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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】ガス濃度検出方法及びガス濃度検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/41 20060101AFI20220216BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
G01N27/41 325Q
G01N27/416 371G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018016359
(22)【出願日】2018-02-01
(65)【公開番号】P2019132756
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】常吉 孝治
(72)【発明者】
【氏名】高橋 総子
(72)【発明者】
【氏名】岩井 翔
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-194112(JP,A)
【文献】特開2004-053507(JP,A)
【文献】特開昭61-265554(JP,A)
【文献】特開2005-257403(JP,A)
【文献】特開2003-050226(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0327509(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26 - 27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱された被測定ガス雰囲気におけるガス濃度を検出するガス濃度検出方法であって、
固体電解質のセンサ素子、該センサ素子の表面に設けられた基準電極、及び、該基準電極が接している第一空間と区画されている第二空間において前記センサ素子の表面に設けられた測定電極を備えるセンサプローブを使用し、
前記センサ素子において少なくとも前記測定電極側の端部を、前記被測定ガス雰囲気と連通し、且つ、前記被測定ガス雰囲気より低い温度の低温雰囲気に配設し、
前記基準電極と前記測定電極との間に生じる起電力に基づいて、前記被測定ガス雰囲気におけるガス濃度を検出するものであり、
前記被測定ガス雰囲気を、加熱炉において炉壁の内周面に積層された多孔質の断熱材層より内側の空間の雰囲気とし、前記低温雰囲気を前記断熱材層の層内雰囲気とすることにより、前記センサ素子の温度を前記被測定ガス雰囲気の温度より少なくとも200℃低い温度とする
ことを特徴とするガス濃度検出方法。
【請求項2】
加熱された被測定ガス雰囲気におけるガス濃度を検出するガス濃度検出方法であって、
固体電解質のセンサ素子、該センサ素子の表面に設けられた基準電極、及び、該基準電極が接している第一空間と区画されている第二空間において前記センサ素子の表面に設けられた測定電極を備えるセンサプローブを使用し、
前記センサ素子において少なくとも前記測定電極側の端部を、前記被測定ガス雰囲気と連通し、且つ、前記被測定ガス雰囲気より低い温度の低温雰囲気に配設し、
前記基準電極と前記測定電極との間に生じる起電力に基づいて、前記被測定ガス雰囲気におけるガス濃度を検出するものであり、
前記低温雰囲気を、前記被測定ガス雰囲気からの排気を流通させるために常温の空間内に配設された排気路の途中に接続された管状部材の内部雰囲気とし、前記センサ素子をヒータで加熱することにより、前記センサ素子の温度を前記被測定ガス雰囲気より少なくとも200℃低い温度とする
ことを特徴とするガス濃度検出方法。
【請求項3】
前記被測定ガス雰囲気を減圧する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス濃度検出方法。
【請求項4】
被測定ガス雰囲気を加熱する加熱部と、
固体電解質のセンサ素子、該センサ素子の表面に設けられた基準電極、及び、該基準電極が接している第一空間と区画されている第二空間において前記センサ素子の表面に設けられた測定電極を備えるセンサプローブであって、前記センサ素子において少なくとも前記測定電極側の端部が、前記被測定ガス雰囲気と連通し、且つ、前記被測定ガス雰囲気より低い温度の低温雰囲気に配設されているセンサプローブと、
前記基準電極と前記測定電極との間に生じる起電力を測定する電圧計と、を具備し、
前記被測定ガス雰囲気は、加熱炉において炉壁の内周面に積層された多孔質の断熱材層より内側の空間の雰囲気であり、
前記低温雰囲気は、前記断熱材層の層内雰囲気である
ことを特徴とするガス濃度検出装置。
【請求項5】
前記被測定ガス雰囲気を減圧する減圧装置を更に具備する
ことを特徴とする請求項4に記載のガス濃度検出装置。
【請求項6】
被測定ガス雰囲気を加熱する加熱部と、
固体電解質のセンサ素子、該センサ素子の表面に設けられた基準電極、及び、該基準電極が接している第一空間と区画されている第二空間において前記センサ素子の表面に設けられた測定電極を備えるセンサプローブであって、前記センサ素子において少なくとも前記測定電極側の端部が、前記被測定ガス雰囲気と連通し、且つ、前記被測定ガス雰囲気よ
り低い温度の低温雰囲気に配設されているセンサプローブと、
前記基準電極と前記測定電極との間に生じる起電力を測定する電圧計と、を具備し、
前記低温雰囲気は、前記被測定ガス雰囲気からの排気を流通させるために常温の空間内に配設される排気路の途中に接続された管状部材の内部雰囲気であり、
前記センサプローブは、前記センサ素子を加熱するヒータを更に備えると共に、
前記被測定ガス雰囲気を減圧する減圧装置を更に具備する
ことを特徴とするガス濃度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質をセンサ素子とするガスセンサによるガス濃度検出方法、及び、該検出方法に使用されるガス濃度検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体電解質(イオン伝導性セラミックス)をセンサ素子として、水素ガス、酸素ガス、炭酸ガス、水蒸気などのガス濃度を検出する固体電解質センサが種々提案されている。固体電解質センサは、同一イオンの濃度差により電位差が生じる濃淡電池の原理を使用したものであり、固体電解質を挟んだ二つの空間で検出対象のガスの濃度が異なる場合に、固体電解質に生じる起電力を測定する。二つの空間のうち、第一の空間において検出対象ガスの濃度が既知であれば、ネルンストの式により、測定された起電力とセンサ素子の温度から、第二の空間におけるガス濃度を知ることができる。或いは、第一の空間のガス濃度を一定とした状態で、第二の空間におけるガス濃度を変化させて起電力を測定して予め検量線を作成しておくことにより、ガス濃度が未知の場合の起電力の測定値から、第二の空間のガス濃度を知ることができる。
【0003】
固体電解質センサは、固体電解質がイオン伝導性を示す温度範囲内で、ごく低いガス濃度を精度よく検出することができる。固体電解質がイオン伝導性を示す温度範囲は、一般的には400℃~1000℃である。
【0004】
ところが、固体電解質センサが900℃を超える高温雰囲気で連続的に使用されると、センサ素子の劣化が早く、精度よくガス濃度を検出することができる期間が限られるという問題があった。例えば、プロトン伝導性を示す固体電解質をセンサ素子とする水素センサを、950℃の高温雰囲気で連続的に使用する場合、耐用期間は約1カ月という短期間である。使用を開始する前の新品の水素センサによって測定される起電力の大きさを100%とすると、950℃の高温雰囲気における1カ月の使用によって、起電力の大きさは97%まで低下し、その後わずか一日の経過で更に96%まで低下してしまう。
【0005】
そのため、固体電解質をセンサ素子とするガスセンサを高温雰囲気で使用する際の耐用期間を、より長期化することが要請されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、固体電解質をセンサ素子とするガスセンサを高温雰囲気で使用する際の耐用期間を、長期化することができるガス濃度検出方法、及び、該検出方法に使用されるガス濃度検出装置の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるガス濃度検出方法は、
「加熱された被測定ガス雰囲気におけるガス濃度を検出するガス濃度検出方法であって、
固体電解質のセンサ素子、該センサ素子の表面に設けられた基準電極、及び、該基準電極が接している第一空間と区画されている第二空間において前記センサ素子の表面に設けられた測定電極を備えるセンサプローブを使用し、
前記センサ素子において少なくとも前記測定電極側の端部を、前記被測定ガス雰囲気と連通し、且つ、前記被測定ガス雰囲気より低い温度の低温雰囲気に配設し、
前記基準電極と前記測定電極との間に生じる起電力に基づいて、前記被測定ガス雰囲気におけるガス濃度を検出する」ものである。
【0008】
固体電解質をセンサ素子とするガスセンサで被測定ガス雰囲気におけるガス濃度を検出する際、“センサ素子を被測定ガス雰囲気に挿入する”のが当業者の常識であった。本発明者らは、このような従来の常識に反し、センサ素子において少なくとも測定電極側の端部を、被測定ガス雰囲気より低い温度の低温雰囲気に配設しても、この低温雰囲気が被測定ガス雰囲気と連通していれば、被測定ガス雰囲気におけるガス濃度を正確に検出できることを見出し、本発明に至ったものである。センサ素子において測定電極と接している第二空間は、基準電極と接している第一空間と区画されているため、第二空間側を低温雰囲気に配設すれば、第一空間側は被測定ガス雰囲気と分断されたより低温の空間に置くことが可能である。従って、センサ素子の全体を、被測定ガス雰囲気より低温とすることができるため、被測定ガス雰囲気が非常に高温となる環境で使用されても、センサ素子の劣化を抑制し、耐用期間を長期化することができる。
【0009】
センサ素子の劣化を十分に抑制するためには、センサ素子の温度を被測定ガス雰囲気より少なくとも200℃低い温度とする。そのためには、「前記被測定ガス雰囲気を、加熱炉において炉壁の内周面に積層された多孔質の断熱材層より内側の空間の雰囲気とし、前記低温雰囲気を、前記断熱材層の層内雰囲気とする」手段、或いは、「前記低温雰囲気を、前記被測定ガス雰囲気からの排気を流通させるために常温の空間内に配設された排気路の途中に接続された管状部材の内部雰囲気とし、前記センサ素子をヒータで加熱する」手段を採用することができる。
【0010】
本発明にかかるガス濃度検出方法は、上記構成に加え、
「前記被測定ガス雰囲気を減圧する」ものとすることができる。
【0011】
気体熱伝導式のガスセンサや接触燃焼式のガスセンサを使用した検出方法では、被測定ガス雰囲気が減圧されると、ガス濃度を正確に検出することができない。これに対し、固体電解質をセンサ素子とした本構成のガス濃度検出方法では、詳細は後述するように、被測定ガス雰囲気が減圧されても、ガス濃度を正確に検出することができるため、減圧下でのガス濃度検出に適している。また、仮に、被測定ガス雰囲気と低温雰囲気とを合わせた系全体の体積が極めて大きい場合は、これらの雰囲気が連通していても被測定ガスの濃度分布が生じることが懸念される。これに対し、被測定ガス雰囲気、及びこれと連通している低温雰囲気が減圧されることにより、被測定ガスが十分に系内に拡散するため、系全体の体積が極めて大きい場合であっても濃度分布の発生を防止することができる。なお、「減圧」されたときの圧力は、絶対圧で50000Pa(大気圧の約1/2)~5Paとすることができる。
【0012】
次に、本発明にかかるガス濃度検出装置は、
「被測定ガス雰囲気を加熱する加熱部と、
固体電解質のセンサ素子、該センサ素子の表面に設けられた基準電極、及び、該基準電極が接している第一空間と区画されている第二空間において前記センサ素子の表面に設けられた測定電極を備えるセンサプローブであって、前記センサ素子において少なくとも前記測定電極側の端部が、前記被測定ガス雰囲気と連通し、且つ、前記被測定ガス雰囲気より低い温度の低温雰囲気に配設されているセンサプローブと、
前記基準電極と前記測定電極との間に生じる起電力を測定する電圧計と、を具備する」ものである。
【0013】
そして、上記構成において更に、「前記被測定ガス雰囲気は、加熱炉において炉壁の内周面に積層された多孔質の断熱材層より内側の空間の雰囲気であり、前記低温雰囲気は、前記断熱材層の層内雰囲気である」構成、或いは、「前記低温雰囲気は、前記被測定ガス雰囲気からの排気を流通させるために常温の空間内に配設される排気路の途中に接続された管状部材の内部雰囲気であり、前記センサプローブは前記センサ素子を加熱するヒータを更に備える」構成とすることができる。また、何れの構成も、「前記被測定ガス雰囲気を減圧する減圧装置を更に具備する」ものとすることができる。
【0014】
これらは、上記のガス濃度検出方法に使用されるガス濃度検出装置の構成である。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、固体電解質をセンサ素子とするガスセンサを高温雰囲気で使用する際の耐用期間を長期化することができるガス濃度検出方法、及び、該検出方法に使用されるガス濃度検出装置を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第一実施形態のガス濃度検出方法に使用されるガス濃度検出装置の構成図である。
図2図1のガス濃度検出装置を使用し、導入ガスにおける水素濃度を変化させると共に被測定ガス雰囲気の圧力を変化させたときに、検出された水素分圧の変化を示すグラフである。
図3】(a)~(d)は、被測定ガス雰囲気の圧力が異なる場合について、それぞれ導入ガスにおける水素濃度と算出された水素濃度との関係を、図1のガス濃度検出装置と気体熱伝導式水素センサを使用したガス濃度検出装置とで対比したグラフである。
図4】(a)~(d)は、図1のガス濃度検出装置を被測定ガス雰囲気が高温となる環境下で5カ月使用した後に、導入ガスにおける水素濃度と算出された水素濃度との関係を調べる動作確認試験を、それぞれ第二空間の圧力を異ならせて行った結果である。
図5】本発明の第二実施形態のガス濃度検出方法に使用されるガス濃度検出装置の構成図である。
図6】(a),(b)は、図5のガス濃度検出装置を被測定ガス雰囲気が高温となる環境下で1年半使用した後に、被測定ガス雰囲気の圧力を変化させて検出された水素分圧の変化を、導入ガスにおける水素濃度が異なる場合について示すグラフである。
図7図5のガス濃度検出装置を被測定ガス雰囲気が高温となる環境下で1年半使用した後に、導入ガスにおける水素濃度と算出された水素濃度との関係を調べる動作確認試験を、第二空間の圧力を異ならせて行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態であるガス濃度検出方法、及び、その検出方法に使用されるガス濃度検出装置について説明する。まず、第一実施形態のガス濃度検出方法に使用されるガス濃度検出装置E1の構成について、図1を用いて説明する。
【0018】
ガス濃度検出装置E1は、センサプローブ10、加熱炉20、ガス導入管31、ガス排出管32、減圧装置41、圧力計42、及び制御装置(図示を省略)を具備している。ここでは、ガス濃度検出装置E1が、加熱炉20内で鋼材料の表面処理を行いつつ、加熱炉20内のガス濃度を検出する装置である場合を例示する。
【0019】
より詳細に説明すると、加熱炉20は炉壁21の内周面に積層された断熱材層25を備えている。加熱炉20において断熱材層25より内側の空間が、ガス濃度の検出対象であるガスを含む被測定ガス雰囲気Hである。被測定ガス雰囲気Hは、その雰囲気内に配された加熱部としての発熱体22によって加熱されている。
【0020】
断熱材層25は、耐熱性の繊維材料を圧縮した断熱材によって形成された多孔質の層であり、その層内空間が、被測定ガス雰囲気Hと連通し、且つ、被測定ガス雰囲気Hより低い温度の低温雰囲気Lである。ガス導入管31は、加熱炉20の内部に表面処理用のガスを導入するための管であり、加熱炉20側の先端は被測定ガス雰囲気H内に位置している。ガス排出管32は、加熱炉20から外部にガスを排出するための管であり、加熱炉20側の先端は断熱材層25の層内空間に位置している。ガス排出管32には、減圧装置41としての吸引ポンプと圧力計42が接続されており、鋼材料の表面処理を減圧下で行うことができる。
【0021】
センサプローブ10は、固体電解質のセンサ素子11、基準電極p1、測定電極p2、筒状のホルダ18を主要な構成としている。センサ素子11は有底筒状であり、ホルダ18の内部に位置させた状態で、その外周面とホルダ18の内周面とが封止部19によって気密に封止されている。これにより、ホルダ18の内部空間は、第一空間S1と第二空間S2とに気密に区画されている。そして、基準電極p1は第一空間S1においてセンサ素子11の表面に形成されており、測定電極p2は第二空間S2においてセンサ素子11の表面に形成されている。基準電極p1及び測定電極p2は、それぞれ電圧計(図示を省略)に電気的に接続されており、基準電極p1と測定電極p2との間に生じた起電力が測定される。
【0022】
センサプローブ10は、センサ素子11における測定電極p2側の端部が、断熱材層25の層内空間、すなわち低温雰囲気Lに位置するように加熱炉20内に挿入されており、残部は加熱炉20の外部に位置している。従って、断熱材層25の層内空間である低温雰囲気Lが、センサプローブ10にとっての第二空間S2である。また、センサプローブ10は、センサ素子11の温度を測定する熱電対13と、第一空間S1に基準ガスを供給する基準ガス供給管14を更に備えており、共に加熱炉20の外部からセンサプローブ10内に挿入されている。なお、固体電解質が基準ガスとして大気を使用できるタイプである場合は、基準ガス供給管14を備えることなく、第一空間S1を大気に開放させてもよい。
【0023】
制御装置は、主記憶装置、補助記憶装置、及びマイクロプロセッサを備えるマイクロコンピュータを具備しており、マイクロコンピュータを制御手段として機能させる制御プログラムが主記憶装置に記憶されている。制御手段は、基準電極p1及び測定電極p2の間に生じた起電力に基づいて被測定ガス雰囲気Hにおけるガス濃度またはガス分圧を算出するガス濃度演算手段、熱電対13の起電力をセンサ素子11の温度に変換する温度検出手段、ガス濃度やセンサ素子10の温度等の検出結果を補助記憶装置に記憶させる記憶手段を、主に備えている。
【0024】
上記構成のガス濃度検出装置E1では、センサ素子11における測定電極p2側の端部が配されている低温雰囲気Lは、断熱材層25の層内空間である。そのため、断熱材の断熱作用によって低温雰囲気Lの温度を、鋼材料の表面処理が行われる被測定ガス雰囲気Hの温度より、少なくとも200℃低い温度とすることが可能である。そして、センサ素子11において測定電極p2側の端部を除く部分は、加熱炉20の外部空間にあるため、より低温である。従って、被測定ガス雰囲気Hが高温であっても、センサ素子11の全体を低温の雰囲気に置くことができ、その劣化を抑制することができる。
【0025】
実際に、ガス濃度検出装置E1を使用し、加熱炉20内に導入するガスの濃度を変化させると共に、被測定ガス雰囲気Hの圧力を変化させたときのガス分圧を検出した結果を図2に示す。固体電解質としては、プロトン伝導性のSrZr0.95Yb0.053-αを使用し、加熱炉20内に導入するガスの濃度を100%水素、80%水素-20%窒素、50%水素-50%窒素、30%水素-70窒素%の順に変化させた。それぞれの濃度のガスを導入している間に、被測定ガス雰囲気Hの圧力を大気圧(101325Pa)、5000Pa、1000Pa、200Paの順に変化させた。被測定ガス雰囲気Hの温度は950℃であり、センサ素子11の測定電極p2側の端部が配された低温雰囲気Lの温度は700℃であった。
【0026】
図2では、最上段が被測定ガス雰囲気Hの全圧を示すグラフであり、二段目が被測定ガス雰囲気Hの水素分圧をフルスケールで示すグラフであり、三段目から五段目はそれぞれ全圧が5000Pa、1000Pa、200Paのときの水素分圧を拡大スケールで示すグラフである。図2から明らかなように、何れの圧力においても、導入ガスにおける水素濃度が100%から80%、50%、30%と変化すれば、これに伴って水素分圧も100%から80%、50%、30%と変化した。また、全圧の変化に伴い、水素分圧の変化が応答性良く検出された。これらのことから、センサ素子11を被測定ガス雰囲気Hに挿入することなく、被測定ガス雰囲気Hより低い温度の低温雰囲気Lに配しても、両雰囲気が連通していれば、被測定ガス雰囲気Hにおけるガス濃度を正確に検出できることが分かる。
【0027】
また、固体電解質をセンサ素子11としているセンサプローブ10に替えて、気体熱伝導式の水素センサを使用する他は、ガス濃度検出装置E1と同様の構成である比較例のガス濃度検出装置Rと対比した結果を、図3に示す。ガス濃度検出装置E1,Rの何れについても、被測定ガス雰囲気Hの全圧が大気圧、5000Pa、1000Pa、200Paであるとき、それぞれ導入ガスにおける水素濃度を100%、80%、50%、30%と変化させ、そのときの起電力に基づいて水素濃度を算出した。被測定ガス雰囲気Hの温度は900℃であり、センサ素子11の測定電極p2側の端部が配された低温雰囲気Lの温度は600℃であった。
【0028】
図3から、本実施形態のガス濃度検出装置E1では、何れの圧力においても導入した水素ガスの濃度が正確に検出されていることが分かる。これに対し、気体熱伝導式の水素センサを使用した比較例のガス濃度検出装置Rでは、導入ガスにおける水素濃度と算出された水素濃度に差があり、その差は、圧力が200Paと小さい場合に非常に大きなものであった。これらのことから、固体電解質をセンサ素子11とするガス濃度検出装置E1は、減圧下におけるガス濃度の検出に非常に有効であると考えられた。
【0029】
更に、図1のガス濃度検出装置E1を、被測定ガス雰囲気Hの温度が950℃である高温環境で5カ月間にわたり連続使用した後、センサプローブ10の動作確認試験を行った。その結果を図4に示す。動作確認試験では、第二空間の全圧を大気圧、5000Pa、1000Pa、200Paとしたとき、それぞれ第二空間における水素濃度を100%、80%、50%、30%と変化させ、そのときの起電力に基づいて水素濃度を算出した。センサ素子11の温度は、図3で示した測定時と同じく600℃とした。
【0030】
図4から明らかなように、何れの圧力においても導入した水素ガスの濃度が正確に検出されている。このことから、被測定ガス雰囲気Hが950℃という高温の環境下で、5カ月という長期間にわたり連続使用されても、センサ素子11が劣化していないことが分かる。上述したように、センサ素子を被測定ガス雰囲気内に挿入していた従来では、温度950℃の環境で1カ月間使用しただけでセンサ素子が劣化していたことと比べると、センサ素子11を低温雰囲気Lに配することによって、耐用期間を大幅に長期化することができる。
【0031】
次に、第二実施形態のガス濃度検出方法に使用されるガス濃度検出装置E2の構成について、図5を用いて説明する。ガス濃度検出装置E2がガス濃度検出装置E1と相違する点は、ガス排出管32の途中に接続された管状部材35にセンサプローブ10が配設される点、センサ素子11を加熱するヒータ15をセンサプローブ10が備えている点、及び、加熱炉20が断熱材層25を備えておらず、加熱部としての外部ヒータ22bによって加熱されている点である。
【0032】
より詳細には、管状部材35は加熱炉20から離隔した常温の空間内にある。センサプローブ10は、センサ素子11における測定電極p2側の端部が、管状部材35の内部空間に位置するように、管状部材35に取り付けられている。すなわち、管状部材35の内部空間が低温雰囲気Lであると共に、センサプローブ10にとっての第二空間S2である。なお、ガス排出管32の内部空間が、本発明の「排気路」に相当する。
【0033】
また、ガス濃度検出装置E2の制御装置は、ガス濃度検出装置E1の制御装置と同一の構成に加え、熱電対13によって検出されたセンサ素子11の温度に基づいてヒータ15に出力する電流を調整し、センサ素子11の温度を調整する温度調整手段を備えている。
【0034】
上記構成のガス濃度検出装置E2では、センサプローブ10が常温の空間にあると共にヒータ15を備えている。そのため、センサ素子11が被測定ガス雰囲気Hほど高温となることなく、且つ、固体電解質の温度がイオン伝導性を示す温度範囲となるようにヒータ15で加熱することにより、センサ素子11の温度を被測定ガス雰囲気Hの温度より、少なくとも200℃低い温度とすることができる。従って、被測定ガス雰囲気Hが高温であっても、センサ素子11の劣化を抑制することができる。
【0035】
実際に、第二実施形態のガス濃度検出装置E2を、被測定ガス雰囲気Hの温度が950℃である高温環境で、センサ素子11の温度を550℃に調整して1年半にわたり連続使用した後、センサプローブ10の動作確認試験を行った。センサ素子11としては、プロトン伝導性のSrZr0.95Yb0.053-αを使用した。動作確認試験は、第二空間S2に導入するガスの濃度を31%水素-69%アルゴン、10%水素-90%アルゴン、5%水素-95%アルゴンと変化させ、それぞれの濃度のガスを導入している間に、第二空間S2の圧力を大気圧(101325Pa)、1500Pa、5000Pa、10000Paの順に変化させた。センサ素子11の温度は、550℃とした。
【0036】
その結果、何れの圧力においても、導入ガスにおける水素濃度に比例して水素分圧が変化した。また、全圧の変化に伴い、水素分圧の変化が応答性良く検出された。例として、導入ガスにおける水素濃度が31%のときの全圧と、起電力から算出された水素分圧を図6(a)に示し、導入ガスにおける水素濃度が5%のときの全圧と、起電力から算出された水素分圧を図6(b)に示す。
【0037】
また、上記のように圧力が異なる場合それぞれについて、導入ガスにおける水素濃度と起電力に基づいて算出された水素濃度との関係を図7に示す。図7から明らかなように、何れの圧力においても導入した水素ガスの濃度が正確に検出されている。このことから、被測定ガス雰囲気Hが950℃という高温である環境下で、1年半という長期間にわたり連続使用されても、センサ素子11が劣化していないことが分かる。
【0038】
以上のように、ガス濃度検出装置E1,E2を使用した本実施形態のガス濃度検出方法によれば、固体電解質のセンサ素子11でガス濃度を検出する際は被測定ガス雰囲気にセンサ素子を挿入するという従来の常識に反し、センサ素子11を被測定ガス雰囲気Hより低温の雰囲気に置くことにより、ガス濃度を正確に検出しつつセンサ素子11の耐用期間を長期化することができる。
【0039】
また、ガス濃度検出装置E1,E2を使用した本実施形態のガス濃度検出方法は、減圧下でもガス濃度を正確に検出することができるため、鋼材料の表面処理が減圧下で行われる場合など、減圧下でガス濃度を検出しなくてはならない用途に特に適している。
【0040】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0041】
例えば、上記では、形状が有底筒状であるセンサ素子が筒状のホルダの内部空間を閉塞しているセンサプローブを例示したが、基準電極が接する第一空間と測定電極が接する第二空間とが区画されるようにセンサ素子がホルダに保持されるものであれば、センサ素子の形状及びホルダによる保持の態様は限定されない。例えば、有底筒状のセンサ素子が、その開口をホルダの内部または外部に向けた状態で、ホルダの一端を閉塞している態様、柱状または平板状のセンサ素子がホルダの内部空間を閉塞している態様、或いは、柱状または平板状のセンサ素子がホルダの一端を閉塞している態様のセンサプローブを、何れも使用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 センサプローブ
11 センサ素子
15 ヒータ
20 加熱炉
21 炉壁
22 発熱体(加熱部)
22b 外部ヒータ(加熱部)
25 断熱材層
31 ガス導入管
32 ガス排出管
35 管状部材
41 減圧装置
42 圧力計
H 被測定ガス雰囲気
L 低温雰囲気
p1 基準電極
p2 測定電極
S1 第一空間
S2 第二空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7