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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】赤外線ランプ
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/48 20100101AFI20220217BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20220217BHJP
   F21V 9/04 20180101ALI20220217BHJP
【FI】
H01L33/48
G02B5/22
F21V9/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018098287
(22)【出願日】2018-05-22
(65)【公開番号】P2019204856
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2019-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】510138741
【氏名又は名称】フェニックス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147706
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】郷田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山下 健一
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-007883(JP,A)
【文献】特開昭60-030186(JP,A)
【文献】特開2012-216516(JP,A)
【文献】特開2002-240629(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0248954(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
H01S 5/00-5/50
G02B 5/20-5/28
B60Q 1/00-1/56
F21K 9/00-9/90
F21S 2/00-45/70
H04N 5/222-5/257
F21V 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光を発するLEDと、
前記LEDからの光の一部を透過するカットフィルタとを備える赤外線ランプであって、
前記カットフィルタのカットオン波長は、点灯開始段階における前記LEDから発せられる光のピーク波長よりも長い側にあり、かつ、定常点灯段階における前記LEDから発せられる光のピーク波長よりも短い側にあることを特徴とする赤外線ランプ。
【請求項2】
点灯開始段階における前記LEDから発せられる光のピーク波長が900nm以上950nm以下であり、
前記カットフィルタの前記カットオン波長は、前記ピーク波長に対して0nm以上30nm以下だけ長いことを特徴とする請求項1に記載の赤外線ランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線カメラで撮像する対象物を照らす赤外線ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、赤外光を放出する赤外線ランプが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
加えて、近年、赤外光で照らされた対象物を撮像することのできる赤外線カメラも開発されてきており、赤外光が人の目で感得し難いことを利用して、例えば、線路や道路に設置して夜間における鉄道や自動車の通行監視に役立てられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-85755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、赤外線ランプから放出される光の波長は所定の幅を有しており、可視光に近い近赤外光を主に発するように設計された赤外線ランプからの光には可視光(赤色光)も含まれる場合があった。
【0006】
このように可視光(赤色光)が含まれる光を放出する赤外線ランプは、人が見たときに赤色に見えることから、上記のように線路や道路に設置した場合、鉄道の職員や自動車の運転手が赤信号と間違えてしまうおそれがあった。
【0007】
このように可視光(赤色光)が見えてしまう問題を回避するため、例えば、より長い波長の赤外光を放出する赤外線ランプを使用して、放出する光の波長に幅があったとしても可視光(赤色光)が含まれないようにすることも考えられる。
【0008】
しかし、光源としてLED(発光ダイオード)を用いる場合、一般に、放出する赤外光の波長が長くなるほど発光効率が悪くなるという問題があった。また、赤外線カメラの方でも、対象物を照らす赤外光の波長が長くなるほど対象物を撮像し難くなるという問題があった。
【0009】
加えて、一般にLEDは自身の温度が上昇すると放射する光の強度が低下することから、点灯開始段階における光の強度と定常点灯段階における光の強度との間の変化が大きく、不安定であるという問題もあった。
【0010】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、可視光(赤色光)に近い近赤外線を高効率で放出することと、放出する光に可視光(赤色光)が含まれないようにすることとを両立でき、さらには、点灯開始段階と定常点灯段階との間で放出する光の強度の変化が小さく、安定した強度の光を放出できる赤外線ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一局面によれば、
赤外光を発するLEDと、
前記LEDからの光の一部を透過するカットフィルタとを備える赤外線ランプであって、
点灯開始段階において前記LEDから発せられる光のピーク波長が、前記カットフィルタのカットオン波長よりも短い側にあり、かつ、定常点灯段階における前記LEDから発せられる光のピーク波長よりも短い側にあることを特徴とする赤外線ランプが提供される。
【0013】
好適には、
点灯開始段階における前記LEDから発せられる光のピーク波長が900nm以上950nm以下であり、
前記カットフィルタの前記カットオン波長は、前記ピーク波長に対して0nm以上30nm以下だけ長い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可視光(赤色光)に近い近赤外線を高効率で放出することと、放出する光に可視光(赤色光)が含まれないようにすることとを両立できる赤外線ランプを提供できた。さらに、この赤外線ランプによれば、点灯開始段階と定常点灯段階との間で放出する光の強度の変化が小さく、安定した強度の光を放出できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る赤外線ランプ100を示す図である。
図2】点灯開始段階から時間が経過するとともにピーク波長がシフトすることを示す、LED110からの光の発光スペクトルを示すグラフである。なお、すべて、カットフィルタ120なしの場合を示している。
図3】カットフィルタ120による光の遮断性能を示すグラフである。
図4】実施形態に係る赤外線ランプ100から放出される光の発光スペクトルを示すグラフである。なお、本グラフでは、「点灯開始段階」の発光スペクトルのみがカットフィルタ120なしの場合を示しており、残りの「30秒後」、「5分後」、「20分後」、および「40分後」については、カットフィルタ120を通した場合を示している。
図5】実施形態に係る赤外線ランプ100の使用状態を示す図である。
図6】他の実施に係る赤外線ランプ100の使用状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(赤外線ランプ100の構造)
本発明が適用された赤外線ランプ100について、図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る赤外線ランプ100を示す図である。
【0017】
本実施形態に係る赤外線ランプ100は、大略、LED110と、カットフィルタ120と、リフレクタ130とを備えている。なお、リフレクタ130は、本発明に必須の構成ではなく、LED110と、カットフィルタ120とで赤外線ランプ100を構成してもよい。
【0018】
LED110は、図示しない給電装置からの電力を受けることによって赤外光を含む所定の発光スペクトルの光を放射する素子である。この発光スペクトルにおいて、分光放射照度が最大となる光の波長をLED110から放射される光の「ピーク波長」という。なお、LED110のタイプは、表面実装型(SMD)でもよいし、チップオンボード型(COB)であってもよい。一般に、表面実装型は、チップの裏面に給電端子があり、ハンダ付けするだけで点灯させられることからチップを小さくすることができる点で有利である。また、チップオンボード型は、チップの表面に給電端子があることから、放熱性の高いアルミシート等に直接チップを貼り付けて放熱性能を容易に高めることができる点で有利である。
【0019】
一般に、LED110から放射される光は、当該LED110の点灯開始段階から、その後、定常点灯段階となるに連れて、LED110自身の温度が上昇することにより、この「ピーク波長」が長くなる方向にずれていく傾向にある。このような現象を「ピーク波長がシフトする」という。例えば、図2に示すような発光スペクトルを有するLED110の場合、点灯開始段階における「ピーク波長」は948nmであるが、以降、点灯開始から30秒後には「ピーク波長」が966nm、5分後には970nm、20分後には977nm、そして、40分後には982nmといったように長波長側にシフトしていく。
【0020】
なお、点灯開始段階においてLED110から放射される光のピーク波長は、900nm以上950nm以下であることが好適である。なぜならば、点灯開始段階におけるLED110から放射される光のピーク波長が900nmより短い場合、後述するカットフィルタ120のカットオン波長によっては人が見たときに赤外線ランプ100から可視光(赤色光)が見えてしまうおそれがあり、逆に当該ピーク波長が950nmより長い場合、前述のようにLED110の発光効率が悪くなること、および、現在のところ、950nmよりも長い波長側にピーク波長の感度を有する赤外線カメラが存在しないからである。
【0021】
図1に戻り、カットフィルタ120は、表面に誘電体多層膜等が形成された板状あるいはフィルム状の部材であり、LED110からの光を受ける入光面122から入った光のうち、所定の波長よりも長い波長の光を透過して出光面124から放出し、所定の波長よりも短い波長の光を遮断する。
【0022】
カットフィルタ120による光の遮断性能について、図3を用いて説明する。一般に、カットフィルタ120による光の遮断性能は幅があり、図3に示す例でいえば、965nmよりも長い波長の光は、入光面122から入った光の100%が出光面124から放出される。つまり、965nmよりも長い波長の光は、このカットフィルタ120では遮断されない。
【0023】
逆に、940nmよりも短い波長の光は、入光面122から入った光のすべてが遮断される。つまり、940nmよりも短い波長の光は、このカットフィルタ120では透過率が0%である。
【0024】
そして、940nm以上、965nm以下の波長の光については、入光面122から入った光のうち所定の割合の光が出光面124から放出される。例えば、956nmの光の場合、入光面122から入ったうちの75%が出光面124から放出されることになる。また、952nmの光の場合、入光面122から入ったうちの50%が出光面124から放出される。本明細書全体を通して、このように透過率が50%となる光の波長をそのカットフィルタ120の「カットオン波長」という。
【0025】
本実施形態に係るカットフィルタ120の「カットオン波長」は、上述した、点灯開始段階におけるLED110から発せられる光のピーク波長よりも長い側に設定されている。さらに言えば、当該「カットオン波長」は、定常点灯段階におけるLED110から発せられる光のピーク波長よりも短い側に設定されている。
【0026】
なお、カットフィルタ120のカットオン波長は、LED110のピーク波長に対して0nm以上30nm以下だけ長くなるように設定するのが好適である。なぜならば、カットフィルタ120のカットオン波長が、LED110のピーク波長よりも短い場合、LED110の点灯開始段階ですでにLED110からの光の多くがカットフィルタ120を透過してしまい、定常点灯段階に至るとほぼすべての光がカットフィルタ120を透過するため、カットフィルタ120を用いる意義が失われてしまうからである。また、点灯開始段階におけるLED110からの光の強度と、定常点灯段階におけるLED110からの光の強度との間の差を狭めることができなくなるという問題も生じる。
【0027】
他方、カットフィルタ120のカットオン波長がLED110のピーク波長に対して30nmよりも長くなると、LED110が定常点灯段階になっても大半の光がカットフィルタ120を透過することができず、赤外線ランプ100全体として考えたときに非効率になるからである。
【0028】
図1に戻り、リフレクタ130は、椀状に形成された部材であり、その内側底部にLED110が配設されている。また、リフレクタ130の内面には、LED110からの光を反射する反射面132が形成されている。本実施形態における反射面132は、回転放物面で規定されているが、反射面132の形状はこれに限定されるものではなく、回転楕円面であってもよいし、他の形状であってもよい。
【0029】
さらに、リフレクタ130は、LED110からの光を外部へ放出する開口134を有している。本実施形態において、カットフィルタ120は、この開口134を覆うようにして配設されている。
【0030】
なお、リフレクタ130の材質としては、ガラス、アルミニウム、あるいは樹脂等が使用され、アルミニウムの場合は、例えば、反射面132に金属蒸着がなされている(あるいは、金属蒸着ではなく、アルマイト処理してもよい。)。また、ガラスの場合は、アルミニウム等の金属膜の他、多層膜コートによる可視光反射膜も用いることができる。
【0031】
(赤外線ランプ100の作用)
次に、上述した本実施形態に係る赤外線ランプ100を発光させたときの作用について説明する。図示しない給電装置からLED110に給電すると、LED110は赤外光を含む所定の発光スペクトルの光を放射する。この光の一部は、直接、リフレクタ130の開口134に配設されたカットフィルタ120の入光面122に入り、残部は、リフレクタ130の反射面132で反射した後、同じくカットフィルタ120の入光面122に入る。
【0032】
図4に示すように、点灯開始段階においてLED110から発せられる光のピーク波長は、カットフィルタ120のカットオン波長よりも短い側にある。このため、点灯開始段階の光はその大部分がカットフィルタ120を透過できず、カットフィルタ120の出光面124から外部へ放出される光(赤外光)の量は少ない。
【0033】
その後、時間が経過して、点灯開始段階から定常点灯状態に入っていくと、LED110から発せられる光のピーク波長は長い方へシフトしていき、ある時間からはピーク波長がカットフィルタ120のカットオン波長よりも長い側になる。このように、定常点灯状態に入っていくと、LED110からの光の大部分がカットフィルタ120を透過するようになり、カットフィルタ120の出光面124から外部へ放出される光(赤外光)の量は十分に多くなる。
【0034】
このようにして、カットフィルタ120の出光面124から外部へ放出された光(赤外光)は、所定の対象物Xを照らす(図5参照)。そして、赤外光で照らされた対象物Xを赤外線カメラYで撮像することにより、可視光がほとんど無い暗闇の下で対象物Xを撮像することができる。
【0035】
(赤外線ランプ100の特徴)
上述した本実施形態の赤外線ランプ100によれば、点灯開始段階においてLED110から発せられる光のピーク波長が、カットフィルタ120のカットオン波長よりも短い側にあるので、定常点灯状態に入って「ピーク波長のシフト」が生じてからも比較的短い波長側にピーク波長があるLED110を使用することができる。これにより、点灯中の赤外線ランプ100が赤く見えるのを回避できるとともに、LED110としては、比較的短い波長側(つまり、可視光に近い近赤外線側)にピーク波長がある発光効率の良いものを使用することができる。また、赤外線カメラYとしても、より可視光領域に近い赤外光で最大性能を発揮できる、一般的な赤外線カメラを使用することができる。
【0036】
また、定常点灯段階においてLED110から発せられる光のピーク波長は、カットフィルタ120のカットオン波長よりも長い側にあるので、定常点灯段階に入ってからはカットフィルタ120を通してより多くの赤外光を対象物Xに照射することができる。このため、点灯開始段階に比べて自身の温度が上昇したことからLED110から放射される光の強度は低下するものの、LED110から放射される光のうち、カットフィルタ120を通過する光の割合が増加することから、結果として、点灯開始段階と定常点灯段階との間で赤外線ランプ100から放出する光の強度の変化は小さく、安定した強度の光を放出することができる。
【0037】
(変形例)
上述した実施形態では、LED110から放射された光を反射させるリフレクタ130を使用していたが、このリフレクタ130に変えて、例えば、図6に示すように、レンズ140を使用してもよい。この場合、レンズ140である程度集光されたLED110からの光をカットフィルタ120の入光面122に入光させることになる。
【0038】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0039】
100…赤外線ランプ
110…LED、120…カットフィルタ、122…入光面、124…出光面、130…リフレクタ、132…反射面、134…開口、140…レンズ
X…対象物、Y…赤外線カメラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6