(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 3/43 20060101AFI20220216BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20220216BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
E02F3/43 C
E02F9/20 N
E02F9/26 B
(21)【出願番号】P 2019059444
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廻谷 修一
(72)【発明者】
【氏名】泉 枝穂
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-3515(JP,A)
【文献】特開2018-3388(JP,A)
【文献】特開2018-3386(JP,A)
【文献】特開2014-190136(JP,A)
【文献】特開2011-6862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/43
E02F 9/20
E02F 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バケットで目標面の形成作業を行う多関節型の作業機と,
前記作業機を駆動する複数の油圧アクチュエータと,
前記バケットの動作軌跡が前記目標面の上方に保持されるように,前記複数の油圧アクチュエータの少なくとも1つの油圧アクチュエータの制御指令を前記作業機から前記目標面までの距離に基づいて算出し,前記少なくとも1つの油圧アクチュエータを前記制御指令に基づいて制御するコントローラと,
管理サーバと双方向通信するための通信装置とを備えた作業機械において,
前記コントローラは,
前記作業機械の作業状況パラメータを前記管理サーバに送信し,
前記作業状況パラメータに基づいて前記管理サーバで演算される前記制御指令を補正するための補正値である制御指令補正値を前記管理サーバから受信し,
前記制御指令補正値に基づいて前記制御指令を補正した補正後の制御指令である補正後制御指令によって前記少なくとも1つの油圧アクチュエータを制御することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1の作業機械において,
前記作業状況パラメータには,前記作業機械の位置情報と,前記作業機械の作動油の温度情報と,前記目標面の勾配情報と,前記バケットの重量情報とが含まれていることを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1の作業機械において,
前記制御指令補正値は,前記管理サーバに送信した前記作業状況パラメータに基づいて分類される作業状況パターンごとに設定されている値であり,他の作業機械と共有される値であることを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1の作業機械において,
前記コントローラは,前記補正後制御指令に基づいて前記少なくとも1つの油圧アクチュエータを制御したときの前記目標面と前記バケットの爪先の動作軌跡との差の平均値である爪先誤差平均値を演算して前記管理サーバに送信し,
前記制御指令補正値は,過去に前記管理サーバに送信された前記爪先誤差平均値に基づいて調整されていることを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1の作業機械と,前記管理サーバとを備えた作業機械の制御システムであって,
前記管理サーバは,
複数の作業状況パターンと,前記複数の作業状況パターンに対応する複数の制御指令補正値とが記憶されたデータベースを備え,
前記作業機械から送信される前記作業状況パラメータに基づいて前記複数の作業状況パターンの中から該当する作業状況パターンを演算し,その該当する作業状況パターンに対応する制御指令補正値を前記コントローラに送信することを特徴とする作業機械の制御システム。
【請求項6】
請求項5の作業機械の制御システムにおいて,
前記コントローラは,前記補正後制御指令に基づいて前記少なくとも1つの油圧アクチュエータを制御したときの前記目標面と前記バケットの爪先の動作軌跡との差の平均値である爪先誤差平均値を演算して前記管理サーバに送信し,
前記管理サーバは,前記コントローラから送信された前記爪先誤差平均値に基づいて,前記爪先誤差平均値がゼロに近づくように前記制御指令補正値を調整した値である調整後制御指令補正値を演算し,
前記データベースには,前記複数の作業状況パターンのそれぞれに対応する前記調整後制御指令補正値の履歴が記憶されており,
前記データベースに記憶された前記制御指令補正値は,前記複数の作業状況パターンのそれぞれに対応する前記調整後制御指令補正値の履歴の平均値であることを特徴とする作業機械の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制御パラメータを補正するコントローラを備える作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直方向にそれぞれ回動可能な複数のフロント部材(具体的には,ブーム,アーム,及び作業具(例えばバケット))からなるフロント作業機(作業機とも称する)を備える作業機械として油圧ショベルがある。油圧ショベルは,フロント作業機と,上部旋回体及び下部走行体からなる車体とで構成される。ブームの基端部は,上部旋回体に回動可能に支持されている。
【0003】
フロント作業機における各フロント部材は,ブーム用,アーム用,及びバケット用の各油圧シリンダに対して,油圧ポンプで発生した圧油を供給することで駆動される。オペレータが操作レバーを操作することによって,対象とするフロント部材を駆動させ,所望の動きを実現できる。ここで,ブームシリンダの伸長によりブームを上げる動作をブーム上げ動作,ブームシリンダの収縮によりブームを下げる動作をブーム下げ動作,アームシリンダの伸長によりアームを回動させてアーム先端を車体側に近づける動作をアームクラウド動作,アームシリンダの収縮によりアームを回動させてアーム先端を車体から離す動作をアームダンプ動作,バケットシリンダの伸長によりバケットを回動させる動作をバケットクラウド動作,バケットシリンダの収縮によりバケットを回動させる動作をバケットダンプ動作と称する。なお,以下ではクラウド動作を掘削動作,ダンプ動作を放土動作とも称する。
【0004】
このような油圧ショベルにおいて,掘削対象の目標形状を示す目標面にフロント作業機(バケット先端)が沿うよう各油圧シリンダの動作を制御する機能がある。また,主にアームクラウド動作によって行われる掘削時のみならず,バケットを掘削開始位置に移動するためにブームやバケットを動作させる位置合わせ作業時にも目標面上でバケットを停止させる機能がある。このように自動または半自動でフロント作業機の動作を制御する機能をマシンコントロールと呼称する。
【0005】
このようなマシンコントロールによりフロント作業機を制御する場合,油圧シリンダの動作特性が十分に把握されていないとフロント作業機による掘削精度が低下し得る。油圧シリンダの動作特性はフロント作業機の個体差(すなわち油圧ショベルの個体差)に起因するバラつきがある。そこで特許文献1には,車体ごとの油圧シリンダの動作特性のバラつきを較正する較正モードに関する発明が提案されており,油圧シリンダの動作特性の較正により掘削精度の低下の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マシンコントロールによる掘削精度は作業状況(作業環境)にも左右され得る。例えば,掘削対象の土の硬さ,フロント作業機を駆動する作動油の温度(油温),バケットの重量,目標面の勾配等の影響を受ける。すなわち,マシンコントロールを用いて精度よく掘削するためには,マシンコントロールに利用する制御パラメータを作業状況に応じて補正する必要があり,作業状況毎に制御ロジックを切り替えたり,車体調整用のツールを使用して都度車体の動作を調整したりすることが必要となる。
【0008】
特許文献1の技術は,油圧ショベルの出荷時や作業現場搬入前に実施され,車体ごとの油圧シリンダ動作特性のバラつきに起因した精度低下を抑制している。従って,車体に起因した精度低下は抑制できても,作業状況(土質,油温,バケット重量,目標面勾配等)が変化すると想定した精度が出ない可能性がある。すなわち,作業状況の変化に合わせて都度調整が必要となり,実作業に入るまで時間を要してしまう。
【0009】
本発明の目的は,作業機械の作業状況に適した制御パラメータ(補正値)を速やかに反映できる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが,その一例を挙げるならば,バケットで目標面の形成作業を行う多関節型の作業機と,前記作業機を駆動する複数の油圧アクチュエータと,前記バケットの動作軌跡が前記目標面の上方に保持されるように,前記複数の油圧アクチュエータの少なくとも1つの油圧アクチュエータの制御指令を前記作業機から前記目標面までの距離に基づいて算出し,前記少なくとも1つの油圧アクチュエータを前記制御指令に基づいて制御するコントローラと,管理サーバと双方向通信するための通信装置とを備えた作業機械において,前記コントローラは,前記作業機械の作業状況パラメータを前記管理サーバに送信し,前記作業状況パラメータに基づいて前記管理サーバで演算される前記制御指令を補正するための補正値である制御指令補正値を前記管理サーバから受信し,前記制御指令補正値に基づいて前記制御指令を補正した補正後の制御指令である補正後制御指令によって前記少なくとも1つの油圧アクチュエータを制御するものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,油圧ショベルの作業状況(作業環境)に即した制御パラメータでマシンコントロールが実行されることになるため,従前よりも施工精度を容易に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る作業機械の制御システムの構成図である。
【
図2】
図1中の油圧ショベル1のコントローラ20と管理サーバ71とで実行される処理の機能ブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る油圧ショベル1の構成図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る油圧ショベルのコントローラ20を油圧駆動装置と共に示す図である。
【
図5】
図4中の油圧制御用ユニット60の詳細図である。
【
図6】コントローラ20の作業機制御部40で実行される処理をさらに複数のブロックに分類した機能ブロック図である。
【
図7】バケット先端CP1と目標面75の距離Dと速度補正係数kとの関係を表すグラフである。
【
図8】バケット先端CP1における距離Dに応じた補正前後の速度ベクトルを表す模式図である。
【
図9】管理サーバ71の土質ステータス判定部80で実行される処理の説明図である。
【
図10】管理サーバ71の油温ステータス判定部81で実行される処理の説明図である。
【
図11】管理サーバ71のバケットステータス判定部82で実行される処理の説明図である。
【
図12】管理サーバ71の勾配ステータス判定部83で実行される処理の説明図である。
【
図13】管理サーバ71の補正値演算部84で実行される処理をさらに複数のブロックに分類した機能ブロック図である。
【
図14】土質,油温,バケット及び勾配のステータスと作業状況パターンの対応図である。
【
図15】管理サーバ71の制御指令補正値データベース85に格納されているテーブルの一例を示す図である。
【
図16】本実施形態に係る爪先誤差最大領域Amaxの説明図である。
【
図17】複数の爪先誤差領域A1-A5及びその説明と,複数の爪先誤差領域A1-A5と複数の調整値1-5の対応関係を示す図である。
【
図18】本実施形態に係る油圧ショベル1のコントローラ20及び管理サーバ71によって実行される処理のフローチャートである。
【
図19】
図18中のステップ107で実行される処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下,本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお,以下では,作業具としてバケットを備える油圧ショベルを例示するが,バケット以外のアタッチメントを備える油圧ショベルであっても,また油圧ショベル以外の作業機械であっても構わない。また,同一の構成要素が複数存在する場合,符号(数字)の末尾にアルファベットを伏すことがあるが,当該アルファベットを省略して当該複数の構成要素をまとめて表記することがある。例えば,3つのポンプ300a,300b,300cが存在するとき,これらをまとめてポンプ300と表記することがある。
【0014】
<全体システム構成>
図1は本発明の実施の形態に係る作業機械の制御システムの構成図である。
図1に示す作業機械の制御システムは,複数の油圧ショベル1と,複数の油圧ショベル1と通信回線70を介して双方向通信可能な管理サーバ71とを備えている。なお,
図1には代表して1台の油圧ショベル1のみ表記している。ただし,各油圧ショベル1は同じ構成であり,以下では主に1台の油圧ショベル1の構成について説明する。
【0015】
油圧ショベル1は,油圧ショベル1の製造業者(メーカー)の工場から出荷され,土木作業,建設作業,解体作業,浚渫作業等の作業現場(工事現場)で稼働している。油圧ショベル1は,設計図面作成管理ツール73で作成された設計図面で定義される目標面の上方にバケット10(
図3参照)の動作軌跡が保持されるように少なくとも1つの油圧アクチュエータ(例えばブームシリンダ5(
図3参照))の制御指令を算出し,その制御指令に基づいて当該少なくとも1つの油圧アクチュエータを制御するマシンコントロールを実行可能なコントローラ20を備えている。また,油圧ショベル1は,通信回線70を介して管理サーバ71と双方向通信するために,コントローラ20が管理サーバ71を含む外部端末と通信アンテナ26を使用して双方向通信するための無線通信装置25(
図3参照)を備えている。
【0016】
管理サーバ71は,油圧ショベル1のコントローラ20で演算される制御指令を補正するための補正値である制御指令補正値をその油圧ショベル1の作業状況パラメータに基づいて演算し,その油圧ショベル1に送信する。詳細は後述するが,管理サーバ71が演算する制御指令補正値は,油圧ショベル1から送信される作業状況パラメータ(例えば後述する車体位置データ,油温データ,バケットの重量データ,及び目標面の勾配データ)に基づいて決定される作業状況パターン毎に決まっており,各油圧ショベル1の作業状況パターンを特定できれば,1台の油圧ショベル1の制御指令の補正(変更)だけでなく,複数の油圧ショベル1の制御指令の補正(変更)を並行して行うことが可能である。管理サーバ71の記憶装置(図示せず。例えば磁気ディスク記憶装置)には,油圧ショベル1の制御指令補正値の演算に用いる制御指令補正値データベース85(詳細は後述)が格納されている。管理サーバ71は,油圧ショベル1から離れた位置,例えは,油圧ショベル1の製造業者の本社,支社,工場等に設置されている。なお,管理サーバ71は,製造業者の施設に限らず,例えば,サーバの運営を専門的に行うデータセンタ等に設置してもよい。管理サーバ71は,専用回線,公衆回線,インターネット回線,光回線,電話回線,有線回線,無線回線,衛星回線,移動回線等の通信回線70を介して,例えば,油圧ショベル1や設計図面作成管理ツール73に接続されている。
【0017】
設計図面作成管理ツール73は,目標目が定義された設計図面の作成及び管理をするためのツールであり,例えば,施工業者の社内に設置されたコンピュータである。設計図面作成管理ツール73は,例えば,油圧ショベル1のオペレータ,所有者(所有会社),管理者(管理会社)等,油圧ショベル1の使用者(ユーザ)が使用するツールである。使用者は,設計図面作成管理ツール73を利用して設計図面データを作成し,通信回線70を介して油圧ショベル1のコントローラ20に送信する。なお,本実施形態では設計図面データを設計図面作成管理ツール73からコントローラ20に対して送信する場合を例に挙げたが,コントローラ20に設計図面データを格納できればその手段は問わない。すなわち,設計図面データをネットワーク上の記憶装置や外部記憶装置(例えば,半導体メモリ等)からコントローラ20にダウンロードしても良い。
【0018】
図2は
図1中の油圧ショベル1のコントローラ20と管理サーバ71とで実行される処理を機能的側面から複数のブロックに分類してまとめた機能ブロック図である。
【0019】
コントローラ20と管理サーバ71は,それぞれ,演算処理装置(例えばCPU),記憶装置(例えば,ROM,RAM等の半導体メモリ),インタフェース(入出力装置)を備えており(いずれも図示せず),記憶装置内に予め保存されているプログラム(ソフトウェア)を演算処理装置で実行し,プログラム内で規定されているデータとインタフェースから入力されたデータに基づいて演算処理装置が演算処理を行い,インタフェースから外部に信号(演算結果)を出力する。
【0020】
コントローラ20は,記憶装置内に格納されたプログラムを実行することで作業状況パラメータ送信部41と作業機制御部40として機能する。
【0021】
作業状況パラメータ送信部41は,油圧ショベル1の作業状況(作業環境)を示すパラメータ(作業状況パラメータ)を取得し,管理サーバ71に送信する処理を実行する部分である。本実施形態では,作業状況パラメータとして,油圧ショベル1の位置情報(土質情報の取得時に利用される),作動油の温度情報,バケット10(
図3参照)の重量情報,目標面の勾配情報を利用する。ただし作業状況パラメータはこれらに限られず必要に応じて適宜追加が可能である。作業状況パラメータはコントローラ20内の記憶装置に記憶された後,通信装置25を介して管理サーバ71に送信される。
【0022】
油圧ショベル1の位置情報(車体位置データ)は全球測位衛星システムアンテナ受信機(GNSS受信機)29から取得する。GNSS受信機29は,上部旋回体12の上面に取り付けられた2本のGNSSアンテナ28と接続されており,その2本のGNSSアンテナ28が複数の測位衛星72から受信した衛星信号に基づいてGNSS受信機29が油圧ショベル1(車体)の位置情報(車体位置データ)を演算してコントローラ20に送信する。コントローラ20は取得した位置情報を管理サーバ71に通信回線70(無線通信装置25)を介して送信する。なお,作業機制御部40によるマシンコントロールに油圧ショベル1の方位角が不要な場合にはGNSSアンテナ28は1つでも良い。
【0023】
作動油の温度情報(油温データ)は,作動油タンク50(
図6参照)とパイロット配管560(
図6参照)に取り付けられコントローラ20に接続された油温センサ590から取得する。コントローラ20は取得した作動油の温度情報を管理サーバ71に通信回線70(無線通信装置25)を介して送信する。
【0024】
バケット10の重量情報(重量データ)は,予め計測しておきコントローラ20内の記憶装置に格納されている。コントローラ20はバケット10の重量情報を管理サーバ71に通信回線70(無線通信装置25)を介して送信する。
【0025】
目標面の勾配情報(勾配データ)は,設計図面作成管理ツール73で作成されコントローラ20の記憶装置に格納された設計図データから目標面の勾配情報を抽出することで取得できる。コントローラ20は目標面の勾配情報を管理サーバ71に通信回線70(無線通信装置25)を介して送信する。
【0026】
作業機制御部40は,管理サーバ71から送信される制御指令補正値を利用して,目標面の上方にバケット10(
図3参照)の動作軌跡が保持されるように少なくとも1つの油圧アクチュエータ(例えばブームシリンダ5(
図3参照))を制御する(マシンコントロールを実行する)部分である。詳細は後述するが,作業機制御部40(コントローラ20)から管理サーバ71の補正値演算部84に対しては爪先誤差平均値が送信されることがある。
【0027】
図2において,管理サーバ71は,記憶装置内に格納されたプログラムを実行することでステータス判定部90と補正値演算部84として機能する。
【0028】
ステータス判定部90は,コントローラ20(作業状況パラメータ送信部41)から送信される車体位置データからその位置における土質データを特定し,その土質のステータス(区分)を判定する土質ステータス判定部80と,コントローラ20(作業状況パラメータ送信部41)から送信される油温データに基づいて油温のステータス(区分)を判定する油温ステータス判定部81と,コントローラ20(作業状況パラメータ送信部41)から送信される重量データに基づいてバケット10の重量のステータス(区分)を判定するバケットステータス判定部82と,コントローラ20(作業状況パラメータ送信部41)から送信される勾配データに基づいて目標面の勾配のステータス(区分)を判定する勾配ステータス判定部83とを備える。
【0029】
補正値演算部84は,ステータス判定部90で判定された各作業状況パラメータのステータスの組合せに基づいて作業状況パターンを特定し,その作業状況パターンに対応する制御指令補正値を演算する。制御指令補正値の演算には制御指令補正値データベース74が利用される。補正値演算部84で演算された制御指令補正値は通信回線70を介して油圧ショベル1のコントローラ20(作業機制御部40)に送信される。
【0030】
<油圧ショベル1>
図3は本発明の実施形態に係る油圧ショベル1の構成図であり,
図4は本発明の実施形態に係る油圧ショベルのコントローラ20を油圧駆動装置と共に示す図である。
図3において,油圧ショベル1は,バケット10で目標面の形成作業を行う多関節型のフロント作業機1Aと,車体1Bとで構成されている。車体1Bは,下部走行体11と,下部走行体11の上に旋回可能に取り付けられた上部旋回体12とからなる。フロント作業機1Aは,垂直方向にそれぞれ回動する複数のフロント部材(ブーム8,アーム9及びバケット10)を連結して構成されており,フロント作業機1Aのブーム8の基端は上部旋回体12(車体1B)の前部に支持されている。
【0031】
ブーム8,アーム9,バケット10,上部旋回体12及び下部走行体11はそれぞれブームシリンダ5,アームシリンダ6,バケットシリンダ7,旋回油圧モータ4及び左右の走行モータ3a(図示しない),3bによりそれぞれ駆動される被駆動部材を構成する。これら被駆動部材8,9,10,12,11への動作指示は,上部旋回体12上の運転室内に搭載された走行右レバー13a,走行左レバー13b,操作右レバー14aおよび操作左レバー14bのオペレータによる操作に応じて出力される。走行右レバー13aは右走行モータ3a,走行左レバー13bは左走行モータ3b,操作右レバー14aはブームシリンダ5及びバケットシリンダ7,操作左レバー14bはアームシリンダ6及び旋回油圧モータ4の動作を指示する。これら走行レバー13a,13b及び操作レバー14a,14bを操作装置15と総称することがある。
図4には,操作右レバー14aのうちブームシリンダ5を操作するための操作装置15aと,同じくアームシリンダ6を操作するための操作装置15bと,操作左レバー14bのうちバケットシリンダ7を操作するための操作装置15cと,同じく旋回油圧モータ4を操作するための操作装置15dとを示している。
【0032】
運転室内に設置される操作装置15は油圧パイロット方式であり,それらの操作量(例えば,レバーストローク)と操作方向に応じたパイロット圧(操作圧と称することがある)が,操作装置15に対応する流量制御弁16a~16d(
図4参照)に供給され,これら流量制御弁16a~16dを駆動する。なお,
図4には走行用の操作装置及び流量制御弁は図示していない。
【0033】
油圧ポンプ2から吐出された圧油が流量制御弁16a,16b,16c,16d,(
図4参照)を介して旋回油圧モータ4,ブームシリンダ5,アームシリンダ6,バケットシリンダ7といった油圧アクチュエータに供給される。供給された圧油によってブームシリンダ5,アームシリンダ6,バケットシリンダ7が伸縮することで,ブーム8,アーム9,バケット10がそれぞれ回動し,バケット10の位置及び姿勢が変化する。また,供給された圧油によって旋回油圧モータ4が回転することで,下部走行体11に対して上部旋回体12が左右に旋回する。さらに,供給された圧油によって走行右油圧モータ3a,走行左油圧モータ3bが回転することで,下部走行体11が走行する。
【0034】
一方,ブーム8,アーム9,バケット10の回動角度を測定可能なように,上部旋回体12とブーム8とを連結するピン(以下「ブームピン」と称す)にブーム角度センサ21,ブーム8とアーム9を連結するピン(以下「アームピン」と称す)にアーム角度センサ22,アーム9とバケット10を連結するピン(以下「バケットピン」と称す)にバケット角度センサ23が取付けられ,上部旋回体12には基準面(例えば水平面)に対する上部旋回体12(車体1B)の傾斜角を検出する車体傾斜角センサ24が取付けられている。
【0035】
<油圧駆動装置>
図4において油圧ポンプ2とパイロットポンプ48が,原動機(エンジン)49によって駆動される。油圧ポンプ2から供給される圧油は,ブームシリンダ5や旋回モータ4などの油圧アクチュエータを駆動する。パイロットポンプ48から供給される圧油は,流量制御弁16を駆動する。
【0036】
油圧ポンプ2から吐出された圧油は,流量制御弁16a~16dを経て,それぞれブームシリンダ5,アームシリンダ6,バケットシリンダ7などの油圧アクチュエータに供給される。油圧アクチュエータに供給された圧油は,流量制御弁16a~16dを経て,タンク50に排出される。タンク50には作動油の温度を検出するための油温センサ590が設置されている。
【0037】
パイロットポンプ48は,ロック弁51と接続している。ロック弁51はオペレータによる,図示しないゲートロックレバーの操作によって解除され,ロック弁51の下流にパイロットポンプ48からの圧油が流れるようになる。ロック弁51の下流側は,ブーム上げ用パイロット圧制御弁52,ブーム下げ用パイロット圧制御弁53,アームクラウド用パイロット圧制御弁54,アームダンプ用パイロット圧制御弁55,バケットクラウド用パイロット圧制御弁56,バケットダンプ用パイロット圧制御弁57,右旋回用パイロット圧制御弁58,左旋回用パイロット圧制御弁59などに接続されている。
【0038】
ブーム上げ用パイロット圧制御弁52,ブーム下げ用パイロット圧制御弁53は,ブーム用操作装置15aにより操作が可能である。アームクラウド用パイロット圧制御弁54,アームダンプ用パイロット圧制御弁55は,アーム用操作装置15bにより操作が可能である。バケットクラウド用パイロット圧制御弁56,バケットダンプ用パイロット圧制御弁57は,バケット用操作装置15cにより操作が可能である。右旋回用パイロット圧制御弁58,左旋回用パイロット圧制御弁59は,旋回用操作装置15dにより操作が可能である。
【0039】
ブーム上げ用パイロット圧制御弁52,ブーム下げ用パイロット圧制御弁53,アームクラウド用パイロット圧制御弁54,アームダンプ用パイロット圧制御弁55,バケットクラウド用パイロット圧制御弁56,バケットダンプ用パイロット圧制御弁57の下流には,マシンコントロールを実行するための油圧制御用ユニット60が備えられている。油圧制御用ユニット60には各種制御弁が備えられており,その各種制御弁によってパイロット圧をコントローラ20から出力される制御指令(補正後制御指令)に応じて制御することにより,マシンコントロールを実行可能としている。
【0040】
油圧制御用ユニット60の下流にはシャトルブロック46があり,シャトルブロック46の下流には,ブーム上げ用パイロット配管529,ブーム下げ用パイロット配管539,アームクラウド用パイロット配管549,アームダンプ用パイロット配管559,バケットクラウド用パイロット配管569,バケットダンプ用パイロット配管579,右旋回用パイロット配管589,左旋回用パイロット配管599が接続されている。ブーム上げ用パイロット配管529及びブーム下げ用パイロット配管539の下流には,ブーム用流量制御弁16aが接続されている。アームクラウド用パイロット配管549及びアームダンプ用パイロット配管559の下流には,アーム用流量制御弁16bが接続されている。バケットクラウド用パイロット配管569及びバケットダンプ用パイロット配管579の下流には,バケット用流量制御弁16cが接続されている。右旋回用パイロット配管589及び左旋回用パイロット配管599の下流には,旋回用流量制御弁16dが接続されている。流量制御弁16a~16dは,操作装置15a~15dの操作量に応じて,流量を制御できるように構成されている。
【0041】
シャトルブロック46の下流には,油圧ポンプ2に取り付けられるレギュレータ47が接続されている。レギュレータ47は,操作装置15の操作量に応じて油圧ポンプ2の吐出流量を変化させている。
【0042】
また,タンク50と,ロック弁51と油圧制御用ユニット60を接続するパイロット配管560に,それぞれの作動油の温度を検出する油温センサ590が設けられている。また,原動機49には,原動機49の回転数を検出する回転数センサ490が設けられている。油温センサ590と回転数センサ490の検出値はコントローラ20に出力されている。
【0043】
<油圧制御用ユニット60>
図5は
図4中の油圧制御用ユニット60の詳細図である。油圧制御用ユニット60の内部には,電磁遮断弁61が備えられている。電磁遮断弁61は非通電時には開度をゼロ,通電時には開度を全開にする。マシンコントロールを実行するときには,コントローラ20からの指令により電磁遮断弁61は通電し,マシンコントロールを実行しないときには,コントローラ20からの指令により電磁遮断弁61は非通電となる。
【0044】
ブーム上げ用パイロット圧制御弁52の下流には,上流側から,パイロット配管521,シャトル弁522,パイロット配管523が接続されている。シャトル弁522は2つの入口ポートと1つの出口ポートを有しており,2つの入口ポートのうち圧力の高い方を出口ポートに出力する。入口ポートの一方はパイロット配管521に接続され,出口ポートはパイロット配管523に接続される。シャトル弁522のもう一方の入口ポートには,パイロット配管524が接続される。パイロット配管524は,上流から電磁遮断弁61,電磁比例弁525が接続されている。パイロット配管524に圧油が供給されることで,ブーム上げ用パイロット圧制御弁52の状態にかかわらず,パイロット配管523に圧油を供給可能になる。電磁比例弁525は,非通電時には開度をゼロ,通電時に開度を有し,電流を増大させるほど開度は大きくなる。電磁比例弁525の開度はコントローラ20からの制御指令に応じたものとなる。また,シャトル弁522の手前には,オペレータによるブーム上げパイロット圧を検出する圧力センサ526が配置されている。
【0045】
ブーム下げ用パイロット圧制御弁53の下流側には,上流側からパイロット配管531,
電磁比例弁532,パイロット配管533が接続されている。電磁比例弁532は,非通電時には開度を全開,通電時には開度を絞り,電流を増大させるほど開度は小さくなる。電磁比例弁532の開度はコントローラ20からの制御指令に応じたものとなる。電磁比例弁532によって,オペレータによるブーム下げ操作があっても,ブーム下げ操作量を減少させたり,ゼロとしたりすることが可能となる。また,パイロット配管531と電磁比例弁532の間に,オペレータ操作によるブーム下げパイロット圧を検出する圧力センサ534が配置されている。
【0046】
アームクラウド用パイロット圧制御弁54の下流側には,上流側からパイロット配管541,電磁比例弁542,パイロット配管543が接続されている。電磁比例弁542は,非通電時には開度を全開,通電時には開度を絞り,電流を増大させるほど開度は小さくなる。電磁比例弁542の開度はコントローラ20からの制御指令に応じたものとなる。電磁比例弁542によって,オペレータによるアームクラウド操作があっても,アームクラウド操作量を減少させたり,ゼロとしたりすることが可能となる。また,パイロット配管541と電磁比例弁542の間に,オペレータ操作によるアームクラウドパイロット圧を検出する圧力センサ544が配置されている。
【0047】
アームダンプ用パイロット圧制御弁55の下流側には,上流側からパイロット配管551,電磁比例弁552,パイロット配管553が接続されている。電磁比例弁552は,非通電時には開度を全開,通電時には開度を絞り,電流を増大させるほど開度は小さくなる。電磁比例弁552の開度はコントローラ20からの制御指令に応じたものとなる。電磁比例弁552によって,オペレータによるアームダンプ操作があっても,アームダンプ操作量を減少させたり,ゼロとしたりすることが可能となる。また,パイロット配管551と電磁比例弁552の間に,オペレータ操作によるアームダンプパイロット圧を検出する圧力センサ554が配置されている。
【0048】
バケットクラウド用パイロット圧制御弁56の下流には,上流側から,パイロット配管561,電磁比例弁562,パイロット配管563,シャトル弁564,パイロット配管565が接続されている。電磁比例弁562は非通電時には開度を全開,通電時には開度を絞り,電流を増大させるほど開度は小さくなる。電磁比例弁562の開度はコントローラ20からの制御指令に応じたものとなる。電磁比例弁562によって,オペレータによるバケットクラウド操作があっても,バケットクラウド操作量を減少させたり,ゼロとしたりすることが可能となる。また,パイロット配管561と電磁比例弁562の間に,オペレータ操作によるバケットクラウドパイロット圧を検出する圧力センサ568が配置されている。
【0049】
シャトル弁564は2つの入口ポートと1つの出口ポートを有しており,2つの入口ポートのうち圧力の高い方を出口ポートに出力する。入り口ポートの一方はパイロット配管563に接続され,出口ポートはパイロット配管565に接続される。シャトル弁564のもう一方の入口ポートには,パイロット配管566が接続される。パイロット配管566は,上流から電磁遮断弁61,電磁比例弁567が接続されている。パイロット配管566に圧油が供給されることで,バケットクラウド用パイロット圧制御弁56の状態にかかわらず,パイロット配管565に圧油を供給可能になる。電磁比例弁567は,非通電時には開度をゼロ,通電時に開度を有し,電流を増大させるほど開度は大きくなる。電磁比例弁567の開度はコントローラ20からの制御指令により応じたものとなる。
【0050】
バケットダンプ用パイロット圧制御弁57の下流には,上流側から,パイロット配管571,電磁比例弁572,パイロット配管573,シャトル弁574,パイロット配管575が接続されている。電磁比例弁572は非通電時には開度を全開,通電時には開度を絞り,電流を増大させるほど開度は小さくなる。電磁比例弁572の開度はコントローラ20からの制御指令に応じたものとなる。電磁比例弁572によって,オペレータによるバケットダンプ操作があっても,バケットダンプ操作量を減少させたり,ゼロとしたりすることが可能となる。また,パイロット配管571と電磁比例弁572の間に,オペレータ操作によるバケットダンプパイロット圧を検出する圧力センサ578が配置されている。
【0051】
シャトル弁574は2つの入口ポートと1つの出口ポートを有しており,2つの入口ポートのうち圧力の高い方を出口ポートに出力する。入り口ポートの一方はパイロット配管573に接続され,出口ポートはパイロット配管575に接続される。シャトル弁574のもう一方の入口ポートには,パイロット配管576が接続される。パイロット配管576は,上流から電磁遮断弁61,電磁比例弁577が接続されている。パイロット配管576に圧油が供給されることで,バケットダンプ用パイロット圧制御弁57の状態にかかわらず,パイロット配管575に圧油を供給可能になる。電磁比例弁577は,非通電時には開度をゼロ,通電時に開度を有し,電流を増大させるほど開度は大きくなる。電磁比例弁577の開度はコントローラ20からの制御指令により応じたものとなる。
【0052】
<コントローラ20の作業機制御部40>
図6にコントローラ20の作業機制御部40で実行される処理をさらに複数のブロックに分類した機能ブロック図を示す。この図に示すように作業機制御部40によって実行される処理は,作業機姿勢演算部30と,目標面記憶部31と,目標速度演算部32と,電磁弁制御部33と,爪先誤差演算部37と,補正値判定部38と,指令値補正部39とに区分できる。また,コントローラ20には,作業機姿勢検出装置34,目標面設定装置35,オペレータ操作検出装置36,電磁遮断弁61,電磁比例弁572,577,567,562,525,532,552,542が接続されている。また,これら電磁比例弁をまとめて,電磁比例弁500とも称する。
【0053】
作業機姿勢検出装置34は,ブーム角度センサ21,アーム角度センサ22,バケット角度センサ23,車体傾斜角センサ24,とから構成される。目標面設定装置35は,目標面75に関する情報を入力可能なインタフェースであり,例えば前述の設計図面作成管理ツール73が該当する。なお,目標面設定装置35への入力は,オペレータが手動で入力しても良い。また,目標面設定装置35にGNSS受信機29が演算したグローバル座標系における油圧ショベル1の座標を入力し,その周囲の目標面データを抽出してコントローラ20に出力しても良い。オペレータ操作検出装置36は,オペレータによる操作装置15の操作によって生じるパイロット圧を取得する圧力センサ578,568,534,554,544により構成される。
【0054】
作業機姿勢演算部30は,グローバル座標系における本実施形態の制御点であるバケット先端(バケット爪先)CP1(
図8参照)の位置と,グローバル座標系におけるフロント作業機1Aの各フロント部材8,9,10の姿勢を演算する。演算は公知の方法に基づけば良いが,例えば,まず,2つのGNSSアンテナ28で受信された複数の衛星信号から,ローカル座標系(例えば上部旋回体12の旋回中心上に設定した座標系)の原点P0のグローバル座標系における座標値と,グローバル座標系における走行体11と旋回体12の姿勢情報・方位情報を計算する。そして,この演算結果と,作業機姿勢検出装置34からの角度の情報と,ローカル座標系におけるブームピンの座標値と,ブーム長さ及びアーム長さ及びバケット長さを利用して,グローバル座標系における本実施形態の制御点であるバケット先端CP1の位置と,グローバル座標系におけるフロント作業機1Aの各フロント部材8,9,10の姿勢を演算する。なお,フロント作業機1Aの制御点の座標値は,レーザー測量計などの外部計測機器により計測し,その外部計測機器との通信により取得されてもよい。
【0055】
目標面記憶部31は,目標面設定装置35からの情報に基づき演算された目標面75のグローバル座標系における位置情報(目標面データ)を記憶している。本実施形態では,フロント作業機1Aの各フロント部材8,9,10が動作する平面(作業機の動作平面)で目標面の3次元データを切断した断面形状を目標面75(2次元の目標面)として利用する。また,目標面75の位置情報は,グローバル座標系におけるフロント作業機1Aの制御点の位置情報に基づいて,油圧ショベル1の周辺の目標面75の位置情報を設計図面作成管理ツール73から通信により取得して目標面記憶部31に記憶してもよい。
【0056】
目標速度演算部32は,操作装置15の操作時に,フロント作業機1Aの動作範囲が目標面75上及びその上方に制限されるように各油圧シリンダ5,6,7の目標速度を距離Dに応じて演算する部分である。本実施の形態では下記の演算を行う。
【0057】
目標動作演算部32は,まず,作業機姿勢演算部30で演算されたフロント作業機1Aの制御点の位置情報と,目標面記憶部31から取得した目標面75の位置情報とからフロント作業機1Aの制御点と目標面75との距離D(
図8参照)を演算する。
【0058】
次に,目標速度演算部32は,操作装置15aから入力される電圧値(ブーム操作量)からブームシリンダ5への要求速度(ブームシリンダ要求速度)を計算し,操作装置15bから入力される電圧値(アーム操作量)からアームシリンダ6への要求速度を計算し,操作装置15cから入力される電圧値(バケット操作量)からバケットシリンダ7への要求速度を計算する。この3つの要求速度と作業機姿勢演算部30で演算されたフロント作業機1Aの各フロント部材8,9,10の姿勢から,バケット先端CP1におけるフロント作業機1Aの速度ベクトル(要求速度ベクトル)V0を計算する。そして,速度ベクトルV0の目標面鉛直方向の速度成分V0zと目標面水平方向の速度成分V0xも計算する。
【0059】
次に,目標速度演算部32は,距離Dに応じて決定される補正係数kを演算する。
図7はバケット先端CP1と目標面75の距離Dと速度補正係数kとの関係を表すグラフである。バケット爪先座標CP1(フロント作業機1Aの制御点)が目標面75の上方に位置している時の距離を正,目標面75の下方に位置している時の距離を負として,距離Dが正の時は正の補正係数を,距離Dが負の時は負の補正係数を,1以下の値として出力する。なお,速度ベクトルは目標面75の上方から目標面75に近づく方向を正としている。
【0060】
次に,目標速度演算部32は,距離Dに応じて決定される補正係数kを,速度ベクトルV0の目標面鉛直方向の速度成分V0zに乗ずることによって速度成分V1zを計算する。この速度成分V1zと,速度ベクトルV0の目標面水平方向の速度成分V0xとを合成することで合成速度ベクトル(目標速度ベクトル)V1を計算し,この合成速度ベクトルV1を発生可能なブームシリンダ速度と,アームシリンダ速度と,バケットシリンダ速度をそれぞれ目標速度として演算する。この目標速度の演算の際には,作業機姿勢演算部30で演算されたフロント作業機1Aの各フロント部材8,9,10の姿勢を利用しても良い。
【0061】
図8はバケット先端CP1における距離Dに応じた補正前後の速度ベクトルを表す模式図である。要求速度ベクトルV0の目標面鉛直方向の成分V0z(
図8の(c)の図参照)に速度補正係数kを乗じることにより,V0z以下の目標面鉛直方向の速度ベクトルV1z(
図8の(b)の図参照)が得られる。V1zと要求速度ベクトルV0の目標面水平方向の成分のV0xとの合成速度ベクトルV1を計算し,V1を出力可能なアームシリンダ目標速度と,ブームシリンダ目標速度と,バケットシリンダ目標速度とが計算される。
【0062】
指令値補正部39は,目標速度演算部32で演算されたアームシリンダ目標速度,ブームシリンダ目標速度,及びバケットシリンダ目標速度を管理サーバ71から送信される制御指令補正値ksを利用して補正する処理を行う部分である。本実施形態では,制御指令補正値ksを,速度ベクトルV1の目標面鉛直方向の速度成分V1z(
図8の(b)の図参照)に乗ずることによって速度成分V2z(
図8の(c)の図参照)を計算する。この速度成分V2zと,速度ベクトルV0の目標面水平方向の速度成分V0xとを合成することで合成速度ベクトル(目標速度ベクトル)V2を計算し,この合成速度ベクトルV2を発生可能なブームシリンダ速度と,アームシリンダ速度と,バケットシリンダ速度をそれぞれ補正後の目標速度として演算する。
【0063】
電磁弁制御部33は,指令値補正部39で演算された各油圧シリンダ5,6,7の目標速度に基づいて,電磁比例弁500への制御指令(補正後制御指令)を演算し,その制御指令を対応する電磁比例弁500に出力する。これにより各流量制御弁(各スプール)16a,16b,16cが制御されて,各油圧シリンダ5,6,7を指令値補正部39で演算した速度で動作することができ,バケット10の動作軌跡が目標面上に保持され得る。
【0064】
マシンコントロール状態が無効となった場合,電磁弁制御部33は,電磁遮断弁61及び電磁比例弁500に制御介入を行わないよう指令を出す。具体的には,電磁遮断弁61の開度をゼロにして,パイロットポンプ48からロック弁51を経由して油圧制御用ユニット60に流入する圧油を遮断する。また,非通電時に開度を全開とする電磁比例弁532,542,552,562,572には,開度を全開としオペレータ操作によるパイロット圧への介入を禁止する。また,非通電時に開度をゼロとする電磁比例弁525,567,577には,開度をゼロとしオペレータ操作なしにフロント作業機1Aが動作することを禁止する。
【0065】
<管理サーバ71>
管理サーバ71で実行される処理の詳細について説明する。
図9は土質ステータス判定部80で実行される処理の説明図である。土質ステータス判定部80では,コントローラ20から送信された車体位置データと,あらかじめ管理サーバ71に登録された作業現場の土質マップ80aとを照合し,油圧ショベル1の現在地における土質を演算する。そして,土質と土質ステータスとの対応テーブル80bを利用して,土質マップ80aで演算された土質に対応する土質ステータスを算出し,補正値演算部84に送信する。本実施形態の土質ステータスは,
図14に示すように,柔(柔らかい),中,硬(硬い)の3つの区分がある。
【0066】
図10は油温ステータス判定部81で実行される処理の説明図である。油温ステータス判定部81では,コントローラ20から送信された油温データと,油温と油温ステータスとの対応テーブル81aとを利用して,コントローラ20から送信された油温データに対応する油温ステータスを算出し,補正値演算部84に送信する。本実施形態の油温ステータスは,
図14に示すように,低(低温),常低(常温と低温の間),常(常温)の3つの区分がある。
【0067】
図11はバケットステータス判定部82で実行される処理の説明図である。バケットステータス判定部82では,コントローラ20から送信されたバケット10の重量データと,その重量とバケットステータスとの対応テーブル82aとを利用して,コントローラ20から送信されたバケット10の重量データに対応するバケットステータスを算出し,補正値演算部84に送信する。本実施形態のバケットステータスは,
図14に示すように,軽(軽い),中,重いの3つの区分がある。
【0068】
図12は勾配ステータス判定部83で実行される処理の説明図である。勾配ステータス判定部83では,コントローラ20から送信された目標面の勾配データと,その勾配と勾配ステータスとの対応テーブル83aとを利用して,コントローラ20から送信された目標面の勾配データに対応する勾配ステータスを算出し,補正値演算部84に送信する。本実施形態の勾配ステータスは,
図14に示すように,下げ(下がり勾配),水平(略水平),上げ(上がり勾配)の3つの区分がある。
【0069】
図13に管理サーバ71の補正値演算部84で実行される処理をさらに複数のブロックに分類した機能ブロック図を示す。この図に示すように補正値演算部84によって実行される処理は,作業状況パターン決定部87と,制御指令補正値データベース85と,制御指令補正値演算部88と,制御指令値調整部86とに区分できる。
【0070】
作業状況パターン決定部87は,ステータス判定部90で判定された土質,油温,バケット及び勾配のステータスに基づいて作業状況パターンを決定(分類)する処理を実行する部分である。
図14は土質,油温,バケット及び勾配のステータスと作業状況パターンの対応図であり,作業状況パターン決定部87は
図14の対応図とステータス判定部90から送信される土質,油温,バケット及び勾配のステータスとに基づいて作業状況パターンを決定する。本実施形態では各ステータスは3区分に分けられているため作業状況パターンPnは81パターン存在する。具体的には,土質ステータスは土の硬さに応じて3つの区分SS1,SS2,SS3に分けられ,油温ステータスは油温に応じて3つの区分SO1,SO2,SO3に分けられ,バケットステータスは重量に応じて3つの区分SB1,SB2,SB3に分けられ,勾配ステータスは勾配に応じて3つの区分SG1,SG2,SG3に分けられている。作業状況パターン決定部87で決定された作業状況パターンは制御指令補正値演算部88と制御指令値調整部86に出力される。
【0071】
制御指令補正値演算部88は,作業状況パターン決定部87で決定された作業状況パターンを制御指令補正値データベース85内で探索し,その結果発見された作業状況パターンに対応する制御指令補正値をコントローラ20に送信する制御指令補正値として選択し,コントローラ20に送信する処理を実行する部分である。
【0072】
図15は制御指令補正値データベース85に格納されているテーブルの一例を示す図である。この図に示すように制御指令補正値データベース85には,複数の作業状況パターン(P1,P2,…,Pn)のそれぞれに対して制御指令補正値(ks1,ks2,…,ksn)が設定されている。また複数の作業状況パターンのそれぞれには,過去に制御指令値調整部86で調整された制御指令補正値(「調整後制御指令補正値」と称する)の履歴が関連付けられている。例えば
図14の作業状況パターンP1には,過去に制御指令値調整部86で調整された調整後制御指令補正値の履歴として,ks11,ks12,ks13,…が格納されている。後述するように,複数の作業状況パターンのそれぞれに関連付けられた制御指令補正値は,該当する作業状況パターンの「履歴」の平均値である。すなわち,作業状況パターンP1に関する調整後制御指令補正値の履歴がm個存在する場合,制御指令補正値ks1=(ks11+ks12+…+ks1m)/mが成立する。制御指令補正値の更新(すなわち調整後制御指令補正値の平均値の演算)は,制御指令値調整部86によって調整後制御指令補正値が演算されたタイミングで行われる。次に,この「更新」の詳細について,コントローラ20の爪先誤差演算部37及び補正値判定部38(
図6)と,管理サーバ71の制御指令値調整部86(
図13)とで行われる処理に触れながら説明する。
【0073】
<制御指令補正値データベース85の更新>
図6に戻り,コントローラ20の爪先誤差演算部37は,マシンコントロールによる掘削動作中における爪先誤差を演算する部分である。本実施形態における「爪先誤差」とは,マシンコントロールによる掘削動作中(例えば操作装置15bによるアームクラウド操作中)において作業機姿勢演算部30で演算されるバケット爪先CP1の動作軌跡と,目標面記憶部31に記憶された目標面の形状(位置)との差(偏差)である。爪先誤差演算部37で演算された爪先誤差は補正値判定部38に出力される。
【0074】
補正値判定部38は,爪先誤差演算部37で演算された爪先誤差のうち直近の掘削動作の開始から終了までの間における爪先誤差の平均値(爪先誤差平均値)を演算し,その爪先誤差の平均値が目標面75に対してあらかじめ設定した爪先誤差最大領域Amax以内に入っている場合に当該爪先誤差の平均値を管理サーバ71(より具体的には補正値演算部84における制御指令値調整部86)に送信する。
図16は本実施形態に係る爪先誤差最大領域Amaxの説明図である。この図に示すように爪先誤差最大領域Amaxは目標面75の上下に設定した境界面76a,76bの間に設定した領域である。2つの境界面76a,76bの目標面75からの距離は等しくすることが好ましく,例えば目標面75からそれぞれ30-50[mm]の距離に設定できる。すなわち爪先誤差最大領域Amaxは目標面75から±30-50[mm]の範囲に設定され得る。なお,爪先誤差平均値が爪先誤差最大領域Amaxから外れている場合には,精度が不要な作業(例えば目標面75と現況地形の距離が充分離れた状態において作業速度重視で行われる粗掘削作業)が行われるとみなして,爪先誤差平均値の管理サーバ71への送信は行われない。また,掘削動作の開始と終了を判別する方法としては上記の操作装置15bによるアームクラウド操作を検出する方法の他に例えばアームシリンダ6の負荷を検出する方法(例えば圧力センサでボトム圧を検出する方法)がある。
【0075】
図13に戻り,管理サーバ71の補正値演算部84における制御指令値調整部86は,コントローラ20から送信された爪先誤差平均値に基づいて爪先誤差領域を判別し,その爪先誤差領域に予め設定されている調整値を用いてコントローラ20に送信した制御指令補正値を調整し,その調整後制御指令補正値を制御指令補正値データベース85において対応する作業状況パターンの履歴に格納する処理を実行する部分である。
【0076】
爪先誤差領域は爪先誤差最大領域Amax内に設定された複数の領域であり,本実施形態の爪先誤差領域としては
図16に示すように目標面75を基準としてA1-A5の5つの領域が予め設定されている。爪先誤差領域A1は目標面75を含むように設定された目標面75に最も近い領域であり,境界76eと境界76fとによって定義される領域である。精度保持の観点から爪先誤差領域A1の範囲は施工上許容されている誤差の範囲またはそれよりも狭い範囲とすることが好ましい。爪先誤差領域A1の下方には境界76fと境界76dとによって定義される爪先誤差領域A2が設定されており,爪先誤差領域A2の下方には境界76dと境界76bとによって定義される爪先誤差領域A3が設定されている。爪先誤差領域A1の上方には境界76cと境界76eとによって定義される爪先誤差領域A4が設定されており,爪先誤差領域A4の上方には境界76aと境界76cとによって定義される爪先誤差領域A5が設定されている。
【0077】
図17は複数の爪先誤差領域A1-A5及びその説明と,複数の爪先誤差領域A1-A5と複数の調整値1-5の対応関係を示す図である。調整値2-5は調整後制御指令補正値によってフロント作業機1Aを制御したときに爪先誤差又は爪先誤差平均値がゼロに近づくよう(すなわち目標面75に近づくように)に設定されている。(1)コントローラ20(補正値判定部38)から送信された爪先誤差平均値が爪先誤差領域A1に属する場合には,制御指令補正値の調整は不要であると判断して調整値1=0とする。(2)爪先誤差平均値が沈み込み小の爪先誤差領域A2である場合は,調整値2を用いて制御指令補正値を調整する。この場合の調整後制御指令補正値は1より小さい値となる。(3)爪先誤差平均値が沈み込み大の爪先誤差領域A3である場合は,調整値3を用いて制御指令補正値を調整する。この場合の調整後制御指令補正値は1より小さく,調整値2で調整した場合よりも小さい値となる。(4)爪先誤差平均値が浮き上がり小の爪先誤差領域A4である場合は,調整値4を用いて制御指令補正値を調整する。この場合の調整後制御指令補正値は1より大きい値となる。(5)爪先誤差平均値が浮き上がり大の爪先誤差領域A5である場合は,調整値5を用いて制御指令補正値を調整する。この場合の調整後制御指令補正値は1より大きく,調整値4で調整した場合よりも大きい値となる。
【0078】
上記(1)-(5)の場合に演算された調整後制御指令補正値は,
図15に示した制御指令補正値データベース85において,同一の油圧ショベル1ついて直近に決定された作業状況パターンPn(すなわち制御指令補正値を演算した際に決定した作業状況パターンPn)に対応した履歴に格納される。制御指令補正値データベース85は,新たな調整後制御指令補正値が履歴に格納される度に,該当する作業状況パターンPnの履歴の平均値を演算して制御指令補正値を更新する。なお,爪先誤差平均値が爪先誤差最大領域Amaxより大きい場合は,管理サーバ71に爪先誤差平均値が送信されないため,制御指令補正値データベース85の更新は実施しない。
【0079】
<処理フローの説明>
図18は本実施形態に係る油圧ショベル1のコントローラ20及び管理サーバ71によって実行される処理のフローチャートであり,
図19は
図18中のステップ107で実行される処理のフローチャートである。
【0080】
油圧ショベル1の電源をONにすると
図18のフローチャートが開始される。ただし,管理サーバ71は常時稼働しているものとする。
【0081】
ステップ100では,コントローラ20がGNSS受信機29で演算される車体位置データに基づいて,その油圧ショベル1にあらかじめ登録されている作業現場に到着したか否かを判断する。到着した場合はステップ101に進み,未着の場合にはステップ100の処理を繰り返す。なお,ステップ100の処理は省略可能であり,次のステップ101からフローチャートを開始しても構わない。
【0082】
ステップ101では,コントローラ20(作業状況パラメータ送信部41)が作業状況パラメータとして車体位置データ,油温データ,重量データ,及び勾配データを管理サーバ71に送信する。
【0083】
ステップ102では,管理サーバ71(ステータス判定部90及び作業状況パターン決定部87)は,ステップ101で送信された作業状況パラメータに基づいてその送信元の油圧ショベル1の作業状況パターンを演算する。
【0084】
ステップ103では,管理サーバ71(制御指令補正値演算部88)は,制御指令補正値データベース85に格納されているデータの中からステップ102で演算した作業状況パターンに対応する制御指令補正値を演算(選択)する。
【0085】
ステップ104では,管理サーバ71(制御指令補正値演算部88)は,ステップ103で演算した制御指令補正値をステップ101で作業状況パラメータを送信した油圧ショベル1へ送信する。
【0086】
ステップ105では,コントローラ20(作業機制御部40。ただし制御指令補正値を直接的に利用するのは指令値補正部39)がステップ104で管理サーバ71から送信された制御指令補正値を反映させてマシンコントロールを実行する。これにより油圧ショベル1の作業状況に適した補正が行われるため,マシンコントロールの精度,すなわち施工精度が向上する。
【0087】
ステップ106では,コントローラ20(爪先誤差演算部37)は,ステップ105の制御指令補正値の反映後に行われる掘削作業中に作業機姿勢演算部30で演算されるバケット爪先の動作軌跡と,目標面75の位置関係とに基づいて爪先誤差を演算する。
【0088】
ステップ107では,
図19に示すように,制御指令補正値データベース85に格納された制御補正指令値の更新処理が実行される。具体的には
図19に示したステップ200-208の処理が実行され得る。
【0089】
まず,ステップ200では,コントローラ20(補正値判定部38)は,ステップ106で演算した爪先誤差の平均値を演算する。
【0090】
ステップ201では,コントローラ20(補正値判定部38)は,ステップ200で演算した爪先誤差平均値が爪先誤差最大領域Amaxに含まれるか否かを判定する。爪先誤差最大領域Amaxに含まれる場合には,コントローラ20(補正値判定部38)は爪先誤差平均値を管理サーバ71に送信してステップ202に進み,含まれない場合には爪先誤差平均値を管理サーバ71に送信することなくステップ107の処理を終了する。
【0091】
ステップ202では,管理サーバ71(制御指令値調整部86)は,コントローラ20から受信した爪先誤差平均値が5つの爪先誤差領域A1-A5(
図16,
図17)のいずれに含まれるかを算出する。
【0092】
ステップ203では,管理サーバ71(制御指令値調整部86)は,ステップ202で算出した爪先誤差領域に対応する調整値を選択する。これにより5つの調整値1-5のいずれかが選択される。
【0093】
ステップ204では,管理サーバ71(制御指令値調整部86)は,ステップ203で選択された調整値を利用してステップ103(
図18)で演算した制御指令補正値を調整することで調整後制御指令補正値を演算する。
【0094】
ステップ205では,管理サーバ71(制御指令値調整部86)は,ステップ102(
図18)で演算した作業状況パターンを参照して一時的に記憶する。
【0095】
ステップ206では,管理サーバ71(制御指令値調整部86)は,ステップ204で演算した調整後制御指令補正値を,制御指令補正値データベース85中のステップ205で記憶した作業状況パターンの履歴に追加する。
【0096】
ステップ206では,管理サーバ71(制御指令補正値データベース85)は,ステップ206で調整後制御指令補正値が追加された作業状況パターンの履歴の平均値を算出する。
【0097】
ステップ207では,管理サーバ71(制御指令補正値データベース85)は,ステップ206で調整後制御指令補正値が追加された作業状況パターンの制御指令補正値をステップ206で演算された平均値で更新し,処理を終了する。
【0098】
<効果>
以上のように構成した作業機械の制御システムにおいては,油圧ショベル1が管理サーバ71に送信した作業状況パラメータ(車体位置データ(土質データ),油温データ,バケット重量データ,勾配データ)に基づいてその油圧ショベル1の作業状況に最適化された制御指令補正値が管理サーバ71からその油圧ショベル1に対して送信される。この油圧ショベル1では,管理サーバ71から受信した制御指令補正値に基づいて補正した制御指令(補正後制御指令)によって油圧アクチュエータ5,6,7(電磁弁500)が制御される。これにより油圧ショベル1の作業状況(作業環境)に即した制御パラメータでマシンコントロールが実行されることになるため従前よりも施工精度を向上できる。特に本実施形態は油圧ショベル1の電源を入れるだけで制御パラメータの補正が開始される。すなわち,作業の開始前や初期段階での制御パラメータの最適化が可能であり,作業の進捗を停滞させることがないため施工計画を遵守できる。また,油圧ショベル1から自動的に送信される作業状況パラメータに応じて制御指令補正値が決定するので作業状況ごとに複数の制御ロジックを予め設定しておく手間も無くなり,制御パラメータの低減や演算負荷の軽減ができる。さらに油圧ショベルの車格が同じであれば他の油圧ショベルとも制御指令補正値を共用でき汎用性に優れている点も当システムのメリットである。
【0099】
また,管理サーバ71は,制御指令補正値を送信した油圧ショベル1から爪先誤差平均値を受信し,その爪先誤差平均値がゼロに近づくように該当する作業状況パターンの制御指令補正値を更新する。具体的には,油圧ショベル1から受信した爪先誤差平均値がゼロに近づくように制御指令補正値を調整した値である調整後制御指令補正値を演算し,制御指令補正値データベース85に格納されている同じ作業状況パターンに係る過去の調整後制御指令補正値の履歴と合わせて平均値を算出し,その平均値を新たな制御指令補正値とする。これにより制御指令補正値データベース85に格納されている制御指令補正値が度重なる更新を経て最適化されるため,制御指令補正値の信頼性が向上し各油圧ショベルの制御パラメータを速やかに最適化できる。
【0100】
<その他>
なお,本発明は,上記の実施の形態に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば,本発明は,上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず,その構成の一部を削除したものも含まれる。また,ある実施の形態に係る構成の一部を,他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0101】
上記の実施形態では作業状況パラメータとして4つ(土質,作動油温,バケット重量,目標面勾配)を挙げたが,車格,外気温,気圧,天気等の他の作業状況パラメータを考慮して作業状況パターンを決定しても良い。
【0102】
上記では主に1台の油圧ショベル1の制御指令を補正することについて説明したが,管理サーバ71の制御指令補正値データベース85に格納された制御指令補正値はその他の複数の油圧ショベル1と共有可能(共用可能)な値であることは言うまでも無い。
【0103】
図18のフローチャートに関して,管理サーバ71の制御指令補正値データベース85に格納されている制御指令補正値の精度が良い場合にはステップ105までの処理でフローチャートを終了しても構わない。これはステップ106以降の処理が制御指令補正値データベース85に格納されている制御指令補正値の更新処理フローであるためである。また同様の理由で,
図18のステップ106では,例えば,後述のステップ200に先立って補正値判定部38で爪先誤差の平均値を演算し,その値が
図16,
図17の爪先誤差領域A1に含まれる場合には精度が確保されるため,ステップ107に進むことなくフローチャートを終了しても良い。
【0104】
図18において,ステップ101を実行するタイミングは,油圧ショベル1が作業現場に到着したときと説明したが(ステップ100参照),ステップ100の代わりに,走行レバー13a,13bの操作後に走行が停止したタイミングでステップ101を実行してもよい。また,定期的な時間間隔でステップ101を実行してもよい。また,マシンコントロールを有効にしたタイミングでステップ101を実行してもよい。さらに,ステップ101を開始する専用のスイッチを設けてもよい。そして,上記した複数の処理開始条件を適宜複合してもよい。
【0105】
上記では,各油圧シリンダ5,6,7の目標速度から算出される速度ベクトルV1の垂直成分に制御指令補正値ksnを乗じたが,各油圧シリンダ5,6,7に関する制御指令や目標速度に適当な補正値を掛けても良い。その際,3つの油圧シリンダ5,6,7の少なくとも1つに適当な補正値を掛ける構成を採用しても良い。
【0106】
また,上記のコントローラ20及び管理サーバ71に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は,それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また,上記のコントローラ20及び管理サーバ71に係る構成は,演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることでコントローラ20及び管理サーバ71の構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は,例えば,半導体メモリ(フラッシュメモリ,SSD等),磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク,光ディスク等)等に記憶することができる。
【0107】
また,上記の各実施の形態の説明では,制御線や情報線は,当該実施の形態の説明に必要であると解されるものを示したが,必ずしも製品に係る全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0108】
1…油圧ショベル,1A…フロント作業機,1B…車体,2…油圧ポンプ,3a…走行右油圧モータ,3b…走行左油圧モータ,4…旋回油圧モータ,5…ブームシリンダ,6…アームシリンダ,7…バケットシリンダ,8…ブーム,9…アーム,10…バケット,11…走行体,12…旋回体,13a…走行右レバー,13b…走行左レバー,14a…操作右レバー,14b…操作左レバー,15a…操作装置,15a…ブーム用操作装置,15b…アーム用操作装置,15c…バケット用操作装置,15d…旋回用操作装置,16…流量制御弁,20…コントローラ,21…ブーム角度センサ,22…アーム角度センサ,23…バケット角度センサ,24…車体傾斜角センサ,25…通信装置,26…通信アンテナ,28…GNSSアンテナ,29…GNSS受信機,30…作業機姿勢演算部,31…目標面記憶部,32…目標速度演算部,33…電磁弁制御部,34…作業機姿勢検出装置,35…目標面設定装置,36…オペレータ操作検出装置,37…爪先誤差演算部,38…補正値判定部,39…指令値補正部,40…作業機制御部,41…作業状況パラメータ送信部,49…原動機(エンジン),50…作動油タンク,71…管理サーバ,72…測位衛星,73…設計図面作成管理ツール,74…制御指令補正値データベース,75…目標面,80…土質ステータス判定部,81…油温ステータス判定部,82…バケットステータス判定部,83…勾配ステータス判定部,84…補正値演算部,85…制御指令補正値データベース,86…制御指令値調整部,87…作業状況パターン決定部,88…制御指令補正値演算部,90…ステータス判定部,500…電磁比例弁,590…油温センサ