(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】固定化細胞又はFFPE組織切片から抗原性を増強した細胞核を脱離する方法並びにそのための抗原賦活剤及びキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20220217BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
G01N33/48 M
G01N33/48 P
(21)【出願番号】P 2020503605
(86)(22)【出願日】2019-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2019007757
(87)【国際公開番号】W WO2019168085
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2018035696
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医工連携事業化推進事業「分子病理診断の標準化を解決するための癌核解析用医療機器及び前処理試薬の開発・海外展開」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 七月
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 美佳
(72)【発明者】
【氏名】中辻 匡俊
(72)【発明者】
【氏名】石原 英幹
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2002/068655(WO,A1)
【文献】特開2013-200287(JP,A)
【文献】SHERI, A. et al.,Developments in Ki67 and other biomarkers for treatment decision making in breast cancer,Annals of Oncology,2012年,Vol. 23, Supplement 10,pp. x219-x227
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
G01N 33/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定化された細胞群中のKi-67陽性細胞核を含む細胞を、抗Ki-67抗体を用いて検出する方法であって、
1)固定化された細胞群を配列番号2のペプチドを認識切断しない加水分解酵素で前処理して抗原を賦活化する工程、その後
2)抗Ki-67抗体を用いて免疫染色する工程、及び
3)染色されたKi-67陽性細胞又はKi-67陽性細胞核を検出する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記抗体が、MIB-1、DAKO-PC、Ki-S5及びA-0047からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酵素が、トロンビン、Arg-C(クロストリパイン)ペプチターゼ、プロリンエンドペプチターゼ及びヒアルロニダーゼからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素が、トロンビン及び/又はヒアルロニダーゼであり、前記抗体が、MIB-1である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記固定化された細胞群が、ホルマリン、グルタルアルデヒド、アルコール、アセトン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される固定化剤で固定されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程1)の前に熱処理により賦活化することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
さらに細胞核を特異的に染色し、染色された細胞核を検出することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
さらに、抗サイトケラチン抗体を用いてサイトケラチンを免疫染色し、染色された陽性細胞を検出することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
さらに抗エストロジェン受容体(ER)抗体及び/又は抗プロゲステロン受容体(PgR)抗体を用いてER及び/又はPgRを免疫染色し、染色された陽性細胞又は陽性細胞核を検出することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
さらにHER2遺伝子にハイブリダイズするプローブを用いて、HER2遺伝子が増幅されている細胞又は細胞核を検出することを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記固定化された細胞群が組織切片に含まれている、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記組織切片が、包理剤で包理されており、
前記加水分解酵素で抗原を賦活化する工程の前に、該包理剤を除去し、該組織切片を親水化する工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程1)と工程2)の間に、前記細胞を破砕して細胞核を抽出する工程を含む、請求項11又は請求項12に記載の方法。
【請求項14】
せん断応力により前記細胞を破砕して、細胞核を抽出する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
界面活性剤を含む緩衝液中で、前記細胞核を抽出する請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記界面活性剤が、CHAPS、NP-40、およびTriton-X100から選択される少なくとも一種である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記染色されたKi-67陽性細胞又はKi-67陽性細胞核の数をカウントする、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記Ki-67陽性細胞又は前記Ki-67陽性細胞核を、蛍光染色し、フローサイトメトリーを用いてカウントする、請求項1~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記固定化された細胞が患者由来である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記組織切片が患者由来である、請求項11~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記固定化された細胞が患者の腫瘍組織由来である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記組織切片が患者の腫瘍組織由来である、請求項11~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記固定化された細胞又は前記腫瘍組織が、乳癌細胞又は乳癌組織である、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
がんの診断を補助するための、請求項19~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
がん治療の予後を診断するのを補助するための、請求項19~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
癌の治療レジメンを決定するのを補助するための方法であって、請求項19~23のいずれか一項に記載の方法により、細胞群内のKi-67陽性細胞の割合を算定し、該算定された割合がカットオフ値以上であるかまたはカットオフ値未満であるかを、内分泌療法と化学療法の併用を選択するかまたは内分泌療法単独を選択するかを決定するための1つの指標とする、方法。
【請求項27】
固定化された腫瘍細胞群又は腫瘍組織を配列番号2のペプチドを認識切断しない加水分解酵素で前処理してKi-67の抗原性を賦活化する方法。
【請求項28】
配列番号2のペプチドを認識切断しない加水分解酵素を含む、Ki-67を免疫染色で検出する細胞又は組織試料に用いられる抗原賦活化剤。
【請求項29】
前記酵素が、トロンビン、Arg-C(クロストリパイン)ペプチターゼ、プロリンエンドペプチターゼ及びヒアルロニダーゼからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項28に記載の抗原賦活化剤。
【請求項30】
前記酵素がトロンビン及び/又はヒアルロニダーゼである、請求項29に記載の抗原賦活化剤。
【請求項31】
配列番号2のペプチドを認識切断しない加水分解酵素を含む、Ki-67及びサイトケラチンを免疫染色で同時検出する細胞又は組織試料に用いられる抗原賦活化剤。
【請求項32】
さらにER及び/又はPgRを免疫染色して検出する細胞又は組織試料に用いられる、請求項28~31のいずれか一項に記載の抗原賦活化剤。
【請求項33】
さらに、HER2遺伝子を増幅している細胞を検出する試料に用いられる、請求項28~32のいずれか一項に記載の抗原賦活化剤。
【請求項34】
固定化された細胞中のKi-67陽性細胞を検出するためのキットであって、
配列番号2のペプチドを認識切断しない加水分解酵素と、
抗Ki-67抗体と
を含む、キット。
【請求項35】
前記加水分解酵素は、トロンビン、Arg-C(クロストリパイン)ペプチターゼ、プロリンエンドペプチターゼ及びヒアルロニダーゼからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
前記加水分解酵素は、トロンビン及び/又はヒアルロニダーゼである、請求項35に記載のキット。
【請求項37】
前記抗Ki-67抗体は、MIB-1、DAKO-PC、Ki-S5及びA-0047からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項34~36のいずれか一項に記載のキット。
【請求項38】
更に、Ki-67と組み合わせて、がんの診断を補助するため、又はがんの治療の予後を診断するのを補助するために用いられる他のマーカーを検出するためのリガンドを含む、請求項34~37のいずれか一項に記載のキット。
【請求項39】
前記リガンドは、抗サイトケラチン抗体、抗ER抗体、抗PgR抗体、及びHER2遺伝子にハイブリダイズするプローブからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項38に記載のキット。
【請求項40】
更に、核染色用の化合物を含む、請求項34~39のいずれか一項に記載のキット。
【請求項41】
更に、細胞を分散させるための緩衝液を含み、該緩衝液は、界面活性剤を含有する、請求項34~40のいずれか一項に記載のキット。
【請求項42】
更に、熱処理抗原賦活化剤を含む、請求項34~41のいずれか一項に記載のキット。
【請求項43】
がんの診断を補助するための、請求項34~42のいずれか一項に記載のキット。
【請求項44】
がん治療の予後を診断するのを補助するための、請求項34~42のいずれか一項に記載のキット。
【請求項45】
癌の治療レジメンを決定するための、請求項34~42のいずれか一項に記載のキット。
【請求項46】
前記治療レジメンの決定は、細胞群内のKi-67陽性細胞の割合を算定し、割合がカットオフ値以上の場合は内分泌療法と化学療法の併用を選択し、割合がカットオフ値未満の場合は、内分泌療法単独を選択することによって行なわれる、請求項45に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ki-67タンパク質陽性細胞核を含む細胞を、Ki-67抗体を用いて検出するための前処理方法、該細胞の検出方法、該前処理方法又は検出方法に用いるキット、及び該検出方法を用いた治療レジメン選定に関する。
【背景技術】
【0002】
外科的に除去された組織のホルマリン固定は、がん組織サンプルを保存するための世界で最も一般的な方法であり、標準的病理技法である。組織が保存される最も一般的な方法は、組織全体を長時間(8時間~48時間)ホルマリン水溶液に浸し、次に固定された組織全体を、室温での長期保存のためにパラフィンワックス中に包埋することである。このように、ホルマリン固定がん組織を分析するための分子分析法は、例えば、がん患者組織の分析のために最も多く利用される方法である。
【0003】
ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織を用いた診断技術としての1つである免疫組織染色法は、組織を薄切してスライドガラスに貼り付けた後に、病理切片組織や細胞の表面に存在する生体物質と、当該生体物質を認識する物質との抗原抗体反応を可視化することにより、病理切片組織や細胞の表面における目的生体物質の所在を判定する方法である。
【0004】
例えば、乳がん組織中で発現があるヒト上皮成長因子受容体(HER2)やエストロジェン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)は治療法の効果と間に関連性があるため、効果予測因子と呼ばれており、臨床において応用されている(非特許文献1)。
一方、その因子の有無と予後が相関する因子のことを予後因子という。Ki-67は現在予後因子とも考えられている。効果予測因子の検出には、主として腫瘍組織サンプルの免疫組織化学的方法(IHC法)が多用されている。腫瘍細胞の染色強度と染色された細胞の比率の両方を加味する方法(All red Score等)や染色強度を評価せず染色された腫瘍細胞の比率のみで判定する方法(J-Score等)のいずれかが用いられる。
HER2の場合、一般にIHC法で検査し、その結果が0あるいは1+の場合は陰性、3+の場合は陽性、2+の場合はFISH法(Fluorescence in situ hybridization)によって増幅の有無を調べ、増幅があれば陽性、なければ陰性と判定する。
ERの場合、All red Scoreでは3~8が陽性とされる一方、染色細胞の比率で判定する場合は10%をカットオフ値とすることが多かったが、1%でも存在する場合は、ER陽性と判定すべきとの意見もある。
Ki-67の場合、組織全体で陽性割合を算出する方法、陽性細胞の集まるホットスポットと呼ばれる領域を選択して算出する方法等が混在している。
いずれにせよ、一定のカットオフ値を設定すれば、これらの効果予測因子が陽性と判断された場合、効果的な治療レジメンの指針となりうる。
【0005】
上記効果予測因子及び予後因子の発現により、乳癌は、様々なサブタイプに分類されている。
1)ルミナルA(様)型:ER・PgR陽性、HER2陰性、Ki-67低値(<14~20%)
2)ルミナルB(様)型(HER2陰性):ER・PgR陽性、HER2陰性、Ki-67高値(≧14~20%)
3)ルミナルB(様)型(HER2陽性):ER・PgR陽性、HER2陽性
4)非ルミナル型:ER・PgR陰性、HER2陽性
5)トリプルネガティブ型:ER陰性、PgR陰性、HER2陰性
これらの分類は治療レジメンの選定にも影響し、例えばKi-67低値であるルミナルA(様)型と判断された場合、主として内分泌療法単独が選択され、一方Ki-67高値であるルミナルB(様)型(HER2陰性)と判断された場合は、主として内分泌療法と化学療法の併用が選択される(非特許文献6、10~12)。
【0006】
しかしながら、免疫組織染色法は上記判定を顕微鏡による目視判定で行っており、カウントも手作業で実施しているため、経験のある病理医にとっても時間と労力が必要である。
【0007】
Ki-67(MKI67)は核内タンパク質であり、一般的に用いられている細胞増殖マーカーである。増殖性細胞の核小体および核分裂期の染色体上に発現する分子であり、細胞周期のすべてのphaseで発現しており、G1期後期から発現量に変化が現れ、S期で発現量の増加が起こり、M期で最大となる。そのため、Ki-67の発現が見られた細胞は、細胞周期に入っていることを表わしているにすぎない。しかしながらKi-67をバイオマーカーの1つとして用いる癌の診断のための試薬および方法が知られており(特許文献1~5)、その測定にかかる時間と労力を節約するために細胞を自動的に解析するための細胞画像自動解析装置および自動化組織分析のための方法が知られている(特許文献6~8)。また、Ki-67を初めとする核に局在するタンパク質を免疫染色した細胞の顕微鏡写真画像を、オープンソースのソフトウェアを用いて計測する方法も知られ、ウェブサイトで公表されている(非特許文献2)。このように、画像診断技術の導入も検討されているものの、Ki-67の評価方法は標準化されておらず、研究毎にさまざまであり一定していない(非特許文献3)。
【0008】
生体から単離した組織を長期に保存可能な方法であるFFPE組織切片から酵素を用いて核を回収し、免疫蛍光染色しFCMで検出することは試されていたが、組織から核を脱離させることのできる酵素はタンパク質の多くの部位を切断するため、抗原認識部位が切断される危険性が高い。非特許文献4によると、例えば、同じKi-67タンパク質を標的とする抗体において、クローン名:S5では検出可能であったものの、異なる抗原認識部位をもつクローン名:MIB-1では検出が不可能であったことが報告されている。
さらに、ホルマリン固定組織やトロンビン:(血漿)ファイブロネクチン固定組織の場合、MIB-1抗体は偽陽性や偽陰性の結果を生じる可能性があった(非特許文献9)
【0009】
しかし、MIB-1を用いたIHC法は長年にわたり臨床現場で使用されているため、経験に基づき選択された抗体のクローンを使用できないことは大きな損失である。
【0010】
FFPE組織切片からタンパク質を抽出する手法も考案されているが、処理後の抗原陽性核の存在を検出するための手法ではない。また、核酸を抽出するキットは実用化されているが、研究用試薬に留まり実用化段階に至ってはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特表平11-509930号公報
【文献】特表2003-506716号公報
【文献】特開2005-315862号公報
【文献】特表2007-524103号公報
【文献】特表2009-527740号公報
【文献】特開2009-63508号公報
【文献】特開2009-122115号公報
【文献】特表2009-537822号公報
【0012】
【文献】科学的根拠に基づく乳癌治療ガイドライン 1.治療編 (日本乳癌学会)
【文献】Breast Cancer Research, 2010, 12:R56http://breast-cancer-resea ch.com/content/12/4/R56
【文献】乳癌学会ガイドライン(日本乳癌学会)http://jbcs.gr.jp/guidline/guideline/g6/g61900/
【文献】Cytometry. 1997 Mar 1;27(3):283-9.Multi-parameter flow cytometric analysis with detection of the Ki67-Ag in paraffin embedded mammary carcinomas.
【文献】Dowsett M, et al. Assessment of Ki67 in breast cancer: recommendations from the International Ki67 in Breast Cancer working group. J Natl Cancer Inst. 2011 Nov 16;103(22):1656-64.
【文献】Angela Toss, et al. Molecular characterization and targeted therapeutic approaches in breast cancer. Breast Cancer Res. 2015 Apr 23;17:60.
【文献】Leers MP, et al. Multi-parameter flow cytometric analysis with detection of the Ki67-Ag in paraffin embedded mammary carcinomas. Cytometry. 1997 Mar 1;27(3):283-9.
【文献】Polley MY, et al. An international Ki67 reproducibility study. J Natl Cancer Inst. 2013 Dec 18;105(24):1897-906.
【文献】Blythe K. Gorman, et al. Comparison of Breast Carcinoma Prognostic/Predictive Biomarkers on Cell Blocks Obtained by Various Methods: Cellient, Formalin and Thrombin. Acta Cytologica 2012;56:289-296.
【文献】科学的根拠に基づく乳癌治療ガイドライン 2.疫学・診断編 (日本乳癌学会)
【文献】A. Goldhirsch1, et al. Personalizing the treatment of women with early breast cancer: highlights of the St Gallen International Expert Consensus on the Primary Therapy of Early Breast Cancer 2013. Annals of Oncology 24: 2206-2223, 2013.
【文献】A. Goldhirsch, et al. Strategies for subtypes-dealing with the diversity of breast cancer: highlights of the St Gallen International Expert Consensus on the Primary Therapy of Early Breast Cancer 2011. Annals of Oncology 22: 1736-1747, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように、免疫組織染色法は顕微鏡による目視判定で行っており、カウントも手作業で実施しているため、同じ病理組織切片を用いても、病理医により、判定が異なることが多い(比較例2参照)。Ki-67陽性細胞の存在比(%)(カットオフ値)は治療レジメンの選定に影響するため、より客観性、再現性、普遍性の高いKi-67陽性細胞存在比の定量方法が求められていた。
【0014】
上記のように、病理組織切片を含む組織試料はがん切除時或いは生検時において、標準的病理技法として作製保存されており、この保存された試料を用いることの出来る定量方法であることが望ましい。
通常、FFPE組織から単一の細胞レベルで解析を行う場合、細胞間の接着を担う細胞外基質を切断して抗原を賦活化する必要がある。しかしながら、これらの酵素を用いた消化は、標的とする抗原の認識部位を切断する可能性があり、使用可能な抗体を制限する。そのため、上記の既存方法以外で細胞分散や、細胞核を脱離する方法が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者らは鋭意研究の結果、細胞分散や細胞核の脱離に向かないとされる酵素による前処理法を検討し、MIB-1のエピトープを認識しない酵素(レアカッター酵素)で組織又は細胞試料を前処理したところ、サイトケラチンを含む他の抗原の抗原性も増強しつつ、Ki-67抗原の賦活化に成功した。その結果、FFPE切片から抗原性を増強させたまま細胞核を脱離させ、その核に存在するKi-67タンパク質を標的とし、これに特異的な抗体を反応させることで、より客観性、再現性、普遍性の高いKi-67陽性細胞の検出方法を完成させた。
【0016】
従って、本発明は以下の[1]から[45]の通りである。
[1] 固定化された細胞群中のKi-67陽性細胞核を含む細胞を、抗Ki-67抗体を用いて検出する方法であって、
1)固定化された細胞群を配列番号2のペプチドを認識切断しない加水分解酵素で前処理して抗原を賦活化する工程、その後
2)抗Ki-67抗体を用いて染色する工程、及び
3)染色されたKi-67陽性細胞又はKi-67陽性細胞核を検出する工程を含む方法;
[2] 前記抗体が、MIB-1、DAKO-PC、Ki-S5及びA-0047からなる群から選択される少なくとも一種である[1]に記載の方法;
[3] 前記酵素が、トロンビン、Arg-C(クロストリパイン)ペプチターゼ、プロリンエンドペプチターゼ及びヒアルロニダーゼからなる群から選択される少なくとも一種である[1]又は[2]に記載の方法;
[4] 前記酵素が、トロンビン及び/又はヒアルロニダーゼであり、前記抗体が、MIB-1である[1]に記載の方法;
[5] 前記固定化された細胞群が、ホルマリン、グルタルアルデヒド、アルコール、アセトン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される固定化剤で固定されている、[1]~[4]のいずれか一項に記載の方法;
[6] 工程1)の前に熱処理により賦活化することを含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法;
【0017】
[7] さらに細胞核を特異的に染色し、染色された細胞核を検出(例えば、カウント)することを含む、[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法;
[8] さらに、抗サイトケラチン抗体を用いてサイトケラチンを染色(例えば、蛍光染色)し、染色された陽性細胞を検出することを含む、[1]~[7]のいずれか一項に記載の方法;
[9] さらに抗エストロジェン受容体(ER)抗体及び/又は抗プロゲステロン受容体(PgR)抗体を用いてER及び/又はPgRを染色(例えば、蛍光染色)し、染色された陽性細胞又は陽性細胞核を検出(例えば、カウント)することを含む、[1]~[8]のいずれか一項に記載の方法;
[10] さらにHER2遺伝子にハイブリダイズするプローブを用いて、HER2遺伝子が増幅されている細胞又は細胞核を検出することを含む、[1]~[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11] 前記固定化された細胞群が組織切片に含まれている、[1]~[10]のいずれか一項に記載の方法;
[12] 前記組織切片が、包理剤で包理されており、
前記加水分解酵素で抗原を賦活化する工程の前に該包理剤を除去し、該組織切片を親水化する工程を含む、[11]に記載の方法;
【0018】
[13] 工程1)と工程2)の間に、前記細胞を破砕して細胞核を抽出する工程を含む、[11]又は[12]に記載の方法;
[14] 水流、超音波などで生じるせん断応力により前記細胞を破砕して、細胞核を抽出する、[13]に記載の方法;
[15] 界面活性剤を含む緩衝液中で、前記細胞核を抽出する[13]又は[14]に記載の方法;
[16] 前記界面活性剤が、CHAPS、NP-40、およびTriton-X100から選択される少なくとも一種である、[15]に記載の方法;
[17] 前記染色されたKi-67陽性細胞又はKi-67陽性細胞核の数をカウントする、[1]~[16]のいずれか一項に記載の方法;
[18]前記Ki-67陽性細胞又は前記Ki-67陽性細胞核を、蛍光染色し、フローサイトメトリーを用いてカウントする、[17]に記載の方法;
[19] 前記固定化された細胞又は前記組織切片が患者由来である、[1]~[18]のいずれか一項に記載の方法;
[20] 前記固定化された細胞又は前記組織切片が患者の腫瘍組織由来である、[1]~[18]のいずれか一項に記載の方法;
[21] 前記固定化された細胞又は前記腫瘍組織が、乳癌細胞又は乳癌組織である、[20]に記載の方法;
[22] がんの診断を補助するための、[20]又は[21]に記載の方法;
[23] がん治療の予後を診断するのを補助するための、[20]又は[21]に記載の方法;
【0019】
[24] 癌の治療レジメンを決定するための方法であって、[20]又は[21]に記載の方法により、細胞群内のKi-67陽性細胞の割合を算定し、割合がカットオフ値以上の場合は内分泌療法と化学療法の併用を選択し、割合がカットオフ値未満の場合は、内分泌療法単独を選択する方法;
[25] [20]又は[21]に記載の方法により、細胞群内のKi-67陽性細胞の割合を算定し、割合がカットオフ値以上の場合は内分泌療法と化学療法の併用を選択し、割合がカットオフ値未満の場合は、内分泌療法単独を選択して、患者に施し、癌を治療する方法。
【0020】
[26] 固定化された腫瘍細胞群又は腫瘍組織を配列番号2のペプチドを認識切断しない加水分解酵素で前処理してKi-67を賦活化する方法;
[27] 配列番号2のペプチドを認識切断しない加水分解酵素を含む、Ki-67を免疫染色で検出する細胞又は組織試料に用いられる抗原賦活化剤;
[28] 前記酵素が、トロンビン、Arg-C(クロストリパイン)ペプチターゼ、プロリンエンドペプチターゼ及びヒアルロニダーゼからなる群から選択される少なくとも一種である、[27]に記載の抗原賦活化剤;
[29] 前記酵素がトロンビン及び/又はヒアルロニダーゼである、[28]に記載の抗原賦活化剤。
【0021】
[30] 配列番号2のペプチドを認識切断しない加水分解酵素を含む、Ki-67及びサイトケラチンを免疫染色で同時検出する細胞又は組織試料に用いられる抗原賦活化剤;
[31] 更に、ER及び/又はPgRを免疫染色して検出する細胞又は組織試料に用いられる[27]~[30]のいずれか一項に記載の抗原賦活化剤;
[32] 更に、HER2遺伝子を増幅している細胞を検出する試料に用いられる[27]~[31]のいずれか一項に記載の抗原賦活化剤;
【0022】
[33] 固定化された細胞中のKi-67陽性細胞を検出するためのキットであって、
配列番号2のペプチドを認識切断しない加水分解酵素と、
抗Ki-67抗体と
を含む、キット;
[34] 前記加水分解酵素は、トロンビン、Arg-C(クロストリパイン)ペプチターゼ、プロリンエンドペプチターゼ及びヒアルロニダーゼからなる群から選択される少なくとも一種である、[32]に記載のキット;
[35] 前記加水分解酵素は、トロンビン及び/又はヒアルロニダーゼである、[34]に記載のキット;
[36] 前記抗Ki-67抗体は、MIB-1、DAKO-PC、Ki-S5及びA-0047からなる群から選択される少なくとも一種である、[33]~[35]のいずれか一項に記載のキット;
[37] 更に、Ki-67と組み合わせて、がんの診断を補助するため、又はがんの治療の予後を診断するのを補助するために用いられる他のマーカーを検出するためのリガンドを含む、[33]~[36]のいずれか一項に記載のキット;
[38] 前記リガンドは、抗サイトケラチン抗体、抗ER抗体、抗PgR抗体、及びHER2遺伝子にハイブリダイズするプローブからなる群から選択される少なくとも一種である、[37]に記載のキット;
[39] 更に、核染色用の化合物を含む、[33]~[38]のいずれか一項に記載のキット;
[40] 更に、細胞を分散させるための緩衝液を含み、該緩衝液は、界面活性剤を含有する、[33]~[39]のいずれか一項に記載のキット;
[41] 更に、熱処理抗原賦活化剤を含む、[33]~[40]のいずれか一項に記載のキット;
[42] がんの診断を補助するための、[33]~[41]のいずれか一項に記載のキット。
[43] がん治療の予後を診断するのを補助するための、[33]~[41]のいずれか一項に記載のキット;
[44] 癌の治療レジメンを決定するための、[33]~[41]のいずれか一項に記載のキット;
[45] 前記治療レジメンの決定は、細胞群内のKi-67陽性細胞の割合を算定し、割合がカットオフ値以上の場合は内分泌療法と化学療法の併用を選択し、割合がカットオフ値未満の場合は、内分泌療法単独を選択することによって行なわれる、キット;
【0023】
[46] 水流、超音波などで生じるせん断応力により固定化された細胞を破砕して、細胞核を抽出するためのキットであって、
界面活性剤を含有する細胞分散用緩衝液を含む、キット;
[47] 水流、超音波などで生じるせん断応力により固定化された細胞を破砕して、細胞核を抽出する方法であって、
該固定化された細胞を界面活性剤を含有する緩衝液に分散して該細胞の破砕を行う、方法;及び
[48] 固定化された細胞群中の目的の抗原が細胞核に存在する細胞を、該抗原の抗体を用いて検出する方法であって、
1)該固定化された細胞群を、該抗体の抗原認識部位を切断しない加水分解酵素で前処理して抗原を賦活化する工程、その後
2)該抗体を用いて該細胞を染色する工程、及び
3)染色された抗原陽性細胞又は抗原陽性細胞核を検出する工程を含む方法。
【発明の効果】
【0024】
本願発明により、客観性、再現性、普遍性の高いKi-67陽性細胞の検出(定量)方法が確立される。
本発明より提供されるプロトコール(前処理試薬とプロセス)を用いることで、FFPE組織切片から標的抗原の抗原性を増強した細胞核の脱離を達成する。回収した分散細胞核は、単一の細胞核として解析することが可能である。例えば、核膜上や核内のタンパク質、核酸等が検出対象となり、色素(蛍光物質、化学発行物質、酵素など)による染色や、これらの色素により修飾された抗体を用いて検出することができる。特に、フローサイトメトリー解析により脱離核中の対象タンパク質の陽性核の割合(Ki-67陽性率等)を迅速に算出することが可能である。
Ki-67のカットオフ値は、病理医による、目視判定とカウントの工程を必要としていたため、ばらつきがあり、従来施設ごとに異なっていた。しかしながら本発明より提供されるプロトコール(前処理試薬とプロセス)を用いることで、ばらつきの少ない病理診断のカットオフ値の世界基準を提供することが可能である。
そして、かかるカットオフ値を用いて、患者にQOLの高い診断レジメンを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】乳癌組織のFFPE組織切片に脱パラフィン//親水化、熱処理による抗原賦活化を施し、水流せん断装置を用いて細胞を破砕した後、回収産物に免疫蛍光染色を行い顕微鏡観察した鏡検画像。左は、DAPI染色された核を示し、右は、DAPI染色された核と蛍光標識されたサイトケラチン(存在する場合には)を示し、両者から細胞核がその形状を維持して回収されたことが理解される。
【
図2】ホルマリン固定した各腫瘍細胞株(MB231、T47D、SKBR)に熱処理による抗原賦活化を施し、免疫蛍光染色を行った後、フローサイトメーターで分析し、得られたデータを解析して、前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸として示したスキャッタグラム。
【
図3】
図2の枠で囲んだ領域を細胞核の領域としてゲーティングし、ゲーティング画分のデータについて、DAPIの蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図4】ホルマリン固定した乳癌細胞に熱処理による抗原賦活化を施し、抗サイトケラチン抗体及び抗Ki-67抗体或いはそれらのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色を行った後、フローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図5】ホルマリン固定した各腫瘍細胞株(MB231、T47D、SKBR)に熱処理による抗原賦活化を施し、その後トロンビンによる抗原賦活化をし又はせずに、抗Ki-67抗体或いはそのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色を行った後、フローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図6】トロンビン処理の有無による各腫瘍細胞株中のKi-67陽性率の変化を示すグラフ。
【
図7】ホルマリン固定したT47D細胞株に熱処理による抗原賦活化を施し、その後ヒアルロニダーゼ試薬にて処理し、又は当該処理をせずに、抗Ki-67抗体或いはそのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色を行った後、フローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図8】乳癌組織のFFPE組織切片に脱パラフィン/親水化、熱処理による抗原賦活化を施し、水流による細胞の破砕をした後、抗サイトケラチン抗体及び抗Ki-67抗体或いはそれらのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、次いでフローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図9A】乳癌組織のFFPE組織切片に脱パラフィン/親水化、熱処理による抗原賦活化を施し、トロンビンによる抗原賦活化をし又はせずに、水流により細胞を破砕をした後、抗サイトケラチン抗体及び抗Ki-67抗体或いはそれらのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、次いでフローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。これにより、トロンビン処理によるFFPE組織切片検体中のサイトケラチン及びKi-67シグナルの増強が確認される。
【
図9B】トロンビン処理の有無によるFFPE組織切片中のサイトケラチン及びKi-67の陽性率の変化を示すグラフ。
【
図10】薄切切片の厚さによるサイトケラチン及びKi-67陽性率の変化を示すグラフ。
【
図11】本願発明に係る方法によるKi-67陽性率とIHC法による陽性率(平均値)の相関図。
【
図12A】ホルマリン固定した各腫瘍細胞株(MB231、T47D、SKBR)に熱処理による抗原賦活化を施した後、5種の消化酵素(トロンビン、トリプシン、プロテイナーゼK、ディスパーゼ、プロリンエンドペプチダーゼ)の何れかで抗原賦活化し、抗Ki-67抗体又はそのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、次いでフローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図12B】ホルマリン固定した各腫瘍細胞株(MB231、T47D、SKBR)に熱処理による抗原賦活化を施した後、5種の消化酵素(トロンビン、トリプシン、プロテイナーゼK、ディスパーゼ、プロリンエンドペプチダーゼ)の何れかで抗原賦活化し、抗サイトケラチン抗体又はそのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、次いでフローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図13A】乳癌組織のFFPE組織切片に脱パラフィン/親水化、熱処理による抗原賦活化を施し、5種の消化酵素(トロンビン、トリプシン、プロテイナーゼK、ディスパーゼ、プロリンエンドペプチダーゼ)の何れかで抗原賦活化し、更に水流で細胞を破砕した後、抗Ki-67抗体又はそのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、次いでフローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図13B】乳癌組織のFFPE組織切片に脱パラフィン/親水化、熱処理による抗原賦活化を施し、5種の消化酵素(トロンビン、トリプシン、プロテイナーゼK、ディスパーゼ、プロリンエンドペプチダーゼ)の何れかで抗原賦活化し、更に水流で細胞を破砕した後、抗サイトケラチン抗体又はそのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、次いでフローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図14】乳癌組織のFFPE組織切片に脱パラフィン/親水化、熱処理による抗原賦活化を施し、トロンビンで抗原賦活化し、更に水流により細胞を破砕した後、認識部位の異なる2つの抗Ki-67抗体(MIB-1クローン及びS5クローン)の何れか及び抗サイトケラチン抗体或いはそれらのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、次いでフローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図15】公知の方法に従って、乳癌組織のFFPE組織切片を脱パラフィン/親水化を施した後トリプシンで抗原賦活化し、認識部位の異なる2つの抗Ki-67抗体(MIB-1クローン及びS5クローン)の何れか及び抗サイトケラチン抗体或いはそれらのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、次いでフローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図16】ER及びPgR陽性または陰性が既知となっているFFPE組織切片を脱パラフィン/親水化、熱処理による抗原賦活化を施し、その後トロンビンで抗原賦活化し、更に水流により細胞を破砕した後、抗ER抗体及び抗PgR抗体或いはそれらのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、次いでフローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図17】ホルマリンで固定化した乳癌細胞株MDA-MB-231に、異なる熱処理抗原賦活化剤を用いて抗原賦活化を施し、その後トロンビンで抗原賦活化し、抗Ki-67抗体及び抗サイトケラチン抗体或いはそれらのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図18】乳癌組織のFFPE組織切片に脱パラフィン/親水化、熱処理による抗原賦活化を施し、トロンビンで抗原賦活化し、4種の異なる破砕方法(マッシャー、乳鉢、超音波破壊、水流破壊と超音波破壊の組み合わせ)の何れかを適用した後、抗サイトケラチン抗体及び抗Ki-67抗体或いはそれらのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、次いでフローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図19】ホルマリン固定化した2種の乳癌細胞株SKBr3及びMDA-MB-231、並びにリンパ芽球性細胞株Jurkatに、熱処理による抗原賦活化処理を施し、トロンビンで抗原賦活化し、超音波により細胞を破砕した後、細胞核を染色し、次いでフローサイトメーターで分析し、得られたデータを解析して、前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸として示したスキャッタグラム。
【
図20】乳癌組織のFFPE組織切片に所定の前処理を施し、トロンビン処理し、更に水流により細胞を破砕し、各種界面活性剤を含む緩衝液中に細胞を分散させて超音波により細胞を破砕した後、細胞核を染色し、次いでフローサイトメーターで分析し、得られたデータを解析して、前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸として示したスキャッタグラム。
【
図21】異なる病理医よって算出されたIHC法による乳癌組織のFFPE組織切片中のKi-67陽性率の相関図。
【
図22A】ホルマリン固定した各腫瘍細胞株(MB231、T47D、SKBR)熱処理による抗原賦活化を施し、3種の消化酵素(トロンビン、プロテイナーゼK、ディスパーゼ)の何れかで抗原賦活化した後、抗Ki-67抗体S5クローン(Ki-S5)又はそのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、フローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図22B】ホルマリン固定した各腫瘍細胞株(MB231、T47D、SKBR)に熱処理による抗原賦活化を施し、3種の消化酵素(トロンビン、プロテイナーゼK、ディスパーゼ)の何れかで抗原賦活化した後、抗サイトケラチン抗体又はそのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、フローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。
【
図23】乳癌組織のFFPE組織切片に脱パラフィン/親水化、熱処理による抗原賦活化を施し、トロンビンで抗原賦活化し、水流により細胞の破砕をし、更に超音波による細胞の破砕を行った後、抗サイトケラチン抗体及び抗Ki-67抗体或いはそれらのアイソタイプコントロール抗体で免疫蛍光染色し、次いでフローサイトメーターで分析し、細胞核領域として選択されたゲーティング画分のデータについて、蛍光強度を横軸、細胞(核)数を縦軸として示したヒストグラム。この図には、陽性核判定の閾値を変動させた場合の陽性率を示してある。
【
図24】HER2陽性及び陰性が既知のFFPE組織切片に、脱パラフィン/親水化、熱処理による抗原賦活化を施した後、トロンビンで抗原賦活化し、水流による細胞の破砕をし、更に超音波による細胞の破砕を行った後、蛍光標識されたDNAプローブを用いてHER2遺伝子をFISH法により蛍光染色し、蛍光顕微鏡で観察した際の画像。
【0026】
「細胞の固定化」とは、試料を固定液に漬けて分子架橋やタンパク質不溶化による細胞の形態や組織の構造を安定化させることを指す。固定化には公知の方法を用いればよく、例えば、ホルマリン液、パラホルムアルデヒド液、グルタルアルデヒド液、四酸化オスミウム液、酢酸アルコール、メタノール、エタノール、アセトンなどを用いる方法がある。あるいは、凍結法により固定化してもよい。
【0027】
「Ki-67抗原(MKI67:Marker Of Proliferation Ki-67)」は、核内タンパク質の一種であり、ヒトの場合、配列番号1のアミノ酸配列(3256アミノ酸)で表される(UniProtKB - P46013 (KI67_HUMAN))。Ki-67は元々白血病患者の血液中の自己抗体として発見された抗体の名称であるが、本願において、特に指定がない場合は「Ki-67」は「Ki-67抗原」タンパク質を指す。従って、「抗Ki-67抗体」とは、Ki-67抗原を認識する「抗体」を指す。
「抗体」は、完全長(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)イムノグロブリンであってもよく、その抗原結合認識領域を含む断片(いわゆる断片抗体(Fab、Fab’、F(ab’)2など))であってもよい。また「抗体」は、ヒト、マウス、ラット、ヤギ、ウマ、ラクダなど哺乳動物のほか、魚類(サメを含む)や鳥類(ニワトリ)に由来するものであってよい。
「MIB-1」又は「MIB-1抗体」は、Ki-67抗体をモノクローナル化したクローンの1つである。特に限定しないが、Dako社やImmunotech社から購入可能である。Ki-67中、PKEKAQALEDLAGFKELFQT(配列番号2)からなるエピトープを認識して結合する。
「抗Ki-67抗体」とは、Ki-67を認識し、これに結合する抗体を指し、MIB-1の他、MIB-2、MIB-5、MIB-7、MIB-21およびMIB-24などのMIB(登録商標)ファミリーに属する抗体、DAKO-PC、Ki-S5、A0047なども「抗Ki-67抗体」として用いることができ、それ以外の市販或いは臨床検査上使用されている同じ特性の抗体も「抗Ki-67抗体」として用いることができる。抗Ki-67抗体は、Ki-67抗原またはその一部を抗原として用い、公知の方法によって調製することができる。本発明で用いられる「抗Ki-67抗体」は、上記エピトープを認識する抗体を含むことが好ましい。
【0028】
「トロンビン(Thrombin、第IIa因子)」は、血液の凝固に関わる酵素(セリンプロテアーゼ)である(EC番号:EC3.4.21.5)。
【0029】
「配列番号2のペプチドを認識切断しない加水分解酵素」とは、MIB-1抗体のエピトープを認識切断しない加水分解酵素を指す。
これに限定しないが、公知のデータベースにより(http://web.expasy.org/peptide_cutter/)、このような特性を有する蛋白分解酵素を知る事ができる(表1)。また、ある酵素がこのような特性を有するかは、MIB-1、又は同じエピトープを認識する他の抗体を用いて当該酵素が当該エピトープを切断するかを分析して確認することができる。
抗体が細胞内に浸潤するため或いは/及び細胞核の抽出のため、かかる酵素は細胞外マトリックスである、コラーゲンを認識切断できることが好ましい。これに限定しないが、トロンビン、Arg-C(クロストリパイン)ペプチターゼ(EC 3.4.22.8)、プロリンエンドペプチターゼ(EC 3.4.21.26)などが挙げられる。
【表1】
本発明の目的には、ヒアルロニダーゼなどの蛋白以外の細胞外基質中の成分を加水分解する酵素も好ましい。ヒアルロニダーゼ(EC 3.2.1.35)は、ヒアルロン酸のβ‐1‐4結合を分解する加水分解酵素であり、配列番号2のペプチドを切断しない。ヒアルロニダーゼのこの特性により、抗体の細胞内への浸潤が促進される。このような酵素としてヒアルロニダーゼ、グリコシダーゼ(EC 3.2.1)、N-グリカナーゼ(EC 3.5.1.52)等を挙げることができ、ヒアルロニダーゼが好ましい。
また、上述した配列番号2のペプチドを認識切断しない蛋白酵素は、配列番号2のペプチドを切断し無い点でヒアルロニダーゼと共通する一方、両者は、全く異なる作用の酵素であるため、両者を組み合わせることで抗原不活化活性がより高まることが期待される。特に、トロンビンとヒアルロニダーゼの組み合わせは好ましい。
【0030】
「酵素による抗原賦活化」は、酵素処理により抗原若しくは細胞外基質を切断し、抗体の反応性を増幅する過程であり、pH調整した緩衝液に酵素を溶解した試薬に、サンプルを浸漬させることで行うことができる。酵素反応に適した温度で加温し、所定時間経過後反応を停止させる。反応停止には、試薬の除去、温度変化、キレーター添加等を用いる。
【0031】
「抗体を用いて染色する」は、各抗体に直接、蛍光化合物、酵素、化学発光物質などの標識を結合させ(直接法)、その標識抗体を抗原に結合させることによって行ってもよいし、抗原に結合する抗体を非標識の一次抗体として、この一次抗体にそれぞれ特異的で且つ上記標識を結合させた二次抗体を結合させることにより間接的に標識付けして(間接法)、行ってもよい。
【0032】
「蛍光化合物」は、特に限定しないが、Cy3等のシアニン系色素、フルオレセインイソチアシネート(FITC)、アロフィコシアニン、ローダミンなどの蛍光物質が挙げられる。発光する蛍光波長の異なる蛍光色素で各抗体(あるいはその二次抗体)を標識することが好ましい(例えばAlexa Fluor(登録商標)シリーズの蛍光物質)。
「標識酵素」は、特に限定しないが、アルカリフォスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼが挙げられる。
「化学発光物質」は、特に限定しないが、ルミノール、AMPPD(登録商標)、CSPD(登録商標)、CDP-Star(登録商標)が挙げられる。
【0033】
一態様において、組織切片中の細胞群中において、Ki-67以外にも複数の検出/定量する抗原がある場合、
1)同一(FFPE)組織切片に対し、異なる蛍光波長の蛍光色素などの他のリガンドとの識別が可能になる標識で各リガンド(例えば、抗サイトケラチン抗体、抗ER抗体、抗PgR抗体、HER2遺伝子にハイブリダイズする核酸、あるいはそれらに結合する二次抗体又は核酸)を標識し、検出/定量してもよいし、或いは
2)同一組織ブロックから均質と仮定される複数の(FFPE)組織切片を作製し、各標的物質について染色(例えば、免疫蛍光染色、FISH)を行い検出/定量してもよい。
【0034】
「細胞核を特異的に染色」するとは、固定化された細胞内の細胞核を特異的に染色する化合物で標識することを指し、これに限定しないが、細胞非透過性の核酸染色用の化合物が好ましく、例えば、DAPIやヨウ化プロピジウム(PI)等の蛍光色素が挙げられる。
【0035】
蛍光染色された細胞又は細胞核はサイトメトリー(Cytometry)により、カウントすることが出来る。サイトメトリーとは、短時間(数秒から数分)に多量(数千個から数百万個)の細胞を1個ずつ定量測定する細胞測定法である。サイトメトリーには、懸濁させた細胞を、シース流を用いて、1個ずつセンシングゾーンに細胞を導き、高速で散乱光と蛍光などを測定するフローサイトメトリー(Flow Cytometry)と、マルチウェルプレートやスライドグラス上の付着した細胞集団などを、レーザー走査して蛍光イメージ、散乱光、透過光イメージなどを取得し、細胞画像処理にて、1個の細胞ごとの情報を抽出するイメージングサイトメトリー(Imaging Cytometry)がある。
【0036】
「細胞核を抽出する工程」とは、固定された細胞(組織)から細胞核をその構造を維持したまま抽出することを指す。細胞にせん断応力を発生させて細胞を破砕する手段を用いて行うことができ、これらに限定しないが、例えば、水流破砕、マッシャー、乳鉢、超音波破砕、メッシュ、フレンチプレス、ホモジナイザー処理、ガラスビーズ処理等、公知の方法を用いて行うことが出来る。
【0037】
好ましくは、本発明は、FFPE組織から抗原性を消失させることなく、且つ使用抗体や検出方法を制限せずに、細胞核を脱離させ、さらには染色シグナルを増強させる方法であり、以下のステップを含む:
1) 薄切FFPE切片の脱パラフィン/親水化
2) 熱処理による抗原賦活化
3) 酵素による抗原の賦活化
4) 組織及び細胞を破砕して細胞核を抽出
【0038】
本発明において、用いるFFPE組織切片の薄切は、前処理工程を効率化するために薄切時の組織の厚さとしては、60μm以下であれば所望のマーカーの検出が可能であり、20μmを推奨するがこの限りではない。検体の大きさ、その後の検討に必要とする脱離させた細胞核数に応じて薄切枚数は複数枚に増量することが可能である。
【0039】
「包埋」とは、組織片(塊)を一定で均等な硬度にし、組織内の中腔部を埋め、薄切時に剥離しない強度を持たせ、保存性を増すために、組織片(塊)に「包埋剤」を浸透させることという。「包埋剤」としては、特に限定しないが、パラフィン、パラフィン誘導体、セロイジン、カーボワックス、アガロース、非ヘパリン処理血清、コラーゲン、セルロース誘導体、キチン誘導体、キトサン誘導体、これらの混合物等が挙げられる。
【0040】
本発明における「脱包埋/親水化」とは、包埋に使用している包埋剤(例えばパラフィン)の除去、及び除去に用いた有機溶媒の水系溶媒への置換を指す。キシレンに代表される有機溶媒に切片を浸すことにより、包埋剤の除去を行い、その後有機溶媒を置換するために濃度勾配をつけた複数濃度のエタノール溶液を切片に、高濃度から低濃度に順次浸潤させる。エタノール濃度勾配は100%、95%、90%、70%、50%等が挙げられるがこれに限らない。
【0041】
本発明における「熱処理による抗原賦活化」とは、固定時の架橋形成により抗原認識部位がマスクされている場合にこれを熱処理により除去する工程である。熱処理の際に、クエン酸緩衝液、界面活性剤、キレート剤、還元剤などを含む熱処理抗原賦活化剤を用いて行う。特に限定しないが、熱処理抗原賦活化剤として、市販されているHisto VT One(ナカライテスク)、抗原賦活化液pH9(ニチレイバイオサイエンス)、イムノセイバー(日新EM)等を用いることが可能である。
【0042】
「水流による破砕」とは、水流によるせん断力で細胞及び組織を破砕することを意味し、例えばSysmex社の水流せん断装置(RP-10)等を用い、氷冷下、例えばブレードを1分間当たり10,000rpm回転させることによって発生する水流により細胞及び組織を破砕することができる。
【0043】
「超音波による破砕」は、超音波によるせん断力で細胞及び組織を破砕することを意味し、例えばSONICS&MATERIALS社の超音波破砕装置(VCX130PB)を用い出力強度20%で30秒間超音波に細胞及び組織を曝しこれらを破砕することができる。
超音波による破砕工程は、他の血液細胞よりリンパ球を優先的に破砕し、リンパ球の細胞壁のみならずリンパ球の核を破砕する際に有益である。従って、リンパ球の存在が他の細胞の分析の妨げになる場合など、リンパ球を優先的に破砕したい場合には、超音波による破砕工程を含むことが好ましい。
【0044】
本発明の細胞核を脱離させる方法では、上述した方法を2種以上組み合わせてもよく、水流せん断と超音波による破砕の組み合わせが好ましい。
【0045】
細胞核を抽出する工程では、組織又は細胞は、通常用いられる緩衝液に浸漬若しくは分散させればよく、例えばトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、グリシン緩衝液、酢酸緩衝液、酒石酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液、ホウ酸緩衝液、Good緩衝液等を用いればよい。もっとも、界面活性剤は、細胞核の脱離を促進する作用があるため、界面活性剤を添加した緩衝液を用いて細胞核の抽出を行うことが好ましい。界面活性剤としては、細胞核に影響しなければ特に限定されず、陰イオン性界面活性剤(カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型等)、陽イオン性界面活性剤(第四級アンモニウム塩型、アルキルアミン塩型、ピリジン環を有する型等)、両性界面活性剤(ベタイン型、スルホベタイン型、アミンオキシド型、アルキルイミダゾール型、アミノ酸型等)、非イオン性界面活性剤(エステル型、エーテル型、エステルエーテル型、アルカノールアミド型、アルキルグリコシド等)の界面活性剤が挙げられる。好ましくは非イオン性界面活性剤のTritonX-100、TritonX-405、NP-40、Briji-35、Briji-58、Tween-20、Tween-80、BPSH-25、Octyl Glucoside、およびOctylthio Glucosideが挙げられる。
【0046】
悪性腫瘍は、遺伝子変異によって自律的で制御されない増殖を行うようになった細胞集団(腫瘍、良性腫瘍と悪性腫瘍が含まれる)のなかで周囲の組織に浸潤し、または転移を起こす腫瘍であり、悪性腫瘍(Malignant tumor)の用語は病理学において
1)癌腫(Carcinoma):上皮組織由来の悪性腫瘍
2)肉腫(Sarcoma):非上皮組織由来の悪性腫瘍
3)その他:白血病など
に分類され、本願において「がん」とは癌腫を意味する。特に限定しないが、頭頸部癌(上顎癌、(上、中、下)咽頭癌、喉頭癌、舌癌、甲状腺癌)、胸部癌(乳癌、肺癌(非小細胞肺癌、小細胞肺癌))、消化器癌(食道癌、胃癌、十二指腸癌、大腸癌(結腸癌、直腸癌)、肝癌(肝細胞癌、胆管細胞癌)、胆嚢癌、胆管癌、膵癌、肛門癌、泌尿器の癌(腎癌、尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、陰茎癌、精巣(睾丸)癌)、生殖器癌(子宮癌(子宮頸癌、子宮体癌)、卵巣癌、外陰癌、膣癌)、皮膚癌(基底細胞癌、有棘細胞癌)などのがん細胞がこれにあたる。
【0047】
Ki-67は、単独で、或いは他のマーカーと組み合わせて、がんの診断を補助するため、又はがんの治療の予後を診断するのを補助するために用いることができる。
癌腫と肉腫を区別するために用いられる上皮性細胞のマーカーとしては、サイトケラチンが挙げられる。サイトケラチンは上皮細胞の主要な骨格タンパク質であり、約20~30種類のサブタイプ(分子量40~68KDa)が報告されている。上皮性細胞マーカーとしてサイトケラチンを検出するのに、公知の広いサブタイプを認識する抗体(ポリクローナル又はモノクローナル抗体)が用いられるが、各サブタイプに特異的に結合する公知の抗体を複数含むカクテルを用いてもよい。
【0048】
エストロゲン受容体(Estrogen Receptor、ER)は、ステロイド受容体スーパーファミリーに属する分子の一つであり、卵胞ホルモン受容体とも呼ばれる。ERには2つのアイソフォームが存在しており、それぞれERαおよびERβと呼ばれる。これらは独立した遺伝子(ESR1、ESR2)から産生される。ESR1は6q25.1に存在し、ESR2は14q21-22に存在している。
プロゲステロン受容体(Progesterone receptor (PRまたはPgR)は、核内受容体スーパーファミリーのサブファミリー3グループCに属する核内タンパクである。11q22に存在する単一のPgR遺伝子によってコードされ、分子量の異なる2つのアイソフォームが知られている。
【0049】
原発乳癌の約3分の2はホルモン受容体陽性乳癌であり、日本人女性のER陽性乳癌が増加傾向にあることがわかってきた。PgRはエストロゲン-ER複合体によって発現が誘導されるので,PgRの有無はエストロゲンとERの機能が正常に働いているかの目安になる。現在,これらのホルモン受容体の発現は病理組織標本を用いた免疫組織化学的方法により検出されている。
【0050】
HER2(ハーツー)は、細胞表面に存在する約185kDaの糖タンパクで、受容体型チロシンキナーゼである。上皮成長因子受容体(EGFR、別名ERBB1)に類似した構造をもち、EGFR2、ERBB2、CD340、あるいはNEUとも呼ばれる。HER2タンパクをコードする遺伝子は、HER2/neu、erbB-2で17番染色体長腕に存在する。また、HER2は、human epidermal growth factor receptor (HER/EGFR/ERBB)family(EGFRファミリー)に属するタンパク質である。
HER2タンパクは、正常細胞において細胞の増殖、分化などの調節に関与しているが、何らかの理由でHER2遺伝子の増幅や遺伝子変異が起こると、細胞の増殖・分化の制御ができなくなり、細胞は悪性化する。HER2遺伝子はがん遺伝子でもあり、多くの種類のがんで遺伝子増幅がみられる。
【0051】
上述した酵素による抗原賦活化工程、更に細胞核を抽出する工程で得られる試料は、Ki-67と組み合わせて診断の補助をするこれらのマーカーの分析にも用いることができる。特に、トロンビンとヒアルロニダーゼとを組み合わせた酵素処理は、これらのマーカーの分析も行う場合に好ましい。もっとも、HER2遺伝子の検出は、核脱離した後に公知の方法で抽出した核酸を用いて行ってもよい。
【0052】
「患者」は哺乳動物であってよく、「ヒト」又は「非ヒト哺乳動物」であってよい。
「組織切片」とはヒト又は非ヒト動物の単離された組織の切片をいう。生検で採取された「組織切片」であってよい。「組織切片」は単離後、凍結保存などされていてもよい。
【0053】
「生検」とは診断の際に、顕微鏡などで観察するため病理組織の一部をメスや針などで採取することを意味する。乳がんの場合、患者の乳房より、「切除生検」(組織のしこり全摘出);「切開生検」(一部を摘出);「コア生検」(太い針で 組織の一部を摘出);あるいは「細針穿刺吸引(FNA)生検」(細い針で組織あるいは体液を摘出)ことにより採取される。
【0054】
「分解酵素による抗原賦活化剤」及び「熱処理による抗原賦活化剤」は、いずれも、成分が溶解している溶液の状態で存在してもよく、乾燥した固体の状態であってもよい。これらの何れか一方又は両方が固体の状態の場合、「キット」にはこれらの固形成分を溶かすための「溶媒」を含んでいてもよい。
【0055】
「Ki-67を免疫染色で検出する試料に用いる抗原賦活化剤」は、抗Ki-67抗体を用いて、細胞又は細胞核を検出する試料、典型的には、固定化された細胞群又は組織に用いられる酵素による賦活化剤を指す。
【0056】
「がん治療の予後」とは、患者に化学療法(抗がん剤治療)、内分泌療法、外科手術(腫瘍の摘出)、放射線治療などを行い、その治療の効果を確認予測することを指す。
【0057】
「固定化された細胞群中のKi-67陽性細胞を検出するためのキット」は、配列番号2のペプチドを認識切断しない加水分解酵素と、抗Ki-67抗体とを含む。加水分解酵素は、好ましくは、トロンビン、Arg-C(クロストリパイン)ペプチターゼ、プロリンエンドペプチターゼ及びヒアルロニダーゼからなる群から選択される少なくとも一種であり、より好ましくはトロンビン及び/又はヒアルロニダーゼである。抗Ki-67抗体は、好ましくはMIB-1、DAKO-PC、Ki-S5及びA-0047からなる群から選択される少なくとも一種である。抗Ki-67抗体は、直接、蛍光色素、酵素、化学発光物質、放射性元素等で標識されてもよく、あるいはキットが抗Ki-67抗体に結合する2次抗体を含み、この2次抗体が、蛍光色素、酵素、化学発光物質、放射性元素等で標識されてもよい。キットは、Ki-67と組み合わせて、がんの診断を補助するため、又はがんの治療の予後を診断するのを補助するために用いられる他のマーカーを検出するためのリガンド(例えば抗体又はプローブ等)を含むことができる。例えば、抗サイトケラチン抗体、抗ER抗体、抗PgR抗体、HER2遺伝子に(典型的には厳格な条件下で)ハイブリダイズするプローブ(これらまたはこれらの二次的なリガンド(抗体若しくは核酸など)は標識されてよい)、及び核酸染色用の化合物(例えば、DAPIやヨウ化プロピジウム(PI))が挙げられる。
キットは、更に、「細胞核を抽出する工程」で用いられる組織又は細胞を浸漬又は分散させるための緩衝液を含むことができ、好ましくはこの緩衝液は界面活性剤を含む。界面活性剤としては、好ましくはCHAPS、NP-40、Triton-X100が挙げられ、NP-40、Triton-X100がより好ましい。従って、本願発明によれば、水流又は超音波などで生じるせん断応力により細胞(通常、固定化された細胞)から細胞核を抽出するためのキットであって、界面活性剤を含有する細胞分散用緩衝液を含む、キットが提供される。
【0058】
「カットオフ値」(分割点又は病態識別値)とは、検査結果の陽性と陰性を鑑別する数値を指す。Ki-67の場合、ルミナルA(様)型とルミナルB(様)型を分類するのに現在14~20%の値が推奨されている。
【0059】
「抗がん剤」とはがんを治療又は予防するための医薬を指す。これに限定しないが、分子標的薬、アルキル化剤、代謝拮抗剤、植物アルカロイド、抗がん性抗生物質、プラチナ製剤、ホルモン剤、生物学的応答調節剤などに分類される。
「内分泌療法」とは、ホルモン依存性の乳がんの増殖を促す女性ホルモン(エストロゲン)が働かないようにする治療法であり、これに限定しないが、抗エストロゲン剤、Lh-RHアゴニスト製剤、アロマターゼ阻害剤、プロゲステロン製剤などのホルモン剤を投与することを含む。
「化学療法」とは、抗がん作用を奏する化学物質を用いてがんを治療することをいう。これに限定しないが、DNA合成及び複製阻害剤であるアントラサイクリン系抗がん剤(ダウノルビシン(ダウノマイシン)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、エピルビシン、イダルビシンなど)、細胞増殖の抑制剤であるタキサン系抗がん剤(パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテール)など)、DNAの複製を妨げるプラチナ(白金)製剤(シスプラチン、オキサリプラチン等)などを単投与または併用投与することを含み、好ましくはアントラサイクリン系抗がん剤とタキサン系抗がん剤を併用投与することを含む。本願明細書においては、「ホルモン剤」を投与する場合は、「内分泌療法」に含まれるものとする。
【実施例】
【0060】
以下の実施例、比較例及び参考例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0061】
<参考例1>
水流せん断による細胞核脱離観測
1.材料及び方法
乳癌組織のFFPE組織切片に脱パラフィン/親水化、熱処理による抗原賦活化を施し、水流せん断装置を用いて分散処理後、回収産物に免疫蛍光染色を行い顕微鏡観察した。
1-1.FFPE組織ブロック
Proteogenex社より購入した乳癌組織のFFPE組織ブロックを用いた。
1-2.FFPE切片の作成
Thermofisher社製滑走式ミクロトームを用いてFFPE組織ブロックを薄切して厚さ20μmの切片を作成した。
1-3.脱パラフィン/親水化
薄切したFFPE切片に十分量のキシレンを添加し、10分間静置後、キシレンを除去した。この工程を再度行い、完全にパラフィンを除去した。次いで、100%エタノール、95%エタノール、70%エタノール、50%エタノール、脱イオン水に順に3分間ずつ浸漬して親水化した。
1-4.熱処理による抗原賦活化
純水で10倍に希釈したナカライテスク社製Histo VT Oneを添加し、ヒートブロックで98℃下、20分間加熱した。加熱後、室温にて20分間静置して後、抗原賦活化液を除去した。
1-6.水流破砕
Sysmex社の水流せん断装置(RP-10)を用い、氷冷下、賦活化済組織を、TBS1mL中で10,000rpm、1分間破砕した。
1-7.免疫蛍光染色
10%正常ヤギ血清(和光)を添加した4%BSA/TBSを水流破砕による破砕物が入ったマイクロチューブに添加し、室温下30分間静置し、ブロッキング処理した。免疫蛍光染色は、1次抗体としてpan-サイトケラチン抗体(Abcam、ウサギポリクローナル抗体:Anti-wide spectrum Cytokeratin antibody(AB9377-500))を用い、2次抗体はAbcam社Goat anti-Rabbit Secondary Antibody Alexa 488を使用した。1次抗体反応時間は50分、2次抗体反応時間は30分であり、2次抗体反応時間経過時に細胞核を染色する色素DAPI Solution(和光)を添加した。反応は全て室温であり、2次抗体添加以降は遮光下にて行った。抗体希釈液には0.5%BSA/TBSを使用し、各工程の間には1回ずつ0.5%BSA/TBSによる洗浄操作を行った。スライドガラスにDAPI包埋剤(和光)を5μLのせ、その上に2次抗体反応後のサンプルを乗せた。その後、カバーガラスを被せ、5分間静置後、上から垂直に押し、カバーガラスの周囲をマニキュアでシールした。観察時まで遮光し、4℃下で保存した。
1-8.蛍光顕微鏡
顕微鏡観察には、EVOS オールインワン顕微鏡、蛍光顕微鏡(Thermoscientific)を使用した。観察時にはDAPIライトキューブ(Ex 357nm、Em 447nm)、GFPライトキューブ(Ex 470nm/Em 510nm)を使用した。接眼レンズは10倍、対物レンズは40倍を使用した。
【0062】
2.
結果
図1に蛍光顕微鏡で観測した細胞核を示す。左の図に示す通り、円形状に核酸が存在し、右図に示す通り、サイトケラチンが核酸の周囲に存在している。よって、細胞核、骨格が破損せず円形を保ち、凝集することなく単一細胞核として回収されたことが確認された。
【0063】
<参考例2>
ホルマリン固定化乳癌細胞中のサイトケラチン及びKi-67由来シグナルの確認
1.
材料及び方法
ホルマリンで固定化した乳癌細胞に熱処理による抗原賦活化を施し、免疫蛍光染色を行い、サイトケラチンとKi-67のシグナルをフローサイトメーターで確認した。
1-1.
細胞
3種の乳癌細胞株、T47D、MDA-MB-231(図においてMB231又は231と表記)、及びSKBr3(図においてはSKBRと表記)を、ATCC(American Type Culture Collection)より入手し、使用した。
1-2.
細胞培養とホルマリン固定
T47D細胞株はRPMI-1640培地、MDA-MB-231細胞株はLeibovitz’s L-15培地およびSKBr3細胞は、McCoy’s 5A培地で培養し、10%のウシ胎児血清(FBS)を補った。細胞が十分に増殖した後に培養液を吸引、PBSで洗浄したのちに、TrypLE Express(Thermofisher)を添加した。細胞を回収した後に遠心分離を行いPBSで洗浄した。さらにPBSで細胞を十分に懸濁後1×10
6個に分注し、遠心分離、PBS除去を行い、10%中性緩衝ホルマリン液(和光純薬)を添加後、4℃で24時間固定した。細胞は使用する前に、ホルマリン液を除去し、PBSで洗浄した。
1-4.
熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様の処理を行った。
1-7.
免疫蛍光染色
10%正常ヤギ血清(和光)を添加した4%BSA/TBSを熱処理による抗原賦活化後の細胞が入ったマイクロチューブに添加し、室温下30分間静置し、ブロッキング処理した。免疫蛍光染色は、マウス抗体とラビット抗体の混合液を用いて2重染色した。1次抗体はKi-67抗体(Dako、クローン:MIB-1、マウスモノクローナル抗体)、及びpan-サイトケラチン抗体(Abcam、ウサギポリクローナル抗体(AB9377-500))を用い、2次抗体はThermofisher社Goat anti-Mouse Secondary Antibody Alexa 647、及びAbcam社Goat anti-Rabbit Secondary Antibody Alexa 488を使用した。1次抗体反応時間は50分、2次抗体反応時間は40分であり、2次抗体添加後20分後に細胞核を染色する色素DAPI Solution(和光)を添加した。反応は全て室温であり、2次抗体添加以降は遮光下行った。抗体希釈液には0.5%BSA/TBSを使用し、各工程の間には1回ずつ0.5%BSA/TBSによる洗浄操作を行った。また、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)として1次抗体の代わりにそれぞれ対応する1次抗体と同種、同濃度の抗体を用いた。Ki-67はDako社のマウスIgG抗体を使用し、サイトケラチンはCellsignaling technology社のラビットIgG抗体を用いた。
1-8.
フローサイトメーター測定
Falcon(登録商標)セルストレーナー 5mLチューブ用35μm(380メッシュ)(フローサイトメーター用)のフィルターを通過させた後に、指定容器に移し替えてフローサイトメーター(Sysmex:Space)で測定した。測定は、機器マニュアルに従って行った。
1-9.
サイトケラチン及びKi-67陽性率の算出
得られた測定データの解析にはFLOWJO LLC社製のソフトFlowJo v10を用いた。データ解析はソフト添付の説明書に従い、以下の順で行った。前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸としたスキャッタグラム上で、
図2に示す主要な領域を選択した。次に、DAPIの蛍光強度を横軸、細胞(核)個数を縦軸として、主要な領域を細胞核としてゲーティングした(
図3)。サイトケラチン及びKi-67の陽性率は全細胞核中のサイトケラチン陽性核数、及びKi-67陽性核数の割合として算出した。陽性核の閾値はアイソタイプコントロールの95パーセンタイル値とした。
【0064】
2.
結果
図4に抗サイトケラチン抗体及び抗Ki-67抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(黒色実線)、及びそれらのアイソタイプコントロール抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(灰色破線)を重ね合わせたチャートを示す。いずれの細胞株でも、黒色のピークが灰色と比較し高い蛍光強度を示した。これらより、ホルマリン固定化乳癌細胞中のサイトケラチン及びKi-67の存在を確認した。
【0065】
<実施例1>
トロンビンでの抗原賦活化によるホルマリン固定化細胞中のKi-67シグナルの増強
1.材料及び方法
ホルマリンで固定化した乳癌細胞を用い、トロンビン処理の有無でのシグナル強度を比較した。
1-1.細胞
参考例2で用いた3種の乳癌細胞株を用いた。
1-2.細胞培養とホルマリン固定
参考例2と同様に行った。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様の処理を行った。
1-5.酵素による抗原賦活化
熱処理による抗原賦活化後の細胞にトロンビン試薬(25mM Tris-HCl pH7.4、150mM NaCl、1000KU/L トロンビン、10mM CaCl2)を添加しヒートブロックで37℃下、20分間加熱した。
1-7.免疫蛍光染色
参考例2と同様に行った。ここでは、1次抗体としてKi-67抗体(Dako、クローン:MIB-1、マウスモノクローナル抗体)、2次抗体としてThermofisher社Goat anti-Mouse Secondary Antibody Alexa 647を使用した。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.Ki-67陽性率の算出
参考例2と同様に行った。
【0066】
2.
結果
図5に抗Ki-67抗体(黒色実線)及びアイソタイプコントロール抗体(灰色破線)で検出した蛍光強度を重ね合わせたチャートを示し、
図6及び表2にKi-67陽性率の変化を示した。いずれの細胞株でも、トロンビンによる
抗原賦活化を行うと蛍光強度が上昇し、それに伴いKi-67陽性率の増加が見られた。
【表2】
【0067】
<実施例2>
ヒアルロニダーゼでの抗原賦活化によるホルマリン固定化細胞中のKi-67シグナルの増強
1.材料及び方法
ホルマリンで固定化した乳癌細胞を用い、ヒアルロニダーゼ処理の有無でのシグナル強度を比較した。
1-1.細胞
参考例2で用いたT47D細胞株を用いた。
1-2.細胞培養とホルマリン固定
参考例2と同様に行った。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様の処理を行った。
1-5.酵素による抗原賦活化
熱処理による抗原賦活化後の細胞にヒアルロニダーゼ試薬(25mM Tris-HCl pH7.4、150mM NaCl、4000-10000KU/L ヒアルロニダーゼI―S、7500-30000KU/L ヒアルロニダーゼIV―S、27mM KCl)を添加しヒートブロックで37℃下、20分間加熱した。
1-7.免疫蛍光染色
参考例2と同様に行った。ここでは、1次抗体としてKi-67抗体(Dako、クローン:MIB-1、マウスモノクローナル抗体)、2次抗体としてThermofisher社Goat anti-Mouse Secondary Antibody Alexa647を使用した。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.Ki-67陽性率の算出
参考例2と同様に行った。
【0068】
2.
結果
図7に抗Ki-67抗体(黒色実線)及びアイソタイプコントロール抗体(灰色破線)で検出した蛍光強度の重ね合わせチャートを示した。ヒアルロニダーゼ処理により蛍光強度が上昇し、それに伴いKi-67陽性率の増加が見られた。
【0069】
<参考例3>
FFPE組織切片中のサイトケラチン及びKi-67由来シグナルの確認
1.材料及び方法
乳癌組織のFFPE組織切片中のサイトケラチン及びKi-67のシグナルをフローサイトメーターにて確認した。
1-1.FFPE組織ブロック
参考例1で用いたFFPE組織ブロックを用いた。
1-2.FFPE切片の作成
Thermofisher社製滑走式ミクロトームを用いてFFPE組織ブロックを薄切して厚さ20μmの切片2枚を作成し、検討に用いた。
1-3.脱パラフィン/親水化
参考例1と同様に行った。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様に行った。
1-6.水流破砕
参考例1と同様に行った。
1-7.免疫蛍光染色
参考例2と同様に行った。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.サイトケラチン及びKi-67陽性率の算出
得られた測定データの解析にはFLOWJO LLC社製のソフトFlowJo v10を用いた。データ解析は以下の順で行った。まず、DAPIの蛍光強度を横軸、細胞(核)個数を縦軸として、横軸の蛍光量が5~150の領域を細胞核としてゲーティングした。サイトケラチン及びKi-67の陽性率は全細胞核中のサイトケラチン陽性核数、及びKi-67陽性核数の割合として算出した。陽性核の閾値はアイソタイプコントロールの95パーセンタイル値とした。
【0070】
2.
結果
図8に抗サイトケラチン抗体及び抗Ki-67抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(黒色実線)、及びそれらのアイソタイプコントロール抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(灰色破線)を重ね合わせたチャートを示す。黒色のピークが灰色と比較し高い蛍光強度を示した。これらより、FFPE組織切片中のサイトケラチン及びKi-67の検出を確認した。
【0071】
<実施例3>
トロンビンでの抗原賦活化によるFFPE組織切片中のサイトケラチン及びKi-67シグナルの増強
1.材料及び方法
乳癌組織のFFPE組織切片を用い、トロンビン処理の有無でのシグナル強度を比較した。
1-1.FFPE組織ブロック
IProteogenex社より購入した、HC法によってKi-67陽性率が異なった2人の乳癌患者から得られた2種のFFPE組織ブロックを使用した。
1-2.FFPE切片の作成
Thermofisher社製滑走式ミクロトームを用いてFFPE組織ブロックを薄切して厚さ20μmの切片2枚を作成し、検討に用いた。
1-3.脱パラフィン/親水化
参考例1と同様に行った。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様に行った。
1-5.酵素による抗原賦活化
実施例1と同様に行った。
1-6.水流破砕
参考例1と同様に行った。
1-7.免疫蛍光染色
参考例2と同様に行った。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.サイトケラチン及びKi-67陽性率の算出
参考例3と同様に行った。
【0072】
2.
結果
図9Aに抗サイトケラチン抗体及び抗Ki-67抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(黒色実線)と、それらのアイソタイプコントロール抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(灰色破線)を重ね合わせたチャートを示す。いずれのFFPE切片でも、トロンビンによる処理を行うとサイトケラチン、Ki-67の蛍光強度がいずれも上昇し、それに伴い陽性率の増加が見られた(
図9B)。
【0073】
<実施例4>
薄切切片の厚さによるサイトケラチン及びKi-67シグナル強度への影響
1.材料及び方法
FFPE切片の厚さによってサイトケラチン及びKi-67のシグナル強度に影響を及ぼすか確認した。
1-1.FFPE組織ブロック
参考例1で用いたFFPE組織ブロックを用いた。
1-2.FFPE切片の作成
Thermofisher社製滑走式ミクロトームを用いて同一FFPE組織ブロックより20μm 3枚、30μm 2枚、60μm 1枚の薄切サンプルを作成した。
1-3.脱パラフィン/親水化
参考例1と同様に処理した。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様に処理した。
1-5.酵素による抗原賦活化
実施例1と同様に処理した。
1-6.水流破砕
参考例1と同様に行った。
1-7.免疫蛍光染色
参考例2と同様に行った。1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.サイトケラチン及びKi-67陽性率の算出
参考例3と同様に行った。
【0074】
2.
結果
薄切切片の厚さとサイトケラチン及びKi-67の陽性率の変化を
図10に示す。
20μm 3枚で検出効率が最も良好であったが、20~60μmいずれの厚さにおいてもサイトケラチン(CK)及びKi-67(Ki67)の検出が可能であった。
【0075】
<実施例5>
フローサイトメーターによるKi-67陽性率とIHC法による陽性率の比較検討
1.材料及び方法
FFPE組織ブロックを用いてフローサイトメーターによるKi-67陽性率とIHC法による陽性率を比較した。
1-1.FFPE組織ブロック
Proteogenex社より購入した、IHC法によってKi-67陽性率が異なった19人の患者より得られた19種のFFPE組織ブロックを使用した。
1-2.FFPE切片の作成
参考例3と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化
参考例1と同様に処理した。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様に処理した。
1-5.酵素による抗原賦活化
実施例1と同様に処理した。
1-6.水流破砕
参考例1と同様に行った。
1-7.免疫蛍光染色
参考例2と同様に行った。ここでは、1次抗体はKi-67抗体(Dako、クローン:MIB-1、マウスモノクローナル抗体)、及びpan-サイトケラチン抗体(Abcam、ウサギポリクローナル抗体)を用い、2次抗体としてThermofisher社Goat anti-Mouse Secondary Antibody Alexa 647、及びAbcam社Goat anti-Rabbit Secondary Antibody Alexa 488を使用した。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.フローサイトメーターによるKi-67陽性率の算出
参考例3と同様に行った。
1-10.IHC法によるKi-67陽性率算出
IHC法によるKi-67陽性率は1次抗体はKi-67抗体(Dako、クローン:MIB-1、マウスモノクローナル抗体)を用い、ホットスポット法により算出された。なお、鏡検者によるバラツキを考慮して病理医2名の平均値とした。
【0076】
2.
結果
Ki-67陽性率におけるIHC法との相関性を
図11に示す。
IHC法をX、本法をYとして相関性を確認した。また、陽性核のカットオフをアイソタイプコントロールの95パーセンタイル値としているため、切片は10と設定した。
図11に示したようにY=0.5632X+10、相関係数0.7697と良好な結果が得られた。これより本法はFFPE組織切片中のKi-67を検出出来ているといえる。
【0077】
<実施例6>
各種消化酵素での抗原賦活化をした際のKi-67及びサイトケラチンの検出
1.材料及び方法
ホルマリンで固定化した乳癌細胞を用い、5種の異なる消化酵素での抗原賦活化について、Ki-67及びサイトケラチンのシグナル強度を比較した。
1-1.細胞
参考例2で用いた3種の乳癌細胞株を用いた。
1-2.細胞培養とホルマリン固定
参考例2と同様に行った。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様の処理を行った。
1-5A.酵素による抗原賦活化(トロンビン)
実施例1と同様に処理した。
1-5B.酵素による抗原賦活化(トリプシン)
トリプシン試薬(25mM TBS pH7.4、 1M CaCl2、1mg/mLトリプシン)250μLを、熱処理による抗原賦活化をした細胞に添加し、37℃下、20分間加熱した。酵素処理後はTBSで洗浄して酵素を取り除いた。
1-5C.酵素による抗原賦活化(プロテイナーゼK)
600 mAnson U/mLプロテイナーゼK(タカラバイオ)を25mM TBS pH7.4で40倍(v/v)に希釈し、プロテイナーゼK溶液とした。プロテイナーゼK溶液250μLを、熱処理による抗原賦活化をした細胞へ添加し、37℃下、20分間加熱した。酵素処理後はTBSで洗浄して酵素を取り除いた。
1-5D.酵素による抗原賦活化(ディスパーゼ)
ディスパーゼ(和光)を25mM TBS pH7.4に溶解し、ディスパーゼ溶液(3,000PU/mL)とした。ディスパーゼ溶液250μLを抗原賦活化した細胞へ添加し37℃下、20分間加熱した。反応終了後は、1M EDTA溶液(和光)を2μL添加して転倒混和した後、TBSで洗浄して酵素を取り除いた。
1-5E.酵素による抗原賦活化(プロリンエンドペプチダーゼ)
プロリンエンドペプチダーゼ(東洋紡)を25mM TBS pH7.4に溶解し、プロリンエンドペプチダーゼ溶液(10U/mL)とした。プロリンエンドペプチダーゼ溶液250μLを、熱処理による抗原賦活化をした細胞へ添加し、37℃下、20分間加熱した。反応終了後は、TBSで洗浄して酵素を取り除いた。
1-7.免疫蛍光染色
参考例2と同様に行った。ここでは、1次抗体はKi-67抗体(Dako、クローン:MIB-1、マウスモノクローナル抗体)、及びpan-サイトケラチン抗体(Abcam、ウサギポリクローナル抗体)を用い、2次抗体としてThermofisher社Goat anti-Mouse Secondary Antibody Alexa 647、及びAbcam社Goat anti-Rabbit Secondary Antibody Alexa 488を使用した。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.サイトケラチン及びKi-67陽性率の算出
参考例2と同様に行った。
【0078】
2.
結果
図12A及びBに、抗Ki-67抗体又は抗サイトケラチン抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(黒色実線)とそれらのアイソタイプコントロール抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(灰色破線)を重ね合わせたチャートを示した。サイトケラチンはいずれのタンパク質分解酵素を用いた場合でも、検出可能であった(
図12B)。それに対して、配列番号2のアミノ酸配列を認識切断しうるトリプシン、ディスパーゼ、及びプロテイナーゼKの3種のタンパク質分解酵素を用いた場合は、シグナルが減少し、Ki-67の陽性率が著しく低下した。一方、配列番号2のアミノ酸配列を認識切断しないトロンビン及びプロリンエンドペプチダーゼはKi-67の陽性率が上昇し、Ki-67抗原の抗原性を増強していることが示された(
図12A)。
【0079】
<実施例7>
各種消化酵素を使用した際の乳癌組織のFFPE切片中のKi-67及びサイトケラチンの検出
1.材料及び方法
乳癌組織のFFPE切片を5種の異なる消化酵素にて抗原賦活化し、Ki-67及びサイトケラチンのシグナル強度を比較した。
1-1.FFPE組織ブロック
参考例1で用いたFFPE組織ブロックを用いた。
1-2.FFPE切片の作成
参考例3と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化
参考例1と同様に処理した。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様に処理した。
1-5A.酵素による抗原賦活化(トロンビン)
実施例1と同様に行った。
1-5B.酵素による抗原賦活化(トリプシン)
実施例6と同様に行った。
1-5C.酵素による抗原賦活化(プロテイナーゼK)
実施例6と同様に行った。
1-5D.酵素による抗原賦活化(ディスパーゼ)
実施例6と同様に行った。
1-5E.酵素による抗原賦活化(プロリンエンドペプチダーゼ)
実施例6と同様に行った。
1-6.水流破砕
参考例1と同様に行った。
1-7.免疫蛍光染色
参考例2と同様に行った。ここでは、1次抗体はKi-67抗体(Dako、クローン:MIB-1、マウスモノクローナル抗体)、及びpan-サイトケラチン抗体(Abcam、ウサギポリクローナル抗体)を用い、2次抗体としてThermofisher社Goat anti-Mouse Secondary Antibody Alexa 647、及びAbcam社Goat anti-Rabbit Secondary Antibody Alexa 488を使用した。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.サイトケラチン及びKi-67陽性率の算出
参考例3と同様に行った。
【0080】
2.
結果
図13A及びBに抗Ki-67抗体又は抗サイトケラチン抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(黒色実線)とそれらのアイソタイプコントロールで検出した蛍光強度のヒストグラム(灰色破線)を重ね合わせたチャートを示す。サイトケラチンはいずれのタンパク質分解酵素を用いた場合でも、検出可能であった(
図13B)。それに対して、実施例6と同様に配列番号2のペプチドを認識切断しうるトリプシン、ディスパーゼ、プロテイナーゼKの酵素を使用した際にはKi-67抗体(黒色実線)の蛍光強度が大幅に減少していた(
図13A)。
【0081】
<実施例8>
認識部位の異なる抗体を用いたKi-67の検出
1.材料及び方法
乳癌組織のFFPE組織切片中のサイトケラチン及びKi-67のシグナルをフローサイトメーターにて確認した。Ki-67抗体は、MIB-1クローンとこれと認識部位の異なる抗体としてS5クローンとを使用した。
1-1.FFPE組織ブロック
参考例1で用いたFFPE組織ブロックを用いた。
1-2.FFPE切片の作成
参考例3と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化
参考例1と同様に処理した。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様に処理した。
1-5.酵素による抗原賦活化処理
実施例1と同様に処理した。
1-6.水流破砕
参考例1と同様に行った。
1-7.免疫蛍光染色
参考例2と同様に行った。ここでは、1次抗体としてKi67 MIB-1抗体(Dako、マウスモノクローナル抗体)もしくはKi67 S5抗体(Millipore、マウスモノクローナル抗体)、及びpan-サイトケラチン抗体(Abcam、ウサギポリクローナル抗体)を用い、2次抗体としてThermofisher社Goat anti-Mouse Secondary Antibody Alexa 647、及びAbcam社Goat anti-Rabbit Secondary Antibody Alexa 488を使用した。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.サイトケラチン及びKi-67陽性率の算出
参考例3と同様に行った。
【0082】
2.
結果
図14に、抗Ki-67抗体又は抗サイトケラチン抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(黒色実線)と、それらのアイソタイプコントロールで検出した蛍光強度のヒストグラム(灰色)を重ね合わせたチャートを示す(上段:Ki-67;下段:サイトケラチン)。Ki-67抗体のピークがアイソタイプコントロールと比較し高い蛍光強度を示した。これにより、FFPE組織切片中のサイトケラチン及びKi-67の検出を確認し、Ki-67のMIB-1クローンに限らず、S5クローンでも検体中のKi-67を検出可能であることが示唆された。
【0083】
<比較例1>
公知の方法によるFFPE組織切片中のKi-67シグナルの検出
1.材料及び方法
公知の先行文献法(非特許文献4:Cytometry 27:283-289)により乳癌組織のFFPR組織切片中のサイトケラチン及びKi―67シグナルの検出を行った。
1-1.FFPE組織ブロック
参考例1で用いたFFPE組織ブロックを用いた。
1-2.FFPE切片の作成
参考例3と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化
参考例1と同様に処理した。
1-5.酵素による抗原賦活化(トリプシン):既存法
親水化処理した組織切片にトリプシン試薬(25mM PBS pH7.4、1mg/ml CaCl2、1mg/mLトリプシン)250μLを添加し37℃下、70分間加熱した。酵素処理後はPBSで洗浄して酵素を取り除いた。
1-7.免疫蛍光染色
10%正常ヤギ血清(和光)を添加した4%BSA/TBSを酵素による抗原賦活化後の試料が入ったマイクロチューブに添加し、室温下30分間静置し、ブロッキング処理した。免疫蛍光染色は1次抗体としてKi67 MIB-1抗体(Dako、マウスモノクローナル抗体)もしくはKi67 S5抗体(Millipore、マウスモノクローナル抗体)、及びサイトケラチン抗体(Abcam、ラビットポリクローナル抗体)を用い、2次抗体はThermofisher社Goat anti-Mouse Secondary Antibody Alexa 647、及びAbcam社Goat anti-Rabbit Secondary Antibody Alexa 488を使用した。1次抗体反応時間は4℃オーバーナイトで反応させた。
2次抗体は40分間反応させ、2次抗体添加後20分後に細胞核を染色する色素DAPI Solution(和光)を添加した。2次抗体添加以降は全て室温で遮光下にて行った。抗体希釈液には0.5%BSA/TBSを使用し、各工程の間には1回ずつ0.5%BSA/TBSによる洗浄操作を行った。また、ネガティブコントロールとして1次抗体の代わりにそれぞれ対応する1次抗体と同種、同濃度の抗体を用いた。マウス抗体はDako社のマウスIgG抗体を使用し、ラビット抗体はCellsignaling technology社のラビットIgG抗体を用いた。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.フローサイトメーターによるサイトケラチン及びKi-67陽性率の算出
参考例3と同様に行った。
【0084】
2.
結果
図15(上段:Ki-67;下段:サイトケラチン)に示すとおり、非特許文献4に記載された既存法では、Ki-67のS5クローンを使用した場合、検出することができたが、MIB-1クローン抗体を用いたサンプルではKi-67由来の蛍光ピークが大幅に減少しており、Ki-67を検出することができなかった。
【0085】
<実施例9>
FFPE切片中のER及びPgRの検出
1.材料及び方法
ER及びPgRの陽性及び陰性が既知となっているFFPE組織切片を用い、トロンビンで抗原賦活化し、水流破砕により細胞核を抽出し、フローサイトメーターを用いてER及びPgRのシグナル確認を行った。
1-1.FFPE組織ブロック
ER及びPgRの陽性試料として、Proteogenex社より購入したER陽性検体(All red Score ER7)、及びPgR陽性検体(All red Score PgR8)を用い、ER及びPgRの陰性試料として、ER及びPgR陰性検体(All red Score ER0及びPgR0)のFFPE組織切片を用いた。
1-2.FFPE切片の作成
参考例3と同様にして作成した。
1-3.脱パラフィン/親水化
参考例1と同様に処理した。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様に処理した。
1-5.酵素による抗原賦活化
熱処理による抗原賦活化後、ER陽性検体は、トロンビンで抗原賦活化した。また、PgR陽性検体とER及びPgR陰性検体は、トロンビンまたはプロリンエンドペプチダーゼで抗原賦活化した。トロンビンでの抗原賦活化は実施例1と同様に行い、プロリンエンドペプチダーゼでの抗原賦活化は実施例6と同様に行った。
1-6.水流破砕
参考例1と同様に行った。
1-7.免疫蛍光染色
10%正常ヤギ血清(和光)を添加した4%BSA/TBSを水流破砕後の試料が入ったマイクロチューブに添加し、室温下30分間静置し、ブロッキング処理した。免疫蛍光染色は1次抗体としてER抗体(Abcam、クローン:SP1、ウサギモノクローナル抗体)もしくはPgR抗体(Thermofisher、クローン:SP2、ウサギモノクローナル抗体)を用い、2次抗体はAbcam社Goat anti-Rabbit Mouse Secondary Antibody Alexa 488を使用した。1次抗体は室温で45分間反応させた。2次抗体は室温で40分間反応させ、2次抗体添加後20分後に細胞核を染色する色素DAPI Solution(和光)を添加した。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.ER及びPgR陽性率の算出
得られた測定データの解析にはFLOWJO LLC社製ソフトFlowJo v10を用いた。DAPIの蛍光量を横軸、細胞(核)個数を縦軸として、横軸の蛍光量が5~150の領域を細胞核としてゲーティングした。ER及びPgRの陽性率は、全細胞核中のER陽性核数及びPgRの陽性核数の割合として算出した。陽性核の閾値はアイソタイプコントロールの90パーセンタイル値とした。
【0086】
2.
結果
図16に抗ER抗体又は抗PgR抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(黒色実線)と、それらのアイソタイプコントロール抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(灰色破線)を重ね合わせたチャートを示す。ER陽性及びPgR陽性FFPE組織切片を配列番号2のペプチドを認識切断しない酵素で処理しても、黒色のピークが灰色と比較し高い蛍光強度を示し、ER及びPgRは共に検出された。一方で、ER及びPgR陰性FFPE組織切片ではER及びPgRは検出されなかった。
【0087】
<実施例10>
異なる熱処理抗原賦活化剤を用いた場合の、固定化乳癌細胞中のKi-67及びサイトケラチンのシグナルの比較
1.材料及び方法
ホルマリンで固定化した乳癌細胞株MDA-MB-231を3種類の抗原賦活化剤を用いて熱処理による抗原賦活化をし、トロンビン酵素処理後、免疫蛍光染色を行い、サイトケラチンとKi-67をフローサイトメーターで検出した。
1-1.細胞
ATCC(American Type Culture Collection)より入手した乳癌細胞株MDA-MB-231を用いた。
1-2.細胞培養とホルマリン固定
参考例2と同様に行った。
1-4A.熱処理による抗原賦活化(Histo VT ONE)
参考例1と同様の処理を行った。
1-4B.熱処理による抗原賦活化(抗原賦活化液pH9)
抗原賦活化液pH9(ニチレイバイオサイエンス)を使用した。処理の手順及び条件は参考例1と同様にして行った。
1-4C.熱処理による抗原賦活化(イムノセイバー)
抗原賦活化液イムノセイバー(日新EM)を使用した。処理の手順及び条件は参考例1と同様にして行った。
1-5.酵素による抗原賦活化
実施例1と同様に処理した。
1-7.免疫蛍光染色
参考例2と同様に行った。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.サイトケラチン及びKi-67の陽性率の算出
参考例3と同様に行った。
【0088】
2.
結果
図17に抗Ki-67抗体又は抗サイトケラチン抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(黒色実線)と、それらのアイソタイプコントロール抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(灰色破線)を重ね合わせたチャートを示す(上段:Ki-67;下段:サイトケラチン)。いずれの賦活化液でも、黒色のピークが灰色と比較し高い蛍光強度を示した。これらより、ホルマリン固定化細胞中のサイトケラチン及びKi-67の検出を確認し、賦活化液を変更しても有用であることを確認した。
【0089】
<実施例11>
細胞核を抽出する工程における各種破砕方法の、FFPE組織切片中のサイトケラチン及びKi-67の検出への影響
1.材料及び方法
乳癌組織のFFPE組織切片を用い、3種の破砕方法、及び破砕方法の組み合わせを用いて細胞核を抽出し、フローサイトメーターを用いてサイトケラチン及びKi-67のシグナル強度を比較した。
1-1.FFPE組織ブロック
参考例1で用いたFFPE組織ブロックを用いた。
1-2.FFPE切片の作成
参考例3と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化
参考例1と同様に行った。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様に行った。
1-5.酵素による抗原賦活化
実施例1と同様に処理した。
1-6A.マッシャー
ニッピ社のバイオマッシャー(登録商標)IIを用い、氷冷下、TBS1mL中で酵素処理後の組織を20回すり潰した。
1-6B.乳鉢
乳鉢と乳棒を用い、TBS1mL中で酵素処理後の組織をすり潰した。
1-6C.超音波破砕
SONICS&MATERIALS社の超音波破砕装置(VCX130PB)を用い、氷冷下、TBS1mL中で酵素処理後の組織を出力強度40%で20秒間破砕した。
1-6D.水流破砕と超音波破砕の組み合わせ
Sysmex社の水流せん断装置(RP-10)を用い、氷冷下、TBS1mL中で酵素処理後の組織を10,000rpm、1分間破砕した。さらに、SONICS&MATERIALS社の超音波破砕装置(VCX130PB)を用い、氷冷下、TBS1mL中で水流破砕後の組織を出力強度20%で30秒間破砕した。
1-7.免疫蛍光染色
参考例2と同様に行った。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.サイトケラチン及びKi-67陽性率の算出
得られた測定データの解析にはFLOWJO LLC社製ソフトFlowJo v10を用いた。DAPIの蛍光量を横軸、細胞(核)個数を縦軸として、横軸の蛍光量が5~150の領域を細胞核としてゲーティングした。サイトケラチン及びKi-67の陽性率は、全細胞核中のサイトケラチン陽性核数及びKi-67の陽性核数の割合として算出した。陽性核の閾値はアイソタイプコントロールの90パーセンタイル値とした。
【0090】
2.
結果
図18に抗サイトケラチン抗体又は抗Ki-67抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(黒色実線)と、それらのアイソタイプコントロール抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(灰色破線)を重ね合わせたチャートを示す。いずれの破砕方法でも、黒色実線のピークが灰色破線と比較して高い蛍光強度を示した。これらより、各種の破砕方法を用いてFFPE組織切片中のサイトケラチン及びKi-67の検出が可能であることを確認した。
【0091】
<実施例12>
超音波破砕によるリンパ球の優先的破砕
1.材料及び方法
ホルマリンで固定化した乳癌細胞株及びリンパ芽球性細胞株を用い、超音波破砕が細胞核の取得に影響を及ぼすかを確認した。
1-1.細胞
ATCC(American Type Culture Collection)より乳癌細胞株SKBr3及びMDA-MB-231、並びにリンパ芽球性細胞株Jurkatを入手して、使用した。
1-2.細胞培養とホルマリン固定
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様に処理した。
1-5.酵素による抗原賦活化処理
実施例1と同様に処理した。
1-6.超音波破砕
SONICS&MATERIALS社の超音波破砕装置(VCX130PB)を用い、氷冷下、TBS1mL中で酵素処理後の細胞を出力強度20%で30秒間破砕した。
1-7.細胞核染色
細胞核を染色する色素DAPI Solution(和光)を添加し、遮光20分間反応した。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
【0092】
2.
結果
図19に、前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸とした各細胞株のスキャッタグラムを示す。乳癌細胞SKBr3及びMDA-MB-231において、超音波破砕の有無により、主要な細胞核領域の位置が変化しないことを確認した。一方で、リンパ球Jurkatにおいて、超音波破砕により主要な細胞核領域が消失した。したがって、上皮細胞は、超音波破砕により破壊されず、リンパ球芽球性細胞が優先的に超音波破砕されることが示唆された。
【0093】
<実施例13>
界面活性剤の添加による解析細胞核数の増加
1.材料及び方法
乳癌組織のFFPE組織切片を用い、超音波破砕時に界面活性剤を添加し、細胞核の取得に変化を及ぼすかを確認した。
1-1.FFPE組織ブロック
Proteogenex社より購入した、IHC法によってKi-67陽性率が異なった2人の乳癌患者から得られた2種のFFPE組織ブロックを使用した。
1-2.FFPE切片の作成
参考例3と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化
参考例1と同様に行った。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様に行った。
1-5.酵素による抗原賦活化処理
実施例1と同様に処理した。
1-6.超音波破砕
SONICS&MATERIALS社の超音波破砕装置(VCX130PB)を用い、氷冷下、TBS、1%CHAPS(和光)を含むTBS、1%NP-40(和光)を含むTBS、または1%Triton-X100(和光)を含むTBS1mL中で酵素による抗原賦活化後の組織及び細胞を出力強度20%で30秒間破砕した。
1-7.細胞核染色
細胞核を染色する色素DAPI Solution(和光)を添加し、遮光20分間反応した。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
【0094】
2.
結果
図20に、界面活性剤を無添加の緩衝液中で超音波破砕した場合と、上記各種界面活性剤を添加した緩衝液中で超音波破砕した場合とで、前方散乱を横軸、側方散乱を縦軸としたスキャッタグラムを示し、表3にフローサイトメーター測定時の総解析細胞核数を示した。界面活性剤の添加により、総解析細胞核数が増加することが確認された。
【表3】
【0095】
<比較例2>
異なる病理医によるKi-67陽性細胞の測定
1.材料及び方法
2名の病理医によって算出されたIHC法によるFFPE組織切片中のKi-67陽性率の相関性を確認した。
1-1.FFPE組織ブロック
Proteogenex社より購入した、IHC法によってKi-67陽性率が異なった38人の患者から得られた38種のFFPE組織ブロックを使用した。
1-10.IHC法によるKi-67陽性率算出
実施例5で言及したのと同様に実施した。
【0096】
2.
結果
図21に結果を示す。同一サンプルであっても病理医によって、Ki-67陽性率が異なる値となり、ばらつきが比較的大きいことがわかった。
【0097】
<参考例4>
各種消化酵素での抗原賦活化後の認識部位の異なる抗Ki-67抗体での検出
1.材料及び方法
ホルマリンで固定化した乳癌細胞を用い、3種の消化酵素(トロンビン、ディスパーゼ、プロテイナーゼK)の何れかで抗原賦活化後、蛍光免疫染色し、フローサイトメーターを用いてKi-67及びサイトケラチンを検出した。
1-1.細胞
参考例2で用いた3種の乳癌細胞株を用いた。
1-2.細胞培養とホルマリン固定
参考例2と同様に行った。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様の処理を行った。
1-5A.酵素による抗原賦活化(トロンビン)
実施例1と同様に処理した。
1-5B.酵素による抗原賦活化(ディスパーゼ)
実施例6と同様に処理した。
1-5C.酵素による抗原賦活化(プロテイナーゼK)
実施例6と同様に処理した。
1-7.免疫蛍光染色
参考例2と同様に行った。ここでは、1次抗体はKi-67抗体(Millipore、クローン:S5(Ki-S5)、マウスモノクローナル抗体)、及びpan-サイトケラチン抗体(Abcam、ウサギポリクローナル抗体)を用い、2次抗体としてThermofisher社Goat anti-Mouse Secondary Antibody Alexa 647、及びAbcam社Goat anti-Rabbit Secondary Antibody Alexa 488を使用した。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.Ki-67陽性率の算出
参考例3と同様に行った。
【0098】
2.
結果
図22A及びBに抗Ki-67抗体(Ki-S5)又は抗サイトケラチン抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(黒色実線)とそれらのアイソタイプコントロールで検出した蛍光強度のヒストグラム(灰色破線)を重ね合わせたチャートを示す。いずれの酵素で抗原賦活化した場合でも、黒色実線のピークが灰色破線と比較して高い蛍光強度を示した。これらより、いずれの酵素で抗原賦活化した場合でも、抗Ki-67抗体(Ki-S5)及び抗サイトケラチン抗体の抗原認識部位が保持され、Ki-67及びサイトケラチンの検出が可能であることを確認した。
【0099】
<実施例14>
FFPE組織切片中のサイトケラチン及びKi-67陽性核判定における閾値の検討
1.材料及び方法
FFPE組織切片中のサイトケラチン及びKi-67由来のシグナルをフローサイトメーターにて検出し、陽性核の閾値を変化させた際の陽性率を算出した。
1-1.FFPE組織ブロック
参考例1で用いたFFPE組織ブロックを用いた。
1-2.FFPE切片の作成
参考例3と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化
参考例1と同様に行った。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様に行った。
1-5.酵素による抗原賦活化
実施例1と同様に行った。
1-6.水流破砕と超音波破砕の組み合わせ
Sysmex社の水流せん断装置(RP-10)を用い、氷冷下、TBS1mL中で酵素処理後の組織を10,000rpm、1分間破砕した。さらに、SONICS&MATERIALS社の超音波破砕装置(VCX130PB)を用い、氷冷下、TBS1mL中で水流破砕後の組織を出力強度20%で30秒間破砕した。
1-7.免疫蛍光染色
参考例2と同様に行った。
1-8.フローサイトメーター測定
参考例2と同様に行った。
1-9.サイトケラチン及びKi-67陽性率の算出
得られた測定データの解析にはFLOWJO LLC社製ソフトFlowJo v10を用いた。DAPIの蛍光量を横軸、細胞(核)個数を縦軸として、横軸の蛍光量が5~150の領域を細胞核としてゲーティングした。サイトケラチン及びKi-67の陽性率は、全細胞核中のサイトケラチン陽性核数及びKi-67の陽性核数の割合として算出した。陽性核の閾値はアイソタイプコントロールの60、70、80、90及び95パーセンタイル値とした。陽性率はフローサイトメーターによる検出値-(100-閾値)で算出した。
【0100】
2.
結果
図23に閾値を変化させ、抗サイトケラチン抗体及び抗Ki-67抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(黒色実線)と、それらのアイソタイプコントロール抗体で検出した蛍光強度のヒストグラム(灰色破線)を重ね合わせたチャートを示す。いずれの閾値を用いた場合でも陽性率が算出された。従って、サイトケラチン及びKi-67陽性率は閾値に依らず算出される事が可能である。
【0101】
<実施例15>
FFPE組織切片中のHER2の検出
1.材料及び方法
HER2陽性(検体A:Score 3+)及び陰性(検体B:Score 0)が既知となっているFFPE組織切片をそれぞれ用い、水流破砕及び超音波破砕により細胞核を抽出し、FISH法によりHER2の増幅を確認した。
1-1.FFPE組織ブロック
参考例1で用いたFFPE組織ブロックを用いた。
1-2.FFPE切片の作成
参考例3と同様に行った。
1-3.脱パラフィン/親水化
参考例1と同様に行った。
1-4.熱処理による抗原賦活化
参考例1と同様に行った。
1-5.酵素による抗原賦活化
実施例1と同様に行った。
1-6.水流破砕と超音波破砕の組み合わせ
Sysmex社の水流せん断装置(RP-10)を用い、氷冷下、TBS1mL中で酵素処理後の組織を10,000rpm、1分間破砕した。さらに、SONICS&MATERIALS社の超音波破砕装置(VCX130PB)を用い、氷冷下、TBS1mL中で水流破砕後の組織を出力強度20%で30秒間破砕した。
1-7.FISHによるHER2の検出
組織破砕後のサンプルをスライドガラスに乗せ、乾燥後、10%中性緩衝ホルマリンに室温で10分間浸漬した。スライドガラスをTBSで洗浄し、風乾後、パスビジョン(R)HER-2 DNAプローブキット(アボット)を用いてFISH染色を行った(操作は、キット添付書類に従った)。
1-8.蛍光顕微鏡
顕微鏡観察には、オールインワン蛍光顕微鏡BZ-X710(キーエンス)を使用した。観察時にはDAPIフィルタ(Ex 360nm、Em 460nm)、TRITCフィルタ(Ex 545nm、Em 605nm)使用した。対物レンズは20倍を使用した。
【0102】
2.
結果
図24に蛍光顕微鏡で観測した細胞核を示す。HER2陽性FFPE組織切片中においてHER2由来の蛍光シグナルが検出でき、一方でHER2陰性FFPE組織切片中において、検出されないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本願発明により、客観性、再現性、普遍性の高いKi-67陽性細胞の検出(定量)方法が確立される。加えて、ER陽性細胞、PgR陽性細胞、Her2陽性細胞を定量することにより、がんの内因性サブタイプの分類を可能にする。
本発明より提供されるプロトコール(所定の酵素による抗原賦活化を含む前処理プロセス含む)を用いることで、FFPE組織切片から標的抗原の抗原性を増強した細胞核の脱離を達成する。回収した分散細胞核は、単一の細胞核として解析することが可能である。例えば、核膜上や核内のタンパク質、核酸等が解析対象となり、色素(蛍光)染色による形態の観察や、酵素もしくは蛍光色素で標識した抗体、核酸等のリガンドを用いることで、これらの対象を検出できる。本願発明の方法、抗原賦活剤及びキットは、顕微鏡での形態観測、IHC、EIA、CLEIA、デジタルPCRでの解析や、イメージングサイトメーター又はフローサイトメーターによるサイトメトリー解析に利用することができる。特に、本願発明の好ましい実施形態によれば、フローサイトメトリー解析による脱離核中の対象タンパク質の陽性核の割合(特にKi-67陽性率)の算出に利用することが可能である。
【0104】
本発明より提供されるプロトコール(所定の酵素による抗原賦活化を含む前処理プロセスを含む)を用いることで、ばらつきの少ない病理診断の指標を提供することが可能である。
そして、このばらつきの少ない指標を用いて、患者に最適な診断レジメンを提供することが可能である。抗がん剤治療はそれ自体患者に対する負担も大きく、患者にあった治療レジメンを治療開始前に決めることは患者のQOL(QualityofLife)を保つ上でも重要である。本願発明の場合、外科手術前の化学治療(術前抗がん剤治療)の治療レジメンに応用できるだけなく、外科手術で腫瘍摘出後の(予後)治療レジメンにも応用できる。
【配列表】