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  • 特許-建物の目地および充填工法 図1
  • 特許-建物の目地および充填工法 図2
  • 特許-建物の目地および充填工法 図3
  • 特許-建物の目地および充填工法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】建物の目地および充填工法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/682 20060101AFI20220216BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20220216BHJP
   E04F 15/14 20060101ALI20220216BHJP
   C08G 59/18 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
E04B1/682 A
E04F13/08 Y
E04F15/14
C08G59/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017241559
(22)【出願日】2017-12-18
(65)【公開番号】P2018159258
(43)【公開日】2018-10-11
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2017055463
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000156204
【氏名又は名称】株式会社淺沼組
(74)【代理人】
【識別番号】100095647
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】松井 亮夫
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-070284(JP,A)
【文献】特開2013-087596(JP,A)
【文献】特開2003-342314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
E04F 13/00-13/30
E04F 15/00-15/22
E04G 23/00-23/08
C08G 59/00-59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒度が0.01~5mmの骨材と、合成樹脂フィラメントからなるファイバー樹脂を混錬したバインダからなり、前記バインダは前記骨材の表面に薄膜を形成する程度を超えない量としたことを特徴とする建物の目地。
【請求項2】
バインダは、主剤と硬化剤からなる2液性のエポキシ樹脂である請求項1記載の建物の目地。
【請求項3】
目地は、壁面に設けられている請求項1または2記載の建物の目地。
【請求項4】
目地は、床面に形成された切込みである請求項1または2記載の建物の目地。
【請求項5】
バインダの主剤中に合成樹脂フィラメントからなるファイバー樹脂を混錬したうえで硬化剤を投入して攪拌し、さらに粒度が0.01~5mmの骨材を投入して攪拌後、目地に充填して硬化するものであって、前記バインダは前記骨材の表面に薄膜を形成する程度を超えない量としたことを特徴とする建物の目地の施工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄筋コンクリート造壁などに設けられた目地、または鉄筋コンクリート造土間や倉庫などの床平面にカッターで切りこまれた目地に係り、体積減少を少なくした新規な建物の目地およびこれを充填する工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート造壁の表面にクロスを貼付する場合には、目地をそのままの状態でクロス張りを行えば目地に沿って窪みが生じてしまうので、これを避けるため目地には充填材を設けることが一般的である。そして、充填材として従来から、モルタルやシーリング材が広く利用されている。
【0003】
しかしながら、モルタルを充填する場合にはモルタルの特性としてコンクリートのひび割れ挙動に対する追従性が低いので、建物の日々の伸縮によって目地内のひび割れが挙動してモルタルとコンクリートの界面に亀裂が出現してしまう。また、シーリング材を充填する場合には、シーリング材の特性としてコンクリートのひび割れ挙動に対する追従性は高いが圧縮強度は低く、乾燥によって体積減少があるので、表面に凹みが生じてしまう。そうすると、従来から採用されているいずれの充填材を用いても、壁面にクロスを張ったのちに亀裂や凹みが生じてしまうので、クロス表面がこれらに影響されて化粧クロスとして見栄えが悪くなるという課題がある。図4(a)に、シーリング材を充填した状態を示し、図4(b)にモルタルを充填した状態を示す。
【0004】
そのために、特に意匠性の要求度が高いマンションの戸境壁などでは有効なひび割れ対策を採ることが困難であった。
【0005】
また、コンクリート造によって設けられた土間は、例えば倉庫などの場合には広大な面積となるが、温度変化によるコンクリートの膨張収縮による土間表面の予期できない箇所におけるひび割れの発生を避けるために、コンクリート厚の約25~30%の深さでカッターによる切り込みを形成するのが一般的である。
【0006】
しかしながら、このような切り込みを放置した状態で例えば倉庫内で作業を行えば、荷物を積載した台車が切り込みを通過する際に台車の車輪の通過によってコトコトというような異音が発生する。それだけではなく、車輪が通過する際にはその重量によって切り込みのエッジを欠けさせてしまうことがある。そして、このような現象が繰り返されると切り込みの幅が広くなり、さらにエッジの欠落を助長してしまう。これを避けるために切り込みをシーリング材で充填することも可能であるが、シーリング材の特性として切り込みに対する追従性は高いが圧縮強度は低く、乾燥によって体積減少があるので、表面に凹みが生じてしまい、その結果としてシーリング材を充填した本来的な効果が損なわれてしまうという矛盾がある。
【0007】
そのために、一般的には倉庫などの土間ではカッターで切り込みを形成した場合には上記欠陥が生じることを予期しながらも、これをそのまま放置した状態で利用することが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-231573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、出願人は特許文献1に記載されたように、何も処置を施さなければコンクリート壁表面にランダムに出現するひび割れを、ひび割れ誘発筋を目地に対応する壁内に設置することによって、目地にひび割れを集中させる工法を開発した。そうすると、当該工法を採用した場合にはコンクリート壁表面にはひび割れの発生が極めて少ないので、クロス張りを行なう場合には目地部分が安定的に維持されれば従来のようなクロスにしわが出現したり、亀裂によってクロスが裂けたりという問題を解決することができる。すなわち、コンクリートのひび割れ挙動に対する追従性と圧縮強度が高く、体積減少がない材料で目地を充填すれば、コンクリートが動いた場合でもさらなるひび割れが発生することを抑制することができ、さらに経年変化にも強い壁体を得ることができる。本発明ではこのことに着目して、目地の充填材料を開発することとした。
【0010】
本発明は、上記したように、特に、特許文献1に記載したひび割れ誘発目地に対してコンクリートのひび割れ挙動への追従性が高く、圧縮強度も高く、体積減少がない建物の目地を提供することを目的とするものである。また、同様にこのような構造をコンクリート造の土間に適用することによって土間の表面に不規則に出現するひび割れを切欠き付近に集中させると同時に、土間に設けられた切り込みの角部分が台車などの運搬によって不用意に欠けることがない土間構造を提供することを目的とするものである。なお、充填する目地については、特にひび割れ誘発目地に対応する場合が有効であるが、ひび割れ誘発目地の構成を採用することなく、一般的な工法にて設けられた目地、およびU字にカットしたU字溝に対しても有効に適用するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために本発明では、粒度が0.01~5mmの骨材と、合成樹脂フィラメントからなるファイバー樹脂を混錬したバインダからなり、前記バインダは前記骨材の表面に薄膜を形成する程度を超えない量とするという手段を用いた。骨材は目地の充填材としての主要部分を構成する。骨材の粒度は、0.01mmより小さい場合には骨材がバインダ中に埋没してしまい、ポーラスな状態を達成できないので、これ以上の大きさとする。また、上限については、一般的な目地幅や深さの寸法が15~20mmのため、この寸法を考慮して上限を5mmとした。一方、バインダは骨材を安定した状態に拘束する機能を発揮するものであるが、バインダ中に混練されているファイバー樹脂は合成樹脂バインダが骨材間に隔壁上状に薄膜を形成することを阻害する方向に機能するものであり、ファイバー樹脂によって当該隔壁上の薄膜が硬化する前にその弾性によって隔壁上の薄膜を破壊する。これによって、骨材の表面には合成樹脂バインダが薄膜状にまとわりついて骨材間を安定した状態に拘束しながら、隔壁上の薄膜の形成を阻害するので、全体的にポーラスな状態を呈する。そして、バインダが薄膜状に表面を覆った骨材が安定して拘束されているので、硬化後の目地はコンクリート造壁や土間が温度変化などによって伸縮した場合でも高い追従性を発揮すると同時に、目地材そのものの体積変化がないので、目地表面が凹むことがない。
【0012】
また、バインダとしては、主剤と硬化剤からなる2液型のエポキシ樹脂を用いることとした。2液型のエポキシ樹脂は、主剤だけの状態では硬化が始まらないので、ファイバー樹脂を投入して混練している際でも硬化することはなく、硬化剤を投入した後の作業についても硬化が開始されて完了までに約3時間を要するので作業性がよい。さらに、骨材とバインダの量は、バインダが骨材の表面に薄膜を形成する程度を超えないように設定する。本発明では、骨材がポーラス状にバインダに拘束されることが重要であるから、骨材がバインダ中に埋没するような多量のバインダ量は発明の構成から省かれる。
【0013】
目地に対する充填材の充填工法としては、バインダの主剤中に合成樹脂フィラメントからなるファイバー樹脂を混錬したうえで硬化剤を投入して攪拌し、さらに粒度が0.01~5mmの骨材を投入して攪拌後、目地に充填して硬化するものであって、前記バインダは前記骨材の表面に薄膜を形成する程度を超えない量とするという手段を用いた。バインダの主剤中にンファイバー樹脂を投入して混練する手段によれば、ファイバーを混練中にバインダの硬化が開始されることがない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の構成を目地に採用すれば、その素材はコンクリートのひび割れ挙動に対して追従性が高く、経年変化による体積減少もないので目地材とコンクリート造壁や土間に新たな亀裂が生じることなく、目地表面が体積減少によって凹むことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に用いる充填材を建物の目地に適用したところを示す模式図。
図2】バインダが硬化した後の状態を示す模式図で、円内は一部拡大図。
図3】本発明の充填材を用いる場合の別の実施形態を示す模式図。
図4】従来の目地の充填材を充填した状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付した模式図に従って説明する。図1は本発明の充填材をコンクリート造壁に設けられた目地に適用し、硬化後の安定した状態を示したもので、目地を横方向に切断して示している。図中、1は目地、2は骨材、3は骨材を安定した状態に維持するためのバインダ、4は壁面、5はその後に張られるクロスである。
【0017】
ここで、骨材2は特に厳密に選ぶ必要はないが、好ましい素材としては粒度が0.2~1.2mm前後の砂粒を大量に得ることができるので、需要を考慮すると好適である。その他、骨材としては低発泡スチロールなどのように粒度を調整することができる素材であれば広く採用することが可能であるが、バインダとの相性を考慮すれば、塩化ビニル素材は合成樹脂バインダでは接着することができないので適切ではない。なお、0.2~1.2mmの粒度は一例であって、それよりも大きくなっても本発明の目的を阻害するものではない。ただし、一般的な目地の大きさや深さを考えると、5mm程度を超えないことが好ましい。
【0018】
次に、バインダ3については、バインダ3の硬化後に骨材2を安定した状態に維持することと、全体がポーラスな状態を呈することを達成することを要求するので、その素材が重要である。すなわち、骨材2がバインダ3中に埋没して骨材間に空隙が存在しないものであれば、結局はバインダ3そのものがコンクリートのひび割れ挙動に対する追従性を決定してしまうことになり、骨材2を投入する有益性を阻害してしまうからである。好適なバインダ3の基本的な素材としては、主剤と硬化剤からなる2液硬化型のエポキシ樹脂である。本発明では、このエポキシ樹脂に対してファイバー樹脂を混練してバインダを得る。本発明のバインダは、ファイバー樹脂を混練したものであるから、1液型の硬化形樹脂であれば混練中に樹脂の硬化が開始してしまうので、所望の混練が困難であり、2液型が適切である。
【0019】
本発明の充填材を目地に適用する際の手順を説明する。まず、目地の汚れを除去した後に充填作業が開始される。バインダの製造としては、2液型のエポキシ樹脂の第1液である主剤を適当な容器に投入し、この主剤に対して予め数ミリ程度に切断したファイバー樹脂を投入し、ファイバー樹脂が均等に拡散するように混練する。ここで、ファイバー樹脂は適度な弾性を持つフィラメントからなるものである。続いて、この状態の主剤に対して第2液である硬化剤を投入する。エポキシ樹脂は硬化が開始して完了まで外気温度雰囲気20℃で約3時間程度を要するので、続く作業には支障はない。そして、時間をおかずに骨材を投入し、全体を撹拌する。なお、硬化剤を投入後に骨材を投入する手段に置換して、骨材に対してファイバーが混練されたエポキシ樹脂を投入することもある。骨材と主剤および硬化剤からなるエポキシ樹脂との配合については、骨材の粒単位の表面に対して硬化後のバインダが薄くコーティングされる程度が好ましく、それ以上エポキシ樹脂を配合した場合には骨材がバインダ中に沈積してしまうので好ましくない。続いてこれを目地に充填する。充填は通常のモルタルを塗布したり、充填したりするような場合に通常使用する「こて」などで行うが、充填材を目地に塗り込むための方法は特に限定する必要はない。なお、バインダ3は一例として、粘度800~1100メガパスカル、好適な硬化条件が外気雰囲気5~25℃であるが、この温度条件を外れても、低温では硬化時間が長くなり、高温では硬化時間が短縮されるだけであるから、一般的な外気雰囲気であれば本発明の充填材を用いることについて問題が生じることはない。なお、本実施形態では主剤→ファイバー樹脂→硬化剤→骨材の順に投入したが、硬化剤と骨材の投入順を入れ替えることもある。
【0020】
続いて、バインダが硬化した後の目地の状態を示した模式図を図2に示す。なお、安定した状態が理解できるように一部を拡大図として示している。図2では骨材同士が離れている部分もあるが、実際にはほとんどの骨材同士は点で接触している。図中、2図1に示した骨材と同じである。また、バインダ3も同様であるが、バインダ3は骨材2の表面に塗膜のように定着しており、骨材2がポーラスな状態で安定している。すなわち、骨材2・・・間には連続した空隙7が出現しており、通気性および通水性を確保している。ここで、6はバインダ3を構成する主剤中に混練したファイバー樹脂であり、このファイバー樹脂6が骨材2の表面に薄膜状にまとわりつく状態になることによって、骨材2・2間に隔壁状の薄膜のバインダ3が形成されることはない。つまり、充填材を目地に塗布し、バインダ3の硬化が開始されれば、バインダ3は骨材2・2間に薄膜を形成するが、ファイバー樹脂6が薄膜を破るように作用する。これによって、骨材間には薄膜が形成されることがなく、全体として骨材によって形成されたポーラスな状態を得ることができる。このように構成された充填目地は、堅牢なエポキシ樹脂によって骨材が拘束されているので、建物が伸縮した場合でもポーラスな状態で安定しているので建物の動きに対して追従性が高く、コンクリートと目地の界面が破断することがない。さらに、充填材は圧縮強度に優れ、体積の減少がないので、目地表面に凹みが生じない。
【0021】
本発明の目地の充填材は、特に特許文献1に記載されたようなひび割れ誘発目地構造に適用すれば、コンクリート造壁表面にはひび割れが発生することが抑制されているので、目地部分に発生するひび割れ部分を充填するだけでよいが、ひび割れ誘発目地構造ではない場合であっても目地の充填材として体積減少がなく、経時的に凹みが出現することがないので、適用することについてはなんら問題ない。
【0022】
図3は、本発明の別の実施形態の充填を示したものであり、コンクリート造壁平面部に出現したひび割れを化粧する構成である。ここで、8はコンクリート造壁平面、9は表面まで出現したひび割れ、10はU字にカットしたU字溝、11は本発明の充填材、12は適宜薄く塗布するモルタルである。このように、ひび割れが出現した場所にU字溝を形成し、充填材11を充填した後に表面をモルタル12で薄く化粧することによって、本発明の充填材が有するコンクリートのひび割れ挙動に対する高い追従性を確保することができるので、本発明の充填材の用途をさらに拡大することができる。モルタル12はあくまでも化粧用に薄く塗布するものであって、必要な構成としては充填材11だけであってもよい。なお、図1および図2に示した目地の充填において、充填材はその表面に骨材が出現しているので、骨材の粒度が大きい場合には凹凸が目立つことがある。その場合には、図4に示した構成と同様に、コンクリート壁面と同一の高さまでモルタルを薄く塗布すれば、さらに化粧性が高くなる。
【0023】
本実施形態は、壁面に設けた目地に充填材を設けることについて説明したが、土間などの床構造に対して設けられた切り込みに適用することももちろん可能である。この場合には、切り込みの幅や深さに応じて充填材を適用し、切り込みを封じる作業は最終的にはてこなどで表面を化粧するなど、適宜行われるが、基本的な作業は壁面に設けられた目地に対するものとなんら変わるところはない。そして、土間などの場合には切り込み部分が土間の水平面の高さとほぼ一致させることができるので、台車などで重量物を運搬する際でも切り込みのエッジが欠けることを防部ことが可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 目地
2 骨材
3 バインダ
4 壁面
5 クロス
6 ファイバー樹脂
図1
図2
図3
図4