(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-15
(45)【発行日】2022-02-24
(54)【発明の名称】スルホニウム塩光開始剤、その製造方法、それを含む光硬化性組成物及びその適用
(51)【国際特許分類】
C08G 59/68 20060101AFI20220216BHJP
【FI】
C08G59/68
(21)【出願番号】P 2020513547
(86)(22)【出願日】2018-08-27
(86)【国際出願番号】 CN2018102422
(87)【国際公開番号】W WO2019047734
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-04-01
(31)【優先権主張番号】201710797409.4
(32)【優先日】2017-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517427152
【氏名又は名称】常州強力電子新材料股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHANGZHOU TRONLY NEW ELECTRONIC MATERIALS Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】Qianjia Industrial Park, Yaoguan Town, Wujin District Changzhou city, Jiangsu 213011, China
(73)【特許権者】
【識別番号】515324604
【氏名又は名称】常州強力先端電子材料有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHANGZHOU TRONLY ADVANCED ELECTRONIC MATERIALS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Wucheng Industrial Park, Zhenglu Town, Tianning,Changzhou, Jiangsu 213159,China
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲銭▼ ▲暁▼春
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-500525(JP,A)
【文献】特表2011-501745(JP,A)
【文献】特表2010-505977(JP,A)
【文献】特開2013-014534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59/00-59/72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で示される構造を有することを特徴とするスルホニウム塩光開始剤。
【化1】
(式中、
前記R
1は、C
1~C
20の直鎖状または分岐状アルキル基を示す。
前記R
2及び前記R
2’は、それぞれ独立に、C
1~C
5の直鎖状または分岐状アルキル基から選ばれる。
前記n
1及び前記n
2は、それぞれ独立に1~4の整数を示す。
前記Mは、O、Sから選ばれる。
前記Y
-は、無機アニオンまたは有機アニオンを示す。
前記Ar
1及び前記Ar
2は、それぞれ独立に
【化2】
から選ばれる。
前記R
6及び前記R
6’は、それぞれ独立に、C
1~C
20
の直鎖状または分岐状アルキル基から選ばれる。
前記n
3及び前記n
4は、それぞれ独立に、1~4の整数から選ばれる。
前記R
1’は、C
1~C
20の直鎖状または分岐状アルキル基から選ばれる。
前記Qは、O、Sから選ばれる。)
【請求項2】
請求項1に記載のスルホニウム塩光開始剤において、前記Y
-は、X
-、ClO
4
-、CN
-、HSO
4
-、CF
3COO
-、(BX
4)
-、(SbX
6)
-、(AsX
6)
-、(PX
6)
-、Al[OC(CF
3)
3]
4
-、スルホン酸イオン、B(C
6X
5)
4
-または[(Rf)
bPF
6-b]
-を示す、ことを特徴とするスルホニウム塩光開始剤。
(式中、前記Xは、FまたはClである。前記Rfは、80%以上の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基を示す。前記bは、1~5の整数を示し、かつb個の前記Rf基は、互いに同じであるか、又は異なるものである。)
【請求項3】
以下の化合物から選ばれる一種である、スルホニウム塩光開始剤。
【化3】
【化4】
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のスルホニウム塩光開始剤の製造方法であって、前記製造方法は、以下の工程(1)~(3)を含む、ことを特徴とするスルホニウム塩光開始剤の製造方法。
(1)フリーデルクラフツ反応:
式(II)で示される構造を有する原料aと、式(III)で示される構造を有する原料bとを、フリーデルクラフツ反応させることにより、式(IV)で示される構造を有する中間体Aを得る工程。
なお、前記式(II)、前記式(III)、前記式(IV)は、以下に示す。
【化5】
(2)脱水反応:
前記中間体Aと、Ar
1を含む第1のアリール化合物と、Ar
2を含む第2のアリール化合物と、塩化チオニルと、三塩化アルミニウムとを、脱水反応させることにより、式(V)で示される構造を有する中間体Bを得る工程。
前記式(V)は、以下に示す。
【化6】
(3)イオン交換反応:
前記中間体BとY
-とをイオン交換反応させることにより、前記スルホニウム塩光開始剤を得る工程。
(式中、前記R
1、R
2、R
2’、n
1、n
2、M、Ar
1、Ar
2、Y
-が前記の通りである。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法において、前記フリーデルクラフツ反応が触媒及び有機溶媒の存在下で行われることを特徴とする製造方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の製造方法において、前記触媒は、三塩化アルミニウムまたは塩化亜鉛であることを特徴とする製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の製造方法において、前記フリーデルクラフツ反応の反応温度は、5~15℃であることを特徴とする製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の製造方法において、前記フリーデルクラフツ反応の反応温度は、5~10℃であることを特徴とする製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載の製造方法において、前記原料a、前記原料b及前記触媒のモル比が1:1:1であることを特徴とする製造方法。
【請求項10】
請求項4に記載の製造方法において、前記脱水反応の反応温度は、-5~15℃であることを特徴とする製造方法。
【請求項11】
請求項4に記載の製造方法において、前記脱水反応の反応温度は、-5~5℃であることを特徴とする製造方法。
【請求項12】
重合モノマー及び光開始剤を含む光硬化性組成物であって、前記光開始剤は、請求項1~3のいずれか一項に記載のスルホニウム塩光開始剤を含む、ことを特徴とする光硬化性組成物。
【請求項13】
請求項1~3のいずれかに記載のスルホニウム塩光開始剤の光硬化分野への適用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、光硬化分野に関するものであり、詳しくはスルホニウム塩光開始剤、その製造方法、それを含む光硬化性組成物及びその適用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スルホニウム塩は、光開始剤として使用することが既に本分野ではよく知られており、従来の多くの文献には、オニウム塩化合物が光開始剤としての用途が報道されているが、その吸収波長に限界があるため、紫外光源に対する利用率が非常に低く、それが光硬化分野への適用が制限されてきた。
【0003】
近年、人々は、オニウム塩系開始剤の吸収波長を赤方偏移させるように、スルホニウム塩の構造について改良を図っている。報道により、異なる高分子量のスルホニウム塩光開始剤が開示されており、それが小分子のスルホニウム塩光開始剤の吸収波長の課題をある程度解決したにも関わらず、このような開始剤には、依然として感光度が比較的に低いという課題が存在している。また、オニウム塩系光開始剤の溶解性及硬化後の毒性及び臭気性の課題も、本分野では解決が急務である課題の一つである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明の主な目的は、従来の光開始剤の感光性が比較的に低下し、かつ毒性または臭気性の気体を発生するという課題を解決するために、スルホニウム塩光開始剤、その製造方法、それを含む光硬化性組成物及びその適用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本願発明の一つの様態によれば、スルホニウム塩光開始剤を提供しており、前記スルホニウム塩光開始剤は、式(I)で示される構造を有するものである。
【0006】
【0007】
式中、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、アリール基または置換アリール基から選ばれる。
【0008】
R1は、C1~C20の直鎖状または分岐状アルキル基、C3~C20のシクロアルキル基、C3~C8のシクロアルキル基で置換されたC1~C10のアルキル基、C4~C20のアルキル基で置換されたC3~C8のシクロアルキル基、C6~C20のアリール基、C2~C20の複素環基またはC6~C14のアリール基で置換されたC1~C10のアルキル基を示す。
【0009】
n1及びn2は、それぞれ独立に1~4の整数を示す。
【0010】
Mは、単結合、O、S、
【0011】
【0012】
から選ばれる。
【0013】
R3、R4、R5は、それぞれ独立に有機置換基から選ばれる。
【0014】
Y-は、無機アニオンまたは有機アニオンを示す。
【0015】
さらに、R1は、C1~C20の直鎖状または分岐状アルキル基を示す。好ましくは、Mは、OまたはSを示す。好ましくは、R2及びR2’は、それぞれ独立に、C1~C5の直鎖状または分岐状アルキル基から選ばれる。
【0016】
さらに、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、
【0017】
【0018】
から選ばれる。
【0019】
式中、R6及びR6’は、それぞれ独立に、C1~C20の直鎖状または分岐状アルキル基、C3~C20のシクロアルキル基、C3~C8のシクロアルキル基で置換されたC1~C10のアルキル基、C4~C20のアルキル基で置換されたC3~C8シクロアルキル基、C6~C20のアリール基、C2~C20の複素環基またはC6~C14のアリール基で置換されたC1~C10のアルキル基から選ばれる。n3及びn4は、それぞれ独立に、1~4の整数から選ばれる。R1’は、C1~C20の直鎖状または分岐状アルキル基、C3~C20のシクロアルキル基、C3~C8のシクロアルキル基で置換されたC1~C10のアルキル基、C4~C20のアルキル基で置換されたC3~C8シクロアルキル基、C6~C20のアリール基、C2~C20の複素環基またはC6~C14のアリール基で置換されたC1~C10のアルキル基から選ばれる。Qは、単結合、O、S、
【0020】
【0021】
から選ばれる。R3、R4、R5は、それぞれ独立に有機置換基から選ばれる。好ましくは、Qは、OまたはSを示す。
【0022】
さらに、Y-は、X-、ClO4
-、CN-、HSO4
-、CF3COO-、(BX4)-、(SbX6)-、(AsX6)-、(PX6)-、Al[OC(CF3)3]4
-、スルホン酸イオン、B(C6X5)4
- または[(Rf)bPF6-b]-を示す。式中、Xは、FまたはClであり、Rfは、80%以上の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基を示す。bは、1~5の整数を示し、かつb個のRf基は、互いに同じであるか、又は異なるものである。
【0023】
本願発明のもう一つの様態により、さらに、前記スルホニウム塩光開始剤の製造方法を提供する。前記製造方法は、以下の工程を含む。
【0024】
(1)フリーデルクラフツ反応:
式(II)で示される構造を有する原料aと、式(III)で示される構造を有する原料bとを、フリーデルクラフツ反応させることにより、式(IV)で示される構造を有する中間体Aを得る工程である。なお、式(II)、式(III)、式(IV)は、以下に示す。
【0025】
【0026】
(2)脱水反応:
中間体Aと、Ar1を含む第1のアリール化合物と、Ar2を含む第2のアリール化合物と、塩化チオニルと、三塩化アルミニウムとを、脱水反応させることにより、式(V)で示される構造を有する中間体Bを得る工程である。なお、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、アリール基または置換アリール基から選ばれる。式(V)は、以下に示す。
【0027】
【0028】
(3)イオン交換反応:
中間体Bと、Y-とを、イオン交換反応させることにより、スルホニウム塩光開始剤を得る工程である。
【0029】
式中、R1は、C1~C20の直鎖状または分岐状アルキル基、C3~C20のシクロアルキル基、C3~C8のシクロアルキル基で置換されたC1~C10のアルキル基、C4~C20のアルキル基で置換されたC3~C8のシクロアルキル基、C6~C20のアリール基、C2~C20の複素環基またはC6~C14のアリール基で置換されたC1~C10のアルキル基から選ばれる。
【0030】
R2及びR2’は、それぞれ独立に、C1~C20の直鎖状または分岐状アルキル基、C3~C20のシクロアルキル基、またはC3~C8のシクロアルキル基で置換されたC1~C10のアルキル基から選ばれる。n1及びn2は、それぞれ独立に1~4の整数を示す。
【0031】
Mは、単結合、O、S、
【0032】
【0033】
から選ばれる。R3、R4、R5は、それぞれ独立に有機置換基から選ばれる。Y-は、無機アニオンまたは有機アニオンを示す。
【0034】
さらに、フリーデルクラフツ反応は、触媒及び有機溶媒の存在下で行われる。好ましくは、触媒は、三塩化アルミニウムまたは塩化亜鉛である。
【0035】
さらに、フリーデルクラフツ反応の反応温度は、5~15℃であり、好ましくは、5~10℃である。好ましくは、原料aと原料bと触媒のモル比は、1:1:1である。
【0036】
さらに、脱水反応の反応温度は、-5~15℃であり、好ましくは、-5~5℃である。
【0037】
本願発明のもう一つの様態は、さらに、光硬化性組成物を提供しており、それが重合モノマー及び光開始剤を含み、光開始剤は、前記スルホニウム塩光開始剤を含む。
【0038】
本願発明のもう一つの様態は、さらに、前記スルホニウム塩光開始剤が光硬化分野への適用を提供する。
【0039】
本願発明の技術的内容を応用することで、従来のスルホニウム塩光開始剤の構造を変性することにより、新規構造のスルホニウム塩光開始剤を得られ、光硬化性組成物へ適用された際により高い感光度を発現でき、溶解性に優れ、そして低臭気、低毒性の特徴を有し、従来の同系の光開始剤よりも明らかに優れている。
【発明を実施するための形態】
【0040】
なお、矛盾とならない場合に、本願発明中の実施例、及び実施例中の特徴は、互いに組み合わせることができる。以下に実施例とともに本願発明を詳細に説明する。
【0041】
背景技術に示されるように、従来の光開始剤は、感光性が比較的に低下し、かつ毒性または臭気性気体の課題が生じる。前記技術的課題を解決するために、本願発明は、スルホニウム塩光開始剤を提供し、当該スルホニウム塩光開始剤は、式(I)で示される構造を有するものである。
【0042】
【0043】
式中、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、アリール基または置換アリール基から選ばれる。
【0044】
R1は、C1~C20の直鎖状または分岐状アルキル基、C3~C20のシクロアルキル基、C3~C8のシクロアルキル基で置換されたC1~C10のアルキル基、C4~C20のアルキル基で置換されたC3~C8シクロアルキル基、C6~C20のアリール基、C2~C20の複素環基またはC6~C14のアリール基で置換されたC1~C10のアルキル基を示す。
【0045】
R2及びR2’は、それぞれ独立に、C1~C20の直鎖状または分岐状アルキル基、C3~C20のシクロアルキル基、C3~C8のシクロアルキル基で置換されたC1~C10のアルキル基から選ばれる。n1及びn2は、それぞれ独立に1~4の整数を示す。
【0046】
Mは、単結合、O、S、
【0047】
【0048】
から選ばれる。R3、R4、R5は、それぞれ独立に有機置換基から選ばれる(例えば、C1~C5のアルキル基、C6~C10のアリール基など)。Y-は、無機アニオンまたは有機アニオンを示す。
【0049】
前記スルホニウム塩の安定性を向上するために、好ましくは、R1は、C1~C20の直鎖状または分岐状アルキル基を示す。Mは、OまたはSから選ばれる。
【0050】
R2及びR2’は、それぞれ独立に、C1~C5の直鎖状または分岐状アルキル基から選ばれる。
【0051】
従来のスルホニウム塩光開始剤の構造を変性することで、新規構造のスルホニウム塩光開始剤を得られ、光硬化性組成物へ適用された際により高い感光度を発現でき、溶解性に優れ、そして低臭気、低毒性の特徴を有し、従来の同系の光開始剤よりも明らかに優れている。
【0052】
好ましくは、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、
【0053】
【0054】
から選ばれる。式中、R6及び前記R6’は、それぞれ独立に、C1~C20の直鎖状または分岐状アルキル基、C3~C20のシクロアルキル基、C3~C8のシクロアルキル基で置換されたC1~C10のアルキル基、C4~C20のアルキル基で置換されたC3~C8シクロアルキル基、C6~C20のアリール基、C2~C20の複素環基またはC6~C14のアリール基で置換されたC1~C10のアルキル基から選ばれる。n3及びn4は、それぞれ独立に、1~4の整数から選ばれる。
【0055】
R1’は、C1~C20の直鎖状または分岐状アルキル基、C3~C20のシクロアルキル基、C3~C8のシクロアルキル基で置換されたC1~C10のアルキル基、C4~C20のアルキル基で置換されたC3~C8シクロアルキル基、C6~C20のアリール基、C2~C20の複素環基またはC6~C14のアリール基で置換されたC1~C10のアルキル基から選ばれる。
【0056】
Qは、単結合、O、S、
【0057】
【0058】
から選ばれる。R3、R4、R5は、それぞれ独立に有機置換基から選ばれる。Y-は、無機アニオンまたは有機アニオンを示す。好ましくは、Qは、OまたはSから選ばれる。
【0059】
好ましくは、Y-は、X-、ClO4
-、CN-、HSO4
-、CF3COO-、(BX4)-、(SbX6)-、(AsX6)-、(PX6)-、Al[OC(CF3)3]4
-、スルホン酸イオン、B(C6X5)4
-または[(Rf)bPF6-b]-を示す。式中、Xは、FまたはClであり、Rfは、80%以上の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基を示す。bは、1~5の整数を示し、かつb個のRf基は、互いに同じであるか、又は異なるものである。例えば、Rfがプロピル基を示す場合に、プロピル基において少なくとも4つのH原子はF原子で置換されている。
【0060】
本願発明のもう一つの様態は、さらに、前記スルホニウム塩光開始剤の製造方法を提供する。当該製造方法は、以下の工程を含む:
(1)フリーデルクラフツ反応:
式(II)で示される構造を有する原料aと、式(III)で示される構造を有する原料bとを、フリーデルクラフツ反応させることにより、式(IV)で示される構造を有する中間体Aを得る工程である。なお、式(II)、式(III)、式(IV)は、以下に示す。
【0061】
【0062】
(2)脱水反応:
中間体Aと、Ar1を含む第1のアリール化合物と、Ar2を含む第2のアリール化合物と、塩化チオニルと塩化アルミニウムとを脱水反応させることにより、式(V)で示される構造を有する中間体Bを得る工程である。
【0063】
なお、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、アリール基または置換アリール基から選ばれる。式(V)は、以下に示す。
【0064】
【0065】
(3)イオン交換反応:
中間体Bと、Y-とをイオン交換反応させることにより、スルホニウム塩光開始剤を得る工程である。
【0066】
式中、R1は、C1~C20の直鎖状または分岐状アルキル基、C3~C20のシクロアルキル基、C3~C8のシクロアルキル基で置換されたC1~C10のアルキル基、C4-C20のアルキル基で置換されたC3~C8シクロアルキル基、C6~C20のアリール基、C2~C20の複素環基またはC6~C14のアリール基で置換されたC1~C10のアルキル基から選ばれる。
【0067】
Mは、単結合、O、S、
【0068】
【0069】
から選ばれる。R3、R4、R5は、それぞれ独立に有機置換基から選ばれる。
【0070】
R2及びR2’は、それぞれ独立に、C1~C20の直鎖状または分岐状アルキル基、C3~C20のシクロアルキル基、またはC3~C8のシクロアルキル基で置換されたC1~C10のアルキル基から選ばれる。n1及びn2は、それぞれ独立に1~4の整数を示す。Y-は、無機アニオンまたは有機アニオンを示す。
【0071】
前記製造方法では、使用される原料は、いずれも従来の技術で既知の化合物であり、販売で購入することができるか、または既知の合成法で簡易に製造することができる。本願発明に開示の合成経路を知った上で、具体的な反応条件は、当業者にとって容易に確定できる。
【0072】
好ましくは、フリーデルクラフツ反応は、触媒及び有機溶媒の存在下で行われる。
【0073】
有機溶媒の種類について特に制限されないが、反応原料を溶解でき、かつ反応に悪影響がないのであればよい。好ましくは、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、トルエンなどである。反応原料同士の配合割合は、当業者にとって容易に確定できる。好ましくは、触媒は三塩化アルミニウムまたは塩化亜鉛である。
【0074】
好ましくは、フリーデルクラフツ反応の反応温度は、5~15℃であり、好ましくは、5~10℃である。好ましくは、原料aと原料bと触媒のモル比が1:1:1である。
【0075】
好ましくは、脱水反応の反応温度は、-5~15℃であり、好ましくは、-5~5℃である。反応原料同士の配合割合は、当業者にとって容易に確定できる。好ましくは、中間体aと、Ar1と、Ar2と、SOCl2と、三塩化アルミニウムまたは塩化亜鉛とのモル配合比が1:1:1:1:2であり、この反応では、中間体aやAr1を含む第1のアリール化合物、Ar2を含む第2のアリール化合物は、3種類の異なる化合物であってもよく、そのうち2つが同じ化合物であってもよく、または、そのうち3つがいずれも同じ化合物を使用してもよい。
【0076】
前記製造方法では、イオン交換反応は、好ましくは、溶媒中で行われるが、溶媒の種類について特に制限されない。溶媒は、反応の担体とされるものであり、反応に悪影響がないのであればよい。当該反応は、室温で行わればよい。
【0077】
以下、具体的な実施例とともに、本願発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は、本願発明の請求する保護範囲を制限するものと理解すべきではない。
【実施例】
【0078】
製造実施例
実施例1
ステップ(1):中間体a1の製造
500mLの四つ口フラスコ中にジフェニルスルフィド93.1g、クロログリオキシル酸メチル61.3g、ジクロロメタン150mLを仕込み、温度を約5℃に制御しながら、以上の反応系を氷水浴で冷却した。その後、前記反応系中に、三塩化アルミニウム83.3gを、添加完了まで約1hかかるように分割添加した。引き続き2h攪拌をし、反応を完了まで液体クロマトグラフィーで追跡した。
【0079】
攪拌を継続しながら、生成物を含有するジクロロメタン溶液を500gの氷水に注ぎ込み、ジクロロメタン層を分離し、水でジクロロメタン層を洗浄し、その後、ロータリーエバポレーション法を採用して生成物のジクロロメタン溶液を処理して、淡黄色の固体129.4g、すなわち中間体a1が得られ、收率は95wt%であり、HPLC純度が98wt%である。合成ルートは、以下に示す。
【0080】
【0081】
中間体である生成物の構造は、プロトン核磁気共鳴スペクトル及び質量スペクトルにより確認され、具体的な評価結果は、以下に示す。
【0082】
1H-NMR(CDCl3、500MHz):3.6462(3H、s)、7.0708-7.6325(9H、m)。
MS(m/Z):273(M+H)+。
【0083】
ステップ(2):中間体b1の製造
500mLの四つ口フラスコ中に81.7gの中間体a1、100mLのジクロロメタン、三塩化アルミニウム16.7gを仕込み、温度を約0℃に制御しながら以上の反応系を氷水浴の条件下で攪拌した。その後、前記反応系中に塩化チオニル11.9gを滴下完了まで約1hかかるように滴下した。原料の量が変化しなくなるまで反応を液体クロマトグラフィーで追跡した。続いて、前記反応系中に少しずつ100mL脱イオン氷水を滴下し、ジクロロメタン層を分取り、水層が中間体b1の水溶液である。
【0084】
合成ルートは、以下に示す。
【0085】
【0086】
ステップ(3):目的生成物である化合物1の製造
前記中間体b1の水溶液中にKPF6固体18.5gを添加してイオン交換し、攪拌しながら脱イオン水を適宜に補充し、KPF6固体の溶解につれて、目的生成物である化合物1が徐々に析出し、濾過し、メタノールで再結晶し、乾燥して66.6gの白色固体が得られ、HPLC純度は99wt%である。
【0087】
合成ルートは、以下に示す。
【0088】
【0089】
目的生成物の構造は、核磁気共鳴水素スペクトル及質量スペクトルにより確認され、具体的な評価結果は、以下に示す。
【0090】
1H-NMR(MeOD、500MHz):3.6705(12H、s)、7.0984-7.1975(12H、m)、7.3708-7.3948(6H、d)、7.5704-7.6241(6H、d)。
MS(m/Z):845(M)+。
【0091】
実施例2
ステップ(1):中間体a2の製造
500mLの四つ口フラスコ中にビフェニルエーテル85.1g、クロログリオキシル酸エチル68.3g、ジクロロメタン150mLを仕込み、温度を約5℃に制御しながら以上の反応系で氷水浴で冷却した。その後、前記反応系中に三塩化アルミニウム83.3gを添加完了まで約1hかかるように分割添加した。引き続き2h攪拌し、反応を完了まで液体クロマトグラフィーで追跡した。
【0092】
攪拌を継続しながら生成物を含有するジクロロメタン溶液を500gの氷水に注ぎ込み、ジクロロメタン層を分取り、水でジクロロメタン層を洗浄し、その後、ロータリーエバポレーション法で生成物のジクロロメタン溶液を処理し、淡黄色の固体125.7g、すなわち中間体a2が得られ、收率は93wt%、HPLC純度は98%である。
【0093】
合成ルートは、以下に示す。
【0094】
【0095】
中間体である生成物の構造は、核磁気共鳴水素スペクトル及質量スペクトルにより確認され、具体的な評価結果は、以下に示す。
【0096】
1H-NMR(CDCl3、500MHz):1.2965-1.3301(3H、t)、4.1649-4.2005(2H、m)、7.0038-7.7592 (9H、m)。
MS(m/Z):271(M+H)+。
【0097】
ステップ(2):中間体b2の製造
500mLの四つ口フラスコ中に27.0gの中間体a2、15.6gのベンゼン、100mLのジクロロメタン、三塩化アルミニウム16.7gを仕込み、温度を約0℃に制御しながら以上の反応系を氷水浴の条件下で攪拌した。その後、前記反応系中に11.9gの塩化チオニルを滴下完了まで約1hかかるように滴下し、原料の量が変化しなくなるまで反応を液体クロマトグラフィーで追跡した。続いて、前記反応系中に100mLの脱イオン氷水を少しずつ滴下し、ジクロロメタン層を分取り、水層が中間体b2の水溶液である。合成ルートは、以下に示す。
【0098】
【0099】
ステップ(3):目的生成物である化合物2の製造
前記中間体b2の水溶液中に18.5gNaC4F9SO3固体を添加してイオン交換し、攪拌しながら脱イオン水を適宜に補充し、NaC4F9SO3固体の溶解につれて、目的生成物である化合物2が徐々に析出し、濾過し、メタノールで再結晶し、乾燥して50.5gの白色固体が得られ、HPLC純度は99wt%である。合成ルートは、以下に示す。
【0100】
【0101】
目的生成物の構造は、核磁気共鳴水素スペクトル及質量スペクトルにより確認され、具体的な評価結果は、以下に示す。
【0102】
1H-NMR(MeOD、500MHz):1.2907-1.3102(3H、t)、4.1832-4.2332(2H、m)、6.9784-7.3343(16H、m)、7.74886-7.7658 (2H、d)。
MS(m/Z):455(M)+。
【0103】
実施例3~12
実施例1、2の方法を参照して、原料aの
【0104】
【0105】
及び原料bのクロログリオキシル酸アルキルエステルを原料として出発原料にし、表1に示された化合物3~12を製造した。
【0106】
目的生成物の構造及びそのMS(m/Z)データは、表1に示す。
【0107】
【0108】
光硬化性組成物
本願発明のもう一つの様態は、さらに、重合モノマー及び光開始剤を含み、光開始剤が前記スルホニウム塩光開始剤を含む、光硬化性組成物を提供する。
【0109】
前記式(I)で示される構造を有するスルホニウム塩光開始剤を光硬化性組成物へ適用した際に、前記光硬化性組成物は、高感光度、溶解性に優れ、低臭気、低毒性という特徴を有する。これでわかるように、当該光硬化性組成物の総合性能は、従来の同系の光開始剤よりも明らかに優れている。
【0110】
好ましくは、当該光硬化性組成物は、カチオン反応型化合物(成分A)、式(I)で示されるスルホニウム塩光開始剤(成分B)及び任意のフリーラジカル型反応型化合物(成分C)を含む。
【0111】
好ましくは、カチオン反応型化合物は、エポキシ基含有化合物またはアルケニルエーテル系化合物の少なくとも1種である。
【0112】
好ましくは、エポキシ基含有化合物は、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、線状脂肪族系エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂及びオキセタン類化合物からなる群から選ばれる1種または複数種である。
【0113】
好ましくは、アルケニルエーテル系化合物は、ビニルエーテル系化合物である。
【0114】
本願発明の光硬化性組成物は、硬化速度が早く、各成分の相溶性がよいという利点を有するものである。以下、各成分についてさらなる詳細な説明をする。前記成分A、B及び任意の成分C以外に、製品応用上の要求に応じて、本願発明の感放射線性組成物には、本分野で常用の有機助剤及び/または無機助剤を任意に選択的に添加可能であり、顔料、レベリング剤、分散剤、硬化剤、界面活性剤、溶媒などを含み得るがこれらに限られない。これは、当業者にとって自明である。また、組成物の適用効果に悪影響をしない限り、組成物にその他の増感剤及び/または光開始剤を添加配合して使用してもよい。
【0115】
好ましくは、組成物の使用過程での適用性能を向上するために、当該組成物には、1種または複数種の大分子または高分子化合物を任意に選択的に添加してもよく、このような大分子または高分子化合物は、多価アルコールまたはポリエステルポリオールなどであってもよい。
【0116】
本願発明のもう一つの様態は、さらに、前記スルホニウム塩光開始剤が光硬化分野への適用を提供する。
【0117】
前記式(I)で示される構造を有するスルホニウム塩光開始剤を光硬化分野へ適用した際に、より高い感光度を発現でき、溶解性に優れ、そして低臭気、低毒性の特徴を有するので、このような開始剤は、従来の同系の光開始剤よりも明らかに優れている。
【0118】
適用実施例
光開始剤の溶解性能に対する評価
トリフェニルスルホニウム塩の活性希釈剤での溶解性が良くないため、現在商品化されたトリフェニルスルホニウム塩は、いずれも50%のプロピレンカーボネート溶液として販売され、幾つかの常用のカチオン活性希釈剤を選択して、異なる化合物がこれらに対する溶解度をそれぞれ測定し、表2を示す。
【0119】
【0120】
光硬化性組成物の適用性能に対する評価
(1)光硬化性組成物の調製
表3に記載の配合に従い、如下の光硬化性組成物を調製する。
【0121】
【0122】
前記光硬化性組成物を黄光ランプ下で透明かつ均一となるまで攪拌し、その後、塗布機でガラス板に塗布し、乾燥後に厚さが100umの塗膜を形成した。その後、ベルト式露光機中で露光し(露光機型番がRW-UV20101、水銀ランプのパワーが300W)、硬化膜を得た。
【0123】
(2)硬化性能評価
ベルト式露光機を通過して硬化成膜するのに必要な最短照射時間を硬化時間とする。硬化時間が短いほど短ければ、開始剤の感度が高いことを示す。本願発明の実施例1~5及比較例1~3で製造した光硬化性組成物の硬化性能評価は、表4を示す。
【0124】
【0125】
前記表から分かるように、本願発明に係るスルホニウム塩系光開始剤は、溶解性が良く、光硬化系に適用されると硬化速度が早く、対比としての2種類の従来のカチオン型光開始剤よりも明らかに優れており、かつ優位性が顕著であり、幅広い適用が見込まれる。
【0126】
前記の記載は、本願発明の好ましい実施例に過ぎず、本願発明を制限しようとするものではない。当業者は、本願発明に各種の変更及び変化を加えてもよい。本願発明の思想及び主旨の範囲内であれば、加えられた如何なる変更、均等置換、改良などがいずれも本願発明の請求する保護範囲内である。