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▶ エコール ポリテクニーク フェデラル ドゥ ローザンヌ (ウ・ペ・エフ・エル)の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】埋込型電極及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/05 20060101AFI20220216BHJP
【FI】
A61N1/05
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019531306
(86)(22)【出願日】2016-12-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 EP2016079942
(87)【国際公開番号】W WO2018103828
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2019-11-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519205350
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク フェデラル ドゥ ローザンヌ (ウ・ペ・エフ・エル)
【氏名又は名称原語表記】ECOLE POLYTECHNIQUE FEDERALE DE LAUSANNE (EPFL)
【住所又は居所原語表記】EPFL Innovation Park J, 1015 LAUSANNE Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ゲッズィ、ディエゴ
(72)【発明者】
【氏名】アイラギ レッカルディ、マルタ
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-347734(JP,A)
【文献】特開平10-126058(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0345780(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0277317(US,A1)
【文献】特開2012-183384(JP,A)
【文献】特表2012-508635(JP,A)
【文献】特表2013-508016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/04 - 1/06
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を製造する方法(100)であって、
導電性トレース(16、16’、16”)を形成するため、基板(1、2)上に導電性材料からなる導電層(4、4’、4”)を設ける工程(101)と、
前記基板(1、2)上に設けられた前記導電層(4、4’、4”)である前記導電性トレース(16、16’、16”)を覆うため、前記導電層(4、4’、4”)上に絶縁材料からなる絶縁層(6)を直接設ける工程(102)と、
前記導電層(4、4’、4”)上に少なくとも1つの接触域(8、8’、8”)を形成するため、前記導電層(4、4’、4”)を部分的に露出させることにより、前記絶縁層(6)をパターニングする工程(103)であって、前記絶縁層(6)をパターニングするためのマスク(7)により、前記少なくとも1つの接触域(8、8’、8”)における前記絶縁材料(6)が前記少なくとも1つの接触域(8、8’、8”)の中央部内のピラーとして残存する領域(9、9’、9”)が画定される工程と、
前記接触域(8a、8a’、8a”)が隆起するよう、前記領域(9、9’、9”)に残存する前記絶縁材料を被覆するため、前記少なくとも1つの接触域(8、8’、8”)において前記絶縁層(6)上に上層導電層(13)を部分的に直接設ける工程(104)と、
を備える方法。
【請求項2】
前記絶縁層(6)をパターニングする工程(103)は、前記マスク(7)によって前記領域(9、9’、9”)が画定された後に、
前記少なくとも1つの接触域(8、8’、8”)に残存する前記絶縁材料をフォトレジスト材料(5)で被覆することと、
前記フォトレジスト材料(5)で被覆されない前記絶縁層(6)の領域の厚さ(d1)を減少させることと、
を含む請求項1に記載の方法(100)。
【請求項3】
前記上層導電層(13)を部分的に設ける工程(104)は、ステンシルマスク(11)の各開口部(12、12’、12”)を通して行われる請求項1又は2に記載の方法(100)。
【請求項4】
前記絶縁層(6)を直接設ける工程(102)において、
前記絶縁層(6)上に第2の導電層(4、4’、4”)を直接設け、
前記第2の導電層(4、4’、4”)上に第2の絶縁層(6)を直接設ける請求項1~3のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項5】
前記絶縁層をパターニングする工程(103)の前に、前記第2の導電層(4、4’、4”)を設けることと、前記第2の絶縁層(6)を設けることとが、少なくとも1回行われる請求項4に記載の方法(100)。
【請求項6】
前記絶縁層(6)をパターニングする工程(103)は、各導電層(4、4’、4”)上にそれぞれ少なくとも1つの接触域(8、8’、8”)が得られるように、各導電層(4、4’、4”)を部分的に露出させ、全ての絶縁層(6)を一度にパターニングすることを含み、
前記全ての絶縁層(6)をパターニングするための前記マスクにより、各導電層(4、4’、4”)の前記少なくとも1つの接触域(8、8’、8”)における、前記絶縁材料が残存する領域(9、9’、9”)が画定される請求項4又は5に記載の方法(100)。
【請求項7】
前記上層導電層(13)を部分的に設ける工程(100)は、各接触域(8a、8a’、8a”)が隆起するよう、前記領域(9、9’、9”)に残存する全ての絶縁材料を被覆するため、各接触域(8、8’、8”)において前記上層導電層(13)を設けることを含む請求項6に記載の方法(100)。
【請求項8】
前記導電層(4、4’、4”)を設ける工程(101)の前に、前記基板(1、2)上に下層絶縁層(3)を直接設ける請求項1~7のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項9】
前記導電層(4、4’、4”)を設ける工程(101)は、パターン形成を含む請求項1~のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項10】
電極であって、
電気信号を伝達する少なくとも1つの導電性トレース(16、16’、16”)を含む少なくとも1つの導電層(4、4’、4”)であって、絶縁材料で封止された少なくとも1つの導電層(4、4’、4”)と、
前記電気信号を神経組織に及び/又は神経組織から伝えるための少なくとも1つの接触域(8、8’、8”)であって、前記電極の主表面(14)まで隆起するように導電性材料によって被覆された絶縁材料の領域(9、9’、9”)として前記少なくとも1つの接触域(8、8’、8”)の中央部内の絶縁材料のピラーを含む少なくとも1つの接触域(8a、8a’、8a”)と、
前記電気信号を外部処理ユニットに及び/又は外部処理ユニットから伝えるための少なくとも1つの接続域(10、10’、10”)と、
を備える電極。
【請求項11】
前記少なくとも1つの導電層(4、4’、4”)は、前記絶縁材料からなる2つの層の間に封止された請求項10に記載の電極。
【請求項12】
隆起した前記少なくとも1つの接触域(8a、8a’、8a”)は、前記電極の前記主表面(14)から距離(d3)だけ突出した請求項10又は11に記載の電極。
【請求項13】
前記電極は、少なくとも2つの導電性トレース(16、16’、16”)を2つの異なる導電層(4、4’、4”)上に含み、
前記異なる導電層(4、4’、4”)は、前記絶縁材料からなる絶縁層(6)によりそれぞれ分離された請求項1012のいずれか一項に記載の電極。
【請求項14】
前記少なくとも1つの導電性トレース(16、16’、16”)は、白金、金、チタン、又は白金イリジウム合金からなり、
前記絶縁材料は、ポリイミド、ポリジメチルシロキサン、パリレン、又は液晶ポリマーである請求項1012のいずれか一項に記載の電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、好ましくは埋込型電極アレイの製造方法に関し、電極、好ましくはマルチ電極アレイ(MEA)としても知られる電極アレイ、より好ましくは埋込型電極アレイに更に関する。本発明の電極は「インプラント」又は「プローブ」とも称され、例えば、神経組織などの興奮性組織からの電気信号を測定及び/又は記録するために使用される。埋込型電極は、例えば、電気信号を用いて神経組織などの興奮性組織を刺激するためにも使用することができる。本発明の電極は、in vitro用途及びin vivo用途の両方に使用可能であり、生体適合性である必要がある。
【背景技術】
【0002】
MEAは、電極、接触板、接触シャンク、又は刺激要素とも呼ばれる複数の接触域を備える装置である。各接触域を通して、組織から又は組織へ電気信号が送受信される。したがって、MEAは本質的に、ニューロンなどの興奮性細胞を電子処理回路に接続する神経界面などの組織界面として機能する。一般に、MEAには、in vivoで使用される埋込型電極(アレイ)とin vitroで使用される非埋込型電極(アレイ)の2つの主要な種類が存在する。以下、「埋込型電極」という用語は、in vitro用途及びin vivo用途の両方を指す。
【0003】
特に、ニューロンや筋肉細胞などの興奮性細胞は、励起時、その細胞膜を通してイオン電流を生成し、各細胞の内側と外側との間に電圧の変化を引き起こす。このような神経信号を記録する際、電極アレイ上の電極は、この電圧の変化を、イオンによって運ばれる環境(イオン電流)から電子によって運ばれる電流(電子電流)に変換して電極アレイの接触域から電気信号を得る。刺激時は、電極アレイの接触域が電子電流をイオン電流に変換し、刺激された(興奮性)細胞の膜上の電位依存性イオンチャネルに作用して、ニューロンや筋肉細胞の場合、細胞を脱分極させ、活動電位を誘発する。
【0004】
記録される電気信号の大きさや形状、刺激信号の効率は、いくつかの要因に左右される。これらの要因の1つは、細胞が置かれた媒体の性質、例えば、媒体の導電率、静電容量、及び均質性である。他の影響因子は、細胞と電極アレイの接触域との接触の性質、例えば接触域の大きさや細胞までの距離である。他の影響因子は電極自体の性質、例えば、その形状、インピーダンス、及びノイズである。他の影響因子は、後続の(又は生成用)信号処理ユニット、例えば、そのゲイン、帯域幅、遮断周波数、データサンプリング特性である。
【0005】
電極アレイの接触面積の増加を制限する主な要因は、MEAのサイズが小さく相互接続のためのスペースが限られることである。これらの相互接続はアレイの電極自体が利用可能な面積を制限する。他方で、更なる信号処理又は信号生成のために接触域を後続の処理ユニットと接触させる場合、組織の切断を小さく留めるという生理学的必要性を満たす必要がある。
【0006】
Kisbanらによる「Microprobe Array with Low Impedance Electrodes and Highly Flexible Polyimide Cables for Acute Neural Recording」(第29回IEEE医用生体工学年次国際会議、2007年、175~178頁)、Shahらによる「Improved chronic neural stimulation using high surface area platinum electrodes」(第35回IEEE医用生体工学年次国際会議、2013年、1546~1549頁)では、電極アレイに接触域が直線状に分布した、ケイ素系(Kisbanら)又はポリイミド系(Shahら)マイクロプローブが紹介されている。この埋込型電極アレイは白金(Pt)又は白金黒(Pt黒)からなる。白金黒(Pt黒)は、白金電極のコーティング材として使用される優れた触媒特性を有する白金の微細粉末である。電極アレイは、イミドモノマーのポリマーであるポリイミド(PI)を更に含む。電極アレイは平面形状であるため、電極アレイ内の接触域の数は非常に限られる。
【0007】
A.Bendaliらによる「Synthetic 3D diamond-based electrodes for flexible retinal neuroprostheses: Model, production and in vivo biocompatibility」(Biomaterials 67巻、2015年10月、73~83頁)は、三次元構造を用いてより高い空間分解能を実証するために、遠方接地の平面型又は三次元インプラントのモデリングを開示している。この三次元形状は、インプラント基材のネガティブモールドにより得られるが、この種の方法による多層成形は不可能である。したがって、これも電極アレイ内の接触域の数が非常に限られる。
【0008】
電極アレイの密度を増加させるための有効な解決策は、異なる層上に配置された導電性トレースを有する電極アレイを製造することである。例えば2層システムでは、インプラントは、同じ幅の接続ケーブルに対して2倍量の接触域を有し得る。多層化により、下層の相互接続が他の相互接続の下、更には接触域の下を通過するように設計することが可能になる。密度が高いほど、より高い空間分解能が得られ、より効率的かつ標的を絞った刺激のため、また、より信頼性が高く正確な記録のため、より多数のチャネルを使用に可能となる。
【0009】
Z.Xiangらによる「A flexible three-dimensional electrode mesh: An enabling technology for wireless brain-computer interface prostheses」(Microsystems&Nanoengineering 2巻、2016年5月、16012頁)及びZ.Xiangらによる「Progress of Flexible Electronics in Neural Interfacing - A Self-Adaptive Non-Invasive Neural Ribbon Electrode for Small Nerves Recording」(Adv.Mater.28巻22号、2016年6月、4472~4479頁)には、標準プローブの微細加工の完了後に成膜及び被覆されたエポキシ系ネガ型フォトレジスト(SU8)により作成される電極が記載されている。3D電極アレイの製造にこのようなフォトレジストを使用することは、多層システムにおいて、特定の層それぞれに対して接触域を成膜しパターニングする必要があることを意味する。膜厚及び露光量は層の深さにより異なる。また、異なる深さへの成膜は不均質になり得るため、SU8は後で剥離する危険性が常にある。したがって、このようなMEAの製造は不正確で、コストがかかり、非常に高い材料努力を必要とする。
【0010】
また、A.Tookerらによる「Optimization of multi-layer metal neural probe design」(IEEE医用生体工学年次国際会議、2012年、5995~5998頁)には、多層金属及びマルチサイトのポリマー系MEAの微細加工プロセスが記載されている。
【0011】
既知の多層MEAは、導電性トレースを被覆しつつ組織に対する電気信号の送受信のために開口した導電層の絶縁封止を必要とするため、重大な欠点を有している。中間導電層が電極アレイの底部側に配置される場合、導電層における接触域の直径と上層の絶縁材料の封止厚さのアスペクト比はますます問題となる。また、組織の刺激/記録効率は、接触域と組織細胞との間の距離に大きく依存する。この距離は、封止・開口アスペクト比に大きく影響される。
【0012】
米国特許出願公開第2016/0120423号明細書において、層状構造は、導電性材料層と絶縁材料層を含む。追加層の形成時又は形成後、導電性材料層ごとにアクセス領域が作られる。これにより製造プロセスの複雑さが増す。MEAの主表面には接触域が設けられ、貫通孔(ビア)により各導電性材料層との接触が行われる。各接触域及び貫通孔は電気メッキ又はインクジェット印刷により形成される。
【0013】
多層構造を設ける全ての既知の技術は、貫通孔による異なる層を通った相互接続を含む。各貫通孔は、追加層ごとにエッチングされる。これらの貫通孔は電気メッキされることもある。これには多数の成膜材料と多数の製造工程が要される。更に、可撓性ポリイミドとの機械的整合性が低いことや、熱膨張が起こりやすいことが予想され、MEAの品質が著しく低下する。
【0014】
したがって、より高密度の接触域(ひいては、より高空間分解能)を有する、神経組織を記録、計測、及び/又は刺激するための(埋込型)電極(アレイ)をより効率的に製造する必要がある。特に、製造工程及び材料努力を劇的に減少しながら、接触域と組織細胞との間の距離を劇的に減少することが保証されるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本出願の目的は、特には、製造工程数を劇的に減らし、また、刺激及び記録のための神経組織と接触域との間の距離を減らすことによって、上記の問題を解消する電極、好ましくは電極アレイ、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の問題は、独立請求項の特徴によって解決される。更なる有利な実施形態は、それぞれの従属請求項から導き出される。
【0017】
本発明の一態様によると、電極、好ましくは埋込型電極アレイを製造する方法は、以下の工程を含む。第1の工程では、基板上に導電性材料からなる導電層を塗布して導電性トレースを形成する。第2の工程では、絶縁材料からなる絶縁層を導電層上に直接塗布して導電性トレースを覆う。第3の工程では、導電層を部分的に露出させて絶縁層をパターニングし、導電層上に少なくとも1つの接触域を形成する。絶縁層をパターニングするためのマスクにより、少なくとも1つの接触域において絶縁材料が残存する領域が画定される。第4の工程では、少なくとも1つの接触域における絶縁層上に上層導電層を部分的に直接塗布し、上記領域に残存する絶縁材料を被覆して接触域を隆起させる。
【0018】
電極は、好ましくは、マルチ電極アレイ(MEA)の一部である。この電極アレイは、導電層内の導電性トレースを介して送信される電気信号を用いて神経組織を記録、計測、及び/又は刺激するために使用される。神経組織や筋肉組織を刺激する場合は、この電気信号は処理ユニットから生成される。神経組織や筋肉組織を記録・計測する場合は、この電気信号は処理装置に提供される。このように、電極は、イオン電流と電子電流を変換するための手段である。
【0019】
導電性材料の塗布は、スパッタリング法、好ましくは物理気相成長法(PVD)、より好ましくはマグネトロンスパッタ堆積法、例えば、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)によって行うことができる。非常に高い融点を有する材料は抵抗蒸発器内で蒸発させると問題を生じる可能性があるが、スパッタリングの重要な利点は、これらの材料を容易にスパッタリングできることである。スパッタ堆積層は、原料物質の組成に近い組成を有する。スパッタ層は、下層との優れた接着性を有し得る。その対象には多量の物質が含まれ、メンテナンスが不要であるため、この技術は超高真空用途に適している。スパッタ源は高温部品を含まず、ポリマー基材や酸素などの反応性ガスと適合性がある。蒸着はボトムアップで行われるが、スパッタリングはトップダウンで行うことができる。エピタキシャル成長などの高度処理が可能である。
【0020】
導電性材料は、好ましくは、白金、チタン(Ti)、金(Au)、白金-イリジウム(Ir)、又はそれらの合金である。より好ましくは、適切な効率、低劣化性、低腐食性、高機械的堅牢性などの生体適合性、及び/又は基板や封止材として使用されるポリマー材料との良好な接着性を得るため、導電性材料は、チタン、窒化チタン、酸化イリジウム、白金黒材料などで被覆される。導電性材料は、埋め込み時に必要とされる弾性、頑強性、及び剛性を電極に提供する。また、導電性材料は、大きな信号劣化なしに電気信号を伝達する優れた特性を提供する。
【0021】
基板は、製造時のキャリア材として使用することができる。基板上への導電層の配置は、導電層と基板との間に別の層が配置されてもよいことを意味する。
【0022】
絶縁層を塗布する工程は、絶縁材料の薄層を下層の平坦面に均一に積層するよう、スピンコーティング又は印刷によって行うことができる。通常、少量の材料を中心に塗布し、遠心力で絶縁材料を広げるために基板を高速で回転させる。絶縁材料は、好ましくはポリイミド(PI)である。あるいは、一般にシリコーンと呼ばれるケイ素系有機ポリマーであるポリジメチルシロキサン(PDMS)が絶縁材料として使用される。あるいは、様々な化学蒸着ポリパラキシリレンポリマーのパリレンが絶縁材料として使用される。あるいは、芳香族ポリマーの一種である液晶ポリマー(LCP)が絶縁材料として使用される。ポリイミド、パリレン、液晶ポリマー、及びポリジメチルシロキサンは非常に柔軟であるため、埋込型電極アレイに好適な材料である。
【0023】
絶縁層をパターニングする工程は、シリコン(Si)ハードマスクスパッタリング法によって行うことができる。したがって、絶縁層のパターニングは、Siドライエッチングプロセスと、それに続く、高い正確性を得られるPIドライエッチングプロセスによって行うことができる。下層の導電層は、エッチストップ層として働き、これにより製造工程が劇的に減少される。
【0024】
以後、「パターニング」という用語は、フォトリソグラフィ法で既存の層を構造化するプロセスを指す。フォトリソグラフィは、基本的に、フォトレジストと呼ばれる感光性ポリマーを露光及び現像して平坦な層上に三次元レリーフ像を形成する現像法である。一般に、理想的なフォトレジスト像は、レジスト厚さを貫通する垂直壁を伴う、基板の平面内に設計又は意図されたパターンの正確な形状を有する。従って、最終的なレジストパターンは二元的であり、基板の一部はレジストで被覆され、他の部分は完全に被覆されない。レジストで被覆された基板の部分はエッチング、イオン注入、又は他のパターン転写機構から保護されるため、この二値パターンはパターン転写に必要である。典型的なフォトリソグラフィプロセスは、一般に、基板準備、フォトレジストスピンコート、プリベーク(ソフトベーク)、露光、ポストエクスポージャーベーク、現像、ポストベーク(ハードベーク)の順で行われる。レジストストリップ(除去)は、レジストパターンが下層に転写された後に実施されるリソグラフィプロセスの最後の操作である。一般に、この一連の工程は複数のツールが関連付けられた連続ユニットで実施される。
【0025】
導電層の部分的な露出は、特に、絶縁層を部分的に除去することで少なくとも1つの接触域で導電層を露出させることを要する。絶縁層をパターニングするためのマスクは、絶縁材料が接触域の所定の領域、好ましくは接触域の中央部に残存する(除去されない)ように定められる。好ましくは、絶縁層を部分的に除去した後、絶縁材料のピラー(柱)が各接触域の内側の所定の領域に残存する。
【0026】
各導電層は少なくとも1つの接触域を含む。好ましくは、各導電層内に複数の接触域を設け、電極アレイの密度、ひいては空間分解能を高めることができる。
【0027】
絶縁材料のピラーの上及び周囲に部分的に上層導電層を塗布することによって、導電層は、層自体の接触域から電極アレイの主表面まで、又は、主表面より上方に隆起する。このように、残存する絶縁材料は上層によって被覆される。電極アレイの主表面とは、神経組織に面する電極アレイの外面である。
【0028】
本発明の方法は、この層上の接触域が残存する絶縁材料の所定領域を有するため、導電性材料の材料努力を大幅に減少させることができる。残存する絶縁材料は導電性材料よりも安価な材料であるため、導電性材料の材料努力を減少し、製造コストを削減することができ、また、電極アレイの柔軟性を増大させことができる。
【0029】
接触域を隆起させることで、神経組織と電極(アレイ)との間の距離が最小限に抑えられ、電極の信号伝送効率が大幅に向上する。したがって、全ての接触域が電極の主表面(絶縁層)まで隆起するか、あるいは主表面から突出可能となるよう三次元形状に製造されたマルチ電極アレイが提供される。
【0030】
好ましい実施形態では、絶縁層をパターニングする工程は、少なくとも1つの接触域に残存する絶縁材料を、好ましくはフォトレジスト材料で被覆することと、フォトレジスト材料で被覆されない絶縁層の領域の厚さを減少させることを更に含む。これにより、電極の主表面、特に埋込型電極の絶縁材料より上方に隆起した接触域の突出部を定めることができる。隆起した接触域は絶縁材料より上方に配置され、突出部はそれぞれの厚さを減少することで調節可能である。これにより、突出した接触域を神経/筋肉組織に埋め込むことができ、組織における電極の信号伝送効率及び位置安定性が向上する。これはin vivo用途に極めて重要である。
【0031】
好ましい実施形態では、上層導電層を部分的に塗布する工程は、ステンシルマスクの各開口部を通して行われる。このステンシルマスクは、電極上の最終的な接触パッドを精密に定め、上層導電層を正確に配置するために使用される。
【0032】
好ましい実施形態では、絶縁層をパターニングする前に、絶縁層上に第2の導電層を直接塗布し、第2の導電層上に第2の絶縁層を直接塗布する。これにより、第2の導電性トレースの層を、第1の導電層とは異なる第2の層に形成することができる。このように、更なる導電層を追加することで、電極の多層構造を拡張することができる。これにより、電極アレイの総面積当たりの接触面積が増大し、及び/又は、高密度化が可能となり、電極アレイの空間分解能を向上することができる。
【0033】
好ましい実施形態では、絶縁層をパターニングする工程の前に、第2の導電層の塗布、及び、第2の絶縁層の塗布が、少なくとも1回、好ましくは2回繰り返して行われる。これにより、少なくとも3層、好ましくは4層の導電性トレースを電極アレイに形成することができる。導電性材料は、絶縁層のパターニング時にエッチストップ層として働くことができる。絶縁層は一度に全てパターニングされるので、製造工程数が減少するという利点がある。
【0034】
絶縁材料のパターニング工程は、全ての絶縁層及び全ての導電層が多層構造に塗布された後に一度に実施される。各接触域、好ましくは接触域の中央部に絶縁材料が残存する領域を画定する(ピラーを形成する)ことで、接触域にアクセスする完全な穴ではなくリングをエッチングすることで得られる接触域の絶縁材料を除去するパターニングにより、より単純かつ効率的に多層MEAを実現することが可能となる。白金は少なくともある程度酸素プラズマエッチングに対して不活性であるため、エッチストップ層として使用することができ、これにより、全体的な製造プロセスの工程数、特にフォトリソグラフィプロセスの工程数を減らすことができる。しかしながら、強力な酸素プラズマエッチングが長時間にわたる場合、白金の厚さが減少する可能性がある。これは、適用されるツール、出力、ガス流量、及び温度に依存する。
【0035】
好ましい実施形態では、絶縁材料のパターニング工程は、各導電層上にそれぞれ少なくとも1つの接触域が得られるように、各導電層を部分的に露出させ、全ての絶縁層を一度にパターニングすることを含み、全ての絶縁層をパターニングするためのマスクにより、各導電層の少なくとも1つの接触域における、絶縁材料が残存する、すなわち除去されない領域(例えば、他の全ての絶縁層を通る各接触域のピラー)が画定される。
【0036】
これにより、得られる多層電極アレイの全ての接触域を同じ高さまで隆起させることができ、接触域間の信号伝送差を減少することができる。
【0037】
好ましい実施形態では、導電層を塗布する工程の前に、基板上に下層絶縁層を直接塗布する。これにより、製造工程で基板を除去する場合、導電性トレースが被覆される。
【0038】
好ましい実施形態では、導電層を塗布する工程は、パターン形成を含む。これにより、導電性トレースの長さ・幅が定められ、トレースとMEAの接触域との重複が回避される。
【0039】
好ましい実施形態では、電極を得るため、基板が除去される。これは、アルミニウム-陽極溶解法によって達成することができる。
【0040】
本発明の別の態様によると、電極、好ましくは電極アレイは、電気信号を伝達する少なくとも1つの導電性トレースを含む少なくとも1つの導電層を備える。この導電層は、絶縁材料で封止されている。また、埋込型電極アレイは、電気信号を神経組織に及び/又は神経組織から伝えるための少なくとも1つの接触域を更に備える。この接触域は、埋込型電極の主表面まで隆起するよう被覆された絶縁材料の領域、例えばピラーを含む。また、電極は、電気信号を外部処理ユニットに及び/又は外部処理ユニットから伝えるための少なくとも1つの接続域を更に備える。
【0041】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの導電層は、外部の影響又は組織を通る信号の伝送を確保するため、絶縁材料からなる2つの層の間に封止されている。
【0042】
好ましい実施形態では、隆起した少なくとも1つの接触域は、電極の主表面から突出している。これにより、神経組織と接触域との間で信号をやり取りする効率が高まる。
【0043】
好ましくは、電極アレイは、少なくとも2つの導電性トレースを2つの異なる導電層上に含み、異なる導電層は、絶縁材料の層によりそれぞれ分離されている。
【0044】
好ましくは、少なくとも1つの導電性トレースは、白金、チタン、白金イリジウム、又は金からなる。トレースは、チタン、窒化チタン、酸化イリジウム、又は白金黒で被覆されていてもよい。
【0045】
好ましくは、絶縁材料は、ポリイミド、パリレン、液晶ポリマー、及び/又はポリジメチルシロキサンからなる。
【0046】
上記製造方法では、別途切断を必要とせず、電極アレイの外形をも決定する単一のドライエッチング工程で多層電極アレイを製造することができる。また、追加のフォトリソグラフィ工程やドライエッチング工程により、電極を封止層から同一の任意の高さ(突出距離)まで突出させることができる。
【0047】
絶縁性ポリイミド材料からなる電極アレイの他の利点は、ドライエッチングプロセス後のポリイミドピラーの壁の空隙率により、より大きな表面積を電極部位で利用可能なことである。これは、この電極アレイが、平坦な電極と比べ、より良好な注入容量を有することができることを意味する。
【0048】
更に、本発明の解決法では、MEAの上面に到達するために、開口部の全容積を充填するように電気メッキを実施する必要がなく、導電層と絶縁層との局所的な機械的不整合による問題が起こりにくい。電気メッキは高コストでより多くの成膜を必要とするため、電気メッキの回避により、製造コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
以下、図面を参照して本発明の例示的な実施形態を説明するが、例示的な実施形態は本発明の範囲を限定するものではない。特に明記しない限り、異なる図面の同一の参照符号は、少なくとも同一機能の同一要素を示す。図面中の個々の要素は、要素の機能を説明するため拡大して示され得る。
【0050】
図1】本発明の電極の製造方法のフローの例示的な実施形態を示す。
図2a】本発明の電極の製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図2b】本発明の電極の製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図2c】本発明の電極の製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図2d】本発明の電極の製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図2e】本発明の電極の製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図2f】本発明の電極の製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図3a】本発明の電極の製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。
図3b】本発明の電極の製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。
図3c】本発明の電極の製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。
図3d】本発明の電極の製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。
図3e】本発明の電極の製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。
図3f】本発明の電極の製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。
図3g】本発明の電極の製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。
図4a】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4b】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4c】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4d】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4e】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4f】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4g】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4h】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4i】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4j】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4k】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4l】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4m】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4n】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4o】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4p】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4q】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4r】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4s】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4t】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4u】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4v】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4w】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4x】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4y】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図4z】本発明の多層電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。
図5a】本発明の多層電極アレイの製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。
図5b】本発明の多層電極アレイの製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。
図5c】本発明の多層電極アレイの製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。
図5d】本発明の多層電極アレイの製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。
図5e】本発明の多層電極アレイの製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。
図5f】本発明の多層電極アレイの製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。
図6】本発明の埋込型電極アレイの第1の例示的な実施形態の側面図である。
図7図6の埋込型電極アレイの第1の例示的な実施形態の上面図である
図8】本発明の埋込型電極アレイの第2の例示的な実施形態の側面図である。
図9a】本発明の電極アレイの製造に使用されるステンシルマスクを作製するための一実施形態を示す。
図9b】本発明の電極アレイの製造に使用されるステンシルマスクを作製するための一実施形態を示す。
図9c】本発明の電極アレイの製造に使用されるステンシルマスクを作製するための一実施形態を示す。
図9d】本発明の電極アレイの製造に使用されるステンシルマスクを作製するための一実施形態を示す。
図9e】本発明の電極アレイの製造に使用されるステンシルマスクを作製するための一実施形態を示す。
図9f】本発明の電極アレイの製造に使用されるステンシルマスクを作製するための一実施形態を示す。
図9g】本発明の電極アレイの製造に使用されるステンシルマスクを作製するための一実施形態を示す。
図9h】本発明の電極アレイの製造に使用されるステンシルマスクを作製するための一実施形態を示す。
図9i】本発明の電極アレイの製造に使用されるステンシルマスクを作製するための一実施形態を示す。
図9j】本発明の電極アレイの製造に使用されるステンシルマスクを作製するための一実施形態を示す。
図10】本発明の埋込型電極アレイの第3の例示的な実施形態の上面図である。
図11】本発明の多層三次元電極アレイのインピーダンス分光法の応答特性の例を示す。
図12】従来技術による多層平面電極アレイのインピーダンス分光特性の例を示す。
図13】本発明の単層三次元電極アレイのインピーダンス分光特性の例を示す。
図14】従来技術による単層平面電極アレイのインピーダンス分光特性の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図1は、本発明の電極の製造方法のフローの例示的な実施形態を示す。ステップ101において、導電性トレース16を形成するため、基板1上に導電性材料からなる導電層4を塗布する。ステップ102において、導電性トレース16(不図示)を覆うため、導電層4上に絶縁材料からなる絶縁層6を直接塗布する。
【0052】
ステップ103において、絶縁材料が残存する領域9を有する接触域8を形成するため、導電層4を部分的に露出させ、絶縁層6をパターニングする。ステップ104において、上層導電層13を接触域8に部分的に塗布する。
【0053】
本発明では、絶縁材料は、電極を形成する接触域8の中央部に、例えば絶縁材料のピラーとして、領域9において保持される(残存する)。そのため、絶縁層6をパターニングするためのマスクは、完全な穴ではなくリングのみが除去されるように導電層4を露出させるために適合される。これにより、残りの絶縁材料を接触域に残留させることができる。ステップ104で上層を塗布することによって、残存する絶縁材料を導電性材料で被覆し、接触域を電極の主表面まで隆起させる。これにより、導電性材料を削減し、材料努力を大幅に減らすことができる。また、製造工程を省略することができる。これにより、非常に単純かつ効率的な方法で電極を得ることができる。これにより、隆起した接触域から組織までの距離が大幅に短縮され、信号劣化が防止される。
【0054】
更に、隆起した接触域と組織との間の距離が短いと、刺激や記録に必要な電圧が少なくなる。したがって、電極材料の劣化を抑制し、加水分解が起こるリスクを減らすことができる。
【0055】
図2a~図2fは、本発明の電極の製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。図2aによると、基板1が提供される。基板1は、好ましくはシリコン(Si)ウェハであり、図4を参照して説明されるように、更なる層で覆われていてもよい。基板1上には、導電層4が塗布される。この層4の配置は、図4を参照してより詳細に説明される。導電層の材料としては、例えば白金(Pt)又はチタン(Ti)が挙げられる。また、導電層4の材料として、金(Au)又は白金-イリジウム合金を用いてもよい。
【0056】
図2bによると、導電層4はフォトレジスト層5によって被覆される。フォトレジスト層5は、フォトリソグラフィプロセスで、導電層4を構造化(パターニング)し、少なくとも1つの導電性トレース16(不図示)を形成するために塗布することができる。
【0057】
図2cでは、フォトレジスト層5は除去され、エッチングが行われ、導電層4がパターニングされている。また、パターニングされた導電層4上に絶縁層6が直接塗布される。絶縁層6は、好ましくはポリイミド(PI)材料又はポリジメチルシロキサンである。
【0058】
図2dでは、シリコン(Si)層7が絶縁層6上に直接塗布される。Si層7は別のフォトリソグラフィプロセスでパターニングされる。パターニングされたSi層7は、絶縁層6が除去される領域、また、絶縁層6が除去されない(すなわち残存する)領域を画定するためのマスクとして使用される。
【0059】
図2eでは、導電層4を部分的に露出させることで、絶縁層6がパターニングされて、導電層4にアクセスできるよう導電層4上に少なくとも1つの接触域8が形成される。本発明では、接触域8全体は露出しない。そのため、導電層4にアクセスするための接触域8を形成するために完全な穴をエッチングする代わりに、接触域8の中央部に領域9が残る。したがって、このパターニング工程では、絶縁材料6の穴ではなくリングのみが除去される。領域9は、例えば接触域8の中央に位置する絶縁材料6のピラーである。また、図2eでは、ステンシルマスク11が絶縁材料6上に置かれる。ステンシルマスク11は、接触域8の上方に配置(整列)された開口部12を有する。ステンシルマスク11の製造は、本願の図9においてより詳細に説明される。
【0060】
図2fでは、上層13が絶縁材料6上に部分的に塗布され、接触域8の領域9に残存する絶縁材料を被覆(コート)する。上層13は導電層4と電気的に接続する。その結果、接触域8が隆起し、隆起した接触域8aが得られる。図2fによると、接触域8aは電極の主表面14に等しい高さまで隆起する。原則として、この工程で使用される材料は、層4と同じ材料とすることができる。あるいは、界面整合のため、窒化チタン、酸化イリジウム、白金黒、白金灰などの別の材料を使用することもできる。
【0061】
図2a~図2fによると、本発明の単層の埋込型電極の製造方法が示されている。最終工程(不図示)では、基板1を除去するか、別の絶縁層3と置き換えて、本発明の単層電極を得る。
【0062】
図3a~図3gは、本発明の電極の製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。図3a~図3dの製造工程は、図2a~図2dに示す製造方法と同一であることに留意されたい。これらの製造方法に関する繰り返しの説明を避けるため、図3a~図3dの説明については、それぞれ図2a~図2dが参照される。
【0063】
図2eに示される製造方法に対して、図3の製造方法は、残存する絶縁材料の領域9を別のフォトレジスト層5で被覆する工程を更に含む。図3eの絶縁層6は厚さd1を有する。
【0064】
図3fによると、絶縁層6の厚さd1は、厚さd1よりも小さい厚さd2まで減少される。この膜厚減少は、領域9上のフォトレジスト層5により下層の絶縁材料6を膜厚減少から保護するパターニング工程によって達成することができる。この結果、被覆されていない層6の厚さはd2となり、被覆された領域9の厚さはd1となる。膜厚減少は、絶縁層6を除去するためのエッチングプロセスによって調節される。
【0065】
図3fの製造工程は図2eの製造工程と同一であり、接触域8上に配置された開口部12を有するステンシルマスク11が置かれる。
【0066】
図3gでは、図2fで既に説明されたように、接触域8を隆起させ、隆起した接触域8aが得られるよう、領域9に残存する絶縁材料を被覆するため、上層導電層13が塗布される。
【0067】
図3gからわかるように、絶縁材料6の非被覆領域は、厚さd2まで減少し、領域9は、主表面14から突出距離d3だけ突出する。この突出距離d3により、神経組織における電極の位置安定性が向上し、組織(不図示)と処理ユニット(不図示)との間の信号伝送が更に改善される。
【0068】
図2(又は図3)に従って製造された単層三次元電極の電気的特性を図13に示す。 従来の電極に対する改善を比較するため、従来の単層平面電極の電気的特性を図14に示す。
【0069】
図4a~図4zは、本発明の電極アレイの製造方法の第1の例示的な実施形態を示す。図4の実施形態は、単なる例として好ましいプロセスパラメータを用いていることに留意されたい。以下の図面の説明おいて使用される材料、適用されるプロセス、及びプロセスパラメータはいずれも本発明の範囲を限定するものではない。
【0070】
図4aによると、基板は、Siウェハ1と、TiW及びAlを含む更なる犠牲層2を含む。このTiW/Al層2は、好ましくはスパッタリング法、例えばマグネトロンスパッタリング法によって得られる。TiW層2は200ナノメートル(nm)の厚さを有し、Al層は1ミクロン(μm)の厚さを有する。
【0071】
図4bでは、下層絶縁層3がTiW/Al層2上に直接塗布される。下層絶縁層3は好ましくは10μmの厚さd1を有する。下層絶縁層3はポリイミド層であり、好ましくはPIスピンコーティングによって塗布されるPI2611材料である。100℃で5分間、基板を脱水してもよい。PIスピンコーティングは、1400rpmで実施することができる。また、65℃、5分間の第1の持続時間及び95℃、5分間の第2の持続時間のソフトベークを行ってもよい。ソフトベークの後に、窒素雰囲気下、300℃、1時間の第3の持続時間でのハードベークを行う。これに代わって、インクジェット印刷によって下層絶縁層3を得ることもできる。
【0072】
図4cでは、導電層4が下層絶縁層3上に直接塗布される。導電層4は、20nm厚のTi層、100nm厚のPt層、及び10nm厚のTi層を含む。この導電層4は、スパッタリング法、好ましくはマグネトロンスパッタリングで得ることができる。希ガスであるアルゴン(Ar)は基板と反応し得ないため、導電層の堆積前にArエッチングを10秒間施すことができるが、金属接着性を向上させるために洗浄や粗面化によりポリマー表面を準備してもよい。
【0073】
図4dでは、フォトレジスト層5が導電層4上に直接塗布される。フォトレジスト層5は、例えば2μmの厚さを有し、フォトレジスト材料AZ9221を含んでもよい。直接描画露光量は平方センチメートル(cm)あたり120ミリジュール(mJ)である。フォトレジスト層5の現像及びリフロー処理を115℃で2分間行う。
【0074】
図4dのフォトリソグラフィプロセスの後、図4eに示すように、イオンビームエッチングプロセスを行ってもよい。イオンビームエッチングプロセスは、層4をパターニングするため、好ましくはその長さを短くし、導電性トレース16、16’、16”(不図示)、また必要であれば意図する配線レイアウトに応じてパッドを第1の層4上に形成するために使用することができる。
【0075】
図4eでは、2.5分、30°の傾斜角度のArイオンエッチングが使用される。印加電力は、1cm当たり800ミリアンペア(mA)、500ボルト(V)である。図4fでは、フォトレジスト層5は、500ワット(W)、30秒間の酸素プラズマで除去される。その後、フォトレジスト剥離剤、好ましくはリムーバ1165が70℃で25分間使用される。
【0076】
図4gでは、絶縁層6が層4上に直接塗布される。層6は5μmの厚さd2を有し得る。層6はポリイミド層、好ましくは2200rpmで別のPIスピンコーティングによって塗布されたPI2611である。また、65℃、5分間の第1の持続時間及び95℃、5分間の第2の持続時間のソフトベークを行ってもよい。ソフトベークの後、300℃、1時間の第3の持続時間でのハードベークが行われる。絶縁層6と下層絶縁層3により層4が封止される。以下、層6及び3は、1つの絶縁層6によって示される。
【0077】
図4hでは、導電層4’が絶縁層6上に直接塗布される。層4’は、20nm厚のTi層、100nm厚のPt層、及び10nm厚のTi層を含む。導電層4’はスパッタリング法、好ましくはマグネトロンスパッタリングで得られる。したがって、金属堆積の前に、アルゴン(Ar)エッチングを再び10秒間行ってもよい。
【0078】
図4iでは、別のフォトレジスト層5が層4’上に直接塗布される。フォトレジスト層5は、2μmの厚さを有し、好ましくはフォトレジスト材料AZ9221を含む。直接描画露光量は120mJ/cmである。フォトレジスト層5の現像及びリフロー処理は115℃で2分間行うことができる。
【0079】
図4iのフォトリソグラフィプロセスの後、図4jに示すように、イオンビームエッチングプロセスを行う。イオンビームエッチングプロセスは、層4’をパターニングするため、好ましくはその長さを短くし、導電性トレース16、16’、16”(不図示)、またパッドを第2の導電層4’上に形成するために使用される。図4jでは、2.5分、30°の傾斜角度のArイオンエッチングが使用される。印加電力は、800mA/cm、500Vである。図4kでは、フォトレジスト層5は、500W、30秒間の酸素プラズマで除去される。その後、フォトレジスト剥離剤、好ましくはリムーバ1165が70℃で25分間使用される。
【0080】
図4lでは、別の絶縁層6が層4’上に直接塗布される。この層6も5μmの厚さd2を有する。また、層6はポリイミド層、好ましくは2200rpmで別のPIスピンコーティングによって塗布されたPI2611である。また、65℃、5分間の第1の持続時間及び95℃、5分間の第2の持続時間のソフトベークが行われる。ソフトベークの後、300℃、1時間の第3の持続時間でのハードベークが行われる。絶縁層6と塗布された別の層6により、層4’が封止される。以下、層6とは、塗布された全ての絶縁層6を指す。
【0081】
図4mでは、導電層4”が絶縁層6上に直接塗布される。層4”もまた、20nm厚のTi層、100nm厚のPt層、及び10nm厚のTi層を含む。導電層4”はスパッタリング法、好ましくはマグネトロンスパッタリングで得られる。したがって、金属堆積の前にアルゴン(Ar)エッチングが再度10秒間行われる。
【0082】
図4nでは、別のフォトレジスト層5が層4”上に直接塗布される。フォトレジスト層5は、2μmの厚さを有し、好ましくはフォトレジスト材料AZ9221を含む。直接描画露光量は120mJ/cmである。フォトレジスト層5の現像及びリフロー処理は115℃で2分間行われる。
【0083】
図4nのフォトリソグラフィプロセスの後、図4oに示すように、イオンビームエッチングプロセスを行う。イオンビームエッチングプロセスは、層4”をパターニングするため、好ましくはその長さを短くし、導電性トレース16、16’、16”(不図示)、またパッドを第3の導電層4”上に形成するために使用される。図4oでは、2.5分、30°の傾斜角度のArイオンエッチングが使用される。印加電力は、800mA/cm、500Vである。図4pでは、フォトレジスト層5は、500W、30秒間の酸素プラズマで除去される。その後、フォトレジスト剥離剤、好ましくはリムーバ1165が70℃で25分間使用される。
【0084】
図4qでは、別の絶縁層6が層4”上に直接塗布される。この層6は10μmの厚さd1を有する。また、層6はポリイミド層、好ましくは1400rpmで別のPIスピンコーティングによって塗布されたPI2611である。また、65℃、5分間の第1の持続時間及び95℃、5分間の第2の持続時間のソフトベークが行われる。ソフトベークの後、300℃、1時間の第3の持続時間でのハードベークが行われる。絶縁層6と塗布された別の層6により、層4”が封止される。以下、層6とは、塗布された全ての絶縁層6を指す。
【0085】
図4rによると、Siハードマスク層7が絶縁層6上に直接塗布される。このSi層7はスパッタリング、好ましくはマグネトロンスパッタリング法によって塗布される。Si層7の厚さは1μmである。
【0086】
図4sによると、別のフォトレジスト層5がSi層7上に直接塗布される。フォトレジスト層材料は、好ましくは、2μmの膜厚を有するAZ9221である。ここで、下層との配置調整がなされる。図4tによると、SiドライエッチングプロセスによりSi層7がパターニングされる。
【0087】
図4uでは、絶縁層6全体を一度にパターニングするPI及びフォトレジストドライエッチングプロセスが行われる。このエッチングプロセスを絶縁層6の全体厚さに実行し、電極アレイを完全に成形する。好ましくは、誘導結合プラズマ(ICP)エッチングプロセスが使用される。絶縁層6をパターニングすることで、絶縁層6を除去し、各導電層4、4’、4”において接触域8、8’、8”を露出させる。図4uでは、各接触域8、8’、8”において、絶縁材料が領域9、9’、9”に残存するように、適用されるSiハードマスク7が定められる。この結果、ピラー9、9’、9”が接触域8、8’、8”に残存する。この方法工程は、白金が酸素プラズマエッチングに対して不活性であり、このため白金がエッチストップ層として作用するため有利である。導電層4として使用できる金もエッチストップ層として作用し得るが、金はエッチストップ層としては白金ほど優れていないため、ここでは白金が好ましい。あるいは、Au層が損傷しないように他の技術、例えばAu層上にSi保護層を形成することもできる。
【0088】
また、図4uには、接続域10、10’、10”も示されている。層4、4’、4”は、各接続域10、10’、10”と接触域8、8’、8”を電気的に接続している。これらの接続域10、10’、10”は、導電層4、4’、4”を介して接触域8、8’、8”に送受信される電気信号を取得又は提供する外部プロセスユニット(不図示)と連絡するために使用される。
【0089】
図4vでは、残存するSi層7を除去するために別のSiドライエッチングプロセスが行われる。図4wでは、パターニングされた絶縁層6の上にステンシルマスク11が置かれる。ステンシルマスク11は開口部12、12’、12”を有する。開口部12、12’、12”は、接触域8、8’、8”と揃えられる。図示されるように、開口部12、12’、12”は、電極アレイの接続域10、10’、10”には配置されていない。しかしながら、接触性を向上するために、開口部12、12’、12”を電極アレイの接続域10、10’、10”に配置することもできる。
【0090】
図4xでは、上層導電層13が電極に塗布される。ステンシルマスク11の開口部12、12’、12”を通してのみ上層導電層13が層状構造へ配置可能になるため、上層13は、特に接触域8、8’、8”における残存領域9、9’、9”を被覆するように、接触域8、8’、8”に塗布される。上層13は、ステンシルマスク11を介してスパッタリング法、好ましくはマグネトロンスパッタリングによって塗布される。上層13には10秒間のArエッチングが行われ、残存するピラー領域9、9’、9”が150nmのPt層によって被覆される。残存する絶縁材料が接触域8、8’、8”内に位置するため、上層13を設けるのに使用される材料量が劇的に減少し、製造コストを減少することができる。
【0091】
図4yでは、ステンシルマスク11が除去される。上層13は接触域8、8’、8”と直接接触するため、接触域8、8’、8”が電極アレイの主表面14の高さまで上げられ、隆起した接触域8a、8a’、8a”が得られる。図4の電極アレイは、組織及び電極間の距離、ひいては信号伝送の損失を減少させる隆起した接触域8a、8a’、8a”を有する。
【0092】
図4zでは、陽極溶解法によって基板1及びTiW/Al層2が除去される。すなわち、4時間~8時間、0.8ボルトの電圧で塩化ナトリウム(NaCl)溶液と白金対電極を使用する。最終的に、電極アレイをNaCl浴から取り出し、脱イオン水でリンスし、窒素ガンで乾燥させる。
【0093】
本発明の埋込型電極は、垂直配列においてそれぞれ平面状に並んだ、刺激要素又は電極とも呼ばれる隆起した接触域8a、8a’、8a”を有する。これにより、神経組織と全接触域8a、8a’、8a”との間の距離を減少させることが可能となり、電気信号で組織を記録又は刺激する際の障害を減少させることができる。この多層構造を用いることで、より高密度でより高い空間分解能が得られる。
【0094】
図4では、各導電層4に対して一つの接触域8、8aが形成されているが、本発明はこれに限定されない。電極アレイの密度を高めるために、接触域8、8aは複数であることが好ましい。
【0095】
図5a~図5fは、本発明の電極アレイの製造方法の第2の例示的な実施形態を示す。第2の実施形態は完全には示されていない。特に、電極アレイを製造するための第1の実施形態に関して説明した図4a~図4uによるものと同じ工程は、繰り返しの説明を避けるため第2の実施形態に関しては示されていない。図5aは図4vに対応し、上記で詳細に説明されている。
【0096】
電極アレイを製造するための第1の実施形態による更なる工程に対して、電極アレイを製造するための第2の実施形態では、図5bにおいて別のフォトリソグラフィ工程が行われる。すなわち、フォトレジスト層5が、残存する絶縁材料6の各領域9、9’、9”(ピラー)上に塗布される。フォトレジスト層5は、8μmの厚さを有する。フォトレジスト層5は、好ましくは2800rpmで塗布されたAZ9260である。直接描画露光量は、好ましくは320mJ/cmである。
【0097】
図5cでは、絶縁材料6の厚さを減少させるためにPIドライエッチングプロセスが行われる。好ましくは、厚さは5~6μm減少される。フォトレジスト5を領域9、9’、9”上に塗布して使用することで、領域9、9’、9”(ピラー)の下の絶縁材料6の厚さは減少されない。これにより、図5cに示すように、ピラー9、9’、9”が主表面14より上に突出距離d3だけ突出する。このエッチングプロセスでは、突出距離d3を図5b~図5cによる製造工程で調節し、電極アレイが使用される用途ごとに適用することができる。電極アレイの主表面は、神経組織(不図示)に面する電極アレイの外表面である。図5dでは、フォトレジスト層5は、好ましくはフォトレジスト剥離剤、例えばリムーバ1165を70℃で15分間使用することで除去される。
【0098】
図5e及び図5fに示す製造工程は、図4x~図4yに示す製造工程に対応する。繰り返しの説明を避けるため、以下では図5e及び図5fの工程は説明されない。最終的に(図5では不図示)、図4zにおいて既に説明されたように、基板1及びTi/Al層2が除去されて、本発明の電極アレイが得られる。
【0099】
図5a~図5fによる第2の実施形態は、隆起した接触域8a、8a’、8a”が主表面14から突出距離d3だけ突出している点で、図4a~図4zによる第1の実施形態と異なる。この突出距離d3により、電極アレイが神経組織内に配置された際の位置安定性を増大させると共に、神経組織(不図示)との間で電気信号を送受信する際の信号劣化を減少させることができる。これにより、より効率的な刺激及び記録が可能となる。
【0100】
図6は、本発明の埋込型電極の第1の例示的な実施形態の側面図である。図6は、図4に示す製造工程に従って製造された埋込型電極であり得る。第1の実施形態は、導電性材料、好ましくは白金、チタン、白金イリジウム合金、又は金からなる3つの導電層4、4’、4”を含む。各層4、4’、4”はそれぞれ1つの接触域8、8’、8”を含む。接触域8、8’、8”は、図4を参照して説明したように、隆起した接触域8a、8a’、8a”が得られるよう隆起している。隆起した接触域8a、8a’、8a”は、主表面14と同じ高さに位置する。そのため、電極アレイの主表面14と神経組織(不図示)との間の距離は、隆起した各接触域8a、8a’、8a”に対するものと等しい。したがって、図6の第1の実施形態によれば、信号伝送を悪化させる主な要因、すなわち組織と電極との間の距離がなくなる。そのため、接触域8a、8a’、8a”の直径と絶縁層6の封止厚さのアスペクト比を無視することができ、神経組織の刺激/記録効率が接触域8a、8a’、8a”と神経組織との間の距離に左右されなくなる。上記距離は、もはや封止・開口アスペクト比に影響を受けない。
【0101】
図6には、接続域10、10’、10”も示されている。各層4、4’、4”は少なくとも1つの接続域10、10’、10”を含む。接続域10、10’、10”は、層4、4’、4”を介して処理ユニット(不図示)との間で送受信される電気信号を供給するために使用される。本明細書ではこれ以上詳細には説明しないが、処理ユニットは電気信号を処理、生成するために使用される。接触域8a、8a’、8a”の数は、接続域10、10’、10”の数に対応し、対応する接触域8a、8a’、8a”と接続域10、10’、10”との間で電気信号が提供、取得される。図6では、接触域8a、8a’、8a”と接続域10、10’、10”との間の長手方向の整列は、図示されているよりも大きい寸法をとれることが示されている。そのため、より埋め込みが容易になるように、また、神経組織を不必要に大きく切断するのを避けるために、MEAの長手方向の整列を拡張することができる。
【0102】
図7は、図6の埋込型電極アレイの第1の例示的な実施形態の上面図である。図7に見られように、残存する絶縁材料6のピラー9、9’、9”は点線で示され、隆起した接触域8a、8a’、8a”が得られるように上層13によりピラー9、9’、9”が被覆された接触域8、8’、8”の隆起が表されている。このように隆起した接触域8a、8a’、8a”の直径は、非常に容易に調節可能である。
【0103】
図7において、埋込型電極アレイは、横手方向の整列が縦長手方向の整列よりも非常に短い。更に、必要に応じて埋め込みが容易に可能となるように、接触域8a、8a’、8a”が配置された電極アレイの部分は、接続域10、10’、10”が配置された電極アレイの部分よりも横手方向の整列が短い。実際、接触域8a、8a’、8a”が配置された電極アレイの横手方向の整列は、この電極アレイを神経組織(不図示)に埋め込む際に必要なスペースを減らすために、接触域8a、8a’、8a”の外形寸法と絶縁材料6の小さな縁部に制限され得る。図7も、本発明の方法の可能性を示している。ここで、トレース16は、接触域8aとそれぞれのパッド10を接続するように、各接触域8a’、8a”(電極)やその上のトレース16’、16”、パッド10’、10”の下を通すことが容易である。これにより、最下層のトレース16は、最も離れた接触域8aと最も離れたパッド10を接続することができる。
【0104】
図8は、本発明の埋込型電極アレイの第2の例示的な実施形態の側面図である。図8は、図5に示す製造方法に従って製造された埋込型電極アレイを指し得る。図8では、電極アレイの断面図が示されている。図6図8の違いは、電極アレイの主表面14に対する隆起した接触域8a、8a’、8a”の突出距離d3である。突出距離d3は、図5b~図5cに示して説明したように、フォトリソグラフィプロセスを介して調節することができる。
【0105】
図4(又は図5)に従って製造できる2層三次元電極の電気特性を図11に示す。従来の電極に対する改善を比較するため、従来の2層平面電極の電気的特性を図12に示す。
【0106】
図9a~図9jは、本発明の電極アレイを製造する、例えば、図4w、図4x、及び図5eに示すような製造工程に従って電極を製造する方法で使用されるステンシルマスク11を作製するための例示的な実施形態を示す。
【0107】
図9aでは、二酸化ケイ素(SiO)層15を有するSiウェハ1が提供される。SiO層15は、例えば1μmの厚さを有しており、好ましくはSi湿式酸化法によって熱成長する。図9bでは、フォトリソグラフィプロセスでフォトレジスト層5がSiO層15上に直接塗布される。好ましくは、AZ9221フォトレジストが4200rpmで塗布される。直接描画露光量は120mJ/cmである。
【0108】
図9cでは、SiOドライエッチングプロセス、好ましくは誘導結合プラズマ(ICP)エッチングプロセスにより、SiO層15をパターニングする。図9dでは、フォトレジスト層5は、好ましくは、600W、5分間の酸素プラズマエッチングプロセスによって除去される。図9eでは、更なるフォトレジスト層5を用いて更なるフォトリソグラフィプロセスが実行される。好ましくは、4μmの厚さのAZ9221フォトレジストが1100rpmで塗布される。直接描画露光量は160mJ/cmである。
【0109】
図9fでは、Siドライエッチングプロセス、好ましくは誘導結合プラズマ(ICP)エッチングプロセスにより、ステンシルマスク11に開口部12が形成される。図9gによると、フォトレジスト層5は、好ましくは600W、5分間の酸素プラズマエッチングによって除去される。
【0110】
図9hでは、Siドライエッチングプロセス、好ましくはICPエッチングが行われる。図9iでは、バッファードフッ酸中でSiOウェットエッチングによりSiO層15が除去される。図9jでは、ウェハの裏面研削を行い、開口部12を有する最終ステンシルマスク11を得る。
【0111】
図10は、本発明の埋込型電極アレイの第3の例示的実施形態の上面図である。図10では、電極アレイは、3つの異なる導電層4、4’、4”(不図示)において接続域10、10’、10”に電気的に接続された9つの接触域8a、8a’、8a”を含む。図10では、3つの接触域8aが埋込型電極アレイの先端で導電層4(不図示)に配置されている(上面斜視図)。これらの接触域8aを接続するために、各接触域8aがそれぞれ最も近い位置にある対応する接続域10に接続されるように導電性トレース16(点線)が形成されており(上面斜視図)、導電性トレース16が同程度の全長となる。更に、3つの接触域8a’が、接触域8a、8a’、8a”が配置されている電極アレイの部分(上面図)の中央部で導電層4’(不図示)に配置されている。これらの接触域8a’を接続するために、各接触域8a’がそれぞれ対応する接続域10’と接続されるように導電性トレース16’(破線)が形成されている。更に、3つの接触域8a”がそれぞれ対応する接続域10”と最も近い導電層4”(不図示)に配置されている(上面斜視図)。これらの接触域8a”を接続するために、各接触域8a”が対応する接続域10”と接続されるように導電性トレース16”(実線)が形成されている。このように、全ての導電性トレース16、16’、16”の全長(合計長さ)ができるだけ均等になっている。このように長さを均等化することで、各トレース16、16’、16”の導電性材料による寄生効果(抵抗値、容量値、インダクタンス値など)がほぼ同じになる。したがって、接触域8a、8a’、8a”又は対応する接続域10、10’、10”の位置に応じたトレース16、16’、16”の寄生効果による各信号伝送の特性のバラツキを抑えることができる。そのため、異なる接触域8a、8a’、8a”又は対応する接続域10、10’、10”からの信号は、ほぼ同じ寄生効果の影響を受ける。その結果、信号伝送の品質が更に向上し、接触域8a、8a’、8a”の位置による影響が低減される。
【0112】
接触域8a、8a’、8a”は隆起してポリイミド封止層6より上に少なくとも2μmだけ主表面14から突出している。
【0113】
別の実施形態(不図示)では、8つのPt接触域8a、8a’が2つの異なる導電層4、4’上に分布する。4つの接触域8aが第1の導電層4上に分布し、別の4つの接触域8a’が第2の導電層4’上に分布する。全ての接触域8a、8a’が、電極アレイの主表面14と同じ高さまで隆起している。この実施形態は、従来のアレイと本発明の電極アレイの電気的特性を比較するために使用される。
【0114】
図11は、本発明の2層三次元電極アレイのインピーダンス分光特性の例を示す。図10の信号挙動から分かるように、100Hz~4MHzの周波数範囲において、上方の導電層(上層)4’のインピーダンス(及び位相)の挙動は、下方の導電層(下層)4のインピーダンス(及び位相)の挙動とほぼ同一である。したがって、層4及び4’の電気的特性はほぼ同一であり、MEA上の接触域8a、8a’の位置による変化はないと結論付けることができる。更に、神経組織と電極アレイの主表面14との間の距離が減少するため、記録信号対雑音比が増加し、刺激電圧及び電流が減少する可能性がある。したがって、上層4と下層4’で信号伝送挙動に差がなく、in vivo用途に対する信号劣化が低減される。
【0115】
図12は、図11に示す特性と直接比較するため、従来技術による2層平面電極アレイのインピーダンス分光特性の例を示す。従来技術では、神経組織と個々の接触域との間の距離の値が異なるため、信号伝送の低下が生じている。ここで、接触域8の直径と絶縁層6の封止厚さのアスペクト比は、信号伝送の特性に大きな影響を及ぼすため、神経組織の刺激/記録効率は接触域8と神経組織との間の距離に依存する。封止・開口アスペクト比はこの距離に不利な影響を与える。
【0116】
図13は、本発明の単層電極アレイのインピーダンス分光特性の例を示す。図13の信号挙動から分かるように、100Hz~4MHzの監視周波数範囲において、導電層4の個々の接触域8aのインピーダンス値(及び位相値)は、導電層4の他の接触域8aと変わらない。したがって、神経組織と電極アレイの主表面14との間の距離が短いため、接触域8a、8a’の実際の位置は処理ユニットと神経組織との間の信号伝達に影響を及ぼさない。
【0117】
図14は、図13に示す特性と直接比較するため、従来技術による単層電極アレイのインピーダンス分光特性の例を示す。従来技術では、神経組織と個々の接触域との間の距離の値が異なるため、信号伝送の低下が生じている。ここで、接触域8の直径と絶縁層6の封止厚さのアスペクト比は、信号伝送の特性に大きな影響を及ぼすため、神経組織の刺激/記録効率は接触域8と神経組織との間の距離に依存する。封止・開口アスペクト比はこの距離に不利な影響を与える。
【0118】
本発明の電極アレイに対して実施されたインピーダンス分光法は、標準的な単層の平面Pt電極に対するものと同様の挙動が得られることが示されている。したがって、本発明のMEA性能は、既知のMEA構造に匹敵するが、電極の密度及び神経組織との接触面挙動を著しく向上させることができる。
【0119】
また、本発明で提示された製造方法では、別途切断を必要とせず、電極アレイの外形をも決定する単一のドライエッチング工程で多層MEAを製造することができる。また、追加のフォトリソグラフィ工程やドライエッチング工程により、電極を封止層6から所望の突出距離d3まで突出させることができる。
【0120】
被覆絶縁材料6に作製される電極アレイの他の利点は、ドライエッチング後のポリイミドの壁の空隙率による大きな表面積である。これは、この電極アレイが、平坦な電極と比べ、より良好な注入容量を有することができることを意味する。更に、本技術では、電気メッキが不要であり、導電層4と絶縁層6との局所的な機械的不整合による問題が生じにくい。電気メッキは、MEAの上面に到達するために、開口部の全容積を充填するのにより多くの材料を堆積させる必要があるため高価である。
【0121】
本明細書で説明、図示、及び/又は特許請求されている全ての実施形態の全ての特徴はそれぞれ組み合わせることができる。特定の図面に示される実施形態は、別の図面に示される実施形態の途中工程として適用され得る。更に、実施形態に示される工程の順序が変更できるという点で、実施形態における単一の工程は置き換え可能である。更に、一実施形態における単一の工程を他の実施形態の工程と置き換えてもよい。
【0122】
本発明の様々な実施形態を説明したが、これらは単なる例示にすぎず、本発明を限定する趣旨ではない。本明細書の開示に従って、本発明の範囲から逸脱することなく、開示された実施形態に多数の変更を加えることができる。したがって、本発明の広さ及び範囲は、上記の実施形態のいずれによっても限定されるべきではない。むしろ、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物により定められる。
【0123】
本発明の1つ又は複数の実施形態を例示及び説明したが、本明細書及び添付の図面を読み、理解すれば、等価の変更及び修正が可能なことは当業者にとって明白であろう。また、本発明の特定の特徴はいくつかの実装形態のうちの1つのみに関して開示されているが、このような特徴は、任意の又は特定の用途に所望され、有利なように、他の実装形態の1つ又は複数の他の特徴と組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0124】
1 基板、Siウェハ
2 犠牲層、TiW/Al
3 下層絶縁層、ポリイミド(PI)
4、4’、4” 導電層、Ti/Pt
5 フォトレジスト層
6 絶縁層、PI
7 ハードマスク、Si層
8、8’、8” 導電層上の接触域
8a、8a’、8a” 導電層上の隆起した接触域
9、9’、9” 残存する絶縁材料の領域/ピラー
10、10’、10” 接続域
11 ステンシルマスク
12、12’、12” ステンシルマスクの開口部
13 上層導電層、Ti/Pt
14 埋込型電極の主表面(外面)
15 酸化ケイ素層
16、16’、16” 導電性トレース
101~104 方法工程
d1、d2 層の厚さ
d3 突出距離
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図3f
図3g
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図4g
図4h
図4i
図4j
図4k
図4l
図4m
図4n
図4o
図4p
図4q
図4r
図4s
図4t
図4u
図4v
図4w
図4x
図4y
図4z
図5a
図5b
図5c
図5d
図5e
図5f
図6
図7
図8
図9a
図9b
図9c
図9d
図9e
図9f
図9g
図9h
図9i
図9j
図10
図11
図12
図13
図14