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特許7025342標的塩基配列を検出する方法、プローブを設計および製造する方法ならびにキット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】標的塩基配列を検出する方法、プローブを設計および製造する方法ならびにキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6827 20180101AFI20220216BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20220216BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220216BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
G01N21/64 F
G01N21/78 C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018547706
(86)(22)【出願日】2017-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2017038458
(87)【国際公開番号】W WO2018079579
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2016209929
(32)【優先日】2016-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】道行 悟
(72)【発明者】
【氏名】神田 秀俊
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/018305(WO,A1)
【文献】特表2014-528721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
G01N
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸試料から、塩基変異ヌクレオチドを含む標的塩基配列(A)を検出する方法であって、該方法は、以下のステップ:
(1)核酸試料に、QP(Quenching Probe/Primer)法に使用可能な蛍光色素で標識された検出プローブと、競合プローブとを加えて、反応試料を得ること、
これによって、反応試料中の標的塩基配列(A)を有する標的核酸に、前記蛍光色素で標識された検出プローブまたは競合プローブがハイブリダイズする;
(2)反応試料の温度を変化させながら、蛍光強度を測定すること
(3)(2)の測定結果から得られた温度-蛍光強度曲線を一次微分すること;および
(4)(3)で得られた一次微分曲線がピークを有する場合、核酸試料中に標的塩基配列(A)が存在すると判断すること(ここで核酸試料が、標的核酸の外に、非標的核酸をも含んでいてもよい)
を含み、ここで、
(i)前記蛍光色素で標識された検出プローブの塩基配列は、標的塩基配列(A)に相補的な塩基配列(A')を含み、
(ii)競合プローブの塩基配列は、塩基変異ヌクレオチドが塩基未変異ヌクレオチドに置き換わっている以外は標的塩基配列(A)と同じ塩基配列である非標的塩基配列(B)に相補的な塩基配列(B')を含み、
(iii)前記蛍光色素で標識された検出プローブおよび競合プローブ夫々の塩基長および塩基配列ならびに核酸試料への添加量は、以下の手順:
(a)標的核酸は含まれているが、非標的塩基配列(B)を有する非標的核酸は実質的に含まれていない対照標的核酸試料、および、標的核酸は実質的に含まれないが、非標的核酸は含まれている対照非標的核酸試料の夫々に、前記蛍光色素で標識された検出プローブと競合プローブとを加えて、対照標的反応試料および対照非標的反応試料を得ること;
(b)各対照反応試料の温度を変化させながら、蛍光強度を測定すること;ならびに
(c)測定結果から得られた温度-蛍光強度曲線を夫々、一次微分すること
に従うと、対照標的反応試料の一次微分曲線がピーク(極大値)を有するが、対照非標的反応試料の一次微分曲線がピークを有さないように、決定されている、前記方法。
【請求項2】
非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、前記蛍光色素で標識された検出プローブのTm値より少なくとも5℃高く、かつ、
標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、前記蛍光色素で標識された検出プローブのTm値より低い、請求項に記載の方法。
【請求項3】
非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、前記蛍光色素で標識された検出プローブのTm値より少なくとも10℃高く、かつ、
標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、前記蛍光色素で標識された検出プローブのTm値より低い、請求項に記載の方法。
【請求項4】
非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、前記蛍光色素で標識された検出プローブのTm値より少なくとも10℃高く、かつ、
標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、前記蛍光色素で標識された検出プローブのTm値+5℃を超えない、請求項に記載の方法。
【請求項5】
非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、前記蛍光色素で標識された検出プローブのTm値より少なくとも15℃高く、かつ、
標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、前記蛍光色素で標識された検出プローブのTm値+5℃を超えない、請求項に記載の方法。
【請求項6】
非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、前記蛍光色素で標識された検出プローブのTm値より少なくとも15℃高く、かつ、
標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、前記蛍光色素で標識された検出プローブのTm値より低い、請求項に記載の方法。
【請求項7】
(I)標的核酸上の、前記蛍光色素で標識された検出プローブとハイブリダイズする領域が、競合プローブとハイブリダイズする領域を含むか;
(II)標的核酸上の、競合プローブとハイブリダイズする領域が、前記蛍光色素で標識された検出プローブとハイブリダイズする領域を含むか;または、
(III)標的核酸上の、競合プローブとハイブリダイズする領域が、前記蛍光色素で標識された検出プローブとハイブリダイズする領域と一致する、
請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
核酸試料への競合プローブの添加量が、前記蛍光色素で標識された検出プローブの添加量の少なくとも10倍(モル比)である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
核酸試料への競合プローブの添加量が、前記蛍光色素で標識された検出プローブの添加量の少なくとも20倍(モル比)である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
QP(Quenching Probe/Primer)法に使用可能な蛍光色素が、TAMRA(商標)、BODIPY(登録商標) FL、PACIFIC BLUE(商標)、およびCR6G(登録商標)からなる群から選択される少なくとも1種の蛍光色素であって、
TAMRA(商標)が、テトラメチルローダミンであり、
BODIPY(登録商標) FLが、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸であり、
PACIFIC BLUE(商標)が、3-カルボキシ-6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシクマリンであり、
CR6G(登録商標)が、カルボキシローダミン6Gである、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
核酸試料が、生体に由来する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
塩基変異ヌクレオチドが、一塩基置換の変異を含むDNAである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法に使用可能な検出プローブおよび競合プローブを設計する方法であって、該方法は、
(1') (a)~(c)に従い、対照標的反応試料の一次微分曲線がピーク(極大値)を有するが、対照非標的反応試料の一次微分曲線がピークを有さないように、検出プローブおよび競合プローブ夫々の塩基長および塩基配列を決定すること
を含む、前記方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法に使用可能である、QP(Quenching Probe/Primer)法に使用可能な蛍光色素で標識された検出プローブおよび競合プローブを製造する方法であって、該方法は、
(1'')請求項13に記載の方法に従って設計された、夫々の塩基長および塩基配列のオリゴヌクレオチドを合成すること;および
(2'')検出プローブのオリゴヌクレオチドを、QP法に使用可能な蛍光色素で標識すること
を含む、前記方法。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法において用いられるためのキットであって、QP(Quenching Probe/Primer)法に使用可能な蛍光色素で標識された検出プローブ、競合プローブおよび使用説明書を含む、前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的塩基配列を検出する方法に関し、より詳しくは、例えば一塩基多型(SNP:single nucleotide polymorphism)等の一塩基変異を含む標的塩基配列を検出する方法、該方法に使用するためのプローブの設計方法および製造方法、ならびに、該プローブを含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
SNPとは、個体間においてゲノム配列中の1つのヌクレオチドが異なるヌクレオチドに置き換わっている変異であって、個体の集団全体の1%を超える頻度で存在する変異をいう。SNPには、体質・疾患感受性・薬剤応答性等の多様な表現型の個体差の原因となるものが存在する。例えば、ヒトのアルコール分解能はALDH2遺伝子のSNPに依存していることが知られており、薬物代謝に関連するCYPファミリーにあるSNPは、個々人に対する薬剤の効果に寄与することも分かっている。また、近年、がんの術後経過や治療効果を予測するバイオマーカーとして特定のSNPが報告されており、SNPを判別することの有用性は高い。さらに、SNPを判別することに用いられる、1塩基の違いを判別する技術は、SNPに限らず、一塩基置換による突然変異(点突然変異)を含む塩基配列の判別にも有効活用することができ、例えば、存在頻度が1%未満であるような薬物耐性病原菌の検出にも応用することができる。ゆえに、塩基配列間の1塩基の違いを簡易に同定できる手法の需要が高まってくると予測される。
【0003】
SNPの簡便な判別法として、プローブ検出法が知られている。プローブ検出法は、検出対象の塩基配列に相補的な塩基配列を有する検出プローブをハイブリダイズさせた完全マッチの二重鎖のTm値が、検出対象の塩基配列と1塩基異なる塩基配列の核酸に上記検出プローブをハイブリダイズさせた1塩基ミスマッチの二重鎖のTm値よりも5℃程度高いことを利用して、Tm値の差により塩基配列を判別する方法である。Tm値は、検出対象の塩基配列の塩基組成、反応試料の塩濃度等の条件によって変動し、かかる条件がノイズとなって安定した測定結果が得られ難いことがある。したがって、かかるノイズを低減する工夫が考案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、標的核酸の一塩基変異部位を含む領域の3’末端側および5’末端側の、一方に、「検出型プローブ」の一部の領域をハイブリダイズさせ、他方に、検出型プローブと一塩基変異部位以外で部分的に一致する塩基配列を有する「部分競合型プローブ」の一部の領域をハイブリダイズさせ、一塩基変異部位を含む領域で、検出型プローブと部分競合型プローブとの残りの領域同士を競合させる手法、すなわち、検出型プローブと部分競合型プローブの両方とも標的核酸のうち夫々対応する領域にハイブリダイズできるが、これら両方のプローブが一塩基変異部位を含む領域で互いに競合する手法が開示されている。この手法では、競合部分である「一塩基変異部位を含む領域」における変異識別能が上がるとともに、1塩基ミスマッチのハイブリダイズの安定度を下げることができるので、完全マッチの場合とのTm値の差による判別の精度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5597939号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の手法では、核酸試料に含まれる塩基配列が検出プローブの塩基配列に対して完全マッチであるか1塩基ミスマッチであるかを、Tm値の違いにより判別することに変わりはない。本発明者らは、Tm値の違いによる判別法では、塩濃度等の実験条件、試料由来の夾雑物、調合誤差等によって誤判定が生じる可能性があり、誤判定を防止し一塩基置換の有無の判断を簡単にするという観点で、改善の余地があることを見出した。
【0007】
特許文献1においても採用されているとおり、Tm値の測定には、例えばQP(Quenching Probe/Primer)法等の、検出プローブを標識した蛍光色素の、核酸と検出プローブとのハイブリダイズまたは解離に伴う消光または発光を検出する方法が用いられている。かかる方法では、核酸試料に検出プローブを添加した反応試料の温度を変化させながら蛍光強度を測定し、測定結果から得られた温度-蛍光強度曲線を一次微分した曲線が有するピーク(極大値)(消光または発光が起こった温度に対応する)をTm値とする。このTm値の違いによりSNPを判別する手法では、測定されたTm値が高温側であるか低温側であるかを判定する必要があり、誤差等によっては判定が困難になったり、誤判定をもたらしたりする可能性がある。
【0008】
さらに、例えばSNPの判別の標的とする核酸が、SNPの2つの対立遺伝子のヘテロ接合体である場合には、高温側のTm値と低温側のTm値との間の温度で消光または発光のピークが見られる場合がある。かかる場合には、測定結果のTm値と、高温側または低温側のTm値との差が、例えば2℃程度と小さくなり、判別が困難である。
【0009】
そこで、本発明は、核酸試料中に標的塩基配列が存在するか否かを容易に判断可能とすることができる、標的塩基配列を検出する方法、該方法に用いられるキット、ならびに、該方法に用いられるプローブを設計および製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を続ける中で、1塩基ミスマッチの塩基配列に特異的にハイブリダイズする競合プローブを用い、検出プローブの1塩基ミスマッチのハイブリダイズを阻害することで、低温側のTm値での消光または発光を生じさせないようにして、標的塩基配列のみの検出が可能な検出系を実現し得ることを見出した。さらに、本発明者らは、検出プローブと核酸とのハイブリダイズの反応試料について得られる温度-蛍光強度曲線を一次微分すると、通常はTm値の温度で消光または発光に伴い一次微分曲線のピークが現れるところ、検出プローブの1塩基ミスマッチのハイブリダイズを阻害することで、そのピークが現れないようにし、標的塩基配列の検出によるピークが現れる場合と明確に判別できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
[1]核酸試料から、塩基変異ヌクレオチドを含む標的塩基配列(A)を検出する方法であって、該方法は、以下のステップ:
(1)核酸試料に、QP(Quenching Probe/Primer)法に使用可能な蛍光色素で標識された検出プローブと、競合プローブとを加えて、反応試料を得ること、これによって、反応試料中の標的塩基配列(A)を有する標的核酸に、蛍光標識検出プローブまたは競合プローブがハイブリダイズする;
(2)反応試料の温度を変化させながら、蛍光強度を測定すること;および
(3)(2)の測定結果から得られた温度-蛍光強度曲線を一次微分すること
を含み、ここで、
(i)蛍光標識検出プローブの塩基配列は、標的塩基配列(A)に相補的な塩基配列(A’)を含み、
(ii)競合プローブの塩基配列は、塩基変異ヌクレオチドが塩基未変異ヌクレオチドに置き換わっている以外は標的塩基配列(A)と同じ塩基配列である非標的塩基配列(B)に相補的な塩基配列(B’)を含み、
(iii)蛍光標識検出プローブおよび競合プローブ夫々の塩基長および塩基配列ならびに核酸試料への添加量は、以下の手順:
(a)標的核酸は含まれているが、非標的塩基配列(B)を有する非標的核酸は実質的に含まれていない対照標的核酸試料、および、標的核酸は実質的に含まれないが、非標的核酸は含まれている対照非標的核酸試料の夫々に、蛍光標識検出プローブと競合プローブとを加えて、対照標的反応試料および対照非標的反応試料を得ること;
(b)各対照反応試料の温度を変化させながら、蛍光強度を測定すること;ならびに
(c)測定結果から得られた温度-蛍光強度曲線を夫々、一次微分すること
に従うと、対照標的反応試料の一次微分曲線がピーク(極大値)を有するが、対照非標的反応試料の一次微分曲線がピークを実質的に有さないように、決定されている、前記方法。
【0012】
[2]さらに以下のステップ:
(4)(3)で得られた一次微分曲線がピークを有する場合、核酸試料中に標的塩基配列(A)が存在すると判断すること
を含み、ここで核酸試料が、標的核酸の外に、非標的核酸をも含んでいてもよい、[1]に記載の方法。
[3]非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より少なくとも5℃高く、かつ、標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より低い、[1]または[2]に記載の方法。
【0013】
[4]非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より少なくとも10℃高く、かつ、標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より低い、[1]または[2]に記載の方法。
[5]非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より少なくとも10℃高く、かつ、標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値+5℃を超えない、[1]または[2]に記載の方法。
[6]非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より少なくとも15℃高く、かつ、標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値+5℃を超えない、[1]または[2]に記載の方法。
【0014】
[7]非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より少なくとも15℃高く、かつ、標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より低い、[1]または[2]に記載の方法。
[8](I)標的核酸上の、蛍光標識検出プローブとハイブリダイズする領域が、競合プローブとハイブリダイズする領域を含むか;(II)標的核酸上の、競合プローブとハイブリダイズする領域が、蛍光標識検出プローブとハイブリダイズする領域を含むか;または、(III)標的核酸上の、競合プローブとハイブリダイズする領域が、蛍光標識検出プローブとハイブリダイズする領域と一致する、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
【0015】
[9]核酸試料への競合プローブの添加量が、蛍光標識検出プローブの添加量の少なくとも10倍(モル比)である、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]核酸試料への競合プローブの添加量が、蛍光標識検出プローブの添加量の少なくとも20倍(モル比)である、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]QP(Quenching Probe/Primer)法に使用可能な蛍光色素が、TAMRA(商標)、BODIPY(登録商標) FL、PACIFIC BLUE(商標)およびCR6G(登録商標)からなる群から選択される少なくとも1種の蛍光色素である、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
【0016】
[12]核酸試料が、生体に由来する、[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]塩基変異ヌクレオチドが、一塩基置換の変異を含むDNAである、[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14][1]~[13]のいずれかに記載の方法に使用可能な蛍光標識検出プローブおよび競合プローブを設計する方法であって、該方法は、
(1’)(a)~(c)に従い、対照標的反応試料の一次微分曲線がピーク(極大値)を有するが、対照非標的反応試料の一次微分曲線がピークを実質的に有さないように、蛍光標識検出プローブおよび競合プローブ夫々の塩基長および塩基配列を決定すること
を含む、前記方法。
【0017】
[15][1]~[13]のいずれかに記載の方法に使用可能な蛍光標識検出プローブおよび競合プローブを製造する方法であって、該方法は、
(1”)[14]に記載の方法に従って設計された、夫々の塩基長および塩基配列のオリゴヌクレオチドを合成すること;および
(2”)蛍光標識検出プローブのオリゴヌクレオチドを、QP法に使用可能な蛍光色素で標識すること
を含む、前記方法。
[16][1]~[13]のいずれかに記載の方法において用いられるためのキットであって、蛍光標識検出プローブ、競合プローブおよび使用説明書を含む、前記キット。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、検出を避けたい1塩基ミスマッチの非標的塩基配列が存在する場合に、この非標的塩基配列に対して特異的な競合プローブをハイブリダイズさせ、蛍光標識検出プローブの1塩基ミスマッチのハイブリダイズを生じさせないようにすることで、温度-蛍光強度の測定結果に、標的塩基配列を検出したときのみ消光または発光のピークが現れるようにすることができる。したがって、Tm値の差を利用した判別手法とは異なり、消光または発光のピークの有無によって標的塩基配列の有無が分かるため、Tm値に影響を及ぼすような塩濃度等の条件の影響を受けることなく(高いロバスト性)、核酸試料中に標的塩基配列が存在するか否かを容易に判断可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例1における、rpoB遺伝子の516番目のコドンの点突然変異(野生型、変異型、および野生型/変異型ヘテロ)を含む核酸試料に、野生型(rpoB 516Asp)を検出するための検出プローブおよび競合プローブを添加して測定した温度-蛍光強度曲線の、一次微分曲線(熱解離曲線)を示す。
図2図2は、実施例2における、rpoB遺伝子から増幅させた標的核酸および非標的核酸、ならびに、標的核酸の検出のために設計した蛍光標識検出プローブおよび種々の競合プローブの塩基配列を示す。
図3-1】図3-1は、実施例2において各反応試料について得られた温度-蛍光強度曲線を示す。
図3-2】図3-2は、実施例2で得られた温度-蛍光強度曲線を一次微分して得られた曲線を示す。
図4-1】図4-1は、実施例3における、rpoB遺伝子から増幅させた標的核酸および非標的核酸の塩基配列を示す。
図4-2】図4-2は、実施例3における、標的核酸の検出のために設計した蛍光標識検出プローブおよび種々の競合プローブの塩基配列、各プローブが標的核酸および非標的核酸の夫々とハイブリダイズするTm値、ならびに、標的核酸および非標的核酸の夫々に対する蛍光標識検出プローブのTm値から各競合プローブのTm値を差し引いた値、ならびに、各場合の温度-蛍光強度曲線の一次微分曲線における消光ピークの有無を示す。
図4-3】図4-3は、実施例3における、標的核酸の検出のために設計した蛍光標識検出プローブおよび種々の競合プローブの、標的核酸および非標的核酸の夫々とハイブリダイズするTm値を示す。
図5図5は、実施例3で得られた温度-蛍光強度曲線を一次微分して得られた曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書において、用語SNPは、当該技術分野におけるSNPsと同義で用いる。また、本明細書において、用語SNPが用いられて説明されている事項については、基本的には、「SNP」を「一塩基置換の変異を含むDNA」に置き換えたとしても、同様の説明が成り立つ。つまり、以下の説明において、SNPは検出の対象の一例であり、本発明は、一塩基置換の変異を含むDNAを検出する技術に広く適用され得る。
本明細書中に別記のない限り、本発明に関して用いられる科学的および技術的用語は、当業者に通常理解されている意味を有するものとする。一般的に、本明細書中に記載された分子生物学、微生物学、遺伝子およびタンパク質および核酸化学に関して用いられる用語およびその技術は、当該技術分野においてよく知られ、通常用いられているものとする。本明細書中に参照される全ての特許、出願および他の出版物は、その全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0021】
<検出方法>
本発明に係る検出方法は、以下のステップ(1)~(3)を少なくとも含む、核酸試料から、塩基変異ヌクレオチドを含む標的塩基配列(A)を検出する方法である。
(1)核酸試料に、蛍光標識検出プローブと、競合プローブとを加えて、反応試料を得ること、これによって、反応試料中の標的塩基配列を有する標的核酸に、蛍光標識検出プローブまたは競合プローブがハイブリダイズする;
(2)反応試料の温度を変化させながら、蛍光強度を測定すること;および
(3)(2)の測定結果から得られた温度-蛍光強度曲線を一次微分すること。
【0022】
本明細書において、「標的塩基配列を検出する」とは、核酸試料中に含まれている核酸の塩基配列が、標的塩基配列と同一の塩基配列を含むか否かを判別することをいう。
核酸は、DNAまたはRNAであれば特に限定されず、天然のものであっても合成されたものであってもよい。天然の核酸としては、例えば、生物から回収されたゲノムDNA、mRNA、rRNA、ヘテロ核(hn)RNA等がある。また、合成された核酸として、例えば、β-シアノエチルホスフォロアミダイト法、DNA固相合成法等の公知の化学的合成法により合成されたDNAや、PCR等の公知の核酸合成法により合成された核酸、逆転写反応により合成されたcDNA等がある。
本明細書において、標的塩基配列を含む塩基配列を有する核酸を、「標的核酸」という。
【0023】
「核酸試料」とは、核酸を含有する試料であれば、特に限定されるものではなく、動物、植物、微生物、培養細胞等から核酸を抽出したサンプルであることが好ましい。動物等からの核酸の抽出は、例えばフェノール/クロロホルム法等の公知の手法により行うことができる。核酸試料は、生体に由来するものであってもよい。ここで核酸試料が「生体に由来する」とは、核酸試料が生体から採取された試料そのものであるという意味に限られず、生体から採取された試料から出発したものでありさえすればよく、例えば核酸抽出後に増幅されたり、クローニングされたり、他の塩基配列中に組み込まれたりといった、遺伝子工学的な操作を受けたものである場合をも包含する。例えば、増幅後の核酸やクローニングされた核酸等も、「生体に由来する核酸試料」に含まれる。生体に由来する核酸試料について本発明の方法を適用することで、その生体についての遺伝子診断に役立てることができる。
なお、核酸試料中に含有される核酸が、二本鎖核酸である場合、あらかじめ一本鎖核酸にしておくことが好ましい。一本鎖核酸を用いることにより、後述するステップ(1)において、該一本鎖核酸に、検出プローブまたは競合プローブをハイブリダイズさせることができる。抽出された二本鎖核酸の一本鎖化は、熱エネルギーを加える等の公知の手法により行うことができる。
「ハイブリダイズ」とは、一本鎖核酸同士が(例えば熱処理により一本鎖化した検出対象のDNAとプローブとが)相補的な塩基対を形成して結合し二本鎖となることをいう。本明細書において、「ハイブリダイズ」には、一方の塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列がハイブリダイズする場合、および、一方の塩基配列と他方の塩基配列との間で、例えば1~数塩基対、相補的な塩基対を形成できない部分(ミスマッチの部分)があっても、相補性を有する部分同士で塩基対を形成することで配列全体としてはハイブリダイズする場合が、含まれる。本明細書においては、一方の塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列がハイブリダイズすることを「完全マッチのハイブリダイズ」「特異的にハイブリダイズする」と表現し、ミスマッチを含む場合を「ミスマッチのハイブリダイズ」「非特異的にハイブリダイズする」と表現することがある。
【0024】
本明細書において、「塩基変異ヌクレオチド」、「塩基未変異ヌクレオチド」の塩基の相違部位としては、例えば、SNP、挿入変異、欠失変異、反復配列変異による変異部位が挙げられる。
典型的には、かかる相違部位は、SNPにおける変異部位であり、「塩基変異ヌクレオチド」および「塩基未変異ヌクレオチド」は、夫々1つのヌクレオチドである。しかし、例えば、塩基変異が1塩基の欠失変異である場合、欠失部位を挟んだ連続する2塩基を「塩基変異ヌクレオチド」とし、欠失を含まない連続する3塩基を「塩基未変異ヌクレオチド」として本発明を適用することも可能である。また、例えば、塩基変異が1塩基の挿入変異である場合、挿入されたヌクレオチドとその両隣に連続するヌクレオチドの合計3塩基を「塩基変異ヌクレオチド」とし、挿入を含まない連続する2塩基を「塩基未変異ヌクレオチド」として本発明を適用することも可能である。欠失塩基数または挿入塩基数が2塩基以上であってもよい。すなわち、本願に添付の特許請求の範囲における「塩基変異ヌクレオチドが塩基未変異ヌクレオチドに置き換わっている」という記載は、「塩基変異ヌクレオチド」および「塩基未変異ヌクレオチド」が夫々連続する数個のヌクレオチドであるような場合も包含する。
【0025】
本発明において、「塩基変異ヌクレオチド」と「塩基未変異ヌクレオチド」との関係は、例えば、SNP等の対立遺伝子(Allele、アレル)における野生型と変異型との互いに異なる塩基の相対的な関係であるともいえる。したがって、典型的には、「塩基変異ヌクレオチドを含む標的塩基配列」は、変異型の塩基配列であり、「塩基未変異ヌクレオチド」を含む「非標的塩基配列」は、野生型の塩基配列であるが、これとは逆に、「塩基変異ヌクレオチドを含む標的塩基配列」を、野生型の塩基配列と見なすのと同時に、「塩基未変異ヌクレオチド」を含む「非標的塩基配列」を、変異型の塩基配列と見なしてもよい。後者の例を、後述する実施例1および2において説明する。すなわち、本明細書中の「塩基変異ヌクレオチド」という用語における「変異」、「未変異」は、必ずしもそのヌクレオチドが変異型のものであるか否かを意味するのではなく、本方法の検出対象としない非標的塩基配列中のSNPの部位(検出に係る一塩基置換による変異が生じ得る部位)の塩基を基準として、異なる塩基であるか否かを意味する。
【0026】
本明細書中において、「標的塩基配列」とは、目的の塩基変異ヌクレオチドを含む核酸(標的核酸)の塩基配列中の、塩基変異ヌクレオチドを含有する一定の長さの部分配列をいう。標的塩基配列の長さは、その部分配列に相補的な塩基配列を有する同じ長さのプローブがストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズし得るものであれば、特に限定されるものではない。さらに、標的塩基配列の長さは、標的塩基配列の種類、後述する検出プローブおよび競合プローブの塩基配列等を考慮して適宜決定することができる。
【0027】
本明細書中において、「非標的塩基配列」とは、塩基変異ヌクレオチドが塩基未変異ヌクレオチドに置き換わっている以外は標的塩基配列と同じ塩基配列をいう。かかる非標的塩基配列は、検出対象ではないにもかかわらず、検出対象の標的塩基配列と似ているため、標的塩基配列に相補的な塩基配列を有する検出プローブと非特異的にハイブリダイズし得る。そのため、従来のプローブ法では、標的塩基配列以外に非標的塩基配列も、検出プローブとのハイブリダイゼーションによって検出されることがあり、検出された塩基配列が非標的塩基配列である場合は、ハイブリダイゼーションの熱安定性(Tm値)が標的塩基配列の場合よりも低いことから判別される(具体的には、以下の実施例2の「検出プローブのみ」を参照)。
本明細書中において、この非標的塩基配列を含む塩基配列を有する核酸を、「非標的核酸」という。
【0028】
本明細書中において、「検出プローブ」および「競合プローブ」は、ヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、およびこれらの修飾体からなる群より選択される1以上がリン酸ジエステル結合により連結したものである。
ここで、ヌクレオチドアナログとは、非天然のヌクレオチドであり、天然のヌクレオチドであるデオキシリボヌクレオチド(DNA)やリボヌクレオチド(RNA)と同様の機能を有するものをいう。すなわち、ヌクレオチドアナログは、ヌクレオチドと同様にリン酸ジエステル結合により鎖を形成することができ、かつ、ヌクレオチドアナログを用いて形成されたプライマーやプローブは、ヌクレオチドのみを用いて形成されたプライマーやプローブと同様に、PCRやハイブリダイズに用いることができる。このようなヌクレオチドアナログとして、例えば、PNA(ポリアミドヌクレオチド誘導体)、LNA(BNA)、ENA(2’-O,4’-C-Ethylene-bridged nucleic acids)、およびこれらの複合体等がある。ここで、PNAは、DNAやRNAのリン酸と5炭糖からなる主鎖をポリアミド鎖に置換したものである。また、LNA(BNA)は、リボヌクレオシドの2’部位の酸素原子と4’部位の炭素原子がメチレンを介して結合している2つの環状構造を持つ化合物である。
ここで、修飾体としては、たとえば、修飾デオキシリボヌクレオチド、修飾リボヌクレオチド、修飾ホスフェート-糖-骨格オリゴヌクレオチド、修飾PNA、修飾LNA(BNA)、修飾ENA等がある。ここで、ヌクレオチドやヌクレオチドアナログの修飾に用いられる物質は、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されるものではなく、ヌクレオチド等の修飾に通常用いられる物質を用いることができる。修飾ヌクレオチドや修飾ヌクレオチドアナログとして、たとえば、アミノ基、カルボキシビニル基、リン酸基、メチル基等の官能基により修飾されたヌクレオチド等、メチル基により2-O-メチル化修飾されたヌクレオチド等、ホスホロチオエート化修飾されたヌクレオチド等、後述する蛍光色素等の標識分子により修飾されたヌクレオチド等がある。
【0029】
検出プローブは、QP(Quenching Probe/Primer)法に使用可能な蛍光色素で標識されている。QP法は、ある種の蛍光色素に、グアニン塩基が空間的に近接することにより、蛍光が消光することを利用した検出方法である。検出プローブを、グアニン塩基との近接により消光する蛍光色素で標識することにより、検出プローブと、標的核酸(グアニン塩基を含む)との近接の有無を検出することができる。具体的には、標的核酸において、内部にグアニン塩基を有するように標的塩基配列を設定し、かつ、検出プローブは、該標的核酸のグアニン塩基と相補的となる部位に、蛍光色素により標識されたシトシン塩基を有するように、あらかじめ設計する。標的核酸と、検出プローブとがハイブリダイズした場合は、標識された検出プローブの蛍光色素と、標的核酸中のグアニン塩基が近接し、蛍光色素の消光が起こる。
QP法に使用可能な蛍光色素としては、例えば、TAMRA(商標)(インビトロジェン社製)、BODIPY(登録商標) FL(インビトロジェン社製)、PACFIC BLUE(商標)(インビトロジェン社製)、CR6G(登録商標)(インビトロジェン社製)等が挙げられる。各蛍光色素の検出プローブへの標識は、有機合成方法等の通常用いられる方法により行うことができる。
以下、検出プローブを、「蛍光標識検出プローブ」ともいう。
【0030】
蛍光標識検出プローブの塩基配列は、標的塩基配列(A)に相補的な塩基配列(A’)を含む。競合プローブの塩基配列は、非標的塩基配列(すなわち、塩基変異ヌクレオチドが塩基未変異ヌクレオチドに置き換わっている以外は標的塩基配列と同じ塩基配列)(B)に相補的な塩基配列(B’)を含む。「プローブの塩基配列」とは、そのプローブの、核酸にハイブリダイズする領域の全長の塩基配列をいう。なお、本明細書中、「標的塩基配列(A)に相補的な塩基配列(A’)」という文言における「相補的」は、塩基配列(A)と(A’)とが完全に相補的な関係にあり、塩基配列(A)と(A’)とで形成された二本鎖部分にの全ての塩基対が相補的であることを意味する。「非標的塩基配列(B)に相補的な塩基配列(B’)」という文言における「相補的」も同様に、塩基配列(B)と(B’)とが完全に相補的な関係にあることを意味する。
「蛍光標識検出プローブの塩基配列」が「標的塩基配列に相補的な塩基配列を含む」ことは、蛍光標識検出プローブの塩基配列(A’)が標的塩基配列(A)に相補的である場合と、蛍光標識検出プローブの塩基配列(A’)が、標的核酸上の標的塩基配列(A)を含み標的塩基配列(A)よりも長い領域の塩基配列に相補的である場合とを包含する。
「競合プローブの塩基配列」が「非標的塩基配列に相補的な塩基配列を含む」ことは、競合プローブの塩基配列(B’)が非標的塩基配列(B)に相補的である場合と、競合プローブの塩基配列(B’)が、非標的核酸上の非標的塩基配列(B)を含み非標的塩基配列(B)よりも長い領域の塩基配列に相補的である場合とを包含する。
【0031】
本発明の検出方法に含まれる各ステップについて説明する。
まず、ステップ(1)において、反応試料中の標的塩基配列を有する標的核酸に、蛍光標識検出プローブまたは競合プローブをハイブリダイズさせる。蛍光標識検出プローブおよび競合プローブ夫々の塩基長および塩基配列ならびに核酸試料への添加量は、所定の条件を満たすように決定されているが、その条件については後述する。標的核酸と、蛍光標識検出プローブと、競合プローブとのハイブリダイズの反応条件は、特に限定されるものではなく、蛍光標識検出プローブおよび競合プローブのTm値等を考慮した上で、通常の温度、pH、塩濃度、緩衝液等の条件下で行うことができる。
【0032】
ここで、Tm値とは、オリゴヌクレオチドの50%が、その相補鎖と解離する時の温度であり、プローブを核酸にハイブリダイズさせたときの二重鎖の熱安定性の指標である。Tm値の算出法としては、常法を用いることができ、例えば、17~25塩基のプローブの場合、次の式(Wallace formula)で概算することができる。
Tm=2×(配列中のAの数+配列中のTの数)+4×(配列中のGの数+配列中のCの数)
また、より正確性を期すために、Tm値は、例えば、従来公知のMELTCALCソフトウェア(http:/www.meltcalc.com/)等により算出でき、隣接法(Nearest Neighbor Method)によって決定することもできる。
【0033】
ハイブリダイズ反応は、緩衝作用のある塩を含む反応溶液の中で行われることが好ましい。該反応溶液のpHは、pH6.5~8.5の範囲であることが好ましく、pH6.7~7.7の範囲であることがより好ましく、該反応溶液の塩濃度は、5~250mMの範囲であることが好ましく、10~100mMの範囲であることがより好ましい。緩衝作用のある塩としては、カコジル酸塩、リン酸塩、トリス塩等が挙げられる。また、反応溶液がアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の塩を含むことが好ましく、塩化ナトリウムおよび/または塩化マグネシウムを含むことがより好ましい。
【0034】
標的核酸には、優先的には、標的塩基配列に相補的な塩基配列を含む蛍光標識検出プローブがハイブリダイズする。蛍光標識検出プローブの核酸へのハイブリダイズにより、蛍光が消光する。標的核酸には、ある程度の割合で、競合プローブがハイブリダイズする場合もある。競合プローブが標的核酸にハイブリダイズする割合は、蛍光標識検出プローブの標的核酸へのハイブリダイズの割合が十分に多く、その検出が実質的に妨げられない程度である。
【0035】
なお、核酸試料中に非標的塩基配列を有する非標的核酸が存在する場合には、このステップで、非標的核酸に競合プローブが優先的にハイブリダイズする。その結果、非標的核酸への蛍光標識検出プローブのミスマッチのハイブリダイズの多くは阻害され、そのミスマッチのハイブリダイズによる消光または発光は実質的に検出されない。
【0036】
したがって、蛍光標識検出プローブに標識された蛍光色素の消光または発光が検出された場合には、該核酸試料中に、蛍光標識検出プローブの塩基配列と相補的な標的塩基配列を有する標的核酸が存在することがわかる。また、消光または発光が検出されなかった場合には、該核酸試料中に、蛍光標識検出プローブの塩基配列と相補的な標的塩基配列が存在していないことがわかる。
【0037】
蛍光標識検出プローブに標識された蛍光色素の消光または発光は、ステップ(2)および(3)を行うことによって検出することができる。ステップ(2)において、反応試料の温度を変化させながら蛍光強度を測定することによって、蛍光強度の変化を表す温度-蛍光強度曲線が得られる。反応試料の温度を変化させながら蛍光強度を測定する方法には、例えば、市販のリアルタイムPCR装置(ABI Prism(登録商標) 7900HT、ABI Prism 7700(Applied Biosystems)、iCycler iQ(商標) Real-Time PCR Detection System(BIO-RAD)、MX3000p、MX3005p(Agilent technologies)等)を利用することができ、具体的には、リアルタイムPCRにおける蛍光解析と同様の融解曲線解析機能を利用することができる。ステップ(3)において、ステップ(2)で得られた温度-蛍光強度曲線を一次微分することによって、その温度-蛍光強度曲線の凹凸を鋭敏に観測することができる。温度-蛍光強度曲線の一次微分は、上記のリアルタイムPCR装置の専用ソフトウェア等を用いて簡単に行うことができる。蛍光標識検出プローブのハイブリダイズまたは解離による消光または発光があった場合には、そのTm値で蛍光強度の変化率が大きくなるため、一次微分の結果にピーク(極大値)が現れる。なお、本明細書において、「ピーク(極大値)」とは、プラス側への極大値に限らず、マイナス側への極大値をも表すものである(実施例参照)。特に、核酸に近接することによって消光が起こるTAMRA(商標)やBODIPY(登録商標) FLなどの蛍光色素で標識された蛍光標識検出プローブを用いた場合には、温度がTm値以下に下がると蛍光標識検出プローブの蛍光がハイブリダイズにより消光するので、マイナス側へのピークが現れるが、本明細書においてこれを「消光ピーク」と呼ぶことがある。
【0038】
ここで、本発明では、反応試料中に、蛍光標識検出プローブと1塩基ミスマッチでハイブリダイズし得る非標的核酸が含まれている場合に、非標的核酸への蛍光標識検出プローブのハイブリダイズを競合プローブにより阻害することにより、一次微分の結果にミスマッチでのハイブリダイズによるピークが表れないように、蛍光標識検出プローブおよび競合プローブの条件を設定している。
【0039】
蛍光標識検出プローブおよび競合プローブの塩基長および塩基配列ならびに核酸試料への添加量は、以下の手順:
(a)標的核酸は含まれているが、非標的塩基配列(B)を有する非標的核酸は実質的に含まれていない対照標的核酸試料、および、標的核酸は実質的に含まれないが、非標的核酸は含まれている対照非標的核酸試料の夫々に、蛍光標識検出プローブと競合プローブとを加えて、対照標的反応試料および対照非標的反応試料を得ること;
(b)各対照反応試料の温度を変化させながら、蛍光強度を測定すること;ならびに
(c)測定結果から得られた温度-蛍光強度曲線を夫々、一次微分すること
に従うと、対照標的反応試料の一次微分曲線がピーク(極大値)を有するが、対照非標的反応試料の一次微分曲線がピークを実質的に有さなくなる、という機能的な条件を満たすように決定されている。
非標的核酸または標的核酸が「実質的に」含まれないことは、試料中に当該非標的核酸または標的核酸が全く含まれない場合に加えて、当該非標的核酸または標的核酸が検出されない程度に少量しか含まれない場合も意味する。「対照非標的反応試料の一次微分曲線がピークを実質的に有さなくなる」とは、例えば、厳密には、対照非標的反応試料の一次微分曲線がピークを有していても、そのピークの強度(蛍光強度の最大の振れ幅)が、対照標的反応試料の一次微分曲線のピークの強度と比較して大幅に弱くなり(平坦化し)、対照標的反応試料の一次微分曲線のようなピークの形状を有さなくなる場合を含んでもよい。
【0040】
蛍光標識検出プローブおよび競合プローブの塩基長および塩基配列ならびに核酸試料への添加量の条件は、上記手順(a)~(c)に従い、当業者に過度な負担を強いることなく実験的に決定することができ、実質的には、少なくとも各プローブのTm値と各プローブの添加量(モル比)との2つの相関する要素を決定すればよい。例えば、以下に示すように、上記の機能的な条件を満たす可能性が高い蛍光標識検出プローブおよび競合プローブ夫々の塩基長および塩基配列ならびに核酸試料への添加量の好適な条件の例が、本発明者らによって見出されている。当業者は、かかる例に基づいて、上記条件を満たすように、蛍光標識検出プローブおよび競合プローブ夫々の塩基長および塩基配列ならびに核酸試料への添加量を決定することもできる。
【0041】
本発明者らは、例えば、蛍光標識検出プローブおよび競合プローブ夫々の塩基長および塩基配列の条件として、非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より、少なくとも5℃、好ましくは少なくとも6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃または20℃高く、かつ、標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より低い、好ましくは少なくとも1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃または10℃低いことが好適であることを見出している。
蛍光標識検出プローブ/競合プローブとのモル比にも依るが、非標的核酸に対する競合プローブのTm値と蛍光標識検出プローブのTm値との差が、少なくとも5℃であると、蛍光標識検出プローブと非標的核酸とのミスマッチのハイブリダイズによるピークが抑制され易い傾向にある。また、標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より低いと、標的核酸に対する蛍光標識検出プローブのハイブリダイズがし易くなり、標的核酸を検出する際、一次微分曲線のピークがより鋭くなる傾向にある。
なお、非標的核酸に対する競合プローブのTm値と蛍光標識検出プローブのTm値との差、および標的核酸に対する競合プローブのTm値と蛍光標識検出プローブのTm値との差は、相互に関連して変動し、独立に設定することはできない。このため、標的とする配列によっては、上記の好適なTm値条件の組み合わせを満たせない場合があり得る。例えば、非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より、少なくとも10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃または20℃高いとき、標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より低くならない場合があり得る。標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より高くなると、標的核酸に対する蛍光標識検出プローブのハイブリダイズが競合プローブに妨げられ易くなり、その結果、標的核酸を検出する際の一次微分曲線のピークが減衰する傾向が生じる。しかし、かかる場合もまた、蛍光標識検出プローブと非標的核酸とのミスマッチのハイブリダイズによるピークが十分に抑制(平坦化)されてピークの有無が視覚的に判断できるのであれば、本発明の効果が達成されるので、好適といえる。例えば、非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識検出プローブのTm値より、少なくとも10℃、好ましくは11℃、12℃、13℃、14℃、さらに好ましくは15℃、16℃、17℃、18℃、19℃または20℃高く、かつ、標的核酸に対し、競合プローブのTm値が蛍光標識プローブのTm値+5℃を超えない、好ましくは、蛍光標識プローブのTm値+4℃、蛍光標識プローブのTm値+3℃、蛍光標識プローブのTm値+2℃、蛍光標識プローブのTm値+1℃または蛍光標識プローブのTm値を超えない場合も、好適であり得ることが見出されている(具体的には、以下の実施例3の、競合プローブとして「RB516A-3-P-8」を使用した例を参照)。
【0042】
また、蛍光標識検出プローブおよび競合プローブ夫々の核酸試料への添加量の条件として、競合プローブの添加量が、蛍光標識検出プローブの添加量の、少なくともモル比で1倍(すなわち1:1)、好ましくは少なくとも2~9倍(モル比)、より好ましくは少なくとも10倍(モル比)、さらに好ましくは少なくとも20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、150倍、200倍、250倍、300倍、400倍、500倍または1000倍(モル比)であることが挙げられる。上述のように非標的核酸に対する競合プローブと蛍光標識検出プローブとのTm値の差に依るが、添加量が競合プローブ/蛍光標識プローブのモル比で10以上であると、蛍光標識検出プローブのミスマッチのハイブリダイズによるピークが十分に抑制される傾向にある。
検出すべき標的核酸の配列それ自体や、検出・競合プローブが該配列のどの領域をカバーするかにも依るが、一般に、非標的核酸に対する競合プローブのTm値と蛍光標識検出プローブのTm値との差が大きくなるほど、競合プローブ/蛍光標識プローブの添加量(モル比)は小さくなる傾向にある。当業者は、標的核酸の配列を元に、プローブのかかるTm値の差と添加量とを、本発明に係る手順に基づき、ルーチンな実験で容易に決定することができる。
【0043】
また、例えば、蛍光標識検出プローブおよび競合プローブ夫々の塩基長および塩基配列の条件としては、
(I)標的核酸上の、蛍光標識検出プローブとハイブリダイズする領域が、競合プローブとハイブリダイズする領域を含むか;
(II)標的核酸上の、競合プローブとハイブリダイズする領域が、蛍光標識検出プローブとハイブリダイズする領域を含むか;または、
(III)標的核酸上の、競合プローブとハイブリダイズする領域が、蛍光標識検出プローブとハイブリダイズする領域と一致することを含めてもよい。
なお、この(I)~(III)でいう「ハイブリダイズ」は、完全マッチのハイブリダイズもミスマッチのハイブリダイズも含む。(I)または(II)の場合には、蛍光標識検出プローブとハイブリダイズする領域および競合プローブとハイブリダイズする領域のうち、いずれか狭いほうの領域が、標的塩基配列に相当する。(III)の場合には、蛍光標識検出プローブと競合プローブとが、ともに標的塩基配列と同じ塩基長を有し、完全に一致した領域で互いに競合してハイブリダイズし得る。
【0044】
以上、蛍光標識検出プローブおよび競合プローブについての好適な条件の例を挙げた。しかし、蛍光標識検出プローブおよび競合プローブは、それらの条件を満たすもの以外でも、上記手順(a)~(c)に従うと、対照標的反応試料の一次微分曲線がピークを有するが、対照非標的反応試料の一次微分曲線がピークを実質的に有さないものであればよい。
【0045】
本発明では、反応試料中に非標的核酸が含まれていたとしても、非標的核酸への蛍光標識検出プローブのミスマッチのハイブリダイズが競合プローブによりほとんど阻害されるため、非標的核酸は蛍光標識検出プローブによって実質的に検出されず、温度-蛍光強度曲線の一次微分曲線にピークとして現れることもない。そして、反応試料中に標的核酸が含まれていた場合にのみ、蛍光標識検出プローブの核酸へのハイブリダイズによるピークが現れる。
これにより、本発明に係る検出方法では、温度-蛍光強度曲線の一次微分曲線のピークの有無に基づいて、標的塩基配列の有無を明確に判別することができる。さらに、本発明に係る検出方法では、Tm値に影響を与える要因である反応液中の塩濃度がある程度変化しても、判別能に影響が生じにくく、安定して正確な検出結果を得ることができるという利点がある。
【0046】
本発明に係る検出方法は、以上説明したステップ(1)~(3)に加えて、
(4)(3)で得られた一次微分曲線がピークを有する場合、核酸試料中に標的塩基配列(A)が存在すると判断すること
を含んでもよい。ここで核酸試料が、標的核酸の外に、非標的核酸をも含んでいてもよい。かかるステップ(4)では、ステップ(1)~(3)で得られた温度-蛍光強度曲線の一次微分曲線が、ピークを有する形状であるか、ピークを実質的に有さない形状であるかによって、標的塩基配列(A)の有無を容易に判断することができる。ここで核酸試料が、標的核酸の外に、非標的核酸をも含んでいてもよいということは、この方法により、例えば遺伝子診断等において、対立遺伝子のヘテロ接合体に含まれる標的塩基配列の存在の有無をも容易に判断することができるということである。
【0047】
<プローブの設計方法>
本発明は、上記の検出方法に使用可能な蛍光標識検出プローブおよび競合プローブを設計する方法を提供することもできる。該方法は、
(1’)(a)~(c)に従い、対照標的反応試料の一次微分曲線がピーク(極大値)を有するが、対照非標的反応試料の一次微分曲線がピークを実質的に有さないように、蛍光標識検出プローブおよび競合プローブ夫々の塩基長および塩基配列を決定すること
を含む。
このようなプローブの設計方法により、SNPの1塩基の違いを高精度で検出し、温度-蛍光強度曲線の一次微分曲線のピークの有無によって標的塩基配列の有無を容易に判断することが可能となるようなプローブセットを実現することができる。
【0048】
<プローブの製造方法>
また、本発明は、上記の検出方法に使用可能な蛍光標識検出プローブおよび競合プローブを製造する方法を提供することもできる。該方法は、
(1”)上記のプローブの設計方法の方法に従って設計された、夫々の塩基長および塩基配列のオリゴヌクレオチドを合成すること;および
(2”)蛍光標識検出プローブのオリゴヌクレオチドを、QP法に使用可能な蛍光色素で標識すること
を含む。オリゴヌクレオチドは、人工的に合成させても、生合成させてもよく、その配列に基づく製造方法は当該技術分野において既に周知であり、当業者は適切な方法を選択することができる。
【0049】
<キット>
また、本発明は、上記の検出方法において用いられるためのキットを提供することもできる。本発明に係るキットは、上記の蛍光標識検出プローブ、競合プローブおよび使用説明書を含む。使用説明書は、例えば、検出できる標的塩基配列についての情報、上記の検出方法のステップ(1)~(3)またはステップ(1)~(4)についての情報、および、蛍光標識検出プローブおよび競合プローブ夫々の、核酸試料への添加量についての情報等を含み得る。
本発明に係るキットは、遺伝子診断に用いられるためのキットであってもよい。
【0050】
<遺伝子診断の方法>
さらに、本発明は、上記の検出方法を利用した遺伝子診断の方法を提供することもできる。本発明に係る遺伝子診断の方法は、
(1-1)DNAを含む検体から、診断対象のDNA領域を含む核酸試料を得ること;
(1-2)核酸試料に、QP(Quenching Probe/Primer)法に使用可能な蛍光色素で標識された検出プローブと、競合プローブとを加えて、反応試料を得ること、これによって、反応試料中の標的塩基配列(A)を有する標的核酸に、蛍光標識検出プローブまたは競合プローブがハイブリダイズする;
(2)反応試料の温度を変化させながら、蛍光強度を測定すること;および
(3)(2)の測定結果から得られた温度-蛍光強度曲線を一次微分すること
を含み、ここで、蛍光標識検出プローブおよび競合プローブは、上記の標的塩基配列の検出方法と同じ条件(i)~(iii)を満たすものである。本発明に係る遺伝子診断の方法は、標的塩基配列を有する遺伝子の有無の判断をより容易にするため、上記の検出方法のステップ(4)((3)で得られた一次微分曲線がピークを有する場合、核酸試料中に標的塩基配列(A)が存在すると判断すること)を含んでもよい。
また、本発明に係る遺伝子診断の方法は、さらに簡便な方法とするため、ステップ(1-1)において診断対象のDNA領域の核酸を十分に含む核酸試料を得る手段として、該DNA領域の核酸をLAMP法により増幅させてもよい。これにより、例えばPCR法を用いた既存の遺伝子診断方法と比較して、より短時間で簡便な遺伝子診断方法を提供することができる。なお、本方法におけるLAMP法による増幅後の核酸は、上述のとおり「生体に由来する核酸試料」の一例である。
【0051】
以下の実施例は本発明について、さらに具体的に説明するものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。当業者として通常の知識および技術を有するものは、本発明の精神を逸脱しない範囲で、下記実施例で示された態様に多様な改変を行うことができるが、かかる改変された態様も本発明に含まれる。
【0052】
当業者は、以下の実施例を参照して、本発明の効果を達成することができる蛍光標識検出プローブおよび競合プローブを、様々な対象の塩基配列について適宜設計することが可能であり、過度な試行錯誤を必要としない。
【実施例
【0053】
実施例1:競合プローブの添加によるrpoB遺伝子変異の検出
本発明に係る標的塩基配列を検出する方法を用いて、結核菌のリファンピシン耐性獲得に関わるrpoB遺伝子の耐性決定領域(rifampicin resistance determining region、RRDR)を対象として、一塩基変異検出を実施した。この一塩基変異検出では、rpoB遺伝子の塩基配列の516番目のコドン中の、1塩基がAからTに置換されることによってそのコードするアミノ酸がAspからValに置換される変異を標的とした。この変異部位を含む領域の塩基配列は、「標的塩基配列を有する標的核酸」(Aアレル)または「非標的塩基配列を有する非標的核酸」(Tアレル)で表される。なお、実施例1は、「塩基変異ヌクレオチドを含む標的塩基配列」を野生型の塩基配列とし、「塩基未変異ヌクレオチド」を含む「非標的塩基配列」を変異型の塩基配列として、核酸試料中に野生型の塩基配列が含まれるか否かを判別する例に相当する。
ここで、前提として、実施例1では、Aアレル中の標的塩基配列のセンス鎖が上記変異部位に「A」を有し、Tアレル中の非標的塩基配列のセンス鎖が上記変異部位に「T」を有するが、実際に検出プローブ・競合プローブをハイブリダイズさせる対象は、夫々の塩基配列のアンチセンス鎖である。このため、実施例1の内容を、本願に添付の特許請求の範囲の記載に照らすと、Aアレルのセンス鎖に相補するアンチセンス鎖が、請求項中の「標的核酸」の一例に相当し、「標的塩基配列のセンス鎖」に相補する「標的塩基配列のアンチセンス鎖」が、請求項中の「標的塩基配列」の一例に相当する。同様に、Tアレルのアンチセンス鎖が、請求項中の「非標的核酸」の一例に相当し、非標的塩基配列のアンチセンス鎖が、請求項中の「非標的塩基配列」の一例に相当する。
【0054】
Aアレル中の、変異部位のヌクレオチド「A」(これに相補するアンチセンス鎖の「T」が、請求項中の「塩基変異ヌクレオチド」の一例に相当する。)を含む一定範囲の塩基配列を、標的塩基配列のセンス鎖として、標的塩基配列のセンス鎖と同一の塩基配列のオリゴヌクレオチドを含む検出プローブ(RB516A-2)を設計した。Tアレル中の、上記Aアレル中の標的塩基配列の範囲と同一の範囲の塩基配列(すなわち、上記変異部位のヌクレオチド「A」(Aアレルのアンチセンス鎖においては「T」)が一塩基変異後のヌクレオチド「T」(Tアレルのアンチセンス鎖においては「A」)に置き換わっている以外は上記標的塩基配列と同じ塩基配列)である非標的塩基配列に対して、この非標的塩基配列のセンス鎖と同一の塩基配列のオリゴヌクレオチドを含む競合プローブ(RB516T-2-P)を設計した。なお、上記において、Tアレル中の変異部位のヌクレオチド「T」に相補する、Tアレルのアンチセンス鎖における「A」が、請求項中の「塩基未変異ヌクレオチド」の一例に相当する。また、上記のとおり、各塩基配列のセンス鎖と同一の塩基配列としたことにより、検出プローブ(RB516A-2)は、標的塩基配列のアンチセンス鎖(請求項中の「標的塩基配列」)に相補的な塩基配列を有し、競合プローブ(RB516T-2-P)は、非標的塩基配列のアンチセンス鎖(請求項中の「非標的塩基配列」)に相補的な塩基配列を有する。これらの設計した塩基長および塩基配列のオリゴヌクレオチドを夫々合成し、検出プローブを蛍光色素TAMRA(商標)で標識することによって、蛍光標識検出プローブおよび競合プローブを作製した。なお、競合プローブには、蛍光色素の標識をせず、リン酸基を修飾した。
【表1】
【0055】
核酸試料を、以下のとおりに調製した:
上記のrpoB RRDRの配列が変異型である遺伝子配列と、その一塩基変異部位の配列が野生型である遺伝子配列との夫々について、ゲノムDNA中の以下の領域:
Mycobacterium tuberculosis H37Rv ID: ref|NC_000962.3|760767-761516
(米国国立生物工学情報センター(NCBI)のGenBank内で検索可能。)
をサブクローニングしたプラスミドを制限酵素処理(XbaI/XhoI)して得られたサンプルを、鋳型として用いた。より具体的には、該データベースからそのH37Rvの配列を取得し、人為的に薬剤耐性配列(変異型)となるよう変異させたプラスミドを作製して(ユーロフィンジェノミクス社の人工遺伝子合成サービスによる)使用した。同様に、感受性配列(野生型)のプラスミドも合成しており、ヘテロについては、合成した野生型と変異型のプラスミドを混合して使用した。
上記の鋳型に対して、以下のプライマーを用い、65℃で90分間LAMP反応を行った。LAMP反応は、Loopamp(登録商標)リアルタイム濁度測定装置 LA200(Teramecs)により行った。
【表2】
反応液の組成(25μL中)は、次のとおりとした:
20mM Tricine pH8.8、50mM KCl、8mM MgSO、1.4mM ATP、1.4mM GTP、1.4mM CTP、1.4mM TTP、0.5% Tween20、16U Bst-Large Fragment。
【0056】
また、LAMP増幅反応前に、蛍光標識検出プローブ(最終濃度0.04μM)と競合プローブ(最終濃度1.2μM)とを添加した。ここで、プローブをLAMP増幅反応前に添加しているのは、反応後の増幅産物が入っている容器を開封すると、増幅産物のキャリーオーバーコンタミネーションのリスクが高まるのを防ぐためである。
上記の反応により、変異型の鋳型中のTアレルおよび野生型の鋳型中のAアレルを、夫々特異的に増幅させた。これにより、増幅産物に、蛍光標識検出プローブ(最終濃度0.04μM)と競合プローブ(最終濃度1.2μM)とが添加されたものに相当する、反応試料が得られた。これらの反応試料を、装置MX3005p(Agilent technologies)により、99℃で5分間加熱後、-2℃/30秒の速度で降温させ、30秒毎に蛍光値を測定した。測定によって得られた、温度-蛍光強度曲線に相当するデータについて、MX3005p(Agilent technologies)専用ソフトウェアにより微分値を算出した。図1に示す一次微分曲線(熱解離曲線)が得られた。
【0057】
図1の実験データが示すように、標的塩基配列と同じ領域の非標的塩基配列のセンス鎖と同一の塩基配列を有する競合プローブを添加したことによって、反応試料中に標的塩基配列があれば熱解離曲線にピーク(消光ピーク)が現れ、反応試料中に標的塩基配列が実質的に含まれていなければ実質的にピークが現れない検出系を実現することができた。
【0058】
この検出系によると、野生型の一塩基変異を有さない個体に由来する標的核酸(Aアレル)について上記の検出方法を適用すると、得られた熱解離曲線がピークを有することから、その個体が変異型の一塩基変異を有さない野生型であると判断することができる一方、変異型の一塩基変異を有する個体に由来する非標的核酸(Tアレル)について上記の検出方法を適用すると、得られた熱解離曲線がピークを有さないことから、その個体が野生型の標的核酸を有さないと判断することができる。
【0059】
また、核酸試料が対立遺伝子に由来する場合であって、一塩基変異の遺伝子型が変異型/野生型のヘテロである場合を想定して、標的核酸(Aアレル)と非標的核酸(Tアレル)との混合物についても同様の実験を行った。得られた熱解離曲線(図1中、一点鎖線で示す)は、標的核酸(Aアレル)のみの場合に得られたピークと比べて弱いピークを有する。したがって、熱解離曲線がピークを有することから、その個体が野生型の一塩基未変異を有すると判断することができる。また、検出プローブと競合プローブの条件によっては、ピークの強度によって、一塩基変異の遺伝子型が野生型のホモであるか変異型/野生型のヘテロであるかを予測する、半定量的な判別も可能であることが示唆される。
【0060】
実施例2:競合プローブの設計条件(1)(部分競合型プローブとの比較)
実施例1と同様のrpoB RRDRの遺伝子について、一塩基変異の検出のためのプローブの設計条件を検討した。図2に示すとおりの標的塩基配列を有する標的核酸(Aアレル、配列番号9(3’→5’方向に見た配列))および非標的塩基配列を有する非標的核酸(Tアレル、配列番号10(3’→5’方向に見た配列))を、夫々、対照標的核酸試料および対照非標的核酸試料に用いた。これらの標的核酸および非標的核酸に対して、標的塩基配列のセンス鎖および非標的塩基配列のセンス鎖と同一の(すなわち、配列番号9で表される塩基配列中の標的塩基配列および配列番号10で表される塩基配列中の非標的塩基配列に夫々相補的な)塩基配列を有する検出プローブおよび競合プローブを夫々設計した。これらの検出プローブと競合プローブとは、互いに同じ塩基長を有し、互いに変異部位のヌクレオチド(「T」または「A」)に相補的な1塩基が異なる以外は同じ塩基配列を有する。
本発明における競合プローブを使用した場合と比較するため、2通りの部分競合型プローブを設計した。部分競合型プローブ-1および部分競合型プローブ-2は、その塩基配列の一部が、標的核酸上の検出プローブと共通の領域に対してハイブリダイズし得るように設計されている。
【0061】
本実施例では、競合プローブの設計条件を検討するため、標的核酸は含まれているが、非標的核酸は実質的に含まれていない核酸試料(対照標的核酸試料)、および、標的核酸は実質的に含まれないが、非標的核酸は含まれている核酸試料(対照非標的核酸試料)に、夫々、検出プローブ(最終濃度0.04μM)および競合プローブ(最終濃度1.2μM)を添加した各反応試料について、実施例1と同様に、温度を変化させながら蛍光強度を測定した。
同様に、対照標的核酸試料および対照非標的核酸試料に、夫々、検出プローブ(最終濃度0.04μM)および部分競合型プローブ-1または-2(最終濃度1.2μM)を添加した各反応試料についても、温度を変化させながら蛍光強度を測定した。
さらに、対照実験として、対照標的核酸試料および対照非標的核酸試料に、夫々、検出プローブ(最終濃度0.04μM)のみを添加して、温度を変化させながら蛍光強度を測定した。結果を図3-1に示す。
【0062】
図3-2に示すように、検出プローブのみを用いた場合や、検出プローブと共に部分競合型プローブを用いた場合には、対照非標的核酸試料について得られた温度-蛍光強度曲線の一次微分曲線が、対照標的核酸試料についての一次微分曲線の消光ピークよりも低温側に消光ピークを有していた。これは、検出プローブの非標的核酸とのミスマッチのハイブリダイズによる消光ピークである。例えば塩濃度等の条件によっては、このミスマッチのハイブリダイズによる消光ピークが現れる温度が高温にシフトすることがあり、検出プローブの標的核酸との完全マッチのハイブリダイズによる消光ピークと誤認される可能性がある。
一方、検出プローブと共に上記の競合プローブを用いた場合には、対照非標的核酸試料についての一次微分曲線が、消光ピークを実質的に有さなかった。したがって、この競合プローブは、本発明の検出方法に上記検出プローブと共に使用可能であり、この競合プローブを用いることによって、標的核酸が実質的に含まれていなければ実質的に消光ピークが現れない検出系を実現することができる。
この結果は、特許文献1に記載の発明に対する本発明の効果の顕著性を如実に表した例ともいえる。
【0063】
実施例3:競合プローブの設計条件(2)(Tm値について)
実施例1および実施例2と同様のrpoB RRDRの遺伝子について、競合プローブ設計のためのTm値条件を検討するために、蛍光標識検出プローブと競合プローブ、夫々の標的核酸・非標的核酸に対する結合力をTm値として算出し、上述した温度-蛍光強度曲線の一次微分曲線における消光ピークの有無との関係性を調べた。
本実施例では実施例1・実施例2とは異なり、標的核酸をTアレル(変異型の塩基配列)とし、非標的核酸をAアレル(野生型の塩基配列)とした。すなわち、図4-1に示すとおりの標的塩基配列を有する標的核酸(Tアレル、配列番号10(3’→5’方向に見た配列))、および非標的塩基配列を有する非標的核酸(Aアレル、配列番号9(3’→5’方向に見た配列))を、夫々、対照標的核酸試料および対照非標的核酸試料に用いた。本実施例では、Tアレルに完全マッチする(すなわち、配列番号10で表される塩基配列中の標的塩基配列に完全に相補的な)検出プローブを、蛍光色素BODIPY(登録商標) FLで標識することによって、蛍光標識プローブ(蛍光標識検出プローブとして)を作製した。また、Aアレルに完全マッチする(すなわち、配列番号9で表される塩基配列中の非標的塩基配列に完全に相補的な)Tm値の異なる競合プローブ10種を作製した。Tm値の異なる複数の競合プローブは、蛍光標識プローブに対して競合プローブの塩基長を、蛍光標識プローブより数塩基短いものから蛍光標識プローブより数塩基長いものまで様々に変更することで作製した。
【0064】
Tアレルに完全マッチする蛍光標識プローブ1種(最終濃度0.04μM)と、Aアレルに完全マッチするTm値の異なる競合プローブ10種(最終濃度1.2μM)を用いて、実施例1と同様の方法で消光ピークの有無を測定した。蛍光標識プローブと競合プローブの夫々の標的核酸・非標的核酸に対するTm値は、図4-2の表および図4-3のグラフに示すとおりであった。完全マッチ(Tアレルに対する蛍光標識プローブ、Aアレルに対する競合プローブ)・ミスマッチ(Aアレルに対する蛍光標識プローブ、Tアレルに対する競合プローブ)に対するTm値は、Meltcalc 99 free(http://www.meltcalc.com/)を用い、設定条件:Na eq.[mM]50の条件で算出した。
【0065】
その結果、図4-2および図5に示すとおり、Aアレルに対する競合プローブ(Aアレル完全マッチ)のTm値が蛍光標識プローブ(Tアレル完全マッチ)のTm値よりも10.1℃以上高いとき(競合プローブとして「RB516A-3-P-7」、「RB516A-3-P-8」、「RB516A-3-P-9」または「RB516A-3-P-10」を使用したとき)、Aアレルを鋳型としたときの消光ピークが消失した。
一方、Tアレルに対する競合プローブ(Aアレル完全マッチ)のTm値が蛍光標識プローブ(Tアレル完全マッチ)のTm値よりも-1.8℃以上高くなるとTアレルを鋳型としたときの消光ピークが段階的に減衰し、9.9℃高くなったとき(競合プローブとして「RB516A-3-P-9」または「RB516A-3-P-10」を使用したとき)Tアレルを鋳型としたときの消光ピークは消失した。これは、理論上、標的核酸に対する競合プローブのTm値が蛍光標識検出プローブのTm値よりも高いときには、標的核酸に対して競合プローブの方が蛍光標識検出プローブよりも安定的にハイブリダイズするので、標的核酸に対する蛍光標識検出プローブのハイブリダイズが阻害され、検出可能な消光が減少するからであると考えられる。
【0066】
この実験から、対照標的反応試料(Tアレルを含有する試料)の一次微分曲線が消光ピークを有するが、対照非標的反応試料(Aアレルを含有する試料)の一次微分曲線が消光ピークを実質的に有さなくなるのは、蛍光標識プローブ「RB516T-3b」と競合プローブ「RB516A-3-P-7」との組み合わせ、または蛍光標識プローブ「RB516T-3b」と競合プローブ「RB516A-3-P-8」との組み合わせを用いた場合であることがわかり、かかる組み合わせのプローブセットが好適であると決定することができる。
【0067】
この例におけるTm値条件として、非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が蛍光標識プローブのTm値より10.1℃以上高く、かつ、標的核酸に対し、競合プローブのTm値が蛍光標識プローブのTm値より低いことが好適であることが見出された。
【0068】
さらに、この例では、標的核酸に対し、競合プローブのTm値が蛍光標識プローブのTm値を上回っていても、その差が6.1℃以下の場合は、対照標的反応試料の一次微分曲線が消光ピークを有し、対照非標的反応試料の一次微分曲線が消光ピークを実質的に有さなくなるため、本発明に十分適用可能であると考えられる。したがって、例えば、非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が蛍光標識プローブのTm値より少なくとも10℃高く、かつ、標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、蛍光標識プローブのTm値+6.1℃を超えないこと、より好ましくは、蛍光標識プローブのTm値+5℃を超えないことも、別の好適なTm値条件の一例といえる。
ここで、標的核酸に対する競合プローブのTm値が蛍光標識プローブのTm値を上回っている場合には、非標的核酸に対する競合プローブのTm値もさらに高くなる傾向があり、例えば非標的核酸に対する競合プローブのTm値が蛍光標識プローブのTm値より15℃以上高くなり得る(具体的に、図4-2を参照すると競合プローブ「RB516A-3-P-8」を用いた場合に競合プローブのTm値が蛍光標識プローブのそれより16.8℃高い)。したがって、例えば、非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が蛍光標識プローブのTm値より少なくとも15℃高く、かつ、標的核酸に対し、競合プローブのTm値が蛍光標識プローブのTm値+5℃を超えないことも、別の好適なTm値条件の一例といえる。
【0069】
なお、上記実施例1および実施例2では、野生型の塩基配列を有する標的塩基配列を検出する例を説明し、上記実施例3では、上記実施例1および実施例2とは逆に、変異型の塩基配列を検出するためのプローブの設計条件の検討の例を説明したが、標的塩基配列を野生型の塩基配列とするか変異型の塩基配列とするかは、特に限定されるものではない。例えば、上記実施例3で説明した方法を、上記実施例3とは逆に、野生型の塩基配列を検出するためのプローブの設計条件の検討に適用してもよい。かかる変更をした場合、Aアレルに完全マッチする1つの蛍光標識プローブと、Tアレルに完全マッチするTm値の異なる複数の競合プローブを夫々設計して、上記同様の方法で消光ピークの有無を測定すればよい。
【0070】
実施例4:他の遺伝子について一塩基変異の検出のためのプローブの設計条件(Tm値)を検討した例
本発明者らは、rpoB RRDR以外の一塩基変異の検出についても、本発明の検出方法を適用することができることを示した。本実施例では、実施例1~3とは異なり、ヒトの遺伝子中のある特定の一塩基変異の判別を目的として、検出プローブおよび競合プローブの設計条件(Tm値)を検討した。本実施例では、まず、対象とする一塩基変異部位を含む適当な長さの標的塩基配列を決定し、標的塩基配列に対して相補的な検出プローブを作製して蛍光色素で標識し、蛍光標識検出プローブとした。さらに、同じ検出プローブに対して競合プローブの塩基長を、検出プローブより数塩基短いものから検出プローブより数塩基長いものまで様々に変更し、上記のように対照標的反応試料および対照非標的反応試料について一次微分曲線を求める実験を行い、一塩基変異の検出のためのプローブの設計条件を検討した。この実験からは、競合プローブ夫々の塩基長および塩基配列の条件として、非標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、検出プローブのTm値より少なくとも5℃高く、かつ、標的核酸に対し、競合プローブのTm値が、検出プローブのTm値より低く、かつ競合プローブ/蛍光標識検出プローブの添加量(モル比)が30/1である場合に、対照標的反応試料の一次微分曲線が消光ピークを有するが、対照非標的反応試料の一次微分曲線が消光ピークを実質的に有さなくなる(あるいは、消光ピークを有していても、対照標的反応試料の一次微分曲線の消光ピークに比べて明らかに弱い消光ピークであり、対照標的反応試料の場合とは明らかに区別可能である)という結果が得られた。
しかし、非標的核酸に対する競合プローブのTm値と検出プローブのTm値との差が5℃に満たない場合には、検出プローブと非標的核酸とのミスマッチのハイブリダイズによる消光ピークが抑制されず、対照非標的反応試料の一次微分曲線にも、対照標的反応試料の一次微分曲線と似たような消光ピークが見られる結果となった。一方、標的核酸に対し、競合プローブのTm値を、検出プローブのTm値より高くした場合には、標的核酸の検出による消光ピークそのものが小さくなるという結果が得られた。これは、標的核酸に対して競合プローブの方が検出プローブよりも安定的にハイブリダイズするため、標的核酸に対する検出プローブのハイブリダイズによる検出が阻害されるからである。
また、上記条件において、非標的核酸に対し、競合プローブのTm値を、検出プローブのTm値より少なくとも15℃高くした以外は上記条件と同じ場合には、同じ非標的核酸に対する競合プローブのTm値を検出プローブのTm値より5~10℃程度高くした場合と比較して、対照非標的反応試料の一次微分曲線の形状がより平坦に近づくことが見出された。このことから、本発明において、非標的核酸に対する競合プローブの特異性(ハイブリダイゼーションの熱安定性)を、非標的核酸に対する検出プローブのハイブリダイゼーションの熱安定性に対してより大幅に高めることで、特異性が低いミスマッチのハイブリダイズによる消光ピークをより確実に抑制することができると考えられる。
【0071】
上記実施例3および実施例4の結果からわかるように、好適なTm値条件は、検出すべき標的核酸の配列それ自体や、蛍光標識検出プローブ・競合プローブが該配列のどの領域をカバーするかに依って異なり、また各プローブの添加濃度や試料中の塩濃度等に依って複雑に変動し得る。しかし、当業者は、上記実施例3および実施例4から見出された好適なTm値を参考にして、本発明に係る手順に基づいた実験を行うことで、本発明の効果を達成するための蛍光標識検出プローブおよび競合プローブの塩基長および塩基配列を決定することが可能であり、過度な試行錯誤を必要としない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、簡便かつ確実にSNPなどの1塩基の違いを判別する手段を提供し、また、従来法と違いTm値に影響を及ぼすような反応試料の塩濃度等の条件の厳密な管理を不要とすることにより、SNPタイピング技術の簡易化を実現することができ、遺伝子検査、創薬、医療診断等、幅広い応用の可能性がある。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5
【配列表】
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