(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】光分岐結合器及び光送受信モジュール
(51)【国際特許分類】
G02B 6/125 20060101AFI20220217BHJP
G02B 6/122 20060101ALI20220217BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20220217BHJP
G02B 6/42 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
G02B6/125 301
G02B6/122 311
G02B6/12 301
G02B6/42
(21)【出願番号】P 2017088409
(22)【出願日】2017-04-27
【審査請求日】2020-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】アダマンド並木精密宝石株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 勝
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 薫
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 廉
(72)【発明者】
【氏名】飯久保 忠久
【審査官】井部 紗代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-031746(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0267564(US,A1)
【文献】特開2007-052194(JP,A)
【文献】特開2002-277674(JP,A)
【文献】米国特許第07099539(US,B1)
【文献】特開2017-161687(JP,A)
【文献】特開2010-032584(JP,A)
【文献】特開2009-276452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12 - 6/14
G02B 6/26 - 6/27
G02B 6/30 - 6/34
G02B 6/42 - 6/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側から他端側へ形成されている第1の光導波路と、
前記一端側から前記他端側へ別経路で形成されている第2の光導波路と、
前記第1の光導波路と前記第2の光導波路の周囲を覆うクラッドとを備え、
前記第1の光導波路の他端側が前記第2の光導波路の他端側に接合されている接合部分が形成されており、
前記第1の光導波路と前記第2の光導波路が、光硬化樹脂の硬化物であり、
前記第1の光導波路の屈折率n1、前記第2の光導波路の屈折率n2、及び前記クラッドの屈折率ncが、n1>n2>ncであり、
前記第2の光導波路が前記他端側から前記一端側に向かうに従って細く形成されている光分岐結合器
と、前記第1の光導波路の前記一端側の端面に設けられている光源部と、前記第2の光導波路の前記一端側の端面に設けられている受光部とを備えている光送受信モジュール、
又は
一端側から他端側へ形成されている第1の光導波路と、
前記一端側から前記他端側へ別経路で形成されている第2の光導波路と、
前記第1の光導波路と前記第2の光導波路の周囲を覆うクラッドとを備え、
前記第1の光導波路の他端側が前記第2の光導波路の他端側に接合されている接合部分が形成されており、
前記第1の光導波路と前記第2の光導波路が、光硬化樹脂の硬化物であり、
前記第1の光導波路の屈折率n1、前記第2の光導波路の屈折率n2、及び前記クラッドの屈折率ncが、n1>n2>ncであり、
前記第2の光導波路が前記他端側から前記一端側に向かうに従って細く形成され、
前記接合部分で、前記第1の光導波路がその軸方向に、長さLで前記第2の光導波路に内在されており、前記長さL<前記第1の光導波路の全長であり、
前記第1の光導波路の前記他端側が、前記第2の光導波路の前記他端側に接合されており、
前記第2の光導波路の前記一端側を上側、前記第1の光導波路の前記一端側を下側とした時にその接合箇所が、前記第2の光導波路の断面内で前記下側に偏在されている光分岐結合器と、
前記第1の光導波路の前記一端側の端面に設けられている光源部と、前記第2の光導波路の前記一端側の端面に設けられている受光部とを備えている光送受信モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光分岐結合器及び光送受信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の発明には、例えば特許文献1に記載されている光モジュールのように、中空状の筐体と、該筐体の壁面に接続された三つの光ファイバと、前記筐体内に支持された光学フィルタ(ハーフミラーやWDMフィルタ等)と、前記筐体内に充填された光硬化樹脂の硬化物とを具備した光モジュールが挙げられる。
【0003】
この光モジュールの製造方法では、前記光ファイバから照射される光により筐体内の光硬化樹脂を硬化させて、前記光フィルタの両側に三つコアを形成する。このような製造技術は、自己形成導波路技術と呼称される。この後、前記三つのコアを被覆するように、これらコアよりも屈折率が小さい材料からなるクラッドを形成する。
【0004】
また、他の従来技術としては、例えば特許文献2に記載されている光分岐結合器のように、自己形成導波路技術により、フィルターレスの分岐構造が形成されたものもある。この光分岐結合器では、分岐された二本の光導波路コアの角度が、10度以上30度以下に限定されており、これによって、設計及び製造時の光軸合せの困難が解消され、光損失の増加を抑制できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4979649号公報
【文献】特許第4970364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術のような自己形成された前記光モジュールや前記光分岐結合器を光送受信モジュールに使用して光学的な動作を検証した結果、以下の様な課題を呈する事を本出願人は検証の上見出した。検証に際し、前記光モジュールや前記光分岐結合器の一方の光導波路の端面に光源部を設けると共に、別経路である他方の光導波路の端面に受光部を設けて光学的に結合させ、光送受信モジュールを形成した。
【0007】
まず第1の課題として、受光部で測定された信号の品質低下が挙げられ、そのような信号品質の低下として、
図7に示すようなアイパターン画像が測定された。
図7のアイパターン画像に於いて、測定された信号にジッタ(Jitter)が発生している事が判明した。
【0008】
更に第2の課題として、一方及び他方の光導波路が分岐する構造に起因して、受光部で受光可能な信号の光量が低下する事が判明した。
【0009】
なお、
図7のアイパターン画像は、次の条件で測定された画像である。まず、受光部に光学的に結合される光導波路の径を一定に設定する。更に、長さ15mのSI型(ステップインデックス型)200/230μmのマルチモード光ファイバの両端部に、前記光送受信モジュールを接続し、これら対向する二つの光送受信モジュールによって1Gbpsの1芯双方向通信を行い、ビットエラーレートテスタ(アジレントテクノロジー社製(現キーサイト・テクノロジー社)N4903A)を用いてアイパターン回析を行ったものである。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、アイパターン画像で測定される信号のジッタの抑制と、受光部で受光可能な信号の光量低下の抑制が可能な光分岐結合器と光送受信モジュールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、以下の本発明により解決される。即ち本発明の光送受信モジュールは、一端側から他端側へ形成されている第1の光導波路と、前記一端側から前記他端側へ別経路で形成されている第2の光導波路と、前記第1の光導波路と前記第2の光導波路の周囲を覆うクラッドとを備え、前記第1の光導波路の他端側が前記第2の光導波路の他端側に接合されている接合部分が形成されており、前記第1の光導波路と前記第2の光導波路が、光硬化樹脂の硬化物であり、前記第1の光導波路の屈折率n1、前記第2の光導波路の屈折率n2、及び前記クラッドの屈折率ncが、n1>n2>ncであり、前記第2の光導波路が前記他端側から前記一端側に向かうに従って細く形成されている光分岐結合器と、前記第1の光導波路の前記一端側の端面に設けられている光源部と、前記第2の光導波路の前記一端側の端面に設けられている受光部とを備えている光送受信モジュール、又は一端側から他端側へ形成されている第1の光導波路と、前記一端側から前記他端側へ別経路で形成されている第2の光導波路と、前記第1の光導波路と前記第2の光導波路の周囲を覆うクラッドとを備え、前記第1の光導波路の他端側が前記第2の光導波路の他端側に接合されている接合部分が形成されており、前記第1の光導波路と前記第2の光導波路が、光硬化樹脂の硬化物であり、前記第1の光導波路の屈折率n1、前記第2の光導波路の屈折率n2、及び前記クラッドの屈折率ncが、n1>n2>ncであり、前記第2の光導波路が前記他端側から前記一端側に向かうに従って細く形成され、前記接合部分で、前記第1の光導波路がその軸方向に、長さLで前記第2の光導波路に内在されており、前記長さL<前記第1の光導波路の全長であり、前記第1の光導波路の前記他端側が、前記第2の光導波路の前記他端側に接合されており、前記第2の光導波路の前記一端側を上側、前記第1の光導波路の前記一端側を下側とした時にその接合箇所が、前記第2の光導波路の断面内で前記下側に偏在されている光分岐結合器と、前記第1の光導波路の前記一端側の端面に設けられている光源部と、前記第2の光導波路の前記一端側の端面に設けられている受光部とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に依れば、光を入射する光源部を第1の光導波路の一端側の端面に設けると共に、光を受光する受光部を第2の光導波路の一端側の端面に設けて、光送受信モジュールに本願の光分岐結合器を用いた場合、第1の光導波路が入射用光導波路、第2の光導波路が出射用光導波路となり、下記種々の効果を呈する。
【0015】
第1の効果として、第2の光導波路を他端側から一端側に向かうに従って細く形成する事により、第2の光導波路と光学的に結合可能な受光部の受光面積を拡大する事が可能となる。従って、受光部と第2の光導波路との光結合効率が向上し、アイパターン画像に於ける信号のジッタが抑制され、信号の高密度化が達成される。
【0016】
更に第1の光導波路の他端側が、第2の光導波路の他端側に接合されており、第2の光導波路の一端側を上側、第1の光導波路の一端側を下側とした時にその接合箇所が、第2の光導波路の断面内で下側に偏在されている。このような光分岐結合器の構成により、第1の光導波路が第2の光導波路の内部に内在しているにも関わらず、第2の光導波路の中央付近の光伝搬空間を拡大する事が出来る。従って、第2の光導波路を伝搬する光の光量の低下を抑制する事が可能となり、受光部で受光可能な信号の光量の低下も抑制出来るという第2の効果が得られる。
【0017】
更に、第1の光導波路をその軸方向で、長さLで以て第2の光導波路に内在させる(長さL<第1の光導波路の全長)事により、他端側で第1の光導波路を、その軸方向に長さL1(0mm超且つL未満)で以て、第2の光導波路に沿って形成する事が可能となる。従って、他端側に於ける第1の光導波路の急激な曲げが抑えられ、第2の光導波路への光の伝搬漏れが減少でき、第1の光導波路における光伝搬の損失を低減する事が可能になる。
【0018】
また、第1の光導波路を光が伝搬する際の、光の劣化が抑制される。
【0019】
更に、長さL<第1の光導波路の全長と設定する事により、第2の光導波路の軸方向に於ける光の伝搬空間をより大きく確保する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例に係る光分岐結合器であり、容器の一部を切り欠いた断面で示した側面図である。
【
図3】
図1の光分岐結合器の、第1及び第2の光導波路と第1ポートの接合部分の概略構造を示す斜視図である。
【
図4】
図1の光分岐結合器に、第1~第3ポートを光学的に結合した状態を示す部分側断面図である。
【
図5】本発明の実施例に係る光送受信モジュールを示す部分側断面図である。
【
図6】
図6の光送受信モジュールを使用して測定されたアイパターン画像である。
【
図7】従来の光送受信モジュールを使用して測定されたアイパターン画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施の形態の第一の特徴は、光分岐結合器が、一端側から他端側へ形成されている第1の光導波路と、一端側から他端側へ別経路で形成されている第2の光導波路と、第1の光導波路と第2の光導波路の周囲を覆うクラッドとを備え、第1の光導波路の他端側が第2の光導波路の他端側に接合されている接合部分が形成されており、第1の光導波路と第2の光導波路が、光硬化樹脂の硬化物であり、第1の光導波路の屈折率n1、第2の光導波路の屈折率n2、及びクラッドの屈折率ncが、n1>n2>ncであり、第2の光導波路が他端側から一端側に向かうに従って細く形成されていることである。
【0022】
以上の光分岐結合器に依れば、光を入射する光源部を第1の光導波路の一端側の端面に設けると共に、光を受光する受光部を第2の光導波路の一端側の端面に設けて、光送受信モジュールに本願の光分岐結合器を用いた場合、第1の光導波路が入射用光導波路、第2の光導波路が出射用光導波路となり、下記効果を呈する。
【0023】
即ち、上記光分岐結合器の構成に依れば、第2の光導波路を他端側から一端側に向かうに従って細く形成する事により、第2の光導波路と光学的に結合可能な受光部の受光面積を拡大する事が可能となる。従って、受光部と第2の光導波路との光結合効率が向上し、アイパターン画像に於ける信号のジッタが抑制され、信号の高密度化が達成される。
【0024】
なお本発明に於いて一端側とは、第1の光導波路と第2の光導波路の端面、及びその端面を有する側を指すものとする。また他端側とは、前記一端側の反対側に於ける第1の光導波路と第2の光導波路の端面、及びその端面を有する側を指すものとする。
【0025】
また第二の特徴は、接合部分で、第1の光導波路がその軸方向に、長さLで第2の光導波路に内在されており、長さL<第1の光導波路の全長であり、第1の光導波路の他端側が、第2の光導波路の他端側に接合されており、第2の光導波路の一端側を上側、第1の光導波路の一端側を下側とした時にその接合箇所が、第2の光導波路の断面内で下側に偏在されていることである。なお、上側及び下側とは、光分岐結合器に於ける上側及び下側という事である。
【0026】
この構成に依れば、第1の光導波路の他端側が、第2の光導波路の他端側に接合されており、第2の光導波路の一端側を上側、第1の光導波路の一端側を下側とした時にその接合箇所が、第2の光導波路の断面内で下側に偏在されている。このような光分岐結合器の構成により、第1の光導波路が第2の光導波路の内部に内在しているにも関わらず、第2の光導波路の中央付近の光伝搬空間を拡大する事が出来る。従って、第2の光導波路を伝搬する光の光量の低下を抑制する事が可能となり、受光部で受光可能な信号の光量の低下も抑制出来る。
【0027】
更に、第1の光導波路をその軸方向で、長さLで以て第2の光導波路に内在させる(長さL<第1の光導波路の全長)事により、他端側で第1の光導波路を、その軸方向に長さL1mm(0mm超且つL未満)で以て、第2の光導波路に沿って形成する事が可能となる。従って、他端側に於ける第1の光導波路の急激な曲げが抑えられ、第2の光導波路への光の伝搬漏れが減少でき、第1の光導波路における光伝搬の損失を低減する事が可能になる。
【0028】
なお、他端側で第1の光導波路を、その軸方向に長さL1(0mm超且つL未満)で以て、第2の光導波路に沿って形成する為には、第1の光導波路と第2の光導波路の軸の少なくとも一方が非直線状に形成されている事が望ましい。
【0029】
また、第1の光導波路を光が伝搬する際の光の劣化が抑制される。
【0030】
更に、長さL<第1の光導波路の全長と設定する事により、第2の光導波路の軸方向に於ける光の伝搬空間をより大きく確保する事が出来る。
【0031】
以下に本発明に係る実施例を説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
以下、
図1~
図6を参照して本発明に係る実施例の光分岐結合器A、及びその光分岐結合器Aを備えた光送受信モジュールBを説明する。
【0033】
図1、
図2、及び
図4より、光分岐結合器Aは、第1の光導波路1と、第2の光導波路2と、クラッド3とを備えて形成されている。以下必要に応じて、単に光導波路1、光導波路2と標記する。光導波路1は一端側(
図1、
図2、及び
図4に依れば右端側)から他端側(同図左端側)へ形成されている。光導波路2は、同じ一端側から別経路で他端側へ形成されている。更に光導波路1の他端側は、光導波路2の他端側に接合され、光導波路1、2の軸方向で接合部分Xが形成されている。
【0034】
更に、光導波路1と2をコアとして、これらコアの周囲を長手方向の全長に亘ってクラッド3が覆っている。クラッド3は、後述する容器40の内面形状に応じて、例えば円柱状や角柱状、その他の立体形状に形成することが可能である。なお光分岐結合器Aでは、クラッド3の幅寸法Wは
図2より3.1mmとしている。
【0035】
なお一端側とは、各光導波路1、2の端面、及びその端面を有する側を指すものとする。また他端側とは、前記一端側の反対側に於ける各光導波路1、2の端面、及びその端面を有する側を指すものとする。
【0036】
なお図の見易さを優先する為、
図3を除く
図1~5での光導波路1及び光導波路2のハッチングは省略して図示している。また
図3では、クラッド3の図示を省略している。
【0037】
光導波路1と2は、互いに異なる光硬化樹脂の硬化物で構成されている。またクラッド3は、光導波路1と2とも異なる光硬化樹脂の硬化物で構成されている。尚、クラッド3は熱硬化性樹脂等の他の材料に置き換え可能であるが、光導波路1及び2をそれぞれ構成する各光硬化樹脂よりも屈折率の低い材料を用いる事とする。
【0038】
光を入力させることにより、光導波路1又は2を自己形成導波路技術で作製する事が出来る。また、同一直線状に無い複数の光軸に対して、各光導波路1及び2を自己調芯で接続することが可能となる。加えて光分岐結合器Aを、フィルタ及びレンズ等の光学部品を用いずに構成することが出来る。
【0039】
第1及び第2の光硬化樹脂は、例えば400nm~500nmの波長の光により硬化する光硬化樹脂であれば良く、例えば前記特許文献1及び2に記載された光硬化樹脂や、その他の周知の光硬化樹脂から適宜に選択することが可能である。
【0040】
各光導波路1、2、及びクラッド3に、それぞれ異なる光硬化樹脂を用いる事により、光導波路2の屈折率n2が、光導波路1の屈折率n1よりも小さく(n1>n2)なっている。更に、クラッド3の屈折率ncが、前記各屈折率n1及びn2よりも小さくなっている(n1>nc及びn2>nc)。即ち、光導波路1の屈折率n1、光導波路2の屈折率n2、及びクラッド3の屈折率ncの間には、n1>n2>ncの大小関係が成り立っている。
【0041】
このような屈折率の設定に依り、光導波路1は光導波路2に対して、光導波路1内に光を閉じ込める作用が働く。このため、例えば第3ポート30を、
図4に示すように光導波路1の一端側に光学的に結合させ、第3ポート30から光導波路1を伝搬させ、第1ポート10へ光を伝搬した場合、光導波路2への光の漏れが少なく(特に接合部分Xに於いて光導波路2への光の漏れが少なく)、低損失且つ高品質な光伝搬が可能になる。
【0042】
本実施例では、前記屈折率としてn1=約1.54、n2=約1.52、nc=約1.45の値が挙げられる。また、各光導波路1と2の間、光導波路1とクラッド3の間、光導波路2とクラッド3間のNA(Numerical Aperture:開口数)を、NA12、NA13、NA23とすると、以下の様に計算する事が出来る。
NA12=(n12-n22)1/2
NA13=(n12-n32)1/2
NA23=(n22-n32)1/2
よって、前記屈折率値の例では、NA13>NA23>NA12の大小関係が成り立つ。
【0043】
なお、前記屈折率値(n1=約1.54、n2=約1.52、nc=約1.45)以外の屈折率値では、NA13>NA12>NA23の大小関係が成り立つ場合もある。
【0044】
各光導波路1,2は軸方向に直交する断面の形状が、円形に形成されている。また、光導波路1の径は、光導波路2の径以下に設定されている。
図2より具体的な一例として、光導波路1の径1a=105μm、光導波路2の一端側の径2a=105μm、光導波路2の他端側の径2b=200μmの値に設定されている。従って光分岐結合器Aでは、光導波路2が他端側から一端側に向かうに従って、徐々に細く形成されている事になる。
【0045】
このように、各光導波路1、2の径を設定すると、例えば各光導波路1、2の他端側に接合し光学的に結合させた第1ポート10側から、光導波路2の一端側に光学的に結合させた第2ポート20側へ向かうように、太い方の光導波路2に光を伝搬させた場合、光が細い方の光導波路1へ漏れる事等による損失を低減することが出来る。
【0046】
図1~4に示すように光分岐結合器Aでは、光導波路1と光導波路2の軸は、共に非直線状に形成されている。更に
図2及び3に示すように、接合部分Xで、光導波路1がその軸方向に長さL(mm)で、光導波路2に内在されている。長さLの寸法は0mm超の有限値であると共に、光導波路1の全長(非直線状の軸に於ける全長)未満に設定するものとし、(長さL<光導波路1の全長)との大小関係が設定される。従って、光導波路1の他端側の一部が、
図1~4に示すように光導波路2で覆われており、光導波路1と2は、一端側に向かって枝分かれ状に略Y字状もしくは略V字状に構成されている。換言すれば接合部分Xは、光導波路1を光導波路2が覆ったダブルコア状に構成されている部分である。なお本実施例では一例として、長さL=1mmと設定した。
【0047】
光導波路1の他端側は、光導波路2の他端側に接合部分Xで接合されている。更にその接合部分X内に於ける光導波路2の断面内で、光導波路1の他端側の接合箇所は、
図1~4に示すように下側に偏在している。なお
図1~4に示す方向から光分岐結合器Aを見た時に、第2の光導波路の一端側を上側、第1の光導波路の一端側を下側としている。即ち、上側及び下側とは、
図1~4に示す光分岐結合器Aに於ける上側及び下側という事である。
【0048】
更に、本実施例の光分岐結合器Aでは光導波路1の外周の一点が、光導波路2の外周の一点に接するまで、光導波路1の他端側が各
図1~4の下側に偏在して接合されている。よって、他端側に於ける光導波路2の中央付近の光伝搬空間が拡大形成されている。
【0049】
なお
図4では、第1~第3ポート10、20、30を実線で示しているが、各ポート10、20、30が無い態様に変更しても良い。
【0050】
第1ポート10、第2ポート20及び第3ポート30は、それぞれ、コア径が異なる光ファイバである。各ポート10、20、30を形成する光ファイバとしては、SI型(ステップインデックス型)もGI型(グレーデッドインデックス型)も使用可能であり、更にシングルモードファイバやマルチモードファイバでも使用する事が出来る。
【0051】
第1ポート10のコア径をc1、第2ポート20のコア径をc2、第3ポート30のコア径をc3とすると、c1≧c2≧c3の関係が成立している事が、各光導波路2、3の径寸法1a、2a、2bとの光結合関係及び各光導波路2、3との光結合効率の低下防止の観点から好ましい。具体的な一例として、c3=1a=105μm、c2=2a=105μm、c1=2b=200μmの値が挙げられる。従って本実施例では前記コア径の関係を、c1≧c2=c3のように設定している。
【0052】
また容器40は、クラッド3の外面形状を形作る中空立体状に形成される。この容器40の材料は、例えば金属や硬質合成樹脂、セラミック、ガラス等の硬質材料とすれば良く、必要に応じて、紫外線光を透過させる窓や開口等が設けられる。
【0053】
この容器40の一端側には、第2ポート20及び第3ポート30の端部を挿通する、図示しない貫通状の孔が形成される。また容器40の他端側には、第1ポート10の端部を挿通する、図示しない貫通状の孔が形成される。更に容器40の壁部には、各光導波路1及び2、更にクラッド3を構成する光硬化樹脂を充填したり、未硬化の光硬化樹脂を除去するための開口部(図示せず)が設けられている。
【0054】
光分岐結合器Aは、3つのポート10、20、30から出射される光を用いた自己形成導波路技術により製造されており、低損失の光分岐結合器Aを製造することが可能となる。
【0055】
以上の光分岐結合器Aを用いて、例えば、
図5に示す光送受信モジュールBを構成する。
図5の光送受信モジュールBは、第1ポート10を光学的に結合した光分岐結合器Aと、光源部4と、受光部5と、制御回路部6とを備えて形成されており、光送受信モジュールBの用途としては光トランシーバが挙げられる。
【0056】
光源部4は光を光導波路1に入射するように、光導波路1の一端側(
図5の右端側)の端面に設けられている。また、受光部5は光を光導波路2から受光するように、光導波路2の一端側(
図5の右端側)の端面に設けられている。光源部4は、発光ダイオードや、レーザダイオード等を備えた光源装置である。一方の受光部5は、フォトダイオードやフォトトランジスタ等を備えた受光装置である。
【0057】
光源部4及び受光部5は、制御基板6によって一体的に支持されている。制御基板6は、外部から入力される電気信号を光信号に変換して光源部4から光導波路1へ入射して光学的に結合するための回路等を有する電子回路基板である。同時に、光導波路2からの出射光を受光して、光学的に結合した光の信号を電気信号に変換して、外部へ出力するための回路等を有する電子回路基板である。
【0058】
図5のように光源部4及び受光部5が、光分岐結合器Aに対して設けられる事により、光導波路1が入射用光導波路、光導波路2が出射用光導波路となる。即ち、光導波路1の一端側から他端側に光が伝搬されると共に、光導波路2の他端側から一端側に優先的に光が伝搬される。
【0059】
次に、光分岐結合器A及び光送受信モジュールBの性能評価の検証実験を行った。この検証実験では、長さ15mのSI型200/230μmのマルチモード光ファイバの両端部の各々に、光送受信モジュールBを接続し、これら対向する二つの光送受信モジュールB、Bによって1Gbpsの1芯双方向通信を行い、ビットエラーレートテスタ(アジレントテクノロジー社製(現キーサイト・テクノロジー社)N4903A)を用いてアイパターン回析を行った。
【0060】
得られたアイパターン回析の画像を、
図6に示す。
図6のアイパターン画像より、このアイパターン画像は、波形が同じ位置(タイミング・電圧)で複数重ね合っており、光伝搬品質が良好であることを示している。
【0061】
光導波路1の屈折率n1よりも光導波路2の屈折率n2を小さくすること、及び径1aを径2a以下とすること等により、光導波路1と2の相互間の影響による光伝搬品質の低下を抑制できることが見出された。
【0062】
また光分岐結合器Aでは、第光導波路1と光導波路2の間の角度を例えば0°~10°程度に小さくすることが出来るので、上記した高い光伝搬品質を得ることが可能であると共に、光交差方向の寸法を小さくして、光分岐結合器A全体を細身化することが出来る。
【0063】
特に光分岐結合器Aは、一対の双方向通信デバイスを構成するのに適しており、フィルターレスでギガビットクラスの高速通信が可能である。
【0064】
更に、単一波長で双方向通信が可能となる。また、1種類の光送受信モジュール2個で、1芯双方向通信モジュールを構成することが可能となり、低コスト化が可能となった。
【0065】
更に、光導波路2を他端側から一端側に向かうに従って細く形成する事により、光導波路2と光学的に結合可能な受光部5の受光面積を拡大する事が可能となる。従って、受光部5と光導波路2との光結合効率が向上し、
図7と比較して
図6のアイパターン画像に於ける信号のジッタが抑制され、信号の高密度化が達成されていることも確認された。
【0066】
更に光分岐結合器Aでは、前記の通り光導波路1の他端側が、光導波路2の他端側に接合されていると共に、その接合箇所が光導波路2の断面内で下側に偏在されている。よって、光導波路1が光導波路2の内部に内在しているにも関わらず、光導波路2の中央付近の光伝搬空間を拡大する事が出来る。従って、光導波路2を伝搬する光の光量の低下を抑制する事が可能となり、受光部5で受光可能な信号の光量の低下も抑制出来る。
【0067】
更に、光導波路1をその軸方向で、長さLで以て光導波路2に内在させる(長さL<第1の光導波路の全長)事により、他端側で光導波路1を、その軸方向に長さL1mm(0mm超且つL未満)で以て、光導波路2に沿って形成する事が可能となる(
図3参照)。従って、他端側に於ける光導波路1の急激な曲げが抑えられ、光導波路2への光の伝搬漏れが減少でき、光導波路1における光伝搬の損失を低減する事が可能になる。なお本実施例では一例として、長さL1=0.3mmと設定した。
【0068】
なお、他端側で光導波路1を、その軸方向に長さL1(0mm超且つL未満)で以て、光導波路2に沿って形成する為には、光導波路1と光導波路2の軸の少なくとも一方が非直線状に形成されている事が望ましい。
【0069】
また、光導波路1を光が伝搬する際の光の劣化が抑制される。
【0070】
更に、長さL<光導波路1の全長と設定する事により、光導波路2の軸方向に於ける光の伝搬空間をより大きく確保する事が出来る。
【0071】
光分岐結合器Aでは、前記の通り光導波路1の他端側が、光導波路2の他端側に接合されていると共に、その接合箇所が光導波路2の断面内で下側に偏在されている。従って、他端側の光導波路2の断面構造は中心点を基点とした点対称とはならない。更に、光導波路1の他端側を光導波路2の他端側に接合する際、光導波路2の断面内で下側に偏在させるならば、光の伝搬方向において長さL1まで一体に接合させず、少しでも光導波路2を単独で存在させる事が望ましい。しかしながら、本出願では光導波路2が点対称とならない構造を、あえて光の伝搬方向に長さL1まで設ける事により、上記各効果が得られることを、検証実験により導出した。
【0072】
なお光分岐結合器Aでは、光硬化樹脂からなるクラッド3を設けたが、他例として光硬化樹脂のクラッド3を省いて、周囲の気体、液体(例えば空気、水等)をクラッドとすることも可能である。
【0073】
なお光導波路1の径c3は、一端側と他端側とで一定で無くても良い。
【0074】
また光分岐結合器Aでは、第1ポート10を単一のコアと単一のクラッドを有する光ファイバとしているが、より好ましい他例としては、第1ポート10を、中心部寄りのコアと、該コアの周囲を覆う第1クラッドと、該第1クラッドの周囲を覆う第2クラッドとを具備するダブルクラッド構造の光ファイバに変更しても良い。この他例では、第1ポート10のコア径を光導波路1の径2b以上として、光導波路1を第1ポート10のコアに接合する。そして、第1ポート10の第1クラッドの外径を径2b以上とし、他端側にて光導波路2で光導波路1を覆うようにして、光導波路2を第1ポート10の第1クラッドの部分に接合する。
【符号の説明】
【0075】
1 第1の光導波路
1a 第1の光導波路の径
2 第2の光導波路
2a 第2の光導波路の一端側の径
2b 第2の光導波路の他端側の径
3 クラッド
4 光源部
5 受光部
6 制御基板
10 第1ポート
20 第2ポート
30 第3ポート
40 容器
A 光分岐結合器
B 光送受信モジュール
c1 第1ポートのコア径
c2 第2ポートのコア径
c3 第3ポートのコア径
L 第1の光導波路が第2の光導波路に内在している長さ
L1 第1の光導波路が第2の光導波路に沿って形成される長さ
X 接合部分
W クラッドの幅寸法