(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 9/6568 20060101AFI20220216BHJP
【FI】
C07F9/6568
(21)【出願番号】P 2017244621
(22)【出願日】2017-12-21
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】三尾 茂
(72)【発明者】
【氏名】清野 真二
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-032255(JP,A)
【文献】特開平07-017990(JP,A)
【文献】米国特許第05488170(US,A)
【文献】中国特許出願公開第103896984(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0376215(US,A1)
【文献】特開平06-258797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/6568
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクロロフェニルホスフィンとイソプレンとを、反応溶媒としての芳香族炭化水素系溶媒中において反応させて、ジクロロフェニルホスフィンの付加体を含む反応液を調製する反応工程と、
前記ジクロロフェニルホスフィンの付加体を前記反応液から分離することなく、前記反応液に水を添加して、前記ジクロロフェニルホスフィンの付加体を加水分解し、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドを含む加水分解液を調製する加水分解工程と、
芳香族炭化水素系溶媒を抽出溶媒として用いて、前記加水分解液から3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドを、
2回以上抽出する抽出工程と、を含むことを特徴とする、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法。
【請求項2】
前記反応溶媒としての芳香族炭化水素系溶媒と、前記抽出溶媒としての芳香族炭化水素系溶媒とは、同種であることを特徴とする、請求項1に記載の3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法。
【請求項3】
前記芳香族炭化水素系溶媒は、トルエンであることを特徴とする、請求項2に記載の3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法。
【請求項4】
前記反応工程において用いられる芳香族炭化水素系溶媒の使用量は、ジクロロフェニルホスフィン1gに対して、3.0ml以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカルボジイミド化合物は、例えば、塗料、繊維処理剤、接着剤、コーティング剤などの種々の産業製品に用いられる樹脂架橋剤として知られている。ポリカルボジイミド化合物は、例えば、カルボジイミド化触媒の存在下において、イソシアネート化合物を反応させることにより製造される。
【0003】
そのようなカルボジイミド化触媒として、ホスフィンオキシド化合物が知られており、ホスフィンオキシド化合物のなかでは、優れた触媒活性の観点から、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドが注目されている。
【0004】
そのような3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法として、例えば、ジクロロフェニルホスフィンとイソプレンとをトルエン中において反応させた後、その反応液に水を添加し、次いで、水酸化ナトリウムを添加して中和して、続いて、クロロホルムにより反応生成物を抽出し、抽出液からトルエンおよびクロロホルムを留去して得られた液状物を減圧蒸留する3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
つまり、そのような3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法では、反応溶媒としてトルエンが用いられ、抽出溶媒としてクロロホルムが用いられる。そして、抽出液からそれら溶媒を留去して得られる抽出物が、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドを含む液状物(半固体)として得られ、その液状物を減圧蒸留することにより、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドが得られる。また、その減圧蒸留の条件は、163℃~166℃、0.6mmHg(80Pa)~0.7mmHg(93Pa)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドは、常温(25℃)において、固体の化合物である。
【0008】
しかし、特許文献1に記載の3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法では、抽出溶媒としてクロロホルムが用いられるので、抽出液から溶媒を留去して得られる抽出物が、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドに加えて、副生する不純物などを含む液状物(半固体)として得られる。
【0009】
このような液状物(半固体)では、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの純度が不十分であり、また、着色などの不具合があるために、カルボジイミド化触媒などの各種用途に適さない。そのため、液状物を減圧蒸留する必要があり、その減圧蒸留条件は、上記のように、高温(163℃以上)かつ高い真空性(0.7mmHg以下)が要求される。
【0010】
その結果、特許文献1に記載の3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法は、工業的に煩雑であり、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの生産性の向上を図るには限度がある。
【0011】
本発明は、簡易な方法でありながら、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの生産性の向上を図ることができる3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明[1]は、ジクロロフェニルホスフィンとイソプレンとを、反応溶媒としての芳香族炭化水素系溶媒中において反応させて、ジクロロフェニルホスフィンの付加体を含む反応液を調製する反応工程と、前記ジクロロフェニルホスフィンの付加体を前記反応液から分離することなく、前記反応液に水を添加して、前記ジクロロフェニルホスフィンの付加体を加水分解し、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドを含む加水分解液を調製する加水分解工程と、芳香族炭化水素系溶媒を抽出溶媒として用いて、前記加水分解液から3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドを抽出する抽出工程と、を含む3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法を含む。
【0013】
本発明[2]は、前記反応溶媒としての芳香族炭化水素系溶媒と、前記抽出溶媒としての芳香族炭化水素系溶媒とは、同種である、上記[1]に記載の3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法を含む。
【0014】
本発明[3]は、前記芳香族炭化水素系溶媒は、トルエンである、上記[2]に記載の3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法を含む。
【0015】
本発明[4]は、前記反応工程において用いられる芳香族炭化水素系溶媒の使用量は、ジクロロフェニルホスフィン1gに対して、3.0ml以上である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法では、反応溶媒および抽出溶媒として芳香族炭化水素系溶媒が用いられるので、抽出溶媒としてクロロホルムが使用される場合と比較して、抽出液から溶媒を留去して得られる抽出物における、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの純度の向上を図ることができる。
【0017】
そのため、さらなる精製工程を実施することなく、各種用途に利用可能な3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドを製造することができる。
【0018】
その結果、簡易な方法でありながら、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの生産性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの製造方法は、ジクロロフェニルホスフィンとイソプレンとを反応させる反応工程と、反応工程の反応液に水を添加する加水分解工程と、加水分解工程の加水分解液から3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドを抽出する抽出工程とを含む。
【0020】
なお、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドとは、ホスホレン骨格における二重結合の位置が2位である3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド(下記化学式(2)参照)、および/または、ホスホレン骨格における二重結合の位置が3位である3-メチル-1-フェニル-3-ホスホレン-1-オキシド(下記化学式(2)参照)を含む。
【0021】
(1)反応工程
反応工程では、下記反応式(1)に示すように、ジクロロフェニルホスフィン(以下、DCPPとする。)とイソプレンとを、反応溶媒としての芳香族炭化水素系溶媒中において反応させて、DCPPの付加体を含む反応液を調製する。
【0022】
【0023】
より詳しくは、まず、反応器に、DCPP、イソプレンおよび芳香族炭化水素系溶媒を装入する。
【0024】
反応器は、特に制限されず、例えば、密閉系反応器(例えば、オートクレーブなど)、冷却管を備える非密閉系反応器などが挙げられ、好ましくは、冷却管を備える非密閉系反応器が挙げられる。
【0025】
イソプレンの使用量は、DCPP1molに対して、例えば、1mol以上、好ましくは、2mol以上、例えば、5mol以下、好ましくは、3mol以下である。
【0026】
芳香族炭化水素系溶媒は、芳香族環を有する炭化水素系溶媒である。芳香族環には、置換基が結合してもよく、置換基が結合しなくてもよい(無置換)。
【0027】
置換基として、例えば、炭素数1~3のアルキル基、ハロゲン原子などが挙げられる。置換基は、ベンゼン環に1種のみ結合してもよく2種以上結合してもよい。置換基のなかでは、好ましくは、炭素数1~3のアルキル基、さらに好ましくは、炭素数1および2のアルキル基(メチル基、エチル基)が挙げられる。置換基数は、1つのベンゼン環に対して、例えば、1以上、例えば、3以下、好ましくは、2以下である。
【0028】
芳香族炭化水素系溶媒として、具体的には、無置換芳香族炭化水素系溶媒(例えば、ベンゼン、ナフタレンなど)、アルキル置換芳香族炭化水素系溶媒(例えば、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレンなど)、ハロゲン置換芳香族炭化水素系溶媒(例えば、ジクロロベンゼンなど)が挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0029】
芳香族炭化水素系溶媒のなかでは、好ましくは、アルキル置換芳香族炭化水素系溶媒が挙げられ、さらに好ましくは、トルエンが挙げられる。
【0030】
反応工程において用いられる芳香族炭化水素系溶媒の使用量は、DCPP1gに対して、例えば、2.0ml以上、好ましくは、3.0ml以上、例えば、10.0ml以下、好ましくは、6.0ml以下である。
【0031】
芳香族炭化水素系溶媒の使用量が上記下限以上であれば、後述する加水分解工程において、加水分解液を有機相と水相とに円滑に分液することができる。芳香族炭化水素系溶媒の使用量が上記上限以下であれば、芳香族炭化水素系溶媒におけるDCPPおよびイソプレンのそれぞれの濃度が過度に低下することを抑制でき、DCPPとイソプレンとを確実に反応させることができる。
【0032】
また、反応工程では、好ましくは、酸化防止剤がさらに添加される。つまり、好ましくは、上記の反応器に、酸化防止剤をさらに装入する。
【0033】
酸化防止剤として、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、6-t-ブチル-2,4-キシレノール、2,6-t-ブチルフェノール、4-メトキシフェノール(MEHQ)などが挙げられる。酸化防止剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0034】
酸化防止剤の使用量は、DCPP100質量部に対して、例えば、0.5質量部以上、好ましくは、1質量部以上、例えば、5.0質量部以下、好ましくは、3質量部以下である。
【0035】
次いで、DCPPとイソプレンとを芳香族炭化水素系溶媒中において加熱して、好ましくは酸化防止剤の存在下において、DCPPとイソプレンとを反応させる。
【0036】
このDCPPとイソプレンとの反応は、例えば、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気、常圧(大気圧)下において実施される。
【0037】
加熱温度は、例えば、40℃以上、好ましくは、50℃以上、例えば、100℃以下、好ましくは、90℃以下である。
【0038】
反応時間は、反応器が密閉系であるか非密閉系であるかによって異なるが、例えば、12時間以上、例えば、36時間以下、好ましくは、24時間以下である。
【0039】
これによって、上記反応式(1)に示すように、DCPPとイソプレンとが反応してDCPPの付加体が生成し、芳香族炭化水素系溶媒中において固体として析出する。
【0040】
以上によって、DCPPの付加体を含む反応液が調製される。その後、必要により、反応液を加熱して、未反応のイソプレンを留去する。
【0041】
反応液は、DCPPの付加体に加えて、芳香族炭化水素系溶媒を少なくとも含む。DCPPの付加体は、芳香族炭化水素系溶媒中において固体として分散しており、反応液は、例えば、スラリー状を有する。
【0042】
また、反応液は、必要に応じて、上記の酸化防止剤を含む。さらに、上記の反応工程では、DCPPの付加体とともに、副生成物が生成する場合がある。反応工程において副生成物が生成すると、反応液は、不純物として副生成物をさらに含む。
【0043】
(2)加水分解工程
反応工程に続いて、加水分解工程では、DCPPの付加体を反応液から分離することなく、反応液に水を添加して、DCPPの付加体を加水分解し、下記化学式(2)に示される3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシド(以下、MPPOとする。)を含む加水分解液を調製する。
【0044】
【0045】
つまり、加水分解工程では、芳香族炭化水素系溶媒中に分散するDCPPの付加体を、ろ過などにより反応液から分離することなく、スラリー状を有する反応液に水を添加する。
【0046】
水の添加量は、反応工程において使用されるDCPP1molに対して、例えば、10mol以上、好ましくは、20mol以上、例えば、50mol以下、好ましくは、40mol以下、さらに好ましくは、35mol以下である。
【0047】
この加水分解工程は、例えば、大気雰囲気、常温(25℃)~冷却下(-20℃)、常圧(大気圧)下において実施される。
【0048】
これによって、DCPPの付加体が加水分解されて、MPPOが生成する。
【0049】
以上によって、MPPOを含む加水分解液が調製される。
【0050】
また、MPPOの製造方法は、好ましくは、加水分解液にアルカリ成分を添加して、加水分解液を中和する中和工程をさらに含む。
【0051】
アルカリ成分として、例えば、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アルカリ土類金属水酸化物(例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなど)などが挙げられる。アルカリ成分は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0052】
アルカリ成分のなかでは、好ましくは、アルカリ金属水酸化物が挙げられ、さらに好ましくは、水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0053】
アルカリ成分の添加量は、反応工程において使用されるDCPP1molに対して、例えば、1mol以上、好ましくは、1.5mol以上、例えば、3.0mol以下、好ましくは、2.5mol以下である。
【0054】
アルカリ成分を加水分解液に添加するには、例えば、アルカリ成分が水に溶解されるアルカリ成分水溶液を準備する。
【0055】
アルカリ成分水溶液におけるアルカリ成分の濃度は、例えば、5質量%以上、好ましくは、40質量%以上、例えば、96質量%以下、好ましくは、60質量%以下である。
【0056】
そして、アルカリ成分水溶液を加水分解液に添加する。
【0057】
アルカリ成分水溶液の添加量は、加水分解液100質量部に対して、例えば、5質量部以上、好ましくは、10質量部以上、例えば、30質量部以下、好ましくは、50質量部以下である。
【0058】
アルカリ成分が添加された加水分解液(中和液)のpHは、例えば、6以上8以下である。
【0059】
以上によって、MPPOを含む加水分解液が中和される。
【0060】
また、MPPOを安定して有機相に分配する観点から、MPPOの製造方法は、好ましくは、加水分解液に塩を添加する塩添加工程をさらに含む。
【0061】
塩として、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなどが挙げられる。塩は、単独使用または2種以上併用することができる。塩のなかでは、好ましくは、塩化ナトリウムが挙げられる。
【0062】
そして、塩添加工程では、加水分解液の水相が飽和するまで、塩を添加する。これによって、後述する抽出工程において、MPPOが効率よく有機相に分配される。
【0063】
このような加水分解液は、芳香族炭化水素系溶媒を含む反応液に水が添加されて調製されるので、芳香族炭化水素系溶媒を含む有機相と、水相とを含む。MPPOの一部は、有機相に分配され、有機相に含まれる。詳しくは、MPPOの一部は、芳香族炭化水素系溶媒に溶解されている。一方、MPPOの残部は、水相に分配され、水相に含まれる。なお、上記した反応液が、副生成物などの不純物を含有する場合、上記した副生成物などの不純物は、加水分解液の水相に主に含まれる。
【0064】
次いで、好ましくは、加水分解液を、有機相と水相とに公知の分液方法によって分液する。これによって、加水分解液の有機相と、加水分解液の水相とが、別々に分離される。なお、上記の塩添加工程は、分液前の加水分解液に塩を添加してもよく、分液後において、加水分解液の水相にのみ塩を添加してもよい。
【0065】
(3)抽出工程
次いで、抽出工程では、芳香族炭化水素系溶媒を抽出溶媒として用いて、加水分解液からMPPOを抽出する。
【0066】
抽出溶媒としての芳香族炭化水素系溶媒として、例えば、反応溶媒として例示される芳香族炭化水素系溶媒と同様の溶媒が挙げられる。抽出溶媒としての芳香族炭化水素系溶媒は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0067】
抽出溶媒としての芳香族炭化水素系溶媒のなかでは、好ましくは、アルキル置換芳香族炭化水素系溶媒が挙げられ、さらに好ましくは、トルエンが挙げられる。
【0068】
また、抽出溶媒としての芳香族炭化水素系溶媒は、好ましくは、反応溶媒としての芳香族炭化水素系溶媒と同種である。つまり、反応溶媒がトルエンである場合、抽出溶媒は、好ましくは、トルエンである。
【0069】
そして、加水分解液(好ましくは、分液された加水分解液の水相)に、芳香族炭化水素系溶媒を添加した後、例えば、それらを撹拌混合する。
【0070】
抽出溶媒としての芳香族炭化水素系溶媒の使用量(抽出工程1回あたり)は、反応工程において使用されるDCPP1gに対して、例えば、1.5ml以上、好ましくは、2.0ml以上、例えば、5.0ml以下、好ましくは、4.0ml以下である。
【0071】
これによって、水相に残存するMPPOが、水相から有機相に移動する。このとき、上記した副生成物は、抽出溶媒が芳香族炭化水素系溶媒であるので、有機相に移動することなく水相に残る。
【0072】
次いで、公知の分液方法によって、芳香族炭化水素系溶媒およびMPPOを含む有機相と、水相とに分液する。
【0073】
このような抽出工程は、好ましくは、複数回実施される。
【0074】
詳しくは、上記のように分液された水相に、再度、抽出溶媒としての芳香族炭化水素系溶媒を添加して、水相からMPPOを抽出する。
【0075】
抽出工程の回数は、例えば、1回以上、好ましくは、2回以上、例えば、5回以下、好ましくは、4回以下である。
【0076】
また、反応工程において使用される芳香族炭化水素系溶媒と、抽出工程において使用される芳香族炭化水素系溶媒との総量は、反応工程において使用されるDCPP1gに対して、例えば、5.0ml以上、好ましくは、9.0ml以上、さらに好ましくは、30ml以上、とりわけ好ましくは、40ml以上、例えば、100ml以下、好ましくは、60ml以下である。
【0077】
その後、上記のようにして得られる有機相(抽出工程において分液される有機相、および、加水分解液の有機相)を、例えば、公知の減圧装置(例えば、エバポレータや、真空ポンプなど)により減圧して、それら有機相から芳香族炭化水素系溶媒を除去する。
【0078】
以上によって、MPPOを含む抽出物が調製される。
【0079】
抽出物は、MPPOを含み、より具体的には、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシドと、3-メチル-1-フェニル-3-ホスホレン-1-オキシドとを含む。さらに、抽出物は、MPPOの純度が下記の範囲であれば、上記の副生成物などの他の成分を含むことができる。抽出物が、MPPOと、他の成分とを含む場合、抽出物は、MPPO組成物である。つまり、抽出物は、MPPOからなることもでき、MPPOおよび他の成分を含むMPPO組成物であることもできる。なお、このような抽出物は、常温(25℃)において固体である。
【0080】
抽出物におけるMPPOの純度は、例えば、96.0質量%以上、好ましくは、98.0質量%以上、さらに好ましくは、99.0質量%以上、例えば、100質量%以下である。なお、抽出物におけるMPPOの純度は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0081】
抽出物におけるMPPOの純度が上記下限以上であれば、さらなる精製工程をすることなく、抽出物(MPPO組成物)を、カルボジイミド化触媒などの各種用途に用いることができる。
【0082】
(4)作用効果
MPPOの製造方法では、反応溶媒および抽出溶媒として芳香族炭化水素系溶媒が用いられる。そのため、抽出溶媒として、クロロホルムや酢酸エチルなどの他の溶媒が使用される場合と比較して、抽出物におけるMPPOの純度の向上を図ることができる。
【0083】
しかるに、抽出溶媒として、クロロホルムや酢酸エチルなどの他の溶媒が使用される場合、上記した抽出工程において、MPPOおよび上記した副生成物などの不純物のそれぞれが、他の溶媒に対する溶解性を有し、MPPOおよび不純物が水相から有機相に分配される。そのため、抽出物には、MPPOに加えて不純物が含まれ、抽出物におけるMPPOの純度の向上を図るには限度がある。抽出物に不純物が含まれる場合、抽出物は着色され、カルボジイミド化触媒としての使用に適さない。そのため、得られた抽出物をカルボジイミド化触媒として使用するには、精製により抽出物から高純度なMPPOを分離する必要がある。
【0084】
一方、上記の実施形態のように、抽出溶媒として芳香族炭化水素系溶媒が使用されると、上記した抽出工程において、MPPOが、芳香族炭化水素系溶媒に対して適度な溶解性を示し、水相から有機相に分配される一方、上記した副生成物などの不純物は、芳香族炭化水素系溶媒に対する溶解性が低く、水相に残存する。
【0085】
そのため、抽出物におけるMPPOの純度を、上記下限以上にすることができる。つまり、不純物が少なく高純度なMPPO組成物であって、常温(25℃)において固体であるMPPO組成物を製造することができる。
【0086】
その結果、さらなる精製工程を実施することなく、抽出物(MPPO組成物)を各種用途に用いることができる。よって、簡易な方法でありながら、MPPO(MPPO組成物)の生産性の向上を図ることができる。
【0087】
また、上記の実施形態では、MPPOの製造方法に使用される溶媒が、芳香族炭化水素系溶媒に統一されており、また、加水分解工程において、湿気に不安定なMPPOの付加体が、反応液から分離されることなく加水分解されている。そのため、工業的に効率的に、MPPO(MPPO組成物)を製造することができ、MPPO(MPPO組成物)の生産性の向上を安定して図ることができる。
【実施例】
【0088】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。
【0089】
実施例1
窒素雰囲気下、冷却管を備えた4径フラスコ(非密閉系反応器)に、ジクロロフェニルホスフィン5.30g(DCPP、27.9mmol)、および、トルエン23.1ml(反応溶媒、20g)を装入し、続いて、イソプレン5.70g(83.7mmol)およびBHT85mg(酸化防止剤)を添加し、24時間、加熱した。フラスコの内温(反応温度)は、加熱開始時の59℃から、徐々に上昇して、最終(24時間経過時)の86℃となった。
【0090】
その後、内温90℃において未反応のイソプレンを留去した。
【0091】
これによって、ジクロロフェニルホスフィンの付加体を含む反応液を調製した。
【0092】
次いで、反応液(混合物)を19℃まで冷却し、ジクロロフェニルホスフィンの付加体を反応液から分離することなく、反応液に水15.60g(0.865mol)を滴下した。
【0093】
これによって、ジクロロフェニルホスフィンの付加体を加水分解し、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドを含む加水分解液を調製した。
次いで、加水分解液に、48質量%水酸化ナトリウム水溶液4.80g(水酸化ナトリウム換算57.5mmol)を添加して、中和した(pH=6.5)。
【0094】
次いで、加水分解液に塩化ナトリウム4.56g(78.1mmol)を添加し、加水分解液における水相を、塩化ナトリウムにより飽和させた。その後、トルエン相(有機相)と水相とを分液した。
【0095】
そして、トルエン11.5ml(抽出溶媒、10g)を用いて、水相から3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドを抽出して、トルエン相を得た。また、この抽出を合計3回繰り返した。
【0096】
その後、すべてのトルエン相を合わせて、エバポレーターにて減圧濃縮し、その後、真空ポンプにて脱溶媒した。
【0097】
これによって、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドを含む抽出物を得た。抽出物は、5.204gであり、常温(25℃)において白色の固体であった。
【0098】
比較例1
反応溶媒としてのトルエンの添加量を11.5ml(10g)に変更したこと、反応温度を70℃に変更したこと、水の滴下量を20gに変更したこと、および、抽出溶媒をクロロホルム10ml(14.9g)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドを含む抽出物を得た。
【0099】
抽出物は、5.45gであり、常温(25℃)において暗褐色の半固体であった。
【0100】
比較例2
抽出溶媒を酢酸エチル10ml(8.97g)に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドを含む抽出物を得た。
【0101】
抽出物は、5.45gであり、常温(25℃)において暗褐色の半固体であった。
【0102】
<評価:抽出物における3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの純度>
実施例および各比較例の抽出物における3-メチル-1-フェニルホスホレンオキシドの純度を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により評価した。
【0103】
具体的には、以下の測定条件において、それぞれの抽出方法で得たサンプル(抽出物)から約100mgを測り取り、それぞれを50mlのメスフラスコに定容した。それらの溶液を、それぞれ10μl、マイクロシリンジにて分析機器に注入し、クロマトグラフを得て、そのうちMPPOの面積比(百分率)を求めた。それぞれの結果を表1に示す。
装置;高速液体クロマトグラフ SPD-10AV VP(島津サイエンス社製)
カラム;Mightysil RP-18 150-4.6mm(5μm)(関東化学社製)
展開溶媒:アセトニトリル:水=60:40
流量:0.5ml/min
検出波長:254nm
【0104】