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特許7025360鍛錬用銅-ニッケル-錫合金の成形性を改良するためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】鍛錬用銅-ニッケル-錫合金の成形性を改良するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20220216BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20220216BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220216BHJP
【FI】
C22C9/06
C22F1/08 B
C22F1/08 G
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 630K
C22F1/00 630F
C22F1/00 661A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019019695
(22)【出願日】2019-02-06
(62)【分割の表示】P 2016501235の分割
【原出願日】2014-03-11
(65)【公開番号】P2019094569
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2019-02-06
(31)【優先権主張番号】61/782,802
(32)【優先日】2013-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508348680
【氏名又は名称】マテリオン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】ジョン エフ. ウェットゼル
(72)【発明者】
【氏名】テッド スコラザウスキ
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-242895(JP,A)
【文献】特開昭62-093357(JP,A)
【文献】特開平02-088750(JP,A)
【文献】特開昭58-087244(JP,A)
【文献】特開昭54-112323(JP,A)
【文献】特開2002-266058(JP,A)
【文献】特開昭54-057422(JP,A)
【文献】米国特許第04142918(US,A)
【文献】米国特許第04373970(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/06
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅-ニッケル-錫合金であって、
2を下回る横方向の成形性比を有し、少なくとも792.90MPaである0.2%オフセット耐力を有し、
前記銅-ニッケル-錫合金が、14.5重量%~15.5重量%のニッケルと、7.5重量%~8.5重量%の錫とを含み、残部は、銅である、
前記銅-ニッケル-錫合金。
【請求項2】
2.5を下回る長手方向の成形性比も有する、請求項1に記載の銅-ニッケル-錫合金。
【請求項3】
1.5を下回る横方向の成形性比を有する、請求項1に記載の銅-ニッケル-錫合金。
【請求項4】
1.5を下回る横方向の成形性比および2を下回る長手方向の成形性比を有する、請求項1に記載の銅-ニッケル-錫合金。
【請求項5】
少なくとも896.32MPaの0.2%オフセット耐力も有する、請求項1に記載の銅-ニッケル-錫合金。
【請求項6】
少なくとも930.79MPaの0.2%オフセット耐力も有する、請求項1に記載の銅-ニッケル-錫合金。
【請求項7】
銅-ニッケル-錫合金であって、
2.5を下回る長手方向の成形性比を有し、少なくとも792.90MPaである0.2%オフセット耐力を有し、
前記銅-ニッケル-錫合金が、14.5重量%~15.5重量%のニッケルと、7.5重量%~8.5重量%の錫とを含み、残部は、銅である、
前記銅-ニッケル-錫合金。
【請求項8】
2を下回る横方向の成形性比も有する、請求項7に記載の銅-ニッケル-錫合金。
【請求項9】
2を下回る長手方向の成形性比を有する、請求項7に記載の銅-ニッケル-錫合金。
【請求項10】
少なくとも896.32MPaの0.2%オフセット耐力も有する、請求項7に記載の銅-ニッケル-錫合金。
【請求項11】
少なくとも930.79MPaの0.2%オフセット耐力も有する、請求項7に記載の銅-ニッケル-錫合金。
【請求項12】
銅-ニッケル-錫合金であって、
2.5を下回る長手方向の成形性比を有し、少なくとも896.32MPaである0.2%オフセット耐力を有し、
前記銅-ニッケル-錫合金が、14.5重量%~15.5重量%のニッケルと、7.5重量%~8.5重量%の錫とを含み、残部は、銅である、
前記銅-ニッケル-錫合金。
【請求項13】
2を下回る横方向の成形性比も有する、請求項12に記載の銅-ニッケル-錫合金。
【請求項14】
1.5を下回る横方向の成形性比も有する、請求項12に記載の銅-ニッケル-錫合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本願は、本明細書において参考としてその全体が完全に援用される、2013年3月14日に出願された米国仮特許出願第61/782,802号に対する優先権を主張する。
【0002】
本開示は、既知の銅-ニッケル-錫合金と比べて実質的に同等な強度を維持しつつ、銅-ニッケル-錫合金の成形性特性を向上させるプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
銅-ベリリウム合金は、様々な産業・商業用途において、限られたスペースに収まり、小さなサイズ、重量、消費電力等の特徴により用途の効率化および高機能化を求められる合金に使用される。銅-ベリリウム合金は、その高い強度、弾性、および疲労強度により、これらの用途に使用される。
【0004】
いくつかの銅-ニッケル-錫合金は、銅-ベリリウム合金と同様の望ましい特性を有することが明らかとなっており、また、低コストで製造することができる。例えば、Materion CorporationからBrushform(R) 158(BF158)として提供される銅-ニッケル-錫合金は、様々な形状で販売されており、設計者が合金を電気コネクタ、スイッチ、センサ、ばね等に成形できる高性能・熱処理合金である。これらの合金は、概して、鍛錬合金製品として販売され、設計者は、鋳造よりむしろ加工によって本合金を最終形状にするように扱う。しかしながら、これらの銅-ニッケル-錫合金は、銅-ベリリウム合金に比べて成形性に限界がある。
【0005】
銅-ニッケル-錫合金を使用するため、合金の成形性特性を改良する新たなプロセスを開発することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、鋳造された銅-ニッケル-錫合金の成形性(すなわち、塑性変形による材料の成形能力)を改良するプロセスに関する。概して、合金は、第1の機械的冷間加工により約5%~約15%の塑性変形%CW(すなわち、冷間加工百分率)を受ける。合金は、その後、約700°F~約950°Fの高温で、約3分~約12分の加熱による熱的応力緩和段階を経て、所望の成形性特性を作り出す。
【0007】
特定の実施形態における開示は、銅-ニッケル-錫合金の成形性を改良するプロセスであって、少なくとも115ksiである耐力を有する合金組成物を作るためのものである。合金は、約14.5重量%~約15.5重量%のニッケルと、約7.5重量%~約8.5重量%の錫とを含み、残部は、銅である。プロセス段階は、銅-ニッケル-錫合金を冷間加工することを含み、そこで合金は、約5%~約15%の塑性変形を受ける。次に、合金は、約450°F~約550°F高温で、約3時間~約5時間かけて熱処理される。次いで、合金を冷間加工するが、ここで合金は、約4%~約12%の塑性変形を受ける。これに続き、合金は、約700°F~約850°Fの高温で、約3分~約12分間加熱する熱的応力緩和段階を経て、所望の成形性および耐力特性を作り出す。
【0008】
鋳造された銅-ニッケル-錫合金の成形性を改良し、少なくとも130ksiである耐力を有する合金組成物を作り出すためのプロセスも開示される。合金は、約14.5重量%~約15.5重量%のニッケルと、約7.5重量%~約8.5重量%の錫とを含み、残部は、銅である。プロセス段階は、銅-ニッケル-錫合金を冷間加工することを含み、合金は、約5%~約15%の塑性変形を受ける。その後、合金を、約775°F~約950°Fの高温で約3分間~約12分間熱処理し、所望の成形性および耐力特性を作り出す。このようにしてできた合金は、少なくとも130ksiである耐力と、横方向には2を下回り、長手方向には2.5を下回る成形性比とを有する。
【0009】
本開示のこれらおよび他の非限定的な特性は、より具体的に以下に開示される。
例えば、本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
少なくとも115ksiである0.2%オフセット耐力を有する鍛錬用銅-ニッケル-錫合金の成形性を改良するためのプロセスであって、
銅-ニッケル-錫合金に冷間加工率(%CW)が約5%~約15%になるまで第1の機械的冷間加工段階を行う工程と、
熱処理段階を通して前記合金の応力を緩和する工程と、
を含む、プロセス。
(項目2)
前記合金中の応力を緩和するための前記熱処理が、700°F~950°Fの範囲の温度で約3分間~約12分間かけて行われる、項目1に記載のプロセス。
(項目3)
前記合金中の応力を緩和するための前記熱処理が、775°F~950°Fの範囲の温度で約3分間~約12分間かけて行われる、項目1に記載のプロセス。
(項目4)
応力を緩和するための前記熱処理後、前記合金が、少なくとも130ksiである耐力
を有する、項目1に記載のプロセス。
(項目5)
応力を緩和するための前記熱処理後、前記合金が、2を下回る横方向の成形性比を有する、項目1に記載のプロセス。
(項目6)
応力を緩和するための前記熱処理後、前記合金が、2.5を下回る長手方向の成形性比を有する、項目1に記載のプロセス。
(項目7)
応力を緩和するための前記熱処理後、前記合金が、少なくとも130ksiである耐力と、2を下回る横方向の成形性比と、2.5を下回る長手方向の成形性比とを有する、項目1に記載のプロセス。
(項目8)
応力を緩和するための前記熱処理後、前記合金が、1.5を下回る横方向の成形性比を有する、項目1に記載のプロセス。
(項目9)
応力を緩和するための前記熱処理後、前記合金が、2を下回る長手方向の成形性比を有する、項目1に記載のプロセス。
(項目10)
熱処理後、前記合金が、1.5を下回る横方向の成形性比と、2を下回る長手方向の成形性比とを有する、項目1に記載のプロセス。
(項目11)
熱処理後、前記合金が、少なくとも135ksiである耐力を有する、項目1に記載のプロセス。
(項目12)
前記銅-ニッケル-錫合金を前記第1の冷間加工段階の後で熱処理する工程と、
前記合金中の応力を熱処理によって緩和する前に、前記銅-ニッケル-錫合金に、%CWが約4%~約12%になるまで第2の冷間加工段階を行う工程とをさらに含む、項目1に記載のプロセス。
(項目13)
前記第1の冷間加工後の前記熱処理が、前記合金を約450°F~約550°Fの温度に約3時間~約5時間さらすことで行われる、項目12に記載のプロセス。
(項目14)
前記合金中の応力を緩和するための前記熱処理が、700°F~850°Fの範囲の温度で約3分間~約12分間かけて行われる、項目12に記載のプロセス。
(項目15)
応力を緩和するための前記熱処理後、前記合金が、1を下回る横方向の成形性比を有する、項目12に記載のプロセス。
(項目16)
応力を緩和するための前記熱処理後、前記合金が、1を下回る長手方向の成形性比を有する、項目12に記載のプロセス。
(項目17)
応力を緩和するための前記熱処理後、前記合金が、少なくとも115ksiである耐力と、1を下回る横方向の成形性比と、1を下回る長手方向の成形性比とを有する、項目12に記載のプロセス。
(項目18)
前記銅-ニッケル-錫合金が、約14.5重量%~約15.5重量%のニッケルと、約7.5重量%~約8.5重量%の錫とを含み、残部が銅である、項目12に記載のプロセス。
(項目19)
前記合金は、スピノーダル硬化した材料である、項目12に記載のプロセス。
(項目20)
少なくとも115ksiである0.2%オフセット耐力を有する鍛錬用銅-ニッケル-錫合金の成形性を改良するためのプロセスであって、
銅-ニッケル-錫合金に%CWが約5%~約15%になるまで第1の機械的冷間加工段階を行う工程と、
該第1の冷間加工後、該銅-ニッケル-錫合金を熱処理する工程と、
該銅-ニッケル-錫合金に%CWが約4%~約12%になるまで第2の機械的冷間加工段階を行う工程と、
熱処理によって該合金中の応力を緩和する工程と、
を含む、プロセス。
【図面の簡単な説明】
【0010】
以下は、図面の簡単な説明であるが、これは、本明細書に開示される例示的実施形態を図示するためのもので、開示を限定するためのものではない。
【0011】
図1図1は、本開示の例示的プロセスを図示するフローチャートである。
【0012】
図2図2は、本開示の別の例示的プロセスを図示するフローチャートである。
【0013】
図3図3は、最小115ksiである0.2%オフセット耐力を有する本開示の合金に、様々な割合の冷間加工を加えた後の、長手方向および横方向の両方の成形性比(R/t)、耐力を示す実験データを図説する折れ線グラフである。
【0014】
図4図4は、最小130ksiである0.2%オフセット耐力を有する本開示の合金に、様々な割合の冷間加工を加えた後の、長手方向および横方向の両方における成形性比(R/t)を示す実験データを図示する折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書に開示される構成要素、プロセス、および装置は、付随の図面を参照することでより完全に理解することができる。これらの図は、本開示の明示を簡便かつ容易にすることに重きを置いた模式的な略図にすぎず、したがって、装置またはその構成要素の相対的寸法や大きさを示すものではなく、および/または例示的実施形態の範囲を画定もしくは限定するものでもない。
【0016】
以下の記述には明確性のため特定の用語が用いられているが、これらの用語は、図中での説明のために選定された実施形態に特有の構成のみを示すことを意図しており、本開示の範囲を画定または限定することを意図しない。付随の図面および以下の記述において、各数字表示は、同様の機能を有する構成要素を示すものと理解されるべきである。
【0017】
「a」、「an」、および「the」の単数形は、文脈によって明確に別様に示されない限り、複数参照も含む。
【0018】
明細書および請求項で使用されるように、用語「comprise(s)(備える)」、「include(s)(含む)」、「having(有する)」、「has(有する)」、「can(できる)」、「contain(s)(含有する)」およびこれらの異形は、本明細書で使用されるように、本書において指名された構成要素/工程の存在を要求するもので、かつ他の構成要素/工程の存在を許容するオープンエンドな移行部、用語、または単語を意図する。しかしながら、列挙された構成要素/工程「から成る(consisting of)」および「実質的に成る(consisting essentially of)」等と記された組成物またはプロセスの記述は、指名された構成要素/工程と、その結果生じ得る不可避不純物の存在のみを許容し、他の構成要素/工程を排除するものと解釈されるべきである。
【0019】
本願の明細書および請求範囲の数値は、同数の有効数字に四捨五入した際に同じ値となる数値、ならびに示された数値との差異が、本願に示されたものと同種の従来の計測手法における実験誤差より小さな数値を含むものと理解されるべきである。
【0020】
本明細書に開示される全ての範囲は、示された端点を含むものであり、独立して組み合わせ可能である(例えば、「2グラム~10グラム」の範囲は、端点2グラムおよび10グラムと、さらにそれらの間の値の全てと含む)。
【0021】
「約」、「実質的に」等の用語で修飾される数値は、規定される正確な値のみに限定されるとは限られない。概略を表わす言語は、数値を測定する機器の精度に対応する場合もある。修飾語の「about(約)」はまた、2つの端点の絶対値で画定される範囲を開示するものと考えられるべきである。例えば、「約2~約4」という表現はまた、「2~4」の範囲を開示する。
【0022】
元素の百分率は、別様に示されない限り、述べられた合金の重量百分率であると見なされるべきである。
【0023】
本明細書で使用されるように、「スピノーダル合金」という用語は、スピノーダル分解できるような化学組成を有する合金を意味する。「スピノーダル合金」という用語は、合金の化学成分を示す用語であり、物理的状態を示すものではない。したがって、「スピノーダル合金」は、すでにスピノーダル分解したものであってもよく、またはそうでなくてもよく、スピノーダル分解過程にあってもよく、またはそうでなくてもよい。
【0024】
スピノーダル時効/分解とは、多種の成分が、異なった化学組成および物性を有する特定の領域またはミクロ組織に分離する機構である。特に、状態図の中央域にあるバルク組成を有した結晶は、離溶(exsolution)を起こす。本開示の合金の表面でスピノーダル分解が起こると、表面が硬化する結果となる。
【0025】
スピノーダル合金の組織は、初期相が特定の温度で分離し、高温に達した溶解度ギャップと呼ばれる組成が形成されたときに作られる均一な2相混合組織である。合金相は、自然分解して、結晶構造は同じでありながら、組織内の原子が同程度の大きさを保ちつつ変化した別の相に自然分解する。スピノーダル硬化は、ベース金属の耐力を増大し、組成およびミクロ組織の高い均一性を含む。
【0026】
本明細書で利用される銅-ニッケル-錫合金は、概して、約9.0重量%~約15.5重量%のニッケルと、約6.0重量%~約9.0重量%の錫とを含み、残部は、銅である。本合金は、硬化可能で、さらに、様々な産業的・商業的用途で使用できる高耐力製品に容易に成形することができる。この高性能合金は、銅-ベリリウム合金と同様の特性を発揮するように設計されている。
【0027】
より具体的には、本開示の銅-ニッケル-錫合金は、約9重量%~約15重量%のニッケルと、約6重量%~約9重量%の錫とを含み、残部は銅である。より具体的な実施形態では、銅-ニッケル-錫合金は、約14.5重量%~約15.5%のニッケルと、約7.5重量%~約8.5重量%の錫とを含み、残部は、銅である。これらの合金は、各種の特性の組み合わせを有することができ、合金は、様々な種類がある。より具体的には、「TM04」と称される銅-ニッケル-錫合金は、概して、105ksi~125ksiである0.2%オフセット耐力と、115ksi~135ksiである引張強さと、245~345のビッカース硬度値(HV)を有する。TM04合金であるためには、最小115ksiである合金耐力が必要である。「TM06」と称される銅-ニッケル-錫合金は、一般に120ksi~145ksiである0.2%オフセット耐力と、130ksi~150ksiである引張強さと、270~370のビッカース硬度値(HV)を有する。TM06合金と考えられるために、合金の耐力が最小130ksiでなければならない。
【0028】
図1は、本開示の金属加工プロセスの工程を概説するTM04級銅-ニッケル-錫合金のフロー図を図示する。これらのプロセスは、特に、TM04級合金に適用されるように考案されている。プロセスは、合金100に第1の冷間加工をまず加えることから始まる。
【0029】
冷間加工は、塑性変形によって金属の形状またはサイズを機械的に変更するプロセスである。これは、金属または合金の圧延、引抜き、プレス、へら絞り、押出し、または圧造によって行うことができる。金属を塑性変形させると、材料内で原子構造の転位が生じる。特に、転位は、結晶粒の全域または内部で生じる。転位同士が相互に絡み合い、材料中の転位密度が増大する。絡み合った転位が増大すると、さらなる転位の移動はより困難になる。これが、結果として生じる合金の硬さおよび引張強さを増大させる一方で、概して、合金の延性および衝撃特性を低下させる。冷間加工はまた、合金の表面仕上げを改善する。機械的冷間加工は、概して、合金の再結晶点より低い温度で行われ、通常は、室温で行われる。冷間加工率(%CW)、または変形度は、冷間加工の前後における合金の断面積の変化を測定し、下記の式に従って計算することができる。
%CW=100×[A-A]/A
式中、Aは、冷間加工前における初期または元の断面積であり、Aは、冷間加工後の最終的な断面積である。断面積の変化は、通常、合金の厚さのみに支配されるため、%CWは、初期および最終の厚さを用いて計算することもできることに留意されたい。
【0030】
実施形態では、初期冷間加工100を、合金の%CWが約5%~約15%の範囲となるように行う。より具体的には、この第1の段階における%CWは、約10%とすることができる。
【0031】
次に、合金に熱処理200を施す。金属または合金の熱処理は、金属を加熱および冷却し、製品の形状を変えることなく、その物理的および機械的性質を変更するように制御されたプロセスである。熱処理は、材料の強度の増大に関連付けられるが、機械加工性の改善、成形性の改善、冷間加工後の延性の回復等、製造の容易性を変えるために使用されることもできる。初期熱処理段階200は、初期冷間加工段階100後の合金に行われる。合金は、従来の炉または同様な組立体内に置かれ、約450°F~約550°Fの範囲の高温に約3時間~約5時間さらされる。より具体的な実施形態では、合金は、約525°Fの高温に約4時間さらされる。これらの温度は、合金がさらされる雰囲気温度または炉の設定温度であり、合金そのものがこの温度に達しているとは限らないことに留意されたい。
【0032】
熱処理段階200後、結果として生じる合金材料に、第2の冷間加工または艶出し段階300を施す。より具体的には、合金を再度冷間加工して、約4%~約12%の範囲の%CWを得る。より具体的には、この第1の段階における%CWは約8%とすることができる。この%CWの算出に用いる「初期」断面積または厚さは、熱処理後、第2の冷間加工が始まる前に測定されることに留意されたい。言い換えれば、第2の%CWを求めるために使用される初期断面積/厚さは、第1の冷間加工段階100前の元の面積/厚さではない。
【0033】
次いで、合金に熱的ひずみ取り処理を施し、第2の冷間加工段階300後、所望の成形性特性400を達成する。実施形態では、合金を、約700°F~約850°Fの範囲の高温で約3分間~約12分間さらす。より具体的には、高温は、約750°Fであり、時間は、約11分間である。繰り返しになるが、これらの温度は、合金がさらされる雰囲気温度または炉の設定温度であり、合金そのものがこの温度に達しているとは限らない。
【0034】
上記のプロセスを経た後、TM04銅-ニッケル-錫合金は、横方向に1を下回る成形性比と、長手方向に1を下回る成形性比とを呈する。成形性比は、通常、R/t比で測定される。これは、厚さ(t)の圧延材を破断することなく90°に曲げるために必要な最小曲面の内側半径(R)を特定するもので、すなわち、成形性比は、R/tに等しい。成形性が良好な材料は、成形性比が低い(すなわち低R/t)。成形性比は、所定の曲率半径を有するパンチで、供試験圧延材を90°型に押し込みために使用され、曲がった試片の外半径部分で割れ検査を行う90°V-ブロック試験を使用することによって測定することができる。さらに、合金は、少なくとも115ksiである0.2%オフセット耐力を有するであろう。
【0035】
長手方向および横方向は、金属材料の巻取り方向から定義づけることができる。巻き取られた圧延材を解放するとき、長手方向は、解放方向に対応する、言い換えれば、圧延材の長さに沿う。横方向は、圧延材の幅方向、すなわち、巻取り解放軸の方向に対応する。
【0036】
図3は実験データの折れ線グラフで、最小115Ksiである耐力を有するTM04銅-ニッケル-錫合金の成形性を示す。Y軸は、R/t比、また、X軸は、冷間加工率(%CW)である。折れ線グラフは、TM04級合金について行われた6回の実験テストから得られたものであり、CW%で10%、15%、20%、25%、30%、および35%(それぞれ番号1~6)について測定して得られた曲線を表す。これらは熱処理前に測定された。シリーズ1(点線)は、横方向の成形性比を表し、シリーズ2(破線)は、長手方向の成形性比を表す。ここに見られるように、1を下回る成形性比を10%~30%の%CW後に得ることができる。
【0037】
図2は、本開示の金属加工プロセスの工程を概説するTM06級銅-ニッケル-錫合金のフロー図を図示する。これらのプロセスは、特に、TM06級合金に適用されるように考案されている。プロセスは、合金100’に第1の冷間加工を加えることから始まる。本実施形態では、初期冷間加工段階100’は、合金の%CWが約5%~約15%の範囲となるよう行われる。より具体的には、%CWは、約10%である。
【0038】
次いで、合金に熱処理400’を施す。これは、400’でTM04合金に施される熱的応力緩和段階と同様である。実施形態では、合金を約775°F~約950°Fの範囲の高温に約3分間~約12分間だけさらす。より具体的には、高温は、約850°Fである。
【0039】
TM04級焼戻し合金の金属プロセスと比べると、得られるTM06合金材料には、熱処理段階(すなわち、図1の200)または第2の冷間加工プロセス/艶出し段階(すなわち、図1の300)が施されない。
【0040】
上述したプロセス後、TM06銅-ニッケル-錫合金は、横方向には2を下回る成形性比を、また長手方向には2.5を下回る成形性比を呈する。より具体的な実施形態では、TM06銅-ニッケル-錫合金は、横方向には1.5を下回る成形性比を、また長手方向には2を下回る成形性比を呈する。加えて、銅-ニッケル-錫合金は、少なくとも130ksiである耐力、より好ましくは少なくとも135ksiである耐力を有するであろう。
【0041】
図4は、最小130Ksiである耐力を有するTM06銅-ニッケル-錫合金の成形性比(R/t)に関する実験データを示す折れ線グラフである。Y軸は、R/t比、また、X軸は、冷間加工率(%CW)である。折れ線グラフは、TM06級合金について行われた5回の実験テストから得られたもので、CW%で15%、20%、25%、30%、および35%(それぞれ番号1~5)について測定して得られた曲線を表す。これらは、熱処理前に測定された。シリーズ1(点線)は、横方向の成形性比を表し、シリーズ2(破線)は、長手方向の成形性比を表す。
【0042】
20%~35%の%CWにおいて、横方向には2を下回の成形性比を、また長手方向には2.5を下回る成形性比を得ることができる。横方向に1.5を下回る成形性比および長手方向に2を下回る成形性比は、25%~30%の%CWにおいて得ることができる。
【0043】
本明細書で開示されるプロセスでは、冷間加工と熱処理とのバランスがとられている。冷間加工および熱処理によって得られる強度および成形性比の値の間には理想的なバランスがある。
【0044】
以下の実施例は、本開示の合金、物品、およびプロセスを説明するためのものである。これらの実施例は、単に説明用であり、そこに記された材料、条件、またはプロセスパラメータに本開示を限定することを意図しない。
【実施例
【0045】
15重量%のニッケルと、8重量%の錫とを含み、残部が銅である銅-ニッケル-錫合金は、初期厚さ0.010インチの圧延材に加工された。次いで、圧延材は、約6フィート毎分(FPM)の送り速度の圧延機を用いて冷間加工された。圧延材の冷間加工および測定は、%CWで5%(0.0095インチ)、10%(0.009インチ)、15%(0.0085インチ)、および20%(0.008インチ)において行った。次に、700°F、750°F、800°F、または850°Fの温度で、圧延材に熱的応力緩和処理を施した。
【0046】
応力緩和処理後、各種特性が測定された。これらの特性は、引張強さ(T)、単位ksi;耐力(Y)、単位ksi;%破断伸び(E);ヤング率(M)単位、百万psiを含む。表1に測定結果を示す。
【表1】

TM04合金
【0047】
次に、15重量%のニッケルと、8重量%の錫とを含み、残部が銅で、115~135ksiである耐力を有するTM04級銅-ニッケル-錫合金から圧延材を形成した。合金の初期厚さは0.010インチで、これをさらに冷間加工して10%CW、すなわち、最終厚さ0.009インチの圧延材に成形した。圧延材は、送り速度6~14フィート毎分(FPM)の圧延機を用いて冷間加工された。その後、圧延材に、750°Fおよび800°Fの温度で熱的応力緩和処理を施した。
【0048】
長手方向(L90°)および横方向(T90°)の両方向における成形性比を含む各種特性が、測定された。結果は、下の表2に示される。
【表2】

TM06合金
【0049】
次に、15重量%のニッケルと、8重量%の錫を含み、残部が銅で、135~155ksiである耐力を有するTM06級銅-ニッケル-錫合金から圧延材を形成した。この合金から圧延材を形成した際の初期厚さは0.010インチで、これを冷間加工して15%の%CW、すなわち、最終厚さ0.0085インチを得た。圧延材は、送り速度6~10フィート毎分(FPM)の圧延機を用いて冷間加工された。その後、圧延材に、800°Fまたは850°Fの温度で熱的応力緩和処理を施した。
【0050】
長手方向(L90°)および横方向(T90°)の両方における成形性比を含む各種特性が、測定された。結果は、下の表3Aに示される。
【0051】
表3Bは、表3Aと同様な情報を示すが、圧延材を冷間加工して%CWを20%、すなわち、最終厚さ0.008インチとした点で異なっている。
【表3A】

【表3B】

熱処理済み合金
【0052】
15重量%のニッケルと、8重量%の錫とを含み、残部が銅のTM04またはTM06級銅-ニッケル-錫合金から圧延材を形成した。合金を0.010インチの初期厚さを有する圧延材に成形し、その後、冷間加工により55%の%CW、すなわち、0.0045インチの最終厚さを得た。その後、時間/温度列に示される、575°F、600°F、または625°Fで、2、3、4、6、または8時間の熱処理を圧延材に施した。
【0053】
長手方向(L90°)および横方向(T90°)の両方における成形性比を含む各種特性が、測定された。結果は、下の表4に示される。
【表4】
【0054】
本開示の合金は、高性能、熱処理型スピノーダル銅-ニッケル-錫合金であり、電気コネクタ、スイッチ、センサ、電磁波シールド用ガスケット、および、ボイスコイルモータの接点等の導電性ばね用途において、最適な成形性および強度特性を提供するように設計されている。1つの実施形態では、合金は、予備熱処理(ミル・ハードン)された状態で提供されることができる。別の実施形態では、合金は、熱処理可能な(時効硬化可能な)状態で提供されることができる。さらに、開示された合金はベリリウムを含有しないため、ベリリウムが好ましくない用途にも利用することができる。
【0055】
当然のことながら、上記開示の変形、他の特徴や機能、または、これらの代替を組み合させて他の多くのシステムや用途とすることができる。今のところ予測または予期できない様々な代替、変更、変形、または改良が当業者によって今後行われる可能性があるが、これらもまた添付の請求範囲に含まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4