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特許7025402フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルムの製造方法
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  • 特許-フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220216BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019503041
(86)(22)【出願日】2018-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2018007404
(87)【国際公開番号】W WO2018159648
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/008200
(32)【優先日】2017-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513164624
【氏名又は名称】フラニクス テクノロジーズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 章太
(72)【発明者】
【氏名】沼田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 勝也
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 潤
(72)【発明者】
【氏名】清水 敏之
(72)【発明者】
【氏名】形舞 祥一
(72)【発明者】
【氏名】森重 地加男
(72)【発明者】
【氏名】ヤスパー ガブリエル ファン ベルケル
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-200546(JP,A)
【文献】国際公開第2014/100265(WO,A1)
【文献】特開2012-229395(JP,A)
【文献】特開2012-094699(JP,A)
【文献】特開平11-010725(JP,A)
【文献】特開2014-073598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/24
B32B 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法であって、
ポリエステル樹脂を押出機に投入する工程と、
溶融された上記ポリエステル樹脂を押出機から押出して250~310℃の溶融樹脂シートを得る工程と、
上記溶融樹脂シートを静電印加法により冷却ロールに密着させ、未延伸シートを得る工程と、
上記未延伸シートを二軸延伸する工程とを含み、
上記ポリエステルフィルムを150℃で30分間加熱したときのMD方向の熱収縮率が30%以下であり、
上記ポリエステル樹脂は、以下の(A)~(C)を満たすことを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
(A)上記ポリエステル樹脂は、フランジカルボン酸とエチレングリコールからなるポリエチレンフランジカルボキシレート樹脂を含む
(B)上記ポリエステル樹脂の固有粘度が0.50dL/g以上である
(C)上記ポリエステル樹脂の250℃における溶融比抵抗値は3.0×107Ω・cm以下である
【請求項2】
溶融樹脂シートが押出機から押出されるときの温度における溶融比抵抗値は2.5×107Ω・cm以下である請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
上記ポリエステル樹脂の275℃における溶融比抵抗値は2.5×107Ω・cm以下である請求項1又は2に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
未延伸シートを得る上記工程と上記未延伸シートを二軸延伸する上記工程とを連続的に行う請求項1~3のいずれか1項に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
上記フィルムの面配向係数ΔPが0.005以上、0.200以下であり、上記フィルムの厚さが1μm以上、300μm以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
上記ポリエステルフィルムを150℃で30分間加熱したときのTD方向の熱収縮率が0.01%以上、50%以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
温度23℃、相対湿度65%下におけるフィルムの厚さ50μm当たりの酸素透過度が1mL/m2/day/MPa以上、200mL/m2/day/MPa以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
フィルム面内の流れ方向およびその直角方向である横方向の屈折率(nx)、(ny)が、1.5700以上、1.7000以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジカルボン酸ユニットを有する二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性や機械物性に優れた熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂は、プラスチックフィルム、エレクトロニクス、エネルギー、包装材料、自動車等の非常に多岐な分野で利用されている。プラスチックフィルムのなかでも、二軸延伸PETフィルムは機械特性強度,耐熱性,寸法安定性,耐薬品性,光学特性などとコストのバランスに優れることから,工業用,包装用分野において幅広く用いられている.
【0003】
工業用フィルムの分野では、優れた透明性を有することから液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD)向けの機能フィルムとして用いることができる。また耐加水分解性を付与したPETフィルムは太陽電池バックシート用フィルムとしても利用されており、機能性フィルム、ベースフィルムとして様々な目的で使われている。
【0004】
包装用フィルムの分野では、食品包装用、ボトル用シュリンクラベル、ガスバリアフィルム用途として利用されている。特に、ガスバリア性に優れるフィルムは、食品、医薬品、電子部品等の気密性を要求される包装材料、または、ガス遮断材料として使用され、近年需要が高まっている。
【0005】
一方、環境配慮型または環境持続型材料として、生分解性を有する樹脂やバイオマス由来の原料を用いた樹脂が注目されている。上述の観点から、PET等の石油誘導体を代替する再生可能なポリマーを提供することを目指して、多くの検討がなされている。熱湯における溶解性や酸性試薬に対する安定性といった化学的性質が、PETの主鎖骨格であり、平面構造であるテレフタル酸に似ている化合物として、フランジカルボン酸(FDCA)が提案されている。具体的には、FDCAとジオールとが重縮合されたフラン系の材料が提案されている(特許文献1、非特許文献1)。
【0006】
これら開示されている高分子の物性は融点のみであり、機械強度は明らかになっておらず、フランジカルボン酸ユニットを有する熱可塑性樹脂組成物が工業用、包装用フィルムの分野で使用できるか不明であった。
【0007】
ポリブチレンフランジカルボキシレート(PBF)を中心として数種のフランジカルボン酸ユニットを有する熱可塑性樹脂組成物について、重合度を規定し電気・電子部品等の用途に使用できる高分子化合物の提案がされている(特許文献2)。さらに、還元粘度、末端酸価を規定し機械強度に優れるポリエステルの提案がされている(特許文献3,4)。
【0008】
しかしながら、特許文献2において、開示されているPBFの熱プレス成形品の透明性は低く、工業用、包装用フィルムの分野での使用は制限される。特許文献3,4に開示されているポリエチレンフランジカルボキシレート(PEF)構造の200μmシート品の機械特性について、破断伸び、破断強度ともに低く、工業用、包装用フィルムの分野で使用することは考えられなかった。
【0009】
PEF誘導体およびPEF誘導体と共重合ポリエステルなどのブレンドによって得られたシートの一軸延伸フィルムの検討がなされている(特許文献5、6)。
【0010】
特許文献5では、配合物の種類、配合比率によりフランジカルボン酸ユニットを有する熱可塑性樹脂組成物からなるシートに比べて、それを5~16倍に一軸延伸したフィルムの破断伸びが向上することが記載されている。しかし、破断伸びが向上することが広く知られているシクロヘキサンジメタノール共重合PETを配合しない限り、破断伸びの大きな向上は認められず、限定的な配合比率による効果と言わざるを得ず、工業用、包装用フィルムの分野で使用されることもなかった。
【0011】
特許文献6では圧延ロールを用いて1.6倍程度に一軸延伸を行ったPEFフィルムが開示されている。ガスバリア性に優れるプラスチックフィルムであることが示されているものの、PEFのもつ化学構造由来のバリア性の利点を示したに過ぎず、包装材料として重要な機械強度は明らかになっておらず、フランジカルボン酸ユニットを有する包装用ガスバリアフィルムの分野で使用されることもなかった。
【0012】
特許文献7ではフランジカルボン酸を含む二軸延伸ポリエステルフィルムとヒートシール性を有するフィルムの特性向上しか検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】米国特許第2551731号公報
【文献】特許第4881127号公報
【文献】特開第2013-155389号公報
【文献】特開第2015-098612号公報
【文献】特表第2015-506389号公報
【文献】特開第2012-229395号公報
【文献】国際公開第2016/032330号
【0014】
【文献】Y. Hachihama, T.Shono, and K. Hyono, Technol. Repts. Osaka Univ., 8, 475 (1958)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
現在、上記特許文献に提案のフランジカルボン酸ユニットを有する樹脂組成物がPET代替として検討されている。しかし、機械特性に劣ることから、工業用、包装用フィルムに用いることができていない。さらに耐熱性、透明性の検討も行われておらず、工業用、包装用フィルムとして適用できるかが不明である。
【0016】
フランジカルボン酸ユニットを主鎖に有し、機械物性に優れるポリエステルフィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち本発明は、
(1)二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法であって、ポリエステル樹脂を押出機に投入する工程と、溶融された上記ポリエステル樹脂を押出機から押出して250~310℃の溶融樹脂シートを得る工程と、上記溶融樹脂シートを静電印加法により冷却ロールに密着させ、未延伸シートを得る工程と、上記未延伸シートを二軸延伸する工程とを含み、上記ポリエステル樹脂は、以下の(A)~(C)を満たすことを特徴とする。
(A)上記ポリエステル樹脂は、フランジカルボン酸とエチレングリコールからなるポリエチレンフランジカルボキシレート樹脂を含む
(B)上記ポリエステル樹脂の固有粘度が0.50dL/g以上である
(C)上記ポリエステル樹脂の250℃における溶融比抵抗値は3.0×107Ω・cm以下である
【0018】
(2)好ましくは、上記溶融樹脂シートの温度における溶融比抵抗値は2.5×107Ω・cm以下である。
【0019】
(3)好ましくは、上記ポリエステル樹脂の275℃における溶融比抵抗値は2.5×107Ω・cm以下である。
【0020】
(4)好ましくは、未延伸シートを得る上記工程と上記未延伸シートを二軸延伸する上記工程とを連続的に行う。
【0021】
(5)好ましくは、上記フィルムの面配向係数ΔPが0.005以上、0.200以下であり、上記フィルムの厚さが1μm以上、300μm以下である。
【0022】
(6)好ましくは、上記ポリエステルフィルムを150℃で30分間加熱したときの熱収縮率が0.01%以上、50%以下である。
【0023】
(7)好ましくは、温度23℃、相対湿度65%下におけるフィルムの厚さ50μm当たりの酸素透過度が1mL/m2/day/MPa以上、200mL/m2/day/MPa以下である。
【0024】
(8)好ましくは、フィルム面内の流れ方向およびその直角方向である横方向の屈折率(nx)、(ny)が、1.5700以上、1.7000以下である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の製造方法により得られるフランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルムは機械物性に優れるため、工業用、包装用フィルムとして好適に使用することができる。また、好ましい実施態様によれば、本発明の製造方法により得られるフランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルムは、驚くことにPETフィルム並みの強度と熱安定性を有し、さらにはPETフィルムをはるかにしのぐガス遮断性を有しており、食品、医薬品、電子部品等の気密性を要求される包装材料、または、ガス遮断材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、実施例1、4、6、及び参考例1、2における耐熱性試験後のフィルムの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の製造方法は、ポリエステル樹脂を押出機に投入する工程と、溶融された上記ポリエステル樹脂を押出機から押出して250~310℃の溶融樹脂シートを得る工程と、上記溶融樹脂シートを静電印加法により冷却ロールに密着させ、未延伸シートを得る工程と、上記未延伸シートを二軸延伸する工程とを含む。
【0028】
本発明の製造方法により得られるポリエステルフィルム(以下、本発明のポリエステルフィルムということがある)は、ポリエステル樹脂を用いて製造される。
【0029】
上記ポリエステル樹脂は、フランジカルボン酸とエチレングリコールからなるポリエチレンフランジカルボキシレート(以下、PEFということがある)樹脂を含む。すなわち、ポリエチレンフランジカルボキシレート樹脂は、ジカルボン酸成分(フランジカルボン酸)とグリコール成分(エチレングリコール)からなる組成物から形成されている。上記ポリエステルの全構成ユニット100モル%中、エチレンフランジカルボキシレートユニットの含有量が50モル%超100モル%以下であることが好ましく、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分やグリコール成分が共重合されたポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂であってもよい。エチレンフランジカルボキシレートユニットの含有量は70モル%以上100モル%以下であることがより好ましく、80モル%以上100モル%以下であることがさらに好ましく、90モル%以上100モル%以下であることがよりさらに好ましく、95モル%以上100モル%以下であることが特に好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
他のジカルボン酸成分およびグリコール成分の共重合量は、上記ポリエステルの全構成ユニット100モル%中、20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。
上記の他のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸やイソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’-ジカルボキシビフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸等の脂環族ジカルボン酸や、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、オクタデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
上記の他のグリコール成分としては、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,10-デカンジオール、ジメチロールトリシクロデカン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールC、ビスフェノールZ、ビスフェノールAP、4,4′-ビフェノールのエチレンオキサイド付加体またはプロピレンオキサイド付加体、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0030】
このようなポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂の重合法としては、フランジカルボン酸とエチレングリコール、および必要に応じて他のジカルボン酸成分およびジオール成分を直接反応させる直接重合法、およびフランジカルボン酸のジメチルエステル(必要に応じて他のジカルボン酸のジメチルエステルを含む)とエチレングリコール(必要に応じて他のジオール成分を含む)とをエステル交換反応させるエステル交換法等の任意の製造方法が利用され得る。
【0031】
本発明のポリエステルフィルムの樹脂成分として、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、上記以外のポリエステルなどの他の樹脂を含んでもよいが、機械特性、耐熱性の点で、他の樹脂の含有量はポリエステルフィルムの全構成ユニットに対して30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましく、5モル%以下であることがよりさらに好ましく、0モル%であることが最も好ましい。なお、本明細書においては、ポリエステル以外の樹脂が含まれる場合であっても「ポリエステルフィルム」という。
【0032】
<ポリエステル樹脂>
本発明で用いられるポリエステル樹脂の固有粘度は、0.50dL/g以上、1.20dL/g以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.50dL/g以上、1.00dL/g以下であり、さらに好ましくは0.60dL/g以上、0.95dL/g以下であり、最も好ましくは0.70dL/g以上、0.95dL/g以下である。固有粘度が0.50dL/gよりも低いと、フィルムが裂けやすくなり、1.20dL/gより高いと濾圧上昇が大きくなって高精度濾過が困難となり、フィルターを介して樹脂を押出すことが困難となる。また、固有粘度が1.20dL/gより高いと、機械的特性を高くする効果が飽和状態となる。
【0033】
本発明で用いられるポリエステル樹脂は、250℃における溶融比抵抗値は3.0×107Ω・cm以下であり、2.7×107Ω・cm以下であることが好ましく、2.5×107Ω・cm以下であることがより好ましく、2.4×107Ω・cm以下であることがさらに好ましい。ポリエステル樹脂の250℃における溶融比抵抗値が3.0×107Ω・cm以下である場合、溶融されたポリエステル樹脂を押出機から押出す際の安定性を高めることができ、製膜速度を上げることができる。なお、250℃での溶融比抵抗値の下限値は特に限定されないが、例えば0.1×107Ω・cm以上である。
【0034】
本発明で用いられるポリエステル樹脂は、275℃における溶融比抵抗値は好ましくは2.5×107Ω・cm以下であり、2.2×107Ω・cm以下であることがより好ましく、2.0×107Ω・cm以下であることがさらに好ましく、1.5×107Ω・cm以下であることが特に好ましい。ポリエステル樹脂の275℃における溶融比抵抗値が2.5×107Ω・cm以下である場合、溶融されたポリエステル樹脂を押出機から押出す際の安定性を高めることができ、製膜速度を上げることができる。なお、275℃での溶融比抵抗値の下限値は特に限定されないが、例えば0.05×107Ω・cm以上である。
【0035】
<溶融樹脂シート>
本発明で用いられる溶融樹脂シートの固有粘度は、0.30dL/g以上、1.20dL/g以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.50dL/g以上、1.00dL/g以下であり、さらに好ましくは0.60dL/g以上、0.95dL/g以下であり、最も好ましくは0.70dL/g以上、0.95dL/g以下である。固有粘度が0.30dL/gよりも低いと、フィルムが裂けやすくなり、1.20dL/gより高いと濾圧上昇が大きくなって高精度濾過が困難となり、フィルターを介して樹脂を押出すことが困難となる。また、固有粘度が1.20dL/gより高いと、機械的特性を高くする効果が飽和状態となる。
【0036】
本発明で用いられる溶融樹脂シートは、250℃における溶融比抵抗値は3.0×107Ω・cm以下であり、2.7×107Ω・cm以下であることが好ましく、2.5×107Ω・cm以下であることがより好ましく、2.4×107Ω・cm以下であることがさらに好ましい。なお、250℃での溶融比抵抗値の下限値は特に限定されないが、例えば0.1×107Ω・cm以上である。
【0037】
本発明で用いられる溶融樹脂シートが押出し機から押出されるときの温度における溶融比抵抗値は2.5×107Ω・cm以下であることが好ましく、溶融比抵抗値が2.2×107Ω・cm以下であることがより好ましく、溶融比抵抗値が2.0×107Ω・cm以下であることがさらに好ましく、溶融比抵抗値が1.5×107Ω・cm以下であることが最も好ましい。なお、上記溶融樹脂シートが押出し機から押出されるときの温度における溶融比抵抗値の下限値は特に限定されないが、例えば0.05×107Ω・cm以上である。
【0038】
<ポリエステルフィルム>
本発明のポリエステルフィルムは、その面配向係数(ΔP)は0.005以上、0.200以下であることが好ましく、より好ましくは0.020以上、0.195以下であり、さらに好ましくは0.100以上、0.195以下であり、よりさらに好ましくは0.120以上、0.195以下であり、特に好ましくは0.140以上、0.190以下であり、最も好ましくは0.140以上、0.160以下である。
面配向係数(ΔP)が0.005未満では、フィルムの機械特性が不十分となり、フィルムの印刷や製袋などの後加工が困難となること、後の印刷やコーティングを行うときに印刷機やコーター上でフィルムが切れることなどが発生するおそれがある。ΔPが0.160以下であればフィルムの機械強度は十分なものとなる。面配向係数は、以下のように算出することができる。JIS K 7142-1996 5.1(A法)により、ナトリウムD線を光源としてアッベ屈折計によりフィルム面内の機械方向(MD方向)の屈折率(nx)、およびその直角方向(TD方向)の屈折率(ny)、厚み方向の屈折率(nz)を測定し、下記式によって面配向係数(ΔP)を算出できる。
ΔP={(nx+ny)-2nz}÷2
【0039】
本発明のポリエステルフィルムの固有粘度は、0.30dl/g以上、1.20dl/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.55dl/g以上、1.00dl/g以下であり、さらに好ましくは0.70dl/g以上、0.95dl/g以下である。固有粘度が0.30dl/gよりも低いと、フィルムが裂けやすくなり、固有粘度が1.20dl/gより高いと、機械的特性を高くする効果が飽和状態となる。
【0040】
本発明のポリエステルフィルムは、150℃で30分間加熱したときの熱収縮率がMD方向およびTD方向とも50%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは20%以下であり、さらにより好ましくは10%以下であり、特に好ましくは8%以下であり、最も好ましくは4.5%以下である。熱収縮率が大きいと印刷時の色ズレ、印刷機やコーター上でのフィルムの伸びの発生による印刷やコーティング実施が困難になること、および高熱化でのフィルムの変形による外観不良などが発生する。上記熱収縮率は低いことが好ましいが、製造上の点から0.01%が下限と考える。
【0041】
本発明において、温度23℃、湿度65%下におけるフィルムの厚さ50μm当たりの酸素透過度は、好ましくは1mL/m2/day/MPa以上、200mL/m2/day/MPa以下であり、より好ましくは50mL/m2/day/MPa以下であり、さらに好ましくは40mL/m2/day/MPa以下であり、さらにより好ましくは30mL/m2/day/MPa以下である。200mL/m2/day/MPaを超えると、酸素により劣化する物質や食品の保存性が不良になる。また、製造上の点から、1mL/m2/day/MPaが下限と考える。
【0042】
本発明において、温度23℃、湿度65%下におけるフィルムの酸素透過度は、好ましくは1mL/m2/day/MPa以上、1000mL/m2/day/MPa以下であり、より好ましくは500mL/m2/day/MPa以下であり、さらに好ましくは200mL/m2/day/MPa以下であり、さらにより好ましくは120mL/m2/day/MPa以下である。1000mL/m2/day/MPaを超えると、酸素により劣化する物質や食品の保存性が不良になる。また、製造上の点から、1mL/m2/day/MPaが下限と考える。
なお、本項で記しているのはフィルムそのものの酸素透過度であり、当然、フィルムにコーティング、金属蒸着、金属酸化物による蒸着、スパッタリングなどの方法および共押出しなどによる方法などを付与することで、さらに酸素透過度を改善することは可能である。
【0043】
本発明において、温度37.8℃、湿度90%RH下におけるフィルムの厚さ50μm当たりの酸素透過度は、好ましくは0.1g/m2/day以上、10g/m2/day以下であり、より好ましくは8g/m2/day以下であり、さらにより好ましくは5g/m2/day以下である。10g/m2/dayを超えると、フィルムを透過した水蒸気により物質が劣化したり食品の保存性が不良になったりするおそれがある。なお、フィルム製造上の点から0.1g/m2/dayが下限と考える。
【0044】
本発明において、温度37.8℃、湿度90%RH下におけるフィルムの水蒸気透過度は、好ましくは0.1g/m2/day以上、40g/m2/day以下であり、より好ましくは30g/m2/day以下であり、さらにより好ましくは20g/m2/day以下である。40g/m2/dayを超えると、フィルムを透過した水蒸気により物質が劣化したり食品の保存性が不良になったりするおそれがある。なお、フィルム製造上の点から0.1g/m2/dayが下限と考える。
【0045】
本発明のフィルムは、フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルそのものが高い酸素バリア性(すなわち、低い酸素透過度)の特性を持つが、後で述べる延伸工程が入ることで、酸素バリア性はさらに高くなる。
【0046】
フィルム面内のMD方向の屈折率(nx)およびMD方向の直角方向(ny)が、1.5700以上が好ましく、より好ましくは1.5800以上であり、さらに好ましくは1.5900以上であり、さらにより好ましくは1.6000以上であり、特に好ましくは1.6100以上であり、最も好ましくは1.6200以上である。nxとnyが1.5700以上では、十分なフィルム破断強度や破断伸度が得られるため、フィルムの機械特性が十分となり、フィルムの印刷や製袋などの後加工が容易となること、後の印刷やコーティングを行うときに印刷機やコーター上でフィルムが切れることなどが発生しにくいため好ましい。なお、製造上の点や熱収縮率の点から上限は、1.7000以下が好ましい。
【0047】
本発明のポリエステルフィルムは、その破断強度がMD方向及びTD方向とも75MPa以上であることが好ましい。破断強度の好ましい下限は100MPa、より好ましい下限は150MPa、さらに好ましい下限は200MPa、よりさらに好ましい下限は220MPaである。破断強度が75MPa未満では、フィルムの力学的強度が不十分となり、フィルムの加工工程で伸び、ズレ等の不具合を生じやすくなるので好ましくない。製造上の点を考慮して、上限は1000MPaである。
【0048】
本発明のポリエステルフィルムは、その破断伸度がMD方向及びTD方向とも10%以上であることが好ましい。破断伸度の好ましい下限は15%、さらに好ましい下限は20%、特に好ましい下限は30%である。破断伸度が10%未満では、フィルムの力学的伸度が不十分となり、フィルムの加工工程で割れ、破れ等の不具合を生じやすくなるので好ましくない。製造上の点を考慮して、上限は300%である。上限は、より好ましくは150%であり、さらに好ましくは100%であり、よりさらに好ましくは80%である。
【0049】
本発明のポリエステルフィルムは、全光線透過率が75%以上であることが好ましい。フィルムの欠点となる内部異物の検出精度を向上させるためには、透明性が高いことが望ましい。そのため、本発明のポリエステルフィルムの全光線透過率は75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、88.5%以上がさらに好ましく、89%以上が特に好ましい。フィルムの欠点となる内部異物の検出精度を向上させるためには、全光線透過率は高ければ高いほどよいが、100%の全光線透過率は技術的に達成困難である。
【0050】
本発明のポリエステルフィルムは、ヘーズが15%以下であることが好ましい。食品包装用途において内容物の欠点検査を行うためには、フィルムの濁りが少ないことが望ましい。そのため、本発明のポリエステルフィルムにおけるヘーズは15%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。ヘーズは低い方が好ましいが、フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルム固有の屈折率から、0.1%が下限であると思われる。
【0051】
フィルムの厚みは1μm以上、300μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上200μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上100μm以下であり、よりさらに好ましくは10μm以上40μm以下である。厚さが300μmを超えるとコスト面で問題があり、包装材料として用いた場合に視認性が低下しやすくなる。また、厚さが1μmに満たない場合は、機械的特性が低下し、フィルムとしての機能が果たせないおそれがある。
【0052】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
本発明のポリエステルフィルムの製造方法について、以下に説明する。
【0053】
上述のとおり、本発明の製造方法は、溶融されたポリエステル樹脂を押出機から押出して250~310℃の溶融樹脂シートを得る工程と、上記溶融樹脂シートを静電印加法により冷却ロールに密着させ、未延伸シートを得る工程と、上記未延伸シートを二軸延伸する工程とを含む。
【0054】
[(A)溶融されたポリエステル樹脂を押出機から押出して250~310℃の溶融樹脂シートを得る工程]
【0055】
まず、原料であるポリエステル樹脂の水分率が100ppm以下となるように、乾燥あるいは熱風乾燥する。次いで、樹脂を計量、混合して押し出し機に投入し、250~310℃の温度に加熱溶融して、シート状に溶融押出を行うことで溶融樹脂シートを得ることができる。押出温度(溶融樹脂シートの温度)を250℃以上にすることで押出時の溶融粘度を十分に下げることができ、溶融比抵抗値を十分に下げることで押出時の安定性を高めることができ、製膜速度を上げることができる。加熱溶融温度が310℃より高いと樹脂が劣化して、得られたフィルムの外観が劣ってしまう。加熱溶融温度は300℃以下であることが好ましい。
【0056】
溶融樹脂シートの温度は以下のように測定を行う。押出された溶融樹脂シート(溶融樹脂)に、デジタル温度計の半固形・液体用センサーを突刺して溶融樹脂シートの温度を測定する。一般的なフィルム製膜機では、押し出される溶融樹脂シートは、配管やTダイの温度と同じであり、実施例でも、配管の温度を溶融樹脂シートの温度としている。
【0057】
押出温度は、ポリエステル樹脂の融点より35℃以上高い温度であることが好ましく、45℃以上高い温度であることがより好ましく、55℃以上高い温度であることがさらに好ましい。押出温度をポリエステル樹脂の融点より35℃以上高くすることで押出時の溶融粘度を十分に下げることができ、溶融比抵抗値を十分に下げることで押出時の安定性を高めることができ、製膜速度を上げることができる。ポリエステル樹脂としては、例えば融点215℃のPEF樹脂が挙げられる。なお、一般的なポリエチレンテレフタレート(融点:255℃)を用いた場合には、融点より20~30℃高い温度で溶融押出を行う。
【0058】
また、溶融樹脂が250~310℃に保たれた任意の場所で、樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行う。溶融樹脂の高精度濾過に用いられる濾材は、特に限定はされないが、ステンレス焼結体の濾材の場合、Si、Ti、Sb、Ge、Cuを主成分とする凝集物及び高融点有機物の除去性能に優れ、好適である。
【0059】
[(B)上記溶融樹脂シートを静電印加法により冷却ロールに密着させ、未延伸シートを得る工程]
さらに、溶融状態の樹脂シートを、静電印加法を用いて冷却ロール(金属ロール回転体またはキャスティングロールともいう)に密着せしめて冷却固化し、未延伸シートを得る。静電印加法とは、溶融状態の樹脂シートが冷却ロールに接触する付近で、樹脂シートの冷却ロールに接触する面の反対の面の近傍に設置した電極に電圧を印加することによって、樹脂シートを帯電させ、樹脂シートと冷却ロールとを密着させる方法である。静電印加は、2kV~10kVの電圧を印加する条件で行うことが好ましく、3kV以上、15kV以下の電圧を印加する条件で行うことがより好ましい。
【0060】
静電印加法は、電極による静電付加方法によるものが好ましく、これらを複数併用してもよい。電極としては、特に限定されないが、例えば、ワイヤー状電極、バンド状電極、又は針状電極を用いることができ、これらの電極を併用してもよい。
【0061】
上記ワイヤー状電極の直径は、0.01mm以上、1.0mm以下であることが好ましく、0.03mm以上、0.5mm以下であることがより好ましく、0.03mm以上、0.1mm以下であることが特に好ましい。共振や機械振動による電極ブレを防止するためにワイヤー状電極に張力をかけているが、ワイヤー状電極の直径が0.01mmよりも小さいとその張力に耐えられずワイヤーが切れてしまうおそれがある。また、直径が1.0mmより大きいと、溶融樹脂シートを冷却ロールに効率よく均一に密着させるために、過大な電圧電流が必要となり、異常放電が発生しやすくなる。
【0062】
上記ワイヤー状電極の材質を例示すると、タングステン、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、チタン、タンタル、アルミニウム、銅、ステンレス鋼等が挙げられ、これらの合金を用いてもよい。また、耐腐食性や耐酸性を向上させるために、上記ワイヤー状電極の表面に金、白金等でメッキ処理を施してもよい。
【0063】
本発明に用いる電源として、1kV以上、20kV以下の直流電圧を発生できる電源トランスが用いられる。
【0064】
本発明の溶融樹脂の静電印加法による冷却ロールへの密着固化において、溶融樹脂シートの温度が250℃未満であると、溶融状態の樹脂シートの溶融比抵抗値が高くなり、静電印加法による冷却ロールへの密着固化が不安定となり、外観や厚み並びに、厚み方向、縦方向又は幅方向の特性が安定した未延伸PEFシートを得ることが出来ない。そのため、連続して引続き行われる二軸延伸が安定的に行えないという問題がある。
【0065】
PEF樹脂では、樹脂の温度が高くなるにつれて、溶融比抵抗値は低くなる。静電印加法により冷却ロールへ安定的に密着させるようにするためには、溶融樹脂の温度を250℃以上にすることが好ましく、260℃以上であることがより好ましく、270℃以上であることがさらに好ましい。また、溶融樹脂の温度は310℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましい。なお、PEF樹脂を用いた場合、樹脂の固有粘度が低くなるにつれて、溶融比抵抗値は低くなるが、二軸配向ポリエステルフィルムが作製できればよく、樹脂の固有粘度は0.50dl/g以上であれば特に限定されない。
【0066】
表層(a層)と中間層(b層)とを共押出し積層する場合は、2台以上の押出し機を用いて、各層の原料を250℃以上の温度に加熱溶融して、押出し、多層フィードブロック(例えば角型合流部を有する合流ブロック)を用いて両層を合流させ、スリット状のTダイからシート状に押出し、静電印加法にて冷却ロール上で冷却固化せしめて積層ポリエステルシートを作る。あるいは多層フィードブロックを用いる代わりにマルチマニホールドダイを用いてもよい。
【0067】
[(C)上記未延伸シートを二軸延伸する工程]
次に、前記の方法で得られたポリエステルシートを二軸延伸し、次いで熱固定処理を行う。未延伸シートを得る上記工程と上記未延伸シートを二軸延伸する上記工程とを連続的に行うことが好ましい。「連続的に」とは、未延伸シートを巻き取らずに、引き続き二軸延伸工程を行うことを意味する。
【0068】
例えば、フランジカルボン酸ユニットを有する二軸配向ポリエステルフィルムを製造する場合、MD方向またはTD方向に一軸延伸を行い、次いで直交方向に延伸する逐次二軸延伸方法、MD方向及びTD方向に同時に延伸する同時二軸延伸方法、さらに同時二軸延伸する際の駆動方法としてリニアモーターを用いる方法を採用することができる。逐次二軸延伸方法の場合、MD延伸は加熱ロールを用いて速度差をつけることでMD方向に延伸することが可能となる。加熱に赤外線ヒーターなどを併用することも可能である。引き続き行うTD延伸は、MD延伸したシートをテンターに導き、両端をクリップで把持し、加熱しながらTD方向に延伸することで可能となる。TD延伸後のフィルムは、テンター内で引き続き熱固定処理を行う。熱固定処理は、TD延伸で引っ張ったまま行うことも可能であるが、TD方向に緩和させながら処理することも可能である。熱固定処理後のフィルムは、両端を切り落としてワインダーで巻き上げることも可能である。
【0069】
高い機械特性を達成するためには、以下のような延伸・緩和方法(1)~(7)を行なって本発明のポリエステルフィルムを作製することが好ましい。
【0070】
(1)フィルムのMD方向の延伸倍率の制御
本発明のポリエステルフィルムを得るためには1.1~10.0倍の範囲でMD方向に延伸を行うことが必要である。MD方向に1.1倍以上縦延伸することで、面配向係数ΔPが0.005以上のフィルムを作製することができる。好ましくは、MD方向の延伸倍率が2.5倍以上、より好ましくは3.5倍以上、さらに好ましくは4倍以上、特に好ましくは4.5倍以上である。MD方向の延伸倍率を2.5倍以上とすることで、ΔPが0.02以上、さらにはMDおよびTD方向の屈折率nx、nyが1.5700以上となり、フィルム破断強度が100MPa以上かつフィルム破断伸度が15%以上の力学的特性に優れたフィルムとすることができる。MD方向の延伸倍率が10.0倍以下であると破断の頻度が少なくなり好ましい。
【0071】
(2)フィルムのMD方向の延伸温度の制御
本発明のポリエステルフィルムを得るためには90℃以上150℃以下の範囲でMD方向に延伸を行うことが望ましい。さらに好ましくは100℃以上125℃以下である。MD方向の延伸温度が90℃以上では破断の頻度が少なくなり好ましい。150℃以下であると均一に延伸ができるため好ましい。
【0072】
(3)フィルムのTD方向の延伸倍率の制御
本発明のポリエステルフィルムを得るためには1.1~10.0倍の範囲でTD方向に延伸を行うことが望ましい。TD方向に1.1倍以上延伸することで、面配向係数ΔPが0.005以上のフィルムを作製することができる。好ましくは、TD方向の延伸倍率が3.0倍以上、より好ましくは3.5倍以上、さらに好ましくは4倍以上、特に好ましくは4.5倍以上である。3.0倍以上とすることで、ΔPが0.02以上、さらにはMD方向及びTD方向の屈折率nx、nyが1.5700以上となり、フィルム破断強度が75MPa以上かつフィルム破断伸度が15%以上の力学的特性に優れたフィルムとすることができる。TD方向の延伸倍率が10.0倍以下であると破断の頻度が少なくなり好ましい。
【0073】
(4)TD方向の延伸温度の制御
本発明のポリエステルフィルムを得るためには80℃以上200℃以下の範囲でTD方向に延伸を行うことが望ましい。さらに好ましくは95℃以上135℃以下である。TD方向の延伸温度が80℃以上では破断の頻度が少なくなり好ましい。200℃以下であると均一に延伸ができるため好ましい。
【0074】
(5)フィルムの熱固定温度の制御
本発明のポリエステルフィルムを得るためには110℃以上、220℃以下の範囲で熱固定処理を行うことが望ましい。熱固定処理の温度が220℃以下(好ましくは210℃以下)であるとフィルムが不透明になり難く、溶融破断の頻度が少なくなり好ましい。熱固定温度を高くすると加熱収縮率が低減するため好ましく、120℃以上がより好ましく、140℃以上がさらに好ましく、160℃以上がまたさらに好ましく、175℃以上が特に好ましい。熱固定処理により面配向係数ΔPが大きくなる傾向にある。
【0075】
(6)TD方向の緩和温度の制御
本発明のポリエステルフィルムを得るためには100℃以上200℃以下の範囲でTD方向に緩和処理を行うことが望ましい。好ましくは165℃以上195℃以下である。これにより、加熱収縮率を低減できるため望ましい。
【0076】
(7)TD方向の緩和率の制御
本発明のポリエステルフィルムを得るためにはTD方向の緩和率を0.5%以上10%以下の範囲で行うことが望ましい。好ましくは2%以上6%以下である。これにより、加熱収縮率を低減できるため望ましい。
【0077】
本発明のポリエステルフィルムは、未延伸フィルムを機械方向及びその直角方向に延伸して延伸フィルムとする延伸工程と、上記延伸フィルムを緩和する緩和工程とを備えることが好ましいが、上記具体的に開示された方法に限定されるものはない。本発明のポリエステルフィルムを製造する上で重要なのは、上記技術思想に基づき、上述の製造条件について極めて狭い範囲で高精度の制御をすることである。
【0078】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルムの破断強度、破断伸度と熱収縮率は、前述した延伸と熱固定処理の条件を独立に、かつ組み合わせて制御することが可能である。それらは任意に選べるが、好ましい条件としては上記(1)~(7)の好ましい条件を組み合わせることで、面配向係数(ΔP)が0.140以上、熱収縮率が8%以下(好ましくは4.5%以下)、フィルム破断強度が150MPa以上(好ましくは250MPa以上)、破断伸度が40%以上のフィルムとすることが可能となる。
MD方向の延伸倍率及びTD方向の延伸倍率を高くし、より高い温度で熱固定処理を行うことが、熱収縮率が8%以下であり破断強度が150MPa以上であるフィルムを得るために有効である。具体的には、MD方向の延伸倍率を4倍以上(好ましくは4.5倍以上)、TD方向の延伸倍率を4.0倍以上(好ましくは4.5倍以上)にし、熱固定工程の温度を165℃以上とすることにより、熱収縮率が8%以下であり破断強度が150MPa以上であるフィルムを得るために有効である。
【0079】
フィルムの延伸工程中または延伸終了後に、コロナ処理やプラズマ処理を行うことも可能である。また、樹脂や架橋剤、粒子などを適宜混合し、溶剤で溶かした液または分散液をコーティングすることで、滑り性、アンチブロッキング性、帯電防止性、易接着性などを付与することも可能である。また、本発明のフィルム中に各種安定剤、顔料、UV吸収剤など入れてもよい。
【0080】
また、延伸、熱固定処理が終了したフィルムを表面処理することで、機能を向上させることができる。例えば印刷やコーティング、金属蒸着、金属酸化物蒸着、スパッタリング処理などがあげられる。
【0081】
また、延伸、熱固定処理が終了したフィルムや表面処理されたフィルムを紙と貼り合わせることで、包装体、ラベル、意匠シートなどに用いることができる。
【0082】
本願は、2017年3月1日に出願されたPCT/JP2017/008200に基づく優先権の利益を主張するものである。2017年3月1日に出願されたPCT/JP2017/008200の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例
【0083】
次に、本発明の効果を実施例および比較例を用いて説明する。まず、本発明で使用した特性値の評価方法を下記に示す。
【0084】
(1)破断強度、破断伸度
フィルムのMD方向及びTD方向に対して、それぞれ長さ140mm及び幅10mmの短冊状に試料を片刃カミソリで切り出した。次いで、オートグラフAG-IS(株式会社島津製作所製)を用いて短冊状試料を引っ張り、得られた荷重-歪曲線から各方向の破断強度(MPa)および破断伸度(%)を求めた。
【0085】
なお、測定は25℃の雰囲気下で、チャック間距離40mm、クロスヘッドスピード100mm/min、ロードセル1kNの条件にて行った。なお、この測定は5回行い平均値を用いた。
【0086】
(2)面配向係数(ΔP)
以下の方法により、面配向係数(ΔP)を算出した。
JIS K 7142-1996 5.1(A法)により、ナトリウムD線を光源としてアッベ屈折計によりフィルム面内のMD方向の屈折率(nx)、およびその直角方向の屈折率(ny)、厚み方向の屈折率(nz)を測定し、下記式によって面配向係数(ΔP)を算出した。
ΔP={(nx+ny)-2nz}÷2
【0087】
(3)全光線透過率、ヘーズ
JIS K 7136-2000「プラスチック 透明材料のヘーズの求め方」に準拠して測定した。測定器には、日本電色工業社製NDH-5000型濁度計を用いた。
【0088】
(4)熱収縮率(MD方向及びTD方向の熱収縮率)
測定すべき方向に対し、フィルムを幅10mm、長さ250mmに切り取り、150mm間隔で印を付け、5gfの一定張力下で印の間隔(A)を測定した。次いで、フィルムを150℃の雰囲気中のオーブンに入れ、無荷重下で150±3℃で30分間加熱固定処理した後、5gfの一定張力下で印の間隔(B)を測定した。以下の式より熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=(A-B)/A×100
【0089】
(5)酸素透過率
酸素透過度は、JIS K 7126-2A法に準じて、酸素透過度測定装置(MOCON社製OX-TRAN2/21)を用いて、温度23℃、湿度65%の条件にて測定を行った。
【0090】
(6)水蒸気透過率 水蒸気透過量は、JIS K 7129B法に準じて、水蒸気透過度測定装置(MOCON社製PERMATRAN-W(登録商標)3/33)を用いて、温度37.8℃、湿度90%の条件にて測定を行った。
【0091】
(7)固有粘度(IV)
ポリエステル樹脂を粉砕して乾燥した後、パラクロロフェノール/テトラクロロエタン=75/25(重量比)の混合溶媒に溶解した。ウベローデ粘度計を用いて、30℃で0.4g/dlの濃度の溶液の流下時間及び溶媒のみの流下時間を測定し、それらの時間比率から、Hugginsの式を用い、Hugginsの定数が0.38であると仮定してポリエステル樹脂の固有粘度を算出した。また、溶融樹脂シート及びポリエステルフィルムについても同様に固有粘度を算出した。
【0092】
(8)フィルム厚み
Mahr社製Millitron 1254を用い、測定すべきフィルムの幅をWとしたときに、TD方向の中心線から0.3Wまでの範囲内における任意の4箇所より5cm角サンプル4枚を切り取り、一枚あたり各5点(計20点)測定して平均値を厚みとした。
【0093】
(9)包装袋の酸素透過性試験
i)包装袋の作製
実施例で作製した積層ポリエステルフィルム又は比較例で作製したポリエステルフィルムにポリエステル系接着剤を塗布後、厚み40μmの線状低密度ポリエチレンフィルム(LLDPEフィルム:東洋紡社製L4102)をドライラミネートし、40℃の環境下で3日間エージングを行いラミネートフィルムとした。このラミネートフィルムの三方をシールし、内寸が横70mm×縦105mmである包装袋を作製した。
ii)呈色液の作製
水2Lと粉寒天6.6gをガラス容器に入れ95℃の湯中に容器を浸し1時間以上温め寒天を完全に溶解させる。50メッシュの金網を用いて溶液をろ過しゲル化した異物を取り除いた。溶液にメチレンブルー0.04gを加える。事前に窒素を15分以上流通させたグローブボックス内で溶液にハイドロサルファイトナトリウム1.25gを加え均一に混ぜることで呈色液(未呈色)を得た。
iii)呈色液の充填
事前に窒素を15分以上流通させたグローブボックス内で三方シール袋に約30mLの呈色液を入れ、窒素を充填した後にシーラーで袋を閉じ、呈色液が充填された包装袋(メチレンブルー呈色液入り包装袋)を得た。
iv)酸素透過性試験
寒天を室温で固めた後、メチレンブルー呈色液入り包装袋を40℃90%RHの恒温室に移し72時間後の色変化を観察した。色変化について下記の基準で判定し、「A」を合格とした。
A:色の変化がほとんどなかった
B:色の変化はあるが小さかった
【0094】
(10)フィルムの耐熱性試験
縦100mm×横100mmにカットしたフィルムサンプルを準備する。フィルムサンプルを130℃に加熱したオーブン内に5分入れ、外観の変化を観察する。外観変化について下記の基準で判定し、「A」、「B」、及び「C」を合格とした。耐熱性試験後の実施例1、4、6、及び参考例1、2における耐熱性試験後のフィルムの写真を図1に示した。
A: 外観の変化がほとんどなかった
B: 概ね上記「A」のレベルであるが、フィルム端部にのみ変形が見られた C: 外観の変化が少しあった
D: 外観の変化が大きかった
【0095】
(11)溶融比抵抗値
溶融樹脂シートの溶融比抵抗値を以下の方法で測定した。所定の温度で溶融したサンプル(原料ペレット(ポリエステル樹脂)、溶融樹脂シート、ポリエステルフィルム)中に一対の電極板を挿入し、120Vの電圧を印加した。その際の電流を測定し、下式に基づいて溶融比抵抗値Si(Ω・cm)を算出した。
Si=(A/I)×(V/io)
(A:電極の面積(cm)、I:電極間距離(cm)、V:電圧(V)、io:電流(A))
【0096】
(12)キャスト工程の安定性
溶融樹脂シートの静電印加法による冷却ロールへの密着が安定しているか否かについて以下の方法で判定した。
溶融樹脂シートを静電印加法で冷却ロール上に密着させる際、密着点や樹脂膜端部の揺れ(サージング)のキャスト工程の安定性について、下記の「A」、「B」、「C」の基準で判定し、「A」を合格とした。
A:密着点が安定し、樹脂膜端部の揺れが観察されず、得られた未延伸シートの外観が良好である
B:密着点は安定しているが、樹脂膜端部の揺れが5mm以上ある
C:密着点が不安定で、樹脂膜端部の揺れが5mm以上ある
密着点とは、Tダイから押出された溶融樹脂膜が冷却ロールに接触する点のことである。安定しているとは、密着点の揺れが2mm以内であることである。樹脂膜端部の揺れとは、Tダイから押出された溶融樹脂膜の端部の幅方向の変動のことである
【0097】
(13)溶融樹脂シートの温度
溶融樹脂シート(Tダイ出口から押出された溶融樹脂)に、デジタル温度計の半固形・液体用センサーを突き刺して溶融樹脂シートの温度を測定した。
【0098】
(実施例1)
原料として、固有粘度が0.90dL/g、融点が215℃であり、275℃に加熱溶融したときの溶融比抵抗値が1.1×107Ω・cmである、Avantium社製ポリエチレン-2,5-フランジカルボキシレートを用いた。100℃で24時間減圧乾燥(1Torr)し、水分率を100ppm以下にした後、二軸押出機(スクリュー径30mm、L/D=25)に供給した。二軸押出機に供給された原料を、押出機の溶融部から、混練り部、ポリマー配管(溶融した原料用のチューブ)、ギアポンプまでの樹脂温度は270℃、その後のポリマー配管(溶融した原料用のチューブ)では275℃とし、Tダイ(口金)よりシート状に溶融押し出した。押出した溶融樹脂シートの温度は275℃であった。
【0099】
そして、押し出した樹脂を、表面温度20℃の冷却ドラム上にキャスティングして静電印加法を用いて冷却ドラム表面に密着させて冷却固化し、厚さ250μmの未延伸フィルムを作成した。静電印加法とは、溶融状態の樹脂シートが冷却ロール(金属ロール回転体、キャスティングロール)に接触する付近で、樹脂シートの冷却ロールに接触した面の反対の面の近傍に設置した電極に電圧を印加することによって、樹脂シートを帯電させ、樹脂シートと冷却ロールを密着させる方法である。静電印加は、春日電機株式会社製KHD-15K01PNを用いて、0.05mmφのタングステンワイヤー電極に5kVの電圧を印加する条件で行った。溶融樹脂シートを静電印加法で冷却ロール上に密着させる際、密着点が安定し、樹脂膜端部の揺れが観察されず、得られた未延伸シートの外観が良好であった。
【0100】
得られた未延伸シートを、120℃に加熱されたロール群でフィルム温度を昇温した後周速差のあるロール群で、MD方向に5.0倍に延伸して、一軸延伸フィルムを得た。
【0101】
次いで、得られた一軸延伸フィルムをテンターに導きクリップで把持し、横延伸を行った。搬送速度は5m/minとした。TD延伸温度は105℃、TD延伸倍率は5.0倍とした。次いで、200℃で12秒間の熱固定処理を行い、190℃で5%の緩和処理を行い、フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0102】
(実施例2)
未延伸フィルムの厚みを300μmとする以外は、実施例1に記載と同様の方法にてフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0103】
(実施例3~6)
製膜条件を表1のように変更する以外は実施例1に記載と同様の方法にてフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0104】
(実施例7)
使用する原料を固有粘度が0.80dL/g、融点が215℃であるAvantium社製ポリエチレン-2,5-フランジカルボキシレートと固有粘度が0.70dL/g、融点が215℃であるAvantium社製ポリエチレン-2,5-フランジカルボキシレートとを50:50の比率でドライブレンドして固有粘度が0.75dL/g、融点が215℃の樹脂とし、製膜条件を表1のように変更する以外は実施例1に記載と同様の方法にてフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0105】
(実施例8)
製膜条件を表1のように変更する以外は実施例1に記載と同様の方法にてフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0106】
(比較例1)
(1)PET樹脂(A)の製造
エステル化反応缶を昇温し、200℃に到達した時点で、テレフタル酸を86.4質量部及びエチレングリコールを64.4質量部からなるスラリーを仕込み、攪拌しながら触媒として三酸化アンチモンを0.017質量部及びトリエチルアミンを0.16質量部添加した。次いで、加圧昇温を行いゲージ圧3.5kgf/cm、240℃の条件で、加圧エステル化反応を行った。その後、エステル化反応缶内を常圧に戻し、酢酸マグネシウム4水和物0.071質量部、次いでリン酸トリメチル0.014質量部を添加した。さらに、15分かけて260℃に昇温し、リン酸トリメチル0.012質量部、次いで酢酸ナトリウム0.0036質量部を添加した。15分後、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、減圧下260℃から280℃へ徐々に昇温し、285℃で重縮合反応を行った。
【0107】
重縮合反応終了後、95%カット径が5μmのナイロンフィルターで濾過処理を行い、ノズルからストランド状に押出し、予め濾過処理(孔径:1μm以下)を行った冷却水を用いて冷却、固化させ、ペレット状にカットした。得られたPET樹脂(A)は、融点が257℃、固有粘度が0.62dL/gであり、不活性粒子及び内部析出粒子は実質上含有していなかった。
【0108】
(2)PET樹脂(B)の製造
添加剤としてシリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製、サイリシア310、平均粒径2.7μm)を2000ppm含有したポリエチレンテレフタレートをPET(A)樹脂と同様の製法で作成した。
【0109】
(3)二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの製造
表層(a)の原料として、PET樹脂(A)70質量部と、PET樹脂(B)30質量部とをペレット混合し、135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機1に供給した。また、中間層(b)層の原料としてPET樹脂(A)82質量部と、PET樹脂(B)18質量部とをペレット混合し、135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2に供給した。押出機2、及び押出機1に供給された各原料を、押出機の溶融部から、混練り部、ポリマー配管、ギアポンプ、フィルターまでの樹脂温度は280℃、その後のポリマー配管では275℃とし、3層合流ブロックを用いてa/b/aとなるように積層し、口金よりシート状に溶融押し出した。なお、a層とb層との厚み比率は、a/b/a=8/84/8となるように、各層のギアポンプを用いて制御した。また、前記のフィルターには、いずれもステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度:10μm粒子を95%カット)を用いた。また、口金の温度は、押出された樹脂温度が275℃になるように制御した。
【0110】
そして、押し出した樹脂を、表面温度30℃の冷却ドラム上にキャスティングして静電印加法を用いて冷却ドラム表面に密着させて冷却固化し、厚さ170μmの未延伸フィルムを作成した。静電印加は、春日電機株式会社製KHD-15K01PNを用いて、0.05mmφのタングステンワイヤー電極に5kVの電圧を印加する条件で行った。溶融樹脂シートを静電印加法で冷却ロール上に密着させる際、密着点が安定し、樹脂膜端部の揺れが観察されず、得られた未延伸シートの外観が良好であった。
【0111】
得られた未延伸シートを、78℃に加熱されたロール群でフィルム温度を100℃に昇温した後、周速差のあるロール群で、MD方向に3.5倍に延伸した。
【0112】
次いで、得られた一軸延伸フィルムをクリップで把持し、TD方向に延伸を行った。TD方向の延伸温度は120℃、延伸倍率は4.0倍とした。次いで、240℃で15秒間の熱固定処理を行い、185℃で4%の緩和処理を行い、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0113】
(比較例2)
原料として、固有粘度が0.90dL/gであるAvantium社製ポリエチレン-2,5-フランジカルボキシレートを用いた。100℃で24時間減圧乾燥(1Torr)し、水分率を100ppm以下にした後、二軸押出機(スクリュー径30mm、L/D=25)に供給した。二軸押出機に供給された原料を、押出機の溶融部から、混練り部、ポリマー配管(溶融した原料用のチューブ)、ギアポンプまでの樹脂温度は240℃、その後のポリマー配管(溶融した原料用のチューブ)では240℃とし、Tダイ(口金)よりシート状に溶融押し出した。押出した溶融樹脂シートの温度は240℃であった。
【0114】
そして、押し出した樹脂を、表面温度20℃の冷却ドラム上にキャスティングして静電印加法を用いて冷却ドラム表面に密着させて冷却固化しようとしたが、溶融膜端部が乱れ安定したキャストが出来ず、その外観も悪かった。そのため、続く延伸工程での延伸が出来ず、二軸延伸フィルムを得ることが出来なかった。
【0115】
(比較例3)
原料として、固有粘度が0.90dL/gであるAvantium社製ポリエチレン-2,5-フランジカルボキシレートを用いた。100℃で24時間減圧乾燥(1Torr)し、水分率を100ppm以下にした後、二軸押出機(スクリュー径30mm、L/D=25)に供給した。二軸押出機に供給された原料を、押出機の溶融部から、混練り部、ポリマー配管(溶融した原料用のチューブ)、ギアポンプまでの樹脂温度は320℃、その後のポリマー配管(溶融した原料用のチューブ)では320℃とし、Tダイ(口金)よりシート状に溶融押し出した。押出した溶融樹脂シートの温度は320℃であった。
【0116】
そして、押し出した樹脂を、表面温度20℃の冷却ドラム上にキャスティングして静電印加法を用いて冷却ドラム表面に密着させて冷却固化しようとしたが、密着点および、溶融膜端部が乱れ安定したキャストが出来ず、その外観も悪かった。そのため、続く延伸工程での延伸が出来ず、二軸延伸フィルムを得ることが出来なかった。
【0117】
(参考例1)
実施例1で得られた厚さ250μmの未延伸フィルムを参考例1とした。
【0118】
(参考例2)
実施例1で得られた未延伸シートを、100℃に加熱されたロール群でフィルム温度を昇温した後周速差のあるロール群で、MD方向に5.0倍に延伸し、一軸延伸フィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0119】
(参考例3)
熱固定温度を150℃に変更した以外は、実施例7に記載と同様の方法にて製膜を実施した。その結果、熱固定の工程で破断し、二軸延伸フィルムを得ることが出来なかった。
【0120】
(参考例4)
熱固定温度を150℃に変更した以外は、実施例8に記載と同様の方法にて製膜を実施した。その結果、熱固定の工程で破断し、二軸延伸フィルムを得ることが出来なかった。
【0121】
【表1】
【0122】
実施例1で用いたポリエチレン-2,5-フランジカルボキシレート(固有粘度が0.90dL/g)、実施例7で用いたポリエチレン-2,5-フランジカルボキシレート(固有粘度が0.75dL/g)、固有粘度が0.62dL/gであるポリエチレン-2,5-フランジカルボキシレート、比較例1で用いたPET樹脂(A)(固有粘度が0.62dL/g)の4つの樹脂について、240℃、250℃、260℃、270℃、275℃、280℃、320℃の各温度の溶融比抵抗値を測定した。測定結果を表2に示す。なお、240℃、250℃、260℃ではPET樹脂(A)の溶融比抵抗値は測定できなかった。
【0123】
【表2】
図1