(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】フルクトース誘導性疾患の予防又は改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/125 20160101AFI20220216BHJP
A61K 31/702 20060101ALI20220216BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
A23L33/125
A61K31/702
A61P3/04
(21)【出願番号】P 2020046608
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2020-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 保典
(72)【発明者】
【氏名】田宮 大雅
(72)【発明者】
【氏名】豊原 清綱
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179441(WO,A1)
【文献】特開2012-031135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/125
A61K 31/702
A61P 3/04
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-ケストースを含む、フルクトース誘導性疾患の予防又は改善用組成物であって、前記フルクトース誘導性疾患が、内臓脂肪蓄積である、前記組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物を含む、
フルクトース誘導性疾患の予防又は改善用飲食品
であって、前記フルクトース誘導性疾患が、内臓脂肪蓄積である、前記飲食品。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物を含む、
フルクトース誘導性疾患の予防又は改善用医薬品
であって、前記フルクトース誘導性疾患が、内臓脂肪蓄積である、前記医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルクトース誘導性疾患の予防又は改善用組成物、及びそれを用いた飲食品又は医薬品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタボリックシンドロームは、肥満(内臓脂肪蓄積型肥満)を中心として、高血糖、高血圧、脂質代謝異常(高トリグリセライド血症、低HDLコレステロール血症)といった、動脈硬化性疾患と2型糖尿病発症のリスク因子が集積した病態といわれている。このような状態が重なり合って発症すると、心筋梗塞、脳梗塞等を起こす危険性が非常に高くなる。メタボリックシンドロームの原因である内臓脂肪が蓄積すると、脂肪細胞が肥大や増殖をし、アディポサイトカインの分泌異常が起こることが指摘されている。これが、動脈硬化を促進し、糖尿病、高血圧、脂質異常症を発症もしくは悪化させる原因となっている。アディポサイトカインのうち、例えばアディポネクチンは、本来は、傷ついた血管壁を修復する働きをしていて動脈硬化を予防するほか、インスリンの働きを高める作用、血圧を低下させる作用などがあるが、内臓脂肪が増えると、アディポネクチンの分泌が減少し、動脈硬化を防ぐ働きが低下し、またインスリン抵抗性の状態を引きおこし、血糖を上昇させる。従って、内臓脂肪の蓄積を予防することはメタボリックシンドロームを予防や改善する上で非常に重要である。
【0003】
フルクトース(果糖)は、スクロースの構成単糖として多量に摂取されてきたが、近年、トウモロコシのデンプンに含まれるブドウ糖を酵素によって果糖に変えて異性化糖にし、甘味を強めた高果糖コーンシロップ(高果糖ブドウ糖液糖)が開発され、清涼飲料水や菓子などからより摂取されるようになった。このフルクトースは、グルコースと異なり食後の血糖値やインスリンレベルの急激な上昇を引き起こさないが、フルクトースを過剰摂取することが、内臓脂肪肥満やメタボリックシンドローム、インスリン抵抗性の原因となり、糖尿病や動脈硬化を発症することがわかってきた。さらに、近年増加している非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と、フルクトース過剰摂取との関係性が指摘されている(非特許文献1)。よって、今後益々、フルクトースの摂取を原因としたインスリン抵抗性、脂肪肝や高脂血症等の疾患の予防又は改善が重要となってくる。
【0004】
特許文献1には、大豆由来のリゾ脂質を用いた、フルクトース誘導性疾患の予防剤又は改善剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Journal of Hepatology (2018) vol.68,1063-75
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フルクトース誘導性疾患の予防又は改善用組成物、及びそれを含む飲食品又は医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、1-ケストースがフルクトース誘導性疾患、特に内臓脂肪の蓄積を予防することを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下の発明を包含する。
【0009】
[1]1-ケストースを含む、フルクトース誘導性疾患の予防又は改善用組成物。
[2]フルクトース誘導性疾患が、フルクトース摂取により誘導されるメタボリックシンドロームである、[1]に記載の組成物。
[3]フルクトース摂取により誘導されるメタボリックシンドロームが、高血圧、糖尿病、インスリン抵抗性、脂質異常症、高脂血症、動脈硬化、脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝疾患又は非アルコール性脂肪肝炎である、[2]に記載の組成物。
[4]フルクトース誘導性疾患が肥満又は内臓脂肪蓄積である、[2]に記載の組成物。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の組成物を含む、飲食品。
[6][1]~[4]のいずれかに記載の組成物を含む、医薬品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、フルクトース誘導性疾患の予防又は改善するための組成物、特に内臓脂肪の蓄積を予防する組成物や、斯かる組成物を用いた飲食品又は医薬品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】正常動物群(CT)、病態惹起群(FC)及びケストース群(FK)について、体重に関する試験結果を示す図である。
【
図2】正常動物群(CT)、病態惹起群(FC)及びケストース群(FK)について、摂餌量に関する試験結果を示す図である。
【
図3】正常動物群(CT)、病態惹起群(FC)及びケストース群(FK)について、精巣周囲脂肪重量に関する試験結果を示す図である。
【
図4】正常動物群(CT)、病態惹起群(FC)及びケストース群(FK)について、腎周囲脂肪重量に関する試験結果を示す図である。
【
図5】正常動物群(CT)、病態惹起群(FC)及びケストース群(FK)について、腸間膜脂肪重量に関する試験結果を示す図である。
【
図6】正常動物群(CT)、病態惹起群(FC)及びケストース群(FK)について、内臓脂肪重量に関する試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
フルクトース誘導性疾患の予防又は改善用組成物(以下「本発明の組成物」とも称す)は、フルクトース誘導性疾患を予防又は改善するために使用され、1-ケストースを含むことを特徴とする。
【0013】
ケストースは、スクロースにフルクトースが結合して生成される3糖のうち、フルクトースが結合する位置により、1-ケストース、6-ケストース及びネオケストースに分かれるが、「1-ケストース」は、フルクトースがスクロース中のフルクトース単位にβ(2→1)結合している3糖である。このような1-ケストースは、スクロースを基質として、特開昭58-201980号公報に開示されているような酵素による酵素反応を行うことにより得ることができる。具体的には、まず、β-フルクトフラノシダーゼをスクロース溶液に添加し、37℃~50℃で20時間程度静置することにより酵素反応を行って、1-ケストース含有反応液を得る。この1-ケストース含有反応液を、特開2000-232878号公報で開示されているようなクロマト分離法に供することよって、1-ケストースと他の糖(ブドウ糖、果糖、ショ糖、4糖以上のオリゴ糖)とを分離して精製し、1-ケストース溶液を得ることができる。続いて、この1-ケストース溶液を濃縮した後、特公平6-70075号公報に開示されているような結晶化法で結晶化することにより、1-ケストースを結晶として得ることができる。また、1-ケストースは市販のフラクトオリゴ糖に含まれているため、これをそのまま、あるいは、フラクトオリゴ糖から上述の方法により1-ケストースを分離精製して用いてもよい。その他、市販のベビーオリゴ(登録商標)(物産フードサイエンス株式会社)を用いてもよい。
【0014】
本発明における「フルクトース誘導性疾患」とは、フルクトース(果糖)の摂取によって引き起こされる様々な代謝異常の疾患・症状を意味し、特に、メタボリックシンドロームに関連する疾患・症状、例えばインスリン抵抗性、脂質異常症、脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、高脂血症、高尿酸血漿等、及びこれらに起因又は関連して発症する種々の疾患・症状、例えば、糖尿病、高血圧、動脈硬化症等が挙げられる。さらに、フルクトース誘導性疾患には、肥満や内臓脂肪蓄積も含まれる。本発明の組成物は特に、肥満の予防や内臓脂肪蓄積の抑制に効果を奏する。
【0015】
本発明の組成物は、ヒト又は動物用の医薬品又は飲食品として利用することもできる。本明細書では、動物用の飲食品を飼料とも称す。
【0016】
本発明における医薬品は、本発明の組成物を含有する腸内短鎖脂肪酸産生促進薬等であり得る。上記医薬品の剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤等の経口剤、及び吸入剤、経皮製剤、坐剤等の経腸製剤、点滴剤、注射剤等の非経口剤が挙げられる。上記液剤、懸濁剤等の液体製剤は、服用直前に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよく、上記錠剤及び顆粒剤は周知の方法でその表面をコーティングされていてもよい。また上記注射剤は、必要に応じて溶解補助剤を含む滅菌蒸留水又は滅菌生理食塩水の溶液であり得る。
【0017】
本発明における医薬品は、本発明の組成物に加えて、必要に応じて薬学的に許容される種々の担体、例えば賦形剤、安定化剤、その他の添加剤等を含有していてもよく、あるいは、さらに他の薬効成分、例えば各種ビタミン類、ミネラル類、生薬等を含有していてもよい。当該医薬品は、本発明の組成物に、上述の担体及び他の薬効成分を配合し、常法に従って製造することができる。
【0018】
本発明における飲食品又は飼料は、本発明の組成物を含み、場合によって、腸内短鎖脂肪酸産生促進の効果を企図して、その旨を表示した健康食品、機能性飲食品、特定保健用飲食品、病者用飲食品、家畜、競走馬又は鑑賞動物等のための飼料、ペットフード等としてもあり得る。
【0019】
本発明における飲食品及び飼料の形態は特に制限されず、本発明の組成物を配合できる全ての形態が含まれる。例えば当該形態としては、固形、半固形又は液状であり得、あるいは、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル、顆粒、ドリンク、ゲル、シロップ、経管経腸栄養用流動食等の各種形態が挙げられる。
【0020】
具体的な飲食品の例としては、緑茶、ウーロン茶や紅茶等の茶飲料、コーヒー飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、発酵乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、アルコール飲料、精製水等の飲料、バター、ジャム、ふりかけ、マーガリン等のスプレッド類、マヨネーズ、ショートニング、クリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、牛乳、ヨーグルト、スープ又はソース類、ベーカリー類(パン、パイ、ケーキ、クッキー、ビスケット、クラッカー等)、菓子(ビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット等)、栄養補助食品(丸剤、錠剤、ゼリー剤又はカプセル剤等の形態を有するサプリメント、グラノーラ様シリアル、グラノーラ様スネークバー、シリアルバー)等が挙げられる。
【0021】
本発明における飼料は、上記飲食品とほぼ同様の組成や形態で利用できることから、本明細書における飲食品に関する記載は、飼料についても同様に当てはめることができる。
【0022】
本発明における飲食品及び飼料は、本発明の組成物に、飲食品や飼料の製造に用いられる他の飲食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、各種油脂、種々の添加剤(呈味成分、甘味料、有機酸等の酸味料、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、フレーバー等)等を配合して、常法に従って製造することができる。あるいは、通常食されている飲食品又は飼料に、本発明の組成物を配合することにより、本発明に係る飲食品又は飼料を製造することもできる。
【0023】
本発明における医薬品、飲食品又は飼料に含まれる本発明の組成物の含有量は、所望するフルクトース誘導性疾患の予防又は改善に効果が得られる量であればよく、医薬の剤型や飲食品の形態、投与又は摂取する個体の種、症状、年齢、性別等に応じて適宜変更され得るが、1-ケストースの摂取量(投与量)として、例えば、1日あたり40mg/kg体重以上を挙げることができる。係る摂取量は、1日1回に限らず、複数回に分割して摂取してもよい。
【実施例】
【0024】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。本実施例においては、1-ケストースは「ケストース」と称す。
【0025】
[飼料の調製]
フルクトース誘導性の病態惹起群(FCとも称す)及びケストース群(FKとも称す)の飼料は、高フルクトース飼料(F2HFrD)(オリエンタル酵母工業株式会社)をベースに、表1の飼料組成にて調製した。具体的には、FC用としてセルロース5.499%及びα化コーンスターチ3.750%を、FK用としてセルロース1.749%及びケストース7.500%を、それぞれ配合した。これらの配合飼料は、グラムあたりのエネルギーがほぼ等しくなるように調製した。正常動物群(CTとも称す)には、通常の飼育に用いる飼料(CRF-1)を使用した。ケストースはベビーオリゴ(登録商標)(物産フードサイエンス株式会社)を用いた。
【0026】
【0027】
[動物試験の実施]
入荷後5日間の検疫期間、その後2日間の馴化期間が完了した7週齢のSDオスラットを、群分け前日の各群の平均体重及び群分け前日のトリグリセライド(TGとも称す)値が各群ほぼ等しくなるように8匹毎に群分けした後、各飼料を28日間給餌した。体重測定は、1週間に1回実施した。また、1週間に1回、給餌器ごとに給餌量を測定し、その翌日に給餌器ごとに残量を測定した。給餌量と残量の差から1日あたりの摂餌量を算出した。投与28日目に動物を安楽死させ、精巣周囲脂肪、腎周囲脂肪、腸間膜脂肪を摘出し、重量を測定した。
【0028】
[実施例1]
上記の通り試験を行い、各飼料における投与28日目の体重を測定したところ、
図1及び表2の結果が得られた。病態惹起群と比較して、ケストース群では体重に差が見られなかった。
【0029】
[実施例2]
上記の通り試験を行い、各飼料における投与26日目から27日目の1日あたりの摂餌量を算出したところ、
図2及び表2の結果が得られた。病態惹起群と比較して、ケストース群では1日あたりの摂餌量に差が見られなかった。
【0030】
[実施例3]
上記の通り試験を行い、各飼料における投与28日目の精巣周囲脂肪重量を測定し、体重100gあたりの重量として算出したところ、
図3及び表2の結果が得られた。正常動物群と比較して、病態惹起群では体重100gあたりの精巣周囲脂肪重量が増加したが、ケストース群ではこの増加が見られなかった。よって、内臓脂肪重量の増加に対する抑制効果がケストース群において確認され、ケストースによりメタボリックシンドロームが改善されることがわかった。
【0031】
[実施例4]
上記の通り試験を行い、各飼料における投与28日目の腎周囲脂肪重量を測定し、体重100gあたりの重量として算出したところ、
図4及び表2の結果が得られた。正常動物群と比較して、病態惹起群では体重100gあたりの腎周囲脂肪重量が増加したが、ケストース群ではこの増加が見られなかった。よって、内臓脂肪重量の増加に対する抑制効果がケストース群において確認され、ケストースによりメタボリックシンドロームが改善されることがわかった。
【0032】
[実施例5]
上記の通り試験を行い、各飼料における投与28日目の腸間膜脂肪重量を測定し、体重100gあたりの重量として算出したところ、
図5及び表2の結果が得られた。正常動物群及び病態惹起群と比較して、ケストース群では体重100gあたりの腸間膜脂肪重量の減少が見られた。よって、ケストース群における内臓脂肪重量の減少効果が確認され、ケストースによりメタボリックシンドロームが予防されることがわかった。
【0033】
[実施例6]
上記の通り試験を行い、各飼料における投与28日目の精巣周囲脂肪重量、腎周囲脂肪重量、腸間膜脂肪重量を合算し、体重100gあたりの重量として内臓脂肪重量を算出したところ、
図6及び表2の結果が得られた。正常動物群と比較して、病態惹起群では体重100gあたりの内臓脂肪重量が増加したが、ケストース群ではこの増加が見られなかった。よって、内臓脂肪重量の増加に対する抑制効果がケストース群において確認され、ケストースによりメタボリックシンドロームが改善されることがわかった。
【0034】