(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】頭部光刺激装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/06 20060101AFI20220217BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
(21)【出願番号】P 2018531726
(86)(22)【出願日】2016-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2016073194
(87)【国際公開番号】W WO2018025419
(87)【国際公開日】2018-02-08
【審査請求日】2019-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】516062824
【氏名又は名称】有限会社ナガサキ・メソッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀井 勉
【審査官】白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-168934(JP,A)
【文献】特開2002-035130(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00375106(EP,A1)
【文献】特開平09-084888(JP,A)
【文献】亀井勉,医工連携による血中ノルアドレナリン低下を安全にもたらす新しい技術,Journal of International Society of life Information Science,2014年,Vol. 32, No. 2,pp.193-198
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳波センサにより取得した自己脳波をA/D変換するとともに、増幅する脳波アンプと、前記脳波アンプからの出力信号に基づい
て制御信号を生成する制御信号生成回路と、前記制御信号生成回路
が生成した前記制御信号をパルス変調し、駆動信号を出力するパルス変調部と、前記駆動信号に基づいて駆動され、頭部にLED光を照射するLEDを備えた光照射部と、を備え、
前記制御信号生成回路は、
前記脳波アンプからの出力信号をフィル
タ処理す
るフィルタ
であって、θ波の一部帯域とα波の一部帯域を含む周波数帯域を通過させ
るバンドパスフィル
タと、
前記自己脳波
の位相と、前記光照射
部のLEDを
駆動するための
前記駆動信号の位相
とを一致させるために、前記バンドパスフィルタからの出力信号
の位相に一致させた位相の前記制御信号を出力するフェーズドロックルー
プと、を有し、
前記
フェーズドロックループは、
入力信号の位相を比較する位相比較器と、
ループフィルタと、
前記ループフィルタの出力を入力として前記位相比較器にその出力をフィードバックするVCOと、
を有する頭部光刺激装置。
【請求項2】
前記フェーズドロックループから出力される前記制御信号の周波数は、所定の間隔ごとに切り替え
られ、
前記フェーズドロックループは、その周波数の切り替え時に、前記バンドパスフィルタからの出力信号の位相に一致させた位相の前記制御信号を出力する、
請求項1に記載の頭部光刺激装置。
【請求項3】
前記フェーズドロックループから出力される前記制御信号の周波数は、前記バンドパスフィルタから出力される出力信号のα波のサンプリングデータ
に基づいて算出される、請求項2に記載の頭部光刺激装置。
【請求項4】
前記フェーズドロックループから出力される前記制御信号の周波数は、所定の間隔ごとに切り替えられ、
前記フェーズドロックループは、前記バンドパスフィルタからの出力信号のゼロクロスポイントのタイミングで、前記バンドパスフィルタからの出力信号の位相に一致させた位相の前記制御信号を出力する、請求項
1に記載の頭部光刺激装置。
【請求項5】
脳波センサにより取得した自己脳波をA/D変換するとともに、増幅する脳波アンプと、前記脳波アンプからの出力信号に基づい
て制御信号を生成する制御信号生成回路と
、前記制御信号生成回路
が生成した前記制御信号をパルス変調し、駆動信号を出力するパルス変調部と、前記駆動信号に基づいて駆動され
、頭部にLED光を照射するLEDを備えた光照射部と、を備える頭部光刺激装置
を動作させるためのプログラムであって、
前記
頭部光刺激装置に、
前記脳波アンプからの出力信号をフィル
タするフィルタ処理
であって、θ波の一部帯域とα波の一部帯域を含む周波数帯域を通過させ
るバンドパスフィル
タ処理と、
前記自己脳波
の位相と、前記光照射
部のLEDを
駆動するための
前記駆動信号の位相
とを一致させるために、前記バンドパスフィルタ
処理された出力信号
の位相に一致させた位相の前記制御信号を出力するフェーズドロックルー
プ処理と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光刺激技術に関し、特に、頭部への光刺激技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界における光環境の変化が生体の免疫系にもたらしている例として、秋や冬の日照時間の減少による気分の不快や行動障害の程度が、末梢血中のナチュラルキラー細胞(以下NK細胞)数と負の相関関係を認めたという報告がある(下記非特許文献1参照)。この報告は、日中の太陽光などの連続光が免疫調節に有用である可能性を示唆している。光の生体内における反応については、鳥類、爬虫類、魚類では視覚経路以外にも頭蓋骨を通過して松果体の光感受性を有する細胞に直接反応していると言われているが、ヒトについては視覚経路以外のこのような反応は知られていない。
【0003】
また、自然界の光以外の光を含めてその医学的効用に着目してみると、現在までに、中波長(UVB)あるいは長波長(UVA)紫外線は乾癬、白斑、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患に、高照度光療法は季節性感情障害(SAD;seasonal affective disorder)やうつ病などの治療に、それぞれ応用されている。また、近赤色線は疼痛や皮膚潰瘍等への治療に応用されており、光の特に臨床医学における幅広い応用がすでに行われつつある。光源にダイオード光を用いた医学的報告については、近赤色発光ダイオード光にて創傷治癒効果の促進を認めたという基礎研究が今までにみられており、侵襲性が少ない光源についてもその医学的有用性が研究されつつある。
【0004】
可視光が視覚経路、すなわち神経系を介して免疫応答に及ぼす影響についての研究報告は、既にいくつかみられる。また、発明者らは、健常者に光駆動を行うことによりみられる前頭部のα波の賦活化が、末梢血中の細胞性免疫の活性化と相関することを以前に報告した。
【0005】
しかしながら、光駆動による眼を介する光刺激は、被験者にとっては一種の物理的ストレスともなるため、この免疫系の増強を妨げる作用をもたらすものと考えられた。
【0006】
また、両眼を光から完全に遮蔽した状態にて、前頭部の前方より光を照射し、非侵襲的に脳及び免疫機構の活性化を図る技術も発明者により提案されている(特許文献1及び2参照)。
【0007】
特許文献1に記載の照射用具は、前頭部に接する光源部と、当該光源部を使用者の頭部に装着(固定)するバンド部とを備えている。光源部の内側(使用者の前頭部側)には、多数のLEDが配置されている。光源部の下縁部及び側縁部には、遮光部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-231871号公報
【文献】特開平9-84888号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】S. Kasper, N.E. Rosenthal, S. Barberi, A. Williams, Tamarkin L., S.L.B.Rogers and S.R. Pillemer: Immunological correlates of seasonal fluctuations in mood and behavior and their relationship to phototherapy, Psychiatry Res., 36, pp.253-264 (1991)M. Terman, J.S. Terman, F.M. Quitkin, P.J. McGrath, J.W. Stewart and B.Rafferty: Light therapy for seasonal affective disorder: a review of efficacy, Neuropsychopharmacol., 2, pp.1-22 (1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、頭部に画一的な光を照射するものであり、その効果に個人差が大きいという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決し、個々人に適した光刺激技術を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、初期導入時の違和感等を和らげることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一観点によれば、脳波センサにより取得した自己脳波をA/D変換するとともに、増幅する脳波アンプと、前記脳波アンプからの出力信号に基づいて、LEDの駆動を制御する制御信号を生成する制御信号生成回路と、前記制御信号生成回路からの出力に基づいて駆動され、頭部に照射するLEDを備えた光照射部と、を備え、前記制御信号生成回路は、入力信号をフィルター処理するバンドパスフィルタと、前記バンドパスフィルタを通過した信号を制御するDSP(信号処理)部と、頭部に照射する近赤外線LEDを使用した光照射出力部と、を備え、前記DSP部は、自己脳波と同期して、前記光照射出力部を制御するPWM出力の位相を合わせるフィードバック機能を有することを特徴とする頭部光刺激装置が提供される。
【0014】
θ波の一部帯域とα波の一部帯域とを含む周波数帯域を通過させるバンドパスフィルタを用い、初期導入時の違和感等を和らげるフィードバックを行うことができる。
【0015】
前記DSP部は、θ波の一部帯域とα波の一部帯域を含む周波数帯域を通過させるバンドパスフィルタ(BPF)と、前記バンドパスフィルタからの出力信号の位相を検出するフェーズドロックループ(PLL)と、θ波の一部帯域とα波の一部帯域の最大振幅の周波数を精度よく抽出する高速フーリエ変換(FFT)部と、前記FFT部からの入力信号の前記周波数と前記位相を制御し、前記PLLにフィードバックする周波数/位相制御部とを有することを特徴とする。
【0016】
前記周波数/位相制御部は、周波数切り替え時に、振幅を入力脳波の位相に合わせて同期することを特徴とする。
【0017】
前記周波数/位相制御部は、周波数切り替え時に、出力位相がゼロになるまで時間を延長しインターバルをおいてから入力脳波の位相のゼロ点に合わせて同期することを特徴とする。
【0018】
前記FFT部により、θ波の一部帯域とα波の一部帯域から、前記バンドパスフィルタと前記FFTで帯域内の脳波の最大振幅の周波数を抽出し、さらに、移動平均をとることによって精度を上げることを特徴とする。
【0019】
前記PLLは、入力信号の位相を比較する位相比較器と、ループフィルタと、前記ループフィルタの出力を入力として前記位相比較器にその出力をフィードバックするVCOと、
を有することが好ましい。
【0020】
脳波の位相をPLLで常に追従し周波数が変動するが、制御信号により、PLLのVCOの周波数を固定することができる。
【0021】
前記PLLは、切換えのインターラプト(中断)をタイミングt1で行い、次いで、前記VCOの位相がゼロクロスポイントに来るまで発振を継続し、次いで、前記PLLの位相がゼロであるか否かを判定し、ゼロであれば、前回の平均の周波数で前記PLLの信号出力を開始することが好ましい。
【0022】
以上のようにして、近赤外LEDへの制御信号の位相の自己脳波の位相への同期を速やかに行うことができる。
【0023】
本発明の他の観点によれば、脳波センサにより取得した自己脳波をA/D変換するとともに、増幅する脳波アンプと、前記脳波アンプからの出力信号に基づいて、LEDの駆動を制御する制御信号を生成する制御信号生成回路と、前記制御信号生成回路からの出力に基づいて駆動され、頭部に照射するLEDを備えた光照射部と、を備える頭部光刺激装置による頭部光刺激方法であって、前記制御信号生成回路は、入力信号をフィルター処理するバンドパスフィルタ処理と、前記バンドパスフィルタを通過した信号を制御するDSP処理と、頭部に照射する近赤外線LEDを使用した光照射出力処理と、を行い、前記DSP処理は、自己脳波と同期して、前記光照射出力処理を制御するPWM出力の位相を合わせるフィードバック処理を含むことを特徴とする頭部光刺激方法が提供される。
【0024】
前記DSPステップは、θ波の一部帯域とα波の一部帯域を含む周波数帯域を通過させるバンドパスフィルタ(BPF)処理と、前記バンドパスフィルタ処理における出力信号の位相を検出するフェーズドロックループ(PLL)処理と、θ波の一部帯域とα波の一部帯域の最大振幅の周波数を精度よく抽出する高速フーリエ変換(FFT)処理と、前記FFT処理からの入力信号の前記周波数と前記位相を制御し、前記PLL処理においてフィードバックする周波数/位相制御処理と、を有することを特徴とする。
【0025】
本発明は、コンピュータに、請求項8又は9に記載の頭部光刺激方法を実行させるためのプログラムであっても良く、当該プログラムを記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体であっても良い。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、個々人に適した光刺激技術を提供することができる。
【0027】
本発明によれば、初期導入時の違和感等を和らげるフィードバックを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】本発明の第1の実施の形態による光刺激装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
【
図1B】本発明の第2の実施の形態による光刺激装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
【
図1C】BPF、AGC制御ノッチ、LPFの特性例を示す図である。
【
図2】本実施の形態で利用する脳波の周波数帯域の一例を示す図である。
【
図3A】
図1Aに示すゆらぎ波形生成部の入出力波形の一例を示す図である。
【
図3B】
図1Bに示す回路における波形の遷移例を示す図である。
【
図3C】パルス変調部の入力波形(a)と出力波形(b)を示す図である。
【
図3D】
図1Bに示すフィードバック回路における波形の遷移例を示す図である。
【
図4】波形処理の流れの一例を示すフローチャート図である。
【
図5】頭部への光照射処理の流れを示すフローチャート図である。
【
図6】
図6は、上記の第1の実施の形態による光刺激装置の簡単な構成例を示す機能ブロック図である。
【
図7】本波の第5の実施の形態による光刺激装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
【
図8】
図7の信号処理装置(DSP)の一構成例を示す図である。
【
図9】
図8のPLLの一構成例を示す機能ブロック図である。
【
図10】本実施の形態による制御アルゴリズムの一例を示す図である。
【
図11】FFTの加算平均の求め方の一例を示す図である。
【
図12】α波の最大周波数の変位とVCOの振る舞いを示す図である。
【
図14】第1の同期方法を示す図であり、横軸は時間、縦軸は振幅である。
【
図19】第2の同期処理の流れの一例を示すフローチャート図である。
【
図20】本発明の実施の形態による光照射装置の構成例を示す図である。
【
図21】本発明の第7の実施の形態による光刺激装置の構成例を示す図であり、第1~第6までの各実施の形態による処理を行って得た赤色線パルス光を、被験者の頭部に照射するための器具の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中で説明番号が同じものは、特に断わりがない限り同一部材を示していることとする。
【0030】
西洋医学には、「個体差」、「体質」という概念がない。発明者は、個体差、体質も考慮することで、退化した機能を効果的に蘇生させる技術を研究している。
【0031】
特に、前頭前野(前頭連合野)を中心に、各人固有の脳波のリズムに基づいて、自動的に調整された頭部へのパルス光照射により、自然発生中のα波とθ波の振幅を増強させ、これにより、無侵襲に大脳皮質の神経インパルスの増強、内分泌系の変化による生体としての活性化、及び細胞性免疫の活性化を図ることを思いついた。
【0032】
上記の発想に基づいて、以下に、本発明の各実施の形態について説明する。
【0033】
(第1の実施の形態)
まず、本発明の第1の実施の形態による光刺激装置について説明する。尚、本明細書において、頭部とは、前頭前野(前頭連合野)を含み、後頭部を除く頭部を意味する。
【0034】
図1Aは、本発明の第1の実施の形態による光刺激装置の一構成例を示す機能ブロック図である。当該機能は、ハードウェア構成又はソフトウェア構成あるいはそれらの組み合わせにより実現可能である。以下、同様である。
【0035】
図2は、本実施の形態で利用される脳波の周波数帯域について説明する図である。θ波は5~8Hz、α波は8~13Hz、β波は13~30Hzの帯域をもつ。
【0036】
図1Aに示すように、本実施の形態による光刺激装置は、例えばセンサ11により取得した被験者の脳波(脳波センサ11、脳波アンプ13: 自己脳波とも称する。)に基づいて、脳波のうちのθ波の一部とα波の一部、例えば、
図2に示す7~13Hzの周波数帯域の脳波を利用する。この周波数帯域の脳波に基づいて、本実施の形態による光刺激装置は、自己脳波に基づく適切な波形を生成する波形生成部1aと、その出力をパルス変調(PWM変調)するパルス変調部3と、パルス変調された駆動波形に基づいて駆動される例えば赤色発光ダイオード(例えば発光波長660nm、LED)などの光照射部4と、を有している。光照射部4における、赤色光の光源波長は、610~750nmの範囲が好ましい。光照射部4から照射された赤色パルス光は、被験者の頭部などの被照射領域5に照射される。上記では、波形生成部1aは、自己脳波に基づいて適切な波形を生成するものとしたが、波形生成対象は、自己脳波に限らない。例えば、近親者や、同じような病気の患者などの脳波を利用することも可能である。
【0037】
尚、波形生成部1aは、振幅の個人差を抑制する例えばAGC部1a-1、α波、θ波の所定周波数帯域の波形のみを抽出する例えばBPF部1a-2を有していても良い。これらの詳細な構成については、第2の実施の形態において詳細に説明する。
【0038】
図3Aは、波形生成部1aへの脳波の入力信号(原脳波(a))と波形生成部1aからの出力信号(b)の一例であり、縦軸は振幅、横軸は時間(s)である。いずれも100Hzでサンプリングを行っている。L1、L2は、それぞれの波形の包絡線(エンベロープ)である。
【0039】
図3A及び
図3Bに示すように、基本的には、個人的なゆらぎを保持しつつ、エンベロープL1、L2を比較すればわかるように、個人の特異点を吸収(除去)するような波形の変形処理を行う。
【0040】
以上のように、本実施の形態による光刺激装置によれば、個人の脳波に基づく周波数ゆらぎを有する波形を作成し、この波形をパルス変調して生成した駆動波形に基づいて駆動される赤色LEDを頭部に照射するため、個人の特性を考慮しつつ個人の特異点を除去し、さらに、パルス変調により熱の発生を抑制した状態で、無侵襲に大脳皮質の神経インパルスの増強、内分泌系の変化による生体としての活性化、及び細胞性免疫の活性化を図ることができる。
【0041】
尚、LEDは、赤色LEDに限定されるものではなく、周波数帯も7から13Hzに限定されるものではない。光源もLEDを用いたものに限定されない。
【0042】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について詳細に説明する。
図1Bは、本実施の形態による光刺激装置の一構成例を示す機能ブロック図であり、
図1Aに対応する図である。
【0043】
自己脳波に基づいてパルス光の駆動電圧を生成する場合に、光刺激が強すぎると身体に与える刺激が強すぎ、一方、光刺激が弱すぎると、効果が少なくなりすぎる。
【0044】
図1Bに示すように、本実施の形態による光刺激装置は、センサ11により取得した被験者の脳波をA/D変換するとともに、必要に応じて増幅する脳波アンプ13と、脳波アンプ13からの出力信号に基づいて、LEDの駆動を制御する制御信号を生成する制御信号生成回路1bと、制御信号生成回路1bからの出力をPWM変調するPWM変調部3と、PWM変調部3からの出力信号に基づいて駆動される赤色LEDを備えた光照射部4と、を備えている。光照射部4からの光は、被験者の被照射領域5、例えば頭部にパルス光として照射される。PWM変調部3は、周波数を変化させずに、可変のパルスの幅および正負により、波形を表す。これにより、出力電圧のリップル成分を小さくできることと、負荷変動に対する応答性能を高められる。PWM変調に代えてPFM変調を用いても良い。
【0045】
制御信号生成回路1bは、例えば、第1のバンドパスフィルタ(BPF1)1-1と、AGCリミッタ1-2と、第2のバンドパスフィルタ(BPF2)1-3と、を有している。
【0046】
さらに、制御信号生成回路1bは、第2のバンドパスフィルタ(BPF2)1-3からの出力を、AGCリミッタ1-2にフィードバックするフィードバック機能として、絶対値回路1-4、例えば入力の2倍の周波数にするBEF回路1-5と、その出力のフィルタリングを行うLPF回路(fc、クオリティファクタQ=0.7)1-6と、を有している。中心周波数を5から15Hzの間で任意に設定変更する中心周波数変更部1-1-1として機能させることができる。BEF回路1-5は、帯域除去濾波器であり、ある周波数だけを取り除き他の帯域は通すフィルタである。
【0047】
さらに、第2のバンドパスフィルタ(BPF2)1-3の出力を記憶するメモリ1-7を有していても良い。
【0048】
図1Cは、BPFの周波数特性L1と、AGCリミッタ1-2のAGC制御用ノッチL2と、LPF1-6の周波数特性L3とを例示する図である。この特性例は、中心周波数fc=9.0Hz,Q=5の例である。
【0049】
これらの特性により、制御信号生成回路1bにより、符号P1で示した周波数範囲の脳波に基づく処理後信号をPWM変調部3に出力することができる。
【0050】
図3Bは、
図1Bの回路による波形処理例を、周波数と振幅との関係により示す図である。
【0051】
(a)の波形1)は、第1のバンドパスフィルタ(BPF1)1-1への入力波形例を示す図であり、縦軸は振幅、横軸はサンプリング時間である。波形1)は、例えば、個人の脳波(自己脳波)を増幅した第1の波形である。
【0052】
(b)の波形2)は、第1のバンドパスフィルタ(BPF1)1-1からの出力波形例を示す図であり、第1の波形1)のうち、例えば、
図2に示すような7~13Hzの波長のみを抽出する。
【0053】
(c)の波形3)は、波形2)を入力としたAGCリミッタ1-2の出力波形であり、個人に依存する振幅の変動が抑制されている。
【0054】
(d)の波形4)は、波形3)を入力とした第2のバンドパスフィルタ(BPF2)1-3の出力波形例を示す図であり、BPF2(1-3)は任意に設けられ、波形成形処理が行われる。
【0055】
これにより、波形の個人差を残しつつ個人差を抑制するとともに、パルス信号に変形しやすい波形を得ることができる。
【0056】
尚、波形3)、4)は、後述するフィードバック機能を働かせた場合の波形例である。
【0057】
図3Cは、波形4)を入力としたPWM回路3の入出力波形であり、横軸のスケールを変更している。
図3C(a)に示す
図3B(d)の波形4)の周期(周波数)と振幅とに応じて、
図3C(b)に示すように、パルス波形のデューティが調整された波形である。このように、PWM回路3において、波形4)に応じて、パルス波形を得ることができる。このパルス波形をLED4の駆動電圧として用いることで、発熱を抑制することができる。
【0058】
図3Dは、
図1Bのうちフィードバック回路による波形処理の例を示す図である。
【0059】
波形11)は、第2のバンドパスフィルタ(BPF2)1-3の出力波形である。
【0060】
波形12)は、波形11)を、絶対値回路1-4により、絶対値とした例である。これにより、波形の振幅を計算しやすくなる。
【0061】
波形13)は、波形12)を、BEF回路1-5により
図1Cに示す制御ノッチの特性により、振幅を抑制させている例である。
【0062】
波形14)は、波形13)を、LPF1-6によりベースラインを振幅0とし、振幅を例えば0.7倍にした例である。
【0063】
波形14)をAGCリミッタ1-2の制御端子に入力させることで、個人差に依存する振幅をAGCリミッタ回路1-2にフィードバックし、個人の特徴を保持しつつ変動を抑制することができる。
【0064】
(変形例)
例えば、第2のバンドパスフィルタ(BPF2)1-3の出力を記憶するメモリ1-7により、その個人に対して効果のある波形を記憶させておくことで、それ以降は、メモリからの波形によりパルス信号を生成するようにしても良い。あるいは、脳波をメモリに記憶させておいても良い。その他、メモリに記憶させる信号として、
図1Bに示す回路のいずれかの出力を記憶するようにして、処理を簡単にしても良い。
【0065】
(第3の実施の形態)
図4は、本発明の第3の実施の形態として、第1、第2の実施の形態による上記の処理をソフトウェアによる処理とした際の、処理の流れを示すフローチャート図である。
図4に示すように、まず、処理を開始すると(Start)、ステップS2において、脳波を取得する。次いで、ステップS3において、BPF1の処理を行い、ステップS4において、AGCリミッタ処理を行う。次いで、ステップS5において絶対値処理を、ステップS6においてBEF処理を、ステップS7においてLPF処理を行った結果をステップS4に戻し、次いで、ステップS8でBPF2処理を、ステップS9でPWM変調処理を行い、ステップS10でLEDに駆動パルス電圧を印加して、処理を終了する(ステップS11)。
【0066】
(第4の実施の形態)
図5は、本発明の第4の実施の形態として、上記の第1~第3までの各実施の形態におけるLED駆動パルス信号に基づいて駆動されるLEDによる被験者の頭部への光照射処理の流れを示すフローチャート図である。
【0067】
ステップS21において光パルスの照射処理を開始し(Start)、ステップS22において、実際の光照射を開始する。ここで、ステップS23のように、3分間程度の周波数のスイープ処理を行っても良い。周波数のスイープ処理は、例えば、13Hzから7Hzまで、周波数を0.1Hz刻みに等間隔(約3.5秒)で照射する。
【0068】
次いで、ステップS24において、パルス光を頭部に照射する。照射時間は、例えば、12分程度であり、ステップS25でタイムカウンタなどにより12分が経過するまでは、ステップS26で、光照射用データを更新してステップS22に戻る。光照射データの更新処理は、
図4に示すような処理であり、光パルスの照射により変化した脳波に基づく
図4の処理結果をLEDの駆動パルス電圧に反映させるフィードバック処理である。照射時間は、例えば、12分(スイープあり)から15分(スイープなし)までが好ましい。
【0069】
例えば、自己脳波における周波数領域に、基づいて、次の更新データは、自己脳波として検出された周波数領域のみについて光パルスを照射する。また、振幅についても、自己脳波として検出された振幅に応じて、振幅の大小を、振幅が大きければ大きく、振幅が小さければ小さくなるように更新する。このフィードバック処理により、周波数スイープ処理を不要とすることができる。
【0070】
(第5の実施の形態)
本実施の形態による光刺激技術は、被験者から読み取った脳波のα波(前述のように、θ波を含んでも良い。)近赤外LED光で頭部に照射しフィードバックする、α波活性技術に関する。
【0071】
α波は、覚醒時、精神的に比較的活動していない時に出現する。例えば、音楽を聴いてリラックスをしている時に発生する。リラックスをした状態だと情報伝達物質の神経ペプチドが活発に生産されナチュラルキラー細胞が活性化する。ナチュラルキラー細胞が活発だとガンや感染症の予防になる。
【0072】
近赤外LED光は頭蓋を透過し脳表面に到達する。α波に同期してフィードバックすることによって脳の活性化を促す。
【0073】
例えば、アルツハイマー型認知症の患者では、α波の貧困化、低、中振幅のΘ波の徐波、平坦化の症状が見られる。
【0074】
そのような患者に対して脳活動を活発にする光照射技術を提供できれば、薬などを使わずに非侵襲で症状を軽減することができるとともに、ガンや感染症の予防にもなる。
【0075】
上記の第1から第4の実施の形態で説明した技術は、被験者に処方を施す時に、被験者が装置に慣れるまで初動段階(初期段階)において、効果が得られず、場合によっては、気分が良くない等のケースがあった。
【0076】
発明者は、その原因として、被験者の脳波と装置のフィードバック光の位相とが一致しなかったからであると推測した。
図6は、上記の第1から第4までの各実施の形態において説明した、本実施の形態による位相フィードバック機能を備えていない光刺激装置の簡単な構成例を示す機能ブロック図である。
【0077】
図6(
図1Bに対応)に示すように、位相フィードバック機能を備えていない光刺激装置においては、脳波から得た信号はマイコンでA/D変換され(脳波アンプ、A/D変換13)、BPF1(1-1)、AGCリミッタ(1-2)、BPF2(1-3)等のデジタルフィルタ処理をし、PWM変調(3)を行った制御信号が図示しないLEDに出力される。近赤外光が脳にフィードバックされる。
【0078】
その際に、フィルターデバイス(1-1、1-2、1-3)等で信号のディレイが生じる。このディレイがあると、例えば、位相が脳波に対して、180度ずれていた場合、脳波が弱められる可能性がある。
【0079】
そこで、発明者は、位相と周波数もしくはディレイを調節して正のフィードバックの状態に近づけるための技術に想到した。
【0080】
以下に本発明の実施の形態による光刺激技術であって、被験者の脳波に位相を同期して、近赤外LED光をフィードバックする技術について図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0081】
図7は、本実施の形態による光刺激装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
図8は、
図7の信号処理装置(DSP)の一構成例を示す図である。
図9は、
図8のPLL回路の一構成例を示す機能ブロック図である。
【0082】
図7に示すように、本実施の形態による光刺激装置は、頭部電極(前頭葉に付される)10aと、入力部11aと、DSP部(信号処理部、プロセッサ)1c、3と、近赤外のLED4と、を有し、LED4からの近赤外光が、前頭葉の被照射領域5に照射される。
【0083】
頭部(前頭葉)の脳波センサー10aから脳波信号11が検出され、オペアンプ(脳波アンプ)13により増幅される。増幅した脳波信号は、マイコンのA/D変換によりサンプリングされ、DSP部(プロセッサ)1c、3で読み出され信号処理される。処理された信号はPWM変調によって近赤外LED(光出力部)4に出力される。
【0084】
図8に示すように、DSP部は、BPF部(1)1-1と、PLL(フェーズドロックループ)部12と、FFT(フーリエ変換)部15と、周波数及び位相を制御する制御部(周波数&位相コントロール)17とを有している。PLL部12は、BPF(1)1-1から取り出した信号をFFT変換し、目的のα波の周波数のレベルが高くなるようにPLL12の周波数もしくはディレイの位相調整を行う。
【0085】
頭部の脳波センサー11から読み出され、A/D変換されたデータは、BPF(1)1-1によりα波の波長帯域を含む、例えば1~30Hzの範囲内に制限される。例えば、10秒間の間に70回のFFTのデータを取り、その移動平均をとる(処理の詳細は後述する)。
【0086】
次いで、α波内の最大値を検出し、そのα波の周波数で、例えば次の10秒間、PLL12をロックする。切り替え時にPLL12はサンプリングした脳波データに同期させることができる。PLL12から出力されたα波の最大値の信号は、PWM変調(3)され、近赤外LED4を発光させる。
【0087】
図9に示すように、PLL12は、入力部12-1と、位相比較器12-2と、VCO12-3と、ループフィルタ12-4と、出力部12-5とを有している。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
VCO12-3は、ディレイフリーループである。
【0097】
図10は、本実施の形態による制御アルゴリズムの一例を示す図である。
【0098】
この方法は、FFT解析した信号の中で、最大値を見つけ出し、目的の周波数に導くように周波数をコントロールする方法である。
【0099】
脳波から測定したスペクトルの中で、α波近傍の極大値を検索し、初期はその極大値にPLLの周波数をLEDにフィードバックする。
【0100】
目的の周波数が極大値の周波数より大きいと仮定し、コントロールの次の手順として極大値より例えば1Hz大きい周波数にセットする。すると1Hz周波数が高いので1秒間に1波長分早く位相が回る。
【0101】
そうすると、フィードバックによって目標の周波数に近づく。極大値+1Hzのレベルが上がると、再び、目標の周波数に向かって1Hzずつ近づける。目標の周波数に到達すると、そのまま周波数を維持する。
【0102】
尚、計算の条件は以下の通りである。
BPF1: サンプリング周波数258Hz、 中心周波数fc: 10Hz、通過帯域幅: 5~15Hz
FFT: サンプリング周波数128Hz、解析レート 毎秒2回、解析分解能0.5Hz
【0103】
周波数の切り替えは、例えば10秒間隔でFFTの結果を平均したものを使用する。
【0104】
PLL: 出力レベルはVCOの設定で決定される。
【0105】
DELAYは、0~0.2s~ (5Hzの場合)α波周波数によって調整する。
【0106】
次に、サンプリングの方法とFFTの移動平均(加算平均)処理について説明する。
【0107】
ここで、以下の条件のもとで処理を行う。
脳波の周波数帯域: 0.13~128Hz
α波の周波数帯域: 7~14Hz
サンプリング周波数: 128Hz×2=256Hz
必要サンプリング時間: 1/7Hz=0.143s
加算平均の時間: 10s
加算平均の回数: 10×2/0.143≒140回
【0108】
サンプリング方法は以下の通りである。
【0109】
サンプリング周波数はナイキスト周波数の定理より2倍とする。α波の最低周波数は7Hzであるので、必要サンプリング時間は0.143sである。サンプリング時間を長くすると、δ波まで周波数帯域を拡張できるが、加算平均の回数が減るので、フィードバックに使用するFFTと解析用のFFTを分けると良い。
【0110】
FFTの加算平均
次にFFTの加算平均について説明する。
【0111】
図11は、加算平均の求め方の一例を示す図である。縦軸は振幅、横軸は時間であり、単位は任意である。実際には、msecオーダである。
【0112】
脳波をA/D変換によりサンプリングし、FFT解析を行う。例えば、10秒(図の0.1)の間、FFTのデータを加算平均して、α波周波数帯域内の最大周波数を検出する。その周波数を次の10秒間のVCOの周波数に反映させる。
【0113】
加算平均の方法は
図11のようにフーリエ変換を複数回行う。
【0114】
サンプリング時間は、0.143sであるため、70回分のFFTデータを取得することができる。しかしながら、FFTは窓関数で処理するため、サンプリング時間を半分重ねて加算平均を取ったほうが良い。
【0115】
そこで、例えば、FFT140回分のデータを加算平均する。加算平均をすることで、ホワイトノイズは1/√Nで減少する。ここで、Nは加算平均の回数である。
【0116】
次に、α波の最大周波数の変位とVCOの振る舞いについて
図12を参照しながら説明する。
【0117】
脳波から取り出したFFTデータを加算平均することによって、α波の最大周波数を検出する。α波の最大周波数が変動した場合、次の10秒間にVCO周波数を変更する。しかし、VCOの周波数は急に変更(
図12(
図12上図)するのではなく、ループフィルタ(
図12中図)によって安定的に目的の周波数に変動させる(
図12下図)。位相は緩やかに変位して目的の周波数に接続される。
【0118】
尚、
図12では、アナログICのPLL処理を図示したものであるが、デジタル信号処理では位相差を数値で表現する。
【0119】
尚、振幅はVCOで決定される。この振幅の値はプログラムによって設定できる。よって、初動のときに信号レベルを小さくしたり、FFTの最大周波数のレベルに比例させて信号レベルを変化させたりすることができる。
【0120】
図13は、位相の同期方法を示す図である。横軸は時間、縦軸は振幅である。
図13の上の波形は、α波のサンプリングデータであり、下の波形は、位相情報のみを取り出したデータである。
【0121】
BPFは10秒間隔ごとに周波数を切り替える。その切り替え時に入力の脳波と位相を合わせる。すなわち、α波のサンプリングデータから、位相のデータのみ取り出し振幅は一定とする。10秒間ごとの周波数切り替え時に、位相のみ取り出したサンプリングデータから、
θ=tan-1(A/B)により位相を計算する。その位相をVCOの位相と一致させる。
【0122】
次に、周波数切換え時に位相を同期する方法について説明する。テスト結果で最良なものを選択することができる。
【0123】
1)同期方法1
図14は、第1の同期方法を示す図であり、横軸は時間、縦軸は振幅である。第1の同期方法は、周波数切り替え時に位相を同期する方法である。例えば、10秒間のFFT処理の加算平均のデータを使用して、次の10秒間のVCOの周波数を決定する。この方法で計算した位相でVCOの動作を開始する。
【0124】
図14のグラフはVCOの周波数が低い周波数から高い周波数に切り替わったときのグラフを示している。切り替え時にサンプリングデータ(脳波の位相)とVCOの開始の位相を一致させることができる。
【0125】
但し、切り替え前のVCOの位相と切換え後のVCOの位相は合わない。そのため、DCの変動が起きる可能性は残る。
【0126】
2)同期方法2
図15から
図18までは、第2の同期方法を示す図であり、横軸は時間、縦軸は振幅である。第2の同期方法は、周波数切り替え後、ゼロクロス点で位相を同期する方法であり、例えば、10秒間の周波数切り替えポイントのあと、脳波のゼロクロスポイントまで遅延させ、同期をとるものである。
【0127】
脳波の位相とVCOの位相の同期を取るため、ゼロクロスポイントまで空白の時間が出る。余計な高調波は発生しないが、脳波の位相が0になかなか戻ってこない場合、空白期間が長くなる可能性がある。
【0128】
図15、
図16は、上図が脳波の波形、下図がVCOの波形である。10秒の周波数切換えポイントt2と、VCOの位相を脳波の位相と合わせるポイントt3との間ので、VCOの波形をゼロに維持する。
図15は、t
1からt
2(t
1<t
2)へVCOの波形における振幅が減少する期間で0にクロスする例であり、
図16は、t
1からt
2(t
1<t
2)へVCOの波形における振幅が増加する期間で0にクロスする例である。10秒間の周波数切り替えポイントのあと、脳波のゼロクロスポイントまで遅延させ、同期をとる。
【0129】
図17は、VCOの波形における極大値を取るタイミングを10秒の周波数切換えポイントとする例であり、
図18は、VCOの波形における極小値を取るタイミングを10秒の周波数切換えポイントとする例である。
【0130】
以上のいずれかの同期方法により、脳波の位相とVCOの位相の同期を取るため、ゼロクロスポイントまで空白の時間が出る。余計な高調波は発生しないが、脳波の位相が0になかなか戻ってこない場合、空白期間が長くなる可能性がある。
【0131】
図19は、上記の同期処理の流れの一例を示すフローチャート図である。
図19に示すように、処理が開始され(Start)、切換えのインターラプト(中断)をタイミングt1で行う(ステップS31)。
【0132】
次いで、ステップS32において、VCOの位相がゼロクロスポイントに来るまで発振を継続する。
【0133】
ステップS33において、PLLの位相がゼロであるか否かを判定する。ゼロであれば(Yes)、ステップS34に進む。Noであれば、PLLの位相がゼロになるまで待つ。
【0134】
ステップS34において、前回の10秒の平均の周波数でPLLの信号出力を開始し、処理を終了する。
【0135】
以上のようにして、近赤外LEDへの制御信号の位相の自己脳波の位相への同期を速やかに行うことができる。
【0136】
本実施の形態によれば、上記の第1から第4の実施の形態で説明した技術において、被験者に処方を施す時に、被験者の脳波と装置のフィードバック光の位相とが一致させることで被験者が装置に慣れるまで初動段階(初期段階)においても、その効果が得られるという利点がある。
【0137】
(第6の実施の形態)
図20は、本発明の第6の実施の形態による光刺激装置の構成例を示す図であり、第1~第6までの各実施の形態による処理を行って得た赤色パルス光を、被験者の頭部に照射するための器具の一例を示す図である。
図20(c)に示すように、出射穴57aの位置に図示しないLED4が多数配置された支持板57が裏面(頭部側の被照射領域)に設けられた帽子状の部材51を被る。
【0138】
波形生成部1aとパルス変調部3(
図1A)等により生成したパルス駆動電圧に基づいて、頭部に赤色光が照射される。ここで、帽子状の部材51の照射部51aを被照射領域と合わせておく。そして、実際に光を照射する際には、帽子状の部材51に摺動可能に設けられた目保護部53を眼の位置までスライドさせて目を保護する(
図20(a))。
【0139】
図20(b)に示すように、目保護部53を眼の位置からスライドさせると、照射部51aと被照射領域との間に位置するように構成されており、照射部51aからの光を遮蔽することで目を保護することができる。
【0140】
以上のように、本実施の形態では、光照射と目の保護とを有効に行うことができる。
【0141】
(第7の実施の形態)
図21は、本発明の第7の実施の形態による光刺激装置の構成例を示す図であり、第1~第6までの各実施の形態による処理を行って得た赤色線パルス光を、被験者の頭部に照射するための器具の他の例を示す図である。
【0142】
図21(a)、(b)に示す頭部の装着する光パルス装置151において、装置のハウジング153の内部には、発光部155の他に、例えば信号処理部157、電源(電池等)161が配置されている。信号処理部157、電源(電池等)161は、ハウジング153の外側に配置されていても良い。
【0143】
この構成において、脳を刺激する光の動作(起動、停止)を容易にモニタするために、
図21(b)、(c)に示すように、ハウジング153の内部の光の一部を使用者の目に入る場所に導き、使用者に動作モニタ光を投射する機能を配置している。
【0144】
このように、頭部に装着する光パルス装置151において、目で見える位置に、機器の動作確認のための、内部の光刺激信号の一部を確認できる窓163が設けられている。そして、その光の眼の方向への導光路上に、減光するための調整窓があり、明るさを変えたい場合に調整窓を操作して明るさを調整することができる。
【0145】
この調整窓163による光の調整性は、透過率の異なる色素により行っても良いし、導光路上の遮蔽物でもよく、動作確認窓で確認灯の明るさを調整する装置であれば良い。
【0146】
例えば、
図21(c)、(d)に示すように、この機能は、例えば、動作確認窓163を含み、動作モニタ光を、調光、または遮蔽できるように調整スイッチ機能を設ける。
【0147】
調整スイッチ機能は、例えば、
図21(c)、(d)に示すように、動作確認窓163を望む位置にスリット165とスリット165の開口範囲を調整可能に配置された遮光板164とを設けている。遮光板164をスライドさせることによりスリット165の開口範囲を調整することで、屋外、室内等で外部環境の明るさが変化した場合に、眩しすぎたり暗すぎたりしないように調整または遮光可能となっている。
【0148】
以上のように、本実施の形態によれば、内部の光学的な状態を検知する検出窓(孔)であり、明るさ、動作を確認する表示を行い、システム側の起動および停止を容易にするためのモニタが可能である。
【0149】
処理および制御は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)によるソフトウェア処理、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)によるハードウェア処理によって実現することができる。
【0150】
本発明の装置を使用することによりヒト脳における退化した機能の蘇生が可能になる。具体的には、本発明によれば前頭前野(前頭連合野)を中心に、各人固有の脳波のリズムに基づいて、自動的に調整された頭部へのパルス光照射により、自然発生中のα波とθ波の振幅を増強させ、これにより、無侵襲に大脳皮質の神経インパルスの増強、内分泌系の変化によるリラクゼーション及び細胞性免疫の活性化を図ることができる。
【0151】
ヒトの進化の過程においては、非常に重要なパーツを(特に生活に関係する物理的要因から)守るために(骨格を含む)器官の変化(進化)が起きる。(このように、環境に応じて進化した種や亜種が自然選択され今日存在していると考えられている。)その進化のために(進化と引き換えに)、本来もちあわせていた生理学的な賦活化や調節に関する機能が徐々に退化することが少なからずある。本発明は、このようにして退化せざるをえなくなった生理学的及び免疫学的機能を蘇らせる技術の典型例と言える。
【0152】
本発明の装置は、ヒト頭部、とりわけ前頭前野(前頭連合野)を中心に特定波長域の赤色パルス光で刺激することによって、生理現象のリズム(ゆらぎ)の範囲を超えた生体内の歪みから生じるα波の周波数や振幅の乱れを、各人固有のθ波の一部帯域~α波一部帯域の間の周波数及び振幅に同調及び増幅させることにより改善しさらに予防することを可能にする。この頭部の光刺激は、脳表面(主として大脳皮質)の退化した光感受性機能の蘇生を起こし、大脳皮質での神経細胞の興奮促進をもたらして神経インパルスの増強が起こり(内分泌系の変化による精神的ストレスの改善などをもたらすとともに)自然免疫系(細胞性免疫)の活性化を起こす。これが免疫監視能の増強となり、ウイルス感染細胞や(健常者でも1日に3千~5千個も発生していると言われる)ガン細胞に対する攻撃・防御をもたらすものと推定されている。
【0153】
免疫系には、獲得免疫系と自然免疫系(細胞性免疫)がある。獲得免疫系では、体内に細菌やウイルスなどの異物が侵入したとき樹状細胞などの抗原提示細胞がヘルパーT細胞に抗原を提示し異物の情報を伝えることによってヘルパーT細胞はB細胞に指令して抗原に対する抗体を作らせ、この抗体が異物を攻撃し破壊する。一方、自然免疫系(細胞性免疫)は、獲得免疫系が作用する前に上記の異物に対し即効的に攻撃できるようにパトロールしているNK細胞、マクロファージ(貪食細胞)及び顆粒球(好中球)による初期防御のための免疫系である。本発明の装置による頭部の光刺激ではNK細胞の活性化が生じるという特徴がある。尚、NK細胞数の増加は、末梢血中のNK細胞の細胞表面抗原であるCD57及びCD16(ここでCDは「Cluster of Differentiation」の略である。)についてCD57-CD16+及びCD57+CD16+の細胞の存在量をフローサイトメトリー法などにより測定して確認することができる。
【0154】
ヒト脳のα波を制御することによって免疫力を高めることは知られていたが、特に0.5~13Hzの周波数のパルス光の光刺激によるNK細胞の活性化やリラクセーション効果は本発明者らにより特開平9-84888号公報や特開2001-231871号などにも記載されている。しかしこの技術は、前述のとおり、個人差(もしくは個体差)及び体質を考慮したものでなく頭部に画一的な光を照射するものであり、その効果に個人差が大きいという問題があった。ヒト脳波のうち安静閉眼時にα波(周波数13~8Hz)、浅い睡眠時にθ波(周波数7~4Hz)が出現する。覚醒時にはβ波(周波数30~14Hz)が主になり緊張やストレスの影響を受ける。本発明の装置は、各人の脳波を測定し各人固有のα波のリズムの周波数及び振幅に自動的に合わせた赤色パルス光(610~750nmの任意の波長域使用)を、頭部、例えば前頭前野(前頭連合野)を中心に照射することにより自然発生中のθ波の一部帯域~α波の一部帯域(通常7~13Hz、好ましくは7~12Hz、より好ましくは7~10Hz)の脳波の振幅を増強することを可能にする。実際、健常者、ガン患者、高齢者などに対する本発明における赤色パルス光照射の実施により、例えば1日1~6回(1日4~6回の場合は、例えば午前中1・2回目を15分間以上の“休憩時間(interval)をおいて実施、午後にもこの2回分のセットを1~2回行うという方法をとる。)、各回約15分間、約2~3週間もしくはそれ以上の期間実施することにより、大脳皮質の神経インパルスの増強(大脳皮質機能の賦活化)、内分泌系の変化による生体としての活性化(例えば血中ノルエピネフリン [ノルアドレナリン]レベルの低下によるイライラ感の低下や精神的ストレスの軽減など)、自然免疫系(細胞性免疫)の活性化(例えばNK細胞活性の上昇)がもたらされることを確認した。
【0155】
本発明のような技術を用いることによって、脳表面(発生学的に終脳と呼ばれる部位)に元来存在していた光感受性をよみがえらせることにより、現代人の脳においては退化しつつある上記生理学的機能の一部(例えば、大脳皮質の神経インパルスの増強、内分泌系の変化による生体としての活性化、及び細胞性免疫の活性化など)を蘇生させることが可能になる。本発明者らの一連の医工連携による研究を通して、この大脳皮質の光感受性を蘇生させ自然治癒力を蘇らせることが可能になった。
【0156】
上記の実施の形態において、添付図面に図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0157】
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明は、頭部への光パルス照射装置に利用可能である。
【0159】
本発明は、光刺激装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0160】
1a…波形生成部、1-1…BPF部、3…(PWM)パルス変調部、4…光照射部(LED)、11…脳波センサ、12…PLL(フェーズドロックループ)部、13…脳波アンプ、15…FFT(フーリエ変換)部、17…周波数及び位相の制御部、51…帽子状の部材、51a…照射部、51b…遮断部、53…目保護部、57…支持板、57a…出射穴。
【0161】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。