(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-16
(45)【発行日】2022-02-25
(54)【発明の名称】ロールミル
(51)【国際特許分類】
B02C 4/40 20060101AFI20220217BHJP
B02C 4/04 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
B02C4/40
B02C4/04
(21)【出願番号】P 2018120000
(22)【出願日】2018-06-25
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000139883
【氏名又は名称】株式会社井上製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081547
【氏名又は名称】亀川 義示
(72)【発明者】
【氏名】佐野 昌広
(72)【発明者】
【氏名】鎮目 正嗣
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-083039(JP,U)
【文献】特開2004-037241(JP,A)
【文献】特開2006-305435(JP,A)
【文献】特表2016-525934(JP,A)
【文献】国際公開第03/005832(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 4/04
B02C 4/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転数、回転方向が異なる複数のロールを並列状態に組み合わせ、各ロール間を通過させて湿式粉砕・分散処理した処理材料を、最後に移行したロールからドクターにより掻き取るようにしたロールミルにおいて、ロールに接して処理材料を掻き取るドクターのスクレーパーは、ドクター本体に固定した保持体に交換可能に装着され、上記ドクター本体及び上記保持体には、調温媒体が流通する流路が設けられていることを特徴とするロールミル。
【請求項2】
上記ドクター本体の流路は、ドクター本体を上板と下板で箱状に構成することにより形成された流通空間であり、上板と下板の間には、流通孔を有する支柱が設けられている請求項1に記載のロールミル。
【請求項3】
上記保持体は、長手方向に沿ってスクレーパーを交換可能に保持する保持溝を有し、保持溝に隣接して、保持溝に沿って延びる2本の長孔と該長孔の端部を連通する連通孔を含む流路を具備している請求項1又は2に記載のロールミル。
【請求項4】
上記保持体は、機械加工により形成され、上記長孔及び連通孔の端部は栓で塞がれている請求項3に記載のロールミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種印刷インキ、塗料、着色材、セラミックス、絵具、シーリング材、電子材料、薬品、食品、飼料、その他の種々のペースト状物の湿式粉砕・分散を行うロールミルに関し、特にロールから吐出されてドクター上を流れる処理材料の温度を適温にコントロールして受タンクに回収できるようにしたロールミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロールミルは、固体/液体系処理材料をロール間で圧縮、剪断して湿式粉砕・分散処理する装置であり、回転数、回転方向が異なる複数のロールを有し、通常の3本ロールミルの場合には、後ロールと中ロールと前ロールの3本のロールを組み合わせて構成されている。これらのロールは、回転数を変えて、例えば、回転比を1:3:9の割合に設定して駆動され、このような回転比の場合、後ロールが1回転すると前ロールは9回転する。処理材料は、後ロールと中ロール間に形成された供給バンクに供給され、ロールの回転により後ロールと中ロール間を通過し、さらに中ロールと前ロール間を通過し、ドクターにより吐出される。そして各ロール間を通過するとき、剪断力と圧縮力が処理材料に作用し、処理材料中の凝集粉や粉体へ液状成分が吸着、浸透して濡れが促進され、ペースト状物に含有する粉・粒体が微粒子化される。
【0003】
上記のように処理材料は、順次ロール間を通過しながら進行し、最後に前ロールに移行すると、前ロールの表面に接触させたドクターにより前ロールから掻き取られる。このドクターは、前ロールに接して処理材料を掻き取るスクレーパーと、スクレーパーで掻き取った処理材料を集めて流下させるドクター本体で構成され、ドクターで集めた処理材料は、最終的に受けタンクに回収される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ロールミルでは、ロールにより処理材料を圧縮、剪断するから、処理材料は温度が変化し、良好なペースト状物を得るためには、処理材料の性状に応じて、加温したり、冷却したりする必要がある。通常、ロール本体は、加熱、冷却できるよう構成されており、ロールから掻き取った処理材料を受タンクに回収するまでの間でも調温する必要がある。そのため、ドクター本体に冷却水、温水、スチーム等の調温媒体が流通するジャケットを設けてドクター本体上を流れる処理材料の温度を調温することが考えられるが、単にドクター本体だけを調温しようとしても、温度に敏感な材料については吐出材料の温度差が大きくなり均一に調温することができないことがある。つまり、上記スクレーパーは、摩耗するので、交換可能な替刃として用意され、保持体に設けた保持溝に差し込まれているが、この保持体はスクレーパーに作用する荷重を支持するためドクター本体よりも強固なブロック体に作られているので、ドクター本体からの調温効果が効果的に作用しないからである。例えば、温度に敏感な処理材料である電子材料の場合、適時に冷却する必要があるが、運転初期の段階では問題なく運転できていても、スクレーパーの保持体はドクター本体よりも厚さがあって熱伝導性が良くないので、時間の経過とともにスクレーパーからの熱が保持体部分に蓄熱される。この熱は、ドクター本体に伝わり、ドクター全体の温度が上昇する傾向になる。このような状況になったとき、ドクター本体のジャケットに供給する水を超低温のチラー水に切り替えてドクター本体を急冷しようとすると、ドクター本体に結露を生じ、この結露による水分が処理材料である電子材料中に混入し、製品不良になるという問題があった。
【0005】
また、処理材料が加温ロール等で処理するような高粘性材料である場合には、吐出後、適時に加温しなければならないが、前ロールから掻き取った材料が、常温状態のスクレーパーに接すると、温度差により材料が固まりやすくなり、流動不良を招来していた。さらに、大気への自然放熱により流動性を失い、ドクター上に徐々に蓄積し、ドクターの周辺にこぼれ落ちることもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-37241公報(段落0007、
図1 )
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決課題は、処理材料をロール間に供給して湿式粉砕・分散処理するロールミルにおいて、最後に移行したロールからスクレーパーにより処理材料を掻き取り、ドクター本体上を流下させて受けタンクに集めるまでの間、処理材料を最適な温度に調温できるようにしたロールミルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、回転数、回転方向が異なる複数のロールを並列状態に組み合わせ、各ロール間を通過させて湿式粉砕・分散処理した処理材料を、最後に移行したロールからドクターにより掻き取るようにしたロールミルにおいて、ロールに接して処理材料を掻き取るドクターのスクレーパーは、ドクター本体に固定した保持体に交換可能に装着され、上記ドクター本体及び上記保持体には、調温媒体が流通する流路が設けられていることを特徴とするロールミルが提供され、上記課題が解決される。
【0009】
本発明において、上記ドクター本体の流路は、ドクター本体を箱状に構成することにより形成された流通空間であり、保持体の流路は、スクレーパーを保持する保持溝に沿って延びる2本の長孔と該長孔の端部を連通する連通孔を含でいる上記ロールミルが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上記のように構成され、ドクターのスクレーパーを、ドクター本体に固定した保持体に交換可能に装着し、上記ドクター本体及び上記保持体の内部に設けた流路に調温媒体を流通させて調温できるようにしたので、保持体を介してロールに接するスクレーパーとドクター本体をそれぞれ所望の温度に加熱若しくは冷却しておくことができる。したがって、例えば、最後のロールに移行した処理材料を冷却する場合には、スクレーパー及びその保持体をドクター本体と同程度に冷却することができ、保持体及びスクレーパーが、従来のように蓄熱して昇温することがないので、スクレーパーにより掻き取った処理材料を直ちに所望の温度に冷却することができる。そして、続いてドクター本体上に流下した処理材料は、該ドクター本体が所望の温度に冷却されているから、性状を劣化させることなく、受けタンクに処理材料を回収することができる。そのため、従来のように、時間経過とともに温度が上昇し途中からチラー水に変更することにより結露を生じるという現象を防止することができる。また、処理材料を加温する場合には、スクレーパー及びその保持体をドクター本体と同程度に加温しておくことができるから、処理材料が固まったり、自然放熱により流動性を失ってドクター上に蓄積したり、ドクターサイドにこぼれ落ちるというような事態を生じることがない。
【0011】
上記ドクター本体の流路を、箱状に構成した流通空間とすると、ドクター本体を満遍なく加熱、冷却することができ、保持体の流路を、スクレーパーを保持する保持溝に沿って延びる2本の長孔と該長孔の端部を連通する連通孔とすることにより、スクレーパー及び保持体の全体を均一に加熱、冷却することができ、調温効果を高めることができる。また、流路を有する上記保持体を機械加工により形成すると、熱伝導が均一になり、スクレーパーの温度制御が容易かつ確実にできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施例を示し、3本ロールミルの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、3本ロールミルを示し、ロールミル本体1は、前ロール2、中ロール3、後ロール4を有し、後ロール4と中ロール3の間にはせき板5を設けて処理材料の供給ゾーン6が形成されている。供給ゾーン6に供給された処理材料は、後ロール4と中ロール3の回転差により圧縮、剪断され、次に中ロール3と前ロール2間に移行して圧縮、剪断され、最後にドクター7により前ロール2から掻き取られ、受タンク(図示略)に回収される。
【0014】
上記ドクター7は、処理材料が上面を流下するドクター本体8と、前ロール2に接して処理材料を掻き取るスクレーパー9及びその保持体10を有している。該ドクター本体8は、受け皿状の上板11とその周囲を略コ状に囲む縁板12を有し、上記上板11の下面側には、下板13が設けられ、上板11と下板13の間には中空の支柱14を介して箱状の流通空間15が形成されている。この流通空間15には、冷却水、温水、スチーム等の調温媒体の供給源に連絡する供給口16と、調温媒体を回収する回収部に連絡する排出口17が開口している。なお、内部には調温媒体がショートパスして流動しないよう仕切り板18が設けられており、上記支柱14の一部には、その支柱内にも調温媒体が流通するよう流通孔19を設けてある。
【0015】
上記保持体10は、上記前ロール2の軸方向に沿って延びる横長略直方体状で、上記ドクター本体8の上板11の上端幅よりも長く形成され、斜めにカットした後端上部に長手方向に沿って保持溝20が設けられている。前部は上記ドクター本体8の上板11と下板13の後部を連結する端板21に当接する形状に形成され、該端板21に当接した位置でドクター本体8に溶接により固定される。上記保持溝20には、スクレーパー(替刃)9がスペーサー22とともに交換可能に差し込まれる。
【0016】
上記保持体10には冷却水、温水、スチーム等の調温媒体の流路として、上記保持溝20に隣接し該保持溝20に沿って長手方向に延びる2本の長孔23と該長孔23の端部を連通する連通孔24が形成されている。該一方の長孔23の一端には、調温媒体を流路に供給する供給口25が設けられ、他方の長孔23の一端には、上記連通孔24をめぐって流動してきた該調温媒体を流出させる排出口26が設けられている。なお、上記長孔23及び連通孔24は、機械加工により保持体の一端から他端まで穿孔して形成され、流路を構成しない不要な端部は栓27を溶接して塞いであり、これにより保持体は全体として良好な熱伝導効果を奏することができる。
【0017】
上記ドクター本体8、スクレーパー9及び保持体10に供給する調温媒体の温度は、処理材料に合わせて上述したような冷却水、温水、スチーム等の温度を、外部に設けたコントロール機構で制御することにより調整することができる。
【0018】
上記ドクター7は、図示を省略したエアシリンダーで加圧してあり、前ロール2に移行した処理材料をスクレーパー9で掻き取り、ドクター本体8上に流下させることができる。上記ドクター本体8の流通空間15及び保持体10の流路には、処理材料の性状に応じて、水等の冷却媒体やスチーム等の加温媒体を調温媒体として供給してあるので、前ロール2に移行した処理材料は、直ちに所望の温度に調温されたスクレーパー9で掻き取られてドクター本体8上を流下し、所望の温度に維持された状態で劣化することなく受けタンクに回収することができる。
【符号の説明】
【0019】
1 ロールミル本体
7 ドクター
8 ドクター本体
9 スクレーパー
10 保持体
11 上板
13 下板
14 支柱
15 流通空間
20 保持溝
23 長孔
24 連通孔