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特許7025141蛍光検出方法、インク組成物、塗装体、及び対象物の識別方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】蛍光検出方法、インク組成物、塗装体、及び対象物の識別方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20220216BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017121572
(22)【出願日】2017-06-21
(65)【公開番号】P2019007769
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000107158
【氏名又は名称】シンロイヒ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】新倉 誠司
(72)【発明者】
【氏名】八木 貞幸
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06589779(US,B1)
【文献】特表2005-507330(JP,A)
【文献】国際公開第2016/171151(WO,A1)
【文献】特開2009-220409(JP,A)
【文献】特開2013-053012(JP,A)
【文献】特開2011-256122(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0178841(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0252255(US,A1)
【文献】特開2008-303196(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102584872(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、第1の物質を含む非蛍光塗膜を印刷することで形成する非蛍光塗膜形成工程と、
前記非蛍光塗膜に第2の物質を接触させて、前記第1の物質と前記第2の物質との複合体を形成し、前記非蛍光塗膜を、前記複合体を含む蛍光塗膜に変換する塗膜変換工程と、
前記蛍光塗膜に光の照射を行う光照射工程と、
前記光の照射により前記複合体から発せられる蛍光を検出する蛍光検出工程と、
を含み、
前記第1の物質及び前記第2の物質は、それぞれ、金属化学種及び配位子化合物、又は、配位子化合物及び金属化学種であり、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記複合体は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる金属錯体色素である蛍光検出方法。
【請求項2】
基材上に、第1の物質を含む非蛍光塗膜を形成する非蛍光塗膜形成工程と、
前記非蛍光塗膜に第2の物質を接触させて、前記第1の物質と前記第2の物質との複合体を形成し、前記非蛍光塗膜を、前記複合体を含む蛍光塗膜に変換する塗膜変換工程と、
前記蛍光塗膜に光の照射を行う光照射工程と、
前記光の照射により前記複合体から発せられる蛍光を検出する蛍光検出工程と、
を含み、
前記第1の物質及び前記第2の物質は、それぞれ、金属化学種及び配位子化合物であり、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記複合体は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる金属錯体色素であり、
前記非蛍光塗膜形成工程は、
前記基材上に、前記複合体を含む蛍光塗膜を形成する蛍光塗膜形成工程と、
前記蛍光塗膜形成工程で形成された前記蛍光塗膜にエネルギーを与えることにより、前記蛍光塗膜中の前記複合体から前記配位子化合物を除去して、前記蛍光塗膜を、前記第1の物質を含む前記非蛍光塗膜に変換する配位子除去工程と、
を含む蛍光検出方法。
【請求項3】
前記金属化学種は、希土類元素イオン、イリジウムイオン、ルテニウムイオン、及びルビジウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記金属錯体色素は、希土類元素錯体色素、イリジウム錯体色素、ルテニウム錯体色素、及びルビジウム錯体色素からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の蛍光検出方法。
【請求項4】
前記配位子化合物は、β-ジケトンを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の蛍光検出方法。
【請求項5】
対象物の識別方法であって、
第1の物質を含む非蛍光塗膜の形態で前記対象物に記録された識別情報に第2の物質を接触させて、前記第1の物質と前記第2の物質との複合体を形成し、前記非蛍光塗膜を、前記複合体を含む蛍光塗膜に変換する識別情報蛍光化工程と、
前記蛍光塗膜に光の照射を行う光照射工程と、
前記光の照射により前記複合体から発せられる蛍光を検出する蛍光検出工程と、
を含み、
前記第1の物質及び前記第2の物質は、それぞれ、金属化学種及び配位子化合物、又は、配位子化合物及び金属化学種であり、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記複合体は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる金属錯体色素である識別方法。
【請求項6】
前記第1の物質及び前記第2の物質は、それぞれ、前記金属化学種及び前記配位子化合物であり、
非蛍光塗膜の形態で前記対象物に記録された前記識別情報は、
前記対象物上に、前記複合体を含む蛍光塗膜を形成する蛍光塗膜形成工程と、
前記蛍光塗膜形成工程で形成された前記蛍光塗膜にエネルギーを与えることにより、前記蛍光塗膜中の前記複合体から前記配位子化合物を除去して、前記蛍光塗膜を、前記第1の物質を含む前記非蛍光塗膜に変換する配位子除去工程と、
により形成されたものである請求項に記載の識別方法。
【請求項7】
前記金属化学種は、希土類元素イオン、イリジウムイオン、ルテニウムイオン、及びルビジウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記金属錯体色素は、希土類元素錯体色素、イリジウム錯体色素、ルテニウム錯体色素、及びルビジウム錯体色素からなる群より選択される少なくとも1種である請求項又はに記載の識別方法。
【請求項8】
前記配位子化合物は、β-ジケトンを含む請求項のいずれか1項に記載の識別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光検出方法、インク組成物、塗装体、及び対象物の識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、商品の流通経路の追跡を行なったり、偽造品の防止対策を行ったりするために、可視光線下では不可視であるが、紫外線を照射した場合には蛍光発光し、視認し得る特定の透明ジェット印刷用インクを使用して、被印字物表面に、ジェットプリンターにて、ロット番号、暗号等を含む記号等の表示を印字して、常態では不可視の隠し表示を形成し、所望の時に、紫外線照射により隠し表示を蛍光発光させ、もって視認できるようにする方法が実用化されている(例えば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-287043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法では、隠し表示に紫外線等の活性エネルギー線を照射するだけで、隠し表示を容易に視認することができるため、隠し表示の不正使用、改竄、偽造等を効果的に防止することが困難であった。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、紫外線等の活性エネルギー線を照射することのみで隠し表示を視認することを困難にしつつ、所望の時に初めて、上記活性エネルギー線の照射による隠し表示の視認を容易にする蛍光検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、金属錯体色素からの蛍光の検出時以外には上記色素から配位子化合物又は金属化学種を解離させておき、上記蛍光の検出時に上記色素を再形成することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明に係る蛍光検出方法は、
基材上に、第1の物質を含む非蛍光塗膜を形成する非蛍光塗膜形成工程と、
前記非蛍光塗膜に第2の物質を接触させて、前記第1の物質と前記第2の物質との複合体を形成し、前記非蛍光塗膜を、前記複合体を含む蛍光塗膜に変換する塗膜変換工程と、
前記蛍光塗膜に光の照射を行う光照射工程と、
前記光の照射により前記複合体から発せられる蛍光を検出する蛍光検出工程と、
を含み、
前記第1の物質及び前記第2の物質は、それぞれ、金属化学種及び配位子化合物、又は、配位子化合物及び金属化学種であり、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記複合体は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる金属錯体色素である。
【0008】
本発明に係る蛍光検出方法の好適例においては、
前記第1の物質及び前記第2の物質は、それぞれ、前記金属化学種及び前記配位子化合物であり、
前記非蛍光塗膜形成工程は、
前記基材上に、前記複合体を含む蛍光塗膜を形成する蛍光塗膜形成工程と、
前記蛍光塗膜形成工程で形成された前記蛍光塗膜にエネルギーを与えることにより、前記蛍光塗膜中の前記複合体から前記配位子化合物を除去して、前記蛍光塗膜を、前記第1の物質を含む前記非蛍光塗膜に変換する配位子除去工程と、
を含む。
【0009】
本発明に係る蛍光検出方法の他の好適例において、前記金属化学種は、希土類元素イオン、イリジウムイオン、ルテニウムイオン、及びルビジウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記金属錯体色素は、希土類元素錯体色素、イリジウム錯体色素、ルテニウム錯体色素、及びルビジウム錯体色素からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0010】
本発明に係る蛍光検出方法の他の好適例において、前記配位子化合物は、β-ジケトンを含む。
【0011】
本発明に係るインク組成物は、金属化学種、配位子化合物、及び金属錯体色素からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記金属錯体色素は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる。
【0012】
本発明に係るインク組成物の好適例において、前記金属化学種は、希土類元素イオン、イリジウムイオン、ルテニウムイオン、及びルビジウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記金属錯体色素は、希土類元素錯体色素、イリジウム錯体色素、ルテニウム錯体色素、及びルビジウム錯体色素からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0013】
本発明に係るインク組成物の他の好適例において、前記配位子化合物は、β-ジケトンを含む。
【0014】
本発明に係る塗装体は、
基材と、
金属化学種若しくは配位子化合物を含む非蛍光塗膜又は金属錯体色素を含む蛍光塗膜と、
を備え、
前記非蛍光塗膜又は前記蛍光塗膜は、前記基材上に配置され、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記金属錯体色素は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる。
【0015】
本発明に係る塗装体の好適例において、前記金属化学種は、希土類元素イオン、イリジウムイオン、ルテニウムイオン、及びルビジウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記金属錯体色素は、希土類元素錯体色素、イリジウム錯体色素、ルテニウム錯体色素、及びルビジウム錯体色素からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0016】
本発明に係る塗装体の他の好適例において、前記配位子化合物は、β-ジケトンを含む。
【0017】
本発明に係る対象物の識別方法は、
第1の物質を含む非蛍光塗膜の形態で前記対象物に記録された識別情報に第2の物質を接触させて、前記第1の物質と前記第2の物質との複合体を形成し、前記非蛍光塗膜を、前記複合体を含む蛍光塗膜に変換する識別情報蛍光化工程と、
前記蛍光塗膜に光の照射を行う光照射工程と、
前記光の照射により前記複合体から発せられる蛍光を検出する蛍光検出工程と、
を含み、
前記第1の物質及び前記第2の物質は、それぞれ、金属化学種及び配位子化合物、又は、配位子化合物及び金属化学種であり、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記複合体は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる金属錯体色素である。
【0018】
本発明に係る対象物の識別方法の好適例において、
前記第1の物質及び前記第2の物質は、それぞれ、前記金属化学種及び前記配位子化合物であり、
非蛍光塗膜の形態で前記対象物に記録された前記識別情報は、
前記対象物上に、前記複合体を含む蛍光塗膜を形成する蛍光塗膜形成工程と、
前記蛍光塗膜形成工程で形成された前記蛍光塗膜にエネルギーを与えることにより、前記蛍光塗膜中の前記複合体から前記配位子化合物を除去して、前記蛍光塗膜を、前記第1の物質を含む前記非蛍光塗膜に変換する配位子除去工程と、
により形成されたものである。
【0019】
本発明に係る対象物の識別方法の他の好適例において、前記金属化学種は、希土類元素イオン、イリジウムイオン、ルテニウムイオン、及びルビジウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記金属錯体色素は、希土類元素錯体色素、イリジウム錯体色素、ルテニウム錯体色素、及びルビジウム錯体色素からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0020】
本発明に係る対象物の識別方法の他の好適例において、前記配位子化合物は、β-ジケトンを含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、紫外線等の活性エネルギー線を照射することのみで隠し表示を視認することを困難にしつつ、所望の時に初めて、上記活性エネルギー線の照射による隠し表示の視認を容易にする蛍光検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る蛍光検出方法の第1実施形態を示す縦断面図である。
図2】本発明に係る蛍光検出方法の第2実施形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
≪蛍光検出方法≫
<第1実施形態>
本発明に係る蛍光検出方法の第1実施形態は、
基材上に、金属化学種と配位子化合物との複合体を含む蛍光塗膜を形成する蛍光塗膜形成工程と、
前記蛍光塗膜形成工程で形成された前記蛍光塗膜にエネルギーを与えることにより、前記蛍光塗膜中の前記複合体から前記配位子化合物を除去して、前記蛍光塗膜を、前記金属化学種を含む非蛍光塗膜に変換する配位子除去工程と、
前記非蛍光塗膜に前記配位子化合物を接触させて、前記複合体を形成し、前記非蛍光塗膜を前記蛍光塗膜に変換する塗膜変換工程と、
前記蛍光塗膜に光の照射を行う光照射工程と、
前記光の照射により前記複合体から発せられる蛍光を検出する蛍光検出工程と、
を含み、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記複合体は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる金属錯体色素である。第1実施形態について、図1を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る蛍光検出方法の第1実施形態を示す縦断面図である。
【0024】
まず、図1(a)に示す通り、基材1上に、金属化学種と配位子化合物との複合体を含む蛍光塗膜2を形成する(蛍光塗膜形成工程)。これにより、塗装体10が得られる。
【0025】
基材1としては、特に限定されず、例えば、紙幣専用紙、金券用紙、印刷用紙等の紙製基材;ブリキ板、溶接鋼板、鋳物等の鉄製基材;アルミニウム、亜鉛等の非鉄金属製基材;PE、PP、ABS、PPO、塩化ビニル等のプラスチックス製基材;ガラス板、スレート板、硅酸カルシウム板、セメント板等の無機材料製基材;木材、合板等の木製基材;塗料にて塗装した上記基材等の、各種の基材が挙げられる。基材1の形状は、特に限定されず、隠し表示を付す対象となる紙幣、金券、商品、製品、タグ等に応じて、適宜、選択することができる。
【0026】
蛍光塗膜2の形状としては、特に限定されず、所望の隠し表示に対応した形状とすることができる。但し、後述の通りに蛍光塗膜2を非蛍光塗膜4に変換した際に、非蛍光塗膜4の存在が触覚等により認識しにくいように、蛍光塗膜2の厚みは、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは15μm以下である。
【0027】
上記の通り、前記複合体は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる金属錯体色素である。前記金属錯体色素としては、特に限定されず、例えば、希土類元素錯体色素、イリジウム錯体色素、ルテニウム錯体色素、ルビジウム錯体色素が挙げられる。希土類元素錯体色素としては、例えば、スカンジウム錯体色素、イットリウム錯体色素、ランタン錯体色素、セリウム錯体色素、プラセオジム錯体色素、ネオジム錯体色素、プロメチウム錯体色素、サマリウム錯体色素、ユウロピウム錯体色素、ガドリニウム錯体色素、テルビウム錯体色素、ジスプロシウム錯体色素、ホルミウム錯体色素、エルビウム錯体色素、ツリウム錯体色素、イッテルビウム錯体色素、ルテチウム錯体色素が挙げられる。前記金属錯体色素は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。作業性、入手のしやすさ等の観点から、前記金属錯体色素は、ユウロピウム錯体色素、テルビウム錯体色素、イリジウム錯体色素、及びルテニウム錯体色素からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ユウロピウム錯体色素であることが特に好ましい。
【0028】
前記金属錯体色素の具体例としては、下記式で表される化合物が挙げられる。
【0029】
・ユウロピウム錯体色素
【化1】
【0030】
・テルビウム錯体色素
【化2】
【0031】
・イリジウム錯体色素
【化3】
【0032】
・ルテニウム錯体色素
【化4】
【0033】
前記金属化学種は、前記金属錯体色素から前記配位子化合物を除去して残る化学種であり、例えば、前記金属錯体色素を構成する金属のイオンが挙げられる。前記金属化学種は、非蛍光塗膜4においては、例えば、当該金属化学種に対応する金属単体として、又は、前記イオンの状態で水酸化物イオン、塩素イオン等のアニオンとイオン結合して存在すると推測される。前記金属化学種は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。前記金属錯体色素の種類に応じて、前記金属化学種としては、具体的には、例えば、希土類元素イオン(例えば、スカンジウムイオン、イットリウムイオン、ランタンイオン、セリウムイオン、プラセオジムイオン、ネオジムイオン、プロメチウムイオン、サマリウムイオン、ユウロピウムイオン、ガドリニウムイオン、テルビウムイオン、ジスプロシウムイオン、ホルミウムイオン、エルビウムイオン、ツリウムイオン、イッテルビウムイオン、ルテチウムイオン)、イリジウムイオン、ルテニウムイオン、ルビジウムイオンが挙げられ、ユウロピウムイオン、テルビウムイオン、イリジウムイオン、及びルテニウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ユウロピウムイオンであることが特に好ましい。
【0034】
上記の通り、前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位する。前記配位子化合物としては、特に限定されず、例えば、置換基を有し又は有しないアセチルアセトン等のβ-ジケトン;置換基を有し又は有しないフェナントロリン、置換基を有し又は有しないビピリジン、置換基を有し又は有しない2-フェニルピリジン、置換基を有し又は有しないビキノリン等の含窒素複素環配位子が挙げられ、後述の配位子除去工程において、エネルギー3により昇華しやすく、前記複合体から除去しやすい点で、β-ジケトンが好ましい。上記置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基等の置換基を有し又は有しないアルキル基;ハロゲン原子、水酸基等の置換基を有し又は有しないアリール基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、フェニル基等が挙げられる。前記配位子化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
次に、図1(b)及び(c)に示す通り、蛍光塗膜2にエネルギー3を与えることにより、蛍光塗膜2中の前記複合体から前記配位子化合物を除去して、蛍光塗膜2を、前記金属化学種を含む非蛍光塗膜4に変換する(配位子除去工程)。これにより、塗装体10に紫外線等の活性エネルギー線を照射しても、非蛍光塗膜4からなる隠し表示は、蛍光発光しないので不可視である。よって、隠し表示は、保護された状態となる。
【0036】
エネルギー3としては、蛍光塗膜2中の前記複合体から前記配位子化合物を除去することができる限り、特に限定されず、例えば、紫外線等の活性エネルギー線や熱が挙げられる。エネルギー3が活性エネルギー線の場合、蛍光塗膜2にエネルギー3を与える方法としては、例えば、市販のUV照射器、市販のブラックライト等の活性エネルギー線照射装置を使用して、蛍光塗膜2に活性エネルギー線を照射すること、蛍光塗膜2を太陽光下に1~90日程度放置すること等が挙げられる。エネルギー3が熱の場合、蛍光塗膜2にエネルギー3を与える方法としては、例えば、蛍光塗膜2を50~200℃で1~180分間、加熱することが挙げられる。
【0037】
次に、図1(d)及び(e)に示す通り、基材1及び非蛍光塗膜4上に配位子化合物含有液膜5を形成することにより、非蛍光塗膜4に前記配位子化合物を接触させて、前記複合体を形成し、非蛍光塗膜4を蛍光塗膜2に変換する(塗膜変換工程)。これにより、塗装体10に紫外線等の活性エネルギー線を照射すれば、蛍光塗膜2からなる隠し表示は、蛍光発光するので、再び視認可能となる。よって、所望の時に、塗膜変換工程における操作を実行して、後述の光照射工程及び蛍光検出工程により、隠し表示を視認することができる。
【0038】
配位子化合物含有液膜5は、例えば、前記配位子化合物の溶液を基材1及び非蛍光塗膜4に塗布し、滴下し、又は噴霧することにより、基材1及び非蛍光塗膜4上に形成することができる。非蛍光塗膜4から蛍光塗膜2への変換は、特に条件を限定することなく、例えば、室温で行ってもよく、適宜、加熱下で行ってもよい。
【0039】
なお、非蛍光塗膜4に前記配位子化合物を接触させる方法は、図1(d)及び(e)に示す上記方法に限定されない。他の方法としては、例えば、基材1及び非蛍光塗膜4を備える塗装体10全体を前記配位子化合物の溶液に浸漬する方法、非蛍光塗膜4に前記配位子化合物の蒸気を接触させる方法等が挙げられる。
【0040】
次に、図1(f)に示す通り、蛍光塗膜2に光6の照射を行う(光照射工程)。これにより、次工程である蛍光検出工程において、前記複合体から蛍光7が発せられる。光6としては、特に限定されず、例えば、紫外線等の活性エネルギー線が挙げられる。光6の波長としては、前記複合体から蛍光7が発せられる限り、特に限定されず、例えば、前記複合体に該当する金属錯体色素の最適励起波長が挙げられる。実用上は、波長300~400nmの紫外線を用いることができ、具体的には、例えば、ピーク波長が365nmのブラックライト等を用いて、蛍光塗膜2に光6の照射を行うことができる。
【0041】
次に、図1(g)に示す通り、光6の照射により前記複合体から発せられる蛍光7を検出する(蛍光検出工程)。蛍光7の検出方法としては、特に限定されず、例えば、目視による方法、蛍光分光光度計を用いる方法が挙げられる。
【0042】
第1実施形態によれば、例えば、以下の効果が奏される。第1実施形態において、非蛍光塗膜4からなる隠し表示は、紫外線等の活性エネルギー線を照射することのみでは蛍光発光しないので不可視である。一方、所望の時に、塗膜変換工程における操作を実行することで、非蛍光塗膜4は蛍光塗膜2に変換され、蛍光塗膜2からなる隠し表示は、紫外線等の活性エネルギー線を照射すれば、蛍光発光するので、再び視認可能となる。よって、第1実施形態によれば、紫外線等の活性エネルギー線を照射することのみで隠し表示を視認することを困難にしつつ、所望の時に初めて、上記活性エネルギー線の照射による隠し表示の視認を容易にすることができる。
【0043】
<第2実施形態>
本発明に係る蛍光検出方法の第2実施形態は、
基材上に、金属化学種を含む非蛍光塗膜を形成する非蛍光塗膜形成工程と、
前記非蛍光塗膜に配位子化合物を接触させて、前記金属化学種と前記配位子化合物との複合体を形成し、前記非蛍光塗膜を、前記複合体を含む蛍光塗膜に変換する塗膜変換工程と、
前記蛍光塗膜に光の照射を行う光照射工程と、
前記光の照射により前記複合体から発せられる蛍光を検出する蛍光検出工程と、
を含み、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記複合体は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる金属錯体色素である。第2実施形態について、図2を参照しながら詳細に説明する。図2は、本発明に係る蛍光検出方法の第2実施形態を示す縦断面図である。
【0044】
まず、図2(a)に示す通り、基材1上に、金属化学種を含む非蛍光塗膜4を形成する(非蛍光塗膜形成工程)。これにより、塗装体10が得られる。基材1及び金属化学種は、第1実施形態において説明した通りである。
【0045】
非蛍光塗膜4の形状としては、特に限定されず、所望の隠し表示に対応した形状とすることができる。但し、非蛍光塗膜4の存在が触覚等により認識しにくいように、非蛍光塗膜4の厚みは、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは15μm以下である。
【0046】
非蛍光塗膜形成工程で得た塗装体10に紫外線等の活性エネルギー線を照射しても、非蛍光塗膜4からなる隠し表示は、蛍光発光しないので不可視である。よって、隠し表示は、保護された状態にある。
【0047】
次に、図2(b)及び(c)に示す通り、基材1及び非蛍光塗膜4上に配位子化合物含有液膜5を形成することにより、非蛍光塗膜4に前記配位子化合物を接触させて、前記複合体を形成し、非蛍光塗膜4を蛍光塗膜2に変換する(塗膜変換工程)。図2(b)及び(c)は、図1(d)及び(e)と同様である。第2実施形態における塗膜変換工程は、第1実施形態における塗膜変換工程の説明において述べた通りである。
【0048】
次に、図2(d)に示す通り、蛍光塗膜2に光6の照射を行う(光照射工程)。図2(d)は、図1(f)と同様である。第2実施形態における光照射工程は、第1実施形態における光照射工程の説明において述べた通りである。
【0049】
次に、図2(e)に示す通り、光6の照射により前記複合体から発せられる蛍光7を検出する(蛍光検出工程)。図2(e)は、図1(g)と同様である。第2実施形態における蛍光検出工程は、第1実施形態における蛍光検出工程の説明において述べた通りである。
【0050】
第2実施形態によれば、例えば、第1実施形態において例示したのと同様の効果が奏される。
【0051】
<第3実施形態>
本発明に係る蛍光検出方法の第3実施形態は、
基材上に、配位子化合物を含む非蛍光塗膜を形成する非蛍光塗膜形成工程と、
前記非蛍光塗膜に金属化学種を接触させて、前記金属化学種と前記配位子化合物との複合体を形成し、前記非蛍光塗膜を、前記複合体を含む蛍光塗膜に変換する塗膜変換工程と、
前記蛍光塗膜に光の照射を行う光照射工程と、
前記光の照射により前記複合体から発せられる蛍光を検出する蛍光検出工程と、
を含み、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記複合体は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる金属錯体色素である。第3実施形態は、非蛍光塗膜形成工程において、金属化学種の代わりに配位子化合物を用い、塗膜変換工程において、配位子化合物の代わりに金属化学種を用いた以外、第2実施形態と同様である。
【0052】
図面については、図2(a)及び(b)において、金属化学種を含む非蛍光塗膜4を、配位子化合物を含む非蛍光塗膜4Aに置き換え、図2(b)及び(c)において、配位子化合物含有液膜5を金属化学種含有液膜5Aに置き換える以外は、第2実施形態と同様である。
【0053】
第3実施形態によれば、例えば、第1実施形態において例示したのと同様の効果が奏される。
【0054】
≪インク組成物≫
本発明に係るインク組成物は、金属化学種、配位子化合物、及び金属錯体色素からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記金属錯体色素は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる。金属化学種、配位子化合物、及び金属錯体色素は、本発明に係る蛍光検出方法の説明において述べた通りである。以下、金属化学種、配位子化合物、及び金属錯体色素からなる群より選択される少なくとも1種を成分(A)ともいう。なお、上記インク組成物を構成する成分としての金属化合物及び配位子化合物は、それぞれ、遊離の金属化合物及び遊離の配位子化合物であり、金属錯体色素を構成する金属化合物及び金属錯体色素を構成する配位子化合物は含まないものとする。
【0055】
本発明に係るインク組成物は、金属錯体色素を含むインク組成物である場合、特に、金属錯体色素を含み、金属化学種及び配位子化合物を実質的に含まない又は含まないインク組成物である場合、本発明に係る蛍光検出方法の第1実施形態の蛍光塗膜形成工程において、金属化学種と配位子化合物との複合体を含む蛍光塗膜を形成するために、好適に用いることができる。本発明に係るインク組成物は、金属化学種を含むインク組成物である場合、特に、金属化学種を含み、配位子化合物及び金属錯体色素を実質的に含まない又は含まないインク組成物である場合、本発明に係る蛍光検出方法の第2実施形態の非蛍光塗膜形成工程において、金属化学種を含む非蛍光塗膜を形成するために、好適に用いることができる。本発明に係るインク組成物は、配位子化合物を含むインク組成物である場合、特に、配位子化合物を含み、金属化学種及び金属錯体色素を実質的に含まない又は含まないインク組成物である場合、本発明に係る蛍光検出方法の第3実施形態の非蛍光塗膜形成工程において、配位子化合物を含む非蛍光塗膜を形成するために、好適に用いることができる。
【0056】
成分(A)の含有量としては、十分な蛍光発光が得られるよう、インク組成物中に0.005~5質量%が好ましく、0.01~1質量%がより好ましく、0.1~0.3質量%が更により好ましい。本発明に係る蛍光検出方法において蛍光塗膜を形成した場合に、成分(A)の含有量が0.005質量%以上では、紫外線照射下で十分な発色が得られやすく、5質量%以下であれば含有量の増加に応じて発光強度が増加しやすい。
【0057】
前記インク組成物は、一実施形態において、活性エネルギー線硬化型インク組成物、即ち、紫外線等の活性エネルギー線の照射により硬化させることができるインク組成物である。本発明に係るインク組成物は、活性エネルギー線硬化型インク組成物である場合、更に、重合性化合物(B)と光重合開始剤(C)とを含む。本発明において、重合性化合物とは、エチレン性不飽和基を有する化合物であり、活性エネルギー線の照射によりエチレン性不飽和基(例えばアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基又はアリル基を構成する炭素-炭素二重結合)を介して重合反応を起こす化合物である。中でも、反応性等の観点で、アクリレート、メタアクリレート等のラジカル重合性化合物が好ましい。また、重合性化合物(B)の含有量は、粘度調整、インクの硬化性、塗膜の柔軟性、及び塗膜の硬度の観点から、インク組成物中に50~99質量%であることが好ましく、70~97質量%がより好ましく、90~95質量%が更により好ましい。
【0058】
重合性化合物(B)の具体例としては、ステアリルアクリレート、アクリロイルモルホリン、トリデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、デシルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、イソオクチルアクリレート、オクチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、N-ビニルカプロラクタム、イソアミルアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールアクリレート、EO(エチレンオキシド)変性2-エチルヘキシルアクリレート、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステル、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルイミダゾール、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、ビニロキシエトキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、6-ヒドロキシヘキシルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジアクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,8-オクタンジオールジアクリレート、1,7-ヘプタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、PO(プロピレンオキシド)変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、EO変性ジグリセリンテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及びEO変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが挙げられる。これらの中でも、反応性等の観点で、フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、ビニロキシエトキシエチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジアクリレート、PO(プロピレンオキシド)変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及びEO変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。なお、重合性化合物(B)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
また、重合性化合物(B)は、蛍光塗膜又は非蛍光塗膜の強度を上げるため、アクリレートオリゴマーを含んでもよい。アクリレートオリゴマーとは、アクリロイルオキシ基(CH=CHCOO-)を一つ以上有するオリゴマーであり、官能基数は2~6であることが好ましい。また、アクリレートオリゴマーは、分子量が2000~20000であることが好ましい。なお、該分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量である。そして、アクリレートオリゴマーの具体例としては、アミノアクリレートオリゴマー[アミノ基(-NH)を複数持つアクリレートオリゴマー]、ウレタンアクリレートオリゴマー[ウレタン結合(-NHCOO-)を複数持つアクリレートオリゴマー]、エポキシアクリレートオリゴマー[エポキシ化合物由来のアクリレートオリゴマー]、シリコーンアクリレートオリゴマー[シロキサン結合(-SiO-)を複数持つアクリレートオリゴマー]、エステルアクリレートオリゴマー[エステル結合(-COO-)を複数持つアクリレートオリゴマー]及びブタジエンアクリレートオリゴマー[ブタジエン単位を複数持つアクリレートオリゴマー]等が挙げられる。これらの中でも、耐候性、及び硬化性を向上する観点から、ウレタンアクリレートオリゴマー、及びアミノアクリレートオリゴマーが好ましい。なお、アクリレートオリゴマーの含有量は、インク組成物の全質量中0.5~10質量%が好ましい。アクリレートオリゴマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
更に、重合性化合物(B)は硬化性を向上する観点からアミノアクリレートを含むことが好ましい。アミノアクリレートの具体例としてはEBECRYL 7100(ダイセル・オルネクス社製)等が挙げられる。なお、アミノアクリレートの含有量は、硬化性向上の観点から、インク組成物の全質量中0.5~10質量%が好ましく、0.7~5質量%が好ましく、1~3質量%が好ましい。アミノアクリレートは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
本発明のインク組成物が活性エネルギー線硬化型インク組成物である場合、光重合開始剤(C)は、活性エネルギー線を照射することで、上述した重合性化合物の重合を開始させる作用を有する。前記光重合開始剤(C)の含有量は、該インク組成物の全質量中1~25質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましく、3~7質量%であることが更により好ましい。上記光重合開始剤(C)の含有量が1質量%以上では、蛍光塗膜又は非蛍光塗膜が硬化不良となりにくく、25質量%以下であると、低温時に析出物が発生しにくくインク組成物の吐出が不安定になりにくい。光重合開始剤(C)の開始反応を促進させるため、光増感剤等の助剤を併用することも可能である。
【0062】
前記光重合開始剤(C)としては、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、フォスフィンオキサイド系化合物等が挙げられ、硬化性の観点から、照射する活性エネルギー線の波長と光重合開始剤の吸収波長ができるだけ重複するものが好ましい。
【0063】
前記光重合開始剤(C)の具体例としては、
2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、
1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、
2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、
ベンゾフェノン、
1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、
2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、
フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、
2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、
2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン、
2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、
ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、
ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、
2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、
1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]、
エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、
2,4-ジエチルチオキサントン、
2-イソプロピルチオキサントン、
2-クロロチオキサントン等が挙げられる。これらの中でも、インクの硬化性の観点から、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドが好ましく、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイドが特に好ましい。なお、光重合開始剤(C)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
上記インク組成物は、特に、活性エネルギー線硬化型インク組成物である場合、光安定剤を更に含有してもよい。光安定剤は、紫外線を吸収し、紫外線による劣化を防止する作用を有する。光安定剤としては、シアノアクリレート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、ベンジリデンカンファー系化合物、無機微粒子等が挙げられ、中でも、紫外線吸収がより短波長にあるヒドロキシフェニルトリアジン系化合物がインクの硬化性の観点から好ましい。硬化性の観点から、照射する活性エネルギー線の波長と光安定剤の吸収波長が出来るだけ重複しないものが好ましい。なお、光安定剤の含有量は、インク組成物の全質量中0.01~15質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることが更に好ましい。該光安定剤の含有量が0.01質量%以上では、充分な紫外線の吸収効果が得られやすく、15質量%以下であると、蛍光塗膜又は非蛍光塗膜の硬化性が低くなりにくい。
【0065】
前記光安定剤の具体例としては、
2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、
2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルフォニックアシッド、
2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、
2-ヒドロキシ-4-ドデシロキシベンゾフェノン-2-ヒドロキシ-4-ベンジロキシベンゾフェノン、
ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、
2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、
2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、
2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、
2―ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン、
2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-(ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、
2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、
2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、
2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2,2’-メチレン-ビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、
メチル-3-[3-t-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネートとポリエチレングリコールとの縮合物、
2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、
2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2,6-ジ-t-ブチルフェニル-3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンゾエート、
ヘキサデシル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。光安定剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
前記インク組成物は、特に、活性エネルギー線硬化型インク組成物である場合、重合禁止剤を更に含有してもよい。重合禁止剤は、インク組成物中に発生する活性ラジカルと反応し、重合反応が起こることを防止する機能を有する。また、インク組成物に重合禁止剤を配合すると、更に保存安定性を向上させることができる。上記重合禁止剤の含有量は、インクの全質量中0.001~5質量%であることが好ましく、0.001~1質量%であることが更に好ましい。上記重合禁止剤の含有量が0.001質量%以上では、保存安定性の向上効果が十分に得られやすく、5質量%以下であると、蛍光塗膜又は非蛍光塗膜の硬化性は維持しやすく低下しにくい。
【0067】
前記重合禁止剤としては、ハイドロキノン系化合物、フェノール系化合物、フェノチアジン系化合物、ニトロソ系化合物、N-オキシル系化合物等が挙げられる。
【0068】
前記重合禁止剤の具体例としては、フェノール、o-、m-又はp-クレゾール、2-t-ブチル-4-メチルフェノール、6-t-ブチル-2,4-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2-t-ブチルフェノール、4-t-ブチルフェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、2-メチル-4-t-ブチルフェノール、4-t-ブチル-2,6-ジメチルフェノール等のフェノール系化合物、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、メチルハイドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、2-メチル-p-ハイドロキノン、2,3-ジメチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン4-メチルベンズカテキン、t-ブチルハイドロキノン、3-メチルベンズカテキン、2-メチル-p-ハイドロキノン、2,3-ジメチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ベンゾキノン、t-ブチル-p-ベンゾキノン、2,5-ジフェニル-p-ベンゾキノン等のハイドロキノン系化合物、フェノチアジン等のフェノチアジン系化合物、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等のニトロソ系化合物、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-N-オキシル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-N-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-N-オキシル等のN-オキシル系化合物等が挙げられる。これらの中でも、ヒドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩が、保存安定性の向上効果と硬化性の維持の観点から好ましい。なお、重合禁止剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
前記インク組成物は、別の実施形態において、水系又は溶剤系のインク組成物である。本発明に係るインク組成物は、水系又は溶剤系のインク組成物である場合、更に、有機溶剤(E)及び/又は水と樹脂(F)とを含む。
【0070】
有機溶剤(E)及び水は、前記インク組成物において、分散媒として機能する。有機溶剤(E)としては、特に限定されず、例えば、γ-ブチロラクトン等のラクトン系溶剤;ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;1,3-ブタンジオール等のアルカンジオール系溶剤等が好適に用いられ、中でも、乾燥性及び溶解性の観点から、1,3-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ブチルジグリコール、又はジエチルジグリコールが好ましい。有機溶剤(E)、水、又はこれらの組み合わせの含有量は、吐出安定性及び乾燥性の観点から、インク組成物中、80.0~99.9質量%であることが好ましく、85.0~99.0質量%であることがより好ましい。有機溶剤(E)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
樹脂(F)は、前記インク組成物において、バインダーとして機能する。樹脂(F)としては、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂等が好適に用いられ、中でも、塗膜物性の観点から、塩化ビニル樹脂又はアクリル樹脂が好ましい。樹脂(F)の含有量は、吐出安定性及び塗膜物性の観点から、インク組成物中、0.1~20.0質量%であることが好ましく、1.0~15.0質量%であることがより好ましい。樹脂(F)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
特に、上記インク組成物が水を含む場合、樹脂(F)としては、アクリル樹脂がより好ましい。また、アクリル樹脂は、発色性の観点から、アクリロニトリル由来の構成単位、アクリル酸由来の構成単位、メタクリル酸由来の構成単位、スチレン由来の構成単位等を含むことが好ましく、アクリロニトリル由来の構成単位を含むことがより好ましい。より具体的には、物性に優れる塗膜を与えるエマルションインクを得やすいことから、インク組成物は、水系又は溶剤系のインク組成物である場合、更に、有機溶剤(E)と水と樹脂(F)とを含み、前記樹脂(F)は、アクリロニトリル由来の構成単位を含むアクリル樹脂であることが好ましい。
【0073】
上記インク組成物には、その他の成分として、着色剤、分散剤、酸化防止剤、表面調整剤、可塑剤、防錆剤、溶剤、非反応性ポリマー、充填剤、pH調整剤、消泡剤、荷電制御剤、応力緩和剤、浸透剤、導光材、光輝材、磁性材、乳化剤等の添加剤を必要に応じて使用してもよい。
【0074】
インク組成物中に粒子が存在する場合、流動性、吐出安定性等の観点から、インク中に分散している粒子は、体積平均粒子径が0.05~0.4μmであり、かつ、体積最大粒子径が0.2~1μmであることが好ましい。体積平均粒子径が0.4μm以下であり、かつ、体積最大粒子径が1μm以下であると、インクを安定に吐出することが困難となりにくい。なお、本明細書において、体積平均粒子径及び体積最大粒子径は、動的光散乱法により測定されるものをいい、具体的には、動的光散乱法を用いた測定機器によって測定できる。
【0075】
上記インク組成物は、成分(A)と、必要に応じて適宜選択される各種成分とを混合し、必要に応じて、例えば、インクジェットインク組成物として用いる場合には、使用するインクジェットプリントヘッドのノズル径の約1/10以下のポアサイズを持つフィルターを用い、得られた混合物を濾過することによって、調製できる。
【0076】
上記インク組成物は、その40℃における粘度が、5~25mPa・sであることが好ましく、5~15mPa・sであることが更に好ましい。40℃におけるインク粘度が上記特定した範囲内にあれば、良好な流動性及び吐出安定性が得られやすい。なお、本明細書において、インク粘度は、レオメーター(Antonpaar社製MCR301)を用いて40℃、ずり速度100s-1にて測定されるものをいう。
【0077】
蛍光塗膜又は非蛍光塗膜は、例えば、本発明に係るインク組成物を上記基材上に塗布し、又は、本発明に係るインク組成物を用いて上記基材上に印刷することで形成することができる。塗布の方法としては、特に限定されず、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電塗装、ロールコーター塗装、フローコーター塗装等が挙げられる。印刷の方法としては、特に限定されず、例えば、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェットプリンターによる印刷(即ち、インクジェット方式)等が挙げられる。インクジェットプリンターとしては、例えば、荷電制御方式又はピエゾ方式によりインク組成物を噴出させるインクジェットプリンターを挙げることができ、1パスの印刷あるいはマルチパスの印刷を行うことができる。
【0078】
本発明のインク組成物が活性エネルギー線硬化型インク組成物である場合、上記インク組成物を用いて塗布又は印刷を行った後、塗布面又は印刷面に活性エネルギー線を照射して、インク組成物を硬化させることによって蛍光塗膜又は非蛍光塗膜を形成することができる。上記インク組成物の硬化に用いられる活性エネルギー線源としては、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー、色素レーザー、LEDランプ等の紫外線源、並びに電子線加速装置等が使用できる。活性エネルギー線の波長は、硬化の効率等の観点から、光重合開始剤(C)の吸収波長と重複していることが好ましく、具体的には、活性エネルギー線の主波長が、360~425nmであることが好ましい。活性エネルギー線の照射エネルギー量(積算光量)は、硬化性の観点から、200~2,000mJ/cmであることが好ましい。
【0079】
≪塗装体≫
本発明に係る塗装体は、
基材と、
金属化学種若しくは配位子化合物を含む非蛍光塗膜又は金属錯体色素を含む蛍光塗膜と、
を備え、
前記非蛍光塗膜又は前記蛍光塗膜は、前記基材上に配置され、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記金属錯体色素は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる。塗装体、基材、金属化学種、配位子化合物、金属錯体色素、非蛍光塗膜、及び蛍光塗膜は、本発明に係る蛍光検出方法の説明において述べた通りである。
【0080】
≪対象物の識別方法≫
<第1実施形態>
本発明に係る、対象物の識別方法の第1実施形態は、
対象物の識別方法であって、
前記対象物上に、金属化学種と配位子化合物との複合体を含む蛍光塗膜を形成する蛍光塗膜形成工程と、
前記蛍光塗膜形成工程で形成された前記蛍光塗膜にエネルギーを与えることにより、前記蛍光塗膜中の前記複合体から前記配位子化合物を除去して、前記蛍光塗膜を、前記金属化学種を含む非蛍光塗膜に変換する配位子除去工程と、
前記非蛍光塗膜の形態で前記対象物に記録された識別情報に前記配位子化合物を接触させて、前記複合体を形成し、前記非蛍光塗膜を前記蛍光塗膜に変換する識別情報蛍光化工程と、
前記蛍光塗膜に光の照射を行う光照射工程と、
前記光の照射により前記複合体から発せられる蛍光を検出する蛍光検出工程と、
を含み、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記複合体は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる金属錯体色素である。
【0081】
第1実施形態における蛍光塗膜形成工程は、基材の代わりに対象物を用いる以外は、本発明に係る蛍光検出方法の第1実施形態における蛍光塗膜形成工程と同様である。前記対象物は、本発明に係る蛍光検出方法の第1実施形態における基材1と同様である。
【0082】
第1実施形態における配位子除去工程は、本発明に係る蛍光検出方法の第1実施形態における配位子除去工程と同様である。
【0083】
第1実施形態における識別情報蛍光化工程は、「前記非蛍光塗膜に前記配位子化合物を接触させて」に代えて、「前記非蛍光塗膜の形態で前記対象物に記録された識別情報に前記配位子化合物を接触させて」と規定している以外は、本発明に係る蛍光検出方法の第1実施形態における塗膜変換工程と同様である。前記識別情報としては、例えば、紙幣、金券等に記録された偽造防止コード;食料品の包装等に記録されたトレーサビリティー情報等が挙げられる。
【0084】
第1実施形態における光照射工程及び蛍光検出工程は、それぞれ、本発明に係る蛍光検出方法の第1実施形態における光照射工程及び蛍光検出工程と同様である。
【0085】
第1実施形態によれば、例えば、以下の効果が奏される。第1実施形態において、識別情報は、隠し表示として対象物に記録されているため、可視光下だけでなく紫外線等の活性エネルギー線照射下でも、視認することが困難である。一方、金属化学種と配位子化合物との複合体を形成することにより、所望の時に初めて、上記活性エネルギー線の照射により、識別情報の視認を容易にすることができる。よって、第1実施形態によれば、識別情報の不正使用、改竄、偽造等を効果的に防止することができるため、紙幣、金券等の偽造防止や、トレーサビリティー情報の適切な管理等を有効に行うことができる。上記識別方法の結果、真の識別情報が検出された場合には、対象物は、真正品、正規品等と判定することができ、真の識別情報が検出されなかったり、そもそも識別情報そのものが検出されなかったりした場合には、対象物は、偽造品、非正規品等と判定することができる。
【0086】
<第2実施形態>
本発明に係る、対象物の識別方法の第2実施形態は、
対象物の識別方法であって、
金属化学種を含む非蛍光塗膜の形態で前記対象物に記録された識別情報に配位子化合物を接触させて、前記金属化学種と前記配位子化合物との複合体を形成し、前記非蛍光塗膜を、前記複合体を含む蛍光塗膜に変換する識別情報蛍光化工程と、
前記蛍光塗膜に光の照射を行う光照射工程と、
前記光の照射により前記複合体から発せられる蛍光を検出する蛍光検出工程と、
を含み、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記複合体は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる金属錯体色素である。第2実施形態における識別情報蛍光化工程は、表現の相違を除き、第1実施形態における識別情報蛍光化工程と同様である。第2実施形態における光照射工程及び蛍光検出工程は、それぞれ、第1実施形態における光照射工程及び蛍光検出工程と同様である。第2実施形態によれば、例えば、第1実施形態において例示したのと同様の効果が奏される。
【0087】
<第3実施形態>
本発明に係る、対象物の識別方法の第3実施形態は、
対象物の識別方法であって、
配位子化合物を含む非蛍光塗膜の形態で前記対象物に記録された識別情報に金属化学種を接触させて、前記金属化学種と前記配位子化合物との複合体を形成し、前記非蛍光塗膜を、前記複合体を含む蛍光塗膜に変換する識別情報蛍光化工程と、
前記蛍光塗膜に光の照射を行う光照射工程と、
前記光の照射により前記複合体から発せられる蛍光を検出する蛍光検出工程と、
を含み、
前記配位子化合物は、前記金属化学種に配位し、
前記複合体は、前記金属化学種と前記金属化学種に配位する前記配位子化合物との配位化合物からなる金属錯体色素である。第3実施形態は、識別情報蛍光化工程において、金属化学種と配位子化合物とを入れ換えた以外、第2実施形態と同様である。第3実施形態によれば、例えば、第1実施形態において例示したのと同様の効果が奏される。
【実施例
【0088】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0089】
<インクの調整方法>
表1又は2に示す配合処方に従い、撹拌しながら各原料を混合した。2時間の撹拌の後、完全に溶解したことを確認し、混合物をフィルターでろ過し、インク1~7を調製した。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
1)(1,10-フェナントロリン)トリス[4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-1,3-ブタンジオナト]ユウロピウム(III)(東京化成工業株式会社)
2)アミノアクリレート(ダイセルオルネクス株式会社)
3)光重合開始剤(BASFジャパン株式会社)
4)表面調整剤(ビックケミージャパン株式会社)
5)光安定剤(BASFジャパン株式会社)
6)ポリビニルピロリドンK-30(株式会社日本触媒)
7)<エマルションの合成方法>
フラスコに水600g、ネオペレックスNo6(花王社製ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)10g、エマルゲンLS-114(花王社製高級アルコール系エーテル)5.5gを投入し撹拌しながら、上記フラスコの内温を80℃まで昇温させた。一方、スチレン252g、アクリロニトリル108g、アクリル酸40gを混合して単量体混合物を得た後、過硫酸カリウム3.5gを80℃に保った上記フラスコに投入し、上記単量体混合物を分液ロートから撹拌下3時間で上記フラスコに滴下した。その後、1時間かけて重合を完結させ、粒子径0.1μmのエマルションを合成した。
8)表面調整剤(ビックケミージャパン株式会社)
【0093】
<塗装体の作製方法>
実施例1及び2
インク1及び2として示す各インク組成物を、インクジェットプリンターを用いて、表3に示す条件(基材及び印刷濃度)で平均塗布量6.0~7.0g/mで印刷し、直後にメタルハライドランプ(800mW/cm、200mJ/cm)を照射し硬化させ、塗装体を得た。
【0094】
実施例3~7
インク3~7として示す各インク組成物を、インクジェットプリンターを用いて、表3に示す条件(基材及び印刷濃度)で平均塗布量6.0~7.0g/mで印刷し、乾燥させ、塗装体を得た。
【0095】
<紫外線照射下での外観評価(初期)>
実施例1~7における紫外線照射下での塗装体の外観(初期)については、作成直後の塗装体に暗室でブラックライト(アズワン社製UVランプ、ピーク波長365nm)を照射して目視によって、下記の評価基準に基づいて評価を行った。結果を表3に示す。
+:塗装部の視認が可能。
-:塗装部の視認が不可能。
【0096】
<紫外線照射下での外観評価(退色後)>
実施例1~5における塗装体に対して、ブラックライトブルーランプ(三共電気社製)を用いてピーク強度360nmの紫外線を12時間継続して照射して、金属錯体色素を退色させた。紫外線照射下での塗装体の外観(退色後)については、退色直後の塗装体に暗室で上記ブラックライトを照射して目視によって、上記と同様の評価基準に基づいて評価を行った。結果を表3に示す。
【0097】
<紫外線照射下での外観評価(配位後)>
実施例1~5における退色後の塗装体、及び、実施例6における非蛍光の塗装体に対して、配位子化合物溶液(4,4,4-トリフルオロ-1-フェニル-1,3-ブタンジオンのn-ブチルアルコール溶液、濃度:2質量%)を噴霧して、塗装体表面を配位子化合物溶液に対し十分に接触させた。3時間後、配位子化合物溶液を除去し、塗装体の水洗及び乾燥を行った。紫外線照射下での塗装体の外観(配位後)については、上記乾燥直後の塗装体に暗室で上記ブラックライトを照射して目視によって、上記と同様の評価基準に基づいて評価を行った。結果を表3に示す。
【0098】
また、実施例7における非蛍光の塗装体に対して、金属化学種溶液(ユウロピウムイオンを含む溶液、より具体的には、塩化ユウロピウムの水溶液、濃度:10質量%)を噴霧して、塗装体表面を金属化学種溶液に対し十分に接触させた。3時間後、金属化学種溶液を除去し、塗装体の水洗及び乾燥を行った。紫外線照射下での塗装体の外観(配位後)については、上記乾燥直後の塗装体に暗室で上記ブラックライトを照射して目視によって、上記と同様の評価基準に基づいて評価を行った。結果を表3に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
9)アルティマグロスWX(日本製紙株式会社)
【0101】
表3から明らかなように、第1実施形態に属する実施例1~5において、インク1~5のいずれのインク組成物を用いた場合も、初期では、紫外線照射下で塗装部を視認できたが、紫外線を用いて塗装部にエネルギーを与えて金属錯体色素を退色させた後では、紫外線照射下で塗装部を視認することはできなかった。退色後、塗装部と配位子化合物溶液とを接触させ、再配位により金属錯体色素を再形成した後では、再び、紫外線照射下で塗装部を視認できた。また、第2実施形態に属する実施例6においても、初期の非蛍光塗膜に配位子化合物溶液を接触させることで、当該非蛍光塗膜を蛍光塗膜へ変換することができた。同様に、第3実施形態に属する実施例7においても、初期の非蛍光塗膜に金属化学種水溶液を接触させることで、当該非蛍光塗膜を蛍光塗膜へ変換することができた。
【符号の説明】
【0102】
1 基材
2 蛍光塗膜
3 エネルギー
4 非蛍光塗膜
5 配位子化合物含有液膜
6 光
7 蛍光
10 塗装体
図1
図2