、前記第2エンジン部の前記第2軸線とは、実質的に平行であり、前記第1エンジン部は、前記第1クランクシャフトの2倍の回転速度で回転する第1バランサシャフトを有し、前記第2エンジン部は、前記第2クランクシャフトの2倍の回転速度で回転する第2バランサシャフトを有し、前記第1バランサシャフトおよび前記第2バランサシャフトは、前記第1クランクシャフトと前記第2クランクシャフトとの間に配置され、前記第1ピストンが往復する方向において、前記第1バランサシャフトおよび前記第2バランサシャフトの回転中心は、前記第1クランクシャフトおよび前記第2クランクシャフトの回転中心よりも前記第1ピストンに接近する側に配置されることを特徴とする。従って、第1エンジン部および第2エンジン部に於いて2次慣性力を低減することができる。
【0017】
本発明のエンジンは、第1ピストンと、第1クランクシャフトと、前記第1ピストンと前記第1クランクシャフトとを回転可能に連結する第1コンロッドと、前記第1クランクシャフトの前記第1コンロッドの接続箇所に対向する位置に設置された第1バランスマスと、を有し、前記第1ピストンおよび前記第1クランクシャフトが第1軸線に沿って配設される第1エンジン部と、第2ピストンと、第2クランクシャフトと、前記第2ピストンと前記第2クランクシャフトとを回転可能に連結する第2コンロッドと、前記第2クランクシャフトの前記第2コンロッドの接続箇所に対向する位置に設置された第2バランスマスと、を有し、前記第2ピストンおよび前記第2クランクシャフトが第2軸線に沿って配設される第2エンジン部と、を具備し、前記第1エンジン部の前記第1軸線と、前記第2エンジン部の前記第2軸線とは、実質的に平行であり、前記第1エンジン部は、前記第1クランクシャフトの2倍の回転速度で回転する第1バランサシャフトを有し、前記第2エンジン部は、前記第2クランクシャフトの2倍の回転速度で回転する第2バランサシャフトを有し、前記第1バランサシャフトおよび前記第2バランサシャフトは、前記第1クランクシャフトと前記第2クランクシャフトとの間に配置され、前記第1ピストンが往復する方向において、前記第1バランサシャフト、前記第2バランサシャフト、前記第1クランクシャフトおよび前記第2クランクシャフトの中心軸は、略一致することを特徴とする。従って、第1エンジン部および第2エンジン部に於いて2次慣性力を低減することができる。
【0018】
更に本発明のエンジンでは、前記第1バランスマスおよび前記第2バランスマスは、前記第1エンジン部と前記第2エンジン部との間に規定された対称面に対して対称的に配置されることを特徴とする。従って、第1バランスマスが回転することで発生する慣性力と、第2バランスマスが回転することで発生する慣性力とを相殺することができる。
【0019】
更に本発明のエンジンでは、前記第1クランクシャフトの回転方向と、前記第2クランクシャフトの回転方向とは、逆であることを特徴とする。従って、1次慣性力を相殺する効果を顕著にすることができる。
【0021】
更に本発明のエンジンでは、前記第1バランサシャフトと前記第2バランサシャフトとは、前記第1エンジン部と前記第2エンジン部との間に規定された対称面に関して対称的に配置されることを特徴とする。従って、バランサシャフト同士で慣性力がキャンセルされ、制振効果を更に顕著にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係るエンジンを示す図であり、各エンジン部の構成を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るエンジンを示す図であり、エンジンの外観を示す斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係るエンジンを示す図であり、(A)はエンジンを模式的に示す斜視図であり、(B)はエンジンを模式的に示す側面図である。
図4】本発明の実施形態に係るエンジンを示す図であり、エンジンの詳細を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図を参照して本実施形態に係るエンジン10を説明する。以下の説明では、同一の部材には原則的に同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。以下では、X方向、Y方向およびZ方向の各方向を適宜用いて説明する。ここで、X方向とは第1エンジン部20および第2エンジン部30の第1ピストン21および第2ピストン31が往復運動する方向であり、Y方向とは後述する第1エンジン部20および第2エンジン部30が並設される方向であり、Z方向とは第1エンジン部20および第2エンジン部30の第1クランクシャフト22および第2クランクシャフト32が伸びる方向である。これらの各方向は相互に直交している。また、本出願に於いて、実質的とは、製造誤差や取付誤差の範囲を考慮した範囲で等しいことを意味している。
【0024】
図1を参照して、本実施形態に係るエンジン10は、第1エンジン部20と第2エンジン部30とを有している。第1エンジン部20と第2エンジン部30とは、エンジン10の内部で並設されている。
【0025】
第1エンジン部20は、第1ピストン21と、第1クランクシャフト22と、第1ピストン21と第1クランクシャフト22とを回転可能に連結する第1コンロッド23とを有する。また、第1クランクシャフト22には、第1バランスマス24が形成されている。第1バランスマス24は、第1エンジン部20が運転されるときに1次慣性力をキャンセルするための偏心マスである。
【0026】
第1ピストン21は、第1シリンダ40の内部をX方向に対して平行に往復運動する。また、第1シリンダ40の上方には複数のバルブ29が配設されている。バルブ29は、排気バルブと吸気バルブとを有し、第1エンジン部20が吸気行程および排気行程を行う際に、適宜進退動作を行う。バルブ29の進退動作は、第1バルブギア44に繋がるカムシャフトに接続されたカムにより制御されている。更に、第1エンジン部20は、2次慣性力をキャンセルするための第1バランサシャフト26を有している。
【0027】
第2エンジン部30は、第1エンジン部20と同様に、第2ピストン31と、第2クランクシャフト32と、第2ピストン31と第2クランクシャフト32とを回転可能に連結する第2コンロッド33とを有する。第2バランスマス34は、第2エンジン部30が運転されるときに1次慣性力をキャンセルするための偏心マスである。
【0028】
第2ピストン31は、第2シリンダ41の内部をX方向に対して平行に往復運動する。また、第2シリンダ41の上方には複数のバルブ39が配設されている。バルブ39は、排気バルブと吸気バルブとを有し、第2エンジン部30が吸気行程および排気行程を行う際に、適宜進退動作を行う。バルブ39の進退動作は、第2バルブギア45に繋がるカムシャフトに接続されたカムにより制御されている。更に、第2エンジン部30は、2次慣性力をキャンセルするための第2バランサシャフト36を有している。
【0029】
第1クランクシャフト22の+Z側には第1クランクギア27が取り付けられている。第1クランクギア27は、第1バランサシャフト26の+Z側に取り付けられた第1バランサギア46と歯合している。ここで、第1バランサギア46の歯数は第1クランクギア27の半分であるので、第1バランサシャフト26は第1クランクシャフト22の2倍の速さで回転する。
【0030】
第2クランクシャフト32の+Z側には第2クランクギア37が取り付けられている。第2クランクギア37は、第2バランサシャフト36の+Z側に取り付けられた第2バランサギア47と歯合している。第2バランサギア47の歯数は第2クランクギア37の半分であるので、第2バランサシャフト36は第2クランクシャフト32の2倍の速さで回転する。
【0031】
第1クランクシャフト22の更に+Z側には第1反転ギア28が取り付けられており、第2クランクシャフト32の更に+Z側には第2反転ギア38が取り付けられており、第1反転ギア28と第2反転ギア38とは歯合している。また、第1反転ギア28と第2反転ギア38とで歯数は同一である。よって、第1反転ギア28と第2反転ギア38とが歯合することで、第1クランクシャフト22と第2クランクシャフト32とは互いに等回転速度で反転する。
【0032】
第1クランクシャフト22の-Z側にはクランクギア42が取り付けられており、クランクギア42、第1バルブギア44および第2バルブギア45にはベルト43が掛け渡されている。このように構成することで、第1クランクシャフト22の駆動力が、ベルト43を介して第1バルブギア44および第2バルブギア45に伝達され、バルブ29およびバルブ39が所定のタイミングで進退動作を行う。
【0033】
図2を参照して、上記したエンジン10を構成する各部位は、エンジン本体53の内部に収納される。第2クランクシャフト32の上端における-Z側にはエアクリーナ48が備えられている。エアクリーナ48は、上記した第1シリンダ40および第2シリンダ41に送られる空気を浄化する機能を有する。
【0034】
マフラ50は、エンジン本体53の+Z側に配設され、上記した第1シリンダ40および第2シリンダ41と配管を経由して連通しており、排気を消音する機能を有する。
【0035】
インテークマニフォールド49は、エアクリーナ48から取り入れた外気を、上記した第1シリンダ40および第2シリンダ41に導く導管である。
【0036】
発電機51は、上記した第1クランクシャフト22および第2クランクシャフト32に接続されており、発電機51に内蔵された図示しない回転子が、第1クランクシャフト22および第2クランクシャフト32と共に回転することで発電する。
【0037】
上記した概略構成のエンジン10は、例えば、充電電池と共に車両に搭載され、車両の連続走行距離を延長するべく充電電池を充電するレンジエクステンダとして用いられる。本実施形態に係るエンジン10は、後述するように、第1エンジン部20と第2エンジン部30とで1次慣性力および2次慣性力を相殺することから、エンジン10が運転される際に車体に与える振動を小さくし、乗員が搭乗する際の快適性を向上することができる。また、エンジン10は複数のロータで飛行する飛行装置に備えることができる。このような飛行装置はドローンとも称される。このようにすることで、エンジン10から発生する振動が少ないこと及びジャイロ効果を相殺できることから、飛行装置を安定的に飛行させることが出来る。
【0038】
図3および図4を参照して、本実施形態に係るエンジン10で1次慣性力および2次慣性力が低減される原理を説明する。図3(A)はエンジン10を模式的に示した斜視図であり、図3(B)は第1エンジン部20および第2エンジン部30を-Z側から見た模式図である。
【0039】
図3(A)を参照して、ここでは、第1クランクシャフト22の回転軸を通過する軸をZ1軸とし、第2クランクシャフト32を通過する軸をZ2としている。Z1軸およびZ2軸は、上記したZ軸に対して平行である。また、Z1軸およびZ2軸と交差するX軸に平行な軸を、それぞれ、X1軸およびX2軸としている。ここでは、X1軸に沿って第1ピストン21が往復運動することで、第1クランクシャフト22はZ1軸を中心に回転する。また、X2軸に沿って第2ピストン31が往復運動することで、第2クランクシャフト32がZ2軸を中心に回転する。-Z側からエンジン10を見た場合、第1クランクシャフト22は反時計回りに回転し、第2クランクシャフト32は時計周りに回転する。
【0040】
図3(B)を参照して、各エンジン部の慣性力に関して説明する。ここで、第1エンジン部20の第1ピストン21、第1クランクシャフト22および第1コンロッド23は、X1軸に沿って配設されている。X1軸は第1軸線に対応している。
【0041】
同様に、第2エンジン部30の第2ピストン31、第2クランクシャフト32および第2コンロッド33は、X2軸に沿って配置されている。X2軸は第2軸線35に対応している。
【0042】
先ず、第1エンジン部20の等価力学系のX方向成分は次の式1で記述することができる。
式1: FX1=(M+M)rωcosθ+ρmrωcos2θ-mrωcosθ
式1の、Mは、第1ピストン21および第1コンロッド23の往復質量である。また、Mは、第1クランクシャフト22および第1コンロッド23の回転質量である。mは後述するバランスマスの質量である。また、式1の右辺の第1項は往復1次慣性力と回転慣性力とを加算した慣性力であり、第2項は往復2次慣性力であり、第3項はバランスマスの回転慣性力である。θは第1クランクシャフト22の回転角である。
【0043】
一方、第1エンジン部20の等価力学系のY方向成分は次の式2で記述することができる。
式2:FY1=mrωsinθ-mrωsinθ
また、第2エンジン部30の位相角を(-θ)とすれば、第2エンジン部30の等価力学系のX方向成分は次の式3で記述することができる。
式3:FX2=(m+m)rωcos(-θ)+ρmrωcos(-2θ)-mrωcos(-θ)
=(m+m)rωcosθ+ρmrωcos2θ+mrωcosθ
また、第2エンジン部30の等価力学系のY方向成分は、次の式4で記述することができる。
式4:FY2=-mrωsinθ+mrωsinθ
ここで、第1クランクシャフト22および第2クランクシャフト32を100%バランスとする。即ち、第1クランクシャフト22および第2クランクシャフト32に於いて、m=m+mとする。これにより、式5に示すように、X方向の1次慣性力は次のようにキャンセルされ、2次慣性力が残存するようになる。
式5:FX1=ρmrωcos2θ
X2=ρmrωcos2θ
また、次の式6で記述されるY方向の1次慣性力は、第1エンジン部20および第2エンジン部30の間でキャンセルされる。かかる事項は後述する。
式6:FY1=-mrωsinθ
Y2=mrωsinθ
また、第1エンジン部20と第2エンジン部30とでZ座標が同一である。換言すると、Y方向から第1エンジン部20および第2エンジン部30を見た場合、第1エンジン部20と第2エンジン部30とは重なり合う位置にある。よって、エンジン10が運転されることにより発生する1次慣性力によるZ軸周りの偶力は0となる。更に、二本のシリンダ軸のZ座標は同一なので、X軸、Y軸まわりの偶力も0となる。
【0044】
また、図3(B)に示す構成では2次慣性力が残存するが、この2次慣性力は後述する第1バランサシャフト26および第2バランサシャフト36で除去することができる。更に、ρ以上の高次項に係る往復質量は、一次および二次の項に係る往復質量と比較して極めて微少であるため、無視することができる。
【0045】
図3(B)を参照して、第1エンジン部20と第2エンジン部30とで一次振動のY成分が相殺される事項を詳述する。この図は、エンジン10を-Z側から見た側面図である。
【0046】
第1エンジン部20では、第1コンロッド23と第1クランクシャフト22とが接続する接続箇所13に対して、第1クランクシャフト22の回転中心を挟んで対向する部分に第1バランスマス24が形成されている。第2エンジン部30に関しても同様に、第2コンロッド33と第2クランクシャフト32とが接続する接続箇所12に対して、第2クランクシャフト32の回転中心を挟んで対向する箇所に第2バランスマス34が形成されている。ここでは、第1バランスマス24および第2バランスマス34の重心を点で示している。また、第1バランスマス24と第2バランスマス34とは、第1エンジン部20と第2エンジン部30との中央に規定された対称面11に対して面対称となる位置に形成されている。接続箇所12および接続箇所13は、クランクピンとも称される。
【0047】
第1エンジン部20に関して、回転質量による1次慣性力は、第1バランスマス24のm分による1次慣性力で打ち消される。また、往復質量による1次慣性力は、第1バランスマス24のmに由来する1次慣性力のX方向の成分(mrωcosθ)で打ち消される。第1バランスマス24のmに由来する1次慣性力のY方向成分は第1エンジン部20の内部では残存するが、後述するように、この成分は、第2エンジン部30の第2バランスマス34のY方向成分と打ち消される。
【0048】
同様に、第2エンジン部30に関して、回転質量による1次慣性力は、第2バランスマス34のm分による1次慣性力で打ち消される。また、往復質量による1次慣性力は、第2バランスマス34のmに由来する1次慣性力のX方向の成分(mrωcosθ)で打ち消される。第2バランスマス34のmに由来する1次慣性力のY方向成分は第1エンジン部20の内部では残存するが、後述するように、この成分は、第1エンジン部20の第1バランスマス24のY方向成分と打ち消される。
【0049】
上記のように、第1エンジン部20の第1バランスマス24のY方向成分はmrωsinθである。また、第2エンジン部30の第2バランスマス34のY方向成分もmrωsinθであり、第1バランスマス24のY方向成分と逆方向に作用している。よって、第1エンジン部20の第1バランスマス24のY方向成分と、第2エンジン部30の第2バランスマス34のY方向成分とは打ち消しあう。このことから、エンジン10では、実質的に全ての1次慣性力がキャンセルされている。
【0050】
図4を参照して、2次慣性力を打ち消す構成を説明する。この図に示すように、第1エンジン部20は第2バランサシャフト36を有し、第2エンジン部30は第2バランサシャフト36を有する。第1バランサシャフト26および第2バランサシャフト36の位置は、対称面11に対して面対称に配置されている。上記したように、対称面11は、第1エンジン部20と第2エンジン部30との中央に配置され、X-Z平面に対して平行な仮想面である。
【0051】
第1バランサシャフト26には第1バランスマス54が形成され、第2バランサシャフト36には第2バランスマス55が形成されている。第1バランスマス54と第2バランスマス55とは、対称面11に対して面対称に配置される。また、上記したように、第1バランサシャフト26および第2バランサシャフト36の回転速度は、第1クランクシャフト22および第2クランクシャフト32の2倍である。第2バランスマス55および第1バランスマス54は、それぞれMの質量を有する。また、上述したように、-Z側から見た場合、第1バランサシャフト26は反時計回りに回転し、第2バランサシャフト36は時計回りに回転する。
【0052】
第1エンジン部20に関して、第1バランスマス54の慣性のX方向成分はmr’(2ω)cos2θとなる。ここで、r’は、第1バランサシャフト26の回転中心から第1バランスマス54の重心までの距離である。この成分により、第1エンジン部20の往復質量二次成分(ρmrωcos2θ)を打ち消すことができる。
【0053】
第2エンジン部30に関して、第2バランスマス55の慣性のX方向成分はmr’(2ω)cos2θとなる。この成分により、第2エンジン部30の往復質量二次成分(ρmrωcos2θ)を打ち消すことができる。
【0054】
また、第1バランスマス54の慣性のY方向成分と、第2バランスマス55の慣性のY方向成分とは、両者共にmr’(2ω)sin2θとなり、更に互いに逆方向に向かって作用している。よって、Y方向に関しても2次慣性力は打ち消されている。
【0055】
更に、第1エンジン部20と第2エンジン部30とでZ軸座標は同一であるので、X軸およびY軸周りの偶力も発生しない。
【0056】
通常のエンジンでは、X方向およびY方向における2次慣性力を打ち消すために、2つのバランサシャフトを有する。係る構成をそのまま本願発明に適用させると、4つのバランサシャフトが必要にある。しかしながら、本実施形態に係るエンジン10では、対称面11に対して面対称に第1バランサシャフト26および第2バランサシャフト36を配設した。よって、第1エンジン部20に対して一つの第1バランサシャフト26を配設し、第2エンジン部30に対して1つの第2バランサシャフト36を配設するのみで2次慣性力を充分に打ち消すことができる。よって、エンジン10全体の構成を簡素化しつつ制振化を促進することができる。
【0057】
ここで、図4では、X方向に於いて、第1クランクシャフト22、第2クランクシャフト32、第1バランサシャフト26および第2バランサシャフト36の中心軸は一致していたが、これらの位置は必ずしも一致する必要は無い。また、図4では、第1バランサシャフト26と第2バランサシャフト36とは対称面11に対して面対称に配設されているが、必ずしも面対称に配設される必要は無い。X方向に於いて、第1バランサシャフト26の中心軸および第2バランサシャフト36の中心軸が一致していれば、2次慣性力をキャンセルすることが出来る。
【0058】
以上、本発明の実施形態を示したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0059】
10 エンジン
11 対称面
12 接続箇所
13 接続箇所
20 第1エンジン部
21 第1ピストン
22 第1クランクシャフト
23 第1コンロッド
24 第1バランスマス
25 第1軸線
26 第1バランサシャフト
27 第1クランクギア
28 第1反転ギア
29 バルブ
30 第2エンジン部
31 第2ピストン
32 第2クランクシャフト
33 第2コンロッド
34 第2バランスマス
35 第2軸線
36 第2バランサシャフト
37 第2クランクギア
38 第2反転ギア
39 バルブ
40 第1シリンダ
41 第2シリンダ
42 クランクギア
43 ベルト
44 第1バルブギア
45 第2バルブギア
46 第1バランサギア
47 第2バランサギア
48 エアクリーナ
49 インテークマニフォールド
50 マフラ
51 発電機
53 エンジン本体
54 第1バランスマス
55 第2バランスマス



図1
図2
図3
図4