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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】統合された注射システムおよび通信装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/172 20060101AFI20220216BHJP
   A61M 5/168 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
A61M5/172
A61M5/168 550
A61M5/168 540
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020070967
(22)【出願日】2020-04-10
(62)【分割の表示】P 2016242404の分割
【原出願日】2013-07-10
(65)【公開番号】P2020110667
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】61/669,846
(32)【優先日】2012-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】310021434
【氏名又は名称】ベクトン ディキンソン フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロデリク ハウザー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ビュロー
(72)【発明者】
【氏名】エルベ モンショワ
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-524869(JP,A)
【文献】国際公開第99/032174(WO,A1)
【文献】特開昭57-086358(JP,A)
【文献】特表昭60-501790(JP,A)
【文献】特表2011-500290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/172
A61M 5/168
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
統合された注射システムであって、薬物送達部およびデータ送信機を備えた注射装置、ならびに、前記注射装置の外部にある通信装置を備えた注射システムにおいて、
前記注射装置は、少なくとも1つのセンサを含むデータ取得モジュールであって、注射の間の患者の代謝に関するデータを前記少なくとも1つのセンサによって感知するように構成されたデータ取得モジュールを含み、
前記データ送信機は、前記通信装置と電気的な通信をするように構成され、および、
前記データ送信機は、感知したデータの少なくとも一部を前記通信装置に送信するように構成され、
前記薬物送達部は針を備えており、および、該針の部分であって、前記注射の間に前記患者の体内に配置されるように意図されている部分に、前記少なくとも1つのセンサが配置され、
前記注射装置は、前記薬物送達部と前記データ送信機を囲む外側ハウジングをさらに備えており、前記薬物送達部は、前記患者に送達される医薬品を収容する内部リザーバを含み、並びに、前記針は、前記内部リザーバと流体連通し、および、前記外側ハウジングの少なくとも一部を通って延びることが可能であり、
前記内部リザーバは、前記薬物送達部の基板層内に形成され、前記内部リザーバは前記基板層の表面に形成され、遠位端と近位端の間に延伸する円形の迷路を含み、
前記基板層は、前記円形の迷路を含む前記内部リザーバを形成するようにエッチングされ、
前記薬物送達部は、前記円形の迷路上の発熱層と、前記発熱層上に室温で固体の材料を含む放出リザーバとを含み、
前記放出リザーバは、前記放出リザーバと前記円形の迷路の間に流体流れを確立するための出口チャネルを有し、
前記発熱層は、電流が前記発熱層を通った際に発熱するように構成され、
前記出口チャネルは、前記内部リザーバの遠位端に対して開口し、前記内部リザーバの遠位端はストッパを含み、
前記発熱層の活動の際に、前記放出リザーバに含まれた前記材料は軟化するように構成され、前記出口チャネルを通って流れ、前記内部リザーバに入り、前記ストッパに力を及ぼして、それにより、強制的に前記内部リザーバを通って前記ストッパを前進させるように前記材料が流動可能となり、
前記ストッパは前記材料と前記医薬品との間の分離を維持する
統合された注射システム。
【請求項2】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記少なくとも1つのセンサは、前記注射の間に前記患者の体内に配置される、統合された注射システム。
【請求項3】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記データ送信機は、前記医薬品が前記内部リザーバから完全に放出された場合に前記通信装置に信号を送信するように構成されている、統合された注射システム。
【請求項4】
請求項3に記載の統合された注射システムにおいて、
前記通信装置は、前記信号に応答して前記内部リザーバから前記医薬品が放出されたことをユーザに警告する指標を提供するように構成されている、統合された注射システム。
【請求項5】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記少なくとも1つのセンサは、前記患者の身体的特性を測定するように構成されている、統合された注射システム。
【請求項6】
請求項5に記載の統合された注射システムにおいて、
前記身体的特性は、体温、心拍数、血圧、または、体脂肪組成物である、統合された注射システム。
【請求項7】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記通信装置は、前記感知したデータの少なくとも一部を分析して所定の処理ルーチンの順守を判定するように構成されている、統合された注射システム。
【請求項8】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記通信装置は、他の供給源から得られたデータとの相関において前記感知したデータを分析して所定の処理ルーチンの順守を判定するように構成されている、統合された注射システム。
【請求項9】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記注射装置と前記通信装置のうち少なくとも1つは、複数の異なる注射からの前記感知したデータをストアするように構成されている、統合された注射システム。
【請求項10】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記注射装置はさらに、前記感知したデータをストアするように構成された電子チップを含む、統合された注射システム。
【請求項11】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記データ送信機は、前記通信装置との前記電気的な通信を無線で行うように構成された無線送信機を含む、統合された注射システム。
【請求項12】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記データ送信機は、前記通信装置の対応するポートへの挿入のために構成されたピンコネクタを含む有線接続を備え、そのために、前記通信装置との前記電気的な通信が該線接続を介して行われるようになる、統合された注射システム。
【請求項13】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記注射装置はさらに内部電源を含む、統合された注射システム。
【請求項14】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記注射装置は前記通信装置から電力を受け取るように構成されている、統合された注射システム。
【請求項15】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記通信装置は、前記感知したデータの少なくとも一部を少なくとも1つの外部システムに送信するように構成されている、統合された注射システム。
【請求項16】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記通信装置は、前記感知したデータの少なくとも一部をユーザに提供するように構成されたユーザーインターフェイスディスプレイを含む、統合された注射システム。
【請求項17】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記少なくとも1つのセンサは、該医薬品が前記患者の体内に正常に注入されたか否かを検知するように構成されている、統合された注射システム。
【請求項18】
請求項17に記載の統合された注射システムにおいて、
前記注射の間に前記患者の身体の領域に配置されるように構成された受信装置をさらに備えており、前記注射装置は、予め定義された波形の電気信号を前記患者の体内へ針を通じて送信するように構成されており、および、前記受信装置は、前記予め定義された波形を識別および処理して、前記医薬品が前記患者の体内に注入されたかどうかを判定するように構成されている、統合された注射システム。
【請求項19】
請求項1に記載の統合された注射システムにおいて、
前記通信装置はスマートフォンである、統合された注射システム。
【請求項20】
統合された注射装置であって、薬物送達部およびデータ送信機を備えた注射装置、ならびに、前記注射装置の外部にある通信装置を備えた統合された注射装置において、
前記注射装置は、少なくとも1つのセンサを含むデータ取得モジュールであって、注射の間の患者の代謝に関するデータを前記少なくとも1つのセンサによって感知するように構成されたデータ取得モジュールを含み、
前記薬物送達部は針を備えており、および、該針の部分であって、前記注射の間に前記患者の体内に配置されるように意図されている部分に、前記少なくとも1つのセンサが配置され、
前記データ送信機は、前記通信装置と電気的な通信をするように構成され、および、
前記データ送信機は、感知したデータの少なくとも一部を前記通信装置に送信するように構成され、
前記注射装置は、前記薬物送達部と前記データ送信機を囲む外側ハウジングをさらに備えており、前記薬物送達部は、前記患者に送達される医薬品を収容する内部リザーバを含み、並びに、前記針は、前記内部リザーバと流体連通し、および、前記外側ハウジングの少なくとも一部を通って延びることが可能であり、
前記内部リザーバは、前記薬物送達部の基板層内に形成され、前記内部リザーバは前記基板層の表面に形成され、遠位端と近位端の間に延伸する円形の迷路を含み、
前記基板層は、前記円形の迷路を含む前記内部リザーバを形成するようにエッチングされ、
前記薬物送達部は、前記円形の迷路上の発熱層と、前記発熱層上に室温で固体の材料を含む放出リザーバとを含み、
前記放出リザーバは、前記放出リザーバと前記円形の迷路の間に流体流れを確立するための出口チャネルを有し、
前記発熱層は、電流が前記発熱層を通った際に発熱するように構成され、
前記出口チャネルは、前記内部リザーバの遠位端に対して開口し、前記内部リザーバの遠位端はストッパを含み、
前記発熱層の活動の際に、前記放出リザーバに含まれた前記材料は軟化するように構成され、前記出口チャネルを通って流れ、前記内部リザーバに入り、前記ストッパに力を及ぼして、それにり、強制的に前記内部リザーバを通って前記ストッパを前進させるように前記材料が流動可能となり、
前記ストッパは前記材料と前記医薬品との間の分離を維持する、統合された注射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、注射事象および患者の身体的特性に関するデータを収集して受信機に送信する注射装置を備えた統合された注射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘルスケアコミュニティでは、一人当たりの費用を低減しなければならないことが一般的に認められている。特に、人口が高齢化するに従い、および、国々が医療費に費やすお金がより少なくなるに従い、一人当たりの医療費の支払いに利用可能な金額はやむを得ず減少することになる。その結果、医療専門家を訪れることに関連する、単純な(例えば、非診断)手順のためのコストを排除するために、患者が自身でより多くの治療を実行するようになる。これは、糖尿病、関節リウマチ、または多発性硬化症を罹患した患者に既に発生しており、将来的に、避妊薬、化粧品、またはワクチンを含む他の治療の標準になる可能性がある。自分自身で治療を行う個人は、訓練された専門家から治療を受けている患者とは異なるニーズや要求を持っている。したがって、訓練されていない個人に魅力のある医薬品調剤装置の種類は、訓練された医療専門家が使用する装置の種類と異なってくる。
【0003】
急速に増加しつつある医療費は、医薬品をどのように患者に提供するか、および、処方薬の有効性をどのように評価するかを再評価する医療提供者を必要としている。例えば、医薬品の需給に対してより良好な制御を有することが必要である。また、慢性患者が医療費の大部分を占めることから、慢性疾患をより良好に管理することが必要である。詳細には、慢性患者のための過剰支出は、患者が規定の治療に従い損なった結果として一般的である。加えて、潜在的な健康への危険の予知および早期発見に焦点を当てる必要がある。
【0004】
現在、患者の規定の治療に対する順守は、一般的に、医療提供者に患者が自己申告した情報に基づいている。患者は、投薬された場合などの情報および糖尿病の場合には血糖値などのいくつかの診断情報を含む日誌をつけている場合がある。これらの例の各々において、治療と、場合によっては診断に対し、患者が重要な責任を負っていることに留意されたい。患者は所定量の医薬品を正しい時間に摂らなければならないだけではなく、さらに、その医薬品を服用したのか注射したのかを文書化し、検査(すなわち、インスリン値の血液検査)を実施し、その結果を記録し、および、幾つかの場合は、その結果を解釈して追加の医薬品を摂らなければならないかどうかを判断しなければならない。患者が実施しなければならない行為の数が増えるに従い、提供された指示を患者が順守しない可能性も増大する。
【0005】
あるいは、患者が医療施設を、投薬治療計画の過程で実施される検査を受けるために、様々な間隔で訪れることがある。診断手順のための医療施設への追加の訪問が必要であることで、医療費は増加する。加えて、患者はしばしば、検査および診断費用は治療より重要でないと考え、そして結果として、そのような検査の出費を喜んで負担しようとはしない。そのため、患者は、医薬品を依然として服用しつつ規定の検査を放棄するか、または、治療計画の過程の間で追加の検査を必要とするオプションの治療を完全に回避するかのどちらかであろう。
【0006】
したがって、治療活動の間、患者の健康状態の指標を提供するために、患者から情報を抽出することができる注射装置が必要とされている。継続的な診断をトリガするために、および、治療計画を必要に応じて変更するために、医療専門家が迅速かつ自動的に情報を利用できるようにすべきである。患者がもっとも治療の指示に従う可能性がある時を判定するため、および、患者が何故、治療の指示に従えないかの理由を理解するために、患者の規定の治療に対する順守および身体の状態に関する情報を、他の患者からのデータに対し相関させることができる必要がある。またデータを用いて、規定の治療にどのようにしてもっと従うかについて患者を指導することがあり、さらに、必要に応じて、患者の順守をさらに奨励するように治療オプションを変更することもある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態は、通信装置と電気的に接続される注射装置を含む、注射のための統合されたシステムに向けられている。外部通信装置は、スマートフォンなどのハンドヘルド電子デバイス、または、RFIDタグに含まれる情報を読み取ることができる読取り機などの専用読取り機であってよい。注射装置は、針、薬物送達部、および、外側ハウジングを含む。オプションで、複数のセンサを含むデータ取得モジュールが、針の表面に固定される。注射装置はさらに、注射についての、および、患者の身体の状態についての情報をストアする機能を有する電子チップを備える。電子チップは、不揮発性のメモリチップなどの読み書き可能な電子チップ、例えば、電気的に消去可能なプログム可能読み出し専用メモリ(EEPROM)であってよい。代替的に、電子チップは受動的に読み取られRFIDタグとすることができる。注射装置はさらに、データ取得モジュールから取得した情報を外部通信装置へ送信するためのデータ送信機を含むことができる。
【0008】
特定の構成では、データ送信機は、USBまたはFireWireポートなどの有線接続である。代替的に、データ送信機を、無線アンテナを含む無線通信モジュールとすることができる。
【0009】
特定の構成では、注射装置はさらに、バッテリなどの電源を含む。代替的に、注射装置を、スマートフォンなどの外部デバイスから直接または無線のいずれかで電力を受け取るように構成することができる。
【0010】
本発明はさらに、ユーザに送達される流体を収容するリザーバと、リザーバと流体連通するマイクロニードルであってハウジングの少なくとも一部を通って延びることが可能なマイクロニードルとを含む小型化された薬物送達部を含む。本発明の実施形態によれば、薬物送達部のマイクロニードルは、皮内注射用に構成される。オプションで、マイクロニードルは、ハウジングから約2mm延びて深さ2mmまでの注射を可能にするように構成される。別の構成では、ハウジングから約1mm延びて深さ1mmまでの注射を可能にするように構成される。
【0011】
薬物送達部の別の構成では、リザーバに収容される流体は、治療薬の一回投与量を含む。さらに、駆動機構は、標準的臨床投与率(standard clinical dose rate)で送達される一回分の連続投与量として、流体をリザーバから放出する。オプションで、この臨床率は
約10秒である。
【0012】
本発明の別の実施形態によれば、注射装置の薬物送達要素はさらに、駆動機構に係合するための作動化要素を含む。さらに、作動化要素がいったん係合されると、駆動機構は流体をリザーバから受動的に放出する。装置のハウジング上に作動化要素を配置してもよい。代替的に、作動化要素は、スマートフォンなどの外部デバイスや他のリモート配備上でユーザが実行する作動化動作によってトリガされる。
【0013】
自己注射装置の別の実施形態では、装置はさらに、流体がリザーバから完全に放出されて注射を完了するときにユーザに警告するインジケータを含む。オプションで、インジケータは、スマートフォンなどの外部装置上または他のリモート配備上に現れる外部指標である。
【0014】
装置の薬物送達部のリザーバの別の構成では、薬物送達部はさらに、リザーバの壁に配置された、リザーバを充填する際にリザーバにアクセスするための貫通可能な隔壁を含む。オプションで、貫通可能な隔壁は自己封止である。
【0015】
本発明の別の実施形態によれば、皮内注射装置は、ハウジングからの流体の放出を開始するための伝統的でない作動機構と、前記ハウジングからの該放出流体の受け手における痛みの知覚を低減するための機構と、該流体の前記ハウジングから患者への放出の完了に関する情報を提供するためのフィードバック機構とを含む。
【0016】
一構成では、フィードバック機構は一回投与終了の指標(end-of-dose indication)を含む。別の構成では、フィードバック機構は、治療の完了についての情報の第三者への送信を含む。
【0017】
本発明の実施形態によれば、統合された注射システムは、薬物送達部と、データ送信機と、少なくとも1つのセンサを含むデータ取得モジュールとを備えた注射装置を含む。前記データ取得モジュールは、注射事象の間の患者の身体の状態および/または行動についての情報を感知するように構成される。前記データ送信機は、前記注射装置の外部にある通信装置と電気的な通信をするように構成され、および、前記データ送信機はまた、感知した情報の少なくとも一部を前記通信装置に送信するように構成される。
【0018】
薬物送達部は針を含み、および、前記少なくとも1つのセンサは、該針の部分であって、前記注射事象の間に前記患者の体内に配置されるように意図されている部分に配置されてもよい。前記少なくとも1つのセンサは、前記注射事象の間に前記患者の体内に配置されてもよい。
【0019】
特定の構成において、前記注射装置は、前記薬物送達部と前記データ送信機を囲む外側ハウジングをさらに含み、前記薬物送達部は、前記患者に送達される医薬品を収容するリザーバを含み、並びに、前記針は、前記リザーバと流体連通し、および、前記外側ハウジングの少なくとも一部を通って延びることが可能である。前記データ送信機は、前記医薬品が前記リザーバから完全に放出された場合に前記通信装置に信号を送信するように構成してもよい。特定の構成では、前記通信装置は、前記信号に応答して前記リザーバから前記医薬品が放出されたことをユーザに警告する指標を提供するように構成されている。前記薬物送達部は、医薬品を前記注射装置から放出するように構成された駆動機構に係合するように構成された作動化要素を含むことができ、および、前記作動化要素は、ユーザが前記通信装置上で実行する作動化動作によってトリガされるように構成してもよい。
【0020】
他の構成では、前記センサは、前記患者の身体的特性を測定するように構成される。前記身体的特性は、代謝、体温、心拍数、血圧、または、体脂肪組成物であってよい。前記通信装置は、前記感知した情報の少なくとも一部を分析して所定の処理ルーチンの順守を判定するように構成してもよい。前記通信装置はまた、他の供給源から得られたデータとの相関において前記感知した情報を分析して所定の処理ルーチンの順守を判定するように構成してもよい。
【0021】
前記注射装置と前記通信装置のうち少なくとも1つは、複数の異なる注射事象からの前記感知した情報をストアするように構成されてもよい。前記注射装置はまた、前記感知した情報をストアするように構成された電子チップを含むことができる。前記電子チップは、注射装置のタイプ、前記注射事象の注射時間、または、前記注射事象についての注射位置のうち少なくとも1つを識別する情報をストアするようにさらに構成されてもよい。前記電子チップはまた、前記注射装置の製造工程または流通過程に関連する追加の情報をストアするように構成されてもよい。
【0022】
前記データ送信機は、前記通信装置との前記電気的な通信を無線で行うように構成された無線送信機を含むことができる。代替的に、データ送信機は、前記通信装置の対応するポートへの挿入のために構成されたピンコネクタを含む有線接続を備えることができ、そのために、前記通信装置との前記電気的な通信が該有線接続を介して行われるようになる。オプションで、前記注射装置はさらに内部電源を含む。代替的に、前記注射装置は前記通信装置から電力を受け取るように構成される。
【0023】
特定の実施形態において、前記通信装置は、前記感知した情報の少なくとも一部を少なくとも1つの外部システムに送信するように構成される。前記通信装置は、前記感知した情報の少なくとも一部をユーザに提供するように構成されたユーザーインターフェイスディスプレイを含むことができる。
【0024】
他の構成では、前記注射システムは、医薬品を前記薬物送達部内にさらに含み、前記センサは、該医薬品が前記患者の体内に正常に注入されたか否かを検知するように構成されている。特定の構成では、前記注射システムは、前記注射事象の間に前記患者の身体の領域に配置されるように構成された受信装置をさらに備える。前記注射装置は、予め定義された波形の電気信号を前記患者の体内へ針を通じて送信するように構成され、および、前記受信装置は、前記予め定義された波形を識別および処理して、前記医薬品が前記患者の体内に注入されたかどうかを判定するように構成される。オプションで、前記通信装置はスマートフォンであってよい。
【0025】
本発明の別の実施形態によれば、統合された注射装置は、薬物送達部と、データ送信機と、少なくとも1つのセンサを含むデータ取得モジュールとを備えた注射装置を含む。前記データ取得モジュールは、注射事象の間の患者の身体の状態および/または行動についての情報を感知するように構成される。前記データ送信機は、前記注射装置の外部にある通信装置と電気的な通信をするように構成され、および、前記データ送信機はまた、感知した情報の少なくとも一部を前記通信装置に送信するように構成されている。
【0026】
本発明の別の実施形態によれば、注射事象をモニタするための方法は、注射装置により、医薬品を患者の身体に送達するステップを含む。この方法はまた、前記注射装置のデータ取得モジュールの少なくとも1つのセンサにより、前記注射事象の間の前記患者の身体の状態および/または行動についての情報を感知するステップ、および、前記注射装置のデータ送信機により、前記注射装置の外部にある通信装置との電気的な通信を確立するステップを含む。この方法はさらに、前記注射装置の前記データ送信機により、感知した情報の少なくとも一部を前記通信装置に送信するステップを含む。
【0027】
本発明の理解を容易にする目的のため、添付図面と説明がその好ましい実施形態を示しており、其処から、本発明、その構造の様々な実施形態、動作の構成と方法、および、多くの利点を理解し、認識し得よう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A】本発明の実施形態による、組み合わされた注射装置およびスマートフォンの分解斜視図である。
図1B】本発明の実施形態による図1Aの注射装置およびスマートフォンの側面図である。
図2】本発明の実施形態による図1Aの注射装置およびスマートフォンの底部の斜視図である。
図3A】本発明の実施形態による、スマートフォンに接続された注射装置の斜視図である。
図3B】本発明の実施形態による図3Aの注射装置の斜視図である。
図4】本発明の実施形態による図3Aの注射装置の斜視図である。
図5A】本発明の実施形態による図3Aの注射装置の平面図である。
図5B】本発明の実施形態による図3Aの注射装置の側面図である。
図6A】本発明の実施形態による注射装置の流体リザーバの平面図である。
図6B】本発明の実施形態による図6Aの流体リザーバの側面図である。
図7A】本発明の実施形態による図6Aの流体リザーバの部分拡大平面図である。
図7B】本発明の実施形態による図6Aの流体リザーバの拡大部分側面図である。
図8A】本発明の実施形態による注射装置の薬物送達部の側面図である。
図8B】本発明の実施形態による図8Aの薬物送達部の拡大部分側面図である。
図9】本発明の実施形態による注射装置の薬物送達部の分解斜視図である。
図10】本発明の実施形態による注射装置の薬物送達部の分解斜視図である。
図11】本発明の実施形態による注射装置であって、そこから取り外される被覆層を備えた注射装置の斜視図である。
図12A】本発明の実施形態による注射装置の薬物送達部の斜視図である。
図12B】本発明の実施形態による図12Aの薬物送達部の底部の斜視図である。
図13】本発明の実施形態による、組み合わされた注射装置および通信装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を実施するために企図された、記述した実施形態を当業者が作って使用することを可能にするために、以下の説明を提供する。しかしながら、種々の修正、均等物、変形、および、代替が、当業者には容易に明らかなままであろう。修正、均等物、変形、および、代替のいずれも、または全てが、本発明の精神および範囲内に含まれる。
【0030】
なお、以下の説明の目的のために、用語「上」、「下」、「右」、「左」、「垂直」、「水平」、「上部」、「底部」、「横」、「縦」、および、これらの派生語は、図面中で配向されたとおりに本発明に関連するものとする。しかしながら、別段の指定のない限り、本発明が代替の変形および工程順序をとり得ることを理解すべきである。また、添付の図面に示され、以下の詳細な説明に記載される特定の装置およびプロセスは、単に本発明の例示的な実施形態であることを理解すべきである。したがって、本明細書中に開示された実施形態に関連する特定の寸法および他の身体的特性を、限定として考えるべきではない。
【0031】
図1A~5Bおよび図13を参照すると、本発明は、注射装置10を含む統合された注射装置および通信装置に関する。注射装置は、薬物送達部28、少なくとも1つのセンサ16を含むデータ取得モジュール36、受信機38、電子チップ40、通信装置Aと通信するデータ送信機42、および/又は、内部電源44を含むことができる。通信装置Aはスマートフォンであってよく、ユーザーインターフェイスディスプレイ46を含む。注射装置10は、注射事象の間の患者の身体の状態や行動に関する情報を検出すること、および、記録することができる。詳細には、針12は患者の体内にあり、その結果として、理想的には、組織標本にアクセスして患者の代謝に関するデータを得るように位置決めされる。本発明の非限定的な一実施形態では、代謝および他の身体的な特性を測定するために、センサ16が針12の末端14に埋め込まれる。センサは、代謝を推定するための有用な情報を提供する、限定ではなく体温、心拍数、血圧、または体脂肪組成を測定するセンサを含む、適切な大きさの市販のセンサのどのようなタイプであってもよい。代謝データを使用して、所定の治療計画の順守、身体の活動、全体的な健康状態、および身体的な健康な状態などの、患者の行動に関する一般的な結論を引き出すことができる。注射が定期的に予定されている患者については、一貫してデータを回収することができ、それによって、身体的なパラメータの経時的な変化の指標が提供される。データを取得し、ストアし、他の供給源から得られた証拠と相関させて患者の行動および身体的な状態についてさらに多くの結論を引き出すことができる。患者の体内に針12を挿入することで、患者が追加の医療検査手順を受けることを必要とすることなく、代謝などの身体的特性を測定する便利な方法が提供される。詳細には、注射装置10を使用して、糖尿病、関節リウマチ、多発性硬化症などの慢性症状を患っている患者について、または、より一時的な状態であるにしろ、注射による一貫した医薬品の投与を必要とする状態を患っている患者について、データを収集することができる。
【0032】
他の構成では、本発明の注射システムを使用して、そうでなくとも医療検査に応じない、概して健康な患者についての患者健康データを収集することができる。例えば、毎年のインフルエンザの予防接種を受けて健康な個人は、年間を通じて医療関係者と他の交流がないことがある。そのため、毎年のワクチン接種は、データを収集できる可能性があって追加の要件を個人に課すことがないであろう唯一の時間である。そのため、予防接種の際にデータを収集することで、個人が単に無視するか実行するのを失敗することがある追加要件を課すことなく、個人を十分にモニタすることを確実にする魅力的な方法が提供される。
【0033】
本発明の針12は、限定ではなくスタンドアローン皮下注射針、ペン針、自己注射器、カテーテル、小型化された自己注射装置、薬物送達パッチを含み、患者の皮膚組織に針が進入する、どのような既知の注射装置10で使用するのにも適合される。本発明は、診断のために使用され、後の値との比較のために記録され、または患者の行動について結論を引き出すために相関付けされる有用な患者データを収集するための機会として、薬物送達のために針12の末端14が患者に挿入されるという事実を利用することに焦点を当てている。
【0034】
いくつかの実施形態では、システムはさらに、注射が完了した後、一斉にデータをデータ管理システムに直接ダウンロードすることによって、またはデータを有線または無線データ伝送システムを介して同時に転送することによって、測定されたデータを遠隔で利用できるように構成された通信メカニズムを含む。データは、限定ではなく、介護者(家族および責任ある医療従事者の両方)、薬剤師、医師、病院、診療所、説明ケア組織(accountable care organizations)、薬剤給付管理者、疾病管理会社、製薬会社、保険会社、ソーシャルサービスプロバイダー(米国のMedicare and Medicaidまたは仏国のCaisse Na
tionale d'Assurance Maladieなど)、または非政府組織を含む、患者の身体の状態および治療の順守に関心を持っている、利害関係者の何人にでも転送できる。
【0035】
非限定的な一実施形態では、システムはさらに、注射装置自体に関する情報をストアするデータ取得モジュールを含む。一実施形態では、データ取得モジュールは注射に関する次のような情報をストアする機能を備えた電子チップである。注射装置の種類、装置のロットおよび/またはシリアル番号、製造者名、日付、製造場所、医薬品のタイプ、医薬品の有効期限。一実施形態では、電子チップに電気が供給されていなくとも、情報がチップ上に残る。電子チップのこのタイプの例は、消去可能なプログラム可能読み出し専用メモリ(EEPROM)を有するチップである。この実施形態では、個別に書き込み/消去可能なブロックとして、データがストアされる。さらに、この構成ではチップ上に含まれるデータを削除でき、追加でき、および、チップのライフサイクルを通じて何度も読み取ることができることが理解できる。電子チップのいくつかの実施形態では、チップに物理的に接触する必要なしに、チップにデータを書き込むことまたはチップから読み取ることができる。例えば、磁気誘導によってチップの内容を変更することができる。特定の構成では、電子チップは、注射システムの表面上に配置すること、または、注射システムの例えば針シールド、剛性針シールドおよび/またはプラスチックの剛性先端キャップなどの構成要素内に埋め込むことのどちらかが可能である。
【0036】
患者すなわちユーザは、専用のユーザーインターフェイスとして機能するソフトウェアアプリケーションを実行しているスマートフォンAを使用して、針12によって収集されたデータを確認できる。情報はまた、スマートフォンの通信装置を使用して、選択された利害関係者に直接、またはリモートデータサーバに送信することができる。一実施形態では、スマートフォンAはまた、注射装置10を制御するためのソフトウェアをホストする。例えば、ユーザは、注射を開始するために、スマートフォンAの画面上の電子ボタンを押すことが必要なことがある。ユーザーインターフェイスソフトウェアは、スマートフォンAの画面上に指標を提示することによって、注射がいつ完了したかをユーザに警告することができる。特定の実施形態では、処方および医薬品摂取スケジュールを患者の順守のモニタの目的のためにスマートフォンAにストアすることができることも理解できよう。
【0037】
ここで図1A~2を参照すると、注射装置10はさらに、外側ハウジング部20を含む。針12は、外側ハウジング部20を通って延びる。一実施形態では、外側ハウジング20の上端部22は、スマートフォンAなどの携帯型電子通信装置の底面に付着するように適合されている。ユニバーサルシリアルバス(USB)ポートまたはファイヤワイヤポートなどの任意の市販のデータ接続アセンブリを用いて、注射装置とスマートフォンAの間に電気的接続を確立することができる。注射装置に給電する電力および針に含まれるセンサからのデータの両方を、スマートフォンAと注射装置10の間で有線接続を介して転送することができる。あるいは、注射装置10とスマートフォンAの間の接続は無線接続であってもよい。注射装置のバッテリを、無線磁気誘導を介して再充電することができる。WiFiのような任意の市販の無線プロトコルを用いて、デバイス間でデータを転送することができる。WiFiは、電波を利用してデジタルデータをIEEE 802.11標準に基づいて伝送するための無線データ伝送プロトコルである。さらなる例示的な市販の無線通信モジュールは、Bluetooth(登録商標)、近距離無線通信(NFC)、Zigbee(登録商標)、またはANT信号を送信する無線アンテナを含む。一般に、Bluetoothは、データが短い距離で送信される必要がある低電力用途に好適である。WiFiはより大きな電力消費であるが、データ伝送範囲もより大きい。使用時には、注射装置10は、針12が皮膚を貫通して皮下組織への流体のアクセスを確立するように、患者の皮膚上に平らに置かれるように適合されている。ユーザは、以下でより詳細に説明する作動機構の一つに従って注射装置10を作動させ、その中に含まれる医薬品を、針12のカニューレ(図示せず)を介して注射装置10から放出させる。
【0038】
図3A図4を参照すると、注射装置のさらなる非限定的実施形態がスマートフォンAと関連して示されている。注射装置は、注射装置10の、スマートフォンAの対応するポートへの挿入に適合した側から延びるピンコネクタ18を含む。ピンコネクタ18は、注射装置10とスマートフォンAの間でデータおよび命令を転送するために使用される。特定の構成では、ピンコネクタ18は、ユニバーサルシリアルバス(USB)のポートに受け入れられるようになっているピン配列である。スペースを節約するために、および、注射装置10が多数の市販の携帯電話と互換性があることを確実にするために、ピン配列はミニUSBまたはマイクロUSBプラグとして構成することができる。
【0039】
スマートフォンAは、電子チップおよび注射装置10の他の要素に直接電力を供給することができる。代替的に、電子チップは、薄膜電池などの内蔵電源を含むことができる。さらなる実施形態では、電子チップは、電磁誘導によって外部装置を介して無線で充電することができる、埋め込まれた充電可能なバッテリを有する。代替的に、電子チップは、エネルギ取り入れ装置によって供給されるエネルギによって電源を供給されており、また、注射装置10に装着されている。例示的な実施形態では、エネルギ取り入れ装置は、注射装置10の可動部から給電される運動発生器である。代替的に、体温を用いて電気を生成して、電子チップに電力を供給することができる。
【0040】
さらなる実施形態では、電子チップは、注射装置10の部分に固定された、不揮発性メモリを備えた受動型RFIDタグである。有利には、受動型RFIDタグは動作用の電力を受ける必要がない。RFIDタグは、外部給電される読取り装置を用いて読み取られる。RFID技術の更なる利点は、タグと外部読取り機の間の物理的接触を必要とせずにRFIDタグが読み取れることである。代わりに、チップまたはRFIDタグに含まれる情報は、磁気誘導を介して読取り機に送信される。読取り装置は、Bluetooth、WiFi、NFC(近距離無線通信)、Zigbee、またはANTアンテナのような無線通信送信機を含んでもよいことがさらに理解される。注射装置10から読取り機にアップロードされたデータを、ストア、収集、および分析のために、無線送信機によって他の外部装置に送信することが可能になる。例えば、データを、スマートフォン、タブレット、またはラップトップコンピュータなどの携帯型電子機器に転送することができる。ユーザすなわち患者は、収集したデータを検討するために、これらの電子機器を使用することができる。システムは、さらに、記録されたデータをユーザが容易に理解する形式で分類および提供するインターフェイスソフトウェアを含むことができる。前述の統合されたシステムの他の実施形態と同様に、データはまた、例えば家族、医師、介護者、または疾病管理会社など、利害関係がある第三者によるさらなる活用のために、選択した利害関係者またはリモートデータサーバへ読取り機から直接、送信することができる。
【0041】
使用時には、上述したいずれかの構成にしたがった統合された注射装置も、生産から注射まで特定の医薬品を追跡する在庫管理のために、および、注射装置または医薬品の偽造を防止するために使用することができる。例えば、読取り装置は、流通網に沿って、例えば注射装置のメーカー、製薬会社の充填工場、販売代理店の倉庫、小売業者、および、実際のユーザの位置などのキー位置に配置することができる。流通網全体で、許可された人が適切なセキュリティ機能を備えた専用のデータ入力装置を用いて、電子チップに製造および流通過程についての追加情報を「書き込む」ことができる。情報は、流通網および/または製造の間のより後の時点で、専用装置によってまたはスマートフォンなどの汎用のハンドヘルドデバイスのいずれかによって読み取ることができる。
【0042】
一般的には、生産および流通網内のいずれのエンティティも、電子チップまたはRFIDタグに含まれるデータを読み取ることを可能とされることになる。偽造および他のセキュリティ侵害を防止するために、書込み機能は、その目的のために開発された専用のデバイスを使用して、許可された者だけに制限されるべきである。一実施形態では、「読み取り(reading)」は、読取り機の情報(位置、識別、日付、時刻)を選択した関係者に、任意のセキュアな無線または有線データ通信プロトコルを介して送信することを含むことがある。例えば、創始者(例えば、製造者)がデバイスを販売代理店に出荷することがある。流通施設に位置する読取り機によってデバイスが「読み取られる(read)」と、メッセージが創始者に送信されて、製品が受取られたことをそれに警告する。このように、システムを使用して、出荷リードタイムをモニタするのを助け、それによって流通ネットワークを最適化することができる。
【0043】
同じシステムを使用して、人は、製品リコールの場合の製品の一まとまり全体を迅速かつ容易に突き止めることができ、それによってリコール作業がスピードアップされる。最も有利には、システムは、製造および流通業績のリアルタイムデータをユーザが収集することを可能にする。
【0044】
代替実施形態では、本発明のシステムを使用して、例えば慢性疾患管理のため等の医薬品配布および投与の順守およびモニタリングを改善することができる。具体的には、本発明によるシステムを使用して、装置の使用に関するデータであって、医薬品が患者の体内に正常に注入されたか否かを含むデータを記録および送信することができる。一実施形態では、この使用情報は、注射が発生した後、読取り機に近接して注射装置を通過させることにより集められる。例えば、使い捨てデバイスの場合には、空のデバイスが適切に配置されたことを記録するように、使い捨て容器の開口部に読取り機を位置させることができる。使い捨てでないデバイスについては、デバイスの作動化により、関係者に注射が発生したというデータの送信をトリガすることができる。
【0045】
いくつかのケースでは、医薬品が装置から放出されたことを記録するだけでは関係者を満足させるのに十分でない場合がある。代わりに、薬剤が患者の体に注入されたことの証明が必要とされることがある。その場合、本発明の一実施形態では、事前定義された波形の電気信号が、電子チップから注射針を介して患者の体内に送信される。体の導電率の結果として、この事前定義された信号を、患者の身体の別の領域に配置された受信機によって識別および処理することができる。受信機によって測定した信号の波形が基準注射信号波形と実質的に同様である場合、注射が完了したことが推定される。注射完了の指標のとたんに、注射時間、場所に関連するデータ、並びに他のデータが、注射装置自体または取り付けられた電子機器のデータ伝送機能を使用して、関係者に送信される。
【0046】
注射に関する、このデータを集めることにより、注射期間および頻度を処方量と比較して、患者の全体的な順守度を評価することができる。順守モニタ目的のために、処方および医薬品摂取スケジュールを、読取り装置のメモリまたはユーザのスマートフォンのメモリのどちらかにストアしてもよい。また、専用の読取り機または接続したスマートフォンまたはタブレットに含まれたアプリケーションソフトウェアを、各スケジュールされた注射の前に患者にリマインダを送信するように設計することができる。服用が抜けた場合、より緊急のリマインダを患者に送信することができる。患者がリマインダに適時に応答しない場合、追加のリマインダを、例えば家族の一員、介護者、医薬品を処方した医療専門家、または、追加のステップを取ることができる特殊な順守監督サービスなどの他の利害関係者に送信して、所定の治療計画に従うように患者を奨励することができる。
【0047】
一実施形態では、疾病管理会社(DMC)で使用するためにシステムを採用することができる。DMCはデバイスからの記録されたデータを使用して、少なくとも医療指示を喜んで順守するメンバーに向けた取り組みをパーソナライズすることができる。そのため、DMCは、よりよく、追加のケアや監視をほとんど必要とするそれらのメンバーにリソースを募ることができる。例えば、システムの一実施形態によれば、DMCおよび健康保険会社は、このような統合された注射装置の使用が欠かせないプログラムに、そのメンバーを登録することになる。要求される順守レベルを患者が維持している限り、メンバーは、よりよい担保範囲や割引料金などのインセンティブを提供されることができた。
【0048】
患者の順守をモニタすることに加えて、患者の順守に関する情報を薬局に送信して、在庫管理を改善することができる。また、薬局がこの情報を使用して、患者の処方箋を適切な時点で自動的に補充し、さらには、患者に必要とされる医薬品を服用することについて責任の量を減らすことができる。
【0049】
引き続き図1A図5Bを参照すると、統合された薬物送達システムで使用するための様々な注射装置10が示されている。一実施形態では、図6B~8Aに示すように、注射装置10の外側ハウジング20と医薬品を収容する内部リザーバ30の大きさの間の関係は、例えば、そのデバイスを使用して注射を行う際にユーザの信頼性を高める要因などの「人的要因」を改善するように最適化されている。人的要因はまた、医療訓練を受けていない個人のためのデバイスの使用容易性、注射に誤りが起きないというユーザの認識、全用量が投与された用量終了時の信頼、および、医薬品を投与するためのスケジュールされた時間をユーザが見逃すことはないという信頼も含むことができる。一般的に、訓練された医療専門家の助けを必要とせずに非医療従事者が注射を行うことができるように、デバイスは、より少ない医療訓練とよりシンプルな投与プロトコルを必要とする、より「インテリジェント」な設計とされるべきであることが理解される。
【0050】
本発明はさらに、コンパシティ比(Compacity ratio)が、ユーザ体験を向上させるように設計された装置の薬物送達部と装置の他の部分の間の関係の有効な指標であることを
認識する。コンパシティ比は次のように定義される。
【0051】
コンパシティ比=V°/V
上の式において、V°は、アクチュエータ、リザーバ、接続部、またはプランジャを含む、注射装置の総容積である。Vは患者に送達される液体の容積である。コンパシティ比は、マイクロマシン技術(MEMS)デバイス内の空間の最適化の指標を与えるもので、MEMSのどれくらいの容積が送達に使用可能な液体の容積に近いかを示す。コンパシティ比が高いほど、デバイスの薬物送達部のサイズに関連する機能的な考慮に基づいてというより、むしろ人間の特性と考慮事項に基づいてデバイスが設計された可能性が高い。
【0052】
ここで図6A図8Bを参照すると、注射装置10の薬物送達部28が、本発明の非限定的な一実施形態により、図示されている。薬物送達部28は、流体を収容する内部リザーバ30と流体連通する針12などの送達構造を含む。流体送達を容易にするための別の構造は、注射用カテーテル、経口送達のためのストロー、または、経鼻または経肺送達するためのノズルを含む。図8Aおよび8Bの実施形態では、針12は、デバイスの一方の端部上に患者穿刺端部24を持ち、および、反対側の端部26を流体収容のリザーバ30に関連して持つ、中空の小型化された針である。カニューレ(図示せず)が、流体の流れのための通路を形成する針を通じて長手方向に延びている。針12は、適切な強度特性を有する任意の材料であって、ユーザの皮膚を貫通するのに十分な先端に先鋭化され得る任意の材料から形成することができる。例示的な材料として、金属、金属合金、および、医療グレードの高密度ポリマーが挙げられる。針12の寸法は、装置が皮内ワクチン接種の目的のために準備されている、治療薬または薬物の種類に大きく依存しているが、針12は、約0.3から0.5mmの断面の直径で約2から4mmの長さになる。使用時には、本発明の一実施形態によれば、針12は、注射装置10の薬物送達部28の基部からおよそ1から2mm延びて、ユーザの皮膚に針12が1~2mmの間の深さまで入ることを可能にする。
【0053】
針12は、注射の痛みをさらに軽減して、それによって、注射をしてもらうことにしばしば関連する恐怖および期待を低減するように適合され得ることがさらに理解される。上述したように、恐怖および期待は、潜在的なユーザが自己注射装置および手法を採用することを阻む「人的要因」のうちの2つである。一般的に、注射による痛みは、皮膚への傷害によるよりも、むしろ注射溶液のpHすなわちイオン力により、並びに、注入された液体の容積を受け入れことができる、内部組織内のスペースを「フリー(free)」にするような内部組織の分裂により起きる。したがって、痛みの軽減方法をこれらの溶液の力に対抗するように使用して、効果的に痛みを軽減することができる。例えば、麻酔薬または鎮痛剤または鎮痛薬を針12に塗布することができる。鎮痛剤は、注射後に患者の皮膚に拡散して痛みの感覚を軽減する、針12の表面の疎水性ポリマーコーティングの形態であってもよい。一実施形態では、リドカイン、プリロカイン、テトラカイン、アメトップゲル(ametop gel)、またはトラマドールなどの鎮痛薬または麻酔薬がシリコンオイル中で溶解又は分散又は乳化し、および、その混合物が針上にスプレーまたは浸漬被覆される。また、針表面に入り込んだ塩分は、注入された溶液のイオン力に対抗することによる同じような痛み低減効果がある。リドカイン、プリロカイン、テトラカイン、アメトップゲル、または、トラマドールなどの鎮痛薬または他の局所麻痺剤を、針が皮膚を貫通することに伴う痛みの感覚を低減するために注射前および/またはワクチン接種の前に患者の皮膚につけてもよい。さらなる実施形態では、針および皮膚との接触ゾーンを、材料が蒸発するときに注射部位周囲の皮膚を麻痺させる麻痺剤、例えば、塩化エチルで含浸してもよい。
【0054】
送達構造すなわち針12は、リザーバ30と患者の間に流体連通を確立する。リザーバ30は、放出メカニズムによって空にされている。デバイスの非限定的な一実施形態によれば、リザーバ30は、流体の放出に積極的な役割を果たす。例えば、プランジャ型部分は、針からの放出のためにリザーバを介して液体を押すことができる。あるいは、リザーバ30の一部が変形可能であってもよく、押圧されて液体を放出することができる(例えば、マイクロインヒューザ中の折り畳み可能なリザーバ)。本発明の他の実施形態によれば、リザーバ30は受動型であり、流体を放出するための構造を含まない、または組み込まない。代わりに、リザーバは単に液体を収容し、外部ポンピング機構が液体をリザーバから引き抜く。
【0055】
身体のほとんどの領域で、深さ1~2mmの注射が皮膚の表皮層を通って貫通しおよび延びて、真皮への直接の薬物の送達を可能にする。有利には、表皮を通して拡散することができない多くの治療薬は、真皮層を通って拡散することができる。しかしながら、皮膚のいくつかの領域において表皮の深さが変化し、1.5mmの厚みであることに留意されたい。皮膚のより厚い場所に送達されることを意図する注射については、増大した皮膚の厚さを補償するために、穿刺深さを増加しなければならない。
【0056】
図6Aおよび図6Bを参照すると、治療薬を収容するリザーバ30が、装置の送達部28の基板層32内に形成されている。非限定的な一実施形態によれば、リザーバは、基板層32の表面に形成された円形の迷路である。基板はシリコン又はガラスから作られ、より一般的には、リザーバ30を形成するようにリソグラフィーによりパターニングされエッチングされて得るどのような材料からも作られる。基板層32の材料の選択は、リザーバ30内に含まれる治療剤の組成によってほとんど追い込まれる。具体的には、基板材料は治療剤に対し非反応性でなければならない。ガラス、例えばホウケイ酸系1のガラスは、多くは不活性且つ非反応性であり、それを多くの用途のための優れた基板材料にする。ガラスはまた、水と酸素の両方を通さない。あるいは、リザーバは、事前に製造された、基板層32に固定される構造であってもよい。針12は、リザーバ30から基板層32を通って延びている。リザーバ30の容量は、ユーザに送達される治療剤の一回投与量と密接に対応するように選択される。リザーバ30を投与容量に基づいて構成することにより、注入される流体がリザーバ容量の大部分を占め、極わずかな無駄なスペースを残して装置の送達部28の全体のサイズを縮小する。対照的に、従来のシリンジでは、流体は、総タンク容量の1/3以下だけを満たすことができる。
【0057】
上述のコンパシティ比は、注入される流体の容積と装置の総容積の間の関係の指標を提供する。本発明はリザーバ自体の中に無駄なスペースを回避しようとするものであるが、それにもかかわらず、流体の容積を装置の注入部の総容量と比較して小さくなければならないことに留意されたい。そのようにして、リザーバ自体の構成より、むしろ人的要因が、デバイスの設計を導くことができる。
【0058】
図6A図8Bを参照すると、薬物送達部28はさらに、作動化要素(図示せず)および流体放出機構50を含む。作動化要素は、注射装置10のハウジング20から延びる隆起したボタンであってよい。あるいは、作動化要素は、信号がスマートフォンAから注射装置10に送信されたときに自動的に作動する電気的なスイッチである。流体は、室温において固体の、熱にさらされたときに流動可能となる材料に関しては、リザーバ30から放出される。例示的な材料は、パラフィンワックスである。発熱層54は、基板層32を含むリザーバ上に蒸着される。具体的には、発熱層54は、電流がそれらを流れると高温になる薄膜抵抗すなわち抵抗性コイル56を含んでいる。電流は、例えば上述した電源のうちの一つなどの電力源により提供される。流動性材料(例えば、パラフィンワックス)を含有する放出リザーバ52は、発熱層54の上に蒸着される。放出リザーバ52は、放出リザーバ52と内部リザーバ30の流体迷路との間の流体接続を確立するための出口チャネル58を含む。出口チャネル58は、内部リザーバ30の最も末端部分(すなわち、先頭)に開口している。
【0059】
発熱層54が作動されると、放出リザーバ52に含まれる材料が軟化して流動可能となることで、材料は出口チャネル58を通って下方へ流れる。流動性材料は、内部リザーバ30に、その最も末端部分において入る。流動性材料が内部リザーバ30に入るにしたがって、それがストッパ60に力を及ぼして、それにより、強制的に内部リザーバ30を通ってストッパ60を前進させる。ストッパ60は、流動性材料と流体治療薬の間の分離を維持する多様な構造または材料とすることができる。注目すべきは、材料は、熱に反応して劣化したり、リザーバ内に収容された流体または流動性材料のいずれかと不利に相互作用してはならない。非限定的な一実施形態では、ストッパ60は少量のシリコンオイルである。ストッパ60がリザーバ30を通って進行するにしたがい、そこに含まれる流体は、リザーバ30の中心に向かって押し進められる。流体は、ユーザに送達するためにリザーバ30の中心部に位置する針12を通ってリザーバを出る。
【0060】
ここで図9を参照すると、注射装置10の薬物送達部28のさらなる非限定的実施形態にしたがい、放出機構は、作動媒体を含む迷路を備えた放出リザーバ52を含んでいる。拡張可能なガス層154がリザーバ52の上方に位置しており、そのために、膨張しつつあるガスが、放出リザーバ52を押し下げることにより、放出リザーバ52から流体を放出する。ガス層154に含まれたガスが膨張するにしたがい、作動流体は、放出リザーバ52の迷路を通って押し進められる。放出流体は、放出リザーバ52から医薬品を収容しているリザーバ30へ、放出リザーバ52の外側の端に位置するポートを通って渡される。放出流体は流体リザーバ30に入り、そして治療剤を流体リザーバ30の迷路を通って押し進め、薬物送達装置から針のカニューレを介して流体を放出させる。放出リザーバ52を含む層および流体リザーバ30を含む層は、透過層156によって分離されている。透過性ガス層156は、空気に対して透過性であるガス放出層として機能し、ガス作動を停止する。詳細には、拡張可能なガス層154からのガスは、膨張したガスがリザーバ30上に圧力を及ぼさないように透過層156を通ってデバイスの薬物送達部28から拡散することができ、治療薬は装置の薬物送達部28から時期を早めて押し進められる。
【0061】
図10を参照すると、作動物質を収容する複数の放出層252と254および二重迷路を持つ流体リザーバ30を含む、注射装置10の薬物送達部28のさらなる実施形態が示されている。複数の層はそれぞれ放出ポート260を含み、そのために、デバイスがいったん作動されると、ワックスが各ポート260を通って流体リザーバ30に流れるようになっている。各放出ポート260からのワックスは、各放出層252、254を通って、迷路の独立の画定された経路に流れる。別個の放出層252,254からのワックスは、流体リザーバ30の別個の経路を通って同時に進行する。このように、装置の流体リザーバ30から一度に放出される治療剤の容積が増加する。
【0062】
ここで図11を参照すると、薬物送達部28のさらなる非限定的実施形態にしたがい、放出機構は圧電ポンプ352である。ポンプ352は迷路状のリザーバ30および針12のカニューレの両方と流体連通し、そのため、作動時に、ポンプ352はリザーバ30から治療薬を抽出し、針12を介して流体を放出する。非限定的な一実施形態では、ポンプ352は、独、ドルトムントのBartels Mikrotechnik社製造のBartels mp6 ポンプである。しかしながら、外側ハウジング内に適合するようにすることができる任意のマイクロポンプを、本発明の範囲内で用いることができる。また、流体圧力を増加させてポンプから流体が放出される速度を増加させるために、複数のポンプを含むように本発明を構成することができる。
【0063】
上述した自己注射器の薬物送達部は、インフルエンザワクチンの皮内注射の一回投与量(0.1ミリリットル)など、小容積の流体を保持するように設計されている。小容積の注入を必要とする他の応用には、他のワクチン(例えばHPVなど)の皮内注射、アレルギーの脱感作、および、緊急鎮痛剤(例えば、リドカイン)が含まれる。しかしながら、本発明の薬物送達装置は、より大容積の注入にも適用することができる。薬物送達部の上述の実施形態は、最大で約0.5ミリリットルのリザーバサイズに使用することができる。設計へのわずかな修正で、リザーバは、さらに100ミリリットルの範囲内の流体容積を収容するように適合され得る。より大容積の流体を収容することが可能な一構成は、より大きな総リザーバ容量を有する複合チップを作るように、より小容積の薬物送達チップを互いの上に積層することで得られる。
【0064】
図12Aおよび12Bを参照すると、一実施形態において、薬物送達装置はさらに、流体リザーバ30を充填するために用いられる貫通可能な隔壁を有するストッパ60を含む。使用時に、針はストッパ60を介してリザーバに挿入される。針は、シリンジまたは他の注射装置に結合してもよい。ユーザは、流体をリザーバ30へ、シリンジを用いて針を通じて放出する。このように、流体リザーバ30が充填され、患者への注射のために準備される。
【0065】
注射システムをハウジング内に設置し、そして、ワクチンやドラッグなどの治療薬で装置を充填する、小型化された注射システムの製造方法に、本発明のさらなる態様が引き付けられる。非限定的な一実施形態によれば、製造方法は、半導体およびエレクトロニクス産業で使用するために開発された製造プロセスであって、集積回路、電子パッケージ、および、他のマイクロエレクトロニクスやMEMSデバイスを作るために通常、使用されている製造プロセスに主に基づいている。本発明の製造方法に使用される他の技術は、微細加工の分野から適合される。しかしながら、以下に説明する製造方法は、注射装置を製造するための非限定的な例示的方法としてのみ意図されている。なお、本発明の自己注射装置は、半導体製造の原理に依存しないにもかかわらず、本発明の装置および方法の範囲内に入る、多数の他の方法で形成することができることが理解される。
【0066】
製造方法が注射装置の大規模バッチ製造を可能にしてコストを削減するだけでなく、市場のニーズに耐えうる速度でのリザーバの充填を可能にすることが望まれている。バッチ生産は、一度に単一のデバイスだけが作動される組立ラインの様式でというより、むしろ平行に、多数の物品が準備される製造技術である。バッチ製造によって注射装置の生産率を高め、それによってデバイスごとのコストを削減することが想像される。
【0067】
本発明の製造方法により、基板が提供される。オプションで、基板は、フロート処理および融合処理(オーバーフローダウンドロー法)を含む任意の許容される方法によって製造された薄いガラス層である。フロート処理(ピルキントンプロセスとしても知られている)は、溶融金属のベッド上に溶融ガラスをフローティングさせて均一な厚さのシートを作成することを含む。融合の製造方法において、溶融ガラスは、2つの薄い溶融流を形成するテーパ状トラフの両側を流下することを可能とされている。2つのガラス流はトラフの基部で再結合または融合し、深さおよび組成が優れた均一性を有する単一のシートを形成する。融合プロセスは、平坦なガラスを製造するための、フラットパネルディスプレイの製造にしばしば用いられる技術である。有利には、この技術は、表面に溶融金属が接触しないことから、ガラスをより自然のままの表面に生成する。この技術によって製造されたガラスは広く市販されており、Schott、Corning、Samsung、および、日本電気硝子株式会社などを含む企業によって生産されている。代替的に、医療グレードのポリマーおよびシリコンを含む基板材料を、本発明方法の範囲内で使用することができる。
【0068】
基板は、多数の薬物送達装置が形成される大きなシートとして提供される。ガラス製造技術における最近の進歩(特に、フラットパネルディスプレイ用の平坦なガラスの分野での)により、市販されている平坦なガラスパネルのサイズが著しく増大している。現在、数平方メートルを囲むパネルが市販されている。本発明方法の好ましい一実施形態では、8×8~17×17インチの、約40乃至200個の送達装置を含むように製造することができる正方形のガラスウェーハが、基板材料として用いられる。
【0069】
基板がいったん提供されると、リザーバすなわちキャビティが基板上に形成される。流体収容キャビティとしての役割を果たす窪みをガラス基板に形成するための多くの技術が存在することを、当業者は認識するであろう。一実施形態によれば、ガラス表面の保護されていない部分を強酸(例えば、フッ化水素酸)に晒すウェットエッチングにより、キャビティが形成される。エッチングされるキャビティの深さは、基板の分解速度を試薬の組成に基づいて推定することによって実質的に制御することができる。いくつかの試薬は等方性であり、試薬がすべての方向に等しい速度で基板を縮退させて半球状のくぼみが形成されることが理解される。異方性の試薬は垂直(深さ)方向に基板を縮退させるだけであり、本質的に長方形形状のくぼみを生じる。プラズマ(ドライ)エッチングを含む他のエッチング技術を用いてリザーバを形成してもよいことが理解され、其処においては、適切なガス混合物上でプラズマの高速ストリーム(例えば、放電粒子グロー)が標本に向けられてくぼみを形成する。また、リザーバを基板内に形成するよりむしろ、予め形成されたリザーバを基板に取り付けることが可能である。上述したように、キャビティすなわちリザーバの寸法は、可能な限り小さく但し薬物またはワクチンの一回投与量を保持するには十分であるべきである。発明の一実施形態によれば、インフルエンザワクチンに使用するために採用されるリザーバは100マイクロリットルである。
【0070】
リザーバがいったん形成されると、マイクロニードルがリザーバ内に配置される。上述したように、マイクロニードルは、金属または他の適切な強度の材料から形成された中空の針である。ニードルは、トランジスタを回路基板上に配置するために使用されるマシンと同様の、自動化された「ピックアンドプレース」マシンを使用して配置される。本方法の一実施形態によれば、ウェーハの別個のリザーバ内に同時に複数のニードルが配置されることがさらに想定される。このようにして、各送達装置およびリザーバを基板上に製造するのに必要な時間を大幅に削減できる。オプションで、マイクロニードルは接着剤などの接着材料を用いて基板に固定される。また、マイクロニードル構造は、リザーバから流体が時期尚早に放出されるのを防止するためのストッパ材料をさらに含むことができる。例えば、薄い破断可能なフィルムまたは膜を針の内腔内に含めることができる。フィルムまたは膜は、リザーバから流体が漏れるのを防止するのに十分強度があり安定でなければならない。しかしながら、注射装置がいったん作動すると、放出機構がリザーバのチャンバ容量を減少させ始め、薄い膜に印加される力が増加する。力の増加に応答して、フィルムまたは膜が破断し、流体が針を通ってユーザへの送達のために通過することが可能になる。
【0071】
流体リザーバを囲んで送達装置の他の部分から分離する1つまたはそれより多くの薄いガラス膜層を含む上部層、基板層と同様の寸法および組成を有する上部構造層、駆動機構、および、作動化要素を、基材層および流体収容リザーバ上に蒸着してもよい。
これら上位層および機械的構造は、リザーバ内にマイクロニードルを配置する方法と同様のマイクロ製造技術を用いて配置される。上述したように、複数の注射装置のための部品を同時に配置するバッチ保護方法により部品を配置することが望ましい。
【0072】
各リザーバのための層および部品がウェーハ基板上にいったん組み立てられると、ウェーハは個々の注射装置に分割される。迅速かつ正確に、ウェーハを通る小さな切り込みを作ることができるどのような適当な方法によっても、ウェーハを分割することができる。この用途によく適する一つの切断プロセスはレーザカッティングである。機械的カッティングおよびプラズマカッティング技術はまた、より大きなウェーハを個々の注射装置に分割するために適合され得る。
【0073】
製造工程または流通過程の間のある時点で、ユーザに送達されるワクチンまたは薬物で注射装置が充填される。一つの可能性は、製造工程の間で、大きなウェーハが個々のデバイスに分離される前に、リザーバを充填し得ることである。この場合、予め充填された注射装置として、注射装置は消費者に販売される。代替的に、購入された後、および、製薬会社や薬局へ出荷された後のように、もっと後で注射装置を充填することができる。いずれの場合も、いくつかのやり方によって充填を達成することができる。本明細書中で提供された例は、しかしながら、注射装置を充填するための複数の利用可能な方法のうち2つである。当業者は、他の充填方法が同様に利用可能であることを理解できよう。
【0074】
一充填方法では、注射装置は、リザーバへのアクセスを可能にするために基板に形成された第2の流体チャネルを含む。このチャネルは、エラストマープラグによって閉鎖される。プラグを充填針が貫通するようになっている。プラグを介して充填針が押圧され、それによって、リザーバへのアクセスの第2の供給源が提供される。次いで、流体が注射針を介してリザーバ内に押しやられる。リザーバから空気が、マイクロニードル(注射針)を通って通気される。充填針は次いで、引っ張ってエラストマープラグから離すことにより、リザーバから取り外される。充填針がプラグからいったん取り外されると、可撓性のエラストマー材料が再び封じ、それによって、流体がリザーバから漏れるのを防ぐ。
【0075】
代替的に、リザーバは真空吸着法により充填される。真空吸着法によれば、リザーバキャビティから空気を排気するために、注射装置が真空チャンバ内に配置される。チャンバから空気がいったん排気されると、充填機からの針をリザーバに入れることができ、および、流体が針を通してリザーバへ注入される。とりわけ、リザーバが真空排気されたときは、リザーバ内に空気が含まれていないことから通気は必要でない。さらに、リザーバと充填機の間の圧力差の結果として、流体が吸引によりリザーバ内に引き込まれ、取りも直さず、流体をリザーバに導入するためにポンプを必要としない。リザーバ内に流体がいったん注入されると、充填針が取り外され、フィルムキャップが注射部位の上方に配置される。代表的なキャップ材料は、薄い疎水性フィルムまたはUV硬化ポリマーを含む。
【0076】
真空吸引充填方法の一実施形態によれば、マイクロニードルはリザーバが充填された後に設置される。充填後、マイクロニードルはフィルムキャップを介してリザーバに挿入される。フィルムキャップは次いで、作動化が起こるまでの間、流体をリザーバ内に維持するための破壊可能な隔膜としての役割を果たす。デバイスがいったん作動されると、キャップまたは隔膜への増大した力によりキャップを破損させ、および、流体がリザーバからマイクロニードルを通じて流れることを可能にする。
【0077】
注射装置がいったん完全に組み立てられおよび充填されると、装置の注入部はハウジング内に配置されている。上述したように、自発的な予防接種などのオプションの医療処置にユーザが参加することを奨励するように、ハウジングが視覚的に魅力的なことが必要である。注射装置は、その目的に適合した専用の「ピックアンドプレース」マシンを使用してハウジング内に配置される。
【0078】
自己注射装置のための製造方法を考えると、微細加工機を必要とする複数のステップを一緒に行うことができることが理解される。例えば、ウェーハを切断することよりデバイスを分割するステップ、および、個々のウェーハをハウジング内に配置するステップを、同時に、同一の「ピックアンドプレース」型のマシンで実行することができる。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
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図12B
図13