IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-シリコンクラスレートIIの製造方法 図1
  • 特許-シリコンクラスレートIIの製造方法 図2
  • 特許-シリコンクラスレートIIの製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】シリコンクラスレートIIの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/06 20060101AFI20220216BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220216BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20220216BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20220216BHJP
【FI】
C01B33/06
H01M4/38 Z
C01B33/02 Z
H01G11/86
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019154849
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021031349
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2020-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】原田 正則
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一裕
(72)【発明者】
【氏名】小坂 大地
(72)【発明者】
【氏名】中西 真二
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0376016(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0380724(US,A1)
【文献】特開2012-224488(JP,A)
【文献】特開平09-183607(JP,A)
【文献】米国特許第05800794(US,A)
【文献】KRISHNA, L. et al.,CrystEngComm,2014年,16,3940-3949
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
H01M 4/00ー4/62
H01G 11/86
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
F04B 25/00-37/20
F04B 41/00-41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Na及びSiを含有するNa-Si合金とNaゲッター剤とが非接触で共存する反応系内において
前記Naゲッター剤として、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属硫化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属ハロゲン化物から選択されるものを用い、
前記Na-Si合金を加熱することで
前記Na-Si合金から気化したNaを前記Naゲッター剤と反応させて、前記Na-Si合金におけるNa量を減少させることを特徴とするシリコンクラスレートIIの製造方法。
【請求項2】
組成式Nax1Si136で表されるシリコンクラスレートIIとNaゲッター剤とが非接触で共存する反応系内において
前記Naゲッター剤として、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属硫化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属ハロゲン化物から選択されるものを用い、
前記シリコンクラスレートIIを加熱することで
前記シリコンクラスレートIIから気化したNaを前記Naゲッター剤と反応させて、前記シリコンクラスレートIIにおけるNa量を減少させることを特徴とする組成式Nax2Si136で表されるシリコンクラスレートIIの製造方法。
ただし、x1及びx2は、0<x1≦24、0≦x2<24、及び、x2<x1を満足する。
【請求項3】
Na及びSiを含有するNa-Si合金とNaゲッター剤とが非接触で共存する反応系内において
前記Naゲッター剤として、WO 、MoO 、ZnO、FeO、V 、TiO 、SiO、Al から選択されるものを用い、
前記Na-Si合金を加熱することで
前記Na-Si合金から気化したNaを前記Naゲッター剤と反応させて、前記Na-Si合金におけるNa量を減少させることを特徴とするシリコンクラスレートIIの製造方法。
【請求項4】
組成式Nax1Si136で表されるシリコンクラスレートIIとNaゲッター剤とが非接触で共存する反応系内において
前記Naゲッター剤として、WO 、MoO 、ZnO、FeO、V 、TiO 、SiO、Al から選択されるものを用い、
前記シリコンクラスレートIIを加熱することで
前記シリコンクラスレートIIから気化したNaを前記Naゲッター剤と反応させて、前記シリコンクラスレートIIにおけるNa量を減少させることを特徴とする組成式Nax2Si136で表されるシリコンクラスレートIIの製造方法。
ただし、x1及びx2は、0<x1≦24、0≦x2<24、及び、x2<x1を満足する。
【請求項5】
減圧条件下で加熱を行う請求項1~4のいずれか1項に記載のシリコンクラスレートIIの製造方法。
【請求項6】
前記減圧条件下における気圧Pが、10-2Pa<P<10Paを満足する請求項に記載のシリコンクラスレートIIの製造方法。
【請求項7】
加熱温度が400℃以下である請求項1~のいずれか1項に記載のシリコンクラスレートIIの製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法でシリコンクラスレートIIを製造する工程、を有する負極活物質の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法で負極活物質を製造する工程、
前記負極活物質を用いて負極を製造する工程、
を有する負極の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法で負極を製造する工程、
前記負極を用いて二次電池を製造する工程、
を有する二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンクラスレートIIの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Siによって形成された多面体の空間の中に他の金属を包接するシリコンクラスレートなる化合物が知られている。シリコンクラスレートのうち、主にシリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIについての研究が報告されている。
【0003】
シリコンクラスレートIとは、1個のNa原子を20個のSi原子で包接した12面体と、1個のNa原子を24個のSi原子で包接した14面体とが、面を共有してなるものであり、NaSi46との組成式で表わされる。シリコンクラスレートIを構成するすべての多面体のケージには、Naが存在している。
【0004】
シリコンクラスレートIIとは、Siの12面体とSiの16面体とが面を共有してなるものであり、NaSi136との組成式で表わされる。ここで、xは0≦x≦24を満足する。すなわち、シリコンクラスレートIIを構成する多面体のケージには、Naが存在してもよいし、存在しなくてもよい。
【0005】
非特許文献1には、Na及びSiを含有するNa-Si合金から、シリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIを製造する方法が記載されている。具体的に述べると、10-4Torr未満(すなわち1.3×10-2Pa未満)の減圧条件下、Na-Si合金を400℃以上に加熱して、Naを蒸気として除去することで、シリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIを製造したことが記載されている。そして、加熱温度の違いに因り、シリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIの生成割合が変化することや、加熱温度が高くなれば、シリコンクラスレートIからNaが離脱し、シリコンクラスレートIの構造が変化することで、一般的なダイヤモンド構造であるSi結晶が生成することも記載されている。
さらに、シリコンクラスレートIIについては、Na22.56Si136、Na17.12Si136、Na18.72Si136、Na7.20Si136、Na11.04Si136、Na1.52Si136、Na23.36Si136、Na24.00Si136、Na20.48Si136、Na16.00Si136、Na14.80Si136を製造したことが記載されている。
【0006】
特許文献1にも、シリコンクラスレートの製造方法が記載されている。具体的には、シリコンウエハとNaを用いて製造されたNa-Si合金を、10-2Pa以下の減圧条件下、400℃で3時間加熱してNaを除去することで、シリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIを製造したことが記載されている。
【0007】
また、シリコンクラスレートIIに包接されるNaがLi、K、Rb、Cs又はBaで置換されたシリコンクラスレートIIや、シリコンクラスレートIIのSiがGaやGeで一部置換されたシリコンクラスレートIIも報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】H. Horie, T. Kikudome, K. Teramura, and S.Yamanaka, Journal of Solid State Chemistry, 182, 2009, pp.129-135
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2012-224488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
シリコンクラスレートIIは、内包するNaが離脱しても、その構造を維持する。本発明者は、この点に着目し、内包するNaが離脱したシリコンクラスレートIIをリチウムイオン二次電池の負極活物質として利用することを想起した。
【0011】
上述した従来の技術によれば、シリコンクラスレートIIの製造には、強い減圧条件(高い真空度)が必要である。また、Na-Si合金からNaを蒸気として系外に排出するため、排出されるNaについて、特別な処置が必要となる。したがって、非特許文献1や特許文献1に記載されたシリコンクラスレートIIの製造方法は、必ずしも工業的に効率的とはいえなかった。
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものであり、シリコンクラスレートIIの新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者がシリコンクラスレートIIの効率的な製造方法についての検討を行ったところ、Naの蒸気を反応系内でトラップすることを想起した。Naの蒸気を反応系内でトラップすることに因り、反応系内におけるNaの分圧が低下して所望の反応速度の増加が想定されることに加えて、強い減圧条件を必要としないことが想定され、しかも、系外に排出されるNaの量を著しく削減できると考えられる。
【0014】
そして、本発明者が、Na-Si合金、及び、Naと反応し得る材料(本明細書において、「Naゲッター剤」と称する。)が共存する環境下で実験を行ったところ、弱い減圧条件下であっても所望の反応が進行したこと、系外に排出されるNaの量を削減できたこと、かつ、シリコンクラスレートIIを優先的に製造できたことを知見した。
【0015】
以上の知見により、本発明は完成された。
【0016】
本発明のシリコンクラスレートIIの製造方法は、
Na及びSiを含有するNa-Si合金とNaゲッター剤とが非接触で共存する反応系内において、前記Na-Si合金を加熱することで、前記Na-Si合金から気化したNaを前記Naゲッター剤と反応させて、前記Na-Si合金におけるNa量を減少させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のシリコンクラスレートIIの製造方法においては、強い減圧条件を必須とせず、かつ、Naの蒸気はNaゲッター剤と反応するため、反応系内で捕捉される。そのため、本発明のシリコンクラスレートIIの製造方法は、大スケールでのシリコンクラスレートIIの製造や工業化に適している。さらに、本発明のシリコンクラスレートIIの製造方法においては、優先的にシリコンクラスレートIIを製造することができるため、二次電池などの蓄電装置の負極活物質に適したシリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料を製造することもできる。
なお、本明細書においては、シリコンクラスレートIIを含有する材料をシリコン材料ということがある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1のシリコン材料のX線回折チャート、並びに、シリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIのX線回折チャートである。
図2】評価例1における、Naゲッター剤とNaの反応物のX線回折チャート、並びに、ダイヤモンド構造であるSi結晶及びNaSiO結晶のX線回折チャートである。
図3】実施例2、実施例3及び実施例5のシリコン材料のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0020】
本発明のシリコンクラスレートIIの製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ということがある。)は、
Na及びSiを含有するNa-Si合金とNaゲッター剤とが非接触で共存する反応系内において、前記Na-Si合金を加熱することで、前記Na-Si合金から気化したNaを前記Naゲッター剤と反応させて、前記Na-Si合金におけるNa量を減少させることを特徴とする。
【0021】
本発明の製造方法の技術的意義は、以下の反応式における気体状のNa(g)を、系内に存在するNaゲッター剤で捕捉することで、以下の反応式を右側に有利に進行させることにある。また、本発明の製造方法においては、比較的低いNa分圧条件にて反応が進行するため、シリコンクラスレートIの生成が抑制され、シリコンクラスレートIIが優先的に製造されるとの利点もある。
Na-Si合金 ←→ シリコンクラスレートII + Na(g)
【0022】
Na-Si合金は、Na及びSiの組成がNaSi136(24<y)で表されるものである。Na-Si合金としては、SiよりもNaが過剰に存在するもの、すなわち、Na及びSiの組成がNaSi(1<z)で表されるものを使用するのが好ましい。
Na-Si合金を製造するには、不活性ガス雰囲気下、Na及びSiを溶融して合金化すればよい。
【0023】
Na-Si合金には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、Na及びSi以外の他の元素が存在してもよい。他の元素としては、シリコンクラスレートIIにおいて、Naと置換可能なLi、K、Rb、Cs及びBa、並びに、Siと置換可能なGa及びGeを例示できる。
【0024】
Naゲッター剤とは、0価のNaと反応し得る材料を意味する。本発明の製造方法の技術的意義に鑑みると、Naゲッター剤とは、0価のNaと反応し得る材料であって、金属Naの蒸気圧よりも蒸気圧が低い材料を意味する。
Naと反応しやすい優れたNaゲッター剤を使用することで、本発明の製造方法における加熱温度を低くすることが可能であるし、また、減圧条件を穏やかにすることも可能となる。
【0025】
Naゲッター剤としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属硫化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属ハロゲン化物を例示できる。
【0026】
具体的なNaゲッター剤としては、WO、WO、MoO、ZnO、FeO、VO、V、TiO、SiO、SiO、Al、WS、MoS、ZnS、FeS、TiS、SiS、Alを例示でき、その中でも、WO、MoO、ZnO、FeO、V、TiO、SiO及びAlから選択されるものが好ましく、WO、MoO、FeO及びTiOから選択されるものがより好ましい。
【0027】
好適なNaゲッター剤は、Naの分圧が低い条件下であっても、Naとの反応を進行し得る。系内におけるNaとNaゲッター剤とのモル比を概ね1:1とし、系内の温度を350℃とした条件において、以下の反応式が平衡状態に達した時点でのNa分圧を、表1に示す。
Na(g) + Naゲッター剤 ←→ 生成物
【0028】
【表1】
【0029】
Naゲッター剤の使用量は、Na-Si合金に含まれるNaの量に応じて、適宜決定すればよい。Naゲッター剤としては、1種類のものを使用してもよいし、複数のものを併用してもよい。
【0030】
本発明の製造方法においては、Naゲッター剤を用いることで、従来のシリコンクラスレートIIの製造方法と比較して、弱い減圧条件下であっても所望の反応が進行可能であるし、また、低い加熱温度であっても所望の反応が進行可能となる。
【0031】
減圧条件下における気圧Pとしては、P<10Pa、P≦10Pa、P≦10Pa、P≦10Pa、P≦10Paを例示できる。従来のシリコンクラスレートIIの製造方法と比較した場合の有利な気圧Pとしては、10-2Pa<P<10Pa、10-1Pa≦P≦10Pa、10Pa<P≦10Paを例示できる。
【0032】
加熱温度tは、減圧条件によっても左右するが、100℃≦t≦500℃、200℃≦t≦400℃、250℃≦t≦350℃を例示できる。加熱温度tが低い場合には、気圧Pを低くする必要がある。
二次電池などの蓄電装置の負極活物質に適したシリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料を製造する場合には、加熱温度tが400℃以下であるのが好ましい。加熱温度tが400℃以下であれば、ダイヤモンド構造のSi結晶の生成を抑制することができるし、好適な物性のシリコン材料を得ることもできるからである。
【0033】
本発明の製造方法においては、NaをNaゲッター剤と反応させてNa-Si合金におけるNa量を減少させる工程を、単一の工程として実施して、シリコンクラスレートIIを製造してもよいし、また、上記の工程で得られたシリコンクラスレートIIと新たなNaゲッター剤とを非接触で共存させて、シリコンクラスレートIIを加熱することで、Na量が減少されたシリコンクラスレートIIを製造してもよい。
【0034】
以上の事項から、以下の発明を把握できる。
組成式Nax1Si136で表されるシリコンクラスレートIIとNaゲッター剤とが非接触で共存する反応系内において、前記シリコンクラスレートIIを加熱することで、前記シリコンクラスレートIIから気化したNaを前記Naゲッター剤と反応させて、前記シリコンクラスレートIIにおけるNa量を減少させることを特徴とする組成式Nax2Si136で表されるシリコンクラスレートIIの製造方法。
ただし、x1及びx2は、0<x1≦24、0≦x2<24、及び、x2<x1を満足する。
【0035】
シリコン材料は、リチウムイオン二次電池などの二次電池や、電気二重層コンデンサ及びリチウムイオンキャパシタなどの蓄電装置の負極活物質として使用することができる。なお、リチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液及びセパレータ、又は、正極、負極及び固体電解質を具備する。
【0036】
シリコン材料を負極活物質として用いる場合には、シリコンクラスレートIIにおけるNa含量は低い方が好ましい。Naが離脱したシリコンクラスレートIIの多面体のケージ内に、リチウムなどの電荷担体が移動することが可能となり、その結果、負極活物質の膨張の程度が抑制されるためである。
シリコン材料を負極活物質として用いる場合、シリコンクラスレートIIの組成式NaSi136のxの範囲としては、0≦x≦10が好ましく、0≦x≦7がより好ましく、0≦x≦5がさらに好ましく、0≦x≦3がさらにより好ましく、0≦x≦2が特に好ましく、0≦x≦1が最も好ましい。
【0037】
また、シリコン材料は、特許文献1に記載のとおり、熱電素子、発光素子、光吸収素子などの用途に使用可能である。
【0038】
本発明の製造方法を経て製造されたシリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料には、NaやNaOHなどが付着し得るため、その除去のために、シリコン材料を水で洗浄する洗浄工程を実施するのが好ましい。
シリコン材料を水で洗浄することで、シリコン材料の表面が部分的に酸化されて、シリコン材料に酸素が導入されることも期待できる。酸素が導入されたシリコン材料は、安定性の向上や、負極活物質としての性能の向上が期待される。
【0039】
洗浄工程で用いる水としては、NaやNaOHなどが溶けやすい点から、酸性の水溶液を用いるのが好ましい。酸性の水溶液における酸の濃度としては、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましく、1~4質量%がさらに好ましい。
【0040】
洗浄工程後には、濾過及び乾燥にてシリコン材料から水を除去することが好ましい。
【0041】
シリコン材料は、粉砕や分級を経て、一定の粒度分布の粉末とするのがよい。
シリコン材料の好ましい平均粒子径としては、1~30μmの範囲内が好ましく、2~20μmの範囲内がより好ましく、3~15μmの範囲内がさらに好ましい。なお、平均粒子径は、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で試料を測定した場合のD50を意味する。
【0042】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例
【0043】
以下に、実施例および比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
・Na-Si合金の製造工程
不活性ガス雰囲気下、Na及びSiを溶融し、冷却して、Na-Si合金を製造した。当該Na-Si合金においては、Siに対するNaの組成比がやや高い。
【0045】
・シリコンクラスレートIIの製造工程
ステンレス製の反応容器内部の底に、Naゲッター剤として1質量部のSiO粉末を配置した。ステンレス製の反応容器内部の底に台座を設けて、台座の上部にステンレス製の坩堝を配置した。当該坩堝内に1質量部のNa-Si合金を配置した。
ステンレス製の反応容器にステンレス製の蓋をして、これらを真空炉内に配置した。なお、ステンレス製の反応容器とステンレス製の蓋との隙間から、反応容器内部の気体は排出可能である。
真空炉内を10Paまで減圧し、350℃で12時間加熱することで、シリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料を合成した。
【0046】
真空炉内を室温まで冷却し、坩堝からシリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料を回収した。また、反応容器内部の底に存在する、Naゲッター剤とNaの反応物も回収した。なお、真空炉内部や反応容器内部に金属Naの析出は観察されなかった。
シリコン材料を3質量%の塩酸に投入して、撹拌することで、洗浄を行った。洗浄後のシリコン材料を濾過にて分離し、80℃で減圧乾燥することで、シリコンクラスレートIIを含有する実施例1のシリコン材料を製造した。
【0047】
(評価例1)
シリコンクラスレートIIを含有する実施例1のシリコン材料、及び、Naゲッター剤とNaの反応物につき、粉末X線回折装置にて、X線回折測定を行った。
実施例1のシリコン材料のX線回折チャート、並びに、シリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIのX線回折チャートを、図1に示す。また、Naゲッター剤とNaの反応物のX線回折チャート、並びに、ダイヤモンド構造であるSi結晶及びNaSiO結晶のX線回折チャートを図2に示す。
【0048】
図1から、実施例1のシリコン材料の主成分はシリコンクラスレートIIであることがわかる。また、図2から、Naゲッター剤としてのSiOがNaと反応してNaSiOに変化したことがわかる。
【0049】
(実施例2)
シリコンクラスレートIIの製造工程におけるシリコン材料の合成工程を、以下のとおり、2段階工程としたこと以外は、実施例1と同様の方法で、シリコンクラスレートIIを含有する実施例2のシリコン材料を製造した。
【0050】
・シリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料の合成(1段階工程)
ステンレス製の反応容器内部の底に、Naゲッター剤として1質量部のSiO粉末を配置した。ステンレス製の反応容器内部の底に台座を設けて、台座の上部にステンレス製の坩堝を配置した。当該坩堝内に1質量部のNa-Si合金を配置した。ステンレス製の反応容器にステンレス製の蓋をして、これらを真空炉内に配置した。真空炉内を10Paまで減圧し、350℃で12時間加熱することで、シリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料を合成した。
真空炉内を室温まで冷却し、坩堝からシリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料を回収した。
【0051】
・シリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料の合成(2段階工程)
別のステンレス製の反応容器内部の底に、Naゲッター剤として1質量部のSiO粉末を配置した。当該ステンレス製の反応容器内部の底に台座を設けて、台座の上部にステンレス製の坩堝を配置した。当該坩堝内に回収した1質量部のシリコン材料を配置した。ステンレス製の反応容器にステンレス製の蓋をして、これらを真空炉内に配置した。真空炉内を10Paまで減圧し、350℃で6時間加熱することで、シリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料を合成した。
【0052】
(実施例3)
シリコンクラスレートIIの製造工程におけるシリコン材料の合成工程のうち、2段階工程の温度を400℃としたこと以外は、実施例2と同様の方法で、シリコンクラスレートIIを含有する実施例3のシリコン材料を製造した。
【0053】
(実施例4)
シリコンクラスレートIIの製造工程におけるシリコン材料の合成工程のうち、2段階工程の温度を400℃とし、加熱時間を12時間としたこと以外は、実施例2と同様の方法で、シリコンクラスレートIIを含有する実施例4のシリコン材料を製造した。
【0054】
(実施例5)
シリコンクラスレートIIの製造工程におけるシリコン材料の合成工程のうち、2段階工程の温度を450℃としたこと以外は、実施例2と同様の方法で、シリコンクラスレートIIを含有する実施例5のシリコン材料を製造した。
【0055】
(評価例2)
シリコンクラスレートIIを含有する実施例1~実施例5のシリコン材料につき、粉末X線回折装置にて、X線回折測定を行った。なお、実施例1のシリコン材料におけるシリコンクラスレートIIは、実質的に、実施例2~実施例5のシリコン材料の製造工程における1段階工程で合成された、シリコンクラスレートIIに相当する。
【0056】
実施例2、実施例3及び実施例5のシリコン材料のX線回折チャートを、図3に示す。図3において、三角形で示したピークはシリコンクラスレートIIに由来するものであり、四角形で示したピークはシリコンクラスレートIに由来するものであり、×で示したピークはダイヤモンド構造であるSi結晶に由来するものである。
【0057】
図3から、実施例2、実施例3及び実施例5のシリコン材料はいずれもシリコンクラスレートIIを主成分とするものであることがわかる。また、加熱温度が450℃である実施例5のシリコン材料には、ダイヤモンド構造であるSi結晶が存在することがわかる。
【0058】
以上の結果から、加熱温度が450℃である実施例5のシリコン材料の合成条件においては、Na分圧が比較的高いため、中間体としてのシリコンクラスレートIの生成割合が比較的高くなったと考えられる。そして、中間体としてのシリコンクラスレートIからNaが除去されるに従い、シリコンクラスレートIがSi結晶に変化したと考えられる。
他方、加熱温度が400℃以下である実施例2及び実施例3のシリコン材料の合成条件においては、Na分圧が比較的低いため、中間体としてのシリコンクラスレートIの生成割合が比較的低くなり、シリコンクラスレートIIが優先的に製造されたと考えられる。
【0059】
また、実施例1~実施例5のシリコン材料の各X線回折チャートにおいて、シリコンクラスレートIIの(311)に由来するピーク強度と(511)に由来するピーク強度から、シリコンクラスレートIIの組成式NaSi136におけるxの値をそれぞれ算出した。なお、シリコンクラスレートIIの組成式NaSi136におけるxの値は、(311)に由来するピーク強度に対する(511)に由来するピーク強度の比の値と相関関係にある。
結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2から、加熱温度が高いほど、また、加熱時間が長いほど、製造されるシリコンクラスレートIIの組成式NaSi136におけるxの値が低くなることがわかる。
【0062】
(実施例6)
シリコンクラスレートIIの製造工程におけるシリコン材料の合成工程を、以下のとおりとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、シリコンクラスレートIIを含有する実施例6のシリコン材料を製造した。
【0063】
ステンレス製の反応容器内部の底に、Naゲッター剤としてMoO粉末を配置した。ステンレス製の反応容器内部の底に台座を設けて、台座の上部にステンレス製の坩堝を配置した。当該坩堝内にNa-Si合金を配置した。Na-Si合金におけるNaのモルとNaゲッター剤のモルの比は、4:6であった。
ステンレス製の反応容器にステンレス製の蓋をして、これらを真空炉内に配置した。
真空炉内を10Paまで減圧し、280℃で40時間加熱することで、シリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料を合成した。
【0064】
(実施例7)
加熱温度を330℃とし、加熱時間を20時間としたこと以外は、実施例6と同様の方法で、シリコンクラスレートIIを含有する実施例7のシリコン材料を製造した。
【0065】
(実施例8)
Naゲッター剤としてFeO粉末を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法で、シリコンクラスレートIIを含有する実施例8のシリコン材料を製造した。
【0066】
(実施例9)
加熱温度を330℃とし、加熱時間を20時間としたこと以外は、実施例8と同様の方法で、シリコンクラスレートIIを含有する実施例9のシリコン材料を製造した。
【0067】
(実施例10)
加熱温度を380℃とし、加熱時間を20時間としたこと以外は、実施例8と同様の方法で、シリコンクラスレートIIを含有する実施例10のシリコン材料を製造した。
【0068】
(実施例11)
Naゲッター剤としてSiO粉末を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法で、シリコンクラスレートIIを含有する実施例11のシリコン材料を製造した。
【0069】
(実施例12)
シリコンクラスレートIIの製造工程におけるシリコン材料の合成工程を、以下のとおり、2段階工程としたこと以外は、実施例11と同様の方法で、シリコンクラスレートIIを含有する実施例12のシリコン材料を製造した。
【0070】
・シリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料の合成(1段階工程)
ステンレス製の反応容器内部の底に、Naゲッター剤としてSiO粉末を配置した。ステンレス製の反応容器内部の底に台座を設けて、台座の上部にステンレス製の坩堝を配置した。当該坩堝内にNa-Si合金を配置した。Na-Si合金におけるNaのモルとNaゲッター剤のモルの比は、4:6であった。
ステンレス製の反応容器にステンレス製の蓋をして、これらを真空炉内に配置した。真空炉内を10Paまで減圧し、280℃で40時間加熱することで、シリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料を合成した。
真空炉内を室温まで冷却し、坩堝からシリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料を回収した。
【0071】
・シリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料の合成(2段階工程)
別のステンレス製の反応容器内部の底に、Naゲッター剤としてSiO粉末を配置した。当該ステンレス製の反応容器内部の底に台座を設けて、台座の上部にステンレス製の坩堝を配置した。当該坩堝内に回収したシリコン材料を配置した。回収したシリコン材料に含まれるNaのモルとNaゲッター剤のモルの比は、4:6であった。
ステンレス製の反応容器にステンレス製の蓋をして、これらを真空炉内に配置した。真空炉内を10Paまで減圧し、330℃で20時間加熱することで、シリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料を合成した。
【0072】
(実施例13)
シリコンクラスレートIIの製造工程におけるシリコン材料の合成工程のうち、2段階工程の温度を380℃としたこと以外は、実施例12と同様の方法で、シリコンクラスレートIIを含有する実施例13のシリコン材料を製造した。
【0073】
(実施例14)
シリコンクラスレートIIの製造工程におけるシリコン材料の合成工程のうち、2段階工程の温度を480℃とし、加熱時間を6時間としたこと以外は、実施例12と同様の方法で、シリコンクラスレートIIを含有する実施例14のシリコン材料を製造した。
【0074】
(比較例1)
シリコンクラスレートIIの製造工程におけるシリコン材料の合成工程を、以下のとおりとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1のシリコン材料を製造した。
【0075】
ステンレス製の反応容器内部の底にNa-Si合金を配置した。これを真空炉内に配置した。真空炉内を10Paまで減圧し、280℃で40時間加熱することで、シリコン材料を合成した。真空炉内を室温まで冷却し、シリコン材料を回収した。
【0076】
(比較例2)
シリコン材料の合成工程を、以下のとおり、2段階工程としたこと以外は、比較例1と同様の方法で、比較例2のシリコン材料を製造した。
【0077】
・シリコン材料の合成(1段階工程)
ステンレス製の反応容器内部の底にNa-Si合金を配置した。これを真空炉内に配置した。真空炉内を10Paまで減圧し、280℃で40時間加熱することで、シリコン材料を合成した。真空炉内を室温まで冷却し、シリコン材料を回収した。
【0078】
・シリコン材料の合成(2段階工程)
別のステンレス製の反応容器内部の底に、回収したシリコン材料を配置した。これらを真空炉内に配置した。真空炉内を10Paまで減圧し、380℃で20時間加熱することで、シリコンクラスレートIIを含有するシリコン材料を合成した。
【0079】
(比較例3)
シリコン材料の合成工程のうち、2段階工程の温度を480℃とし、加熱時間を6時間としたこと以外は、比較例2と同様の方法で、比較例3のシリコン材料を製造した。
【0080】
(評価例3)
シリコンクラスレートIIを含有する実施例6~実施例14のシリコン材料、及び、比較例1~比較例3のシリコン材料につき、粉末X線回折装置にて、X線回折測定を行った。
その結果、実施例6~実施例14のシリコン材料、及び、比較例2~比較例3のシリコン材料には、シリコンクラスレートIIが含有されることが裏付けられた。しかしながら、比較例1のシリコン材料からは、シリコンクラスレートIIに由来するピークが検出されなかった。比較例1の製造条件では、シリコンクラスレートIIが製造できなかったことが判明した。
【0081】
また、実施例6~実施例14のシリコン材料、及び、比較例2~比較例3のシリコン材料の各X線回折チャートにおいて、シリコンクラスレートIIの(311)に由来するピーク強度と(511)に由来するピーク強度から、シリコンクラスレートIIの組成式NaSi136におけるxの値をそれぞれ算出した。
以上の結果を、表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
表3から、Naゲッター剤を使用した合成条件においては、Na-Si合金からのNaの除去が円滑に進行するといえる。また、Naゲッター剤の種類に因り、反応速度に差が生じるといえる。
Naゲッター剤を使用することで、より低温での反応が進行可能であり、かつ、より短時間での反応が進行可能であるといえる。
図1
図2
図3