(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】制御装置および監視方法
(51)【国際特許分類】
G05B 11/32 20060101AFI20220216BHJP
【FI】
G05B11/32 C
(21)【出願番号】P 2017230291
(22)【出願日】2017-11-30
【審査請求日】2020-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅人
(72)【発明者】
【氏名】相川 智彦
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-503012(JP,A)
【文献】特開2012-89004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 1/00 - 7/04
G05B 11/00 - 13/04
G05B 17/00 - 17/02
G05B 21/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カスケード制御系のマスタ側の制御ループの第1の設定値と第1の制御量とを入力として、制御演算により前記マスタ側の制御ループの第1の操作量を算出するように構成された第1の制御部と、
前記第1の操作量を前記カスケード制御系のスレーブ側の制御ループの第2の設定値として受け取り、この第2の設定値と前記スレーブ側の制御ループの第2の制御量とを入力として、制御演算により前記スレーブ側の制御ループの第2の操作量を算出して制御対象に出力するように構成された第2の制御部と、
前記第1の制御量と前記第2の制御量との比率を監視指標として算出するように構成された監視指標算出部と、
前記監視指標算出部によって算出された監視指標を提示するように構成された監視指標提示部と
、
予め定められた基準設定値を記憶するように構成された基準設定値記憶部と、
前記第1の設定値が、前記基準設定値記憶部に記憶されている基準設定値を中心とする規定の範囲内にあり、かつ制御が整定状態の場合の前記監視指標を周期的に抽出して提示するように構成された基準監視指標提示部とを備えることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
カスケード制御系のマスタ側の制御ループの第1の設定値と第1の制御量とを入力として、制御演算により前記マスタ側の制御ループの第1の操作量を算出する第1のステップと、
前記第1の操作量を前記カスケード制御系のスレーブ側の制御ループの第2の設定値として受け取り、この第2の設定値と前記スレーブ側の制御ループの第2の制御量とを入力として、制御演算により前記スレーブ側の制御ループの第2の操作量を算出して制御対象に出力する第2のステップと、
前記第1の制御量と前記第2の制御量との比率を監視指標として算出する第3のステップと、
前記第3のステップで算出した監視指標を提示する第4のステップと
、
前記第1の設定値が、予め記憶している基準設定値を中心とする規定の範囲内にあり、かつ制御が整定状態の場合の前記監視指標を周期的に抽出して提示する第5のステップとを含むことを特徴とする制御装置の監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に係り、特にカスケード制御を行なう場合の監視方法を改善する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1個または複数の制御ループを備える装置を扱うために、多機能の汎用調節計(温調計)が使用されることがある(特許文献1参照)。汎用調節計(温調計)が対象とする加熱装置の例を
図17、
図18に示す。
【0003】
図17の例では、加熱装置は、被加熱物を加熱するための加熱処理炉100と、加熱処理炉100の内部に設置された複数のヒータH1~H4と、それぞれヒータH1~H4によって加熱される加熱処理炉100内の温度制御ゾーンZ1~Z4の温度を測定する複数の温度センサS1~S4と、ヒータH1~H4に出力する操作量MV1~MV4を算出する調節計101と、調節計101から出力された操作量MV1~MV4に応じた電力をヒータH1~H4に供給する電力調整器102-1~102-4とから構成される。調節計101は、温度センサS1~S4が計測した温度PV1~PV4が温度設定値SP1~SP4と一致するように操作量MV1~MV4を算出する。この
図17に示した加熱装置においては、温度PV1~PV4を制御する制御ループが4個形成されていることになる。
【0004】
また、
図18に示した加熱装置の例では、酸化拡散炉200内の石英管203の内部に、シリコンウェハ204が搬入される。温度センサS1~S4は、それぞれヒータH1~H4によって加熱される温度制御ゾーンZ1~Z4の温度PV1~PV4を測定する。調節計201は、温度センサS1~S4が計測した温度PV1~PV4が温度設定値SP1~SP4と一致するように操作量MV1~MV4を算出してヒータ電源202に出力する。ヒータ電源202は、操作量MV1~MV4に応じた電力をヒータH1~H4に供給する。こうして、酸化拡散炉200内の石英管203内に導入される酸素とシリコンウェハ204とを加熱することにより、シリコンウェハ204の表面に酸化膜を形成する。この
図18に示した加熱装置においても、温度PV1~PV4を制御する制御ループが4個形成されていることになる。
【0005】
調節計101,201や、調節計101,201を用いて例えば半導体の製造を行う製造装置においては、オペレータに情報を伝えるためや操作のために、液晶ディスプレイなどの表示装置が使用される(特許文献2参照)。
【0006】
ところで、調節計の代表的な適用対象は、言うまでもなく上記のような加熱装置などの温度制御系である。温度制御では、被加熱流体がヒータ位置から温度センサ位置(温度制御されるべき場所のセンサ設置位置)まで搬送される時間が比較的長くなる場合などにおいて、カスケード制御と言われる、2重の制御ループ構造で実質的に1個の制御系を構成する制御が多く行なわれている(特許文献3参照)。
【0007】
特許文献3に開示されたカスケード制御システムの構成を
図19に示す。マスタPIDコントローラ300は、マスタ側制御対象303の制御量PV_Mが設定値SP_Mと一致するように操作量SP_Sを算出する。スレーブPIDコントローラ301は、マスタPIDコントローラ300から出力された操作量SP_Sを設定値として、スレーブ側制御対象302の制御量PV_Sが設定値SP_Sと一致するように操作量MV_Sを算出してスレーブ側制御対象302に出力する。この
図19の例では、マスタPIDコントローラ300とスレーブPIDコントローラ301とスレーブ側制御対象302とマスタ側制御対象303とがマスタ側の制御ループを構成し、スレーブPIDコントローラ301とスレーブ側制御対象302とがスレーブ側の制御ループを構成している。
【0008】
カスケード制御を加熱装置に適用すると、例えば
図20のような構成になる。
図20に示す加熱装置は、処理対象の被加熱物を加熱する加熱処理炉400と、電気ヒータ401と、加熱処理炉400内の空気循環出口付近の温度を計測する温度センサ402と、加熱処理炉400内の電気ヒータ付近の温度を計測する温度センサ403と、マスタ温調計404と、スレーブ温調計405と、電力調整器406と、電力供給回路407とから構成される。
【0009】
マスタ温調計404は、温度センサ402が計測した温度PV_M(制御量)が温度設定値SP_Mと一致するように操作量MV_Mを算出する。スレーブ温調計405は、マスタ温調計404から出力された操作量MV_Mを温度設定値SP_Sとし、温度センサ403が計測した温度PV_S(制御量)が温度設定値SP_Sと一致するように操作量MV_Sを算出する。電力調整器406は、操作量MV_Sに応じた電力を決定し、この決定した電力を電力供給回路407を通じて電気ヒータ401に供給する。
【0010】
以上のようなカスケード制御を実施するための汎用的なコントローラの代表的なものとして、マルチループ調節計がある。例えば、1台のマルチループ調節計が2ループタイプの場合は、PID制御を2ループ分備えており、内部アルゴリズムの選択によって1個のカスケード制御系に対応できる。また、1台のマルチループ調節計が4ループタイプの場合は、PID制御を4ループ分備えており、内部アルゴリズムの選択によって2個のカスケード制御系に対応できる。
【0011】
上記のようなマルチループ調節計は、標準的な用途を想定して2ループ分あるいは4ループ分の設定値SPと制御量PVの表示器を備えている。例えば
図21に示すマルチループ調節計500は、4ループ分の情報表示が可能な表示器501を備えている。したがって、カスケード制御を実施する場合でも、表示器501を利用してマスタ側の制御ループとスレーブ側の制御ループの情報を表示することになる。また、シングルループ調節計を複数台組合せてカスケード制御を実施する場合には、個々のシングルループ調節計の表示器を利用してマスタ側の制御ループとスレーブ側の制御ループの情報を表示することになる。
【0012】
しかしながら、マルチループ調節計やシングルループ調節計は基本的にカスケード制御ではない通常のPID制御を前提として設計された調節計なので、カスケード制御の状態監視の用途としては不十分であるという問題点があり、監視作業の効率性の点で、改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2012-048370号公報
【文献】特開2001-154786号公報
【文献】特開2012-089004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、例えばマルチループ調節計を利用してカスケード制御を実施する場合などにおいて、カスケード制御の監視作業の効率を向上させることができる制御装置および監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の制御装置は、カスケード制御系のマスタ側の制御ループの第1の設定値と第1の制御量とを入力として、制御演算により前記マスタ側の制御ループの第1の操作量を算出するように構成された第1の制御部と、前記第1の操作量を前記カスケード制御系のスレーブ側の制御ループの第2の設定値として受け取り、この第2の設定値と前記スレーブ側の制御ループの第2の制御量とを入力として、制御演算により前記スレーブ側の制御ループの第2の操作量を算出して制御対象に出力するように構成された第2の制御部と、前記第1の制御量と前記第2の制御量との比率を監視指標として算出するように構成された監視指標算出部と、前記監視指標算出部によって算出された監視指標を提示するように構成された監視指標提示部と、予め定められた基準設定値を記憶するように構成された基準設定値記憶部と、前記第1の設定値が、前記基準設定値記憶部に記憶されている基準設定値を中心とする規定の範囲内にあり、かつ制御が整定状態の場合の前記監視指標を周期的に抽出して提示するように構成された基準監視指標提示部とを備えることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の制御装置の監視方法は、カスケード制御系のマスタ側の制御ループの第1の設定値と第1の制御量とを入力として、制御演算により前記マスタ側の制御ループの第1の操作量を算出する第1のステップと、前記第1の操作量を前記カスケード制御系のスレーブ側の制御ループの第2の設定値として受け取り、この第2の設定値と前記スレーブ側の制御ループの第2の制御量とを入力として、制御演算により前記スレーブ側の制御ループの第2の操作量を算出して制御対象に出力する第2のステップと、前記第1の制御量と前記第2の制御量との比率を監視指標として算出する第3のステップと、前記第3のステップで算出した監視指標を提示する第4のステップと、前記第1の設定値が、予め記憶している基準設定値を中心とする規定の範囲内にあり、かつ制御が整定状態の場合の前記監視指標を周期的に抽出して提示する第5のステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、監視指標算出部と監視指標提示部とを設けることにより、カスケード制御の状態が明確に反映される監視指標を算出してオペレータに提示することができるので、カスケード制御の監視作業の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施例に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例に係る制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、温度制御におけるマスタ側制御量とマスタ側操作量の変化の1例を示す図である。
【
図4】
図4は、温度制御におけるスレーブ側設定値とスレーブ側制御量とスレーブ側操作量の変化の1例を示す図である。
【
図5】
図5は、温度制御におけるスレーブ側制御量とマスタ側制御量の比率のグラフ表示の1例を示す図である。
【
図6】
図6は、温度制御におけるマスタ側制御量とマスタ側操作量の変化の他の例を示す図である。
【
図7】
図7は、温度制御におけるスレーブ側設定値とスレーブ側制御量とスレーブ側操作量の変化の他の例を示す図である。
【
図8】
図8は、温度制御におけるスレーブ側制御量とマスタ側制御量の比率のグラフ表示の他の例を示す図である。
【
図9】
図9は、温度制御におけるマスタ側制御量とマスタ側操作量の変化の他の例を示す図である。
【
図10】
図10は、温度制御におけるスレーブ側設定値とスレーブ側制御量とスレーブ側操作量の変化の他の例を示す図である。
【
図11】
図11は、温度制御におけるスレーブ側制御量とマスタ側制御量の比率のグラフ表示の他の例を示す図である。
【
図12】
図12は、温度制御におけるマスタ側制御量とマスタ側操作量の変化の他の例を示す図である。
【
図13】
図13は、温度制御におけるスレーブ側設定値とスレーブ側制御量とスレーブ側操作量の変化の他の例を示す図である。
【
図14】
図14は、温度制御におけるスレーブ側制御量とマスタ側制御量の比率のグラフ表示の他の例を示す図である。
【
図15】
図15は、基準設定値を基に抽出した比率の表示例を示す図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施例に係る制御装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【
図17】
図17は、複数の制御ループを備えた加熱装置の構成例を示す図である。
【
図18】
図18は、複数の制御ループを備えた加熱装置の別の構成例を示す図である。
【
図19】カスケード制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図20】カスケード制御を適用した加熱装置の構成例を示す図である。
【
図21】マルチループ調節計の1例を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[発明の原理1]
通常の状態監視としては、マスタ側制御量PV_Mとスレーブ側制御量PV_Sなどを個々に、正常な値の範囲(安全な範囲)にあるか否かを監視する。また、制御の良否を監視する場合であれば、本来の制御の目標値であるマスタ側設定値SP_Mとマスタ側制御量PV_Mとが、規定の範囲内で良好に一致(追従)しているか否かを監視する。
【0020】
しかし、カスケード制御はマスタ側とスレーブ側が連動する制御であることに着眼する必要がある。カスケード制御は、マスタ側制御量PV_Mの帳尻が合うように内部調整される構造なので、特に内部状態とのバランスの変化は見落とされやすい。すなわち、マスタ側制御量PV_Mとスレーブ側制御量PV_Sが、各々正常(通常)の範囲にある場合であっても、マスタ側制御量PV_Mとスレーブ側制御量PV_Sのバランスが異なっている場合には不具合の予兆であることも考えられる。
【0021】
上記の着眼点に基づき、発明者は、マスタ側制御量PV_Mとスレーブ側制御量PV_Sとのバランスを意味する比率R=PV_S/PV_M(あるいはR=PV_M/PV_S)を、状態監視に採用することに想到した。制御量同士のバランスなので、スレーブ側の制御が、マスタ側の制御対象の制御量が検出される位置よりも上流側の制御対象の制御として備えられている場合(例えば
図20のように上流側の温度センサ403によってスレーブ側の制御量PV_Sが測定され、下流側の温度センサ402によってマスタ側の制御量PV_Mが測定される関係)に、本発明は特に有効である。
【0022】
[発明の原理2]
状態監視をさらに進展させて状態診断という作業で考えた場合、様々な制御動作を行なう中にあっても、同一のマスタ側設定値SP_M(予め規定された基準設定値SP_M)を扱っているときの状態について、例えば過去と現在で比較できるのが好適である。したがって、予め規定された基準設定値SP_X(あるいは近傍範囲)にある場合の比率R=PV_S/PV_M(あるいはR=PV_M/PV_S)を特に抽出して提示(表示)するのが好適である。
【0023】
[実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施例に係る制御装置の構成を示すブロック図である。本実施例は、上記発明の原理1、発明の原理2に対応する例である。ここでは、小型の表示素子を備えるマルチループ調節計への適用例として説明する。
【0024】
制御装置は、カスケード制御系のマスタ側の制御ループの設定値SP_M(第1の設定値)と制御量PV_M(第1の制御量)とを入力として、制御演算によりマスタ側の制御ループの操作量MV_M(第1の操作量)を算出するマスタPID制御部1(第1の制御部)と、操作量MV_Mをカスケード制御系のスレーブ側の制御ループの設定値SP_S(第2の設定値)として受け取り、この設定値SP_Sとスレーブ側の制御ループの制御量PV_S(第2の制御量)とを入力として、制御演算によりスレーブ側の制御ループの操作量MV_S(第2の操作量)を算出して制御対象に出力するスレーブPID制御部2(第2の制御部)と、マスタ側制御量PV_Mとスレーブ側制御量PV_Sとの比率Rを監視指標として算出する監視指標算出部3と、監視指標算出部3によって算出された比率Rを提示(表示)する監視指標提示部4と、基準設定値SP_Xを予め記憶する基準設定値記憶部5と、マスタ側設定値SP_Mが基準設定値SP_Xを中心とする規定の範囲内にあり、かつ制御が整定状態の場合の比率Rを周期的に抽出して提示する基準監視指標提示部6とを備えている。
【0025】
なお、カスケード制御機能はマルチループ調節計の周知の機能として搭載されている。カスケード制御機能によれば、複数のPID制御部のうち特定のPID制御部をマスタPID制御部1として指定し、別のPID制御部をスレーブPID制御部2として指定すれば、マスタPID制御部1の出力をスレーブPID制御部2の入力に接続するカスケード制御構造が自動的に設定される。
【0026】
図2は本実施例の制御装置の動作を説明するフローチャートである。マスタ側の制御ループの設定値SP_M(例えば最終目標値となる温度設定値)は、オペレータによって設定され、マスタPID制御部1に入力される(
図2ステップS100)。
マスタ側の制御ループの制御量PV_M(例えば温度計測値)は、制御対象のマスタ側のセンサ(例えば
図20の温度センサ402)によって計測され、マスタPID制御部1に入力される(
図2ステップS101)。
【0027】
マスタPID制御部1は、設定値SP_Mと制御量PV_Mとを入力として、制御量PV_Mが設定値SP_Mと一致するように周知のPID制御演算によりマスタ側の制御ループの操作量MV_Mを算出する(
図2ステップS102)。なお、実際には、マスタ側については、D動作を利用しないPI制御(微分時間Td=0)が採用されることが多い。
【0028】
マスタPID制御部1から出力された操作量MV_Mは、スレーブ側の制御ループの設定値SP_SとしてスレーブPID制御部2に入力される(
図2ステップS103)。
スレーブ側の制御ループの制御量PV_S(例えば温度計測値)は、制御対象のスレーブ側のセンサ(例えば
図20の温度センサ403)によって計測され、スレーブPID制御部2に入力される(
図2ステップS104)。
【0029】
スレーブPID制御部2は、設定値SP_Sと制御量PV_Sとを入力として、制御量PV_Sが設定値SP_Sと一致するように周知のPID制御演算によりスレーブ側の制御ループの操作量MV_Sを算出して制御対象に出力する(
図2ステップS105)。
図20に示した加熱装置の場合、操作量MV_Sの実際の出力先は電力調整器406となる。
【0030】
次に、監視指標算出部3は、マスタ側制御量PV_Mとスレーブ側制御量PV_Sとのバランスを意味する比率R=PV_S/PV_Mを監視指標として算出する(
図2ステップS106)。あるいは、監視指標算出部3は、監視指標として、比率R=PV_M/PV_Sを算出してもよい。分母が0、すなわちゼロ割が発生しないための対応を含め、算出されるRの数値の範囲を予め限定しておくのが好適である。
【0031】
比率としてR=PV_S/PV_Mを採用するのか、R=PV_M/PV_Sを採用するのかは任意である。ただし、監視指標算出部3は、比率Rの数値がなるべく1.0以下になるように、すなわちマスタ側制御量PV_Mとスレーブ側制御量PV_Sのうち全般的に大きな数値になる方を分母側にして比率Rを算出することが好ましい。これにより、後述のように比率Rをグラフ表示する際のスケールを決め易くなる。
【0032】
監視指標提示部4は、監視指標算出部3によって算出された比率Rを提示(表示)する(
図2ステップS107)。比率Rの提示方法としては、後述のように比率Rの時系列をグラフ表示する方法がある。
【0033】
一方、基準設定値記憶部5には、基準設定値SP_Xが予め記憶されている。基準設定値SP_Xは例えばオペレータによって設定される。この基準設定値SP_Xとしては、例えば加熱制御における昇温後の温度(整定状態における温度)として想定されるマスタ側設定値SP_Mの一般的な値を設定しておけばよい。
【0034】
基準監視指標提示部6は、マスタ側設定値SP_Mが、基準設定値記憶部5に記憶されている基準設定値SP_Xを中心とする規定の近傍範囲SP_X±δ内(δは規定微小量)にあり、かつ制御が整定状態の場合の比率Rを周期的に抽出し(
図2ステップS108)、抽出した比率Rを提示(表示)する(
図2ステップS109)。このときの提示方法としては、抽出した比率Rを時系列に表形式で表示する方法がある。これにより、整定状態における代表的な複数時点の比率Rを、時系列に表示することができる。
【0035】
基準監視指標提示部6は、制御の開始時点から十分な時間が経過したときに整定状態と判断してもよいし、マスタ側設定値SP_Mとマスタ側制御量PV_Mとを見て整定状態か否かを判断してもよい。具体的には、基準監視指標提示部6は、マスタ側制御量PV_Mがマスタ側設定値SP_Mを中心とする所定の範囲内である状態が一定時間以上継続したときに、制御の整定状態と判断すればよい。
【0036】
以上のようなステップS100~S109の処理を、制御装置の動作が終了するまで(
図2ステップS110においてYES)、制御周期毎に繰り返し実行する。
【0037】
以下、カスケード制御のシミュレーションにより本実施例の効果を検証する。条件#1では、
図19のマスタ側制御対象303の伝達関数G_M、スレーブ側制御対象302の伝達関数G_Sを式(1)、式(2)のように定める。
G_M=Kp_Mexp(-Lp_Ms)/(1+Tp_Ms)+OF_M
=8exp(-50s)/(1+200s)+0 ・・・(1)
G_S=Kp_Sexp(-Lp_Ss)/(1+Tp_Ss)+OF_S
=5exp(-10s)/(1+200s)+0 ・・・(2)
【0038】
式(1)、式(2)におけるKp_M,Kp_Sはマスタ側、スレーブ側のプロセスゲイン、Tp_M,Tp_Sマスタ側、スレーブ側のプロセス時定数、Lp_M,Lp_Sはマスタ側、スレーブ側のプロセスむだ時間、OF_M,OF_Sはマスタ側、スレーブ側のオフセット(操作量MV=0での制御量PV)、sはラプラス演算子である。
【0039】
条件#2では、マスタ側制御対象303の伝達関数G_M、スレーブ側制御対象302の伝達関数G_Sを式(3)、式(4)のように定める。
G_M=Kp_Mexp(-Lp_Ms)/(1+Tp_Ms)+OF_M
=8exp(-50s)/(1+200s)+50 ・・・(3)
G_S=Kp_Sexp(-Lp_Ss)/(1+Tp_Ss)+OF_S
=5exp(-10s)/(1+200s)+0 ・・・(4)
条件#2は、条件#1に対し、マスタ側のオフセットOF_Mのみが異なる。
【0040】
条件#3では、マスタ側制御対象303の伝達関数G_M、スレーブ側制御対象302の伝達関数G_Sを式(5)、式(6)のように定める。
G_M=Kp_Mexp(-Lp_Ms)/(1+Tp_Ms)+OF_M
=6exp(-50s)/(1+200s)+0 ・・・(5)
G_S=Kp_Sexp(-Lp_Ss)/(1+Tp_Ss)+OF_S
=5exp(-10s)/(1+200s)+0 ・・・(6)
条件#3は、条件#1に対し、マスタ側のプロセスゲインKp_Mのみが異なる。
【0041】
図3は制御対象の条件#1で、マスタ側設定値SP_Mを100℃から350℃に変更した温度制御におけるマスタ側制御量PV_Mとマスタ側操作量MV_Mの変化を示す図、
図4はこの温度制御におけるスレーブ側設定値SP_S=MV_Mとスレーブ側制御量PV_Sとスレーブ側操作量MV_Sの変化を示す図、
図5はこの温度制御における比率R=PV_S/PV_Mのグラフ表示の例を示す図である。
図5の例では、制御装置の画面30に比率Rが時系列で表示されている。ここでは、マスタ側設定値SP_M=350℃を基準設定値SP_Xと仮定する。基準設定値SP_X=350℃とした場合、制御の整定状態における比率はR=0.125になる。
【0042】
図6は制御対象の条件#2で、マスタ側設定値SP_Mを100℃から350℃に変更した温度制御におけるマスタ側制御量PV_Mとマスタ側操作量MV_Mの変化を示す図、
図7はこの温度制御におけるスレーブ側設定値SP_S=MV_Mとスレーブ側制御量PV_Sとスレーブ側操作量MV_Sの変化を示す図、
図8はこの温度制御における比率R=PV_S/PV_Mのグラフ表示の例を示す図である。
【0043】
条件#2は条件#1に対しマスタ側のオフセットOF_Mのみが異なるので、操作量MVや制御量PVの数値の差異は確認し難い。しかし、マスタ側のオフセットOF_Mが異なるため、表示される比率Rが条件#1の場合と明確に異なる監視結果が得られる(
図8)。基準設定値SP_X=350℃とした場合、制御の整定状態における比率はR=0.107になる。
【0044】
図9は制御対象の条件#3で、マスタ側設定値SP_Mを100℃から350℃に変更した温度制御におけるマスタ側制御量PV_Mとマスタ側操作量MV_Mの変化を示す図、
図10はこの温度制御におけるスレーブ側設定値SP_S=MV_Mとスレーブ側制御量PV_Sとスレーブ側操作量MV_Sの変化を示す図、
図11はこの温度制御における比率R=PV_S/PV_Mのグラフ表示の例を示す図である。
【0045】
条件#3は条件#1に対しマスタ側のプロセスゲインKp_Mのみが異なるので、操作量MVや制御量PVの数値の差異は確認し難い。しかし、マスタ側のプロセスゲインKp_Mが異なるため、表示される比率Rが条件#1の場合と明確に異なる監視結果が得られる(
図11)。基準設定値SP_X=350℃とした場合、制御の整定状態における比率はR=0.167になる。
【0046】
図12は制御対象の条件#1で、マスタ側設定値SP_Mを100℃から250℃に変更した温度制御におけるマスタ側制御量PV_Mとマスタ側操作量MV_Mの変化を示す図、
図13はこの温度制御におけるスレーブ側設定値SP_S=MV_Mとスレーブ側制御量PV_Sとスレーブ側操作量MV_Sの変化を示す図、
図14はこの温度制御における比率R=PV_S/PV_Mのグラフ表示の例を示す図である。
【0047】
図12~
図14の例は
図3~
図5の例と比べると昇温幅が大きく異なるので、操作量MVや制御量PVの数値は大きく異なる。しかし、マスタ側設定値SP_Mのみが異なり、その他の条件が同じであるため、整定時の比率Rが
図5の例とほぼ同じになる監視結果が得られる(
図14)。マスタ側設定値SP_M=250℃では、整定時における比率はR=0.125になる。
【0048】
ただし、基準設定値SP_Xを定めて監視するのが好適である。
図15は、基準設定値SP_Xを基に基準監視指標提示部6によって抽出された比率R=PV_S/PV_Mの表示例を示す図である。
図15の例では、条件#3(
図9~
図11)の場合の温度制御と、条件#1(
図3~
図5)の場合の温度制御と、条件#2(
図6~
図8)場合の温度制御とを順番に実施したときに、それぞれの条件で抽出された比率R=0.167,0.125,0.107が表示されている。
【0049】
以上のような構成により、本実施例では、カスケード制御の監視作業の効率を向上させることができる。
【0050】
なお、
図15の例では、複数回の温度制御の各々における比率Rを抽出しているが、これに限るものではなく、1回の温度制御において整定状態における比率Rを複数回抽出してもよい。比率Rの抽出間隔は、基準監視指標提示部6に予め設定される周期によって決まる。基準監視指標提示部6は、マスタ側設定値SP_Mが、基準設定値SP_Xを中心とする規定の近傍範囲SP_X±δ内にあり、かつ制御が整定状態の場合の比率Rを周期毎に抽出する。したがって、基準監視指標提示部6に設定される周期と制御の運用状況により、1回の温度制御につき1回だけ比率Rが抽出される場合や、比率Rが複数回抽出される場合が有り得る。
【0051】
また、基準監視指標提示部6は、抽出した比率Rを時系列に表示するので、所定時間前の過去から現在までの抽出した比率R、あるいは過去から現在までの所定個数分の抽出した比率Rを記憶していることになる。基準監視指標提示部6は、過去に抽出した比率Rを、制御装置の電源がいったん切れた状態でも不揮発性メモリ等に保持しておけるようにし、制御装置の電源が再投入されたときに、過去から現在までの抽出した比率Rを時系列に表示できるようにしてもよい。
【0052】
本実施例で説明した制御装置は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を
図16に示す。コンピュータは、CPU600と、記憶装置601と、インターフェース装置(以下、I/Fと略する)602とを備えている。I/F602には、温度センサや電力調整器が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の監視方法を実現させるためのプログラムは記憶装置601に格納される。CPU600は、記憶装置601に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1…マスタPID制御部、2…スレーブPID制御部、3…監視指標算出部、4…監視指標提示部、5…基準設定値記憶部、6…基準監視指標提示部。