(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】紙の強化方法
(51)【国際特許分類】
D21H 25/18 20060101AFI20220217BHJP
D21H 15/02 20060101ALI20220217BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20220217BHJP
D21H 19/34 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
D21H25/18
D21H15/02
D21H11/18
D21H19/34
(21)【出願番号】P 2017252277
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-12-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発表日 平成29年 7月2日 文化財保存修復学会第39回大会(平成29年7月1日~同2日開催)於金沢歌劇座(石川県金沢市下本多町6番丁27番地)
(73)【特許権者】
【識別番号】504340682
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100123319
【氏名又は名称】関根 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【氏名又は名称】今堀 克彦
(72)【発明者】
【氏名】園田 直子
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 真吾
(72)【発明者】
【氏名】岡山 隆之
(72)【発明者】
【氏名】小瀬 亮太
(72)【発明者】
【氏名】門屋 智恵美
(72)【発明者】
【氏名】関 正純
(72)【発明者】
【氏名】殿山 真央
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-288692(JP,A)
【文献】特開平08-092893(JP,A)
【文献】特開2004-263321(JP,A)
【文献】特開平06-316897(JP,A)
【文献】村井まどか、木下稔夫,セルロースナノファイバーとセルロース誘導体による酸性紙の強化,東京都立産業技術研究センター研究報告,第11号,日本,2016年,第104-105頁
【文献】セルロースナノファイバーを用いた劣化紙の強化処理,第65回日本木材学会大会,日本,一般社団法人 日本木材学会,2015年03月01日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象の紙に脱酸性化処理を施す脱酸性化ステップと、該脱酸性化処理を施された紙の表面に微細セルロースファイバーを塗布する塗工ステップと、
前記脱酸性化ステップの後、かつ、前記塗工ステップの前に、前記処理対象の紙に湿潤処理を施す湿潤ステップと、
を有する
ことを特徴とする紙の強化方法。
【請求項2】
前記塗工ステップでは、前記処理対象の紙の両面に微細セルロースファイバーを塗布することを特徴とする、請求項
1に記載の紙の強化方法。
【請求項3】
前記塗工ステップでは、バーコーターを用いて前記処理対象の紙に微細セルロースファイバーを塗布することを特徴とする、請求項1
又は2に記載の紙の強化方法。
【請求項4】
前記脱酸性化ステップでは、ドライ・アンモニア・酸化エチレン法を用いて、前記処理対象の紙を脱酸性化することを特徴とする、請求項1から
3のいずれか1項に記載の紙の強化方法。
【請求項5】
前記脱酸性化ステップでは、ブックキーパー法を用いて、前記処理対象の紙を脱酸性化することを特徴とする、請求項1から
3のいずれか1項に記載の紙の強化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙資料の強化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
19世紀半ばから20世紀半ばにかけて大量生産された紙を用いた紙資料の劣化が世界的に問題となっている。このような紙資料の劣化は、硫酸アルミニウムを用いたサイジングを原因とする、紙の酸性化に起因するものであり、現在では紙資料の保存のために、紙資料に対する劣化抑制処理(脱酸性化処理)が行われている。
【0003】
上記の様な脱酸性化処理は、紙資料の劣化(酸性化)を抑制するのに有効であるため、劣化の程度が比較的軽微な紙資料に対しては効果的に機能し、資料の延命を図ることができる。一方、既に損傷を生じていたり、劣化の程度が激しい紙資料については、劣化の抑制だけでは資料の保存の観点からは十分ではなく、補修や強化のための処理が必要となる。
【0004】
そして、これらのような、脱酸性化処理、補修・強化のための処理については、様々な方法が開発されており、脱酸性化処理と強化処理を同時に行う方法も知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1など)。
【0005】
特許文献1には、カルボキシルメチルセルロースなどのセルロース誘導体をメタノールなどの有機溶剤中に溶解或いは分散させて得られる処理液に、さらに炭酸マグネシウムなどの酸化中和剤を添加したものを、噴射機によって処理対象物に吹き付けることが開示されている。
【0006】
また、非特許文献1には、いわゆるビュッケブルク保存法による紙資料の脱酸及び強化について記載されており、枚葉の紙資料がアルカリ水溶液によって脱酸性化処理されるとともに、該資料の乾燥中にメチルセルロースが資料のセルロース繊維と結びつくことで強度が増大されることが開示されている。また、非特許文献2及び非特許文献3には、漉きばめと同時に薄く均一な強化繊維層(フリース層)で紙資料の表面を覆う紙資料の強化方法(フリース法)、及び、枚葉の紙資料を厚さ方向に二枚に引き裂き、分割された紙資料の間に補強材を挟んで再接着する強化方法(ペーパースプリット法)について記載されている。
【0007】
しかしながら、上記の技術を含む既存の技術では、資料が処理後に、硬くなってしまう、文字や図画等の情報が見づらくなる、厚さが増大する、紙の寸法の安定性が悪いなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Helge Kleifeld・Volker Hingst著、「ビュッケブルグ保存法による大量脱酸と保存」、アーカイブズ、独立行政法人国立公文書館、平成19年10月31日発行、第30号、第58頁-第65頁
【文献】石井律子著、「紙資料修復の効率的な補強方法とその適用の範囲について-バイエルン州立図書館修復研究所における取り組み-」、古文化財之科学、古文化財保存修復学会、平成7年12月発行、第39号、第81頁-第92頁
【文献】園田直子編著、「紙と本の保存科学」、岩田書院、平成21年10月発行、139頁-167頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような状況に鑑み、紙資料を強化処理する際に、酸性化抑制効果を付与すると共に、資料の硬化、厚さの増大、情報の判読性の低下を抑制することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明に係る紙の強化方法は、処理対象の紙に脱酸性化処理を施す脱酸性化ステップと、該脱酸性化処理を施された紙の表面に微細セルロースファイバーを塗布する塗工ステップと、を有することを特徴とする。
【0012】
微細セルロースファイバー(FCF)は、セルロースミクロフィブリルが数~数百本の束になった繊維であり、その組成は紙の主成分であるセルロースと同じであるため、紙に対して長期的安定性と親和性をもち、接着剤を必要とせずに紙に水素結合で結びつかせることができる。FCFの中でも特に微細なものはセルロースナノファイバー(CNF)とも呼ばれる。
【0013】
上記の様な工程で強化処理された紙資料は、脱酸性化処理によって酸性化(即ち、劣化)が抑制されるとともに、表面にFCFを塗布する処理(以下、塗工処理ともいう)が施されることによって物理的に補強される。そして、FCFは上記の様な組成であるため、表面に塗布しても紙資料を硬化させにくい状態で強化することができる。また、FCFは1nm~1μmの幅の繊維であるため、これを表面に塗布しても、厚さの増大を極めて軽微な水準に抑えることができ、また、高い透明性を有するため資料の判読性を損なわずに、紙資料を強化することができる。
【0014】
また、前記紙の強化方法は、前記脱酸性化ステップの後に、前記処理対象の紙に湿潤処理を施す湿潤ステップをさらに有していてもよい。ここで、湿潤処理は例えば十分な量の水に所定時間処理対象を浸漬させることによって行ってもよい。処理対象が湿潤状態になることによって、FCFを効果的に処理対象の表面に馴染ませることができる。
【0015】
また、前記塗工ステップでは、前記処理対象の紙の両面に微細セルロースファイバーを塗布してもよい。処理対象の資料の内容、状態が許すのであれば、紙の両面に対して塗工処理を行うほうが、片面のみに処理を行うよりもより強固に補強を行うことができる。
【0016】
また、前記塗工ステップでは、バーコーターを用いて前記処理対象の紙に微細セルロースファイバーを塗布してもよい。このような方法で塗工処理を行うことで、処理対象の紙資料に対して均一にFCFを塗布することができる。
【0017】
また、前記脱酸性化ステップでは、ドライ・アンモニア・酸化エチレン(DAE)法を用いて、前記処理対象の紙を脱酸性化してもよい。DAE法とは、気相式の脱酸性化処理であり、密閉化されたチャンバー内で、アンモニアガスを処理対象中に行き渡らせた後、酸化エチレンガスを導入してアンモニアと反応させ、処理対象中にエタノールアミンを生じさせることで、脱酸性化を行う処理である。
【0018】
このような方法を用いると、資料の事前選別が不要、対象を箱などの保存容器に収納したままで処理できる、などの利点があり、好ましい。
【0019】
また、前記脱酸性化ステップでは、ブックキーパー法を用いて、前記処理対象の紙を脱酸性化してもよい。ブックキーパー法とは、酸化マグネシウム微粒子の分散液(溶液としてはフルオロカーボンなどが用いられる)を用いる脱酸性化処理であり、処理対象を分散液に浸漬、或いは分散液を処理対象に噴霧することにより、脱酸性化を行う処理である。
【0020】
このような方法を用いると、前処理の乾燥、後処理の紙の再調湿やガス抜きといった工程が不要である、危険物や毒物および引火性を持つ薬剤を使用しないため安全性が高い、などの利点があり、好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、紙資料を強化処理する際に、酸性化抑制効果を付与すると共に、資料の硬化、厚さの増大、情報の判読性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施例に係る紙資料の強化処理の流れを示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、実施例に係る紙資料の厚さを測定した値を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例に係る紙資料の冷水抽出法によるpHの値を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例に係る紙資料の引裂試験の試験結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例に係る紙資料の引張試験の試験結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、FCFを表面に塗布した状態の新聞紙の写真(図面代用写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照しながら、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に説明する。
【0024】
<実施例1>
(試料)
本実施例では、紙資料として、自然劣化した1981年製造の酸性上質紙(旧十條製紙
製造)を用いた。また、塗工処理に用いるFCFは、水中カウンター処理(ACC(Aqueous Counter Collision)処理)を施すことによって広葉樹晒クラ
フトパルプから調製した。具体的には、原料パルプ約500gを4時間以上浸漬させ、パルプろ水度を100~200mL CSF(Canadian Standard Freeness)に調整するこ
とを目的として、JISP8221-1に準じて、ビーターを用いて180分間叩解を行った。叩解後のパルプにACC処理(衝突圧力200MPa、衝突回数10Pass)を施し、FCFを作製した。なお、ACC処理とは、水に懸濁した天然セルロース繊維を、相対する二つのチャンバーに同時に分離し、両方から一点に向かって高速でジェット噴射させて衝突させる技術である。
【0025】
(強化処理の流れ)
図1は、本実施例に係る紙資料の強化処理の流れを示すフローチャートである。
図1に示すように、はじめに、自然劣化した酸性紙にDAE法による脱酸性化処理を施した(ステップS101)。当該処理が、本発明における脱酸性化ステップに相当する。なお、DAE法による脱酸性化処理は日本ファイリング社において標準条件で実施した。
【0026】
脱酸性化処理後は、FCF塗工処理に先立ってサクションテーブル上に、23℃、50%RH条件下で調湿した紙資料を載せた後、該紙資料を十分な水に2分間浸漬させる湿潤
処理を行い(ステップS102)、その後、サクションテーブル上で脱水を1分間行って(ステップS103)、ワイヤーバーコーター(番線番号No.14)を用いてFCFを塗布した(ステップS104)。なお、ステップS102の処理が本発明における湿潤ステップに相当し、ステップS104の処理が本発明における塗工ステップに相当する。
【0027】
その後、紙資料を再び脱水し(ステップS105)、80℃~90℃に設定した回転型乾燥機で4分間かけて乾燥させた(ステップS106)。乾燥後、再度FCF塗工処理から乾燥を行う工程を実施し、二度塗りを行った(ステップS107~ステップS109)。なお、劣化紙資料両面に同様のFCFコーティングを施したところ、FCFのコーティング量は両面合わせて約2g/m2前後となった。
【0028】
(厚さの測定)
上記の様にして強化処理された紙資料の性質を確認するため、各種の測定、試験を行った。
図2は、強化処理後の試料の厚さを測定した値を示すグラフであり、比較対象として、実施例2に係るブックキーパー法で脱酸性化された強化処理紙(図中及び以下ではBK-FCF塗工紙と標記)、脱酸性化処理が施されていない元の酸性上質紙(図中及び以下では自然劣化酸性紙と標記)、該自然劣化酸性紙を湿潤処理した湿潤酸性紙(図中及び以下では湿潤酸性紙と標記)、の測定結果も併せて示している。なお、本実施例に係るDAE法で脱酸性化された強化処理紙は図中ではDAE-FCF塗工紙と標記している(以下でも同様に標記)。
図2に示す様に、DAE-FCF塗工紙の厚さは100.7μmであり、自然劣化酸性紙(93.5μm)と比べて、約7μmの増加に収まっている。
【0029】
(劣化の評価)
DAE-FCF塗工紙の劣化を評価するため、ISO-5630-5に準じて、100℃の密封法により試料の加速劣化処理を行い、0日間、2日間、5日間、それぞれの時点で、冷水抽出法によるpH、引裂強さ、引張強さ、を測定し、紙資料の物理的性質の評価を行った。それぞれの測定結果を、上記同様比較対象と共に
図3から
図5に示す。
【0030】
図3は冷水抽出法によるpHの値を示すグラフである。
図3に示すように、DAE-FCF塗工紙のpHの測定値は処理直後で8.1であり、脱酸性化が十分に達成されていた。DAE-FCF塗工紙のpHの測定値はその後の加速劣化処理によって低下する傾向を示したが(2日後にはpH5.6に低下)、5日間の加速劣化後でもpH5.6であり、自然劣化酸性上質紙(pH4.1)より高いpH値を維持していた。なお、pHが5を下回ると紙の強度が低下することから、上記の値が維持できているのであれば、劣化の抑制効果が期待できる。
【0031】
図4は引裂試験の試験結果を示すグラフである。
図4に示すように、DAE-FCF塗工紙の引裂強さは処理直後で195mNであり、自然劣化酸性上質紙の値(146mN)に比べて、約49mNの増加が認められた。また、加速劣化処理を5日間行った後の引裂強さは135mNであり、処理直後と比べて約60mNの劣化が認められた。一方、自然劣化酸性上質紙の加速劣化処理後の値は44mNであり(約102mNの劣化)、DAE-FCF塗工紙は自然劣化酸性上質紙に比べて、約42mNの大きな劣化抑制効果が確認された。
【0032】
図5は引張試験の試験結果を示すグラフである。
図5に示すように、DAE-FCF塗工紙の引張強さについては、処理直後で33.0Nであり、自然劣化酸性上質紙の値(25.7N)に比べて、約7.3Nの増加が認められた。また、加速劣化処理を5日間行った後の引裂強さは30.9Nであり、処理直後と比べて約2Nの劣化が認められた。一方、自然劣化酸性上質紙の加速劣化処理後の値は20.9Nであり(約5Nの劣化)、DAE-FCF塗工紙は自然劣化酸性上質紙に比べて、約3Nの大きな劣化抑制効果が確認さ
れた。
【0033】
なお、
図6は、FCFを表面に塗布した状態の新聞紙の写真(図面代用写真)である。
図6に示すように、紙資料表面にFCF塗工処理を行った場合においても、文字情報の判読性が維持されることが分かる。
【0034】
以上見てきたように、本実施例に係る紙の強化方法によれば、紙資料の硬化、厚さの増大、情報の判読性の低下を抑制しつつ、酸性化抑制効果を付与し、引裂強さ、引張強さを増加させることが可能な、紙資料の強化処理技術を提供することができる。また、本実施例では、脱酸性化処理にDAE法を採用しているため、脱酸性化処理の時点において、資料の事前選別が不要であり、対象を箱などの保存容器に収納したままで処理することができる。
【0035】
<実施例2>
本実施例では、実施例1と比べて、脱酸性化処理としてブックキーパー法を採用した点において異なっており、用いた試料、実験全体の流れは実施例1と同様であるため、説明を省略する。ブックキーパー法による脱酸性化処理は、プリザベーション・テクノロジーズ・ジャパン社において標準条件で実施した。
【0036】
上記のように処理されたBK-FCF塗工紙の厚さは、
図2に示す様に、BK-FCF塗工紙の厚さは104.7μmであり、自然劣化酸性紙(93.5μm)と比べて、約11μmの増加に収まっていた。
【0037】
また、実施例2においても、BK-FCF塗工紙の劣化を評価するため、ISO-5630-5に準じて、100℃の密封法により試料の加速劣化処理を行い、0日間、2日間、5日間、それぞれの時点で、冷水抽出法によるpH、引裂強さ、引張強さ、を測定し、紙資料の物理的性質の評価を行った。強化処理された紙資料の性質を確認するため、各種の測定、試験を行った。その試験結果は、前述のように
図3~
図5に比較対象と共に示されている。
【0038】
図3に示すように、BK-FCF塗工紙のpHの測定値は処理直後で9.5であり、脱酸性化が十分に達成されていた。なお、BK-FCF塗工紙のpHの測定値は加速劣化処理後も高い状態で維持され、5日間の加速劣化後でもpH9.3でアルカリ性を維持しており、加速劣化処理に伴うpHの低下が効果的に抑制されたことが分かる。
【0039】
また、
図4に示すように、BK-FCF塗工紙の引裂強さは処理直後で187mNであり、自然劣化酸性上質紙の値(146mN)に比べて、約41mNの増加が認められた。また、加速劣化処理を5日間行った後の引裂強さは125mNであり、処理直後と比べて約62mNの劣化が認められた。一方、自然劣化酸性上質紙の加速劣化処理後の値は44mNであり(約102mNの劣化)、BK-FCF塗工紙は自然劣化酸性上質紙に比べて、約40mNの大きな劣化抑制効果が確認された。
【0040】
また、
図5に示すように、BK-FCF塗工紙の引張強さについては、処理直後で32.2Nであり、自然劣化酸性上質紙の値(25.7N)に比べて、約6.5Nの増加が認められた。また、加速劣化処理を5日間行った後の引張強さは30.9Nであり、処理直後と比べて約1Nの劣化が認められた。一方、自然劣化酸性上質紙の加速劣化処理後の値は20.9Nであり(約5Nの劣化)、BK-FCF塗工紙は自然劣化酸性上質紙に比べて、約4Nの大きな劣化抑制効果が確認された。
【0041】
本実施例に係る紙の強化方法によれば、危険物や毒物および引火性を持つ薬剤を使用し
ないため、安全に紙の強化処理を実施することができる。
【0042】
<その他>
なお、上記の各実施例は、本発明を例示的に説明するものに過ぎず、本発明は上記の具体的な態様には限定されない。本発明は、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、脱酸性化処理に用いる方法はDAE法又はBK法に限定されるものではなく、サブレー法、バッテル法などの他の方法を用いてもよい。また、使用するFCFも、広葉樹晒パルプと限定されるものではなく、他の木材パルプ、非木材パルプを用いてもよい。また、FCF塗布の際に用いる器具も、バーコーターに限定されるものでなく、アプリケーターなどの他の器具を用いてもよい。