(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】熱膨張性耐火シート
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20220216BHJP
C08L 23/22 20060101ALI20220216BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220216BHJP
C09K 21/02 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08L23/22
C08K3/04
C09K21/02
(21)【出願番号】P 2017237650
(22)【出願日】2017-12-12
【審査請求日】2020-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土肥 彰人
(72)【発明者】
【氏名】島本 倫男
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-155227(JP,A)
【文献】特開2000-038785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02;5/12-5/22
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチルゴムと熱膨張性黒鉛とを含有する熱膨張性耐火シートであって、熱膨張性耐火シートの少なくとも片面の平均表面粗度(Ra)が5μm以上300μm以下であ
り、
前記熱膨張性耐火シートの粘着力が5N/10mm以上、30N/10mm以下であり、
前記熱膨張性耐火シートの少なくとも片面の被着体との接触面積が10~80%である熱膨張性耐火シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張性耐火シートに関する。
【背景技術】
【0002】
住宅分野、車輌分野、IT分野などに使われる熱膨張性耐火材として、例えば特許文献1には、ゴム物質に、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛、及び、無機充填剤を含有してなり、それぞれの含有量が、ゴム100質量部に対して、リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛との合計量が20~200質量部、無機充填剤が50~500質量部であり、中和処理された熱膨張性黒鉛:リン化合物の重量比が、9:1~1:100であることを特徴とする耐火性ゴム組成物及びこれをシート状に成形することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブチルゴム等のゴム物質は粘着性があるため、特許文献1の耐火性ゴム組成物からなる熱膨張性耐火シートは、別途粘着剤を使用しなくとも壁、床等の構造体に貼り付けることができるが、反面、熱膨張性耐火シートの粘着力が強すぎる場合には取り扱い性が問題となる場合がある。具体的には、位置決めが悪いときに、熱膨張性耐火シートの再剥離に必要以上に力がかかったり、あるいはシート同志が引っ付いたときに互いを剥離するのに力がかかったりして、熱膨張性耐火シートの接着面の破損又は熱膨張性耐火シートの変形等が生ずる場合がある。
【0005】
本発明の目的は、優れた粘着性と優れた剥離性とを有する熱膨張性耐火シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を達成すべく、熱膨張性耐火シートの少なくとも片面の平均表面粗度(Ra)を一定の範囲にすることで、熱膨張性耐火シートの粘着性と再剥離性とを両立できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、以下の項に記載の主題を包含する。
【0008】
項1.ブチルゴムと熱膨張性黒鉛とを含有する熱膨張性耐火シートであって、熱膨張性耐火シートの少なくとも片面の平均表面粗度(Ra)が5μm以上300μm以下である熱膨張性耐火シート。
【0009】
項2.前記熱膨張性耐火シートの粘着力が5N/10mm以上、30N/10mm以下である項1に記載の熱膨張性耐火シート。
【0010】
項3.前記熱膨張性耐火シートの少なくとも片面の被着体との接触面積が10~80%である項1又は2に記載の熱膨張性耐火シート。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、構造体への施工時の取り扱い性に優れた熱膨張性耐火シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態の熱膨張性耐火シートの略正面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態の熱膨張性耐火シートを図面を参照しながら説明する。
1.熱膨張性耐火シートの構成
図1に示すように、本発明の一実施形態の熱膨張性耐火シート1は、マトリクス成分としてのブチルゴムと熱膨張性黒鉛とを含有する。熱膨張性耐火シート1の厚みは特に限定されず、例えば0.1mm~6mmである。
熱膨張性耐火シート1の表面2の平均表面粗度(Ra)が5μm以上300μm以下である。熱膨張性耐火シート1の材料については後で詳しく説明する。
【0014】
平均表面粗度(Ra)が5μm以上300μm以下である熱膨張性耐火シート1の表面2は、熱膨張性耐火シート1の表面2に周知技術により凹凸を施すことにより作製することができる。
【0015】
なお、熱膨張性耐火シート1の表面2に凹凸を施すとは、熱膨張性耐火シート1の表面2に相対的に突出している部分とへこんでいる部分とが生じていることを指す。これには、熱膨張性耐火シート1の表面2に突出及びへこみの両方を設ける場合、熱膨張性耐火シート1の表面2の一部にへこみのみを設けて表面2の残りの一部との間で相対的に凹凸にする場合、熱膨張性耐火シート1の表面2の一部に突出のみを設けて表面2の残りの一部との間で相対的に凹凸にする場合のいずれも含まれる。よって、熱膨張性耐火シート1の表面2のうち、相対的に突出している部分を凸部と称し、相対的にへこんでいる部分を凹部と称する。凹部は有底の凹部である。
【0016】
好ましくは、熱膨張性耐火シート1の表面2をALC及びコンクリート壁等である被着体に対し23℃にて手で貼って接触させた時の、熱膨張性耐火シート1の表面2の被着体との接触面積は10~80%である。この場合、熱膨張性耐火シートの接着性と再剥離性とがより良好に維持される。
【0017】
図2に、熱膨張性耐火シート1の表面2に設けられた凹部4を示す。
【0018】
一実施形態において、熱膨張性耐火シート1における凹部4はランダムに施された複数の凹部である。別の実施形態において、熱膨張性耐火シート1における凹部4は、熱膨張性耐火シート1の長手方向及び短手方向のそれぞれに規則的に配列された複数の凹部である。凹部は複数の凹部からなるパターンとして形成することもできる。
【0019】
凹部4を平面視した形状(以下、単に「形状」と称することがある。)は、特に限定はないが、線状、略円形、略三角形、略四角形、その他の略多角形、及びこれらを組み合わせた形状から適宜選択して採用することができる。線状には直線、曲線等が含まれる。略円形には円形、楕円形、及びこれに類する形状等が含まれる。略三角形には正三角形、直角二等辺三角形、及びこれに類する形状等が含まれる。略四角形には正方形、長方形、平行四辺形、台形、及びこれに類する形状等が含まれる。その他の略多角形にはその他、五角形、六角形、及びこれに類する形状等が含まれる。また、形状の種類としては単独でもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。例えば線状の凹部が単独で存在してもよいし、線状の凹部と凹部とが同時に存在してもよいいし、直線の凹部と曲線の凹部という異なる形状の線状の凹部が同時に存在してもよい。なお、幅に対する長さの比が10を超える場合を「線状」とし、幅に対する長さの比が10以下の場合を「略四角形」とする。
【0020】
凹部4を膨張性耐火シート1の厚さ方向に切断した断面で見た形状(以下、単に「断面形状」と称することがある。)は、特に限定はないが、V字形:正方形、長方形、平行四辺形、台形、及びこれに類する形状等の略四角形;円形、楕円形、及びこれに類する形状等の略円形;のいずれであってもよい。
【0021】
膨張性耐火シート1における凹部4の数は特に限定されない。膨張性耐火シート1における一様な粘着性及び剥離性の目的では、膨張性耐火シート1の長手方向及び短手方向のそれぞれ(膨張性耐火シート1の平面が延びる二次元の方向)に複数の凹部4が設けられることが好ましい。
【0022】
2.熱膨張性耐火シートの性能
本発明の実施形態の熱膨張性耐火シート1はブチルゴムを含有するため、自己粘着性を有する。また、熱膨張性耐火シート1は熱膨張性黒鉛を含有するため、加熱時に膨張し、熱膨張性耐火シート1が施された構造体へ耐火性を付与することができる。
【0023】
また熱膨張性耐火シート1は、熱膨張性耐火シート1の表面2の平均表面粗度(Ra)が5μm以上300μm以下であるため、熱膨張性耐火シート1の構造体又は被着体への優れた接着性と、構造体又は被着体からの優れた再剥離性とを兼ね備えることができる。
【0024】
熱膨張性耐火シート1の表面2の平均表面粗度(Ra)が5μm未満であると、熱膨張性耐火シート1の再剥離性が不良となる。熱膨張性耐火シート1の表面2の平均表面粗度(Ra)が300μmを超えると、熱膨張性耐火シート1の構造体への粘着性が不十分となる。
【0025】
熱膨張性耐火シート1の粘着力は、好ましくは5N/10mm以上である。また、熱膨張性耐火シート1の粘着力は、好ましくは30N/10mm以下である。5~30N/10mmの範囲の粘着力を備えた熱膨張性耐火シート1は、構造体又は被着体への優れた接着性と、構造体又は被着体からの優れた再剥離性とを兼ね備えることができる。
【0026】
3.熱膨張性耐火シートの材料
本発明の実施形態の熱膨張性耐火シート1は、ブチルゴムと熱膨張性黒鉛とを含有する。
【0027】
ブチルゴムには非修飾のブチルゴム以外に、塩素化したブチルゴムも含まれる。ブチルゴムは粘着性を有し、熱膨張性耐火シート1に粘着性を付与する。ブチルゴムは柔軟で扱い易い点でも有利である。
【0028】
ブチルゴムは、熱膨張性耐火シート1を構成するマトリクス成分のうち、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%、さらに好ましくは70質量%、さらに好ましくは80質量%以上を占める。
【0029】
ブチルゴム以外のマトリクス成分としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂 、エラストマー、ブチルゴム以外のゴム、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0030】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソブチレン等の合成樹脂が挙げられる。
【0031】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の合成樹脂が挙げられる。
【0032】
エラストマーの例としてはオレフィン系エラストマー(TPO)、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0033】
ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム等が挙げられる。
【0034】
熱膨張性黒鉛とは、加熱時に膨張する公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、強酸化剤で酸処理してグラファイト層間化合物を生成させたものである。熱膨張性黒鉛は炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。強酸化剤としては、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等が挙げられる。
【0035】
上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等でさらに中和してもよい。熱膨張性黒鉛の粒度は、20~200メッシュが好ましい。粒度が200メッシュかそれより値が小さいと、黒鉛の膨張度が膨張断熱層を得るのに十分であり、また粒度が20メッシュかそれより値が大きいと、樹脂に配合する際の分散性が良く、物性が良好である。熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP-EG」、GRAFTECH社製「GRAFGUARD」等が挙げられる。
【0036】
熱膨張性黒鉛の含有量は特に限定されないが、熱膨張性耐火シート1は、マトリクス成分100質量部に対して、熱膨張性黒鉛を好ましくは10質量部以上350質量部以下、より好ましくは50質量部以上250質量部以下の範囲で含む。
【0037】
熱膨張性耐火シート1は、上記の各成分に加えて、無機充填剤をさらに含んでもよい。無機充填剤は、膨張断熱層が形成される際、熱容量を増大させ伝熱を抑制するとともに、骨材的に働いて膨張断熱層の強度を向上させる。無機充填剤としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の金属水酸化物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩;難燃剤としての無機リン酸塩;硫酸カルシウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0038】
無機充填剤の平均粒径としては、0.5~100μmが好ましく、より好ましくは1~50μmである。無機充填剤は、添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため、粒径の小さいものが好ましいが、0.5μm未満では二次凝集が起こり分散性が悪くなるため、0.5μm以上であることが好ましい。添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、熱膨張性耐火シート1の粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることで熱膨張性耐火シート1の粘度を低下させることができる点から、粒径の大きいものが好ましい。粒径が100μmを超えると、成形体の表面性や熱膨張性耐火シート1の力学的性能が低下するため、平均100μm以下であることが望ましい。
【0039】
無機充填剤の平均粒径は例えば電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて一定数(通常10個)以上の粒子の粒径を測定し、これを平均することにより求めることができる。
【0040】
無機充填剤のうち、水酸化アルミニウムの具体例としては、例えば、水酸化アルミニウムでは、粒径18μmの「ハイジライトH-31」(昭和電工社製)、粒径25μmの「B325」(ALCOA社製)等が挙げられる。炭酸カルシウムの具体例としては、粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(備北粉化工業社製)、粒径8μmの「BF300」(備北粉化工業社製)等が挙げられる。
【0041】
無機充填剤の含有量は特に限定されないが、熱膨張性耐火シート1は、マトリクス成分100質量部に対して、無機充填剤を10~400質量部、好ましくは、50~300質量部の範囲で含むことが好ましい。
【0042】
また、熱膨張性黒鉛および無機充填剤の合計は、マトリクス成分100質量部に対して、50~600質量部の範囲が好ましい。50質量部以上では燃焼後の残渣量を満足して十分な耐火性能が得られ、600質量部以下であると機械的物性が維持される。
【0043】
熱膨張性耐火シート1は、膨張断熱層の強度を増加させ防火性能を向上させるために、上記の各成分に加えて、さらにリン化合物を含むことができる。リン化合物としては、特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム;ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メレム;低級リン酸塩;下記化学式(1)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、防火性能の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム、及び、下記化学式(1)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、コスト等の点においてポリリン酸アンモニウムがより好ましい。
【0044】
【0045】
化学式(1)中、R1およびR3は、同一又は異なって、水素、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または、炭素数6~16のアリール基を示す。R2は、水酸基、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1~16の直鎖状あるいは分岐状のアルコキシル基、炭素数6~16のアリール基、または、炭素数6~16のアリールオキシ基を示す。
【0046】
赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好適に用いられる。ポリリン酸アンモニウムとしては特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、取り扱い性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。市販品としては、例えば、クラリアント社製「AP422」、「AP462」、Budenheim Iberica社製「FR CROS 484」、「FR CROS 487」等が挙げられる。
【0047】
化学式(1)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、n-プロピルホスホン酸、n-ブチルホスホン酸、2-メチルプロピルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、2,3-ジメチル-ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。中でも、t-ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点において好ましい。リン化合物は、単独で用いることもできるし、2種以上を併用することもできる。なお、リン化合物には、難燃剤としての無機リン酸塩である無機充填剤は含まれない。
【0048】
熱膨張性耐火シート1における、リン化合物の含有量は特に限定されないが、マトリクス成分100質量部に対して、30~300質量部であり、40~250質量部であることがより好ましい。
【0049】
熱膨張性耐火シート1はさらに可塑剤を含有してもよい。マトリクス成分がポリ塩化ビニルを含む場合、熱膨張性耐火シート1は可塑剤を含むことが好ましい。
【0050】
可塑剤としては、例えば、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル可塑剤、
ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)等の脂肪酸エステル可塑剤、
エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル可塑剤、
アジピン酸エステル、アジピン酸ポリエステル等のポリエステル可塑剤、
トリー2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソノニルトリメリテート(TINTM)等のトリメリット酸エステル可塑剤、
トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)、リン酸トリクレジル(TCP)等の燐酸エステル可塑剤、
鉱油等のプロセスオイルなどが挙げられる。
【0051】
可塑剤は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0052】
可塑剤の添加量は、少なくなると押出成形性が低下する傾向があり、多くなると得られた成形体が柔らかくなり過ぎる傾向がある。このため可塑剤の添加量は限定されないが、マトリクス成分100質量部に対して、可塑剤の添加量は20~200質量部の範囲であることが好ましい。
【0053】
さらに本発明の熱膨張性耐火シート1は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤の他、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料、粘着付与樹脂、成型補助材等の添加剤、ポリブテン、石油樹脂等の粘着付与剤を含むことができる。
【0054】
好ましくは、熱膨張性耐火シート1は、マトリクス成分100質量部に対し、熱膨張性黒鉛を10~350質量部、無機充填剤を10~400質量部含有する。
【0055】
熱膨張性耐火シート1の体積膨張率は特に限定されないが、50kW/m2の加熱条件下で30分間加熱した後の体積膨張率が3~50倍のものであれば好ましく、10~50倍のものであればより好ましい。体積膨張率が3倍以上であると、膨張体積がマトリクス成分の焼失部分を十分に埋めることができ、また50倍以下であると、膨張層の強度が維持され、火炎の貫通を防止する効果が保たれる。体積膨張率が10倍以上であると、加熱時の熱膨張性耐火シートの膨張により、凹部がより確実に閉塞される。
【0056】
この構成によれば、熱膨張性耐火シート1は増大した膨張速度を備えつつ、必要な体積膨張率を得ることができ、膨張後は所定の断熱性能を有すると共に所定の強度を有する残渣を形成することができる。
【0057】
熱膨張性耐火シート1の片面又は両面には基材をさらに積層することができる。基材の厚みは特に限定されず、例えば5μm~500mmである。基材は、特に限定されず、例えば、紙、織布、不織布、フィルム、金属箔、金網、これら基材の積層体等が用いられる。
【0058】
上記紙としては、クラフト紙、和紙、Kライナー紙等、公知のものを使用することができる。水酸化アルミニウムや炭酸カルシウムを高充填した不燃紙;難燃剤を配合したり、難燃剤を表面に塗布した難燃紙;ロックウール、セラミックウール、ガラス繊維を用いた無機繊維紙、炭素繊維紙等を使用すると耐火性を向上させることができる。
【0059】
上記不織布としては、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、セルロース繊維等からなる湿式不織布、長繊維不織布等を使用することができる。上記フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の樹脂フィルム等を使用することができる。上記金属箔としては、アルミニウム箔、ステンレス箔等を使用することができる。上記金網としては、通常使用されている金網の他に、金属ラス等が使用可能である。
【0060】
また、これら基材の積層体を用いてもよく、例えば、ポリエチレンフィルム積層不織布、ポリプロピレン積層不織布、アルミニウム箔積層紙、アルミガラスクロス等が挙げられる。
【0061】
基材を構成する材料は、熱膨張性耐火シート1の表面2に適合して変形する材料であることが好ましい。例えば基材はアルミガラスクロスからなることが好ましい。
【0062】
基材は、シリコーン処理等の離型処理されているものであってもよい。
【0063】
4.熱膨張性耐火シートの製造方法
本発明の実施形態の熱膨張性耐火シート1は、上記マトリクス樹脂、上記熱膨張性黒鉛、及び任意選択の他の成分を混合して得られた熱膨張性樹脂組成物をシート状に成形すること、および得られたシートに凹凸を形成することにより製造することができる。
【0064】
熱膨張性樹脂組成物のシートへの成形は、射出成形、押出成形、カレンダー成形、プレス成形等の公知の成形方法により行うことができる。
【0065】
熱膨張性耐火シート1の表面2への凹凸は例えば、凸部又は凹部を有する型に熱膨張性耐火シート1の表面2を一定期間押しつけて熱膨張性耐火シート1の表面2に対応する凹部又は凸部を形成する方法、エンボスロールを用いて熱膨張性耐火シート1の表面2に凹部又は凸部を施す方法、打ち抜きにより熱膨張性耐火シート1の表面2に凹部を施す方法等の周知技術により形成することができる。
【0066】
5.熱膨張性耐火シートの用途
本発明の実施形態の熱膨張性耐火シート1は、熱膨張性耐火材として、住宅(特には建具);船舶;車両;並びに電子機器等の構造体に耐火性を付与するために使用することができる。熱膨張性耐火シート1は、これらの構造体の開口部又は間隙を密封し、火の進入を防ぐ気密材としても使用することができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明し、下記に実施例を説明するが、本発明は、上述の実施形態及び下記の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0068】
上記実施形態の熱膨張性耐火シート1では、一つの表面2の平均表面粗度(Ra)を5μm以上300μm以下としたが、両面の平均表面粗度(Ra)が5μm以上300μm以下であってもよい。
【0069】
上述の実施形態および下記の実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0070】
また、上述の実施形態の構成、方法、工程、形状、材料および数値などは、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0072】
1.熱膨張性耐火シートの作成
表1に示した配合量で、ブチルゴム100質量部(Buty065 JSR社)、熱膨張性黒鉛(東ソー社製「GREP-EG」)100質量部、および無機充填剤としてシリカ(白石カルシウム社製「シベライトM-6000」)50量部をニーダーにて混合した。その後、その混合物をシート状に押出成形し、長さ1000mm、幅500mm、厚み1mmの耐火樹脂成形体として熱膨張性耐火シートを得た。
【0073】
次に、得られた熱膨張性耐火シートにエンボスロールを用いて、複数の凹部からなるパターンを形成し、実施例1~3及び比較例1及び2の熱膨張性耐火シートを製造した。
【0074】
実施例1~3及び比較例1及び2の熱膨張性耐火シートは、組成は同じであり、平均表面粗度及び面積比率が異なっている。
【0075】
2.熱膨張性耐火シートの評価
実施例1で得られた熱膨張性耐火シートの平均表面粗度、熱膨張性耐火シート全体に対する凹部の面積比率、及び熱膨張性耐火シートの粘着力を表1に示す。
【0076】
(平均表面粗度の測定)
JIS B 0601に準拠して、各熱膨張性耐火シートの表面粗度を測定した。装置はKEYENCE社製の形状測定レーザーマイクロスコープVK-X100を使用した。
5μm以上300μm以下を合格、5μm未満、及び300μm超を不合格とした。
【0077】
(凹部の面積比率の測定)
凹部の面積比率は、各熱膨張性耐火シートの全体の面積(本実施形態では平面視したときの熱膨張性耐火シートの表面と凹部の合計の面積)に対する凹部の合計の面積の比として計算した。
【0078】
(粘着力の測定)
各熱膨張性耐火シートの試料の粘着力測定は、JIS Z0237 2000に準拠して、180°ピール力を測定した。すなわち、BA SUS板に、25mm幅にした各熱膨張性耐火シートの試料を貼付し、2kgの圧着ローラーで一往復後、23℃雰囲気下に30分放置し、その後、0.3m/minの引張り速度で180°ピール力を測定した。
【0079】
3.結果
表1に示すように、実施例1~3の熱膨張性耐火シートは粘着性及び剥離性に優れていたが、比較例1及び2の熱膨張性耐火シートは粘着力が不良であった。
【0080】
【符号の説明】
【0081】
1…熱膨張性耐火シート、2…片面としての表面。