(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/045 20120101AFI20220217BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20220217BHJP
B60W 10/119 20120101ALI20220217BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20220217BHJP
B62D 103/00 20060101ALN20220217BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20220217BHJP
【FI】
B60W30/045
B62D6/00
B60W10/119
B60W10/04
B62D103:00
B62D117:00
(21)【出願番号】P 2018121692
(22)【出願日】2018-06-27
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】秋谷 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小川 大策
【審査官】岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-206114(JP,A)
【文献】特開2006-123605(JP,A)
【文献】特開2018-044595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/045
B62D 6/00
B60W 10/119
B60W 10/04
B62D 101/00
B62D 103/00
B62D 117/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制御装置であって、
前記車両の後輪を駆動する原動機と、
前記原動機のトルクを、駆動輪である前記後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、
前記車両を操舵するための操舵装置と、
前記操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、
前記車両の運転状態を検出する運転状態センサと、
前記原動機及び前記トルク配分機構を制御する制御器と、を有し、
前記制御器は、
前記運転状態センサによって検出された運転状態に基づき、前記原動機の基本トルクを設定し、
前記操舵角センサによって検出された操舵角の増加に基づき、前記原動機の増加トルクを設定し、
前記増加トルクを前記基本トルクに適用した目標トルクが発生するように前記原動機を制御し、
前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比の変更と前記増加トルクに基づく前記原動機の制御とが同時に行われることを抑制するか、若しくは、前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比に基づき前記原動機の増加トルクを変更するよう構成されている、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御器は、
前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比の変更と前記増加トルクに基づく前記原動機の制御とが同時に行われることを抑制する場合、前記増加トルクに基づく前記原動機の制御中において、前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比の変更を抑制するよう構成されている、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御器は、
前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比の変更と前記増加トルクに基づく前記原動機の制御とが同時に行われることを抑制する場合、前記増加トルクに基づく前記原動機の制御が行われているときは、当該制御が行われていないときよりも、前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比の変更量を低減するよう構成されている、請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御器は、
前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比の変更と前記増加トルクに基づく前記原動機の制御とが同時に行われることを抑制する場合、前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比の変更中において、前記増加トルクに基づく前記原動機の制御を抑制するよう構成されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御器は、前記補助駆動輪へのトルク配分量が大きいときには、そうでないときよりも前記原動機の増加トルクを大きくするよう構成されている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御器は、
前記操舵角の減少に基づき、前記原動機の低減トルクを設定し、
前記低減トルクを前記基本トルクに適用した目標トルクが発生するように前記原動機を制御し、
前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比の変更と前記低減トルクに基づく前記原動機の制御とが同時に行われることを抑制するよう構成されている、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記制御器は、
前記操舵角の減少に基づき、前記原動機の低減トルクを設定し、
前記低減トルクを前記基本トルクに適用した目標トルクが発生するように前記原動機を制御し、
前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比に基づき前記原動機の低減トルクを変更するよう構成されている、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを駆動輪である前記後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が増加したときに、前記原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比の変更と前記車両姿勢制御とが同時に行われることを抑制する抑制手段と、
を有することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項9】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを駆動輪である前記後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が増加したときに、前記原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記車両姿勢制御中において、前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比の変更を抑制する抑制手段と、
を有することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項10】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを駆動輪である前記後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が増加したときに、前記原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比の変更中において、前記車両姿勢制御を抑制する抑制手段と、
を有することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項11】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを駆動輪である前記後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が増加したときに、前記原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比に基づき、前記車両姿勢制御によりトルクを増加させる量を変更するトルク変更手段と、
を有することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項12】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを駆動輪である前記後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が減少したときに、前記原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比の変更と前記車両姿勢制御とが同時に行われることを抑制する抑制手段と、
を有することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項13】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを駆動輪である前記後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が減少したときに、前記原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記車両姿勢制御中において、前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比の変更を抑制する抑制手段と、
を有することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項14】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを駆動輪である前記後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が減少したときに、前記原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比の変更中において、前記車両姿勢制御を抑制する抑制手段と、
を有することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項15】
車両の後輪を駆動する原動機と、前記原動機のトルクを駆動輪である前記後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、前記車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、
前記操舵装置の操舵角が減少したときに、前記原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、
前記駆動輪と前記補助駆動輪とのトルク配分比に基づき、前記車両姿勢制御によりトルクを減少させる量を変更するトルク変更手段と、
を有することを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に係わり、特に、後輪を駆動輪とし前輪を補助駆動輪とする車両において、操舵に基づき原動機のトルクを制御する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スリップ等により車両の挙動が不安定になった場合に安全方向に車両の挙動を制御するもの(横滑り防止装置等)が知られている。具体的には、車両のコーナリング時等に、車両にアンダーステアやオーバーステアの挙動が生じたことを検出し、それらを抑制するように車輪に適切な減速度を付与するようにした技術が知られている。
【0003】
他方で、車両の挙動が不安定になるような走行状態における安全性向上のための制御とは別に、ステアリングの切り込み操作時に原動機(モータやエンジン)のトルクを低減させて車両減速度を生じさせることで、コーナリング時におけるドライバの操作が自然で安定したものとなるように車両姿勢を制御する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。以下では、このようなドライバによるステアリング操作に応じて原動機のトルクを変化させて車両の姿勢を制御することを適宜「車両姿勢制御」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本件発明者が、特許文献1等に記載されているような、ドライバによるステアリング操舵に伴って車両に減速度を与える制御(車両姿勢制御)の、後輪駆動車への適用を試みたところ、特許文献1記載の発明において得られている操縦安定性の向上や、車両挙動の応答性、リニア感の向上という効果を得ることはできなかった。
【0006】
即ち、本件発明者は、車両姿勢制御として、特許文献1等に記載されているように、ステアリング操作に伴って車両に減速度を与える制御を適用した。しかしながら、このような従来から知られている車両姿勢制御を後輪駆動車に適用した場合には、前輪駆動車において得られていたような車両の応答性やリニア感の向上といった効果を得ることはできなかった。この新たに見出された課題を解決するために本件発明者が鋭意研究を進めた結果、後輪駆動車においては、驚くべきことに、ドライバによる操舵に応じて車両の駆動トルクを増加させることにより、車両応答性やリニア感が向上することが明らかとなった。
【0007】
一般に、車両に減速度を付与すると、車両の重心に作用する慣性力により、車両にはフロント側が沈むピッチング運動が発生するため、操舵輪である前輪荷重が増加して、ステアリング操作に対する応答性が向上するものと考えられていた。しかしながら、後輪駆動車においては、後輪の駆動トルクを減じて車両に減速度を付与した際、上記の慣性力の他に、後輪からサスペンションを介して車体を後傾させる(リア側を沈ませる)力が瞬間的に発生する。この瞬間的な力は、前輪荷重を低下させるように作用するため、後輪駆動車においては、ドライバによる操舵に応じて車両に減速度を付与しても、期待通りに車両応答性やリニア感を向上させることができなかったものと考えられる。
【0008】
これとは反対に、後輪駆動車においては、後輪の駆動トルクを増加させることにより、後輪からサスペンションを介して車体を前傾させる(フロント側を沈ませる)力が瞬間的に作用して前輪荷重が増加するため、車両応答性やリニア感が向上するものと考えられる。即ち、後輪駆動車において、後輪の駆動トルクを増加させて加速度を付与すると、車体を後傾させる慣性力と、車体を前傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感に対しては瞬間的な車体を前傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
【0009】
本件発明者は、車両に搭載された操舵装置の操舵角の増加に基づいて、車両の運転状態に応じた基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定することにより、上記の瞬間的な力により前輪荷重が増加し、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感を向上できることを見出した。
【0010】
ところで、従来から、四輪駆動車において、原動機のトルクを駆動輪(主駆動輪)と従駆動輪とに配分する技術が知られている。この技術では、車両の走行状態などに応じて、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更が適宜行われる。このような駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更と、上述した車両姿勢制御によるトルク制御(トルク増加)とが両方実行されると、トルク配分比を変更する目的が達せられなかったり、車両姿勢制御による車両応答性の改善効果などが適切に得られなかったりする。
【0011】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、後輪を駆動輪とし前輪を補助駆動輪とする車両において車両姿勢制御を行う車両の制御装置において、車両姿勢制御と、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更とが両方実行されることによる問題の発生を適切に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は、車両の制御装置であって、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを、駆動輪である後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、車両を操舵するための操舵装置と、操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、車両の運転状態を検出する運転状態センサと、原動機及びトルク配分機構を制御する制御器と、を有し、制御器は、運転状態センサによって検出された運転状態に基づき、原動機の基本トルクを設定し、操舵角センサによって検出された操舵角の増加に基づき、原動機の増加トルクを設定し、増加トルクを基本トルクに適用した目標トルクが発生するように原動機を制御し、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更と増加トルクに基づく原動機の制御とが同時に行われることを抑制するか、若しくは、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比に基づき原動機の増加トルクを変更するよう構成されている、ことを特徴とする。
【0013】
このように構成された本発明では、後輪を駆動輪とし前輪を補助駆動輪とする車両に関して、制御器は、操舵角の増加(ステアリングの切り込み操作に相当する)に基づき増加トルクを付加する車両姿勢制御を行うと共に、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更を行う。本発明では、制御器は、トルク配分比変更と車両姿勢制御とが同時に行われることを抑制するか、若しくは、トルク配分比に基づき車両姿勢制御の増加トルクを変更する。
車両姿勢制御とトルク配分比変更とが同時に行われることを抑制した場合には、車両姿勢制御とトルク配分比変更とが両方実行されることによる問題の発生を確実に抑制することができる。具体的には、車両姿勢制御中にトルク配分比変更を抑制することで、車両姿勢制御によるステアリング切り込み操作に対する車両応答性の改善効果を確保することができる。また、トルク配分比変更中に車両姿勢制御を抑制することで、トルク配分比変更による走行安定性の改善効果などを確保することができる。
他方で、車両姿勢制御と係合度合変更制御とが同時に行われることを許容しつつ、トルク配分比に基づき車両姿勢制御による増加トルクを変更した場合にも、車両姿勢制御とトルク配分比変更とが両方実行されることによる問題の発生を抑制することができる。具体的には、車両姿勢制御時にトルク配分比が変化したとしても、車両姿勢制御により車両姿勢を制御するのに適したトルク増加を確保することができる。したがって、トルク配分比変更を確保しつつ、車両姿勢制御により車両応答性を適切に改善することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、制御器は、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更と増加トルクに基づく原動機の制御とが同時に行われることを抑制する場合、増加トルクに基づく原動機の制御中において、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更を抑制するよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、車両姿勢制御によるステアリング切り込み操作に対する車両応答性の改善効果を効果的に確保することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、制御器は、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更と増加トルクに基づく原動機の制御とが同時に行われることを抑制する場合、増加トルクに基づく原動機の制御が行われているときは、当該制御が行われていないときよりも、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更量を低減するよう構成されている。
このように構成された本発明では、制御器は、車両姿勢制御中にトルク配分比を変更する場合に、トルク配分比の変更量を低減することで、車両姿勢制御中のトルク配分比変更を抑制するようにする。これにより、車両姿勢制御中のトルク配分比の変更をある程度確保しつつ、車両姿勢制御により車両応答性を適切に改善することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、制御器は、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更と増加トルクに基づく原動機の制御とが同時に行われることを抑制する場合、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更中において、増加トルクに基づく原動機の制御を抑制するよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、トルク配分比変更による走行安定性の改善効果などを効果的に確保することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、制御器は、補助駆動輪へのトルク配分量が大きいときには、そうでないときよりも原動機の増加トルクを大きくするよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、補助駆動輪(前輪)へのトルク配分量が大きいときには車両姿勢制御の増加トルクを大きくするので、補助駆動輪のトルク配分量が大きい場合にも、車両姿勢制御により駆動輪に付与されるトルク増加を確実に確保することができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、制御器は、操舵角の減少に基づき、原動機の低減トルクを設定し、低減トルクを基本トルクに適用した目標トルクが発生するように原動機を制御し、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更と低減トルクに基づく原動機の制御とが同時に行われることを抑制するよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、制御器は、操舵角の減少(ステアリングの切り戻し操作に相当する)に基づき低減トルクを付加する車両姿勢制御を行う。そして、制御器は、そのような車両姿勢制御とトルク配分比変更とが同時に行われることを抑制する。これにより、車両姿勢制御中にトルク配分比変更を抑制することで、車両姿勢制御によるステアリング切り戻し操作に対する車両応答性の改善効果を確保することができ、また、トルク配分比変更中に車両姿勢制御を抑制することで、トルク配分比変更による走行安定性の改善効果などを確保することができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、制御器は、操舵角の減少に基づき、原動機の低減トルクを設定し、低減トルクを基本トルクに適用した目標トルクが発生するように原動機を制御し、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比に基づき原動機の低減トルクを変更するよう構成されている。
このように構成された本発明によれば、制御器は、操舵角の減少(ステアリングの切り戻し操作に相当する)に基づき低減トルクを付加する車両姿勢制御を行う。そして、制御器は、トルク配分比に基づき車両姿勢制御の低減トルクを変更する。これにより、車両姿勢制御時にトルク配分比が変化したとしても、車両姿勢制御により車両姿勢を制御するのに適したトルク低減を確保することができる。したがって、トルク配分比変更を確保しつつ、車両姿勢制御により車両応答性を適切に改善することができる。
【0020】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを駆動輪である後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が増加したときに、原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更と車両姿勢制御とが同時に行われることを抑制する抑制手段と、を有することを特徴とする。
【0021】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを駆動輪である後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が増加したときに、原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、車両姿勢制御中において、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更を抑制する抑制手段と、を有することを特徴とする。
【0022】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを駆動輪である後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が増加したときに、原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更中において、車両姿勢制御を抑制する抑制手段と、を有することを特徴とする。
【0023】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを駆動輪である後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が増加したときに、原動機のトルクを増加させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比に基づき、車両姿勢制御によりトルクを増加させる量を変更するトルク変更手段と、を有することを特徴とする。
【0024】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを駆動輪である後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が減少したときに、原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更と車両姿勢制御とが同時に行われることを抑制する抑制手段と、を有することを特徴とする。
【0025】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを駆動輪である後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が減少したときに、原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、車両姿勢制御中において、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更を抑制する抑制手段と、を有することを特徴とする。
【0026】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを駆動輪である後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が減少したときに、原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更中において、車両姿勢制御を抑制する抑制手段と、を有することを特徴とする。
【0027】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の後輪を駆動する原動機と、原動機のトルクを駆動輪である後輪と補助駆動輪である前輪とに配分するトルク配分機構と、車両を操舵するための操舵装置と、を有する車両の制御装置であって、操舵装置の操舵角が減少したときに、原動機のトルクを減少させて車両姿勢制御を行う車両姿勢制御手段と、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比に基づき、車両姿勢制御によりトルクを減少させる量を変更するトルク変更手段と、を有することを特徴とする。
【0028】
このような他の観点に係る本発明によっても、後輪を駆動輪とし前輪を補助駆動輪とする車両に関して、車両姿勢制御と、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更とが両方実行されることによる問題の発生を適切に抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、後輪を駆動輪とし前輪を補助駆動輪とする車両において車両姿勢制御を行う車両の制御装置において、車両姿勢制御と、駆動輪と補助駆動輪とのトルク配分比の変更とが両方実行されることによる問題の発生を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態による車両の制御装置が適用された車両の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態によるトルク配分比の設定手法についての説明図である。
【
図4】本発明の第1実施形態による全体制御を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の第1実施形態による増加トルク設定処理のフローチャートである。
【
図6】本発明の第1実施形態による付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【
図7】本発明の第1実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートである。
【
図8】本発明の第1実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【
図9】本発明の第1実施形態による車両が旋回を行う場合の、車両姿勢制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【
図10】本発明の第2実施形態による全体制御を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の第2実施形態による増加トルク設定処理のフローチャートである。
【
図12】本発明の第2実施形態による増加トルク又は低減トルクを補正するための補正マップである。
【
図13】本発明の第2実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートである。
【
図14】本発明の第2実施形態の変形例による増加トルク又は低減トルクを補正するための補正マップである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の制御装置について説明する。
【0032】
<車両の構成>
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態による車両の制御装置が適用された車両について説明する。
図1は、本発明の実施形態による車両の制御装置が適用された車両の全体構成を示すブロック図である。
【0033】
図1において、符号1は、本実施形態による車両の制御装置を搭載した車両を示す。車両1の車体前部には操舵輪である左右の前輪2aが設けられ、車体後部には駆動輪である左右の後輪2bが設けられている。これら車両1の前輪2a、後輪2bは、車体に対してサスペンション3により夫々支持されている。また、車両1の車体前部には、主として後輪2bを駆動する原動機であるエンジン4が搭載されている。本実施形態においては、エンジン4は、ガソリンエンジンであるが、原動機としてディーゼルエンジンなどの内燃エンジンや、電力により駆動されるモータを使用することもできる。
【0034】
また、車両1は、フロントエンジン・リアドライブ方式(FR方式)をベースとした四輪駆動車である。具体的には、車両1は、エンジン4に連結されてエンジン出力を車輪に伝達する自動変速機4aを備えており、この自動変速機4aからはプロペラシャフト4bが延びており、このプロペラシャフト4bはディファレンシャルギア4cなどを介して後輪2bに連結されている。一方、前輪2aは、トランスファー9a及び電磁カップリング(トルク配分機構)9bを介してプロペラシャフト4bに接続されている。より具体的には、前輪2aとプロペラシャフト4bとは、これらトランスファー9a及び電磁カップリング9bに加えて、駆動伝達シャフト9c及びディファレンシャルギア9dを介して連結されている。
【0035】
トランスファー9aは、プロペラシャフト4bのトルク(車両駆動力)を駆動伝達シャフト9cに分岐するための装置である。電磁カップリング9bは、駆動伝達シャフト9cとプロペラシャフト4bとを連結するカップリングであり、図示しない電磁コイルやカム機構やクラッチなどを有している。電磁カップリング9bは、駆動伝達シャフト9cとプロペラシャフト4bとが連結された状態において、プロペラシャフト4bから駆動伝達シャフト9cに伝達される駆動力を変更する。具体的には、電磁カップリング9bは、電磁式であって多板クラッチとこれを制御する電磁石とを備え、電磁石を流れる電流(印加電流)が変更されることで多板クラッチの接触状態が変更され、それにより、プロペラシャフト4bから駆動伝達シャフト9cに伝達される駆動力であって前輪2aに付与される駆動力が変更される。すなわち、エンジン4の出力トルクのうちで後輪2bに配分されるトルクと前輪2aに配分されるトルクとの比率であるトルク配分比が変更される。
【0036】
また、車両1には、ステアリングホイール6(以下では単に「ステアリング」とも表記する。)などを含む操舵装置7が搭載されており、車両1の前輪2aは、このステアリングホイール6の回転操作に基づいて操舵(転舵)されるようになっている。さらに、車両1は、操舵装置7の操舵角を検出する操舵角センサ8、アクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ10、及び、車速を検出する車速センサ12を有する。操舵角センサ8は、典型的にはステアリングホイール6の回転角度を検出するが、当該回転角度に加えて又は当該回転角度の代わりに、前輪2aの転舵角(タイヤ角)を検出してもよい。これらの各センサは、それぞれの検出信号をコントローラ50に出力する。
【0037】
次に、
図2を参照して、本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を説明する。
図2は、本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0038】
本実施形態によるコントローラ50は、上述したセンサ8、10、12の検出信号の他、エンジン4の運転状態を検出する各種センサが出力した検出信号に基づいて、エンジン4のスロットルバルブ5a、インジェクタ(燃料噴射弁)5b、点火プラグ5c及び可変動弁機構5d、並びに電磁カップリング9bに対する制御を行うべく、制御信号を出力する。
【0039】
コントローラ50は、図示しないPCM(Power-train Control Module)などを備えている。このコントローラ50は、1つ以上のプロセッサ、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
【0040】
また、コントローラ50は、電磁カップリング9bに対する制御も行う。具体的には、コントローラ50は、電磁カップリング9bに供給する印加電流を調整して、後輪2bと前輪2aとのトルク配分比を制御する。ここで、
図3を参照して、本発明の実施形態においてトルク配分比を設定する手法について説明する。
【0041】
図3は、横軸にトルク配分比(具体的には「前輪2aに配分するトルク:後輪2bに配分するトルク」)を示し、縦軸にエネルギー損失を示している。具体的には、グラフE1は、トルク配分比に対する後輪2b(駆動輪)のスリップによるエネルギー損失を示し、グラフE2は、トルク配分比に対する前輪2a(補助駆動輪)のスリップによるエネルギー損失を示し、グラフE3は、トルク配分比に対する、前輪2a(補助駆動輪)への動力伝達によるトルク伝達機構(電磁カップリング9bや駆動伝達シャフト9cやディファレンシャルギア9dなど)の機械損失に対応するエネルギー損失を示している。グラフE1に示すように、トルク配分比が右に進むほど、つまり前輪2aへのトルク配分量が多くなるにつれて、後輪2bのスリップによるエネルギー損失が減る。一方で、グラフE2に示すように、前輪2aへのトルク配分量が多くなるにつれて、前輪2aのスリップによるエネルギー損失が増え、また、グラフE3に示すように、前輪2aへのトルク配分量が多くなるにつれて、前輪2aへの動力伝達による機械損失に対応するエネルギー損失が増える。本実施形態では、コントローラ50は、これら3つのエネルギー損失E1、E2、E3の総和を求めて、このエネルギー損失の総和が最小となるようなトルク配分比を決定する。そして、コントローラ50は、決定したトルク配分比が実現されるように、電磁カップリング9bに供給する印加電流を制御する。
【0042】
なお、1つの例では、本発明における車両の制御装置は、主に、原動機としてのエンジン4、トルク配分機構としての電磁カップリング9b、操舵装置7、操舵角センサ8、運転状態センサとしてのアクセル開度センサ10及び車速センサ12、及び、制御器としてのコントローラ50により構成される。他の例では、本発明における車両の制御装置は、コントローラ50により構成され、この例では、コントローラ50は、本発明における車両姿勢制御手段、抑制手段及びトルク変更手段として機能する。
【0043】
<制御内容>
次に、本実施形態においてコントローラ50が実行する制御内容について説明する。
【0044】
(第1実施形態)
まず、
図4を参照して、第1実施形態においてコントローラ50が実行する全体的な制御内容の概要について説明する。
図4は、本発明の第1実施形態による全体制御を示すフローチャートである。
【0045】
図4の制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、コントローラ50に電源が投入された場合に起動され、所定周期(例えば50ms)で繰り返し実行される。この制御処理が開始されると、
図4に示すように、ステップS100において、コントローラ50は、車両1の運転状態に関する各種センサ情報を取得する。具体的には、コントローラ50は、操舵角センサ8が検出した操舵角、アクセル開度センサ10が検出したアクセル開度、車速センサ12が検出した車速、エンジン回転数、車両1の自動変速機4aに現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
【0046】
次に、ステップS101において、コントローラ50は、ステップS100において取得された車両1の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、コントローラ50は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を設定する。
【0047】
次に、ステップS102において、コントローラ50は、ステップS101において設定した目標加速度を実現するためにエンジン4が発生すべき基本トルクを決定する。この場合、コントローラ50は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン4が出力可能なトルクの範囲内で、基本トルクを決定する。
【0048】
次に、ステップS103において、コントローラ50は、後輪2bと前輪2aとのトルク配分比を設定する。具体的には、コントローラ50は、
図3のマップを参照して、トルク配分比を設定する。すなわち、コントローラ50は、後輪2bのスリップによるエネルギー損失と、前輪2aのスリップによるエネルギー損失と、前輪2aへの動力伝達によるトルク伝達機構の機械損失に対応するエネルギー損失との総和を求め、このエネルギー損失の総和が最小となるようなトルク配分比を決定する。
【0049】
また、ステップS101~S103の処理と並行して、ステップS104において、コントローラ50は、ステアリング操作に基づき車両1に加速度を付加するためのトルク(増加トルク)を設定する増加トルク設定処理を実行する。このステップS104においては、コントローラ50は、操舵装置7の操舵角の増加に応じて、つまりステアリングの切り込み操作に応じて、基本トルクを増大させるための増加トルクを設定する。本実施形態では、コントローラ50は、ステアリングが切り込み操作されたときに、トルクを一時的に増加させて車両1に加速度を付加することにより、車両姿勢を制御するようにする。以下では、このようなステアリングの切り込み時において増加トルクを用いて実施される車両姿勢制御を適宜「第1車両姿勢制御」と呼ぶ。
【0050】
ここで、
図5及び
図6を参照して、本発明の第1実施形態における増加トルク設定処理について説明する。
図5は、本発明の第1実施形態による増加トルク設定処理のフローチャートであり、
図6は、本発明の第1実施形態による付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【0051】
増加トルク設定処理が開始されると、ステップS11において、コントローラ50は、操舵装置7の操舵角(絶対値)が増加しているか否か、つまりステアリングが切り込み操作されているか否かを判定する。その結果、操舵角が増加していると判定された場合(ステップS11:Yes)、コントローラ50は、ステップS12に進み、操舵速度が所定の閾値S
1以上であるか否かを判定する。この場合、コントローラ50は、
図4のステップS100において操舵角センサ8から取得した操舵角に基づき操舵速度を算出し、その値が閾値S
1以上であるか否かを判定する。
【0052】
ステップS12の結果、操舵速度が閾値S1以上であると判定された場合(ステップS12:Yes)、ステップS13に進み、コントローラ50は、操舵速度に基づき付加加速度を設定する。この付加加速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき加速度である。
【0053】
具体的には、コントローラ50は、
図6のマップに示す付加加速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS12において算出した操舵速度に対応する付加加速度を設定する。
図6における横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加加速度を示す。
図6に示すように、操舵速度が閾値S
1以下である場合、対応する付加加速度は0である。即ち、操舵速度が閾値S
1以下である場合、コントローラ50は、ステアリング操作に基づき車両1に加速度を付加するための制御を実行しない。
【0054】
一方、操舵速度が閾値S1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加加速度は、所定の上限値Amaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加加速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Amaxは、ステアリング操作に応じて車両1に加速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の加速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値S1よりも大きい閾値S2以上の場合には、付加加速度は上限値Amaxに維持される。
【0055】
次に、ステップS14において、コントローラ50は、ステップS13で設定した付加加速度に基づき、増加トルクを設定する。具体的には、コントローラ50は、基本トルクの増加により付加加速度を実現するために必要となる増加トルクを、
図4のステップS100において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。ステップS14の後、コントローラ50は増加トルク設定処理を終了し、
図4のメインルーチンに戻る。
【0056】
他方で、ステップS11において操舵角が増加していないと判定された場合(ステップS11:No)、又は、ステップS12において操舵速度が閾値S
1未満であると判定された場合(ステップS12:No)、コントローラ50は、増加トルクの設定を行うことなく増加トルク設定処理を終了し、
図4のメインルーチンに戻る。この場合、増加トルクは0となる。
【0057】
図4に戻ると、コントローラ50は、上記の増加トルク設定処理(ステップS104)の後、ステップS105に進み、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するためのトルク(低減トルク)を設定する低減トルク設定処理を実行する。このステップS105においては、コントローラ50は、操舵装置7の操舵角の減少に応じて、つまりステアリングの切り戻しに応じて、基本トルクを減少させるための低減トルクを設定する。本実施形態では、コントローラ50は、ステアリングが切り戻し操作されたときに、トルクを一時的に低減させて車両1に減速度を付加することにより、車両姿勢を制御するようにする。以下では、このようなステアリングの切り戻し時において低減トルクを用いて実施される車両姿勢制御を適宜「第2車両姿勢制御」と呼ぶ。典型的には、この第2車両姿勢制御は、上述した第1車両姿勢制御の後に実施される傾向にある。
【0058】
ここで、
図7及び
図8を参照して、本発明の第1実施形態における低減トルク設定処理について説明する。
図7は、本発明の第1実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートであり、
図8は、本発明の第1実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【0059】
低減トルク設定処理が開始されると、ステップS21において、コントローラ50は、操舵装置7の操舵角(絶対値)が減少しているか否か、つまりステアリングが切り戻し操作されているか否かを判定する。その結果、操舵角が減少していると判定された場合(ステップS21:Yes)、コントローラ50は、ステップS22に進み、操舵速度(絶対値)が所定の閾値S
1以上であるか否かを判定する。この場合、コントローラ50は、
図4のステップS100において操舵角センサ8から取得した操舵角に基づき操舵速度を算出し、その値が閾値S
1以上であるか否かを判定する。
【0060】
ステップS22の結果、操舵速度が閾値S1以上であると判定された場合(ステップS22:Yes)、ステップS23に進み、コントローラ50は、操舵速度に基づき付加減速度を設定する。この付加減速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき減速度である。
【0061】
具体的には、コントローラ50は、
図8のマップに示す付加減速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS22において算出した操舵速度に対応する付加減速度を設定する。
図8における横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加減速度を示す。
図8に示すように、操舵速度が閾値S
1以下である場合、対応する付加減速度は0である。即ち、操舵速度が閾値S
1以下である場合、コントローラ50は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するための制御を実行しない。
【0062】
一方、操舵速度が閾値S1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加減速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値S1よりも大きい閾値S2以上の場合には、付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
【0063】
次に、ステップS24において、コントローラ50は、ステップS23で設定した付加減速度に基づき、低減トルクを設定する。具体的には、コントローラ50は、基本トルクの低減により付加減速度を実現するために必要となる増加トルクを、
図4のステップS100において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。ステップS24の後、コントローラ50は低減トルク設定処理を終了し、
図4のメインルーチンに戻る。
【0064】
他方で、ステップS21において操舵角が減少していないと判定された場合(ステップS21:No)、又は、ステップS22において操舵速度が閾値S
1未満であると判定された場合(ステップS22:No)、コントローラ50は、低減トルクの設定を行うことなく低減トルク設定処理を終了し、
図4のメインルーチンに戻る。この場合、低減トルクは0となる。
【0065】
図4に戻ると、ステップS101~S103の処理並びにステップS104の増加トルク設定処理及びS105の低減トルク設定処理を実行した後、コントローラ50は、ステップS106に進む。ステップS106において、コントローラ50は、車両姿勢制御を実行中であるか否かを判定する。具体的には、コントローラ50は、第1又は第2車両姿勢制御が現在実行されているか否かを判定する。その結果、車両姿勢制御中であると判定された場合(ステップS106:Yes)、ステップS107に進む。
【0066】
ステップS107において、コントローラ50は、車両姿勢制御の実行期間に対して後輪2bと前輪2aとのトルク配分比の変更の実行期間が重複することによる問題の発生を抑えるべく、トルク配分比変更を抑制する。ステップS107の第1の例では、コントローラ50は、車両姿勢制御が実行されているときには、トルク配分比変更の実行を禁止する。この場合、コントローラ50は、例えば、トルク配分比変更を調整するための電磁カップリング9bの通電状態を現状の状態に維持するようにする、つまり電磁カップリング9bの印可電流を変更する制御を行わないようにする。
【0067】
ステップS107の第2の例では、コントローラ50は、車両姿勢制御中のトルク配分比変更を許容して、トルク配分比の変更量を低減して、トルク配分比変更を実行する。すなわち、コントローラ50は、車両姿勢制御が実行されているときには、車両姿勢制御が実行されていないときよりも、トルク配分比の変更量を低減する。具体的には、
図3のエネルギー損失の総和を最小にするための目標値(目標トルク配分比)にトルク配分比を設定する指令が発せられたとしても、コントローラ50は、車両姿勢制御中には、この目標トルク配分比よりも変化量を低減したトルク配分比を適用して、トルク配分比変更を実行する。こうした場合には、車両姿勢制御中においてトルク配分比の変化率が緩やかになる。なお、このようなステップS107の第2の例に係る制御の具体例については後述する。
【0068】
このようなステップS107の後、コントローラ50は、ステップS110に進み、最終目標トルクを設定する。具体的には、コントローラ50は、ステップS104の増加トルク又はステップS105の低減トルクを、ステップS102の基本トルクに適用することで、最終目標トルクを設定する。基本的には、増加トルクと低減トルクの一方のみが設定され、増加トルクと低減トルクの両方が設定されることはないので、コントローラ50は、増加トルクを基本トルクに加算するか(この場合には第1車両姿勢制御が実行される)、或いは低減トルクを基本トルクから減算することで(この場合には第2車両姿勢制御が実行される)、最終目標トルクを設定する。
【0069】
一方、ステップS106において、車両姿勢制御中でないと判定された場合(ステップS106:No)、コントローラ50は、ステップS108に進む。ステップS108において、コントローラ50は、トルク配分比の変更中であるか否かを判定する。つまり、エネルギー損失の総和(
図3)を最小にするために、後輪2bと前輪2aとのトルク配分比の変更が現在実行されているか否かを判定する。その結果、トルク配分比変更中であると判定された場合(ステップS108:Yes)、ステップS109に進む。これに対して、トルク配分比変更中でないと判定された場合(ステップS108:No)、コントローラ50は、ステップS110に進む。この場合には、コントローラ50は、車両姿勢制御もトルク配分比変更も抑制しない。
【0070】
ステップS109において、コントローラ50は、トルク配分比変更の実行期間に対して車両姿勢制御の実行期間が重複することによる問題の発生を抑えるべく、車両姿勢制御を抑制する。ステップS109の第1の例では、コントローラ50は、トルク配分比変更が実行されているときには、第1及び第2車両姿勢制御の両方の実行を禁止する。ステップS109の第2の例では、コントローラ50は、トルク配分比変更が実行されているときには、トルク配分比変更が実行されていないときよりも、第1及び第2車両姿勢制御の実行条件(開始条件)を規定する、操舵速度を判定するための閾値S
1(
図5乃至
図8参照)を大きくして、第1及び第2車両姿勢制御が実行されにくくなるようにする。
【0071】
このようなステップS109の後、コントローラ50は、ステップS110に進み、最終目標トルクを設定する。具体的には、コントローラ50は、車両姿勢制御が実行されない場合、例えばステップS109の第1の例により車両姿勢制御が禁止された場合には、ステップS104の増加トルク及びステップS105の低減トルクを用いずに、ステップS102の基本トルクに基づき最終目標トルクを設定する(最終目標トルク=基本トルク)。他方で、コントローラ50は、車両姿勢制御が実行される場合、例えば操舵速度がステップS109の第2の例により大きくした閾値S1以上となって第1及び第2車両姿勢制御が実行される場合には、ステップS104の増加トルク又はステップS105の低減トルクを、ステップS102の基本トルクに適用することで、最終目標トルクを設定する。基本的には、増加トルクと低減トルクの一方のみが設定され、増加トルクと低減トルクの両方が設定されることはないので、コントローラ50は、増加トルクを基本トルクに加算するか(この場合には第1車両姿勢制御が実行される)、或いは低減トルクを基本トルクから減算することで(この場合には第2車両姿勢制御が実行される)、最終目標トルクを設定する。
【0072】
以上述べたようなステップS110の後、コントローラ50は、ステップS111に進み、ステップS110において設定した最終目標トルクを実現するためのアクチュエータ制御量を設定する。具体的には、コントローラ50は、ステップS110において設定した最終目標トルクに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン4の各構成要素を駆動する各アクチュエータの制御量を設定する。この場合、コントローラ50は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定する。続いて、ステップS112において、コントローラ50は、ステップS111において設定した制御量に基づき各アクチュエータへ制御指令を出力する。
【0073】
具体的には、コントローラ50は、ステップS110において基本トルクに増加トルクを加算することで最終目標トルクを設定した場合には、点火プラグ5cの点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角させる。また、点火時期の進角に代えて、あるいはそれと共に、コントローラ50は、スロットルバルブ5aのスロットル開度を大きくしたり、下死点後に設定されている吸気バルブの閉時期を進角させたりすることによって、吸入空気量を増加させる。この場合、コントローラ50は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ5bによる燃料噴射量を増加させる。
【0074】
他方で、コントローラ50は、ステップS110において基本トルクから低減トルクを減算することで最終目標トルクを設定した場合には、点火プラグ5cの点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角させる(リタードする)。また、点火時期の遅角に代えて、あるいはそれと共に、コントローラ50は、スロットルバルブ5aのスロットル開度を小さくしたり、下死点後に設定されている吸気バルブの閉時期を遅角させたりすることによって、吸入空気量を減少させる。この場合、コントローラ50は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ5bによる燃料噴射量を減少させる。
【0075】
なお、エンジン4がディーゼルエンジンである場合、コントローラ50は、ステップS110において基本トルクに増加トルクを加算することで最終目標トルクを設定したときには、インジェクタ5bによる燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも増加させる。他方で、コントローラ50は、ステップS110において基本トルクから低減トルクを減算することで最終目標トルクを設定したときには、インジェクタ5bによる燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも減少させる。
【0076】
このようなステップS112の後、コントローラ50は、ステップS113に進む。ステップS113では、コントローラ50は、トルク配分比を変更する場合に、典型的にはステップS108においてトルク配分比変更中であると判定された場合に(ステップS108:Yes)、電磁カップリング9bへ制御指令を出力する。具体的には、コントローラ50は、トルク配分比に応じた印加電流を電磁カップリング9bに供給するようにする。そして、コントローラ50は、本制御処理を終了する。
【0077】
(第1実施形態の作用及び効果)
次に、
図9を参照して、本発明の第1実施形態による車両の制御装置による作用について説明する。
図9は、本発明の実施形態による車両1が旋回を行う場合の、車両姿勢制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【0078】
図9のタイムチャートは、上から順に、操舵装置7の操舵角[deg]、操舵装置7の操舵速度[deg/s]、車両1に適用すべき付加加速度及び付加減速度[m/s
2]、エンジン4の最終目標トルク[Nm]、点火プラグ5cの点火時期[deg/CA]、トルク配分比(前輪:後輪)を示している。なお、
図9で示す例では、基本トルクが一定であるものとする。
【0079】
まず、ステアリングの切り込み操作が行われたときに、操舵角及び操舵速度(絶対値)が増加する。その結果、時刻t1において、操舵速度が閾値S
1以上となり(
図5のステップS12:Yes)、第1車両姿勢制御が開始される。具体的には、時刻t1より、付加加速度が設定されて、この付加加速度に応じた増加トルクが設定され(
図5のステップS13~S14)、そして、この増加トルクに応じた最終目標トルクが設定されて、この最終目標トルクが実現されるようにエンジン4のアクチュエータが制御される(
図4のステップS110~S112)。この場合、増加トルクにより基本トルクを増加したトルクが発生するように、点火プラグ5cの点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角される。この後、第1車両姿勢制御中において操舵速度が減少すると、時刻t2において、操舵速度が閾値S
1未満となり(
図5のステップS12:No)、第1車両姿勢制御が終了される。
【0080】
このような増加トルクにより基本トルクを増加したトルクが発生すると(つまり第1車両姿勢制御が実行されると)、増加されたトルクは駆動輪である後輪2bに伝達され、後輪2bを車両前方へ推進させる力となる。この力が前輪2aからサスペンション3を介して車両1の車体に伝達されるときに、車体後部を上向きに持ち上げる力が瞬間的に作用し、車体を前傾させる方向のモーメントが働くことにより、車体前部を下向きに沈み込ませる力が作用し、車体前部が沈み込んで前輪荷重が増大する。これにより、ステアリングの切り込み操作に対する車両1の応答性又はリニア感を向上させることができる。即ち、後輪駆動車において、後輪2bの駆動トルクを増加させて加速度を付与すると、車体を後傾させる慣性力と、車体を前傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリングの切り込み操作に対する車両応答性やリニア感に対しては増加トルクによる瞬間的な車体を前傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
【0081】
ここで、
図9に示す例では、第1車両姿勢制御が開始された時刻t1の直後に、トルク配分比の変更要求が発せられる。
図9のトルク配分比を示すグラフにおいて、実線は、
図3のエネルギー損失の総和を最小にするための目標のトルク配分比(目標トルク配分比)を示している。第1車両姿勢制御が実行されていない場合には、この目標トルク配分比がそのまま用いられて、目標トルク配分比が実現されるようにトルク配分比変更が行われる。一方、このようにトルク配分比の変更要求が発せられたときに第1車両姿勢制御が既に実行されている場合、1つの例では(ステップS107の第1の例)、第1車両姿勢制御中において、トルク配分比変更が禁止されて、トルク配分比が維持される(
図9の破線のグラフ参照)。他の例では(ステップS107の第2の例)、第1車両姿勢制御中において、トルク配分比変更が許容されるが、トルク配分比の変更量が目標トルク配分比の変更量よりも低減される(
図9の一点鎖線のグラフ参照)。この例では、第1車両姿勢制御中においてトルク配分比の変化率が目標トルク配分比よりも緩やかになる。第1車両姿勢制御が終了すると(時刻t2)、このようなトルク配分比変更の制限が解除されて、トルク配分比が目標トルク配分比となるように、トルク配分比が速やかに変更される。
【0082】
次いで、ステアリングの保舵後に切り戻し操作が行われたときに、操舵角が減少し、操舵速度(絶対値)が増加する。その結果、時刻t3において、操舵速度が閾値S
1以上となり(
図7のステップS22:Yes)、第2車両姿勢制御が開始される。具体的には、時刻t3より、付加減速度が設定されて、この付加減速度に応じた低減トルクが設定され(
図7のステップS23~S24)、そして、この低減トルクに応じた最終目標トルクが設定されて、この最終目標トルクが実現されるようにエンジン4のアクチュエータが制御される(
図4のステップS110~S112)。この場合、低減トルクにより基本トルクを抑制したトルクが発生するように、点火プラグ5cの点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角される。この後、第2車両姿勢制御中において操舵速度(絶対値)が減少すると、時刻t4において、操舵速度が閾値S
1未満となり(
図7のステップS22:No)、第2車両姿勢制御が終了される。
【0083】
このような低減トルクにより基本トルクを低減したトルクが発生すると(つまり第2車両姿勢制御が実行されると)、低減されたトルクは駆動輪である後輪2bに伝達され、後輪2bを車両後方へ引っ張る力となる。この力が後輪2bからサスペンション3を介して車両1の車体に伝達されるときに、車体後部を下向きに沈み込ませる力が瞬間的に作用し、車体を後傾させる方向のモーメントが働くことにより、車体前部を上向きに持ち上げる力が作用し、車体前部が浮き上がって前輪荷重が減少する。これにより、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。即ち、後輪駆動車において、後輪2bの駆動トルクを減少させて減速度を付与すると、車体を前傾させる慣性力と、車体を後傾させる瞬間的な力が発生するが、ステアリングの切り戻し操作に対する車両応答性やリニア感に対しては低減トルクによる瞬間的な車体を後傾させる力が支配的に寄与しているものと考えられる。
【0084】
ここで、
図9に示す例では、第2車両姿勢制御が開始された時刻t3の直後に、トルク配分比の変更要求が発せられる。このようにトルク配分比の変更要求が発せられたときに第2車両姿勢制御が既に実行されている場合、1つの例では(ステップS107の第1の例)、第2車両姿勢制御中において、トルク配分比変更が禁止されて、トルク配分比が維持される(
図9の破線のグラフ参照)。他の例では(ステップS107の第2の例)、第2車両姿勢制御中において、トルク配分比変更が許容されるが、トルク配分比の変更量が目標トルク配分比の変更量よりも低減される(
図9の一点鎖線のグラフ参照)。この例では、第2車両姿勢制御中においてトルク配分比の変化率(絶対値)が目標トルク配分比よりも緩やかになる。第2車両姿勢制御が終了すると(時刻t4)、このようなトルク配分比変更の制限が解除されて、トルク配分比が目標トルク配分比となるように、トルク配分比が速やかに変更される。
【0085】
次に、本発明の第1実施形態による車両の制御装置による効果について説明する。
【0086】
第1本実施形態によれば、コントローラ50は、増加トルクを用いた第1車両姿勢制御と後輪2bと前輪2aとのトルク配分比変更とが同時に行われることを抑制する。これにより、第1車両姿勢制御とトルク配分比変更とが両方実行されることによる問題の発生を適切に抑制することができる。具体的には、コントローラ50は、第1車両姿勢制御中においてトルク配分比変更を抑制することで、第1車両姿勢制御によるステアリング切り込み操作に対する車両応答性の改善効果を適切に確保することができる。他方で、コントローラ50は、トルク配分比変更中において第1車両姿勢制御を抑制するので、トルク配分比変更による走行安定性やエネルギー損失の最小化(
図3参照)を適切に確保することができる。
【0087】
また、第1本実施形態によれば、コントローラ50は、低減トルクを用いた第2車両姿勢制御とトルク配分比変更とが同時に行われることを抑制する。これにより、第2車両姿勢制御とトルク配分比変更とが両方実行されることによる問題の発生を適切に抑制することができる。具体的には、コントローラ50は、第2車両姿勢制御中においてトルク配分比変更を抑制することで、第2車両姿勢制御によるステアリング切り戻し操作に対する車両応答性の改善効果を適切に確保することができる。他方で、コントローラ50は、トルク配分比変更中において第2車両姿勢制御を抑制するので、トルク配分比変更による走行安定性やエネルギー損失の最小化を適切に確保することができる。
【0088】
更に、第1本実施形態によれば、コントローラ50は、車両姿勢制御中にトルク配分比を変更する場合には、車両姿勢制御中においてトルク配分比の変更量を低減することで(
図9の一点鎖線参照)、車両姿勢制御中のトルク配分比変更を抑制するので、トルク配分比の変更をある程度確保しつつ、車両姿勢制御により車両応答性を適切に改善することができる。
【0089】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。上述した第1実施形態では、車両姿勢制御中のトルク配分比変更を抑制すると共にトルク配分比変更中の車両姿勢制御を抑制していたが、第2実施形態では、車両姿勢制御とトルク配分比変更とが同時に行われることを許容するが、トルク配分比に基づき第1車両姿勢制御による増加トルク又は第2車両姿勢制御による低減トルクを変更する。こうすることによっても、車両姿勢制御とトルク配分比変更とが両方実行されることによる問題の発生を抑制することができる。
【0090】
なお、以下では、第1実施形態と異なる構成のみを説明し、第1実施形態と同様の構成についてはその説明を適宜省略する。よって、ここで特に説明しない構成は、第1実施形態と同様であるものとする。
【0091】
図10は、本発明の第2実施形態による全体制御を示すフローチャートである。
図10に示すように、第2実施形態では、
図4のステップS106~S109の処理を行わない点で、第1実施形態と異なる。これは、上述したように、第2実施形態では、第1実施形態のように車両姿勢制御中のトルク配分比変更の抑制及びトルク配分比変更中の車両姿勢制御の抑制を行わないことに相当する。また、第2実施形態では、増加トルク設定処理(ステップS104)と低減トルク設定処理(ステップS105)の内容が第1実施形態と異なる。それ以外の点は基本的には第1実施形態と同様である。
【0092】
図11は、本発明の第2実施形態による増加トルク設定処理のフローチャートであり、
図13は、本発明の第2実施形態による低減トルク設定処理のフローチャートである。
図11に示すように、第2実施形態では、
図5のステップS11~S14に加えて、ステップS15の処理を行う点で第1実施形態と異なる。また、
図13に示すように、第2実施形態では、
図7のステップS21~S24に加えて、ステップS25の処理を行う点で第1実施形態と異なる。
【0093】
第2実施形態では、コントローラ50は、
図11のステップS15において、トルク配分比に応じて、ステップS14で設定された増加トルクを変更すると共に、
図13のステップS25において、トルク配分比に応じて、ステップS24で設定された低減トルクを変更する。ステップS15及びS25において、まず、コントローラ50は、電磁カップリング9bに供給している印加電流の大きさに基づき、現在適用しているトルク配分比を求める。そして、コントローラ50は、このトルク配分比に基づき、第1車両姿勢制御による増加トルク又は第2車両姿勢制御による低減トルクを変更する。具体的には、コントローラ50は、
図12に示すようなマップを参照して、増加トルク又は低減トルクを補正する。なお、基本的には、増加トルクと低減トルクの一方のみが設定され、増加トルクと低減トルクの両方が設定されることはないので、コントローラ50は、増加トルクと低減トルクの一方を補正することとなる。
【0094】
図12は、本発明の第2実施形態による増加トルク又は低減トルクを補正するための補正マップである。
図12において、横軸はトルク配分比(前輪:後輪)を示し、縦軸に増加トルク又は低減トルクを補正するためのトルク補正値(ゲインに相当する)を示している。トルク補正値が大きくなると、増加トルク又は低減トルクがより大きく補正され、つまり増加トルク又は低減トルク(絶対値)が大きくなる側に補正され、一方で、トルク補正値が小さくなると、すなわち1に近付くと、増加トルク又は低減トルクはほとんど補正されないものとする。
図12に示すように、トルク配分比が右側に進むほど、つまり前輪2aへのトルク配分量が大きくなるにつれて、トルク補正値が大きくなるように補正マップが規定されている。これにより、前輪2aへのトルク配分量が大きくなるにつれて、増加トルク又は低減トルク(絶対値)が大きな量へと補正されることとなる。
【0095】
このように増加トルク又は低減トルクを補正する理由は、以下の通りである。前輪2a(補助駆動輪)へのトルク配分量が大きいときには、そうでないときと比べて、前輪2aにトルクが配分される分、後輪2b(主駆動輪)のトルクが小さくなる。そのため、トルク配分比変更によらずに常に一定のゲインにて増加トルク又は低減トルクを設定した場合には、特に、前輪2aへのトルク配分量が大きい状況において、車両姿勢制御による後輪2bのトルク変化(増加トルク又は低減トルク)が不十分となり、前輪2aの垂直荷重を効果的に変化させることができなくなる。したがって、本実施形態では、前輪2aへのトルク配分量が大きいときには、そうでないときよりも、車両姿勢制御による増加トルク又は低減トルクを補正するためのトルク補正値を大きくしている。
【0096】
コントローラ50は、
図11のステップS15において、
図12の補正マップによりトルク配分比に応じて増加トルクを補正するか、若しくは、
図13のステップS25において、
図12の補正マップによりトルク配分比に応じて低減トルクを補正する。そして、
図10のステップS110において、コントローラ50は、このように補正した増加トルク又は低減トルクをステップS102の基本トルクに適用することで、最終目標トルクを設定する。
【0097】
なお、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせて実施してもよい。具体的には、車両姿勢制御とトルク配分比変更とが両方実行されることをある程度抑制しつつ、車両姿勢制御とトルク配分比変更とが両方実行される場合に、トルク配分比に応じて第1車両姿勢制御による増加トルク又は第2車両姿勢制御による低減トルクを変更してもよい。
【0098】
(第2実施形態の作用及び効果)
次に、本発明の第2実施形態による車両の制御装置による作用及び効果について説明する。
【0099】
第2本実施形態によれば、コントローラ50は、後輪2bと前輪2aとのトルク配分比に基づき第1車両姿勢制御による増加トルクを変更するので、これによっても、第1車両姿勢制御とトルク配分比変更とが両方実行されることによる問題の発生を適切に抑制することができる。具体的には、第1車両姿勢制御時にトルク配分比が変化したとしても、第1車両姿勢制御により車両姿勢を制御するのに適したトルク増加を確保することができる。したがって、トルク配分比変更を確保しつつ、第1車両姿勢制御により車両応答性を適切に改善することができる。
【0100】
また、第2本実施形態によれば、コントローラ50は、トルク配分比に基づき第2車両姿勢制御による低減トルクを変更するので、これによっても、第2車両姿勢制御とトルク配分比変更とが両方実行されることによる問題の発生を適切に抑制することができる。具体的には、第2車両姿勢制御時にトルク配分比が変化したとしても、第2車両姿勢制御により車両姿勢を制御するのに適したトルク低減を確保することができる。したがって、トルク配分比変更を確保しつつ、第2車両姿勢制御により車両応答性を適切に改善することができる。
【0101】
特に、本実施形態によれば、前輪2aへのトルク配分量が大きいときに増加トルク又は低減トルクを大きくするので、前輪2aのトルク配分量が大きい場合にも、車両姿勢制御により後輪2bに付与されるトルク増加又はトルク低減を確実に確保することができる。
【0102】
<変形例>
以下では、上述した実施形態の変形例について説明する。
【0103】
(変形例1)
上記した実施形態(具体的には第2実施形態)では、前輪2aへのトルク配分量が大きくなるにつれて、増加トルク又は低減トルクを大きくしていた、つまり増加トルク又は低減トルクを補正するためのトルク補正値を大きくしていた(
図12)。他の例では、前輪2aへのトルク配分量が大きくなるにつれて、増加トルク又は低減トルクを小さくしてもよい、つまり増加トルク又は低減トルクを補正するためのトルク補正値を小さくしてもよい。
【0104】
図14は、本発明の第2実施形態の変形例による増加トルク又は低減トルクを補正するための補正マップである。
図14において、横軸はトルク配分比(前輪:後輪)を示し、縦軸に増加トルク又は低減トルクを補正するためのトルク補正値(ゲインに相当する)を示している。
図14に示すように、第2実施形態の変形例では、トルク配分比が右側に進むほど、つまり前輪2aへのトルク配分量が大きくなるにつれて、トルク補正値が小さくなるように補正マップが規定されている。これにより、前輪2aへのトルク配分量が大きくなるにつれて、増加トルク又は低減トルク(絶対値)が小さな量へと補正されることとなる。
【0105】
このように増加トルク又は低減トルクを補正する理由は、以下の通りである。前輪2a(補助駆動輪)へのトルク配分量が大きい状況において、第1車両姿勢制御によりトルクを増加させると、前輪2aの垂直荷重が下がる(後輪2bの垂直荷重が上がる)ピッチング方向に車両上屋の姿勢が変わる。つまり、前輪2aのトルク配分量が大きい状況では、トルク増加による第1車両姿勢制御の効果が期待できない可能性がある。第2車両姿勢制御によるトルク低減についても同様のことが言える。したがって、本変形例においては、前輪2aへのトルク配分量が大きいときには、そうでないときよりも、車両姿勢制御による増加トルク又は低減トルクを補正するためのトルク補正値を小さくしている。
【0106】
(変形例2)
上記した実施形態では、エンジン4を原動機として用いる車両に本発明を適用する例を示したが、本発明は、エンジン4以外を原動機として用いる車両にも適用可能である。例えば、本発明は、モータ(電動機)を原動機として用いる車両にも適用可能である。
【0107】
(変形例3)
また、上記した実施形態では、操舵角及び操舵速度に基づき車両姿勢制御を実行していたが、他の例では、操舵角及び操舵速度の代わりに、ヨーレートや横加速度やヨー加速度や横ジャークに基づき車両姿勢制御を実行してもよい。
【符号の説明】
【0108】
1 車両
2a 前輪
2b 後輪
4 エンジン
4a 自動変速機
4b プロペラシャフト
5a スロットルバルブ
5b インジェクタ(燃料噴射弁)
5c 点火プラグ
6 ステアリングホイール
7 操舵装置
8 操舵角センサ
9a トランスファー
9b 電磁カップリング
10 アクセル開度センサ
12 車速センサ
50 コントローラ