(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20220216BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220216BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220216BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220216BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0562
H01M4/66 A
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2018165191
(22)【出願日】2018-09-04
【審査請求日】2021-02-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】鬼木 基行
(72)【発明者】
【氏名】一杉 太郎
(72)【発明者】
【氏名】西尾 和記
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-029046(JP,A)
【文献】国際公開第2015/029290(WO,A1)
【文献】特開2013-037855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 10/0562
H01M 4/66
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層用下地層及び正極活物質層が積層されている構成を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極活物質層用下地層は、NbがドープされているSrTiO
3層であり、
前記正極活物質層用下地層と前記正極活物質層との間に、LaAlO
3層を有しており、かつ
前記正極活物質層と前記正極活物質層用下地層との間に、前記LaAlO
3層を介して電流が流れることができる、
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記LaAlO
3層及び前記正極活物質層が、前記正極活物質層用下地層に対してエピタキシャル成長している、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質層が、リチウム金属酸化物を含有している、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質層の上に、固体電解質層を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記固体電解質層が、リン酸系固体電解質を含有している、請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、他の二次電池よりもエネルギー密度が高く、高電圧での動作が可能という特徴を有している。そのため、小型軽量化を図りやすい二次電池として携帯電話等の情報機器に使用されており、近年、電気自動車やハイブリッド自動車用等、大型の動力用としての需要も高まっている。
【0003】
近年、SrTiO3層上に正極活物質層としてのLiCoO2層がエピタキシャル成長している構成を有するリチウムイオン二次電池が提案されている。
【0004】
例えば、非特許文献1及び2は、SrTiO3層上にSrRuO3層及びLiCoO2層をこの順に有し、かつSrRuO3層及びLiCoO2層がSrTiO3層上においてエピタキシャル成長している構成を有する全固体電池を開示している。また、SrRuO3層の代わりにLaNiO3層を用いても全固体電池が動作することも知られている。
【0005】
なお、特許文献1は、SrTiO3層と、SrTiO3層上に積層されたLaAlO3薄膜層とを備えることを特徴とする電子放出源を開示している。同文献は、当該構成により、低仕事関数を有し、かつ化学的に安定な電子放出源が得られると記載している。
【0006】
また、集電体層と活物質層との間、又は活物質層と電解質層との間に、特定の構成を有する中間層を設けることによって、電池の性能を向上させ得ることが知られている。
【0007】
例えば、特許文献2は、正極活物質層、負極活物質層、及び正極活物質層と負極活物質層との間に配設された電解質層を有する発電要素を有しており、当該発電要素が硫黄を含有する材料を含有しており、かつ集電体層が銅箔、ニッケル箔、鉄箔、アルミニウム箔、銅ニッケル合金箔、及び、銅鉄合金箔からなる群より選択された集電箔である電池において、Cr、Ti、W、C、Ta、Au、Pt、Mn、及び、Moからなる群より選択される1又は2以上の元素を含有する層を、集電箔と発電要素との間に配置することを開示している。同文献は、電池が当該構成を有することにより、集電体と発電要素との界面における抵抗の上昇及び製造コストを抑制することができると記載している。
【0008】
また、特許文献3は、固体電解質と正極活物質との間に中間層を有しており、当該中間層を構成する元素種は、正極活物質を構成する元素種の全てを含み、かつ中間層内におけるリチウムイオンは、正極活物質内におけるリチウムイオンよりも、イオン性が低い、全固体リチウムイオン二次電池を開示している。同文献は、全固体リチウムイオン二次電池が当該構成を有することにより、正極活物質と固体電解質の間の抵抗が低く、高速な充放電が可能な全固体リチウムイオン二次電池が得られると記載している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Tan et al, APPLIED MATERIALS & INTERFACES, 2016, 8, 6727-6735
【文献】Taminato et al, Journal of Power Sources, 307(2016), 599-603
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013-37855号公報
【文献】特開2012-49023号公報
【文献】特開2016-225281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
NbがドープされているSrTiO3層上に正極活物質層を有する電池は、NbがドープされているSrTiO3層と正極活物質層との間の抵抗が大きいため、電池の内部抵抗が大きいと考えられる。
【0012】
本開示は、NbがドープされているSrTiO3層上に正極活物質層を有する電池であって、内部抵抗を抑制した電池を提供することを目的とする。
【0013】
この点に関して、非特許文献1及び2は、SrTiO3層上に正極活物質層としてのLiCoO2層がエピタキシャル成長している構成を有する電池において、SrTiO3層と正極活物質層との間にSrRuO3層を設けることにより、この様な電池を機能させている。
【0014】
本開示は、非特許文献1及び2とは異なる材料を用いて上記課題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
正極活物質層用下地層及び正極活物質層が積層されている構成を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極活物質層用下地層は、NbがドープされているSrTiO3層であり、
前記正極活物質層用下地層と前記正極活物質層との間に、LaAlO3層を有しており、かつ
前記正極活物質層と前記正極活物質層用下地層との間に、前記LaAlO3層を介して電流が流れることができる、
リチウムイオン二次電池。
《態様2》
前記LaAlO3層及び前記正極活物質層が、前記正極活物質層用下地層に対してエピタキシャル成長している、態様1に記載のリチウムイオン二次電池。
《態様3》
前記正極活物質層が、リチウム金属酸化物を含有している、態様1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
《態様4》
前記正極活物質層の上に、固体電解質層を有する、態様1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
《態様5》
前記固体電解質層が、リン酸系固体電解質を含有している、態様4に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、NbがドープされているSrTiO3層上に正極活物質層を有する電池であって、内部抵抗を抑制した電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本開示のリチウムイオン二次電池のある実施形態の概略図である。
【
図2】
図2は、本開示とは異なるリチウムイオン二次電池の一例の概略図である。
【
図3】
図3は、NbがドープされているSrTiO
3層、及びLaAlO
3層の結晶構造を示す概略図である。
【
図4】
図4は、NbがドープされているSrTiO
3層及びLiCoO
2層のエピタキシャル関係を示す概略図である。
【
図5】
図5は、NbがドープされているSrTiO
3層及びSrZrO
3層の結晶構造を示す概略図である。
【
図6】
図6は、実施例1のリチウムイオン二次電池のコール・コールプロットを示すグラフである。
【
図7】
図7は、比較例1のリチウムイオン二次電池のコール・コールプロットを示すグラフである。
【
図8A】
図8Aは、比較例2のリチウムイオン二次電池のコール・コールプロットの低周波部分を示すグラフである。
【
図8B】
図8Bは、比較例2のリチウムイオン二次電池のコール・コールプロットの高周波部分を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0019】
《リチウムイオン二次電池》
本開示のリチウムイオン二次電池は、正極活物質層用下地層及び正極活物質層が積層されている構成を有するリチウムイオン二次電池であって、正極活物質層用下地層は、NbがドープされているSrTiO3層であり、正極活物質層用下地層と正極活物質層との間に、LaAlO3層を有しており、かつ正極活物質層と正極活物質層用下地層との間に、LaAlO3層を介して電流が流れることができる、リチウムイオン二次電池である。
【0020】
本開示のリチウムイオン二次電池が全固体電池である場合には、リチウムイオン二次電池は、正極活物質層の上、すなわち正極活物質層の正極活物質層用下地層が積層されている面の反対側の面に、固体電解質層を有していることができる。また、固体電解質層の正極活物質層が積層されている面の反対側の面に、負極活物質層及び負極集電体層をこの順に有していることができる。
【0021】
本開示のリチウムイオン二次電池が液系電池である場合には、リチウムイオン二次電池は、正極活物質層の上に、セパレーター層を有していることができる。また、セパレーター層の正極活物質層が積層されている面の反対側の面に、負極活物質層及び負極集電体層をこの順に有していることができる。さらに、リチウムイオン二次電池は、電解液を有していることができる。
【0022】
また、NbがドープされているSrTiO3層は導電性を有するため、正極活物質層用下地層は正極集電体を兼ねることができるが、正極活物質層用下地層の正極活物質層が積層されている面の反対側に、正極集電体層を設けた構成を有していてもよい。
【0023】
図1は、本開示のリチウムイオン二次電池のある実施形態の概略図である。
図1において、本開示のリチウムイオン二次電池のある実施形態は、全固体電池である。
図1において、リチウムイオン二次電池10は、正極活物質層用下地層1、正極活物質層2、及び固体電解質層3がこの順に積層されている構成を有する。ここで、正極活物質層用下地層1は、NbがドープされているSrTiO
3層であり、正極活物質層2は、LiCoO
2層であり、かつ固体電解質層3はLi
3PO
4層である。また、正極活物質層用下地層1と正極活物質層2との間には、LaAlO
3層4が存在する。ここで、LaAlO
3層4及び正極活物質層2は、正極活物質層用下地層1に対してエピタキシャル成長していることができる。さらに、固体電解質層3の上には負極活物質層5としてのLi層が積層されている。なお、正極活物質層用下地層1は、集電体層を兼ねており、集電タブとしてのTi層20及びAu層30に接合されている。なお、
図1は、本開示のリチウムイオン二次電池を全固体電池に限定するものではなく、全固体電池である場合の構成を限定する趣旨でもない。
【0024】
図2は、本開示とは異なるリチウムイオン二次電池の一例の概略図である。
図2に示すように、本開示とは異なるリチウムイオン二次電池の一例は、正極活物質層用下地層1及び正極活物質層2の間に
図1に示すLaAlO
3層4が存在しない点で、本開示のリチウムイオン二次電池と異なる。
【0025】
図3は、本開示のリチウムイオン二次電池のある実施形態における、NbがドープされているSrTiO
3層及びLaAlO
3層の結晶構造を示す概略図である。
図3に示す態様では、NbがドープされているSrTiO
3層1は、SrO層とTiO
2層が交互に積層されており、LaAlO
3層4と接する表面の層はTiO
2層で終端している。また、LaAlO
3層4は、LaO層及びAlO
2層が交互に積層されており、最表面はAlO
2層で終端している。SrTiO
3層1は、ペロブスカイト構造を有しており、同様にペロブスカイト構造を有するLaAlO
3層4はSrTiO
3層1上にエピタキシャル成長している。そのため、LaAlO
3層4の面内格子定数は、SrTiO
3層の配向によって確定されていると考えられる。なお、
図3の場合、LaAlO
3層4は、LaO層及びAlO
2層が交互に3層ずつ積層された構造を有する。
【0026】
なお、
図3は、本開示のリチウムイオン二次電池におけるNbがドープされているSrTiO
3層及びLaAlO
3層の構造の一例を示すものであり、これらの層の構造を限定する趣旨ではない。
【0027】
図4は、NbがドープされているSrTiO
3層及びLiCoO
2層のエピタキシャル関係を示す模式図である。
図4に示す態様では、SrTiO
3層は、ペロブスカイト構造を有しており、最表面が(100)配向である。LiCoO
2層は、層状岩塩型構造を有しており、SrTiO
3層の(100)配向上に、(104)配向でエピタキシャル成長している。本開示のリチウムイオン二次電池では、NbがドープされているSrTiO
3層及びLiCoO
2層の間にはLaAlO
3層が積層されているが、LaAlO
3層もNbがドープされているSrTiO
3の(100)配向上にエピタキシャル成長しているため、LiCoO
2層の配向は同様である。
【0028】
なお、
図4は、本開示のリチウムイオン二次電池におけるNbがドープされているSrTiO
3層及びLiCoO
2層の構造の一例を示すものであり、これらの層の構造等を限定する趣旨ではない。
【0029】
また、
図5は、NbがドープされているSrTiO
3層及びSrZrO
3層の結晶構造を示す概略図である。
図5に示す態様では、NbがドープされているSrTiO
3層1は、SrO層とTiO
2層が交互に積層されており、SrZrO
3層6と接する表面の層はTiO
2層で終端している。また、SrZrO
3層6は、SrO層及びZrO
2層が交互に積層されており、最表面はZrO
2層で終端している。SrTiO
3層1は、ペロブスカイト構造を有しており、同様にペロブスカイト構造を有するSrZrO
3層6はSrTiO
3層1上にエピタキシャル成長している。そのため、SrZrO
3層6の面内格子定数は、SrTiO
3層の配向によって確定されていると考えられる。なお、
図5においてSrZrO
3層6は、SrO層及びZrO
2層が交互に3層ずつ積層された構造を有する。
【0030】
この様に、NbがドープされているSrTiO3層上にSrZrO3層が積層している構造は、NbがドープされているSrTiO3層上にLaAlO3層が積層している構造に類似した構造を有している。
【0031】
しかしながら、NbがドープされているSrTiO3層と正極活物質層との間にLaAlO3層を挿入することによって、電池の内部抵抗を低減させることができたにもかかわらず、NbがドープされているSrTiO3層と正極活物質層との間にSrZrO3層を積層させた構成では電池の内部抵抗を低減させることができることはできなかった。
【0032】
原理によって限定されるものではないが、本開示のリチウムイオン二次電池の構成によって、SrTiO3層上に正極活物質層を有する電池の内部抵抗を抑制することができる原理は、以下のとおりと考えられる。
【0033】
NbがドープされているSrTiO3は仕事関数が小さいため、NbがドープされているSrTiO3層を正極活物質層用下地層として使用した場合、正極活物質層用下地層と正極活物質層との界面においてショットキー障壁が形成され、電池の内部抵抗が増大すると考えられる。
【0034】
この点に関して、NbがドープされているSrTiO3の層を正極活物質層用下地層として使用する場合において、例えば非特許文献1及び2では、正極活物質層用下地層と正極活物質層との間にSrRuO3等の仕事関数の大きい導電性の金属酸化物を挿入している。これらの文献では、この様な構成により、正極活物質層用下地層と正極活物質層との界面におけるショットキー障壁の形成を抑制していると考えられる。
【0035】
本開示者らは、NbがドープされているSrTiO3層上に正極活物質層を有する電池において、NbがドープされているSrTiO3層と正極活物質層との間にLaAlO3層を挿入することによって、電池の内部抵抗を低減させることができることを見出した。
【0036】
《正極活物質層用下地層》
本開示において、正極活物質層用下地層は、NbがドープされているSrTiO3層である。
【0037】
NbがドープされているSrTiO3層は、SrO層とTiO2層が交互に積層されている。
【0038】
正極活物質層用下地層におけるNbのドープの割合は、正極活物質層用下地層に導電性を与えることができるものであれば特に限定されず、例えば0質量%超、5.0質量%以下であってよい。
【0039】
正極活物質層用下地層におけるNbのドープの割合は、0質量%超、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.4質量%以上、又は0.5質量%以上であってよく、5.0質量%以下、3.0質量%以下、1.0質量%以下、0.8質量%以下、又は0.6質量%以下であってよい。
【0040】
NbがドープされているSrTiO3層の、LaAlO3層が積層される側の最表面の配向は特に限定されず、例えば(100)、(110)、又は(111)であってよい。
【0041】
《LaAlO3層》
本開示において、LaAlO3層は、正極活物質層用下地層と正極活物質層との間に積層されている。このLaAlO3層は、正極活物質層用下地層に対してエピタキシャル成長していてよい。
【0042】
LaAlO3層は、交互に積層されたLaO層及びAlO2層を含んでいる。LaO層及びAlO2層の層数は特に限定されないが、LaAlO3層においてトンネル電流を発現することができる範囲内であることが好ましい。
【0043】
LaO層及びAlO2層の層数は、それぞれ1層以上10層以下であってよい。LaO層及びAlO2層の層数は、それぞれ1層以上、2層以上、3層以上、4層以上、又は5層以上であってよく、10層以下、9層以下、8層以下、7層以下、又は6層以下、であってよい。
【0044】
LaAlO3層のLaO層及びAlO2層の層数は、LaAlO3層を形成する際の製膜時間を制御して、基板に到達するLa、Al、及びOの供給量を調節することができる。例えば、LaAlO3層をパルスレーザー堆積法によって層を形成する場合には、RHEED振動観察を行うことによって、強度と製膜時間の関係から、形成されるLaAlO3層のLaO層及びAlO2層の層数を調節することができる。
【0045】
《正極活物質層》
本開示において、正極活物質層が含有する正極活物質は、リチウム金属酸化物であってよいが、正極活物質であれば特に限定されず、例えばLiNiCoAlO2、LiNiMnCoO2、LiFePO4、LiMn1-xFexPO4又は、LiMn2O4、又はLiNi0.5Mn1.5O4等を用いることができる。また、正極活物質層は、正極活物質層用下地層に対してエピタキシャル成長していてもよい。
【0046】
《固体電解質層》
本開示のリチウムイオン二次電池が全固体電池である場合、リチウムイオン二次電池は、正極活物質層の上、すなわち正極活物質層の、正極活物質層用下地層側の面の反対側の面の上に固体電解質層を有していることができる。固体電解質層は、固体電解質としてのリン酸系酸化物固体電解質を含有していることができるが、固体電解質は、リン酸系酸化物固体電解質に限定されず、全固体電池の固体電解質として利用可能な材料を用いることができる。例えば、固体電解質は、硫化物固体電解質、リン酸系酸化物固体電解質以外の酸化物固体電解質、又はポリマー電解質等であってよいが、これらに限定されない。
【0047】
硫化物固体電解質の例としては、硫化物系非晶質固体電解質、硫化物系結晶質固体電解質、又はアルジロダイト型固体電解質等が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な硫化物固体電解質の例として、Li2S-P2S5系(Li7P3S11、Li3PS4、Li8P2S9等)、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-LiBr-Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-GeS2(Li13GeP3S16、Li10GeP2S12等)、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li7-xPS6-xClx等;又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0048】
酸化物固体電解質の例としては、Li7La3Zr2O12、Li7-xLa3Zr1-xNbxO12、Li7-3xLa3Zr2AlxO12、Li3xLa2/3-xTiO3、又はLi1+xAlxTi2-x(PO4)3、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3、Li3PO4、若しくはLi3+xPO4-xNx(LiPON)等のリン酸系酸化物固体電解質等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
ポリマー電解質の例としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、及びこれらの共重合体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
固体電解質は、ガラスであっても、結晶化ガラス(ガラスセラミック)であってもよい。また、固体電解質層は、上述した固体電解質以外に、必要に応じてバインダー等を含んでもよい。
【0051】
《負極活物質層》
負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含み、好ましくは上述した固体電解質をさらに含む。そのほか、使用用途や使用目的等に合わせて、例えば、導電助剤又はバインダー等のリチウムイオン二次電池の負極活物質層に用いられる添加剤を含むことができる。
【0052】
〈負極活物質〉
負極活物質の材料としては、特に限定されず、金属リチウムであってよく、リチウムイオン等の金属イオンを吸蔵及び放出可能な材料であってよい。リチウムイオン等の金属イオンを吸蔵及び放出可能な材料としては、例えば、負極活物質は、合金系負極活物質又は炭素材料等であってよいが、これらに限定されない。
【0053】
合金系負極活物質としては、特に限定されず、例えば、Si合金系負極活物質、又はSn合金系負極活物質等が挙げられる。Si合金系負極活物質には、ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物、又はこれらの固溶体等がある。また、Si合金系負極活物質には、ケイ素以外の元素、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、Ti等を含むことができる。Sn合金系負極活物質には、スズ、スズ酸化物、スズ窒化物、又はこれらの固溶体等がある。また、Sn合金系負極活物質には、スズ以外の元素、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Ti、Si等を含むことができる。これらの中で、Si合金系負極活物質が好ましい。
【0054】
炭素材料としては、特に限定されず、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、又はグラファイト等が挙げられる。
【0055】
〈導電助剤〉
導電助剤としては、特に限定されない。例えば、導電助剤は、VGCF(気相成長法炭素繊維、Vapor Grown Carbon Fiber)及びカーボンナノ繊維等の炭素材並びに金属材等であってよいが、これらに限定されない。
【0056】
〈バインダー〉
バインダーとしては、特に限定されない。例えば、バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ブタジエンゴム(BR)若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の材料、又はこれらの組合せであってよいが、これらに限定されない。
【0057】
《集電体層》
集電体層としては、正極集電体層及び負極集電体層を挙げることができる。本開示のリチウムイオン二次電池では、導電性を有する正極活物質層用下地層が正極集電体層を兼ねることができるが、正極集電体層を別途有する構成であってもよい。
【0058】
〈正極集電体層〉
正極集電体層に用いられる材料は、特に限定されず、リチウムイオン二次電池に使用できるものを適宜採用されうる。例えば、正極集電体層に用いられる材料は、SUS、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボン等であってよいが、これらに限定されない。
【0059】
正極集電体層の形状として、特に限定されず、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0060】
〈負極集電体層〉
負極集電体層に用いられる材料は、特に限定されず、リチウムイオン二次電池に使用できるものを適宜採用されうる。例えば、負極集電体層に用いられる材料は、SUS、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボン等であってよいが、これらに限定されない。
【0061】
負極集電体層の形状として、特に限定されず、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【実施例】
【0062】
《実施例1》
以下のようにして実施例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0063】
パルスレーザー堆積法によってNbがドープされているSrTiO3層の上にLaAlO3層を堆積させた。なお、LaAlO3層は、LaO層及びAlO2層が交互に3層積層された構成を有していた。
【0064】
その後、パルスレーザー堆積法によってLaAlO3層の上にLiCoO2薄膜を堆積させた。さらに、パルスレーザー堆積法によってLiCoO2薄膜上にLi3PO4薄膜を堆積させた。
【0065】
その後、抵抗加熱蒸着法によってLi3PO4薄膜上にLi薄膜を堆積させた。
【0066】
また、NbがドープされているSrTiO3層上に、DCマグネトロンスパッタリング法によってTi及びAu薄膜をこの順で堆積させて集電タブとした。
【0067】
《比較例1》
正極活物質層としてのLiCoO2薄膜を正極活物質層用下地層としてのNbがドープされているSrTiO3層の上に直接堆積させたことを除いて、実施例1と同様にして比較例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0068】
《比較例2》
LaAlO3層の代わりにSrZrO3層を用いたことを除いて、実施例1と同様にして比較例2のリチウムイオン二次電池を作製した。なお、SrZrO3層は、パルスレーザー堆積法によってNbがドープされているSrTiO3層の上に堆積させた。
【0069】
《電池の抵抗の比較》
実施例1並びに比較例1及び2のリチウムイオン二次電池について、充電時(3.9V)のコール・コールプロットを行うことにより、それぞれのリチウムイオン二次電池のインピーダンスを測定した。実施例1のリチウムイオン二次電池のコール・コールプロットを
図6に、比較例1のリチウムイオン二次電池のコール・コールプロットを
図7に、比較例2のリチウムイオン二次電池のコール・コールプロットを
図8A及びBにそれぞれ示した。
【0070】
図6及び
図7は、それぞれ実施例1及び比較例1のリチウムイオン二次電池のコール・コールプロットを示すグラフである。
図6に示すように、実施例1のリチウムイオン二次電池では、充電時(3.9V)のコール・コールプロットにおいて小さい半円が1つ得られたのに対して、
図7に示すように、比較例1のリチウムイオン二次電池では、充電時(3.9V)のコール・コールプロットにおいて小さい半円と大きい半円が1つずつ得られた。
図6及び
図7において、小さい半円は、LiCoO
2のインピーダンスを示しており、大きい半円は、界面インピーダンスを示していると考えられる。
【0071】
また、
図8Aは、比較例2のリチウムイオン二次電池のコール・コールプロットの低周波部分を示すグラフであり、
図8Bは、比較例2のリチウムイオン二次電池のコール・コールプロットの高周波部分を示すグラフである。
図8A及び
図8Bに示すように、比較例2のリチウムイオン二次電池では、充電時(3.9V)のコール・コールプロットにおいて、小さい半円(
図8Bにおける50kOhm以下の部分に存在する半円)と大きい半円(
図8Aにおける半円の一部)が1つずつ得られた。
図8A及び
図8Bにおいて、小さい半円は、LiCoO
2のインピーダンスを示しており、大きい半円は、界面インピーダンスを示していると考えられる。
【0072】
実施例1のリチウムイオン二次電池では、NbがドープされているSrTiO3層とLiCoO2層との間にLaAlO3層が存在することにより、NbがドープされているSrTiO3層とLiCoO2層との界面にショットキー障壁の形成が抑制されたと考えられる。これにより、NbがドープされているSrTiO3層とLiCoO2層との界面の抵抗が抑制され、コール・コールプロットにおいて、LiCoO2のインピーダンスを示す小さい半円のみが得られたと考えられる。
【0073】
これに対して、比較例1のリチウムイオン二次電池では、NbがドープされているSrTiO3層とLiCoO2層との界面においてショットキー障壁が形成されていたことにより、NbがドープされているSrTiO3層とLiCoO2層との界面抵抗が高かったため、コール・コールプロットにおいて、LiCoO2のインピーダンスを示す小さい半円及び界面インピーダンスを示す大きい半円の両方が得られたと考えられる。
【0074】
また、比較例2のリチウムイオン二次電池では、NbがドープされているSrTiO3層とLiCoO2層との界面に配置されていたSrZrO3層では、ショットキー障壁を抑制することができなかったために、NbがドープされているSrTiO3層、SrZrO3層、及びLiCoO2層間の界面抵抗が高かったため、コール・コールプロットにおいて、固体電解質のインピーダンスを示す小さい半円及び界面インピーダンスを示す大きい半円の両方が得られたと考えられる。
【符号の説明】
【0075】
1 正極活物質層用下地層
2 正極活物質層
3 固体電解質層
4 LaAlO3層
5 負極活物質層
6 SrZrO3層
10 リチウムイオン二次電池
20 Ti層
30 Au層