(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】移動速度検出装置
(51)【国際特許分類】
G01P 3/49 20060101AFI20220216BHJP
G01P 3/50 20060101ALI20220216BHJP
B22D 11/20 20060101ALN20220216BHJP
【FI】
G01P3/49
G01P3/50 A
G01P3/50 Z
B22D11/20 A
(21)【出願番号】P 2018056559
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2017081411
(32)【優先日】2017-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100118049
【氏名又は名称】西谷 浩治
(72)【発明者】
【氏名】毛笠 光容
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-206904(JP,A)
【文献】特開平01-302165(JP,A)
【文献】特開2015-152473(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105727(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0127268(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102520204(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 3/00- 3/80
B22D11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動する金属板の移動速度を検出する移動速度検出装置であって、
磁気四重極を構成し、隣接する磁極同士が前記金属板の移動方向と平行となるように前記金属板に対向して配置された4個の磁石と、
前記磁気四重極の磁極面において前記磁気四重極が作る磁界が零になる位置に配置され、前記金属板で発生する誘導電流によって発生する磁界を検出するセンサと、
前記センサによる磁界の検出値に基づいて前記移動速度を算出する速度算出部
と、
前記磁石と前記センサとを含み、前記金属板の移動方向に移動可能に構成された移動機構と、
前記移動機構を駆動する駆動部とを備え、
前記速度算出部は、前記センサの検出値が零となるように前記駆動部を制御し、前記センサの検出値が零のときの前記移動機構の移動速度を特定することで前記金属板の移動速度を算出する移動速度検出装置。
【請求項2】
前記磁石と前記センサとを格納する非磁性体の容器を更に備える請求項
1記載の移動速度検出装置。
【請求項3】
移動する金属板の移動速度を検出する移動速度検出装置であって、
磁気四重極を構成し、隣接する磁極同士が前記金属板の移動方向と平行となるように前記金属板に対向して配置された4個の磁石と、
前記磁気四重極の磁極面において前記磁気四重極が作る磁界が零になる位置に配置され、前記金属板で発生する誘導電流によって発生する磁界を検出するセンサと、
前記センサによる磁界の検出値に基づいて前記移動速度を算出する速度算出部とを備え、
前記センサは、三次元ホールセンサで構成され、
前記速度算出部は、前記金属板が移動している状態において前記三次元ホールセンサが検出したX,Y,Z軸成分の検出値から、前記金属板が静止している状態において前記三次元ホールセンサが検出したX,Y,Z軸成分の検出値をそれぞれ差し引き、得られたX,Y,Z軸成分の検出値の二乗平均平方根を前記磁界の検出値として算出す
る移動速度検出装置。
【請求項4】
前記速度算出部は、
前記金属板が静止している状態において、前記三次元ホールセンサに前記検出をM+N(Mは1以上の整数、Nは1以上の整数)回繰り返し実行させ、前記三次元ホールセンサによる検出結果が安定するまでのM回の検出値は破棄し、安定後のN回のX,Y,Z軸成分の検出値の加算平均値をそれぞれオフセット磁界として算出し、
前記金属板が移動している状態において、前記三次元ホールセンサに測定をO+P(Oは1以上の整数、Pは1以上の整数)回繰り返し実行させ、前記三次元ホールセンサによる検出結果が安定するまでのO回の検出値は破棄し、安定後のP回のX,Y,Z軸成分の検出値から前記オフセット磁界のX,Y,Z軸成分を減じた後、二乗平方根を算出し、得られた値を前記磁界の検出値として算出する請求項
3記載の移動速度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で金属板の移動速度を検出する移動速度検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、モールド内の溶鋼レベルが一定レベルに到達した時点で、引き抜き速度制御装置がガイドローラ(引き抜きロール)の回転速度を制御し、モールド内の溶鋼を引き抜く連続鋳造設備を開示する。
【0003】
このような連続鋳造設備では、鋳造される鉄の品質を最適化するために、溶鋼や赤熱する鉄板の移動速度を正確に測定することが望まれる。しかし、連続鋳造中の鉄の温度は1500℃以上と高く、移動速度を測定する測定器を近づけることは容易ではない。そのため、鋳造される鉄の正確な速度の測定は極めて困難であり、ガイドローラの回転速度などから、移動速度を推定することしかできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ガイドローラと高温の鉄との間の摩擦は小さく、ガイドローラに対する鉄の滑りが発生するため、ガイドローラの回転速度を鉄の移動速度として測定した場合、正確な鉄の移動速度を測定できないという問題があった。
【0006】
本発明は、測定器を近づけることが困難な悪環境下において、金属板の移動速度を正確に検出することが可能な移動速度検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る移動速度検出装置は、移動する金属板の移動速度を検出する移動速度検出装置であって、
磁気四重極を構成し、隣接する磁極同士が前記金属板の移動方向と平行となるように前記金属板に対向して配置された4個の磁石と、
前記磁気四重極の磁極面において前記磁気四重極が作る磁界が零になる位置に配置され、前記金属板で発生する誘導電流によって発生する磁界を検出するセンサと、
前記センサによる磁界の検出値に基づいて前記移動速度を算出する速度算出部とを備える。
【0008】
本態様によれば、磁界中で金属板を移動させることで、金属板に移動速度に比例した誘導電流を発生させ、その誘導電流によって発生する磁界をセンサで検出し、センサの検出値に基づいて金属板の移動速度が検出されているので、金属板の移動速度を非接触で検出できる。そのため、測定器を近づけることが困難な悪環境下において、金属板の移動速度を検出できる。
【0009】
また、本態様によれば、磁石からの磁界が零の箇所が発生する磁気四重極が用いられており、その箇所にセンサが配置されているので、センサは誘導電流によって発生する磁界のみを正確に検出できる。その結果、金属板の移動速度を正確に検出できる。
【0010】
更に、本構成は、隣接する磁極同士が金属板の移動方向と平行となるように金属板に対向して配置されているので、センサの真下の領域に大きな誘導電流を発生させることができ、誘導電流によって発生する磁界をセンサに正確に検出させることができる。
【0011】
上記態様において、前記磁石と前記センサとを含み、前記金属板の移動方向に移動可能に構成された移動機構と、
前記移動機構を駆動する駆動部とを更に備え、
前記速度算出部は、前記センサの検出値が零となるように前記駆動部を制御し、前記センサの検出値が零のときの前記移動機構の移動速度を特定することで前記金属板の移動速度を算出してもよい。
【0012】
磁石とセンサとを含む移動機構が金属板と同一の移動速度で移動すると誘導電流が零になるので誘導電流による磁界も零となる。本態様によれば、誘導電流による磁界が零になたときの移動機構の移動速度を特定することで、金属板の移動速度を検出できる。
【0013】
本発明の別の一態様に係る移動速度検出装置は、移動する金属板の移動速度を検出する移動速度検出装置であって、
前記金属板に対向配置された磁石と、
前記金属板に発生する誘導電流によって、前記磁石に対して前記金属板の移動方向に発生する力を検出するセンサと、
前記センサの検出値に基づいて前記移動速度を算出する速度算出部とを備える。
【0014】
磁界中で金属板を移動させると、金属板には移動速度に比例した誘導電流が発生し、その誘導電流と磁石からの磁界との積に比例する力が金属板に作用するので、その力の反作用の力が磁石に対して金属板の移動方向に作用する。本態様では、この力をセンサで検出するので、金属板の移動速度を非接触で算出できる。したがって、本態様は、測定器を近づけることが困難な悪環境下において金属板の移動速度を正確に検出できる。
【0015】
本開示の更に別の一態様に係る移動速度検出装置は、移動する金属板の移動速度を検出する移動速度検出装置であって、
N極とS極とが円周方向に交互に配置され、前記金属板の移動方向と直交する方向を回転軸として回転可能に配置された円形の磁石と、
前記金属板に発生する誘導電流によって発生する力により回転される前記磁石の回転速度を検出するセンサと、
前記センサの検出値に基づいて前記移動速度を算出する速度算出部とを備える。
【0016】
本態様によれば、磁界中で金属板を移動させることで、金属板に移動速度に応じた誘導電流を発生させ、その誘導電流に応じた力を、回転可能に構成された磁石に付与させることで磁石を回転させ、磁石の回転速度をセンサで検出することで金属板の移動速度が検出されている。そのため、金属板の移動速度を非接触で検出できる。したがって、本態様は測定器を近づけることが困難な悪環境下において金属板の移動速度を正確に検出できる。
【0017】
上記態様において、前記磁石と前記センサとを格納する非磁性体の容器を更に備えてもよい。
【0018】
本態様によれば、磁石とセンサとが遮蔽容器に格納されているので、金属板の熱から磁石とセンサとを保護することができる。また、遮蔽容器が非磁性体で構成されているので、磁石の磁界が遮蔽容器からの磁界に影響され、移動速度を正確に検出できなくなることを防止できる。
【0019】
上記態様において、前記金属板は、キュリー温度よりも高温であってもよい。
【0020】
本態様によれば、金属板は強磁性体としての性質を失うキュリー温度よりも高温であるので、金属板からの磁界が磁石からの磁界に影響を及ぼすことを防止でき、金属板の移動速度を正確に検出できる。また、キュリー温度以上の金属板が測定対象とされているので、例えば、溶融状態にある金属板の移動速度も正確に検出できる。
【0021】
上記態様において、前記センサは、三次元ホールセンサで構成されていてもよい。
【0022】
本態様によれば、一軸センサや二軸のセンサでは、取り付け位置や角度によってセンサの軸方向と発生する磁界の方向とが完全に対応せず、検出される磁界の検出値が実際発生している磁界の強度より低い値になる虞がある。本態様では、三次元ホールセンサが用いられているので、センサの軸方向と発生する磁界の方向とが対応していなくても、発生する磁界の強度を正確に検出することができる。
【0023】
上記態様において、前記速度算出部は、前記金属板が移動している状態において前記三次元ホールセンサが検出したX,Y,Z軸成分の検出値から、前記金属板が静止している状態において前記三次元ホールセンサが検出したX,Y,Z軸成分の検出値をそれぞれ差し引き、得られたX,Y,Z軸成分の検出値の二乗平均平方根を前記磁界の検出値として算出してもよい。
【0024】
三次元ホールセンサの取り付け位置や角度によって、各軸方向で検出される磁界の感度はばらつく。本態様では、X,Y,Z軸成分の検出値の二乗平均平方根が磁界の検出値として算出されているので、磁界の値を安定して評価できる。また、金属板が移動している状態において三次元ホールセンサが検出したX,Y,Z軸成分の検出値から、金属板が静止している状態において三次元ホールセンサが検出したX,Y,Z軸成分の検出値がそれぞれ差し引かれている。そのため、三次元ホールセンサの検出値から地磁気等のオフセットを除去することができる。
【0025】
上記態様において、前記速度算出部は、
前記金属板が静止している状態において、前記三次元ホールセンサに前記検出をM+N(Mは1以上の整数、Nは1以上の整数)回繰り返し実行させ、前記三次元ホールセンサによる検出結果が安定するまでのM回の検出値は破棄し、安定後のN回のX,Y,Z軸成分の検出値の加算平均値をそれぞれオフセット磁界として算出し、
前記金属板が移動している状態において、前記三次元ホールセンサに測定をO+P(Oは1以上の整数、Pは1以上の整数)回繰り返し実行させ、前記三次元ホールセンサによる検出結果が安定するまでのO回の検出値は破棄し、安定後のP回のX,Y,Z軸成分の検出値から前記オフセット磁界のX,Y,Z軸成分を減じた後、二乗平方根を算出し、得られた値を前記磁界の検出値として算出してもよい。
【0026】
磁界の測定開始直後の一定期間ではドリフト等の影響により、測定値が安定しない。本態様では、金属板の静止状態及び移動状態のそれぞれにおいて、最初のM回及びO回の検出値が破棄され、残りN回及びP回のそれぞれの検出値に基づいて磁界の検出値が算出されている。そのため、磁界の検出値を正確に算出できる。なお、M回及びO回は同じ回数であってもよいし、異なる回数であってもよい。また、N回及びP回も同じ回数であってもよいし、異なる回数であってもよい。
【0027】
上記態様において、前記磁界の検出値が予め定められた下限値以上になるように前記金属板と前記センサとのクリアランスを設定してもよい。
【0028】
検出感度を高めるためには、センサと金属板とのクリアランスを短くするのが良いが、その一方で、溶融する金属板を測定対象とする場合はセンサを破損させてしまう。本態様では、磁界の検出値が予め定められた下限値以上となるようにクリアランスが設定されているので、検出感度を維持しつつ、センサを保護することができる。なお、下限値としては、例えば、磁気四重極を構成する磁石の磁力、磁石間の距離、及び金属板の板厚等に基づいて好適な値が設定される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、測定器を近づけることが困難な悪環境下において金属板の移動速度を正確に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施の形態に係る移動速度検出装置が適用される連続鋳造設備の側面図である。
【
図2】
図1に示す連続鋳造設備を斜め上から見た図である。
【
図3】実施の形態1に係る移動速度検出装置を構成する磁石の外観構成を示す図である。
【
図4】磁気四重極による磁界の分布を示す図である。
【
図6】実施の形態1に係る移動速度検出装置の構成の詳細を示す図である。
【
図7】実施の形態1に係る移動速度検出装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【
図8】実施の形態2に係る移動速度検出装置を構成する磁石の外観構成を示す図である。
【
図10】実施の形態2に係る移動速度検出装置の構成を示す図である。
【
図11】実施の形態3に係る移動速度検出装置に用いられる磁石を示す図である。
【
図12】実施の形態3に係る移動速度検出装置の構成を示す図である。
【
図13】試作機において、磁石とセンサとの配置状況を示す図である。
【
図14】金属板に発生する誘導電流を示す図である。
【
図15】試作機を構成するセンサユニットの外観図である。
【
図18】ターンテーブルを停止させた場合においてセンサが検出したオフセット磁界を示すグラフである。
【
図19】
図18の検出値に対してオフセットヌル処理後の誤差値を示すグラフである。
【
図20】ターンテーブルを回転させた場合においてセンサによる検出値を示すグラフである。
【
図21】ターンテーブルの回転速度とセンサによる磁界の磁束密度の検出値との関係を示すグラフである。
【
図22】試作機においてターンテーブルを60rpm(毎秒1回転)で回転させた時にターンテーブルで発生する誘導電流が作る磁界の磁束密度と、ターンテーブル及び磁石間のクリアランスとの関係を示すグラフである。
【
図23】試作機において使用したネオジム磁石が作る磁界の磁束密度と、ネオジム磁石の磁極面からの距離との関係を示すグラフである。
【
図24】磁石から出る磁界が金属板に進入する様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[連続鋳造設備]
図1は、実施の形態に係る移動速度検出装置が適用される連続鋳造設備の側面図である。
図2は、
図1に示す連続鋳造設備を斜め上から見た図である。連続鋳造設備は、取鍋1、タンデッシュ2、鋳型3、プラズマトーチ4、ストッパ5、ローラ7、メニスカス8、及び鋳造パウダー9を含む。
図2の例では、取鍋1は2つ設けられ、鋳型3は2つ設けられている。また、
図2の例では、2つの鋳型3のそれぞれの下流側には2つの搬送経路R1,R2が設けられている。搬送経路R1,R2には溶鋼を厚さ方向に挟持するように複数のローラ7が設けられている。また、ストッパ5は1つしか図示されていないが、2つの鋳型3に対応して2つ設けられている。
【0032】
取鍋1の中の高温の溶鋼は、タンデッシュ2に流れ込み、プラズマトーチ4で加熱及び温度調整され、鋳型3に流れ込む。タンデッシュ2に流れ込んだ溶鋼の移動速度はストッパ5の挿入深さで調整される。鋳型3に接することで表面から冷えた溶鋼は、外側から固まりながら、ローラ7によって搬送経路R1,R2に搬送される。このとき、溶鋼はローラ7を通過することで冷却され、固体のスラブとなる。
【0033】
従来の連続鋳造設備は、ローラ7の回転速度から溶鋼やスラブ等の金属板の移動速度を測定していた。しかし、金属板とローラ7との間の摩擦は極めて少ないため、ローラ7に対する金属板の滑りが生じ、金属板の移動速度を正確に測定できないという問題があった
。ここで、金属板は1500℃前後の高温であるため、接触式の速度計で速度を測ることは困難である。
【0034】
そこで、レーザーを応用した光学式の速度計を使用して金属板の移動速度を測定することも考えられる。しかし、溶鋼の周囲は、高温の鉄粉や腐食性のガスが発生する可能性が高く、悪環境であるため、光学式の速度計を使用して金属板の移動速度を測定すると、レンズが直ぐに曇ってしまい、測定不能になるという問題があった。
【0035】
そこで、本実施の形態では、これらの問題を解決するために、下記の移動速度検出装置を見出した。以下、本実施の形態の移動速度検出装置について詳細に説明する。なお、本実施の形態の移動速度検出装置は、鋳型3の近傍が高温であることを考慮して、例えば、
図1の搬送経路R1,R2において、鋳型3から連なる湾曲領域よりも少し下流側の水平領域に配置されている。但し、これは一例であり、移動速度検出装置は、湾曲領域に設けられてもよい。また、下記の実施の形態のいては、同一の構成要素は同一の符号が付され、説明が省かれる。
【0036】
[実施の形態1]
図3は、実施の形態1に係る移動速度検出装置を構成する磁石11の外観構成を示す図である。
図3において、磁石11の長手方向が上下方向であり、移動方向Dが前後方向であり、上下方向と前後方向と直交する方向が左右方向である。
【0037】
移動速度検出装置は、金属板12の主面に対向配置された磁石11を含む。磁石11は、磁気四重極を構成する4個の磁石111,112,113,114を含む。磁石111~114は、それぞれ同じ長さであり、断面が正方形の棒状の永久磁石である。但し、これは一例であり、磁石111~114は、断面が長方形又は円形であってもよい。金属板12は
図1に示すローラ7によって、矢印に示す移動方向Dに移動速度Vで搬送される。
【0038】
磁石111,112,113,114は、上方から下方に見て、格子状に配置されている。詳細には、磁石111と磁石113とは中心間を繋ぐ辺H1が移動方向Dと平行になるように配置され、磁石112と磁石114とは中心間を繋ぐ辺H3が移動方向Dと平行になるように配置されている。また、磁石111と磁石112とは中心間を繋ぐ辺H2が左右方向と平行になるように配置され、磁石113と磁石114とは中心間を繋ぐ辺H4が左右方向と平行になるように配置されている。また、磁石111~114は、辺H1,H2,H3,H4の距離が同一となるように配置されている。
【0039】
磁石111~114は、それぞれ、隣り合う磁石111~114の極性が反対になるように配置されている。詳細には、磁石111,112,113,114は、それぞれ、金属板12側がS極,N極,S極,N極となるように配置されている。更に、磁石111~114は、金属板12側の磁極を含む磁極面が金属板12の主面と一定の距離を設けて平行になるように配置されている。
【0040】
移動速度検出装置は、更に、金属板12に発生する誘導電流によって発生する磁界を検出するセンサ16を含む。センサ16は、例えば、ホール素子からなる磁気センサで構成され、前記磁極面において、磁界が零になる位置に配置されている。ここでは、センサ16は、辺H1~H4からなる正方形の中心を磁極面に投影した位置に配置されている。
【0041】
図4は、磁気四重極による磁界の分布を示す図である。
図4は、例えば磁石111~114の金属板12側の磁極面における磁気四重極の磁界の分布を示している。
図4において、磁界強度が強い箇所は磁力線の密度が高く、磁界強度が弱い箇所は磁力線の密度が低くなっている。中心Oは磁石111~114から等距離にあり、且つ、磁石111~114は隣接する磁極の極性が異なるように配置されている。そのため、中心Oでは磁界が打ち消し合って零になる。したがって、中心Oにセンサ16を配置すると、センサ16は零の磁界を検出する。
【0042】
図5は、金属板12に発生する誘導電流Iを示す図である。磁石111~114で発生する磁界中において移動方向Dに金属板12を移動させると、金属板12には誘導電流Iが発生する。誘導電流Iは、磁束密度Bが高い磁石111~114のそれぞれの磁極の真下で最大となり、磁極の間を通って戻ってくる。詳細には、金属板12の左方には、時計回りに誘導電流Iが流れ、金属板12の右方には、反時計回りに誘導電流Iが流れる。そのため、金属板12において、中心Oの真下の箇所は、誘導電流Iの帰り道となり、この箇所には後方に向かう大きな誘導電流Iが流れる。よって、この箇所に流れる誘導電流Iにより中心Oには左方向を向く磁界bが発生する。
【0043】
中心O以外の箇所にセンサ16を配置しても、誘導電流Iにより発生した磁界bを計測することは可能である。しかし、磁石11から生じる磁界は非常に強いので、センサ16が飽和する可能性がある。また、この場合、磁石11から生じる強い磁界に埋もれた弱い磁界bをセンサ16の検出値から抽出する必要があるため、磁界bの検出精度が低下する可能性がある。そこで、本実施の形態では、センサ16は、磁石11からの磁界が零である中心Oに配置される。
【0044】
これにより、センサ16は、微弱な磁界bを測定可能となる結果、本実施の形態は非常に小さな移動速度Vを検出できる。
【0045】
ここで、磁石111~114のそれぞれの真下の金属板12の領域に発生する起電力をEとすると、起電力Eは、レンツの法則から、当該領域での磁束の変化に比例するので、下記の式(1)で表される。
【0046】
E=c1・B・L・V (1)
E:起電力 c1:比例係数 B:磁石111~114のそれぞれの磁束密度 L:磁石111~114のそれぞれの断面の一辺の長さ V:金属板12の移動速度
一方、誘導電流Iは下記の式(2)で表される。
【0047】
I=E/R (2)
R:金属板12の抵抗成分
なお、抵抗成分Rは、金属板12の抵抗率や厚さ等から得られる値であり、既知である。
【0048】
式(1)を式(2)に代入すると式(3)が得られる。
【0049】
I=c1・B・L・V/R (3)
一方、誘導電流Iから距離d1離れた円周の磁界bは、アンペールの右ねじの法則より、真空の透磁率μ0を用いて、b=μ0・I/(2π・d1)と表されるので、μ0/2π=c2とおくと、下記の式(4)が得られる。
【0050】
b=c2・I/d1 (4)
式(3)を式(4)に代入すると式(5)が得られる。
【0051】
b=c2・c1・B・L・V/(R・d1) (5)
ここで、比例係数c1,c2、磁束密度B、長さL、抵抗成分R、は既知なので、これらを比例係数Kとして纏めると、式(5)は式(6)で表される。
【0052】
b=K・V (6)
式(6)に示すように、磁界bは移動速度Vに比例する。よって、磁界bから移動速度Vが検出できる。そこで、本実施の形態は、磁界bをセンサ16で検出することで、移動速度Vを検出する。
【0053】
図6は、実施の形態1に係る移動速度検出装置の構成の詳細を示す図である。移動速度検出装置は、計測ユニット610を備える。計測ユニット610は、筐体611(容器の一例)と、4つの車輪612(移動機構の一例)とを含み、レール613の上を走行する。レール613は、金属板12の上方において移動方向Dと平行に配置されている。なお、レール613は、例えば、天井100や地面等に固定されている。
【0054】
筐体611は、磁石11とセンサ16とを収納する。ここで、筐体611は、非磁性の金属素材(例えば、銅やステンレスやアルミニウム)や非磁性の耐熱素材(例えば、樹脂やセラミックス)で構成され、磁石11とセンサ16とを金属板12の熱から保護する。
【0055】
このように、計測ユニット610は、移動方向Dに沿って移動可能に構成されている。そのため、計測ユニット610がレール613の上を走行すると、金属板12に誘導電流Iが発生し、それによって磁界bが発生する。
【0056】
図7は、実施の形態1に係る移動速度検出装置の電気的な構成を示すブロック図である。移動速度検出装置は、計測ユニット610に加え、管理ユニット630を含む。計測ユニット610は、
図3に示すセンサ16の他、駆動部621と、移動体制御部622(速度算出部の一例)と、通信部631とを含む。
【0057】
駆動部621は、例えば電動モータで構成され、車輪612を駆動する。移動体制御部622は、例えば、CPU等のプロセッサとメモリと含むマイクロコントローラで構成され、駆動部621を制御する。本実施の形態では、移動体制御部622は、センサ16が検出する磁界bが0になるように、駆動部621を制御する。
【0058】
ここで、計測ユニット610が金属板12と同じ移動速度Vで移動すると、誘導電流Iが発生しないので、磁界bが0になる。したがって、磁界bが0になったときの計測ユニット610の移動速度Vを特定することで、金属板12の移動速度Vを検出できる。
【0059】
本実施の形態では、移動体制御部622は、計測ユニット610をある移動速度Vxで移動させる場合、移動速度Vxに対して事前に対応付けられた指令値Ixを駆動部621に出力する。したがって、移動体制御部622は、磁界bが0になったときに駆動部621に出力する指令値Ixから移動速度Vxを特定できる。但し、これは一例であり、計測ユニット610に移動速度Vを検出する速度センサを設け、この速度センサの検出値から計測ユニット610の移動速度Vを検出してもよい。この場合、移動体制御部622は、磁界bが0になったときの速度センサの検出値を移動速度Vとして検出すればよい。
【0060】
通信部631は、例えば、無線又は有線の通信路を介して計測ユニット610と管理ユニット630とを通信可能に接続する通信モジュールで構成されている。本実施の形態では、通信部631は、移動体制御部622が検出した移動速度Vを管理ユニット630に送信する。
【0061】
管理ユニット630は、例えば、CPU、ROM、RAM等を含むコンピュータで構成され、通信部631と表示部632とを含む。通信部631は、通信部631と通信するための通信モジュールで構成されている。表示部632は、通信部631が計測ユニット
610から受信した移動速度Vを表示する。
【0062】
次に、実施の形態1の移動速度検出装置の動作を簡単に説明する。
図1を参照し、鋳型3から溶鋼である金属板12の流出が開始され、移動速度検出装置の近傍に到達する。すると、
図6を参照して、計測ユニット610の移動が開始される。この場合、移動体制御部622は、まず、金属板12の移動速度Vとして想定される移動速度に対応する予め定められたデフォルトの指令値を駆動部621に出力する。次に、移動体制御部622は、センサ16による磁界bの検出値をモニタしながら、磁界bが0になるように指令値を調整する。次に、移動体制御部622は、磁界bが0になると、そのときの指令値に対応する計測ユニット610の移動速度を金属板12の移動速度Vとして特定する。特定された移動速度Vは、計測ユニット610から管理ユニット630に送信され、表示部632に表示される。これにより、オペレータに移動速度Vが報知される。
【0063】
このように、実施の形態1の移動速度検出装置によれば、磁界中で金属板12を移動させることで、金属板12に移動速度Vに比例した誘導電流Iを発生させ、その誘導電流Iによって発生する磁界bをセンサ16で検出し、センサ16の検出値に基づいて金属板12の移動速度Vが検出されているので、金属板12の移動速度を非接触で検出できる。そのため、測定器を近づけることが困難な悪環境下において金属板12の移動速度を正確に検出できる。
【0064】
なお、実施の形態1は下記の変形例が採用できる。
【0065】
(1-1)
図6では、筐体611により磁石11とセンサ16とを金属板12の熱から保護したが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明は、計測ユニット610とレール613とを覆う耐熱性の素材からなる容器を設け、計測ユニット610とレール613とを金属板12の熱から保護してもよい。
【0066】
(1-2)
上記実施の形態では、計測ユニット610は金属板12と同一の移動速度Vになるように移動されたが、本発明はこれに限定されない。例えば、計測ユニット610は、静止状態で金属板12の移動速度Vを検出してもよい。この場合、
図7を参照し、計測ユニット610はセンサ16が検出した磁界bの検出値を管理ユニット630に送信する。そして、管理ユニット630に別途設けられた移動速度算出部(図略)が磁界bの検出値を式(6)に代入することで移動速度Vを算出してもよい。
【0067】
(1-3)
筐体611は、二重構造で構成されてもよい。この場合、筐体611は、壁間に水を通す管を含む冷却機構が配置されてもよい。これにより、計測ユニット610が、極めて高温の溶鋼の近くに配置されたとしても、計測ユニット610は正常に動作することが可能である。
【0068】
[実施の形態2]
実施の形態2の移動速度検出装置は、1つの磁石11を用いて金属板12の移動速度Vを検出するものである。
図8は、実施の形態2に係る移動速度検出装置を構成する磁石11の外観構成を示す図である。
図8に示すように、磁石11は、断面が例えば正方形の棒状の永久磁石で構成され、長手方向が上下方向と平行となるように金属板12と一定の間隔を設けて配置されている。
図8の例では、磁石11は、N極が金属板12側を向くように配置されているが、これは一例であり、S極が金属板12側を向くように配置されてもよい。また、
図8の例では、磁石11の断面は正方形であるが、これは一例であり、円形であってもよいし、長方形であってもよい。
【0069】
図9は、金属板12に発生する誘導電流Iを示す図である。金属板12は、磁石11から発生する磁束密度Bで表される磁界中を、移動速度Vで移動方向Dに向けて移動する。このとき、金属板12には、磁石11の真下の領域において、前後方向に並んで2つの渦状の誘導電流I1、I2が発生する。
【0070】
ここで、磁石11の真下の金属板12の領域を前後方向に対して2つの領域に区画したとすると、前方の領域は金属板12の移動に伴って鎖交磁束が減少するので、その減少を妨げるように時計回りの誘導電流I2が発生する。一方、後方の領域は金属板12の移動に伴って鎖交磁束が増大するので、その増大を妨げるように反時計回りの誘導電流I1が発生する。したがって、磁石11の磁極面の中心の真下の金属板12の領域には、誘導電流I1と誘導電流I2との合流によって、右方から左方に向けて誘導電流I3が発生する。誘導電流I3は大きいので、金属板12に発生する誘導電流Iは誘導電流I3とみなせる。したがって、フレミング左手の法則により、金属板12には、後方に向けて力Fが発生する。詳細には、力Fは、下記の式(7)で表される。
【0071】
F=I・B・l (7)
I:誘導電流 B:磁石11の磁束密度 l:金属板12の左右方向の長さ(幅)
ここで、磁束密度Bと長さlは既知であり、誘導電流Iは移動速度Vに比例するので、式(8)に示すように、力Fは移動速度Vに比例する関数で表される。
【0072】
F=K1・V (8)
K1:比例定数 V:移動速度
したがって、力Fが分かれば、移動速度Vが分かる。
【0073】
一方、磁石11には、金属板12に作用する力Fの反作用の力Fが前方に作用する。そこで、本実施の形態では、磁石11に作用する力Fをセンサ16で測定することで、移動速度Vを検出する。
【0074】
図10は、実施の形態2に係る移動速度検出装置の構成を示す図である。移動速度検出装置は、
図8で示した磁石11の他、センサ16と、管理ユニット630と、容器614とを含む。
【0075】
磁石11は、例えばロープ101によって天井100から吊り下げられている。センサ16は、例えば、バネばかりで構成され、磁石11に作用する力Fを検出する。詳細には、センサ16はバネの一端が磁石11に取り付けられ、バネの他端が容器614に取り付けられている。したがって、金属板12の移動により磁石11に力Fが加わると、磁石11は天井100とロープ101との交点を支点として、前方に移動する。前方に移動する磁石11によってセンサ16は前方に押され、力Fを検出する。
【0076】
なお、センサ16としてバネばかりが採用されたが、本発明はこれに限定されず、力を検出できるセンサであればどのようなセンサが採用されてもよい。例えば、センサ16として圧力センサやロードセルが採用されてもよい。
【0077】
容器614は、開口部が天井100に閉塞された箱体で構成され、内部に磁石11とセンサ16とを格納する。容器614は、非磁性の金属素材(例えば、銅やステンレスやアルミニウム)や非磁性の耐熱素材(例えば、樹脂やセラミックス)で構成され、磁石11とセンサ16とを金属板12の熱から保護する。
【0078】
管理ユニット630は、例えば、コンピュータで構成され、速度算出部633を更に含む。速度算出部633は、センサ16による力Fの検出値を通信部631を介して取得し、取得した検出値を、例えば、式(8)に代入することで、移動速度Vを算出する。算出された移動速度Vは表示部632に表示される。
【0079】
このように、実施の形態2に係る移動速度検出装置によれば、磁界中で金属板12を移動させた場合に、磁石11に作用する移動速度Vに比例する力Fをセンサ16で検出しているので、金属板12の移動速度Vを非接触で算出できる。したがって、測定器を近づけることが困難な悪環境下において、金属板12の移動速度Vを正確に検出できる。
【0080】
実施の形態2は下記の変形例が採用できる。
【0081】
(2-1)
図10の例では、磁石11はロープ101により天井100から吊されているが、本発明はこれに限定されず、磁石11を移動可能に保持できる部材であれば、どのような部材が採用されてもよい。例えば、ロープ101に代えて、天井100に対してヒンジによって回動可能に取り付けられた棒状の部材を用いて、磁石11は天井100から吊されても良い。
【0082】
[実施の形態3]
実施の形態3に係る移動速度検出装置は、円盤型の磁石11を採用したことを特徴とする。
図11は、実施の形態3に係る移動速度検出装置に用いられる磁石11を示す図である。磁石11は、円周上にS極とN極とが交互に配置された円盤型の永久磁石で構成されている。
図11の例では、磁石11は放射状に区画された8個の磁石領域1101を備えている。8個の磁石領域1101は、それぞれ隣接する磁石領域1101と磁極の方向が逆になるように配置されている。ここでは、磁石11は8個の磁石領域1101で構成されているが、これは一例であり、9個以上の磁石領域1101で構成されてもよいし、2個以上7個以下の磁石領域1101で構成されてもよい。
【0083】
図12は、実施の形態3に係る移動速度検出装置の構成を示す図である。磁石11は保持部材1210によって回転可能に保持されている。保持部材1210は、一対のロッド1201と、軸1202とを備える。一対のロッド1201は磁石11を左右方向の両側から挟むように、一端が天井100に取り付けられている。一対のロッド1201は、それぞれ、上下方向に長い平板状の部材で構成されている。
【0084】
一対のロッド1201のそれぞれの他端には軸1202が取り付けられている。軸1202は、左右方向と平行であり、磁石11の中心を貫通しており、両端が一対のロッド1201の他端によって挟持されている。磁石11の中心にはベアリングが取り付けられており、磁石11は、このベアリングを介して軸1202に対して回転可能に取り付けられている。したがって、磁石11は、軸1202を中心に金属板12と直交する平面上を回転する。
【0085】
容器614は、磁石11と、センサ16と、保持部材1210とを収容する。本実施の形態では、容器614として金属を採用すると、磁石11の回転により容器614に誘導電流が発生し、磁石11の磁界を乱す可能性がある。そこで、本実施の形態では、容器614は、例えば、非磁性の耐熱素材(例えば、樹脂やセラミックス)で構成することが好ましい。
【0086】
磁石11による磁界中を金属板12が移動すると、
図9で説明したのと同じ原理で、金属板12には後方に力Fが作用し、その反作用の力Fが磁石11の最下部において、前方向に作用する。これにより、磁石11は回転する。ここでは、回転時における磁石11の摩擦は十分に小さいものとする。
【0087】
軸1202には、磁石11の回転速度を検出するセンサ16が取り付けられている。ここで、センサ16は、例えば、ロータリーエンコーダで構成されている。
【0088】
通信部631は無線又は有線の通信路を介してセンサ16と通信可能に接続されており、センサ16による磁石の回転速度の検出値を取得する。速度算出部633は、通信部631で取得された回転速度の検出値から金属板12の移動速度Vを算出する。ここで、速度算出部633は、例えば、回転速度の検出値に磁石11の半径を乗じることで、移動速度Vを算出すればよい。なお、磁石11による摩擦力を考慮する場合、速度算出部633は、摩擦力による回転速度の減少を補正するために事前に定められた補正係数を更に用いて移動速度Vを算出すればよい。
【0089】
このように実施の形態3に係る移動速度検出装置によれば、磁界中で金属板12を移動させることで、金属板12に移動速度Vに応じた誘導電流Iを発生させ、その誘導電流Iに応じた力Fを回転可能に構成された磁石11に付与させることで磁石11を回転させ、磁石11の回転速度をセンサ16で検出することで金属板12の移動速度Vが検出されている。そのため、金属板12の移動速度Vを非接触で検出できる。したがって、測定器を近づけることが測定が困難な悪環境下において金属板12の移動速度Vを正確に検出できる。
【0090】
なお、実施の形態1-3は以下の変形例を採用できる。
【0091】
(4-1)
上記の金属板12は、固体のみならず溶融した金属物体であってもよい。詳細には、金属板12は、強磁性体としての性質を失うキュリー温度よりも高温な物体が採用されてもよい。一般に金属の融点はキュリー温度よりも高いので、金属板12は固体の金属のみならず溶融した金属も含まれることになる。
【0092】
(4-2)
計測ユニット610と管理ユニット630とを分けたが、一体構成にしてもよい。
【0093】
(4-3)
実施の形態1、2において、磁石11は金属板12の主面の一方側(上方側)に設けられたが、本発明はこれに限定されず、磁石11は金属板12の主面の他方側(下方側)に設けられてもよい。また、実施の形態1、2において、磁石11は金属板12の一方側において、複数設けられてもよい。
【0094】
[実施の形態1の具体例]
本発明者は、実施の形態1に係る移動速度検出装置において試作機を作成した。以下、試作機について詳細に説明する。
【0095】
図13は、試作機において、磁石11とセンサ16との配置状況を示す図である。
図13に示す配置状況は基本的には
図3で説明した配置状況と同じである。但し、
図13では、磁気四重極を構成する4つの磁石111~114はそれぞれ、断面が円形の円筒形の永久磁石で構成されている点が
図3と相違する。
【0096】
磁気四重極の磁石11を構成する4個の磁石111~114は、それぞれ、断面の直径が23mmであり、長さが20mmであり、型番 ND0150のネオジム磁石で構成されている。また、磁石111~114は、それぞれ、表面の磁束密度が518mT(5180 Gauss)であり、使用上限温度が100℃である。
【0097】
センサ16は、正方形のプリント基板の中央に半導体素子が実装されたスマートフォン等で使用される市販の三次元ホールセンサで構成されている。詳細には、センサ16は、型式がMLX90393であり、仕様がMicropower Triaxis Magnetometerであり、X軸,Y軸の分解能がそれぞれ0.161μT/LSB 16bit 測定レンジ±5275μTであり、Z軸の分解能が0.294μT/LSB 16bit 測定レンジ±9633μTであり、標準偏差が0.3μT(サンプリング200mSの時)である。
【0098】
センサ16は、X軸、Y軸、Z軸の磁界を検出する3つのホール素子を内蔵しているので、地磁気、磁石11の生じる磁界、及び移動する金属板12に生じる誘導電流が作る磁界等の合成磁界の向きと大きさとを検知できる。
【0099】
磁石11の中心Oでは、磁石111~114からの磁界が打ち消し合って、1/100以下に減衰し、ほぼ零になる。なお、中心Oは磁石111~114の金属板12側の磁極面を含む平面において、磁石111~114から等距離の位置に設けられている。センサ16は、中心Oに取り付けられているので、センサ16が磁石111~114からの強力な磁界によって飽和することが防止されている。
【0100】
図14は、金属板12に発生する誘導電流Iを示す図である。
図14においては、磁石111~114の断面が円形になっている以外は
図5と同じであり、
図5で説明したものと同じ原理により、移動速度Vに比例する磁界bが得られる。なお、
図14では、磁石111~114の断面が円なので、Lは円の直径になっている。
【0101】
[試作機]
図15は、試作機を構成するセンサユニット1602の外観図である。
図16は、試作機の全体構成の外観図である。センサユニット1602は、磁石111~114を備えるドラム1501と、ドラム1501を保持する三角形状のホルダ1502と、ホルダ1502に取り付けられ、地面から一定の高さ位置にドラム1501を立設させる脚部1503とを備える。
【0102】
ドラム1501は、アクリル樹脂で構成された一対の円板1501Aを備える。一対の円板1501Aは、それぞれ、中心から等距離に4つの穴が穿設されている。前側の円板1501Aの4つの穴にはそれぞれ磁石111~114の一方の端部が嵌め込まれ、奥側の円板1501Aの4つの穴にはそれぞれ磁石111~114の他方の端部が嵌め込まれている。このようにして、一対の円板1501Aは、磁石111~114を挟持する。
【0103】
図15において、黒色はN極を示し、白色はS極を示している。このように、磁石111~114は、それぞれ、隣り合う磁石の極性が逆向きになるように取り付けられており、且つ、前側の円板1501Aの中心から等距離に配置されているので、前側の円板1501Aの中心は磁石111~114による磁界がほぼ零になる。
【0104】
前側の円板1501Aの中心には、三次元ホールセンサから構成されるセンサ16が取り付けられている。これにより、センサ16は、磁石111~114による強力な磁界によって飽和することが防止されている。センサ16は、電線を介してワンチップマイコン1504と電気的に接続されている。ワンチップマイコン1504は、
図7に示す移動体制御部622を構成する。
【0105】
センサ16は、正方形状の基板で構成されており、辺H1と平行にX軸が設定され、辺H1に直交する辺H2と平行にY軸が設定され、基板の主面と直交する方向にZ軸が設定されている。センサ16は一方の対角線が前側の円板1501Aの中心を通るように配置されている。したがって、X軸は左右方向に対して時計回りに45度ずれ、Y軸は上下方向に対して時計回りに45度ずれる。
【0106】
図16に示すように、試作機は、上下方向に立設されたターンテーブル1601を備える。ターンテーブル1601は、直径が600mm、厚さ10mmがアルミニウムで構成されている。ターンテーブル1601は、
図1に示す搬送経路R1,R2に沿って直線状に移動される金属板12を模擬したものであり、モータ(図略)によって一定の角速度で回転される。実際の搬送経路R1,R2は長いため、実験室で再現することは困難である。また、試作機を鉄の製造ラインの搬送経路R1,R2に配置すると、製造ラインをストップさせる必要があるため好ましくない。そこで、試作機では、ターンテーブル1601による円運動によって直線状に移動する金属板12を模擬した。
【0107】
センサユニット1602は、ターンテーブル1601の最下位置を付近にターンテーブル1601に対向するように配置されている。ターンテーブル1601とセンサユニット1602とのクリアランスは20mmである。
【0108】
図17は、試作機を側方から見た外観図である。前方から、ターンテーブル1601と、磁石11を含むドラム1501と、脚部1503とが順に配置されていることが分かる。また、ドラム1501の前方の円板1501Aとターンテーブル1601とが一定のクリアランスを設けて配置されていることが分かる。
【0109】
ターンテーブル1601が10rpmで回転する場合、ターンテーブル1601の主面においてターンテーブル1601の中心から250mmの位置での接線方向の速度はV=2*π*250*10/60=0.26m/sとなる。
【0110】
ターンテーブル1601が60rpm(毎秒1回転)で回転する場合、ターンテーブル1601の主面においてターンテーブル1601の中心から250mmの位置での接線方向の速度はV=2*π*250*60/60=1.57m/sとなる。
【0111】
磁石11が、回転するターンテーブル1601に対向配置されると、回転するターンテーブル1601に誘導電流が流れ、それによって磁界が発生し、センサ16はこの磁界を検出する。
【0112】
ターンテーブル1601から奥側に20mm離れた位置に、前方の円板1501Aが位置するように、センサユニット1602を配置して実験を行った。
【0113】
図18は、ターンテーブル1601を停止させた場合においてセンサ16が検出したオフセット磁界を示すグラフである。ここで、オフセット磁界には、地磁気の他、磁石111~114から出た磁界であってセンサ16の位置で相殺されずに残存する磁界が含まれる。
図18において縦軸は磁界を示し、横軸は検出回数を示している。
図18では、センサ16による110回分の磁界の検出値が示されている。
【0114】
ワンチップマイコン1504は、センサ16による110回の検出値のうち変動の大きな最初の10回の検出値を破棄して、その後の100回の検出値の加算平均値を算出する。ここでは、下記の結果が得られた。
【0115】
X軸成分:3315μT、Y軸成分:1894μT、Z軸成分:186μT
なお、最初の10回の検出値を破棄することで、検出値に含まれるランダム雑音成分は、その平方根分の1=10分の1に減らすことができる。ワンチップマイコン1504は、この加算平均値をオフセット磁界としてメモリーに記憶する。
【0116】
すなわち、ワンチップマイコン1504は、ターンテーブル1601が静止している状態において、センサ16にM+N(Mは1以上の整数、Nは1以上の整数)回繰り返し磁界を検出させる。そして、ワンチップマイコン1504は、センサ16による検出結果が安定するまでのM回の検出値は破棄し、安定後のN回のX,Y,Z軸成分の検出値の加算平均値をそれぞれ算出することで、X,Y,Z軸の3成分からなるオフセット磁界を算出する。
【0117】
図19は、
図18の検出値に対してオフセットヌル処理後の誤差値を示すグラフである。
図19において縦軸は誤差値を示し、横軸は検出回数を示す。オフセットヌル処理は、n回目の検出値を1~n回目までの加算平均値で差し引いた値を誤差値として算出する処理である。
図19では、オフセットヌル処理後に得られた誤差値の加算平均値は下記の通りである。
【0118】
X軸成分:1.468μT、Y軸成分:0.356μT、Z軸成分:0.432μT
図20は、ターンテーブル1601を回転させた場合においてセンサ16による検出値を示すグラフである。
図20において縦軸は磁界を示し、横軸は検出回数を示している。
図20では、センサ16による110回分の磁界の検出値が示されている。
【0119】
ターンテーブル1601を60rpm(毎秒1回転)で回転させ、生じた磁界をセンサ16で検出すると下記の磁界が検出された。
【0120】
X軸成分:576μT、Y軸成分:476μT、Z軸成分:75μT
この検出値は、センサ16による110回分の検出値のうち変動の大きな最初の10回分の検出値を破棄し、残り100回の検出値のそれぞれからオフセット磁界(X軸成分:3315μT、Y軸成分:1894μT、Z軸成分:186μT)を減じた値を加算平均することによって得られたものである。
【0121】
すなわち、ワンチップマイコン1504は、ターンテーブル1601が移動している状態において、センサ16にO+P(Oは1以上の整数、Pは1以上の整数)回繰り返し磁界を検出させる。そして、ワンチップマイコン1504は、センサ16による検出結果が安定するまでのO回の検出値は破棄し、安定後のP回のX,Y,Z軸成分の検出値からオフセット磁界のX,Y,Z軸成分をそれぞれ減じ、X,Y,Z軸成分毎の加算平均値を算出する。
【0122】
図20の検出結果によると、X,Y軸成分に比べてZ軸成分は大幅に小さい値が得られている。そのため、
図15を参照して、Z軸成分の磁界はX,Y軸成分の磁界に比べて非常に小さく、ターンテーブル1601の主面と直交する方向に発生する磁界成分は非常に小さいことが分かる。したがって、試作機において検出される磁界は、
図14に示す磁界bと同様、金属板12の主面に対して平行とみなせる。
【0123】
また、センサ16の位置においてターンテーブル1601は径方向と直交する方向、すなわち、左右方向に移動しているので、
図14の説明からすると、ターンテーブル1601の回転によって、センサ16の中心で発生する磁界は上下方向を向くことになる。
図20の検出結果では、Y軸成分の検出値がX軸成分の検出値に比べて多少小さいため、
図15においてセンサ16の中心で発生する磁界は、上下方向に対して多少反時計回りの方向にずれるものの、概ね上下方向を向いている。よって、試作機において、センサ16の中心において
図14で説明した磁界bの方向とほぼ同じ方向の磁界が観測できた。
【0124】
なお、試作機において観測される磁界が
図14で説明した磁界bに対して向きが多少ずれているのは、試作機では、直線運動をする金属板12ではなく、回転運動をするターンテーブル1601で発生する磁界を観測しているのが原因と考えられる。
【0125】
次に、ワンチップマイコン1504は、ターンテーブル1601を回転させたときの磁界の検出値(X軸成分:576μT、Y軸成分:476μT、Z軸成分:75μT)のRMS(Root Mean Square)を求めると、sqrt(576^2+476^2+75^2)=751μTの磁界の検出値が得られた。
【0126】
図21は、ターンテーブル1601の回転速度とセンサ16による磁界の磁束密度の検出値との関係を示すグラフである。
図21において縦軸は磁束密度を示し、横軸はターンテーブル1601の回転速度を示している。
【0127】
図21では、ターンテーブル1601の回転速度を10,20,30,40,50,60rpmと変えた場合において、センサ16による検出された磁界が示されている。
図21において、縦軸は磁束密度、横軸は回転速度を示している。
【0128】
図21において、グラフg1はX軸成分の磁界の検出値を示し、グラフg2はY軸成分の磁界の検出値を示し、グラフg3はZ軸成分の磁界の検出値を示し、グラフg4はX,Y,Z軸成分の合成磁界を示している。なお、グラフg1~g4のそれぞれの近傍に示す直線はグラフg1~g4を直線近似したグラフを示している。また、
図21においては、ターンテーブル1601と磁石111~114とのクリアランスは20mmに設定されている。
【0129】
グラフg1~g4に示されるように、センサ16により検出された磁界は回転速度に比例していることが分かる。そのため、上述した、磁界bが金属板12の移動速度Vに比例する式(6)に示す関係が確認できた。したがって、センサ16による磁界の検出値から金属板12の移動速度Vを求めることができる。
【0130】
[1]クリアランスと磁界との関係
次に、ターンテーブル1601(金属板12)及び磁石11間のクリアランスdとセンサ16が検出する磁界との関係について説明する。
図22は、試作機においてターンテーブル1601を60rpm(毎秒1回転)で回転させた時にターンテーブル1601で発生する誘導電流が作る磁界の磁束密度と、ターンテーブル1601及び磁石11間のクリアランスdとの関係を示すグラフである。
図22は、両対数グラフであり、縦軸は磁束密度を示し、横軸はクリアランスdを示す。
図22において、ターンテーブル1601の直径は220mmである。
【0131】
また、
図22において、菱形の点はターンテーブル1601の厚さを5mmにした場合のクリアランスdに対する磁束密度Bの測定値をプロットしたものであり、四角形の点はターンテーブル1601の厚さを10mmにした場合のクリアランスdに対する磁束密度Bの測定値をプロットしたものである。
【0132】
また、
図22において、グラフg201はターンテーブル1601の厚さが10mmの場合を示し、グラフg202はターンテーブル1601の厚さが5mmの場合を示す。グラフg203は、先ず数式(300000/d^2)の指数部を2から0.1づつ増減して、グラフG201,g202と傾きが一致する指数部の数値(2.3)を求め、その時の数式(300000/d^2.3)を示すグラフであり、グラフg201,g203がクリアランスdの2乗にほぼ反比例していることを示すために参考として掲載したグラフである。
【0133】
なお、四角形の点P221と菱形の点P222はそれぞれクリアランスdが12mmの場合の磁束密度Bを示しており、グラフg201とグラフg202に比べて磁束密度Bが低い値をとっている。これは、クリアランスdが12mmではターンテーブル1601の回転速度が電磁誘導の力で減速されたことに起因する。そこで、グラフg201、g202を描くにあたって、点P221及び点P222は無視されている。
【0134】
グラフg201及びグラフg202は左上がりの直線を描いているので、クリアランスdが短いほど誘導電流によって発生する磁界の磁束密度Bは大きくなることが分かる。また、グラフg201よりグラフg202の方が上側に描かれているため、ターンテーブル1601の厚さが増すほど誘導電流によって発生する磁界の磁束密度Bは大きくなることが分かる。
【0135】
LV1は雑音変動レベルを示しているため、磁束密度Bが雑音変動レベルLV1以上の磁界を発生させる必要がある。グラフg201、g202に示すように、クリアランスdが52mm以下であれば、誘導電流により発生する磁界の磁束密度Bが雑音変動レベルLV1を超えるので、ターンテーブル1601の回転速度を検出することが可能となる。
【0136】
ここで、溶鋼は表面形状のうねりが激しいので、溶鋼及びセンサ16間のクリアランスが短いとセンサ16が破損してしまう虞がある。そこで、溶鋼を取り扱う製造ラインでは、溶鋼に対するセンサ16のクリアランスとして100mm以上を確保することが要求されている。
【0137】
点P223に示すように、クリアランスdを27mmとした場合、磁束密度Bが雑音変動レベルLV1以上の磁界をセンサ16の位置に発生させることができる。試作機では、直径23mmのネオジム磁石を4個使って磁気四重極が構成されている。したがって、直径100mmのネオジム磁石を4個用いて磁気四重極を構成すれば、クリアランスdを100mmに設定してセンサ16の位置に雑音変動レベルLV1以上の磁界を発生できることが見込まれる。これにより、溶鋼を取り扱う製造ラインの要望に応えることができる。
【0138】
図23は、試作機において使用したネオジム磁石(直径:23mm、高さ20mm)が作る磁界の磁束密度Bと、ネオジム磁石の磁極面からの距離d1との関係を示すグラフである。
【0139】
図23において縦軸は磁束密度Bを対数で示し、横軸はネオジム磁石の磁極面からの距離d1を対数で示している。また、
図23において菱形の点は磁束密度Bの実測値を示している。グラフg221は、距離d1が10mm~50mmの範囲での磁束密度Bの実測値を直線近似したグラフであり、グラフg222は、距離d1が50mmより大きい範囲で磁束密度Bの実測値を直線近似したグラフである。
【0140】
グラフg221に示すように距離d1が10mm~50mmの範囲では、磁束密度Bは、ほぼ距離d1の二乗に反比例している。この距離範囲では、ネオジム磁石の磁極面から出た磁束は距離d1が増大するにつれて線形に拡散するので、磁束鎖交面の面積Sは距離d1の二乗に比例して増大する。磁束密度Bは磁束鎖交面の面積Sに反比例するので、この距離範囲では、磁束密度Bは、距離d1の二乗に反比例して小さくなる。
【0141】
移動する金属板12に発生する起電力Eは、式(1)に示すように、移動速度Vに比例し、磁束密度Bに比例し、磁束鎖交面の長さLに比例する。磁束鎖交面の長さとは、移動方向Dに直交する方向での磁束鎖交面の長さを指す。磁束鎖交面の長さLは、距離d1に比例して長くなる。よって、起電力Eは、距離d1に反比例して弱まっていく。
【0142】
なお、式(1)では、
図14に示すように、金属板12での磁束鎖交面の面積は磁石111~114の磁極面と等しいとみなし、Lは磁石111~114の磁極面の一辺の長さであるとして説明した。しかし、実際には、Lは磁石111~114からの磁極面から出る磁束の金属板12での磁束鎖交面の長さを指す。
【0143】
移動する金属板12に流れる誘導電流Iは、起電力Eに比例し、磁束の広がる範囲の金属板12の抵抗値R1に反比例する。厚さt、幅W、長さDの金属の抵抗値は、厚さtに反比例し、幅Wに反比例し、長さDに比例する。よって、抵抗値R1は、距離d1に関わらず一定となる。
【0144】
誘導電流Iは、式(3)に示すように、起電力Eを定めるB・L・Vが距離d1に反比例して弱まるので、距離d1に反比例して弱まっていく。
【0145】
誘導電流Iの作る磁界bは、式(4)に示すように、誘導電流Iに比例するが、誘導電流Iは距離d1に反比例するので、距離d1の二乗に反比例して弱まっていく。
【0146】
図22を参照すると、ターンテーブル1601を回転した時の誘導電流Iが作る磁界bは、ほぼ距離d1の2乗に反比例して弱まっており、実験結果は、ほぼ理論に合った結果となっている。
【0147】
[2]金属板の厚さと誘導電流が作る磁界との関係
厚さt、幅W、及び長さlの金属板12の抵抗値R1は厚さtに反比例し、幅Wに反比例し、長さlに比例する。よって、理論上は金属板12の厚さtが2倍になれば、抵抗値R1は1/2となり、誘導電流Iは2倍になる筈である。
【0148】
しかし、
図22を参照すると、ターンテーブル1601の厚さtが10mmの場合の磁界bの磁束密度は、厚さtが5mmの場合の磁束密度に対して1.4倍にしか増えていない。これについて以下考察する。
【0149】
ターンテーブル1601が十分薄く、誘導電流Iの作る磁界bが弱い時は、磁石11から出る磁界は、ターンテーブル1601が無い時と殆ど同じように、ターンテーブル1601を貫通するので、ターンテーブル1601の厚さtに比例して、誘導電流Iも増えていく。
【0150】
しかし、ターンテーブル1601の厚みが増すと、誘導電流Iも強くなり、誘導電流Iの作る磁界bにより、磁石11から出る磁界がターンテーブル1601の移動方向に曲げられ、ターンテーブル1601内に進入する磁界は弱まってしまう。
【0151】
図24は、磁石11から出る磁界が金属板12に進入する様子を示した図である。金属板12の表面に流れる誘導電流Iの作る磁界bにより、磁石11から金属板12の主面に対してほぼ垂直に進入した磁界は、徐々に金属板12の移動方向Dに曲げられていき、金属板12内の奥に向かうにつれて金属板12の移動方向Dに拡散する。その結果、金属板12の奥では磁石11から出た磁界の磁束密度は低下していく。
【0152】
金属板12の抵抗率が低く、金属板12の移動速度Vが速くなるほど、誘導電流Iは増えるので、磁石11から出た磁界の磁束密度は金属板12内の奥に向かうにつれて急速に低下していく。このように、ターンテーブル1601の厚みが増すと、ターンテーブル1601内に進入する磁界が弱まるので、ターンテーブル1601の厚さtが10mmの場合の誘導電流I(渦電流)は、厚さtが5mmの場合に対して本来的には2.0倍に増えるはずが、1.4倍にしか増えないのである。そして、上述したように磁界bは誘導電流Iに比例するので、
図22に示すようにターンテーブル1601の厚さtが10mmの場合の磁束密度は、厚さtが5mmの場合の磁束密度に対して1.4倍になるのである。
【0153】
なお、金属板12が完全導体である場合、抵抗率は0となるので、金属板12の表面に流れる誘導電流Iが過大になり、磁石11からの磁界は金属板12内に全く中に入らなくなる。
【符号の説明】
【0154】
11,111,112,113,114 磁石
12 金属板
16 センサ
610 計測ユニット
611 筐体
612 車輪
613 レール
614 容器
621 駆動部
622 移動体制御部
630 管理ユニット
631 通信部
632 表示部
633 速度算出部