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特許7025337紙又は板紙の製造方法、板紙トレー及びこれに使用するための発泡性ポリマーコート粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】紙又は板紙の製造方法、板紙トレー及びこれに使用するための発泡性ポリマーコート粒子
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/56 20060101AFI20220216BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20220216BHJP
   C08J 9/16 20060101ALI20220216BHJP
   C08J 9/14 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
D21H21/56
D21H27/00 E
C08J9/16 CEP
C08J9/14 CES
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018542280
(86)(22)【出願日】2017-02-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 IB2017050629
(87)【国際公開番号】W WO2017137879
(87)【国際公開日】2017-08-17
【審査請求日】2020-01-23
(31)【優先権主張番号】1650183-5
(32)【優先日】2016-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レーセネン、ヤリ
(72)【発明者】
【氏名】ヒルトゥネン、マリ
(72)【発明者】
【氏名】ハルリン、アリ
(72)【発明者】
【氏名】コスケラ、ハンナ
(72)【発明者】
【氏名】ライネ、クリスティアーネ
(72)【発明者】
【氏名】ケラ、ラウラ
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-212319(JP,A)
【文献】特表2003-520913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 21/56
D21H 27/00
C08J 9/16
C08J 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙又は板紙の製造方法であって、
(i)パルプ繊維及び発泡剤を発泡性ポリマーでコーティングしてポリマーコート発泡性粒子を製造するステップ、
(ii)ある量の前記粒子を製紙用繊維状素材に包含させるステップ、
(iii)抄紙機又は板紙抄紙機の形成布上で前記繊維状素材からウェブを形成するステップ、
(iv)前記ウェブをプレス及び乾燥して紙層又は板紙層とするステップ、並びに
(v)前記紙層又は板紙層を加熱して、前記粒子に含有された前記発泡剤に、前記ポリマーを発泡させる蒸気又はガスを生成させるステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記発泡剤が水分であり、水分が蒸発してポリマーを発泡させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発泡性ポリマーのメルトフローレートが190℃にて少なくとも約15g/10分であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記発泡性ポリマーが低密度ポリエチレン(LDPE)を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(i)において、前記粒子が二重層コーティングを施され、その内側層の前記発泡性ポリマーのメルトフローレートが、その外側層の前記ポリマーのメルトフローレートよりも高く、
ステップ(v)において、前記内側層の前記ポリマーが、包囲された前記発泡剤によって発泡されるのに対して、前記外側層の前記ポリマーは、実質的に未発泡のままである
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記粒子中の前記繊維が1~50mmの長さを有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記粒子中のポリマーの構成比が5~65重量%であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記粒子が、前記形成布上に供給された前記素材の乾燥重量の5~25%を形成するために、好ましくは前記粒子をプロセス内で循環する液体と混合することによって、前記抄紙機又は板紙抄紙機のヘッドボックスにて前記繊維状素材に添加されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記粒子が多層板紙の中間層に包含されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマーを発泡させるためのステップ(v)の前記温度が約110~150℃、好ましくは約115~125℃であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記紙又は板紙が加熱前に両面にポリマーコーティング層を施されていることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記紙又は板紙をコーティングするために使用される前記ポリマーが、前記素材に包含された前記粒子の前記発泡性ポリマーよりも低いメルトフローレートを有することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマーの前記発泡が新たに製造された紙又は板紙を巻き取る前に行われることを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
(i)製造される物品に一致する形状とされた凹部を有する型の上に、請求項1に記載のステップ(iv)で製造した板紙を配置するステップ、
(ii)前記板紙を真空によって前記型に引き寄せるステップ、
(iii)ステップ(ii)の間に、前記板紙を加熱して、前記板紙に包含された前記ポリマーコート粒子中で発泡させるステップ、及び
(iv)新たに成形された物品を冷却して、前記板紙内の前記発泡ポリマーを固化させるステップ
を含む、請求項1に記載のステップ(i)から(iv)に従って製造した板紙からトレー又はプレートなどの板紙物品を製造する方法。
【請求項15】
(i)発泡性の第1の熱可塑性ポリマー及び第1の溶媒を含有する溶液中に長さ1~50mmの繊維状セルロース粒子を懸濁させるステップ、
(ii)添加された水及び転相によって前記第1の熱可塑性ポリマーを前記繊維状粒子上に析出させて、包囲された水分及び第1のポリマーコーティング層を有する繊維状粒子を得るステップ、
(iii)ステップ(ii)で得られた前記ポリマーコート粒子を、前記第1の熱可塑性ポリマーのメルトフローレートよりも低いメルトフローレートを有する第2の熱可塑性ポリマー及び第2の溶剤を含む溶液に懸濁させるステップ、並びに
(iv)前記第2の熱可塑性ポリマーを添加された水及び転相によって前記繊維状粒子上に析出させ、二重層ポリマーコーティングを有する繊維状粒子を得るステップであって、その内側第1ポリマーコーティング層は発泡性であるが、その外側第2ポリマーコーティング層は未発泡である、ステップ
を含む、請求項5に記載の方法において使用するためのポリマーコート粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、紙又は板紙の製造方法並びにそれによって得られる紙又は板紙に関する。さらに、本発明は、プレート又はトレーなどの板紙製品を製造する方法及び紙又は板紙の作製に使用されるポリマーコート粒子を製造する方法を含む。
【0002】
プレート、トレーなどの容器の繊維状板紙物品の製造は、物品の形状に対応する凹部又は空洞を有する型の使用による深絞り又は真空成形ステップを含む。物品が曲線的な、通常円形状又は楕円形状を有する場合、この手順によって、長方形の物品の角部に又はその周囲全体にしわ又はひだが生じる。しかし、しわを低減又は回避し、物品に使用される板紙の成形性を改善するために、多様な技術が開発されている。
【0003】
しわを回避するための既知の手法には、国際公開第2013/140034号に記載されているトレーの段付き側壁を製造する多段階成形技術や、国際公開第2015/063643号に記載されているトレー側壁を自由形成できるように特別に設計された成形ツールが挙げられる。
【0004】
別の手法は、トレーなどの成形物品に使用される板紙の展性を向上させることである。この目的のために、2枚の繊維状板紙層間に挟まれたポリマー層を有する多層板紙が存在する。中間ポリマー層は、2枚の板紙層を成形ステップにおいて互いにスライドさせることによって、多層板紙の成形性を向上させることを目的としている。しかし、このような成形性はむしろ制限されているものの、多層材料の製造コストは高い。
【0005】
国際公開第2014/080084号は、ポリマーを含浸させて、成形物品にすることができる繊維ウェブの発泡成形を提案している。発泡形成ポリマー含浸材料は、特に熱形成において伸びが改善されたと言われる。しかし、ウェブを続いて含浸させることは、このプロセスに追加の加工ステップを負わせることになり実用的でない。
【0006】
国際公開第2008/113887号には、使い捨て板紙カップから飲む高温の飲み物によって使用者の指の火傷を防止する具体的な技術が記載されている。この教示は、低密度ポリエチレン(LDPE)などのポリマーで板紙製造に使用される繊維ベースの用紙をドープすることであり、板紙抄紙機で製造した乾燥板紙が最終的に得られる。板紙を加熱すると、ポリマーが溶融し、水蒸気の気泡が板紙に浸透して、板紙を多孔質にする。細孔を発生させる加熱を、板紙又は板紙から作製されたカップに最初に加えることができる。ガス充填細孔は、指とカップ内の高温液体との間で断熱材として作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2013/140034号
【文献】国際公開第2015/063643号
【文献】国際公開第2014/080084号
【文献】国際公開第2008/113887号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が対処する課題は、上記従来技術を背景として、繊維状紙又は板紙の新規な構成に基づくプレート、トレーなどの容器の成形のための改良技術を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明により、紙又は板紙は、
(i)パルプ繊維及び発泡剤を発泡性ポリマーでコーティングしてポリマーコート発泡性粒子を製造するステップ、
(ii)ある量の前記粒子を製紙用繊維状素材に包含させるステップ、
(iii)抄紙機又は板紙抄紙機の形成布上で前記繊維状素材からウェブを形成するステップ、
(iv)前記ウェブをプレス及び乾燥して紙層又は板紙層とするステップ、並びに
(v)前記紙層又は板紙層を加熱して、前記粒子に含有された前記発泡剤に、前記ポリマーを発泡させる蒸気又はガスを生成させるステップ
を含む方法によって製造される。
【0010】
本発明者らの知見は、内部から粒子を発泡させることにより、粒子のかなりの膨張が生じ、好ましくは粒子同士が接触し、これにより繊維層の可塑性及び成形性が大幅に向上するということである。この点で、このような層は、上述した既知の多層板紙の中間ポリマー層にほぼ匹敵する。本発明による層は、抄紙機又は板紙抄紙機における通常の製紙技術により製造することができるため、従来技術の別々のポリマー層よりもがはるかに安価で製造され、在来の(全繊維)繊維層と組み合わせて標準製造技術によって多層板紙とすることができる。
【0011】
繊維ベースである発泡性粒子によって、成形性層及び製品中におけるバイオ再生可能繊維材料の構成比が一般に高いという、さらなる利点がもたらされる。粒子は、非常に薄くポリマーコーティングされていてもよく、即ち粒子中のポリマーの量は、繊維と比較して少なくてよいが、粒子は成形性層中に均一に分散されている場合に、なお大きな膨張及び結合能力を有する。
【0012】
好ましくは、発泡剤は水、即ち、セルロース系繊維に含有される水分であり、蒸発してポリマーを発泡させる。発泡剤の利点は、セルロース系繊維が多量の水を保持又は結合して発泡を生じる能力である。
【0013】
または、発泡剤は、加熱時にガスを分解し遊離させる他の揮発性液体又は化学薬品であってもよい。例えば、加熱すると気体状二酸化炭素を放出する重炭酸ナトリウム又はアゾジカーボンアミドなどの固体は、湿潤又は乾燥セルロース系繊維と組み合わせて使用することができる。
【0014】
国際公開第2008/113887号と比較すると、本発明の本質的な新規性は、ドープポリマー粒子の発泡が外来の水分に依存するこの参考文献に対して、水分を蒸発させ、粒子をその内部から発泡及び膨張させるための、粒子内での繊維と発泡剤との組み合わせ、好ましくは湿潤繊維である。これにより、粒子の膨張がより大きくなり、板紙表面を閉塞させて発泡に必要な水分の早期放出を防止するための非発泡性ポリマーコーティング層は必要とされない。国際公開第2008/113887号には、成形の代わりに、曲げ及び密封によって板紙ブランクから飲用カップを作製することが記載されているが、板紙に埋め込まれたドープポリマー粒子による成形性の改善は目的とされず、又は言及もされていない。
【0015】
加熱時に容易な発泡を確実にするために、発泡性ポリマーのメルトフローレートは、190℃にて少なくとも約15g/10分であることが好ましい。本発明での使用に好適な発泡性ポリマーは、低密度ポリエチレン(LDPE)である。
【0016】
本発明の有利な実施形態により、前記第1のステップ(i)において、前記粒子は、内側層の発泡性ポリマーのメルトフローレートが、外側層のポリマーの前記メルトフローレートよりも高くなるように特に設計された二重層コーティングを施され、前記最終ステップ(v)において、内側層ポリマーは、包囲された発泡剤によって発泡されるのに対して、外側層のポリマーは、実質的に未発泡のままである。未発泡の薄い外側層は、発泡体の製造及び支持に必要な蒸気又はガスの放出に対するバリアを成すと共に、発泡した内側層の膨張に応じて伸張することができる。
【0017】
粒子に包囲された繊維は、1~50mmの長さを有し得る。前記粒子中のポリマーの構成比は、5~65重量%の範囲で変動し得る。粒子は、一般に約1:2~1:10の縦横比を有する細長い滴形状を有する。しかし粒子は、ポリマーによって互いに隔離された複数の繊維を有する糸であってもよい。このような粒子は、繊維とポリマーとの溶融ブレンドの押出によって製造することができる。次いで、得られた糸を、製紙用繊維状素材を切断して包含させるのに好適な小片としてよい。
【0018】
さらなる実施形態において、粒子は、十分に湿潤して、発泡性ポリマーでコーティングされ、1:100又は1:3000までの縦横比を有する、未破断の繊維糸であってよい。このような細長い糸状の粒子の利点は、板紙の物品への成形時に、粒子が繊維網目を支持することである。
【0019】
紙層又は板紙層中の発泡性及び膨張性粒子の構成比は、5~25重量%の範囲内で変動し得る。粒子の量は、粒子の少なくとも一部を発泡して膨張させる際に、隣接する粒子と十分に接触することが好ましい。
【0020】
粒子は、形成布上に供給された素材の乾燥重量の5~25%を形成するように、好ましくは粒子をプロセス内で循環する液体と混合することによって、抄紙機又は板紙抄紙機のヘッドボックスにて繊維状素材に添加され得る。市販のフラッシュミキシング(トランペットジェット)技術は、混合を行い、混合物を素材に供給するのに有用である。
【0021】
本発明の好ましい実施形態により、粒子は多層板紙の中間層に包含される。このような中間層を挟む隣接層は、通常の全繊維紙層又は板紙層であってもよく、必要に応じて、バリア及びヒートシールの目的で在来の最外ポリマーコーティング層が存在してよい。
【0022】
前記ステップ(v)で粒子の発泡をもたらす温度は、約110~200℃、好ましくは約115~125℃であってよい。後者のより狭い範囲は、水分を蒸発させ、LDPEの内側コーティング層を溶融及び発泡させ、同時に、より低いメルトフローレートを有するポリプロピレン(PP)の外側コーティング層を未発泡のままとするが、内側層の膨張に応じて伸張させるのに好適である。
【0023】
一般に、紙又は板紙は加熱前に、原料に包含された粒子の発泡を引き起こす、押出ポリマーコーティング層がその両面に設けられることが好ましい。粒子が単層コーティングのみを有する場合、紙又は板紙をコーティングするために使用されるポリマーは、粒子のポリマーコーティングよりも低いメルトフローレートを有することが好ましい。二重コート粒子の場合、この特徴はあまり重要ではない。従来のLDPEを押出コーティング層に使用して、ヒートシール性を容易に得ることができる。
【0024】
ポリマーの発泡は、新たに製造した紙又は板紙を巻き取る前に行ってよい。又は、発泡は、板紙が物品に成形されるときに最初に行ってよく、又は成形済み物品のみを発泡させる。
【0025】
本発明による方法を使用して得られる紙又は板紙は、その少なくとも1枚の繊維層が木材パルプ繊維を包む発泡ポリマーを含有することを特徴とする。
【0026】
上記のようにして製造した板紙からプレート又はトレーなどの板紙物品を製造する本発明による方法は、
(i)製造される物品に一致する形状とされた凹部を有する型の上に板紙を配置するステップ、
(ii)板紙を真空によって型に引き寄せるステップ、
(iii)ステップ(ii)の間に、板紙を加熱して、板紙に包含されたポリマーコート粒子中で発泡させるステップ、及び
(iv)新たに成形された物品を冷却して、板紙内の発泡ポリマーを固化させるステップ
を含む。
【0027】
紙又は板紙の作製に使用するポリマーコート粒子を製造するための本発明による方法は、
(i)発泡性の第1の熱可塑性ポリマー及び第1の溶媒を含有する溶液中に長さ1~50mmの繊維状セルロース粒子を懸濁させるステップ、
(ii)添加された水及び転相によって前記第1の熱可塑性ポリマーを前記繊維状粒子上に析出させて、包囲された水分及び第1のポリマーコーティング層を有する繊維状粒子を得るステップ、
(iii)ステップ(ii)で得られたポリマーコート粒子を、前記第1の熱可塑性ポリマーのメルトフローレートよりも低いメルトフローレートを有する第2の熱可塑性ポリマー及び第2の溶剤を含む溶液に懸濁させるステップ、並びに
(iv)前記第2の熱可塑性ポリマーを添加された水及び転相によって前記繊維状粒子上に析出させ、二重層ポリマーコーティングを有する繊維状粒子を得るステップであって、前記内側第1ポリマーコーティング層が発泡性であるが、外側第2ポリマーコーティング層が未発泡である、ステップ
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0028】
ポリマーコート粒子
ポリマーコート繊維状粒子を製造するために、1~50mm、好ましくは1~5mmの長さのセルロース系繊維又はこのような繊維の束を、発泡性熱可塑性ポリマー及び有機溶媒を含有する溶液中に懸濁させる。繊維は、カバ、マツ、トウヒ、ポプラ、ユーカリなどから製造された化学パルプ、化学機械パルプ(CTMP)、熱機械パルプ(TMP)などであることができる。この目的に好ましいポリマーは、190℃以上で約15g/10分のメルトフローレートを有するLDPEであり、好ましい溶媒はデカリンである。次いで溶液に水を添加して、ポリマーを転相させて、セルロース系繊維上に析出させる。これによりポリマーの層によってコーティングされた湿潤セルロース系繊維を含む滴状粒子が得られる。これらの粒子は、本発明の教示による製紙又は板紙製造及びその後の成形プレート又はトレーの作製のための繊維状素材への添加剤として使用することができる。
【0029】
任意に、繊維状粒子に2種類の別のポリマーの二重層コーティングを設けてよい。上記のようにして得たコーティングは、包囲された湿潤繊維と接触する第1のポリマーの発泡性内側コーティング層として作用する。第2のポリマーの外側、好ましくは非発泡性外側コーティングは、前記第2のポリマー及び有機溶媒を含有する溶液中に前記1回コート粒子を懸濁させることによって製造される。この目的に好ましいポリマーは、190℃にて15g/10分未満のメルトフローレートを有するLDPEであり、好ましい溶媒はデカリンである。次いで、水を溶液に添加し、第二のポリマーを転相させて、単一のコート粒子上に析出させる。結果として、二重層ポリマーコーティングが湿潤セルロース系繊維又はこのような繊維の束を包囲している、二重コート滴状粒子が得られる。ポリマーは、加熱時に内側コーティング層が溶融し、繊維中の水分が蒸発するにつれて発泡するが、外側コーティング層は溶融せず未発泡のままであるように選択される。このような挙動を備えた二重コート粒子は、本発明の教示による紙又は板紙の作製並びに後続の成形プレート又はトレーの作製で使用するための、好ましい添加剤である。
【0030】
または、本発明で使用するための単一コート繊維状粒子は、繊維とポリマーとの溶融ブレンドを押し出すことにより製造できる。このように製造した粒子は、細長い糸状であり、連続ポリマー相に埋め込まれた複数の繊維又は繊維の束を含み得る。次いで、製造された細長糸は、繊維状素材に包含させるために切断してより短い小片とされ得る。
【0031】
紙又は板紙の作製
単層又は多層の紙又は板紙は、通常の抄紙機又は板紙抄紙機を用いて製造され得る。製紙用の繊維状素材を調製し、これにある量の単一コート又は二重コート滴状粒子を添加する。前記粒子が均一に分布した素材を、抄紙機又は板紙抄紙機のヘッドボックスから形成布へ供給し、繊維ウェブとして、プレス及び乾燥させて完成紙又は板紙製品とする。製品としては、40~130g/mの重量の単層又は二重層紙及び130~500g/mの重量の多層板紙が挙げられる。トレーに変形するのに好適である、重量190g/m以上の板紙が好ましい。製品の密度は、好ましくは約280g/dm以上である。多層板紙の場合、滴状発泡性粒子は、板紙製品の各層にこのような粒子を包含させることが可能な場合でも、好ましくは内層のみに包含される。
【0032】
加熱による滴状ポリマーコート粒子の発泡は、完成紙又は板紙ウェブを搬送用ロールに巻き取る前に行ってよい。しかし、この段階で粒子を未発泡のままとして、紙又は板紙をプレート及びトレーなどの物品に成形する際は最初に発泡させることが好ましい。
【0033】
本発明に用いられる繊維状素材は、通常の構成、即ち水性媒体中の約0.2~1重量%の繊維を有してよい。しかし、滴状粒子を均一に分布させるために、繊維を発泡分散物として抄紙機又は板紙抄紙機の形成布に供給する、周知の発泡成形技術を適用することが好ましい。素材に表面活性剤を包含させ、空気を吹き込んで、約60~70体積%以上の空気含有率の泡を生成させる。泡形成の基本技術は例えば文献英国特許出願公開第1 395 757号に記載され、国際公開第2013/160553号には、素材に含まれるミクロフィブリル化セルロース(MFC)を用いたさらなる開発結果が開示されている。本発明の実施において、このような発泡素材は、形成布に供給される前に、添加剤として滴状コート粒子を収容する。MFCを素材の成分として使用することも、本発明の範囲内の選択肢である。
【0034】
繊維状素材への滴状コート粒子の添加は、好ましくはフラッシュミキシング技術を用いて、抄紙機又は板紙抄紙機のヘッドボックスの直前で実施される。トランプジェットの商標のフラッシュミキシング用装置は、Wetend Technologies Ltd.から入手可能である。
【0035】
トレーの成形
上記のようにして得られた板紙から成形トレーを製造するには、製造されているトレーと一致する形状とされた空洞を有する型を使用する。板紙ウェブを切断してブランクとし、ブランクを型の空洞部に1つずつ対向するように配置し、トレーに変形させる成形ステップを続けてよく、又はウェブを成形ツールに連続的に供給して、成形された後にトレーを最初に互いに分離してもよい。
【0036】
成形操作は、好ましくは、真空によって型空洞部の底部に板紙を吸引することによって行う。板紙を型空洞部の輪郭への適合を補助するために、加熱及び加湿を適用する。さらに、板紙の加熱により、板紙に埋め込まれたポリマーコート滴状粒子の発泡が誘発される。膨張する粒子は、多かれ少なかれ互いに接触し、成形操作中に板紙の展性を向上させ、したがってしわの傾向を回避する。粒子が二重コートされている場合、内側ポリマーコーティング層において溶融及び発泡が起こるのに対して、発泡内側層が膨張するにつれ外側ポリマーコーティング層が伸張されるが、固体で未発泡のままである。最後に、新たに成形されたトレーを冷却し、板紙内の発泡ポリマーをその膨張した状態で固化する。
【0037】
完成したトレーは、各種の食品のためのパッケージとして特に有用である。トレーのリムフランジのしわを回避することにより、漏れの恐れがないヒートシール蓋を備えたトレーが提供され、これによりパッケージの貯蔵寿命を延長することができる。
【0038】
本発明が対象とする使い捨て食器としてのプレート並びに他の成形紙及び板紙物品は、必要に応じて型空洞部の形状を変えるだけで、同様の技術によって製造され得る。